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特開2023-5879ゴム変性スチレン系樹脂組成物、シート、及び、成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005879
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ゴム変性スチレン系樹脂組成物、シート、及び、成形品
(51)【国際特許分類】
   C08F 279/02 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
C08F279/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108121
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】中川 優
(72)【発明者】
【氏名】上宮田 源
【テーマコード(参考)】
4J026
【Fターム(参考)】
4J026AA66
4J026AA68
4J026BA05
4J026DB05
4J026DB13
4J026DB22
4J026DB32
4J026EA02
4J026FA02
4J026GA01
4J026GA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた延伸加工性を示すゴム変性スチレン系樹脂組成物、二次成形時の延伸加工性に優れたそのシート、該シートからなる成形品を提供する。
【解決手段】本発明は、マトリックス相を形成するスチレン系重合体及び当該マトリックス相中に分散するゴム状重合体粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系重合体は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を前記スチレン系重合体の総量100質量%に対して0.7~3.0質量%含有し、且つ、Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)が3.2~6.0であり、前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物の溶融張力は、10~30gfであることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス相を形成するスチレン系重合体及び当該マトリックス相中に分散するゴム状重合体粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系重合体は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を前記スチレン系重合体の総量100質量%に対して、0.7~3.0質量%含有し、且つ、前記スチレン系重合体のZ平均分子量(Mz)に対する前記スチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.2~6.0であり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物の溶融張力は、10~30gfであることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン系重合体の分子量分布が多峰性である、請求項1に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項に記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物からなるシート。
【請求項4】
請求項3に記載のシートからなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物、該ゴム変性スチレン系樹脂組成物からなるシート、及び該シートからなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム変性スチレン系樹脂のシートは、耐衝撃性と成形加工性のバランスに優れることから、真空成型や真空圧空成形等の熱成形によって食品トレー、弁当容器、カップ等の様々な成形品に加工されている。最近、これらの分野において、成形品が薄肉化、大型化の傾向が強く、従来以上に深絞り比率の高い成形品に対するニーズが増えている。従来のゴム変性スチレン系樹脂シートでは、深絞り成形時にシートが破れたり、成形品の偏肉などの問題があり、二次成形時により均一に延伸される材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-177883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような、従来のゴム変性スチレン系樹脂のシートとしては、特許文献1において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のマトリックス相を、所定の共役ジビニル化合物と所定のモノビニル化合物とで、適切な含有比で構成するとともに、マトリックス相の分子量、及び分子量分布、高分子量の割合を適切な範囲に制御する技術が開示されている。そして、当該技術によれば、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のシートの二次成型時の延伸加工性等が優れるとされている。しかし、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のシートの二次成型品においては、当該シートをより均一に薄肉化することを可能とする延伸加工性において十分とは言えず、さらなる向上が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、優れた延伸加工性を示すゴム変性スチレン系樹脂組成物、二次成形時の延伸加工性に優れたそのシート、該シートからなる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のマトリックス相を、所定の共役ジビニル化合物と所定のモノビニル化合物とで、適切な含有比で構成するとともに、マトリックス相の分子量、及び分子量分布、高分子量の割合を適切な範囲に制御することで、該シートで二次成形時の延伸加工性に優れた成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は下記に示すとおりである。
[1]本発明は、マトリックス相を形成するスチレン系重合体及び当該マトリックス相中に分散するゴム状重合体粒子を含むゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン系重合体は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を前記スチレン系重合体の総量100質量%に対して0.7~3.0質量%含有し、且つ、前記スチレン系重合体のZ平均分子量(Mz)に対する前記スチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.2~6.0であり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物の溶融張力は、10~30gfであることを特徴とする、ゴム変性スチレン系樹脂組成物である。
[2]本発明において、前記スチレン系重合体の分子量分布が多峰性であることが好ましい。
[3]本発明は、[1]又は[2]のいずれかに記載のゴム変性スチレン系樹脂組成物からなるシートである。
[4]本発明は、[3]に記載のシートからなる成形品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ゴム変性スチレン系樹脂組成物より得られたシートの延伸加工性をより向上させることが可能なゴム変性スチレン系樹脂組成物、二次成形時の延伸加工性に優れたそのシート、該シートからなる成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<ゴム変性スチレン系樹脂組成物>
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、スチレン系重合体を内包したゴム状重合体を含むゴム状重合体粒子とマトリックス相とからなるゴム変性スチレン系樹脂組成物であって、
前記マトリックス相は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を、前記スチレン系重合体の総量100質量%に対して0.7~3.0質量%含有し、且つ、前記スチレン系重合体のZ平均分子量(Mz)に対する前記スチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.2~6.0であり、
前記ゴム変性スチレン系樹脂組成物の溶融張力は、10~30gfである。本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物によれば、当該樹脂組成物より得られたシートの延伸加工性をより向上させることができ、それ故に、当該シートの二次成型品において、当該二次成型品の膜厚をより均一にしつつ薄肉化することができる。
【0010】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物の溶融張力が、10~30gfであり、好ましくは9~28gfであり、より好ましくは8.5~27gfである。当該溶融張力が10gf以上であることにより、シートの延伸加工性をより向上することができる。また、当該溶融張力が30gf以下であることにより、シートの延伸加工性とその二次成型品の薄肉化のバランスを向上することができる。
溶融張力が上記の範囲になるように制御する方法は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を、前記スチレン系重合体の総量100質量%に対して0.7~3.0質量%にする方法又はMz/Mwを3.2~6.0にする方法が挙げられる。
溶融張力の測定は、キャピラリーレオメーターを用いる方法で行うことができ、具体的には実施例の欄に記載の方法を用いることができる。
【0011】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(MFR)は、1.0~8.0g/10分、好ましくは1.2~7.0g/10分、より好ましくは1.2~5.0g/10分である。
なお本開示におけるメルトマスフローレートは、ISO1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0012】
メルトマスフローレートが1.0~8.0g/10分の場合、樹脂の流動性と粘弾性のバランスが優れ、深絞りなどの二次成形性に非常に優れる。またシート押出時にドローダウンが発生しなくなり好ましい。
【0013】
<マトリックス相>
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物のマトリックス相は、スチレン系重合体により構成され、当該スチレン系重合体は、重量平均分子量(Mw)が400万以上である高分子量成分を当該スチレン系重合体の総量(100質量%)に対して0.7~3.0質量%含有し、且つ、Z平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)が3.2~6.0である。
【0014】
本実施形態におけるスチレン系重合体は、分子量400万以上の高分子量成分と、分子量400万未満の分子量成分(a)と、から構成されている。そして、本実施形態において、スチレン系重合体の分子量400万以上の高分子量成分の割合は、当該スチレン系重合体の総量(100質量%)に対して、0.7~2.0質量%であり、好ましくは0.7~1.8%であり、より好ましくは0.8~1.5%である。分子量400万以上の高分子量成分の割合が当該スチレン系重合体の総量(100質量%)に対して0.7質量%以上になることにより、よりゴム変性スチレン系樹脂組成より得られたシートの延伸加工性をより向上させることができる。また、当該割合が3.0質量%位以下になることにより、延伸加工性と成形条件幅のバランスを向上することができる。
なお、本実施形態のスチレン系重合体における分子量400万未満の分子量成分(a)は、当該スチレン系重合体の総量(100質量%)に対して、98~99.3質量%であることが好ましい。
当該分子量400万以上の高分子量成分の割合は、GPCを用いて測定することができ、具体的には実施例の欄に記載の方法を用いることができる。
【0015】
また、分子量400万以上の高分子量成分の割合を調整する方法としては、例えば、多官能の重合開始剤を使用する方法、共役ジビニル化合物を添加する方法、あるいは共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物とを同時に添加する方法がある。例えば、モノビニル化合物に、任意選択的に共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物を添加してラジカル共重合することによりゴム変性スチレン系樹脂組成物を得る場合、共役ジビニル化合物及び/又は多分岐ビニル化合物の添加量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して、ビニル基1つにつき好ましくは4.0×10-6~8.0×10-4モルである(すなわち、ビニル基を2つ有する共役ジビニル化合物の場合は、好ましくは2.0×10-6~4.0×10-4である)。共役ジビニル化合物と多分岐ビニル化合物の数平均分子量(Mn)は850~100000であることが好ましい。また、スチレン系重合体の製造において、溶媒の量を0~20%と少なくし、反応温度を80~140℃にする方法がある。
本明細書における「共役ジビニル化合物」とは、共役ビニル基を2つ有する化合物であり、共役ビニル基を2つ有する、直鎖状の化合物であることが好ましい。また、本明細書における「多分岐ビニル化合物」とは、共役ビニル基を3つ以上有する化合物であり、共役ビニル基を3つ以上有する、鎖状の化合物であることが好ましい。
そして、“共役ビニル基”とは、モノビニル化合物と共重合可能なオレフィン性二重結合と、当該オレフィン性二重結合と共役系を形成する構造(限定されないが例えばカルボニル基、アリール基等)とを有する基であり、例えばアクリロイル基、ビニル基で置換されたアリール基が挙げられる。また、共役ビニル基を有する構造としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が付加した構造も挙げられる。なお、少なくとも2つの共役ビニル基は、相互に同じであっても異なっていてもよい。
【0016】
本実施形態の共役ジビニル化合物は、2つの共役ビニル基と主鎖構造とを有する構造であることが好ましい。また、本実施形態の多分岐ビニル化合物は、3つ以上の共役ビニル基と主鎖構造とを有する構造であることが好ましい。
当該主鎖構造しては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン等のポリオレフィンやポリスチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、具体的な共役ジビニル化合物としては、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート(「(水添)」は、水素添加された又は水素添加されていない化合物を指す。以下同様である。)、ポリエチレングリコール末端(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端(メタ)アクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端(メタ)アクリレート等の末端ジ(メタ)アクリレート化合物、並びに(水添)ポリブタジエン末端ウレタンアクリレート、ポリエチレングリコール末端ウレタンアクリレート、ポリプロピレングリコール末端ウレタンアクリレート、エトキシ化ビスフェノールA末端ウレタンアクリレート、及びエトキシ化ビスフェノールF末端ウレタンアクリレート等の末端ウレタンアクリレート化合物等が挙げられる。例えば、ポリプロピレングリコール末端(メタ)アクリレートの場合は、数平均分子量(Mn)が850~100000となるように繰返し単位のプロピレングリコールの結合数が決められる。共役ジビニル化合物は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物との相溶性の観点から、(水添)ポリブタジエン末端(メタ)アクリレート、ポリスチレン末端(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル末端ジビニルであることが好ましい。なお、化合物名中の「末端」や「両末端」は、最も端の両方に共役ビニル基が位置することを意味する。
本実施形態において、具体的な多分岐ビニル化合物としては、特開2003-292707公報に記載の多分岐状マクロモノマー又は特開2004-123873公報に記載の多官能ビニル芳香族共重合体が好ましい。
【0018】
本実施形態において、スチレン系重合体のスチレン系重合体の数平均分子量(Mn)は、5万~20万であることが好ましく、より好ましくは7万~18万、さらに好ましくは8万~15万である。
また、本実施形態のスチレン系重合体の重量平均分子量(Mw)は、20万~50万であることが好ましく、より好ましくは25万~40万、さらに好ましくは30万~40万である。
また、本実施形態のスチレン系重合体のZ平均分子量(Mz)は、100万~180万が好ましく、より好ましくは110万~170万、さらにより好ましくは120万~160万である。
上記の範囲とすることにより、延伸成形性と二次成形性を向上することができる。
【0019】
本実施形態において、スチレン系重合体のz平均分子量(Mz)の重量平均分子量(Mw)に対する比(Mz/Mw)は、3.2~6.0であり、好ましくは3.2~5.0、より好ましくは3.2~4.5である。Mz/Mwが3.2以上であることにより、二次成形条件の幅を広くすることができ、Mz/Mwが6.0以下であることにより、二次成形性を向上することができる。
なお、本実施形態において、上記の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物をラジカル重合する際に、当該重合に使用する、共役ジビニル化合物の種類及び添加量、反応温度、滞留時間、重合開始剤の種類及び添加量、溶媒の種類及び量、連鎖移動剤の種類及び添加量等によって制御することができる。
ここで、本開示において、マトリックス相のスチレン系重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を使用して測定される値であり、具体的には実施例の欄に記載の方法により測定することができる。
【0020】
本実施形態において、マトリックス相のスチレン系重合体の分子量分布が多峰性(分子量分布曲線において2つ以上のピーク(極大値)が存在する)であることが好ましい。マトリックス相のスチレン系重合体の分子量分布が多峰性であることにより、ゴム変性スチレン系樹脂組成物より得られたシートの延伸加工性をより向上させることができる。
なお、本実施形態において、ゴム編成スチレン系樹脂組成物をより効率的に製造する観点からは、当該分子量分布が2峰性であることが好ましい。
また、当該分子量分布が多峰性である場合には、最も大きくなるピークは、溶出開始時間から終了時間の後半50%の範囲に存在し、溶出開始時間から終了時間の前半50%の範囲に少なくとも1つのピークが存在することが好ましい。
「分子量分布が多峰性である」とは、スチレン系重合体の山形の分子量分布のモード値が2以上分離して観測されるように、異なる重量分子量を有する2種以上のスチレン系重合体が組成物中に存在することをいう。さらに、「モード値が分離」とは、2以上のモード値を有する分子量分布において、当該2つのモード値の間に極小値が存在することをいう。分子量分布のヒストグラムに長周期的なうねりと、短周期的なうねりと、が混在する場合、ヒストグラムのみから山の数を一義的に決定することは難しい。そのため、2つのモード値の間に極小値が存在しているか否かの判別が難しい場合は、2つのモード値に対応するそれぞれのピークが、10%以上離れていれば「モード値が分離している」としてもよい。
【0021】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂とは、後述のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の欄に説明する通り、スチレン系重合体を含むマトリクス相中にゴム状重合体粒子が分散されたものであり、ゴム状重合体粒子、並びに必要により添加される、モノビニル化合物及び/又は共役ビニル化合物の存在下で、スチレン系化合物(スチレン系単量体とも称する。)と、必要により添加される当該スチレン系化合物と重合可能な単量体(モノビニル化合物及び/又は共役ビニル化合物)と、を重合させることにより製造することができる。
本実施形態において、スチレン系重合体がマトリクス相の総量に対して50~100質量%占めていることが好ましい。
また、本実施形態におけるスチレン系重合体は、ポリスチレン又はスチレン共重合体であることが好ましい。本実施形態におけるスチレン系重合体がスチレン共重合体である場合、スチレン系化合物の単量体単位と、不飽和カルボン酸系単量体単位及び/又は不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有することが好ましい。
本実施形態において、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有するスチレン共重合体の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、50~99質量%であり、好ましくは60~95質量%、より好ましくは65~95質量%である。
上記スチレン共重合体において、スチレン系化合物の単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系化合物の単量体単位の含有量は67.0~96.0質量%であることが好ましく、より好ましくは74.0~92.0質量%であり、さらに好ましくは77.0~87.0質量%の範囲である。
上記スチレン共重合体において、スチレン系化合物の単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は0~18.0質量%であることが好ましく、より好ましくは2.0~16.0質量%であり、さらに好ましくは6.0~13.0質量%である。
上記スチレン共重合体において、スチレン系化合物の単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有量は0~15.0質量%であることが好ましく、より好ましくは2.0~16.0質量%であり、さらに好ましくは6.0~13.0質量%である。
なお、スチレン系化合物、不飽和カルボン酸系単量体、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体については、後述のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の欄で詳説する。
【0022】
〈ゴム状重合体粒子〉
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子は、ゴム状重合体の内側にスチレン系重合体を内包し、かつ、外側にスチレン系単量体がグラフト重合したものである。また、本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物に含まれるゴム状重合体粒子は、内側にスチレン系重合体を内包(サラミ構造、及びコアシェル構造を含む。)し、かつ、外側にスチレン系重合体がグラフトされたものであってよい。
本実施形態において用いることができるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体などを使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体は1種以上用いることができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを用いることもできる。
ゴム状重合体の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の質量に対して1~20質量%、好ましくは2~15質量%である。
【0023】
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物100質量%に対し、5~40質量%、好ましくは10~35質量%である。ゴム状重合体粒子の含有量を5~40質量%の範囲にすることで剛性と衝撃性のバランスに優れたものが得られる。ゴム状重合体粒子の含有量が40質量%を超える場合、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する時に重合系の溶液粘度が高くなり、運転が難しくなる傾向となる。ここで、ゴム状重合体粒子の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量として測定することができる。
また、ゴム状重合体粒子の膨潤指数は、好ましくは7~14、より好ましくは8~13である。膨潤指数が7~14の範囲内であれば機械的強度に優れる。ゴム状重合体粒子の膨潤指数は、ゴム変性スチレン樹脂組成物中のトルエン不溶分の膨潤指数として測定することができる。
なお本開示で、トルエン不溶分の含有量、膨潤指数は、後述の[実施例]の項で説明する手順で測定される値である。
【0024】
ゴム状重合体粒子のゴム粒子径(平均粒子径)は、好ましくは0.7~5.0μm、より好ましくは0.9~4.5μm、更により好ましくは1.1~4.0μmである。0.7~5.0μmの範囲にすることにより、剛性と機械的強度と光沢に優れたものが得られる。ゴム粒子径は、重合工程のゴム状分散粒子を形成させる領域(相転移)で反応器の撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体の種類、分子量及び1,2-ビニル結合含有量、開始剤の種類及び添加量、連鎖移動剤の種類及び添加量などで調整することが出来る。
なお本開示で、ゴム粒子径は、超薄切片法による透過型電子顕微鏡写真から計測される値である。
【0025】
〈ゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法〉
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物の製造方法の一例としては、ゴム状重合体を溶解したスチレン系化合物を含むモノビニル化合物と、必要に応じて重合溶媒、重合触媒、連鎖移動剤、共役ジビニル化合物等を添加混合し、直列及び/又は並列に配列された1個以上の反応器と未反応単量体等を除去する揮発分除去工程を備えた設備に連続的に単量体類を送入し、段階的に重合を進行させる所謂、連続塊状重合法が好適に用いられる。特に並列に配列した反応器の片方にだけゴム状重合体を添加し、もう片側はゴム状重合体を添加せずに、合流させる配列が好ましい。反応器の様式としては、完全混合型、層流型、重合を進行させながら一部の重合液を抜き出すループ型の反応器等が例示される。これら反応器の配列の順序に特に制限は無いが、層流型反応器が好適に用いられる。脱揮工程は、一般的には加熱器付きの真空脱揮槽や脱揮押出機などが用いられる。例えば、加熱器付きの真空脱揮槽を1段のみ使用したもの、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが挙げられるが、揮発分を極力低減するためには、加熱器付きの真空脱揮槽を直列に2段接続したもの、又は、加熱器付きの真空脱揮槽と脱揮押出機とを直列に接続したものが好ましい。
【0026】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂組成物を製造する際に用いる共役ジビニル化合物としては、上記の通り、共役ビニル基を2つ分子内に有する化合物を用いることができる。また、共役ジビニル化合物は両末端に共役ビニル基を少なくとも1つずつ有する化合物であることが好ましく(本願明細書において、「両末端共役ビニル化合物」ともいう。)、また、鎖状高分子であることがより好ましい。共役ジビニル化合物が両末端共役ビニル化合物である場合には、鎖状高分子中に共役ビニル基を2つより多く有する化合物であってもよく、あるいは鎖状高分子中に共役ビニル基を1つのみ有する化合物であってもよく、又はこれらの組合せを本実施形態の効果が発揮される範囲で含んでもよい。共役ジビニル化合物の共役ビニル基の数が2つより多い場合、架橋点が増え、反応器や原料を回収する工程においてゲル化が起こりやすくなり、反応器の洗浄が必要になり生産性が低下することがある。共役ビニル基となっている末端の構造としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ビニル、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。
【0027】
共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、1000~100000、好ましくは1500~80000、より好ましくは2000~60000、更により好ましくは2000~30000である。数平均分子量(Mn)が1000未満の場合は、共役ジビニル化合物の共役ビニル基間の距離が短いため、共役ジビニル化合物に結合したポリマー鎖間の距離が短くなり、十分な絡み合い効果が得られず、成形加工性に劣る。分子量が100000を超える場合は、重合時に生成したスチレン系樹脂との相溶性が低下し、共役ジビニル化合物同士の絡み合いが増加する。共役ビニル基はこの絡み合いの中に取り込まれ、反応性が低下し、高分子量成分の生成量が低下して好ましくない。
なお、共役ジビニル化合物の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を意味する。
【0028】
共役ジビニル化合物の含有量は、モノビニル化合物の総量1モルに対して3.3×10-6~2.0×10-4モル、好ましくは5.0×10-6~1.5×10-4モル、より好ましくは8.0×10-6~1.2×10-4モルである。含有量が3.3×10-6モル未満の場合は成形加工性が劣る。一方、含有量が2.0×10-4モルを超える場合は、ゲル状物質の発生が多くなり、外観が不良となる。また高分子量樹脂の割合が増加し、粘弾性が強すぎて樹脂溶融時の伸びなどが低下して成形性が悪化する。
なお本開示で、モノビニル化合物の総量1モルに対する共役ジビニル化合物の含有量は、H-NMR及び13C-NMRを使用して測定される値である。
【0029】
本実施形態において、ゴム変性スチレン系樹脂組成物を形成する単量体として、少なくともスチレン系化合物を含む1種類以上のモノビニル化合物が含まれる。モノビニル化合物は、スチレン系化合物(モノマー)のみからなっていても、スチレン系化合物とともにスチレン系化合物と共重合可能な他のモノビニル基を有する化合物からなっていてもよい。モノビニル化合物としては、スチレン系化合物の他、スチレン系化合物と共重合可能であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリロニトリルなどのなどの不飽和カルボン酸系単量体又は不飽和カルボン酸エステル単量体といったビニル系化合物、並びにジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、無水マレイン酸、マレイミド、及び核置換マレイミドなどが挙げられる。また、スチレン系化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンである。
【0030】
本実施形態において、モノビニル化合物の含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂組成物の総量に対して80~99質量%、好ましくは85~98質量%である。ここでいうモノビニル化合物の含有量とは、モノビニル化合物が重合された高分子中のモノビニル化合物の繰り返し単位の含有量をいう。
【0031】
また、重合反応の制御の観点から、必要に応じて重合溶媒、有機過酸化物等の重合開始剤や連鎖移動剤を使用することができる。重合溶媒は連続塊状重合や連続溶液重合において重合速度や分子量などを調整するために用いる。溶媒として、特に制限はないが、芳香族炭化水素類、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えばメチルエチルケトンなどが挙げられ、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の溶剤、例えば脂肪族炭化水素類等を芳香族炭化水素類に混合することができる。これらの溶剤は、単量体に対して、25重量%を超えない範囲で使用するのが好ましい。溶剤が25重量%を超えると、重合速度が著しく低下し、かつ、得られる樹脂の衝撃強度の低下が大きくなる。また、溶剤の回収のために、多量のエネルギーを要するので経済性も劣ってくる。溶剤は、重合が進み、比較的高粘度になってから添加してもよいし、あるいは重合前から添加しておいてもよいが、重合前に5~20重量%の割合で添加しておく方が、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0032】
特に共役ジビニル化合物の添加量を多くしたい場合には、ゲル化を抑制する観点から重合溶媒を使用することが好ましい。これにより、先に示した共役ジビニル化合物の添加量を増量することができ、ゲルが生じにくい。
【0033】
重合開始剤として、特に制限はないが、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4ービス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。スチレン系単量体に対して0.005~0.08質量%添加することが好ましい。
【0034】
連鎖移動剤としては、例えばα-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、1-フェニルー2-フルオレン、ジベンテン、クロロホルムなどのメルカプタン類、テルペン類、ハロゲン化合物、テレピノーレン等のテレピン類等を挙げることができる。この連鎖移動剤の使用量は、特に制限はないが、一般的には単量体に対して、0.005~0.3重量%程度添加することが好ましい。
【0035】
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、ゴム状重合体を溶解したスチレン系化合物に共役ジビニル化合物を添加して連続重合することにより得られるが、加工の容易さを付与したり、強度の向上のために、予め重合されたスチレン系樹脂や流動パラフィン類など添加剤を押出機で溶融ブレンドしたり、ペレット状態でドライブレンドして用いることもできる。
【0036】
上記のスチレン系樹脂や添加剤としては、流動性の改良のためのGP-PS樹脂や強度向上のためのゴム質を含有するMBS樹脂等のゴム強化芳香族ビニル系樹脂やSBS等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。また、添加剤としてはステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の高級脂肪酸及びその塩やエチレンビスステアリルアミド等の滑剤、酸化防止剤が挙げられる。
【0037】
〈シート〉
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物は、押出成形、射出成形等の公知の成形法によって各種成形することができるが、押出成形用に好適であり、Tダイシート押出機、二軸延伸加工装置、インフレーション加工装置を用いて、シートやフィルムに成形することができる。シートの場合は単層であっても良く、多層シートの一部として用いても良い。シートの厚みは、成形品での用途により変化し、特に限定されるものではないが、通常は0.2~3.0mmである。フィルムの場合も同様に特に限定されるものではないが、通常は10~200μmである。
【0038】
〈成形品〉
本発明のゴム変性スチレン系樹脂組成物からなるシートは、真空成形や真空圧空成形などの熱成形により、種々の形状に二次成形され、各種包装容器に用いることができる。該シートを使用した成形品の具体的な例としては、食品トレー、弁当容器、カップ、デザート容器、アイスクリーム容器、冷菓容器、ヨーグルト容器、ミルクポーション、惣菜容器、豆腐容器などが挙げられる。
【実施例0039】
以下に本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。なお、以下の説明では、具体的な化合物名や数値等を挙げて説明しているが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明で用いる分析方法と樹脂の評価方法について記す。具体的には、本実施例及び比較例では、以下の(1)~(10)に示す測定を行った。
【0040】
(1)分子量の測定
本発明にて得られるスチレン系共重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、Z平均分子量(Mz)、分子量400万以上の成分の割合、分子量分布形状は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
装置:Malvern社製GPCmax
分別カラム:測定溶媒が流れる順に、Shodex製KF806を2本、KF800Dを1本、直列に接続
ガードカラム:Shodex製GPC KFG-4A
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料10mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルター
でろ過を行った。
注入量:100μL
測定温度:40℃
流速:1.00mL/分
検出器:示差屈折計(TDA305)
MALS検出器:Malvern社製Viscotek SEC-MALS 20
MALS検出角度:12°、20°、28°、36°、44°、52°、60°、68°、76°、84°、90°、100°、108°、116°、124°、132°、140°、148°、156°、164°
MALS検出器温度:35℃
標準試料としてMalvern社製PS105Kを使用し計算をおこなった。
【0041】
(2)メルトマスフローレート(MFR)の測定
本発明にて得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)を、ISO1133に準拠して、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0042】
(3)トルエン不溶分の含有量、膨潤指数の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量(質量%)、膨潤指数を以下のように測定した。沈澱管にゴム変性スチレン系樹脂1.00gを精秤し(この質量をW1とする)、トルエン20ミリリットルを加え23℃で2時間振とう後、遠心分離機(佐久間製作所社製、SS-2050A ローター:6B-N6L)にて温度4℃、回転数20000rpm、遠心加速度45100×Gで60分間遠心分離した。沈澱管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含んだ不溶分の質量を精秤し(この質量をW2とする)、引き続き、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥し、デシケータ内で室温まで冷却後、トルエン不溶分の質量を精秤した(この質量をW3とする)。
下記式により、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のトルエン不溶分の含有量及び膨潤指数、即ち、ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体粒子の含有量及び膨潤指数を求めた。
トルエン不溶分の含有量=W3/W1×100
トルエン不溶分の膨潤指数=W2/W3
【0043】
(4)ゴム重合体含有量の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物中のゴム状重合体の含有量(質量%)を以下のように測定した。メスフラスコにゴム変性スチレン系樹脂組成物0.4gを精秤し(この質量をWとする)、クロロホルム75mlを加えてよく分散させた後、一塩化ヨウ素18gを1000mlの四塩化炭素に溶かした溶液20mlを加え、冷暗所に保存し、8時間後にクロロホルムを加え、標線に合わせた。これを25ml採取し、ヨウ化カリウム10gを水800ml、エタノール200mlの混合液に溶かした溶液60mlを加え、チオ硫酸ナトリウム10gを1000mlの水に溶かした溶液(モル濃度x)で滴定した。本試験Aml、空試験Bmlとし、ゴム状重合体含有率(質量%)は以下の式(1)により求めた。
ゴム状重合体含有率=10.8×x×(B-A)/W 式(1)
【0044】
(5)ゴム粒子径の測定
ゴム変性スチレン系樹脂組成物のゴム粒子径(μm)の測定は、30μm径のアパーチャーチューブを装着したベックマンコールター株式会社製COULTER MULTISIZER III (商品名)を用いた。具体的には、ゴム変性スチレン系樹脂組成物ペレット0.05gをジメチルホルムアミド約5ml中に入れ約2~5分間放置した。次にジメチルホルムアミド溶解分を適度の粒子濃度として測定し、体積基準のメジアン径を求めた。
【0045】
(6)溶融張力の測定
スチレン系樹脂組成物の溶融張力(g)は、以下の条件で測定を行った。
装置名:キャピラリーレオメーター RH10(マルバーン製)
測定温度:190℃
押出速度:20mm/分
引取速度:3.1m/分
乾燥条件:測定前にスチレン系樹脂組成物を80℃で3時間乾燥させた。
上記測定条件にて、荷重が安定した範囲を平均化して溶融張力値とした。引取中にストランドが切れる場合や、荷重の変動係数が10%を超える場合は測定不可とした。
【0046】
(7)シャルピー衝撃強度の測定
本発明にて得られるゴム変性スチレン系樹脂組成物を、射出成形機(EC60N、東芝機械社製)により、シリンダー温度230℃、金型温度45℃、射出圧力80MPa、射出速度26mm/sで成形して、ISO金型タイプAの試験片を得た。得られた試験片について、シャルピー衝撃強度(kJ)を、ISO179に準拠して、ノッチ有で測定した。
【0047】
(8)引張降伏強度の測定
上記(6)で得られた試験片について、引張降伏強度(MPa)を、ISO527に準拠して測定した。
【0048】
(9)シートの延伸成形性の測定
創研社製圧縮成型機を用いて、200℃で厚さ1.2mm、縦80mm、横80mmの圧縮成形シートを作成し、その後、東洋精機製作所社製二軸延伸機EX6-S1を用いて、120℃で10分間予熱後、縦横同時に100mm/分の速度で3倍に延伸したシートを10枚作成し、延伸時のシートの破断枚数から、シートの延伸成形性の良否を判定した。破断枚数が少ないほど延伸成形性に優れる。
【0049】
(10)シートの深絞り成形性の測定
創研社製30mmφシート押出機を用いて、厚さ0.3mmのシートを作成した。その後、創研社製のシート容器成形機を用いて、容器成形機の固定枠でシートを挟み、ヒータの平均温度200℃、雰囲気温度130℃、加熱時間60秒で加熱した。次いで、径8cmで高さ10cmのコップ状の金型(温度40℃)に固定枠ごとスライドさせて真空成型を行い、成形体を各実施例、比較例あたり20個ずつ成形した。金型の形状が成形容器に正確に転写されている容器の数により、シートの深絞り性を判断した。正確に転写されている容器の数が多いほど深絞り成形性に優れる。
【0050】
(合成例1)
本実施例で用いた共役ジビニル化合物2は、下記の方法に基づいて製造した。
製造例:共役ジビニル化合物2(ポリブタジエン末端アクリレート、数平均分子量:26000)
撹拌機、温度計及び還流冷却管を取り付けた容量5Lの反応容器内に、ポリブタジエン両末端アルコール(Mn:26000)32405g、アクリル酸メチル379g、n-ヘキサン380g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.8194g及び4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル0.5533gを仕込んだ。得られた混合物を塩化カルシウム管内に通しながら、その混合物に空気を吹き込み、80~85℃で還流脱水を行った。この混合物に含まれている水分をカールフィッシャー法により測定し、その含水量が200ppm以下であることを確認した。その後、エステル交換触媒として、テトラn-ブチルチタネート1.3685gを前記混合物に添加し、生成したメタノールをその共沸溶媒であるn-ヘキサンの還流下で反応系外に留去しながら、攪拌下で80~85℃の反応温度で10時間反応させた。
【0051】
次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、使用したアクリル酸メチル及びn-ヘキサンの95%以上が留出するまで減圧度70~2kPaで濃縮し、過剰のアクリル酸メチルとn-ヘキサンを回収した。得られたポリブタジエン両末端ジアクリレート2070gに、トルエン2000g、アセトン200g、イオン交換水20g及びエステル交換触媒としてハイドロタルサイト(組成式MgAl(OH)16CO・4HO)〔協和化学工業社製、商品名:キョーワード500PL〕20gを添加し、75~80℃で2時間処理した。次に、反応容器内の温度を75~80℃に調整し、減圧度90~35kPaで濃縮することにより、トルエンとアセトンと水の混合留出液400gを回収し、得られた濃縮液を空気加圧下で濾過して触媒及び吸着剤を分離し、さらに60~80℃の温度で30~0.8kPaの減圧度で溶媒を脱揮し、共役ジビニル化合物2を得た。
【0052】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で、共役ジビニル化合物2のポリブタジエン両末端ジアクリレートの転化率を測定したところ、99.3%で、分子量はポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)が26000であった。
【0053】
(実施例1)
スチレン単量体84.1質量部、エチルベンゼン7.5質量部、ポリブタジエン[旭化成社製:ジエン55]を6.3質量部、重合開始剤1として1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日本油脂社製:パーヘキサC]を0.005質量部、酸化防止剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-ターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート[BASFジャパン株式会社製:Irganox1076]を0.13質量部添加して原料溶液を調製した。調製した原料溶液を、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型の第1反応器に0.62L/時で連続的に供給し、温度を114℃/119℃/123に調整した。攪拌機の回転数は毎分30回転とした。次にスチレン単量体92.5質量部、エチルベンゼン7.5質量部、共役ジビニル化合物1[大阪有機化学工業社製:BAC-45(Mn:4800)]を0.003質量部、重合開始剤2として2,2-ビス(4,4-ジ-t-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン[日本油脂社製:パーテトラA]を0.0025質量部添加して原料溶液を調製した。調製した原料溶液を、攪拌機を備え、1ゾーンで温度コントロール可能な1.8Lの層流型の第2反応器に0.18L/時で連続的に供給し、温度を117℃に調整した。攪拌機の回転数は毎分80回転とした。続いて第1反応器と第2反応器からの重合溶液を合流させ、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型の第3反応器に反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分20回転とし、温度は137℃/139℃/144℃とした。続いて第3反応器と直列に接続された、攪拌機を備え、3ゾーンで温度コントロール可能な6.2Lの層流型の第4反応器に反応液を送った。攪拌機の回転数は毎分10回転とし、温度は145℃/149℃/153℃とした。続いて第4反応器からの反応液を240℃、1.5~2.0kPaに調整された2段真空ベント付き押出機に供給し、未反応モノマーや溶媒等の揮発成分を取り除き、ストランド状に押し出した樹脂をカッティングしてペレット状のゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS1とも称する。)を得た。
ゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS1)の製造条件と分析結果を表1に示す。スチレン1モルに対する共役ジビニル化合物の含有量は、日本電子社製のNMR(JOEL-ECA500)を使用して測定した。
【0054】
(実施例2~5及び比較例1~5)
実施例2~5及び比較例1~5においては、表1に示すように条件を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~5のゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS2~PS5)と、比較例1~5の樹脂組成物(PS7~PS11)とを合成し、当該ゴム変性スチレン系樹脂組成物及び樹脂組成物の諸特性を表2に示すように制御した。
【0055】
(実施例6)
実施例6のゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS6)は、比較例1で作成した樹脂組成物(PS7)100重量部に対して、東ソー株式会社製ポリスチレンF-450を5重量部ドライブレンドした後、ラボプラストミルで押出し、ゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS6)を作製した。そして、表2に示す諸特性の測定をおこなった。
【0056】
なお、表1に掲げる各共役ジビニル化合物、重合開始剤及び流動パラフィンは以下のものを用いた。
共役ジビニル化合物1:ポリブタジエン末端アクリレート[大阪有機化学工業社製:BAC-45]Mn=4800
共役ジビニル化合物2:上記合成例1の欄に記載の方法により、共役ジビニル化合物2(ポリブタジエン末端アクリレート、数平均分子量(Mn)=26000)を製造した。
重合開始剤1:1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン[日油社製:パーヘキサC]
重合開始剤2:2,2-ビス(4,4-ジ-ターシャリー-ブチルペルオキシシクロヘキシル)プロパン[日油社製:パーテトラA]
流動パラフィン:PS-350S[三光化学社製]
連鎖移動剤1:α-メチルスチレンダイマー[日油社製:ノフマーMSD]
連鎖移動剤2:n-ドデシルメルカプタン[富士フィルム和光純薬工業社製]
【0057】
【表1】
【0058】
上記実施例1~6で得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS1~PS6)と、比較例1~4で得られたゴム変性スチレン系樹脂組成物(PS7~PS11)とを用いて、上記(1)~(10)に示す測定を行った。当該測定結果を以下の表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~実施例6のゴム変性スチレン系樹脂組成物では、成形加工性、特に二次成形性に優れ、さらにシート上のゲル状物質も少なく、成形品の外観に優れたものであることがわかる。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によるゴム変性スチレン系樹脂組成物を用いることで、延伸加工性に優れたシートを得ることができ、当該シートは、家電、事務機製品、雑貨、住宅設備等の成形材料や食品包装材料等として広く利用することができる。