(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058759
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】コンデンサ素子および電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/028 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
H01G9/028 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020054302
(22)【出願日】2020-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗本 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】福井 斉
(57)【要約】
【課題】電解コンデンサの高温高湿下での性能低下を抑制する。
【解決手段】陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性高分子とドーパントとを含み、前記ドーパントは、ベンゼン骨格と、前記ベンゼン骨格に結合する少なくとも1つのスルホ基と、を有する化合物を含み、前記固体電解質層に含まれる硫酸イオンは、1質量%以下である、コンデンサ素子。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体と、
前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、
前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備え、
前記固体電解質層は、導電性高分子とドーパントとを含み、
前記ドーパントは、ベンゼン骨格と、前記ベンゼン骨格に結合する少なくとも1つのスルホ基と、を有する化合物を含み、
前記固体電解質層に含まれる硫酸イオンは、1質量%以下である、コンデンサ素子。
【請求項2】
前記固体電解質層に含まれる硫酸イオンは、0.5質量%以下である、請求項1に記載のコンデンサ素子。
【請求項3】
前記固体電解質層に含まれる硫酸イオンは、0.1質量%以下である、請求項1に記載のコンデンサ素子。
【請求項4】
前記化合物の数平均分子量は、400g/mol以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のコンデンサ素子。
【請求項5】
前記化合物は、さらに、ニトロ基、ヒドロキシ基、炭化水素基、メトキシ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のコンデンサ素子。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンデンサ素子を備える、電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンデンサ素子および電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量でESR(等価直列抵抗)の低いコンデンサとして、誘電体層を形成した陽極体と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層とを備える電解コンデンサが有望視されている。固体電解質層は、通常、導電性高分子とドーパントを含んでいる。ドーパントを用いることで、導電性高分子に高い導電性が付与される。
【0003】
ドーパントとしては、スルホン酸基等のアニオン性基を有する化合物が用いられる。特許文献1は、ドーパントとして、ナフタレンスルホン酸誘導体および硫酸を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドーパントとして硫酸が用いられる場合、電解コンデンサの高温高湿下での性能は低下し易い。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の局面は、陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、前記固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備え、前記固体電解質層は、導電性高分子とドーパントとを含み、前記ドーパントは、ベンゼン骨格と、前記ベンゼン骨格に結合する少なくとも1つのスルホ基と、を有する化合物を含み、前記固体電解質層に含まれる硫酸イオンは、1質量%以下である、コンデンサ素子に関する。
【0007】
本発明の第二の局面は、上記コンデンサ素子を備える、電解コンデンサに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大きい静電容量を有するとともに、高温高湿下での性能低下が抑制された電解コンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るコンデンサ素子を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
誘電体層は微細な凹凸を備えており、導電性高分子は、この凹凸に沿って配置されている。硫酸イオンは分子サイズが小さいため、凹部に入り込んだ導電性高分子にもドープすることができる。よって、静電容量の向上が期待できる。一方、硫酸イオンは高温高湿下で脱ドープし易く、固体電解質層に遊離した硫酸イオンあるいは硫酸として存在する。固体電解質層内の硫酸イオンおよび硫酸は、誘電体層を腐食させる場合がある。
【0011】
そこで、本実施形態では、固体電解質層に含まれる硫酸イオンの濃度を1質量%以下にする。これにより、固体電解質層における硫酸の発生が抑制されて、高温高湿下での性能(以下、耐湿特性と称する場合がある。)低下が抑制される。
【0012】
さらに、高い静電容量を確保するため、ベンゼン骨格を有するドーパントを使用する。ベンゼン骨格を有するドーパントは、例えば、ナフタレン骨格を有するドーパントと比較して分子サイズが小さいため、誘電体層の凹部に入り込んだ導電性高分子にドープし易い。よって、静電容量の向上が期待できる。ベンゼン骨格に結合するスルホ基は脱離し難いため、高温高湿下での硫酸イオンの脱ドープは抑制される。
【0013】
固体電解質層に含まれる硫酸イオンの濃度は、0.5質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。ただし、固体電解質層には、微量の硫酸イオンが含まれていてもよい。固体電解質層がドーパントの存在下で原料モノマーを電解重合することにより形成される場合、重合液の電導度は、原料モノマーの重合速度に影響する。硫酸は、重合液の電導度を高めるため、原料モノマーの重合速度を大きくすることができる。そのため、硫酸を重合液に添加することは、生産性の観点から望ましい。この場合、重合液に添加された硫酸は、固体電解質層に含まれ得る。上記観点から、硫酸イオンは、0.01質量%以上の濃度で固体電解質層に含まれていてもよい。
【0014】
固体電解質層における硫酸イオン濃度は、以下のようにして算出できる。
まず、電解コンデンサを分解し、コンデンサ素子を取り出し、このコンデンサ素子から固体電解質層の一部を、削り取る等して取り出す。得られた固体電解質層(試料)をビーカー内のイオン交換水に浸漬して加熱し、イオン交換水を10分間沸騰させる。ビーカーから試料を取り出して、イオン交換水をイオンクロマトグラフィーにより分析し、硫酸イオン濃度を測定する。測定された硫酸イオン濃度から試料に含まれる硫酸イオンの質量を求め、固体電解質層における硫酸イオン濃度に換算する。
【0015】
[コンデンサ素子]
陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層と、を備える。このようなコンデンサ素子は、例えば、シート状あるいは平板状である。
【0016】
(ドーパント)
ドーパントは、ベンゼン骨格と、ベンゼン骨格に結合する少なくとも1つのスルホ基と、を有する化合物(以下、第1ドーパント化合物と称す。)を含む。
【0017】
上記スルホ基には、SO3H基に加えて、スルホ基の塩またはエステルが含まれる。塩としては、例えば、金属塩あるいはオニウム塩が挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。オニウム塩としては、例えば、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。スルホ基は、固体電解質層において、アニオン(-SO3
-)、-SO3H、塩またはエステルの形態で存在している。
【0018】
ベンゼン骨格にスルホ基が2以上結合している場合、各スルホ基の位置は特に限定されない。例えば、2つのスルホ基は、オルト位、メタ位およびパラ位のいずれの位置関係にあってもよい。スルホ基の数は、3以下であることが好ましい。スルホ基が3個以下であると、第1ドーパント化合物の分解は抑制され易い。スルホ基の数は、1つでよい。
【0019】
第1ドーパント化合物は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、ニトロ基、ヒドロキシ基、炭化水素基、メトキシ基およびカルボキシ基が挙げられる。第1ドーパント化合物は、ニトロ基、ヒドロキシ基、炭化水素基、メトキシ基およびカルボキシ基よりなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有していることが好ましい。
【0020】
なかでも、導電性高分子と第1ドーパント化合物との相互作用が高まって、脱ドープが抑制され易くなる点で、第1ドーパント化合物は、1以上のカルボキシ基を有することが好ましい。第1ドーパント化合物が1つのカルボキシ基を有する場合、スルホ基とカルボキシ基とはメタ位に位置していることが好ましい。第1ドーパント化合物が2つのカルボキシ基を有する場合、スルホ基と各カルボキシ基とは、それぞれメタ位に位置していることが好ましい。
【0021】
上記ヒドロキシ基には、OH基に加えて、ヒドロキシ基のエステルが含まれる。ヒドロキシ基は、固体電解質層において、アニオン(-O-)、-OHまたはエステルの形態で存在している。上記カルボキシ基には、COOH基に加えて、カルボキシ基の塩またはエステルが含まれる。塩としては、ナトリウム塩などの金属塩(アルカリ金属塩など)、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。カルボキシ基は、固体電解質層において、アニオン(-COO-)、-COOH、塩またはエステルの形態で存在している。
【0022】
炭化水素基としては、誘電体の凹部を被覆する導電性高分子にドープし易い点で、鎖状の脂肪族炭化水素基が望ましい。鎖状の脂肪族炭化水素基は、例えば、-(CH2)nH(nは、1以上20以下の整数)で表される飽和炭化水素基であってよく、不飽和炭化水素基であってよい。脂肪族炭化水素基は、ヒドロキシル基、アルコキシ基などの置換基を有していてもよい。
【0023】
第1ドーパント化合物は、さらに、重合性基を有してもよい。重合性基は、ラジカル重合性を示す基が好ましい。重合性基としては、例えば炭素間二重結合、炭素間三重結合を有する基が挙げられる。この場合、第1ドーパント化合物は、固体電解質層において、ダイマー、トリマー、オリゴマー、ポリマー等の形態で存在していてもよい。
【0024】
第1ドーパント化合物としては、具体的には、ベンゼンスルホン酸、3-ニトロスルホン酸、4-フェノールスルホン酸、4-アニソールスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、2,4-ジメチルベンゼンスルホン酸、3-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、5-スルホフタル酸、5-スルホイソフタル酸、5-スルホテレフタル酸、1,3-ベンゼンジスルホン酸、3,5-ニトロジスルホン酸、2,4-フェノールジスルホン酸、2,4-アニソールジスルホン酸、3,5-ジスルホ安息香酸、3,5-トルエンジスルホン酸、1,3,5-ベンゼントリスルホン酸、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸等が挙げられる。なかでも分子量が小さく,カルボキシ基を有する点で、3-スルホ安息香酸が好ましい。
【0025】
第1ドーパント化合物の数平均分子量は特に限定されない。第1ドーパント化合物の数平均分子量は、回転半径が小さくなって、誘電体の凹部を被覆する導電性高分子にドープし易い点で、400g/mol以下が好ましい。第1ドーパント化合物の数平均分子量は、300g/mol以下がより好ましく、250g/mol以下が特に好ましい。
【0026】
固体電解質層には、第1ドーパント化合物以外のドーパント(以下、第2ドーパント化合物と称す。)が含まれていてもよい。ただし、全ドーパントに対する第2ドーパント化合物の割合は、5質量%以下であることが望ましい。
【0027】
第1ドーパント化合物の添加量は特に限定されない。導電性向上の観点から、第1ドーパント化合物の導電性高分子に対する割合は、例えば、0.1質量%以上50質量%以下である。
【0028】
第2ドーパント化合物は、単分子アニオンであってもよいし、高分子アニオンであってよい。単分子アニオンの具体例としては、ナフタレンスルホン酸等が挙げられる。高分子アニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらは単独モノマーの重合体であってもよく、2種以上のモノマーの共重合体であってもよい。
【0029】
(陽極体)
陽極体は、導電性材料として弁作用金属を含む箔(金属箔)または弁作用金属を含む多孔質焼結体を含む。多孔質焼結体からは、陽極ワイヤーを植立させる。陽極ワイヤーは、陽極リード端子との接続に用いられる。弁作用金属としては、チタン、タンタル、アルミニウムおよびニオブ等が挙げられる。陽極体は、1種、または2種以上の上記弁作用金属を含んでいてもよい。陽極体は、弁作用金属を、弁作用金属を含む合金または弁作用金属を含む化合物等の形態で含んでいてもよい。金属箔である陽極体の厚みは特に限定されず、例えば、15μm以上、300μm以下である。多孔質焼結体である陽極体の厚みは特に限定されず、例えば、15μm以上、5mm以下である。
【0030】
(誘電体層)
誘電体層は、陽極体の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は、陽極体の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。誘電体層は、通常、陽極体の表面に形成される。誘電体層は、陽極体の多孔質の表面に形成されるため、陽極体の表面の孔や窪み(ピット)の内壁面に沿って形成される。
【0031】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層はTa2O5を含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層はAl2O3を含む。尚、誘電体層はこれに限らず、誘電体として機能するものであればよい。陽極体の表面が多孔質である場合、誘電体層は、陽極体の表面(孔やピットの内壁面を含む)に沿って形成される。
【0032】
(固体電解質層)
固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよく、誘電体層の表面全体を覆うように形成されていてもよい。固体電解質層は、導電性高分子およびドーパントを含む。一方、固体電解質層に含有される硫酸イオンは1質量%以下である。
【0033】
導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、ポリチオフェンビニレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよく、2種以上のモノマーの共重合体でもよい。
【0034】
なお、本明細書では、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン等は、それぞれ、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン等を基本骨格とする高分子を意味する。したがって、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリアニリン等には、それぞれの誘導体も含まれ得る。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)等が含まれる。
【0035】
固体電解質層は、単層であってもよく、複数の層で構成してもよい。固体電解質層が複数層で構成される場合、各層に含まれる導電性高分子の組成(例えば、各モノマーの種類、量など)は同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0036】
(陰極引出層)
陰極引出層は、固体電解質層の少なくとも一部を覆うように形成されていればよく、固体電解質層の表面全体を覆うように形成されていてもよい。
【0037】
陰極引出層は、例えば、カーボン層と、カーボン層の表面に形成された金属(例えば、銀)ペースト層と、を有している。カーボン層は、黒鉛等の導電性炭素材料を含むカーボンペーストにより構成される。金属ペースト層は、例えば、銀粒子と樹脂とを含む組成物により構成される。なお、陰極引出層の構成は、これに限られず、集電機能を有する構成であればよい。
【0038】
図1は、本実施形態に係るコンデンサ素子を模式的に示す断面図である。
コンデンサ素子10は、陽極体11と、陽極体11の少なくとも一部を覆う誘電体層12と、誘電体層12の少なくとも一部を覆う固体電解質層13と、陰極引出層14とを備える。陰極引出層14は、カーボン層141と金属ペースト層142とを備える。このようなコンデンサ素子10は、例えば、シート状あるいは平板状である。
【0039】
[電解コンデンサ]
本実施形態に係る電解コンデンサは、上記のコンデンサ素子を備える。
電解コンデンサは、複数のコンデンサ素子を備えてもよい。複数のコンデンサ素子は、積層される。コンデンサ素子の積層数は特に限定されず、例えば、2以上20以下である。複数のコンデンサ素子のうち、少なくとも1つが本実施形態に係るコンデンサ素子であればよい。その他は、従来公知のコンデンサ素子であってよい。好ましくは、電解コンデンサに配置される複数のコンデンサ素子のすべてが本実施形態に係るコンデンサ素子である。
【0040】
積層されたコンデンサ素子の陽極部同士は、溶接により接合されて電気的に接続している。複数の陽極部は、例えば、曲げ加工された陽極リード端子によりかしめられた後、溶接されてもよい。少なくとも1つのコンデンサ素子の陽極部に、陽極リード端子が接合される。
【0041】
積層されたコンデンサ素子の陰極層同士もまた、電気的に接続している。少なくとも1つのコンデンサ素子の陰極層に、陰極リード端子が接合される。陰極リード端子は、導電性接着剤やはんだを介して、あるいは、抵抗溶接やレーザ溶接により接合される。導電性接着剤は、例えば硬化性樹脂と炭素粒子や金属粒子との混合物である。
【0042】
(リード端子)
リード端子の材質は、電気化学的および化学的に安定であり、導電性を有するものであれば特に限定されず、金属であっても非金属であってもよい。その形状も特に限定されない。リード端子の厚み(リード端子の主面間の距離)は、低背化の観点から、25μm以上200μm以下が好ましく、25μm以上100μm以下がより好ましい。
【0043】
(外装体)
コンデンサ素子は、陽極リード端子および陰極リード端子の少なくとも一部が露出するように、外装体により封止されてもよい。
【0044】
外装体の材料としては、例えば、硬化性樹脂の硬化物、エンジニアリングプラスチックが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、不飽和ポリエステルが挙げられる。エンジニアリングプラスチックには、汎用エンジニアリングプラスチックおよびスーパーエンジニアリングプラスチックが含まれる。エンジニアリングプラスチックとしては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。
【0045】
図2は、本実施形態に係る電解コンデンサを模式的に示す断面図である。電解コンデンサ100は、1以上のコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10の陽極体に接合された陽極リード端子30と、金属ペースト層に接合された陰極リード端子40と、コンデンサ素子を封止する外装体20と、を備える。
【0046】
本実施形態にかかるコンデンサ素子は、以下の工程により製造することができる。
(1)陽極体の準備工程
陽極体の原料として、例えば、弁作用金属を含む金属箔が用いられる。
金属箔の少なくとも一方の主面を粗面化する。粗面化により、金属箔の少なくとも主面側に、多数の微細な孔を有する多孔質部が形成される。
【0047】
粗面化は、例えば金属箔を電解エッチングすることにより行われる。電解エッチングは、例えば直流電解法や交流電解法により行うことができる。エッチング条件は特に限定されず、多孔質部の深さ、弁作用金属の種類等に応じて適宜設定される。
【0048】
(2)誘電体層を形成する工程
陽極体の表面に誘電体層を形成する。誘電体層の形成方法は特に限定されない。誘電体層は、例えば、陽極体を化成処理することにより形成することができる。化成処理では、例えば、陽極体をアジピン酸アンモニウム溶液等の化成液に浸漬し、熱処理する。陽極体を化成液に浸漬し、電圧を印加してもよい。
【0049】
(3)固体電解質層を形成する工程
誘電体層の表面に固体電解質層を形成する。
固体電解質層は、陽極体の存在下で、原料モノマーもしくはオリゴマー、および、第1ドーパント化合物を含むドーパントを含む重合液を用いて、化学重合および/または電解重合することにより形成することができる(第1の方法)。固体電解質層は、導電性高分子が溶解した溶液、または、導電性高分子が分散した分散液(以下、処理液と総称する場合がある。)を誘電体層に塗布することにより形成してもよい(第2の方法)。
【0050】
市販の第1ドーパント化合物には、硫酸が残留している場合がある。そのため、第1ドーパント化合物を重合液に添加する前に、第1ドーパント化合物に含まれ得る硫酸を除去してもよい。例えば、第1ドーパント化合物をイオン交換水に添加して分散させた後、当該イオン交換水にイオン交換樹脂を添加および撹拌して、濾過する。あるいは、第1ドーパント化合物をイオン交換水に添加して分散させた後、限外濾過してもよい。
【0051】
第2の方法の場合、上記の方法に替えてあるいは上記の方法に加えて、イオン交換樹脂を用いて処理液の硫酸を除去してもよい。あるいは、処理液を限外濾過することにより処理液の硫酸を除去してもよい。その後、処理液を誘電体層に塗布する。このように、重合液および/または処理液の硫酸を除去することにより、重合液に硫酸が添加されていた場合であっても、固体電解質層に含まれる硫酸イオンの濃度を1質量%以下にすることができる。
【0052】
原料モノマーもしくはオリゴマーは、上記導電性高分子の原料となるモノマーもしくはオリゴマーである。例えば、ピロール、アニリン、チオフェン、これらの誘導体等である。
【0053】
(4)陰極引出層を形成する工程
固体電解質層の表面に、例えばカーボンペーストおよび銀ペーストを順次、塗布することにより、陰極引出層を形成する。これによりコンデンサ素子が得られる。
【0054】
[電解コンデンサの製造方法]
電解コンデンサは、例えば、上記の方法で得られた1以上のコンデンサ素子を準備する工程と、コンデンサ素子にリード端子を電気的に接続する工程と、コンデンサ素子およびリード端子の一部を外装体で覆う工程と、を備える製造方法により製造できる。ここでは、複数の積層されたコンデンサ素子を備える電解コンデンサの製造方法を示す。
【0055】
(a)コンデンサ素子の準備工程
上記の(1)から(4)の方法により、コンデンサ素子を作製する。
【0056】
(b)積層体を作製する工程
複数のコンデンサ素子の前駆体を積層し、陽極部同士を接合して、積層体を作製する。陽極部同士を、溶接および/またはかしめ等により接合し、電気的に接続させる。溶接の方法は特に限定されず、レーザ溶接、抵抗溶接であってよい。
【0057】
(c)リード端子接続工程
少なくとも1つのコンデンサ素子の陽極部に陽極リード端子を電気的に接続し、陰極引出層に陰極リード端子を電気的に接続する。陽極部と陽極リード端子とは、例えば溶接されて、電気的に接続される。陰極引出層と陰極リード端子とは、例えば、陰極引出層と陰極リード端子とを導電性接着剤を介して接着させることにより、電気的に接続される。
【0058】
(d)封止工程
積層されたコンデンサ素子およびリード端子の一部を外装体により封止する。封止は、射出成形、インサート成形、圧縮成形等の成形技術を用いて行われる。例えば、所定の金型を用いて、硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を含む外装体の材料を積層されたコンデンサ素子およびリード端子の一端部を覆うように充填した後、加熱等を行う。
【0059】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
《実施例1》
下記の要領で、コンデンサ素子を7つ積層した積層体を備える電解コンデンサA1を20個作製した。
(1)コンデンサ素子の作製
基材としてアルミニウム箔(厚み100μm)を準備し、アルミニウム箔の表面にエッチング処理を施し、陽極体を得た。陽極体を化成液に浸して70Vの直流電圧を20分間印加することにより、陽極体の表面に酸化アルミニウム(Al2O3)を含む誘電体層を形成した。誘電体層が形成された陽極箔を、導電性材料を含む液状組成物に浸漬し、プレコート層を形成した。
【0061】
ベンゼンスルホン酸(ドーパント)の原料粉末を水に入れて撹拌した後、限外濾過して、原料粉末から硫酸を除去した。ろ過後のベンゼンスルホン酸を水に分散させて、ドーパント液(ベンゼンスルホン酸濃度30質量%)を準備した。このドーパント液100質量部に、ピロール(導電性高分子のモノマー)1質量部を添加し、重合液を調製した。得られた重合液中に、誘電体層およびプレコート層が形成された陽極箔を浸漬して、印加電圧3Vで電解重合を行い、固体電解質層を形成した。固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度は、0.03質量%であった。
【0062】
固体電解質層に、黒鉛粒子を水に分散した分散液を塗布した後、乾燥して、固体電解質層の表面にカーボン層を形成した。次いで、カーボン層の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布した後、加熱してバインダ樹脂を硬化させ、金属ペースト層を形成した。このようにして、カーボン層と金属ペースト層とで構成される陰極引出層を形成し、コンデンサ素子を得た。
【0063】
得られた7つのコンデンサ素子を積層し、陽極部同士をレーザ溶接により接合して、積層体を得た。
【0064】
(2)電解コンデンサの組み立て
積層体に陽極リード端子および陰極リード端子を接合した。次いで、積層体と各リード端子の一部とをエポキシ樹脂で封止することにより外装体を形成し、電解コンデンサA1を完成させた。
【0065】
《実施例2》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.43質量%に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサA2を20個作製した。
【0066】
《実施例3》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.90質量%に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサA3を20個作製した。
【0067】
《比較例1》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を1.20質量%に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサB1を20個作製した。
【0068】
《比較例2》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパントとしてナフタレンスルホン酸を用いて、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.08質量%に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサB2を20個作製した。
【0069】
《比較例3》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を1.13質量%に調整したこと以外は、比較例2と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサB3を20個作製した。
【0070】
[評価]
(1)初期の静電容量
20℃の環境下で、LCRメータを用いて、得られた電解コンデンサの周波数100kHz/Ωにおける初期の静電容量を測定し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
(2)耐湿特性
20℃の環境下で、LCRメータを用いて、得られた電解コンデンサの周波数100kHz/Ωにおける初期のESR(=Z0)を測定した。85℃および85%RHの環境下で、電解コンデンサに定格電圧を125時間印加した後、初期のESRの場合と同様の手順で、20℃環境下でESR(=Z)を測定した。ΔESR=(Z-Z0)/Z0により、変化率ΔESRの平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
《実施例4》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパントとして3-スルホ安息香酸を用いて、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.02質量%に調整したこと以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサA4を20個作製した。得られた電解コンデンサを実施例1同様に評価した。結果を表2に示す。
【0074】
《実施例5》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.48質量%に調整したこと以外は、実施例4と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサA5を20個作製した。得られた電解コンデンサを実施例1同様に評価した。結果を表2に示す。
【0075】
《実施例6》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を0.86質量%に調整したこと以外は、実施例4と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサA6を20個作製した。得られた電解コンデンサを実施例1同様に評価した。結果を表2に示す。
【0076】
《比較例4》
コンデンサ素子の作製(1)において、ドーパント液に希硫酸を添加して、固体電解質層に含まれる硫酸イオン濃度を1.06質量%に調整したこと以外は、実施例4と同様にしてコンデンサ素子を作製し、電解コンデンサB4を20個作製した。得られた電解コンデンサを実施例1同様に評価した。結果を表2に示す。
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明に係る電解コンデンサは、耐湿特性に優れる。よって、低いESRが求められる様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0079】
100:電解コンデンサ
10:コンデンサ素子
11:陽極体
12:誘電体層
13:固体電解質層
14:陰極引出層
141:カーボン層
142:金属ペースト層
20:外装体
30:陽極リード端子
40:陰極リード端子