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特開2023-58631ウイルス感染および細菌感染の処置のための新規MEK阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058631
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】ウイルス感染および細菌感染の処置のための新規MEK阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/196 20060101AFI20230418BHJP
   A61K 31/16 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 31/215 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20230418BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20230418BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
A61K31/196
A61K31/16
A61K31/215
A61K31/351
A61K45/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P43/00 121
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018912
(22)【出願日】2023-02-10
(62)【分割の表示】P 2020521541の分割
【原出願日】2018-10-17
(31)【優先権主張番号】LU100487
(32)【優先日】2017-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(71)【出願人】
【識別番号】516343022
【氏名又は名称】アトリバ セラピューティクス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ルートヴィヒ シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】プランツ オリバー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細菌感染およびインフルエンザウイルス感染を含む重感染、またはウイルス感染もしくは細菌感染のみの予防および/または処置のための薬学的組成物を提供する。
【解決手段】下記に示すPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、薬学的組成物による。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、細菌感染の予防および/または処置のための薬学的組成物。
【請求項2】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、ウイルス性疾患の予防および/または処置のための薬学的組成物。
【請求項3】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置のための薬学的組成物。
【請求項4】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項2または3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項4記載の薬学的組成物。
【請求項6】
インフルエンザウイルスがインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、請求項5記載の薬学的組成物。
【請求項7】
細菌感染が、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)、およびパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される、請求項1または3記載の薬学的組成物。
【請求項8】
ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、請求項2~6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、もしくはペラミビル、または薬学的に許容されるそれらの塩から選択される、請求項8記載の薬学的組成物。
【請求項10】
さらなるMEK阻害剤を含む、請求項1~9のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項11】
脊椎動物に投与するための、請求項1~10のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
ウイルス性疾患、または細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置のための薬剤の製造における、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩の使用。
【請求項13】
細菌感染の予防および/または処置のための薬剤の製造における、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
インフルエンザA型ウイルスは、かなりの罹患率および死亡率をもたらす重症呼吸器疾患の原因病原体である。インフルエンザウイルス感染の経過中の致死的症例の大部分は、実際には、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus (S. aureus))、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenza)などの異なる細菌によって引き起こされる二次性肺炎の結果である(Morens et al., 2008, Chertow et al., 2013)。細菌重感染の最も顕著な問題は、病原性の突然増加であり(Iwao et al., 2012, Paddock et al., 2012, Parker et al., 2012)、異なる病原菌に対する強力な抗感染薬の蓄えが限られていることである。インフルエンザウイルスの高い変異性および新しい菌株の継続的な出現(Neumann et al., 2009, Taubenberger et al., 2010, Parry, 2013)、細菌株に固有の特徴(Grundmann et al., 2006, Moran et al., 2006, Gillet et al., 2007, Shilo et al., 2011)、ならびに利用可能な薬物/抗生物質に対しての、インフルエンザウイルス(Hayden et al., 1992, Bright et al., 2006, Pinto et al., 2006, De Clercq et al., 2007, Pinto et al., 2007)および細菌(Grundmann et al., 2006, Moran et al., 2006, Shilo et al., 2011)の両方の急速な耐性発現が、不十分な治療選択肢の主因である。
【0002】
WO2001/076570には、(-)RNAウイルスによって(特にインフルエンザウイルスによって)引き起こされる感染をMEK阻害剤により処置または予防するコンセプトが提供されている。WO2014/056894には、インフルエンザウイルス感染の処置または予防において使用するための、AZD-6244、AZD-8330、RDEA-119、GSK-1120212 (トラメチニブ)、GDC-0973 (コビメチニブ)、CI-1040、PD-0325901、RO-5126766、MSC1936369 (AS-703026)などの特定のMEK阻害剤が提供されている。WO2015/173788A1では、インフルエンザウイルスおよび細菌の重感染を処置する方法における使用のためのMEK阻害剤が開示されている。
【0003】
しかしながら、少数の有望なMEK阻害剤が既知であり、ウイルス感染(特にインフルエンザウイルス感染)およびウイルス感染(特にインフルエンザ感染)を伴う細菌の重感染の処置または予防において使用するために提供されているが、そのような用途のためだけでなく、さらに特に細菌感染の処置のため理想的に改善されたMEK阻害剤をさらに提供する必要性が依然として存在している。それゆえ、本出願の技術的問題は、この必要性を満たすことである。
【発明の概要】
【0004】
技術的問題の解決策は、ウイルス性疾患(例えば、インフルエンザウイルス感染、細菌感染、または細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染)の処置または予防において使用するためのCI-1040の代謝産物PD-0184264の提供である。この解決策は、以下に記載されている態様および特許請求の範囲にも反映され、実施例および図面に例示されている。本出願の発明者らは驚くべきことに、MEK阻害剤CI-1040の代謝産物PD-0184264がCI-1040自体よりも高い抗ウイルス活性および抗菌活性を有することを見出した。それゆえ、PD-0184264の使用は、ウイルス感染(特にインフルエンザウイルス感染)のため、ウイルス(特にインフルエンザウイルス)と細菌の重感染のため、および細菌感染のためのいっそう効果的な処置選択肢を提供することにより、本出願の根底にある技術的問題を解決する。
【0005】
MEK阻害剤CI-1040はインフルエンザウイルス感染およびインフルエンザウイルスまたは細菌の重感染の処置または予防において既に効果的であるが、本発明者らは、インフルエンザウイルスおよび/もしくは細菌感染、またはインフルエンザウイルス感染と細菌感染を含む重感染の処置において、CI-1040の代謝産物(PD-0184264, 式1)がCI-1040自体よりも効果的であることを見出した。PD-0184264は、CI-1040のいくつかの代謝産物のうちの1つである(Wabnitz et al., 2004, LoRusso et al., 2005)が、代謝産物がCI-1040よりも強力であることは知られておらず、推測することもできなかった。本発明者らが驚いたことに、実施例に示されるように、実際、1つの代謝産物(PD-0184264, 以下の構造1)がCI-1040よりも効果的であり、高い治療可能性を有することを見出した。実際、PD-0184264が示すインビトロでのMEKキナーゼに対する阻害効果はCI-1040よりも弱い(実施例9参照)ため、PD-0184264のこの特性を予想することはできなかった。さらに、インビトロアッセイでは、CI-1040と比較してPD-0184264の弱い抗ウイルス効果が示された(実施例10参照)が、驚くべきことに、インビボアッセイでは、CI-1040と比較してPD-0184264のはるかに強い抗ウイルス効果が示された(実施例11参照)。
【0006】
したがって、本発明は、細菌感染および/またはウイルス性疾患の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩に関する。好ましくは、ウイルス性疾患を引き起こすウイルスは、マイナス鎖RNAウイルス、好ましくはインフルエンザウイルス、より好ましくはインフルエンザA型またはインフルエンザB型ウイルスである。
【0007】
本発明はまた、細菌感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩に関する。細菌感染は好ましくは、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)、および/またはパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される。
【0008】
本発明はさらに、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩に関する。
【0009】
好ましくは、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、細菌感染がスタフィロコッカス科、連鎖球菌科、レジオネラ科、シュードモナス科、バシラス科、クラミジア科、マイコプラズマ科、腸内細菌科、シュードモナス目、および/またはパスツレラ科からなる群より選択される細菌によって媒介される、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものである。
【0010】
好ましくは、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、ウイルスがマイナス鎖RNAウイルス、好ましくはインフルエンザウイルス、より好ましくはインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものである。
【0011】
好ましくは、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩がノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、ウイルス性疾患の予防および/または処置の方法における使用のためのものである。
【0012】
好ましくは、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩がノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものである。
【0013】
代替的な態様において、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、もしくはペラミビル、または薬学的に許容されるそれらの塩から選択される、ウイルス性疾患の予防および/もしくは処置のための方法において、または細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/もしくは処置の方法における使用のためのものである。
【0014】
また、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩およびノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩を含む薬学的組成物も本発明により提供される。
【0015】
好ましくは、PD-0184264は、PD-0184264が1つまたは複数のMEK阻害剤と組み合わされる、ウイルス性疾患の予防および/もしくは処置のための方法において、ならびに/または細菌感染の予防および/もしくは処置のための方法において、ならびに/または細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/もしくは処置の方法における使用のためのものである。
【0016】
好ましくは、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩は、対象、好ましくは脊椎動物、より好ましくは鳥類または哺乳類、最も好ましくはヒトにおける、細菌感染、ウイルス感染、または重感染の予防および/または処置において使用するためのものである。
【0017】
本発明はさらに、対象における細菌感染を処置する方法であって、それを必要とする対象に治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を投与する段階を含む、方法に関する。
【0018】
さらに、本発明は、対象におけるウイルス性疾患を処置する方法であって、それを必要とする対象に治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を投与する段階を含む、方法に関する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、対象における細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染を処置する方法であって、それを必要とする対象に治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を投与する段階を含む、方法に関する。
【0020】
好ましくは、ウイルスはマイナス鎖RNAウイルスであり、より好ましくはウイルスはインフルエンザウイルスであり、最も好ましくは、インフルエンザウイルスはインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである。
【0021】
好ましくは、細菌感染はスタフィロコッカス科、連鎖球菌科、レジオネラ科、シュードモナス科、バシラス科、クラミジア科、マイコプラズマ科、腸内細菌科、シュードモナス目、およびパスツレラ科からなる群より選択される細菌によって媒介される。
[本発明1001]
細菌感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1002]
ウイルス性疾患の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1003]
細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1004]
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、本発明1002または1003の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1005]
ウイルスがインフルエンザウイルスである、本発明1004の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1006]
インフルエンザウイルスがインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、本発明1005の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1007]
細菌感染が、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)、およびパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される、本発明1001または1003の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1008]
ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、本発明1002~1006のいずれかの使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1009]
ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、もしくはペラミビル、または薬学的に許容されるそれらの塩から選択される、本発明1008の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1010]
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、薬学的組成物。
[本発明1011]
ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩をさらに含む、本発明1010の薬学的組成物。
[本発明1012]
さらなるMEK阻害剤を含む、前記本発明のいずれかの使用。
[本発明1013]
対象、好ましくは脊椎動物における前記本発明のいずれかの使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
[本発明1014]
対象における細菌感染を処置する方法であって、治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1015]
対象におけるウイルス性疾患を処置する方法であって、治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1016]
細菌感染およびウイルス性疾患を含む対象における重感染を処置する方法であって、治療有効量のPD-0184264または薬学的に許容されるその塩を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1017]
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、本発明1015または1016の方法。
[本発明1018]
ウイルスがインフルエンザウイルスである、本発明1017の方法。
[本発明1019]
インフルエンザウイルスがインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、本発明1018の方法。
[本発明1020]
細菌感染が、スタフィロコッカス科、連鎖球菌科、レジオネラ科、シュードモナス科、バシラス科、クラミジア科、マイコプラズマ科、腸内細菌科、シュードモナス目およびパスツレラ科からなる群より選択される細菌によって媒介される、本発明1014または1016の方法。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面は以下を示す。
【0023】
図1】PD-0184264またはCI-1040による、インフルエンザA型に感染したマウスの処置。実施例1の実験からの結果は、ウイルス力価(log10) pfu/ml (左)またはウイルス力価%(右)として提示されている。
図2】MRSA細菌の増殖に対するPD-0184264およびCI-1040の影響を示すグラフ。グラフの横軸に示されているとおりの様々な時点で、細菌増殖の指標として無細胞細菌培養物の光学密度を測定し、グラフの縦軸に%(OD600)単位で示した。データは、実施例2に記載されている3つの生物学的反復の平均値を表す。
図3】様々な濃度のPD-0184264による細菌MRSA増殖の阻害。PD-0184264は、(示されている通りの)種々の濃度で黄色ブドウ球菌USA300 (MRSA)の終夜培養物に投与された。6時間後、光学密度を試験した。図に示されているデータは、実施例2に記載されている3つの生物学的反復のうちの1つの実験を表す。
図4】細菌増殖に対するCI-1040およびPD-0184264の影響。(A) 細菌増殖に対する様々な濃度のCI-1040の影響 (B, C) 黄色ブドウ球菌株6850 (B)または株USA300 (C)に対する様々な濃度のPD-0184264の影響。
図5】単独感染または重感染細胞へのPD-0184264の投与は、細胞を保護する。ヒト肺上皮細胞(A549)を(示されている濃度の)PD-0184264または溶媒(DMSO)で前処理し、ヒトインフルエンザウイルス株A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)に感染させた。PD-0184264の抗ウイルス効果および強力な抗菌効果(図2~4)を考慮して、本発明者らは、当該化合物のこの特徴がIAV (インフルエンザA型ウイルス)および/または黄色ブドウ球菌感染により誘発される細胞破壊性の細胞変性効果(CPE)に関して肉眼的に観察できるかどうかを分析した。IAV(H1N1)(中央のパネル)または黄色ブドウ球菌株6850(上のパネル)による単独感染後に、細胞単層のわずかな破壊が観察された。このCPEは、両方の病原体による重感染時(下のパネル)に強く増加したが、漸増濃度のPD-0184264の存在下では阻害された。
図6】PD-0184264の抗菌作用と一般的な抗生物質との比較。MEK阻害剤PD0184164の抗菌特性を一般的な抗生物質の作用と比べるために、本発明者らは、溶媒、MEK阻害剤U0126およびPD-0184264または種々の濃度の抗生物質ゲンタマイシンで終夜細菌を処理した。溶媒で処理した細菌と比較して、第1世代のMEK阻害剤U0126とのインキュベーションは細菌力価のわずかな低減のみをもたらしたが、PD-0184264による処理は細菌負荷の非常に強力な低減をもたらした。これは両方の細菌株に当てはまった。
図7A】PD-0184264の抗菌作用を他のMEK阻害化合物または抗生物質ゲンタマイシンと比較した添加時間アッセイの結果。
図7B】ゲンタマイシンもしくはエリスロマイシンによる処理、または未処理の場合と比較した、MEK阻害剤PD0184264に対する黄色ブドウ球菌の耐性の試験結果。
図8】細菌キナーゼPknBのドメイン構造(上) (Rakette et al. 2012)、ならびにPknBの自己リン酸化部位と哺乳類MAPキナーゼp38、JNK、およびMEKの直接の標的であるERKの活性化部位との配列相同性(Miller et al. 2010)。
図9】様々な抗生物質の最小阻害濃度(MIC)に対する阻害剤処理の影響の決定。
図10】PD-0184264による処理時の黄色ブドウ球菌株6850およびMRSA株USA300のストレス耐性。
図11A】PD-0184264による処理は、様々な血清型の肺炎連鎖球菌の増殖を弱める。(A) OD600で測定した肺炎連鎖球菌株TIGR4 (血清型4)およびD39 wt (血清型2)の培養物に対するPD-0184264の効果;(B) 肺炎連鎖球菌株TIGR4 (血清型4)およびD39 wt (血清型2)の培養物に対するPD-0184264の効果(CFU/ml単位で示した);(C) 枯草菌(Bacillus subtilis)の培養物に対するPD-0184264の効果(CFU/ml単位で示した)。
図11B図11Aの説明を参照。
図11C図11Aの説明を参照。
図12-1】表1: 抗生物質。
図12-2】図12-1の続きを示す。
図13】PD-0184264による細胞の処理が、細菌(黄色ブドウ球菌)またはウイルス(インフルエンザIV)の単独感染および重感染時の病原体誘発性CPE (細胞変性効果)を強く減少させることを示す写真。
図14A】CI-1040 (a)またはPD-0184264 (b)による処理時の細胞内細菌負荷の変化を示すグラフ。感染進行中のより後の時点でCI-1040またはPD-0184264を投与した場合、同等の結果が得られた(c)。
図14B図14Aの説明を参照。
図14C図14Aの説明を参照。
図15】細胞生存性(A, B)および膜破裂(C, D)を示すグラフ。(A, B) 漸増濃度のPD-0184264の存在下でのA549細胞の生存性を示す。(C)および(D)では、LDHアッセイを実施して、阻害剤による膜破裂を決定した。
図16】MEK経路に対するCI-1040およびPD-0184264の阻害効果を示す無細胞キナーゼアッセイ。リン酸化された標的タンパク質ERKの量をELISAアッセイによって決定することにより、キナーゼの活性が測定される。3つの独立した実験系列を実施し、同様の結果が示された。ここでは1つの代表的な実験を提示している。
図17】インビトロアッセイにおけるインフルエンザウイルスH1N1pdm09に対するPD-0184264の抗ウイルス活性。(A) A549細胞にウイルス(MOI=0.001)を感染させて、ウイルス力価の低減を決定した。(B) A549細胞をウイルスRBI (MOI=0.001)に感染させ、様々な濃度のPD-0184264 (100 μM、50 μM、10 μM、5 μM、1 μM、0.5 μMおよび0.1 μM)で処理してEC50値を決定した。(C) A549細胞を様々な濃度のPD-0184264 (100 μM、50 μM、10 μM、5 μM、1 μM、0.5 μMおよび0.1 μM)で24時間処理した後、4時間WST染色してCC50値を決定した。
図18】マウス肺におけるウイルス力価の、PD-0184264によるインビボでの低減。H1N1pdm09ウイルス感染後、雌性C57BL/6マウスを2.8、8.4もしくは25 mg/kgのPD-0184264 (左パネル)または25、75もしくは150 mg/KgのCI-1400 (右パネル)により経口経路で処置した。感染の24時間後に動物を殺処理し、標準的な方法を用いてウイルス力価を決定した。
図19】PD-0184264は、CI-1040よりも良好な生物学的利用能を有する。(A) 雄性NMRIマウスを75 mg/kgのCI-1040 (濃い灰色の領域)または75 mg/kgのPD-0184264により静脈内経路で処置した。投与後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間(試験2日目)の時点で血液を採取し、薬物の存在について血漿を分析した。(B) 雄性NMRIマウスを、強制経口投与を用いて150 mg/kgのCI-1040 (濃い灰色の領域)または150 mg/kgのPD-0184264により経口処置した。投与後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間(試験2日目)の時点で血液を採取し、薬物の存在について血漿を分析した。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
以下の説明は、本発明を理解する際に有用でありうる情報を含む。本明細書において提供される情報のいずれも、特許を請求する本発明に対する先行技術であること、もしくはそれらに関連することを自認するものではなく、または具体的もしくは非明示的に参照されるいずれの刊行物も先行技術であると自認するものではない。
【0025】
上記のように、本発明は、ウイルス性疾患、細菌感染、または細菌感染およびウイルス感染を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264に関する。実施例に示されるように、PD 0184264は細菌キナーゼPknBに作用するようであり、それにより少なくとも部分的にその静菌効果を発揮しうる。
【0026】
また、添付の実施例において実証されるように、PD-0184264は、ウイルスおよび細菌の感染シナリオだけでなく、細菌およびウイルスの重感染シナリオでも効果を示す。この効果は、先行技術において細菌およびウイルス感染の処置について既に知られているMEK阻害剤であるCI-1040よりも驚くほど強力である。実施例9に示される通りのMEKキナーゼに対するCI-1040およびPD-0184264の阻害効果を比較すると、先行技術において当該効果を達成するためにMEK阻害剤が使用されていたことから、実際には反対の結果が予想されるであろう。
【0027】
インビトロアッセイにおいてPD-0184264およびCI-1040の抗ウイルス効果を比較する場合に同じことが当てはまる。ここで、CI-1040は、実施例10から分かるように、PD-0184264よりも効果的である。具体的には、同じ阻害効果を達成するには、インビトロアッセイにおいて10倍高い濃度のPD-0184264が必要とされる。驚くべきことに、インビトロでの阻害が弱いにもかかわらず、実施例11から分かるように、PD-0184264はインビボでCI-1040よりも優れていることが分かった。図18に示されるように、既に2.8 mg/kgのPD-0184264でウイルス力価の低減が示され、25 mg/kgのPD-0184264は、肺でのウイルス力価の少なくとも90%の低減を示す。対照的に、CI-1040は150 μMでのみ同様の低減を示す。さらに、実施例1は、PD-0184264による肺でのウイルス力価の低減を示す。実施例1では、マウスをインフルエンザウイルスに感染させ、それぞれ150 mg/kg、75 mg/kgまたは25 mg/kgのCI-1040またはPD-0184264で処置した。図1に示されるように、既に25 mg/kgのPD-0184264は150 mg/kgのCI-1040と同じ効果を有する。したがって、本発明者らが驚いたことに、以前のインビトロでのデータはPD-0184264での研究を継続するインセンティブを提供していなかったが、PD-0184264はインビボで強力な抗ウイルス効果を示す。この驚くべき効果は、実施例12に示されている、CI-1040と比較したPD-0184264のいっそう高い生物学的利用能に基づきうる。
【0028】
実施例2、4、および6~8は、CI-1040および他のMEK阻害剤と比較しても、PD-0184264の強力な抗菌効果をさらに示す。実施例2では、細菌増殖に対するPD-0184264の効果が分析されている。図2は、PD-0184264が細菌の増殖を阻害するのに対し、CI-1040は細菌増殖に効果を及ぼさないことを示す。図3では、細菌増殖がPD-0184264により濃度依存的に阻害され、50 μM PD-0184264から始めてほぼ完全な増殖阻害を示すことが示されている。同様に、図4も細菌増殖がPD-0184264により濃度依存的に阻害されることを示す-既に10 μM PD-0184264で増殖の有意な低減を示す-その一方でCI-1040は細菌増殖に効果を及ぼさない。実施例4では、PD-0184264の抗菌効果がMEK阻害剤U0126または抗生物質ゲンタマイシンと比較されている。図6は、PD-184264がゲンタマイシンと同様の抗生物質効果を有するのに対し、先行技術から知られているMEK阻害剤U0126は細菌増殖に効果を及ぼさないことを示す。同じことが図7Aにも当てはまり、ここでは細菌の増殖過程がモニタリングされている。図7Bでは、PD-0184264がPD-0184264に対する耐性を誘発しないが、細菌はゲンタマイシンおよびエリスロマイシンに対する耐性を容易に発現することがさらに示されている。したがって、PD-0184264は細菌に耐性を誘発しない。実施例6では、抗生物質に対する細菌の感受性に対するPD-0184264の影響が分析された。図9および表2に示されるように、PD-0184264による処置は実際に、様々な抗生物質に対する細菌の感受性の増加をもたらしたが、これはペニシリンおよびゲンタマイシンの場合に最も顕著であった。さらに、図10は、PD-0184264が細菌のストレス耐性を低下させることを示す。実施例7は、PD-0184264の効果が黄色ブドウ球菌に限定されず、肺炎連鎖球菌(図11AおよびB参照)および枯草菌(図11C参照)などの他の細菌にも効果を及ぼすという証拠を提供する。
【0029】
実施例3および8は、細菌およびウイルスの重感染の状況におけるPD-0184264の有効性を強調している。実施例3は、ウイルスおよび/または細菌感染により誘発された細胞破壊性細胞変性効果(CPE)に関して、PD-0184264の有効性も肉眼的に観察できるかどうかを分析した。図5には、PD-0184264が特に細菌およびウイルスの重感染によって誘発される細胞変性効果を濃度依存的に低減し、既に15 μM PD-0184264で効果を示すことが示されている。同じことは実施例8でも分析され、これにより図13で細菌およびウイルスの重感染シナリオにおけるPD-0184264のプラスの効果が示されている。実施例8では、重感染シナリオにおける細胞内細菌力価に対するPD-0184264の効果がさらに分析された。図14は、PD-0184264が細胞内細菌力価を低減させる一方で、CI-1040は効果を及ぼさないことを示している。さらに、実施例8および図15は、PD-0184264が細胞毒性効果を及ぼさないことを示している。
【0030】
PD-0184264は、本明細書に記載されている医学的状態の処置および/または予防のための方法において用いることができる。したがって、「処置する」または「処置」という用語は、そのような感染を伴う症状を寛解または改善させる目的で、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染に罹患している対象に、PD-0184264を、好ましくは医薬の形態で、投与することを含む。そのような感染を伴う症状を寛解または改善させる目的で、細菌感染に罹患している対象に、PD-0184264を、好ましくは医薬の形態で、投与することが同様に含まれる。そのような感染を伴う症状を寛解または改善させる目的で、ウイルス感染に罹患している対象に、PD-0184264を、好ましくは医薬の形態で、投与することがさらに含まれる。細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染、ウイルス性疾患ならびに細菌感染は、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩によって処置または予防される医学的状態である。
【0031】
さらに、本明細書において用いられる「予防」という用語は、本明細書に記載されている医学的状態を予防することを目的とする任意の医療手順または公衆衛生手順をいう。本明細書において用いられる場合、「予防する」、「予防」および「予防すること」という用語は、所与の状態、すなわち本明細書に記載されているウイルス感染および細菌感染を含む重感染、細菌感染のみまたはウイルス感染のみを獲得または発症する危険性の低減をいう。また「予防」とは、対象におけるインフルエンザウイルス感染および細菌感染を含む重感染、細菌感染のみまたはウイルス感染のみの再発の低減または阻害も意味する。
【0032】
本発明のPD-0184264は、実施例3および8に示されるように重感染の処置に効果的である。本明細書において用いられる「重感染」は、ウイルス性疾患、好ましくはインフルエンザウイルス感染、および細菌感染を含む。そのような重感染は、細菌およびインフルエンザウイルスが、宿主、例えば対象および/または単一細胞に同時感染することによって起こりうる。それはまた、宿主、例えば対象および/または細胞が1つまたは複数のウイルス粒子および1つまたは複数の細菌に同時に感染していることでもありうる。しかしながら、そのような重感染は連続的に起こりうることもある。そのような場合には、対象および/または細胞は最初に1つまたは複数のウイルス粒子に感染し、時間的にその後で、同じ対象および/または細胞が1つまたは複数の細菌に感染するか、またはその逆になる。2つの感染の間の期間は、長くとも14日、13日、12日、11日、10日、9日、8日、7日、6日、5日、4日、3日、2日、1日、12時間、6時間、3時間、1.5時間、または最短でも30分の期間でありうる。
そのような状況はまた、特に、第1の感染に対して用いられた処置に耐性である外因性または内因性由来の異なる微生物因子による第2の感染が、前の感染に重なって起こる重複感染でありうる。
重感染のインフルエンザウイルス感染のなかで、インフルエンザウイルス感染はインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスによって媒介されることができ、好ましくは、インフルエンザA型ウイルスはH1N1、H2N2、H3N2、H5N6、H5N8、H6N1、H7N2、H7N7、H7N9、H9N2、H10N7、N10N8またはH5N1である。1つの態様において、インフルエンザA型ウイルスはH1N1である。他の態様において、インフルエンザA型ウイルスはH3N2、H5N1およびH7N9である。さらなる態様において、インフルエンザA型ウイルスはH3N2、H5N1、H1N1、H5N6、H7N2、およびH7N9である。
【0033】
本発明はまた、上記の重感染の状況で起こりうるか、または宿主、例えば対象および/もしくは細胞に存在する唯一の感染として起こりうる「細菌感染」に関する。細菌感染は、任意の細菌によって媒介されることができ、好ましくは
スタフィロコッカス科、連鎖球菌科、レジオネラ科、シュードモナス科、バシラス科、クラミジア科、マイコプラズマ科、腸内細菌科、シュードモナス目、および/またはパスツレラ科からなる群より選択される細菌によって媒介される。
【0034】
細菌感染は、ブドウ球菌(Staphylococcus)、好ましくは黄色ブドウ球菌、メチシリン感受性およびメチシリン耐性黄色ブドウ球菌、パントン-バレンタインロイコシジン(PVL)発現性の黄色ブドウ球菌および/または連鎖球菌科、好ましくはストレプトコッカス・ミティス(Streptococcus mitis)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)もしくは肺炎連鎖球菌、レジオネラ菌(Legionella)、好ましくはレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、シュードモナス菌(Pseudomonas)、好ましくは緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、バチルス(Bacillus)、好ましくは枯草菌、クラミドフィラ(Chlamydophila)、好ましくは肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumonia)、マイコプラズマ(Mycoplasma)、好ましくはマイコプラズマ肺炎(Mycoplasma pneumonia)、クレブシエラ菌(Klebsiella)、好ましくは肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、モラクセラ(Moraxella)、好ましくはカタラリス菌(Moraxella catarrhalis)および/またはヘモフィルス(Haemophilus)、好ましくはインフルエンザ菌からなる群より選択される細菌によって媒介されうる。好ましくは、細菌は、黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌またはインフルエンザ菌からなる群より選択される。最も好ましくは、細菌は黄色ブドウ球菌である。
【0035】
本発明が同様に関連する「ウイルス性疾患」または「ウイルス感染」は、上記の重感染の状況で起こりうるか、または宿主、例えば対象および/もしくは細胞に存在する唯一の感染として起こりうる。ウイルス性疾患またはウイルス感染は、任意のウイルスによって媒介されうる; 好ましくは、それはインフルエンザウイルスによって媒介される。より好ましくは、インフルエンザウイルス感染は、インフルエンザA型またはインフルエンザB型ウイルスによって媒介され、ここではインフルエンザA型ウイルスが好ましい。インフルエンザA型ウイルスサブタイプH1N1、H2N2、H3N2、H5N6、H5N8、H6N1、H7N2、H7N7、H7N9、H9N2、H10N7、N10N8および/またはH5N1が特に好ましい。
【0036】
代替的な態様において、PD-0184264は、1つまたは複数のMEK阻害剤と組み合わせて投与される。MEK阻害剤は、例えば、U0126、PLX-4032、AZD6244、AZD8330、AS-703026、GSK-1120212、RDEA-119、RO-5126766、RO-4987655、CI-1040、PD-0325901、GDC-0973、TAK-733、PD98059、ARRY-438162、ARRY-162、ARRY-300、PF-3644022およびPD184352を含む。さらなるMEK阻害剤がPD-0184264と同時に、PD-0184264の前にまたは後に投与されうる。
【0037】
好ましくは、PD-0184264は本発明の重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものであり、ここでPD-0184264は、インフルエンザウイルスまたは細菌を標的とする1つまたは複数の阻害剤と組み合わされる。PD-0184264は、インフルエンザウイルスを標的とする1つまたは複数の阻害剤と同時に、その前にまたは後に投与されうる。
【0038】
概して、インフルエンザウイルスを標的とする阻害剤は、インフルエンザ治療に効果的な任意の阻害剤または医薬である。様々な物質が、インフルエンザウイルス感染を低減するのに効果的であることが知られている。それらの中には、例えば、ウイルスノイラミニダーゼに対する阻害剤、ウイルスイオンチャネルタンパク質(M2)を標的とする化合物、およびウイルスポリメラーゼ複合体の成分: PB1、PB2、PAまたはNPと干渉することによってウイルスポリメラーゼ活性またはエンドヌクレアーゼ活性を標的とする化合物がある。本発明により、これらの阻害剤の薬学的に許容される塩も想定される。しかしながら、好ましい阻害剤は、本明細書に記載されているように、MEK阻害剤、特に好ましいPD-0184264である。
【0039】
「MEK阻害剤」は、MEK (分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼキナーゼ)を阻害することにより、細胞におけるまたは対象における分裂促進性シグナル伝達カスケードRaf/MEK/ERKを阻害する。このシグナル伝達カスケードは、ウイルス複製を促進するために、多くのウイルス、特にインフルエンザウイルスによって乗っ取られる。それゆえ、ボトルネックMEKでのRaf/MEK/ERK経路の特異的遮断はウイルス、特にインフルエンザウイルスの増殖を減弱させる。さらに、MEK阻害剤は毒性が低く、ヒトでの副作用をほとんど示さない。ウイルス耐性を誘発する傾向もない(Ludwig, 2009)。特に好ましい阻害剤は、PD-0184264である。
【0040】
「ノイラミニダーゼ阻害剤」は、インフルエンザウイルスを標的とする抗ウイルス薬であり、これは、ウイルスノイラミニダーゼタンパク質の機能を遮断し、それによりウイルスが感染した宿主細胞から放出されるのを防ぐことにより、新たに生成されたウイルスが複製した細胞から出芽できないため、機能する。また、ノイラミニダーゼ阻害剤の薬学的に許容される塩も含まれる。好ましいノイラミニダーゼ阻害剤は、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビルまたはこれらの物質のいずれかの薬学的に許容される塩、例えばリン酸オセルタミビル、カルボン酸オセルタミビルなどである。最も好ましいノイラミニダーゼ阻害剤は、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、オセルタミビル、またはペラミビルである。
【0041】
ウイルスイオンチャネルタンパク質(M2)を標的とする化合物は、例えば、アマンタジンおよび/またはリマンタジンであるが、ウイルスポリメラーゼ複合体の成分PB1、PB2、PAまたはNPと干渉することによってポリメラーゼ活性またはエンドヌクレアーゼ活性を標的とする化合物は、例えば、NP遮断薬ヌクレオジンまたはポリメラーゼ阻害剤T-705 (ファビピラビル)である。
【0042】
さらに、PD-0184264は、細菌を標的とする1つまたは複数の阻害剤と組み合わせることができる。実施例6は、PD-0184264が抗生物質に対する細菌の感受性を増加させることを示している。細菌を標的とする阻害剤は、細菌感染を低減するのに効果的な任意の阻害剤とすることができる。本発明では、細菌を標的とする阻害剤としてPD-0184264が強く好ましいが、当業者に知られている細菌を標的とする別の阻害剤は抗生物質である。好ましい抗生物質は、表1(図12)から得ることができる。したがって、1つの態様において、抗生物質は、表1(図12)に挙げられている抗生物質からなる群より選択される。さらなる態様において、抗生物質は、表1(図12)に挙げられている抗生物質のクラスからなる群より選択される。別の態様において、抗生物質は、表1(図12)に挙げられている抗生物質の一般名からなる群より選択される。ゲンタマイシン、リファンピシン、リゾスタフィン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、バンコマイシン、テイコプラニン、ペニシリンおよびオキサシリンから選択される抗生物質がより好ましい。
【0043】
本発明の阻害剤、特にMEK阻害剤、または阻害剤の組み合わせによって処置されうる「対象」は、好ましくは、脊椎動物である。本発明の文脈において、「対象」という用語は、本明細書に記載されている重感染または細菌感染もしくはウイルス感染のみの処置を必要とする個体を含む。好ましくは、対象は、重感染または細菌感染もしくはウイルス感染のみに罹患している患者あるいはその危険性のある患者である。好ましくは、患者は脊椎動物、より好ましくは哺乳類である。哺乳類には、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、マウス、およびラットが含まれるが、これらに限定されることはない。好ましくは、哺乳類は、ヒト、ウマ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、マウス、ラットなどであり、特に好ましくは、ヒトである。いくつかの態様において、対象はヒト対象であり、これは任意で1歳超かつ14歳未満、50歳から65歳の間、18歳から50歳の間、または年齢65歳超であってもよい。他の態様において、対象はヒト対象であり、これは、少なくとも50歳である対象、長期療養施設に居住する対象、肺または心血管系の慢性障害を有する対象、慢性代謝性疾患、腎機能障害、異常ヘモグロビン症または免疫抑制のために、前年中に定期的な医学的経過観察または入院を必要とした対象、年齢14歳未満の対象、長期アスピリン療法を受けている年齢6ヶ月~18歳の対象、およびインフルエンザ流行期の間に妊娠第2期または第3期にあろう女性からなる群より選択される。本発明の方法において、PD-0184264は、経口的に、静脈内に、胸腔内に、筋肉内に、局所に、または吸入によって投与されうる。好ましくは、PD-0184264は、吸入によって、局所にまたは経口的に投与される。
【0044】
本発明はまた、様々な組成物、好ましくは薬学的組成物を想定する。本発明は、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのPD-0184264を含む組成物に関する。本発明は同様に、細菌感染および/またはウイルス性疾患の予防および/または処置の方法における使用のためのPD-0184264を含む組成物に関する。また、本発明により細菌感染およびウイルス感染、特にインフルエンザウイルス感染を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264ならびにウイルス、特にインフルエンザウイルスおよび/または細菌を標的とする1つまたは複数の阻害剤を含む組成物も提供される。加えて、本発明は、細菌感染またはウイルス感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264および細菌を標的とする1つまたは複数の阻害剤を含む組成物に関する。
【0045】
上記のように、PD-0184264ならびに細菌を標的とする1つもしくは複数の阻害剤および/またはウイルスを標的とする1つもしくは複数の阻害剤を最終的に含む組成物は、薬学的組成物でありうる。薬学的組成物の好ましい態様は、PD-0184264およびインフルエンザウイルスを標的とする阻害剤、特にノイラミニダーゼ阻害剤を含む。別の態様において、薬学的組成物はPD-0184264およびさらなるMEK阻害剤を含む。好ましくは、そのような組成物は、担体、好ましくは薬学的に許容される担体をさらに含む。組成物は、経口投与可能な懸濁液もしくは錠剤、鼻腔用スプレイ、吸入装置用調製物、滅菌注射用調製物(静脈内、胸膜内、筋肉内)、例えば滅菌注射用水性もしくは油性懸濁液または坐剤の形態でありうる。
【0046】
本発明の使用のための薬学的組成物であって、PD-0184264、ならびに任意でインフルエンザウイルスを標的とする1つもしくは複数の阻害剤および/または細菌を標的とする1つもしくは複数の阻害剤を含む、薬学的組成物は、哺乳類または鳥類である患者に投与される。適当な哺乳類の例としては、マウス、ラット、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ウマ、モルモット、イヌ科動物、ハムスター、ミンク、アザラシ、クジラ、ラクダ、チンパンジー、アカゲザル、およびヒトが挙げられるが、これらに限定されることはなく、ヒトが好ましい。適当な鳥類の例としては、例を挙げれば、七面鳥、ニワトリ、ガチョウ、カモ、コガモ、マガモ、ムクドリ、オナガガモ、カモメ、ハクチョウ、ホロホロチョウまたは水鳥が挙げられるが、これらに限定されることはない。ヒト患者は、本発明の特定の態様である。
【0047】
阻害剤は、好ましくは、治療有効量で投与される。当業者には明らかであるように、PD-0184264または各活性化合物/阻害剤の「治療有効量」は、使用される化合物の活性、患者の体内での活性化合物の安定性、軽減させたい状態の重篤度、処置される患者の総体重、投与経路、身体による化合物の吸収、分配および排出の容易性、処置される患者の年齢および感受性、有害事象などを含むが、これらに限定されない、要因によって変化しうる。投与量は、様々な要因が経時変化するのに合わせて調整することができる。
【0048】
本明細書に記載されている阻害剤、方法、および使用は、ヒトの治療および獣医用途の両方に適用可能である。所望の治療活性を有する、本明細書に記載されている化合物、特にPD-0184264、ならびに任意でインフルエンザウイルスを標的とする1つもしくは複数の阻害剤および/または細菌を標的とする1つもしくは複数の阻害剤は、本明細書に記載されているように、対象に生理学的に許容される担体中で投与されうる。導入の様式に依って、化合物は、以下に議論されるように種々の方法で処方されうる。処方物中の治療的に活性な化合物の濃度は、約0.1~100重量%まで変化しうる。薬剤は、単独でまたは他の処置との組み合わせで投与されうる。実施例1は、25および75 mg/kgのPD-0184264が経口投与によりインビボで効果的であることを示している。したがって、PD-0184264は、10~100 mg/kgのPD-0184264の範囲の、好ましくは25~75 mg/kgのPD-0184264の範囲の投与量で投与されうる。
【0049】
本発明の方法における薬学的化合物は、任意の適当な単位投与剤形で投与することができる。適当な経口処方物は、錠剤、カプセル剤、懸濁液、シロップ剤、チューインガム、オブラート、エリキシル剤などの形態でありうる。結合剤、賦形剤、滑沢剤、および甘味剤または着香剤などの薬学的に許容される担体を、経口薬学的組成物に含めることができる。望ましいなら、特別な剤形の味、色、および形状を改変するために従来の薬剤を含めることもできる。注射用処方物の場合、薬学的組成物は、適当なバイアルまたはチューブ中で適当な賦形剤と混合される凍結乾燥された粉末でありうる。診療所で使用する前に、凍結乾燥された粉末を適当な溶媒系に溶解することにより薬物を再構成して、静脈内または筋肉内注射に適した組成物を形成させてもよい。
【0050】
PD-0184264と抗ウイルス剤(例えば、ノイラミニダーゼ阻害剤、例えばオセルタミビル)との組み合わせは、相乗効果をもたらす。この相乗効果は抗ウイルス効果の増大でありえ、例えば、ウイルス力価の低減または治療濃度域の延長をもたらす。したがって、本発明はまた、PD-0184264の治療有効量、ならびにオセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ラニナミビル、ザナミビルおよびペラミビルの群より選択されるノイラミニダーゼ阻害剤の治療有効量を含む、薬学的組成物に関する。
1つの態様において、組成物は、上記のように、ノイラミニダーゼ阻害剤の治療有効量(例えば、0.1 mgから2000 mg、0.1 mgから1000 mg、0.1 mgから500 mg、0.1 mgから500 mg、0.1 mgから200 mg、30 mgから300 mg、0.1 mgから75 mg、0.1 mg から30 mg)を有する経口投与可能な剤形(例えば、錠剤またはカプセル剤またはシロップ剤など)でありうる。
【0051】
さらなる態様において、PD-0184264は、本発明の重感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものであり、PD-0184264を、
a) インフルエンザウイルス
b) 細菌
に感染した培養細胞を含むインビトロの試験システムに接触させた場合に、PD-0184264は、接触前のインビトロの試験システムと比較してウイルス感染および細菌感染の両方を低減する。別の態様において、PD-0184264は本発明の細菌感染の予防および/または処置の方法における使用のためのものであり、PD-0184264を、細菌に感染した培養細胞を含むインビトロの試験システムに接触させた場合に、PD-0184264は、接触前のインビトロの試験システムと比較して細菌感染を低減する。
【0052】
したがって、本発明はまた、
a) インフルエンザウイルスおよび
b) 細菌
に感染した培養細胞を含むインビトロの試験システムに関する。これに従って、本発明はまた、細菌に感染した培養細胞を含むインビトロの試験システムを提供する。
【0053】
インビトロの試験システムがウイルス感染および細菌感染を含む場合、かさねて、これらの感染は順次または同時に起きている可能性がある。
【0054】
「培養細胞」は、その自然環境に、例えば植物または動物内に存在しない、細胞である。むしろ、培養細胞は、その自然環境から単離された細胞を含む初代細胞培養物、または細胞株でありうる。好ましくは、培養細胞はヒト肺上皮細胞である。好ましくは、培養細胞は、DMEMなどの培地0.5 ml、1 ml、1.5 ml、2 ml、2.5 ml、3 ml、3.5 ml、4 ml中に約1×105、2×105、3×105、4×105、5×105、6×105、7×105、8×105、9×105、10×105、11×105、最も好ましくは8×105個の細胞の密度で播種される。最も好ましいのは、DMEM 2 ml中に8×105個の細胞の密度である。
【0055】
そのような培養細胞は、ウイルスおよび細菌に感染し、または他の態様において細菌のみに感染する。既に上述したように、重感染は、連続的または同時的な形で起こりうる。例えば、培養細胞は、最初にインフルエンザウイルスに感染し、30分後に細菌に感染しうる。3時間後に抗生物質を培養液に追加して細胞外細菌を除去することも可能である。そのようなシナリオでは、その後、抗生物質は再び洗い流されよう。他の態様において、細胞は細菌に感染するのみである。
【0056】
本明細書において用いられる「接触させる」という用語は、インフルエンザウイルスおよび細菌を含む細胞を空間的にPD-0184264に近接させることをいう。これは、例えば、培養細胞が注射器を介して配置されている培地に阻害剤を適用することを意味しうる。
【0057】
1つの態様において、ウイルス感染の低減はプラーク形成単位(PFU)/mlの低減であり、細菌感染の低減はコロニー形成単位(CFU)/mlの低減である。「プラーク形成単位」は、単位体積当たりのプラークを形成できる粒子(例えばウイルス粒子)の数の尺度である。これは、粒子の絶対量の測定ではなく、機能的な測定である: 欠陥のあるウイルス粒子またはその標的細胞に感染しないウイルス粒子は、プラークを生成せず、したがって計数されない。例えば、1,000 PFU/μlの濃度を有するインフルエンザウイルスの溶液は、溶液1μlが細胞単層中に1000個の感染性プラークを生成するのに十分なウイルス粒子を保有することを示す。本発明の場合、阻害剤で処理した細胞培養物は、PD-0184264で処理する前の培養物と比較して、処理後の培養物中のプラーク形成単位の数の低減を示す。
生じうる「プラーク形成単位(PFU)/mlの低減」は、以下の方法で分析される。最初に、インフルエンザウイルスおよび細菌に重感染している培養細胞を、プラーク形成単位(PFU)/mlを生成するその能力について、例えばペトリ皿からいくつかの細胞を吸い取り、形成される細菌プラークの計数のためにプレーティングすることにより分析する。次いで、この結果を、阻害剤が適用された後の同じ培養物の細胞によって生成されたプラーク形成単位(PFU)/mlの数と比較する。阻害剤での処理後にプラーク形成単位(PFU)/mlの数が、阻害剤の適用前に生成された数と比較して低減するなら、プラーク形成単位の低減が認められる。
【0058】
「コロニー形成単位(CFU)/ml」は、サンプル中の生存細菌の数を推定する。異なる方法が存在する。例えば、コロニー形成単位を生成するために、サンプル(例えば、少量の培養細胞)を栄養寒天プレートの表面に広げ、計数のためのインキュベーションの前に乾燥させる。生存可能な細菌は、制御された条件下で二分裂を介して増殖する能力として定義される。細胞培養物中のコロニーが視認できるためには、著しい増殖が必要とされる-コロニーを計数する場合、コロニーが1つの細胞または1,000個の細胞から生じたかどうかは不明である。それゆえ、結果は、この不明であることを反映するように(細胞/mlまたは細胞/gではなく)液体についてはCFU/ml (コロニー形成単位/ミリリットル)および固体についてはCFU/g (コロニー形成単位/グラム)として報告される。
【0059】
「コロニー形成単位(CFU)/ml」は、以下の方法で分析することができる。最初に、インフルエンザウイルスおよび細菌に重感染している、または細菌のみに感染している培養細胞を、コロニー形成単位(CFU)/mlを生成するその能力について、例えばペトリ皿からいくつかの細胞を吸い取り、計数のためにプレーティングすることにより分析する。次いで、この結果を、阻害剤が適用された後の同じ培養物の細胞によって生成されたコロニー形成単位(CFU)/mlの数と比較する。コロニー形成単位(CFU)/mlの数が、阻害剤の適用前に生成された数まで低減するなら、低減が認められる。
【0060】
概して、当業者は、細菌感染およびウイルス感染を分析するこれらの周知の技法を承知している。プラーク形成単位(PFU)/mlおよびコロニー形成単位(CFU)/mlを測定できる方法は、文献(Tuchscherr et al. 2011、Hrincius et al. 2010)にさらに記載されている。
【0061】
本発明の目的のために、上記で定義された活性化合物はまた、薬学的に許容されるその塩を含む。本明細書において用いられる「薬学的または美容的に許容される塩」という語句は、所望の投与形態にとって安全かつ効果的な本発明の化合物の塩を意味する。薬学的に許容される塩は、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するものなどの陰イオンと共に形成されるもの、およびナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するものなどの陽イオンと共に形成されるものを含む。
【0062】
本発明は、以下の項によっても特徴付けられる:
1. ウイルス性疾患の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

2. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、項1記載の使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

3. ウイルスがインフルエンザウイルスである、項1または2記載の使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

4. インフルエンザウイルスがインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、項1~3のいずれか一項記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

5. 細菌感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

6. 細菌感染が、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)および/またはパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される、項5記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

7. 細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置の方法における使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

8. 細菌感染が、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)および/またはパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される、項7記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

9. ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、項7または8記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

10. ウイルス感染がインフルエンザウイルスによって引き起こされる、項7~9のいずれか一項記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

11. ウイルス感染がインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスによって引き起こされる、項7~10のいずれか一項記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

12. ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、項1~4および7~11のいずれか一項記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

13. ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビルもしくはペラミビルまたは薬学的に許容されるその塩から選択される、項12記載の使用のためのPD-0184264または薬学的に許容されるその塩。

14. PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む薬学的組成物。

15. PD-0184264または薬学的に許容されるその塩およびノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩を含む、薬学的組成物。

16. さらなるMEK阻害剤を含む前記項のいずれかの使用。

17. 対象、好ましくは脊椎動物における前記項のいずれか一項記載の使用のための、PD-0184264または薬学的に許容されるその塩。
【0063】
本明細書において用いられる場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」という単数形は、文脈上明らかにそうでないことが示されない限り、複数の指示対象を含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「試薬」に対する言及は、そのような異なる試薬の1つまたは複数を含み、「方法」に対する言及は、変更できる、または本明細書に記載されている方法の代わりに用いることができる当業者に公知の同等の段階および方法に対する言及を含む。
【0064】
本開示において引用されている全ての刊行物および特許は、参照によりその全体が組み入れられる。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾するか、または合致しない限りにおいて、本明細書がそのようないずれの資料にも優先する。
【0065】
特に示されていない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、その一連のものにおける各要素を指すものと理解されるべきである。当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的な態様に対する多くの等価物を認識するか、または単なる通常の実験を用いてその等価物を確認できるであろう。そのような等価物は本発明によって包含されるものと意図される。
【0066】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲の全体において、特に文脈上必要ない限り、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などの変化形は、記載される整数もしくは段階または整数もしくは段階の群の包含を示唆するが、しかし他のいずれの整数もしくは段階または整数もしくは段階の群の除外を示唆するものではないと理解されるであろう。本明細書において用いられる場合、「含む」という用語は、「含有する」という用語で置き換えることができ、または本明細書において用いられる場合には「有する」という用語で置き換えることもできる。
【0067】
本明細書において用いられる場合、「からなる」は、特許請求の範囲の要素において特定されていない任意の要素、段階または成分を除外する。本明細書において用いられる場合、「から本質的になる」は、特許請求の範囲の基本的かつ新規な特徴に著しく影響を及ぼさない材料または段階を排除するものではない。
【0068】
本明細書における各事例において、「含む」、「から本質的になる」および「からなる」という用語のいずれも、他の2つの用語のいずれかと置き換えられうる。
【0069】
本明細書の本文全体を通じていくつかの文書が引用される。本明細書において引用される文書(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造元の仕様書、説明書などを含む)の各々は、上記または下記にかかわらず、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。先行発明を理由として本発明がそのような開示に先行する資格がないことの自認であると解釈すべきものは、本明細書にはない。
【実施例0070】
以下の実施例は本発明を例示する。これらの実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。実施例は例示の目的で含まれており、本発明は特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0071】
実施例1: PD-0184264によるマウスの処置は、肺におけるウイルス力価の低減をもたらす
8週齢C57BL/6マウス(1群あたり5匹)に1.5×105 PFU (5× MLD50)のインフルエンザウイルス株A/Regensburg/D6/2009, (RB1, H1N1pdm09)を感染させた。感染の1時間前から始めて8時間間隔で、150 mg/kgのCI-1040、75 mg/kgのCI-1040、25 mg/kgのCI-1040、75 mg/kgのPD0184264、25 mg/kgのPD0184264、または溶媒(対照): DMSO 50μl/Cremophor 150μl/PBS 800μlのいずれかによりマウスを処置した。全ての動物に経口で200μlの容量を与えた。感染の24時間後にマウスを殺処理し、肺を秤量し、Lysing Matrix D tube (MP Bio)に移入し、肺の10倍容量のBSS(緩衝塩溶液)をサンプルに適用した。FastPrep FP 120 (Savant)を用いて臓器を細断した。細胞残屑を除去するために、ホモジネートを2000 rpmで15分間遠心分離し、上清を収集した。ホモジネート中のウイルス力価の決定は、AVICEL(登録商標)プラークアッセイを用いて実施された。結果は、図1にウイルス力価(log10) pfu/ml (左)またはウイルス力価%(右)として提示されている。ウイルス力価は2人の研究者により独立して決定された。全ての力価測定の平均値を提示した。
【0072】
実施例2: CI-1040またはPD-0184264の投与は、インビトロでMRSAを含む細菌の増殖に対する阻害効果を示す
CI-1040またはPD-0184264が細菌増殖に及ぼす効果を一般的に調べるため、黄色ブドウ球菌MRSA株(USA300)の無細胞終夜培養物に、50 μMのCI-1040もしくはPD-0184264または同じ容量(40μl)のDMSO(溶媒として機能)を補充した(図2)。細菌の増殖を360分間モニタリングした。PD-0184264は細菌の増殖に強い影響を与え、当該増殖は観察期間全体にわたってほぼ完全になかった。CI-1040は、図2から分かるように、溶媒対照と比較して、実験開始120分後に始めてMRSAの増殖をわずかに阻害した。これは、細胞内でのMEKの遮断に加えてPD-0184264だけでなくCI-1040も細菌の増殖に関与する細菌成分を遮断することを示している。
【0073】
細菌の増殖を阻害するために必要とされるPD-0184264の濃度を調べるために、PD-0184264を(図3に示されているとおりの)様々な濃度で黄色ブドウ球菌USA300 (MRSA)の終夜培養物に投与した。MRSA細菌を0~100 μMの範囲の様々な濃度のMEK阻害剤と共にインキュベートし、培養6時間後に細菌の増殖をモニタリングした。細菌増殖の50%を阻害するために必要とされる濃度は、15~25 μMの範囲であった。
【0074】
これらのデータは、わずかに異なる実験設定で検証され、処置後の後の時点でODの代わりに実際の細菌力価を決定することができる。黄色ブドウ球菌6850の日中培養物を20 CFU/mlに設定し、37℃および5% CO2で、示されるように様々な濃度のCI-1040で終夜処理した。次に、光学濃度(OD600)を測定した。残りの培養物をPBSで洗浄し、連続希釈液をBHI寒天プレートにかけた。細菌力価は、1 mlあたりのコロニー形成単位(CFU/ml)として示されている。結果は、2つの技術的反復による3つの独立した生物学的実験の平均 + SDを表し、図4Aに示されている。さらに、黄色ブドウ球菌6850(図4B)またはMRSA株USA300(図4C)の日中培養物を20 CFU/mlに設定し、37℃および5% CO2で、示されるように様々な濃度のPD-0184264で終夜処理した。午前中に、光学濃度(OD600)を測定した。残りの培養物をPBSで1回洗浄し、連続希釈液をBHI寒天プレートにかけた。細菌力価はコロニーカウンター「プロトコル3(protocol3)」を用いて決定されたものであり、対数目盛りで1 mlあたりのコロニー形成単位(CFU/ml)として示されている。結果は、2つの技術的反復による3つの独立した生物学的実験の平均±SDを表す。統計的有意性は、一元ANOVAとそれに続くダネットの多重比較検定によって分析された。CI-1040(図4A)およびPD-0184264(図4B, C)の両方とも、黄色ブドウ球菌株6850(図4A, B)およびMRSA株USA 300(図4C)に対するこれらのアッセイにおいて効果的であった。20 μMのPD-0184264では、最大1.5~2桁倍までの非常に強い力価低減を検出することができた(図4B, C)。
【0075】
実施例3: 単独感染細胞または重感染細胞へのPD-0184264の投与は、IAVおよび/または黄色ブドウ球菌の細胞変性効果から細胞を保護する
PD-0184264の抗ウイルス効果と強力な抗菌効果(上記の実施例2における図2~4)を考慮して、本発明者らは、IAV(インフルエンザA型ウイルス)および/または黄色ブドウ球菌感染によって誘発される細胞破壊性細胞変性効果(CPE)に関して、化合物のこの特徴も肉眼的に観察できるかどうかを分析した。ヒト肺上皮細胞(A549)をPD-0184264 (表示された濃度で)または溶媒(DMSO)で前処理し、37℃にて感染多重度(MOI=0.001)でヒトインフルエンザウイルス株A/Puerto Rico/8/34 (H1N1)に感染させた。30分後、ウイルス希釈液を除去し、細胞をPBSで洗い流し、表示された濃度の阻害剤または溶媒対照の存在下で黄色ブドウ球菌6850 (MOI=0.1)を有するまたは有しない浸潤培地DMEM/INV (1%ヒト血清アルブミン、25 nM HEPESを含有する)を補充した。細菌感染の3時間後、細胞を、10% FBS、2 μg/mlリゾスタフィンを含有するDMEM/FBSで20分間処理して、細胞外細菌を除去した。PBSでさらに洗浄した後、細胞に、阻害剤または溶媒を含有する感染培地DMEM/BA (0.2% BA、1 mM MgCl2、0.9 mM CaCl2、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシン)を補充した。37℃で24時間のインキュベーション期間の後、細胞の形態を光学顕微鏡により調べた。図5に示されるように、IAV (H1N1)または黄色ブドウ球菌株6850の単独感染後に、細胞単層のわずかな破壊が観察された。このCPEは、両病原体の重感染時に強く増大した(下のパネル)。しかしながら、MEK阻害剤の量の増加により、細胞単層が損なわれないままで、細胞が丸みの少ない形状であったため、この表現型は濃度依存的に決定される可能性がある。PD-0184264のこの細胞保護効果は、その抗ウイルス特性および抗菌特性を完全に反映している(図5)。
【0076】
実施例4: PD-0184264および一般的な抗生物質の抗菌作用の比較
MEK阻害剤PD0184164の抗菌特性を一般的な抗生物質の作用と比べるために、本発明者らは、溶媒、MEK阻害剤U0126およびPD-0184264、または種々の濃度の抗生物質ゲンタマイシンで細菌を終夜処理した。黄色ブドウ球菌6850またはMRSA株USA300の日中培養物を20 CFU/mlに設定し、37℃および5% CO2で、表示のようにMEK阻害剤U0126およびPD-0184264または抗生物質ゲンタマイシンで終夜処理した。午前中に、光学濃度(OD600)を測定した。残りの培養物をPBSで1回洗浄し、次いで連続希釈液をBHI寒天プレートにかけた。細菌力価はコロニーカウンター「プロトコル3(protocol3)」を用いて決定されたものであり、1 mlあたりのコロニー形成単位(CFU/ml)として示されている。図6に示された結果は、2つの技術的反復による3つの独立した生物学的実験の平均±SDを表す。統計的有意性は、一元ANOVAとそれに続くダネットの多重比較検定によって分析された。溶媒で処理された細菌と比較して、第1世代のMEK阻害剤U0126とのインキュベーションは細菌力価のわずかな低減のみをもたらしたが、PD-0184264による処理は先に図4に示されたのと同様に細菌負荷の非常に強力な低減をもたらした。これは両方の細菌株に当てはまった。予想通り、1 μg/mlより高い濃度でのゲンタマイシン処理により両細菌株の増殖が強く阻害され、この抗生物質の抗菌作用は黄色ブドウ球菌6850の場合の方が高かった。0.5 μg/mlのゲンタマイシンでは、両株について細菌力価の低減を検出することができなかった。要約すると、細菌の増殖に対するMEK阻害剤PD-0184264の影響は、低濃度の抗生物質ゲンタマイシンとほぼ同じくらい有効であった。
【0077】
PD-0184264の抗菌作用を他のMEK阻害化合物または抗生物質ゲンタマイシンとさらに比較するために、添加時間アッセイを実施した(図7a)。黄色ブドウ球菌6850の終夜培養物を、溶媒DMSOのみ、またはMEK阻害剤U0126およびPD-0184264のうちの一方、または2つの異なる濃度(0.5もしくは2 μg/ml)の抗生物質ゲンタマイシンと共にBHI培地15 mlを含有する6つの継代培養物に分けた。様々な化合物の添加直後に、OD600を測定し、連続希釈液をBHI寒天プレートにかけて、細菌力価を計算した。残りの培養物を物質または溶媒のみの存在下37℃で5% CO2と共にさらにインキュベートした。この手順を接種後3時間および6時間で2回繰り返した。細菌力価はコロニーカウンター「プロトコル3(protocol3)」を用いて決定されたものであり、1 mlあたりのコロニー形成単位(CFU/ml)として示されている。MEK阻害剤PD-0184264による処置は、他の全ての化合物と比較して細菌増殖の最も強い阻害を示した。その後、培地交換を実施し、いずれの物質の添加もせずに培養物をさらにインキュベートした。全ての培養物は、以前に溶媒処理された培養物の濁度に達したが、これによりMEK阻害剤PD-0184264が殺菌作用ではなく静菌作用を示すことが示唆される。
【0078】
一般的に使用されている種々の抗生物質に対する耐性発現は定期的に発生し、診療所では大きな問題である。MEK阻害剤PD0184264が黄色ブドウ球菌での耐性発現を引き起こすかどうかを試験するために、培養物を阻害剤、ゲンタマイシン、エリスロマイシンの存在下でほぼ3週間継続的に処理するか、未処理のままにした。具体的には、培養物を物質の存在下または非存在下で24時間増殖させ、OD600を測定してから、培養物を20 CFU/mlに設定し、再度24時間増殖させた。この手順を17日間繰り返した。データは、3つの独立した実験の平均 + SDを表す。統計的有意性は、一元ANOVAとそれに続くダネットの多重比較検定によって分析された( p < 0.05; ** p < 0.01; *** p < 0.001; **** p < 0.0001)。ゲンタマイシンで見られたように、耐性発現は、マクロライド抗生物質エリスロマイシンとは対照的に処置第1週の間に生じた。特に、MEK阻害剤による処理は耐性を誘発しなかった(図7bに示される結果を参照のこと)。
【0079】
実施例5: 細菌キナーゼPknBは細菌におけるPD-0184264の標的でありうる
阻害剤PD-0184264は、哺乳類に存在するキナーゼMEKに特異的であると考えられている。その直接的な抗菌効果は、原核生物での作用機序に関する問題を提起し、すなわち、PD-0184264によって同様に特異的な標的とされうるMEK様の細菌成分が存在するかということである。この点で、細菌セリン/スレオニンキナーゼPknBが調査の焦点になった。このキナーゼは細胞セリン/スレオニンキナーゼ、より正確には、哺乳類細胞におけるMEK標的であるMAPキナーゼ、例えばp38、JNK、およびERK (Miller et al., 2010、Rakette et al. 2012)と高い構造的および機能的類似性を示す(図8)。興味深いことに、このキナーゼは自己リン酸化によって活性化されることが示されているため、MEK様活性を示すことが強く示唆されている。
【0080】
実施例6: PD-0184264は、抗生物質に対する黄色ブドウ球菌の感受性を高め、細菌のストレス耐性を低減する
3つのペニシリン結合ドメイン(PASTA)の発現により(図8, 上パネル参照)、PknBは抗生物質感受性の調節に関与している。キナーゼの欠如は、様々な抗生物質、特に種々のβ-ラクタムに対する感受性の増大をもたらすことを明らかにすることができている(Tamber et al. 2010)。MEK阻害剤PD-0184264による細菌の処理が細菌キナーゼに影響を及ぼすことができ、キナーゼのノックアウトと同様の表現型をもたらすかどうかを調べるために、細菌培養物を溶媒(DMSO)または20 μMのPD-0184264で終夜処理し、次いで様々な抗生物質の最小阻害濃度(MIC)を決定するために用いた。黄色ブドウ球菌6850の日中培養物を20 CFU/mlに設定し、37℃および5% CO2にて、溶媒(DMSO)またはMEK阻害剤PD-0184264のいずれかで終夜処理した。午前中に、光学濃度(OD600)を測定した。簡単に言うと、溶媒および阻害剤で処理した培養物をPBSで1回洗浄し、1:1の希釈液をBHI寒天プレートにかけた。接種直後に、様々な抗生物質(Thermo Fischer Scientific)のMIC試験ストライプをプレートの中央に配置し、次に37℃で18~24時間インキュベートした。37℃で18時間のインキュベーション後、プレートの目視分析によってMIC濃度を決定した。増殖阻害がもはや見られなくなった濃度を、各個々の抗生物質のMICと呼んだ。PD-0184264による処理は実際、様々な抗生物質に対する細菌の感受性の増加をもたらし、これはペニシリンおよびゲンタマイシンの場合に最も顕著であった(図9、表2)。この結果は、キナーゼを欠く変異株で生成された既報のデータ(Tamber et al. 2010)と完全に一致している。
【0081】
(表2)PD0184264による終夜処理後のMICの決定
【0082】
PD-0184264での処置時に観察された抗生物質感受性の増加は、キナーゼを欠いている細菌の表現型(Tamber et al. 2010)と一致しており、PknBが阻害剤によって直接標的とされる可能性があることを強く示唆している。キナーゼは細菌のストレス耐性に重要な役割を果たすことが知られているため、細菌を阻害剤PD-0184264で処理した後に、熱ストレス下での細菌増殖をモニタリングした。黄色ブドウ球菌株6850およびMRSA株USA300を、溶媒または20 μMのPD-0184264のいずれかで終夜処理した。翌日、同量の細菌での継代培養物を調製(OD600によって確認し、BHI寒天上にプレーティング)し、42℃で6時間さらにインキュベートした。次に、BHI寒天プレート上での連続希釈液のプレーティングにより細菌力価を計算した。図10に示されるように、PD-0184264で処理された細菌は、これらの条件下で、溶媒で処理された病原体と比較して強力に弱められた。このことは、メチシリン感受性株6850 (黒色バー)およびMRSA株USA300 (灰色バー)の両方で観察されている。阻害剤の存在下でのストレス耐性の障害は、PD-0184264がストレス耐性の重要なメディエータであるキナーゼPknBを直接標的とすることの別の表れである。要約すると、データから、PD-0184264が細菌キナーゼPknBの阻害によってその抗菌作用を誘発するという強力な状況証拠が提供される。
【0083】
実施例7: PD-0184264の投与は、肺炎連鎖球菌および枯草菌の増殖に対して阻害効果を示す
黄色ブドウ球菌の他に、患者でのインフルエンザウイルス(IV)感染後に二次的細菌性肺炎を引き起こすことが知られている他の細菌がある。これに関連して最も豊富な病原体は、肺炎連鎖球菌である。これらの細菌は、市中肺炎の最も一般的な原因である。黄色ブドウ球菌とは対照的に、肺炎連鎖球菌による二次感染はIV後の遅い段階で発生するため、インフルエンザ後肺炎の終末に相当する。
【0084】
黄色ブドウ球菌と同様に、肺炎連鎖球菌株の大部分は、異なる属間で高度に保存されている、PknBなどの真核生物様セリン/スレオニンキナーゼを発現する。さらに、これらのキナーゼは、細胞MAPキナーゼ(例えばERK、JNK、p38)と高い相同性を共有している。様々な黄色ブドウ球菌株を用いて得られた実施例2~6に示される結果は、観察された表現型におけるPknBなどの細菌キナーゼの関与を示した、細菌増殖に対するPD-0184264処理の阻害効果を既に実証した。驚くべきことに、黄色ブドウ球菌PknBの相同体も肺炎連鎖球菌に存在し、これらの細菌もPD-0184264に感受性でありうることを示唆している。そこで、様々な肺炎連鎖球菌株に対するPD-0184264の影響を分析した。肺炎連鎖球菌株は、病毒性および全体的な病原性が異なる様々な血清型に分類することができる。血清型または菌株に依存しない効果を試験するために、本発明者らは、ともに病毒性であるが異なる血清型に属するカプセル化された菌株D39およびTIGR4を用いた。PD-0184264による処置は、異なる血清型の肺炎連鎖球菌の増殖を減弱させることが分かった。具体的には、肺炎連鎖球菌株TIGR4 (血清型4)およびD39 wt (血清型2)の日中培養物を光学密度(OD600)= 1に設定し、BHI培地中で2000分の1希釈し、示されるように溶媒(DMSO)または様々な濃度の特定のMEK阻害剤PD0184264 (PD; CI-1040の活性代謝産物)で終夜処理した。次いで、OD600を再度測定し(図11Aに示した結果)、希釈系列をBHI寒天プレートにかけて、細菌力価を決定した(図11Bに示した結果)。結果として、両方の血清型がPD-0184264に感受性であることを実証することができた(図11a, b)。
【0085】
同じことが枯草菌にも当てはまり、これについても生菌数の強力な減少が10 μM PD-0184264の存在下で観察され、より高濃度では完全に廃絶された(図11cにおける結果を参照のこと)。具体的には、枯草菌に対する潜在的な抗菌効果を試験するために、枯草菌の終夜培養物を(示されているように)溶媒または様々な濃度のMEK阻害剤PD-0184264と共に18時間インキュベートした。その後、OD600の測定およびBHI寒天プレート上での連続希釈液のプレーティングにより、細菌負荷を決定した。図11に示されるデータは、3つの独立した実験の平均 + SDを表す。
【0086】
要約すると、これらのデータは、抗菌処理におけるPD-0184264の幅広い適用性を示している。
【0087】
実施例8: CI-1040ではなくPD-0184264は細胞内細菌力価を低下させる
インフルエンザウイルス(IV)感染は、抗ウイルス性サイトカイン、最も重要なことには、重要な下流の抗ウイルス応答を活性化し、また、その後の細菌感染を増強しうるI型IFNの発現の増強をもたらす。CI-1040またはPD-0184264による処理が二次性黄色ブドウ球菌感染に対して細胞を感作するかどうかを確かめるため、不死化ヒト肺胞基底上皮細胞(A549)の細胞培養物に阻害剤の存在下または非存在下においてインフルエンザIVおよび黄色ブドウ球菌を感染させた。具体的には、A549細胞を10 μMの特定のMEK阻害剤PD-0184264または溶媒対照としてDMSOで1時間、前処理した。その後、細胞をPBSで洗い流し、37℃、5% CO2で30分間インフルエンザウイルス(IV) (表示の通りのMOI)に感染させた。続いて、細胞をPBSで洗浄し、阻害剤の存在下または非存在下において3時間、黄色ブドウ球菌6850 (表示の通りのMOI)に感染させた。細菌の異常増殖を回避するため、リゾスタフィン(2 μg/mL)による抗生物質洗浄段階を37℃で20分間実施して、内在化されていない細菌を除去した。次に、細胞を1回洗浄し、阻害剤または溶媒の存在下において感染後(p.i.)24時間までさらにインキュベートした。インキュベーション期間の終わりに、細胞単層を光学顕微鏡により分析した。顕微鏡検査により、両病原体による重複感染が、単独感染と比較して非常に増大した細胞変性効果(CPE)をもたらすことが明らかにされた(図13、上パネル)。CPEはPD-0184264の存在下において完全に無効化され(図13、下パネル)、ウイルス複製の低減を示していた。
【0088】
PD-0184264による処理およびCI-1040による処理が同等であるかどうかを確かめるため、A549細胞を10 μM CI-1040、PD-0184264または溶媒(DMSO)で60分間、前処理した後、37℃にてMOI = 0.001でインフルエンザIV (H7N7)に感染させた。結果をそれぞれ図14Aおよび14Bに示す。あるいは、細胞を未処理のまま(DMSO)とし、37℃にてMOI = 0.01でIV (H1N1)に感染させた。30分後、ウイルス希釈液を除去し、細胞をPBSで洗い流し、10 μM CI-1040、PD-0184264または溶媒対照の存在下において黄色ブドウ球菌6850 (6850) (MOI 0.1)を有するまたは有しない浸潤培地を補充した。細菌感染3時間後に、細胞を(2 μg/mL)で20分間処理して、細胞外細菌を除去した。次に細胞を洗浄し、阻害剤または溶媒を含有する感染培地を補充した。24時間(ウイルス感染後)の合計インキュベーション期間の後、細胞内細菌力価を分析した。結果は3つの個別の実験の平均 + SDを表す。統計的有意性は、一元ANOVAとそれに続くターキーの多重比較検定によって評価された(p < 0.05; **p < 0.01; ***p < 0.001; ****p < 0.0001)。図14Aから分かるように、CI-1040による処理は、細胞内細菌負荷の変化を検出できなかったため、黄色ブドウ球菌による二次感染に対して細胞を感作しなかった。驚くべきことに、図14Bから分かるように、PD-0184264の投与は、細胞内細菌力価の低減さえもたらした。図14Cに示されるように、感染進行中のより後の時点でCI-1040またはPD-0184264を投与した場合も同等の結果が得られた。
【0089】
ウイルスおよび細胞内細菌の複製の低減がA549細胞に対するPD-0184264の細胞毒性効果の結果であったということを排除するために、漸増濃度の存在下での細胞生存性を24時間および48時間モニタリングした。さらに、LDH-Assayを実施して、阻害剤処理による膜破裂を判定した。PD-0184264によるA549細胞の処理は細胞毒性を誘発しないことが示された。A549細胞を漸増濃度のPD-0184264 (1、5、10、20、50または100 μM)で24時間(図15AおよびCに示されるように)または48時間(図15BおよびDに示されるように)処理した。インキュベーション時間後、CytoSelect LDH Cytotoxicity Assay Kitを製造元の指示にしたがって用いLDH放出の測定のために上清を採取した(図15C、Dに示した)。さらに、生細胞をトリパンブルーで染色することによりカウントした。細胞生存性はDMSO処理細胞に対して正規化され、生存率(%)として示されている。データは、3つの独立した実験の平均 + SDを示している。統計的有意性は、一元ANOVAとそれに続くダネットの多重比較検定によって計算された( p < 0.05; ** p < 0.01; 27 *** p < 0.001)。
【0090】
実施例9: CI-1040およびPD-0184264に対するIC50値の決定
阻害剤のアリコートを100% DMSO (マスター溶液10 mM)に溶解した。IC50値を分析するために、以下の連続希釈液をマイクロタイタープレート中で調製した: 50 μM、25 μM、5 μM、2.5 μM、0.5 μM、0.25 μM、0.05 μM、0.025 μM、0.005 μM。各希釈液1μlをキナーゼ反応混合物49μlに加え、以下の試験濃度を得た: 1 μM、500 nM、100 nM、50 nM、10 nM、5 nM、1 nM、0.5 nM、0.1 nM。
【0091】
精製タンパク質溶液の活性c-Raf1 3μl、MEK1wt 2μlおよび(und) ERK2wt 3μlをキナーゼ緩衝液およびDMSOまたはDMSO/阻害剤1μl (最終容量45μl)と混合した。混合物を暗所中、室温で30分間インキュベートした。MEKタンパク質への阻害剤の結合を確実にする、このプレインキュベーションの後、10 mM ATP 5μlを添加し、ピペットで混合することにより、キナーゼ反応を開始させた。サンプルを26℃ Thermo mixer (Eppendorf)にて500 rpmで30分間インキュベートした。キナーゼ反応を停止させるために、20% SDS溶液5.5μlを加え、続いてこの混合物を50℃で10分間インキュベートした。次に、各サンプルをブロッキング緩衝液(TBST中1%のBSA) 190μlで希釈した。各サンプル100μlを、96ウェルマイクロタイタープレートの抗ERK抗体でコーティングされたウェルに加えた。
【0092】
キナーゼ反応サンプル(100μl/ウェル)を、96ウェルマイクロタイタープレートの抗ERK抗体でコーティングされ、BSAでブロッキングされたウェル中で室温にて60分間インキュベートした。続いてプレートを100μlのTBST洗浄緩衝液で3×5分洗浄した。リン酸化ERKを検出するために、抗ホスホ-ERK (p44/p42)抗体(ブロッキング緩衝液中3000分の1、100μl/ウェル)を加え、4℃で終夜インキュベートした。
【0093】
3回の洗浄段階(3×100μl/ウェル)の後、HRP結合抗マウスIgG特異抗体(TBST中1000分の1)を加え、室温で60分間インキュベートした。100μl/ウェルのペルオキシダーゼ基質ABTSを、3回の追加洗浄段階(3×100μl/ウェルTBST)の後に加え、30℃で30分間インキュベートした。20% SDS 2.5μlを加えることにより基質反応を停止させた。混合物の光学密度(OD)を、ELISAリーダー中405 nmの波長で測定する。
【0094】
無細胞キナーゼアッセイにより、実際にMEKキナーゼのより弱い阻害剤であるPD-0184264と比較して、MEK活性の50%を阻害するのに必要とされるCI-1040は12.5倍少ない(図16)ことが明らかにされた。したがって、PD-0184264の強力な抗ウイルス効果および抗菌効果を誰も予想しなかったであろう。しかしながら、前の実施例に示されているように、PD-0184264はインビボでCI-1040と比較して強力な抗ウイルス活性および抗菌活性を示す。
【0095】
実施例10: インビトロアッセイでのPD-0184264の抗ウイルス活性
薬物
CI-1040 [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-(シクロプロピルメトキシ)-3,4-ジフルオロベンズアミド; Lot: CC-5395.0-16]およびPD-0184264 (PD0184264) [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-3,4-ジフルオロ安息香酸; Lot: CC-5595.4-10]はChemCon GmbH (Freiburg, Germany)で合成された。細胞培養実験の場合、CI-1040 (M=478.66 g/mol)およびPD-0184264 (M=409.55 g/mol)の10 mMストック溶液をDMSO (Merck-Millipore; Germany)中で調製した。
【0096】
ウイルスおよび細胞
インフルエンザA型ウイルス株RB1 [A/Regensburg/D6/09 (H1N1pdm09)]によりMOI = 0.001で行われたウイルス阻害実験。
【0097】
子孫ウイルス阻害アッセイ
A549細胞を5% CO2雰囲気中37℃で30分間RB1に感染させた。インキュベーション後、ウイルス希釈液を吸引し、細胞をPBSで洗い流し、5% CO2中37℃で24時間10 μM CI-1040または種々の濃度のPD-0184264 (100 μM、50 μM、10 μM、5 μM、1 μM、0.5 μM、および0.1 μM、最終DMSO濃度 = 1%)のいずれかの存在下において500μl IMDM (イスコブの改変ダルベッコ培地)/BA (ウシアルブミン) - 培地(0.2% BA、1 mM MgCl2、0.9 mM CaCl2、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシン)およびTPCK処理トリプシン0.6μlを補充した。溶媒対照は、1% DMSOを有するIMDM/BA-培地であった。細胞培養上清を収集して、既述(Haasbach et al. 2011、Matrosovich et al. 2006)のように、AVICEL(登録商標)プラークアッセイを用いてMDCK II細胞での子孫ウイルス力価を決定した。
【0098】
WSTアッセイ
A549細胞を96ウェル平底組織プレート(Greiner, Germany)中に播種し、終夜増殖させた。その後、細胞を、5%ウシ胎児(Sigma-Aldrich; Germany)を補充したIMDM (ThermoFisher, Germany) 100μl 最終DMSO濃度 = 1%に溶解された様々な濃度のPD-0184264 (100 μM、50 μM、10 μM、5 μM、1 μM、0.5 μM、および0.1 μM)で処理し、培養を37℃および5% CO2で24時間実施した。その後、WST-1試薬(Roche, Germany) 10μlを培地に加え、4時間インキュベートした。この間、培養中の代謝的に活性な細胞により、安定したテトラゾリウム塩WST-1が可溶性ホルマザンに切断された。このインキュベーション期間の後、形成されたホルマザン色素をELISAリーダーにより405 nmで定量した。測定された吸光度は、生細胞数に直接相関していた。
【0099】
結果
RB1に対するPD-0184264の抗ウイルス活性を標準的なウイルス阻害アッセイで調べた(図17A)。細胞を100 μM PD-0184264 (P >0.0001)で処理した場合に、ウイルス力価の98.87 ± 0.03%の低減が見られた。50 μM PD-0184264で同様の低減が見られた(91.50 ± 2.08%; P >0.0001)。対照的に、10 μM PD-0184264を用いた場合に、ウイルス力価の弱い低減のみが見られた(58.97 ± 4.45%)。1 μM PD-0184264では、子孫ウイルスの低減はほとんど生じなかった。したがって、10 μM CI-1040によるウイルスの低減(96.78 ± 0.65%; P > 0.0001)と比較して、子孫インフルエンザウイルスの同様の低減を達成するにはPD-0184264のほぼ10倍高い濃度が必要とされる。これは、CI-1040と比較したPD-0184264のEC50値とも一致している。PD-0184264の場合、EC50値は0.804 μMである(図17B)。別の研究では、RB1に対するCI-1040のEC50値は0.026 μMと決定することができている(Haasbach et al. 2017)。1576超のPD-0184264 CC50値(図17C)は、CI-1040 (> 312.3 μM; Haasbach et al. 2017)と比較して高い。このように、PD-0184264はS.I. = 1960 (選択性指数)を有する。
【0100】
要約/考察
結果は、細胞培養での(すなわちインビトロでの)PD-0184264の抗ウイルス活性はCI-1040と比較して低いことを実証している。インビトロアッセイでCI-1040と同じウイルス低減を達成するには、ほぼ10倍高い濃度のPD-0184264が必要とされる。これら2つの化合物間のEC50値の差異はさらに顕著である。ここで、PD-0184264のEC50値は、CI-1040のEC50値と比較して31倍高い(Haasbach et al. 2017)。A549細胞上のRB1に対するPD-0184264のS.I.も、CI-1040の開発と比較して低い。
【0101】
実施例11: PD-0184264によるマウス肺におけるウイルス力価のインビボでの低減
(A) H1N1pdm09感染後、雌性C57BL/6マウスを2.8、8.4もしくは25 mg/kgの PD-0184264 (左側)または25、75もしくは150 mg/KgのCI-1400 (左側)のいずれかにより経口経路で処置した。感染24時間後、動物を殺処理し、肺を採取して10%の懸濁液を調製した。標準的な方法を用いてウイルス力価を決定した。2つのMEK阻害剤で処置したマウスのウイルス力価を、溶媒(対照)のみで処置したマウスのウイルス力価と比較した。対照マウスの肺におけるウイルス力価(tier)を100% (黒色バー)に設定した。Graphpad Prism 7ソフトウェアを用いて両方の図を示した。
【0102】
薬物
CI-1040 [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-(シクロプロピルメトキシ)-3,4-ジフルオロベンズアミド; Lot: CC-5395.0-16]およびPD-0184264 (PD0184264) [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-3,4-ジフルオロ安息香酸; Lot: CC-5595.4-10]はChemCon GmbH (Freiburg, Germany)で合成された。25 mg/kgの経口投与の場合、PD-0184264 2.5 mgをDMSO (Sigma-Aldrich, Germany) 50μlに溶解し、Cremophor EL (Merck-Millipore, Germany) 0.15 mlおよびPBS (Gibco, Germany) 0.8 mlでさらに希釈した。8.4 mg/kgおよび2.8 mg/kgの投与の場合、PD-0184264 0.84 mgまたは0.28 mgをDMSO (Sigma-Aldrich, Germany) 50μlで溶解し、Cremophor EL 0.15 ml/PBS 0.8 mlでさらに希釈した。CI-1040 202.5 mgをDMSO 0.5 ml/Cremophor EL 0.15 ml/PBS 0.8 mlに溶解し、Cremophor ELおよびPBSでさらに希釈した。
【0103】
動物
投与時に21.0~24.0 gの体重を有する8週齢雌性C57Bl/6マウス(Charles River Laboratories, Germany)を抗ウイルス試験に用いた。動物には普通に餌を与えた。飲料水は自由に利用可能とした。
【0104】
薬物投与
薬物は試験1日目に強制経口投与により単回投薬を用いて投与された。投与速度は、投与容量200μlで用量あたり15秒であった。
【0105】
肺ウイルス力価測定アッセイ
感染24時間後にマウスを殺処理し、肺を秤量し、Lysing Matrix D tube (MP Bio)に移入し、肺の10倍容量の量でBSSを投与した。FastPrep FP 120 (Savant)を用いて臓器を細断した。細胞残屑を除去するために、ホモジネートを2000 rpmで15分間遠心分離し、上清を収集した。ホモジネート中のウイルス力価の決定は、既述(Haasbach et al. 2011、Mastrosovich et al. 2006)のようにAVICEL(登録商標)プラークアッセイを用いて実施された。
【0106】
要約/考察
図18は実験の結果を示す。対照実験と比較して、75 mg/kgまたはそれ以上のCI-1040濃度のみがウイルス力価の低減に何らかの効果を示した。対照的に、PD-0184264は既に2.8 mg/kgの濃度でおよそ70%までの肺におけるウイルス力価の低減を示した。8.4 mg/kgの濃度で、ウイルス力価はおよそ20%の量にまで低減され、25 mg/kgではウイルス力価はおよそ10%にまで低減される。このように、150 mg/kgのCI-1040と同様の効果を達成するのに6倍低い濃度のPD-0184264が必要とされ、PD-0184264の抗ウイルス効果の高い可能性を強調している。
【0107】
実施例12: PD-0184264はCI-1040と比較して高い生物学的利用能を有する
(A) 雄性NMRIマウスを75 mg/kgのCI-1040 (濃い灰色の領域)または75 mg/kgのPD-0184264のいずれかにより経口経路で処置した。投与後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間(試験2日目)の時点で血液を採取し、薬物の存在について血漿を分析した。(B) 雄性NMRIマウスを150 mg/kgのCI-1040 (濃い灰色の領域)または150 mg/kgのPD-0184264のいずれかにより強制経口投与を用いて経口で処置した。投与後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間(試験2日目)の時点で血液を採取し、薬物の存在について血漿を分析した。各データ点は、3つの血漿サンプルの平均値を表す。Graphpad Prism 7ソフトウェアを用いて両方の図を示した。
【0108】
薬物
CI-1040 [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-(シクロプロピルメトキシ)-3,4-ジフルオロベンズアミド; Lot: CC-5395.0-15]およびPD-0184264 (PD0184264) [2-(2-クロロ-4-ヨードフェニルアミノ)-N-3,4-ジフルオロ安息香酸; Lot: CC-5595.4-10]はChemCon GmbH (Freiburg, Germany)で合成された。静脈内(i.v.)投与の場合、CI-1040 30.65 mgをDMSO (Sigma-Aldrich, Switzerland) 0.075 mlに溶解し、Cremophor EL (Merck-Millipore, Germany) 0.225 mlおよびPBS (Gibco, Germany) 2.7 mlでさらに希釈した。PD-0184264 34.88 mgをDMSO 0.075 mlに溶解し、Cremophor EL 0.225 ml/PBS 2.7 mlでさらに希釈した。経口投与の場合、CI-1040 202.5 mgをDMSO 0.5 ml/Cremophor EL 1.5 ml/PBS 8.0 mlに溶解した。PD-0184264 81.0 mgをDMSO 0.2 ml/Cremophor EL 0.6 ml/PBS 3.2 mlに溶解した。
【0109】
動物
投与時に23.9~36.5 gの体重を有する8週齢雄性NMRIマウス(Charles River Laboratories, Germany)を薬物動態学的研究に用いた。動物には普通に餌を与えた。飲料水は自由に利用可能とした。
【0110】
血液サンプリングおよび血漿の調製
実験はLPT GmbH (Hamburg, Germany)で実施された。イソフルラン麻酔下で採血した十分な全血を収集して、1群あたり3匹の動物の少なくとも2×100μlのLi-ヘパリン血漿を、以下の時点で得た: 0 (投薬前)、投与後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間、8時間および24時間(試験2日目)。全血サンプルは、採血後0.5時間以内の遠心分離までIso-Therm-Rackシステム(Eppendorf AG, Germany)を用いて即座に冷却された。遠心分離直後、サンプルはさらに分析するまで-20℃で貯蔵した。血漿分析は、Prolytic GmbH (Frankfurt, Germany)で標準的な手順を用いて実施された。
【0111】
薬物投与
薬物は、試験1日目に単回投薬を用いて、強制経口投与によりまたは尾静脈への静脈内ボーラス注射により投与された。注入速度は、投与容量200μlで15秒/投薬であった。
【0112】
結果
薬物動態実験により、i.v.投与後(図19A)および経口投与後(図19B)にマウス血漿中において、CI-1040と比較して高いPD-0184264の曝露が見られ、PD-0184264のAUC値はCI-1040の値よりもはるかに高い1953.68 μg*h/mlであることが明らかにされた。CI-1040のi.v.投与後および経口投与後8時間の時点で、血漿中に薬物はほとんど検出されなかったことに留意されたい。対照的に、PD-0184264の経口投与後8時間のデータ点で依然として高い濃度が見られた。
【0113】
要約/考察
単回i.v.投与後のPD-0184264およびCI-1040の血漿曝露の劇的な差異により、CI-1040が急速に分解されうるという推定が既に生じている。本発明者らは、薬物が単一指数関数的に減少すると推定した。一般に、この推定は有効である。低濃度では、薬物は通常、単一指数関数的に減少する。また、最終排出速度定数は、経時的にまたは異なる濃度の循環血中薬物で変化しない。それにもかかわらず、現時点では、本発明者らは、腸肝循環(enterohepatic circle)などの他のプロセスが薬物動態プロファイルの最終相において重要な役割を果たすかどうか承知していない。
【0114】
まとめると、PD-0184264はインビボでCI-1040よりも高い抗ウイルス活性を示し、これは薬物の、より高い生物学的利用能に基づいている可能性がある。
【0115】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12-1】
図12-2】
図13
図14A
図14B
図14C
図15
図16
図17
図18
図19
【手続補正書】
【提出日】2023-03-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、薬学的組成物。
【請求項2】
ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩をさらに含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、もしくはペラミビル、または薬学的に許容されるそれらの塩から選択される、請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
経口的に、静脈内に、胸腔内に、筋肉内に、局所に、または吸入によって投与されるように製剤化されている、請求項1~3のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
錠剤、カプセル剤、粉末、チューインガム、オブラートおよび坐剤からなる群より選択される形態である、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
滅菌注射用調製物、懸濁液、油性懸濁液、エリキシル剤、および滅菌注射用水性もしくは油性懸濁液からなる群より選択される形態である、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
鼻腔用スプレイ、および吸入装置用調製物からなる群より選択される形態である、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、10~100mg/kgの範囲での投与量となるように提供される、請求項1~7のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項9】
PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、25~75 mg/kgの範囲での投与量となるように提供される、請求項1~8のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
さらなるMEK阻害剤または薬学的に許容されるその塩を含む、請求項1~9のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項11】
ウイルス性疾患、または細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置のための方法における使用のための、あるいは細菌感染の予防および/または処置のための方法における使用のための、請求項1~10のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項12】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、細菌感染の予防および/または処置のための薬学的組成物であって、PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、10~100mg/kgの範囲での投与量で投与される、薬学的組成物。
【請求項13】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、ウイルス性疾患の予防および/または処置のための薬学的組成物であって、PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、10~100mg/kgの範囲での投与量で投与される、薬学的組成物。
【請求項14】
PD-0184264または薬学的に許容されるその塩を含む、細菌感染およびウイルス性疾患を含む重感染の予防および/または処置のための薬学的組成物であって、PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、10~100mg/kgの範囲での投与量で投与される、薬学的組成物。
【請求項15】
PD-0184264またはその薬学的に許容される塩が、25~75mg/kgの範囲での投与量で投与される、請求項12~14のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項16】
ウイルスがマイナス鎖RNAウイルスである、請求項13~15のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項17】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
インフルエンザウイルスがインフルエンザA型ウイルスまたはインフルエンザB型ウイルスである、請求項17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
細菌感染が、スタフィロコッカス科(Staphylococcaceae)、連鎖球菌科(Streptococcaceae)、レジオネラ科(Legionellaceae)、シュードモナス科(Pseudomonadaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、クラミジア科(Chlamydiaceae)、マイコプラズマ科(Mycoplasmataceae)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、シュードモナス目(Pseudomonadales)、およびパスツレラ科(Pasteurellaceae)からなる群より選択される細菌によって媒介される、請求項12または14記載の薬学的組成物。
【請求項20】
ノイラミニダーゼ阻害剤または薬学的に許容されるその塩と組み合わせて投与される、請求項12~18のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項21】
ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、リン酸オセルタミビル、ザナミビル、ラニナミビル、もしくはペラミビル、または薬学的に許容されるそれらの塩から選択される、請求項20記載の薬学的組成物。
【請求項22】
経口的に、静脈内に、胸腔内に、筋肉内に、局所に、または吸入によって投与されるように製剤化されている、請求項12~21のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項23】
さらなるMEK阻害剤または薬学的に許容されるその塩を含む、請求項12~22のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項24】
対象に投与するための、請求項12~23のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項25】
対象が脊椎動物である、請求項24記載の薬学的組成物。