(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058313
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】アンモニア製造用触媒、アンモニア製造方法と製造装置及び脱硝方法と脱硝装置
(51)【国際特許分類】
B01J 23/50 20060101AFI20230418BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B01J23/50 M
C01C1/04 E ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168261
(22)【出願日】2021-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO(NEDOエネルギー・環境新技術先導プログラム)「燃焼器から排出される窒素酸化物からのアンモニア創出プロセス開発」に関する委託研究で得られた成果を基にした、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】岩本 正和
(72)【発明者】
【氏名】森田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 讓
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05B
4G169BB02A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB06B
4G169BC32A
4G169BC32B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC51B
4G169CA08
4G169CA13
4G169CB82
4G169DA05
4G169EB18Y
4G169EC02Y
4G169EC22X
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】本発明は、排ガスから優れた収率でアンモニアを製造できる触媒と製造方法と製造装置及び排ガスの脱硝方法と脱硝装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、TiO
2からなる担体に金属を担持した、酸素存在下でNO
Xと還元剤からNH
3を製造するアンモニア製造用触媒に関する。本発明は、アンモニア製造用触媒を用い、酸素存在下でNO
Xを濃縮することなく1ポットでNO
Xと還元剤からNH
3を製造するアンモニア製造方法に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO2からなる担体に金属を担持した、酸素存在下でNOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造用触媒。
【請求項2】
前記担体に担持する金属がAgである、請求項1に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項3】
前記担体へのAg担持量が、前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~5質量%である、請求項2に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項4】
前記触媒を水蒸気非共存下で使用する前記担体の結晶構造がアナターゼ型である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項5】
前記担体の結晶構造がルチル型である担体に金属を担持した、酸素及び水蒸気共存下でNOXと還元剤からNH3を製造する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項6】
前記還元剤が炭化水素である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項7】
前記炭化水素がC3H6である請求項6に記載のアンモニア製造用触媒。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒を用い、酸素及び水蒸気共存下でNOXを濃縮することなく1ポットでNOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造方法。
【請求項9】
前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~1.5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃以上で使用する請求項8に記載のアンモニア製造方法。
【請求項10】
前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の1.5~5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用する請求項8に記載のアンモニア製造方法。
【請求項11】
請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒を反応器の内部に備え、前記反応器の一側に前記NOXの供給部及び前記還元剤の供給部を備え、前記反応器の他側に出口部を備えたアンモニア製造装置。
【請求項12】
請求項1~請求項7のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒を前段の反応器に搭載し、後段の反応器にNH3-SCR触媒を搭載し、前記アンモニア製造用触媒を搭載した前段の前記反応器で酸素及び水蒸気が共存する排ガス中NOXの47.4%以上を前記アンモニア製造用触媒と前記還元剤を用いてNH3に転換し、転換したNH3を還元剤として後段の前記反応器で残りのNOXを還元することで後段の前記反応器へNH3の外部注入を行うことなく後段の前記反応器で脱硝を行う脱硝方法。
【請求項13】
前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~1.5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃以上で使用する請求項12に記載の脱硝方法。
【請求項14】
前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の1.5~5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用する請求項12に記載の脱硝方法。
【請求項15】
前記還元剤としてC3H6を用い、前記後段の反応器より下流側に設けたNOX濃度監視計によりモニタリングしている残NOX濃度と、前記後段の反応器より下流側に設けたNH3濃度監視計によりモニタリングしている残NH3濃度とC3H6濃度監視計によりモニタリングしている残C3H6濃度を基に、NH3収率と還元剤C3H6転化率の相関データを用いて演算することで、NOXから望ましいNH3を生成するのに必要な還元剤C3H6の量を調節する請求項12~請求項14のいずれか一項に記載の脱硝方法。
【請求項16】
前段の反応器と該前段の反応器に接続された後段の反応器を備え、
前段の前記反応器内に、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のアンモニア製造用触媒が搭載され、前記反応器の一側に前記NOXの供給部及び前記還元剤の供給部が設けられ、前記反応器の他側に出口部が設けられるとともに、
後段の前記反応器内に、NH3-SCR触媒が搭載される脱硝装置。
【請求項17】
前記還元剤としてC3H6を用い、前記後段の反応器より下流側に設けたNOX濃度監視計によりモニタリングしている残NOX濃度と、前記後段の反応器より下流側に設けたNH3濃度監視計によりモニタリングしている残NH3濃度とC3H6濃度監視計によるモニタリングしていると残C3H6濃度を基に、NH3収率と還元剤C3H6転化率の相関データを用いて演算することにより、NOXから望ましいNH3を生成するのに必要な還元剤C3H6の量を調節する調節装置を備える請求項16に記載の脱硝装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア製造用触媒、アンモニア製造方法と製造装置及び脱硝方法と脱硝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア(NH3)を用いた窒素酸化物(NOx)の選択的触媒還元反応脱硝(以下、NH3-SCR脱硝)において、還元剤であるNH3の製造・輸送・貯蔵・注入をも含めた全体での省力化と低コスト化が求められている。
【0003】
NH3-SCR脱硝プロセスは、すでに様々な排ガス処理に適用されているが、いずれも、還元剤であるNH3の貯蔵・注入設備が必要であり、さらにはNH3を製造し脱硝設備サイトまで輸送する必要がある。
特に、NH3の製造プロセスは、高温・高圧を要し、さらには純度の高い原料であるN2とH2を必要とし、これらの高純度原料を製造するにも多大なエネルギーを要する。
【0004】
以下の非特許文献1には、NOxを酸化して硝酸塩として吸蔵し、燃料リッチ燃焼時に吸蔵されたNOxをHCやCOとの反応により還元浄化するメカニズムで、希薄燃焼時のNOxを浄化する方法が記載されている。また、従来の三元触媒にNOx吸蔵材としてアルカリ性の物質を加え、燃焼損失を1%以下に抑制する技術が記載されている。
【0005】
非特許文献2には、NH3-SCR脱硝プロセスに関し、高温過渡条件下でのNOx浄化率を良好とするためにH型モルデナイトゼオライト吸着材を用いる技術について記載されている。
【0006】
非特許文献3には、ペロブスカイト(La1-xSrxCoO3)をアルミナ担持体に支持した触媒にパラジウム等の元素を添加することでNOxの吸蔵や還元に効果を示す技術について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本の自動車技術330選 NOx吸蔵還元型三元触媒 トヨタ自動車株式会社製作、1994年8月刊行、webサイト https://www.jsae.or.jp/autotech/11-2.php
【非特許文献2】Sakai, M.; Hamaguchi, T.; Tanaka, T. Improving high-temperature NOx conversion in the combined NSR-SCR system with an SCR catalyst mixed with an NH3 adsorbent. Appl. Catal., A: General 2019, 582, 117105.
【非特許文献3】Onrubia-Calvo, J. A.; Pereda-Ayo, B.; De-La-Torre, U.; Gonzalez-Velasco, J. R. Strontium doping and impregnation onto alumina improve the NOx storage and reduction capacity of LaCoO3 perovskites. Catal. Today 2019, 333, 208-218.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、自動車排ガスの脱硝プロセスに対し、三元触媒やNOX吸蔵還元(NSR)触媒が商用利用されている。
ところが、従来の触媒はいずれも発電所やごみ処理施設、工場排ガスのように常に酸素が共存する状態での反応性に乏しく、NOXを一旦吸蔵・濃縮し、高濃度燃料燃焼時(Rich phase)の自動車排ガスに相当する酸素非共存下状態でN2まで無害化する必要がある。
また、NOXの選択的触媒還元反応脱硝(SCR)では、エタノールを還元剤に用いたAg/Al2O3触媒を中心としたプロセス(EtOH-SCR)が取り組まれているが、このプロセスでは、NH3が約30%弱副生する。同触媒では、副生NH3が還元剤として作用せず、脱硝用としてはNH3の後逸が問題である。
一方、このプロセスをNH3製造プロセスとして見ると、NH3の収率が低すぎる問題がある。
【0009】
本発明者は、上述の問題点を解決するために、NH3の外部調達を不要とするプロセス、さらには従来のハーバー・ボッシュ法以外のNH3製造プロセスの実現を目指して技術課題に取り組んだ。
本発明は、排ガス雰囲気(O2及び水蒸気共存下)で窒素酸化物からアンモニアを高収率で生成するアンモニア製造用触媒を提供するとともに、アンモニアを高収率で生成できる技術の提供を目的とする。
また、本発明は、長時間使用しても活性が低下しにくいアンモニア製造用触媒および該触媒を用いたアンモニア製造方法の提供と、窒素酸化物の脱硝方法と脱硝設備の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)本発明のアンモニア製造用触媒は、TiO2からなる担体に金属を担持した、酸素存在下でNOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造用触媒である。
(2)本発明のアンモニア製造用触媒において、前記担体に担持する金属がAgであることが好ましい。
(3)本発明のアンモニア製造用触媒において、前記担体へのAg担持量が、前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~5質量%であることが好ましい。
(4)本発明のアンモニア製造用触媒において、水蒸気非共存下で使用する場合においては、前記担体の結晶構造がアナターゼ型であることが好ましい。
(5)本発明に係る(1)~(3)のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒において、酸素及び水蒸気共存下で使用する場合においては、前記担体の結晶構造がルチル型である担体に金属を担持した、NOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造用触媒であることが好ましい。
(6)本発明のアンモニア製造用触媒において、前記還元剤が炭化水素であることが好ましい。
(7)本発明のアンモニア製造用触媒において、前記炭化水素がC3H6であることが好ましい。
【0011】
(8)本発明のアンモニア製造方法は、(1)~(7)のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒を用い、酸素及び水蒸気共存下でNOXを濃縮することなく1ポットでNOXと還元剤からNH3を製造することを特徴とする。
(9)本発明のアンモニア製造方法において、前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~1.5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃以上で使用することが好ましい。
(10)本発明のアンモニア製造方法において、前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の1.5~5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用することが好ましい。
(11)本発明のアンモニア製造装置は、(1)~(7)のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒を反応器の内部に備え、前記反応器の一側に前記NOXの供給部及び前記還元剤の供給部を備え、前記反応器の他側に出口部を備えたことを特徴とする。
【0012】
(12)本発明の脱硝方法は、(1)~(7)のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒を前段の反応器に搭載し、後段の反応器にNH3-SCR触媒を搭載し、前記アンモニア製造用触媒を搭載した前段の前記反応器で酸素及び水蒸気が共存する排ガス中NOXの47.4%以上を前記アンモニア製造用触媒と前記還元剤を用いてNH3に転換し、転換したNH3を還元剤として後段の前記反応器で残りのNOXを還元することで後段の前記反応器へNH3の外部注入を行うことなく後段の前記反応器で脱硝を行うことを特徴とする。
【0013】
(13)本発明の脱硝方法において、前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の0.7~1.5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃以上で使用することが好ましい。
(14)本発明の脱硝方法において、前記担体へのAg担持量を前記担体と前記Agの合計量全体の1.5~5質量%とし、前記アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用することが好ましい。
【0014】
(15)本発明に係る脱硝方法において、(12)~(14)の何れかに記載の前記還元剤としてC3H6を用い、前記後段の反応器より下流側に設けたNOX濃度監視計によりモニタリングしている残NOX濃度と、前記後段の反応器より下流側に設けたNH3濃度監視計によりモニタリングしている残NH3濃度とC3H6濃度監視計によるモニタリングしている残C3H6濃度を基に、NH3収率と還元剤C3H6転化率の相関データを用いて演算することで、NOXから望ましいNH3を生成するのに必要な還元剤C3H6の量を調節することが好ましい。
【0015】
(16)本発明の脱硝装置は、前段の反応器と該前段の反応器に接続された後段の反応器を備え、前段の前記反応器内に、(1)~(7)のいずれかに記載のアンモニア製造用触媒が搭載され、前記反応器の一側に前記NOXの供給部及び前記還元剤の供給部が設けられ、前記反応器の他側に出口部が設けられるとともに、後段の前記反応器内に、NH3-SCR触媒が搭載されることを特徴とする。
(17)(16)に記載の脱硝装置において、前記還元剤としてC3H6を用い、前記後段の反応器より下流側に設けたNOX濃度監視計によりモニタリングしている残NOX濃度と、前記後段の反応器より下流側に設けたNH3濃度監視計によりモニタリングしている残NH3濃度とC3H6濃度監視計によるモニタリングしている残C3H6濃度を基に、NH3収率と還元剤C3H6転化率の相関データを用いて演算することにより、NOXから望ましいNH3を生成するのに必要な還元剤C3H6の量を調節する調節装置あるいは制御装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、排ガス中のNOXから大気圧で高い収率でNH3を製造でき、且つエネルギー準位もN2よりNOが高いことから、従来の高温高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法よりも低エネルギーでNH3を製造できるアンモニア製造用触媒とアンモニア製造方法を提供できる。また、本発明によれば、高い収率でアンモニアを製造できるアンモニア製造用触媒とアンモニア製造方法を提供できる。
【0017】
本発明に係るアンモニア製造方法と脱硝方法によれば、酸素及び水蒸気が共存する排ガス中のNOXからNH3を生産できるため、従来のハーバー・ボッシュ法のように高純度のN2を得るための空気深冷分離装置や、H2を得るための天然ガス改質プロセスあるいは水電気分解装置が不要となる。
本発明に係る脱硝方法によれば、工場排ガスへの脱硝プロセスに供給する還元剤NH3の輸送や貯蔵・脱硝用注入設備及びそのインフラ設備が不要となり、脱硝コスト削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るアンモニア生成用触媒が搭載される反応器を備えた脱硝装置の全体構成を示す概略構成図。
【
図2】本発明に係るアンモニア生成用触媒が搭載される反応器を示す側面図。
【
図3】アンモニア生成用触媒が搭載される従来の反応器を備えた従来の脱硝装置の全体構成を示す概略構成図。
【
図4】本発明に係る触媒を用いてアンモニア製造を行う場合の反応経路を示すイメージ図。
【
図5】Agを担持させる担体をZrO
2、アナターゼ型TiO
2、ルチル型TiO
2の何れかとした場合の水蒸気共存/非共存におけるNH
3収率の温度依存性を比較して示す図。
【
図6】Agを担持させる担体をアナターゼ型TiO
2としたときの水蒸気非共存下におけるNH
3収率の経時変化を示す図。
【
図7】Agを担持させたルチル型TiO
2担体上での水蒸気分圧に対するNH
3収率への影響を示す図。
【
図8】Agを担持させたアナターゼ型TiO
2担体上での水蒸気分圧に対するNH
3収率への影響を示す図。
【
図9】Agを担持させたルチル型TiO
2担体上での空間速度(SV)に対するNH
3収率への影響を示す図。
【
図10】Agを担持させたアナターゼ型TiO
2担体上での空間速度(SV)に対するNH
3収率への影響を示す図。
【
図11】Agを担持させたルチル型TiO
2担体上での還元剤(C
3H
6)分圧減少の影響評価した図。
【
図12】Agを担持させたアナターゼ型TiO
2担体上での還元剤(C
3H
6)分圧減少の影響を評価した図。
【
図13】NH
3収率に対するルチル型TiO
2担体への触媒金属(Ag)担持量依存性を評価した図。
【
図14】C
3H
6転化率に対するルチル型TiO
2担体への触媒金属(Ag)担持量依存性を評価した図
【
図15】ルチル型TiO
2担体へAgを2質量%担持した触媒のNH
3収率によるC
3H
6転化率の変化を示す図。
【
図16】
図1に記載の排出部の煙突等に装備されている環境監視用の計測器にて残NO
X濃度に関し、NH
3吸着部の手前の配管上に装備されている環境監視用の計測器にて残NH
3濃度と残C
3H
6濃度をモニタリングすることで、望ましい量のNH
3を生成するのに必要な還元剤C
3H
6量を決定する場合について、概略の制御ロジックの一例を示す図。
【
図17】本発明に係るプロセスをNH
3生産ではなく、排ガス脱硝でのみ使用する場合、
図16に示す制御ロジックを実施するための装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、具体例を示しつつ、本実施形態に係るアンモニア製造用触媒とアンモニア製造方法およびアンモニア製造装置について詳細に説明する。また、アンモニア製造装置を利用した本実施形態に係る選択的触媒還元反応脱硝(以下、NH3-SCR脱硝)および選択的触媒還元反応脱硝装置について併せて説明する。
【0020】
図1は、本実施形態に係るNH
3-SCR脱硝装置の全体構成を示す概略構成図であり、NH
3-SCR脱硝装置1は、アンモニア製造のための反応器2を有する。この反応器2の上流側(前段側)に排ガス用の再加熱器3が接続され、再加熱器3の上流側に誘引通風式の通風機4が接続されている。
通風機4の上流側には工場などの排ガス発生源に接続されたバグフィルタ等からの排ガス供給源5が接続されている。排ガス供給源5から排出された窒素酸化物(NO
X)などを含む排ガスは、通風機4、再加熱器3を通過し、反応器2に供給される。
反応器2の下流側(後段側)には、NH
3-SCR触媒を収容した脱硝用反応器6とアンモニア吸着手段7が設けられている。アンモニア吸着手段7は、例えば、脱硝反応器6からのリークアンモニアを活性炭等で吸着させる設備であってよい。
本実施形態の構成では、排ガス供給源5からの排ガスを反応器2で処理した後、脱硝用反応器6に送るので、排ガス供給源5が最上流側の機器、脱硝用反応器6が下流側の機器となる。なお、脱硝用反応器6の下流側にアンモニア吸着手段7と排出部(煙突)7Aが設けられ、脱硝用反応器6とアンモニア吸着手段7の間の配管にNH
3濃度監視計6Aが接続されている。排出部7Aには環境監視用のNO
X濃度監視計7Bが接続され、排出部7Aから排出される排ガス中のNO
X濃度を監視することができる。
なお、NO
X濃度監視計7Bに関し、アンモニア吸着手段7を略する場合であっても排出部7Aに接続できるが、アンモニア吸着手段7を設けた場合、アンモニア吸着手段7の上流側の配管に接続させて設けることもできる。
【0021】
再加熱器3の内部には熱交換用の蛇行管3aが設けられている。蛇行管3aの入口側は再加熱器3の外部に引き出され、再加熱器3の外部に設けられた高圧蒸気供給源8に接続されている。高圧蒸気供給源8は所望の温度に加熱された高圧蒸気を蛇行管3aに供給することができる。蛇行管3aの出口側には排気管3bが設けられ、蛇行管3aを通過した高圧蒸気を排気管3bから大気中に放出できる。
通風機4から再加熱器3に供給された排ガスは、再加熱器3の内部を通過する間に蛇行管3aにより所望の温度に温度調節され、温度調節後、再加熱器3から反応器2に供給される。
【0022】
図2に反応器2の詳細構造を示す。反応器2は、縦型円筒状の胴部2Aの底部側にドーム型の導入部2Bが、天井側にドーム型の導出部2Cが形成され、導入部2Bに導入管10が接続され、導出部2Cに導出管11が接続されている。反応器2において、導入部2Bに導入管10が接続された部分は、排ガスの供給部2Eであり、導出部2Cに導出管11が接続された部分は、ガスの出口部2Fである。
導入管10は再加熱器3の出口側に接続され、導出管11はNH
3-SCR脱硝器6の入口側に接続されている。
【0023】
導入管10において反応器2に近い部分に供給管12が接続されている。この供給管12は還元剤の供給源13に接続されている。ここで用いる還元剤は、炭化水素ガスを用いることができ、一例として、プロピレンガス(C3H6ガス)を用いることができる。供給管12の先端部が導入管10に接続された部分は反応器2に対する還元剤の供給部(供給ノズル)12aとして機能する。
【0024】
反応器2の胴部2Aにおいて、導入部2Bに近い位置に仕切り部材としてのグレーチング15が設けられ、このグレーチング15の上にセラミックボールを敷き詰めた保持層16が形成され、保持層16の上に粒状の触媒を充填した触媒層17が設けられている。グレーチング15と保持層16により棚床が形成され、触媒層17は棚床に支持されている。触媒層17は、胴部2Aの上端部近くまで設けられ、触媒層17の上端部にセラミックボールを敷き詰めた仕切層18が設けられている。尚、触媒層17は前記触媒を塗布等で金属製あるいはセラミック製ハニカム等に固定した構造体、あるいは、前記触媒をハニカム等の形状に成型した構造体でも良い。その場合は、保持層16と仕切層18は省略してもよい。
【0025】
反応器2において、導入管10から胴部2Aに導入された排ガスはセラミックボール間の隙間を通過して触媒層17に至り、触媒層17における触媒粒子間の隙間を通過する。触媒層17の触媒粒子間の隙間を通過したガスはセラミックボールの隙間を通過して導出管11に至る。導出管11に至ったガスはNH3-SCR脱硝器6に供給される。
NH3-SCR脱硝器6には、活性炭など、NH3-SCR脱硝に好適な触媒が収容されている。
【0026】
反応器2において胴部2Aの一部に胴部2の側壁を貫通する第1連通管19が設けられ、この第1連通管19を介し触媒層17の温度を計測するための温度計測手段20が接続されている。
反応器2の底部側に導入部2Bの周壁を貫通する第2連通管21が設けられ、導出部2Cの上部側に導出部2Cの周壁を貫通する第3連通管22が設けられている。
第2連通管21を介し圧力検出器23の圧力検知センサが導入部2B内に設置されている。第3連通管22を介し圧力検出器25の圧力検知センサが導出部2C内に設置されている。
【0027】
圧力検出器23は、反応器2の底部側の圧力を検出する検出器であり、圧力検出器25は、反応器2の天井側の圧力を検出する検出器である。反応器2の底部側の圧力測定結果は触媒層17に対する上流側の圧力測定結果に相当し、反応器2の天井側の圧力は触媒層17に対する下流側の圧力測定結果に相当する。
圧力検出器23、25は、パーソナルコンピュータ、プログラマブルコントローラなどの制御機器26に接続され、圧力検出器23、25が測定した触媒層17の上流側の圧力と下流側の圧力の計測と記録、およびそれら圧力の差圧などの計算結果を記録し、把握できるように構成されている。
【0028】
反応器2に適用する触媒17は、第1の例として、ルチル型酸化チタン(TiO2)からなる担体粒子の表面にAgなどの金属粒子を担持させた触媒粒子を適用できる。触媒17は、第2の例として、アナターゼ型酸化チタン(TiO2)からなる担体粒子の表面にAgなどの金属粒子を担持させた触媒粒子を適用できる。触媒17は、第3の例として、酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる担体粒子の表面にAgなどの金属粒子を担持させた触媒粒子を適用できる。あるいは、これら第1~第3の例の触媒粒子の何れかの粒子の混合粒子を用いることができる。
上述の担体粒子にAgを担持させた触媒粒子を製造する場合、それぞれの担体粒子を硝酸銀水溶液に溶かし、所定量のAg担持量とする。Ag担持量は硝酸銀水溶液の濃度調整により調整することができる。
【0029】
上述の触媒17において、ルチル型酸化チタンあるいはアナターゼ型酸化チタンを担体とし、それら担体の表面にAgの粒子を担持する構成にできる。この場合、Agの好ましい担持量は、担持させるAgの質量と担体の質量を合計した全体の質量に対し、Agの担持量を0.7~5質量%の範囲で選択できる。
Agの担持量範囲として、触媒17を400℃未満の温度範囲で使用する場合、1.5~5質量%とすることが好ましい。
Agの担持量範囲として、触媒17を400℃以上の温度範囲で使用する場合、0.7~1.5質量%とすることが好ましい。
上述の担持量とした担体粒子を蒸発乾固で回収し、大気中で500℃程度に数時間焼成し、目的の触媒粒子を得ることができる。
触媒17の粒径は、一例として、0.3~0.6mm程度に調整できる。
【0030】
なお、本願明細書において、成分含有量の範囲や粒径範囲など、特定の範囲を表記する場合、「~」を用いて上限と下限を規定した場合、特に指定しない限り、上限値と下限値をその範囲に含む意味とする。よって、前述の0.7~5質量%は0.7質量%以上、5質量%以下の範囲を意味し、1.5~5質量%は1.5質量%以上、5質量%以下の範囲を意味する。
【0031】
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1において、反応器2はアンモニア製造装置に相当し、NH
3-SCR脱硝装置1は反応器2とNH
3-SCR脱硝機6を主体として構成されている。
排ガス供給源5からの排ガスを通風機4により再加熱器3aに供給し、蛇行管3aに供給した高圧蒸気により排ガスの温度を調整し、温度調整後の排ガスを導入管10を介し反応器2に供給する。導入管10を介し排ガスを反応器2に供給する場合、供給管12の供給部12aを介し排ガスに還元剤として炭化水素ガスを混合する。炭化水素ガスは、例えば、プロピレンガス(C
3H
6)を適用できる。
【0032】
ここで適用する排ガスには、例えば、NO、O2、CO、CO2、H2O、N2、SO2などが含まれる。
排ガスは反応器2の内部に収容されている触媒17に所定の温度雰囲気にて接触し、以下の反応式に示されるように反応してアンモニア(NH3)が生成される。
NO+C3H6+13/4O2→NH3+3CO2+3/2H2O
【0033】
排ガスが触媒17に触れてNH3に転換される反応機構想定として、以下の(1)~(5)に記載する式を考慮することができ、その内(1)~(5)に示す各式を合計すると上述の反応式を導出できる。
(1)NO+1/2O2→NO2
(2)H2O→H+OH
(3)NO2+OH→HNO3
(4)Ag+HNO3→AgNO3+1/2H2
(5)AgNO3+C3H6+9/4O2→Ag+NH3+3CO2+3/2H2O
排ガスの組成の一例として、NO:980~1020ppm、O2:9.44~10.21%、H2O:0%または5.0%、N2:バランスなどの組成の排ガスを例示できる。
【0034】
反応器2の触媒17を通過したガス中に高い収率でアンモニア(NH3)を製造できる。後述する実施例において示すように、例えば、400℃近傍の温度範囲で担体に対するAg担持量を1~1.5質量%とすると、排ガスからの47.4%以上の高い収率でアンモニアを製造できる。
【0035】
上述の反応式に示した通り、担体表面のAgによりNOがNO2に酸化される。
また、アナターゼ型TiO2からなる担体表面の-OH基はNO2との反応性に富み、硝酸根を経由してNH3が生成する。また、表面-OH基の反応性が小さいルチル型TiO2からなる担体の場合は、共存水蒸気から担体表面にOHとHが生成し、共存水蒸気から生成するOHとNO2から硝酸根を経由してNH3が生成する。
従って、上述の結果によれば、酸素及び水蒸気共存下でNOXを濃縮することなく1ポットでアンモニア製造のための反応を進行させることができる。
従って、NOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造方法を提供することができる。
【0036】
上述の触媒を用いたアンモニアの製造方法では、排ガス中NO
Xから大気圧でNH
3を製造でき、且つ、エネルギー準位もN
2よりNOが高いことから、従来の高温高圧を必要とするハーバー・ボッシュ法よりも低エネルギーでNH
3を製造できる特徴を有する。この反応経路イメージについて
図4に基づき、以下に説明する。
【0037】
図4に示すように、N
2における元素NとNの結合エネルギーは、941.6kJ/molである。NH
3における元素NとHの結合エネルギーは、444.1kJ/molである。ハーバー・ボッシュ法では、高温高圧環境において、
図4の左側の上向きの矢印に示すように、N
2からNH
3に至るように反応させる必要がある。
これに対し、NOにおける元素NとOの結合エネルギーは、626.8kJ/molである。本実施形態のアンモニア製造方法では、NOからNH
3に転換する上述の反応式として表示できるので、ハーバー・ボッシュ法よりも低エネルギーでNH
3を製造できると理解できる。
【0038】
上述のアンモニア製造方法では、酸素及び水蒸気が共存する排ガス中NOXからNH3を製造できるため、従来のハーバー・ボッシュ法のように高純度のN2を得るための空気深冷分離装置や、H2を得るための天然ガス改質プロセスあるいは水電気分解装置が不要となる。
また、工場排ガスへの脱硝プロセスに供給する還元剤NH3の輸送や貯蔵・脱硝用注入設備及びそのインフラ設備が不要となり、脱硝コスト削減に寄与する。
【0039】
本実施形態のNH3-SCR脱硝装置1では、反応器2で製造したNH3を導出管11を介し脱硝用反応器6に送ることができる。
NH3-SCR触媒を収容した脱硝用反応器6では、供給された還元剤であるNH3のもと、NH3-SCR触媒が脱硝処理を行う。NH3-SCR触媒は一例として活性炭を用いることができ、以下の式で表示できる反応により除去される。
NO+NH3+1/2O2→N2+3/2H2O
【0040】
図3は、従来のハーバー・ボッシュ法に基づき、選択的触媒還元反応脱硝装置(NH
3-SCR脱硝装置)を構成した場合の概略構成図を示す。
従来のNH
3-SCR脱硝装置30は、NH
3-SCR触媒を収容した脱硝用反応器31の前段側に、排ガス供給源32と通風機33と再加熱器34と高圧蒸気供給源35を有する。排ガス供給源32は先に説明した排ガス供給源5と同等の構成であり、通風機33は先に説明した通風機4と同等の構成を採用できる。再加熱器34は先に説明した再加熱器と同等の構成であり、高圧蒸気供給源35は先に説明した高圧蒸気供給源8と同等の構成を採用できる。
【0041】
従来のNH
3-SCR脱硝装置30では、これらの構成に加え、還元剤NH
3の輸送や貯蔵・脱硝用注入設備及びそのインフラ設備が必要となる。
図3に示すように、空気供給手段40を備えた深冷分離装置41からの窒素と、天然ガス供給源42、水供給源43を備えた水蒸気改質装置45からの水素によりハーバー・ボッシュ法を実施する反応器46が必要となる。この反応器46で製造したアンモニア47を貯留する貯留タンク48とアンモニアを搬送するためのタンクローリー車49とタンクローリー車49で搬送されるアンモニアの中継貯留所50と希釈槽51が必要となる。更に、希釈槽51から脱硝用反応器31を設置した現場まで希釈アンモニアを搬送するためのタンクローリー車52と、現場近くに設置した案水タンク53と安水気化器54が必要となる。現場の安水タンク53から安水と圧縮空気を安水気化器54に送ることにより、脱硝用反応器31に対しアンモニアの供給が可能となる。
【0042】
以上説明のように、従来のNH
3-SCR脱硝装置30では、脱硝用反応器31にNH
3を供給するために、様々なNH
3の輸送機器や貯蔵機器、脱硝用注入設備及びそのインフラ設備が必要であった。これに対し、従来のNH
3-SCR脱硝装置30で必要であった複数の設備や機器は、
図1に示す実施形態のNH
3-SCR脱硝装置1では、不要になり、脱硝コストの大幅な削減に寄与する。
また、上述の触媒は、繰り返し使用しても活性が低下しないので、NH
3-SCR脱硝装置1は、頻繁に触媒を交換しなくとも安定した状態で運転することができる。また、反応器2はNO
Xから低コストかつ高収率でNH
3を生産できる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0044】
「触媒担体」
TiO2(JRC-TIO-16and-17)とZrO2(JRC-ZRO-6)を準備した。ルチル型TiO2であるJRC-TIO-16は、堺化学工業株式会社製のものを用い、比表面積は109m2/g、Ag担持後の焼成により30-50m2/gとなる。JRC-TIO-17は、Degussa社(独)製のP-25を用いた。P-25は、Evonik Japan株式会社が70%アナターゼ型担体+20%ルチル型担体+10%アモルファス型担体に調製したもの(以降、P-25をアナターゼ型TiO2と称すこともある)である。JRC-TIO-17の比表面積はAg担持前後によらず50m2/gである。
JRC-ZRO-6は第一稀元素化学工業株式会社が加水分解法で調製したアモルファス水和ZrO2であり、比表面積279g/m2である。Ag担持焼成後は四面体結晶相に変わり、比表面積は94g/m2となる。
【0045】
「触媒調製(金属担持)」
・Agの担持法
Agを担持する場合、それぞれの担体をAgNO3水溶液に溶解し、所定のAg担持量(例えば、全体の5質量%)に調整した。水溶液から蒸発乾固で回収した固形物を大気中で500℃にて4時間焼成し、焼成後の粒子を機械的に破砕し粒子径0.3~0.6mmに調製した。
【0046】
「触媒の解析」
触媒の結晶構造やAg粒子径はX線回折(D2_Phaser, Brucker, USA)とCu Kα放射線とNiフィルターを使って解析した。
「触媒反応評価」
石英管反応器(外径14mm、管厚1mm、長さ700mm)を使って触媒活性を評価した。触媒は反応器の中心部に搭載した。触媒体積は空間速度(SV)を測定するのに使用し、通常は0.6mL(SV=10000h-1)搭載(重量は約0.3~0.5g)した。反応温度は、さや管付きシーズ管で触媒充填層の中心を測定した。反応評価は全て大気圧で実施した。
【0047】
NO、C3H6、O2、H2O、N2の混合ガスを反応器の頂部から100mL/min(SV=10000h-1のとき)供給し、反応後のガスを反応器底部からFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)システム内の2.4mからなるガスセルに導入し、構成物質がNH3とC3H6として測定した。
【0048】
評価に用いた混合ガスの組成と流量条件等は以下の通りである。NO:980~1020ppm、C3H6:0.50~0.52%、O2:9.44~10.21%、H2O:0%または5.0%、N2:バランス、全流量:100.0~102.5mL/min、触媒量:0.6mL(SV:10000~10300h-1)。
【0049】
所定の温度に設定した状態で30分間の平均NH3生成速度と平均C3H6消費速度を触媒活性評価に使用した。NH3収率(YNH3)とC3H6消費速度(XC3H6)は、NOとC3H6の濃度や量を使って以下の(1)式と(2)式で計算した。
なお、SV=Space Velocity(空間速度)を示し、
SV[h-1]=供給ガス流量[mL/h]/触媒量[mL]で計算される。
【0050】
【0051】
【0052】
図5に、Agを担持したアンモニア製造用触媒において、担体をZrO
2、アナターゼ型TiO
2(P-25)、ルチル型TiO
2の何れかとした場合の水蒸気共存/非共存におけるNH
3収率の温度依存性を比較して示す。
図5に示すように、200℃~380℃の広い温度範囲において、いずれの試料においてもアンモニア製造のための反応が進行し、アンモニアを製造できた。
図5に示す結果から、いずれの試料においても特定の温度域にNH
3収率のピークが存在し、ピーク温度範囲から低温側あるいは高温側に温度が変化するとNH
3収率が徐々に低下することが分かった。
【0053】
また、アナターゼ型TiO2(P-25)、ルチル型TiO2の担体にAgを担持した触媒を用いた場合、収率の高いものでは30%程度の収率でアンモニアを製造できることが分かった。なお、今回の試験結果のように、上述の触媒を用いてアンモニアの生成反応が進むこと自体、新しい知見であり、この知見により高い収率でアンモニアを製造可能な技術の提供ができることが分かる。
従って、上述の結果によれば、酸素共存下で水蒸気有無に関わらずNOXを濃縮することなく1ポットでアンモニア製造のための反応を進行させることができた。従って、NOXと還元剤からNH3を製造するアンモニア製造方法を提供できることが分かる。
【0054】
図6に、Agを担持したアンモニア製造用触媒において、担体をアナターゼ型TiO
2としたときの水蒸気非共存下におけるNH
3収率の経時変化を示す。
図6に示す結果から、
図5に示す結果と対比し、アナターゼ型TiO
2の担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒は、水蒸気が共存していない場合、経時劣化する傾向を有することが分かった。
【0055】
図7に、ルチル型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、反応温度と水蒸気分圧に対するNH
3収率への影響を示す。
図7に示す結果から、水蒸気分圧0%の条件でNH
3収率は低いが、水蒸気分圧2.5%~15%の条件において、NH
3収率が各段に向上することが分かる。特に、水蒸気分圧10%~15%の条件において、温度条件を選定すると30%を超えるNH
3収率が得られた。
水蒸気分圧0%の条件は、排ガスとしてドライガスを用いた場合に相当する。
なお、今回の試験結果のように、上述の触媒を用いてアンモニアの生成反応が進むこと自体、新しい知見である。このため、収率が低いドライガスを用いた場合であっても、上述の触媒を用いてアンモニアの生成反応が進むこと自体、技術的意義を有する。
【0056】
図8に、アナターゼ型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、反応温度と水蒸気分圧に対するNH
3収率への影響を示す。
図8に示す結果から、水蒸気分圧0%~10%の条件において、反応温度を選択すると高いNH
3収率を得られることが分かる。
ただし、水蒸気分圧0%の条件において、アナターゼ型TiO
2担体を用いたアンモニア製造用触媒は、先の
図6に示すように経時劣化を示すため、水蒸気が共存し長時間連続運転する工業用途には不利であると考えられる。
【0057】
図9に、ルチル型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、空間速度(SV)に対するNH
3収率への影響を示す。
図9に示す結果から、いずれの試料においても280~370℃の温度域にNH
3収率のピークが存在し、ピーク温度範囲から低温側あるいは高温側に温度が変化するとNH
3収率が徐々に低下することが分かった。また、これらの割合は試験した範囲のいずれの空間速度においても同様な傾向を示した。
【0058】
図10に、アナターゼ型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、空間速度(SV)に対するNH
3収率への影響を示す。
図10に示す結果から、いずれの試料においても320~350℃の温度域にNH
3収率のピークが存在し、ピーク温度範囲から低温側あるいは高温側に温度が変化するとNH
3収率が低下することが分かった。また、これらの割合は試験した範囲のいずれの空間速度においても同様な傾向を示した。
【0059】
図11に、ルチル型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、還元剤(C
3H
6)の分圧減少の影響を示す。
図11に示す結果から、いずれの試料においても330~360℃の温度域にNH
3収率のピークが存在し、ピーク温度範囲から低温側あるいは高温側に温度が変化するとNH
3収率が低下することが分かった。
図11に示す結果は還元剤の分圧が0.28%~0.51%に変化しても、どの反応温度においてもNH
3収率は殆ど変化しないことを示している。
【0060】
図12に、アナターゼ型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、還元剤(C
3H
6)の分圧減少の影響を示す。
図12に示す結果から、いずれの試料においても320~340℃の温度域にNH
3収率のピークが存在し、ピーク温度範囲から低温側あるいは高温側に温度が変化するとNH
3収率が低下することが分かった。
図12に示す結果では、還元剤の分圧が0.51%から0.28%に減少すると、どの反応温度においてもNH
3収率が大きく低下することが分かった。
【0061】
図13に、ルチル型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、NH
3収率に対する触媒金属(Ag)担持量の依存性と温度依存性を評価した結果を示す。
図13に示す結果では、担体に対するAg担持量と反応温度に応じNH
3収率が変化することが分かった。
尚、
図13に示す“1st”、“2nd”、“3rd”、“4th”は前記
図5に示す結果を求めるために実施した前述の温度依存性評価試験(「触媒反応評価」)を同一の触媒に対し繰り返し実施した回数を示しており、試験に使用された担体が350~500℃近傍の高温にさらされた回数でもある。
【0062】
例えば、
図13に記載の「1.5wt%Ag_1st」のデータは、反応温度310℃で前記「触媒反応評価」に記載の方法で評価試験をした後、340℃→360℃→370℃→380℃→390℃→400℃→410℃→430℃→460℃のように反応温度を変えて同様に評価試験をして得られた温度依存性結果である。
その後、触媒を変えずに270℃で前記「触媒反応評価」に記載の方法で評価試験をした後、280℃→290℃→300℃→310℃→320℃→330℃→340℃→350℃→360℃→370℃→380℃→390℃→400℃→410℃→420℃→430℃→440℃→450℃→460℃のように反応温度を変えて同様に評価試験をして得られた温度依存性結果が
図13に示す「1.5wt%Ag 2nd」で示すデータである。
【0063】
ルチル型TiO2担体へのAg担持量を担体とAgの合計量全体の0.7~1.5質量%とした場合、アンモニア製造用触媒を400℃以上の温度で使用する方がNH3収率が高いことが分かった。従って、ルチル型TiO2担体へのAg担持量を0.7~1.5質量%とした場合、アンモニア製造用触媒を400℃以上の温度で使用することが好ましい。Ag担持量により望ましい触媒温度は異なるが、概ね、400~500℃の範囲を選択できる。
ルチル型TiO2担体へのAg担持量を0.7~1.0質量%とした場合、触媒温度の調整により47.4%を超える優れたNH3収率を得られることが分かる。
【0064】
また、ルチル型TiO2担体へのAg担持量を担体とAgの合計量全体の1.5~5質量%とした場合、アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用する方がNH3収率が高いことが分かった。従って、ルチル型TiO2担体へのAg担持量を1.5~5質量%とした場合、アンモニア製造用触媒を400℃未満の温度で使用することが好ましい。
【0065】
図14に、ルチル型TiO
2担体にAgを担持したアンモニア製造用触媒において、C
3H
6転化率に対する触媒金属(Ag)担持量の依存性を評価した結果を示す。
図14に示す結果では、担体に対するAg担持量と反応温度に応じC
3H
6転化率が変化することが分かった。C
3H
6転化率が高いことで反応性が向上していることを把握できる。
【0066】
図15に、ルチル型TiO
2担体へAgを2質量%担持した触媒のNH
3収率によるC
3H
6転化率の変化を示す。
NH
3収率とC
3H
6転化率との間で非常に強い相関を示した。
【0067】
「酸素共存下NH
3転換プロセス適用時のマテリアルバランス検討」
図1に示す本実施形態のNH
3-SCR脱硝装置1では、排ガスが触媒17に触れてNH
3に転換される反応機構想定として、以下の(1)~(5)に記載する式を考慮することができ、(1)~(5)に示す各式を合計すると下記の反応式を導出できると説明した。
(1)NO+1/2O
2→NO
2
(2)H
2O→H+OH
(3)NO
2+OH→HNO
3
(4)Ag+HNO
3→AgNO
3+1/2H
2
(5)AgNO
3+C
3H
6+9/4O
2→Ag+NH
3+3CO
2+3/2H
2O
反応式:NO+C
3H
6+13/4O
2→NH
3+3CO
2+3/2H
2O
【0068】
そこで、この関係に基づき、酸素共存下NH
3転換プロセス適用時のマテリアルバランスについて以下に検討する。
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1において、排ガス供給手段5から170℃の排ガスが供給され、再加熱器3で350.1℃に再加熱して反応器2に導入管10から導入し、40℃のC
3H
6を還元剤として供給管12を介し導入管10から反応器2に供給する。
触媒層17の温度を350℃に想定し、脱硝用反応器6で脱硝後にガスの温度が349.8℃になると想定する。
【0069】
この場合、NO、C3H6、O2、CO、CO2、H2O、N2、NH3、SO2、HCl、Arについて、再生加熱前量と、再加熱後量と、還元剤量と、NH3転換後量と、注入NH3量と、NH3-SCR脱硝後量について、以下の表1に記載する。
上述の場合、NH3収率47.48%、脱硝率90.4%、C3H6転化率93.6%、NH3リーク5ppm未満と見積もることができる。
【0070】
【0071】
以上の関係を把握した上でNH
3-SCR脱硝装置1において以下の制御を実施することができる。
図15に示したような上述のNH
3収率と還元剤C
3H
6転化率の相関データを用い、
図1の排出部7Aに装備されている環境監視用のNO
X濃度監視計7Bにてモニタリングしている残NO
X濃度を基に、排ガス中に含まれているNO
Xの量から望ましいNH
3を生成するのに必要な還元剤C
3H
6の量を決定し、適切な還元剤C
3H
6の量に調節することができる。
【0072】
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1において、アンモニア吸着手段7を略する場合がある。この場合は、
図1の排出部7Aの煙突等に接続した環境監視用のNO
X濃度監視計7Bにてモニタリングしている残NH
3濃度を基に、排ガス中に含まれているNO
X量を求める。そして、前述の相関データを用い、前述のNO
X量から望ましいNH
3を生成するのに必要な還元剤C
3H
6の量を決定し、適切な還元剤C
3H
6の量に調節することができる。
【0073】
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1において、アンモニア吸着手段7を設ける場合に、その手前の配管に接続した環境監視用のNO
X濃度監視計7Bを設ける場合もある。この場合は、モニタリングしている残NH
3濃度を基に、排ガス中に含まれているNO
X量を求め、前述の相関データを用い、前述のNO
X量から望ましいNH
3を生成するのに必要な還元剤C
3H
6の量を決定し、適切な還元剤C
3H
6の量に調節することができる。
【0074】
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1であれば、排出部7Aに装備されている環境監視用のNO
X濃度監視計7Bにて残NO
X濃度を、あるいは、アンモニア吸着手段7の手前の配管上に装備されているNH
3濃度監視計6Aにて残NH
3濃度をモニタリング可能である。また、C
3H
6濃度監視計6Bにて残C
3H
6濃度をモニタリング可能である。
【0075】
図17は、
図1に示すNH
3-SCR脱硝装置1の変形例を示し、この例のNH
3-SCR脱硝装置60は、NH
3-SCR脱硝装置1に設けられていたアンモニア吸着手段7が略され、NH
3濃度監視計6AとC
3H
6濃度監視計6Bが排出部7Aに接続された構造である。
図17のようにアンモニア吸着手段7がない場合は、NO
X濃度とNH
3濃度のいずれの濃度も排出部7に装備されているにNH
3濃度監視計6AとC
3H
6濃度監視計6BとNO
X濃度監視計7Bにてモニタリング可能である。
【0076】
図17のNH
3-SCR脱硝装置60には、還元剤の供給源13に流量調整弁61が組み込まれ、この流量調整弁61を制御可能な演算装置(調節装置)62が設けられている。演算装置62における演算結果に応じ、流量調整弁61の開度調整により供給源13から前段側の反応器2に送る還元剤量を調整することができる。
また、NO
X濃度監視計7BとNH
3濃度監視計6A及びC
3H
6濃度監視計6Bによる残NO
X濃度観測結果と残NH
3濃度観測結果及びC
3H
6濃度観測結果は、いずれも演算装置62に入力されるようになっている。演算装置62では、前述の残NO
X濃度観測結果と残NH
3濃度観測結果に基づき、後述する演算結果に従い、流量調整弁61の調整により供給源13から還元剤の供給量を調節する。演算装置62は情報の記憶が可能で情報の記憶内容に応じた計算や判断が可能な機能を具備するパーソナルコンピュータ、プログラマブルコントローラなどを適用可能である。
尚、流量調整弁61は、電気にて動作する弁でも、空気圧にて動作する弁でも構わない。
【0077】
例えば、アンモニア製造用触媒の種別、反応温度等によるNO
Xの量から、実施例においてルチル型TiO
2担体に2質量%Agを担持した触媒を一例として示した
図15の関係を演算装置62に記憶させておき、この情報を基に、
図16に示した制御ロジックに含まれる演算により、望ましいNH
3を生成するのに必要な還元剤C
3H
6の量を決定し、上述の流量調整弁61を操作して還元剤の供給量を調整できる。
尚、流量調整弁61は、電気にて動作する弁でも、空気圧にて動作する弁でも構わない。
【0078】
なお、2質量%以外のAgを担持したルチル型TiO
2担体を用いた場合、
図15に示す関係と同様の関係を2質量%以外のAgを担持したルチル型TiO
2担体に対し求めておき、演算装置62に記憶させておけば良い。あるいは、2質量%以外のAgを担持したルチル型TiO
2担体と2質量%のAgを担持したルチル型TiO
2担体を混合して用いた場合は、混合比に応じた試験用の担体を用いて予め
図15に示す関係と同様の関係を求めて演算装置62に記憶させ、この情報を用いると良い。
このため、
図17に示すNH
3-SCR脱硝装置60において、排ガス中に含まれるNO
Xの量を把握し、反応器2に供給する還元剤C
3H
6の量を決定し、調整することで、望ましい収率でNH
3を製造することができる。
【0079】
図16は、
図17に示すNH
3-SCR脱硝装置60を用い、還元剤(C
3H
6)の供給量を制御しつつ好ましい量のNH
3を製造する場合の概略制御ロジックの一例を示すフローチャートである。
NO
X濃度監視計7Bから残NO
X濃度観測結果が演算装置62に送られ(第1ステップST1)、NH
3濃度監視計6Aから残NH
3濃度観測結果が演算装置62に送られる(第2ステップST2)。
演算装置62では、反応器6における脱硝率がp×100%のとき、反応器6の脱硝で消費するNH
3量={p/1-p}×排出部残NO
X量の関係が記憶されているので、第1ステップST1で求められた結果と第2ステップST2で求められた結果に基づき反応器2で生成するべきNH
3量を計算できる(第3ステップST3)。
【0080】
第3ステップST3で算出された計算値を第4ステップST4において反応器2で生成するべきNH
3量として認識し、第5ステップST5において反応器2で生成するべきNH
3量/発生NO
x量の関係から、第6ステップST6においてNH
3収率がわかるので、第7ステップST7において
図15に示す相関式を用いてC
3H
6転化率を第8ステップST8において計算できる。
【0081】
また、演算装置62では、C
3H
6濃度監視計6Bから残C
3H
6濃度観測結果が演算装置62に送られ(第9ステップST9)、第8ステップST8で計算したC
3H
6転化率とともに、残C
3H
6濃度/(1-C
3H
6転化率/100)=C
3H
6供給量の関係が記憶されているので、この関係式を用いて必要なC
3H
6添加量を第10ステップST10において決定し、第11ステップST11に示すように認識できる。
例えば、
図15は、先に説明した通り、ルチル型TiO
2担体へAgを2質量%担持した触媒のNH
3収率によるC
3H
6分圧の変化を示す。このため、
図15に示す関係から求められた、y=1.9744X-5.7557の関係を基に、NH
3収率からC
3H
6添加量を決定できる。
なお、発生NO
X量は逐次変化するので、発生NO
X量を経時的に第12ステップST12に示すようにモニターし、第5ステップST5の計算に繰り返し利用し、第6ステップST6以降の計算に逐次利用し、安定な制御を実施できる。