(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058282
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】触覚提示装置及び触覚提示方法
(51)【国際特許分類】
G06F 3/01 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
G06F3/01 560
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168206
(22)【出願日】2021-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「タッチIoT:触れるインターネット実現のための肌感覚送受信機の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(72)【発明者】
【氏名】ホ アンヴァン
(72)【発明者】
【氏名】グエン クアング ディン
(72)【発明者】
【氏名】グエン タイ ツアン
【テーマコード(参考)】
5E555
【Fターム(参考)】
5E555AA08
5E555BA90
5E555BB40
5E555BE17
5E555DA24
5E555FA00
(57)【要約】
【課題】特定の箇所の触覚と連続的に移動する触覚の両方を提示することができる触覚提示装置及び触覚提示方法を提供する。
【解決手段】触覚提示装置1は、第1の方向Zに並んだ複数の膨張可能なバルーン21と、第1の方向に並んだ複数の湾曲可能な湾曲要素23と、を有する触覚アクチュエータ2と、バルーン21を膨張させ、又は湾曲要素23を湾曲させることを、各バルーン21及び各湾曲要素23について制御する制御部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に並んだ複数の膨張可能な膨張要素と、前記第1の方向に並んだ複数の湾曲可能な湾曲要素と、を有するアクチュエータと、
前記膨張要素を膨張させ、又は前記湾曲要素を湾曲させることを、各前記膨張要素及び各前記湾曲要素について制御する制御部と、を備える、
触覚提示装置。
【請求項2】
前記膨張要素は、前記第1の方向と異なる方向に膨張可能であり、
前記湾曲要素は、前記第1の方向と異なる方向に湾曲可能であり、
前記制御部は、前記第1の方向に並んだ前記複数の湾曲可能な湾曲要素を、異なる時刻ごとに湾曲させる、
請求項1に記載の触覚提示装置。
【請求項3】
前記湾曲要素は、気体を収容可能な袋状の複数のヒダが配置された面を有し、前記気体を収容したときに、前記複数のヒダ同士が押し合って前記面を凸にして撓む、
請求項1又は2に記載の触覚提示装置。
【請求項4】
前記面を向かい合わせにして、対向して配置されている前記湾曲要素の対を含む、
請求項3に記載の触覚提示装置。
【請求項5】
前記制御部は、対向して配置されている前記湾曲要素のうちの一方を膨張させ、かつ他方を膨張させない、
請求項4に記載の触覚提示装置。
【請求項6】
前記湾曲要素より装着者の皮膚に近い位置に前記膨張要素を固定するポケット、を備える、
請求項5に記載の触覚提示装置。
【請求項7】
第1の方向に並んだ複数の膨張可能な膨張要素と、前記第1の方向に並んだ複数の湾曲可能な湾曲要素と、を有するアクチュエータを動作させて触覚を提示する触覚提示方法であって、
前記膨張要素は、前記第1の方向と異なる方向に膨張可能であり、
前記湾曲要素は、前記第1の方向と異なる方向に湾曲可能であり、
各前記膨張要素及び各前記湾曲要素について、前記第1の方向に並んだ前記複数の湾曲可能な湾曲要素を、異なる時刻ごとに湾曲させることを含む、
触覚提示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚提示装置及び触覚提示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
仮想現実(VR、Virtual Reality)の分野において、計算機が生成した信号に基づいて装着者に触覚を提示する装置が知られている。
【0003】
触覚提示ジャケットは、着用者が羽織るジャケットの複数の箇所に触覚を提示する電極、バルーン、振動モータ等を備えるものである。触覚提示ジャケットは、腕、腹、背等の上半身の各部に触覚を提示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、内部に空気、水等を出し入れすることにより、体積を増減させて、装着者に触覚を提示することのできる変形可能な要素を備える装置が記載されている。
【0006】
特許文献1に記載された装置は、触覚を提示する要素として風船を用いる。この装置では、風船の膨張と縮小によって、風船と接する箇所に触覚をフィードバックすることができる。しかし、この装置に配置されている風船は移動しないため、連続的な運動、即ち位置的に移動する触覚を装着者にフィードバックすることが困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、特定の箇所の触覚と連続的に移動する触覚の両方を提示することができる触覚提示装置及び触覚提示方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の1つの観点に係る触覚提示装置は、
第1の方向に並んだ複数の膨張可能な膨張要素と、前記第1の方向に並んだ複数の湾曲可能な湾曲要素と、を有するアクチュエータと、
前記膨張要素を膨張させ、又は前記湾曲要素を湾曲させることを、各前記膨張要素及び各前記湾曲要素について制御する制御部と、を備える。
【0009】
前記触覚提示装置の前記膨張要素は、前記第1の方向と異なる方向に膨張可能であり、
前記湾曲要素は、前記第1の方向と異なる方向に湾曲可能であり、
前記制御部は、前記第1の方向に並んだ前記複数の湾曲可能な湾曲要素を、異なる時刻ごとに湾曲させてもよい。
【0010】
前記触覚提示装置の前記湾曲要素は、気体を収容可能な袋状の複数のヒダが配置された面を有し、前記気体を収容したときに、前記複数のヒダ同士が押し合って前記面を凸にして撓んでもよい。
【0011】
前記触覚提示装置は、前記面を向かい合わせにして、対向して配置されている前記湾曲要素の対を含むものであってもよい。
【0012】
前記触覚提示装置の前記制御部は、対向して配置されている前記湾曲要素のうちの一方を膨張させ、かつ他方を膨張させなくてもよい。
【0013】
前記触覚提示装置は、前記湾曲要素より装着者の皮膚に近い位置に前記膨張要素を固定するポケット、を備えてもよい。
【0014】
本発明の1つの観点に係る触覚提示方法は、
第1の方向に並んだ複数の膨張可能な膨張要素と、前記第1の方向に並んだ複数の湾曲可能な湾曲要素と、を有するアクチュエータを動作させて触覚を提示する触覚提示方法であって、
前記膨張要素は、前記第1の方向と異なる方向に膨張可能であり、
前記湾曲要素は、前記第1の方向と異なる方向に湾曲可能であり、
各前記膨張要素及び各前記湾曲要素について、前記第1の方向に並んだ前記複数の湾曲可能な湾曲要素を、異なる時刻ごとに湾曲させることを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の箇所の触覚と連続的に移動する触覚の両方を提示することができる触覚提示装置及び触覚提示方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(A)は本発明の1つの実施の形態に係る触覚提示装置の正面図であり、(B)は(A)に示す触覚提示装置の背面図であり、(C)は(A)に示す触覚提示装置の左側面図である。
【
図2】(A)は
図1(A)に示す触覚提示装置が備える触覚アクチュエータの拡大図であり、(B)は(A)に示す触覚アクチュエータの分解図である。
【
図3】(A)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータに含まれるバルーンの斜視図であり、(B)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータに含まれるバルーンの別の斜視図であり、(C)及び(D)はそれぞれ(A)に示すバルーンの異なる状態を示す図であり、(E)から(G)はそれぞれ(A)に示すバルーンに含まれる要素の異なる状態を説明する図である。
【
図4】(A)は
図2(B)に示す触覚アクチュエータのBB’断面図であり、(B)は(A)に示す触覚アクチュエータの異なる状態を説明する図である。
【
図5】
図1(A)に示す触覚提示装置のシステム概略図である。
【
図6】
図1(A)に示す触覚提示装置に含まれる複数のエアチャネルに吹き込む圧縮空気を制御するタイミングを説明する図である。
【
図7】(A)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの一つの状態図であり、(B)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの別の状態図であり、(C)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの別の状態図であり、(D)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの別の状態図であり、(E)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの別の状態図である。
【
図8】(A)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの一つの状態図であり、(B)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータの別の状態図であり、(C)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータのまた別の状態図であり、(D)は
図2(A)に示す触覚アクチュエータのさらに別の状態図である。
【
図9】第1の変形例に係る触覚提示装置の正面図である。
【
図10】(A)は
図9に示す触覚提示装置に含まれる触覚アクチュエータの説明図であり、(B)は(A)に示す触覚提示装置の制御の具体例を示す図である。
【
図11】(A)は第2の変形例に係る自走装置の概略図であり、(B)は(A)に示す自走装置に含まれる触覚アクチュエータの分解図であり、(C)は(B)に示す自走装置に含まれるステアリング部の拡大図であり、(D)は(C)に示すステアリング部のSS’切断図であり、(E)は(C)に示すステアリング部の一つの状態図であり、(F)は(C)に示すステアリング部の別の状態図である。
【
図12】(A)は
図11(A)に示す自走装置に接続する操作受付部の一例を示す図であり、(B)から(F)は(A)に示す操作受付部が受け付ける操作と
図11(A)に示す自走装置の状態との対応関係の具体例をそれぞれ説明する図である。
【
図13】(A)から(H)は、
図11(A)に示す自走装置を水平方向に移動させる実験の結果を説明する図である。
【
図14】
図11(A)に示す自走装置に働く力の関係を説明する図である。
【
図15】(A)から(G)は、
図11(A)に示す自走装置を垂直方向に移動させる実験の結果を説明する図である。
【
図16】(A)は
図11(A)に示す自走装置に働く力の関係を説明する別の図であり、(B)は
図11(A)に示す自走装置に働く力の関係を説明するまた別の図であり、(C)は
図11(A)に示す自走装置に働く力の関係を説明するまた別の図であり、(D)は(C)のRR’断面図である。
【
図17】(A)から(D)は、
図11(A)に示す自走装置を様々な方向に移動させる実験の結果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施の形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の1つの実施の形態に係る触覚提示装置1を説明する。
【0018】
(ジャケット)
図1(A)に示す触覚提示装置1は、これを羽織った装着者に対して触られる触覚を提示するジャケットである。触覚提示装置1には、細長い袋状のポケット20が規則的に配置され、その中に以下で述べる線状の触覚アクチュエータ2A、2B、2Cが格納されている。
【0019】
触覚提示装置1の正面上部には、触覚アクチュエータ2Aが配置された領域R1がある。触覚提示装置1の正面下部には、触覚アクチュエータ2Aよりも短い触覚アクチュエータ2Bが配置された領域R2がある。
【0020】
図1(B)に示す触覚提示装置1の背面には、触覚アクチュエータ2Cが配置された領域R3がある。背面に配置された触覚アクチュエータ2Cは、正面に配置された触覚アクチュエータ2A、2Bよりも長い。
【0021】
図1(C)に示す触覚アクチュエータ2Aは、触覚提示装置1の袖の領域R4にも配置されている。
【0022】
図1(A)~(C)に示した触覚アクチュエータ2A~2Cは、装着者の上半身を囲む位置に配置されている。
【0023】
(触覚アクチュエータ2A)
図2(A)、(B)を参照して、触覚アクチュエータ2Aの詳細を説明する。なお、触覚アクチュエータ2B、2Cは、触覚アクチュエータ2Aと共通する構造を備えており、長さ以外の性質については触覚アクチュエータ2Aと共通する。そのため、以下では触覚アクチュエータ2B、2Cの詳細な構造の説明を省略する。
以下、触覚アクチュエータ2Aを単に触覚アクチュエータ2という。
【0024】
触覚アクチュエータ2は、内部に吹き込まれた空気によって膨らむバルーン21と、バルーン21に吹き込まれる空気が通るエアチャネル22と、内部に吹き込まれた空気によって湾曲する湾曲要素23と、湾曲要素23に吹き込まれる空気が通るエアチャネル24と、エアチャネル22、24を格納するケース25と、を備える。バルーン21及び湾曲要素23は、一つの方向、
図2(A)、(B)に示した例においては、Z方向に並んでいる。また、触覚アクチュエータ2は、
図1(A)~(C)に示したポケット20に格納された状態で、バルーン21よりも湾曲要素23が装着者の皮膚に近くなる向きで固定されている。バルーン21は、膨張要素の一例であり、Z方向は、第1の方向の一例である。
【0025】
(バルーン21、エアチャネル22)
図3(A)に詳細を示すバルーン21は、断面が「コ」の字形である形状に折り曲げられた基板21Aと、基板21A上に貼り付けられている空気を通しづらい空気不浸透性膜21Bと、を含む。基板21Aの側から、
図2(B)に示したエアチャネル22が接続されている。以下、理解を容易にするため、エアチャネル22を省略して説明することがある。
【0026】
図3(B)は、
図3(A)に示したバルーン21を裏返しにしたものである。空気不浸透性膜21Bは、基板21Aと接着面21Cにおいて接着されている。
図3(A)に示したエアチャネル22を介して圧縮空気を吹き込むと、圧縮空気の逃げ場がないため、空気不浸透性膜21Bが撓むことにより、バルーン21は
図3(C)に示した状態となる。さらに圧縮空気の圧力を吹き込むと、空気不浸透性膜21Bはより大きく撓むため、バルーン21は
図4(D)に示した状態となる。
【0027】
図3(E)~(G)は、
図3(A)、(C)及び(D)にそれぞれ対応する、バルーン21に吹き込んだ圧縮空気の量、基板21Aと空気不浸透性膜21Bの関係を示す図である。バルーン21に吹き込む圧縮空気の量が比較的少ない場合には、
図3(E)に示した通り、空気不浸透性膜21Bは基板21Aと密着している。バルーン21に吹き込む圧縮空気の量が多くなればなるほど、
図3(F)及び(G)に示した通り、空気不浸透性膜21Bは基板21Aから大きく離れるため、バルーン21の体積が増大する。
【0028】
図2(A)に戻って、触覚アクチュエータ2は、4つのバルーン21を備えており、各バルーン21に圧縮空気を出し入れするエアチャネル22が接続されている。これらの4つのエアチャネル22には、後述するコントローラ3と接続されており、コントローラ3によって、個別に圧縮空気の吹き込み及び吐き出しを制御される。
【0029】
(湾曲要素23、エアチャネル24)
図4(A)に示す湾曲要素23は、一面に複数のフィン23Fが配置された柔軟な直方体状の構造体である。湾曲要素23の端部には、エアチャネル24が接続されている。湾曲要素23の内部は一つの空間である。
図4(B)に示す通り、エアチャネル24を介して湾曲要素23に圧縮空気を吹き込むと、それぞれが更に小さい袋状に形成されているヒダであるフィン23Fが膨らむ。膨らんだフィン23F同士が接触すると、互いを押すことにより、湾曲要素23は、フィン23Fのない側に向けて湾曲する。
【0030】
エアチャネル22、24は、例えば、可撓性を有し、かつ、バルーン21又は湾曲要素23のフィン23Fを膨らませる程度の圧力が内部にかかっても変形しにくい強度を有するエアチューブである。
【0031】
図2(A)に示した触覚アクチュエータ2は、22個の湾曲要素23を備えている。また、1つの触覚アクチュエータ2は、4つのエアチャネル24を有する。そのうちの2つのエアチャネル24は、後述するケース25とバルーン21との間の側に一列に、Z方向に配置された湾曲要素23に1つおきに接続されている。別の2つのエアチャネル24は、ケース25に対して反対側に一列に配置された湾曲要素23に1つおきに接続されている。
これらの4つのエアチャネル24は、後述するコントローラ3と接続されており、個別に圧縮空気の吹き込み及び吐き出しを制御される。
【0032】
(ケース25)
ケース25は、扁平な箱形に形成されており、エアチャネル22、24を格納して、触覚アクチュエータ2が変形しても、エアチャネル22、24が押しつぶされない空間を保つ。
ケース25もまた、軟らかい素材によって作られている。
【0033】
(タッチ動作)
前述した通り、バルーン21に圧縮空気を吹き込むと、バルーン21が膨らむ。そして、触覚提示装置1の装着者の体表に接する湾曲要素23が膨らんだバルーン21に押される。これにより、触覚提示装置1の装着者は、バルーン21が膨らんだ部分において、皮膚を指先で押された感覚を認識する。
【0034】
(コントローラ3)
図5に、コントローラ3を含む触覚提示装置1のシステム構成の一例を示す。
コントローラ3は、提示する触覚の入力を受け付ける操作受付部31と、各バルーン21及び各湾曲要素23に出力する信号を制御する制御信号出力部32と、外部と信号をやり取りする通信部33と、を備える。
コントローラ3は、制御部の一例である。
【0035】
操作受付部31は、触覚提示装置1に提示させるタッチ動作又はストローク動作の指示を受け付けるものであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、後述するジョイスティックなどを含む。
制御信号出力部32は、操作受付部31によって受け付けられた操作を、ドライバ回路41に出力する信号に変換するものである。
【0036】
コントローラ3は、通信部33から出力された制御信号を受けるドライバ回路41に接続されている。また、ドライバ回路41は、制御弁42を介してエアポンプ43から供給された圧縮空気の圧力を調節して各エアチャネル22、24に供給する制御を行うソレノイド弁44に接続されている。
【0037】
(ストローク動作)
次に、湾曲要素23を波形に変形させる動作について説明する。
【0038】
図4(A)に示した湾曲要素23は、複数のフィン23Fが一方向に突出した構造を有している。湾曲要素23の内部の空間は連通しているため、湾曲要素23に供給された圧縮空気がフィン23Fに達する。
図4(B)に示した通り、湾曲要素23に供給する圧縮空気の圧力を高めると、フィンの側面が膨張して隣接するフィン同士が衝突して、押し合う。そして、湾曲要素23は、フィン23Fのない側に湾曲する。
【0039】
図2(A)、(B)に示した通り、ケース25の裏表で一対の湾曲要素23が配置されている。このため、一方の湾曲要素23の圧縮空気の圧力を高め、他方の湾曲要素23の圧縮空気を高めないことにより、触覚アクチュエータ2を、圧縮空気の圧力を高めた側と反対側に湾曲させることができる。
【0040】
湾曲要素23は、一列に配置されている。コントローラ3は、この列の一端から他端に向けて、時間ごとに、圧縮空気の圧力を高め又はもとに戻す湾曲要素23をずらすことで、湾曲する部分を移動させることができる。
【0041】
触覚提示装置1の装着者は、湾曲して体表に押しつけられる部分が移動することを認識して、皮膚を撫でられている感覚を認識する。
【0042】
例えば、
図6及び後述する
図7(B)~(E)に示す通り、コントローラ3は、エアチャネル24A~24Dに圧縮空気を吹き込む信号を、時間Sずつずらしながら出力する。出力する信号の周期をエアチャネル24A~24Dの全てに共通のTとすると、周期Tで湾曲要素の枠23A~23Dが湾曲するため、触覚アクチュエータ2のうちテーブルと接触する部分の位置も周期Tで移動する。
触覚アクチュエータ2を含む触覚提示装置1を装着しているならば、装着者は、周期Tに対応する時間ごとに湾曲要素の枠23A~23Dが配列している方向に撫でられている感覚を得る。
なお、圧縮空気は、気体の一例である。
【0043】
(ストローク動作の実験)
実際に触覚アクチュエータ2にストローク動作をさせる実験を行った。
図7(A)は、ストローク動作をさせない触覚アクチュエータ2、(B)~(E)は、2.5Hzの周波数でストローク動作をさせた触覚アクチュエータ2のそれぞれの状態を示す画像である。
【0044】
図7(A)は、どの湾曲要素23にも圧縮空気の圧力を加えていない状態における画像である。この状態においては、湾曲要素23は湾曲していないため、触覚アクチュエータ2は、その全体でテーブルに接している。
以下、湾曲要素23を、表裏で一対のものとし、エアチャネル24A~24Dと接続している一つのまとまりごとに湾曲要素の「枠」として、左から23A、23B、23C及び23Dと呼んで説明する。
【0045】
図7(B)~(E)は、それぞれ、湾曲要素の枠23B、23A、23D及び23Cに圧縮空気の圧力を加えた瞬間の触覚アクチュエータ2の状態を示す画像である。
【0046】
図7(B)~(E)にそれぞれ示した通り、触覚アクチュエータ2は、圧縮空気の圧力を加えた湾曲要素の枠23B、23A、23D又は23Cの部分で上に凸に湾曲する。そして、触覚アクチュエータ2は、湾曲した部分においてテーブルから離れ、湾曲した部分に隣接する部分においてテーブルに接している。
このため、触覚アクチュエータ2によれば、
図7(B)から(E)に示した動作を連続して行わせることでストローク動作を実現できる。
【0047】
なお、
図7(B)~(E)に示した触覚アクチュエータ2の状態は、それぞれ、コントローラ3が
図6において24A~24Dに示したONの信号を出力した場合に相当するものである。
図7(B)~(E)から、触覚アクチュエータ2によれば、破線の楕円で囲まれた波の頂点が矢印方向に移動して、波全体がその方向に進んでいることが理解される。
【0048】
(タッチ動作の実験)
次に、触覚アクチュエータ2にタッチ動作をさせる実験を行った。
図8(A)~(D)は、それぞれ、一つずつ右から順にバルーン21に圧縮空気を吹き込んだ触覚アクチュエータ2を撮影した画像である。
なお、触覚アクチュエータ2は、テーブルにバルーン21が接する向きに置かれている。
【0049】
図8(A)~(D)に示した通り、圧縮空気の圧力を高めたバルーン21が膨らむため、触覚アクチュエータ2は、バルーン21の膨らんだ部分でテーブルの表面を押す。
【0050】
(第1の変形例)
触覚提示装置1の触覚アクチュエータ2は、左右に間隔を空けて配置されている。
これに対し、
図9に示す変形例に係る触覚提示装置10の触覚アクチュエータ2は、領域R5において、触覚提示装置1に比べて間隔を空けずに配置されている。
【0051】
以下、触覚提示装置1と異なる部分を中心に説明する。また、触覚提示装置1と共通する構成要素には同一の符号を付す。
【0052】
図9においては、領域R5には、上下2段に触覚アクチュエータ2が配置されているが、このうち、上段について説明する。以下の説明は、下段に配置された触覚アクチュエータ2に適用されてもよく、
図1(A)~(C)に示した他の領域R1~R4に配置された触覚アクチュエータ2に適用されてもよい。
【0053】
図10(A)は、触覚アクチュエータ2に含まれる湾曲要素23を、
図1(A)~(C)に示したy軸及びz軸に対応させた符号で表したものである。
例えば、左端最下部に位置する湾曲要素23は「y1z1」で表され、その上に隣接する湾曲要素23はzを示す数字が1増えた「y1z2」で表され、右に隣接する湾曲要素23はzを示す数字が1増えた「y2z1」で表される。
【0054】
触覚提示装置10において、コントローラ3は、y方向に位相をずらすことによって、湾曲要素23が一つの触覚アクチュエータ2において並んでいる方向と垂直な方向であるy方向にも、ストローク動作を提示することができる。
図10(B)に示す通り、例えば、y方向に隣接する湾曲要素23同士の間で、周期Tのうちの時間Sだけ、コントローラ3は、制御信号を出力する時刻を遅らせることができる。
【0055】
この制御を行うことにより、触覚提示装置10によれば、y方向にもストローク動作を実現することができる。
【0056】
以上説明した触覚アクチュエータ2のタッチ動作とストローク動作は、別々のタイミングで行われてもよく、同時に行われてもよい。
ストローク動作において、コントローラ3は、y方向とz方向の両方に位相をずらす制御を行ってもよい。
触覚提示装置1、10は、触覚アクチュエータ2以外のアクチュエータを含んでいてもよい。
【0057】
触覚提示装置1、10としてジャケットを説明したが、触覚アクチュエータ2は、グローブ、ヘルメット、靴下など、人体の表面に接する任意の装着品に配置されることができる。また、触覚を装着者に安定して提示するため、触覚提示装置1、10を、伸縮性を有する布地、バンド、サポーターなどで覆ってもよい。
【0058】
(第2の変形例)
触覚アクチュエータ2を利用するものは、触覚提示装置1、10に限られない。自走装置100は、湾曲要素23を含む触覚アクチュエータ102を動作させて管路内を自ら移動するものである。
【0059】
以下、触覚提示装置1、10と異なる部分を中心に説明する。また、触覚提示装置1、10と共通する構成要素には同一の符号を付す。
【0060】
図11(A)に示す自走装置100は、触覚アクチュエータ102と、触覚アクチュエータ102の両端部を袋状に覆うバルーン121と、バルーン121の他端部に配置され、周辺の画像を撮影するカメラ151と、自走装置100の進行方向を制御するステアリング部152と、を備える。
【0061】
図11(B)に示す通り、自走装置100の触覚アクチュエータ102は、延長方向の一端部に、カメラ151とステアリング部152を備える。
【0062】
図11(C)を参照すると、ステアリング部152は、より詳細には、2枚の円盤状の基板152Aと、これらの基板152Aに挟まれて配置された3つの碍子状に形成されたステアリングアクチュエータ152Bと、を含む。
【0063】
図11(D)に示すステアリングアクチュエータ152Bは、バルーン21、121、湾曲要素23と同様に柔軟な素材で形成され、内部に空洞を有するため、圧縮空気の圧力を吹き込むことにより、伸縮することができる。
【0064】
3つのステアリングアクチュエータ152Bのうちの何れのステアリングアクチュエータ152Bに圧縮空気を吹き込むかによって、
図11(E)及び(F)に示す通り、ステアリング部152を異なる方向に曲げることができる。
【0065】
触覚アクチュエータ102の先端にはステアリング部152が取り付けられているため、自走装置100は、ステアリング部152を任意の方向に曲げながら、曲がりくねった経路内を進むことができる。
【0066】
図12(A)に示すジョイスティックJSは、
図11(A)に示したステアリング部152を操作する手段の一例である。
図12(B)は、ジョイスティックJSに何れの方向の入力も指示しない場合の触覚アクチュエータ102の向きを示す画像である。
ジョイスティックJSに上下左右の各方向の入力を指示することで、
図5に示した操作受付部31は、ドライバ回路41を通して、
図12(C)~(F)に示す左、右、上及び下の各方向に触覚アクチュエータ102を曲げる信号を出力する。なお、ジョイスティックJSが受け付ける操作は、上下左右の4方向に対するものに限られず、これらの方向の組合せ、例えば、右上、左下などであってもよい。
【0067】
(自走装置100を水平方向に移動させる実験)
図12(A)に示したジョイスティックJSを操作して、自走装置100をプラスチックのパイプの内部で水平方向に移動させる実験を行った。
【0068】
図13(A)~(H)は、バルーン121を膨らませずに、2.5Hzの周期で触覚アクチュエータ102にストローク動作のみをさせた場合における各時点の自走装置100の画像である。
図13(A)に示した時点を基準時点の0.00秒として、0.16秒、0.22秒、0.37秒、0.52秒、2.00秒、5.00秒、9.89秒経過時の触覚アクチュエータ102の位置と形状を、
図13(B)~(H)にそれぞれ示す。
【0069】
図13(A)~(E)に示した通り、約0.5秒の間に、触覚アクチュエータ102は、管路内で凹凸を変化させていることが理解される。
図13(F)に示した通り、約2.0秒で、触覚アクチュエータ102は、画像右から左に向けて、自身の直径程度に相当する距離を進むことが理解される。
図13(G)及び(H)も参照すると、触覚アクチュエータ102は、一定の周期のストローク動作のみによって、水平方向の管路内を一定の速度で進み、約10秒で、自身の長さ程度に相当する距離を進むことが理解される。
【0070】
図14に示す通り、自走装置100の触覚アクチュエータ102は、管路の内壁に点Pで接している。点Pにおいて、触覚アクチュエータ102は、管路の内壁を作用力Fiで押すため、反作用力Fnを受ける。また、触覚アクチュエータ102と管路の内壁との間には摩擦があるため、触覚アクチュエータ102には、摩擦力Fkが働く。従って、合力として、触覚アクチュエータ102には、破線で示した中心線と平行に、管路の延長方向に推力Fthが働く。このため、触覚アクチュエータ102は、全体として推力Fthの方向、即ち、MDの方向に移動する。
【0071】
(自走装置100を垂直方向に移動させる実験)
図12(A)に示したジョイスティックJSを操作して、自走装置100をプラスチックのパイプの内部で垂直方向に移動させる実験を行った。
なお、エアチャネル22を介してバルーン121に圧縮空気を送る命令を、図示しないボタンを押すことによって行った。
【0072】
図15(A)~(G)は、バルーン121を膨らませて、1.5Hzの周期で触覚アクチュエータ2にストローク動作をさせた場合における各時点の自走装置100の画像である。
図15(A)に示した時点を基準時点の0.00秒として、0.16秒、0.39秒、0.71秒、2.00秒、8.00秒、9.19秒経過時の触覚アクチュエータ102の位置と形状を、
図15(B)~(G)にそれぞれ示す。なお、この実験においてバルーン121に供給された圧縮空気の圧力は8kPaであり、湾曲要素23に供給された圧縮空気の圧力は80kPaである。
【0073】
図15(A)~(D)に示した通り、約0.7秒の間に、触覚アクチュエータ102は、管路内で凹凸を変化させていることが理解される。
図15(E)に示した通り、約2.0秒で、触覚アクチュエータ102は、画像下から上に向けて、自身の直径程度に相当する距離を進むことが理解される。
図15(F)も参照すると、触覚アクチュエータ102は、下側に配置されているバルーン121が滑り止めとなって、一定の周期のストローク動作によって、垂直方向の管路内を一定の速度で進むことが理解される。
【0074】
さらに、
図15(G)に示した通り、上側に配置されているバルーン121を十分に膨らませることによって、ストローク動作をしない間でも、触覚アクチュエータ102をその場にとどめるブレーキをかけることができる。
【0075】
図16(A)及び(B)に示す通り、自走装置100の触覚アクチュエータ102及びバルーン121は、管路の内壁に点Pで接している。
触覚アクチュエータ102は、ストローク動作を行っているとき、湾曲の仕方によって、
図16(A)又は(B)に示した反作用力Fnを受ける。バルーン121は、管路の内壁を斜め方向に、例えば接線角θをなす方向に押すため、全体として上方向の推力Fthが生じる。このため、触覚アクチュエータ102は、下側に配置されているバルーン121で自身を固定しながら、上方向である移動方向MDに進む。
【0076】
図16(C)及び(D)は、ストローク動作をさせずに、バルーン121に圧縮空気の圧力を吹き込んで上側のバルーン121を膨らませた状態の触覚アクチュエータ102が受ける力を示したものである。この状態においては、触覚アクチュエータ102に働く重力mgと摩擦力Fkが釣り合っているため、触覚アクチュエータ102は、ストローク動作をしなくても、落下しない。
【0077】
(自走装置100を起伏のある管の内部で移動させる実験)
ヒトの大腸を模した筒CLの内部に自走装置100を配置し、起伏のある大腸の内部で水平方向及び垂直方向に自走装置100を移動させた。
図17(A)~(D)は、
図12(A)に示したジョイスティックJSと、カメラ151によって取得した画像をリアルタイムに表示するモニタMNとを含む実験装置を用いて、自走装置100を筒CLの内部で移動させたものである。
【0078】
図17(A)~(D)における白い楕円で囲った部分に、自走装置100の先端部が位置している。
図17(A)は、自走装置100を筒CLに投入した直後の画像であり、
図17(B)は、実験者がジョイスティックJSを操作することにより、自走装置100を段差の直前まで移動させた時点の画像である。実験者がジョイスティックJSをさらに操作すると、自走装置100は、
図17(C)及び(D)にそれぞれ示した通り、筒CLの内部にある段差を乗り越えた。なお、
図17(A)に示した時点から
図17(D)に示した時点までに経過した時間は約30秒であった。また、この間に、モニタMNに表示される画像は明瞭なものであった。
【0079】
自走装置100によれば、秒速1cm程度の速度で、パイプ、ヒトの大腸などの細く、曲がりくねった管路の内部に、カメラを備えるロボットを比較的自由に移動させることができる。
【0080】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【符号の説明】
【0081】
1、10 触覚提示装置
2、2A、2B、2C、102 触覚アクチュエータ
3 コントローラ
20 ポケット
21、121 バルーン
21A、152A 基板
21B 空気不浸透性膜
21C 接着面
23 湾曲要素
23A、23B、23C、23D 湾曲要素の枠
23F フィン
22、24、24A、24B、24C、24D エアチャネル
25 ケース
31 操作受付部
32 制御信号出力部
33 通信部
41 ドライバ回路
42 制御弁
43 エアポンプ
44 ソレノイド弁
100 自走装置
151 カメラ
152 ステアリング部
152B ステアリングアクチュエータ
CL 筒
JS ジョイスティック
MD 移動方向
MN モニタ
R1、R2、R3、R4、R5 領域
T 周期