(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058611
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】粘着剤、粘着テープ及び粘着剤製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20230418BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230418BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20230418BHJP
C08G 18/10 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J11/06
C09J11/08
C08G18/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017897
(22)【出願日】2023-02-08
(62)【分割の表示】P 2019118470の分割
【原出願日】2019-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】原 智隆
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 秀隆
(57)【要約】
【課題】 高温環境下で使用する場合にも、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、初期タック性を有し、高温環境においても使用可能な粘着剤や粘着テープを提供すること
【解決手段】 ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を含む樹脂と、粘着付与剤とを、含む組成物を原料とする粘着剤であって、
(A)前記ウレタンプレポリマーは、
ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、原料とし、
(B)前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光反応性官能基のモル数(a)と、前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光非反応性官能基のモル数(b)と、の比{(a)/(b)}が1.5~9.0であり、
(C)前記光反応性官能基を含む樹脂の平均光反応性官能基数は、1以上3未満であり、
(D)前記光反応性官能基を含む樹脂の配合量は、前記ウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~15質量部であり、
(E)前記粘着付与剤の軟化点は、100℃以上である
ことを特徴とする、粘着剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を含む樹脂と、粘着付与剤とを、含む組成物を原料とする粘着剤であって、
(A)前記ウレタンプレポリマーは、
ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、原料とし、
(B)前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光反応性官能基のモル数(a)と、前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光非反応性官能基のモル数(b)と、の比{(a)/(b)}が1.5~9.0であり、
(C)前記光反応性官能基を含む樹脂の平均光反応性官能基数は、1以上3未満であり、
(D)前記光反応性官能基を含む樹脂の配合量は、前記ウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~15質量部であり、
(E)前記粘着付与剤の軟化点は、100℃以上である
ことを特徴とする、粘着剤。
【請求項2】
前記プレポリマーの数平均分子量が、8,000~20,000であることを特徴とする、請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
前記粘着付与剤の配合量が、前記ウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~20質量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の粘着剤。
【請求項4】
前記ポリチオールの配合量が、粘着剤のSHインデックスが80~200となることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項5】
前記光反応性官能基を含む樹脂が、アクリル系モノマーであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項6】
基材(又は芯材)と、
基材(又は芯材)の少なくとも1つの表面上に設けられた請求項1~5のいずれか一項に記載の粘着剤を含む粘着層と、
を備える粘着テープ。
【請求項7】
ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、含む組成物をウレタン反応させて、ウレタンプレポリマーを作製する工程、
前記ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を含む樹脂と、粘着付与剤と、を混合する混合工程、及び、
前記混合工程で得られた混合物に光を照射する照射工程を、
含み、光重合反応により粘着剤を製造することを特徴とする、粘着剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールと、光反応性官能基を有するモノマーと、粘着付与剤とからなる組成物を原料とする粘着剤、及び、その粘着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来粘着剤として、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤が用いられている。これらの粘着剤は、製造時に有機溶剤を用いることが多く、人体や環境への影響が問題とされている。また、製造工程に乾燥工程等が必要となる等製造コストの問題もあった。
【0003】
近年、溶剤が不要となる粘着剤の開発も進んでおり、その中でもエチレン系の不飽和結合(二重結合又はエン結合)を含む化合物と、チオール基を有するポリチオール化合物と、を含み、エン・チオール反応を用いて作製した粘着剤が注目されている。また、UV硬化反応において、一般的なアクリレートの単独反応では、大気中の酸素の影響で過酸化物ラジカルが生成するが、これがアクリレート基に対して不活性なため、ラジカルが失活し重合の停止につながるが、エン・チオール反応では、過酸化物ラジカルと反応しチイルラジカルを再生するため、酸素阻害を受けにくいという効果も併せ持つ利点もある。
【0004】
特許文献1には、アリルエーテル基とビニルエーテル基との少なくとも一方で末端官能基が形成されてなるウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールと、粘着付与剤とからなる粘性流体を、光重合反応により硬化させることで形成されることを特徴とする粘着剤組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、アリルエーテル基とビニルエーテル基とアクリレート基との少なくとも1つで末端官能基が形成されてなるウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールと、粘着付与剤とからなる粘性流体を、光重合反応により硬化させることで形成される粘着剤組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-205989号公報
【特許文献2】特開2016-199610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、アリルエーテル基とビニルエーテル基との少なくとも一方で末端官能基が形成されてなるウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールと、粘着付与剤とを採用し、粘性流体を光重合反応により硬化させることで、粘着組成物を形成する発明が開示されており、前記粘着剤を用いると、溶剤を用いることがないため、人体、環境等に悪影響を及ぼすことがなく、適度な粘着性を示すことが開示されている。しかしながら、高温環境下での使用についても、検討されておらず、高温環境下において、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、初期タック性等が不十分であるおそれがあった。
特許文献2は、PPやSUSに加え、ウレタンフォームに対する粘着性が高いことが開示されている。しかしながら特許文献2に開示されている発明は、粘着付与剤を多量に使用していることから、発泡体表面のような粗面に対する追従性は十分ではないことが予想される。さらに高温環境下での使用については検討されておらず、粘着付与剤を多量に使用していることから、高温環境下において、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、が不十分となるおそれがあった。
【0008】
また、上記特許文献に記載された多量の粘着付与剤は、分子量が比較的小さく、架橋もしていないため、高温下で使用した場合には、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、が得られないおそれがあった。
【0009】
従って本発明の目的は、高温環境下で使用する場合にも、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力を有し、高温環境においても使用可能な粘着剤を提供することである。なお、一般に高温特性を向上させる場合、材料としては硬くなる(弾性率等が高くなる)ため、単に高温特性を向上させると、常温での使用時に粘着力が不足したり、初期タック性が悪くなったりする場合がある。本発明はそれらを両立できる粘着剤を提供することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意研究を行い、特定の、ウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールと、光反応性官能基を有するモノマーと、粘着付与剤とを配合することで、前記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は下記の通りである。
本発明(1)は、
ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を含む樹脂と、粘着付与剤とを、含む組成物を原料とする粘着剤であって、
(A)前記ウレタンプレポリマーは、
ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、原料とし、
(B)前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光反応性官能基のモル数(a)と、前記ウレタンプレポリマーの末端に存在する光非反応性官能基のモル数(b)と、の比{(a)/(b)}が1.5~9.0であり、
(C)前記光反応性官能基を含む樹脂の平均光反応性官能基数は、1以上3未満であり、
(D)前記光反応性官能基を含む樹脂の配合量は、前記ウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~15質量部であり、
(E)前記粘着付与剤の軟化点は、100℃以上であることを特徴とする、粘着剤である。
本発明(2)は、
前記プレポリマーの数平均分子量が、8,000~20,000であることを特徴とする、前記発明(1)の粘着剤である。
本発明(3)は、
前記粘着付与剤の配合量が、前記ウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~20質量部であることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の粘着剤である。
本発明(4)は、
前記ポリチオールの配合量が、粘着剤のSHインデックスが80~200となることを特徴とする、前記発明(1)~(3)のいずれかの粘着剤である。
本発明(5)は、
前記光反応性官能基を含む樹脂が、アクリル系モノマーであることを特徴とする、前記発明(1)~(4)のいずれかの粘着剤である。
本発明(6)は、
基材(又は芯材)と、
基材(又は芯材)の少なくとも1つの表面上に設けられた前記発明(1)~(5)のいずれかの粘着剤を含む粘着層と、を備える粘着テープである。
本発明(7)は、
ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、含む組成物をウレタン反応させて、ウレタンプレポリマーを作製する工程、
前記ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を有する樹脂と、粘着付与剤と、を混合する混合工程、及び、
前記混合で得られた混合物に光を照射する照射工程を、
含み、光重合反応により粘着剤を製造することを特徴とする、粘着剤製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温環境下で使用する場合にも、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、初期タック性を有し、高温環境においても使用可能な粘着剤や粘着テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ウレタンプレポリマーに含まれるウレタン化合物の構造を示す模式図である。
【
図2】剥離クリープ性評価における測定方法を示す模式図である。
【
図3】高温剥離強度評価(90°剥離試験)における測定方法を示す模式図である。
【
図4】耐熱保持力測定における測定方法を示す模式図である。
【
図5】初期タック性評価における測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の粘着剤、粘着テープ及び粘着剤製造方法について詳述する。
なお、本願において、高温とは60~90℃の温度を表わすものとする。
【0014】
<<粘着剤>>
本発明による粘着剤は、ウレタンプレポリマー、チオール基を有するポリチオール、光反応性官能基を有する樹脂、粘着付与剤を含む、組成物を原料とする。
前記粘着剤は、光反応性官能基を有するウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールとのエン・チオール反応により架橋させ、硬化させることを特徴とする。そのため、溶剤を使用せずに調製でき、また、硬化時酸素阻害が起こらないため、光照射による硬化時にカバーフィルムの設置や窒素雰囲気下での作業といった手間がかからないことが特徴である。
【0015】
1.原料組成物
1-1.ウレタンプレポリマー
本発明におけるウレタンプレポリマーは、ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとを、含むウレタンプレポリマーである。
【0016】
前記ウレタンプレポリマー内では、下記に示す4種類のウレタン化合物が生成される。従って、本発明におけるプレポリマーとは、下記4種類のウレタン化合物の複数を含む混合物である。
(1)ポリオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとの、ウレタン反応により生成した、ウレタン化合物、即ち、ウレタン化合物に複数存在する全ての末端が反応性の光反応性官能基であるウレタン化合物。
【0017】
(2)ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとの、ウレタン反応により生成した、ウレタン化合物のうち、前記ウレタン化合物の複数の末端が反応性の光反応性官能基を有し、残りの末端に反応性の光反応性官能基を有さない(即ち、非反応性の末端を有する)、ウレタン化合物。
【0018】
(3)ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、光反応性官能基を含むモノオールと、ポリイソシアネートとの、ウレタン反応により生成した、ウレタン化合物のうち、前記ウレタン化合物の一つの末端が反応性の光反応性官能基を有し、残りの末端が光反応性官能基を有さない(即ち、非反応性の末端を有する)、ウレタン化合物。
【0019】
(4)ポリオールと、光反応性官能基を含まないモノオールと、ポリイソシアネートとの、ウレタン反応により生成した、ウレタン化合物、即ち、ウレタン化合物に複数存在する全ての末端が非反応性であるウレタン化合物。
なお、
図1に上記4種類のウレタン化合物の模式図を示す。ここで、符号10は光反応性官能基末端である。符号11は光非反応性官能基末端である。符号12の曲線は高分子主鎖及び側鎖である。
【0020】
前記(1)及び(2)のウレタン化合物は、光照射を行った際、それら光反応性官能基が架橋する。前記(3)のウレタン化合物は、光照射を行った際、その1つの光反応性官能基が他のウレタン化合物(1)(2)、その他の(3)と架橋反応し、(3)のウレタン化合物は他のウレタン化合物の側鎖として構成される。前記(4)のウレタン化合物は、光照射を行った際、架橋反応せず、ゾル成分として組成物中に残留する。
【0021】
前記(1)及び(2)に由来する架橋度の高いウレタン化合物は、粘着剤としての凝集力を向上させ、せん断力学特性(保持力など)や高温特性(高温環境下における粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力)を高くする特徴を有する。
【0022】
ここで、剥離クリープ性とは、粘着剤やテープなどが、高温環境下で使用した際に、荷重が付加されクリープ変形したのちに剥離する現象に対する能力のことである。例えば、本発明の粘着剤をテープ等にして、建物の天井部等に接合対象物を貼り付けた場合等に、接合対象物の重量により、粘着剤は、常に荷重がかかった状態となる。この際、粘着剤がクリープ変形して、剥離してしまう。即ち、剥離クリープ性は、剥離クリープし難さを示す特性値である。
【0023】
また、保持力とは、粘着剤が、せん断方向(ずり方向)の静荷重にどのくらい耐えられるかという能力であり、粘着剤のクリープ特性の指標である。従って、粘着剤の硬軟や温度に対する安定性等の指標として用いられる。即ち、保持力が高くなると粘着剤は硬くなり(剛性率が増加する)、耐熱性(耐熱温度)も高くなる。
【0024】
保持力や高温特性を高くするためには、例えば、粘着剤の内部エネルギーを高くすることで調節することが可能である。具体的には、分子量を大きくしたり、架橋度を増したりと主骨格を剛直にする方法等が用いられる。但し、一般に、保持力や高温特性を高くした場合には、例えば、粘着剤の柔軟性が低下するため、粘着力、初期タック性、被着体の粗面追従性が低下する。
なお、粘着剤の保持力や高温特性の測定方法は、後述する方法で測定できる。
【0025】
前記(3)に由来する側鎖構造を有するウレタン化合物は、架橋点が少なく、粘着剤としての、発泡体のような凹凸粗面に追従する柔軟性を、向上させる特徴を有する。
【0026】
前記(4)に由来するゾル成分は、粘着剤の難粘着性の被着体との粘着性や初期タック性を向上させる。しかしながらゾル成分は相対的に分子量が低く、その含有量が多すぎると、粘着剤の凝集力が低下し、粘着剤のせん断力学特性(保持力など)が低くなる。また、高温特性も低下する。
【0027】
前記プレポリマーに含まれる(1)から(4)のウレタン化合物の量は、それぞれ粘着剤に付与する性能についてトレードオフの関係にあり、粘着剤としての用途などに応じて、その割合を調整することができる。即ち、前記(1)の化合物に由来して凝集力が高いと、せん断力学特性や高温特性は向上するが、硬くなりすぎて前記(3)に由来する粘着性、初期タック性や前記(4)に由来する粗面追従性が低下する。一方、前記(4)に由来するゾル成分や前記(3)に由来する側鎖構造が多い(架橋点が少ない)と、粘着性、初期タック性、粗面追従性は向上するが、前記(1)に由来する凝集力が低下し、せん断力学特性が低下する。
【0028】
前記ウレタンプレポリマーは、ウレタンプレポリマーに含まれる、ウレタン化合物の末端に結合している光反応性官能基のモル数(a)と、ウレタン化合物の末端に結合している光非反応性官能基のモル数(b)の比が、1.5~9.0であることを特徴とする。この比は、光照射により架橋後の粘着剤としたとき、粘着剤の粘弾性特性{架橋度と側鎖構造の濃度(あるいは密度)、ゾル成分の量}を決定する。従って、粘着剤のせん断力学特性、粗面追従性、粘着性、高温特性に影響を及ぼす。この比が、0.4未満の場合には、側鎖構造が多いポリマーを構成し、またゾル成分も多くなる。従って、粘着性、初期タック性、粗面追従性は上がるものの、せん断力学特性と高温特性は低下する。反対に、この比が2.5を超えると、せん断力学特性と高温特性は上がるものの、粘着性、初期タック性、粗面追従性は低下する。
【0029】
光反応性官能基の当量数(a)、及び、光非反応性官能基の当量数(b)は、合成前に配合したモノオールの当量数とすることができる。
【0030】
ウレタンプレポリマーの数平均分子量は、特に限定されないが、例えば、上限値は、30,000とすることができ、好ましくは、28,000、25,000、23,000、20,000、18,000、15,000とすることができ、例えば、下限値は、5,000とすることができ、好ましくは、7,000、8,000、9,000、10,000、12,000とすることができる。
ウレタンプレポリマーの数平均分子量がかかる範囲にある場合には、粘着剤としての凝集力(せん断力学特性)、高温特性、粘着性、初期タック性、粗面追従性の好適な範囲に調整が容易である。
【0031】
ここで、数平均分子量の測定方法は、公知の方法で行うことができる。例えば、ゲルパーエミッションクロマトグラフィーを用い、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液とし、示唆屈折率を検出することで測定することができる。数平均分子量は、標準試料であるポリスチレンのGPC測定結果に基づいた検量線を作成し、測定試料の測定結果をポリスチレン換算値として算出する。
【0032】
1-1-1.ポリオール
ウレタンプレポリマーに含まれるポリオールは、1つの分子に2個以上の水酸基を有する化合物であり、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。
本発明において用いられるポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール等が挙げられる。前記ポリオールは、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
ポリオールは、ウレタンプレポリマーの骨格を形成するため、その構造(骨格の炭素数、側鎖の構造等)による、凝集力(せん断力学特性、高温特性)、粘着性、初期タック性、粗面追従性に対する影響を考慮して、選択することができる。
【0033】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等、もしくは、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリプロピレングリコールなどのポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン、メチルバレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0034】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの少なくとも1種と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0035】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。また、グリセリンやトリメチロールエタン等の多価アルコールを用い、上記の環状エーテルを重合させて得ることもできる。
【0036】
ポリエステルエーテルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコール、もしくはプロピレンオキシド付加物等のグリコール等、又は、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるものが挙げられる。
【0037】
1-1-2.光反応性官能基を含まないモノオール
モノオールは、1つの分子に1個の水酸基を有する化合物であり、光反応性官能基を含まないとは、前記モノオールが光非反応性官能基のみで形成されたモノオールであることをいう。前記モノオールは、ポリイソシアネート基と結合することが可能であればよく、特に限定されない。例えば、直鎖、分岐又は環状の1価アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、ペンタノール、イソペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、デカノール、ウンデカノール、1-ドデカノール、イソオクタデカノール、オクタデセノール、ドコサノール、14-メチルヘキサデカノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、 2-エチルヘキシルグリコール等)等が挙げられる。また、グリコールエーテル類、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングルコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0038】
ここで、光反応性官能基とは、X線、電子線、紫外線、可視光線等の照射により架橋し得る官能基、即ち、多重結合を有する官能基であり、例えば、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アクリル基、メタクリレート基、アリル基等が挙げられる。前記モノオールは、これら光反応性官能基を含まない。
【0039】
前記モノオールは、光反応性官能基を含まないため、光を照射した際の架橋反応には関与せず、本発明の粘着剤中のゾル成分や、ウレタンポリマーの側鎖として存在する。従って、前記モノオールの炭素数、直鎖、側鎖の構造は、本発明による粘着剤の凝集力(せん断力学特性、高温特性)、粘着性、初期タック性、粗面追従性に影響を考慮して、選択することができる。
【0040】
1-1-3.光反応性官能基を含むモノオール
モノオールは、1つの分子に1個の水酸基を有する化合物であり、光反応性官能基を含むとは、前記モノオールが、少なくとも1つの光反応性官能基を含むモノオールであることをいう。前記モノオールは、ポリイソシアネート基と結合することが可能であればよく、特に限定されない。例えば、アリルエーテルグリコール、ヒドロキシエチルアリルエーテルなどのアリルエーテル基を有するモノオール;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、字エチレングリコールモノビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル基を有するモノオール;ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレートなどの(メタ)アクリル基を有するモノオールなどが挙げられる。
【0041】
ここで、光反応性官能基とは、X線、電子線、紫外線、可視光線等の照射により架橋し得る官能基、即ち、多重結合を有する官能基であり、例えば、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アクリル基、メタクリレート基、アリル基等が挙げられる。前記モノオールが、光反応性官能基を複数含む場合には、前記光反応性官能基は複数を混合して用いることができる。
【0042】
前記モノオールは、光反応性官能基を含むため、光を照射した際には架橋反応に関与し、本発明の粘着剤中のウレタンポリマーの主骨格や側鎖として存在する。従って、前記モノオールの炭素数、直鎖、側鎖の構造は、本発明による粘着剤の凝集力(せん断力学特性、高温特性)、粘着性、初期タック性、粗面追従性に影響を考慮して、選択することができる。
【0043】
1-1-4.ポリイソシアネート
ポリイソシアネートは、1つの分子に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であり、ウレタンプレポリマーの原料として通常に採用されるものであれば、特に限定されない。例えば、2官能のポリイソシアネートとしては、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、m-フェニレンジイソシネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジアネート(2,4’-MDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)、水素添加MDI、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、などの芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどのアルキレン系のもの、3官能以上のポリイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメリックMDI、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、1,8-ジイソシアナトメチルオクタン等及びこれら変性体、誘導体等が挙げられる。
前記ポリイソシアネートは、本発明の粘着剤中のゾル成分や、ウレタンポリマーの骨格の一部として存在する。従って、前記ポリイソシアネートの炭素数、直鎖、側鎖の構造は、本発明による粘着剤の凝集力(せん断力学特性、高温特性)、粘着性、初期タック性、粗面追従性に影響を考慮して、選択することができる。
【0044】
1-1-5.触媒
上記ウレタンプレポリマーの合成において、反応を促進させる又は反応速度を高めるために、反応触媒を添加してもよい。ここで、反応触媒としては、特に限定されず、金属触媒、例えば、錫系触媒、鉛系触媒、その他の金属触媒アミン系触媒、その他の酸性触媒、塩基性触媒等の公知の触媒が挙げられる。これらの触媒のうちの1種又は2種以上を用いることができる。
【0045】
1-2.光反応性官能基を有する樹脂
光反応性官能基を有する樹脂は、樹脂に含まれる1つの分子に、平均1以上3未満個の光反応性官能基を有する化合物であり、より好ましくは平均1~2個である。前記光反応性官能基は、全てが同一の官能基であってもよく、異なる官能基が含まれていてもよい。これら光反応性官能基は、光照射による架橋反応により、ウレタンプレポリマー、及び/又は、ポリチオールと架橋する。
【0046】
本発明によるウレタンプレポリマーは、ウレタンプレポリマーの非反応性末端の比率を上げることで、側鎖構造を導入しようとすると、ゾル分が増えすぎて、高温時の剥離クリープ特性が低下する。前記樹脂の添加により、適度に分岐、側鎖構造を導入することで、粘着剤の凝集力(せん断力学特性、高温特性)、粘着性、初期タック性、粗面追従性のバランスが取れる。ここで、本明細書において、樹脂とは、モノマー、多量体、ポリマーを含むものとする。
【0047】
また、前記樹脂の数平均分子量は、特に限定されないが、ウレタンプレポリマーの数平均分子量よりも小さいことが好ましい。分子量が小さくなると、光照射に対する反応性が高く、効率的に分子構造内に組み込まれ、分岐、側鎖構造を形成することができる。この観点からモノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましい。
【0048】
ここで、光反応性官能基とは、X線、電子線、紫外線、可視光線等の照射により架橋し得る官能基、即ち、多重結合を有する官能基であり、例えば、アルケニル基、アルキニル基、ビニル基、アクリル基、メタクリレート基、アリル基等が挙げられる。
【0049】
前記樹脂は、光反応性官能基を有していれば、特に限定されない。例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エチレン―酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルアルコール樹脂、ビニルピロリドン樹脂、ビニルブチラール樹脂、メタクリレート樹脂、アリルエーテル基が挙げられる。また前記樹脂類は複数を混合して用いることができる。
【0050】
前記樹脂の配合量は、ポリウレタンプレポリマーの配合量を、100質量部とした場合に、2~15質量部である。前記樹脂の配合量をかかる範囲とすることで、ゴム発泡体やPE発泡体のような難粘着性であり、凹凸の大きな被着体に対し、十分な粘着力を有し、高温環境下で使用する場合にも、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、初期タック性を有し、高温環境においても使用可能な粘着剤を得ることができる。
【0051】
1-3.ポリチオール
ポリチオールは、1つの分子に2個以上のチオール基を有する化合物であり、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。
上記化合物により得られたウレタンプレポリマーとエン・チオール反応するポリチオールとしては、メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル、脂肪族ポリチオール、芳香族ポリチオールが挙げられる。脂肪族ポリチオール、芳香族ポリチオールとしては、エタンジチオール、プロパンジチオール、ヘキサメチレンジチオール、デカメチレンジチオール、トリレン-2,4-ジチオール、キシレンジチオール等が挙げられる。
【0052】
また、メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステルでは、メルカプトカルボン酸として、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸等が挙げられ、多価アルコールとして、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びソルビトール等が挙げられる。これらの中では、臭気が少ない点で、メルカプトカルボン酸と多価アルコールとのエステル類が好ましく、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサ(3-メルカプトプロピオネート)が挙げられる。なお、それら種々のポリチオールのうちの1種又は2種以上を併用したものを、上記ウレタンプレポリマーとのエン・チオール反応の原料として用いることが可能である。
【0053】
ポリチオールと、前記ウレタンプレポリマーと混合し、これらを重合反応(エン・チオール反応)させることで、高い柔軟性を有するエン・チオール系の粘着組成物を得ることができる。ここで、上記重合反応としては、光重合反応であっても熱重合反応であってもよく、光重合反応の場合は、上述したポリチオールと前記ウレタンプレポリマーと混合した後に、光(紫外線等)を照射することで、エン・チオール反応を進行させる。なお、熱重合反応の場合も光重合反応の場合と反応機構は同じであり、ラジカルの発生が光によるか熱によるかの違いのみである。ここで、光重合反応の方が熱重合反応よりも重合反応が速く進行することから、本発明にかかる粘着組成物の製造方法では、光重合反応を利用することが好適である。
【0054】
また、上述したポリチオールのうちの官能基(チオール基)数が2のもの(二官能チオール)とそれ以上のもの(三官能以上のチオール)とを併用することで、さらに高い柔軟性を有するエン・チオール系の粘着組成物を得ることが可能となる。具体的には、ウレタンプレポリマーと反応が行われるチオール基の平均官能基数、つまり、チオール基が2個のポリチオールと、チオール基が3個以上のポリチオールとのチオール基の平均官能基数を、2.5以上とすることで、高い柔軟性を有するエン・チオール系の粘着組成物を得ることができる。
【0055】
1-4.粘着付与剤
粘着性付与剤は、その軟化点が100℃以上である。粘着付与剤は、軟化点が100℃以上であれば、特に限定されない。粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、クロマロンインデン樹脂、スチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等を添加することができる。これらは、単独で、又は、複数を組み合せて用いることができる。粘着付与剤の配合量は、前記ウレタンプレポリマー100質量部に対して、2~20質量部とすることができる。粘着付与剤の配合量がかかる範囲にある場合には、ゴム発泡体やPE発泡体のような難粘着性であり、凹凸の大きな被着体に対し、十分な粘着力を有し、高温環境下で使用する場合にも、十分な粘着力、剥離クリープ性、高温剥離強度、高温保持力、初期タック性を有し、高温環境においても使用可能な粘着剤を得ることができる。
【0056】
1-5.その他の添加物
その他の添加剤として、ウレタンプレポリマー及び樹脂と、チオール基との重合反応を効果的に行うべく、本発明の粘着組成物には、光重合開始剤を含むことができる。光重合反応の場合に用いられる光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、チオキサントン系等の化合物が挙げられる。アセトフェノン系としては、例えば、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、4-(1-t-ブチルジオキシ-1-メチルエチル)アセトフェノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オンや2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等が挙げられる。
【0057】
ベンゾフェノン系としては、例えば、4-(1-t-ブチルジオキシ-1-メチルエチル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラキス(t-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルパーオキシルカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。また、チオキサントン系としては、例えば、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等が挙げられる。
【0058】
さらに、本発明の原料組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上述した各成分以外に、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、光安定剤、安定剤、分散剤等が挙げられる。
【0059】
2.原料組成物の製造方法
本発明による原料組成物の配合について以下に詳述する。
2-1.原料組成物の配合量
ウレタンプレポリマーの合成における、前記ポリオールの配合量を100質量部とする。
前記モノオールは、上述した、ウレタンプレポリマー混合物に含まれる、ウレタン化合物の末端に結合している光反応性官能基の当量数(a)とウレタン化合物の末端に結合している光非反応性官能基の当量数(b)の比が、1.5~9.0になるように配合する。
【0060】
前記ポリイソシアネートは、前記ポリオールとモノオールの配合量から水酸基当量を計算し、全ての水酸基がイソシアネート基と反応しきるように配合することができる。
【0061】
<ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を有する樹脂と、粘着付与剤と、を混合する混合工程>
前記樹脂の配合量は、ウレタンプレポリマーの配合量と100質量部としたときに、2~15質量部となるように配合する。
【0062】
前記ポリチオールは、特に限定されないが、例えば、前記光反応性官能基の二重結合当量数に対して、チオール・エン(チオール基/二重結合)比が、0.7~2.5になるように配合することができ、0.8~2.0が好ましい。この比が、かかる範囲にある場合には、酸素阻害が発生し難く、表面の硬化性が良好となるため、優れた粘着特性(特に高温環境下での粘着特性)を示し、また、チオール基が過剰に存在しないため、チオール基同士が反応を阻害せず、十分な架橋度を達成することができ、優れた高温特性を示す。
なお、チオール・エン(二重結合)比は、チオールインデックス(SHインデックス)として指標することも可能である。チオールインデックスは、チオール化合物中のチオール基のモル数の二重結合基のモル数に対する比に100を乗じた値であり、70~250とすることができ、80~200が好ましい。
【0063】
2-2.ウレタンプレポリマーの製造方法(ウレタンプレポリマーを作製する工程)
ウレタンプレポリマーの製造方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。下記に、その一例について説明する。
容器に、ポリイソシアネートを配合量入れ、窒素雰囲気下で撹拌する。ここにポリオールを滴下する。ここで、反応を促進するため、必要に応じて触媒を添加することができる。触媒の添加量は、特に限定されないが、例えば、0.01~5質量部とすることができる。
所定の時間撹拌し、反応を完了させる。ここで、反応生成物の一部を抜き取り、イソシアネート基含有率を測定し、所望の範囲内にあることを確認する。確認後、光反応性官能基を含むモノオール及び光反応性官能基を含まないモノオールを添加し、所定の時間反応させて、プレポリマーとする。
【0064】
2-3.原料組成物の製造方法(ウレタンプレポリマーと、ポリチオールと、光反応性官能基を有する樹脂と、粘着付与剤と、を混合する混合工程)
原料組成物の製造方法も、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。下記にその一例について説明する。
前記得られたウレタンプレポリマーを撹拌しながら、光反応性基を有する樹脂、ポリチオール、粘着付与剤の所定の量を添加し、原料組成物とする。
【0065】
2-4.粘着テープの成形方法(混合工程で得られた混合物に光を照射する照射工程を含む)
粘着テープの成形方法も、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。下記にその一例について説明する。
前記得られた原料組成物は、離型紙上に、所定の厚さに塗工される。次に、塗工された原料組成物は、光照射により硬化させられ、粘着剤(粘着層)とされる。
前記離型紙上に形成された粘着剤(粘着層)は、粘着剤面に、さらに基材を貼り合わせることで、片面テープを形成することができる。
また、前記離型紙上に形成された粘着剤は、芯材の両面に貼り合わせることで、両面テープを形成することができる。
【0066】
前記離型紙は、基材となる紙と、その表面に形成された剥離層で構成され、粘着剤から容易に剥離される。前記離型紙の基材は、紙に限られず、公知の樹脂フィルムを用いることができる。例えば、PETフィルムやOPPフィルムなどを用いることができる。基材の厚みは、特に限定されず、例えば、10~200μmとすることができる。
また、剥離層は、公知の剥離剤を用いて形成することができる。例えば、ジメチルシロキサン等のシリコーン化合物を用いることができる。
【0067】
前記塗工の方法は、特に限定されず、公知の方法で行うことができ、例えば、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター等が挙げられる。塗工時の温度調整が可能であり、原料組成物の塗工粘度を調整できるダイコーターが好ましい。
【0068】
前記離型紙上に塗工された原料組成物の厚みは、特に限定されず、例えば10~500μmとすることができる。
【0069】
前記光照射は、光反応性官能基が反応する特定の波長、又は、添加した光重合開始剤が作用する特定の波長の光を照射して行う。光照射量は、原料組成物の配合や厚み、光重合開始剤の種類や添加量等によって設定することができ、例えば、600~1800mJ/cm2とすることができ、オムニラッド1173(IGM Resins社製)を光重合開始剤として用いた場合には、365nmの波長の光を照射して硬化させることができる。
【0070】
前記片面テープを形成する場合に使用される基材は、特に限定されず、公知のフィルムや紙などを使用することができる。例えば、PETフィルムやOPPフィルムなどを用いることができる。基材の厚みは、特に限定されず、例えば、10~200μmとすることができる。
【0071】
前記両面テープを形成する場合に使用される芯材は、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、オールパルプ(14g/m2)などを用いることができる。芯材の厚みは、特に限定されず、10~500μmとすることができる。
【0072】
3.粘着テープの用途
前記粘着剤は、主に高温環境下で用いられる両面テープとして使用することができる。具体的には、高温下で用いられる曲面に対する発泡体の固定等、剥離クリープ特性が求められる用途が好適である。また、粗面追従性にも優れるためポリエチレン発泡体や一部のゴム発泡体のような難粘着性で、従来の粘着剤による固定が困難な材質の固定に用いることができる。ポリエチレン発泡体などの発泡体は、シール材、吸音材、衝撃吸収材として広く産業利用されている材料であるが、難粘着のため用途が限定されていた。
【実施例0073】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
(原料)
下記原料を表1~表3に従って秤量し、配合した。
・ポリオールa:ポリプロピレングリコール 分子量3000
・ポリオールb:ポリプロピレングリコール 分子量200
・光反応性官能基を含まないモノオール :ラウリルアルコール
・光反応性官能基を含むモノオール :ヒドロキシエチルアクリレート
・ポリイソシアネート:トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート:80%、2,6-トリレンジイソシアネート:20%)
・樹脂A :フェノキシエチルアクリレート(光反応性官能基数1)数平均分子量192.2
・樹脂B :1,9-ノナンジオールジアクリレート(光反応性官能基数2)数平均分子量268.4
・樹脂C :トリメチロールプロパントリアクリレート(光反応性官能基数3)
・粘着付与剤A : スーパーエステル-A115 軟化点115℃(荒川化学工業社製)
・粘着付与剤B : スーパーエステル-A100 軟化点100℃(荒川化学工業社製)
・粘着付与剤C : スーパーエステル-A125 軟化点125℃(荒川化学工業社製)
・粘着付与剤D : スーパーエステル-A75 軟化点75℃(荒川化学工業社製)
・ポリチオール:トリメチロールプロパン トリス(3-メルカプトプロピオネート)(分子量:398.5,平均官能基数3)
・開始剤:オムニラッド1173(IGM Resins社製)
【0074】
(ウレタンプレポリマーの調製)
原料の配合量は表1に従って秤量する。セパレートフラスコに、ポリイソシアネートを配合量入れ、窒素雰囲気下で撹拌した。ここにポリオールa及びbを滴下する。滴下終了後触媒(ジブチルチンジラウレート)を0.3g添加した。3時間反応させた後、一部をサンプリングし、イソシアネート基含有率を測定し、下記プレポリマーごとの範囲内にあることを確認した。
なおイソシアネート含有率は、JIS Z1603-1:2007に基づく方法(ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法)に準拠して測定した。次に、各モノオールを滴下し2時間反応させた。反応後サンプルリングし、イソシアネート基含有率が0.05%以下になっていることを確認した。イソシアネート基含有率が0.05%以下の場合、反応完了とし生成物をウレタンプレポリマーAとした。
表1に従って、同様の方法でプレポリマーB~Hを調製した。
・プレポリマーA:イソシアネート含有率 0.7~1.1%
・プレポリマーB:イソシアネート含有率 0.7~1.1%
・プレポリマーC:イソシアネート含有率 0.7~1.1%
・プレポリマーD:イソシアネート含有率 0.7~1.1%
・プレポリマーE:イソシアネート含有率 0.7~1.1%
・プレポリマーF:イソシアネート含有率 0.9~1.3%
・プレポリマーG:イソシアネート含有率 0.4~0.8%
・プレポリマーH:イソシアネート含有率 0.2~0.6%
【0075】
【0076】
(原料組成物の製造方法)
実施例1の原料組成物は、表2に従って、秤量されたプレポリマーAを撹拌しながら、樹脂B、樹脂C及びポリチオール、粘着付与剤を所定の配合量を添加し、原料組成物とした。
実施例2~15及び比較例1~6は、表2に示した各配合量に変更したほかは、実施例1と同様にして実施例2~15及び比較例1~6の原料組成物を得た。
【0077】
(粘着テープの成形方法)
実施例1の原料組成物を、離型紙上に、所定の厚さに塗工し、光照射(波長:365nm,照射量800mJ/cm2)により硬化させ、粘着剤とした。
前記離型紙上に形成された粘着剤は、粘着剤面に、さらにPETフィルム(厚み25μm)を貼り合わせ、実施例1の片面粘着テープとした。
実施例2~15及び比較例1~6は、表2に示した各配合量に変更したほかは、実施例1と同様にして実施例2~15及び比較例1~6の粘着テープを得た。
【0078】
(評価)
・剥離クリープ性評価
前記実施例1~15及び比較例1~6の粘着剤を用いて作製した粘着テープを、それぞれ幅25mm×長さ180mmの形状に加工して試験試料とした。また、被着体として幅30mm×長さ150mm×厚さ5mmの形状に加工したポリプロピレン板を被着体とした。前記試験試料と前記被着体を、5kgの重量のゴムローラーを用いて、5mm/sec.の速度で1往復させて、貼り合わせ部の長さが100mmになるように貼り合わせた。その後4時間静置したものを測定に用いた。続いて、80℃のオーブンに試料を設置し、20gの錘を吊るした(
図2参照)。その後、24時間静置し、試料がポリプロピレン板から剥がれた長さを剥離クリープ性の測定値とした。下記の評価基準に従い、結果を評価した。評価結果を表2及び3に示した。
○:剥離した長さが、25mm未満の場合
△:剥離した長さが、25mm以上50mm未満の場合
×:剥離した長さが、50mm以上の場合
【0079】
・高温剥離強度評価(90°剥離試験)
前記実施例1~15及び比較例1~6の粘着剤を用いて作製した粘着テープを、それぞれ幅25mm×長さ200mmの形状に加工して試験試料とした。また、被着体として幅30mm×長さ350mm×厚さ5mmの形状に加工したSUS304板を被着体とした。前記試験試料と前記被着体を、2kgの重量のゴムローラーを用いて、5mm/sec.の速度で1往復させて、試料全面を貼り合わせた。続いて、常温で30分間静置し、その後80℃の環境下(オーブン)で10分間静置したたものを測定に用いた。
剥離強度測定は、恒温槽付きの材料試験機(島津製作所社製:オートグラフAG-X)を用いて90°剥離試験を行って測定した(
図3参照)。測定は、前記試験試料及び被着体の端部から10mmの部分を、前記材料試験機のチャック部に固定し、300mm/minの引張速度(クロスヘッドスピード)で剥離させて行った。測定結果は、前記剥離させたときの、引張強度を剥離強度とした。下記の評価基準に従い、結果を評価した。評価結果を表2及び3に示した。
○:剥離強度が、7N以上の場合
△:剥離強度が、4N以上7N未満の場合
×:剥離強度が、4未満の場合
【0080】
・耐熱保持力測定
前記実施例1~16及び比較例1~6の粘着剤を用いて作製した粘着剤を、それぞれ幅25mm×長さ200mmの形状に加工して試験試料とした。また、被着体として幅30mm×長さ350mm×厚さ5mmの形状に加工したステンレス鋼板(SUS304:JIS G4305:2012「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」)を被着体とした。前記試験試料と前記被着体を、それらの接着面積が25mm×25mmになるように、2kgの重量のゴムローラーを用いて、5mm/sec.の速度で貼り合わせた。その後15分間静置したもの(測定試料)を測定に用いた。
耐熱保持力測定は、80℃に調整された炉内に測定試料の被着体部を固定したのち、粘着テープ側に500gのおもりを吊るして行った(
図4参照)。測定結果はおもりを吊るしたのち1時間後のずれ量を測定し、耐熱保持力とした。下記の評価基準に従い、結果を評価した。評価結果を表2及び3に示した。
○:テープがずれた距離が、5mm未満の場合
△:テープがずれた距離が、5mm以上10mm未満の場合
×:テープがずれた距離が、10mm以上の場合
【0081】
・初期タック性評価
前記実施例1~16及び比較例1~6の粘着剤を、剥離紙上に厚さ200μmになるように成膜したものを、端面の面積が2cm
2である円柱状の鉄棒の端面に貼り合わせた。試験台に、5cm角の立方体のウレタンフォームを固定し、粘着剤が貼りあわされた鉄棒の端面をウレタンフォームの上面に鉛直方向から押し付け、0.2Nの力を負荷し、3秒間静置した。その後、300mm/minの速度で、鉄棒を鉛直方向に引き上げ、粘着剤がウレタンフォームから剥離する際の強度を測定し、初期タック性評価の測定値とした(
図5参照)。下記の評価基準に従い、結果を評価した。評価結果を表2及び3に示した。
○:強度が、1.0N以上の場合
△:強度が、0.5以上1.0N未満の場合
×:剥離強度が、0.5未満の場合
【0082】
・総合評価
剥離クリープ性評価、高温剥離強度評価、耐熱保持力評価及び初期タック性評価の各評価結果を、下記の判断基準に基づいて総合評価とした。結果を表2及び3に示した。
○:前記評価結果に、〇が2つ以上あり、×がない場合
△:前記評価結果に、○が1つあり、その他が全て△の場合
×:前記評価結果に、1つでも×がある場合
【0083】
【0084】
【0085】
(評価結果)
表2及び表3の結果から、本願発明の効果が理解できる。