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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058123
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】延焼抑制材
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/02 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
C09K21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167919
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】594179889
【氏名又は名称】株式会社川邑研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000219015
【氏名又は名称】島貿易株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 平寛
(72)【発明者】
【氏名】浅川 瑞生
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 一樹
(72)【発明者】
【氏名】長 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 俊明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【テーマコード(参考)】
4H028
【Fターム(参考)】
4H028AA05
4H028AB02
4H028BA04
(57)【要約】
【課題】公知の延焼抑制材と比較して、より燃焼し難い延焼抑制材を提供する。
【解決手段】前記延焼抑制材は、金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、難燃性液体とが、フィルム袋内に封入されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、難燃性液体とが、フィルム袋内に封入されている、延焼抑制材。
【請求項2】
前記難燃性液体中に無機系粒子が分散し存在している、請求項1に記載の延焼抑制材。
【請求項3】
前記難燃性液体が低流動性液体である、請求項1又は2に記載の延焼抑制材。
【請求項4】
前記難燃性液体中にゲル化剤を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の延焼抑制材。
【請求項5】
引火点を有さない液体を用いて構成される前記難燃性液体がフィルム袋内に封入される、請求項1~4のいずれか一項に記載の延焼抑制材。
【請求項6】
前記布帛が、難燃性繊維を含んだ繊維接着していない不織布である、請求項1~5のいずれか一項に記載の延焼抑制材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延焼抑制材に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などの電池パックにおいて、短絡などの発生によってセルが数分で900℃まで発熱するなどしてセルが発炎することがあった。そのため、隣接する他のセルが延焼するのを抑制できるように、各セル間に延焼抑制材を設けることが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2018-204708号公報)には、「繊維シートとシリカエアロゲルを含む複合層を有し、前記繊維シートは、折り返しされ、積層されている断熱材。」(請求項1)が記載されている。特許文献1によれば、前記複合層は、シリカエアロゲルのゲル原料を、繊維に含浸させ、含浸後、繊維を所望の厚みに対し積層し、その後、ゲル原料を反応させて湿潤ゲルを形成し、最後に湿潤ゲル表面を疎水化、熱風乾燥することにより、製造することが開示されている(段落[0019])。また、特許文献1には、その好適態様として、前記繊維シートの積層間に放熱材料(例えば、アルミなど熱伝導の高い金属板)を挟み込む構成が開示されている(請求項6、段落[0038])。
【0004】
また、特許文献2(特開2019-123100号公報)には、「繊維で構成されたシート状の基材部と、前記基材部に含浸された及び/又は前記基材部の表面に設けられた、含水粘着型除熱剤組成物と、を含む、除熱性複合材。」(請求項1)が記載されている。特許文献2によれば、前記含水粘着型除熱剤組成物は水を含み(段落[0038])、水が効率的に保持され、製品への粘着性を有するものであれば特に限定されず、このような除熱剤組成物としては、例えば、水溶性樹脂及び/又は水膨潤性鉱物を含むものが好ましい(段落[0034])ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-204708号公報
【特許文献2】特開2019-123100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、公知の延焼抑制材と比較して、より燃焼し難い延焼抑制材を提供することにある。具体的には、電池など複数のセルを有する電気化学素子において、発火が生じたセルから放出される熱が隣接するセルへ伝達するのを遅延可能な延焼抑制材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の発明に関する:
[1]金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、難燃性液体とが、フィルム袋内に封入されている、延焼抑制材。
[2]前記難燃性液体中に無機系粒子が分散し存在している、[1]の延焼抑制材。
[3]前記難燃性液体が低流動性液体である、[1]又は[2]の延焼抑制材。
[4]前記難燃性液体中にゲル化剤を含む、[1]~[3]のいずれかの延焼抑制材。
[5]引火点を有さない液体を用いて構成される前記難燃性液体がフィルム袋内に封入される、[1]~[4]のいずれかの延焼抑制材。
[6]前記布帛が、難燃性繊維を含んだ繊維接着していない不織布である、[1]~[5]のいずれかの延焼抑制材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の前記[1]の延焼抑制材によれば、延焼抑制材の局所に炎が当たった場合であっても、当該局所から延焼抑制材全体へ熱が効率よく伝わるため、当該局所が燃焼開始温度に到達し難いか、あるいは、到達するのに時間がかかり、より燃焼し難い延焼抑制材を提供することができる。
【0009】
より具体的には、金属板および/または炭素板の存在により熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができる。
布帛は金属板および/または炭素板と一緒になって積層体を成しており、難燃性液体を保持することで熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、難燃性液体の存在により断熱効果を発揮することができる。
難燃性液体は、フィルム内で気化による吸熱と液化による放熱を繰り返すことで、局所的に発生した熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、その存在により断熱効果を発揮することができる。
フィルム袋内に封入することによって、延焼抑制材中から、難燃性液体が蒸散するのを防止することができる。
【0010】
本発明の好適態様の一つである前記[2]の延焼抑制材によれば、難燃性液体中に無機系粒子が分散していることで、熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、無機系粒子を含有する難燃性液体の存在により、更に断熱効果を発揮することができる。
【0011】
本発明の別の好適態様である前記[3]又は[4]の延焼抑制材によれば、難燃性液体が低流動性液体(例えば、ゲル化剤によりゼリー状となった液体)である場合には、炎が当たることでフィルム袋が焼失した場合であっても、当該焼失箇所から難燃性液体が漏れ難いため、当該難燃性液体の存在による断熱効果を維持することができる。
また、難燃性液体が低流動性液体であることによって、当該難燃性液体は、布帛の空隙中、布帛と金属板および/または炭素板の間、布帛とフィルム袋との間、フィルム袋と金属板および/または炭素板の間に保持され易くなる。その結果、延焼抑制材における重力方向側に当該難燃性液体が偏在するのが防止されて、より断熱効果に富み、より燃焼し難い延焼抑制材を提供することができる。
更に、低流動性液体は外力に対し変形し難い物性を有する。そのため、フィルム袋内に封入されている難燃性液体が低流動性液体であることによって、電池パック中の電池セル等から延焼抑制材へ荷重が作用した場合であっても、荷重を受けた際に当該難燃性液体が変形し難いことでフィルム袋が破裂するのを防止できる。その結果、難燃性液体が漏れ難く、断熱効果を維持し易い延焼抑制材を提供できる。
【0012】
本発明の更に別の好適態様である前記[5]の延焼抑制材によれば、難燃性液体が引火点を有さない液体から構成されるため、より燃焼し難い延焼抑制材を提供することができる。
【0013】
本発明の更に別の好適態様である前記[6]の延焼抑制材によれば、布帛が、難燃性繊維を含んだ繊維接着していない不織布(バインダなど使用せず、繊維間に隙間を有する、例えば、水流絡合不織布)であることで、不織布は難燃性液体を保持可能な空隙を多く有することができると共に、当該不織布による毛細管現象が効率よく発揮されるためか難燃性液体が重力方向などに偏在し難く、繊維間の空隙を伝い不織布全体に広がった状態のまま維持され易い。そのため、熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、難燃性液体の存在による断熱効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の延焼抑制材は、金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、難燃性液体とを含み、前記積層体および難燃性液体がフィルム袋内に封入されている。
【0015】
本発明で用いる前記金属板および/または炭素板は、延焼抑制材を備えた電池パックの使用時に想定される温度(例えば、-40~80℃)において安定であり、熱伝導率が高い金属および/または炭素素材からなることができる。金属板として例えば、アルミ板、銅板、金板、銀板、真鍮板、鉄板、ステンレス板などを挙げることができる。これらの金属板は塗装、湿式めっき、乾式めっき、溶射、ラミネート加工、酸化処理などの防錆加工を施しても良い。また、炭素板として例えば、グラファイトシートなどを挙げることができる。
【0016】
その大きさ及び厚さ並びに形状は延焼抑制材の使用する状況に応じて適宜決定することができる。なお、厚さは0.005~5mmであることができ、0.01~3mmであることができ、0.02~1mmであることができる。
なお、金属板および/または炭素板に熱伝導性の高いフィラー(例えば、グラフェン、カーボンナノチューブなど)を塗って熱伝導性を高めたものを採用しても良い。
【0017】
本発明で用いる前記布帛としては、前記難燃性液体を保持することのできる繊維シートを用いることができ、例えば、不織布、織物、編物、繊維ウェブ等を挙げることができる。
前記布帛は、一方向(例えば、搬送方向と平行を成す方向)へ繊維が配向している繊維層と、前記方向と異なる方向へ繊維が配向している繊維層とが積層してなる構造を有する、繊維ウェブあるいは不織布であるのが好ましい。具体例として、一方向ウェブを繊維配向が相違するように積層したクロスレイウェブあるいは当該繊維ウェブを用いて調製した不織布や、一方向ウェブおよびクロスレイウェブが積層しているクリスクロスウェブあるいは当該繊維ウェブを用いて調製した不織布であるのが好ましい。あるいは、特定の繊維配向を有していないランダムウェブあるいは当該繊維ウェブを用いて調製した不織布であるのが好ましい。このような繊維配向を有する布帛を採用することによって、難燃性液体が布帛全体に分布して存在した状態となり易い。そのため、熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、難燃性液体の存在による断熱効果を効率よく発揮でき好ましい。
【0018】
特に、延焼抑制材の使用に伴い重力方向へ繊維シートが潰れてゆき、延焼抑制材における重力方向と反対側の部分に繊維シートが存在しない箇所が発生することがある。当該箇所は繊維シートが存在していないため、難燃性液体の存在による断熱効果が効率よく発揮され難い。繊維シートにクリスクロスウェブあるいは当該繊維ウェブを用いて調製した不織布を採用することで、重力方向と延焼抑制材が備えているクリスクロスウェブにおける一方向ウェブの繊維配向方向とが、あるいは、重力方向とクリスクロスウェブを用いて調製した不織布における一方向ウェブの繊維配向方向とが、平行を成した延焼抑制材を調製できる。このような繊維配向の態様で延焼抑制材中に存在する当該繊維シートは、重力方向へ潰れ難くなるため、更に熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、難燃性液体の存在による断熱効果を効率よく発揮できる延焼抑制材を提供できる。この観点から、繊維シートとして、クリスクロスウェブあるいはクリスクロスウェブを用いて調製した不織布を採用するのが好ましい。
【0019】
前記布帛としては、繊維間に隙間を有し、難燃性液体を保持可能な空隙を多く有する点で、不織布が好ましく、バインダ等で繊維接着していない不織布や不織布の構成繊維の一部あるいは全部が溶融し構成繊維同士を繊維接着していない不織布がより好ましい。繊維接着していない不織布としては、構成繊維同士がただ繊維絡合することで絡み合い繊維シートを成している態様(例えば、絡合不織布)を挙げることができ、具体例として、水流絡合不織布、ニードルパンチ不織布等を挙げることができる。
【0020】
前記布帛の、目付、厚さなどの諸特性は、より燃焼し難い延焼抑制材を提供できるよう適宜調整できる。布帛の1mあたりの質量である目付は10~500g/mであるのが好ましく、20~250g/mであるのがより好ましい。布帛の厚さは、0.05~10mmであるのが好ましく、0.1~1.5mmであるのがより好ましい。なお、厚さは、厚さ測定器(ダイヤルシックネスゲージ0.01mmタイプH型式(株)尾崎製作所製)により計測した、5点の厚さの算術平均値をいう。
【0021】
前記布帛を構成する繊維の種類は適宜選択できるが、難燃性を有する繊維(難燃繊維)を採用するのが好ましい。
ここでいう難燃繊維とは、JIS K7201 限界酸素指数に基づき求められるLOI値が26以上の樹脂や無機成分を含み構成された繊維のことをいう。なお、より燃焼し難い延焼抑制材を提供できるよう、前述した樹脂や無機成分のみで構成された難燃繊維であるのが好ましい。難燃繊維の種類は限定されるものではなく、例えば、酸化アクリル繊維などのアクリル系繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、アラミド繊維、難燃ビスコース繊維、難燃ポリエステル繊維、無機繊維などを使用できる。なお、前記布帛は構成繊維として難燃繊維以外の繊維を含んでいても良い。前記布帛に含まれる難燃繊維など構成繊維の繊度や繊維長は特に限定するものではないが、繊度は0.1~15dtexであるのが好ましく、0.5~10dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は10~100mmであるのが好ましく、20~80mmであるのがより好ましい。
【0022】
金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体は、少なくとも一層の金属板および/または炭素板と、少なくとも一層の布帛とを含む限り、金属板および/または炭素板からなる各層、または布帛からなる各層の層数は限定されるものではないが、金属板および/または炭素板からなる層は、例えば、1~4層、好ましくは1層であることができ、布帛からなる層は、例えば、1~4層、好ましくは2層であることができる。
【0023】
なお、積層態様は適宜調整するが、金属板および/または炭素板の一方の主面上に1枚あるいは2枚以上の布帛が重ねられた積層体であっても、金属板および/または炭素板の両主面上に各々1枚あるいは2枚以上の布帛が重ねられた積層体であってもよい。なお、金属板および/または炭素板の両主面を布帛で1回あるいは複数回巻いてなる積層体や、布帛で金属板および/または炭素板の両主面を挟み込み形成した積層体であってもよく、この場合、金属板および/または炭素板の両主面上に各々1枚あるいは2枚以上の布帛が重ねられた積層体となる。
特に、より燃焼し難い延焼抑制材を提供できることから、延焼抑制材は、金属板および/または炭素板の両主面上に各々布帛が重ねられた積層体を含むのが好ましい。
【0024】
本発明で用いる前記難燃性液体は、延焼抑制材を備えた電池パックの使用時に想定される温度(例えば、-40~80℃)において安定であり、好ましくは引火点を有さない液体であり、顕熱および/または潜熱を有する液体である限り、特に限定されるものではないが、例えば、水、水溶液、水ガラスなどを挙げることができる。なお、本発明で使用可能な難燃性液体の粘度は適宜調整できるが、難燃性液体が流動性を有する場合には例えば、粘度は1~3000000mPa・sであることができ、1~2000mPa・sであることができる。
【0025】
本発明で用いる前記難燃性液体は、無機系粒子を含むことが好ましい。前記無機系粒子は、延焼抑制材を備えた電池パックの使用時に想定される温度(例えば、-40~80℃)において安定であり、好ましくは燃焼しない粒子であって、難燃性液体中に分散し存在することができ、延焼抑制材に加えられた熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、シリカ粒子、シリカエアロゲル粒子、水酸化アルミニウム粒子などを挙げることができる。
なお、本発明で使用可能な無機系粒子の平均粒子径は適宜選択できるが、例えば、平均粒子径0.04μm~2.0mmの無機系粒子を使用できる。
【0026】
難燃性液体が無機系粒子を含んでいてもよく、難燃性液体中の無機系粒子の含有量は、難燃性液体100質量部に対し0質量部~20質量部であることができ、0.3質量部~10質量部であることができ、0.75質量部~5質量部であることができる。
【0027】
本発明で用いる前記難燃性液体は、低流動性液体であることが好ましい。難燃性液体が低流動性液体であると、炎が当たることでフィルム袋が焼失した場合であっても、当該焼失箇所から難燃性液体が漏れ難いため、熱を延焼抑制材全体に効率よく伝えることができ、また、難燃性液体の存在により断熱効果を維持することができるからである。
前記低流動性液体の流動性は、焼失によりフィルム袋に穴が開いた場合でも難燃性液体が漏れない、あるいは、漏れ難い程度であれば、特に限定されるものではないが、例えば、難燃性液体にゲル化剤を添加することにより調整することができる。
なお、本発明で使用可能な低流動性液体の粘度は適宜調整できるが、例えば、粘度10000mPa・s以上であることができる。
また、低流動性液体の態様は、液体のほかにゾルやゲルの態様も含むものである。
【0028】
前記ゲル化剤としては、例えば、ゼラチン、ペクチン、カードランなどの多糖類やポリアクリル酸やアクリルアミドなどの水溶性高分子、クレイやベントナイトなどの無機化合物を挙げることができる。難燃性液体100質量部に対し0.1質量部~20質量部であることができ、0.2質量部~15質量部であることができ、0.5質量部~10質量部であることができる。例えば、多糖類をゲル化剤として添加した難燃性液体は、加熱(例えば、80℃で10分間)することにより低流動性液体(ゼリー状)とすることができる。
【0029】
本発明で用いる前記フィルム袋は、難燃性を有し、非透水性および水蒸気不透過性を有し、延焼抑制材中から難燃性液体が蒸散するのを防止することができる限り、特に限定されるものではないが、例えば、アルミ箔の両主面に有機樹脂フィルムを積層した積層フィルム袋、銅箔の片方の主面および/または両主面に有機樹脂フィルムを積層した積層フィルム袋などを挙げることができる。
【0030】
本発明の延焼抑制材は、以下に限定されるものではないが、例えば、
(1)金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、難燃性液体と、フィルム袋とを用意する工程;
(2)前記フィルム袋内に前記積層体と前記難燃性液体を配置し、その状態でフィルム袋を密閉する工程;
を含む、製造方法により製造することができる。
【0031】
なお、前記工程(2)において、積層体と難燃性液体をフィルム袋内に配置する順序は、例えば、積層体を入れた後、難燃性液体を注入することもできるし、難燃性液体を注入した後、積層体を入れることもできるし、あるいは、難燃性液体と積層体を同時に配置する(例えば、難燃性液体を積層体に吸液させ、難燃性液体を保持した状態の積層体をフィルム袋内に配置する)こともでき、特に限定されるものではない。
【0032】
本発明の好適態様の一つである、前記難燃性液体がゲル化剤を含む延焼抑制材は、以下に限定されるものではないが、例えば、
(1)金属板および/または炭素板と布帛とを含む積層体と、加熱することでゲル化させることができるゲル化剤を含む難燃性液体と、フィルム袋とを用意する工程;
(2)前記フィルム袋内に前記積層体と前記難燃性液体を配置し、その状態でフィルム袋を密閉する工程;
(3)前記工程(2)で密閉したフィルム袋を加熱することにより、難燃性液体をゲル化する工程;
を含む、製造方法により製造することができる。
【0033】
前記工程(3)の加熱処理における加熱温度および加熱時間は、用いるゲル化剤に応じて適宜決定することができるが、典型的には、80℃で0.1時間加熱し、冷却する。
【0034】
本発明の延焼抑制材は、例えば、後述の実施例に記載した評価方法により延焼抑制性能を評価することができる。前記評価方法によれば、延焼抑制材の両主面中央に配置した熱電対A及びBにおいて、前記熱電対A側から延焼抑制材の主面中央に対してバーナーから炎を放射して熱電対Aの測定温度が900℃となった時から、熱電対Bの測定温度が120℃となるまでに要した時間(秒)を測定するが、測定時間が長い延焼抑制材であるほど、断熱性に優れ燃焼し難い延焼抑制材であると評価する。
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
(難燃性液体の用意)
水100質量部中に無機系粒子であるシリカエアロゲル1.5質量部を分散させた。そこへゲル化剤5.0質量部を混合して難燃性液体を用意した。
【0037】
(布帛の用意)
難燃性繊維である酸化アクリル繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、LOI値:50~60)をカード機へ供し調製した一方向ウェブと、当該一方向ウェブを折り重ねて調製したクロスレイウェブとを積層してクリスクロスレイウェブを調製した。クリスクロスレイウェブを水流絡合装置へ供することで、水流絡合不織布(厚さ:0.6mm、目付:50g/m)を調製した。このようにして調製した水流絡合不織布は、酸化アクリル繊維同士がただ繊維絡合することで絡み合い繊維シートを成している、繊維接着していない不織布であった。
また、調製した水流絡合不織布を打ち抜き、長方形の布帛A(厚さ:0.6mm、縦:125mm、横:75mm)と、長方形の布帛B(厚さ:0.6mm、縦:250mm、横:75mm)を用意した。
【0038】
(金属板の用意)
長方形のアルミ板(厚さ:0.07mm、縦:125mm、横:75mm)を用意した。
【0039】
(フィルム袋の用意)
ポリエチレンテレフタレート(0.012mm)-アルミ(0.009mm)-ポリエチレンテレフタレート(0.012mm)-ポリエチレン(0.040mm)の順に積層されてなる積層フィルムを用意した。そして、積層フィルムにおけるポリエチレン面同士を対面させることで、積層フィルムを二枚重ね、コの字型にヒートシールすることで当該ヒートシールを施した部分で対面する有機樹脂フィルム同士を溶融一体化させ、放冷することで、長方形のフィルム袋(縦:147mm、横:95mm)を用意した。
【0040】
(実施例1)
布帛A1枚とアルミ板1枚を互いの主面同士を重ねて積層体を調製した。フィルム袋内に積層体を入れ、袋内へ表1に記載した配合の難燃性液体14gを注入した。その後、フィルム袋の口をヒートシールすることで密閉した。その後、80℃の乾燥機で10分間加熱することで、フィルム袋内に封入された難燃性液体をゲル化させた後に放冷して、延焼抑制材(縦:147mm、横:95mm、厚さ:1.6mm)を調製した。なお、延焼抑制材中の難燃性液体は、ゲル化によりゼリー状であった(後述の比較例1、実施例2~7においても同じ)。
【0041】
(比較例1)
フィルム袋内に積層体の代わりに布帛A1枚を入れたこと以外は、実施例1と同様にして、延焼抑制材(縦:147mm、横:95mm、厚さ:1.7mm)を調製した。なお、本比較例1は、本発明における金属板および/または炭素板を含まない延焼抑制材であり、背景技術欄で先述した特許文献2に記載の先行技術に相当する。
【0042】
(実施例2)
布帛Bとアルミ板1枚のそれぞれの長辺方向が平行をなす状態にして、長辺方向へ二つ折りした布帛B1枚でアルミ板1枚を挟み込み、布帛Bによりアルミ板の両主面全てが覆われた積層体を調製した。このようにして調製した積層体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、延焼抑制材(縦:147mm、横:95mm、厚さ:2.1mm)を調製した。
【0043】
(実施例3~4)
袋内へ注入する難燃性液体の量(含有量)を表1に記載した量に変更したこと以外は、実施例2と同様にして、延焼抑制材を調製した。
【0044】
(実施例5~7)
袋内へ注入する難燃性液体として、シリカエアロゲルとゲル化剤の配合量を表1に記載した量に変更した難燃性液体を採用したこと以外は、実施例2と同様にして、延焼抑制材を調製した。
【0045】
(延焼抑制性能の評価方法)
上述のようにして調製した実施例1と比較例1および実施例2~7の延焼抑制材を以下の測定へ供し、その延焼抑制性能を評価した。
測定雰囲気の温度は20~25℃、測定に使用する延焼抑制材と熱電対AおよびBの温度も20~25℃の状態にして、以下の測定を開始した。
(1)延焼抑制材における一方の主面と重力方向とが平行を成すようにして、延焼抑制材を立たせ設置した。
(2)延焼抑制材における一方の主面中央上に熱電対Aを設け、延焼抑制材におけるもう一方の主面中央上に熱電対Bを設けた。
(3)延焼抑制材における一方の主面中央に対し、垂直方向に炎が作用できるようバーナーを設置した。
(4)バーナーから炎を放射させ、延焼抑制材における一方の主面中央に対し垂直方向へ炎を作用させた。このとき、熱電対Aにより測定される温度が900℃となるように、バーナーと延焼抑制材の距離を調製した。
(5)延焼抑制材における一方の主面中央に対し垂直方向へ炎を作用させ、熱電対Aにより測定される温度が900℃となった時から、熱電対Bにより測定される温度が120℃となるまでに要した時間(秒)を測定した。
なお、測定された時間が長い延焼抑制材であるほど、断熱性に優れ燃焼し難い延焼抑制材である。
【0046】
以上のようにして調製した、実施例と比較例の延焼抑制材について、その構成と延焼抑制性能の評価結果を表1にまとめた。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1(および実施例2~7)と比較例1とを比較した結果から、本発明の構成を満足する延焼抑制材は、断熱性に優れ燃焼し難い特性を有するものであった。
また、実施例1と実施例2とを比較した結果から、金属板および/または炭素板の両主面に布帛を備える延焼抑制材は、より断熱性に優れ燃焼し難い特性を有するものであった。
更に、実施例2および実施例5~7を比較した結果から、延焼抑制材が含む難燃性液体の配合について、無機系粒子とゲル化剤の質量部比率が0.75:5.0~4.5:5.0のとき(特に、0.75:5.0~3.0:5.0のとき)、特異的に、断熱性に優れ燃焼し難い特性を有する延焼抑制材を提供できることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の延焼抑制材は、例えば、リチウムイオン電池などの電池パックのように、高温により発炎する恐れがあり、炎を遮断する必要がある技術分野に利用することができる。