(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058114
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】建物構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230418BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20230418BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
E04H9/02 311
E04H9/02 351
E04B5/43 H
F16F15/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167897
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 祐一
(72)【発明者】
【氏名】古賀 美宏
(72)【発明者】
【氏名】後藤 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 征晃
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC33
2E139AC65
2E139AC67
2E139AC68
2E139AD01
2E139BA08
2E139BA12
2E139BA14
2E139BD02
2E139BD06
3J048AA06
3J048AB01
3J048BC09
3J048BE10
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供する。
【解決手段】建物構造は、柱梁架構40の内周側に、複数階に跨るX形状ブレース53が鉛直方向に連続して設置された連層ブレース51と、連層ブレース51に隣接する柱梁架構40s内に設けられる制振梁55と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁架構の内周側に、複数階に跨るX形状ブレースが鉛直方向に連続して設置された連層ブレースと、
前記連層ブレースに隣接する柱梁架構内に設けられる制振梁と、を備えることを特徴とする建物構造。
【請求項2】
前記制振梁の上方には床スラブが設けられ、
前記制振梁と、前記床スラブとの間には、隙間が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の建物構造。
【請求項3】
前記連層ブレースは、地下階から地上階の中間階、または最上階まで連続して設置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内部にブレース、および振動エネルギーを吸収する制振梁が設置された建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の地震に対する性能を高めるため、様々な提案がなされている。
例えば特許文献1には、上下方向に隣接して設けられた複数の水平部材と、各水平部材の上方に設けられる第1ブレース体と、水平部材の下方に設けられると共に、第1ブレース体に対して相対変位する第2ブレース体と、第1ブレース体と第2ブレース体とに連結される制振ダンパーと、を備える構成が開示されている。このような構成では、制振ダンパーにより、地震発生時に生じる第1ブレース体と第2ブレース体との相対変位エネルギーが減衰(吸収)される。
また、特許文献2には、梁と柱を組み合わせてなる鉄骨構造骨組の空間内に架設されたブレースと、その両端側に配置される端部鋼管と、その間に介在する極低降伏点鋼からなる中間部鋼管と、を備える構成が開示されている。このような構成では、極低降伏点鋼からなる中間部鋼管により、地震発生時に生じるブレースと鉄骨構造骨組との間の相対変位エネルギーが吸収される。
また、特許文献3には、特定の中間層において全ての柱を上下に分断して積層ゴムを介装することにより、中間層の水平剛性を他の層よりも低下せしめて変形集中層とし、変形集中層とその直上層との間に制震ダンパーを介装する構成が開示されている。このような構成では、制震ダンパーにより、地震発生時に生じる変形集中層と直上層との間の相対変位エネルギーが吸収される。
より安定的に振動エネルギーを吸収することが常に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-6965号公報
【特許文献2】特開平8-135251号公報
【特許文献3】特開2002-161648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、安定的に振動エネルギーを吸収することが可能な建物構造として、複数階に跨ってX形状ブレースを鉛直方向に連続して設置して連層ブレースを設けるとともに、前記連層ブレースに隣接する柱梁架構内に制振梁を設けることで、地震発生時には、建物に生じる変形を心棒的に高い剛性を備える連層ブレースが弾性変形域に抑えつつ、隣接する制振梁が振動エネルギーを効率的に吸収できる点に着目して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の建物構造は、柱梁架構の内周側に、複数階に跨るX形状ブレースが鉛直方向に連続して設置された連層ブレースと、前記連層ブレースに隣接する柱梁架構内に設けられる制振梁と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、柱梁架構の内周側に、複数階に跨るX形状ブレースを鉛直方向に連続して設けることで、連層ブレースが形成されている。連層ブレースは、柱梁架構の内周側で高い剛性を有しており、心棒的に機能するので、建物の変形が弾性変形域に抑えられ、特定の階層への変形集中が抑制される。X形状ブレースは、複数階を跨るように設置されるため、各階ごとにブレースを設ける場合に比べて、床スラブに対するブレースの仰角を大きくすることができる。これにより、柱梁架構の面内方向に作用する力に対し、より効果的に、抵抗することができる。このような連層ブレースに隣接する柱梁架構内に、制振梁が設けられているため、地震発生時には、心棒的に高い剛性を備える連層ブレースが、建物に生じる変形を弾性変形域に抑えつつ、隣接する柱梁架構内に設けられる制振梁で効率的に振動エネルギーを吸収できる。また、変形が過大となった場合にも、損傷が制振梁に留められて、建物全体への影響が抑えられる。
このようにして、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することができる。
【0006】
本発明の一態様においては、前記制振梁の上方には床スラブが設けられ、前記制振梁と、前記床スラブとの間には、隙間が設けられている。
このような構成によれば、制振梁と床スラブとの間に隙間が設けられることで、制振梁と床スラブとが構造的に分離される。これにより、地震発生時には、床スラブで拘束されることなく、制振梁の挙動を確保できる。したがって、地震発生時に、制振梁によって地震エネルギーを効率良く吸収させることができる。
【0007】
本発明の一態様においては、前記連層ブレースは、地下階から地上階の中間階、または最上階まで連続して設置されている。
このような構成によれば、連層ブレースを地下階から地上階の中間階、または最上階まで連続して設けることで、特定の階の水平剛性が他の一般階より低い場合であっても、複数階を跨るX形状ブレースによって水平力を地下階まで伝達させることができる。したがって、地震発生時には、特定の階への変形の集中を抑えることができ、建物の構造安全性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定的に振動エネルギーを吸収可能な建物構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る建物構造の構成を示す縦断面図である。
【
図4】制振梁とその上方の床スラブとの間に形成された隙間を示す縦断面図である。
【
図5】
図2のIII―III部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、複数階に跨るX形状ブレースが鉛直方向に連続して設置された連層ブレースと、前記連層ブレースに隣接する柱梁架構に制振梁が設けられた建物構造である。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態に係る建物構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る建物構造を備えた建物の構成を示す縦断面図である。
図2は、
図1のI-I部分の横断面図である。
図1は、
図2のV-V部分の断面図ともなっている。
図3は、
図2のII-II部分の縦断面図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る建物構造を備える建物1は、地盤G中に構築された基礎部2と、基礎部2上に設けられた地下構造部3と、上部構造部4と、を備えている。本実施形態において、基礎部2は、基礎梁、およびマットスラブを備えた直接基礎21からなる。地下構造部3は、建物1において地下階部分を構成する。地下構造部3は、基礎部2上に構築された複数本の地下柱31と、隣り合う地下柱31間に架設された地下梁32と、を備える。地下柱31は、後述する上部構造部4の柱41の直下に位置するように設けられている。地下柱31は、例えば、コンクリート充填鋼管(CFT)造、コンクリート充填鋼管柱の鋼管内に鉄筋を配筋した鉄筋コンクリート充填鋼管(RCFT)造とされている。地下梁32は、例えば、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造とされている。
【0011】
上部構造部4は、地下構造部3上に設けられている。上部構造部4は、鉛直方向に複数の階層を有している。
図2に示すように、建物1の上部構造部4は、平面視長方形状で、水平面内の第一方向D1を長辺とし、水平面内で第一方向D1に交差する第二方向D2を短辺とした平面視長方形状とされている。
図1に示すように、上部構造部4は、柱梁架構40と、柱梁架構40の内側に構築された制振壁50と、を備えている。
柱梁架構40は、複数本の柱41と梁42とを有したラーメン構造として構成されている。各柱41は、例えばコンクリート充填鋼管造で、地下柱31の上方に、鉛直方向に延びている。柱41は、例えば、上部構造部4の下層部では、地下柱31から連続して、コンクリート充填鋼管柱の鋼管内に鉄筋を配筋した鉄筋コンクリート充填鋼管(RCFT)造とされている。加えて、柱41は、例えば、上部構造部4の最下層部では、超高強度材料(建築構造用590N/mm
2級鋼材[SA440材]または建築構造用TMCP鋼材[590N/mm
2級]、充填コンクリートFc100)を用いて形成されている。これにより、柱41の下部における軸剛性が高められ、建物1の曲げ変形が抑えられる。
梁42は、例えばH形断面の鉄骨造で、上部構造部4の各階層で互いに隣り合う柱41間に架設されている。
【0012】
制振壁50は、上部構造部4の内部で、鉛直方向に複数の階に亘って連続して設けられている。
図2に示すように、制振壁50は、平面視で、第二方向D2に沿って設けられている。制振壁50は、上部構造部4の内部の適宜箇所に複数設けられている。例えば、本実施形態においては、制振壁50は、上部構造部4の平面視中央部に、長方形状に設けられたコア部46の、第一方向D1の両端部に、それぞれ設けられている。コア部46には、例えばエレベータシャフト、階段室等が設けられている。なお、制振壁50の設置位置、設置数については何ら限定するものではない。
図3に示すように、制振壁50は、連層ブレース51と、当該連層ブレース51を挟んだ両側に設けられる制振梁55と、を備えている。制振壁50は、第二方向D2において互いに隣り合う柱41どうしの間に形成されている。
連層ブレース51は、一対の制振間柱52と、各階毎の梁56と、X形状ブレース53と、を備えている。一対の制振間柱52は、第二方向D2で隣り合う柱41どうしの間で、第二方向D2に間隔をあけて互いに隣り合って配置されている。各制振間柱52は、鉛直方向に階を跨いで延びている。
【0013】
X形状ブレース53は、一対の制振間柱52の間に配置されている。X形状ブレース53は、複数階に跨って設けられている。本実施形態において、X形状ブレース53は、互いに上下に位置する2階層に跨がって設けられている。2階層に跨がるX形状ブレース53は、上下方向の中間部に位置する梁56Cと、その直上階の梁56Aと、互いに隣り合う制振間柱52との間に、一対の上部ブレース材53a、53bを備えている。一対の上部ブレース材53a、53bは、下方から上方に向かって第二方向D2における間隔が漸次拡大するよう、V字状に配置されている。上部ブレース材53a、53bのそれぞれの上端部は、制振間柱52と梁56Aの第二方向D2の両端部との接合部に設けられたブラケット54Aに接合されている。上部ブレース材53a、53bのそれぞれの下端部は、梁56Cの、第二方向D2における中央部の、上面に設けられたブラケット54Bに接合されている。
X形状ブレース53は、上下方向の中間部に位置する梁56Cと、その直下階の梁56Bと、互いに隣り合う制振間柱52との間に、一対の下部ブレース材53c、53dを備えている。一対の下部ブレース材53c、53dは、上方から下方に向かって第二方向D2における間隔が漸次拡大するよう、逆V字状に配置されている。下部ブレース材53c、53dのそれぞれの下端部は、制振間柱52と梁56Bの第二方向D2の両端部との接合部に設けられたブラケット54Cに接合されている。下部ブレース材53c、53dのそれぞれの上端部は、梁56Cの、第二方向D2における中央部の、下面に設けられたブラケット54Dに接合されている。
【0014】
図3に示されるように、上部ブレース材53a、53bと、下部ブレース材53c、53dにより構成される、一組のX形状ブレース53は、一対の制振間柱52と、梁56A、56Bにより形成される矩形内に設けられている。一対の制振間柱52と梁56A、56Bとが接合された各柱梁接合部の、
図3のように側面視したときの中心をDとする。このとき、上部ブレース材53a、53bと、下部ブレース材53c、53dは、4つの点Dを角とした矩形において、対角に位置する点Dどうしを結んだ、
図3に二点鎖線として示される対角線上に延在するように、設けられている。換言すれば、上部ブレース材53a、53bと、下部ブレース材53c、53dは、上記矩形の中心Cから、各角Dに向けて、放射状に延伸するように、設けられている。
上部ブレース材53a、53b、下部ブレース材53c、53dのそれぞれは、本実施形態においては、中央部が角形の鋼管53pにより形成されている。鋼管53pの端部には、断面十字形状の鋼材53kが接合され、当該鋼材53kがブラケット54A~54Dに接合されている。
本実施形態において、X形状ブレース53は、地下構造部3の最下階から上部構造部4の最上階まで、鉛直方向に連続して設けられている。以上のような構成により、X形状ブレース53は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。
【0015】
図3に示すように、制振梁55は、連層ブレース51に対し、各階ごとに接合されている。制振梁55は、連層ブレース51に対して第二方向D2の両側で、制振間柱52と、隣接する柱41との間に架設されている。すなわち、制振梁55は、連層ブレース51と、連層ブレース51に隣接する柱41の間に形成される、連層ブレース51に隣接して柱梁架構40の一部を構成する柱梁架構40s内に設置されている。このようにして、連層ブレース51に隣接して、各階の制振梁55が、鉛直方向に連なるように配置されている。これにより、制振梁55は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。
本実施形態において、制振梁55は、例えば極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部55aを中央に有する。制振梁55は、同じ階の他の梁42、56よりも水平方向のスパンが短い短スパン梁とされている。
このような連層ブレース51は、上部構造部4内において、鉛直方向に延びる強固な心棒のように機能する。上部構造部4においては、地震発生時に、強固な連層ブレース51と、その周囲の柱梁架構40との間で生じる相対的な変位のエネルギーが、連層ブレース51に隣接して設けられた制振梁55のエネルギー吸収部55aが変形することによって、吸収される。
【0016】
ここで、本実施形態において、一対の制振間柱52と、X形状ブレース53とを備えた連層ブレース51は、上部構造部4において、最下階から最上階まで連続して設置されている。また、一対の制振間柱52と、X形状ブレース53とを備えた連層ブレース51は、上部構造部4だけでなく、地下構造部3にも連続して設けられている。つまり、連層ブレース51は、建物1の地下階から地上階の最上階まで連続して設けられている。これに対し、制振梁55は、建物1の地下階を構成する地下構造部3には設けられていない。また、制振梁55は、建物1の最上階を含む最上部には設けられていない。つまり、連層ブレース51と制振梁55との双方を備える制振壁50は、建物1の地上階の最下階から中間階(最上階よりも下方の階)まで連続して設けられている。
なお、連層ブレース51と制振梁55とを備える制振壁50は、建物1の地上階から最上階まで連続して設けるようにしてもよい。
【0017】
図4は、制振梁とその上方の床スラブとの間に形成された隙間を示す縦断面図である。
図4に示すように、各階には、床面Fを形成する床材等を支持する床スラブ100が設けられている。床スラブ100は、床スラブ本体110と、PC床版120を備えている。
床スラブ本体110は、鉄骨製の小梁101により支持されている。小梁101は、各階の梁42間に、適宜間隔で架設されている。床スラブ本体110は、複数本の小梁101上に敷設されている。
PC床版120は、制振梁55の上方に設けられている。PC床版120は、制振梁55を上方から覆うように配置されている。PC床版120は、制振梁55を挟んで第一方向D1の両側に配置された床スラブ本体110の間に配置されている。PC床版120は、第一方向D1両側の床スラブ本体110の間を閉塞する。PC床版120の上面120tは、床スラブ本体110の上面110tと同じ高さに設定されている。つまり、PC床版120は、床スラブ本体110とともに、各階の床スラブ100を形成する。
PC床版120は、制振梁55の第一方向D1の両側で床スラブ本体110の端部を支持する小梁101によって支持されている。この小梁101は、PC床版120を支持する床版支持部材102を一体に備えている。床版支持部材102は、床スラブ本体110を支持する上部フランジ101aの端部から床スラブ本体110の側面に沿って上方に立ち上がる立ち上がり部102aと、立ち上がり部102aの上端から水平方向に延び、PC床版120の下面を支持する支持部102bと、を一体に有している。PC床版120は、第一方向D1の両側で、床版支持部材102の支持部102bによって下方から支持されている。PC床版120の厚さT1は、床スラブ本体110の厚さT2よりも小さい。これにより、PC床版120の下面は、床スラブ本体110の下面よりも上方に位置づけられ、制振梁55と、床版支持部材102によって支持されたPC床版120との間には、隙間Sが設けられている。
また、PC床版120は、床版支持部材102の支持部102bに対し、単に載置されているのみで、着脱可能とされている。これにより、制振梁55のメンテナンス時、PC床版120の交換時等に、PC床版120を容易に取り外すことが可能となっている。
【0018】
図5は、
図2のIII―III部分の縦断面図である。
図2に示すように、建物1には、上記制振壁50の他に、例えば、ブレース架構60が設けられている。ブレース架構60は、上部構造部4の内部で、鉛直方向に複数の階に亘って連続して設けられている。ブレース架構60は、平面視で、制振壁50と直交し、第一方向D1に沿って設けられている。ブレース架構60は、上部構造部4の内部の適宜箇所に複数設けられている。例えば、本実施形態においては、ブレース架構60は、コア部46の第一方向D1の端部において、第二方向D2の両側にそれぞれ設けられている。なお、ブレース架構60の設置位置、設置数については何ら限定するものではない。
図5に示すように、ブレース架構60は、ブレース付柱梁架構61と、制振梁65と、を備えている。ブレース架構60は、第一方向D1において互いに隣り合う柱41どうしの間に形成されている。
ブレース付柱梁架構61は、間柱62と、各階毎の梁66と、ブレース63と、を備えている。間柱62は、第一方向D1で隣り合う柱41どうしの中間部に配置され、鉛直方向に階を跨いで延びている。
ブレース63は、ブレース架構60の第一方向D1に互いに離間して位置する柱41および間柱62と、互いに上下に位置する2本の梁66との間に、斜めに延びるように設けられている。ブレース63の両端部は、柱41、間柱62と梁66との接合部にそれぞれ設けられたブラケット64に接合されている。また、ブレース63の上部側材端は、制振梁65に接続される梁66の端部に接合される。ブレース63は、本実施形態においては、中央部が角形の鋼管63bにより形成されている。ブレース63の鋼管63bの端部には、断面十字形状の鋼材63kが接合され、当該鋼材63kがブラケット64に接合されている。
このようなブレース付柱梁架構61は、鉛直方向の複数の階に亘って連続して設けられている。以上のような構成により、ブレース付柱梁架構61においては、ブレース63は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。また、ブレース付柱梁架構61では、ブレース63が柱梁架構の変形を抑制し、当該ブレース付柱梁架構61に接続されるブレース架構60の制振梁65によって振動エネルギーを効率的に吸収することができる。
【0019】
制振梁65は、ブレース付柱梁架構61に対し、各階ごとに接合されている。制振梁65は、ブレース架構60の、間柱62とは反対側に、間柱62から離間して設けられる柱41と、間柱62との間に架設されている。このようにして、ブレース付柱梁架構61に隣接して、各階の制振梁65が、鉛直方向に連なるように配置されている。これにより、制振梁65は、平面視したときに、各階において同じ位置に設けられている。
本実施形態において、制振梁65は、例えば極低降伏点鋼からなるエネルギー吸収部65aを中央に有する制振梁である。制振梁65は、同じ階の他の梁42、66よりも水平方向のスパンが短い短スパン梁とされている。
【0020】
さらに、
図2に示すように、建物1には、粘弾性ダンパー71、オイルダンパー72A、72Bが備えられている。本実施形態において、粘弾性ダンパー71、オイルダンパー72、72Bは、コア部45に設けられている。例えば、粘弾性ダンパー71は、制振梁65の一端が接続された一対の柱41どうしの間に、第二方向D2に延在して設けられている。
オイルダンパー72Aは、柱41間に設けられた間柱70と、柱41との間に、第一方向D1に延在して設けられている。オイルダンパー72Bは、オイルダンパー72Aの一端が接続された一対の柱41どうしの間に、第二方向D2に延在して設けられている。
【0021】
上述したような建物構造によれば、柱梁架構40の内周側に、複数階に跨るX形状ブレースが鉛直方向に連続して設置された連層ブレース51と、連層ブレース51に隣接する柱梁架構40s内に設けられる制振梁55と、を備える。
このような構成によれば、柱梁架構40の内周側に、複数階に跨るX形状ブレース53を鉛直方向に連続して設けることで、連層ブレース51が形成されている。連層ブレース51は、柱梁架構40の内周側で高い剛性を有しており、心棒的に機能するので、建物1の変形が弾性変形域に抑えられ、特定の階層への変形集中が抑制される。X形状ブレース53は、複数階を跨るように設置されるため、各階ごとにブレースを設ける場合に比べて、床スラブ100に対するブレース53a、53b、53c、53dの仰角を大きくすることができる。これにより、柱梁架構40の面内方向に作用する力に対し、より効果的に、抵抗することができる。このような連層ブレース51に隣接する柱梁架構40s内に、制振梁55が設けられているため、地震発生時には、心棒的に高い剛性を備える連層ブレース51が、建物1に生じる変形を弾性変形域に抑えつつ、隣接する柱梁架構40s内に設けられる制振梁55で効率的に振動エネルギーを吸収できる。また、変形が過大となった場合にも、損傷が制振梁55に留められて、建物1全体への影響が抑えられる。
このようにして、安定的に振動エネルギーを吸収することができる建物構造を提供することができる。
【0022】
特に、本実施形態においては、制振梁55は、連層ブレース51に対し、各階ごとに接合されている。
このような構成を有する建物1においては、振動エネルギーが各階において吸収されるため、特定階に、局所的な大変形が生じることが抑制される。
【0023】
また、制振梁55の上方には床スラブ100(PC床版120)が設けられ、制振梁55と、床スラブ100との間には、隙間Sが設けられている。
このような構成によれば、制振梁55と床スラブ100との間に隙間Sが設けられることで、制振梁55と床スラブ100とが構造的に分離される。これにより、地震発生時には、床スラブ100で拘束されることなく、制振梁55の挙動を確保できる。したがって、地震発生時に、制振梁55によって地震エネルギーを効率良く吸収させることができる。
【0024】
また、連層ブレース51は、建物1の地下階から地上階の中間階、または最上階まで連続して設置されている。
このような構成によれば、連層ブレース51を地下階から地上階の中間階、または最上階まで連続して設けることで、特定の階の水平剛性が他の一般階より低い場合であっても、複数階を跨るX形状ブレース53によって水平力を地下階まで伝達させることができる。したがって、地震発生時には、特定の階への変形の集中を抑えることができ、建物の構造安全性を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明の建物構造は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、建物1の全体構成は、上記実施形態として記載した形態に限らず、いかなる構成としてもよい。
上記実施形態では、連層ブレース51は、一対の制振間柱52と、各階毎の梁56と、X形状ブレース53とで構成されているが、制振間柱を設けることなく、隣り合う柱41同士と、各階毎の梁56と、X形状ブレース53とで構成しても良い。また、ブレース付柱梁架構61は、間柱62と、各階毎の梁66と、ブレース63とで構成されているが、間柱62を設けることなく、当該ブレース付柱梁架構61に接続されるブレース架構60を形成する柱41と、各階毎の梁66と、ブレース63とで構成しても良い。
また、上記実施形態では、連層ブレース51と制振梁55を備えた制振壁50を、コア部45の第一方向D1の両側に配置するようにしたが、コア部45と制振壁50の構成、配置、設置数等は適宜変更可能である。また、連層ブレース51と制振梁55を備えた制振壁50は、コア部45以外の位置に設けるようにしてもよい。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 建物 55 制振梁
40 柱梁架構 100 床スラブ
40s 連層ブレースに隣接する柱梁架構 120 PC床版(床スラブ)
51 連層ブレース S 隙間
53 X形状ブレース