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特開2023-58098レンチウイルスベクター、細胞及び細胞製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058098
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】レンチウイルスベクター、細胞及び細胞製剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20230418BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230418BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
A61K35/28
A61K35/76
A61K48/00
A61P25/00
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167873
(22)【出願日】2021-10-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月28日に第27回日本遺伝子細胞治療学会 学術集会抄録集にて公開 令和3年9月10日に第27回日本遺伝子細胞治療学会 学術集会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角皆 季樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 博司
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
【課題】GM1ガングリオシドースの遺伝子治療に使用できるレンチウイルスベクターを提供する。
【解決手段】LV-SMPUR-MCU3-cGLB1からなるレンチウイルスベクターであって、配列番号1に記載の塩基配列を含むレンチウイルスベクターである。本発明のレンチウイルスベクターには責任遺伝子であるGLB1が導入される。造血幹細胞に本発明のレンチウイルスベクターが導入される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LV-SMPUR-MCU3-cGLB1からなるレンチウイルスベクターであって、配列番号1に記載の塩基配列を含むレンチウイルスベクター。
【請求項2】
プロモーターMCU3は配列番号2に示される配列である請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項3】
責任遺伝子cGLB1は配列番号3に示される配列である請求項1に記載のレンチウイルスベクター。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のレンチウイルスベクターにより責任遺伝子であるcGLB1が導入された細胞。
【請求項5】
前記細胞は造血幹細胞である請求項4に記載の細胞。
【請求項6】
請求項4又は5記載の細胞を治療上有効量含む、細胞製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンチウイルスベクター、そのレンチウイルスベクターにより責任遺伝子が導入された細胞、及び、その細胞を含む細胞製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
GM1ガングリオシドース(GM1-gangliosidosis)は、ライソゾーム酵素であるβガラクトシダーゼをコードするGLB1遺伝子の遺伝子変異で発症する遺伝性代謝異常症である(非特許文献1、2)。出生10万~20万人に1人の割合で発症すると言われていて、発症の時期によって乳児型、若年型、成人型に分類される。βガラクトシダーゼ酵素の欠損により、分解できなかったGM1-ガングリオシドが神経細胞を中心とした全身の細胞内に蓄積しており、この蓄積が2次的なコレステロールの蓄積や細胞内脂質輸送の異常を引き起こすことで様々な症状をきたす(非特許文献3~7)。
【0003】
最重症型である乳児型は、生後6ヶ月までに発達の遅れがあり、筋緊張低下、音に対する過敏性が見られることもある。腱反射は亢進し、強剛痙縮が強くなってゆき、眼底のチェリー・レットスポット、肝脾腫、全身の骨異常などが進行し、2歳ごろまでに死亡する。若年型は1歳前後から発症し、症状は乳児型より軽度であるが予後は不良である。肝脾腫、チェリー・レットスポットなどは目立たない。成人型は、知的障害は少なく、初期には構音障害が目立つ。歩行障害、ジストニアなどの錘体外路症状が目立つ。
【0004】
GM1ガングリオシドースは末梢リンパ球または培養皮膚線維芽細胞のβガラクトシダーゼ酵素活性を測定し、低下(10%以下)している場合に本症を診断できるが、ガラクトシアリドーシスでもβガラクトシダーゼ酵素活性が低下するので鑑別する必要がある。GLB1遺伝子診断も診断には有用である(非特許文献7)。
【0005】
一方でクラッベ病(Krabbe disease)は、グロボイド細胞白質ジストロフィー(globoid-cell leukodystrophy; GLD)ともよばれ、ガラクトセレブロシダーゼの欠損により、中枢の神経線維を形成するオリゴデンドログリアと末梢の神経線維を形成するシュワン細胞の障害から脱随(髄鞘、ミエリンの破壊)を引き起こし、中枢神経障害と末梢神経障害をきたす常染色体劣性遺伝性疾患である。また、ガラクトセレブロシダーゼのおもな基質であるガラクトセレブロシドは蓄積しないが、微量な基質のサイコシンが蓄積することにより、細胞障害を引き起こすとも考えられている。
【0006】
クラッベ病もGM1ガングリオシドースも、ともにスフィンゴリピドーシスという分類の疾患である。スフィンゴリピドーシスとは、スフィンゴ脂質代謝異常症のことである。これまでに約40遺伝子の変異による約10のスフィンゴリピドーシスが知られている。
【0007】
レンチウイルスベクターを用いたスフィンゴリピドーシスの遺伝子治療が検討されている。クラッベ病においては同遺伝子治療法は神経障害にはこれまでにあまり有効ではなかった(非特許文献8)。即ち、疾患の欠損酵素発現遺伝子を組込んだレンチウイルスベクターを作製し、モデルマウスに対して静脈経由で全身投与し、その効果を調べる遺伝子治療が検討されている。
【0008】
しかしながら、レンチウイルスベクターを用いたスフィンゴリピドーシスの遺伝子治療においてモデルマウスの寿命の有意な改善は報告されていない。またレンチウイルスベクターのプロモーターと責任遺伝子との組み合わせは、個々の疾患や欠損酵素ごとに大きく相違するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】山下真理子,山崎正博,日下博文ほか:発症年齢と臨床型に著しい違いを呈したGM1 gangliosidosistype 3の姉弟例.臨神経 33:631-636, 1993
【非特許文献2】Yoshida K, Ohshima A, Sakuraba H et al:GM1 Gangliosidosis in Adults:Clinical and Molecular Analysis of 16 Japanese Patients.Ann Neurol 31:328-332, 1992
【非特許文献3】Nishimoto, J.; Nanba, E.; Inui, K.; Okada, S.; Suzuki, K. : GM1-gangliosidosis (genetic beta-galactosidase deficiency): identification of four mutations in different clinical phenotypes among Japanese patients. Am. J. Hum. Genet. 49: 566-574, 1991
【非特許文献4】Yoshida, K.; Oshima, A.; Shimmoto, M.; Fukuhara, Y.; Sakuraba, H.; Yanagisawa, N.; Suzuki, Y. : Human beta-galactosidase gene mutations in G(M1)-gangliosidosis: a common mutation among Japanese adult/chronic cases. Am. J. Hum. Genet. 49: 435-442, 1991
【非特許文献5】Wenger DA et al. Adult GM1 gangiosidosis. Clin Genet 17: 323-334, 1980
【非特許文献6】Caciotti, A.; Bardelli, T.; Cunningham, J.; D'Azzo, A.; Zammarchi, E.; Morrone, A. : Modulating action of the new polymorphism L436F detected in the GLB1 gene of a type-II GM1 gangliosidosis patient. Hum. Genet. 113: 44-50, 2003
【非特許文献7】尾▲崎▼正典,下野太郎,濱崎考史,立川裕之,三木幸雄, 小脳萎縮を伴ったGM1ガングリオシドーシスtype 2の1例, 臨床放射線63巻4号(2018年4月)
【非特許文献8】Galbiati, F. et al. Combined hematopoietic and lentiviral gene‐transfer therapies in newborn Twitcher mice reveal contemporaneous neurodegeneration and demyelination in Krabbe disease. J Neurosci Res 87, 1748-1759 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、GM1ガングリオシドースの遺伝子治療に使用できるレンチウイルスベクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるレンチウイルスベクターは、LV-SMPUR-MCU3-cGLB1からなるレンチウイルスベクターであって、配列番号1に記載の塩基配列を含むレンチウイルスベクターである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、GM1ガングリオシドースの遺伝子治療に使用できるレンチウイルスベクターが得られる。GM1ガングリオシドースに対する効果的な治療法は存在しないが、本発明によればGM1ガングリオシドースに対する効果的な治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のレンチウイルスベクターのベクターマップを示す図である。
図2】血漿において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較して有意な酵素活性の上昇が認められたことを示す図である。
図3】大脳において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較して有意な酵素活性の上昇が認められたことを示す図である。
図4】大脳において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較して有意なGM1-ガングリオシドの低下が認められたことを示す図である。
図5】中枢神経において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較して有意なコレラトキシンB(CTX-B)陽性の細胞の減少が認められたことを示す図である。
図6】中枢神経において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較してGFAP陽性面積が有意に減少していることが認められたことを示す図である。
図7】中枢神経において、本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較してMBP陽性面積が有意に減少していることが認められたことを示す図である。
図8】ロータロッド試験に使用する装置の写真図である。
図9】本発明のレンチウイルスベクターを使用した治療群が未治療群と比較してロータロッド試験装置からの転落時の速度が速いことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本発明にかかるウイルスベクターはLV-SMPUR-MCU3-cGLB1である。LV-SMPUR-MCU3-cGLB1の配列は配列番号1にて示される。LV-SMPUR-MCU3-cGLB1のベクターマップは図1にて示される。
【0016】
現在、GM1ガングリオシドースに対する効果的な治療法は存在しない。本発明者は、レンチウイルスベクターを使用するGM1ガングリオシドースの新規治療法を模索する過程において、PGKプロモーターを用いるレンチウイルスベクターを構築し造血幹細胞を標的とした遺伝子治療を試みた。PGKプロモーター搭載のレンチウイルスベクターで造血幹細胞を標的とした遺伝子治療をモデルマウスで行い、施行20週後の各種臓器のβgal活性、ベクターコピー数を検討した。βGal活性は肝臓で未治療群1.8±0.6nmol/h/mg, 治療群19.6±11.8nmol/h/mg p=0.004、脾臓で未治療群3.2±0.4nmol/h/mg, 治療群414±269nmol/h/mg p=0.0038、脳で未治療群1.7±0.3nmol/h/mg, 治療群1.9±0.3mol/h/mg p=0.2であり、末梢の臓器では有意にβGal酵素活性が上昇していたが、脳では有意なβGal酵素活性の上昇を認めなかった。
【0017】
そこで本発明者は、MNDプロモーターを用いるレンチウイルスベクターを構築し造血幹細胞を標的とした遺伝子治療を試みた。MNDはモロニーマウス白血病ウイルスLTR/骨髄増殖肉腫ウイルスエンハンサーである。MNDプロモーター搭載のレンチウイルスベクターで造血幹細胞を標的とした遺伝子治療をモデルマウスで行い、施行20週後の各種臓器のβgal活性、ベクターコピー数を検討した。MNDプロモーターを使用することにより造血幹細胞への遺伝子導入効率の上昇も期待できる。しかしながらMNDプロモーターを使用しても脳での活性上昇は十分なものではなかった。
【0018】
そこで本件発明者は、MCU3プロモーターを使用し、GM1ガングリオシドース治療において、レンチウイルスベクターLV-SMPUR-MCU3-cGLB1を試みた。すると、酵素活性上昇、基質の蓄積抑制、炎症低下、軸索脱落の減少において、驚くべき結果が得られた。MCU3はMNDの改変版であり、高い発現量が得られる。MCU3の配列は配列番号2にて示される。cGLB1はGM1ガングリオシドーシスで欠損している遺伝子、即ち責任遺伝子である。cGLB1の配列は配列番号3にて示される。
【0019】
レンチウイルスベクターはヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)由来であり、哺乳類細胞における遺伝子デリバリーのための主要なツールである。レンチウイルスベクターの有利な特長は、インビトロおよびインビボの両方において、分裂および非分裂細胞の強力な形質導入および安定した発現を媒介する能力である。HIV-1ゲノムは9個のオープンな読み取り枠を含み、それは構造タンパク質および調節タンパク質を含む、感染サイクルに関与する少なくとも15種類の異なるタンパク質をエンコードする。
【0020】
本発明のレンチウイルスベクターは第2世代レンチウイルスベクターである。第2世代レンチウイルスベクターはアクセサリータンパク質コード遺伝子(Vif、Vpu、VprまたはNef)を修飾することによって開発されている。なお第3世代レンチウイルスベクターを使用して本発明のレンチウイルスベクターを構築することも可能である。第3世代のレンチウイルスベクターシステムは4つのプラスミドからなる。パッケージングベクターは2つのプラスミドに分けられ、1つはRev、もう1つはGagとPolをエンコードする。導入プラスミド中の5'-LTRのU3プロモーター領域をCMVまたはRSVからの強力なウイルスプロモーターで置換することにより、Tat-非依存性プラスミドが構築された。
【0021】
GM1ガングリオシドーシスは、発育遅延、肝牌腫、骨変化を呈し早期に発病するType 1と、発病が1才をすぎ、臨床症状も軽微なType 2および数種の亜型の存在が知られているが、本発明のレンチウイルスベクターは、いずれのTypeのGM1ガングリオシドースの遺伝子治療であっても使用可能である。
【0022】
次に本発明のレンチウイルスベクターの作製方法について記載する。
【0023】
SMPUR-MNDプラスミドを基本ベクターとし、MNDプロモーターのU3領域をヒトCMVプロモーターのTATA領域に置換しベクタープラスミドSMPUR-MCU3を使用する。そしてGLB1 cDNA断片をベクタープラスミドSMPUR-MCU3に搭載するクローニング操作によりレンチウイルスベクタープラスミドLV-SMPUR-MCU3-cGLB1を作製する。
【0024】
次に本発明のレンチウイルスベクターの使用態様について記載する。
【0025】
本発明のレンチウイルスベクターを使用して細胞に責任遺伝子であるGLB1が導入される。本発明にかかる細胞は、本発明にかかるレンチウイルスベクターにより責任遺伝子であるGLB1が導入された細胞である。本発明にかかるレンチウイルスベクターシステムが導入される細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、T細胞、NK細胞又はその前駆細胞(造血幹細胞、リンパ球系幹細胞等)を用いることができ、好ましくは造血幹細胞である。
【0026】
また、本発明の細胞製剤は、本発明のレンチウイルスベクターを使用してGLB1が導入された細胞を治療上有効量含む細胞製剤である。細胞製剤には、例えば1回の投与用として、104個~1010個の細胞を含有させることが可能である。また、細胞の保護を目的としてジメチルスルフォキシド(DMSO)や血清アルブミン等、細菌の混入を阻止する目的で抗生物質等、細胞の活性化、増殖又は分化誘導等を目的とした各種の成分(ビタミン類、サイトカイン、成長因子、ステロイド等)等の成分を細胞製剤に含有させてもよい。
【実施例0027】
1) ベクタープラスミドの作製
SMPUR-MNDプラスミドを基本ベクターとし、MNDプロモーターのU3領域をヒトCMVプロモーターのTATA領域に置換しベクタープラスミドSMPUR-MCU3を使用した。GLB1 cDNA断片をベクタープラスミドSMPUR-MCU3に搭載するクローニング操作によりレンチウイルスベクタープラスミドLV-SMPUR-MCU3-cGLB1を作製した。
【0028】
2) マウスへの遺伝子治療の実施
GM1ガングリオシドーシスモデルマウスを遺伝子診断し、ドナーとなる8-12週令のモデルマウスの大腿骨から骨髄を摘出した。これを培養後、マイクロビーズ法等で分離抽出したマウス造血幹細胞系列に精製したウイルスベクターLV-SMPUR-MCU3-cGLB1をMOI=50で感染させ遺伝子導入した。なお造血幹細胞はCD34陽性であった。この導入後の骨髄幹細胞を、レシピエントとなるモデルマウスに致死量の放射線照射を加えた後、尾静脈注射により投与した。
【0029】
このあと24週令以上まで経過観察し、循環血中の酵素活性、各臓器特に中枢神経、肝臓、脾臓、骨髄における酵素活性、中枢神経における基質蓄積を分析した。また組織学的に中枢神経での基質の蓄積・分布や炎症性変化を評価するために免疫組織染色を行った。また、運動機能を評価するために行動試験を実施した。これらの結果を未治療モデルマウスと比較した。
【0030】
3) 酵素(βgal)活性の測定
βgal活性の解析には、凍結した組織や血液のサンプルを用いた。組織は6倍量の蒸留水でホモジナイズし、遠心分離後に上澄み液のβgalを測定した。βgal活性は、4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシドを合成発色性基質として用いて測定した。
【0031】
結果、図2に示されるように血漿において未治療モデルマウスと比較して有意な酵素活性の上昇が認められた。
【0032】
また、図3に示されるように大脳において未治療モデルマウスと比較して有意な酵素活性の上昇が認められた。また酵素活性が正常群の10%程度まで改善していた。
【0033】
4) 基質蓄積の評価
大脳における基質(GM1-ガングリオシド)の定量には、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MS/MS法)を用いた。図4に示されるように、大脳において、未治療モデルマウスと比較して、GM1-ガングリオシドの低下を認めた。
【0034】
また、組織学的に基質を評価するためにGM1-ガングリオシドを特異的に染色するコレラトキシンB(CTX-B)を用いて、大脳の免疫組織染色を実施した。摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドに一晩漬けたのち30%スクロース溶液で固定した。固定後は-80℃で固定し、40μmの切片としてスライスしたのち、必要な染色を実施した。染色後の標本は、オリンパスFV1200共焦点レーザー走査倒立顕微鏡を用いて画像化した。結果、図5に示されるように、中枢神経においてCTX-B陽性の細胞が未治療モデルマウスと比較して減少していた。
【0035】
5) 炎症性変化・脱髄の評価
脳内の神経細胞、グリア細胞および軸索を評価し、神経の炎症性の変化や脱髄を評価するためにそれぞれに適した抗体(抗NeuN抗体、抗GFAP抗体および抗MBP抗体)を組み合わせて、免疫組織染色を実施した。検体の処理は基質蓄積の評価の項目と同様にし、40μm厚の切片を作製し、共焦点レーザー走査倒立顕微鏡を用いて画像化した。
【0036】
結果、図6に示されるように、GFAPが陽性になっている面積は未治療モデルマウスと比較して減少しており、炎症性の変化を抑制することに成功した。また、図7に示されるように、MBPが陽性となっている面積も同様に未治療モデルマウスと比較して減少しており、軸索が脱髄から保護されていることが示唆された。
【0037】
6) 運動機能の評価
遺伝子治療が運動機能を改善させることができるか、32週令のマウスを用いて行動実験を行った。行動実験には運動学習および協調運動を評価する目的でロータロッド試験を選択した。図8に示されるように、ロータロッド試験とは、加速する装置に4rpmから40rpmまで5分間かけて乗せ、転倒した際の速度を記録する試験である。試験は,事前に2rpmで1分間(複雑な場合は4rpmで30秒を2回)の練習を1回行い,その後,15~20分の休息を挟んで3回の試験を3日連続で行った(計9回)。1回の試験での各マウスの転倒した際の速度を記録し、9回の試験のいずれかで最も早い速度を集計した。
【0038】
結果、図9に示されるように、ロータロッドからの転落時の速度は、未治療モデルマウスと比較して速度が速い結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
GM1ガングリオシドースの遺伝子治療に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0040】
配列番号1:ベクター
配列番号2:プロモーター
配列番号3:責任遺伝子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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