(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058316
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 69/00 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
D05B69/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168264
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】氏家 宗久
(72)【発明者】
【氏名】中西 公紀
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修平
(72)【発明者】
【氏名】彭 ▲供▼政
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA01
3B150CB03
3B150CC04
3B150CE01
3B150JA11
3B150JA19
3B150JA37
3B150QA06
(57)【要約】
【課題】縫い針と釜の位相調節を容易に行う。
【解決手段】縫い針の上下動の駆動源となるミシンモータ151と、ミシンモータから回転動作が入力される主動輪21と、釜に回転動作を入力する従動輪22と、主動輪から従動輪に回転動作を伝達するタイミングベルト23と、タイミングベルトに当接する当接輪24,25と、当接輪を移動させるアクチュエータ27と、アクチュエータを制御して当接輪を移動させることにより主動輪と従動輪との位相を調節する制御装置90とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い針の上下動の駆動源となるミシンモータと、
前記ミシンモータから回転動作が入力される主動輪と、
釜に回転動作を入力する従動輪と、
前記主動輪から前記従動輪に回転動作を伝達するタイミングベルトと、
前記タイミングベルトに当接する当接輪と、
前記当接輪を移動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御して前記当接輪を移動させることにより前記主動輪と前記従動輪との位相を調節する制御装置とを備えることを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記当接輪は、前記主動輪から前記従動輪に渡る前記タイミングベルトの上流区間に当接する第一当接輪と、前記従動輪から前記主動輪に渡る前記タイミングベルトの下流区間に当接する第二当接輪とを含み、
前記アクチュエータから前記第一当接輪及び前記第二当接輪に移動動作を伝達する伝達機構を備えることを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記伝達機構は、前記タイミングベルトの上流区間のベルト長と前記タイミングベルトの下流区間のベルト長の一方が増加するときに他方が減少し、一方が減少するときに他方が増加するように前記第一当接輪及び前記第二当接輪に対して移動動作を伝達することを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記第一当接輪の移動経路を規定する第一カム部と前記第二当接輪の移動経路を規定する第二カム部とを備え、
前記第一カム部による移動経路と前記第二カム部による移動経路とは、方向又は形状が異なることを特徴とする請求項3に記載のミシン。
【請求項5】
前記第一当接輪の移動経路を規定する第一カム部と前記第二当接輪の移動経路を規定する第二カム部とを備え、
前記第一カム部が前記第一当接輪に付与する移動経路と前記第二カム部が前記第二当接輪に付与する移動経路の少なくとも一方は、基準位置から二方向に分岐する移動経路であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載のミシン。
【請求項6】
前記伝達機構により、前記第一カム部の移動経路に沿った前記第一当接輪の移動と前記第二カム部の移動経路に沿った前記第二当接輪の移動とが連動し、
前記第一当接輪と前記第二当接輪とが、連動して各々の前記移動経路のいずれに位置する場合でも、前記タイミングベルトの上流区間に生じる増加量又は減少量の絶対値と前記タイミングベルトの下流区間に生じる減少量又は増加量の絶対値とが一致するように、前記第一カム部による移動経路の方向又は形状と前記第二カム部による移動経路の方向又は形状とが構成されていることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のミシン。
【請求項7】
前記従動輪から糸切りの動力を得る糸切り装置を備え、
前記制御装置は、
前記従動輪側の基準位相を定めており、
前記糸切り装置による糸切りの実行時に、前記アクチュエータに対して、前記基準位相とする制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釜の位相調節を行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のミシンは、ミシンモータを駆動源として、上軸が針棒に上下動を入力し、下軸が釜に回転動作を入力していた。このため、縫い針に対する釜の剣先の上糸ループの捕捉タイミングを調節するために、釜を下軸に固定するロックナットを緩め、下軸に対して釜の角度を調節し、再び、ロックナットを締結する作業が行われていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のミシンは、例えば、被縫製物の種類や厚さ等が変わる場合等、様々な要因により、縫い針に対する釜の剣先の上糸ループの捕捉タイミングの調整が必要となる場合があり、その都度、ミシンの内部にアクセスして、釜の回転調節を手作業で行う必要が生じ、工数がかかり、非常に煩雑であった。
【0005】
本発明は、縫い針と釜の動作タイミングを定める位相調節を容易に行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ミシンにおいて、
縫い針の上下動の駆動源となるミシンモータと、
前記ミシンモータから回転動作が入力される主動輪と、
釜に回転動作を入力する従動輪と、
前記主動輪から前記従動輪に回転動作を伝達するタイミングベルトと、
前記タイミングベルトに当接する当接輪と、
前記当接輪を移動させるアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御して前記当接輪を移動させることにより前記主動輪と前記従動輪との位相を調節する制御装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、タイミングベルトに当接する当接輪を移動させるアクチュエータを制御装置で制御し、主動輪と従動輪との位相を調節するので、ミシンの内部の釜にアクセスし、手動で釜の回転調節を行う必要がなくなり、釜の位相の調節作業の負担を低減することが可能となる。
特に、被縫製物の種類や厚さ等が変わることにより、釜の動作タイミングを変更する必要性が生じた場合でも、調節作業の容易化により、適宜、釜の動作タイミングの適正化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態であるミシンの要部を示す正面図である。
【
図3】ミシンの釜の位相調節時の動作説明図であって、従動輪側の基準位相状態を示す。
【
図4】ミシンの釜の位相調節時の動作説明図であって、従動輪側の位相を遅らせた状態を示す。
【
図5】ミシンの釜の位相調節時の動作説明図であって、従動輪側の位相を進めた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発明の実施形態の概略構成]
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本実施形態たるミシン10の要部を示す正面図、
図2はミシン10の制御系を示すブロック図、
図3~
図5は動作説明図である。
ミシン10は、ミシンフレーム11と、縫い針を保持する針棒を上下動させる針上下動機構15と、縫い針に通された上糸を捕捉して下糸を絡める釜機構と、針棒の上下動に同期して所定の縫いピッチで被縫製物を送る送り機構と、上糸及び下糸の切断を行う糸切り装置12と、上記各構成の動作制御を行う制御装置90とを備えている。
なお、上記ミシン10は、糸調子装置、天秤機構等のように一般的なミシンに搭載されている構成も備えている。但し、これらは周知の機構であるため図示及び詳細な説明は省略する。
以下、上記各構成について順番に説明する。
【0010】
ミシンフレーム11は、
図1に示すように、下部に位置するミシンベッド部111と、ミシンベッド部111の一端部から上方に立ち上げられたミシン立胴部112と、ミシン立胴部112の上部からミシンベッド部111に沿うように延設された図示しないミシンアーム部とからなる。
ここで、ミシン10の構成を説明するにあたって、針棒の上下動方向をZ軸方向とし、これと直交する方向であってミシンベッド部111及びミシンアーム部の長手方向に平行な方向をY軸方向(
図1紙面垂直方向)とし、Z軸方向及びY軸方向の双方に直交する方向をX軸方向とする。
なお、ミシン10を水平面上に設置した場合に、Z軸方向は鉛直上下方向となり、X軸方向及びY軸方向は水平方向となる。
また、Y軸方向の一方であってミシンフレーム11の図示しない面部側(
図1紙面手前側)を「前」、その逆側を「後」とし、X軸方向の一方であって面部に正対した状態で左手側を「左」、右手側を「右」とし、Z軸方向の一方の鉛直上方を「上」、その逆側を「下」とする。
【0011】
ミシンアーム部内には、Y軸方向に平行な上軸13(主軸)が回転可能に支持されている。
また、ミシンベッド部111内には、Y軸方向に平行な下軸14が回動可能に支持されている。ミシンベッド部111の前側上面には、針落ちが行われる針穴が形成された針板が設けられている。
【0012】
針上下動機構15は、前述した上軸13の回転駆動を行うミシンモータ151と、当該上軸13の前端部に設けられたクランク機構と、当該クランク機構によって上下動を行う針棒とを備えている。
ミシンモータ151はサーボモータであり、図示しないエンコーダが併設されている。
【0013】
釜機構は、下軸14から伝達機構を介して回転力が付与される釜軸と、釜軸の前端部において回転を行う釜とを備える。
釜の種別は、全回転の垂直釜を例示するが、半回転釜や水平釜であっても良い。半回転釜の場合には、下軸から往復回動動作を取り出す伝達機構を介して釜軸が回動し、水平釜の場合には、下軸からZ軸回りの回転を取り出す伝達機構を介して釜軸が回転する。
【0014】
送り機構は、ミシンベッド部111内において、針板上の被縫製物をX軸方向に間欠的に送る。
送り機構は、下軸14からZ軸方向に沿った往復動作を取り出す上下送り機構と、下軸14からX軸方向に沿った往復動作を取り出す水平送り機構と、送り歯を支持する送り台とを有し、Z軸方向に沿った往復動作とX軸方向に沿った往復動作とを合成して送り台に付与する。
送り台は、上記各往復動作の合成によりY軸回りの周回動作を行う。送り台に支持された送り歯は、周回動作の上側部分の一部の区間を周回する際に、針板に形成された開口部から送り歯の先端を出没させて、被縫製物を下から送る。
水平送り機構は、X軸方向に沿った往復動作の動作幅を調節して送り台に伝達する送り調節機構を備えており、送り歯による送りピッチを任意に調節することができる。
【0015】
[糸切り装置]
糸切り装置12は、針板の下側でZ軸回りに往復回動を行う動メスと、動メスと協働して上糸及び下糸を切断する固定メスと、下軸14から動力を得て動メスに往復回動動作を付与するカム機構と、下軸14とカム機構の動力伝達の接続と切断を切り替えるクラッチ機構とを備えている。
【0016】
動メスは、針板の下側において往復回動を行い、往路の回動により針穴から垂下する上糸のループから切断部位を選り分けて、復路の回動により選り分けられた上糸及び下糸を切断する。
固定メスは、動メスの復路の回動方向下流側で待機し、動メスの刃先と固定メスの刃先とにより上糸及び下糸を挟んで切断する。
カム機構は、下軸14に固定装備された回転カムと、当該回転カムから往復動作を付与されるカム従節体を備え、カム従節体の往復動作から動メスに往復回動動作を付与する。
クラッチ機構は、カム機構の回転カムに対して、カム従節体を接離移動させることにより、動メスを回動させるための動力の接続と切断とを切り替えるアクチュエータとしての糸切りソレノイド121を有する。糸切りソレノイド121は、制御装置90によって制御される。
【0017】
[位相調節装置]
図6に位相調節装置20の背面図を示す。位相調節装置20は、上軸13と下軸14との間に設けられている。
位相調節装置20は、
図1及び
図3~
図6に示すように、上軸13と共に回転するように固定された主動輪21と、下軸14と共に回転するように固定された従動輪22と、主動輪21から従動輪22に回転動作を伝達するタイミングベルト23と、タイミングベルト23の上流区間231に当接してテンションを付与する第一当接輪24と、タイミングベルト23の下流区間232に当接してテンションを付与する第二当接輪25と、第一当接輪24と第二当接輪25とをそれぞれ軸垂直平面に沿って移動可能に支持する支持板26と、第一当接輪24及び第二当接輪25に移動動作を付与するアクチュエータとしての位置調節モータ27と、位置調節モータ27から第一当接輪24及び第二当接輪25に移動動作を伝達する伝達機構28とを備えている。
【0018】
タイミングベルト23は、内周に歯が並んで形成された歯付きベルトであり、主動輪21及び従動輪22は、タイミングベルト23の歯に噛み合うスプロケットからなる。
主動輪21は、上軸13に固定装備され、ミシンモータ151から回転動作が入力される。
従動輪22は、下軸14に固定装備されると共に下軸14にトルクを伝達し、下軸14は、前述した釜、送り機構及び糸切り装置12に回転動作を入力する。
【0019】
上軸13は、縫製における通常の回転方向(正回転:被縫製物を前方に送る回転方向)が
図1における時計方向に設定されている。そして、上軸13の正回転時にタイミングベルト23の主動輪21から従動輪22に渡る区間を上流区間231(従動輪22から見て上流側となる区間)、上軸13の正回転時にタイミングベルト23の従動輪22から主動輪21に渡る区間を下流区間232(従動輪22から見て下流側となる区間)と定義する。
【0020】
第一当接輪24は、Y軸方向に沿った軸部24aによって回転可能に支持されたローラであり、環状のタイミングベルト23の上流区間231に対して当該タイミングベルト23の外側から内側に向かう方向に当接してテンションを付与して上流区間231のベルト長を増減させる。
第二当接輪25は、Y軸方向に沿った軸部25aによって回転可能に支持されたスプロケットであり、環状のタイミングベルト23の下流区間232に対して当該タイミングベルト23の内側から外側に向かう方向に当接してテンションを付与して下流区間232のベルト長を増減させる。
【0021】
支持板26は、X-Z平面に沿った平板であり、ミシン立胴部112の内部に固定されている。支持板26は、第一当接輪24の軸部24aを移動可能に案内するカム穴からなる第一カム部261と、第二当接輪25の軸部25aを移動可能に案内するカム穴からなる第二カム部262とを有する。
即ち、第一カム部261と第二カム部262は、各々の内縁部における下側部分が第一当接輪24の軸部24a、第二当接輪25の軸部25aのそれぞれの外周に摺接し、第一当接輪24、第二当接輪25をそれぞれの内縁部における下側部分の形状に倣った所定の移動経路に沿って移動させるようにガイドする機能を有している。
【0022】
図7は第一カム部261の拡大説明図である。
第一カム部261は、
図3~
図5及び
図7に示すように、中央部が下方に凸となる略円弧状であって、右斜め上方向に沿って延在する長穴状のカム穴からなり、その延在方向に沿って第一当接輪24の軸部24aを移動可能としている。
第一当接輪24は、
図3及び
図7の実線の軸部24aに示すように、第一カム部261の延在方向における中間位置を基準位置としている。
【0023】
そして、
図4に示すように、第一当接輪24は、基準位置から左斜め下方向に向いた第一移動経路261aに沿って移動すると、タイミングベルト23に強く当接してテンションを増加させ、基準位置にあった場合よりも上流区間231のベルト長を長くする。
なお、比較のために、
図4において、第一当接輪24が基準位置にあった場合のタイミングベルト23の上流区間231の位置を二点鎖線で図示している(
図5も同様である)。
また、
図5に示すように、第一当接輪24は、基準位置から右斜め上方向に向いた第二移動経路261bに沿って移動すると、タイミングベルト23に弱く当接してテンションを低減させ、基準位置にあった場合よりも上流区間231のベルト長を短くする。
【0024】
図8は第二カム部262の拡大説明図である。
第二カム部262は、
図3~
図6及び
図8に示すように、略ハート形状のカム穴からなり、第二当接輪25の軸部25aを基準位置から二方向に分岐し、いずれも下方に凸となる略円弧状の第一移動経路262a及び第二移動経路262bに沿って移動可能としている。
第二当接輪25は、
図3及び
図6及び
図8の実線の軸部25aに示すように、第二カム部262の分岐点を基準位置としている。
【0025】
そして、
図4及び
図8に示すように、第二当接輪25は、基準位置から右斜め上方向に向いた第一移動経路262aに沿って移動すると、タイミングベルト23に弱く当接してテンションを低減させ、下流区間232のベルト長を短くする。
なお、比較のために、
図4において、第二当接輪25が基準位置にあった場合のタイミングベルト23の下流区間232の位置を二点鎖線で図示している(
図5も同様である)。
また、
図5及び
図8に示すように、第二当接輪25は、基準位置から左斜め上方向に向いた第二移動経路262bに沿って移動すると、タイミングベルト23に強く当接してテンションを増加させ、下流区間232のベルト長を長くする。
【0026】
なお、第一当接輪24が第一カム部261の基準位置に位置し、第二当接輪25が第二カム部262の基準位置に位置している場合の釜(従動輪22側)の位相を基準位相と定義する。
【0027】
上記第一当接輪24の第一カム部261に沿った移動による位置調節動作と第二当接輪25の第二カム部262に沿った移動による位置調節動作とは、伝達機構28を通じた単一の駆動源である位置調節モータ27によって付与される。
このため、伝達機構28は、Y軸方向に沿って設けられた位置調節モータ27の出力軸に固定装備され、二方向に延出された二又リンク281と、二又リンク281の各延出端部に一端部が連結された伝達リンク282,283と、伝達リンク282の他端部に連結された梃子腕284と、第一当接輪24の軸部24aを支持する支持リンク285と、伝達リンク283の他端部に連結された梃子腕286と、第二当接輪25の軸部を支持する支持リンク287とを備える。
【0028】
上記二又リンク281は、中央部で位置調節モータ27の出力軸に固定されており、二つの延出端部は、X-Z平面に沿った異なる二方向に延出されている。
伝達リンク282,283は、いずれも、長手方向の一端部が二又リンク281の各延出端部にY軸回りに回動可能に連結されている。また、伝達リンク282,283の他端部は、各梃子腕284,286の一端部にY軸回りに回動可能に連結されている。
【0029】
梃子腕284,286は、それぞれ、一端部が前述した伝達リンク282,283の他端部に連結され、他端部は、いずれも支持板26に設けられた同一の支点軸263によってY軸回りに回動可能に連結支持されている。
【0030】
そして、梃子腕284は、その中間部に支持リンク285の一端部がY軸回りに回動可能に連結されている。支持リンク285は、他端部において、第一当接輪24の軸部24aを支持しており、第一当接輪24の軸部24aは、第一カム部261の内縁部の下部の形状に沿って移動可能である。
二又リンク281の一方の延出端部と伝達リンク282と梃子腕284とは、各々の連結部と位置調節モータ27の出力軸とを関節とする四節リンク構造を構成している。
従って、位置調節モータ27の出力軸が回転駆動を行うと、二又リンク281の一方の延出端部と梃子腕284とを同方向に回動させることができる。そして、梃子腕284が回動を行うと、その中間部に一端部が連結された支持リンク285には、概ねX軸方向に沿った移動動作が入力される。
一方、支持リンク285の他端部に支持された第一当接輪24の軸部24aは、第一カム部261の内縁部の下部の形状(第一移動経路261a及び第二移動経路261b)に沿って移動するように規制されており、第一カム部261は、X軸方向に沿った移動成分を含む斜め曲線方向の長穴である。このため、支持リンク285を通じて、第一当接輪24の軸部24aを第一カム部261の内縁部の下部の形状(第一移動経路261a及び第二移動経路261b)に沿って移動させることができる。
【0031】
また、梃子腕286は、その中間部に支持リンク287の一端部がY軸回りに回動可能に連結されている。支持リンク287は、他端部近傍において、第二当接輪25の軸部25aを支持しており、さらに、支持リンク287の他端部先端には、軸部25aを第二カム部262の内縁部の下部側に押し付ける引っ張りバネ288が連結されている。従って、第二当接輪25の軸部25aは、第二カム部262の内縁部の下部に常に当接し、当該第二カム部262の内縁部の下部の形状に沿って移動可能である。
二又リンク281の他方の延出端部と伝達リンク283と梃子腕286もまた、各々の連結部と位置調節モータ27の出力軸とを関節とする四節リンク構造を構成している。
従って、位置調節モータ27の出力軸が回転駆動を行うと、二又リンク281の他方の延出端部と梃子腕286とを同方向に回動させることができる。そして、梃子腕286が回動を行うと、その中間部に一端部が連結された支持リンク287には、概ねX軸方向に沿った移動動作が入力される。
一方、支持リンク287の他端部に支持された第二当接輪25の軸部25aは、基準位置から第二カム部262の内縁部の下部の形状に沿って第一移動経路262aと第二移動経路262bとに移動するように規制されている。
第二カム部262の第一移動経路262aと第二移動経路262bは、いずれも、X軸方向に沿った移動成分を含む斜め曲線方向の経路であるため、支持リンク287を通じて、第二当接輪25の軸部25aを第二カム部262の第一移動経路262aと第二移動経路262bのいずれにも移動させることができる。
【0032】
上記位相調節装置20では、
図3に示すように、第一当接輪24及び第二当接輪25が基準位置にある状態において、例えば、釜の位相が縫い針よりも先行して縫い針に対する上糸の捕捉タイミングが早い場合には、制御装置90は、
図4に示すように、位置調節モータ27の出力軸を反時計方向に回転させる。
これにより、第一当接輪24は、左方への移動成分を含む方向に移動し、タイミングベルト23の上流区間231に対する当接圧力が高められ、上流区間231のベルト長は増加する。
また、第二当接輪25は、右方への移動成分を含む第一移動経路262aに沿った方向に移動し、タイミングベルト23の下流区間232に対する当接圧力が低下し、下流区間232のベルト長は減少する。
その結果、下軸14の従動輪22は、逆回転(
図4における反時計方向)方向に回転を生じ、調整前よりも下軸14側の位相を遅らせることができる。
【0033】
また、第一当接輪24及び第二当接輪25が基準位置にある状態において、例えば、釜の位相が縫い針よりも遅延して縫い針に対する上糸の捕捉タイミングが遅い場合には、制御装置90は、
図5に示すように、位置調節モータ27の出力軸を時計方向に回転させる。
これにより、第一当接輪24は、右方への移動成分を含む方向に移動し、タイミングベルト23の上流区間231に対する当接圧力を低減し、上流区間231のベルト長を縮小させる。
また、第二当接輪25は、左方への移動成分を含む第二移動経路262bに沿った方向に移動し、タイミングベルト23の下流区間232に対する当接圧力が増加し、下流区間232のベルト長は増加する。
その結果、下軸14の従動輪22は、正回転(
図5における時計方向)方向に回転を生じ、調整前よりも下軸14側の位相を進めることができる。
【0034】
なお、第一当接輪24と第二当接輪25とがそれぞれの基準位置にある場合におけるタイミングベルト23の上流区間231及び下流区間232における張力は、等しくなっている。この場合のタイミングベルト23の張力を基準張力とする。
そして、第一当接輪24が第一カム部261に沿ったいずれに移動した場合であっても、第二当接輪25は、タイミングベルト23の上流区間231及び下流区間232における張力が基準張力を維持することが可能な位置に移動するように、第一カム部261の内縁形状(第一移動経路261a及び第二移動経路261b)及び第二カム部262の内縁形状(第一移動経路262a及び第二移動経路262b)が設定されている。
【0035】
具体的には、伝達機構28は、第一当接輪24の第一カム部261に沿った移動と第二当接輪25の第二カム部262に沿った移動とを連動させると共に、これらの連動により、第一当接輪24及び第二当接輪25が、それぞれのカム部261,262による移動経路のいずれの位置にある場合であっても、上流区間231に生じるベルト長の増加量又は減少量の絶対値と、下流区間232に生じるベルト長の減少量又は増加量の絶対値とが一致するように第一カム部261及び第二カム部262の内縁部の下部の形状が設定されている。
【0036】
従って、位相調節装置20によって、釜の位相を遅らせる調整を行う場合も進ませる調整を行う場合も、タイミングベルト23の張力を一定に維持することができる。
【0037】
[ミシンの制御系]
図2に示すように、制御装置90は、制御プログラムが格納されたROM92と、制御プログラムに従って各種演算処理を行うCPU91と、各種処理におけるワークメモリとして使用されるRAM93と、各種の設定データの記憶と書き換え可能なデータメモリ94とで概略構成されている。
そして、制御装置90には、図示しないシステムバス、インターフェイス及び駆動回路等を介して、針上下動機構15のミシンモータ151、糸切り装置12の糸切りソレノイド121、位相調節装置20の位置調節モータ27が接続されている。
【0038】
また、制御装置90には、縫製に関する各種の設定を入力するための操作入力部95が接続されている。操作入力部95では、釜の位相調節量の入力や糸切りの実行の入力を行うことができる。
【0039】
[釜の位相調節時の動作制御]
釜の位相調節時において、釜の位相が縫い針の位相に対してズレが生じている場合には、操作入力部95から、釜位相の位相調節量を入力する。例えば、手作業でモータプーリを回して、下降した縫い針と釜の剣先の位置関係から、目視により、釜を軸回りにどの程度の角度で回せば良いかを確認し、当該角度を操作入力部95から位相調節量として数値入力する。釜を正逆いずれの方向に調節すべきかは、例えば、位相調節量の数値にプラス又はマイナスの極性を付した数値の入力により指定しても良い。
【0040】
制御装置90は、位相調節量と釜を位相調節量に応じた角度分だけ下軸14を回すための位置調節モータ27の回転角度との対応関係を示すテーブルデータをデータメモリ94内に保有している。
そして、CPU91は、上記テーブルデータを参照し、特定された回転角度及び回転方向で回転駆動を行うよう位置調節モータ27を制御する。これにより、釜の位相が調節される。縫い針と釜の剣先の位置関係を再び目視し、より適正な位置関係となるよう、複数回調節を繰り返してもよい。なお、位置調節モータ27の駆動の際には、上軸13が回転を生じないように停止トルクを生じるようにミシンモータ151を制御することが好ましい。
【0041】
[糸切り実行時の動作制御]
例えば、縫製終了に際して、糸切りの実行が操作入力部95から入力されると、制御装置90のCPU91は、釜の位相調節によって第一当接輪24及び第二当接輪25が基準位置から調整後の位置にある場合には、第一当接輪24及び第二当接輪25を基準位置に戻すように位置調節モータ27を制御する。この場合、当初から、第一当接輪24及び第二当接輪25が基準位置に位置している場合には、位置調節モータ27の駆動は行われない。
そして、第一当接輪24及び第二当接輪25が基準位置にある状態で、CPU91は、ミシンモータ151に併設されたエンコーダから上軸13の軸角度を検出し、予め設定された軸角度になると、糸切りソレノイド121を制御して、クラッチ機構を接続状態に切り替え、カム機構を通じてミシンモータ151からのトルクにより動メスを往復回動させ、上糸及び下糸の切断動作を実行する。
その後、ミシンモータ151は停止し、糸切り動作が完了する。
糸切り動作の完了後は、CPU91は、第一当接輪24及び第二当接輪25を、前述した釜の位相調節による調整後の位置に戻すように、位置調節モータ27を制御する。
【0042】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ミシン10は、主動輪21と従動輪22とに掛け渡されたタイミングベルト23に当接してテンションを付与する第一及び第二当接輪24,25と、これらを移動させる位置調節モータ27と、その制御装置90とを備え、第一及び第二当接輪24,25の移動により主動輪21と従動輪22との位相を調節することができる。
従って、被縫製物の種類や厚さ等が変わる度に、ミシンの内部にアクセスして釜を手作業で回転調節する作業を不要とし、容易に且つ迅速に釜の位相を調節することが可能となり、その作業負担を飛躍的に低減することが可能となる。
【0043】
さらに、第一当接輪24は、タイミングベルト23の上流区間231に当接し、第二当接輪25は、タイミングベルト23の下流区間232に当接する構成であるため、第一及び第二当接輪24,25の移動量のバランスを取ることにより、タイミングベルト23に加えられる張力の変動を抑制しながら釜の位相を調節することが可能となる。
【0044】
特に、伝達機構28が、タイミングベルト23の上流区間231のベルト長とタイミングベルト23の下流区間232のベルト長の一方が増加するときに他方が減少し、一方が減少するときに他方が増加するように第一当接輪24及び第二当接輪25に対して移動動作を伝達する構成となっているので、張力の変動をより効果的に抑制しながら釜の位相を調節することが可能となる。
【0045】
また、第一当接輪24の移動経路を規定する第一カム部261と第二当接輪25の移動経路を規定する第二カム部262とを備え、第一カム部261による第一当接輪24の移動経路と第二カム部262による第二当接輪25の移動経路とは、方向又は形状が異なる構成としている。
仮に、第一カム部261による第一当接輪24の移動経路と第二カム部262による第二当接輪25の移動経路とが方向又は形状について同一となるように構成した場合、主動輪21、従動輪22、タイミングベルト23、第一及び第二当接輪24,25の配置を制限的にしないと、張力の変動を抑制しながら釜の位相を調節することが難しくなる。
これに対して、第一当接輪24の移動経路と第二当接輪25の移動経路の方向又は形状が異なる場合には、主動輪21、従動輪22、タイミングベルト23、第一及び第二当接輪24,25の配置に自由度を持たせながら、張力の変動を抑制しつつ釜の位相を調節することが可能となる。
【0046】
また、位相調節装置20は、第二カム部262が第二当接輪25に付与する移動経路を基準位置から二方向に分岐する第一と第二移動経路262a,262bとで構成することから、基準位置に対して従動輪22側の位相を進める場合と遅らせる場合とで、第二当接輪25に対する移動動作量とタイミングベルト23に対する張力変化量との対応関係と別々に定めることができ、張力の変動をさらに抑制しながら釜の位相を調節することが可能となる。
【0047】
また、位相調節装置20は、第一当接輪24と第二当接輪25とが、連動して各々の移動経路のいずれに位置する場合でも、タイミングベルト23の上流区間231に生じる増加量又は減少量の絶対値とタイミングベルト23の下流区間232に生じる減少量又は増加量の絶対値とが一致するように、第一カム部261による移動経路の方向又は形状と第二カム部262による移動経路の方向又は形状とが構成されている。
このため、さらに効果的にタイミングベルト23の張力の変動を抑制しつつ釜の位相を調節することが可能となる。
【0048】
また、ミシン10では、従動輪22側の基準位相を定めており、制御装置90が、糸切り装置12による糸切りの実行時に、位置調節モータ27に対して基準位相となるように駆動する制御を行っている。
通常は、糸切り装置12のクラッチ機構は、従動輪22の位相が調節されていない基準位相の状態で、適正に作動するよう設定されているので、位相調節装置20によって釜の位相調節が行われた場合に、下軸14及び従動輪22は、基準位相から外れている可能性が生じる。しかし、制御装置90は、糸切りの実行時に予め位置調節モータ27に対して基準位相にする制御を行うので、糸切り装置12による糸切りの実行を適正に行うことが可能となり、動作の安定化を図り、良好な切断を行うことが可能となる。
【0049】
[その他]
上記発明の実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
上記位相調節装置20の特徴的な構成や位相調節装置20又は糸切り装置12に対して制御装置90が実行する特徴的な制御は、上軸13と下軸14とがいずれもミシンモータ151により回転駆動が行われるミシンであれば、種別を問わず、いかなるミシンにも適用することが可能である。
【0050】
また、位相調節装置20が単一の位置調節モータ27により、第一当接輪24と第二当接輪25の双方に移動動作を付与する構成を例示したが、第一当接輪24と第二当接輪25とをそれぞれ個別に移動させるモータを備え、各モータを個別に制御する構成としても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 ミシン
12 糸切り装置
121 糸切りソレノイド
13 上軸
14 下軸
15 針上下動機構
151 ミシンモータ
20 位相調節装置
21 主動輪
22 従動輪
23 タイミングベルト
231 上流区間
232 下流区間
24 第一当接輪(当接輪)
25 第二当接輪(当接輪)
26 支持板
261 第一カム部
262 第二カム部
261a,262a 第一移動経路
261b,262b 第二移動経路
27 位置調節モータ(アクチュエータ)
28 伝達機構
90 制御装置
91 CPU
95 操作入力部