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特開2023-58367工具システム及び工具システム用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058367
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】工具システム及び工具システム用プログラム
(51)【国際特許分類】
   B25B 23/14 20060101AFI20230418BHJP
   B25B 23/142 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
B25B23/14 620Z
B25B23/14 610B
B25B23/14 620J
B25B23/142
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168360
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000161909
【氏名又は名称】京都機械工具株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】芳本 悠未
(72)【発明者】
【氏名】大河 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】中田 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】松本 喜晴
【テーマコード(参考)】
3C038
【Fターム(参考)】
3C038AA01
3C038BC01
3C038CA01
3C038CA06
3C038CB02
3C038CB06
3C038CC08
3C038DA00
3C038EA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヘッドを交換可能な締付工具を用いた工具システムにおいて、締付対象に作用する締付トルクを正確に算出できるようにしつつも、使い勝手の良い工具システムを提供する。
【解決手段】締付作業時のトルクを検出するトルクセンサSを有し、ヘッドHが交換可能な締付工具10と、締付工具10と通信可能な制御機器20とを備える工具システム100において、複数種類のヘッドHの有効長それぞれを示す有効長データを格納する有効長データ格納部と、有効長データが示す有効長それぞれを選択可能に表示する表示制御部と、選択された有効長を示す有効長データ、及び、トルクセンサから出力された検出信号に基づいて、締付対象に作用する締付トルクを算出する締付トルク算出部と、を有し、有効長データ格納部が格納する前記有効長データの少なくとも一部が、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
締付作業時のトルクを検出するトルクセンサを有し、ヘッドが交換可能な締付工具と、前記締付工具と通信可能な制御機器とを備える工具システムにおいて、
複数種類の前記ヘッドの有効長それぞれを示す有効長データを格納する有効長データ格納部と、
前記有効長データが示す有効長それぞれを選択可能に表示する表示制御部と、
選択された有効長を示す有効長データ、及び、前記トルクセンサから出力された検出信号に基づいて、締付対象に作用する締付トルクを算出する締付トルク算出部と、を有し、
前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの少なくとも一部が、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示すことを特徴とする工具システム。
【請求項2】
前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの一部が、書き換え可能な任意有効長を示す、請求項1に記載の工具システム。
【請求項3】
前記有効長データを受信して、その有効長データの示す任意有効長が許容範囲を超えているか否かを判断する判断部と、
前記判断部により前記任意有効長が前記許容範囲を超えていると判断された場合に、そのことを報知する報知部とを有する、請求項2に記載の工具システム。
【請求項4】
前記締付工具が前記判断部を備える、請求項3に記載の工具システム。
【請求項5】
前記締付工具が、前記表示制御部により表示された有効長を選択可能に構成されており、
前記締付トルク算出部が、前記締付工具を介して選択された有効長を示す有効長データを取得するとともに、その有効長データに基づいて前記締付トルクを算出する請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の工具システム。
【請求項6】
前記制御機器が、
前記締付工具を介して有効長を選択可能な選択可能状態から、その選択を不能にする選択不能状態に切り替える機能ロック部をさらに有する、請求項5に記載の工具システム。
【請求項7】
締付作業時のトルクを検出するトルクセンサを有し、ヘッドが交換可能な締付工具と、前記締付工具と通信可能な制御機器とを備える工具システムに用いられるプログラムおいて、
前記制御機器に、
複数種類の前記ヘッドの有効長それぞれを示す有効長データを格納する有効長データ格納部と、
前記有効長データが示す有効長それぞれを選択可能に表示する表示制御部としての機能を発揮させ、
前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの少なくとも一部が、書き換え不能な有効長である規定有効長を示すことを特徴とする工具システム用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具システム及び工具システム用プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の工具システムとしては、トルクレンチ等の締付工具と、この締付工具と通信可能な制御機器とを備え、トルクレンチに設けたトルクセンサから検出トルクを制御機器に送信して、その検出トルク値を制御機器のディスプレイ等に表示するように構成されたものがある。
【0003】
このような工具システムにおいて、締付工具が例えばボルトのサイズに応じてヘッドを交換可能なものである場合、そのボルトに作用する実際のトルクを正しく表示するには、ヘッドのサイズ(以下、有効長ともいう)を考慮してトルクセンサから出力された検出トルクを補正する必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1に示すように、検出トルクを補正するべく、ヘッドの有効長を制御機器に入力できるようにして、その入力された有効長を用いて実際のトルクを算出するように構成されたものがある。
【0005】
しかしながら、このような構成であっても、使用者がヘッドの有効長を入力ミスすれば締付対象に作用する締付トルクを正しく算出することができないし、かと言って、有効長を毎回確認しながら入力しなければならないとあっては使い勝手が良いとは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第5588478号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願発明は、上述した問題を解決するべくなされたものであり、ヘッドを交換可能な締付工具を用いた工具システムにおいて、締付対象に作用する締付トルクを正確に算出できるようにしつつも、使い勝手の良い工具システムを提供することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係る工具システムは、締付作業時のトルクを検出するトルクセンサを有し、ヘッドが交換可能な締付工具と、前記締付工具と通信可能な制御機器とを備える工具システムにおいて、複数種類の前記ヘッドの有効長それぞれを示す有効長データを格納する有効長データ格納部と、前記有効長データが示す有効長それぞれを選択可能に表示する表示制御部と、選択された有効長を示す有効長データ、及び、前記トルクセンサから出力された検出信号に基づいて、締付対象に作用する締付トルクを算出する締付トルク算出部と、を有し、前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの少なくとも一部が、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示すことを特徴とするものである。
【0009】
このように構成された工具システムによれば、有効長データ格納部が格納する有効長データの少なくとも一部が、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示すので、使用者としては、有効長を毎回入力せずとも、選択可能に表示された規定有効長の中から適切なものを選択するだけで、締付トルクを正確に算出させることができる。
これにより、ヘッドを交換可能な締付工具を用いた工具システムにおいて、締付対象に作用する締付トルクを正確に算出できるようにしつつも、使い勝手の良いものとすることができる。
【0010】
ところで、使用されるヘッドの中には、例えば、特注品など所定の規格に含まれていないサイズのものもあり、このようなヘッドの有効長を予め有効長データ格納部に格納しておくことは難しい。
そこで、このような場合であっても、締付トルクを正確に算出できるようにするには、前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの一部が、書き換え可能な任意有効長を示すことが好ましい。
これならば、任意有効長を使用するヘッドの有効長に合わせて書き換えることができるので、例えば特注品や規格外のヘッドを使用する場合であっても、締付トルクを正確に算出することができる。
【0011】
一方、任意有効長として書き換え可能な数値範囲に制限がない場合、書き換えられた任意有効長によっては、その任意有効長を用いて算出された締付トルクが工具の保証精度を超えてしまうことがある。
そこで、前記有効長データを受信して、その有効長データの示す任意有効長が許容範囲を超えているか否かを判断する判断部と、前記判断部により前記任意有効長が前記許容範囲を超えていると判断された場合に、そのことを報知する報知部とを有することが好ましい。
これならば、入力された有効長のままでは、算出された締付けトルクの保証精度が担保されないことを使用者に報知することができる。
【0012】
保証精度を担保することのできる任意有効長の許容範囲は、その締付工具のサイズや仕様によって異なることから、書き換えられた任意有効長が許容範囲内であるか否かを制御機器側に判断させようとすると、プログラムの煩雑化等を招く。
そこで、前記締付工具が前記判断部を備えることが好ましい。
このような構成であれば、締付工具側で任意有効長と許容範囲とを比較するので、例えば締付工具により異なる許容範囲をわざわざ制御機器に記憶させたり取得させたりする必要がなく、プログラムの構成を簡素化することができる。
【0013】
前記締付工具が、前記表示制御部により表示された有効長を選択可能に構成されており、前記締付トルク算出部が、前記締付工具を介して選択された有効長を示す有効長データを取得するとともに、その有効長データに基づいて前記締付トルクを算出することが好ましい。
これならば、制御機器のみならず、締付工具を操作して有効長を選択することができ、より使い勝手の良いものとすることができる。
【0014】
上述したように、締付工具を操作して有効長を選択できる構成においては、例えば使用者の誤操作などにより、不適切な有効長に設定されてしまう恐れがある。
そこで、前記制御機器が、前記締付工具を介して有効長を選択可能な選択可能状態から、その選択を不能にする選択不能状態に切り替える機能ロック部をさらに有することが好ましい。
これならば、機能ロック部を介して選択可能状態から選択不能状態に切り替えることにより、使用者による有効長の選択や設定を禁止することができるので、管理性やトレーサビリティの向上を図れる。
【0015】
また、本発明に係る工具システム用プログラムは、締付作業時のトルクを検出するトルクセンサを有し、ヘッドが交換可能な締付工具と、前記締付工具と通信可能な制御機器とを備える工具システムに用いられるプログラムおいて、前記制御機器に、複数種類の前記ヘッドの有効長それぞれを示す有効長データを格納する有効長データ格納部と、前記有効長データが示す有効長それぞれを選択可能に表示する表示制御部としての機能を発揮させ、前記有効長データ格納部が格納する前記有効長データの少なくとも一部が、書き換え不能な有効長である規定有効長を示すことを特徴とするものである。
このような工具システム用プログラムによっても、上述した工具システムと同様の作用効果を奏し得る。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明によれば、ヘッドを交換可能な締付工具を用いた工具システムにおいて、締付対象に作用する締付トルクを正確に算出できるようにしつつも、使い勝手の良い工具システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る工具システムの全体構成を示す模式図。
図2】同実施形態の工具システムの機能を示す機能ブロック図。
図3】同実施形態のトルクレンチの構成を示す模式図。
図4】同実施形態の規定有効長を表示した表示内容を表す図。
図5】同実施形態の任意有効長を表示した表示内容を表す図。
図6】同実施形態のトルクレンチの精度の保証可能範囲を説明するための図。
図7】同実施形態の機能ロック部の機能を説明するための表示内容を表す図。
図8】その他の実施形態の工具システムの機能を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る工具システムの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0019】
<工具システムの構成>
本実施形態の工具システム100は、ネジやボルト等の締付対象を締め付ける締付作業に用いられるものであり、図1に示すように、締付工具たるトルクレンチ10と、このトルクレンチ10と通信可能な制御機器20とを備えるものである。
【0020】
トルクレンチ10は、図1に示すように、締付作業時のトルクを検出するトルクセンサSを備える所謂デジタル式のものであり、より具体的には、ディスプレイD1と、種々の操作に供される操作ボタンBと、制御器Cとをさらに備えている。
【0021】
ディスプレイD1は、ケーシングの外周面に設けられており、例えば締付対象に作用する締付トルクが表示されるものである。
【0022】
操作ボタンBは、ケーシングの外周面の例えばディスプレイD1の近傍に設けられており、締付作業の前の設定作業時などに操作されるものである。
【0023】
制御器Cは、ケーシング内に収容されており、CPUやメモリ等を備えたものである。この制御器Cは、前記メモリに格納されたプログラムに基づいて、図2に示すように、ディスプレイD1の表示内容を制御する工具側表示制御部C1としての機能を少なくとも発揮する。
【0024】
本実施形態の制御器Cは、図2に示すように、上述したトルクセンサSから出力された検出信号を取得して、この検出信号に基づいて締付トルクを算出する締付トルク算出部C2としての機能をさらに備えている。
【0025】
上述した構成により、締付トルク算出部C2により算出された締付トルクが、工具側表示制御部C1によりディスプレイD1にリアルタイムでデジタル表示される。
【0026】
そして、このトルクレンチ10は、図3に示すように、締付対象に係合されるヘッドHを交換可能なものであり、具体的には長さの異なる複数種類のヘッドHを締付対象に応じて適宜取り替えることができるように構成されている。
【0027】
このようなヘッドHを交換可能なトルクレンチ10においては、トルクセンサSから出力される検出信号の示す検出トルクの大きさが同じであったとしても、ヘッドHの長さが異なれば、力点から作用点までの長さ(以下、有効長という)が異なるので、締付トルクの大きさが変わる。
【0028】
なお、上述した有効長は、当業者であれば当然理解できようが、別の言い方で定義すると、図3に示すように、トルクレンチ10のグリップ部に設けられた手力線から、ヘッドHに設けられた差込角の中心点までの長さとも言うことができる。
【0029】
そこで、本実施形態の締付トルク算出部C2は、予め設定された有効長を示す有効長データを取得して、この有効長データと、上述したトルクセンサSからの検出信号とを用いて、締付トルクを算出するように構成されている。
【0030】
そして、本実施形態の工具システム100は、この有効長の選択・設定に特徴があるので、以下に説明する。
【0031】
制御機器20は、ディスプレイD2、CPU、及びメモリ等を備えた例えばタブレット、スマートフォン、ノートパソコン等の携帯式或いは据え置き式の端末装置であり、前記メモリに格納されたプログラムに基づいて、図2に示すように、有効長データ格納部21と、表示制御部22としての機能を少なくとも発揮する。
【0032】
有効長データ格納部21は、前記メモリの所定領域に設定されており、複数種類のヘッドHの有効長それぞれを示す有効長データを格納するものである。
【0033】
然して、この有効長データ格納部21が格納する有効長データの少なくとも一部は、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示す。
【0034】
より具体的に説明すると、この規定有効長は、締付作業の作業現場で頻繁に用いられる有効長であり、有効長データ格納部21には、例えば所定の規格等により定められた互いに異なる有効長を示す有効長データが格納されている。
【0035】
これらの規定有効長を示す有効長データは、例えば工具システム100の製造時や工場出荷時などに、製造者により、予め有効長データ格納部21に格納されている。
【0036】
上述した有効長データが示す複数種類の規定有効長は、図4に示すように、表示制御部22によりディスプレイD2に表示される。
【0037】
すなわち、表示制御部22は、複数種類の規定有効長それぞれを選択可能に例えば一覧表示するものであり、これらの中から任意の規定有効長を例えばタッチパネルやマウスやキーボード等の入力手段を介して選択できるように構成されている。
【0038】
そして、使用者が表示されたものの中から任意の規定有効長を選択すると、図2に示すように、その規定有効長を示す有効長データが選択受付部23により受け付けられて、その有効長データが選択受付部23から上述した締付トルク算出部C2に送信される。
【0039】
ここで、上述した有効長データ格納部21が格納する有効長データの別の一部は、書き換え可能な任意有効長を示す。
【0040】
本実施形態の制御機器20は、図5の示すように、規定有効長として規定されていない有効長を任意有効長として入力・設定できるように構成されており、具体的には任意有効長を入力するための例えばタッチパネルやマウスやキーボード等の入力手段を備えている。
【0041】
そして、入力手段を介して入力された任意有効長を示す有効長データは、図2に示すように、上述した選択受付部23により受け付けられて、その有効長データが選択受付部23から上述した締付トルク算出部C2に送信される。なお、任意有効長を示す有効長データは、有効長データ格納部21に書き換え可能に格納されても良い。
【0042】
本実施形態では、表示制御部22が、規定有効長の中から任意の有効長を選択可能な有効長選択画面(図4)と、規定有効長を非表示にするとともに、任意有効長として任意の有効長を入力可能な有効長入力画面(図5)とに切り替えるように構成されている。すなわち、有効長選択画面と有効長入力画面とは、互いに別の画面として表示されるようにしてあり、使用者はこれらの画面を適宜切り替えることができる。
【0043】
ここで、任意有効長として書き換え可能な数値範囲に制限がない場合、書き換えられた任意有効長によっては、その任意有効長を用いて算出された締付トルクがトルクレンチ10の保証精度を超えてしまうことがある。
【0044】
より具体的に説明するべく、図6を参照しながら、標準サイズのトルクレンチと、有効長の長いトルクレンチとを比較する。
【0045】
これらのトルクレンチを用いて、締付対象に作用する締付トルクを等しくした場合、図6中の表に示すように、標準サイズのものよりも、有効長の長いものの方が、トルクセンサの出力が小さくなる。
【0046】
ここで、トルクセンサの精度の保証可能範囲が、図6の下段左側のグラフに示す範囲であり、この範囲よりも低い又は高い出力に対するトルク算出値は、線形性を保てない等の理由により、精度保証が難しい範囲であるとする。
【0047】
標準サイズのものは、仕様上、上述した保証可能範囲内に収まるように、締付トルクの使用範囲が定められている。
【0048】
これに対して、有効長の長いものを同じ使用範囲で用いようとすると、図6下段右側のグラフに示すように、太線部分の範囲で使用されることになるので、低トルク側での精度保証が難しくなる。
【0049】
また、同様の理由により、有効長の短いものは、高トルク側での精度保証が難しくなる。
【0050】
その結果、書き換えられた任意有効長が長すぎたり短すぎたりする場合、締付トルク算出部C2により算出される締付トルクが、保証精度を下回ることがある。
【0051】
そこで、本実施形態の制御機器20は、図2に示すように、書き換えられた任意有効長が、所定の許容範囲を超えている場合に、そのことを報知する報知部24としての機能をさらに有している。
【0052】
この報知部24の具体的な実施態様としては、例えば、音、光、振動やディスプレイへの警告表示などにより、書き換えられた任意有効長が、所定の許容範囲を超えていることを報知する態様を挙げることができる。
【0053】
この報知部24としての機能を発揮させるうえで、トルクレンチ10の保証精度を担保することのできる任意有効長の許容範囲は、そのトルクレンチ10のサイズや仕様によって異なる。
【0054】
このことから、書き換えられた任意有効長が許容範囲内であるか否かを制御機器20側に判断させようとすると、例えばトルクレンチにより異なる許容範囲をわざわざ制御機器20に記憶させたり取得させたりする必要が生じ、プログラムの煩雑化等を招く。
【0055】
そこで、本実施形態の工具システム100においては、図2に示すように、トルクレンチ10が、受信した有効長データの示す任意有効長が許容範囲を超えているか否かを判断する判断部C3を有している。
【0056】
より具体的に説明すると、判断部C3は、上述した任意有効長の許容範囲を記憶する許容範囲記憶部C4を有しており、制御機器20から送信された有効長データが示す任意有効長と、許容範囲記憶部C4に記憶されている許容範囲とを比較する。
【0057】
そして、判断部C3は、任意有効長が許容範囲を超えている場合に、そのことを示す信号を制御機器20の報知部24に出力し、これを契機に、報知部24が、入力された任意有効長が許容範囲を超えていることを報知する。
【0058】
かかる構成により、工具側で任意有効長と許容範囲とを比較するので、プログラムの構成を煩雑にすることなく、設定した任意有効長のままではトルクレンチ10の保証精度を担保できない場合にそのことを報知させることができる。
【0059】
また、上述したように報知部24としての機能を設けているとはいえ、保証されない有効長データに基づく締付トルクの算出を避けるべく、判断部C3により任意有効長が許容範囲を超えている場合は、締付トルク算出部C2による締付トルクの算出が実行されないように構成されていることが望ましい。
【0060】
ところで、有効長の選択・設定を制御機器20側でしか行えない場合、作業者はヘッドHを違う長さのものに変えるたびに制御機器20を操作しなければならない。
【0061】
そこで、本実施形態の工具システム100は、作業性の向上を図るべく、トルクレンチ10の工具側表示制御部C1が、トルクレンチ10のディスプレイD1に複数種類の有効長を選択可能に表示するように構成されている。
【0062】
具体的には、上述した操作ボタンBを操作することにより、工具側表示制御部C1が、ディスプレイD1に複数の有効長を例えば一覧表示して、これらの有効長の中から操作ボタンBを操作することで任意の有効長を選択できるように構成されている。
【0063】
このようにトルクレンチ10を介して選択された有効長を示す有効長データは、工具側選択受付部C5により受け付けられて、上述した締付トルク算出部C2に出力され、締付トルク算出部C2が、その有効長データに基づいて締付トルクを算出する。
【0064】
なお、上述したディスプレイD1に表示される有効長を示す有効長データは、トルクレンチ10のメモリの所定領域に設定された工具側有効長データ格納部C6に格納されている。
これらの有効長データは、工具側有効長データ格納部C6に予め格納されており、例えばトルクレンチ10と制御機器20とが接続されたことを契機に、制御機器20の有効長データ格納部21に送信されて格納されても良い。この場合、有効長データ格納部21には、有効長データを予め格納しておかなくて済む。
また、別の実施態様としては、トルクレンチ10と制御機器20とが接続されたことを契機に、制御機器20の有効長データ格納部21に格納されている有効長データが、工具側有効長データ格納部C6に送信されて格納されても良い。この場合、工具側有効長データ格納部C6には、有効長データを予め格納しておかなくて済む。
【0065】
この構成により、使用者がヘッドHを違う長さに変えた場合に、工具側で有効長を選択・設定することができるので、作業性の向上を図れる。
【0066】
一方、上述したように、トルクレンチ10を操作して有効長を選択できる構成においては、例えば使用者の誤操作などにより、不適切な有効長に設定されてしまう恐れがある。
【0067】
そこで、本実施形態の制御機器20は、図2に示すように、トルクレンチ10を介して有効長を選択可能な選択可能状態から、その選択を不能にする選択不能状態に切り替える機能ロック部25をさらに有する。
【0068】
より具体的に説明すると、本実施形態の表示制御部22は、図7に示すように、トルクレンチ10を選択可能状態又は選択不能状態の何れかに切り替えるためのロック設定画面を表示する。
【0069】
本実施形態の制御機器20は、このロック設定画面において、トルクレンチ10を選択可能状態又は選択不能状態に設定するための切替信号を例えばタッチパネルやマウスやキーボード等の切替信号入力部P1を介して入力できるように構成されている。
【0070】
そして、この切替信号入力部P1を介して切替信号が入力されて、トルクレンチ10が選択可能状態から選択不能状態に切り替えられると、機能ロック部25が、工具側選択受付部C5による有効長データの受付を制限して、使用者による有効長の選択が不能になる。なお、この状態においては、表示制御部22が選択不能状態であることを示すシンボルP2をディスプレイD2に表示する。
【0071】
一方、切替信号入力部P1を介して切替信号が入力されて、トルクレンチ10が選択不能状態から選択可能状態に切り替われると、機能ロック部25が、工具側選択受付部C5による有効長データの受付を許容して、使用者による有効長の選択・変更が可能となる。なお、この状態においては、表示制御部22が上述したシンボルを非表示にする。
【0072】
<工具システムによる作用効果>
このように構成された工具システム100によれば、有効長データ格納部21が格納する有効長データの少なくとも一部が、予め規定された書き換え不能な規定有効長を示すので、使用者としては、有効長を毎回入力せずとも、選択可能に表示された規定有効長の中から適切なものを選択するだけで、締付トルクを正確に算出させることができる。
これにより、ヘッドHを交換可能なトルクレンチ10を用いた工具システム100において、締付対象に作用する締付トルクを正確に算出できるようにしつつも、使い勝手の良いものとすることができる。
【0073】
また、有効長データ格納部21が格納する有効長データの一部が、書き換え可能な任意有効長を示すものであるので、使用するヘッドHの有効長に合わせて任意有効長を書き換えることができ、例えば特注品や規格外のヘッドを使用する場合であっても、締付トルクを正確に算出することができる。
【0074】
さらに、トルクレンチ10の工具側表示制御部C1が、複数種類の有効長を選択可能に表示するので、使用者がヘッドHを違う長さに変えた場合に、工具側で有効長を選択・設定することができ、作業性の向上を図れる。
【0075】
そのうえ、機能ロック部25を介してトルクレンチ10を選択可能状態から選択不能状態に切り替えることができるので、使用者による有効長の選択や設定を禁止することができ、管理性やトレーサビリティの向上を図れる。
【0076】
<その他の実施形態>
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではない。
【0077】
例えば、前記実施形態では、有効長データの一部が任意有効長を示すものであったが、有効長データの全部が規定有効長を示すものであっても良い。
【0078】
また、前記実施形態では、制御機器20に報知部24としての機能を備えさせていたが、トルクレンチ10が報知部24を備えていても良い。
【0079】
さらに、前記実施形態では、トルクレンチ10に締付トルク算出部C2としての機能を備えさせていたが、制御機器20が締付トルク算出部C2を備えていても良い。
【0080】
加えて、前記実施形態のトルクレンチ10は、使用者が任意の有効長を選択できるように構成されていたが、トルクレンチ10側にはそのような選択機能を備えさせずに、制御機器20側でのみ有効長を選択できる構成であっても構わない。
【0081】
そのうえ、判断部C3及び許容範囲記憶部C4は、前記実施形態では制御器Cが備えていたが、図8に示すように、制御機器20に備えさせても良い。
この場合、判断部C3により任意有効長が許容範囲を超えていると判断された場合、その任意有効長を示す有効長データが選択受付部23から締付トルク算出部C2に出力されないように構成されていることが望ましい。
【0082】
さらに、判断部C3は、前記実施形態では選択受付部23が受け付けた有効長データを受信するものであったが、工具側選択受付部C5が受け付けた有効長データを受信して、その有効長データが示す任意有効長が許容範囲を超えているか否かを判断するものであっても良い。
【0083】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0084】
100・・・工具システム
10 ・・・トルクレンチ
S ・・・トルクセンサ
D ・・・ディスプレイ
B ・・・操作ボタン
H ・・・ヘッド
C ・・・制御器
C1 ・・・工具側表示制御部
C2 ・・・締付トルク算出部
20 ・・・制御機器
21 ・・・有効長データ格納部
22 ・・・表示制御部
23 ・・・選択受付部
24 ・・・報知部
25 ・・・機能ロック部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8