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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058382
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/053 20060101AFI20230418BHJP
【FI】
C01G23/053
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168390
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 勝
(72)【発明者】
【氏名】小野 公輔
【テーマコード(参考)】
4G047
【Fターム(参考)】
4G047CA02
4G047CB06
4G047CC03
4G047CD02
4G047CD07
(57)【要約】
【課題】ソルボサーマル法によって高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物と、を含むチタン含有液を準備することと、上記チタン含有液に基板を浸して、ソルボサーマル法によって上記基板の上にアナターゼ型酸化チタン膜を形成することと、を含む、アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物と、を含むチタン含有液を準備することと、
前記チタン含有液に基板を浸して、ソルボサーマル法によって前記基板の上にアナターゼ型酸化チタン膜を形成することと、を含む、
アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項2】
前記チタン含有液を準備することが、前記水と、前記アルコールと、前記ジケトンと、前記酸と、を含む混合物を準備することと、前記混合物と、前記チタンアルコキシドと、前記フッ素原子含有チタン化合物とを混合することと、を含む、請求項1に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項3】
前記アルコールが、エタノールを含む、請求項1又は請求項2に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項4】
前記ジケトンが、β-ジケトンを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項5】
前記ジケトンが、アセチルアセトンを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項6】
前記酸が、ハロゲン化水素を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項7】
前記酸が、塩化水素を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項8】
前記チタンアルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素数が、1個~8個である、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項9】
前記チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドを含む、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項10】
前記フッ素原子含有チタン化合物が、TiF 2-を含む塩を含む、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項11】
前記フッ素原子含有チタン化合物が、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウムを含む、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項12】
前記基板が、LaAlO基板又はSrTiO基板である、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【請求項13】
前記ソルボサーマル法における加熱温度が、110℃~170℃である、請求項1~請求項12のいずれか1項に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは、光触媒及びn型半導体といった様々な技術分野で注目され続けている。例えば、光触媒において、アナターゼ型酸化チタンは、ルチル型酸化チタンよりも高い活性を示すことが知られている。酸化チタンに求められる特性が各用途で異なるため、目的の用途に適した酸化チタンを製造する方法が検討されている。
【0003】
アナターゼ型酸化チタンは、高温でルチル型酸化チタンへ不可逆的に変わるため、アナターゼ型酸化チタンの単結晶の多くは、エピタキシャル成長を利用して製造される。例えば、下記特許文献1は、レーザアブレーション成膜法によって単結晶基板の上にアナターゼ型結晶構造の二酸化チタン単結晶薄膜を作製する方法を開示している。
【0004】
酸化チタンは、水熱合成法といった液相法を利用して製造されることがある。水熱合成法は、ソルボサーマル法に分類される物質合成法である。例えば、下記特許文献2は、アナターゼ型酸化チタン粒子の合成方法を開示している。下記特許文献2に開示された酸化チタン粒子の合成方法は、チタンアルコキシドと水酸基含有アミンとを反応させて酸化チタン源を得る工程と、得られた酸化チタン源を溶解させた水溶液中に、炭素数8以上の有機酸とアミンとを反応させた有機酸アミン塩を添加して水熱合成を行う工程と、を含む。
【0005】
水熱合成法は、複合チタン酸化物膜の製造にも利用されている。例えば、下記特許文献3は、水熱合成法により基板の上に複合チタン酸化物膜を形成する方法を開示している。下記特許文献3において、複合チタン酸化物膜は、パターニングされたTi金属上にのみ選択的に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-030417号公報
【特許文献2】特開2015-059053号公報
【特許文献3】特開平10-182154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
レーザアブレーションといった気相法は、高い製造費用及び高い技術水準の要求といった問題を有する。例えば、気相法は、高価な成膜装置を必要とする。成膜装置が高価であるだけでなく、成膜装置の取り扱いにも高度な理解及び技能が求められる。上記のような問題に加えて、気相法は、大面積で均一な酸化チタン膜の製造に適していない。
【0008】
ソルボサーマル法といった液相法は、上記のような気相法の問題を解決できるかもしれない。しかしながら、酸化チタン膜の製造への従来のソルボサーマル法の応用は、高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜を十分に成長させることできない。
【0009】
本開示の一実施形態の目的は、ソルボサーマル法によって高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物と、を含むチタン含有液を準備することと、上記チタン含有液に基板を浸して、ソルボサーマル法によって上記基板の上にアナターゼ型酸化チタン膜を形成することと、を含む、アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<2> 上記チタン含有液を準備することが、上記水と、上記アルコールと、上記ジケトンと、上記酸と、を含む混合物を準備することと、上記混合物と、上記チタンアルコキシドと、上記フッ素原子含有チタン化合物とを混合することと、を含む、<1>に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<3> 上記アルコールが、エタノールを含む、<1>又は<2>に記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<4> 上記ジケトンが、β-ジケトンを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<5> 上記ジケトンが、アセチルアセトンを含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<6> 上記酸が、ハロゲン化水素を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<7> 上記酸が、塩化水素を含む、<1>~<5>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<8> 上記チタンアルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素数が、1個~8個である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<9> 上記チタンアルコキシドが、チタンテトライソプロポキシドを含む、<1>~<8>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<10> 上記フッ素原子含有チタン化合物が、TiF 2-を含む塩を含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<11> 上記フッ素原子含有チタン化合物が、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウムを含む、<1>~<9>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<12> 上記基板が、LaAlO基板又はSrTiO基板である、<1>~<11>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
<13> 上記ソルボサーマル法における加熱温度が、110℃~170℃である、<1>~<12>のいずれか1つに記載のアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施形態によれば、ソルボサーマル法によって高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜を製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1における酸化チタン膜のXRD図形である。
図2図2は、実施例1における酸化チタン膜の極点図である。
図3図3は、実施例2における酸化チタン膜のXRD図形である。
図4図4は、実施例2における酸化チタン膜の極点図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されない。以下の実施形態は、本開示の目的の範囲内において適宜変更されてもよい。
【0014】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0016】
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけでなく、所期の目的が達成される場合には他の工程と明確に区別できない工程も包含する。
【0017】
本開示において、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中の各成分の量は、組成物中に存在する上記複数の物質の合計量を意味する。
【0018】
本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0019】
<アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法>
以下、本開示に係るアナターゼ型酸化チタン膜の製造方法について説明する。本開示の一実施形態において、アナターゼ型酸化チタン膜の製造方法は、以下の(1)~(2)を含む。
(1)水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物と、を含むチタン含有液を準備すること(以下、「工程(1)」という場合がある。)。
(2)チタン含有液に基板を浸して、ソルボサーマル法によって上記基板の上にアナターゼ型酸化チタン膜を形成すること(以下、「工程(2)」という場合がある。)。
【0020】
上記のような実施形態は、ソルボサーマル法によって高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜を製造する方法を提供する。上記のような酸化チタン膜が得られる理由は、高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の成長に適した環境をチタン含有液が構築するためであると推定される。例えば、酸は、チタン含有液の酸性度を調整することによって、工程(2)において反応中間体(例えば、チタンアルコキシドの加水分解物)の脱水縮合反応の触媒となる。例えば、ジケトンは、チタン含有液においてチタン-ジケトン錯体を形成できる。チタン-ジケトン錯体の形成は、酸の量を多くしなくても、液中のチタン濃度を保つことができる。したがって、ジケトン及び酸の両方ではなく酸のみを使用する場合に比べて、ジケトン及び酸の使用は、酸に起因する基板の溶解を防止又は低減しつつ、チタン含有液において目的のアナターゼ型酸化チタン膜の成長に必要なチタン濃度を実現できる。さらに、フッ素原子含有チタン化合物の使用は、高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の優先的な成長に寄与する。詳細な機構は明らかではないものの、フッ素原子含有チタン化合物におけるフッ素原子の作用が酸化チタン膜の結晶構造及び配向性に影響を及ぼしていると考えられる。したがって、高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜が形成される。
【0021】
[工程(1)]
工程(1)は、水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物と、を含むチタン含有液を準備することである。工程(1)は、チタン含有液を製造することを含んでいてもよい。
【0022】
水は、主に溶媒としての役割を果たす。さらに、水は、工程(2)においてチタンアルコキシドの加水分解に関与する。
【0023】
水としては、例えば、精製水が挙げられる。精製水の製造方法としては、例えば、ろ過、蒸留及びイオン交換が挙げられる。
【0024】
チタン含有液に占める水の割合は、体積基準で、5体積%~45体積%であることが好ましく、15体積%~25体積%であることが更に好ましい。「チタン含有液に占める水の割合」とは、チタン含有液の総量に対するチタン含有液における水の総量の割合を意味する。
【0025】
アルコールは、主に溶媒としての役割を果たす。さらに、アルコールは、工程(2)においてチタンアルコキシドの加水分解の促進に寄与できる。チタンアルコキシドの加水分解の促進は、チタンアルコキシドにおける少なくとも1つのアルコキシ基がアルコールに由来のアルコキシ基によって置換されることに起因すると考えられる。
【0026】
アルコールとしては、例えば、脂肪族アルコール及び芳香族アルコールが挙げられる。脂肪族アルコールは、飽和脂肪族アルコール又は不飽和脂肪族アルコールであってもよい。脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(別名:イソプロパノール)、2-メチル-1-プロパノール(別名:イソブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(別名:tert-ブチルアルコール)、1-ブタノール及び2-ブタノールが挙げられる。芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコールが挙げられる。溶解性、混和性及び工程(2)におけるチタンアルコキシドの加水分解の促進の観点から、アルコールは、脂肪族アルコールを含むことが好ましく、エタノール及び2-プロパノールからなる群より選択される少なくとも1つを含むことが好ましく、エタノールを含むことが更に好ましい。
【0027】
溶解性、混和性及び工程(2)におけるチタンアルコキシドの加水分解の促進の観点から、アルコールの炭素数は、1個~8個であることが好ましく、1個~6個であることがより好ましく、2個~4個であることが更に好ましい。
【0028】
チタン含有液は、1種又は2種以上のアルコールを含んでいてもよい。
【0029】
溶解性、混和性及び工程(2)におけるチタンアルコキシドの加水分解の促進の観点から、チタン含有液に占めるアルコールの割合は、体積基準で、5体積%~45体積%であることが好ましく、15体積%~25体積%であることが更に好ましい。「チタン含有液に占めるアルコールの割合」とは、チタン含有液の総量に対するチタン含有液におけるアルコールの総量の割合を意味する。
【0030】
溶解性及び加水分解速度制御の観点から、チタン含有液においてチタンアルコキシドの含有量に対するアルコールの含有量の比は、体積基準で、10~50であることが好ましく、15~30であることが好ましい。
【0031】
ジケトンは、主に、チタン含有液においてチタン-ジケトン錯体を形成して目的のアナターゼ型酸化チタン膜の成長に必要なチタン濃度を保つという役割を果たす。ジケトンは、溶媒としての役割も果たす。
【0032】
ジケトンとしては、例えば、β-ジケトン及びγ-ジケトンが挙げられる。β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトン(別名:2,4-ペンタンジオン)及びメチルアセチルアセトン(別名:3-メチル-2,4-ペンタンジオン)が挙げられる。γ-ジケトンとしては、例えば、2,5-ヘキサンジオンが挙げられる。
【0033】
ジケトンに含まれる少なくとも1つのカルボニル基(-CO-)は、エステル結合(-COO-)の一部であってもよい。例えば、本開示における用語「ジケトン」は、β-ケトエステルを包含する。β-ケトエステルとしては、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセト酢酸tert-ブチルが挙げられる。
【0034】
チタン-ジケトン錯体の形成性の観点から、ジケトンは、β-ジケトンを含むことが好ましく、アセチルアセトン及びアセト酢酸エチルからなる群より選択される少なくとも1つを含むことがより好ましく、アセチルアセトンを含むことが更に好ましい。
【0035】
チタン-ジケトン錯体の形成性の観点から、ジケトンの炭素数は、5個~10個であることが好ましく、5個~8個であることがより好ましく、5個~6個であることが更に好ましい。
【0036】
チタン含有液は、1種又は2種以上のジケトンを含んでいてもよい。
【0037】
酸に起因する基板の溶解を防止又は低減しつつ、チタン含有液において目的のアナターゼ型酸化チタン膜の成長に必要なチタン濃度を保つ観点から、チタン含有液に占めるジケトンの割合は、体積基準で、15体積%~50体積%であることが好ましく、35体積%~50体積%であることが更に好ましい。「チタン含有液に占めるジケトンの割合」とは、チタン含有液の総量に対するチタン含有液におけるジケトンの総量の割合を意味する。
【0038】
チタン-ジケトン錯体の形成性の観点から、チタン含有液においてチタンアルコキシドの含有量に対するジケトンの含有量の比は、物質量基準で、3~200であることが好ましく、6~100であることが更に好ましい。
【0039】
酸は、主に、チタン含有液の酸性度を調整することによって、工程(2)において反応中間体(例えば、チタンアルコキシドの加水分解物)の脱水縮合反応の触媒としての役割を果たす。
【0040】
酸としては、例えば、リン酸(HPO)、硝酸(HNO)、硫酸(HSO)、酢酸(CHCOOH)及びハロゲン化水素が挙げられる。ハロゲン化水素としては、例えば、塩化水素及び臭化水素が挙げられる。チタン含有液の製造において、ハロゲン化水素は、ハロゲン化水素の水溶液として添加されることが好ましい。例えば、塩化水素の水溶液は、塩酸と呼ばれる。効率的な高配向膜の成長の観点から、酸は、ハロゲン化水素を含むことが好ましく、塩化水素を含むことがより好ましい。
【0041】
チタン含有液は、1種又は2種以上の酸を含んでいてもよい。
【0042】
酸に起因する基板の溶解を防止又は低減しつつ、工程(2)における反応中間体の脱水縮合反応を促進する観点から、25℃でのチタン含有液のpHは、2~4であることが好ましく、2~2.5であることが更に好ましい。チタン含有液のpHは、25℃のチタン含有液を用いて市販のpH試験紙で測定される。市販のpH試験紙としては、例えば、「スティックpH試験紙 pH0-14.0(MACHEREY-NAGEL社)」が挙げられる。
【0043】
チタンアルコキシドは、酸化チタン源の役割を果たす。チタンアルコキシドは、工程(2)において加水分解及び脱水縮合を経て酸化チタンを形成する。
【0044】
チタンアルコキシドとしては、例えば、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド及びチタンテトラtert-ブトキシドが挙げられる。工程(2)におけるチタンアルコキシドの加水分解性の観点から、チタンアルコキシドは、チタンテトライソプロポキシドを含むことが好ましい。
【0045】
工程(2)におけるチタンアルコキシドの加水分解性の観点から、チタンアルコキシドにおけるアルコキシ基の炭素数は、1個~8個であることが好ましく、2個~8個であることがより好ましく、2個~6個であることが更に好ましい。チタンアルコキシドが複数のアルコキシ基を含む場合、「アルコキシ基の炭素数」は「各アルコキシ基の炭素数」を指す。
【0046】
チタン含有液は、1種又は2種以上のチタンアルコキシドを含んでいてもよい。
【0047】
工程(2)における酸化チタン膜の成長を促進する観点から、チタン含有液に占めるチタンアルコキシドの割合は、体積基準で、1.5体積%~5体積%であることが好ましく、1.5体積%~3体積%であることが更に好ましい。「チタン含有液に占めるチタンアルコキシドの割合」とは、チタン含有液の総量に対するチタン含有液におけるチタンアルコキシドの総量の割合を意味する。
【0048】
十分な膜厚を持ったアナターゼ型酸化チタン膜作製の観点から、チタン含有液においてのフッ素含有チタン化合物含有量に対するチタンアルコキシドの含有量の比は、体積基準で、2/3~2であることが好ましく、1~2であることが更に好ましい。
【0049】
フッ素原子含有チタン化合物は、主に、高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の優先的な成長に寄与するという役割を果たす。
【0050】
フッ素原子含有チタン化合物としては、例えば、TiF 2-を含む塩が挙げられる。TiF 2-の対イオンとしては、例えば、金属イオン及びアンモニウムイオンが挙げられる。TiF 2-を含む塩としては、例えば、ヘキサフルオロチタン酸ナトリウム(NaTiF)、ヘキサフルオロチタン酸カリウム(KTiF)及びヘキサフルオロチタン酸アンモニウム((NHTiF)が挙げられる。高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の優先的な成長の観点から、フッ素原子含有チタン化合物は、TiF 2-を含む塩を含むことが好ましく、ヘキサフルオロチタン酸アンモニウムを含むことがより好ましい。
【0051】
チタン含有液は、1種又は2種以上のフッ素原子含有チタン化合物を含んでいてもよい。
【0052】
高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の優先的な成長の観点から、チタン含有液に占めるフッ素原子含有チタン化合物の割合は、体積基準で、0.8体積%~3.5体積%であることが好ましく、1体積%~2体積%であることが更に好ましい。「チタン含有液に占めるフッ素原子含有チタン化合物の割合」とは、チタン含有液の総量に対するチタン含有液におけるフッ素原子含有チタン化合物の総量の割合を意味する。
【0053】
高配向性を有するアナターゼ型酸化チタン膜の優先的な成長の観点から、チタン含有液においてチタンアルコキシドの含有量に対するフッ素原子含有チタン化合物の含有量の比は、体積基準で、0.5~1.5であることが好ましく、0.5~1であることが更に好ましい。
【0054】
チタン含有液は、本開示の趣旨を逸脱しない限り、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、硝酸塩及び他の金属アルコキシドが挙げられる。
【0055】
目的の酸化チタン膜を製造可能なチタン含有液が得られる限り、チタン含有液の製造方法は制限されない。例えば、チタン含有液は、水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物とを混合することによって製造される。混合方法は、公知の混合方法から選択されてもよい。各原材料の添加は、一度に又は数回に分けて実施されてもよい。
【0056】
工程(1)、すなわち、チタン含有液を準備することは、以下の(1)~(2)を含むことが好ましい。
(1)水と、アルコールと、ジケトンと、酸と、を含む混合物(以下、「混合物(A)」という場合がある。)を準備すること。
(2)混合物(A)と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物とを混合すること。
【0057】
例えば、混合物(A)は、水と、アルコールと、ジケトンと、酸とを混合することによって製造される。混合方法は、公知の混合方法から選択されてもよい。各原材料の添加は、一度に又は数回に分けて実施されてもよい。ジケトン及び酸は、水と、アルコールと、を含む混合物に添加されることが好ましい。さらに、酸の添加は、ジケトンの添加後に実施されることが好ましい。
【0058】
混合物(A)と、チタンアルコキシドと、フッ素原子含有チタン化合物とを混合する方法は、公知の混合方法から選択されてもよい。液体の均一性の観点から、混合時間は、5時間~10時間であることが好ましい。各原材料の添加は、一度に又は数回に分けて実施されてもよい。チタンアルコキシド及びフッ素原子含有チタン化合物は、混合物(A)に添加されることが好ましい。さらに、フッ素原子含有チタン化合物の添加は、チタンアルコキシドの添加後に実施されることが好ましい。
【0059】
[工程(2)]
工程(2)は、チタン含有液に基板を浸して、ソルボサーマル法によって上記基板の上にアナターゼ型酸化チタン膜を形成することである。
【0060】
基板としては、例えば、LaAlO基板及びSrTiO基板が挙げられる。酸化チタン膜の配向性の観点から、基板は、LaAlO基板又はSrTiO基板であることが好ましく、LaAlO基板であることがより好ましく、(001)面配向のLaAlO基板であることが更に好ましい。基板の表面(好ましくは酸化チタン膜が形成される表面)は、鏡面仕上げを施されていてもよい。
【0061】
チタン含有液及び基板を収容するための反応装置としては、例えば、耐熱性及び耐圧性の容器が挙げられる。耐熱性及び耐圧性の容器としては、例えば、オートクレーブが挙げられる。オートクレーブは、公知のオートクレーブであってもよい。耐熱性及び耐圧性の容器は、坩堝を収容していてもよい。例えば、耐熱性及び耐圧性の容器の中に配置された坩堝は、チタン含有液及び基板を収容するための容器として使用される。坩堝の成分としては、例えば、フッ素樹脂が挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0062】
目的の酸化チタン膜が得られる限り、ソルボサーマル法の条件(例えば、加熱温度及び加熱時間)は制限されない。目的の酸化チタン膜の成長の観点から、ソルボサーマル法における加熱温度は、110℃~170℃であることが好ましく、120℃~160℃であることがより好ましい。目的の酸化チタン膜の成長の観点から、ソルボサーマル法における加熱時間は、15時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましい。加熱時間の上限は、48時間又は30時間であってもよい。加熱時間は、酸化チタン膜の厚さを考慮して決定されてもよい。
【0063】
ソルボサーマル法によって形成されたアナターゼ型酸化チタン膜は、洗浄されてもよい。洗浄に使用される溶剤としては、例えば、アルコール及び水が挙げられる。
【0064】
ソルボサーマル法によって形成されたアナターゼ型酸化チタン膜は、乾燥されてもよい。乾燥方法としては、例えば、加熱乾燥が挙げられる。
【0065】
アナターゼ型酸化チタン膜の厚さは、制限されない。アナターゼ型酸化チタン膜の厚さは、用途を考慮して決定されてもよい。アナターゼ型酸化チタン膜の厚さは、0.2μm~3μmであってもよい。
【0066】
アナターゼ型酸化チタン膜のX線回折パターンにおいて、アナターゼ型酸化チタンの(004)面に由来のピークの強度に対するルチル型酸化チタンの(211)面に由来のピークの強度の割合は、5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが更に好ましい。さらに、上記の比は、2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。上記の比は、0%であってもよい。
【0067】
アナターゼ型酸化チタン膜の用途としては、例えば、光触媒及びn型半導体が挙げられる。
【実施例0068】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0069】
<実施例1>
[酸化チタン膜の製造]
以下の手順に従って、酸化チタン膜を製造した。
(1)精製水14.5mLとエタノール15mLとを混合して、5分間攪拌した。
(2)上記(1)で得られた混合物にアセチルアセトン30mLを添加し、次に、得られた混合物を5分間攪拌した。
(3)上記(2)で得られた混合物に12mol/Lの塩酸51μLを添加し、次に、得られた混合物を5分間攪拌した。
(4)上記(3)で得られた混合物にチタンテトライソプロポキシド1mLを200μmずつ5回に分けて添加した。得られた混合物を5分間攪拌すると、黄色の透明液体が得られた。
(5)上記(4)で得られた黄色の透明液体に1mol/Lのヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液1mLを添加した。得られた混合物を10時間攪拌し、チタン含有液を得た。25℃でのチタン含有液のpHは、2~2.5の範囲内である。
(6)片面鏡面仕上げのLaAlO(001)基板を2枚準備した。各LaAlO基板を、アセトン、エタノール及び精製水の順番で各溶剤を用いて超音波洗浄した。溶剤ごとの洗浄時間は、15分間である。LaAlO基板の鏡面仕上げが施された表面に付着した液体を送風機で除去し、LaAlO基板の鏡面仕上げが施されていない表面に付着した液体をふき取った。
(7)上記(5)で得られたチタン含有液を100mLの容量を有するテフロン(登録商標)製坩堝に注ぎ、次に、洗浄後の2枚のLaAlO基板をチタン含有液に浸した。各LaAlO基板の配置に関して、各LaAlO基板は、テフロン(登録商標)製坩堝の内壁面に立てかけられており、各LaAlO基板の鏡面仕上げが施された表面は、テフロン(登録商標)製坩堝の底に向けられている。各LaAlO基板の鏡面仕上げが施された表面がテフロン(登録商標)製坩堝の底に向けられると、酸化チタン膜に不純物が付着又は混入することが防止される。
(8)テフロン(登録商標)製坩堝をステンレス製オートクレーブに入れて、140℃で24時間加熱することで、LaAlO基板の鏡面仕上げが施された表面に酸化チタン膜を形成した。加熱終了後、オートクレーブを室温になるまで自然冷却した。テフロン(登録商標)製坩堝から取り出されたLaAlO基板をエタノール及び精製水ですすぎ、ホットプレート上で乾燥させた。得られた酸化チタン膜の厚さは、約2.5μmである。
【0070】
[X線回折法]
X線回折法によって酸化チタン膜の結晶相、結晶性及び配向性を評価した。測定装置は、株式会社リガク製のX線回折装置(RINT Ultima III)である。測定条件を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
以下、「θ/2θスキャン」の測定結果を「XRD図形」(すなわち、X線回折パターン)という。X線回折法では、CuKα線及びCuKβ線を特別の分離操作を行わずに使用したため、XRD図形において2種類のX線を反映したピークが生じる。そこで、XRD図形において、CuKβ線に起因するピークを「CuKβ」と明記する。一方、XRD図形において面指数以外の特定の表記が示されてないピークは、CuKα線に起因するピークである。
【0073】
酸化チタン膜のXRD図形を図1に示す。酸化チタン膜の極点図を図2に示す。図1には、アナターゼ型酸化チタンが優先的に成長していることを示している。アナターゼ型酸化チタンの(004)面に由来のピークの強度に対するルチル型酸化チタンの(211)面に由来のピークの強度の割合は、約1%であった。図1及び図2は、アナターゼ型酸化チタンが面直方向及び面内方向の3軸すべての方向に良好な配向性を有していることを示している。気相法で作製された公知例と同様に、面直方向にアナターゼ型酸化チタンのc軸が揃い、面内方向にアナターゼ型酸化チタンのa軸が揃っている。すなわち、酸化チタン膜は、基板の結晶格子を引き継いで成長しており、エピタキシャル成長している。
【0074】
<実施例2>
[酸化チタン膜の製造]
ステンレス製オートクレーブにおける加熱温度を140℃から160℃に変更したこと以外は、既述の実施例1と同じ手順によって酸化チタン膜を製造した。得られた酸化チタン膜の厚さは、約2.5μmである。
【0075】
[X線回折法]
既述のX線回折法によって酸化チタン膜の結晶相、結晶性及び配向性を評価した。酸化チタン膜のXRD図形を図3に示す。酸化チタン膜の極点図を図4に示す。図1及び図2と同様に、図3及び図4は、アナターゼ型酸化チタンが優先的に成長していること、そして、アナターゼ型酸化チタンが面直方向及び面内方向の3軸すべての方向に良好な配向性を有していることを示している。アナターゼ型酸化チタンの(004)面に由来のピークの強度に対するルチル型酸化チタンの(211)面に由来のピークの強度の割合は、約1%であった。XRD図形及び極点図において、実施例1の酸化チタン膜と実施例2の酸化チタン膜との間で大きな差異は観察されなかった。
【0076】
<比較例1>
ヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液を使用しなかったこと、及びヘキサフルオロチタン酸アンモニウム水溶液の不使用によって不足した体積を精製水で補ったこと以外は、実施例1と同じ手順によって酸化チタン膜の製造を試みた。しかしながら、XRD図形において基板のLaAlOに由来のピークのみが観察された。この結果は、酸化チタン膜が形成されていないことを示す。
【0077】
<比較例2>
塩酸を使用しなかったこと、及び塩酸の不使用によって不足した体積を精製水で補ったこと以外は、実施例1と同じ手順によって酸化チタン膜の製造を試みた。しかしながら、XRD図形において基板のLaAlOに由来のピークのみが観察された。この結果は、酸化チタン膜が形成されていないことを示す。
図1
図2
図3
図4