(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058584
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】化粧料インク、これを含むインクジェット用インク、およびインクカートリッジ、ならびに化粧用シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20230418BHJP
A61K 8/96 20060101ALI20230418BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20230418BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230418BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20230418BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/96
A61Q1/00
A61Q19/00
A61K8/34
A61K8/02
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017121
(22)【出願日】2023-02-07
(62)【分割の表示】P 2019547953の分割
【原出願日】2018-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2017197067
(32)【優先日】2017-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 真里
(72)【発明者】
【氏名】篠田 雅世
(57)【要約】 (修正有)
【課題】変色領域を隠蔽するための、肌に貼り付ける、インクを塗布した化粧料シートあるいは塗膜であって、インクの塗布量に関わらず肌の色に近い色を再現可能な化粧料シートあるいは塗膜を製造する装置、並びに前記塗膜を提供する。
【解決手段】化粧料インクは、色材と、炭素数3以上の高級アルコールと、精製水と、バインダと、を含む。また、当該化粧料インクの塗膜について波長400nm~700nmの分光反射率を測定して得られる、分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域には第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域には第2の変曲点が存在し、前記第1の変曲点における分光反射率が、前記第2の変曲点における分光反射率より高く、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクからなる群から選ばれる3色以上のインクの液滴をずらした位置に塗布して塗膜を形成する塗膜形成手段を含み、
前記塗膜形成手段で形成される塗膜は、
波長400nm~700nmにおける分光反射率を測定して得られる分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域に第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域に第2の変曲点が存在し、前記第1の変曲点における分光反射率が、前記第2の変曲点における分光反射率より高く、波長610nm以上の領域における分光反射率が、前記第1の変曲点における分光反射率以上であり、かつ波長590nm~700nmの領域における分光反射率が、波長580nmの分光反射率の1倍~1.3倍の範囲に収まり、
前記白色インク、前記赤色インク、前記黄色インク、前記青色インク、および前記黒色インクが、それぞれ、(A)色材と、(B)炭素数3以上の高級アルコールと、(C)精製水と、(D)(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体、および二種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体のうち、少なくとも一方を含み、かつ平均粒子径が30nm~150nmである(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子と、(E)HLB値が8以上である皮膜形成剤(ただし、(D)(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子に相当するものを除く)と、を含む、
化粧用シートの製造装置。
【請求項2】
前記塗膜形成手段で形成される塗膜のL*a*b*表色系におけるL*値が、48以上である、
請求項1に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項3】
前記(E)皮膜形成剤のHLB値は、8~19である、
請求項1または2に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項4】
前記(E)皮膜形成剤は、アクリル系ポリマーを含む、
請求項1または2に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項5】
前記(A)色材が、黒色系顔料または黒色系染料を含む、
請求項1または2に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項6】
前記(A)色材の平均粒子径が2μm以下である、
請求項1に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項7】
前記(D)(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の化粧用シートの製造装置。
【請求項8】
(A)白色系色材、黄色系色材、赤色系色材、および青色系色材を含む色材と、
(B)炭素数3以上の高級アルコールと、
(D)(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体、および二種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体のうち、少なくとも一方を含み、かつ平均粒子径が30nm~150nmである(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子と、
(E)HLB値が8以上である皮膜形成剤(ただし、(D)(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子に相当するものを除く)と、
を含む化粧料インクの固化物からなる塗膜であり、
波長400nm~700nmの分光反射率を測定して得られる、分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域には第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域には第2の変曲点が存在し、
前記第1の変曲点における分光反射率が、前記第2の変曲点における分光反射率より高く、
波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上であり、
かつ波長590nm~700nmの領域における分光反射率が、波長580nmの分光反射率の1倍~1.3倍の範囲に収まる、
塗膜。
【請求項9】
L*a*b*表色系におけるL*値が、48以上である、
請求項8に記載の塗膜。
【請求項10】
前記(E)皮膜形成剤のHLB値は、8~19である、
請求項8または9に記載の塗膜。
【請求項11】
前記(E)皮膜形成剤は、アクリル系ポリマーを含む、
請求項8または9に記載の塗膜。
【請求項12】
前記(A)色材が、黒色系顔料または黒色系染料を含む、
請求項8または9に記載の塗膜。
【請求項13】
前記(A)色材の平均粒子径が2μm以下である、
請求項8に記載の塗膜。
【請求項14】
前記(A)色材の量を10質量部としたとき、(D)(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子の量が0.5質量部以上10質量部以下である、
請求項8に記載の塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は化粧料インク、これを含むインクジェット用インク、およびインクカートリッジ、ならびに化粧用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノシートに各種色材を含むインクを塗布し、これを人体に貼り付けることにより、肌に生じたシミや痣、傷跡(以下、「変色領域」とも称する)等を目立ち難くすることが提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術では、肌を撮像し、変色領域を識別する。そして、変色領域の外側の領域に近い色を、ナノシートに印刷し、これを肌に貼り付けることで、変色領域を目立たなくする、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の化粧用シートでは、肌の色を再現することが難しい。特に、変色領域を隠蔽するために、インクを多く塗布すれば塗布するほど、シートの貼付時に本来の肌の色との乖離が大きくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様の化粧インクは、(A)色材と、(B)炭素数3以上の高級アルコールと、(C)精製水と、(D)バインダと、を含む化粧料インクであり、前記化粧料インクの塗膜について波長400nm~700nmの分光反射率を測定して得られる、分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域には第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域には第2の変曲点が存在し、前記第1の変極点における分光反射率が、前記第2の変曲点における分光反射率より高く、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上である。
【発明の効果】
【0006】
本開示の一実施形態によれば、インクの塗布量に関わらず、肌の色に近い色を再現可能な化粧料インクとすることができる。また本開示の一実施形態によれば、シミ等の隠蔽性が高く、さらに肌の色に近い色を再現可能な、化粧用シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本開示の実施例に係る化粧料インクおよび比較例に係る化粧料インクの、波長400nm~700nmにおける分光反射率曲線を示すグラフ。
【
図2】
図2は、本開示の実施例に係る化粧料インクおよび比較例に係る化粧料インクの、波長400nm~700nmにおける分光反射率曲線を示すグラフ。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係る化粧用シートの製造方法で作製した化粧用シートB-1の分光反射率曲線、および他の方法で製造した化粧用シートB-2の分光反射率曲線を示すグラフ。
【
図4A】
図4Aは、本開示の一実施形態に係る化粧用シートの製造方法で作製した化粧用シートB-1をシミ模型上にかざしたときの写真。
【
図4B】
図4Bは、他の方法で製造した化粧用シートB-2をシミ模型上にかざしたときの写真。
【
図5A】
図5Aは、本開示の一実施形態に係る化粧用シートの製造方法で作製した化粧用シートB-1の表面の拡大写真。
【
図5B】
図5Bは、他の方法で製造した化粧用シートB-2の表面の拡大写真。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.化粧料インク
本開示の化粧料インクは、化粧用シートを作製するためのインクである。当該インクを用いて作製される化粧用シートは、例えば肌に貼着して用いられ、肌の彩色や、美化等に用いられる。ただし、当該化粧料インクは、メイクアップ等の化粧用途のみならず、日焼け止め等のスキンケア用途、医療用途、さらにはプラスチックフィルムの加飾等の工業的な用途にも利用可能である。
【0009】
本開示の化粧料インクは、人の肌の色(本開示において、「人の肌の色」とは、特に断りがない限り、モンゴロイド系の肌の色を指すものとする)を再現可能なインクであり、塗膜の分光反射率曲線が特有の形状を示す。本開示の化粧料インクについて、波長400nm~700nmの分光反射率を測定した例(分光反射率曲線)を
図1および
図2に示す。なお、後述の実施例で詳しく説明するが、
図1のA-1~A-5、ならびに
図2のA-1およびA-10~A-18が本開示の化粧料インクの分光反射率曲線に相当する。
【0010】
本開示の化粧料インクの塗膜の波長400nm~700nmの分光反射率を測定した際、分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域には第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域には第2の変曲点が存在する。また、第1の変曲点における分光反射率は、第2の変曲点における分光反射率より高い値となり、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上の値を示す。
【0011】
換言すると、化粧料インクの分光反射率曲線が、短波長側から高波長側にかけて分光反射率が徐々に大きくなるシグモイド形状(S字状)を示す。なお、第1の変曲点および第2の変曲点の間の傾きは、第1の変曲点より長波長側の傾き、および第2の変曲点より短波長側の傾きより大きい値を示すことが好ましい。さらに、当該波長400nm~700nmの分光反射率曲線において、第1変曲点および第2変曲点以外の変曲点は有さないことが好ましい。ここで、本明細書において、「変曲点」とは、曲線において曲率の正負が変化する点をいうこととする。また、化粧料インクの塗膜の分光反射率は、例えば、化粧料インクを透明な基板上に塗布し、乾燥させた塗膜について、分光測色計(例えば、コニカミノルタ社製 CM-700d)により、主光源:D50、測定モード:SCEで測定した値を採用することができる。
【0012】
化粧料インクの塗膜が、上記のような分光反射率を有する場合、化粧料インクを多く塗布した塗膜、および化粧料インクを少なく塗布した塗膜のいずれにおいても、人の肌に近い色とすることが可能となる。つまり、当該化粧料インクを塗布した化粧用シートを肌に貼付した際、肌との色差を小さくすることが可能となる。なお、化粧料インクの塗膜の分光反射率は、例えば後述の(A)色材の組み合わせ等によって、調整することが可能である。
【0013】
ここで、本開示の化粧料インクでは、赤みを抑制し、実際の人の肌の色に近づけるとの観点から、塗膜としたときの波長590~700nmの領域における分光反射率が過度に高くないことが好ましい。具体的には、波長590~700nmの領域における分光反射率が、波長580nmの分光反射率の1倍~1.3倍の範囲に収まることが好ましく、1倍~1.2倍の範囲に収まることがより好ましい。化粧料インクを塗膜としたときの波長590~700nmの領域における分光反射率が上記範囲内に収まると、化粧用シートを作製したときに、人の肌の色により近くなり、インクの塗布量を増減しても、塗膜と肌の色との色差が小さくなる。塗膜の波長590~700nmの領域における分光反射率は、例えば、後述の(A)色材中の青色系色材の量によって調整することができる。
【0014】
一方、化粧料インクの明度を調整することでも、化粧料インクの色(ひいては、化粧シートの色)を人の肌の色に近づけることが可能となる。具体的には、化粧料インクを塗膜としたときのL*a*b*表色系(CIE 1976)におけるL*値が48~80であることが好ましく、48~73であることが好ましい。明度(L*値)は、例えば、化粧料インクを透明な基板上に塗布し、乾燥させた塗膜について、分光測色計(例えば、コニカミノルタ社製 CM-700d)により、主光源:D50、測定モード:SCEで測定することが可能であり、塗膜の明度は、後述の(A)色材中の黒色系色材の量によって調整することができる。
【0015】
ここで、上述の分光反射率を有する本開示の化粧料インクには、(A)色材と、(B)炭素数3以上の高級アルコールと、(C)精製水と、(D)バインダと、が少なくとも含まれる。当該化粧料インクには、上記の各成分以外に、必要に応じて皮膜形成剤や各種添加剤等がさらに含まれていてもよい。以下、本開示の化粧料インクに含まれる各成分について詳しく説明する。
【0016】
<(A)色材>
化粧料インクに含まれる(A)色材は、上述の分光反射率を実現することが可能であれば特に制限されない。通常、複数種類の色材が組み合わせて用いられる。例えば、白色系色材、赤色系色材、および黄色系色材を少なくとも組み合わせることで、上述の分光反射率が実現されやすくなる。より具体的には、白色系色材は、(A)色材の総量100質量部に対して60~99.8質量部含まれることが好ましい。また、(A)色材の総量100質量部に対して、赤色系色材は0.1~30質量部含まれることが好ましい。また、(A)色材の総量100質量部に対して、黄色系色材は0.1~30質量部含まれることが好ましい。
【0017】
また、(A)色材には、青色系色材がさらに含まれることが好ましい。ただし、青色系色材の量が多すぎると、波長580nm超の領域の分光反射率が過度に低下する。そこで、青色系色材は、(A)色材の総量100質量部に対して、10質量部以下含まれることが好ましく、0.1~10質量部含まれることがより好ましい。さらに、(A)色材には、黒色系色材が含まれることも好ましい。ただし、黒色系色材が過度に含まれると、化粧料インクの明度が低くなり、肌の色との色差が大きくなりやすい。したがって、黒色系色材は、(A)色材の総量100質量部に対して、5質量部以下含まれることが好ましく、0.1~5質量部含まれることがより好ましい。
【0018】
ここで、(A)色材は、各色を発色することが可能な化合物であれば特に制限されないが、皮膚刺激性の観点から、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等から選択されるものであることが好ましい。(A)色材は、公知の無機顔料や有機顔料、染料のいずれであってもよい。また、(A)色材として、例えば化粧用シートを着色するための有色顔料や有色染料だけでなく、化粧用シートに光沢を付与するためのパール顔料や、反射材料等が色材と共に含まれていてもよい。
【0019】
上記白色系色材の例には、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、硫酸バリウム等の白色顔料;タルク、白雲母、金雲母、紅雲母、黒雲母、合成雲母、絹雲母(セリサイト)、合成セリサイト、カオリン、炭化珪素、ベントナイト、スメクタイト、無水ケイ酸、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、珪ソウ土、ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミニウムマグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、窒化ホウ素等の白色体質粉体;等が含まれる。
【0020】
また、上記赤色系色材の例には、酸化鉄、水酸化鉄、チタン酸鉄の無機赤色顔料;γ-酸化鉄等の無機褐色系顔料等が含まれる。黄色系色材の例には、黄酸化鉄、黄土等の無機黄色系顔料等が含まれる。
【0021】
上記青色系顔料の例には、紺青(フェロシアン化第二鉄)、群青(ウルトラマリン青)、瑠璃、岩群青、アルミ-コバルト酸化物、アルミ-亜鉛-コバルト酸化物、ケイ素-コバルト酸化物、ケイ素-亜鉛-コバルト酸化物、コバルト顔料、花紺青、コバルト青、錫酸コバルト、コバルトクロム青、コバルト-アルミ-ケイ素酸化物、マンガン青等の無機青色系顔料;インディゴ、フタロシアニン、インダンスレンブルー、およびこれらのスルホン化物等の有機顔料もしくは染料;等が含まれる。さらに、黒色系色材の例には、黒酸化鉄、カーボンブラック等の無機黒色顔料等が含まれる。
【0022】
また、その他の有色の色材の例には、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等の無機紫色顔料;水酸化クロム、酸化クロム、酸化コバルト、チタン酸コバルト等の無機緑色顔料;各種タール系色素をレーキ化したもの;各種天然色素をレーキ化したもの;及びこれらの粉体を複合化した合成樹脂粉体等が含まれる。
【0023】
また、パール顔料の例には、酸化チタン被覆雲母、酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、魚鱗箔、酸化チタン被覆着色雲母等が含まれる。
【0024】
さらに、反射材料の例には、ホウケイ酸カルシウムアルミニウム、二酸化チタン被覆雲母、二酸化チタン被覆ガラス末、二酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、二酸化チタン被覆マイカ、二酸化チタン被覆タルク、酸化鉄被覆雲母、酸化鉄被覆雲母チタン、酸化鉄被覆ガラス末、紺青処理雲母チタン、カルミン処理雲母チタン、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム・エポキシ積層末、ポリエチレンテレフタレート・ポリオレフィン積層フィルム末等の光輝性粉体;N-アシルリジン等の有機低分子性粉体;シルク粉末、セルロース粉末等の天然有機粉体;アルミニウム粉、金粉、銀粉等の金属粉体;微粒子酸化チタン被覆雲母チタン、微粒子酸化亜鉛被覆雲母チタン、硫酸バリウム被覆雲母チタン、酸化チタン含有二酸化珪素、酸化亜鉛含有二酸化珪素等の複合粉体;カポック繊維;ポリメタクリル酸メチルクロスポリマー;非架橋アクリル粒子等が含まれる。
【0025】
(A)色材は、後述の(B)高級アルコールおよび(C)精製水のいずれにも可溶の成分であってもよく、不溶の成分であってもよい。(A)色材が、(B)高級アルコール等に不溶の成分からなる場合、その形状は特に制限されず、球状、針状等いずれの形状であってもよい。ただし、そのレーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)は、125nm以上2μm以下であることが好ましく、125nm~1000nmであることがより好ましい。さらに、平均粒子径(D50)が125nm~1000nm、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が3000nm以下であることがさらに好ましい。(A)色材の粒度分布の平均粒子径(D50)が上記範囲であると、化粧料インクを各種印刷法で印刷することが可能となる。また、青色系色材や黒色系色材は特に肌の色との色差が大きいことから、化粧料インクに平均粒子径の大きな黒色系色材や青色系色材が含まれると、塗膜を形成した際、これらが視認されやすくなる。これに対し、平均粒子径が上記範囲であると、これらが視認され難くなり、均一な色の塗膜が得られやすくなる。
【0026】
化粧料インク100質量部に含まれる(A)色材の総量は、3質量部以上40質量部以下であることが好ましく、3~30質量部であることがより好ましい。(A)色材の総量が3質量部以上であると、化粧用シートに色材由来の色や光沢等が付与されやすくなる。また、(A)色材の量が過剰となると、(A)色材の凝集等によって、化粧料インクを各種印刷装置から塗布し難しくなったりすることがある。ただし、(A)色材の量が40質量%以下であれば、(A)色材の凝集等が生じ難く、安定して印刷することが可能である。
【0027】
<(B)高級アルコール>
本開示の化粧料インクに含まれる高級アルコールは、炭素数が3以上であり、(C)精製水と相溶する高級アルコールであれば特に制限されない。(B)高級アルコールは化粧料インクの溶媒としての機能を果たす。なお、(B)高級アルコールは、化粧料インクを被印刷体に印刷した後、被印刷体に吸収されたり、揮発したりする。
【0028】
高級アルコールの炭素数は、3~5であることが好ましく、3または4であることがより好ましい。高級アルコールの炭素数が当該範囲であると、(C)精製水と相溶しやすくなる。
【0029】
また、(B)高級アルコールには、3価のアルコールが含まれることが好ましい。(B)高級アルコールとして、3価のアルコールが含まれると、各種印刷装置内部で、(B)高級アルコールや(C)精製水が過度に揮発し難くなる。その結果、安定して印刷装置から印刷することが可能となる。またこの場合、化粧料インクの粘度が一定に保持されるため、安定して所望の画像を形成することが可能となる。
【0030】
ここで、3価のアルコールは、特にグリセリンであることが好ましい。グリセリンは生体安全性が高い。また、化粧料インクにグリセリンが含まれると、(A)色材等の凝集が抑制されやすくなり、化粧料インクを長期間保存しても、増粘等が生じ難くなる。
【0031】
一方で、(B)高級アルコールには、2価のアルコールや1価のアルコールが含まれていてもよい。2価のアルコールの例には、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール等が含まれる。1価のアルコールの例には、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール等が含まれる。これらの中でも、好ましくは2価のアルコールであり、特にプロピレングリコールが好ましい。2価のアルコールは、(C)精製水や3価のアルコールより粘度が低く、さらに表面張力が低い。したがって、化粧料インクに2価のアルコールが含まれると、化粧料インクの被印刷体に対する濡れ性が良好になり、得られる画像にムラが生じ難くなる。
【0032】
化粧料インク100質量部に含まれる(B)高級アルコールの総量は、20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。(B)高級アルコール量が過剰になると、(A)色材等が凝集しやすくなる傾向がある。これに対し、高級アルコール量が20質量部以下であれば、(A)色材の凝集等が生じ難く、化粧料インクを各種印刷装置から安定して吐出させることが可能となる。
【0033】
また、化粧料インク100質量部に対する3価のアルコールの量は、化粧料インクの印刷方法に応じて適宜選択される。例えば、化粧料インクをインクジェット装置から印刷する場合には、その量が20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。3価のアルコール量が上記範囲であると、化粧料インクにおいて、(B)高級アルコールや(C)精製水の揮発性が適度に調整されて、化粧料インクをインクジェット装置から安定して吐出させやすくなる。
【0034】
さらに、化粧料インク100質量部に対する2価のアルコールの量も、化粧料インクの印刷方法に応じて適宜選択される。例えば、化粧料インクをインクジェット装置から印刷する場合には、その量が20質量部以下であることが好ましく、10~20質量部であることがより好ましい。2価のアルコール量が上記範囲であると、化粧料インクの粘度が所望の範囲に収まりやすくなる。
【0035】
<(C)精製水>
本開示の化粧料インクには、(C)精製水が含まれる。(C)精製水も化粧料インクの溶媒としての機能を果たし、(C)精製水は、化粧料インクを被印刷体に印刷した後、被印刷体に吸収されたり、揮発したりする。
【0036】
(C)精製水は、化粧料に一般的に用いられるものであれば特に制限されず、蒸留やイオン交換等、各種方法によって精製した水であってもよく、例えば温泉水、深層水、植物の水蒸気蒸留水等であってもよい。
【0037】
化粧料インク100質量部に対する(C)精製水の量は、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましい。
【0038】
<(D)バインダ>
本開示の化粧料インクには、(D)バインダが含まれる。(D)バインダは、上述の(A)色材等を、被印刷体に結着するための化合物である。本開示の化粧料インクでは、「バインダ」が、(B)高級アルコールおよび(C)精製水に不溶の粒子状の樹脂であることが好ましい。化粧料インクには、(D)バインダが一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0039】
(D)バインダの例には、(メタ)アクリル酸アルキル重合体、スチレン・(メタ)アクリル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリルアルキル共重合体、(メタ)アクリル酸アルキルジメチコン重合体等の(メタ)アクリル系樹脂;酢酸ビニル重合体;ビニルピロリドン・スチレン共重合体;等からなる粒子が含まれる。なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、またはアクリルとメタクリルとの混合体を表すものとする。
【0040】
上記の中でも、(D)バインダは(メタ)アクリル系樹脂からなる粒子(以下、単に「アクリル系粒子」とも称する)であることが好ましい。(D)バインダが、アクリル系粒子からなると、(A)色材の定着性が良好になりやすく、さらに印刷物の耐久性が良好になりやすい。(D)バインダは、皮膚刺激性のない(メタ)アクリル系樹脂からなることがさらに好ましい。そこで、アクリル系粒子は、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等から選択されることが好ましく、公知の化粧料等に適用されているアクリル系樹脂の粒子とすることができる。
【0041】
アクリル系粒子を構成する(メタ)アクリル系樹脂の具体例には、(メタ)アクリル系モノマーの単独重合体や、二種以上の(メタ)アクリル系モノマーの共重合体、(メタ)アクリル系モノマーと他のモノマーとの共重合体等が含まれる。
【0042】
上記(メタ)アクリル系モノマーの例には、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸アミド、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸アミド、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ハイドロキシエチル、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等が含まれる。
【0043】
また、上記(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーの例には、スチレン、酢酸ビニル、シリコーンマクロマー、フッ素系モノマー、アルコキシシラン不飽和単量体等が含まれる。
【0044】
ここで、(D)バインダの平均粒子径は、30nm~150nmであることが好ましい。上記平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)である。また、平均粒子径(D50)が30nm~150nm、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が250nm以下であることがさらに好ましい。(D)バインダの平均粒子径が当該範囲であると、(A)色材等が被印刷体に結着されやすくなる。
【0045】
また、化粧料インク100質量部に含まれる(D)バインダの量は、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2.5~10質量部であることがより好ましい。(D)バインダの量は、0.1質量部未満であってもよいが、0.1質量部以上であると、被印刷体に対する、化粧料インクのインク弾きが少なくなる。一方、(D)バインダの量が過度に多いと、化粧料インクの粘度が過度に高くなることがあるが、10質量部以下であれば、各種印刷法により印刷しやすい粘度とすることができる。
【0046】
さらに、化粧料インク中に含まれる(A)色材の量を10質量部としたとき、(D)バインダの量は、0.5~10質量部であることが好ましく、1.5~5.7質量部であることがより好ましい。(A)色材の量に対する(D)バインダの量が上記範囲であると、化粧料インクから得られる印刷物において、(A)色材の定着性が高まる。ただし、(D)バインダの量が過剰であると、前述のように、化粧料インクの粘度が過度に高まりやすくなる。
【0047】
なお、(D)バインダは、化粧料インク調製の際、通常、分散媒に分散させた状態(スラリーや分散液)で、(A)色材や(B)高級アルコール、(C)精製水等と混合される。このときの分散媒についても、皮膚刺激性がない溶媒であることが好ましく、上述の高級アルコールや水であることが好ましい。
【0048】
<その他>
本開示の化粧料インクには、上述のように、必要に応じて皮膜形成剤や各種添加剤等がさらに含まれていてもよい。
【0049】
皮膜形成剤が含まれると、化粧料インクの皮膜形成性(例えば乾燥性等)が高まりやすくなる。なお、本明細書において「皮膜形成剤」は、室温で水分散可能な化合物とするが、上述の(D)バインダに相当する成分は皮膜形成剤に含まない。化粧料インクには、皮膜形成剤が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。
【0050】
皮膜形成剤は、(B)高級アルコールおよび/または(C)精製水に分散可能な化合物とすることができ、例えばアクリル系ポリマー、多糖類系ポリマー、糖アルコール、ステロール類、エスエル類、および変性コーンスターチからなる群から選ばれる、一種以上の化合物とすることができる。化粧料インクには、皮膜形成剤が一種のみ含まれていてもよく、二種以上含まれていてもよい。皮膜形成剤が、上記群から選ばれる化合物であると、化粧料インクから形成される塗膜の乾燥が非常に早くなる。
【0051】
ここで、皮膜形成剤のHLB値は、8以上であることが好ましく、8~19であることがより好ましい。皮膜形成剤のHLB値が8以上であると、皮膜形成剤が、(B)高級アルコールや(C)精製水等に均一に分散もしくは溶解されやすくなる。HLB値とは、油-水系で両液体に対する相対的親和力の比を表す指標であり、一般にHLB値の大きいものは、水に対する親和性が高い。なお、本明細書におけるHLB値はグリフィン法より算出される値とする。
【0052】
皮膜形成剤も、皮膚刺激性のない材料であることが好ましく、上記アクリル系ポリマーの例には、アクリル酸アルキルコポリマー、アクリル酸アルキルコポリマーの2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール塩(以下、「AMP」とも称する)、アクリル酸アルキルコポリマーのナトリウム塩(以下、「Na」とも称する)、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、アクリル酸・アクリル酸アルキルコポリマー、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマー、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマーAMP、アクリル酸アルキル・ジアセトンアクリルアミドコポリマーの2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール塩(以下、「AMPD」とも称する)、アクリル酸ヒドロキシエチル・アクリル酸メトキシエチルコポリマー、アクリル酸ヒドロキシエチル・アクリル酸ブチル・アクリル酸メトキシエチルコポリマー、アクリレーツ・アクリル酸アルキル(炭素数1~18)・アルキル(炭素数1~8)アクリルアミドコポリマーAMP、アクリル酸アルキル・オクチルアクリルアミドコポリマー、アクリレーツ・t-ブチルアクリルアミドコポリマー、アクリレーツ・アクリル酸エチルヘキシルコポリマー、アクリレーツコポリマー、アクリレーツコポリマーAMP、アクリレーツコポリマーNa、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、酢酸ビニル・マレイン酸ブチル・アクリル酸イソボロリルコポリマー、スチレン・アクリル酸アルキルコポリマー、スチレン・アクリレーツコポリマー、スチレン・アクリル酸アミドコポリマー、ポリウレタン-1(INCI名:POLYURETHANE-1で表記される化合物)、ポリアクリレート-22(INCI名:POLYACRYLATE-22で表記される化合物)、トリコンタニルポリビニルピロリドン(PVP)、(エイコセン/ビニルピロリドン)コポリマー、(ビニルピロリドン/ヘキサデセン)コポリマー等が含まれる。
【0053】
また、多糖類系ポリマーの例には、アラビアガム、グルカン、サクシノグリカン、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、グアガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナンガム、キサンタンガム、デンプン、キャロブガム、クインスシード(マルメロ)、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン酸ナトリウム、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]グアガム、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ローカストビーンガム、塩化ヒドロキシプロピルトリモニウムでんぷん、グリセリルグルコシド、グリコシルトレハロース、シロキクラゲ多糖体、イソステアリン酸デキストリン等が含まれる。
【0054】
糖アルコールの例には、ソルビトール、マルチトール、グルコース等が含まれる。ステロール類は、ステロール骨格を有する化合物であればよく、その例には、カンペステロール、カンペスタノール、ブラシカステロール、22-デヒドロカンペステロール、スティグマステロール、スチグマスタノール、22-ジヒドロスピナステロール、22-デヒドロスチグマスタノール、7-デヒドロスチグマステロール、シトステロール、チルカロール、オイホール、フコステロール、イソフコステロール、コジステロール、クリオナステロール、ポリフェラステロール、クレロステロール、22-デヒドロクレロステロール、フンギステロール、コンドリラステロール、アベナステロール、ベルノステロール、ポリナスタノール等のフィトステロール;コレステロール、ジヒドロコレステロール、コレスタノール、コプロスタノール、エピコプロステロール、エピコプロスタノール、22-デヒドロコレステロール、デスモステロール、24-メチレンコレステロール、ラノステロール、24,25-ジヒドロラノステロ-ル、ノルラノステロ-ル、スピナステロール、ジヒドロアグノステロール、アグノステロール、ロフェノール、ラトステロール等の動物性ステロール;デヒドロエルゴステロール、22,23-ジヒドロエルゴステロール、エピステロール、アスコステロール、フェコステロール等の菌類性ステロール;およびこれらの水添物等が含まれる。
【0055】
エスエル類の例には、ヘキサ(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、(ヒドロキシステアリン酸/ステアリン酸/ロジン酸)ジペンタエリスリチル、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、テトラ(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル、(ヒドロキシステアリン酸/イソステアリン酸)ジペンタエリスリチル等のジペンタエリトリット脂肪酸エステル;ステアリン酸硬化ヒマシ油、イソステアリン酸硬化ヒマシ油、ヒドロキシステアリン酸硬化ヒマシ油等の硬化ヒマシ油脂肪酸エステル;ヒドロキシステアリン酸コレステリル等のコレステロール脂肪酸エステル;オレイン酸フィトステリル、マカデミアンナッツ油脂肪酸フィトステリル等のフィトステロール脂肪酸エステル;水添ヤシ油、水添パーム油等の水添植物油;ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステリル/セチル/ステアリル/ベヘニル);ペンタヒドロキシステアリン酸スクロース;ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)等が含まれる。
【0056】
変性コーンスターチは、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、コーンスターチを任意の化合物で変性した化合物とすることができ、例えば、コーンスターチに3-(ドデセニル)ジヒドロ2,5-フランジオンを反応して得られるヒドロキシプロピル変性デンプン等とすることができる。
【0057】
上記の中でも、化粧料インクの乾燥性が良好になるとの観点から、アクリレーツコポリマー、アクリレーツ(アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)・水添ロジン酸トリグリセリル、キサンタンガムクロスポリマー・ヒドロキシエチルセルロース、シロキクラゲ多糖体、変性コーンスターチ、イソステアリン酸デキストリンが好ましく、アクリレーツコポリマー、アクリレーツ(アクリル酸エチルヘキシル)コポリマー、ポリウレタン-14・アクリレーツコポリマーAMP、アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイルビス(ベヘニル/イソステアリル/フィトステリル)・水添ロジン酸トリグリセリル、キサンタンガムクロスポリマー・ヒドロキシエチルセルロース、シロキクラゲ多糖体がより好ましい。
【0058】
なお、化粧料インク100質量部に含まれる皮膜形成剤の量は、20質量部以下であることが好ましく、0.3~5質量部であることがより好ましい。皮膜形成剤の量が0.3質量部以上であると、上述のように、化粧料インクの乾燥性が良好になる。一方、皮膜形成剤の量が過度に多いと、化粧料インクの粘度が過度に高くなることがあるが、20質量部以下であれば、化粧料インクを、各種印刷法により印刷しやすい粘度とすることができる。
【0059】
また、化粧料インク調製の際、通常、皮膜形成剤は溶媒に溶解した溶液の状態で、(A)色材、(B)高級アルコール、(C)精製水等と混合される。このときに用いられる溶媒についても、皮膚刺激性がない溶媒であることが好ましく、上述の高級アルコールや水であることが好ましい。
【0060】
さらに、化粧料インクには、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、各種添加剤がさらに含まれていてもよい。各種添加剤について、皮膚刺激性がない化合物であることが好ましい。各種添加剤の例には、界面活性剤、pH調整剤、増粘剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、防腐防カビ剤、脱酸素剤、酸化防止剤、防腐剤、褪色防止剤、消泡剤、香料、(B)高級アルコール及び(C)精製水以外の溶媒等が含まれる。
【0061】
また、化粧料インクには、本開示の目的および効果を損なわない範囲において、被印刷体に結着するための水溶性ポリマー(上述の皮膜形成剤に相当しないポリマー)等がさらに含まれていてもよい。
【0062】
<化粧料インクの調製方法>
上述の化粧料インクは、(A)色材、(B)高級アルコール、および(C)精製水と、(D)バインダを含むスラリーもしくは分散液と、必要に応じて他の成分とを分散機で混合すること等により得られる。各成分の混合は、公知のボールミル、サンドミル、ロールミル、ホモミキサー、アトライターなど分散機等で行うことができる。
【0063】
1-2.化粧料インクの物性
上述の化粧料インクは、コーンプレート型粘度計にて、速度1000(1/s)で測定したときの25℃における粘度が、50mPa・s以下であることが好ましく、1~20mPa・sであることがより好ましく、3.5~8mPa・sであることがさらに好ましい。化粧料インクの粘度が上記範囲であると、化粧料インクを、各種印刷装置を用いて印刷しやすくなる。また特に、粘度が上記範囲であると、インクジェット装置からから安定して吐出しやすくなる。
【0064】
化粧料インクのpHは、6~10であることが好ましく、7.5~9.5であることがより好ましい。化粧料インクのpHが上記範囲であると、化粧料インクが、各種印刷装置の部材を侵食すること等がなく、さらには、化粧料インクを長期間保存しても、(A)色材の凝集等が生じ難くなり、所望の色の塗膜が得られやすくなる。
【0065】
また、化粧料インクの25℃における表面張力は、50mN/m以下であることが好ましく、32mN/m~46mN/mであることがより好ましい。表面張力が50mN/m以下であると、各種印刷装置から化粧料インクを各種被印刷体に塗布した際、化粧料インクの濡れ性が良好になり、厚みが均一な膜を形成することができる。なお、表面張力は、種々の計測方法が適用可能であるが、上記値は、汎用機器に展開されている懸滴法(ペンダント・ドロップ法)にて測定される値である。
【0066】
さらに、化粧料インクに含まれる粒子の平均粒子径、すなわちレーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)は、125nm以上2μm以下であることが好ましく、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下であることがより好ましく、平均粒子径(D50)が125nm以上1000nm以下、かつ当該粒度分布の積算値の90%の値(D90)が3000nm以下であることがさらに好ましい。化粧料インクに含まれる粒子の平均粒子径が上記範囲であると、各種印刷装置、特にインクジェット装置から安定して吐出することが可能となる。D50やD90の値が上記範囲であると、化粧料インクをインクジェット装置等から安定して吐出させることが可能となる。
【0067】
また、上記化粧料インクは、皮膚刺激性が陰性である、すなわち生体安全性が高いことが好ましい。化粧料インクの皮膚刺激性を陰性とすることで、皮膚等と接触して使用される用途にも用いることが可能となる。ここで、本開示において、「皮膚刺激性が陰性である」とは、皮膚刺激性試験の代替法である三次元皮膚モデルにて試験を行った場合に、細胞の生存率が50%超であることをいう。当該皮膚刺激性試験の代替法では、5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)溶液を刺激性コントロールとし、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を陰性コントロールとして行う。また、インクを、三次元皮膚モデルに18時間曝露した後、MTT試験によって、細胞の生存率を評価する。
【0068】
化粧料インクの皮膚刺激性を陰性にする手法の一例として、化粧料インクに含まれる全ての成分を、日本の薬事法に基づく化粧品の成分表示名称リストに掲載のある成分や、EU化粧品規制(Cosmetics Directive 76/768/EEC)に則った成分、米国CTFA(Cosmetic,Toiletry & Fragrance Association,U.S.)によるInternational Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook(2002年1月1日、9th版)に記載されている成分等とする手法が挙げられる。
【0069】
1-3.インクカートリッジ
上述の化粧料インクは、例えばカートリッジに充填して保存することができる。カートリッジの種類や構造は特に制限されず、化粧料インクを印刷するための印刷装置に合わせて適宜選択される。このようなインクカートリッジの一例として、化粧料インクを収容するためのインク収容部と、インクを印刷装置の記録ヘッドに供給するためのインク供給口と、を有するカートリッジが挙げられる。
【0070】
2.化粧用シートの製造方法
2-1.上述の化粧料インクを用いた化粧用シートの製造方法
上述の化粧料インクを被印刷体に印刷する工程と、被印刷体に塗布された化粧料インクを乾燥させる工程と、を含む製造方法により、化粧シートを製造することができる。
【0071】
ここで、化粧料インクを被印刷体に印刷する方法は特に制限されず、公知の方法とすることができる。このような印刷方法の例には、インクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等が含まれる。これらの中でも、化粧用シートの使用者の肌の状態や色等に合わせて、オンデマンド印刷を行いやすかったり、化粧料インクを複数回に亘って塗布する、積層印刷を行うことができるとの観点から、インクジェット法が好ましい。以下、化粧料インクをインクジェット法で印刷する場合を例に化粧用シートの製造方法を説明するが、本開示は当該方法に限定されない。
【0072】
化粧料インクを被印刷体にインクジェット法で塗布する場合のインクジェット装置は特に制限されず、公知のピエゾ方式、サーマル方式、静電方式のいずれの装置を用いることが可能である。これらの中でも、ピエゾ素子方式のインクジェット装置であることが、サーマルインクジェット方式のような加熱が不要であるという点で好ましい。
【0073】
また、化粧料インクは、被印刷体に一回のみ塗布してもよく、二回以上塗布してもよい。なお、化粧料インクを被印刷体に複数回塗布する場合、化粧料インクを一回塗布する毎に、乾燥させてもよく、複数回塗布した後、乾燥させてもよい。本開示の化粧料インクは、比較的乾燥性が良好である。したがって、複数回塗布した後に乾燥させる工程を行ったとしても、短時間で乾燥させることが可能である。
【0074】
なお、本開示の化粧料インクは、塗膜が上述の分光反射率を有することから、塗布量を少なくしても、多くとしても、塗膜の色を人の肌の色に近づけることができる。したがって、印刷割合(化粧料インクを塗布する領域の面積に対する、化粧料インクの付着面積)を用途に合わせて任意に調整することができる。
【0075】
ここで、被印刷体に塗布した化粧料インクを乾燥させる方法は、化粧料インク中の(B)高級アルコールおよび(C)精製水を除去することが可能な方法であれば特に制限されない。例えば、大気圧下、室温で乾燥させる方法であってもよく、所定の温度に加熱および/または減圧して乾燥させる方法であってもよい。加熱を行う場合、例えば25~50℃に加熱することが好ましい。当該範囲であれば、被印刷体や化粧料インク中の固形分を劣化させることなく、効率良く乾燥させることができる。一方、減圧する場合、-0.1~0MPa減圧することが好ましい。当該範囲減圧することで、効率良くインクを乾燥させることができる。
【0076】
ここで、上述の化粧料インクを塗布する被印刷体は、本開示の目的および効果を損なわない限り特に制限されず、公知の化粧用シートの基材と同様のものを被印刷体とすることができる。このような被印刷体の例には、普通紙や、専用記録紙、プラスチック、布等が含まれる。また被印刷体は、一層のみからなるものであってもよく、二層以上が積層されたものであってもよい。これらの中でも特に、皮膚に直接または間接的に貼着、もしくは密着させて用いる、生体適合性を有する材料からなる各種シートが好適である。
【0077】
生体適合性を有する材料の例には、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、またはこれらの共重合体に代表されるポリエステル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールに代表されるポリエーテル類;ナイロン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、またはこれらの塩に代表されるポリアミド類;プルラン、セルロース、デンプン、キチン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、コーンスターチに代表される多糖類またはこれらの塩;アクリルシリコーン、トリメチルシロキシケイ酸に代表されるシリコーン類;アクリル酸アルキル、アクリル酸シリコーン、アクリル酸アミドや、これらの共重合体に代表されるアクリル酸類;ポリビニルアルコール;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリ酸無水物;ポリエチレン;ポリプロピレン;多孔質層コーティングシート、ナノファイバーシート、等が含まれる。また、生体適合性を有する材料からなるシートの例には、医療用部材を固定するためのシートや、スポーツテーピング用シート、肌装飾用シート、化粧用シート、外科手術用癒着防止材等が含まれる。
【0078】
被印刷体の厚さは特に制限されず、被印刷体の種類や用途等に応じて適宜選択され、例えば10μm以下とすることができる。ここで、被印刷体の厚みが薄い場合、被印刷体に溶媒(例えば、(B)高級アルコールや(C)精製水)が吸収され難く、インクが乾燥し難い。これに対し、本開示の化粧料インクは、乾燥性が良好であり、例えば被印刷体の厚みが3000nm以下であったとしても、印刷が可能であり、例えば10nm以上1000nm以下である薄膜にも、印刷が可能である。
【0079】
なお、このような薄膜からなる被印刷体に画像形成する場合には、被印刷体とこれを支持する支持体とが積層された積層体に印刷を行い、印刷後に支持体から薄膜を剥離してもよい。このような支持体としては特に制限されないが、例えば吸水性が高い材料からなるものとすることができる。支持体が吸水性を有する場合、(B)高級アルコールおよび(C)精製水を支持体にすばやく吸収させることができ、化粧料インクの固形分のみを、被印刷体表面に固着させることができる。したがって、得られる画像に滲み等が生じ難く、高精細な画像形成が可能となる。吸水性の高い支持体の例には、紙、布、不織布、織物、多孔質層コーティングシート、ナノファイバーシート、吸水性ポリマー、水溶性ポリマー等からなる基材が含まれる。
【0080】
2-2.複数色の化粧料インクを用いた化粧用シートの製造方法
また化粧シートは、白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクからなる群から選ばれる3色以上のインクの液滴をずらした位置に塗布して塗膜を形成する塗膜形成工程と、被印刷体に塗布された化粧料インクを乾燥させる乾燥工程と、を含む製造方法により、製造することもできる。なお、乾燥工程については、上述の化粧料インクを用いた化粧用シートの製造方法における乾燥工程と同様とすることができるため、以下、塗膜形成工程についてのみ説明する。
【0081】
本実施の形態の塗膜形成工程では、各色インクをずらした位置に塗布することにより、所定の分光反射率を有する塗膜を形成する。より具体的には、波長400nm~700nmにおける分光反射率曲線の波長550nm以上波長610nm以下の領域に第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域に第2の変曲点が存在する塗膜を形成する。また、当該第1の変曲点における分光反射率は、第2の変曲点における分光反射率より高く、波長610nm以上の領域における分光反射率は、第1の変曲点における分光反射率以上の値を示すものとする。塗膜がこのような分光反射率を有すると、上述のように、人の肌の色との色差が小さくなり、化粧用シートを貼付した際に、目立ち難くなる。なお、当該塗膜の波長590nm~700nmにおける分光反射率も、上述の化粧料インクの塗膜の波長590nm~700nmにおける分光反射率と同様の値であることが好ましく、明度も上述の化粧料インクの塗膜の明度と同様の値であることが好ましい。
【0082】
ここで、本実施の形態の塗膜形成工程では、白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクからなる群から選ばれる3色以上のインクの液滴を塗布し、上述の分光反射率を有する塗膜を形成する。このとき、白色インク、赤色インク、および黄色インクを少なくとも組み合わせることで、上述の分光反射率が実現されやすくなる。またさらに、青色インクおよび黒色インクを組み合わせることで、塗膜の波長590nm~700nmにおける分光反射率や、塗膜の明度を所望の範囲に調整することが可能となる。なお、各色インクの塗布順序は特に制限されず、いずれの色インクから塗布しても、同様の分光反射率を有する塗膜を得ることができる。
【0083】
また、塗膜形成工程で塗布する各インクの塗布量は、上記分光反射率を実現できるような範囲であれば特に制限されない。例えば各色インクに含まれる白色系色材、赤色系色材、黄色系色材、青色系色材、および黒色系色材の比率が、上述の化粧料インクに含まれる白色系色材、赤色系色材、黄色系色材、青色系色材、および黒色系色材の比率と同様になるように設定することができる。
【0084】
また、本実の施形態で塗布する白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクの組成は特に制限されないが、それぞれ(A)色材と、(B)炭素数3以上の高級アルコールと、(C)精製水と、(D)バインダと、を含むことが好ましい。つまり(A)色材として、単色の色材のみを含む点以外は、上述の化粧料インクと同様の組成のインクであることが、インクの乾燥性、低皮膚刺激性等の観点から好ましい。
【0085】
ここで、一般的な印刷装置では、被印刷物の同一の位置に複数色のインク液滴を滴下して、これらを重ね合わせることで所望の色を再現する。これに対し、本実施形態の塗膜形成工程では、各色インクを、ずらした位置に滴下し、塗膜を形成する。化粧シート作製の際に付着させるインク液滴の径は、通常、各ドットが視認されないくらい十分に小さい。そのため、各色インクをずらして印刷したとしても、肉眼では、これらの色が混じり合って観察され、上述の分光反射率を有する塗膜として認識することができる。
【0086】
また、このように塗膜を形成し、化粧シートを形成することで、インク由来の顔料が付着していない領域の面積が少なくなる。したがって、例えばシミ等の皮膚の変色領域上に化粧用シートを貼付した際、当該変色領域が格段に目立ち難くなる。また特に、被印刷体表面に白色インク由来の白色系色材が付着している場合、白色系色材の光散乱効果が発揮されやすくなり、変色領域がさらに目立ち難くなる。
【0087】
ここで、塗膜形成工程では、各色インクの液滴どうしが重なり合わないように、各色インクをずらした位置に塗布してもよく、各色インクの液滴が一部重なり合う程度ずらし対置にインクを塗布してもよい。また各色インクを規則的にずらして塗膜を形成してもよいが、各色インクをランダムな位置に塗布し、各色インクの液滴をずらすことが、化粧用シートを貼付した際に皮膚の変色領域が目立ち難くなる等の観点からより好ましい。
【0088】
ここで、本実施の形態の塗膜形成工程において、各色インクを塗布する方法は特に制限されず、例えばインクジェット印刷法や、スクリーン印刷法、オフセット印刷、グラビア印刷等、いずれの方法であってもよい。ただし、これらの中でも、ランダムに各色インクを塗布しやすいとの観点から、インクジェット法であることが好ましい。
【0089】
インクジェット法で塗膜を形成する場合、まず、インクジェット装置のインクタンクに、白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクをそれぞれ充填する。そして当該インクジェット装置から一色目の印刷を行った後、ノズル、もしくは被印刷体を一定方向に移動もしくは回転させて二色目の印刷を行う。そしてさらに3色目以降の印刷の際も同様に、ノズル、もしくは被印刷体を一定方向に移動もしくは回転させることで、各色インクの液滴を適度にずらした位置に着弾させることが可能となる。
【0090】
なお、インクを塗布する被印刷体は、上述の化粧料インクを用いた化粧用シートの製造方法で用いる被印刷体と同様とすることができる。
【実施例0091】
以下において、実施例を参照して本開示を説明する。実施例によって、本開示の範囲は限定して解釈されない。
【0092】
1.化粧料インクA
1-1.材料
各実施例および比較例に用いた材料は、以下の通りである。なお、各粒子の平均粒子径は、レーザ回折法で測定される粒度分布の積算値の中央値(D50)の値である。
(A)色材
赤色系色材:無機赤色系顔料(平均粒子径:150nm)
黄色系色材:無機黄色系顔料(平均粒子径:150nm)
青色系色材:無機青色系顔料(平均粒子径:150nm)
黒色系色材:無機黒色系顔料(平均粒子径:150nm)
白色系色材:無機白色系顔料(平均粒子径:120nm)
(B)高級アルコール
グリセリン
1,3-プロパンジオール
(C)精製水
(D)バインダ
アクリル系ポリマー粒子(平均粒子径:50nm)
【0093】
1-2.化粧料インクの調製
下記表1および表2に示す成分比で、各材料を混合し、化粧料インクを調製した。なお、表1には、(A)色材に含まれる各色色材の量の質量比も併せて示す。
【0094】
1-3.評価1
上記化粧料インクの物性について、以下の方法で評価を行った。結果を表1および表2に示す。また、
図1および
図2に、各化粧料インクの分光反射率曲線、肌模型の分光反射率曲線、人の肌(頬および腕の内側)の分光反射率曲線を示す。
【0095】
(化粧料インクの粘度、pH、および表面張力の測定方法)
化粧料インクの粘度は、コーンプレート型粘度計にて、25℃、せん断速度1000(1/s)にて測定した。化粧料インクのpHは、pHメータ(LAQUAtwin HORIBA社製)により測定した。化粧料インクの表面張力は、接触角計(DropMaster DM-501、協和界面化学社製)で測定した。
【0096】
(分光反射率および明度(L*値)の測定方法)
分光反射率および明度(L*値)は、化粧料インクから得られる塗膜について、波長400nm~700nmの範囲、分光測色計(例えば、コニカミノルタ社製 CM-700d)により、主光源:D50、測定モード:SCEで測定した値である。
【0097】
【0098】
【0099】
図1および
図2に示すように、化粧料インクA-1~A-5、およびA-11~15については、塗膜の分光反射率曲線が、波長550nm以上波長610nm以下の領域に第1の変曲点を有し、かつ波長550nm未満の領域に第2の変曲点を有していた。また、これらの化粧料インクでは、第1の変曲点における分光反射率が、第2の変曲点における分光反射率より高かった。さらに、これらの化粧料インクでは、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上であった。そして、これらの分光反射率を有する化粧料インクから得られる塗膜について、目視にて、肌模型の色と比較したところ、色の差が小さかった。
【0100】
これに対し、第1の変曲点および第2の変曲点のうち、いずれか一方もしくは両方を有さない化粧料インクA-19や、波長580nm超の領域における分光反射率が、波長580nmにおける分光反射率より小さくなる箇所を有する化粧料インクA-6~A-9では、肌模型との色の差が大きくなった。
【0101】
1-4.評価2
上記化粧料インクA-1、A-3、A-12、および上記A-2とA-10とを1:1で混合した化粧料インクA-20を、パナソニックプレシジョンデバイス株式会社製LB3インクジェットヘッドを備えるインクジェット装置のインクタンクに充填した。なお、化粧料インクA-20について、上述と同様に、塗膜の分光反射率曲線を確認したところ、分光反射率曲線が、波長550nm以上波長610nm以下の領域に第1の変曲点が存在し、波長550nm未満の領域に第2の変曲点が存在していた。また、これらの化粧料インクでは、第1の変曲点における分光反射率が、第2の変曲点における分光反射率より高かった。さらに、これらの化粧料インクでは、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上であった。
【0102】
一方、厚みが200nmのポリ乳酸シートを、ろ紙からなる支持体に貼り付けた被印刷体を準備した。そして、上記化粧料インクを、ポリ乳酸シート上に、表3に示す印刷割合でそれぞれ塗布した。各印刷パターンは、15mm×15mmの矩形状の塗りつぶしパターンとした。また、印刷割合は、印刷面積(15mm×15mm)に対する、化粧料インクの付着面積の割合である。印刷後のシートを50℃の環境下で乾燥させた。
【0103】
得られた塗膜について、分光測色計(例えば、コニカミノルタ社製 CM-700d)により、主光源:D50、測定モード:SCEにてL*a*b*表色系のL*値、a*値およびb*値を測定した。一方、肌模型(バイオスキン(ビューラックス社製、品番BIO))のL*a*b*表色系のL*値、a*値およびb*値についても、同様に測定した。そして、塗膜と肌模型との色差ΔE*abを算出した。各値を表3に示す。
また、色差ΔE*abについて、以下の基準で評価した。なお、評価C以上が実用上問題ないレベルである。
【0104】
AAA:色差ΔE*abが0.4以上~0.8未満
AA:色差ΔE*abが0.8以上1.6未満
A:色差ΔE*abが1.6以上3.2未満
B:色差ΔE*abが3.2以上6.5未満
C:色差ΔE*abが6.5以上13.0未満
D:色差ΔE*abが13.0以上25.0未満
【0105】
さらに、上記色差ΔE*abが小さかったサンプルについて、目視でも評価を行った。目視では、以下のように評価した。
◎:官能的に肌模型と完全に同じ色
○:官能的には肌模型と同じ色であるが、凝視すると極めて類似する異なる色味
【0106】
【0107】
上記表3に示すように、上述の分光反射率を有する化粧料インクでは、印刷割合が80%以下であれば、肌模型に近い色の塗膜が得られた。また特に、青色系色材および黒色系色材を含む場合には、印刷割合が100%となっても、肌模型に近い色の塗膜が得られた。また、特に評価が良好であった印刷割合20%の塗膜では、目視で確認した場合にも、いずれも良好な結果であった。
【0108】
2.化粧用シート
2-1.材料
各実施例および比較例に用いた材料は、以下の通りである。
(A)色材
赤色系色材:無機赤色系顔料(平均粒子径:150nm)
黄色系色材:無機黄色系顔料(平均粒子径:150nm)
青色系色材:無機青色系顔料(平均粒子径:150nm)
黒色系色材:無機黒色系顔料(平均粒子径:150nm)
白色系色材:無機白色系顔料(平均粒子径:120nm)
(B)高級アルコール
グリセリン
1,3-プロパンジオール
(C)精製水
(D)バインダ
アクリル系ポリマー粒子(平均粒子径:50nm)
【0109】
2-2.化粧料インクの調製
色材をそれぞれ1種ずつ含めた以外は、実施例1の化粧料インクと同様に、白色、赤色、黄色、青色、および黒色の化粧料用インクをそれぞれ調製した。色材の量は、各化粧料インクを塗布した際の濃さが略均一となるように、それぞれ調整した。
【0110】
2-3.評価
白色インク、赤色インク、黄色インク、青色インク、および黒色インクをそれぞれ、パナソニックプレシジョンデバイス株式会社製LB3インクジェットヘッドを備えるインクジェット装置のインクタンクに充填した。一方、厚みが200nmのポリ乳酸シートを、ろ紙からなる支持体に貼り付けた被印刷体を準備した。そして、上記化粧料インクを、ポリ乳酸シート上に塗布し、半径30mmの円形状のパターン(塗りつぶしパターン)を形成した。このとき、一色塗布するごとに、ポリ乳酸シートを適当な角度回転させて、各色インクの液滴が完全に重ならないように印刷した。またこのとき、各インクの塗布量は、各インク中に含まれる色材の量がそれぞれ、上述の実施例1の化粧料インクの顔料比率と略同等になるように調整した。印刷後のシートを50℃の環境下で乾燥させて、化粧用シートB-1(実施例)を得た。
【0111】
一方、上記と同様に、化粧用シートB-1と同様のインクの塗布量(体積比)で、半径30mmの円形状のパターン(塗りつぶしパターン)を形成した。このとき、各色のインク液滴が一点に重なるように、ポリ乳酸シートは移動させずにインクを塗布した。印刷後のシートを50℃の環境下で乾燥させて、化粧用シートB-2(参考例)を得た。
【0112】
化粧用シートB-1およびB-2の波長360nm~740nmにおける分光反射率を、分光測色計(例えば、コニカミノルタ社製 CM-700d)により、主光源:D50、測定モード:SCEにより測定した。結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、化粧用シートB-1および化粧用シートB-2では、分光反射率が完全に重なった。また、これらの塗膜はいずれも、分光反射率曲線が、波長550nm以上波長610nm以下の領域に第1の変曲点を有し、かつ波長550nm未満の領域に第2の変曲点を有していた。また、これらの塗膜では、第1の変曲点における分光反射率が、第2の変曲点における分光反射率より高かった。さらに、これらの塗膜では、波長580nm超の領域における分光反射率がいずれも、波長580nmにおける分光反射率以上であった。そして、これらの分光反射率を有する塗膜では、目視で肌模型との色の差を評価したとき、その差が小さかった。
【0113】
一方で、化粧用シートB-1および化粧用シートB-2をシミ模型上にかざした場合の隠蔽力について、官能評価を行った。具体的には、化粧用シートB-1および化粧用シートB-2をシミ模型上にかざし、被験者6人に、どちらの化粧用シートのほうが、シミの隠蔽性が高いか目視で確認してもらった。その結果、6人中6人が、化粧用シートB-1をかざしたほうが、シミの隠蔽性が高いと回答した。
【0114】
化粧用シートB-1および化粧用シートB-2をシミ模型上にかざした画像を、それぞれ
図4Aおよび
図4Bに示す。また化粧用シートB-1およびB-2について、それぞれ顕微鏡で拡大した写真を
図5Aおよび
図5Bに示す。
図5Aおよび
図5Bの拡大写真から明らかなように、化粧用シートB-1では、化粧用シートB-2と比較して、シート表面に、各色の顔料がずれて配置されている。そのため、顔料が付着していない領域の面積が少なく、隠蔽性が高まったと考えられる。また特に、白色インク由来の白色系色材が単独で付着している箇所で光散乱効果が発揮されやすく、シミ模型の色が視認され難くなったと考えられる。
本開示の一実施形態にかかる化粧料インクは、インクの塗布量に関わらず、肌の色に近い色を再現可能である。また、本開示の一実施形態に係る化粧用シートの製造方法によれば、シミ等を隠蔽し、さらに肌の色に近い色を再現可能な、化粧用シートが得られる。