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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058301
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20120101AFI20230418BHJP
【FI】
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168236
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004411
【氏名又は名称】日揮ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】高木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真二
(72)【発明者】
【氏名】毛利 謙司
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる制御装置、制御方法、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る制御装置は、熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系の制御装置であって、前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得する取得部と、取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御する運転制御部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系の制御装置であって、
前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得する取得部と、
取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御する運転制御部と、
を備える、制御装置。
【請求項2】
取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記熱源系の熱保持量及び前記ヒートポンプに入力される排熱の熱源入口温度を算出する算出部をさらに備える、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
算出された前記熱保持量及び前記熱源入口温度の各々と、閾値との比較結果に基づいて、前記熱源系の運転モードを判定する第1判定部をさらに備え、
前記運転制御部は、前記第1判定部により判定された前記運転モードに応じて、前記熱源系に関わる運転パラメータを制御する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1判定部は、
算出された前記熱保持量が第1閾値未満であるか否かを判定し、
算出された前記熱保持量が第1閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、通常運転モードに設定する、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第1判定部は、
算出された前記熱保持量が第1閾値未満であると判定した場合、さらに、算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であるか否かを判定し、
算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記熱保持量を増大させる第1制御運転モードに設定する、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1判定部は、
算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であると判定した場合、さらに、算出された前記熱源入口温度が前記第2閾値よりも低い第3閾値未満であるか否かを判定し、
算出された前記熱源入口温度が第3閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記ヒートポンプの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、
算出された前記熱源入口温度が第3閾値未満であると判定した場合、前記運転モードを、他の熱源からの熱を前記熱源系に供給する第3制御運転モードに設定する、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記第1判定部は、
算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であると判定した場合、さらに、他の熱源おいて使用される燃料の燃料価格に対する電力価格の比率が第4閾値未満であるか否かを判定し、
前記比率が第4閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記ヒートポンプの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、
前記比率が第4閾値未満であると判定した場合、前記運転モードを、前記他の熱源からの熱を前記熱源系に供給する第3制御運転モードに設定する、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項8】
前記ヒートポンプが使用可能な電力量の制約に基づいて、前記熱源系の運転モードを判定する第2判定部をさらに備え、
前記運転制御部は、前記第2判定部により判定された前記運転モードに基づいて、前記熱源系に関わる運転パラメータを制御する、
請求項1から7の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記運転制御部は、前記熱源系から排出される排水量を調節することにより、前記熱源系の運転パラメータを制御する、
請求項1から8の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項10】
前記運転制御部は、他の熱源から前記熱源系に供給される熱量を調節することにより、前記熱源系の運転パラメータを制御する、
請求項1から9の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記運転制御部は、前記排熱予測情報及び前記ヒートポンプが使用可能な電力量の制約と、前記熱源系に関わる運転パラメータとの関係を機械学習することにより生成された第1機械学習モデルを用いて、前記熱源系の運転パラメータを制御する、
請求項1から10の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記運転制御部は、前記第1機械学習モデルの入力値の信頼性に応じて、前記入力値または前記第1機械学習モデルの出力値に対して重み付けを行う、
請求項11に記載の制御装置。
【請求項13】
前記熱利用設備の稼働情報と、前記排熱予測情報との関係を機械学習することにより生成された第2機械学習モデルを用いて、前記排熱予測情報を予測する排熱予測部をさらに備える、
請求項1から12の何れか一項に記載の制御装置。
【請求項14】
前記排熱予測部は、前記第2機械学習モデルの入力値の信頼性に応じて、前記入力値または前記第2機械学習モデルの出力値に対して重み付けを行う、
請求項13に記載の制御装置。
【請求項15】
前記排熱予測部は、前記稼働情報が欠損データを含む場合、物理モデルを用いて前記欠損データを補完する、
請求項13または14に記載の制御装置。
【請求項16】
熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系をコンピュータにより制御する制御方法であって、
前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得し、
取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御する、
制御方法。
【請求項17】
熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系を制御するプログラムであって、コンピュータに、
前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得させ、
取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工場等に熱供給設備を設け、工場内の各種設備に所望の熱エネルギーを供給するシステムが知られている。熱供給設備の熱源としては、例えば、ボイラ、ヒートポンプ等が利用されている。近年では環境への影響を配慮し、低炭素化や、ゼロエミッションを実現可能な熱供給設備の研究が進められている。このため、燃料を用いるボイラの利用頻度を下げ、電力と排熱を利用して熱を発生させるヒートポンプを優先的に利用したいといった要望が生まれつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-162362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒートポンプを利用する場合には、その効率を高めることが重要となる。ヒートポンプの効率を高めるためには、排熱を無駄なく汲み上げて熱源として活用する必要がある。しかしながら、排熱の流量や温度を事前に把握することができないため、排熱が過剰となるまたは排熱が不足するといった事態が生じる等、排熱を効率的に利用することができない場合があった。特に、ヒートポンプに入力される排熱量が不足する場合や、排熱量が急激に変動する場合には、ヒートポンプが異常停止してしまい、効率の悪化が生じていた。
【0005】
また、従来、ヒートポンプは、排熱が十分にあり排熱量を気にせずに成り行きで操業していても問題が生じない設備を対象にしている場合が多く、排熱の熱回収効率には改善の余地があり得る。例えば、特許文献1には、ヒートポンプの利用効率を高めるために気象データに基づいて熱需要を予測する技術が開示されているが、排熱を予測して制御を行うといった考慮はされていなかった。また、ヒートポンプでは電力が用いられるため、電力コストを可能な限り低減することも求められていた。
【0006】
本発明は、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することが可能な制御装置、制御方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系の制御装置であって、前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得する取得部と、取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御する運転制御部と、を備える、制御装置である。
【0008】
本発明の一態様によれば、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる。
【0009】
本発明の一態様は、取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記熱源系の熱保持量及び前記ヒートポンプに入力される排熱の熱源入口温度を算出する算出部をさらに備えてもよい。
【0010】
本発明の一態様によれば、熱源系の熱保持量及びヒートポンプの熱源入口温度を算出するため、熱源系の運転パラメータの制御を高精度に行うことができる。
【0011】
本発明の一態様は、算出された前記熱保持量及び前記熱源入口温度の各々と、閾値との比較結果に基づいて、前記熱源系の運転モードを判定する第1判定部をさらに備え、前記運転制御部は、前記第1判定部により判定された前記運転モードに応じて、前記熱源系に関わる運転パラメータを制御してもよい。
【0012】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、排熱量が低下したことに起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0013】
本発明の一態様の前記第1判定部は、算出された前記熱保持量が第1閾値未満であるか否かを判定し、算出された前記熱保持量が第1閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、通常運転モードに設定してもよい。
【0014】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、排熱量が低下したことに起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0015】
本発明の一態様の前記第1判定部は、算出された前記熱保持量が第1閾値未満であると判定した場合、さらに、算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であるか否かを判定し、算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記熱保持量を増大させる第1制御運転モードに設定してもよい。
【0016】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、排熱量が低下したことに起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0017】
本発明の一態様の前記第1判定部は、算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であると判定した場合、さらに、算出された前記熱源入口温度が前記第2閾値よりも低い第3閾値未満であるか否かを判定し、算出された前記熱源入口温度が第3閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記ヒートポンプの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、算出された前記熱源入口温度が第3閾値未満であると判定した場合、前記運転モードを、他の熱源からの熱を前記熱源系に供給する第3制御運転モードに設定してもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、排熱量が低下したことに起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0019】
本発明の一態様の前記第1判定部は、算出された前記熱源入口温度が第2閾値未満であると判定した場合、さらに、他の熱源おいて使用される燃料の燃料価格に対する電力価格の比率が第4閾値未満であるか否かを判定し、前記比率が第4閾値未満ではないと判定した場合、前記運転モードを、前記ヒートポンプの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、前記比率が第4閾値未満であると判定した場合、前記運転モードを、前記他の熱源からの熱を前記熱源系に供給する第3制御運転モードに設定してもよい。
【0020】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、排熱量が低下したことに起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0021】
本発明の一態様は、前記ヒートポンプが使用可能な電力量の制約に基づいて、前記熱源系の運転モードを判定する第2判定部をさらに備え、前記運転制御部は、前記第2判定部により判定された前記運転モードに基づいて、前記熱源系に関わる運転パラメータを制御してもよい。
【0022】
本発明の一態様によれば、運転モードに応じた制御を行うことで、電力量の制約に起因するヒートポンプの異常停止を回避することができる。
【0023】
本発明の一態様の前記運転制御部は、前記熱源系から排出される排水量を調節することにより、前記熱源系の運転パラメータを制御してもよい。
【0024】
本発明の一態様によれば、熱源系の運転パラメータの制御を高精度に行うことができる。
【0025】
本発明の一態様の前記運転制御部は、他の熱源から前記熱源系に供給される熱量を調節することにより、前記熱源系の運転パラメータを制御してもよい。
【0026】
本発明の一態様によれば、熱源系の運転パラメータの制御を高精度に行うことができる。
【0027】
本発明の一態様の前記運転制御部は、前記排熱予測情報及び前記ヒートポンプが使用可能な電力量の制約と、前記熱源系に関わる運転パラメータとの関係を機械学習することにより生成された第1機械学習モデルを用いて、前記熱源系の運転パラメータを制御してもよい。
【0028】
本発明の一態様によれば、第1機械学習モデルを用いることで、計算量を抑えつつ、熱源系の運転パラメータの制御を高精度に行うことができる。
【0029】
本発明の一態様の前記運転制御部は、前記第1機械学習モデルの入力値の信頼性に応じて、前記入力値または前記第1機械学習モデルの出力値に対して重み付けを行ってよい。
【0030】
本発明の一態様によれば、第1機械学習モデルの予測値の精度を高めることができる。
【0031】
本発明の一態様は、前記熱利用設備の稼働情報と、前記排熱予測情報との関係を機械学習することにより生成された第2機械学習モデルを用いて、前記排熱予測情報を予測する排熱予測部をさらに備えてもよい。
【0032】
本発明の一態様によれば、第2機械学習モデルを用いることで、高精度な排熱予測情報を取得することができる。
【0033】
本発明の一態様の前記排熱予測部は、前記第2機械学習モデルの入力値の信頼性に応じて、前記入力値または前記第2機械学習モデルの出力値に対して重み付けを行ってよい。
【0034】
本発明の一態様によれば、第2機械学習モデルの予測値の精度を高めることができる。
【0035】
本発明の一態様の前記排熱予測部は、前記稼働情報が欠損データを含む場合、物理モデルを用いて前記欠損データを補完してもよい。
【0036】
本発明の一態様によれば、第2機械学習モデルの稼働率を高めることができる。
【0037】
本発明の他の態様は、熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系をコンピュータにより制御する制御方法であって、前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得し、取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御する制御方法である。
【0038】
本発明の他の態様によれば、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる。
【0039】
本発明のさらに他の態様は、熱利用設備から出力される排熱をヒートポンプに入力する熱源系を制御するプログラムであって、コンピュータに、前記排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得させ、取得された前記排熱予測情報に基づいて、前記ヒートポンプにおける前記排熱の熱回収効率が向上するように前記熱源系の運転パラメータを制御させる、プログラムである。
【0040】
本発明のさらに他の態様によれば、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】実施形態に係る制御装置1の使用環境の一例を示す図である。
図2】実施形態に係る熱源系210の構成の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る制御装置1の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図4】実施形態に係る運転モードの概要を説明する図である。
図5】実施形態に係る排熱予測情報に基づく第1制御処理の一例を示すフローチャートである。
図6】実施形態に係る電力情報に基づく第2制御処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る制御装置、制御方法、及びプログラムについて説明する。
【0044】
実施形態に係る制御装置は、例えば、工場等に設けられた各種設備から出力される排熱の予測情報に基づいて、ヒートポンプに排熱を供給するために設けられた熱源系の運転パラメータの制御を行う。これにより、ヒートポンプの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することを可能にする。
【0045】
[全体構成]
図1は、実施形態に係る制御装置1の使用環境の一例を示す図である。制御装置1は、例えば、熱エネルギーを利用する任意の設備で使用される。この設備には、例えば、製品の生産、製造、点検、整備等を行う工場が含まれる。図1では、製品を製造する工場Fを例に挙げて説明する。制御装置1は、工場F内に位置するコンピュータであってもよいし、工場Fとは離れた場所に位置しネットワーク(例えば、WAN(Wide Area Network)やLAN(Local Area Network)、インターネット、専用回線等)を介して工場F内の各種機器と通信を行うコンピュータであってもよい。制御装置1は、工場F内または工場F外に設置される据置型のコンピュータであってもよいし、ノートパソコン、タブレット端末、スマートフォン等の可搬型のコンピュータであってもよい。
【0046】
工場Fには、例えば、熱供給源100と、熱供給ユーティリティ200と、熱利用設備300とが設けられる。熱供給源100は、熱利用設備300に対して供給する熱を生成する。熱供給源100は、例えば、ボイラBと、ヒートポンプHPとを備える。ボイラBは、例えば、燃料及び水を用いて、熱(温水や蒸気)を生成する。ボイラBは、例えば、ガスボイラである。ヒートポンプHPは、電力会社から供給される電力や再生可能エネルギーから生成される電力と、熱利用設備300から出力される排熱とを用いて、熱(温水や蒸気)を生成する。
【0047】
熱供給ユーティリティ200は、熱供給源100と、熱利用設備300との間に設けられる各種処理を行う機器群である。熱供給ユーティリティ200は、例えば、熱源系210と、加熱系220と、変換装置230とを備える。熱源系210は、熱利用設備300から出力されてヒートポンプHPに入力される排熱を一定期間保持するための機器を含む。
【0048】
図2は、実施形態に係る熱源系210の構成の一例を示す図である。熱源系210は、例えば、タンクTaと、ポンプPと、バルブVaとを備える。タンクTaは、バッファとして熱利用設備300から出力された排熱(温水等)を蓄える。タンクTaは、ボイラBにより生成された供給熱の一部を蓄えるようにしてもよい。ポンプPは、タンクTaに蓄えられた排熱を汲み上げてヒートポンプHPに供給する。バルブVaは、熱源系210に保持される熱の一部を外部に出力する(水処理設備に出力或いは排水として出力)。
【0049】
図1に戻り、加熱系220は、ヒートポンプHPにより生成されて熱利用設備300に供給される熱(以下「供給熱」と呼ぶ)を一定期間保持するための機器を含んでもよい。
【0050】
変換装置230は、熱供給源100により生成された供給熱を、熱利用設備300の要求に応じた温度及び状態(液体、気体)に変換して、熱利用設備300に供給する。
【0051】
熱利用設備300は、熱供給ユーティリティ200から供給された供給熱を利用する機器群である。熱利用設備300は、供給熱を利用する機器として、例えば、第1熱ユーザU1、第2熱ユーザU2、及び第3熱ユーザU3を備える。これらの熱ユーザU1-U3の各々は、例えば、供給熱を利用して製品製造を行う際に利用される。これらの熱ユーザU1-U3の各々は、例えば、製品製造の工程において、供給熱を利用して材料を加熱する加熱器、供給熱を利用して材料の乾燥を行う乾燥機等である。これらの熱ユーザU1-U3の各々は、例えば、工場F内の所定の空間の温度調整を行う空調装置等であってもよい。尚、図1では3つの熱ユーザを示しているが、熱ユーザの数は任意である。また、工場F内には、熱ユーザU1―U3以外に他の熱ユーザが存在してもよく、その他の熱ユーザからの排熱は必ずしも熱源系210に入力されなくてもよい。尚、熱利用設備300は、図示されていない燃焼設備から出力される排ガスから熱を回収して利用する設備であってもよい。
【0052】
熱ユーザU1-U3の各々は、その稼働に伴って内部で発生した熱を、排熱として出力する。熱ユーザU1-U3の各々から出力される排熱は、熱源系210に入力されて、ヒートポンプHPにおける熱生成処理に利用される。また、熱利用設備300が、燃焼設備から出力される排ガスからの熱を回収して利用する設備である場合、上記排熱は、この設備で生成される温水であってもよい。
【0053】
[制御装置]
図3は、実施形態に係る制御装置1の構成の一例を示す機能ブロック図である。制御装置1は、例えば、制御部10と、入力インタフェース20と、表示部30と、記憶部40とを備える。制御部10は、例えば、取得部11と、シミュレーション部13と、第1判定部14と、電力量制約予測部15と、第2判定部16と、運転制御部17と、表示制御部18を備える。取得部11は、例えば、排熱予測部12を備える。制御装置1は、熱利用設備300から出力される排熱をヒートポンプHPに入力する熱源系210の制御を行う。
【0054】
制御部10の各機能部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサが、記憶部40に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。また、制御部10の各機能部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。また、上記のプログラムは、予め記憶部40に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、この記憶媒体が制御装置1のドライブ装置に装着されることで記憶部40にインストールされてもよい。
【0055】
取得部11は、熱利用設備300により出力される排熱を予測するための各種情報を取得する。取得部11は、例えば、熱利用設備300における熱ユーザU1-U3の各々の稼働情報を取得する。稼働情報とは、例えば、熱ユーザU1-U3の各々に備えられる熱利用機器(排熱を出力する機器)のオンオフ情報、排熱用のバルブの開け閉めの情報、熱ユーザU1-U3の稼働スケジュール情報等である。取得部11の排熱予測部12は、取得した稼働情報に基づいて、一定期間後(例えば、3時間後)までの熱利用設備300により出力される排熱を予測し、排熱の予測情報(以下、「排熱予測情報」と呼ぶ)を取得する。排熱予測部12は、例えば、熱源系210に入力される排熱の温度Tin及び流量Finを予測する(図2参照)。
【0056】
熱ユーザU1-U3の各々の稼働情報(入力データ)と、排熱の予測値(出力データ)との関係を機械学習することにより生成された機械学習モデル(「第2機械学習モデル」の一例)を用いることで、排熱予測情報を取得するようにしてもよい。このような機械学習モデルを用いる場合、その精度(信頼性)は教師データ等により異なる。例えば、信頼性が低い出力値(排熱の予測値)とは、機械学習モデルの入力として教師データに含まれないパターンの稼働情報を利用した場合の出力値等を含む。そこで、この信頼性の重み付けに基づき、出力値(排熱の予測値)を加重平均することにより、信頼性が低い時間帯の入力値が出力値へ与える影響を低減するようにしてよい。或いは、この信頼性が低い時間帯の入力値(稼働情報)は、その時間帯の前後の入力値(稼働情報)に重み付けを行って出力値を決めることにより、信頼性が低い時間帯の入力値が出力値へ与える影響を低減するようにしてよい。また、入力とする元データ(稼働情報)にデータ欠損が発生している場合、熱供給量、熱需要量、熱源系までを範囲とする物理モデルで欠損したデータを補完し、機械学習モデルの稼働率を確保するようにしてもよい。すなわち、排熱予測部12は、稼働情報が欠損データを含む場合、物理モデルを用いて欠損データを補完してよい。
【0057】
或いは、取得部11は、熱利用設備300における熱ユーザU1-U3から、排熱予測情報を取得してもよい。取得部11は、熱利用設備300における熱ユーザU1-U3の排熱予測情報を、外部装置から取得してもよい。この場合、取得部11は、排熱予測部12を備えなくてもよい。
【0058】
また、取得部11は、工場F内で使用される電力量を予測するための各種情報(以下、「電力情報」と呼ぶ)を取得する。例えば、電力情報は、熱ユーザを含む電力ユーザの稼働情報や稼働パターン毎の電力需要実績等の情報である。取得部11は、例えば、工場F内の電力ユーザの各々の稼働情報を取得する。或いは、取得部11は、工場F内の電力ユーザの各々から、使用される電力量のスケジュール情報を取得してもよい。取得部11は、電力ユーザの各々の電力量の予測情報を、外部装置から取得してもよい。
【0059】
また、取得部11は、熱源系210に入力される排熱の温度Tin及び流量Finの実測値、熱源系210からヒートポンプHPに入力される排熱の温度T及び流量Fの実測値、熱源系210から外部に出力される排熱の流量Foutの実測値等を取得してもよい。
【0060】
取得部11は、「取得部」の一例である。取得部11は、排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得する。排熱予測部12は、「排熱予測部」の一例である。排熱予測部12は、熱利用設備300の稼働情報と、排熱予測情報との関係を機械学習することにより生成された第2機械学習モデルを用いて、排熱予測情報を予測する。排熱予測部12は、第2機械学習モデルの出力値の信頼性に応じて、出力値に対して重み付けを行う。
【0061】
シミュレーション部13は、排熱予測情報(排熱の温度Tin(t)及び流量Fin(t))に基づいて、熱源系210の動作をシミュレーションし、一定期間後(例えば、3時間後)までの熱源系210の熱保持量Qinv(t)及びヒートポンプHPに入力される排熱の温度T(t)(以下、「熱源入口温度」と呼ぶ)を算出する。シミュレーション部13は、例えば、熱源系210の機器構成に基づいて準備された物理モデル(シミュレーションモデル)を用いることで、熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)を算出する。或いは、シミュレーション部13は、排熱の温度Tin(t)及び流量Fin(t)(入力データ)と、熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)(出力データ)との関係を機械学習することにより生成された機械学習モデルを用いることで、熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)を算出してもよい。
【0062】
シミュレーション部13は、「算出部」の一例である。シミュレーション部13は、取得された排熱予測情報に基づいて、熱源系210の熱保持量Qinv(t)及びヒートポンプHPに入力される排熱の熱源入口温度T(t)を算出する。
【0063】
第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)に基づいて、熱源系210の運転モードを判定する。第1判定部14の処理の詳細については後述する。第1判定部14は、「第1判定部14」の一例である。第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)の各々と、閾値との比較結果に基づいて、熱源系210の運転モードを判定する。
【0064】
電力量制約予測部15は、取得部11により取得された電力情報に基づいて、一定期間後(例えば、3時間後)までのヒートポンプHPが利用することが可能な電力量の制約値(以下、「電力量制約Plim(t)」と呼ぶ)を予測する。例えば、工場Fには、工場全体で利用可能な電力の上限(瞬時値、所定期間における合計値)に制限が設けられている場合がある。この場合、電力量制約予測部15は、工場全体で利用可能な電力の上限から、電力ユーザにより使用される電力量を減算することで、ヒートポンプHPの電力量制約Plim(t)を予測する。
【0065】
第2判定部16は、予測された電力量制約Plim(t)に基づいて、熱源系210の運転モードを判定する。第2判定部16の処理の詳細については後述する。第2判定部16は、ヒートポンプHPが使用可能な電力量の制約に基づいて、熱源系210の運転モードを判定する。
【0066】
第1判定部14及び/または第2判定部16により判定される運転モードには、例えば、通常運転モード、第1制御運転モード(熱保持量最大モード)、第2制御運転モード(ヒートポンプ入熱最小化モード)、第3制御運転モード(熱リサイクルモード)、第4制御運転モード(電力量制約モード)が含まれる。
【0067】
図4は、実施形態に係る運転モードの概要を説明する図である。通常運転モードとは、熱源系210の熱保持量等に制限を設けない標準的な運転を行うモードである。第1制御運転モードとは、通常運転モードと比較して、熱源系210の熱保持量を増大させる運転を行うモードである。第2制御運転モードとは、通常運転モードと比較して、ヒートポンプHPにより汲み上げられる熱量(以下、「HP入熱Qhp」と呼ぶ)(図2参照)を最小化して熱源系210の熱保持量の低下を抑えるモードである。第3制御運転モードとは、ボイラBまたは加熱系220から熱源系210に熱を補う運転を行うモードである。第4制御運転モードとは、電力量制約Plim(t)を満たすようにヒートポンプHPによる電力使用量のランプダウンレートを決定し、このランプダウンレートに合わせて、HP入熱Qhpの急変動によりヒートポンプHPが停止しないようにしつつ、排熱の熱回収を最大とする運転を行うモードである。尚、運転モードは上記の5つのモードに限定されず、目的とする熱保持量に応じて、4つ以下または6以上のモードが定義されてもよい。
【0068】
運転制御部17は、第1判定部14及び/または第2判定部16により判定された運転モードに応じて、熱源系210の動作を制御する。運転制御部17は、例えば、バルブVa(図2参照)の開度を変更することで、熱源系210から外部に排出される排熱量(流量Fout)を調整し、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する。また、運転制御部17は、例えば、HP入熱Qhpの設定を変更することで、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する。また、運転制御部17は、例えば、ヒートポンプHPに入力される排熱の流量F(以下、「熱源入口流量」と呼ぶ)を変更することで、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する。その他、運転制御部17は、例えば、タンクTaの液面の高さを変更することで、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する。
【0069】
運転制御部17は、排熱予測情報、熱保持量Qinv(t)、熱源入口温度T(t)、及び運転モードの少なくとも1つ(入力データ)と、各種制御値(バルブVaの開度、HP入熱Qhpの設定等)(出力データ)との関係を機械学習することにより生成された機械学習モデル(「第1機械学習モデル」の一例)を用いることで、熱源系210の動作を制御してもよい。機械学習モデルを構築する場合には、熱源系210の構成に類似する他の熱源系(以下、「類似熱源系」と呼ぶ)における過去の運転記録から入力値と出力値を抽出するが、当該熱源系210の挙動に合わせた教師データの補正が必要になる。例えば、類似熱源系における上記入力値と上記制御値を用いてシミュレーション部13で熱源系210での排熱回収率を演算し、熟練運転員にその熱回収率が低い時間帯の出力値を提示する機能を備えてもよい。これにより、熟練運転員が熱源系210における排熱回収率が向上するように熟練運転員による上記制御値の修正を付加した制御値に置き換えて、教師データを改善してもよい。機械学習モデルを用いる場合、その精度(信頼性)は教師データ等により異なる。例えば、信頼性が低い出力値(上記制御値)とは、機械学習モデルの入力として教師データに含まれないパターンの入力データを利用した場合の出力値等を含む。そこで、この信頼性の重み付けに基づき、出力値(上記制御値)を加重平均することにより、信頼性が低い時間帯の入力値が出力値へ与える影響を低減するようにしてよい。
【0070】
各熱ユーザの排熱量を入力とする機械学習モデルを用いる場合、入力データ点数が多くなり、計算量が多くなる。このため、各熱ユーザの熱需要予測値や電力量制約Plim(t)を入力として、機械学習で出力値を推定する機械学習モデルを用いてもよい。
【0071】
熱源系210から外部に排出される排熱の温度が高い場合には、排熱量(流量Fout)を減らし、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を増やす。排熱予測情報を用いて熱源系210の出口温度(熱源入口温度T(t))と熱源系210のQinv(t)の時系列データを予測し、ヒートポンプHPによる熱回収効率が向上するように排熱量(流量Fout)を調整する。
【0072】
また、電力価格のガス価格に対する比率が一定値より小さい場合に、ヒートポンプHPの負荷を上げたいが、排熱が不足するためヒートポンプHPの負荷を上げることができないことがあり得る。このような場合、排熱予測情報を用いて、不足する排熱を算出し、ボイラB等からその熱を熱源系210へ補充する。
【0073】
運転制御部17は、「運転制御部」の一例である。運転制御部17は、取得された排熱予測情報に基づいて、ヒートポンプHPにおける排熱の熱回収効率が向上するように熱源系210の運転パラメータを制御する。運転制御部17は、第1判定部14により判定された運転モードに応じて、熱源系210に関わる運転パラメータを演算する。運転制御部17は、第2判定部16により判定された運転モードに基づいて、熱源系210に関わる運転パラメータを演算する。運転制御部17は、熱源系210から排出される排水量を調節することにより、熱源系210の運転パラメータを制御する。運転制御部17は、熱利用設備300の排熱予測情報及び電力量制約と、熱源系210に関わる運転パラメータとの関係を機械学習することにより生成された第1機械学習モデルを用いて、熱源系210の運転パラメータを制御する。運転制御部17は、第1機械学習モデルの入力値の信頼性に応じて、入力値または出力値に対して重み付けを行う。この重み付けに関しては、前記第2機械学習モデルの利用と同様である。
【0074】
表示制御部18は、表示部30に表示させる表示内容を制御する。表示制御部18は、表示部30に、例えば、排熱予測情報(温度Tin(t)及び流量Fin(t))、熱源系210の熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)の予測値、電力量制約Plim(t)、運転モード等の情報を、表示部30に表示させる。
【0075】
入力インタフェース20は、制御装置1のオペレータからの各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を電気信号に変換して制御部10に出力する。例えば、入力インタフェース20は、マウス、キーボード、タッチパネル等を含む。入力インタフェース20がタッチパネルである場合、入力インタフェース20は、表示部30の表示機能を兼ね備えるものであってもよい。
【0076】
表示部30は、各種情報を表示する。表示部30は、例えば、制御部10によって生成された処理結果を示す画像や、オペレータからの各種の入力操作を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)等を表示する。表示部30は、例えば、ディスプレイ、タッチパネル等である。
【0077】
記憶部40は、制御部10の各種処理に必要な情報や、制御部10の処理結果等を記憶する。記憶部40は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)等である。記憶部40は、NASや外部のストレージサーバ等、制御装置1がアクセス可能な外部装置であってもよい。記憶部40は、例えば、第1判定部14による判定処理に利用される閾値情報C、各種モデル(シミュレーションモデルM1、機械学習モデルM2)を記憶する。
【0078】
[処理フロー]
次に、制御装置1の処理フローについて説明する。まず、排熱予測情報に基づく第1制御処理について説明し、その後、電力情報に基づく第2制御処理について説明する。第1制御処理及び第2制御処理は、何れか一方の処理のみが実行されてもよいし、両方が並行して実行されてもよい。第1制御処理及び第2制御処理は、例えば、所定の時間間隔で実行される。
【0079】
(第1制御処理)
図5は、実施形態に係る排熱予測情報に基づく第1制御処理の一例を示すフローチャートである。排熱量の低下に伴って、熱源入口温度T1(t)が、ヒートポンプの仕様に応じて定められた下限値以下まで低下してしまうと、ヒートポンプHPが異常停止してしまう。このヒートポンプHPの異常停止を回避するため、排熱予測情報を用いて熱源系210の運転をシミュレーションし、熱源系210の熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T1(t)の推移を予測する。そして、予測した熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T1(t)の値が所定値より小さくなるに従い、熱保持量Qinv(t)が下がりにくくなる制御を行う運転モードへ段階的に切り替える。
【0080】
まず、制御部10の取得部11は、熱利用設備300により出力される排熱の排熱予測情報(温度Tin(t)及び流量Fin(t))を取得する(ステップS101)。取得部11は、例えば、熱利用設備300における熱ユーザU1-U3の各々の稼働情報を取得し、取得したこれらの稼働情報に基づいて、排熱を予測することで、排熱予測情報を取得する。或いは、取得部11は、熱ユーザU1-U3の各々から、排熱予測情報を取得してもよい。
【0081】
次に、制御部10のシミュレーション部13は、取得した排熱予測情報に基づいて、熱源系210の動作をシミュレーションし、熱源系210の熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)を算出する(ステップS103)。ここで算出される熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)の各々は、所定時間後(例えば、3時間後)までの時間変化を示すものである。
【0082】
次に、制御部10の第1判定部14は、記憶部40に記憶された閾値情報Cを参照し、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満であるか否かを判定する(ステップS105)。第1閾値C1は、例えば、ヒートポンプHPの仕様に基づいて、ヒートポンプHPが停止しない正常動作を保証することが可能な余裕を持った値が設定される。第1判定部14は、例えば、所定時間h1後までの熱保持量Qinv(t)の値が、第1閾値C1未満となるタイミングが存在するか否かを判定する。尚、第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1以下であるか否かを判定してもよい。第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満ではないと判定した場合(ステップS105;NO)、熱源系210の運転モードを「通常運転モード」に設定する(ステップS107)。
【0083】
すなわち、第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満であるか否かを判定し、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満ではないと判定した場合、運転モードを、通常運転モードに設定する。
【0084】
一方、第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満であると判定した場合(ステップS105;YES)、さらに、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満であるか否かを判定する(ステップS109)。第2閾値C2は、例えば、ヒートポンプHPの仕様に基づいて、ヒートポンプHPが停止しない正常動作を保証することが可能な値が設定される。第2閾値C2は、第1閾値C1よりも、ヒートポンプHPの停止条件に近い状況を示す値が設定される。第1判定部14は、例えば、所定時間h1後までの熱源入口温度T(t)の値が、第2閾値C2未満となるタイミングが存在するか否かを判定する。尚、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2以下であるか否かを判定してもよい。第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満とならないと判定した場合(ステップS109;NO)、熱源系210の運転モードを「第1制御運転モード」に設定する(ステップS111)。
【0085】
すなわち、第1判定部14は、算出された熱保持量Qinv(t)が第1閾値C1未満であると判定した場合、さらに、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満であるか否かを判定し、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満ではないと判定した場合、運転モードを、熱保持量Qinv(t)を増大させる第1制御運転モードに設定する。
【0086】
一方、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満となると判定した場合(ステップS109;YES)、さらに、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3未満となるか否かを判定する(ステップS113)。第3閾値C3は、例えば、ヒートポンプHPの仕様に基づいて、ヒートポンプHPが停止しない正常動作を保証することが可能な値が設定される。第3閾値C3は、第2閾値C2よりも低い値が設定される。第1判定部14は、例えば、所定時間h1後までの熱源入口温度T(t)の値が、第3閾値C3未満となるタイミングが存在するか否かを判定する。尚、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3以下であるか否かを判定してもよい。第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3未満とならない判定した場合(ステップS113;NO)、熱源系210の運転モードを「第2制御運転モード」に設定する(ステップS115)。
【0087】
一方、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3未満となると判定した場合(ステップS113;YES)、熱源系210の運転モードを「第3制御運転モード」に設定する(ステップS117)。ただし、この熱源系210の運転モードを「第3制御運転モード」に設定するのは、所定時間h2後までに熱保持量Qinv(t)が所定量を超えることが予測される場合に限る。この所定時間h2は、所定時間h1よりも大きな値が設定される。このような限定を行う理由は、熱保持量Qinv(t)が増大することが想定されない場合に第3制御運転モードで熱リサイクル処理を行うことは、全体の熱効率の悪化につながることが懸念されるためである。所定時間h2後まで熱保持量Qinv(t)が所定量を超えることが予測されない場合、第1判定部14は、熱源系210の運転モードを「第2制御運転モード」に設定してよい。また、第1判定部14は、電力価格のガス価格(ボイラBにおいて使用される燃料の燃料価格)に対する比率が所定の閾値未満(「第4閾値」の一例)である場合に、熱源系210の運転モードを「第3制御運転モード」に設定するようにしてもよい。
【0088】
すなわち、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満であると判定した場合、さらに、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2よりも低い第3閾値C3未満であるか否かを判定し、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3未満ではないと判定した場合、運転モードを、ヒートポンプの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、算出された熱源入口温度T(t)が第3閾値C3未満であると判定した場合、運転モードを、他の熱源からの熱を熱源系210に供給する第3制御運転モードに設定する。或いは、第1判定部14は、算出された熱源入口温度T(t)が第2閾値C2未満であると判定した場合、さらに、他の熱源おいて使用される燃料の燃料価格に対する電力価格の比率が第4閾値未満であるか否かを判定し、当該比率が第4閾値未満ではないと判定した場合、運転モードを、ヒートポンプHPの入熱を下げる第2制御運転モードに設定し、当該比率が第4閾値未満であると判定した場合、運転モードを、他の熱源からの熱を熱源系210に供給する第3制御運転モードに設定する。
【0089】
次に、制御部10の運転制御部17は、設定された運転モードに基づいて、熱源系210の動作を制御する(ステップS119)。運転制御部17は、例えば、バルブVa(図2参照)の開度を変更することで、熱源系210から外部に排出される排熱量(流量Fout)を調整し、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する(第1制御運転モード)。また、運転制御部17は、例えば、HP入熱Qhpの設定を変更することで、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する(第2制御運転モード)。また、運転制御部17は、例えば、ボイラBまたは加熱系220から熱源系210への経路に位置するバルブ(不図示)の開度を変更することで、熱リサイクルの設定を行い、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する(第3制御運転モード)。以上により、本フローチャートの処理が終了する。
【0090】
上記の実施形態では、第1閾値C1、第2閾値C2、及び第3閾値C3は、固定値である例を説明したがこれに限られない。第1閾値C1、第2閾値C2、及び第3閾値C3は、室温、季節等に応じて変更されてよい。
【0091】
尚、第1判定部14は、例えば、算出された熱保持量Qinv(t)及び熱源入口温度T(t)の時系列データを単位時間毎(例えば、10分毎)に区切り、この単位時間毎に閾値との比較処理を行ってもよい。この場合、この単位時間毎に、運転モードが設定されてよい。
【0092】
(第2制御処理)
図6は、実施形態に係る電力情報に基づく第2制御処理の一例を示すフローチャートである。工場Fの契約電力量に近づき電力使用量が制限され、ヒートポンプHPに割り当てることができる電力量に電力量制約Plim(t)が発生し、ヒートポンプHPの負荷を下げる必要が生じた場合、熱源入口温度T(t)の過剰変動などによりヒートポンプHPが異常停止してしまうことがある。このヒートポンプHPの異常停止を回避するため、一定レートでヒートポンプHPの負荷を下げることを入力として、ヒートポンプHPの熱源系210からのHP入熱Qhp(t)が急変動しないようにしつつ、熱回収を最大化するように熱保持量Qinv(t)を増大させる。さらには、電力価格が高い場合にはヒートポンプHPによる電力使用量を抑えるといった調整が可能となる。
【0093】
まず、制御部10の取得部11は、工場F内で使用される電力量を予測するための電力情報を取得する(ステップS201)。取得部11は、例えば、工場F内の電力ユーザの各々の稼働情報を取得する。
【0094】
次に、制御部10の電力量制約予測部15は、取得された電力情報に基づいて、電力ユーザにより使用される電力量を予測し、さらに、ヒートポンプHPが利用することが可能な電力量制約Plim(t)を予測する。電力量制約Plim(t)が生じなかった場合(ステップS203;NO)、第2判定部16は、熱源系210の運転モードを「通常運転モード」に設定する(ステップS205)。一方、電力量制約Plim(t)が生じる場合(ステップS203;YES)、第2判定部16は、熱源系210の運転モードを「第4制御運転モード」に設定する(ステップS207)。
【0095】
次に、制御部10の運転制御部17は、設定された運転モードに基づいて、熱源系210の動作を制御する(ステップS209)。第4制御運転モードに設定されている場合、運転制御部17は、電力量制約Plim(t)を満たすようにヒートポンプHPによる電力使用量のランプダウンレートを決定し、このランプダウンレートに合わせて、HP入熱Qhp(t)の急変動によりヒートポンプHPが停止しないようにしつつ、排熱の熱回収が最大となるように制御を行う。例えば、運転制御部17は、バルブVa(図2参照)の開度を変更することで、熱源系210から外部に排出される排熱量(流量Fout(t))を調整し、熱源系210の熱保持量Qinv(t)を制御する。また、運転制御部17は、例えば、HP入熱Qhp(t)の設定を変更する。以上により、本フローチャートの処理が終了する。
【0096】
上述した実施形態によれば、熱利用設備300から出力される排熱をヒートポンプHPに入力する熱源系210の制御装置1が、排熱の予測値を含む排熱予測情報を取得する取得部11と、取得された排熱予測情報に基づいて、ヒートポンプHPにおける排熱の熱回収効率が向上するように熱源系210の運転パラメータを制御する運転制御部17と、を備えることで、ヒートポンプHPの正常動作を確保しつつ、排熱の熱回収効率を改善することができる。
【0097】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0098】
1…制御装置
10…制御部
11…取得部
12…排熱予測部
13…シミュレーション部
14…第1判定部
15…電力量制約予測部
16…第2判定部
17…運転制御部
18…表示制御部
20…入力インタフェース
30…表示部
40…記憶部
100…熱供給源
200…熱供給ユーティリティ
210…熱源系
220…加熱系
230…変換装置
300…熱利用設備
F…工場
B…ボイラ
HP…ヒートポンプ
U1…第1熱ユーザ
U2…第2熱ユーザ
U3…第3熱ユーザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6