(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058213
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230418BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20230418BHJP
G01N 30/08 20060101ALI20230418BHJP
G01N 30/14 20060101ALI20230418BHJP
G01N 30/40 20060101ALI20230418BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
G01N30/88 G
G01N33/18 Z
G01N30/08 G
G01N30/14 A
G01N30/40
G01N1/22 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168065
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508116975
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・サイエンス・ラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100081282
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 俊輔
(74)【代理人】
【識別番号】100085084
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高英
(72)【発明者】
【氏名】小野 義宣
(72)【発明者】
【氏名】北野 宣子
(72)【発明者】
【氏名】内垣 真由美
(72)【発明者】
【氏名】長沢 尚三
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AB01
2G052AB05
2G052AB06
2G052AB27
2G052AD02
2G052AD27
2G052AD42
2G052ED07
2G052GA27
2G052JA09
(57)【要約】 (修正有)
【課題】超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定するのに好適な水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置を提供する。
【解決手段】被測定水の所定量を測定手段の流路内に導入する導入手段と、測定手段の流路内に導入された被測定水をプレカラムによって微量ガス成分と水とに分離する気水分離手段と、水から分離された微量ガス成分を冷却して濃縮するとともに濃縮された微量ガス成分を加温してメインカラム部分へ送出する濃縮手段と、送出された微量ガス成分より酸素を除去する酸素除去手段と、酸素が除去された微量ガス成分をメインカラム部分により酸素成分を除く1種類または複数種類のガス成分に分離するガス成分分離手段と、分離された1種類または複数種類のガス成分を検出する検出手段とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフを用いた測定手段によって水中に存在している微量ガス成分の濃度を測定する水中微量ガス成分の濃縮測定方法であって、
前記微量ガス成分が存在している被測定水の所定量を前記測定手段内に導入する導入工程と、
前記測定手段内に導入された前記被測定水をプレカラムによって前記微量ガス成分と水とに分離する気水分離工程と、
水から分離された前記微量ガス成分を冷却して濃縮する濃縮工程と、
濃縮された前記微量ガス成分を加温してメインカラム部分へ送出する送出工程と、
送出された前記微量ガス成分より酸素を除去する酸素除去工程と、
酸素が除去された前記微量ガス成分を前記メインカラム部分により前記酸素成分を除く1種類または複数種類のガス成分を分離するガス成分分離工程と、
分離された1種類または複数種類の前記ガス成分を検出する検出工程とを順に進めることにより水中に存在している前記微量ガス成分の濃度を測定することを特徴とする水中微量ガス成分の濃縮測定方法。
【請求項2】
前記導入工程においては、所定量の前記被測定水を外気と分離された状態において前記測定手段内に導入するように形成されており、
前記気水分離工程において分離された水分を前記プレカラム部分でパージガス逆流させて前記測定手段外に排出することを特徴とする請求項1に記載の水中微量ガス成分の濃縮測定方法。
【請求項3】
前記検出工程において測定される前記微量ガス成分は、アルゴン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンの1種類または複数種類であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水中微量ガス成分の濃縮測定方法。
【請求項4】
ガスクロマトグラフを用いた測定手段によって水中に存在している微量ガス成分の濃度を測定する水中微量ガス成分の濃縮測定装置であって、
被測定水の所定量を前記測定手段の流路内に導入する導入手段と、
前記測定手段の前記流路内に導入された前記被測定水をプレカラムによって前記微量ガス成分と水とに分離する気水分離手段と、
水から分離された前記微量ガス成分を冷却して濃縮するとともに濃縮された前記微量ガス成分を加温してメインカラム部分へ送出する濃縮手段と、
送出された前記微量ガス成分より酸素を除去する酸素除去手段と、
酸素が除去された前記微量ガス成分を前記メインカラム部分により前記酸素成分を除く1種類または複数種類のガス成分に分離するガス成分分離手段と、
分離された1種類または複数種類の前記ガス成分を検出する検出手段と
を有することを特徴とする水中微量ガス成分の濃縮測定装置。
【請求項5】
前記導入手段は、所定量の前記被測定水を充填可能な金属製サンプルシリンダまたはフレキシブル容器であって、前記流路に接続されて外気と分離された状態において前記被測定水を前記流路内に導入するように形成されており、
前記気水分離手段は、分離された水分が前記プレカラム部分でパージガス逆流させて前記測定手段外に排出するように形成されている
ことを特徴とする請求項4に記載の水中微量ガス成分の濃縮測定装置。
【請求項6】
前記流路は、前記測定手段の外部から前記流路内に供給される作動用ガスと、前記流路の途中に設置されている切り替え弁とにより、前記被測定水、分離された微量ガス成分、水分、濃縮された微量ガス成分を搬送可能に形成されている
ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の水中微量ガス成分の濃縮測定装置。
【請求項7】
前記検出手段において測定される前記微量ガス成分は、アルゴン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンの1種類または複数種類である
ことを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の水中微量ガス成分の濃縮測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置に係り、例えば、超純水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定するのに好適な水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超純水は、半導体ウェハーや液晶の洗浄用水、発電所の安定運転に必要な発電用タービンの蒸気発生器用水、あらゆる場面で安全が要求される医薬品産業の注射用水などに使用され、使用用途に応じてごく微量の不純物も取り除く必要がある。ここで不純物とは、ガス、微粒子、金属イオン、無機物、有機物などH2O以外のすべて対象物質である。
【0003】
このような水に混入もしくは溶存することによって存在している微量の不純物、特にガス成分を測定する手法としてガスクロマトグラフ法が用いられている。
【0004】
そして、ガスクロマトグラフ法を利用した測定方法として種々の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来方式のガスクロマトグラフ法を用いる水中微量ガス成分の測定には、問題点があった。
【0007】
近年においては、水中、例えば溶存ガスの管理が求められている超純水中のガスの濃度は数十~数ppbレベルと極低いレベルに達することがある。この濃度を既存のガスクロマトグラフで直接測定することには感度的に不可能であった。
【0008】
更に例えば、水中微量ガス成分が混入することによって存在している試料水をマイクロシリンジで分析カラムに直接少量(数μL以下)を注入して測定する場合には、水分が徐々に分析カラムに残留、蓄積し、分離に影響が出るほどの水分量が蓄積してきた場合には、カラム温度を上げてエージングを行いカラムの活性度を再生させることによって再分析を可能とさせている。しかしながら、この方式では分析カラムへの注入量が微小であるので、混入したガス成分が前記の微量濃度の場合には計測できないという不都合があった。具体的には、計測可能な範囲は数ppm程度を測定下限値としており、ppm以下の水中微量ガス成分の測定が不可能であった。
【0009】
また、ヘッドスペースまたはパージ・トラップ法による濃縮測定法も実行されている。
【0010】
例えば、水中の微量VOC(揮発性有機化合物)をパージ・トラップによって濃縮測定する場合には、試料採取用バイアル瓶に試料水を装填する工程で、気相部に多量の空気が混入したまま封入される。この空気を含んだ気相部分または液相部分を不活性ガスでバブリングパージしてVOC成分を追い出しトラップして、GC-MS(ガスクロマトグラフ-質量分析計)またはGC-FID(水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフ)によって測定するものである。この測定に使用されるGC-MSまたはGC-FIDにおいては、検出器の特性上空気成分を検出することができない。
【0011】
またガス成分のうち特にアルゴンを測定する場合、空気中の酸素が混入していると、一般的な分析条件ではアルゴンと酸素は分離できないので、採取工程において空気成分が混入しないように対策することが重要である。
【0012】
更には、前記特許文献1によって提案されている真空採気瓶方式によりセプタムを介してガスタイトシリンジで溶存ガスを採取しガスクロマトグラフに導入する方式では、空気成分の混入が避けられないので水中の微量アルゴンの測定はできない。
【0013】
従って、このような前処理で周囲ガス(空気成分)の混入が避けられない測定方式においては、水への混入ガス成分がアルゴンである水中微量アルゴンの測定には適用できないという不都合があった。
【0014】
このように、測定対象が水中微量ガス成分である場合には、既成の技術では、周囲空気の混入を防ぐことが難しいこと、正確な濃縮量を測定することが困難であること、バブリングパージによる回収率を算出する必要があることなど、操作が非常に煩雑で多岐に渡るためオペレータの熟練度も必要とされるという不都合があった。
【0015】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、人的煩雑さを回避し、試料水の採取方法、濃縮操作による感度アップ、多量の試料水によるカラム分離性能低下の防止対策を行って、超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定するのに好適な水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題を解決するために、本発明の第1の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定方法は、ガスクロマトグラフを用いた測定手段によって水中に存在している微量ガス成分の濃度を測定する水中微量ガス成分の濃縮測定方法であって、 前記微量ガス成分が存在している被測定水の所定量を前記測定手段内に導入する導入工程と、前記測定手段内に導入された前記被測定水をプレカラムによって前記微量ガス成分と水とに分離する気水分離工程と、水から分離された前記微量ガス成分を冷却して濃縮する濃縮工程と、濃縮された前記微量ガス成分を加温してメインカラム部分へ送出する送出工程と、送出された前記微量ガス成分より酸素を除去する酸素除去工程と、酸素が除去された前記微量ガス成分を前記メインカラム部分により前記酸素成分を除く1種類または複数種類のガス成分を分離するガス成分分離工程と、分離された1種類または複数種類の前記ガス成分を検出する検出工程とを順に進めることにより水中に存在している前記微量ガス成分の濃度を測定することを特徴とする。
【0017】
このように本発明は構成されているので、人的煩雑さを回避し、試料水である被測定水の採取方法、濃縮操作による感度アップ、多量の試料水によるカラム分離性能劣化の防止対策を行って、超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定することができる。
【0018】
また、本発明の第2の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定方法は、第1の態様において、前記導入工程においては、金属製サンプルシリンダまたはフレキシブル容器に充填された所定量の前記被測定水を外気と分離された状態において前記測定手段内に導入するように形成されており、前記気水分離工程において分離された水分を前記プレカラム部分でパージガスを逆流させて前記測定手段外に排出する工程を備えていることを特徴とする。
【0019】
このように本発明は構成されているので、被測定水の測定装置内への導入を外部と隔離して実行することができ、またプレカラムに残留する水分を測定装置外へ確実に排出することができ、超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定することができる。
【0020】
また、本発明の第3の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定方法は、第1または第2の態様において、前記検出工程において測定される前記微量ガス成分は、アルゴン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンの1種類または複数種類であることを特徴とする。
【0021】
このように本発明は構成されているので、アルゴン等の特定種類のガス成分を確実に高精度に測定することができる。
【0022】
本発明の第1の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定装置は、ガスクロマトグラフを用いた測定手段によって水中に存在している微量ガス成分の濃度を測定する水中微量ガス成分の濃縮測定装置であって、被測定水の所定量を前記測定手段の流路内に導入する導入手段と、前記測定手段の前記流路内に導入された前記被測定水をプレカラムによって前記微量ガス成分と水とに分離する気水分離手段と、水から分離された前記微量ガス成分を冷却して濃縮するとともに濃縮された前記微量ガス成分を加温してメインカラム部分へ送出する濃縮手段と、送出された前記微量ガス成分より酸素を除去する酸素除去手段と、酸素が除去された前記微量ガス成分を前記メインカラム部分により前記酸素成分を除く1種類または複数種類のガス成分に分離するガス成分分離手段と、分離された1種類または複数種類の前記ガス成分を検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【0023】
このように本発明は構成されているので、第1の態様の本発明装置によって第1の態様の本発明方法を実行することにより、人的煩雑さを回避し、試料水である被測定水の採取方法、濃縮操作による感度アップ、多量の試料水によるカラム分離性能低下の防止対策を行って、超純水等の水中に存在している微量ガス 成分を高精度に測定することができる。
【0024】
また、本発明の第2の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定装置は、第1の態様において、前記導入手段は、所定量の前記被測定水を充填可能な金属製サンプルシリンダまたはフレキシブル容器であって、前記流路に接続されて外気と分離された状態において前記被測定水を前記流路内に導入するように形成されており、前記気水分離手段は、分離された水分が前記プレカラム部分でパージガスを逆流させて前記測定手段外に排出するように形成されていることを特徴とする。
【0025】
このように本発明は構成されているので、第2の態様の本発明装置によって第2の態様の本発明方法を実行することにより、被測定水の測定装置内への導入を外部と隔離して実行することができ、またプレカラムに残留する水分を測定装置外へ確実に排出することができ、超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定することができる。
【0026】
また、本発明の第3の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定装置は、第1または第2の態様において、前記流路は、前記測定手段の外部から前記流路内に供給される作動用ガスと、前記流路の途中に設置されている切り替え弁とにより、前記被測定水、分離された微量ガス成分、水分、濃縮された微量ガス成分を搬送可能に形成されていることを特徴とする。
【0027】
このように本発明は構成されているので、切り換え弁によって流路の接続状態を目的に応じて切り換えることができ、作業効率よく微量ガス成分を測定することができる。
【0028】
また、本発明の第4の態様の水中微量ガス成分の濃縮測定装置は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記検出手段において測定される前記微量ガス成分は、アルゴン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素、クリプトン、キセノンの1種類または複数種類であることを特徴とする。
【0029】
このように本発明は構成されているので、第4の態様の本発明装置によって第3の態様の本発明方法を実行することにより、特定種類の微量ガス成分を確実に高精度に測定することができる。
【発明の効果】
【0030】
このように本発明は、人的煩雑さを回避し、試料水の採取方法、濃縮操作による感度アップ、多量の試料水によるカラム劣化の防止対策を行って、超純水等の水中に存在している微量ガス成分を高精度に測定するのに好適な水中微量ガス成分の濃縮測定方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の1実施形態の全体構成を示すブロック図
【
図2】本発明の他の実施形態の全体構成を示すブロック図
【
図3】本発明によって測定した標準ガスのクロマトデータを示す特性図
【
図4】本発明によって測定した被測定水1に存在するガスのクロマトデータを示す特性図
【
図5】本発明によって測定した被測定水2に存在するガスのクロマトデータを示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、
図1~
図2について詳細に説明する。
【0033】
図1は、本発明の水中微量ガス成分の濃縮測定装置の1実施形態の全体構成を示している。
【0034】
本実施形態の水中微量ガス成分の濃縮測定装置1は、
図1の左部に示す導入手段である導入ユニット2から測定手段である測定装置3に被測定水を導入して測定装置3のガスクロマトグラフ4によって被測定水中の微量ガス成分の濃度を測定するように形成されている。導入ユニット2からガスクロマトグラフ4までは被測定水やガス成分等を流動させる流路Fをもって構成各部を順に接続し、途中に設けた切り換え弁V1~V4によって流動状態を制御するように形成されている。
【0035】
以下、上流側から下流側の順に構成各部を説明する。
【0036】
導入ユニット2は、微量ガス成分が混入することによって存在している被測定水を貯留する金属製サンプルシリンダ5を流路F1に着脱自在に装着できるように形成されており、流路F1の上下流側に被測定水の導入時の流れを制御するためのストップバルブST1~ST4を有している。
【0037】
導入ユニット2の流路F1は測定装置3の流路F2に接続されており、当該流路F2には導入された被測定水の量を計量する計量管6が切り換え弁V1を介して接続されている。
切り換え弁V1の下流側には、流路F3および切り換え弁V2を介してプレカラム7を備えており、被測定水を水分と微量ガス成分とに分離する分離手段となる気水分離ユニット8が接続されている。切り換え弁V2には、プレカラム7に残留している水分を逆流排出させるための作動用ガスとしてのパージガスPG1を供給する流路FPG1と水分を排出させるための排出流路P1とが接続されている。更に、切り換え弁V1には、計量管6内に被測定水を計量する際の過剰の被測定水を排出するための排出流路P2が接続されている。
気水分離ユニット8の下流側には、切り換え弁V2、流路F4および切り換え弁V3を介して水から分離された微量ガス成分を冷却して濃縮するとともに濃縮された微量ガス成分を加温してメインカラム部分4aへ送出する濃縮手段としてのトラップ管9が接続されている。このトラップ管9の外側には加温用のヒータ10が巻回されている。トラップ管9に対して液体窒素が貯留されているデュアビン11が上下動自在に配置されている。
【0038】
トラップ管9の下流側には、切り換え弁V3、流路F5、切り換え弁V4および流路F6を介してガスクロマトグラフ4が接続されている。切り換え弁V4には、トラップ管9内の濃縮された微量ガス成分をガスクロマトグラフ4に送給させるための作動用ガスとしてのキャリヤーガスCGを供給する流路FCGが接続されている。
【0039】
流路F6には微量ガス成分中より酸素を除去するための酸素除去手段として酸素トラップ12が接続されている。
【0040】
酸素トラップ12の下流側には酸素が除去された微量ガス成分について酸素成分を除く複数種類のガス成分を分離するガス成分分離手段としてのメインカラム部分4aが接続されている。メインカラム部分4aの下流側には、分離された複数種類のガス成分を検出する検出手段としての検出器13が接続されている。
【0041】
この検出器13からはクロマト信号がデータ処理装置14のPC(パソコン)15(以下、「PC15」という)に送信されるように形成されている。PC15によって演算処理されて得られたガス成分の濃度は図示しない表示装置において表示されたり、印刷されるように形成されている。更に、PC15よりコントロールユニット16にシーケンス制御信号が送信され、各切り換え弁V1~V4、トラップ管9、ヒータ10およびデュアビン11の上下動作制御が行われるように形成されている。
【0042】
次に、本実施形態による水中微量ガス成分の濃縮測定方法を説明する。
【0043】
本実施形態においては、水に混入することによって存在している気体をアルゴンとして説明する。
【0044】
<導入工程>
導入工程においては、微量ガス成分が混入することによって存在している被測定水の所定量を測定手段としての測定装置3内に導入する。
【0045】
具体的には、まず、内容積1L程度の金属製サンプルシリンダ5内に空気成分が入らないように被測定水を封入し、その後導入ユニット2の流路F1に接続する。
【0046】
その後、サンプルシリンダ5を鉛直方向に置き、上部のストップバルブST1にパージガスPG2(高純度ヘリウムガス(He))を接続する。ストップバルブST3を閉じたまま、2つのストップバルブST1、ST2を交互に数回以上開閉し、流路F1内の空気成分をヘリウムに置換する。その後、両ストップバルブST1、ST2を微調整し、100-500ml/min程度のヘリウムを常時流しておく。
【0047】
その後、他のストップバルブST3、ST4を注意して開放し、被測定水が下段の流路F1およびF2を通じて、計量管6に通水されるよう調節する。金属製サンプルシリンダ5内の被測定水が減った分はヘリウムが補填されるので、金属製サンプルシリンダ5内が負圧になることはない。または、ヘリウムを微加圧にして被測定水を押し出し、計量管6に導入することも可能である。
【0048】
次に、切り換え弁V1を操作し、計量管6内の被測定水を、パージガスPG1(高純度ヘリウム(He))で追い出し、プレカラム7へ導入する。
【0049】
ここで、計量管6は内容積200μL程度で、ガスクロマトグラフへの液体導入量としては比較的大容量となる。計量管6に直結し通水することにより、採取時の空気成分のコンタミネーションを防止しつつ、通常測定レベルの100倍程度の試料量としての被測定水量となるので、高感度測定が可能となる。
【0050】
<気水分離工程>
気水分離工程においては、気水分離ユニット8内に導入された被測定水をプレカラム7によって微量ガス成分と水とに分離する。
【0051】
具体的には、プレカラム7内でアルゴンを含むガス成分と水分を分離し、アルゴンはデュアビン11内の液体窒素で冷却されたトラップ管9内に導入される。一方、水分がプレカラム7内に残っている状態で、切り換え弁V2を操作し、プレカラム7内のパージガスPG1の流路方向を逆向きにし、水分を切り換え弁V2を経由するとともに排出流路P1を通してプレカラム7の系外に排出する。
【0052】
ここで、プレカラム7の系外に水分を排出し、多量水分がプレカラム7内に残留することによるプレカラム7の分離性能低下を保護し、分析時間を短縮することができる。
【0053】
<濃縮工程>
濃縮工程においては、水から分離された微量ガス成分を液体窒素を用いて冷却して濃縮する。
【0054】
具体的には、デュアビン11を上昇させて液体窒素内にトラップ管9を浸漬させることにより、トラップ管9内の微量ガス成分を凝集させて濃縮捕集する。
【0055】
ここで、プレカラム7で水分と分離された微量ガス成分は、多量注入としているのでメインカラム4a内でピークが広がりやすい。そこで、一旦液体窒素で冷却されたトラップ管9に微量ガス成分を導入し、濃縮捕集させることにより、測定成分のバンド幅が狭まり、メインカラム4aに導入された際にシャープなピーク形状で検出されることとなる。
【0056】
トラップ管9は、内面不活性処理したサルフィナート管をU字型に成形し、ヒータ10を巻き付けてあり、吸着型充填剤を充填したものである。測定開始前に液体窒素を入れた小型のデュアビン11を上昇させて当該液体窒素内にトラップ管9を浸漬冷却し、測定成分である微量ガス成分を捕集後にデュアビン11を下降させて液体窒素から引き出し、ヒータ10に通電して加熱し、捕集された微量ガス成分をキャリヤーガスCGによって追い出してメインカラム4aに送出する。
【0057】
<送出工程>
送出工程においては、トラップ管9内において濃縮された微量ガス成分を加温してメインカラム部分4aへ送出する。
【0058】
具体的には、トラップ管9による濃縮捕集が終了したタイミングで、切り換え弁V3、V4の接続状態を操作し、ガスクロマトグラフキャリヤーガス(He)CGを流路FCG、切換え弁4、流路F5a、切換え弁V3を通してトラップ管9に送るとともに、その後トラップ管9、切換え弁3を通じて、ガスクロマトグラフ4に向かう流路F5、F6に切り換える。
【0059】
次に、液体窒素を装填しているデュアビン11を下降させてトラップ管9を液体窒素より引き上げ、その後ヒータ10に通電することによってトラップ管9を加熱する。
【0060】
これにより、液体窒素によって冷却トラップされていた微量ガス成分であるアルゴンが、トラップ管9の加熱とともに追い出されて切換え弁V3、流路F5、切換え弁V4、F6を順に通してガスクロマトグラフ4に向けて送出される。
【0061】
<酸素除去工程>
酸素除去工程においては、トラップ管9より送出された微量ガス成分より酸素を除去する。
【0062】
具体的には、流路F6を通してキャリヤーガスCGによって酸素トラップ12に導入された微量ガス成分より酸素が吸着トラップされて取り除かれる。
【0063】
ここで、酸素トラップ12による酸素とアルゴンの分離に関しては、酸素トラップ12に微量ガス成分を通気することによって、酸素が吸着除去され、アルゴンのみが検出される。酸素トラップ12は 一般に市販されているものであり、多量の酸素を吸着することによって効力が劣化するが、酸素吸着能力がL(リットル)オーダーであるのに対し、本発明の対象となる微量ガス成分中の酸素はppmレベルの微量であるため、酸素トラップ12のエージング再生はほとんど必要ない。
【0064】
<ガス成分分離工程>
ガス成分分離工程においては、酸素が除去された微量ガス成分をメインカラム部分により酸素成分を除く複数種類のガス成分に分離する。
【0065】
具体的には、酸素を除去された微量ガス成分をメインカラム部分4aにおいて、アルゴンと窒素、その他ガス成分とに分離する。
【0066】
ここで、一般的な条件においては、メインカラム部分4aに導入されたガス成分はアルゴン+酸素と窒素に分離され、アルゴンと酸素は分離されず1本のピークとして検出される。これに対して、本発明においては、メインカラム部分4aの前段に酸素トラップ12を設けることにより、酸素は酸素トラップ12に吸着捕集されるので、結果としてアルゴンが単独ピークとして検出されることとなる。
【0067】
<検出工程>
検出工程においては、前段において酸素を除去された複数種類のガス成分を検出する。
【0068】
具体的には、熱伝導度検出器などからなる検出器13により、複数種類のガス成分が検出される。この検出に供されたガスはその後濃縮測定装置1外に排出される。
【0069】
検出結果は、データ処理装置14のPC15によって太線矢印によって出力されて図示しない表示器に表示したり、印刷される。
【0070】
上記の測定方法はPC15およびコントロールユニット16により自動制御により実行される。また、手動操作によって実行してもよい。
【0071】
このように本実施形態の測定方法によれば、人的煩雑さを回避し、試料水となる被測定水の採取方法、濃縮操作による感度アップ、多量の試料水によるカラム劣化の防止対策を行って、超純水等の水中に混入することによって存在している微量ガス成分を高精度に測定することができる。
【0072】
【0073】
図2は、本発明の水中微量ガス成分の濃縮測定装置の他の実施形態の全体構成を示している。
【0074】
本実施形態は、被測定水を測定装置3に導入する導入手段としての導入ユニット2を
図1に示す実施形態と変更したものである。その他の構成には変更がないので、同一の符号を付してある。
【0075】
本実施形態においては、前記実施形態の金属製サンプルシリンダ5に代えてフレキシブル容器25(例えば、医療用輸液バッグ等)を用いたものである。このフレキシブル容器25には、空気成分が入らないようにして被測定水のみを採取する。更に、フレキシブル容器25を測定装置3の流路F2に連通している流路F1に接続し、加圧ケース26内に収納させて設置する。フレキシブル容器25の上下流の流路F1には、それぞれストップバルブST1、ST2が取り付られている。
【0076】
次に、本実施形態による測定方法を説明する。
【0077】
<導入工程>
導入工程においては、微量ガス成分が混入することによって存在している被測定水の所定量を測定手段としての測定装置3内に導入する。
【0078】
具体的には、まず、内容積1L程度のフレキシブル容器25内に空気成分が入らないように被測定水を封入し、その後導入ユニット2の流路F1に接続する。
【0079】
その後、ストップバルブST1、ST2を注意して開放し、パージガスPG2(パージガスの種類は問わないが、コンタミネーションの防止のためにはHeを推奨)によってフレキシブル容器25を外側から微加圧で押圧して、被測定水を流路F1の下流側に押し出し、続いて流路F2を通して計量管6に導入する。
【0080】
前記の他に、フレキシブル容器25を測定装置3の上方位置に設置して、被測定水が自重で下流側の流路F1およびF2を通して、計量管6に通水されるよう調節してもよい。
【0081】
<気水分離工程>から<検出工程>
前記実施形態の<気水分離工程>から<検出工程>と全く同様にして実行されるので、説明を省略する。
【0082】
更に、本実施形態によれば前記実施形態と同様な作用効果を発揮することができるので、説明を省略する。
【0083】
<実施例>
次に、
図1または
図2に示す本発明の水中微量ガス成分の濃縮測定装置1による濃縮測定の実施例を説明する。双方の図において同一に実行されるので、以下の説明においては
図1に示す水中微量ガス成分の濃縮測定装置1による濃縮測定の実施例について説明する。
【0084】
<標準ガスの測定>
被測定水の測定前にアルゴンおよびヘリウムを所定量含む標準ガスについて前記の<導入工程>から<検出工程>を実行した。
【0085】
具体的には標準ガスAr1000ppm/Heを流路F2に接続し、切り換え弁V1の計量管6に装填し、その後<導入工程>から<検出工程>の全工程を順次実行して測定を実行した。なお、標準ガスAr1000ppm/Heは20℃・1気圧において計量管200μL中には0.3324μgが装填されていることになる。
【0086】
検出器13によって取得された測定結果であるクロマトデータは、データ処理装置14のPC(パソコン)15によって演算処理されて
図3に示す標準ガスのクロマトデータとして、表示装置(図示せず)に表示されたりプリントアウトされる。
図3に示すように、アルゴン0.3324μgは、保持時間6.062分の位置に高さ2518μVで測定された。アルゴンのピーク位置には酸素のピーク位置が重ねて現れるが、標準ガス中には酸素が含まれていないために
図3に示されるアルゴンの測定結果の信頼性は極めて高いものとなる。また、たとい標準ガス中には酸素が含まれていたとしても、本実施例においては<酸素除去工程>において酸素が確実に除去されるために、酸素のピークは測定されることがなく、アルゴンの測定結果の信頼性は高く維持される。このアルゴンの測定結果をその後の被測定水のアルゴンの測定基準として利用した。
【0087】
<被測定水1の測定>
被測定水1として超純水中に脱ガス処理を実行していない微量のアルゴンが存在している液体を用意して、前記の<導入工程>から<検出工程>を実行した。
【0088】
具体的には、被測定水1を用意して、金属製サンプルシリンダ5に供給し、その後<導入工程>から<検出工程>の全工程を順次実行して測定を実行した。
【0089】
検出器13によって取得された測定結果であるクロマトデータは、データ処理装置14のPC(パソコン)15によって演算処理されて
図4に示す被測定水1に存在する微量ガスのクロマトデータとして、表示装置(図示せず)に表示されたりプリントアウトされる。
図4に示すように、アルゴンは保持時間5.897分の位置に高さ360μVのピークとして検出され、濃度が0.0407μg(水中濃度に換算すると、203.5000ppb)として測定された。被測定水1のアルゴンピークの保持時間5.897分は標準ガスのアルゴンピークの保持時間6.062分と一致しており、
図4に示されたアルゴンの測定結果の信頼性は高いものであった。しかも、アルゴンの含有量はppbという微量のオーダーにも拘らずに確実に測定された。また、被試料水1中に存在している酸素は、本実施例においては<酸素除去工程>において酸素が確実に除去されるために、酸素のピークは測定されることがなく、アルゴンの測定結果の信頼性は高く維持される。
図4において、アルコンの右隣のピークは窒素ガスを示している。
【0090】
<被測定水2の測定>
被測定水2として超純水中に脱ガス処理を実行した後の微量のアルゴンが存在している液体を用意して、前記の<導入工程>から<検出工程>を実行した。
【0091】
具体的には、被測定水2を用意して、金属製サンプルシリンダ5に供給し、その後<導入工程>から<検出工程>の全工程を順次実行して測定を実行した。
【0092】
検出器13によって取得された測定結果であるクロマトデータは、データ処理装置14のPC(パソコン)15によって演算処理されて
図5に示す被測定水2に存在する微量ガスのクロマトデータとして、表示装置(図示せず)に表示されたりプリントアウトされる。
図5に示すように、アルゴンは保持時間5.925分の位置に高さ44μVのピークが検出され、濃度が0.0047μg(水中濃度に換算すると、23.5000ppb)として測定された。被測定水2のアルゴンピークの保持時間5.925分は標準ガスのアルゴンピークの保持時間6.062分と一致しており、
図5に示されたアルゴンの測定結果の信頼性は高いものであった。しかも、アルゴンの含有量はppbという微量のオーダーにも拘らずに確実に測定された。また、被試料水2中に存在している酸素は、本実施例においては <酸素除去工程>において酸素が確実に除去されるために、酸素のピークは測定されることがなく、アルゴンの測定結果の信頼性は高く維持される。
図5において、アルコンの右隣のピークは窒素ガスを示している。
【0093】
図4および
図5の各実施例の測定結果に示すように、本発明の水中微量ガス成分の濃縮測定装置1によれば、被試料水1および2中に含まれる微量ガス(ppbのオーダーの含有量)であるアルゴンを酸素の影響を受けることなく確実に高精度に測定することができ、信頼性も非常に高いものであった。
【0094】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、導入手段においては、金属製のサンプリングシリンダ5やフレキシブル容器25を用いないで、オンラインで流路F1を通して被測定水を測定装置3の流路F2に送給するように形成してもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 水中微量ガス成分の濃縮測定装置
2 導入ユニット
3 測定装置
4 ガスクロマトグラフ
4a メインカラム
5 金属製サンプルシリンダ
6 計量管
7 プレカラム
8 気水分離ユニット
9 トラップ管
10 ヒータ
11 デュアビン
12 酸素トラップ
13 検出器
14 データ処理装置
15 PC(パソコン)
25 フレキシブル容器
V1~V4 切り換え弁
F1~F6 流路
ST1~ST4 ストップバルブ