(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005852
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】医療用処置材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 15/24 20060101AFI20230111BHJP
C08F 20/06 20060101ALI20230111BHJP
C08L 33/02 20060101ALI20230111BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61L15/24 100
C08F20/06
C08L33/02
A61L15/60 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108065
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591079395
【氏名又は名称】小山 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】小山 義之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智子
(72)【発明者】
【氏名】中村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大内 彩歌
【テーマコード(参考)】
4C081
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4C081AA02
4C081AA03
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(57)【要約】
【課題】生体組織に対する接着性及び力学的強度に優れた医療用処置材を提供すること。
【解決手段】水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材であって、ポリメタクリル酸(A)と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、ポリメタクリル酸(A)を除く)と、を含有する医療用処置材する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材であって、
ポリメタクリル酸(A)と、
カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記ポリメタクリル酸(A)を除く)と、
を含有する、医療用処置材。
【請求項2】
前記重合体(B)はアミド基を有する、請求項1に記載の医療用処置材。
【請求項3】
前記重合体(B)は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミドの少なくともいずれかである、請求項1又は2に記載の医療用処置材。
【請求項4】
前記ポリメタクリル酸(A)におけるメタクリル酸に由来する構造単位の割合が、前記ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して80質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医療用処置材。
【請求項5】
前記ポリメタクリル酸(A)及び前記重合体(B)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液が接触されたものが乾燥されて形成された状態を有し、
水分を吸収した際にハイドロゲルを形成し、かつ前記ハイドロゲルが生体組織に対する接着性を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の医療用処置材。
【請求項6】
水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材の製造方法であって、
ポリメタクリル酸(A)、及びカルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記ポリメタクリル酸(A)を除く)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物を得る工程と、
前記フィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液を接触させた後に乾燥する工程と、
を含む、医療用処置材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用処置材及びその製造方法に関し、より詳細には、水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織に接着するハイドロゲルは、癒着防止材や止血材、創傷被覆材等に適用可能であり、従来、種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ポリアクリル酸とポリビニルピロリドンとの水素結合によりハイドロゲルを形成する医療用処置材としてハイドロゲル形成材が提案されている。特許文献1に記載の技術では、ポリアクリル酸及びポリビニルピロリドンのいずれかの水溶液をフィルム状に乾燥させておき、このフィルムに対して他方の水溶液を接触させた後に乾燥することにより、ハイドロゲル形成材として、水分の吸収によりハイドロゲルを形成可能な乾燥状態のフィルムやスポンジを得ている。このようにして得られたフィルム及びスポンジは、傷口や止血部位等のような濡れた生体組織上で、血液や組織液等の水分を速やかに吸収して膨潤し、生体組織に接着する機能を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載のハイドロゲル形成材は、生体組織への接着性及び力学的強度が十分であるとはいえず、使い勝手のよい医療用処置材であるとは必ずしもいえない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体組織に対する接着性及び力学的強度に優れた医療用処置材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、水素結合によりハイドロゲルを形成する医療用処置材の重合体成分として特定のカルボキシル基含有重合体を使用することにより、生体組織に対する接着性及び力学的強度に優れた医療用処置材を得ることができることを見出し、本発明を完成した。具体的には、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
〔1〕 水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材であって、ポリメタクリル酸(A)と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記ポリメタクリル酸(A)を除く)と、を含有する、医療用処置材。
〔2〕 前記重合体(B)はアミド基を有する、上記〔1〕の医療用処置材。
〔3〕 前記重合体(B)は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミドの少なくともいずれかである、上記〔1〕又は〔2〕の医療用処置材。
【0008】
〔4〕 前記ポリメタクリル酸(A)におけるメタクリル酸に由来する構造単位の割合が、前記ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して80質量%以上である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかの医療用処置材。
〔5〕 前記ポリメタクリル酸(A)及び前記重合体(B)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液が接触されたものが乾燥されて形成された状態を有し、水分を吸収した際にハイドロゲルを形成し、かつ前記ハイドロゲルが生体組織に対する接着性を有する、上記〔1〕~〔4〕のいずれかの医療用処置材。
【0009】
〔6〕 水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材の製造方法であって、ポリメタクリル酸(A)、及びカルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、前記ポリメタクリル酸(A)を除く)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物を得る工程と、前記フィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液を接触させた後に乾燥する工程と、を含む、医療用処置材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハイドロゲルを形成する医療用処置材の重合体成分として、ポリメタクリル酸(A)と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)とを組み合わせて用いることにより、力学的強度が高く、しかも生体組織に対する接着性に優れた医療用処置材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
【0012】
《医療用処置材》
本発明の医療用処置材は、水分との接触によりハイドロゲルを形成する医療用処置材である。当該医療用処置材は、癒着防止材や止血材、創傷被覆材等に利用可能なハイドロゲル形成用の物品であり、例えばフィルム状、スポンジ状、シート状又は粉末状のハイドロゲル形成材である。本発明の医療用処置材は、ポリメタクリル酸(A)と、カルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基を有する重合体(B)(ただし、ポリメタクリル酸(A)を除く)と、を含有する。
【0013】
<ポリメタクリル酸(A)>
ポリメタクリル酸(A)は、メタクリル酸(CH2=C(CH3)-COOH)に由来する構造単位を主体とするカルボキシル基含有重合体である。具体的には、ポリメタクリル酸(A)において、メタクリル酸に由来する構造単位の割合は、ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、より更に好ましくは95質量%以上である。
【0014】
ポリメタクリル酸(A)としては、架橋重合体、あるいは重量平均分子量が10万以上の重合体(以下、「高分子量重合体(AH)」ともいう)を好ましく用いることができる。これらのうち、水分との接触による膨潤性及び生体組織に対する接着性により優れている点で、ポリメタクリル酸(A)としては架橋重合体を用いることが好ましい。
【0015】
ポリメタクリル酸(A)は、メタクリル酸のみからなる重合体であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲において、メタクリル酸とは異なる単量体(以下、「その他の単量体」ともいう)に由来する構造単位を更に含む重合体であってもよい。その他の単量体は、メタクリル酸と共重合可能な単量体であれば特に限定されない。ポリメタクリル酸(A)として架橋重合体を用いる場合、ポリメタクリル酸(A)は、架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位(c1)」ともいう)含むことが好ましい。
【0016】
架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体としては、重合性不飽和基を2個以上有する多官能重合性単量体、及び自己架橋可能な架橋性官能基(例えば、加水分解性シリル基等)を有する自己架橋性単量体等が挙げられる。多官能重合性単量体の具体例としては、多官能(メタ)アクリレート化合物、多官能アルケニル化合物、(メタ)アクリロイル基及びアルケニル基の両方を有する化合物等が挙げられる。架橋性官能基を有するエチレン性不飽和単量体は、これらのうち、均一な架橋構造を得やすい点で多官能アルケニル化合物が好ましい。
【0017】
多官能アルケニル化合物の具体例としては、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、ポリアリルサッカロース等の多官能アリルエーテル化合物;ジアリルフタレート等の多官能アリル化合物;ジビニルベンゼン等の多官能ビニル化合物;(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソプロペニル、(メタ)アクリル酸ブテニル、(メタ)アクリル酸ペンテニル、(メタ)アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル等のアルケニル基含有(メタ)アクリル酸化合物、等を挙げることができる。多官能アルケニル化合物としては、これらの中でも、分子内に複数のアリルエーテル基を有する多官能アリルエーテル化合物が特に好ましい。
【0018】
また、自己架橋性単量体の具体例としては、加水分解性シリル基含有ビニル単量体等が挙げられる。加水分解性シリル基含有ビニル単量体としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシランン等のビニルシラン類;(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸メチルジメトキシシリルプロピル等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリメトキシシリルウンデカン酸ビニル等が挙げられる。
【0019】
ポリメタクリル酸(A)が構造単位(c1)を含む場合、ポリメタクリル酸(A)に含まれる構造単位(c1)の量は、ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、ポリメタクリル酸(A)に含まれる構造単位(c1)の量は、ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。なお、ポリメタクリル酸(A)が含む構造単位(c1)は、1種のみでもよく2種以上でもよい。
【0020】
ポリメタクリル酸(A)を構成するその他の単量体としては、上記の他、例えば(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステル、(メタ)アクリル酸の芳香族エステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
これらの具体例としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸の脂肪族環式エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル及び(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸の芳香族エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシメチル、(メタ)アクリル酸2-フェノキシエチル及び(メタ)アクリル酸3-フェノキシプロピル等が挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシエチル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシプロピル、(メタ)アクリル酸エトキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブトキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸エトキシブチル、(メタ)アクリル酸n-プロポキシブチル及び(メタ)アクリル酸n-ブトキシブチル等が挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、及び(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0025】
ポリメタクリル酸(A)において、その他の単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリメタクリル酸(A)を構成する全構造単位に対して、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。ポリメタクリル酸(A)を構成するその他の単量体は、1種のみでもよく2種以上でもよい。
【0026】
ポリメタクリル酸(A)として高分子量重合体(AH)を用いる場合、高分子量重合体(AH)は、構造単位(c1)を有しない重合体であることが好ましい。高分子量重合体(AH)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、力学的強度及び増粘効果を確保する観点から、好ましくは50万以上であり、より好ましくは100万以上であり、更に好ましくは180万以上である。また、取り扱い性の観点から、高分子量重合体(AH)のMwは、好ましくは1,000万以下であり、より好ましくは800万以下であり、更に好ましくは500万以下である。なお、高分子量重合体(AH)の分子量は、カルボキシル基をトリメチルシリルジアゾメタンによりメチル化処理した後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりテトラヒドロフラン溶離液を用いて測定したポリスチレン換算値である。
【0027】
<重合体(B)>
重合体(B)は、ポリメタクリル酸(A)が有するカルボキシル基と水素結合を形成し得る官能基(以下、「官能基E」ともいう)を有し、かつポリメタクリル酸(A)とは異なる重合体である限り、特に限定されない。官能基Eとしては、例えばアミド基、シアノ基、カルボニル基、アミノ基、水酸基等が挙げられる。重合体(B)が有する官能基Eは、1種でもよく2種以上でもよい。
【0028】
ポリメタクリル酸(A)が有するカルボキシル基と、官能基Eとの水素結合の形成によって水膨潤性に優れたハイドロゲル形成材を得ることができる点において、官能基Eは、中でも、アミド基及び/又は水酸基が好ましく、アミド基が特に好ましい。
【0029】
アミド基を有する重合体(B)は、例えば、アミド基を有するエチレン性不飽和単量体を用いて重合することにより製造することができる。アミド基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、1-ビニル-4-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0030】
水酸基を有する重合体(B)としては、ポリエチレングリコール(市販品として、例えば日油社製のマクロゴール4000、マクロゴール6000及びマクロゴール20000)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(市販品として、例えばBASF社製のクレモファーRH40、日光ケミカル社製のHCO-40及びHCO-60)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(市販品として、例えばADEKA社製のプルロニック(登録商標)F68)、ポリビニルアルコール等が挙げられる。水酸基を有する重合体(B)は、これらの中でも、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0031】
重合体(B)において、官能基Eを有するエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位の含有量は、重合体(B)を構成する全構造単位に対し、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、97質量%以上であることがより更に好ましい。
【0032】
重合体(B)としては、架橋重合体、あるいは重量平均分子量が1万以上の重合体(以下、「高分子量重合体(BH)」ともいう)を好ましく用いることができる。
【0033】
水分との接触により膨潤性の高いハイドロゲルを形成する医療用処置材を得る観点から、重合体(B)は、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、構成単量体の重合性に優れ、重合体(B)の製造が容易である点において、ポリビニルピロリドン及びポリアクリルアミドよりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0034】
ポリビニルピロリドンは、典型的には、N-ビニル-2-ピロリドンからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体の具体例としては、ポリメタクリル酸(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。ポリビニルピロリドンにおいて、N-ビニル-2-ピロリドンとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリビニルピロリドンを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0035】
また同様に、ポリアクリルアミドは、典型的には、アクリルアミドからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、アクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。アクリルアミドとは異なる単量体の具体例としては、ポリメタクリル酸(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。ポリアクリルアミドにおいて、アクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリアクリルアミドを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0036】
ポリメタクリルアミドは、典型的には、メタクリルアミドからなる重合体である。ただし、本発明の効果を損なわない範囲において、メタクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。メタクリルアミドとは異なる単量体の具体例としては、ポリメタクリル酸(A)を構成していてもよいその他の単量体として例示した化合物等が挙げられる。ポリメタクリルアミドにおいて、メタクリルアミドとは異なる単量体に由来する構造単位の含有量は、ポリメタクリルアミドを構成する全構造単位に対して、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0037】
重合体(B)として高分子量重合体(BH)を用いる場合、高分子量重合体(BH)の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、力学的強度及び増粘効果を確保する観点から、好ましくは1万以上であり、より好ましくは3万以上であり、更に好ましくは5万以上である。また、取り扱い性の観点から、高分子量重合体(BH)のMwは、好ましくは10,000万以下であり、より好ましくは5,000万以下であり、更に好ましくは3,000万以下である。なお、重合体(B)の分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算値である。
【0038】
本発明の医療用処置材に含まれるポリメタクリル酸(A)と重合体(B)との合計量は、生体組織に対する接着性に優れたハイドロゲルを形成でき、かつ力学的強度に優れた医療用処置材を得る観点から、医療用処置材の全量に対し、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましく、95質量%以上がより更に好ましい。
【0039】
本発明の医療用処置材において、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の含有量は、ポリメタクリル酸(A)100質量部に対して、重合体(B)が20~500質量部となるように調整することが好ましい。ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の含有量が上記範囲であると、力学的強度の改善効果が高く、また生体組織に対して優れた接着性を示すハイドロゲルを形成できる点で好適である。このような観点から、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の含有量は、ポリメタクリル酸(A)100質量部に対して、重合体(B)が30~400質量部となる量とすることがより好ましく、50~300質量部となる量とすることが更に好ましい。
【0040】
なお、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)を製造するための重合方法は特段制限されるものではない。ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)は、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合等の公知のラジカル重合方法を採用して、単量体を重合することにより得ることができる。溶液重合法による場合、例えば、有機溶剤及び単量体を反応器に仕込み、重合開始剤(例えば、アゾ化合物)を添加して、40~250℃に加熱して重合することにより、目的とする重合体を得ることができる。
【0041】
<その他の成分>
本発明の医療用処置材には、使用する目的等に応じて、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)とは異なる成分(以下、「その他の成分」ともいう)が更に含有されていてもよい。その他の成分としては、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、血液凝固剤、抗凝固剤、局所麻酔剤、血管収縮剤及び血管拡張剤等の各種薬剤、並びにポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)とは異なる水溶性重合体(C)等が挙げられる。その他の成分としては、1種又は複数種を含有させることができる。その他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲において、各成分に応じて適宜選択することができる。
【0042】
水溶性重合体(C)としては、増粘剤として一般に使用され得る水溶性重合体が挙げられ、具体的には、例えば多糖類等が挙げられる。多糖類としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体;ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類;カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、キサンタンガム及びウェランガム等の水溶性天然高分子多糖類、並びにこれらの塩(例えば、ナトリウム塩)等が挙げられる。水溶性重合体(C)は、中でも、ヒアルロン酸又はその塩が好ましい。水溶性重合体(C)の数平均分子量は、例えば200,000以上である。なお、水溶性重合体(C)の分子量は、GPCにより測定したポリスチレン換算値である。
【0043】
本発明の医療用処置材が水溶性重合体(C)を含有する場合、水溶性重合体(C)の含有量は、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の合計量100質量部に対して、0.01~50質量部とすることが好ましい。水溶性重合体(C)の含有量を上記範囲とすることにより、ハイドロゲルの保水性を改善することが可能である。こうした観点から、水溶性重合体(C)の含有量は、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましい。また、水溶性重合体(C)の含有量の上限については、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の合計量100質量部に対して、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましい。水溶性重合体(C)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
<医療用処置材の製造方法>
本発明の医療用処置材を製造するための方法は特段制約されるものではないが、以下の方法〔1〕又は方法〔2〕を用いることが好ましい。
方法〔1〕:ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液を接触させた後に乾燥する方法
方法〔2〕:水溶性高分子(C)の存在下において、ポリメタクリル酸(A)を含む溶液と、重合体(B)を含む溶液とを混合し、乾燥する方法
【0045】
ここで、ポリメタクリル酸(A)の水溶液と重合体(B)の水溶液とを単に混合するものとすると、ポリメタクリル酸(A)が有するカルボキシル基と、重合体(B)が有する官能基Eとの水素結合により非常に速やかにハイドロゲルが形成される。しかしながら、このようにして得られるハイドロゲルは、水に対する溶解性及び膨張性が十分でなく、また生体組織に対する接着性に劣る。これに対し、上記方法〔1〕及び方法〔2〕によれば、優れた水溶性及び水膨潤性を示す医療用処置材を製造することができる。
【0046】
(方法〔1〕について)
方法〔1〕では、まず、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)のうち一方の重合体(以下、「第1重合体」ともいう)を含むフィルム状固形物を調製する。フィルム状固形物を調製するには、例えば溶液乾燥法、熱プレス法等が挙げられる。これらのうち、気泡の発生を抑制でき、平滑なフィルムを作製できる点で溶液乾燥法が好ましい。溶液乾燥法によりフィルム状固形物を製造する場合、第1重合体を溶媒に溶解してなる重合体溶液(以下、「第1重合体溶液」ともいう)を調製し、次いで、第1重合体溶液を支持体に塗工し、乾燥することが好ましい。なお、フィルム状固形物を構成する第1重合体は、ポリメタクリル酸(A)でもよく、重合体(B)でもよい。
【0047】
第1重合体を溶解する溶媒としては、水のほか、水に溶解可能な有機溶媒と水との混合液、及び水に溶解可能な有機溶媒が挙げられる。水に溶解可能な有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、アセトン等が挙げられる。第1重合体を溶解する溶媒としては、これらのうち、水、エタノール、又は水とエタノールとの混合液が好ましい。第1重合体溶液における重合体濃度は、特に限定されないが、例えば0.01~10質量%であり、好ましくは0.1~5質量%である。
【0048】
支持体上にフィルム状固形物を形成する方法は特段制限されるものではなく、公知の成膜方法を採用することができる。例えば、第1重合体溶液を支持体上に塗工し、好ましくは加熱して溶媒を除去することにより、第1重合体を含むフィルム状固形物を支持体上に形成することができる。加熱処理を行う場合、その加熱温度は、例えば50~120℃であり、加熱時間は、例えば0.1~5時間である。また、加熱処理は、減圧下あるいは送風下において実施されてもよい。支持体上に形成されるフィルム状固形物の厚みは、例えば1~5,000μmである。フィルム状固形物の水分含有量は、例えば10質量%以下である。
【0049】
続いて、支持体上に形成されたフィルム状固形物と、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)のうち第1重合体とは異なる重合体(以下、「第2重合体」ともいう)を溶媒に溶解してなる重合体溶液(以下、「第2重合体溶液」ともいう)とを接触させる。第2重合体を溶解する溶媒としては、第1重合体を溶解する溶媒として例示したものと同様の溶媒が挙げられる。第2重合体溶液における重合体濃度は、例えば0.1~30質量%であり、好ましくは1~20質量%である。
【0050】
第1重合体を含むフィルム状固形物と第2重合体溶液とを接触させる方法は特に制限されるものではない。フィルム状固形物と重合体溶液とを接触させる方法としては、例えば、フィルム状固形物の表面に第2重合体溶液を塗布、滴下又は噴霧する方法、フィルム状固形物を第2重合体溶液に浸漬する方法等が挙げられる。好ましい一態様としては、フィルム状固形物の表面に第2重合体溶液を滴下等することにより、第2重合体溶液からなる液体層をフィルム状固形物上に形成し、所定時間(例えば、10~180分)静置する。液体層の厚みは特に限定されないが、例えば0.1~50,000μmである。これにより、フィルム状固形物中の第1重合体が第2重合体溶液に徐々に溶解し、ハイドロゲルが形成される。
【0051】
第1重合体を含むフィルム状固形物と第2重合体溶液とを接触させる場合、フィルム状固形物に対し接触させる第2重合体溶液の量は、得られるハイドロゲルにおいて架橋構造が適度に形成されるように選択することが好ましい。具体的には、ポリメタクリル酸(A)が有するカルボキシル基1モルに対し、重合体(B)が有する官能基Eのモル数が、好ましくは0.1~10モル、より好ましくは0.2~8モル、更に好ましくは0.5~2モルとなるように、フィルム状固形物及び第2重合体溶液の量及び重合体濃度を調整することが好ましい。
【0052】
医療用処置材として、水溶性重合体(C)を含む乾燥体を得る場合、水溶性重合体(C)は、フィルム状固形物が含んでいてもよく、第2重合体溶液が含んでいてもよい。水溶性重合体(C)を第2重合体溶液が含む場合、水溶性重合体(C)を予め第2重合体溶液に配合しておき、水溶性重合体(C)を含む第2重合体溶液をフィルム状固形物と接触させてもよく、あるいは、フィルム状固形物と第2重合体溶液とを接触させた後、水溶性重合体(C)を第2重合体溶液に添加してもよい。ハイドロゲルの形成を好適に行わせる観点から、これらのうち、第2重合体溶液が水溶性重合体(C)を含むことが好ましく、水溶性重合体(C)を予め含む第2重合体溶液をフィルム状固形物と接触させることがより好ましい。
【0053】
水溶性重合体(C)を含む第2重合体溶液をフィルム状固形物と接触させる場合、第2重合体溶液中における水溶性重合体(C)の含有量は、第2重合体の100質量部に対して、0.01~50質量部とすることが好ましく、0.1~20質量部とすることがより好ましく、0.5~15質量部とすることが更に好ましい。
【0054】
その後、得られたハイドロゲルを乾燥することにより、目的物である乾燥体が得られる。ハイドロゲルを乾燥する方法としては特段の制約はなく、公知の乾燥処理方法を適宜採用することができる。
【0055】
溶液乾燥法によりハイドロゲルを乾燥させる場合、凍結乾燥によることが好ましい。凍結乾燥処理において、凍結温度は、例えば-70℃~-5℃であり、好ましくは-60℃~-5℃である。凍結乾燥による乾燥処理は室温減圧下で行うことが好ましい。凍結乾燥時の圧力は、例えば50Pa以下であり、好ましくは20Pa以下であり、より好ましくは10Pa以下である。なお、本明細書において「乾燥」とは、水分が完全に除去された状態のほか、乾燥過程において水分が残存している状態を含む意味である。乾燥処理により得られる乾燥体の水分含有量は、例えば10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。得られる乾燥体がフィルム状である場合、乾燥体の厚みは、例えば0.1~50,000μmである。これにより、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)のうち一方の重合体を含むフィルム状固形物に対し、他方の重合体を含む溶液が接触されたものが乾燥されて形成された状態を有する乾燥体を得ることができる。
【0056】
(方法〔2〕について)
方法〔2〕では、水溶性重合体(C)の存在下において、ポリメタクリル酸(A)を含む溶液と、重合体(B)を含む溶液とを混合した後、その混合液を乾燥することにより、医療用処置材としての乾燥体を製造する。
【0057】
ポリメタクリル酸(A)を含む溶液(以下、「重合体溶液A」ともいう)、及び重合体(B)を含む溶液(以下、「重合体溶液B」ともいう)において、重合体を溶解する溶媒としては、第1重合体を溶解する溶媒として例示したものと同様の溶媒が挙げられる。これらのうち、乾燥工程を効率良く行う観点から、水を単独で使用することが好ましい。重合体溶液A及び重合体溶液Bにおいて、重合体濃度は、例えば0.001~5質量%であり、好ましくは0.01~1質量%である。
【0058】
また、重合体溶液A及び重合体溶液Bにおいて、ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)のそれぞれの含有量は、ポリメタクリル酸(A)100質量部に対して、重合体(B)が20~500質量部となるように重合体溶液A及び重合体溶液Bの量及び濃度を調整することが好ましい。ポリメタクリル酸(A)及び重合体(B)の量は、ポリメタクリル酸(A)100質量部に対して、重合体(B)が30~400質量部となる量とすることがより好ましく、50~300質量部となる量とすることが更に好ましい。
【0059】
方法〔2〕において使用される水溶性重合体(C)としては、上記において例示した水溶性重合体(C)の具体例と同様のものを挙げることができる。これらのうち、ヒアルロン酸又はその塩を好ましく使用することができる。水溶性重合体(C)の使用量は、ポリメタクリル酸(A)100質量部に対して、0.01~50質量部とすることが好ましく、0.1~20質量部とすることがより好ましく、0.5~15質量部とすることが更に好ましい。水溶性重合体(C)は、水溶液として使用されることが好ましい。
【0060】
続いて、上記により得られたポリメタクリル酸(A)、重合体(B)及び水溶性重合体(C)を含む混合液に対し乾燥処理を施すことにより、目的物である乾燥体を得ることができる。乾燥処理は凍結乾燥とすることが好ましい。凍結乾燥は常法に従って行うことができる。例えば、上記混合液をモールドに入れて凍結し、その成形された凍結品を凍結乾燥することにより、所望の形状を有する目的物(乾燥体)を得ることができる。乾燥体の水分含有量は、例えば10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。
【0061】
<医療用処置材の使用態様>
本発明の医療用処置材は、使用前は乾燥した状態の固形物(すなわち乾燥体)であり、水分と接触すると、吸水して膨潤することによりハイドロゲル(すなわち膨潤体)となる。本発明の医療用処置材は、水分との接触前は柔軟性を有する乾燥体であり、水分との接触により乾燥体から膨潤体に変化し、これにより生体組織に対する接着性を示す。ここで、水分としては、水、水に溶解可能な有機溶媒(エタノール等)、体液(血液、組織液等)、及びこれらの混合液を含む。また、本発明の医療用処置材は、生体吸収性を有さず、また生理条件下において徐々に分解して可溶化するため、安全性が高く、生体内に留置することも可能である。こうした本発明の医療用処置材は、例えば癒着防止材や止血材、創傷被覆材等の各種医療用処置材として特に好適である。
【0062】
本発明の医療用処置材の形状は特に限定されず、例えばフィルム状、スポンジ状、シート状及び粉末状等として用いることができる。また、本発明の医療用処置材は、支持体上に保持された状態で提供されてもよく、フィルム等の包装体に包含された状態で提供されてもよい。支持体の形状及び材質は特に限定されないが、例えば、織布や不織布等の布地;ポリスチレンやポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂基材等が挙げられる。本発明の医療用処置材は、力学的強度が高く、しかも柔軟性に優れていることから、中でも、ハイドロゲル形成用フィルム又はハイドロゲル形成用スポンジとして好ましく用いることができる。
【実施例0063】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り「質量部」及び「質量%」をそれぞれ意味する。
【0064】
<重合体の製造>
[合成例1]
内容積1リットルの4つ口フラスコに、メタクリル酸 85質量部、ペンタエスリトールトリアリルエーテル 0.4質量部、n-ヘキサン 200質量部、酢酸エチル 200質量部を仕込み、混合液を調製した。この混合液を窒素ガスのバブリングにより十分に脱気し、混合液の内温を60℃に昇温し、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル) 0.06質量部を仕込み、重合を開始した。重合開始点から10時間経過した時点で重合反応液の冷却を開始し、内温が25℃まで低下した後、重合体を含む反応液を得た。この反応液を、減圧条件下、100℃で24時間乾燥処理を行い、揮発分を除去することで、カルボキシル基含有重合体として重合体(以下、「PMAA」ともいう)を得た。
【0065】
<ハイドロゲル形成用スポンジの製造>
[実施例1]
50mm×50mmのポリプロピレンの基材上に、25mm×7mmの開口部を有するシリコンゴムシート(厚み10mm)を設置し、1.2%のPMAA水溶液1.5mLをキャストして70℃で20時間乾燥させ、PMAAのフィルムを作製した。次に、4.6%のポリビニルピロリドン(重合体(B)、以下「PVP」ともいう)水溶液0.6mLと0.4%のヒアルロン酸ナトリウム(水溶性重合体(C)、以下「HA」ともいう)水溶液0.9mLとの混合溶液をPMAAのフィルムの表面に滴下し、60分静置した後、-50℃で凍結した。凍結品を室温減圧(5Pa)下で凍結乾燥することにより、医療用処置材としてハイドロゲル形成用スポンジ(大きさ:25mm×7mm×7mm)を得た。なお、混合比は、PMAA:PVP:HA=1:1.53:0.2(質量比)とした。
【0066】
[実施例2及び比較例1]
原料の種類を表1に記載した通りとした以外は、実施例1と同様の操作を行い、医療用処置材としてハイドロゲル形成用スポンジを得た。
【0067】
<評価方法>
実施例1、2及び比較例1のハイドロゲル形成用スポンジについて、以下に示す測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
・生体組織(皮膚)に対する接着力の測定・評価
疑似皮膚としてプロテインレザー(イデアテックス ジャパン社製、プロテインレザーPBZ13001-BK)を用い、プロテインレザーに対するハイドロゲル形成用スポンジの面接着強度を測定した。まず、瞬間接着剤(東亞合成社製、アロンアルフア(登録商標))を用い、50mL遠沈管の蓋に3cm角のプロテインレザーを貼り付けたものを2本作製した。それぞれのプロテインレザーに綿棒で水を適量塗布し、ハイドロゲル形成用スポンジを間に挟み込んだ後、300gの錘を乗せて1分間放置した。錘を取り除いてから1分後に、引張試験機を用いて、25℃、120mm/minの条件で引っ張りを行った際に発生する最大応力(N/cm2)を測定した。
【0068】
・力学的強度の測定・評価
ハイドロゲル形成用スポンジ(25mm×7mm×7mm)の引張強度を測定した。具体的には、ハイドロゲル形成用スポンジの上下を引張試験機に固定し、25℃、70mm/minの条件で引っ張りを行った際に発生する最大応力(N/cm2)を測定した。
【0069】
【0070】
表1において用いた化合物の詳細を以下に示す。
・PMAA:合成例1で製造したポリメタクリル酸
・PAA:架橋ポリアクリル酸〔Lubrizol社製、Carbopol 934P NF〕
・PVP:ポリビニルピロリドン〔BASF社製、Kollidon 90F、ポリスチレン換算重量平均分子量=32万(ジメチルホルムアミド溶離液)〕
・PAAm:ポリアクリルアミド〔MTアクアポリマー社製、アコフロックN-100、ポリスチレン換算重量平均分子量=1,700万(ジメチルホルムアミド溶離液)〕
・HA:ヒアルロン酸ナトリウム〔キューピー社製、ヒアルロンサンHA-LQH〕
【0071】
<評価結果>
表1の結果から明らかなように、ポリメタクリル酸(A)と重合体(B)とを含有する実施例1、2のハイドロゲル形成用スポンジは、皮膚に対する接着力が3.0N/cm2超と高く、また力学的強度についても3.0N/cm2超と高く、使い勝手に優れるものであった。これに対して、カルボキシル基含有重合体としてポリアクリル酸を用いた場合には、皮膚に対する接着力及び力学的強度がいずれも低く、実施例1、2よりも劣っていた(比較例1)。