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特開2023-58498ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置におけるコレステロール24-ヒドロキシラーゼ(hydrolase)のための発現ベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058498
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置におけるコレステロール24-ヒドロキシラーゼ(hydrolase)のための発現ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20230418BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20230418BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230418BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230418BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20230418BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N15/53 ZNA
C12N15/12
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N15/864 100Z
A61K48/00
A61P25/00
A61K38/43
A61K35/76
A61K35/761
A61K35/763
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023004103
(22)【出願日】2023-01-13
(62)【分割の表示】P 2019561358の分割
【原出願日】2018-01-30
(31)【優先権主張番号】17305100.4
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519275641
【氏名又は名称】ブレインヴェクティス
【氏名又は名称原語表記】BRAINVECTIS
(71)【出願人】
【識別番号】592236234
【氏名又は名称】アンスティテュー・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル・(イ・エヌ・エス・ウ・エール・エム)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
(71)【出願人】
【識別番号】519275652
【氏名又は名称】ウニヴェルシダージ・ジ・コインブラ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DE COIMBRA
(71)【出願人】
【識別番号】519275663
【氏名又は名称】セントロ・ジ・ネウロシエンシアス・エ・ビオロジア・セルラール
【氏名又は名称原語表記】CENTRO DE NEUROCIENCIAS E BIOLOGIA CELULAR
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】サンドロ・アウヴェス
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー・カルティエ-ラカーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ルイス・ペレイラ・ジ・アルメイダ
(72)【発明者】
【氏名】クレヴィオ・ノブレガ
(72)【発明者】
【氏名】リリアナ・メンドンサ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】脊髄小脳失調症(SCA)、特にポリグルタミン反復脊髄小脳失調症(PolyQ SCA)における治療のための新しい組成物を提供する。
【解決手段】ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクターであって、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクターを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクターであって、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ベクター。
【請求項2】
該ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症が、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)、脊髄小脳失調症7型(SCA7)および脊髄小脳失調症17型(SCA17)の群から選択される、請求項1に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項3】
該ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症が、脊髄小脳失調症3型(SCA3)である、請求項1に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項4】
配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項5】
配列番号1の核酸配列を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項6】
アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルスおよびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項7】
AAVベクターである、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項8】
AAV9ベクター、またはAAVrh.10、好ましくはAAVrh.10などのAAV10ベクターである、請求項7に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項9】
患者の脳内へ直接投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項10】
小脳、脳幹、黒質、線条体、前頭側頭葉および/または視覚皮質、好ましくは小脳に投与される、請求項9に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項11】
患者の脊髄内へ投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項12】
血管内、静脈内、鼻腔内、脳室内またはくも膜下腔内注射により投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクター。
【請求項13】
ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するための医薬組成物であって、請求項1~12のいずれか一項に記載の治療有効量のベクターを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄小脳失調症(SCA)は、しばしば、手、発話および眼球運動の不良な協調に関連する、ゆっくり進行する歩行の協調不能および平衡障害を特徴とする神経変性障害の群に属する。脊髄小脳失調症は、筋肉の動きのわずかな協調の失敗により、体の不安定で不器用な動きをもたらす。
【0003】
脊髄小脳失調症は、小脳内に位置する神経系細胞の一部の進行性の消失と関連しており、小脳の萎縮につながる。脊髄小脳失調症は、異なる遺伝子変化に関連する遺伝障害である。現在、多くの型の脊髄小脳失調症が知られており、それに関して特定の遺伝情報が利用可能である。最初の運動失調遺伝子は1993年に優性遺伝型として同定され、「脊髄小脳失調症1型」(SCA1)と呼ばれた。その後、追加の優性遺伝子が見つかったため、それらはSCA2、SCA3などと呼ばれた。通常、「SCAの型番号」は、該遺伝子が見つかった順序を指す。現時点では、少なくとも29個の異なる遺伝子変異が見出されている。
【0004】
最も一般的な変化は、異なる染色体内に位置するいくつかの遺伝子内のトリヌクレオチドシトシンアデニングアニン(CAG)の過剰な繰り返し(repetition)上にある。ポリCAG拡張を有するそれらの運動失調は、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症と称される。遺伝子内のCAGの過剰な繰り返しは、異常なタンパク質を産生する、該遺伝子によりコードされるタンパク質内のグルタミンの繰り返しにつながってもよい。
【0005】
例として、Machado-Joseph病(MJD)とも呼ばれる脊髄小脳失調症3型(SCA3)は、アタキシン3(ATXN3)遺伝子のコード領域内に異常に拡張したポリグルタミン(PolyQ)領域をもたらす(Kawaguchi et al., 1994)、MJD1遺伝子のコード領域内のCAG反復拡張により引き起こされる、進行性の常染色体優性遺伝成人発症神経変性障害(Durr et al., 1996)である。それは、神経細胞内に異常に蓄積する拡張したATXN3タンパク質に毒性の機能的利得を与え、ゆえに不溶性核内包含物の形成を促進する(Orr and Zoghbi, 2007; Schols et al., 2004)。SCA3は、線条体、黒質および脳神経運動核の変性と予測不可能に関連する一連の進行性小脳機能障害として臨床的に明らかにされ(Alves et al., 2008b; Durr et al., 1996; Klockgether et al., 1998; Rub et al., 2008)、したがって、他の症状とともに、運動失調、運動協調の欠如、姿勢不安定、パーキンソン病、錐体路兆候および神経障害などの広い範囲の症状をもたらす((Burk et al., 1999; Rub et al., 2006; Schols et al., 1997; Schols et al., 2004)。脊髄関与も記載されている(Lukas et al., 2008)。
【0006】
SCAの一般的な有病率は125.000に対して1だが、アゾレス諸島などの世界の一部において、SCA3の有病率は140に対して1である。
【0007】
現在まで、SCAのための既知の治療法はない。処置は通常、症状を和らげることに限定される。ゆえに、一般にSCA、特にポリグルタミン反復脊髄小脳失調症(PolyQ SCA)における治療のための新しい戦略を開発する強い必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、PolyQ SCAを有する患者におけるコレステロール代謝の機能障害を示した。該発見に基づいて、本発明者らは、標的細胞内でコレステロール24-ヒドロキシラーゼを発現するコレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターの使用により、PolyQ SCAに対抗する治療戦略として該コレステロール代謝経路の調節に取り組む可能性をうまく研究した。
【0009】
したがって、本発明の目的は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するためのベクターを提供することである。
【0010】
一実施形態において、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症は、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)、脊髄小脳失調症7型(SCA7)および脊髄小脳失調症17型(SCA17)の群から選択される。
【0011】
一実施形態において、ベクターは、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む。あるいは、該ベクターは配列番号1の核酸配列を含む。
【0012】
一実施形態において、ベクターは、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、好ましくはAAVベクター、より好ましくはAAV9またはAAV10(AAVrh.10)ベクター、さらにより好ましくはAAVrh.10の群から選択される。
【0013】
一実施形態において、ベクターは、患者の脳内へ、好ましくは小脳、線条体、脳幹、前頭側頭葉および/または視覚皮質へ、より好ましくは小脳へ、直接投与される。あるいはまたはさらに、該ベクターは患者の脊髄内へ投与される。
【0014】
本発明の別の目的は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを含む、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に使用するための医薬組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】MJDトランスジェニックマウス(n=6)対野生型対照(n=6)の小脳および「該脳の残り」におけるHAタグのレベルを示す代表的なウェスタンブロット。69個のCAG反復および6匹の同年齢の対照同腹仔とともに、N末端切断型ヒトATXN3を発現する6匹のMJDトランスジェニックマウスからの凍結生検を使用した;
【0016】
図2】MJDマウス(n=6)および野生型対照(n=6)の脳におけるCYP46A1タンパク質のレベルを示す代表的なウェスタンブロット。対照同腹仔と比較して、MJDマウスからの小脳生検における、CYP46A1タンパク質レベルにおける24.3%の減少(Mann-Whitney検定;p=0.026)を明らかにする光学的デンシトメトリー(AおよびB)。MJDマウスおよび対照における「該脳の残り」からの生検において、統計的に有意な差は見られなかった(Mann-Whitney検定;p=0.13)(CおよびD);
【0017】
図3】対照同腹仔と比較して、MJDマウスにおけるコレステロール代謝経路の障害を示す、MJDQ69マウス(n=6)および同年齢の同腹仔(n=6)からの小脳抽出物および「該脳の残り」からの生検における、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)によるステロールおよびオキシステロールの両方の定量的測定;
【0018】
図4】AAVベースのCYP46A1過剰発現は、注射後2ヶ月のMJDのLVベースのマウスモデルにおける神経病理を緩和する。A)AAVrh.10-CYP46A1を注射したLV-MJDマウスにおいてHAタグの存在を検出するが、AAVrh.10-GFPを注射した対照群においては検出しない代表的な免疫組織化学;AAVrh.10-GFPを注射したマウスにおいて、マウス線条体における広範なGFP免疫反応性が検出されるが、HAシグナルは検出されない。(1H9抗体を用いて明らかになった)突然変異体アタキシン3陽性包含物に対する免疫組織化学および定量分析(A)は、対照群(GFP同時注射マウス;6684±717.2包含;n=8;スチューデントのT検定、P=0.0002)と比較して、アタキシン3陽性包含物(2751±267.8;n=8)の数の統計的に有意な減少(~59%)を明らかにした(B)。対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウス(111.4±3.96a.u.;n=8;スチューデントのT検定、P<0.0001)と比較して、AAVrh.10-CYP46A1処置LV-MJDマウス(59.29±4.67任意単位(a.u.);n=8)における包含物のサイズの統計的に有意な減少(~47%)が観察された(C)。対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウスと比較して、AAVrh.10-CYP46A1を注射したLV-MJDマウスにおけるユビキチン化された包含物の数の減少を実証した抗ユビキチン染色(定性分析)(A)。対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウス(0.91±0.14mm;n)と比較して、DARPP-32枯渇領域(0.48±0.77mm;n=8)スチューデントのT検定;P=0.015)の統計的に有意な減少(~48%)につながったCYP46A1過剰発現。
【0019】
図5】MJDトランスジェニックマウスの運動協調障害におけるAAV-CYP46A1発現の効果。非注射野生型マウス(WT)およびCYP46A1(CYP)またはGFP(GFP)をコードするAAV10を注射したMJDトランスジェニックマウスが、運動協調性能について10週間にわたって評価された。マウスは、A)一定速度でのロタロッド、B)加速したロタロッド、およびC)後肢ベーステスト(足跡テスト)についてテストされた。対照マウス(GFP)と比較して、CYP46A1で処置したトランスジェニックMJDマウスにおける運動能力の有意な改善が観察された。データは平均値±SEMとして示される。Bonferroni事後検定を使用した2因子ANOVA分析;*p<0.05。CYP:n=10;GFP:n=9;WT:n=4。
【0020】
図6】AAV-CYP46A1過剰発現は、MJDトランスジェニックマウスの小脳における凝集を減少させ、プルキンエ細胞の損失を軽減する。CYP46A1(CYP)またはGFP(GFP)をコードするAAV10を注射したMJDトランスジェニックマウスにおける免疫組織化学は、ユビキチン化凝集体の減少を実証する(A)。対照ベクター(AAV10-GFP)で処置したMJDトランスジェニックマウスと比較して、AAV10-CYP46A1を注射したMJDトランスジェニックマウスは、プルキンエ細胞の平均数の増加(B)および小脳の体積の増加(C)を示す。
【0021】
図7】Neuro2A細胞におけるCYP46A1過剰発現時の突然変異体ATXN3のレベルを示す代表的なウェスタンブロット(A)。光学デンシトメトリー分析は、CYP46A1過剰発現時の、突然変異体ATXN3凝集体(B)および可溶性レベル(C)のそれぞれ66%および90%の減少を明らかにした(スチューデントのT検定、p=0.0033;n=4)。
【0022】
図8】Neuro2A細胞におけるCYP46A1過剰発現時のオートファジーマーカーLC3B-IIのレベルを示す代表的なウェスタンブロット(A)。光学デンシトメトリー分析は、オートファジー阻害剤クロロキンの有無に関わらず、対照条件と比較したLC3B-IIの増加により強調されたCYP46A1過剰発現によるオートファジーの増加を明らかにした(B)。さらに、CYP46A1過剰発現は、対照レベルと比較して、LC3B-IIの正味フラックスの増加を誘発し、オートファジーフラックスの活性化を示唆する(C)。(*P<0.05、**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001;対応のない(unpaired)スチューデントのT検定;n=4)。
【0023】
発明の詳細な説明
本発明者らは、CYP46A1遺伝子を発現するベクターをポリグルタミン反復脊髄小脳失調症のマウスモデルの脳内へ運搬することは、神経機能障害、特に小脳発作の有意な減少をもたらすことを実証した。
【0024】
これに基づいて、本発明者らは、中枢神経系の細胞においてCYP46A1を発現する、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置のためのウイルスベクターを提供する。
【0025】
ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症
具体的には、本発明は、疾患関連タンパク質(すなわち、アタキシン-1、アタキシン-3など)がpolyQまたは「CAGトリヌクレオチド反復」疾患と呼ばれる異常な数のグルタミン残基の反復を含有する場合に引き起こされるポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置に関する。
【0026】
本発明の文脈において、「処置」、「処置する」または「処置すること」なる語は、本明細書において、(1)かかる語が適用される病状または状態の症状の進行、悪化、または悪化(deterioration)を減速または停止させること;(2)かかる語が適用される病状または状態の症状を緩和することまたはその改善をもたらすこと;および/または(3)かかる語が適用される病状または状態を逆転または治癒させること、を目的とする治療方法またはプロセスを特徴付けるために使用される。
【0027】
本明細書で使用される場合、「対象」または「患者」なる語は、動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくは成人および子供を含むヒトを指す。しかしながら、「対象」なる語は、非ヒト動物、特にマウスなどの哺乳動物、および非ヒト霊長類をも指すことができる。
【0028】
好ましくは、本発明は、脊髄小脳失調症1型(SCA1)、脊髄小脳失調症2型(SCA2)、脊髄小脳失調症3型(SCA3)、脊髄小脳失調症6型(SCA6)、脊髄小脳失調症7型(SCA7)および脊髄小脳失調症17型(SCA17)の群から選択されるポリグルタミン反復脊髄小脳失調症に関する。
【0029】
SCA1、またはSCA1型は、アタキシン1タンパク質をコードする遺伝子(ATXN1)における異常なCAG反復により特徴付けられる。該伸長の長さは可変である。SCA1を引き起こすことが示されている最短の反復長は39個の連続したCAGトリプレットであり、これまでに観察された最長のものは83個の反復を含有する。より長い反復領域(tract)は、より早い発症年齢およびより速い進行と相関している。突然変異体ATXN1タンパク質は、プルキンエ神経細胞の核内で自発的にミスフォールドし、凝集体を形成する。
【0030】
SCA2、またはSCA2型は、対応するタンパク質における伸長ポリグルタミン領域を産生するATXN2遺伝子のコード領域の異常なCAG反復により特徴付けられる。該拡張された反復は、サイズが可変で不安定であり、通常、連続した世代に伝達されるとサイズが増加する。該遺伝子座は、12番染色体にマップされており、病気の対立遺伝子は、通常34から52個のCAG反復を含有するが、わずか32または100を超えて含有することができることが決定されている。
【0031】
Machado-Joseph病(MJD)とも呼ばれるSCA3、またはSCA3型は、アタキシン3タンパク質をコードする遺伝子(ATXN3)における異常なCAG反復により特徴付けられる。正常な13~36から異常な68~79個へのこれらの反復の拡張は、MJDの原因である。発症年齢とCAG反復数との間には逆相関がある。
【0032】
SCA6、またはSCA6型は、Cav2.1P/Q電圧依存的カルシウムチャネルをコードするCACNA1A遺伝子のコード領域を4~16から21~28個のCAG反復を含むように拡張する挿入により特徴付けられる。
【0033】
SCA7、またはSCA7型は、ATXN7遺伝子のコード領域における異常なCAG反復により特徴付けられ、対応するタンパク質(ATXN7)における伸長ポリグルタミン領域を産生する。
【0034】
SCA17、またはSCA17型は、TATA結合タンパク質(TBP)をコードする遺伝子のコード領域における異常なCAG繰り返しにより特徴付けられる。TBPは、タンパク質のN末端内のグルタミンの長いストリングにより特徴付けられる。該領域は、C末端のDNA結合活性を調節し、DNA結合の調節は、転写複合体の形成および転写の開始の速度に影響する。ゆえに、CAG反復の数の拡張は、グルタミンストリングの長さを増加させ、それによりTBPのDNA結合活性に影響する。
【0035】
CYP46A1配列
本発明の第一の目的は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸の全配列を含むPolyQ SCAの処置に使用するためのベクターに関する。
【0036】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」なる語は、転写または翻訳後に特定のポリペプチドまたはタンパク質をコードすることができる少なくとも1個のオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「コード配列」または「特定のタンパク質をコードする配列」なる語は、適切な制御配列の制御下に置かれた場合、インビトロまたはインビボでポリペプチドに転写され(DNAの場合)、そして翻訳される(mRNAの場合)核酸配列を意味する。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンにより決定される。コード配列は、原核生物または真核生物のmRNAからのcDNA、原核生物または真核生物のDNAからのゲノムDNA配列、および合成DNA配列さえも含むことができるが、これらに限定されない。
【0038】
CYP46A1遺伝子は、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする。該酵素は、酵素のチトクロームP450スーパーファミリーのメンバーである。該酵素は、コレステロールを24S-ヒドロキシコレステロール(24S-OH-Chol)に変換し、BBBを動的に通過し、末梢循環を体外に排出し(Bjorkhem et al., 1998)、ゆえにコレステロールの恒常性を維持する。CYP46A1に対するcDNA配列は、Genbankアクセス番号AF094480(配列番号1)に開示される。アミノ酸配列は配列番号2に示される。
【0039】
本発明は、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置のための、配列番号1の配列またはその変異体を含む核酸構築物の使用を作る。
【0040】
例えば、変異体は、個体間の対立遺伝子変異(例えば、多型)、選択的スプライシング形態などに起因する天然変異体を含む。変異体なる語は、他のソースまたは生物からのCYP46A1遺伝子配列も含む。変異体は、好ましくは、配列番号1と実質的に相同である、すなわち、典型的に少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%の配列番号1とのヌクレオチド配列同一性を示す。CYP46A1遺伝子の変異体は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で上記で定義された配列(またはその相補鎖)にハイブリダイズする核酸配列も含む。典型的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、30℃を超える、好ましくは35℃を超える、より好ましくは42℃を超える温度、および/または約500mM未満、好ましくは200mM未満の塩分を含む。ハイブリダイゼーション条件は、温度、塩分および/またはSDS、SSCなどの他の試薬の濃度を変更することにより、当業者により調整されてもよい。
【0041】
非ウイルスベクター
一実施形態において、本発明によるベクターの使用は、非ウイルスベクターである。典型的に、該非ウイルスベクターは、CYP46A1をコードするプラスミドであってもよい。該プラスミドは、直接またはリポソーム、エキソソームまたはナノ粒子を介して投与できる。
【0042】
ウイルスベクター
本発明の実施に有用な遺伝子運搬ウイルスベクターは、分子生物学の分野で周知の方法論を利用して構築することができる。典型的には、導入遺伝子を有するウイルスベクターは、該導入遺伝子をコードするポリヌクレオチド、適切な制御要素、および細胞形質導入を媒介するウイルスタンパク質の産生に必要な要素から組み立てられる。
【0043】
「遺伝子導入」または「遺伝子運搬」なる語は、外来DNAを宿主細胞中へ確実に挿入するための方法またはシステムを指す。かかる方法は、非統合の(non-integrated)導入されたDNAの一過性発現、染色体外複製および導入されたレプリコン(例えばエピソーム)の発現、または導入された遺伝物質の宿主細胞のゲノムDNA中への統合をもたらすことができる。
【0044】
ウイルスベクターの例は、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含む。
【0045】
かかる組換えウイルスは、パッケージング細胞のトランスフェクションまたはヘルパープラスミドまたはウイルスを用いた一過性トランスフェクションなどの、当技術分野で既知の技術により産生されてもよい。ウイルスパッケージング細胞の典型的な例は、PA317細胞、PsiCRIP細胞、GPenv+細胞、293細胞などを含む。かかる複製欠陥組換えウイルスを産生するための詳細なプロトコルは、例えば、WO95/14785、WO96/22378、US5,882,877、US6,013,516、US4,861,719、US5,278,056およびWO94/19478において見いだされてもよい。
【0046】
好ましい実施形態において、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが使用される。
【0047】
「AAVベクター」により、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、例えばAAVrh.10、AAV-PHP.B(Benjamin E. Deverman et al., 2016)などを含むが、これらに限定されない、アデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターが意味される。AAVベクターは、全体または一部を欠失した1以上のAAV野生型遺伝子、好ましくはrepおよび/またはcap遺伝子を有するが、機能的隣接ITR配列を維持することができる。機能的ITR配列は、AAVビリオンのレスキュー、複製、パッケージングのために必要である。ゆえに、AAVベクターは、本明細書では、ウイルスの複製およびパッケージング(例えば、機能的ITR)のためにシスで必要な配列を少なくとも含むと定義される。該ITRは、野生型ヌクレオチド配列である必要はなく、配列が機能的なレスキュー、複製、およびパッケージングを提供する限り、例えば、ヌクレオチドの挿入、削除、または置換により変化されてもよい。AAV発現ベクターは、既知の技術を使用して構築され、転写の方向に動作可能に連結されたコンポーネントとして、転写開始領域を含む制御要素、目的のDNA(すなわち、CYP46A1遺伝子)および転写終結領域を少なくとも提供する。自己相補的な構築物として、目的のDNAの2個のコピーが含まれることができる(McCarty et al., 2001)。
【0048】
より好ましい実施形態において、AAVベクターは、AAV9またはAAV10(AAVrh.10)ベクター、またはこれらの血清型の1つに由来するベクターである。最も好ましい実施形態において、該AAVベクターはAAVrh.10ベクターである。
【0049】
制御要素は、哺乳類細胞において機能的であるように選択される。動作可能に連結されたコンポーネントを含有する、結果として生じる構築物は、機能的なAAVITR配列と結合される(5’および3’)。「アデノ随伴ウイルス逆方向末端反復」または「AAVITR」により、DNA複製の起点およびウイルスのパッケージングシグナルとしてシスで一緒に機能するAAVゲノムの各末端に見られる当技術分野で認識されている領域が意味される。AAVITRは、AAVrepコード領域と共に、哺乳類細胞ゲノム中へ2個の隣接するITRの間に挿入されたヌクレオチド配列からの効率的な切除およびレスキュー、およびその統合を提供する。AAVITR領域のヌクレオチド配列は既知である。(AAV-2配列については、例えば、Kotin, 1994 ; Berns, KI "Parvoviridae and their Replication" in Fundamental Virology, 2nd Edition, (B. N. Fields and D. M. Knipe, eds.)を参照)。本明細書で使用される場合、「AAV ITR」は、必ずしも野生型ヌクレオチド配列を含むわけではないが、例えばヌクレオチドの挿入、欠失、または置換により変化されてもよい。さらに、該AAVITRは、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV6などを含むがこれらに限定されないいくつかのAAV血清型のいずれかに由来してもよい。さらに、AAVベクター内の選択されたヌクレオチド配列に隣接する5’および3’ITRは、意図されたように、すなわち、宿主細胞のゲノムまたはベクターから目的の配列を切除およびレスキューできるように、そしてAAVRep遺伝子産物が該細胞中に存在するとき、異種配列のレシピエント細胞ゲノム中への統合を可能にするように機能する限り、必ずしも同一である必要も、また同じAAV血清型または分離株由来である必要もない。
【0050】
哺乳類の中枢神経系(CNS)の細胞、特にニューロンに対する向性およびそれにおける高い形質導入効率を有するAAV血清型に由来するベクターが、特に好ましい。異なる血清型の形質導入効率のレビューおよび比較は、Davidson et al. , 2000において提供される。1つの好ましい例において、AAV2ベースのベクターは、CNS、好ましくは形質導入ニューロンにおける導入遺伝子の長期発現を誘導することが示されている。他の非限定的な例において、好ましいベクターは、CNSの細胞に形質導入することも示されている(Davidson et al、上記)、AAV4およびAAV5血清型に由来するベクターを含む。特に、該ベクターは、AAV5由来のゲノム(特にITRはAAV5ITRである)およびAAV5由来のカプシドを含むAAVベクターであってもよい。別の非限定的な例において、好ましいベクターは、AAV-PHP.Bのようなcre組換えベースのAAV標的進化(CREATE)の使用により得られるベクターを含む。
【0051】
本発明の特定の実施形態において、ベクターは偽型AAVベクターである。具体的には、偽型AAVベクターは、第一のAAV血清型に由来するAAVゲノムおよび第二のAAV血清型に由来するカプシドを含む。好ましくは、該AAVベクターのゲノムはAAV2に由来する。さらに、該カプシドは、好ましくはAAV5に由来する。偽型AAVベクターの特定の非限定的な例は、AAV5に由来するカプシド中のAAV2に由来するゲノムを含むAAVベクター、AAVrh.10に由来するカプシド中のAAV2に由来するゲノムを含むAAVベクターなどを含む。
【0052】
選択されたヌクレオチド配列は、インビボで対象において転写または発現を誘導する制御要素に作動可能に連結されている。かかる制御要素は、選択された遺伝子に通常関連する制御配列を含むことができる。特に、かかる制御要素は、CYP46A1遺伝子のプロモーター、特にヒトCYP46A1遺伝子のプロモーターを含んでもよい(Ohyama Y et al., 2006)。
【0053】
あるいは、異種制御配列が使用できる。一般に、有用な異種制御配列は、哺乳類またはウイルスの遺伝子をコードする配列に由来するものを含む。例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、CMV前初期プロモーター領域(CMVIE)などのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどを含むが、これらに限定されない。加えて、マウスメタロチオネイン遺伝子などの非ウイルス遺伝子に由来する配列も本明細書で使用されるだろう。かかるプロモーター配列は、例えば、Stratagene(サンディエゴ、CA)から市販されている。本発明の目的のために、異種プロモーターおよびCNS特異的誘導性プロモーター、エンハンサーなどのような他の制御要素の両方が特に有用であるだろう。
【0054】
異種プロモーターの例は、CMVプロモーターを含む。CNS特異的プロモーターの例は、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、シナプシン(例えば、ヒトシナプシン(sysnapsin)1遺伝子プロモーター)、およびニューロン特異的エノラーゼ(NSE)からの遺伝子から単離されたものを含む。
【0055】
誘導性プロモーターの例は、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素症、およびオーフィン(aufin)のためのDNA応答要素を含む。
【0056】
AAV ITRにより結合された目的のDNA分子を有するAAV発現ベクターは、選択された配列を、そこから切除された主要なAAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を有しているAAVゲノム中へ直接挿入することにより構築できる。複製およびパッケージング機能を可能にするのに十分なITRの部分が残っている限り、該AAVゲノムの他の部分も欠失されることができる。かかる構築物は、当該分野で周知の技術を使用して設計できる。例えば、U.S.Patent No.5,173,414および5,139,941;International Publication No.WO92/01070(1992年1月23日に公開)およびWO93/03769(1993年3月4日に公開); Lebkowski et al., 1988; Vincent et al., 1990; Carter, 1992 ; Muzyczka, 1992; Kotin,1994; Shelling and Smith, 1994;およびZhou et al., 1994を参照のこと。あるいは、AAV ITRは、それを含むウイルスゲノムから、またはAAVベクターから切除し、標準的なライゲーション技術を使用して別のベクター中に存在する選択された核酸構築物の5’および3’に融合できる。ITRを含有するAAVベクターは、例えば、U.S.Patent no.5,139,941に記載されている。特に、American Type Culture Collection(「ATCC」)からアクセッション番号53222、53223、53224、53225、および53226の下で入手可能ないくつかのAAVベクターが、そこに記載されている。さらに、キメラ遺伝子は、1以上の選択された核酸配列の5’および3’に配置されるAAV ITR配列を含むように合成的に産生できる。哺乳類のCNS細胞におけるキメラ遺伝子配列の発現に好ましいコドンが使用できる。完全なキメラ配列は、標準的な方法により調製された重複オリゴヌクレオチドから組み立てられる。(例えば、Edge, 1981; Nambair et al., 1984; Jay et al., 1984を参照)。rAAVビリオンを産生するために、トランスフェクションなどの既知の技術を使用して、AAV発現ベクターは、適切な宿主細胞中へ導入される。多くのトランスフェクション技術が、一般に当技術分野で知られている。(たとえば、Graham et al., 1973; Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, a laboratory manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Davis et al. (1986) Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier、および Chu et al., 1981を参照)。特に適切なトランスフェクション法は、リン酸カルシウム共沈(Graham et al., 1973)、培養細胞への直接マイクロインジェクション(Capecchi, 1980)、エレクトロポレーション(Shigekawa et al., 1988)、リポソーム媒介遺伝子導入(Mannino et al., 1988)、脂質媒介形質導入(Felgner et al., 1987)、および高速微小発射体を使用した核酸運搬(Klein et al., 1987)を含む。
【0057】
例えば、AAVrh.10などの好ましいウイルスベクターは、コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸配列に加えて、AAV-2に由来するITRを有するAAVベクターの骨格、マウスPGK(ホスホグリセリン酸キナーゼ)遺伝子またはサイトメガロウイルス即時遺伝子からのエンハンサーからなるサイトメガロウイルス/β-アクチンハイブリッドプロモーター(CAG)などのプロモーター、ニワトリβ-アクチン遺伝子からのプロモーター、スプライスドナーおよびイントロン、ウサギβ-グロビンからのスプライス受容体、または、野生型または変異型のウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御要素(WPRE)の有無に関わらず、ドーパミン-1受容体またはドーパミン-2受容体のプロモーターなどの任意の神経プロモーターを含む。
【0058】
ベクターの運搬
コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含むベクターを必要とする患者に投与することを含む、ポリグルタミン反復脊髄小脳失調症の処置方法が開示される。該ベクターは、直接、または血管内、静脈内、鼻腔内、脳室内、またはくも膜下腔内注射により、該患者の脳内へ運搬されてもよい。
【0059】
特定の実施形態において、以下を含む、対象においてポリグルタミン反復脊髄小脳失調症(PolyQ SCA)を処置する方法が提供される:
(a)コレステロール24-ヒドロキシラーゼをコードする核酸を含む上記で定義されたベクターを提供すること;および
(b)ベクターが脳内の細胞を形質導入するように、そしてコレステロール24-ヒドロキシラーゼが治療有効レベルで該形質導入細胞により発現されるように、対象の脳に該ベクターを運搬すること。
【0060】
有利には、ベクターは、ウイルスベクター、より有利にはAAVベクター、さらに有利にはAAV9ベクターまたはAAVrh.10などのAAV10ベクターである。
【0061】
特定の実施形態において、ベクターは、小脳、線条体、脳幹、前頭側頭葉、および/または視覚皮質、脊髄、好ましくは少なくとも小脳へ運搬される。特定の実施形態において、ベクターは小脳へ独占的に運搬される。
【0062】
ニューロンおよび/または星状細胞および/またはオリゴデンドロサイトおよび/またはミクログリアへのウイルスベクターの運搬または投与の方法は、一般に、選択されたシナプス接続された細胞集団の細胞の少なくとも一部が形質導入されるように、直接または造血細胞形質導入を介した、該細胞へのベクターの運搬に適した任意の方法を含む。該ベクターは、中枢神経系の細胞、末梢神経系の細胞、またはその両方に運搬されてもよい。好ましくは、該ベクターは脳の細胞に運搬される。一般に、該ベクターは、例えば脳幹(髄、橋、および中脳)、小脳、黒質、線条体(尾状核および被殻)、前頭側頭葉、視覚皮質、脊髄またはそれらの組み合わせ、または好ましくはそれらの任意の適切な亜集団を含む脳の細胞へ運搬される。
【0063】
ベクターを脳の特定の領域および特定の細胞集団に特異的に運搬するために、ベクターは定位マイクロインジェクションにより投与されてもよい。たとえば、患者は、定位置に固定された(頭蓋骨内にねじ込まれた)定位フレームベースを有する。定位フレームベース(基準マークと互換性のあるMRI)を有する脳は、高解像度MRIを使用して画像化される。次いで、該MRI画像は、定位ソフトウェアを実行するコンピューターに移行される。一連の冠状、矢状、および軸方向画像を使用して、標的(ベクター注射の部位)および軌跡を決定する。該ソフトウェアは、該軌跡を該定位フレームに適した3次元座標に直接変換する。バリ穴は入り口上に開けられ、該定位装置は針が所与の深さに埋め込まれた状態で配置される。次いで、該ベクターは、標的部位に注射され、最終的に造影剤と混合される。該ベクターはウイルス粒子を産生するのではなく、該標的細胞中に統合されるため、該ベクターのその後の広がりは小さく、主に、統合の前の、注射の部位からの受動的拡散および、もちろん所望のシナプス間輸送の機能である。拡散の程度は、ベクターと液状担体の比率を調整することで制御されてもよい。
【0064】
追加の投与経路は、直接視覚化下でのベクターの局所適用、例えば、表層皮質適用、鼻腔内適用、または他の非定位的適用も含んでもよい。
【0065】
本発明のベクターの標的細胞は、PolyQ SCAに罹患した対象の脳の細胞、好ましくは神経細胞である。好ましくは、対象は人間であり、一般に成人であるが、子供または幼児であってもよい。
【0066】
しかしながら、本発明は、疾患の生物学的モデルへベクターを運搬することを包含する。その場合、該生物学的モデルは、運搬時の発達の任意の段階にある、例えば、胚、胎児、乳児、少年または成人、好ましくは成人であってもよい任意の哺乳類である。さらに、標的細胞は、本質的に、任意のソース、特にヒト以外の霊長類およびげっ歯目(Rodenta)(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター)、肉食目(猫、犬)、および偶蹄目(Arteriodactyla)(ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)の哺乳類、ならびにその他の人間以外のシステム(ゼブラフィッシュモデルシステムなど)からであってもよい。
【0067】
好ましくは、本発明の方法は、定位注射による脳内投与を含む。しかしながら、他の既知の運搬方法も本発明に従って適合されてもよい。例えば、脳全体にベクターをより広く分布させるために、それは、例えば、腰椎穿刺、大槽または心室穿刺により、脳脊髄液中へ注射されてもよい。該ベクターを脳に誘導するために、それは、脊髄または末梢神経節、または対象の目的の身体部分の肉(皮下または筋肉内に)に注射されてもよい。特定の状況において、該ベクターは血管内アプローチにより投与できる。たとえば、血液脳関門が乱されている状況において、該ベクターは動脈内(頸動脈)に投与できる。さらに、よりグローバルな運搬のために、該ベクターは、マンニトールを含む高張液の注射または超音波局所運搬により達成される血液脳関門の「開口」中に投与できる。
【0068】
本明細書で使用されるベクターは、運搬のための任意の適切なビヒクルにおいて処方されてもよい。例えば、それらは薬学的に許容される懸濁液、溶液またはエマルジョン中に入れられてもよい。適切な培地は、生理食塩水およびリポソーム製剤を含む。より具体的には、薬学的に許容される担体は、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含んでもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体は、生理食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョンまたは懸濁液を含む。静脈内ビヒクルは、液体および栄養補給剤、(Ringerのデキストロースに基づくものなどの)電解質補給剤などを含む。
【0069】
例えば、防腐剤および、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの他の添加物も存在してもよい。
【0070】
コロイド分散システムも、標的遺伝子の運搬に使用されてもよい。コロイド分散システムは、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、および水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、リポソームまたはエキソソームを含む脂質ベースのシステムを含む。
【0071】
好ましい用量およびレジメンは医師により決定され、そして対象の年齢、性別、体重、および疾患の病期に依存してもよい。例として、ウイルス発現ベクターを使用したコレステロール24-ヒドロキシラーゼの運搬のために、コレステロール24-ヒドロキシラーゼ発現ベクターの各単位投与量は、薬学的に許容される液体中でウイルス発現ベクターを含む2.5~100μlの組成物を含んでよく、組成物1mlあたり1010から1015個までのコレステロール24-ヒドロキシラーゼ発現ウイルス粒子を提供する。
【0072】
医薬組成物
本発明のさらなる目的は、治療有効量の本発明によるベクターを含むPolyQ SCAの処置に使用するための医薬組成物に関する。
【0073】
「治療有効量」により、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比でPolyQ SCAを処置するのに十分な量の本発明のベクターが意味される。
【0074】
本発明の化合物および組成物の総1日投与量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されることが理解されるであろう。特定の患者に対する特定の治療有効用量レベルは、処置中の障害および障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食事;投与時間、投与経路、および使用される特定の化合物の排泄速度;処置期間;使用される特定のポリペプチドと組み合わせて、または同時に使用される薬物;および医学の分野で周知の同様の要因を含むさまざまな要因に依存する。例えば、所望の治療効果を達成するのに必要なレベルよりも低いレベルで化合物の用量を開始し、所望の効果が達成されるまで用量を徐々に増加させることは、十分に当業者の範囲内である。しかしながら、製品の1日あたりの投与量は、1日あたり成人1人あたり広い範囲で変化してもよい。投与されるべき本発明のベクターの治療有効量、ならびに本発明のウイルス粒子または非ウイルス粒子および/または医薬組成物の数を有する病的状態の処置のための投与量は、患者の年齢および状態、障害または障害の重症度、投与の方法および頻度、および使用する特定のペプチドを含む多数の要因に依存するだろう。
【0075】
本発明によるベクターを含有する医薬組成物の提示は、筋肉内、脳内、鼻腔内、くも膜下腔内、脳室内または静脈内投与に適した任意の形態であってもよい。筋肉内、鼻腔内、静脈内、脳内、くも膜下腔内または脳室内投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分は、単独でまたは別の有効成分と組み合わせて、従来の医薬支持体との混合物として、単位投与形態で、動物および人間へ投与できる。
【0076】
好ましくは、医薬組成物は、注射可能な製剤に薬学的に許容されるビヒクルを含有する。これらは、特に等張、滅菌、生理食塩水(リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウム、ナトリウム、カリウム、カルシウムまたはマグネシウムなど、またはかかる塩の混合物)、または、場合に応じて滅菌水または生理食塩水の添加時に滅菌注射可能溶液の構成を許す乾燥した、特に凍結乾燥組成物であってもよい。
【0077】
処方時、溶液は投与製剤に適合する様式において、そして治療的に有効な量において投与されるだろう。該処方は、注射可能な溶液のタイプなどのさまざまな投与形態において容易に投与されるが、薬物放出カプセルなども使用できる。
【0078】
複数回用量が投与されることもできる。
【0079】
本発明は、以下の実施例によりさらに説明されるだろう。しかしながら、該実施例および添付の図は、本発明の範囲を限定するものとは決して解釈されるべきではない。
【0080】
実施例
CYP46A1過剰発現の治療上の利点を、PolyQ脊髄小脳失調症の2つのマウスモデル:MJD/SCA3のレンチウイルスベースの動物モデルおよび深刻な確立された病変を有するPolyQのトランスジェニックマウスモデルにおいて評価した。
【0081】
材料および方法
動物
Charles River(スペイン)により得られた2カ月齢のC57BL/6マウス(n=8)および3か月齢のトランスジェニックMJD Q69マウス(n=6)および同年齢の野生型同腹子(n=6)(Oue et al., 2009; Torashima et al., 2008)を使用した。MJDトランスジェニックマウス(C57BL/6バックグラウンド)は、L7プロモーターにより小脳プルキンエ細胞において特異的に駆動される、69個のCAG反復およびN末端血球凝集素(HA)タグエピトープを含有するN末端切断型ヒトATXN3を過剰発現する(Oue et al., 2009)。該切断されたATXN3フラグメントは、ユビキチン-プロテアソームドメイン(Josephinドメイン)およびユビキチン相互作用モチーフ(UIM)を含有するN末端286アミノ酸を欠く。したがって、該切断されたタンパク質は、それぞれN末端およびC末端に4および42個のアミノ酸のみを有する69個のポリQ領域から構成される。これらのトランスジェニックマウスのコロニーを、コインブラのCentre for Neuroscience and Cell Biologyで確立した。マウスを、温度管理された部屋に収容し、12時間の明暗サイクルで維持した。食料および水は自由に入手できた。該実験を、実験動物のケアおよび使用のためのEuropean Community Council指令(2010/63/EU)に従って実施した。
【0082】
レンチウイルスベクターの産生
ヒト変異体アタキシン-3(LV-PGK-Atx-3 72Q)をコードするレンチウイルスベクターを、以前に記載されたように(Alves et al., 2008b)、4プラスミドシステムを有するHEK293T細胞株において産生した。レンチウイルス粒子を、滅菌PBS中の1%BSA中で再懸濁した。バッチのウイルス粒子含有量は、ELISA(Retro Tek、Gentaur、パリ、フランス)によりHIV-1 p24抗原レベルを評価することにより評価した。濃縮ウイルスストックを、使用するまで-80℃で保存した。
【0083】
AAVプラスミド設計およびベクター産生
AAVベクターを、Atlantic Gene療法(INSERM U1089、ナント、フランス)により産生および精製した。ベクター産生は、他で記載されている(Hudry et al., 2010)。AAVrh.10-GFPおよびAAVrh.10-CYP46A1のためのウイルス構築物は、AAV2の逆方向末端反復(ITR)配列に囲まれたCMV初期エンハンサー/チキンβ-アクチン(CAG)合成プロモーター(CAG)により駆動される、GfpまたはヒトCyp46a1遺伝子のいずれかからなる発現カセットを含有した。該AAVrh.10-CAG-GFPベクターをも生成し、そして対照として使用した。
【0084】
マウス脳における定位的注射
5週齢のマウスを、アベルチン(腹腔内に14ml g/1および250mg kg/1)で麻酔した。各4匹の動物に対し、ATXN3 72Qをコードするレンチウイルスベクターのp24抗原400,000ng(MUT ATXN3)および3.1012vg/mLのCYP46A1をコードするAAVrh.10または緑色蛍光タンパク質(GFP;対照)最終容量2μlを、以下の座標において線条体中へ定位的に共注射した(0.2μl/min):前後:+0.6mm、側方:±1.8mm、腹側:-3.3mmおよび歯バー(tooth bar):0。注射後、ゆっくりと上げる前にさらに5分、注射針を定位置に放置した。6-0 Prolene(登録商標)縫合糸(Ethicon、Johnson and Johnson、ブリュッセル、ベルギー)を使用して皮膚を閉じた。小脳注射に対し、6週齢のトランスジェニックMJD Q69マウス(n=25)および同年齢の野生型同腹仔(n=10)を、0.25ul/minのAAVrh10-CYP46A1またはAAVrh10-GFP(2μl;4.10vg)で小脳虫部中へ、以下の座標で注射した:-3.3に設定されたマウスバーを用いて、ラムダへ-1.6mm吻側、0mm正中線、および頭蓋骨表面へ1mm腹側。
【0085】
脳試料
トランスジェニックMJD Q69マウス(n=6)および同年齢の野生型同腹仔(n=6)を、年齢3ヶ月で屠殺した。ペントバルビタールナトリウムの過剰投与を与えられた動物を、脳抽出の前に氷冷PBS 0.1Mを用いて経心的に灌流した。ウェスタンブロット処理のため、左大脳半球の小脳および「該脳の残り」を解剖し、ホスファターゼ(Pierce)およびプロテアーゼ(Roche)阻害剤を含有する溶解バッファー(TBS、NaCl150mMおよびTriton 1%)中で均質化した。遠心分離(20分、13,000rpm、4°C)後、上清を回収し、タンパク質濃度を定量した(BCA Protein Assay、Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、米国)。溶解物のアリコート(3mgタンパク質/ml)を、使用するまで-80°Cで保存した。左大脳半球の小脳および「該脳の残り」を解剖し、GC-MS分析まで-80°Cで保存した。さらに、ウイルスベクターを注射したC57Bl/6マウス(n=8)を、氷冷PBS 0.1Mで、その後脳抽出前に0.1M PBS中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で、経心的に灌流した。脳を、0.1M PBS中の4%PFAで3日間後固定し、20%スクロース/0.1M PBS溶液中でインキュベートすることにより凍結保護した。冠状脳切片(25μm)を凍結ミクロトーム(Leica、ヴェッツラー、ドイツ)上で切断し、連続して収集し、免疫組織化学処理まで0.02%アジ化ナトリウムPBS中に浮遊させて4°Cで保存した。AAVrh10-CYP46A1またはAAVrh10-GFPを注射したトランスジェニックMJD Q69マウスおよび同年齢の野生型マウスの脳を摘出し、4%PFA中で24時間後固定し、25%スクロース/リン酸緩衝液中で48時間インキュベートすることにより凍結保護した。続いて、クライオスタット(LEICA CM3050 S)を使用して、脳を凍結し、矢状切片(40μm切片)にした。
【0086】
トランスジェニックMJDマウスの行動テスト
AAVrh10-CYP46A1過剰発現の運動表現型への影響を評価するために、トランスジェニックMJDマウス(C57BL/6バックグラウンド)にAAVrh10-CYP46A1(n=10)またはAAVrh10-GFP(対照)(n=9)を注射した。さらに、4匹の同腹の野生型動物を使用した。マウスを、年齢5~6週間で始まり、注射後2週目から注射後10週目まで4週ごとに実施される一連の運動テストで訓練した。実験を、経験豊富なオペレーターにより盲検的な様式で評価した。すべてのテストを、順応の30分後に同じ暗室内で実施した。
【0087】
ロタロッド
Rotarod装置(Letica Scientific Instruments)を用いて、運動協調およびバランスを評価した。マウスを、Rotarod装置(Letica Scientific Instruments)上に最大5分間一定速度(5rpm)で、および/または加速速度(4~40rpm、5分)で置き、落下までの潜時を記録した。すべてのテストを、順応の30分後に同じ暗室内で実施した。マウスは、各時点で4回の試行を実施し、試行の間は15~20分休憩した。分析のために、3つの試行の該Rotarodから落下する平均潜時を使用した。マウスを訓練し、該処置開始の10週間後まで2/4週間ごとに該テストを実施した。経験豊富なオペレーターが、盲検的な様式で該テストを実行した。
【0088】
足跡パターン分析
AAVrh10-CYP46A1を注射したマウスの歩行とAAVrh10-GFPを注射したマウスの歩行を比較するために、足跡パターン(ウォーキングトラック)テストを使用した。ゆえに、後足および前足を、それぞれ赤および青の非毒性塗料でコーティングした。動物を滑走路の床(高さ15cmの壁を有する)に置き、長さ100cm、幅10cmの白い紙の上を歩かせた。足跡パターンを、歩行方向に直交して測定された後肢の連続する足跡間の距離について分析した。後ろの足跡の中心とその前の後ろの足跡の中心との間のベース(後肢ベース)を、走りの開始時および終了時にできた足跡を除き、一連の5個の連続するステップにわたって記録した。
【0089】
コレステロールおよびオキシステロールの測定
コレステロールおよびオキシステロールの分析を「ゴールドスタンダード」法(Dzeletovic et al., 1995)に従い、自動酸化アーチファクトの形成を最小限にした。簡単に説明すると、マウス線条体組織試料の重量を測定し、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT、50μg/ml)およびEDTA(0.5M)を含有する500μl溶液中でTissueLyser II装置(Qiagen)を使用して均質化した。該時点で、内部標準の混合物[エピコプロスタノール、-7-ラトステロール、-デスモステロール、-ラノステロールおよび-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール](Avanti Polar Lipids)を添加した。アルカリ加水分解を、室温で2時間、0.35MエタノールKOHを使用してAr下で実施した。リン酸による該溶液の中和後、ステロールをクロロホルムで抽出した。下相を収集し、窒素流下で乾燥させ、残渣をトルエンに溶解した。次いで、100mg Isoluteシリカカートリッジ(Biotage)上で、コレステロールおよびその前駆体からオキシステロールを分離し;コレステロールを、ヘキサン中の0.5%プロパン-2-オールで、続いてオキシステロールを、ヘキサン中の30%プロパン-2-オールで溶出した。ステロール画分およびオキシステロール画分を、前述のように(Chevy et al., 2005)、Regisil(登録商標)+10%TMCS[ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド+10%トリメチルクロロシラン](Regis technologies)で独立してシリル化した。ステロールおよびオキシステロールのトリメチルシリルエーテル誘導体を、中極性キャピラリーカラムRTX-65(65%ジフェニル35%ジメチルポリシロキサン、長さ30m、直径0.32mm、フィルム厚0.25μm;Restesk)におけるガスクロマトグラフィー(Hewlett-Packard 6890シリーズ)により分離した。該ガスクロマトグラフィーと直列の質量分析計(Agilent 5975不活性XL)を、陽イオンの検出のためにセットアップした。イオンを、電子衝撃モードで70eVで産生した。それらを、スキャニングモードのフラグメントグラムにより識別し、適切な内部および外部標準[エピコプロスタノール(epicoprostanol) m/z 370、-7-ラトステロール m/z 465、-デスモステロール m/z 358、-ラノステロールm/z 504、-24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 553、コレステロール m/z 329、7-ラトステロール m/z、7-デヒドロコレステロールm/z 325、8-デヒドロコレステロール m/z 325、デスモステロール m/z 343、ラノステロール m/z 393および24(R/S)-ヒドロキシコレステロール m/z 413]での正規化およびキャリブレーションの後、特定のイオンの選択的モニタリングにより定量化した。
【0090】
ウェスタンブロット
総タンパク質濃度を、BCAキット(Pierce)を使用して決定した。等量の総タンパク質抽出物(30μg)を、SDS-PAGEを使用して4~12%Bis-Trisゲル(NuPAGE(登録商標)Novex Bis-tris midi gel 15 or 26 wells、Life Technologies、カールズバッド、米国)で電気泳動分離し、ニトロセルロース膜に移行させた。ブロックされた膜(TBS-0.1%Tween-20中の5%脱脂粉乳)を一次抗体とともに4°Cで一晩インキュベートし、TBS-0.1%Tween-20(T-BST)で10分間3回洗浄した。次いで、膜を、対応する各一次抗体に対して上げられる二次IgG-HRP抗体で標識した。T-BSTでの3回の洗浄後、供給者の指示に従って、膜をECL化学発光試薬(Clarity Western ECL基質;GE Healthcare、Little Chalfont、英国)とともにインキュベートした。ペルオキシダーゼ活性を、カメラシステムFusion TX7(Fisher Scientific)で検出した。正規化を、Quantity One 1D画像解析ソフトウェア(バージョン4.4;Biorad、Hercules、CA、米国)を使用したデンシトメトリー解析により行った。光学密度を、「標準タンパク質」(GAPDH)に関して正規化した。分配率を計算し、1として定義された最高値を有する試料に対して正規化した。
【0091】
一次抗体
ウェスタンブロット(WB)および免疫組織化学(IHC)分析において使用される抗体を、以下の表1に列挙する。
【0092】


【0093】
免疫染色
免疫組織化学的手順を、37℃で25分間、フェニルヒドラジン中で浮遊切片をインキュベートすることにより内因性ペルオキシダーゼをクエンチすることにより開始した。3回の洗浄後、切片を10%正常ヤギ血清(NGS、Gibco)を含有するPBS/0.1%Triton X-100中で、RTで1時間ブロックした。次いで、切片を、それぞれの一次抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。3回の洗浄後、該切片を、PBS/0.1%Triton X-100および10%NGS中で希釈した対応するビオチン化二次抗体(1:250;Vector Laboratories Inc.、CA、米国)とともに、室温で2時間インキュベートした。3回の洗浄後、結合した抗体をABC増幅システム(Vectastain ABCキット、Vector Laboratories、ウェストグローブ、米国)および3,3’-ジアミノベンジジン四塩酸塩(ペルオキシダーゼ基質キット、DAB、Vector Laboratories、CA、米国)により視覚化した。該切片をマウントし、エタノールおよびトルオール溶液に2回通すことにより脱水し、Eukitt(登録商標)(O.Kindler GmbH&CO、フライブルク、ドイツ)でカバースリップした。
【0094】
画像取得
免疫染色切片の画像を、Leica DFC310FXデジタルカメラを備えた明視野Leica DM 5000B顕微鏡で、室温で、Z6 APO顕微鏡(Leica)およびLAS V3.8(Leica)ソフトウェアで取得した。比較のための写真を、画像取得の同一条件下で撮影し、明るさおよびコントラストのすべての調整をすべての画像に均一に適用した。
【0095】
MJDのLVベースモデルにおけるATXN3凝集体およびDARPP-32枯渇の免疫組織化学的定量分析
脳切片を、RTでAxiovert 200M顕微鏡(CCDカラーデジタルAxiocam HRcカメラ、Carl Zeiss)で、5倍(空気対物レンズ、Fluar、0.25 NA)および20倍倍率(空気対物レンズ、LD-PlanNeofluar、0.4 NA)で分析および画像化した。AxioVisionソフトウェアのMozaiX機能を使用して、完全凝集体含有またはDARPP-32枯渇領域の合成画像を自動的に取得した。ATXN3陽性凝集体の定量化およびDARPP-32枯渇の面積の決定を、各マウスに対し7~8個の切片において行い、線条体の前後に広がり、200μmで区切った。ImageJ(National Institutes of Health)を使用して、各半球の20倍拡大画像上でATXN3陽性凝集体のカウントを実行した。認識可能なATXN3陽性の蓄積が検査に含まれるように画像を手動でしきい値処理した後、3μmを超える粒子を自動的に分析およびカウントし(スケール:2ピクセル/μm)、線条体全体の総凝集体数の推定計算を、以前に記載されているように(Alves et al., 2008a; Alves et al., 2010)実行した。線条体のMUT ATXN3病変の範囲を、スライドスキャナーで線条体の完全な吻側尾部サンプリングを得るために、選択された動物ごとに6~8個のDARPP-32染色切片(厚さ25μmの切片の間に200μm)をデジタル化することおよび、抗体反応性が低下した領域を手動で定義し、その面積を定量化する(スケール:0.5ピクセル/μm)ために、半自動画像解析プログラム(ImageJソフトウェア、NIH、MD、USA)で病変の面積を定量化することにより分析した。線条体全体の切片を分析した。DARPP-32染色の消失を示す線条体の領域を、操作者に依存しないマクロで各動物について測定した。次いで、次の式を使用して体積を推定した:体積=d(a1+a2+a3+・・)、dは連続切片間の距離(200μm)であり、a1、a2、a3などは個々の連続切片に対するDARPP-32-枯渇領域である(Alves et al., 2008b)。損傷領域で測定されたすべてのピクセルの平均濃淡値を、各枯渇領域について記録した。結果を、各動物のDARPP-32枯渇領域の体積の計算値として提示する。すべての場合において、イメージング、測定、および定量化を、処置に対して盲検的に実施した。
【0096】
MJDトランスジェニックマウスにおける免疫組織化学定量分析
小脳体積の定量化:小脳の全範囲をカバーするクレシルバイオレットで染色された8個の切片における葉(lobe)あたりの面積をスキャンすることにより、小脳体積を盲検的に評価した。該小脳体積を、総面積に連続切片間の距離(320μm)を掛けることにより得た。
【0097】
顆粒層および分子層のサイズの定量化:20倍の対物レンズを使用して盲検的に、小脳の前後に広がる4個のクレシルバイオレット染色切片にわたって、定量化を行った。各切片について、(葉のサイズに応じた)3~5回の異なる測定において、葉ごとに層のサイズを盲検的に評価した。
【0098】
プルキンエ細胞の定量化:抗カルビンジンおよびDAPIで染色した小脳全体をカバーする8個の矢状切片の蛍光画像を、20倍の対物レンズを使用してZeiss Axio Imager Z2顕微鏡で取得した。各切片およびプルキンエ細胞の数を、盲検的な方法で各小脳葉について手動でカウントした。データを、小脳全体または葉ごとのプルキンエ細胞数の平均値として表す。
【0099】
ユビキチン凝集体の定量化:20倍の対物レンズを使用してZeiss Axio Imager Z2顕微鏡で取得した、抗ユビキチンおよびDAPIで染色した小脳全体をカバーする8個の矢状切片の蛍光画像から、Cell Profilerソフトウェアを使用して、ユビキチン凝集体の数を葉9および10において自動的に評価した。適用された分析モジュールは、すべての動物および画像について同じであった。データを、切片ごとのユビキチン凝集体の平均数として表す。
【0100】
クレシルバイオレット染色
小脳切片をクレシルバイオレットで2分間染色し、酢酸緩衝液pH3.8から4(2.72%酢酸ナトリウムおよび1.2%酢酸;1:4v/v)において識別し、エタノールおよびトルオール溶液に2回通すことにより脱水し、Eukitt(登録商標)(O.Kindler GmbH&CO.フライブルク、ドイツ)でマウントした。
【0101】
神経芽腫細胞の培養およびトランスフェクション
American Type Culture Collection cell biology bank(CCL-131)から取得したマウス神経芽細胞腫細胞株(N2a細胞)を、5%CO/空気雰囲気中37℃で、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U/mlペニシリンおよび100mg/mlストレプトマイシン(Gibco)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で維持した。84個のグルタミンを有するヒト完全長変異体Atx3(pEGFP-Atx3Q84;(Chai et al., 2002))を、PEI(ポリエチレンイミン)および総濃度0.5 mgの各DNAを使用してNeuro2A細胞にトランスフェクトした。細胞を、トランスフェクション後の48時間のブロット処理のために溶解した。
【0102】
オートファジーフラックス測定
オートファジーフラックスを、リソソームに運搬されるLC3B-IIの量を定量化するために使用されるLC3B代謝回転アッセイにより測定した(Aveleira et al., 2015)。そのために、LC3B-IIのレベルを、自己リソソーム分解の阻害剤であるクロロキン(ChQ、SIGMA、100μm)の存在下および非存在下で測定した。該オートファジーフラックスを、クロロキンなしの試料(LC3B-II-ChQ)におけるLC3B-IIの濃度測定値を、各条件のクロロキン(LC3B-II+ChQ)で処理した対応する試料から差し引くことにより計算した。
【0103】
統計分析
統計分析を、Mann-Whitney検定および、複数の比較のために対応のあるまたは対応のないスチューデントのT検定またはANOVAを使用して実行した。結果を平均±SEMとして表す。本文において定義されているように、有意な閾値を、P<0.05、P<0.01およびP<0.001に設定した。すべての分析を、GraphPad Prism(GraphPad Software、ラホヤ、米国)を使用して実行した。
【0104】
結果
MJDトランスジェニックマウスの小脳における低下したCYP46A1タンパク質レベル
CYP46A1のレベルを、69個のCAG反復を有するN末端切断型ヒトATXN3を発現する6匹のMJDトランスジェニックマウスおよび6匹の同年齢の対照同腹仔からの凍結生検において、ウェスタンブロットにより評価した。特に、変異ヒトアタキシン-3が小脳プルキンエ細胞において特異的に発現されたため、CYP46A1タンパク質レベルを小脳において分析した(Oue et al., 2009)。対照領域として、「該脳の残り」(小脳を除くすべての脳組織)を使用したが、変異ヒトアタキシン-3の発現を検出しなかった(図1)。ウェスタンブロット分析は、対照同腹仔と比較して、MJDマウスからの小脳生検におけるCYP46A1タンパク質レベルにおける24.3%の減少を実証した(Mann-Whitney検定;p=0.026)(図2AおよびB)。対照的に、MJDマウスおよび対照同腹仔の「脳の残り」からの抽出物において、統計的に有意な差を見出さなかった(Mann-Whitney検定;p=0.13)(図2CおよびD)。
【0105】
全体として、これらのデータは、コレステロール代謝経路における重要な酵素であるCYP46A1の、ヒト脊髄小脳失調症、特にMJDにおける治療標的としての関連性を支持する。
【0106】
MJDトランスジェニックマウスの脳におけるコレステロール代謝経路の制御解除
MJDにおけるCYP46A1欠乏の影響を決定するために、MJD Q69マウスおよび同年齢の同腹仔からの小脳抽出物のガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)によるステロールおよびオキシステロールの両方の定量的測定を実施することにより、コレステロール代謝を分析した。したがって、Kandutsch-Russell(ラトステロール)およびBloch(デスモステロール)経路からのコレステロール中間体とともに、コレステロール代謝経路の最初のステロールであるラノステロールを測定した。コレステロールおよび24S-OHCの含有量を最初に比較し、野生型同腹仔(26.19±0.78μg/g;n=6、スチューデントのT検定、P=0.002)と比較して、MJD Q69マウス(20.62±1.14μg/g;n=6)の24S-OHCのレベルにおいて統計的に有意な減少(21.3%)を観察した(図3A)。MJDマウスと野生型マウスの間で小脳コレステロール含有量に統計的に有意な差を観察しなかった(図3A)。オキシステロール25S-OHCおよび27S-OHC、および残りのステロール(ラノステロール、7-ラトステロール、デスモステロール、7-DHCおよび8-DHC)について統計的に有意な差を見出さなかった(図3A)。
【0107】
変異体ヒトアタキシン-3は、小脳プルキンエ細胞においてのみ発現されるため、「脳の残り」を使用して、上記のオキシステロールおよびステロールのレベルを測定した。驚くべきことに、対照同腹仔(4.68±0.37μg/g;n=6;スチューデントのT検定、P=0.013)と比較して、MJDQ69マウス(6.32±0.40μg/g;n=6)からの「脳の残り」における24S-OHCのレベルにおける統計的に有意な増加を検出した(図3B)。統計的に有意な増加を、野生型マウス(8.68±0.53mg/g;n=6;スチューデントのT検定、P=0.011)と比較して、MJDQ69マウス(10.74±0.41mg/g;n=6)のコレステロールのレベルにおいても見出した(図3B)。コレステロール前駆体デスモステロールのレベル、ならびに7-ラトステロールのレベル(正常マウスにおいて4.68±0.37μg/g;n=6 対 MJDQ69マウスにおいて6.32±0.40μg/g;n=6;スチューデントのT検定、P=0.054)は、野生型マウス(172.5±14.6μg/g;n=6;スチューデントのT検定、P=0.007)と比較して、MJDQ69マウス(243.0±14.93μg/g;n=6)において増加した(図3B)。同じ系統において、ラノステロールのレベルは、野生型マウス(3.46±0.29μg/g;n=6、スチューデントのT検定)と比較して、MJDQ69マウス(4.30±0.30μg/g;n=6、P=0.07)においてわずかに増加した(図3B)。7-デヒドロコレステロール(7-DHC)および8-デヒドロコレステロール(8-DHC)について、統計的に有意な差を見出さなかった。さらに、オキシステロール27-OHCのレベルは、野生型マウス(0.60±0.07μg/g;n=6;スチューデントのT検定、P=0.0006)と比較して、MJDQ69マウス(0.21±0.035μg/g;n=6)において減少した。MJDQ69および野生型マウスの間で、25-OHCレベルについて差を観察しなかった(図3B)。
【0108】
全体として、これらの結果は、小脳のようなMJDの影響を受ける領域(変異型ATXN3が特異的に発現している)および変異型ATXN3が検出されない領域(該脳の残り)におけるコレステロール代謝経路における変化を示唆する。
【0109】
CYP46A1過剰発現は、MJD LVベースのマウスモデルにおける神経病理を緩和する
次いで、本発明は、CYP46A1のレベルの増加を介したコレステロール代謝経路の上方制御が、変異体アタキシン-3クリアランスを改善し、したがってMJD関連神経病理の確立を遅らせることができるかどうかを調査した。次に、MJDのLVベースのマウスモデルにおけるCYP46A1過剰発現の治療効果を評価した(Alves et al., 2008b; Nobrega et al., 2013)。該目的のために、変異体ヒトアタキシン-3をコードするLVおよびCYP46A1をコードするAAVを、MJDマウスモデルの線条体において共発現させ、注射の2ヶ月後に該マウスを犠牲にした。HA-誘導免疫組織化学は、AAVrh.10-CYP46A1を注射したLV-MJDマウスにおけるHAタグの存在を明らかにしたが、AAVrh.10-GFPを注射した対照グループにおいてはそうではなかった(図4A)。逆に、AAVrh.10-GFPを注射したマウスにおいて、該マウス脳における強力で広範囲のGFP免疫反応性を検出したが、HA陽性シグナルを検出しなかった(図4A)。
【0110】
MJDマウスモデルにおいて、(1H9抗体を用いた)免疫組織化学および突然変異体アタキシン3陽性包含物の定量分析(図4A)は、対照群(GFP共注射マウス;6684±717.2包含物;n=8;スチューデントのT検定、P=0.0002)と比較して、アタキシン3陽性包含物(2751±267.8;n=8)の数における統計的に有意なCYP46A1を介した減少(~59%)を明らかにした(図4B)。包含物の表面も分析し、対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウス(111.4±3.96a.u.;n=8;スチューデントのT検定、P<0.0001)と比較して、AAVrh.10-CYP46A1処置LV-MJDマウス(59.29±4.67任意単位(a.u.);n=8)の包含物のサイズにおける統計的に有意な減少(~47%)を実証した(図4B)。これらの結果を、対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウスと比較して、AAVrh.10-CYP46A1を注射したLV-MJDマウスにおけるユビキチン化された包含物の数における減少を示す抗ユビキチン免疫染色で完了した(図4A)。これらの結果を考慮して、変異体ヒトアタキシン-3クリアランスがLV-MJDマウスモデルにおける神経保護を付与するかどうかを次に検査した。マウス線条体におけるLVベースの変異体アタキシン-3の過剰発現は、正確に定量化できる神経マーカーDARPP-32の枯渇を促進することが報告されている(Alves et al., 2008b)。したがって、DARPP-32に対する免疫組織化学を実施した(図4D)。CYP46A1の過剰発現は、対照AAVrh.10-GFPを注射したLV-MJDマウス(0.91±0.14mm;n=8)スチューデントのT検定;P=0.015)と比較して、2か月での減少したDARPP-32枯渇領域(0.48±0.77mm;n=8)により評価されるように、神経機能障害の統計的に有意な減少(~48%)につながった。
【0111】
全体として、これらのデータは、CYP46A1の過剰発現が治療特性を有し、これがミスフォールド変異体ヒトアタキシン-3のクリアランスを促進し、したがってLV-MJDマウスモデルにおける神経マーカーの保存および神経保護をもたらすことを支持する。
【0112】
AAV媒介CYP46A1遺伝子治療はMJDトランスジェニックマウスにおける神経病理および運動協調を改善する
トランスジェニックMJDマウスモデル(Torashima et al., 2008)を使用することにより、CYP46A1の上方制御が疾患発症後に運動および小脳障害(deficit)を緩和するかどうかの次の調査を実施した。該モデルは、強力な運動および神経病理学的表現型を特徴とし、分子療法のテストに特に適する(Nobrega et al., 2014; Mendonca et al., 2015; Nobrega et al., 2015)。重度の運動機能障害を有するMJDトランスジェニックマウスの運動表現型を改善するCYP46A1過剰発現の可能性を評価するため、CYP46A1またはGFP(対照)をコードするAAVrh10を成体MJDトランスジェニックマウスの小脳に注射し、ウイルス注射後10週間まで2/4週間ごとに、運動能力を評価した。一定速度でのロタロッドテスト(図5A)および加速ロタロッドテスト(図5B)を使用して、該注射時、野生型マウス(WT)と比較して、MJDトランスジェニックマウスはすでに顕著な運動障害を示すことを観察した。さらに、研究全体を通して、GFPマウスと比較して、CYP46A1を発現するマウスはより良い運動能力を有するが、両方のロタロッドテストについて、AAV注射後わずか10週間で、CYP46A1およびGFPを発現するマウス間で観察される異なる落下までの潜時は有意になった(図5A、CYP53.07s対GFP17.48s)。運動機能における該改善を、足跡パターンテスト、すなわち後肢ベーステストでさらに分析した。AAVrh10-CYP46A1で処置したマウスは、ウイルス注射の10週間後により良い後肢ベース性能の傾向を有することを観察した(図5C、AAVrh10-CYP46A1:3.17±0.07cm対AAVrh10-GFP:3.40±0.11cm);しかしながら、該テストでは両グループ間に有意な差を観察しなかった。
【0113】
運動機能の改善がニューロンの改善とも関連しているかどうかを調査するために、注射されたマウスの凝集体数および小脳神経病理を次に評価した。(Nobrega et al., 2013b; Nobrega et al., 2014)におけるように、小脳皮質の葉IXおよびX上でウイルスベクターの形質導入を優先的に検出した。行動データによれば、AAVrh10-GFPを注射した対照と比較して、AAVrh10-CYP46A1を注射したマウスにおける形質導入された葉において、ユビキチン凝集体の平均数が有意に減少した(図6)。該トランスジェニックマウスモデルは、プルキンエ細胞の損失および小脳皮質の強力な解体を特徴とする(Oue et al., 2009)。重要なことに、プルキンエ細胞の平均数は、対照と比較して、AAVrh10-CYP46A1を注射した動物において有意に高かった(図6)。さらに、小脳の体積は、AAVrh10-CYP46A1を注射したマウスの葉IXおよびX、ならびに顆粒層の厚さにおいて高かった(図6)。全体としてこれらのデータは、CYP46A1の上方制御が、重度の進行性MJDトランスジェニックマウスモデルにおける運動表現型および神経病理学的異常の強力な緩和を仲介することを示す。
【0114】
CYP46A1の過剰発現は、Neuro2A細胞においてオートファジーを誘発し、変異型ATXN3を除去する
次に、CYP46A1作用の分子メカニズムおよび、変異ATXN3(EGFP-Q84)を発現するNeuro2A細胞におけるその影響を調査した。ウェスタンブロットによる変異体ATXN3種レベルの分析は、可溶性タンパク質(1±0.0vs0.09±0.06;n=4;図7C)におけるのと同様、両方の凝集体(1±0.0対0.449±0.11;n=4;図7B)において、CYP46A1の過剰発現が、対照条件(図7A)と比較して、そのレベルを有意に減少させることを明らかにした。これらの結果に基づいて、次に、CYP46A1が凝集種を除去するための主な細胞経路としてオートファジーを介して変異型ATXN3を減少させているかどうかを決定するために、調査を実施した(図8A)。実際、CYP46A1の過剰発現は、対照条件(1±0.0;n=4)と比較して、LC3B-IIレベルを有意に増加させる(2.12±0.35;n=4)ことを見出した。LC3B-IIレベルにおける該増加は、飢餓状態(オートファジー陽性対照;1.58±0.02;n=4)と比較して、CYP46A1の過剰発現時にさらにより高くなった(図8B)。さらに、オートファジー阻害剤(クロロキン-ChQ)の存在下で観察された結果は、同じ傾向、つまり対照条件(2.83±0.44;n=4)と比較した、CYP46A1過剰発現時のLC3B-IIレベルにおける増加(6.74±1.31;n=4)に沿う(図8B)。さらに、CYP46A1の過剰発現は、オートファジーフラックスを有意に増加させ、これは対照条件(1±0.0;n=4)と比較した、LC3B-II正味フラックスにおける増加(2.80±0.16;n=4)により強調される(図8C)。
【0115】
全体としてこれらの結果は、CYP46A1が変異ATXN3の強力なモジュレーターであり、オートファジー経路の強力な活性化によりそのレベルが低下することを示す。
【0116】
ゆえに、CJ46A1レベルが、MJD/PolyQマウスからの小脳抽出物において減少することを実証した。MJDのレンチウイルスベースの動物マウスモデルにおけるAAVrh10-CYP46A1の過剰発現は、ニューロンマーカーの保存に関連する変異体ヒトアタキシン-3の蓄積を減少させることにより神経保護を付与することも示した。このことを、小脳AAVrh10-CYP46A1の過剰発現が、MJD関連神経病理の緩和、特に小脳におけるミスフォールドタンパク質の減少およびプルキンエ細胞損失および細胞層収縮の減少と相関する運動行動障害の注目に値する緩和を誘発する、成体MJDトランスジェニックマウスにおいて確認した。ゆえに、AAV-CYP46A1は、MJD関連神経病理を軽減するミスフォールドアタキシン3の蓄積を減少させ、したがって運動行動欠陥を改善する。
【0117】
驚くべきことに、CYP46A1がオートファジーを活性化して変異ATXN3沈着を減少させることを、神経芽細胞腫細胞において実証した。
【0118】
したがって、これらの結果は、SCAのための治療標的としてのCYP46A1を支持する。
【0119】
参考文献
【0120】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-02-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書または図面に記載された発明。
【外国語明細書】