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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058536
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20230418BHJP
【FI】
G16C20/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023010340
(22)【出願日】2023-01-26
(62)【分割の表示】P 2022564171の分割
【原出願日】2022-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2021104173
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】株式会社レゾナック・ホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】青沼 直登
(72)【発明者】
【氏名】竹本 真平
(72)【発明者】
【氏名】南 拓也
(72)【発明者】
【氏名】角田 皓亮
(72)【発明者】
【氏名】奥野 好成
(72)【発明者】
【氏名】高 仁子
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を精度良く予測し、予測した物性を利用して選択した化合物を生成する化合物の製造方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】情報処理システム1において、物性を利用して選択した化合物の合成情報を供給する物性予測装置は、第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1段階の学習済みモデルを作成する第1モデル作成部と、第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして、第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する学習済みモデルを作成する第2モデル作成部と、予測した化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を出力する第1、第2予測部と、を含み、製造装置に、化合物の第1段階から第n段階の化学反応の合成情報を供給する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を予測し、前記物性を利用して選択した前記化合物の合成情報を供給する物性予測装置と、前記合成情報が供給されることで前記化合物を生成する製造装置と、が行う化合物の製造方法であって、
第1段階の化学反応の合成情報と、前記第1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、前記第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1段階の学習済みモデルを作成するステップと、
第n(n≧2)段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成するステップと、
物性を予測する前記化合物の前記複数段階の化学反応のそれぞれについて合成情報の設定を受け付けるステップと、
前記化合物の第1段階の化学反応の合成情報を前記第1段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測するステップと、
前記化合物の第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返すステップと、
予測した前記化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を出力するステップと、
前記化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を利用して選択した前記化合物の第1段階から第n段階の化学反応の合成情報を前記製造装置に供給するステップと、
前記化合物の第1段階から第n段階の化学反応の合成情報を供給された前記製造装置が前記化合物を生成するステップと、
を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成するステップは、
第n段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、前記第n段階より前の化学反応の合成情報と、前記第n段階より前の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第2段階から最終段階までの化学反応それぞれにより合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成し、
前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返すステップは、
前記化合物の第1段階から第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第1段階から第n-1段階の化学反応により合成された生成物それぞれの合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の最終段階の化学反応まで繰り返す
ことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記生成物の合成結果情報は、前記化学反応により合成された生成物の予測した物性値と前記生成物の合成情報から計算された特徴量を含むこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記複数段階の化学反応により合成される化合物は複数種類のモノマーから重合されるポリマーであって、
前記特徴量は、前記ポリマーのモデル構造、部分構造数、前記モデル構造の原子数、及び部分構造数密度の少なくとも一つを含むこと
を特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記物性値は、前記生成物の粘度、ガラス転移点、色差、分子量、酸価、現像性、密着性、透明性、感度、耐溶剤性、分散性、耐熱性の少なくとも一つを情報として含むこと
を特徴とする請求項3又は4記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリマー等の有機化合物の物性を、コンピュータを用いた機械学習により予測するようになっている。例えば、特許文献1にはポリマーの物性の実験値と、ポリマーの部分構造の数密度とを用いて、物性値を予測する回帰モデルを構築し、その回帰モデルを用いて、入力したポリマー構造に対応する物性値を予測する技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6633820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ポリマーなどの化合物には、複数段階の重合反応や付加反応などの化学反応により合成されるものがある。このような複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を、精度良く予測する技術が求められるようになった。
【0005】
本開示は、複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を精度良く予測し、予測した物性を利用して選択した化合物を生成できる化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下に示す構成を備える。
【0007】
[1] 複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を予測する物性予測装置であって、
第1段階の化学反応の合成情報と、前記第1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、前記第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1段階の学習済みモデルを作成する第1モデル作成部と、
第n(n≧2)段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成する第2モデル作成部と、
物性を予測する前記化合物の前記複数段階の化学反応のそれぞれについて合成情報の設定を受け付ける合成情報設定受付部と、
前記化合物の第1段階の化学反応の合成情報を前記第1段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1予測部と、
前記化合物の第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返す第2予測部と、
前記第2予測部が予測した前記化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を出力する出力部と、
を有することを特徴とする物性予測装置。
【0008】
[2] 前記第2モデル作成部は、
第n段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、前記第n段階より前の化学反応の合成情報と、前記第n段階より前の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第2段階から最終段階までの化学反応それぞれにより合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成し、
前記第2予測部は、
前記化合物の第1段階から第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第1段階から第n-1段階の化学反応により合成された生成物それぞれの合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の最終段階の化学反応まで繰り返す
ことを特徴とする[1]記載の物性予測装置。
【0009】
[3] 前記生成物の合成結果情報は、前記化学反応により合成された生成物の予測した物性値と前記生成物の合成情報から計算された特徴量を含むこと、
を特徴とする[1]又は[2]記載の物性予測装置。
【0010】
[4] 前記複数段階の化学反応により合成される化合物は複数種類のモノマーから重合されるポリマーであって、
前記特徴量は、前記ポリマーのモデル構造、部分構造数、前記モデル構造の原子数、及び部分構造数密度の少なくとも一つを含むこと
を特徴とする[3]記載の物性予測装置。
【0011】
[5] 前記物性値は、前記生成物の粘度、ガラス転移点、色差、分子量、酸価、現像性、密着性、透明性、感度、耐溶剤性、分散性、耐熱性の少なくとも一つを情報として含むこと
を特徴とする[3]又は[4]記載の物性予測装置。
【0012】
[6] コンピュータが、複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を予測する物性予測方法であって、
第1段階の化学反応の合成情報と、前記第1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、前記第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1段階の学習済みモデルを作成するステップと、
第n(n≧2)段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成するステップと、
物性を予測する前記化合物の前記複数段階の化学反応のそれぞれについて合成情報の設定を受け付けるステップと、
前記化合物の第1段階の化学反応の合成情報を前記第1段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測するステップと、
前記化合物の第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返すステップと、
予測した前記化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を出力するステップと、
を含むことを特徴とする物性予測方法。
【0013】
[7] 複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を予測するコンピュータに、
第1段階の化学反応の合成情報と、前記第1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、前記第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第1段階の学習済みモデルを作成するステップ、
第n(n≧2)段階の化学反応の合成情報と、前記第n段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報と、を学習データとして用いて、第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成するステップ、
物性を予測する前記化合物の前記複数段階の化学反応のそれぞれについて合成情報の設定を受け付けるステップ、
前記化合物の第1段階の化学反応の合成情報を前記第1段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第1段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測するステップ、
前記化合物の第n段階の化学反応の合成情報、及び前記化合物の第n-1段階の化学反応により合成された生成物の合成結果情報を前記第n段階の学習済みモデルに入力して前記化合物の第n段階の化学反応により合成される生成物の物性値を予測する処理を、前記化合物の第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返すステップ、
予測した前記化合物の最終段階の化学反応により合成される生成物の予測した物性値を出力するステップ、
を実行させるためのプログラム。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を精度良く予測し、予測した物性を利用して選択した化合物を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る情報処理システムの一例の構成図である。
図2】本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
図3】本実施形態に係る情報処理システムの一例の機能構成図である。
図4A】本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。
図4B】本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。
図5A】本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
図5B】本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
図6】本実施形態に係る情報処理システムの物性予測方法の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図7】本実施形態に係る合成情報設定画面の一例のイメージ図である。
図8】本実施形態に係るポリマーの物性を予測する処理におけるデータの流れの一例のイメージ図である。
図9A】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図9B】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図10A】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図10B】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図11A】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図11B】ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物の構造が変化する場合の一例の説明図である。
図12A】本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。
図12B】本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。
図13A】本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
図13B】本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
図14】本実施形態に係る情報処理システムの物性予測方法の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図15】本実施形態に係るポリマーの物性を予測する処理におけるデータの流れの一例のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本実施形態では、複数段階の化学反応により合成される化合物の一例として、複数段階の重合反応や付加反応などの化学反応により合成(多段階合成)されるポリマーについて説明する。本実施形態のポリマーの多段階合成は、主鎖/側鎖を多段階合成するパターン、原料(モノマー、オリゴマー)/添加剤(硬化剤、重合禁止剤、触媒、フィラー)を多段階合成するパターン、モノマー×モノマー/別ポリマー/添加剤を多段階合成するパターンを含む。
【0017】
[第1の実施形態]
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る情報処理システムの一例の構成図である。図1の情報処理システム1は、物性予測装置10、及びユーザ端末12を有している。物性予測装置10及びユーザ端末12はローカルエリアネットワーク(LAN)又はインターネットなどの通信ネットワーク18を介してデータ通信可能に接続されている。
【0018】
ユーザ端末12はユーザが操作するPC、タブレット端末、スマートフォンなどの情報処理端末である。ユーザ端末12は、複数段階の化学反応により合成(以下、単に多段階合成と呼ぶ)されるポリマーの物性の予測に必要な情報の入力をユーザから受け付け、物性予測装置10にポリマーの物性を予測させる。また、ユーザ端末12は物性予測装置10が予測したポリマーの物性などの情報を受信し、例えば表示装置に表示してユーザに確認させる。
【0019】
物性予測装置10はポリマーの物性を予測するPCなどの情報処理装置である。物性予測装置10は学習データを用いて機械学習することで学習済みモデルを作成する。物性予測装置10はユーザ端末12からポリマーの物性の予測に必要な情報を受信すると、学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する。物性予測装置10は予測したポリマーの物性などの情報をユーザ端末12に送信する。
【0020】
なお、図1の情報処理システム1は一例であって、用途や目的に応じて様々なシステム構成例があることは言うまでもない。例えば物性予測装置10は複数台のコンピュータにより実現してもよいし、クラウドコンピューティングのサービスとして実現するようにしてもよい。また、図1の情報処理システム1はスタンドアローンのコンピュータにより実現してもよい。
【0021】
<ハードウェア構成>
図1の物性予測装置10及びユーザ端末12は、例えば図2に示すハードウェア構成のコンピュータ500により実現する。
【0022】
図2は、本実施形態に係るコンピュータの一例のハードウェア構成図である。図2のコンピュータ500は、入力装置501、表示装置502、外部I/F503、RAM504、ROM505、CPU506、通信I/F507、及びHDD508などを備えており、それぞれがバスBで相互に接続されている。なお、入力装置501及び表示装置502は接続して利用する形態であってもよい。
【0023】
入力装置501は、ユーザが各種信号を入力するのに用いるタッチパネル、操作キーやボタン、キーボードやマウスなどである。表示装置502は、画面を表示する液晶や有機ELなどのディスプレイ、音声や音などの音データを出力するスピーカ等で構成されている。通信I/F507はコンピュータ500がデータ通信を行うためのインタフェースである。
【0024】
また、HDD508は、プログラムやデータを格納している不揮発性の記憶装置の一例である。格納されるプログラムやデータには、コンピュータ500全体を制御する基本ソフトウェアであるOS、及びOS上において各種機能を提供するアプリケーションなどがある。なお、コンピュータ500はHDD508に替えて、記憶媒体としてフラッシュメモリを用いるドライブ装置(例えばソリッドステートドライブ:SSDなど)を利用するものであってもよい。
【0025】
外部I/F503は、外部装置とのインタフェースである。外部装置には、記録媒体503aなどがある。これにより、コンピュータ500は外部I/F503を介して記録媒体503aの読み取り及び/又は書き込みを行うことができる。記録媒体503aにはフレキシブルディスク、CD、DVD、SDメモリカード、USBメモリなどがある。
【0026】
ROM505は、電源を切ってもプログラムやデータを保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。ROM505にはコンピュータ500の起動時に実行されるBIOS、OS設定、及びネットワーク設定などのプログラムやデータが格納されている。RAM504はプログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)の一例である。
【0027】
CPU506は、ROM505やHDD508などの記憶装置からプログラムやデータをRAM504上に読み出し、処理を実行することで、コンピュータ500全体の制御や機能を実現する演算装置である。本実施形態に係るコンピュータ500は、プログラムを実行することで後述するような物性予測装置10及びユーザ端末12の各種機能を実現できる。
【0028】
<機能構成>
本実施形態に係る情報処理システム1の構成について説明する。図3は本実施形態に係る情報処理システムの一例の機能構成図である。なお、図3の構成図は、本実施形態の説明に不要な部分について適宜省略している。図4A及び図4Bは本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。また、図5A及び図5Bは本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
【0029】
図3に示した情報処理システム1の物性予測装置10は、第1モデル作成部30、第2モデル作成部32、合成情報設定受付部34、第1予測部36、第2予測部38、出力部40、学習データ記憶部50、及び学習済みモデル記憶部52を有する。また、ユーザ端末12は、情報表示部20、操作受付部22、要求送信部24、及び応答受信部26を有する。
【0030】
情報表示部20は、ユーザに確認させる情報を表示装置502に表示する。操作受付部22は多段階合成されるポリマーの物性の予測に必要な情報の入力などの操作をユーザから受け付ける。要求送信部24はポリマーの物性の予測などの処理の要求を物性予測装置10に送信する。また、応答受信部26は要求送信部24が送信したポリマーの物性の予測などの処理の要求に対する応答を受信する。
【0031】
第1モデル作成部30は、複数段階の化学反応のうちの第1段階の化学反応の合成情報と、第1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、が対応付けられた学習データを用いて、例えば図4Aに示すように第1段階の学習済みモデルを作成する。第1段階の学習済みモデルは、第1段階の化学反応の合成情報と、第1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報との対応関係を学習した、教師あり学習モデルである。教師あり学習モデルは、ニューラルネットワークや遺伝的アルゴリズムなどの教師あり学習モデルを適用できる。
【0032】
化学反応の合成情報は、モノマーの配合比や配合物(開始剤、禁止剤など)の配合比などの原料の配合比情報、合成温度、合成速度などの条件を含む。また、合成結果情報は、化学反応により合成されたポリマーの物性値、及び合成情報から後述のように計算される特徴量を含む。
【0033】
第1モデル作成部30は、学習データ記憶部50が記憶している学習データを用いて第1段階の学習済みモデルを作成する。また、第1モデル作成部30は作成した第1段階の学習済みモデルを学習済みモデル記憶部52に記憶させる。
【0034】
また、第2モデル作成部32は、複数段階の化学反応のうちの第n(n≧2)段階の化学反応の合成情報と、第n段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、が対応付けられた学習データを用いて、例えば図4Bに示すように第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成する。第n段階の学習済みモデルは、第n段階の化学反応の合成情報と、第n段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、第n-1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、の対応関係を学習した、教師あり学習モデルである。
【0035】
例えば、第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの合成結果情報は第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの物性値、及び特徴量である。第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの合成結果情報は、第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの物性値、及び特徴量に加えて、合成情報を含んでもよく、物性値、特徴量、及び合成情報の他の組合せであってもよい。
【0036】
第2モデル作成部32は、学習データ記憶部50が記憶している学習データを用いることで第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成する。また、第2モデル作成部32は作成した第2段階から最終段階の学習済みモデルを学習済みモデル記憶部52に記憶させる。なお、第2段階以降の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報は、予測対象の第n段階よりも前の第n-1段階の学習済みモデルを用いて予測した合成結果情報を使用してもよい。
【0037】
合成情報設定受付部34は、ユーザが物性を予測したいポリマーの複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報の設定を受け付ける。なお、合成情報設定受付部34はモノマーや配合物などの原料の配合比を配合比範囲の設定として受け付け、その配合比範囲内に収まる配合比の組合せから配合比情報を自動生成してもよい。
【0038】
第1予測部36は、例えば図5Aに示すように第1段階の化学反応の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第1予測部36は予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。このように、第1段階の合成結果情報は、予測したポリマーの物性値の他、合成情報から計算可能な特徴量を含む。
【0039】
第2予測部38は、例えば図5Bに示すように第n段階の化学反応の合成情報、及び第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの合成結果情報を第n段階の学習済みモデルに入力して第n段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第n段階の合成結果情報として出力する。このように、第n段階の合成結果情報は、予測したポリマーの物性値の他、合成情報から計算可能な特徴量を含む。第2予測部38は第n段階の合成結果情報を予測する処理を、第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返す。
【0040】
例えば第2予測部38は、第2段階の化学反応の合成情報、及び第1予測部36から出力された第1段階の合成結果情報を第2段階の学習済みモデルに入力して第2段階の化学反応により合成されるポリマーの予測した物性値を出力する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0041】
また、第2予測部38は第3段階の化学反応の合成情報、及び第2段階の合成結果情報を第3段階の学習済みモデルに入力して第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。このような処理を、第2予測部38は最終段階の化学反応まで繰り返す。
【0042】
そして、出力部40は第2予測部38が予測した最終段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を、ユーザ端末12からのポリマーの物性の予測の要求に対する応答として送信する。なお、図3の構成図は一例である。本実施形態に係る情報処理システム1の構成は様々考えることができる。
【0043】
<ポリマーの合成情報から計算可能な特徴量>
本実施形態において、ポリマーの合成情報から計算可能な特徴量は、例えば生成物の一例であるポリマーのモデル構造、部分構造数、モデル構造の原子数、及び部分構造数密度である。
【0044】
モデル構造は、繰り返しによりポリマーを構成する構造単位(繰り返し単位)を複製し連結する処理を所定回数繰り返すことで生成される。複数の繰り返し単位が連結することでポリマーが表される。
【0045】
部分構造数はモデル構造に基づいて計算され、n次元のベクトル(モデル構造の部分構造数ベクトル)で表される。部分構造数ベクトルはECFP(Extended Circular FingerPrint)、Atom Pair、Topological Torsion、Neural Finger Print等の構造記述子によりn次元で表される。
【0046】
例えば部分構造数は、モデル構造が「CCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCO」であれば、C原子数、O原子数、COC数等の構造記述子によりn次元で表される。
【0047】
モデル構造の原子数は、モデル構造に含まれる原子数である。モデル構造が「CCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCO」であれば、モデル構造に含まれる原子数は「30」である。
【0048】
部分構造数密度は、部分構造数と、モデル構造の原子数と、を用いて以下の式(1)により算出される。算出される部分構造数密度は、部分構造数と同じn次元のベクトルで表される。
【0049】
部分構造数密度=部分構造数÷モデル構造の原子数…(1)
例えば部分構造数密度は、モデル構造が「CCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCOCCO」であれば、部分構造数ベクトルの各値をモデル構造の原子数「30」で割ることにより、C原子数の密度「2/3(=20/30)」、O原子の密度「1/3(=10/30)」、…、COCの密度「9/30」等を得る。
【0050】
なお、ポリマーのモデル構造、部分構造数、モデル構造の原子数、及び部分構造数密度の詳細は例えば特許第6633820号公報に記載されている。このように、本実施形態で利用する特徴量は、化学反応の合成情報に含まれるモノマーやポリマーのモデル構造から計算できる。
【0051】
<学習済みモデルが予測するポリマーの物性値>
本実施形態において、学習済みモデルが予測するポリマーの物性値は、粘度、ガラス転移点、色差、分子量、酸価、現像性(速度、現像携帯、現像残渣)、密着性、透明性、感度、耐溶剤性(例えばNMP耐性)、分散性、耐熱性(熱分量現象)、耐熱性(黄変色差)などを含む。
【0052】
<処理>
図6は、本実施形態に係る情報処理システムの物性予測方法の処理手順の一例を示したフローチャートである。なお、図6のフローチャートに示した処理は、学習済みモデルを作成した後に、多段階合成されるポリマーの物性を予測する物性予測処理を表している。また、図7は本実施形態に係る合成情報設定画面の一例のイメージ図である。図8は、本実施形態に係るポリマーの物性を予測する処理におけるデータの流れの一例のイメージ図である。
【0053】
ステップS10において、物性予測装置10の合成情報設定受付部34は例えば図7に示す合成情報設定画面1000をユーザ端末12の情報表示部20に表示させて、ユーザが物性を予測したいポリマーの複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報の設定を受け付ける。
【0054】
合成情報設定画面1000は多段階合成されるポリマーの原料(合成材料)となる事前に準備されたモノマーリストが欄1002に表示され、モノマー種類ごとに配合比範囲の最小値と最大値とが、それぞれ入力可能となっている。また、合成情報設定画面1000は複数のモノマー種類から多段階合成されるポリマーの合成情報を設定する為の画面例であり、欄1002に表示されているモノマーリストから各段階の原料の候補となるモノマーを配合候補として指定可能な欄1004が表示されている。
【0055】
図7の例では、第1段階の原料の候補としてモノマーA及びモノマーB、第2段階の原料の候補としてモノマーC及びモノマーD、第3段階の原料の候補としてモノマーE及びモノマーFが指定された例を示している。例えば図7の合成情報設定画面1000では、第1段階の原料の候補として指定されたモノマーA及びモノマーBの配合比範囲内で、ランダムまたは所定の刻み幅で複数の配合比の組合せが算出される。
【0056】
また、例えば図7の合成情報設定画面1000では、第2段階の原料の候補として指定されたモノマーC及びモノマーDの配合比範囲内で、第1段階の化学反応により合成されたポリマー(主鎖ポリマーなど)との複数の混合比の組合せが、ランダムまたは所定の刻み幅で算出される。
【0057】
また、例えば図7の合成情報設定画面1000では、第3段階の原料の候補として指定されたモノマーE及びモノマーFの配合比範囲内で、第2段階の化学反応により合成されたポリマー(グラフトポリマーなど)との複数の混合比の組合せが、ランダムまたは所定の刻み幅で算出される。
【0058】
ユーザ端末12の操作受付部22は、ユーザから多段階合成されるポリマーの物性の予測に必要な情報として、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報の入力操作を受け付ける。要求送信部24は、操作受付部22が受け付けた複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報に従い、物性予測装置10にポリマーの物性の予測を要求する。
【0059】
ユーザ端末12からポリマーの物性の予測を要求された物性予測装置10の第1予測部36は、ステップS12において、例えば図5Aに示したように、第1段階の化学反応の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第1予測部36は予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。
【0060】
例えば第1予測部36は、図8に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第1段階の合成情報を切り出し、切り出した第1段階の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は切り出した第1段階の合成情報から第1段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第1予測部36は予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。
【0061】
ステップS14において、第2予測部38は「n」に「2」を代入する。ステップS16に進み、例えば第2予測部38は、図8に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第2段階の合成情報を切り出す。そして、第2予測部38は第1予測部36が出力した第1段階の合成結果情報と、切り出した第2段階の合成情報とを統合する。
【0062】
ステップS18において、第2予測部38は例えば図5Bに示したように、第2段階の化学反応の合成情報と第1段階の合成結果情報とを第2段階の学習済みモデルに入力して、第2段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0063】
例えば第2予測部38は、図8に示したように、統合された第1段階の合成結果情報と第2段階の合成情報とを第2段階の学習済みモデルに入力して、第2段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は第2段階の合成情報から第2段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0064】
ステップS20において、第2予測部38は最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測したか否かを判定する。最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測していなければ、第2予測部38はステップS22に進み、「n」に「1」を加算してステップS16~S20の処理を繰り返す。
【0065】
ここでは、第3段階の化学反応が最終段階の化学反応である例を説明する。ステップS16に戻り、例えば第2予測部38は、図8に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第3段階の合成情報を切り出す。そして、第2予測部38は第2予測部38が出力した第2段階の合成結果情報と、切り出した第3段階の合成情報とを統合する。
【0066】
ステップS18において、第2予測部38は例えば図5Bに示したように、第3段階の化学反応の合成情報と第2段階の合成結果情報とを第3段階の学習済みモデルに入力して、第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。
【0067】
例えば第2予測部38は、図8に示したように、統合された第2段階の合成結果情報と第3段階の合成情報とを第3段階の学習済みモデルに入力して、第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は第3段階の合成情報から第3段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第2予測部38は予測した物性値及び演算した特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。
【0068】
ステップS20において、第2予測部38は最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測したか否かを判定する。最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測していれば、第2予測部38は図6のフローチャートの処理を終了する。
【0069】
<多段階合成されるポリマーの構造が変化する例>
重合反応や付加反応などの化学反応により多段階合成されたポリマーの物性は、例えばポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、図9A図9B図10A図10B図11A、及び図11Bに一例として示したように、化学反応の順序により物性が異なる場合がある。
【0070】
図9A図9B図10A図10B図11A、及び図11Bは、ポリマーの原料、その原料の配合比が同一であっても、完成物(最終合成物)の構造が変化する場合の一例の説明図である。図9A図9B図10A図10B図11A、及び図11Bは、図9Aに示したように、ポリマーの原料(合成材料)が原料A、B、C、及びDの例である。
【0071】
1段階の化学反応で合成が完成し、原料A~Dの配合比が同一であっても、完成物であるポリマーの配合比は原料の配合比とは異なることがあり、例えば図9Bの構造となる。図10Aは2段階の化学反応で合成を行う例を示している。図10Aに示した2段階の化学反応で合成が完成した完成物であるポリマーは、例えば図10Bの構造となる。図10Bに示したように、完成物であるポリマーは第1段階の化学反応で原料A及びBの主鎖を重合し、第2段階の化学反応で主鎖に原料C及びDが側鎖として付加されている。
【0072】
図11Aは2段階の化学反応で合成を行う例を示している。図11Aに示した2段階の化学反応で合成が完成した完成物であるポリマーは、例えば図11Bの構造となる。例えば図11Aに示した2段階の化学反応で合成が完成した完成物であるポリマーは、原料A及びBが隣り合う確率、及び原料C及びDが隣り合う確率、が高い構造となる。図9A図9B図10A図10B図11A、及び図11Bに示したように、多段階合成されるポリマーは完成物の構造が変化するため、多段階の化学反応それぞれに対応した学習済みモデルを用いなければ、完成物の構造の変化に対応できず、完成物の物性を精度良く予測できない。
【0073】
また、多段階合成されるポリマーは、途中の生成物(中間物)の物性であって、完成物の目的物性と異なる物性が、完成物の目的物性の重要な因子となる場合がある。完成物の目的物性と異なる物性を中間物で予測するモデルを用いれば、完成物の目的物性の重要な因子が抜けることがなく、多段階合成されるポリマーの物性を精度良く予測できる。
【0074】
そこで、本実施形態では、多段階合成されるポリマーの物性の予測に際し、複数段階の化学反応それぞれの学習済みモデルを作成してポリマーの物性を予測することで、完成物の物性を精度良く予測できるようにしている。なお、複数段階の化学反応それぞれの学習済みモデルが予測する物性は、完成物の目的物性に限定されない。例えば中間物の物性を予測する学習済みモデルには、完成物の目的物性以外の物性を予測する学習済みモデルが含まれていてもよい。
【0075】
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、学習済みモデルの作成、及び学習済みモデルを用いた生成物の物性の予測、に利用する情報の種類を第1の実施形態よりも増やし、完成物の物性を更に精度良く予測するものである。なお、第2の実施形態は一部を除いて第1の実施形態と同様であるため、同一部分について適宜説明を省略する。
【0076】
システム構成、ハードウェア構成は、第1の実施形態と同様である。なお、機能構成については、一部が第1の実施形態と異なっているため、第1の実施形態との差分について説明する。図12A及び図12Bは、本実施形態に係る学習済みモデルを作成する処理の一例の説明図である。また、図13A及び図13Bは本実施形態に係る学習済みモデルを用いてポリマーの物性を予測する処理の一例の説明図である。
【0077】
第1モデル作成部30は、複数段階の化学反応のうちの第1段階の化学反応の合成情報と、第1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、が対応付けられた学習データを用いて、例えば図12Aに示すように第1段階の学習済みモデルを作成する。第1段階の学習済みモデルは、第1段階の化学反応の合成情報と、第1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報との対応関係を学習した、教師あり学習モデルである。
【0078】
第1モデル作成部30は、学習データ記憶部50が記憶している学習データを用いて第1段階の学習済みモデルを作成する。また、第1モデル作成部30は作成した第1段階の学習済みモデルを学習済みモデル記憶部52に記憶させる。
【0079】
また、第2モデル作成部32は、第n段階の化学反応の合成情報と、第n段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、第1段階から第n-1段階までの化学反応の合成情報と、第1段階から第n-1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、が対応付けられた学習データを用いて、例えば図12Bに示すように第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成する。第n段階の学習済みモデルは、第n段階の化学反応の合成情報と、第n段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、第1段階から第n-1段階までの化学反応の合成情報と、第1段階から第n-1段階の化学反応により合成された生成物であるポリマーの合成結果情報と、の対応関係を学習した、教師あり学習モデルである。
【0080】
例えば、第1段階から第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの合成結果情報は、第1段階から第n-1段階の化学反応それぞれにより合成されたポリマーの物性値及び特徴量である。
【0081】
第2モデル作成部32は、学習データ記憶部50が記憶している学習データを用いることで第2段階から最終段階までの学習済みモデルを作成する。また、第2モデル作成部32は作成した第2段階から最終段階の学習済みモデルを学習済みモデル記憶部52に記憶させる。
【0082】
第1予測部36は、例えば図13Aに示すように第1段階の化学反応の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第1予測部36は、予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。このように、第1段階の合成結果情報は、予測したポリマーの物性値の他、合成情報から計算可能な特徴量を含む。
【0083】
また、第2予測部38は、例えば図13Bに示すように第n段階の化学反応の合成情報、第1段階から第n-1段階の化学反応の合成情報、及び第1段階から第n-1段階の化学反応により合成されたポリマーの合成結果情報を第n段階の学習済みモデルに入力して第n段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第n段階の合成結果情報として出力する。このように、第n段階の合成結果情報は、予測したポリマーの物性値の他、合成情報から計算可能な特徴量を含む。第2予測部38は第n段階の合成結果情報を予測する処理を、第2段階の化学反応から最終段階の化学反応まで繰り返す。
【0084】
例えば第2予測部38は、第2段階の化学反応の合成情報、第1段階の化学反応の合成情報、及び第1予測部36から出力された第1段階の合成結果情報を第2段階の学習済みモデルに入力して、第2段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0085】
また、第2予測部38は第3段階の化学反応の合成情報、第1段階から第2段階の化学反応の合成情報、及び第1段階から第2段階の合成結果情報を第3段階の学習済みモデルに入力して第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。このような処理を、第2予測部38は最終段階の化学反応まで繰り返す。
【0086】
図14は、本実施形態に係る情報処理システムの物性予測方法の処理手順の一例を示したフローチャートである。なお、図14のフローチャートに示した処理は、図6に示したフローチャートと同様、学習済みモデルを作成した後に、多段階合成されるポリマーの物性を予測する物性予測処理を表している。図15は、本実施形態に係るポリマーの物性を予測する処理におけるデータの流れの一例のイメージ図である。
【0087】
ステップS30において、物性予測装置10の合成情報設定受付部34は例えば図7の合成情報設定画面1000をユーザ端末12の情報表示部20に表示させて、ユーザが物性を予測したいポリマーの複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報の設定を受け付ける。
【0088】
ユーザ端末12の操作受付部22は、ユーザから多段階合成されるポリマーの物性の予測に必要な情報として、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報の入力操作を受け付ける。要求送信部24は、操作受付部22が受け付けた複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報に従い、物性予測装置10にポリマーの物性の予測を要求する。
【0089】
ユーザ端末12からポリマーの物性の予測を要求された物性予測装置10の第1予測部36は、ステップS32において、例えば図13Aに示したように、第1段階の化学反応の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第1予測部36は予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。
【0090】
例えば第1予測部36は、図15に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第1段階の合成情報を切り出し、切り出した第1段階の合成情報を第1段階の学習済みモデルに入力して、第1段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第1予測部36は切り出した第1段階の合成情報から第1段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第1予測部36は予測した物性値及び計算した特徴量を第1段階の合成結果情報として出力する。
【0091】
ステップS34において、第2予測部38は「n」に「2」を代入する。ステップS36に進み、例えば第2予測部38は、図15に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第2段階の合成情報を切り出す。そして、第2予測部38は第1予測部36が出力した第1段階の合成結果情報と、切り出した第1段階から第2段階の合成情報とを統合する。
【0092】
ステップS38において、第2予測部38は例えば図13Bに示したように、第2段階の化学反応の合成情報と第1段階の化学反応の合成情報と第1段階の合成結果情報とを第2段階の学習済みモデルに入力して、第2段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0093】
例えば第2予測部38は、図15に示したように、統合された第1段階の合成結果情報と第1段階から第2段階の合成情報とを第2段階の学習済みモデルに入力して、第2段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は第2段階の合成情報から第2段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第2段階の合成結果情報として出力する。
【0094】
ステップS40において、第2予測部38は最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測したか否かを判定する。最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測していなければ、第2予測部38はステップS42に進み、「n」に「1」を加算してステップS36~S40の処理を繰り返す。
【0095】
ここでは、第3段階の化学反応が最終段階の化学反応である例を説明する。ステップS36に戻り、例えば第2予測部38は、図15に示したように、複数段階の化学反応のそれぞれについての合成情報から第3段階の合成情報を切り出す。そして、第2予測部38は第1予測部36が出力した第1段階の合成結果情報と、第2予測部38が出力した第2段階の合成結果情報と、切り出した第1段階から第3段階の合成情報とを統合する。
【0096】
ステップS38において、第2予測部38は例えば図13Bに示したように、第1から第3段階の化学反応の合成情報と第1段階から第2段階の合成結果情報とを第3段階の学習済みモデルに入力して、第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は予測したポリマーの合成情報から特徴量を計算する。第2予測部38は予測した物性値及び計算した特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。
【0097】
例えば第2予測部38は、図15に示したように、統合された第1段階から第2段階の合成結果情報と第1段階から第3段階の合成情報とを第3段階の学習済みモデルに入力して、第3段階の化学反応により合成されるポリマーの物性値を予測する。また、第2予測部38は第3段階の合成情報から第3段階の化学反応により合成されるポリマーの特徴量を演算する。第2予測部38は予測した物性値及び特徴量を第3段階の合成結果情報として出力する。
【0098】
ステップS40において、第2予測部38は最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測したか否かを判定する。最終段階の化学反応までポリマーの物性値を予測していれば、第2予測部38は図14のフローチャートの処理を終了する。
【0099】
[他の実施形態]
本実施形態に係る物性予測装置10が予測したポリマーなどの化合物の物性は、多段階合成される化合物の配合設計装置又は配合設計支援装置、その配合設計装置又は配合設計支援装置を実現するプログラムなどに適用できる。また、本実施形態に係る物性予測装置10は予測したポリマーなどの化合物の物性を利用することで、ユーザが設定した原料の配合比範囲内に収まる配合比の組合せから、目的物性の良い化合物を生成可能な合成情報を選択できる。したがって、本実施形態に係る物性予測装置10は、例えば多段階合成の合成情報を入力することでポリマーなどの化合物を生成する製造装置に、選択した合成情報を供給することで、製造装置にポリマーなどの化合物を生成させてもよい。
【0100】
以上、本実施形態に係る情報処理システム1によれば、複数段階の化学反応により合成される化合物の物性を精度良く予測できる物性予測装置、物性予測方法、及びプログラムを提供できる。
【0101】
以上、本実施形態について説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【0102】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で様々な変形が可能である。本願は、日本特許庁に2021年6月23日に出願された基礎出願2021―104173号の優先権を主張するものであり、その全内容を参照によりここに援用する。
【符号の説明】
【0103】
1 情報処理システム
10 物性予測装置
12 ユーザ端末
18 通信ネットワーク
20 情報表示部
22 操作受付部
24 要求送信部
26 応答受信部
30 第1モデル作成部
32 第2モデル作成部
34 合成情報設定受付部
36 第1予測部
38 第2予測部
40 出力部
50 学習データ記憶部
52 学習済みモデル記憶部
502 表示装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15