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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058574
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】アトロピン含有水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/46 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230418BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230418BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61K31/46
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/12
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/10
A61P27/02
A61P27/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023016850
(22)【出願日】2023-02-07
(62)【分割の表示】P 2021082578の分割
【原出願日】2017-05-24
(31)【優先権主張番号】10201604200P
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(71)【出願人】
【識別番号】508320723
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】504161939
【氏名又は名称】ナンヤン・テクノロジカル・ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100191710
【弁理士】
【氏名又は名称】馬渡 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド・タン
(72)【発明者】
【氏名】ロジャー・バウワーマン
(72)【発明者】
【氏名】浅田 博之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】阪中 浩二
(72)【発明者】
【氏名】森本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 豊実
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有し、より低い散瞳作用で、遠近調節のより低い低下を誘導するアトロピン含有水性組成物を提供する。
【解決手段】0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物。
【請求項2】
第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、および酢酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の水性組成物。
【請求項3】
第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項4】
アミノカルボン酸緩衝剤が、イプシロン-アミノカプロン酸、グルタミン酸緩衝剤、およびアスパラギン酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の水性組成物。
【請求項5】
リン酸緩衝剤が、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム七水和物、リン酸三ナトリウム、およびリン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
炭酸緩衝剤が、炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、および炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
酢酸緩衝剤が、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、および酢酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
酒石酸緩衝剤が、酒石酸ナトリウムおよび酒石酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
ホウ酸緩衝剤が、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、およびホウ砂からなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
グルタミン酸緩衝剤が、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、およびグルタミン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、および/または
アスパラギン酸緩衝剤が、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウムおよびアスパラギン酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、
請求項1から4のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項6】
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、請求項1から5のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項7】
クエン酸緩衝剤が、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、およびクエン酸二ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、請求項6に記載の水性組成物。
【請求項8】
水溶性高分子が、セルロース誘導体、カルボキシビニルポリマーおよびアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1から7のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項9】
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、および酢酸フタル酸セルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の水性組成物。
【請求項10】
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8または9に記載の水性組成物。
【請求項11】
セルロース誘導体がヒドロキシエチルセルロースである、請求項8から10のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項12】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である水性組成物。
【請求項13】
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、請求項12に記載の水性組成物。
【請求項14】
50ppm未満の濃度の塩化ベンザルコニウムを含有する、請求項1から13のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項15】
塩化ベンザルコニウムを実質的に含有しない、請求項1から14のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項16】
更に、非イオン性等張化剤を含有する、請求項1から15のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項17】
非イオン性等張化剤が、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、キシリトールおよびトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項16に記載の水性組成物。
【請求項18】
非イオン性等張化剤が、グリセリンおよびマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項16または17に記載の水性組成物。
【請求項19】
非イオン性等張化剤がグリセリンである、請求項16から18のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項20】
緩衝剤の濃度が0.001~10%(w/v)である、請求項1から19のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項21】
クエン酸緩衝剤の濃度が0.001~1.0%(w/v)である、請求項6~11および13~20のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項22】
クエン酸緩衝剤の濃度が0.01~0.05%(w/v)である、請求項21に記載の水性組成物。
【請求項23】
水溶性高分子の濃度が0.01~5%(w/v)である、請求項1から22のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項24】
非イオン性等張化剤の濃度が0.01~10%(w/v)である、請求項16から23のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項25】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および緩衝剤を含有し、pHが5以下の範囲である水性組成物。
【請求項26】
緩衝剤が、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項25に記載の水性組成物。
【請求項27】
緩衝剤がクエン酸緩衝剤である、請求項25または26に記載の水性組成物。
【請求項28】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、およびリン酸緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物。
【請求項29】
更に水溶性高分子を含有する、請求項28に記載の水性組成物。
【請求項30】
水溶性高分子が、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項29に記載の水性組成物。
【請求項31】
水溶性高分子がヒドロキシエチルセルロースである、請求項29または30に記載の水性組成物。
【請求項32】
pHが4~6の範囲である、請求項1~24および28~31のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項33】
リン酸緩衝剤の濃度が0.01~1.0%(w/v)である、請求項1から32のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項34】
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001~0.025%(w/v)である、請求項1から33のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項35】
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001~0.01%(w/v)である、請求項1から34のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項36】
アトロピンまたはその塩が、硫酸アトロピンまたはその水和物である、請求項1から35のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項37】
ユニットドーズ型容器に収容されている、請求項1から36のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項38】
水性組成物が点眼剤である、請求項1から37のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項39】
近視の進行を抑制および/または予防するための、請求項1から38のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項40】
近視の進行を抑制および/または予防するための薬物の製造における、請求項1から38のいずれか1に記載の水性組成物の使用。
【請求項41】
請求項1から38のいずれか1に記載の水性組成物を患者に投与することを含む、近視の進行の抑制および/または予防方法。
【請求項42】
近視の進行を抑制および/または予防するのに使用するための、請求項1から38のいずれか1に記載の水性組成物。
【請求項43】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物に、非イオン性等張化剤を含有させることによる、水性組成物の粘度低下を抑制する方法。
【請求項44】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物に、非イオン性等張化剤を含有させることによる、アトロピンまたはその塩を安定化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主にアトロピンまたはその塩(以下、単に「アトロピン」とも称する)を含む水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近視は屈折異常の一種で、遠方から目に入ってきた光が網膜でなく、網膜より手前で像を結び、物がぼやけて見える状態をいう。近視は、眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が正常より長いこと(軸性近視)、または角膜または水晶体の屈折力が強すぎること(屈折性近視)が原因であることが知られている。
【0003】
アトロピンは眼軸長の延長を抑制する特性を有することが知られている。例えば、特許文献1には、0.025%未満のアトロピンを含有する組成物が近視の進行を抑制または予防することが開示されている。
【0004】
一方、アトロピン点眼液は散瞳薬として用いられ、遠近調節も低下する。アトロピン点眼液は点眼すると、虹彩の瞳孔括約筋が弛緩され、これによりまぶしさの原因となる散瞳を引き起こし、アトロピン点眼液の作用が維持されている間持続し、水晶体の遠近調節も低下し、近視力低下をもたらす。このことは日常活動の障害にもなり得る。したがって、近視の進行を抑制または予防するための医薬が、より低い散瞳作用で、遠近調節のより低い低下を誘導し、生活の質(QOL)を向上することが大いに切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2012/161655
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有するアトロピン含有水性組成物を見出すことである。重要な目標は、より低い散瞳作用で、遠近調節のより低い低下を誘導するアトロピン含有水性組成物を見出すことである。また、本発明の別の課題は、粘度が経時的に低下せず、アトロピンまたはその塩が安定である、アトロピン含有水性組成物を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、驚くべきことに、0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物が、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することを見出した。また、本発明者らは、塩化ベンザルコニウムを含有しないか、または制限された量の塩化ベンザルコニウムを含有することで、低い散瞳作用を示すことも見出した。更に、本発明者らは、アトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物において、非イオン性等張化剤を含有させることで、水溶性高分子により付与された水性組成物の粘度の経時的低下を抑制し、さらに、アトロピンまたはその塩の安定性を維持できることも見出した。本発明の水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待される。
【0008】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0009】
(項1)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物。
【0010】
(項2)
第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、および酢酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の水性組成物。
【0011】
(項3)
第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である、項1または2に記載の水性組成物。
【0012】
(項4)
アミノカルボン酸緩衝剤が、イプシロン-アミノカプロン酸、グルタミン酸緩衝剤、およびアスパラギン酸緩衝剤からなる群より選択される少なくとも1種である、項1または2に記載の水性組成物。
【0013】
(項5)
リン酸緩衝剤が、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム一水和物、リン酸二水素ナトリウム二水和物、リン酸二水素カリウム、リン酸水素ナトリウム七水和物、リン酸三ナトリウム、およびリン酸二カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
炭酸緩衝剤が、炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、および炭酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
酢酸緩衝剤が、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、および酢酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
酒石酸緩衝剤が、酒石酸ナトリウムおよび酒石酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
ホウ酸緩衝剤が、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、およびホウ砂からなる群より選択される少なくとも1種に由来し、
グルタミン酸緩衝剤が、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、およびグルタミン酸カリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来し、および/または
アスパラギン酸緩衝剤が、アスパラギン酸、アスパラギン酸ナトリウムおよびアスパラギン酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、
項1から4のいずれか1に記載の水性組成物。
【0014】
(項6)
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、項1から5のいずれか1に記載の水性組成物。
【0015】
(項7)
クエン酸緩衝剤が、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、およびクエン酸二ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種に由来する、項6に記載の水性組成物。
【0016】
(項8)
水溶性高分子が、セルロース誘導体、カルボキシビニルポリマーおよびアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項1から7のいずれか1に記載の水性組成物。
【0017】
(項9)
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、および酢酸フタル酸セルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項8に記載の水性組成物。
【0018】
(項10)
セルロース誘導体が、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項8または9に記載の水性組成物。
【0019】
(項11)
セルロース誘導体がヒドロキシエチルセルロースである、項8から10のいずれか1に記載の水性組成物。
【0020】
(項12)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、ヒドロキシエチルセルロース、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤がリン酸緩衝剤である水性組成物。
【0021】
(項13)
更に、第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する、項12に記載の水性組成物。
【0022】
(項14)
50ppm未満の濃度の塩化ベンザルコニウムを含有する、項1から13のいずれか1に記載の水性組成物。
【0023】
(項15)
塩化ベンザルコニウムを実質的に含有しない、項1から14のいずれか1に記載の水性組成物。
【0024】
(項16)
更に、非イオン性等張化剤を含有する、項1から15のいずれか1に記載の水性組成物。
【0025】
(項17)
非イオン性等張化剤が、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、キシリトールおよびトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項16に記載の水性組成物。
【0026】
(項18)
非イオン性等張化剤が、グリセリンおよびマンニトールからなる群より選択される少なくとも1種である、項16または17に記載の水性組成物。
【0027】
(項19)
非イオン性等張化剤がグリセリンである、項16から18のいずれか1に記載の水性組成物。
【0028】
(項20)
緩衝剤の濃度が0.001~10%(w/v)である、項1から19のいずれか1に記載の水性組成物。
【0029】
(項21)
クエン酸緩衝剤の濃度が0.001~1.0%(w/v)である、項6~11および13~20のいずれか1に記載の水性組成物。
【0030】
(項22)
クエン酸緩衝剤の濃度が0.01~0.05%(w/v)である、項21に記載の水性組成物。
【0031】
(項23)
水溶性高分子の濃度が0.01~5%(w/v)である、項1から22のいずれか1に記載の水性組成物。
【0032】
(項24)
非イオン性等張化剤の濃度が0.01~10%(w/v)である、項16から23のいずれか1に記載の水性組成物。
【0033】
(項25)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および緩衝剤を含有し、pHが5以下の範囲である水性組成物。
【0034】
(項26)
緩衝剤が、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である、項25に記載の水性組成物。
【0035】
(項27)
緩衝剤がクエン酸緩衝剤である、項25または26に記載の水性組成物。
【0036】
(項28)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、およびリン酸緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物。
【0037】
(項29)
更に水溶性高分子を含有する、項28に記載の水性組成物。
【0038】
(項30)
水溶性高分子が、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種である、項29に記載の水性組成物。
【0039】
(項31)
水溶性高分子がヒドロキシエチルセルロースである、項29または30に記載の水性組成物。
【0040】
(項32)
pHが4~6の範囲である、項1~24および28~31のいずれか1に記載の水性組成物。
【0041】
(項33)
リン酸緩衝剤の濃度が0.01~1.0%(w/v)である、項1から32のいずれか1に記載の水性組成物。
【0042】
(項34)
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001~0.025%(w/v)である、項1から33のいずれか1に記載の水性組成物。
【0043】
(項35)
アトロピンまたはその塩の濃度が0.001~0.01%(w/v)である、項1から34のいずれか1に記載の水性組成物。
【0044】
(項36)
アトロピンまたはその塩が、硫酸アトロピンまたはその水和物である、項1から35のいずれか1に記載の水性組成物。
【0045】
(項37)
ユニットドーズ型容器に収容されている、項1から36のいずれか1に記載の水性組成物。
【0046】
(項38)
水性組成物が点眼剤である、項1から37のいずれか1に記載の水性組成物。
【0047】
(項39)
近視の進行を抑制および/または予防するための、項1から38のいずれか1に記載の水性組成物。
【0048】
(項40)
近視の進行を抑制および/または予防するための薬物の製造における、項1から38のいずれか1に記載の水性組成物の使用。
【0049】
(項41)
項1から38のいずれか1に記載の水性組成物を患者に投与することを含む、近視の進行の抑制および/または予防方法。
【0050】
(項42)
近視の進行を抑制および/または予防するのに使用するための、項1から38のいずれか1に記載の水性組成物。
【0051】
(項43)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物に、非イオン性等張化剤を含有させることによる、水性組成物の粘度低下を抑制する方法。
【0052】
(項44)
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物に、非イオン性等張化剤を含有させることによる、アトロピンまたはその塩を安定化する方法。
【発明の効果】
【0053】
後述する試験結果から明らかなように、0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物が、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することが示された。また、塩化ベンザルコニウムを含有しないか、または制限された量の塩化ベンザルコニウムを含有することで、低い散瞳作用を有することも示された。更に、アトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物において、非イオン性等張化剤を含有させることで、水溶性高分子により付与された水性組成物の粘度の経時的低下を抑制し、さらに、アトロピンまたはその塩の安定性を維持できることも示された。したがって、本水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待される。更に等張化剤を含有する組成物のような本発明の組成物に関連する更なる利点は、組成物が時間経過と共に初期の粘度(またはその実質的な割合)を維持できることである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1は試験5における粘度測定の結果を示す。
図2図2は試験5における安定性試験の結果を示す。
図3図3は試験6の粘度測定における実施例23~25の結果を示す。
図4図4は試験6の粘度測定における実施例26~28の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本発明の水性組成物は、有効成分として「アトロピンまたはその塩」を含む。
【0056】
本発明において、用語「アトロピンまたはその塩」には、(i)アトロピンまたはその塩の水和物、(ii)アトロピンまたはその塩の有機溶媒和物、および(iii)水和物と有機溶媒和物の混合物も包含される。
【0057】
アトロピン塩には硫酸アトロピンまたはその水和物が含まれ、好ましくは硫酸アトロピン水和物である。
【0058】
硫酸アトロピン水和物は以下の構造式で示される化合物である。
【0059】
アトロピンまたはその塩に、結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それらの結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態により、結晶形が変化する場合の各段階で得られる個々の結晶形だけでなく、2つ以上の段階で得られる結晶形の混合物をも意味する。
【0060】
アトロピンまたはその塩は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造することもできるし、市販品を使用することもできる。例えば、硫酸アトロピン水和物は、東京化成工業株式会社から市販されている(製品コード:A0550)。
【0061】
本発明において、アトロピンまたはその塩の濃度は、好ましくは0.001~0.1%(w/v)、より好ましくは0.001~0.05%(w/v)、更により好ましくは0.001~0.025%(w/v)、特に好ましくは0.001~0.01%(w/v)である。より具体的には、その濃度は、好ましくは0.0010%(w/v)、0.0015%(w/v)、0.0020%(w/v)、0.0025%(w/v)、0.0030%(w/v)、0.0035%(w/v)、0.0040%(w/v)、0.0045%(w/v)、0.0050%(w/v)、0.0055%(w/v)、0.0060%(w/v)、0.0065%(w/v)、0.0070%(w/v)、0.0075%(w/v)、0.0080%(w/v)、0.0085%(w/v)、0.0090%(w/v)、0.0095%(w/v)、または0.010%(w/v)である。
【0062】
本発明において、用語「水性組成物」は、溶媒として水を含む組成物を意味する。
【0063】
本発明において、「水溶性高分子」は、水に溶解可能な医薬的に許容されるいずれの高分子であり得る。特に制限されないが、そのような高分子の例には、セルロース類およびその誘導体(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸エステルコハク酸エステル、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、およびヒプロメロースフタル酸エステル)、合成高分子(例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、およびカルボキシビニルポリマー)、および天然物由来の高分子およびサッカライド(例えば、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、カンテン、ゼラチン、トラガント、およびキサンタンゴム)が含まれる。これらの中で、本発明で水溶性高分子として用いられる好ましいものは、セルロースおよびその誘導体、カルボキシビニルポリマー、およびアルギン酸ナトリウムである。これらの中で、本発明で水溶性高分子として用いられるより好ましいものは、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースである。
【0064】
本発明の水性組成物は1種または複数種の水溶性高分子を含有し得る。
【0065】
本発明において、水性組成物中の水溶性高分子の濃度は、水溶性高分子の含量を調整して、必要により医薬物質(有効成分)、他の添加剤、pH、浸透圧、および/または粘度への水溶性高分子の影響を反映させて、その値を定める。しかしながら、本発明の水性組成物における水溶性高分子の濃度は、好ましくは0.01~5%(w/v)、より好ましくは0.1~2%(w/v)である。
【0066】
本発明において、水溶性高分子がセルロースおよびその誘導体の場合、セルロースおよびその誘導体の濃度は、好ましくは0.01~5%(w/v)、より好ましくは0.1~2%(w/v)、更により好ましくは0.1~1%(w/v)、特に好ましくは0.1~0.6%である。
【0067】
本発明において、水溶性高分子がヒドロキシエチルセルロースの場合、ヒドロキシエチルセルロースの濃度は、好ましくは0.1~1.0%(w/v)、より好ましくは0.1~0.6%(w/v)である。
【0068】
本発明において、水溶性高分子がカルボキシビニルポリマーの場合、カルボキシビニルポリマーの濃度は、好ましくは0.04~0.4%(w/v)、より好ましくは0.08~0.4%(w/v)である。
【0069】
本発明において、水溶性高分子がヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの濃度は、好ましくは0.1~1.0%(w/v)、より好ましくは0.1~0.6%(w/v)である。
【0070】
本発明において、水溶性高分子がアルギン酸ナトリウムの場合、アルギン酸ナトリウムの濃度は、好ましくは0.1~2%(w/v)、より好ましくは0.5~2%(w/v)である。
【0071】
本発明において、用語「緩衝剤」とは、医薬的に許容されるものであれば特に制限されず、例えば、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、トロメタモールなどが挙げられる。アミノカルボン酸緩衝剤としては、例えば、アスパラギン酸緩衝剤、グルタミン酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸などが挙げられる。これらの緩衝剤は1種単独で用いてもよく、2種以上の成分を任意に組み合わせて使用してもよい。これらの緩衝剤の中でも、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤が好ましく、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤がより好ましく、リン酸緩衝剤および/またはクエン酸緩衝剤が更により好ましく、リン酸緩衝剤およびクエン酸緩衝剤が特に好ましい。
【0072】
本発明において、水性組成物中の緩衝剤の濃度は、緩衝剤の含量を調整して、必要により医薬物質(有効成分)、他の添加剤、pH、浸透圧、および/または粘度への緩衝剤の影響を反映させて、その値を定める。しかしながら、本発明の水性組成物中の緩衝剤の濃度は、好ましくは0.001~10%(w/v)、より好ましくは0.01~5%(w/v)、更により好ましくは0.01~3%(w/v)、更になおより好ましくは0.01~1%(w/v)、特に好ましくは0.01~0.5%(w/v)、より特に好ましくは0.01~0.1%(w/v)であり、ここで緩衝剤の重量は、原料である緩衝化剤の重量を表す。
【0073】
本発明において、リン酸緩衝剤は、あらゆる医薬的に許容されるリン酸緩衝化剤に由来し得る(を原料とし得る)。特に制限されないが、そのようなリン酸緩衝化剤の例には、リン酸;リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩などのリン酸塩;それらの水和物が挙げられる。より具体的には、リン酸水素ナトリウム水和物(「リン酸水素ナトリウム」または「リン酸ナトリウム」と称する)、リン酸二水素ナトリウム(「リン酸一ナトリウム」と称する)、リン酸二水素ナトリウム一水和物(「リン酸一ナトリウム」と称する)、リン酸二水素ナトリウム二水和物(「リン酸一ナトリウム」と称する)、リン酸二水素カリウム(「リン酸一カリウム」と称する)、リン酸水素ナトリウム七水和物、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウムなどである。
【0074】
本発明において、水性組成物中のリン酸緩衝剤の濃度は、リン酸緩衝剤の含量を調整して、必要により医薬物質(有効成分)、他の添加剤、pH、浸透圧、および/または粘度へのリン酸緩衝剤の影響を反映させて、その値を定める。しかしながら、本発明の水性組成物中のリン酸緩衝剤の濃度は、好ましくは0.01~1.0%(w/v)、より好ましくは0.05~1.0%(w/v)、更により好ましくは0.05~0.5%(w/v)であり、ここでリン酸緩衝剤の重量は、原料であるリン酸緩衝化剤の重量を表す。
【0075】
本発明において、「クエン酸緩衝剤」とは、医薬的に許容されるものであれば特に制限されないクエン酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、クエン酸緩衝化剤としては、例えば、クエン酸;クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩などのクエン酸塩;それらの水和物が挙げられる。より具体的には、クエン酸水和物、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム水和物、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなどである。
【0076】
本発明において、水性組成物中のクエン酸緩衝剤の濃度は、クエン酸緩衝剤の含量を調整して、必要により医薬物質(有効成分)、他の添加剤、pH、浸透圧、および/または粘度へのクエン酸緩衝剤の影響を反映させて、その値を定める。しかしながら、本発明の水性組成物中のクエン酸緩衝剤の濃度は、好ましくは0.001~1.0%(w/v)、より好ましくは0.005~0.5%(w/v)、更により好ましくは0.01~0.1%(w/v)、更になおより好ましくは0.01~0.05%(w/v)、特に好ましくは0.02~0.04%(w/v)であり、ここでクエン酸緩衝剤の重量は、原料であるクエン酸緩衝化剤の重量を表す。
【0077】
本発明において、「ホウ酸緩衝剤」はホウ酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、ホウ酸緩衝化剤としては、例えば、ホウ酸またはその塩、ホウ砂が挙げられる。より具体的には、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂などである。「炭酸緩衝剤」は炭酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、炭酸緩衝化剤としては、例えば、炭酸またはその塩が挙げられる。より具体的には、炭酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウムなどである。「酢酸緩衝剤」は酢酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、酢酸緩衝化剤としては、例えば、酢酸またはその塩が挙げられる。より具体的には、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウムなどである。「酒石酸緩衝剤」は酒石酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、酒石酸緩衝化剤としては、例えば、酒石酸またはその塩が挙げられる。より具体的には、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムなどである。「アスパラギン酸緩衝剤」はアスパラギン酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、アスパラギン酸緩衝化剤としては、例えば、アスパラギン酸またはその塩が挙げられる。より具体的には、アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウムなどである。「グルタミン酸緩衝剤」はグルタミン酸緩衝化剤に由来し得(を原料とし得)、グルタミン酸緩衝化剤としては、例えば、グルタミン酸またはその塩が挙げられる。より具体的には、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウムなどである。
【0078】
本発明の水性組成物は、第一の緩衝剤を唯一の緩衝剤として含有することもできるし、第一の緩衝剤および第二の緩衝剤を唯一の緩衝剤として含有することもできる。また、本発明の水性組成物は、第一の緩衝剤および第二の緩衝剤の他に、更に別の緩衝剤を含有することもできる。
【0079】
本発明において、用語「第一の緩衝剤」とは、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である。各緩衝剤の定義および好ましい濃度範囲は、先の「緩衝剤」の項で説明したとおりである。
【0080】
本発明において、「第二の緩衝剤」とは、クエン酸緩衝剤である。クエン酸緩衝剤の定義および好ましい濃度範囲は、先の「緩衝剤」の項で説明したとおりである。
【0081】
本発明の水性組成物の粘度は、好ましくは3~500mPa・sの範囲、より好ましくは6~70mPa・sの範囲になるよう調整され、E型粘度計(25℃;50s-1のずり速度)で測定される。
【0082】
本発明の水性組成物は更に等張化剤を含有していてもよい。本発明で用いる等張化剤はあらゆる医薬的に許容される等張化剤であり得る。特に制限されないが、そのような等張化剤の例には、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、キシリトール、トレハロースなどの非イオン性等張化剤が挙げられる。本発明において、非イオン性等張化剤が等張化剤として好ましい。非イオン性等張化剤としては、グリセリン、マンニトール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、キシリトール、およびトレハロースが好ましく、グリセリンおよびマンニトールがより好ましく、グリセリンが特に好ましい。
【0083】
本発明に用いる等張化剤として、上記の等張化剤は単独で用いてもよく、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
本発明において、水性組成物中の等張化剤の濃度は、等張化剤の含量を調整して、必要により医薬物質(有効成分)、他の添加剤、pH、浸透圧、および/または粘度への等張化剤の影響を反映させて、その値を定める。しかしながら、本発明の水性組成物中の等張化剤の濃度は、好ましくは0.01~10%(w/v)、より好ましくは0.05~5%(w/v)、更により好ましくは0.1~5%(w/v)、更になおより好ましくは0.5~5%(w/v)、特に好ましくは1~5%(w/v)である。
【0085】
本発明において、等張化剤がグリセリンである場合、グリセリンの濃度は、好ましくは0.1~5.0%(w/v)、より好ましくは0.1~3.0%(w/v)、更により好ましくは0.5~3.0%(w/v)、特に好ましくは1.0~3.0%(w/v)である。
【0086】
本発明の水性組成物は、必要により医薬的に許容される添加剤を含有していてもよい。添加剤は広く用いられる技術で、本発明の水性組成物の他の成分と混合できる。添加剤は必要により、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;エデト酸二ナトリウムのなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、ホウ酸などの防腐剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤などが選択できる。
【0087】
一般に塩化ベンザルコニウムは防腐剤として使用される。本発明において、後述するように、塩化ベンザルコニウムを含まないアトロピン含有水性組成物は、塩化ベンザルコニウムを含むアトロピン含有水性組成物よりも低い散瞳作用を有することが示唆されている。よって、本発明の水性組成物は、塩化ベンザルコニウムを含有しないか、または制限された量の塩化ベンザルコニウムを含有することが好ましい。ここで「制限された量」とは、本発明のアトロピン含有水性組成物の散瞳作用を増悪させない塩化ベンザルコニウムの量を意味する。具体的には、塩化ベンザルコニウムの濃度は、100ppm未満が好ましく、50ppm未満がより好ましく、塩化ベンザルコニウムが実質的に含まれないことが更により好ましい。
【0088】
本発明で用いる用語「ユニットドーズ型容器」とは、瓶口部にキャップが融着封止され、使用時に当該キャップと瓶形本体との融着部を破断開封して使用することを目的とした点眼容器のことをいう。当該ユニットドーズ型容器には、1回使い切りのために1回使用分の水性組成物が収容されていてもよく、1日使い切りのために数回使用分の水性組成物が収容されていてもよい。
【0089】
本発明で用いる用語「マルチドーズ型容器」とは、容器本体と当該容器本体に装着可能なキャップを備えた点眼容器であって、キャップの開封、再封を自由に行うことができる点眼容器のことをいう。当該マルチドーズ型容器には、通常一定期間使用するために複数回分の点眼液が収容されている。
【0090】
本発明における水性組成物は、ユニットドーズ型容器やマルチドーズ型容器に収容されることができる。本発明における水性組成物が、塩化ベンザルコニウムなどの防腐剤を実質的に含まない場合は、ユニットドーズ型容器に収容されることが好ましい。
【0091】
本発明の水性組成物のpHは特定の値に制限されないが、医薬的に許容される範囲とされる。しかしながら、本発明の水性組成物のpHは、好ましくは6以下の範囲、より好ましくは4~6、更により好ましくは4~5の範囲、特に好ましくは4または5の近傍である。より具体的には、例えば、pH 3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、および6.0が好ましく、pH 3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、5.1、5.2、5.3、および5.4がより好ましい。
【0092】
更に、本発明の水性組成物の浸透圧は特定の値に制限されないが、生体に許容される範囲とされる。本発明の水性組成物の浸透圧は、例えば、100~1000mOsm、好ましくは200~500mOsm、より好ましくは250~350mOsmである。一般的に、水性組成物の浸透圧は少なからず水性組成物中の薬物や添加剤の量に影響を受ける。本発明において、浸透圧は浸透圧に影響を与え得るこれらの物質の量を適当に調整して、上記の範囲になるよう調整され得る。本発明の水性組成物の浸透圧は、通常の方法で測定されできることに留意すべきである。例えば、本発明の水性組成物の浸透圧は、第十五改正日本薬局方第の「浸透圧測定法(オスモル濃度測定法)」に記載の方法に従って測定できる。
【0093】
本発明の水性組成物の製剤形の例には、点眼剤または水性点眼液が挙げられる。
【0094】
本発明で投与される水性組成物の用法用量は、所望の薬効を奏するのに十分であれば特に制限されず、好ましくは1回1~3滴、1日1~5回、より好ましくは1回1~2滴、1日2~4回、最も好ましくは1回1滴、1日1回就寝前に点眼し得る。
【0095】
本発明の水性組成物は、好ましくは近視の進行を抑制または予防、近視の予防、および/または近視の治療に用いられ、より好ましくは学童期の近視の進行を抑制または予防するのに用いられる。
【0096】
本発明で用いられる用語「近視の進行を抑制または予防」とは、近視の進行を遅らせる、または近視の進行を縮小させることを意味し得る。本発明で用いられる用語「近視の予防」とは、近視の発症を予防すること、または近視の発症を遅らせることを意味し得る。
【実施例0097】
以下に示す試験結果および製剤例は、本発明のより良い理解のために示されているが、本発明の範囲をそれらに限定すべきではない。
【0098】
なお、略語の意味は以下の通りである。
BAK:塩化ベンザルコニウム
CVP:カルボキシビニルポリマー
HEC:ヒドロキシエチルセルロース
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
【0099】
試験1
いくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0100】
(試料調製方法)
(実施例1)
実施例1の水性組成物を表1に示す処方に従って調製した。具体的には、硫酸アトロピン水和物0.01g、ヒドロキシエチルセルロース0.32g、リン酸二水素ナトリウム0.1g、および濃グリセリン2.4gを精製水に溶かし、得られた溶液に必要により塩酸および水酸化ナトリウムを加えてpH 5に調整し、全量を100mlにした。
【0101】
(実施例2~3および比較例1~3)
実施例2~3および比較例1~3の水性組成物は、実施例1と同じように表1に示す処方に従って調製した。
【0102】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼または6匹のウサギの6つの眼)に点眼した。点眼前および点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積と散瞳率を計算した。散瞳率は以下の式で計算した。
散瞳率(%)=((b-a)/a)×100
式中、aは比較例1~3および実施例1~3の各試験での点眼前の瞳孔面積の平均値(mm)で、aは16.8(mm)、bは点眼1時間後の瞳孔面積値である。
【0103】
(試験結果)
実施例1~3および比較例1~3の結果を表2に示す。表2中の各値は、4つまたは6つの眼の結果から得たデータの平均値である。
本水性組成物の散瞳作用を以下の評価基準で判定した。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm以上35.0mm未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm以上40.0mm未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm以上
【0104】
(考察)
表2から明らかなように、(i)アトロピンまたはその塩を含有し、(ii)pHが6以下の範囲で、および(iii)更にリン酸緩衝剤を含有する水性組成物は、リン酸緩衝剤を含有しない組成物より、誘導される散瞳が低いことが示された。
【0105】
試験2
本発明のいくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0106】
(試料調製方法)
(実施例4~11)
実施例4~11の水性組成物は、実施例1と同じように表3に示す処方に従って調製した。
【0107】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼または6匹のウサギの6つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算した。
【0108】
(試験結果)
実施例4~11の結果を表3に示す。表3中の各値は、4つまたは6つの眼の結果から得たデータの平均値である。
本水性組成物の散瞳作用を以下の評価基準で判定した。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm以上35.0mm未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm以上40.0mm未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm以上
【0109】
(考察)
水性組成物が第一の緩衝剤としてリン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用は低かった(実施例4)。また、水性組成物がリン酸緩衝剤以外に更に第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用はより低かった(実施例6~8)。
【0110】
試験3
本発明のいくつかの水性組成物を散瞳作用に関して評価した。
【0111】
(試料調製方法)
(実施例12~14)
実施例12~14の水性組成物は、実施例1と同じように表4に示す処方に従って調製した。
【0112】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算した。
【0113】
(試験結果)
実施例12~14の結果を表4に示す。表4中の各値は、4つの眼の結果から得たデータの平均値である。
本水性組成物の散瞳作用を以下の評価基準で判定した。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm以上35.0mm未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm以上40.0mm未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm以上
【0114】
(考察)
たとえ水性組成物が0.005%(w/v)のアトロピンを含有していても、散瞳作用は水性組成物が第一の緩衝剤としてリン酸緩衝剤を含有する場合低かった(実施例12)。また、水性組成物がリン酸緩衝剤以外に更に第二の緩衝剤としてクエン酸緩衝剤を含有する場合、散瞳作用はより低かった(実施例13および14)。
【0115】
試験4
一般的に防腐剤として用いられる塩化ベンザルコニウムの、本発明の水性組成物の散瞳作用への効果を検討した。
【0116】
(試料調製方法)
(実施例15~17)
実施例15~17の水性組成物は、実施例1と同じように表5に示す処方に従って調製した。
【0117】
(試験方法)
各水性組成物の単回投与量(50μlの容量)をウサギの単眼(各水性組成物に対し、4匹のウサギの4つの眼)に点眼した。点眼1時間後のウサギの瞳孔の画像は、光干渉断層撮影(OCT)でとらえ、次いで画像解析ソフトで分析し、ウサギの瞳孔面積を計算した。
【0118】
(試験結果)
実施例15~17の結果を表5に示す。表5中の各値は、4つの眼の結果から得たデータの平均値である。
本水性組成物の散瞳作用を以下の評価基準で判定した。
A:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm未満
B:点眼1時間後の瞳孔面積値が30.0mm以上35.0mm未満
C:点眼1時間後の瞳孔面積値が35.0mm以上40.0mm未満
D:点眼1時間後の瞳孔面積値が40.0mm以上45.0mm未満
E:点眼1時間後の瞳孔面積値が45.0mm以上
【0119】
(考察)
表5から明らかなように、塩化ベンザルコニウムを含まない水性組成物(実施例15)は、塩化ベンザルコニウムを含む水性組成物(実施例16および17)よりも低い散瞳作用を示した。
【0120】
試験5
(粘度測定試験1および安定性試験1)
アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物において、等張化剤が水性組成物の粘度およびアトロピンの安定性に及ぼす影響を検討した。
【0121】
(試料調製方法)
(実施例18~22)
実施例18~22の水性組成物は、実施例1と同じように表6に示す処方に従って調製した。調製したサンプルは、ポリエチレン製点眼容器に5mLずつ充填し、中栓を装着後、キャップを用いて密閉し、遮光下、60℃で4週間保管した。
【0122】
(試験方法)
(1)粘度測定試験1
第十六改正日本薬局方「第2法 回転粘度計法」に従い、円すい-平板形回転粘度計を用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間における各水性組成物の粘度を測定した。測定条件は以下に示す。
・測定機器:回転式レオメーター(Kinexus pro+)
・回転数(S-1):50/sec
・測定温度:25℃
【0123】
(2)安定性試験1
アトロピンは分解するとトロパ酸を生成する。本試験ではアトロピンの安定性を評価するため、高速液体クロマトグラフィーを用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間におけるトロパ酸の含有量を定量した。
【0124】
(試験結果)
粘度測定試験1の結果を図1に示す。安定性試験1の結果を図2に示す。
【0125】
(考察)
(1)粘度測定試験1
図1に示すように、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例18、図1中の「含有せず」)、等張化剤として塩化ナトリウムを含有する水性組成物(実施例19、図1中の「NaCl」)、等張化剤としてホウ酸を含有する水性組成物(実施例20、図1中の「ホウ酸」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤としてグリセリンを含有する水性組成物(実施例21、図1中の「グリセリン」)および等張化剤としてマンニトールを含有する水性組成物(実施例22、図1中の「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
【0126】
(2)安定性試験1
図2に示すように、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有し、等張化剤としてマンニトールまたはホウ酸を含有する水性組成物は、他の水性組成物に比べ、トロパ酸をより生成した。以上より、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有する水性組成物において、アトロピンの安定性の観点から等張化剤としてマンニトールまたはホウ酸の添加は好ましくないことが示された。
また、上記粘度測定試験1および安定性試験1の結果から、アトロピンおよびヒドロキシエチルセルロースを含有する水性組成物において、経時的な粘度低下を抑制し、かつ、アトロピンの安定性を維持するためには、等張化剤として、グリセリンを添加することが好ましいことが示された。
【0127】
試験6
(粘度測定試験2)
アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物において、等張化剤が水性組成物の粘度に及ぼす影響を検討した。
【0128】
(試料調製方法)
(実施例23~28)
実施例23~28の水性組成物は、実施例1と同じように表7に示す処方に従って調製した。調製したサンプルは、ポリエチレン製点眼容器に5mLずつ充填し、中栓を装着後、キャップを用いて密閉し、遮光下、60℃で4週間保管した。
【0129】
(試験方法)
(粘度測定試験2)
第十六改正日本薬局方「第2法 回転粘度計法」に従い、円すい-平板形回転粘度計を用いて、調製直後及び調製後1、2および4週間における各水性組成物の粘度を測定した。測定条件は以下に示す。
・測定機器:回転式レオメーター(Kinexus pro+)
・回転数(S-1):50/sec
・測定温度:25℃
【0130】
(試験結果)
実施例23~25における粘度測定試験の結果を図3に示す。実施例26~28における粘度測定試験の結果を図4に示す。
【0131】
(考察)
(粘度測定試験2)
図3に示すように、アトロピンおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例23、図3中の「含有せず」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、等張化剤としてグリセリンまたはマンニトールを含有する水性組成物(実施例24および25、図3中の「グリセリン」または「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
また、図4に示すように、アトロピンおよびカルボキシビニルポリマーを含有し、等張化剤を含まない水性組成物(実施例26、図4中の「含有せず」)は、その粘度が経時的に低下した。一方、等張化剤としてグリセリンまたはマンニトールを含有する水性組成物(実施例27および28、図4中の「グリセリン」または「マンニトール」)は、その粘度が維持され、経時的な粘度の低下が抑制された。
【0132】
試験7
マウス近視モデルにおいて、水溶性高分子がアトロピンの眼軸長延長抑制作用に及ぼす影響および屈折異常の改善作用に及ぼす影響を検討した。
【0133】
(試料調製方法)
(実施例A~D)
実施例A~Dの水性組成物は、実施例1と同じように表8に示す処方に従って調製した。
【0134】
(試験方法)
実験的近視マウスモデル:眼鏡レンズで誘導される近視モデルをマウス(C57BL/6J)の右眼に、-10Dレンズを取り付けて作成し、生後24日目で実験眼として用いた。一時的に-10Dレンズ(青色のPMMA眼鏡レンズ、外側曲率の半径が8.5mm、内側曲率の半径が8mm、レンズの厚さが0.5mm)を、ベルクロ(登録商標)の輪に(8mmベースカーブで)接着させた。次いでこの片方のピースを、シアノアクリレートを用いて実験用右眼の周りの毛に接着したベルクロ(登録商標)に取り付けた。このセットアップを通して、レンズの後部と角膜前面との間に1.5mmの空隙が存在することを確認した。
【0135】
眼生体計測法:眼軸長、屈折異常測定のような眼生体計測は、インビボ低コヒーレンス光干渉式装置(Optical Low Coherence Interferometry、OLCI-AcMaster)と自動偏心的写真屈折装置(automated eccentric photorefractor)をそれぞれ用いて行った。眼軸長は生後38日目および66日目に測定し、一方52日目および66日目に動物の眼の屈折度を測定した。
薬物の処置:硫酸アトロピン(0.01%の濃度で)を、ヒドロキシエチルセルロースと共にまたは用いずに、眼鏡レンズで誘導される近視モデルに、生後39日目から66日目まで1日1回投与した。各薬物7μLを、各日に暗赤色灯中右眼に局所投与した。
【0136】
(試験結果)
(1)眼軸長延長抑制作用
実施例B~Dの結果を表9に示す。
各実施例試料による眼軸長延長抑制の比率を下記の式で計算した。
眼軸長の差 (mm)=[66日目の眼軸長]-[38日目の眼軸長]
実施例B試料による眼軸長延長抑制率 (%)=

実施例C試料による眼軸長延長抑制率 (%)=

実施例D試料による眼軸長延長抑制率 (%)=

【0137】
(2)屈折異常の改善作用
実施例A~Dの結果を表10に示す。
屈折異常の変化(ジオプター)=[66日目の屈折度(ジオプター)]-[52日目の屈折度(ジオプター)]
【0138】
(考察)
アトロピンを含まず、水溶性高分子を含む水性組成物(実施例B)には眼軸長延長抑制作用は認められなかった。一方、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い眼軸長延長抑制作用を示すことが見出された。
また、上記眼軸長延長抑制作用と同様に、アトロピンを含有する水性組成物に水溶性高分子を添加することで(実施例D)、水溶性高分子を含まず、アトロピンを含む水性組成物(実施例C)よりも強い屈折異常の改善作用を示すことが見出された。
表1および表2の実施例1および3の結果からも明らかなように、水溶性高分子の添加はアトロピンの散瞳作用に影響を与えないことが示されていることから、アトロピンおよび水溶性高分子を含有する水性組成物は、散瞳作用の少ない近視進行抑制薬となることが期待される。
【0139】
製剤例
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0140】
製剤例1:点眼剤(0.01%(w/v))

滅菌精製水に、上記に挙げた硫酸アトロピン水和物および他の成分を加える。これらの成分をよく混合して上記の点眼剤を調製する。
【0141】
製剤例2:点眼剤(0.004%(w/v))

滅菌精製水に、上記に挙げた硫酸アトロピン水和物および他の成分を加える。これらの成分をよく混合して上記の点眼剤を調製する。
【産業上の利用可能性】
【0142】
0.001~0.1%(w/v)の濃度のアトロピンまたはその塩、水溶性高分子、および第一の緩衝剤を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物であって、前記第一の緩衝剤が、リン酸緩衝剤、アミノカルボン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、酒石酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、およびトロメタモールからなる群より選択される少なくとも1種である水性組成物が、アトロピンの散瞳作用を増悪させることなく、優れた眼軸長延長抑制作用および屈折異常の改善作用を有することが示された。また、塩化ベンザルコニウムを含有しないか、または制限された量の塩化ベンザルコニウムを含有することで、低い散瞳作用を有することも示された。更に、アトロピンまたはその塩および水溶性高分子を含有し、pHが6以下の範囲である水性組成物において、非イオン性等張化剤を含有させることで、水溶性高分子により付与された水性組成物の粘度の経時的低下を抑制し、さらに、アトロピンまたはその塩の安定性を維持できることも示された。本水性組成物は、近視の進行を抑制または予防し、散瞳作用をより低くし、遠近調節の低下を低くして、生活の質に関して最適であることが期待される。
図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【外国語明細書】