(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058407
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】p-フェニレンジアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 209/06 20060101AFI20230418BHJP
C07C 211/51 20060101ALI20230418BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230418BHJP
【FI】
C07C209/06
C07C211/51
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178671
(22)【出願日】2021-11-01
(62)【分割の表示】P 2021168006の分割
【原出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】393021967
【氏名又は名称】イハラニッケイ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(71)【出願人】
【識別番号】521504522
【氏名又は名称】CEM株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】樋口 靖
(72)【発明者】
【氏名】山本 彩人
(72)【発明者】
【氏名】植野 僚
(72)【発明者】
【氏名】手束 惣一
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC52
4H006BA05
4H006BA47
4H006BB31
4H006BC34
4H006BD36
4H006BD52
4H006BE14
4H039CA71
4H039CD20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】副生成物の生成を抑えて、高収率且つ高純度にp-フェニレンジアミンを得ることができるp-フェニレンジアミンの製造方法および銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】p-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅原子のモル量が少なくとも0.01倍となる量の銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、前記p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得ることを含む、p-フェニレンジアミンの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
p-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅原子のモル量が少なくとも0.01倍となる量の銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、前記p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得ることを含む、p-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項2】
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、銅原子のモル量に対し、8-キノリノールのモル量が0.6~2.1倍である、請求項1に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項3】
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、銅原子のモル量に対し、8-キノリノールのモル量が1.0~2.0倍である、請求項1又は2に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項4】
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、ビス(8-キノリノラト)銅を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項5】
前記p-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅原子のモル量が0.01~0.3倍となる量の銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、当該p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させる、請求項1~4のいずれか1項に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項6】
前記p-ジハロベンゼンは、p-ジクロロベンゼンである、請求項1~5のいずれか1項に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法における前記銅8-キノリノール錯体触媒を、前記反応後に回収し、回収した銅8-キノリノール錯体触媒を化学反応に再利用することを含む、銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法。
【請求項8】
前記化学反応が、p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得る反応である、請求項7に記載のリサイクル方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のリサイクル方法を経てp-フェニレンジアミンを得ることを含む、p-フェニレンジアミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p-フェニレンジアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
p-フェニレンジアミンは、高分子材料、医薬品又は染料の原料として有用な化合物であり、近年は耐熱性ポリアミド化合物、とりわけアラミドの原料として着目されている。上記p-フェニレンジアミンは、p-ジクロロベンセンとアンモニア水とを、銅化合物を触媒として反応させることにより得ることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、p-ジクロロベンゼンに2倍モルの塩化第二銅二水塩の存在下、約50倍モルの28%アンモニア水と、210℃以上の高温で数時間加熱することで、収率90%でp-フェニレンジアミンが得られることが記載されている。
また、特許文献2には、比較的低濃度のp-ジクロロベンゼンの仕込みのもとで、塩化アンモニウムを添加すると同時に、p-ジクロロベンゼンに対するアンモニアのモル比を上げることによりp-ヒドロキシアニリン等の副生成物の生成を抑えてp-フェニレンジアミンの収率向上を図ることが記載されている。
さらに、特許文献3には、芳香族ジハライドに対し2倍モル以上の水と銅の酸化物や塩化物からなる触媒の存在下で反応開始時の水相のアンモニアを40~70重量%の高濃度とし、200℃、9.2Mpa程度の高温高圧で反応させることで、ほぼ100%のp-ジクロロベンゼン転化率で90%以上の高収率でp-フェニレンジアミンを得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭51-095026号公報
【特許文献2】特開昭56-016449号公報
【特許文献3】特開昭53-077023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法は、p-ジクロロベンゼンに対し、多量の触媒が必要であり、中間体(前駆体)のp-クロロアニリンの残存も多い問題がある。
また、特許文献2に記載の方法は、p-フェニレンジアミンの収量が5重量%程度で生産性が低く、さらに触媒の使用量が多い上、そのまま回収、再使用することも容易ではなく、製品のコストアップに繋がる問題がある。
さらに、特許文献3に記載の方法は、高濃度のアンモニア水を、液体アンモニアと水から耐圧容器中で調整しなければならず、さらに高価な高耐圧の反応器も必要となり、設備費用が嵩む問題がある。
【0006】
上述したように、従来の方法は工業化に際し種々の点で問題があり、p-ジクロロベンゼン及びアンモニア水がいずれも安価に入手可能で経済的でありながらもこれまで本格的な商業生産に繋がらなかった。その理由として次の問題点が指摘されている。
(1)選択性及び収率向上のために高濃度、且つ、p-ジクロロベンゼンに対し高モル比のアンモニアが必要となり、液体アンモニアを用いる高圧反応となって高耐圧の反応器により設備コストが嵩むほか、反応器中のフェニレンジアミン濃度も低下して生産性も低下してしまう点。
(2)銅触媒が還元的に分解されて失活しやすいために、p-ジクロロベンゼン対する触媒の添加量を多くする必要があり、触媒の回収・再使用も難しく、触媒由来の廃棄物が多く副生する点。
【0007】
上記の事情に鑑み、本発明は、副生成物の生成を抑えて、高収率且つ高純度にp-フェニレンジアミンを得ることができるp-フェニレンジアミンの製造方法および銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、p-ジクロロベンゼンとアンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得るに当たり、触媒として銅8-キノリノール錯体触媒の存在下で反応させることによって、比較的低濃度のアンモニア水でも、また、比較的穏やかな反応条件としても、副成物の生成が抑えられ、高収率且つ高純度に目的のp-フェニレンジアミンが得られることを見出した。
本発明は、この方法を詳細に検討することで完成させたものである。
【0009】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決される。
[1]
p-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅原子のモル量が少なくとも0.01倍となる量の銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、前記p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得ることを含む、p-フェニレンジアミンの製造方法。
[2]
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、銅原子のモル量に対し、8-キノリノールのモル量が0.6~2.1倍である、[1]に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
[3]
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、銅原子のモル量に対し、8-キノリノールのモル量が1.0~2.0倍である、[1]又は[2]に記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
[4]
前記銅8-キノリノール錯体触媒は、ビス(8-キノリノラト)銅を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
[5]
前記p-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅原子のモル量が0.01~0.3倍となる量の銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、当該p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させる、[1]~[4]のいずれか1つに記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
[6]
前記p-ジハロベンゼンは、p-ジクロロベンゼンである、[1]~[5]のいずれか1つに記載のp-フェニレンジアミンの製造方法。
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載のp-フェニレンジアミンの製造方法における前記銅8-キノリノール錯体触媒を、前記反応後に回収し、回収した銅8-キノリノール錯体触媒を化学反応に再利用することを含む、銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法。
[8]
前記化学反応が、p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得る反応である、[7]に記載のリサイクル方法。
[9]
[7]又は[8]に記載のリサイクル方法を経てp-フェニレンジアミンを得ることを含む、p-フェニレンジアミンの製造方法。
【0010】
本発明において、「~」を用いて表される数値範囲は、その数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。例えば、「A~B」と記載されている場合、その数値範囲は、「A以上B以下」である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、副生成物の生成を抑えて、高収率且つ高純度にp-フェニレンジアミンを得ることができるp-フェニレンジアミンの製造方法および銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のp-フェニレンジアミンの製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)について、その好ましい一実施形態に基づき詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、銅8-キノリノール錯体触媒の存在下、p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得ることを含む。
本発明の製造方法における上記反応について、p-ジハロベンゼンがp-ジクロロベンゼン(PDCB)の場合を例にして、以下に反応式を示す。この反応により、p-フェニレンジアミン(PPDA)を得ることができる。なお、本発明は本発明で規定すること以外は、下記反応に限定されるものではない。
【0014】
【0015】
上記の銅8-キノリノール錯体触媒は、下記式(2)で表される銅錯体化合物であり、m個の銅原子に対してn個の8-キノリノールが配位結合しており、銅原子に対する8-キノリノールの平均配位数(n/m)は0.6~2.1が好ましく、より好ましくは1.0~2.0である。単一化学種である銅8-キノリノール錯体としては、n/mが2に相当するビス(8-キノリノラト)銅(通称オキシン銅)が挙げられる。
【0016】
【0017】
銅8-キノリノール錯体触媒は、無機の銅塩と8-キノリノールを用いて調製することができ、この銅8-キノリノール錯体触媒を上記反応系に加えることができる。また、無機の銅塩と、8-キノリノールとをそれぞれ別個に上記反応系に加えることによって、反応系内で銅8-キノリノール錯体触媒を生成する形態とすることもできる。
無機の銅塩としては、例えば、一価又は二価の銅化合物が挙げられる。このような銅化合物としては、例えば、酸化第一銅、酸化第二銅、塩化第一銅又は硫酸銅(II)などが好適である。
反応系において、銅8-キノリノール錯体触媒は、この触媒を構成する銅原子のモル量に対し8-キノリノールのモル量が、上記の通り、8-キノリノール/銅原子=0.6~2.1であることが好ましく、8-キノリノール/銅原子=1.0~2.0であることがより好ましい。この8-キノリノール/銅原子のモル量の割合(モル比)は、反応系に、無機の銅塩と、8-キノリノールとをそれぞれ別個に添加する場合には、無機の銅塩を構成する銅原子のモル量に対し8-キノリノールのモル量を、8-キノリノール/銅原子=0.6~2.1として銅8-キノリノール錯体触媒が形成されることが好ましいことを意味し、8-キノリノール/銅原子=1.0~2.0として銅8-キノリノール錯体触媒が形成されることがより好ましいことを意味する。
例えば、8-キノリノール/銅塩=2であるビス(8-キノリノラト)銅(市販名:オキシン銅)は銅8-キノリノール錯体触媒として好適である。
【0018】
上記反応の触媒として作用する銅8-キノリノール錯体触媒の添加量は、原料のp-ジハロベンゼンのモル量に対して、銅8-キノリノール錯体触媒に含まれる銅原子のモル量が、銅原子/p-ジハロベンゼン≧0.01となる量であり、銅原子/p-ジハロベンゼン=0.01~0.3となる量が好ましく、銅原子/p-ジハロベンゼン=0.05~0.2となる量がより好ましい。このような量比とすることにより、反応速度をより早めることができ、また、高沸点物の副生をより抑えることができる。反応系に、無機の銅塩と、8-キノリノールとをそれぞれ別個に添加する場合には、上記銅原子のモル量は、添加する無機の銅塩を構成する銅原子のモル量である。
【0019】
上記反応に用いられるアンモニア水は、比較的低濃度のもので所望の反応を十分に進めることができる。アンモニア水の濃度は、10~50重量%であることが好ましく、20~35重量%であることがより好ましい。28%以上の高濃度のアンモニア水については、密閉容器内で水又は市販の28%アンモニア水に液体アンモニアを添加混合して調整し、用いられる。本発明では、比較的低濃度のアンモニア水の使用で足りるため、厳しい高圧条件下の反応を要さず、それゆえ反応中の反応液の漏洩を生じにくく、また、高耐圧の反応器も不要で装置費用面でも有利である。
【0020】
上記反応において、原料のp-ジハロベンゼンのモル量に対する、アンモニア水中のアンモニアのモル量は、アンモニア/p-ジハロベンゼン=6~50とすることが好ましく、アンモニア/p-ジハロベンゼン=6~30とすることがより好ましく、アンモニア/p-ジハロベンゼン=10~20とすることがさらに好ましく、アンモニア/p-ジハロベンゼン=8~20とすることが特に好ましい。この範囲内とすることにより、ジアノジフェニルアミン等が高沸点の副生物の生成をより抑えて目的のp-フェニレンジアミンの収率をより高めることができ、また、反応液中に生成する目的のp-フェニレンジアミンの濃度も十分に高めることができる。
【0021】
上記反応では、反応に関与しない不活性な有機溶媒が用いられてもよい。この場合、当該有機溶媒は、銅8-キノリノール錯体触媒を反応液中で均一に分散させて上記反応の進行を促進させる効果がある。当該有機溶媒としては、例えば、トルエンやキシレン等の炭化水素類、又は、THF(テトラヒドロフラン)やシクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類等が用いられる。
【0022】
上記反応の反応温度は、150~230℃が好ましく、170~210℃がより好ましい。所望の反応の進行には一定の高温を要するが、本発明の製造方法では比較的穏やかな高温条件を採用することができ、結果、高圧条件も回避することができる。したがって、高価な高耐圧反応器が不要となり、また、アニリン等の低沸点の副生物や、タール状の高沸点の副生物の生成も、より抑えることができる。
上記反応では、p-ジハロベンゼンから、前駆体(中間体)として例えばクロロアニリン等を経由して、目的のp-フェニレンジアミンが生成されることから、反応温度を上記の150~230℃、好ましくは170~210℃の範囲内で段階的に昇温して、反応を段階的に進行させてもよい。
【0023】
上記反応の反応圧力は、反応温度とアンモニア水の濃度に応じて適宜決定される。装置費用等の経済的な観点から、2~9MPaが好ましく、3~6MPaがより好ましい。反応時間は、反応温度及び触媒濃度等の各種条件によって異なるが、通常は、例えば2~10時間である。
【0024】
上記反応は、撹拌機付きのオートクレーブ等の圧力容器による回分式操作、又は、スタティックミキサー等の流通系反応器による連続式操作のいずれでも実施可能である。上記反応においては、原料のp-ジハロベンゼン、アンモニア水及び触媒(銅8-キノリノール錯体)が、不均一系で分散しながら反応が進行するので、撹拌機付きの回分式の反応器、又はスタティックミキサー等の連続式の反応器等で混合させながら原料を完全に反応させるのが好適である。
【0025】
回分式の操作では、撹拌機付きのオートクレーブに、p-ジハロベンゼン、触媒(銅8-キノリノール錯体)及びアンモニア水を加えて密閉し、所定温度で所定時間攪拌した後、室温(例えば25℃)まで冷却する。続いて、反応液を取り出して水酸化ナトリウム等の苛性アルカリで中和した後、アンモニアと水分を蒸留により除去し、これらが除去された反応液を濃縮する。次いで、得られた濃縮物から目的物をジクロロメタン等の有機溶媒を用いて抽出した後、残渣を濾別する。続いて、濾液の抽出液から溶媒を除去しながら濃縮することよって目的物の粗体を得て、さらに、この粗体を減圧蒸留により精製する。濾過残渣(濾物)には、触媒(銅8-キノリノール錯体)や無機塩(例えば塩化ナトリウム)等が含まれる。無機塩は当該残渣を水洗することにより除去することができる。また、触媒は、無機塩が水洗により除去された後、乾燥して回収することができる。すなわち、本発明の製造方法では、触媒である銅8-キノリノール錯体が反応中に失活しにくく、回収し、化学反応の触媒として再利用することができる。また、この化学反応として本発明の製造方法を適用すれば、繰り返しの反応において触媒を再利用でき、繰り返してp-フェニレンジアミンを得る反応全体として、銅8-キノリノール錯体触媒の使用量を大きく抑えることができる。結果、環境負荷を低減することができ、コスト面でも有利である。このことは、後述する流通連続式の操作でも同様である。
なお、本発明の製造方法では、銅8-キノリノール錯体触媒としてビス(8-キノリノラト)銅が採用された場合、回収された触媒は、ビス(8-キノリノラト)銅のうち8-キノリノールが一部脱離した構造のものを含むと考えられるが、この回収触媒中の銅に対する8-キノリノールのモル比が0.6から2.1の範囲であれば触媒活性が十分あり、化学反応の触媒としてそのまま再利用可能である。
【0026】
換言すれば、本発明によれば、本発明の製造方法に関連し、次のリサイクル反応が提供される。
本発明の製造方法における上記銅8-キノリノール錯体触媒を、上記反応後に回収し、回収した銅8-キノリノール錯体触媒を化学反応に再利用することを含む、銅8-キノリノール錯体触媒のリサイクル方法。
上記化学反応が、p-ジハロベンゼンと、アンモニア水とを反応させてp-フェニレンジアミンを得る反応である、上記のリサイクル方法。
【0027】
流通連続式の操作では、例えばスタティックミキサー等の反応器に、所定の温度まで加熱されたp-ジハロベンゼン(例えばPDCB)と触媒(銅8-キノリノール錯体)のスラリー混合物を連続的に供給し、所定の滞留時間経過後に流出した反応液から、上述した回分式の操作と同様の操作により、目的物の粗体を得る。次いで、得られた粗体を蒸留生成することより、高純度の目的物が得られる。
【0028】
続いて、本発明の製造方法において使用するp-ジハロベンゼンの好ましい構造について説明する。
【0029】
本発明においてp-ジハロベンゼンは、下記式(1)で表される化合物である。
【0030】
【0031】
式(1)中、Xはそれぞれ独立にハロゲン原子を示す。このハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、臭素原子、塩素原子及びヨウ素原子が挙げられ、なかでも塩素原子が好ましい。式(1)中の2つのXは、通常は同じハロゲン原子である。
すなわち、式(1)のp-ジハロベンゼンはp-ジクロロベンゼンが好ましい。
【0032】
p-フェニレンジアミンは、上記式(1)のp-ジハロベンゼンから導かれる、下記式(3)で表される化合物である。
【0033】
【実施例0034】
以下に、本発明を、実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[実施例1]
磁気誘導式撹拌機、圧力計及び内温測定用熱電対を備えた内容積750mlのSUS316製オートクレーブに、p-ジクロロベンゼン80.0g(0.544モル)、28%アンモニア水445.0g(アンモニア:7.317モル)及びオキシン銅19.2g(銅原子:0.054モル、銅原子/p-ジクロロベンゼン=0.1)投入した後、密閉し、攪拌しながら昇温させた。次に、内温185℃で3時間反応させた後、内温195℃に昇温し、さらに4時間反応させて終了した。内温185℃で3時間反応させている間の内圧は、4.6MPaから3.9MPaまで下降した。また、内温195℃で4時間反応させている間の内圧は、4.4MPaから4.1MPaまで下降した。
次いで、反応終了後のオートクレーブを室温(25℃)まで冷却してから、反応液を抜き出した。続いて、この反応液に水酸化ナトリウム51.6gを添加して、副生した塩化アンモニウムを中和し、アンモニアや副生したアミン類を遊離させた後、反応液からアンモニアと水分を蒸留により除去し、これらが除去された反応液を濃縮乾固した。
【0036】
塩化アンモニウムを水酸化ナトリウムにより中和する反応は、下記反応式(4)により表される。この反応により生成されたアンモニア(NH3)と水分は上述のとおり蒸留により除去され、回収も可能である。
NH4Cl+NaOH→NaCl+NH3+H2O (4)
【0037】
続いて、濃縮乾固物にジクロロメタン500gを加えて反応生成物を抽出した後、残渣を濾別した。次に、濾液の抽出液(有機相)を蒸留濃縮してから減圧乾燥し、p-フェニレンジアミンの粗体51.0gを得た。
次いで、濾別により得られた残渣を温水により洗浄することで上述したNaClを除去し、減圧乾燥させて触媒回収物15.0gを得た。この回収物を分析したところ、回収物には銅原子が0.049モル、8-キノリノールが0.073モル含まれ、銅原子に対して8-キノリノールがモル比で約1.5倍含まれていた。
続いて、p-フェニレンジアミンの粗体を真空蒸留器に投入し、6~10mmHgの減圧下、145~150℃の温度で蒸留することにより、p-フェニレンジアミンの精製品41.2g(ガスクロマトグラフ純度99.92%、この「%」はガスクロマトグラフのピーク面積に基づくものである。)を得た。原料のp-ジクロロベンゼンに対する精製品の収率は70%であった。
【0038】
[実施例2]
実施例1の28%アンモニア水445.0g(アンモニア:7.317モル)に代えて25%アンモニア水498.4g(アンモニア:7.317モル)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、p-フェニレンジアミンの粗体50.1gを得た。続いて、この粗体を真空蒸留器に投入し、6~10mmHgの減圧下、145~150℃の温度で蒸留することにより、p-フェニレンジアミンの精製品40.2g(ガスクロマトグラフ純度99.94%)を得た。原料のp-ジクロロベンゼンに対する精製品の収率は68%であった。
【0039】
[実施例3]
実施例1の反応を2回実施し、触媒回収品29.5gを得た後、オキシン銅の代わりにこの触媒回収品19.2gを用いたこと以外は実施例1と同様にして、p-フェニレンジアミンの粗体51.6gを得た。続いて、この粗体を真空蒸留器に投入し、6~10mmHgの減圧下、145~150℃の温度で蒸留することにより、p-フェニレンジアミンの精製品39.6g(ガスクロマトグラフ純度99.94%)を得た。原料のp-ジクロロベンゼンに対する精製品の収率は71%であった。
【0040】
[比較例]
磁気誘導式撹拌機、圧力計及び内温測定用熱電対を備えた内容積750mlのSUS316製オートクレーブに、p-ジクロロベンゼン80.0g(0.544モル)、28%アンモニア水445.0g(アンモニア:7.317モル)及びオキシン銅0.34g(銅原子:0.001モル、銅原子/p-ジクロロベンゼン=0.002)を投入した後、密閉し、攪拌しながら昇温させた。次に、内温185℃で3時間反応させた後、内温195℃に昇温し、さらに4時間反応させて終了し、オートクレーブを室温(25℃)まで冷却してから、反応液を抜き出した。続いて、この反応液に水酸化ナトリウム5.1gを添加して、副生した塩化アンモニウムを中和した後、反応液の組成をガスクロマトグラフィーにて分析したところ、投入したp-ジクロロベンゼンの約90%が残存しており、中間体のp-クロロアニリンが約4%生成しているのみだった。つまり、p-フェニレンジアミンは事実上生成していなかった。
【0041】
上記のことから明らかなように、比較例の製造方法では中間体がわずかに生成したのみで、目的物を得ることが困難であった。
これに対し、実施例1及び2のp-ジクロロベンゼンを出発原料とする製造方法は、アニリンやアミノフェノール等の副生物を生成することなく、高収率且つ高純度に目的物が得られることがわかった。また、実施例3のとおり、回収された触媒回収物を用いたとしても、高収率且つ高純度に目的物が得られることがわかった。