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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058869
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】切断装置及び切断方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20230419BHJP
   B23D 57/00 20060101ALI20230419BHJP
   B23D 61/18 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
E04G23/08 D
B23D57/00
B23D61/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168646
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000103035
【氏名又は名称】MHIさがみハイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】神尾 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 修
(72)【発明者】
【氏名】澤田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】古野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】安河内 淳一
(72)【発明者】
【氏名】安藤 雄二
(72)【発明者】
【氏名】川田 純也
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 友昭
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 信之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有浩
【テーマコード(参考)】
2E176
3C040
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176AA17
2E176DD22
3C040AA19
3C040JJ03
(57)【要約】
【課題】筒状の構造物の内側に他の内部構造物が存在する状態で筒状の構造物を切断可能とする切断装置及び切断方法を提供する。
【解決手段】切断装置1は、鉛直の筒状の熱遮蔽壁105を水平な断面で切断する切断装置である。切断装置1は、熱遮蔽壁105の一部位を間に挟んで隣り合い同じ高さに配置される少なくとも一対の切削用プーリ27tを含んで熱遮蔽壁105の外周側に配置される複数のガイドプーリ27を有するワイヤーソーガイド部25と、ワイヤーソーガイド部25のガイドプーリ27に架け渡されるワイヤーソー工具21と、ワイヤーソー工具21を走行させるワイヤーソー駆動部23と、熱遮蔽壁105を周方向に囲んで設置されワイヤーソー駆動部23とガイドプーリ27とを熱遮蔽壁105の周囲で水平に移動させる環状のガイドレール9と、を備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直の筒状の構造物を水平な断面で切断する切断装置であって、
前記構造物の一部位を間に挟んで隣り合い同じ高さに配置される少なくとも一対の切削用プーリを含んで前記構造物の外周側に配置される複数のプーリを有するワイヤーソーガイド部と、
前記ワイヤーソーガイド部の前記プーリに架け渡されるワイヤーソー工具と、
前記ワイヤーソー工具を走行させるワイヤーソー駆動部と、
前記構造物を周方向に囲んで設置され前記ワイヤーソー駆動部と前記プーリとを前記構造物の周囲で水平に移動させる環状のガイドレールと、を備える、切断装置。
【請求項2】
前記切削用プーリ同士の間を走行する前記ワイヤーソー工具の軌道が、前記構造物の中空部に達するように前記切削用プーリが配置されている、請求項1に記載の切断装置。
【請求項3】
前記ワイヤーソー工具は、前記構造物を周方向に囲むように配置され、
前記ワイヤーソーガイドには、前記切削用プーリの対が複数対含まれる、請求項1又は2に記載の切断装置。
【請求項4】
切断後の前記構造物の上端部を吊り下げ支持可能な支持フレームを更に備える、請求項1~3の何れか1項に記載の切断装置。
【請求項5】
原子炉の圧力容器を同心で囲む円筒状の熱遮蔽壁を切断対象の前記構造物として、前記熱遮蔽壁の中空部内に前記圧力容器が存在する状態で、
前記切削用プーリ同士の間を走行する前記ワイヤーソー工具の軌道が前記熱遮蔽壁の中空部に達し且つ前記圧力容器まで達しないように、当該切削用プーリの位置関係が設定され、
請求項1~4の何れか1項に記載の切断装置を用いて前記構造物を切断する、切断方法。
【請求項6】
前記熱遮蔽壁と前記圧力容器との間には、前記圧力容器の外周面上に設けられた断熱材が存在している、請求項5に記載の切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断装置及び切断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に原子炉の円筒状の熱遮蔽壁の解体方法が開示されている。この解体方法では、熱遮蔽壁の内側の圧力容器が撤去済みの状態で、当該熱遮蔽壁の内側に解体ロボットが吊り入れられる。そして解体ロボットが遠隔操作され順次降下しながら熱遮蔽壁が上端部側から下端部側まで順次解体される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許05975268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この熱遮蔽壁の解体方法では、熱遮蔽壁の解体の前に圧力容器が撤去される。しかしながら、熱遮蔽壁が存在する状態で内側の圧力容器を解体することが比較的困難である場合もあり得る。従って、圧力容器の解体を効率的に行うために、圧力容器よりも先に熱遮蔽壁を撤去する手法が望まれる場合がある。このような原子炉の熱遮蔽壁の例に限られず、本発明は、筒状の構造物の内側に他の内部構造物が存在する状態で筒状の構造物を切断可能とする切断装置及び切断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の切断装置は、鉛直の筒状の構造物を水平な断面で切断する切断装置であって、構造物の一部位を間に挟んで隣り合い同じ高さに配置される少なくとも一対の切削用プーリを含んで構造物の外周側に配置される複数のプーリを有するワイヤーソーガイド部と、ワイヤーソーガイド部のプーリに架け渡されるワイヤーソー工具と、ワイヤーソー工具を走行させるワイヤーソー駆動部と、構造物を周方向に囲んで設置されワイヤーソー駆動部とプーリとを構造物の周囲で水平に移動させる環状のガイドレールと、を備える。
【0006】
本発明の切断装置では、切削用プーリ同士の間を走行するワイヤーソー工具の軌道が、構造物の中空部に達するように切削用プーリが配置されている、こととしてもよい。また、ワイヤーソー工具は、構造物を周方向に囲むように配置され、ワイヤーソーガイドには、切削用プーリの対が複数対含まれる、こととしてもよい。また、本発明の切断装置は、切断後の構造物の上端部を吊り下げ支持可能な支持フレームを更に備える、こととしてもよい。
【0007】
本発明の切断方法は、原子炉の圧力容器を同心で囲む円筒状の熱遮蔽壁を切断対象の構造物として、熱遮蔽壁の中空部内に圧力容器が存在する状態で、切削用プーリ同士の間を走行するワイヤーソー工具の軌道が熱遮蔽壁の中空部に達し且つ圧力容器まで達しないように、当該切削用プーリの位置関係が設定され、前述の何れかの切断装置を用いて構造物を切断する。また、熱遮蔽壁と圧力容器との間には、圧力容器の外周面上に設けられた断熱材が存在している、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれは、筒状の構造物の内側に他の内部構造物が存在する状態で筒状の構造物を切断可能とする切断装置及び切断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の切断装置及び切断方法が適用される原子炉建屋の要部を示す断面図である。
図2】原子炉建屋内に本実施形態の切断装置を設置した状態を示す斜視図である。
図3】本実施形態の切断装置を設置した状態を示す平面図である。
図4】ワイヤーソー駆動部を熱遮蔽壁の内周側から見た状態を示す斜視図である。
図5】(a),(b)は、ワイヤーソー切断機による熱遮蔽壁の切断処理を説明する図である。
図6】(a)~(e)は熱遮蔽壁の解体作業の一例を順次示す側面図である。
図7】(a)~(f)は熱遮蔽壁の解体作業を他の例を順次示す側面図である。
図8】(a),(b)は、切断装置及び切断方法の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明に係る切断装置及び切断方法の実施形態について詳細に説明する。図1は、本実施形態の切断装置及び切断方法が適用されるBWR型(沸騰水型)原子力発電所の原子炉建屋101の要部を示す断面図である。図2は、原子炉建屋101内に本実施形態の切断装置1を設置した状態を示す斜視図であり、図3はその平面図である。図1に示されるように、原子炉建屋101は、平面視円形の原子炉圧力容器(RPV)103と、圧力容器103の周囲を囲む円筒状の熱遮蔽壁(RSW)105と、熱遮蔽壁105の周囲を更に囲む生体遮蔽体(BSW)107と、熱遮蔽壁105を支持するペデスタル(RPV)109と、を備えている。更に原子炉建屋101の天井には天井クレーン111が設けられている。
【0011】
切断装置1及び当該切断装置1による切断方法は、この原子炉建屋101の廃止解体時に適用され、生体遮蔽体107及び圧力容器103が残置された状態で熱遮蔽壁105を水平な断面で切断するものである。熱遮蔽壁105は、例えば、直径約7~8m、高さ約14m、壁厚約0.7mといったサイズで鉛直な円筒状をなす構造物である。熱遮蔽壁105は、I型鋼と鋼板による鋼構造に遮蔽コンクリート又はモルタルを充填した構造をなすので、熱遮蔽壁105の切断にはコンクリートと鋼材とを同時に切断できる乾式ワイヤーソー工法が用いられる。圧力容器103は、熱遮蔽壁105の中空部105c内に同軸に収納され概ね円柱形状をなす構造物であり、圧力容器103と熱遮蔽壁105との径方向の間隔は約0.4mである。圧力容器103の外側面には厚さ約0.3mの断熱材113(図3)が全周に亘って設けられている。従って、断熱材113と熱遮蔽壁105との間には径方向に約0.1mの隙間が形成されている。生体遮蔽体107は、熱遮蔽壁105から約1.4~1.5mの隙間をあけて当該熱遮蔽壁105の周囲を囲んでいる。
【0012】
詳細は後述するが、本実施形態の切断方法では、熱遮蔽壁105の上端部が、切断装置1によって圧力容器103を避けながら水平に切断されてリング状の切片として分断され、分断された切片は、生体遮蔽体107の上面に設けられたオペレーションフロア115まで天井クレーン111を用いて吊り上げられる。そして、オペレーションフロア115においては、この切片の更なる細断や容器収納といった処理が実行される。このような作業が繰り返されることで、熱遮蔽壁105は上部から下部まで例えば10分割程度の切片に分断され、各切片がオペレーションフロア115で順次処理され、熱遮蔽壁105の解体が完了する。
【0013】
図2図5を参照しながら、切断装置1の構成について説明する。図2に示されるように、切断装置1は主に熱遮蔽壁105の上端部に設置される。切断装置1は、吊りフレーム3と、巻取り装置5と、ピンブラケット7と、ガイドレール9と、ワイヤーソー切断機11と、を備えている。吊りフレーム3(支持フレーム)は、平面視正方形状のフレームであり、天井クレーン111によって吊り支持された状態で圧力容器103の上方に配置される。巻取り装置5は、吊りフレーム3の四隅にそれぞれ設けられ、下方に延ばしたワイヤー5aを介してピンブラケット7、ガイドレール9、及びワイヤーソー切断機11を吊るとともに、ワイヤー5aの巻取り/巻出しによってピンブラケット7、ガイドレール9、及びワイヤーソー切断機11を上下移動可能である。
【0014】
各ピンブラケット7は、各ワイヤー5aの下端に接続され、各々の巻取り装置5の鉛直下方の位置で熱遮蔽壁105の上端部に取付けられている。ピンブラケット7は、熱遮蔽壁105の上端面を跨ぐように設置されるブラケット本体7aと、熱遮蔽壁105の上端部を壁厚方向に貫通してブラケット本体7aに両持ち固定されるピン7bと、を備えている。なお、熱遮蔽壁105には、上記ピン7bを挿通するために、壁厚方向に貫通するピン孔(図示せず)がコアマシーンによって予め形成される。ガイドレール9は、円環状をなしており、ピンブラケット7の下端部に固定され、熱遮蔽壁105と同心に当該熱遮蔽壁105の周囲に配置される。ガイドレール9を支持するためのアンカーが熱遮蔽壁105に設けられてもよい。
【0015】
ワイヤーソー切断機11は、ワイヤーソー工具21と、ワイヤーソー駆動部23と、ワイヤーソーガイド部25と、を備えている。ワイヤーソー切断機11は、ガイドレール9に取付けられ、ガイドレール9上を熱遮蔽壁105の周方向に移動可能にガイドレール9を把持している。例えば、ワイヤーソー駆動部23及びワイヤーソーガイド部25には、ガイドレール9を把持する把持部11aが複数箇所に設けられており、把持部11aはガイドレール9上を当該ガイドレール9の長手方向にスライド可能である。
【0016】
ワイヤーソー工具21は、鉄筋コンクリート製の熱遮蔽壁105を切削可能なダイヤモンドワイヤーソー工具である。ワイヤーソー工具21は、熱遮蔽壁105の周囲を周方向に一周するように配置される。ワイヤーソー駆動部23は、熱遮蔽壁105の外周面の直ぐ外側の位置に配置される。ワイヤーソー駆動部23は例えば2つのモータ23aを有し、当該モータ23aを駆動源としてワイヤーソー工具21を走行させる。ワイヤーソーガイド部25は、ワイヤーソー駆動部23から熱遮蔽壁105の周方向両側に水平に延び出している。ワイヤーソーガイド部25は、ワイヤーソー駆動部23に接合されたフレーム部29を有しており、フレーム部29は、直線状の棒材を熱遮蔽壁105と生体遮蔽体107との間の隙間に収まるように複数箇所で屈曲させた形状をなしている。そして、ワイヤーソー駆動部23とワイヤーソーガイド部25とを合わせたワイヤーソー切断機11を平面視すると、熱遮蔽壁105の周囲の約4分の3周程度を取り囲むC字形状を呈している。
【0017】
更に、ワイヤーソーガイド部25は、フレーム部29の各屈曲部において当該フレーム部29の下面に設けられた複数のガイドプーリ27を有している。なお、図3においては、図の煩雑化を回避するために、ワイヤーソーガイド部25についてはフレーム部29の図示が省略されガイドプーリ27のみが示されている。全てのガイドプーリ27は、熱遮蔽壁105と生体遮蔽体107との間の隙間内で同じ高さに配置されている。ワイヤーソー工具21は、ワイヤーソー駆動部23内で取り回されるとともに、ワイヤーソーガイド部25の各ガイドプーリ27に順次架け渡されながら、熱遮蔽壁105の周囲を周方向に囲むように配置される。ガイドプーリ27は、ガイドレール9よりもやや低い位置に配置さており、このため、ワイヤーソー工具21の走行軌道はガイドレール9よりもやや低い位置にある。
【0018】
図3に示されるように、ガイドプーリ27のうち、一対の隣接するガイドプーリ27t,27tは、互いの間に熱遮蔽壁105の一部位を挟むように位置している。すなわち、一方のガイドプーリ27tの位置から見たときに他方のガイドプーリ27tは熱遮蔽壁105の背後に隠れる位置関係にある。従って、ワイヤーソー工具21のうち、これらのガイドプーリ27t,27t同士の間に架け渡された部分21aは、熱遮蔽壁105の外周面に接触し湾曲した状態で設置される。以下では、ガイドプーリ27のうち上記のようなガイドプーリ27tを「切削用プーリ27t」と呼び、ワイヤーソー工具21の上記のような部分21aを「切削部分21a」と呼ぶ。
【0019】
切削用プーリ27t,27tと熱遮蔽壁105との位置関係は、より詳細には次のようなものである。仮に熱遮蔽壁105が無い場合には、切削用プーリ27t,27t同士の間に切削部分21aが直線的に水平に架け渡される。この直線的な状態の切削部分21aの軌道が、熱遮蔽壁105の壁内を通過して、熱遮蔽壁105の中空部105cに達する深さまで入り込む。また、上記直線の状態の切削部分21aの軌道は圧力容器103には達しないが、断熱材113には達してもよい。なお、切削部分21a以外のワイヤーソー工具21の部分は、ガイドプーリ27,27同士の間に架け渡され、熱遮蔽壁105の外周面から離れた位置を通過している。
【0020】
図4は、ワイヤーソー駆動部23を熱遮蔽壁105の内周側から見た状態を示す斜視図である。ワイヤーソー駆動部23は、矩形の枠体31と、枠体31に取付けられワイヤーソー工具21をガイドする複数のプーリ33と、ワイヤーソー工具21の駆動源である2つのモータ23aと、ワイヤーソー工具21の張力を調整するためのエアバランサ37と、を備えている。プーリ33のうちの2つは、上記のモータ23aによって回転される駆動プーリ33Aである。エアバランサ37は枠体31の上部に取付けられており、枠体31にはエアバランサ37の取付け位置から枠体31の下部まで鉛直に延びるレール39が設けられている。レール39にはスライドプレート41がスライド自在に取付けられており、エアバランサ37のワイヤー37aがスライドプレート41に接続されている。スライドプレート41にはプーリ33のうちの1つが調整プーリ33Bとして取付けられている。
【0021】
このようなワイヤーソー駆動部23では、上記の各プーリ33にワイヤーソー工具21が順次架け渡され、モータ23aによる駆動プーリ33Aの回転によってワイヤーソー工具21に駆動力が付与される。また、エアバランサ37のワイヤー37aの伸縮により、スライドプレート41上の調整プーリ33Bが上下することで、ワイヤーソー駆動部23内におけるワイヤーソー工具21の長さが変動し、ワイヤーソー工具21の張力が調整される。
【0022】
ワイヤーソー切断機11は、自機をガイドレール9上で移動させる推進装置を備えている。本実施形態では、図2に示されるように、ワイヤーソー駆動部23の枠体31に取付けられたウインチ43が上記推進装置として機能する。ウインチ43からウインチワイヤー43aが伸ばされ、ウインチワイヤー43aの先端が移動方向前方の位置でガイドレール9に固定される。例えばここでは、ガイドレール9にアイボルト(図示せず)が取付けられ、ウインチワイヤー43aの先端に設けられたフック(図示せず)が上記アイボルトに引っ掛けられるようにしてもよい。この状態でウインチ43がウインチワイヤー43aを巻き取ることにより、ワイヤーソー切断機11の全体がガイドレール9上を周方向に移動する。すなわち、ワイヤーソー工具21と、ワイヤーソー駆動部23と、複数のガイドプーリ27を含むワイヤーソーガイド部25と、が、一体となってガイドレール9上を周方向に移動する。
【0023】
続いて、以上のような構成のワイヤーソー切断機11による熱遮蔽壁105の切断処理について説明する。ワイヤーソー切断機11においてワイヤーソー駆動部23が駆動されると、ワイヤーソー工具21は、複数のガイドプーリ27に案内されながら熱遮蔽壁105と生体遮蔽体107との間の隙間内を走行する。このとき、ワイヤーソー工具21のうち、切削用プーリ27t,27t同士の間で熱遮蔽壁105の外周面に接触していた切削部分21a(図3)が、外周面を切削しながら熱遮蔽壁105に食い込んでいく。そして、切削部分21aは、図5(a)に示されるように、切削用プーリ27t,27t同士の間で直線的に延びる状態まで、熱遮蔽壁105を切削して内周側に入り込んだ状態になる。このとき、切削部分21aの中央近傍は熱遮蔽壁105の中空部105cに到達している。図5(a)にクロスハッチングで示される領域は、熱遮蔽壁105のうち切削部分21aによって切断された切断済領域105aである。なお、ワイヤーソー切断機11には、切削部分21aに沿う位置に配置された集塵ダクト22(図3)が設けられており、熱遮蔽壁105の切削で発生する切削屑が集塵ダクト22によって吸引され回収される。
【0024】
更に、上記のワイヤーソー工具21の走行に並行してウインチ43が駆動され、図5(b)に示されるように、ワイヤーソー切断機11の全体がガイドレール9上で熱遮蔽壁105の周囲を平面視時計周りで周方向に移動する。そうすると、図に示されるように、切断済領域105aが周方向に徐々に拡大していく。このとき、切断溝が重力で押し潰されることを防止するために、切断済領域105aでは、楔状のスペーサ(図示せず)が切断溝内に適宜挿入されていく。ウインチ43のウインチワイヤー43aを掛け替えながらワイヤーソー切断機11が熱遮蔽壁105の周囲を一周したところで、熱遮蔽壁105がワイヤーソー工具21の高さ位置の水平面を境界として上下に分断される。
【0025】
前述したとおり、切削用プーリ27t,27t同士の位置関係により、切削部分21aの軌道が圧力容器103には達しないので、圧力容器103には傷を付けることなく、熱遮蔽壁105が切断される。なお、切削部分21aの軌道が前述のように断熱材113に達する場合には断熱材113に傷が付くが、圧力容器103に傷が付かない限り特に問題にはならない。
【0026】
続いて、上記のような熱遮蔽壁105の切断処理を含めた熱遮蔽壁105の解体作業の一例について、図6を参照しながら説明する。熱遮蔽壁105の解体作業では、まず図6(a)及び図6(b)に示されるように、ピンブラケット7、ガイドレール9、及びワイヤーソー切断機11が一体として吊りフレーム3に吊られた状態とされ、天井クレーン111(図1)から圧力容器103上方に吊り降ろされる。熱遮蔽壁105の上端部には、当該熱遮蔽壁105の壁厚方向に貫通するピン孔(図示せず)がコアマシーンによって事前に形成されており、ピンブラケット7のピン7b(図2)が上記ピン孔に挿通されることで、ピンブラケット7が熱遮蔽壁105の上端部に固定される。これにより、ピンブラケット7と、ピンブラケット7に固定されたガイドレール9と、ガイドレール9に取付けられたワイヤーソー切断機11と、が熱遮蔽壁105上に設置される。その後、図6(c)に示されるように、ピンブラケット7とワイヤー5aとが切り離され、吊りフレーム3及び巻取り装置5は上方に退去する。
【0027】
続いて、ワイヤーソー駆動部23とウインチ43(図2)とが駆動されることで、前述した切断処理が実行され、ワイヤーソー工具21によって熱遮蔽壁105が切断されていく。そして、ワイヤーソー切断機11が熱遮蔽壁105の周囲を一周したところで、熱遮蔽壁105がワイヤーソー工具21の高さ位置の水平面を境界として上下に分断される。その後、図6(d)に示されるように、ピンブラケット7とワイヤー5aとが再び接続され、図6(e)に示されるように、天井クレーン111(図1)によって吊りフレーム3が吊り上げられる。
【0028】
これにより、ピンブラケット7、ガイドレール9、及びワイヤーソー切断機11は、吊りフレーム3に追従して吊り上げられる。更に、分断された熱遮蔽壁105のリング状の切片105bも一緒に、ピンブラケット7に支持された状態で吊りフレーム3に追従して吊り上げられる。そして切片105bはオペレーションフロア115(図1)に降ろされ、オペレーションフロア115において切片105bの更なる処理が行われる。一方、ピンブラケット7、ガイドレール9、及びワイヤーソー切断機11は、再び図6(a)と同様に、天井クレーン111(図1)及び吊りフレーム3によって熱遮蔽壁105の上端に吊り降ろされ設置される。このとき、熱遮蔽壁105の上端は、上記切片105bの高さ分だけ低くなっているので、これに対応して、吊下ろし時の巻取り装置5のワイヤー5aの長さが長くなるように調整される。以上のような図6(a)~図6(e)の処理が繰り返されることで、熱遮蔽壁105は上部から下部まで例えば10分割程度の切片105bに分断され、切片105bがオペレーションフロア115で順次処理されて、熱遮蔽壁105の解体が完了する。
【0029】
続いて、以上説明した切断装置1及び熱遮蔽壁105の切断方法による作用効果について説明する。原子炉建屋101の圧力容器103の撤去においては、圧力容器103を熱的に切断すれば切断効率が良いが、本実施形態の圧力容器103の周囲には断熱材113が設けられており当該断熱材113と熱遮蔽壁105との間隔は例えば0.1m程度と狭い。従って、圧力容器103の外側にガス切断用のトーチ等を設置することは困難である。また同じ理由で、圧力容器103を機械的に切断するための工具を圧力容器103の外側に設置することも困難である。
【0030】
一方、圧力容器103の熱的切断を当該圧力容器103の内側から行うことも考えられるが、圧力容器103の内側の放射化レベルが高いので、内側から熱的切断を行えば汚染が外側に拡散する可能性があり、また、スペースの都合で汚染拡散対策も困難である。また、圧力容器103の内側から機械的に切断し、更に断熱材113を内側から機械的に切断することも考えられる。しかしながら、断熱材113が比較的厚いことから、内側からの機械的な切断手法では断熱材113を切断しきれない場合がある。以上のような理由で、熱遮蔽壁105の解体の前に圧力容器103を撤去することは比較的困難であった。
【0031】
これに対し、本実施形態の切断装置1及び切断方法によれば、切断装置1の主要部を熱遮蔽壁105と生体遮蔽体107との間のスペースに配置しながら、熱遮蔽壁105の中空部105c内に圧力容器103を残した状態で熱遮蔽壁105を切断することができる。そして、熱遮蔽壁105が除去された状態で圧力容器103を解体することができるので、圧力容器103の解体は外側から行うことができる。従って、圧力容器103の切断には切断効率が高い熱的切断の方式を採用することができ、その結果、工期を短縮することができる。
【0032】
また、切断装置1のワイヤーソー切断機11やガイドレール9等は熱遮蔽壁105と生体遮蔽体107との間の比較的広い(約1.4~1.5m幅の)隙間に設置されるので、この隙間に作業者がアクセスしてワイヤーソー切断機11やガイドレール9等の維持管理作業を行うこともできる。この場合、放射化された圧力容器103と作業者との間に熱遮蔽壁105が存在するので、作業者は圧力容器103からの直接のガンマ線を避けながら作業を行うことが可能であり、従って必ずしも遠隔操作を行う必要がない。
【0033】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0034】
例えば、図6で説明した熱遮蔽壁105の解体作業に代えて、次に説明する図7の解体作業が実行されてもよい。なお、図7の解体作業で使用される切断装置1Bにおいては、ガイドレール9はピンブラケット7に固定されていない。また、ワイヤーソー切断機11がガイドレール9に取付けられた状態において、各ガイドプーリ27はガイドレール9よりも高い位置に配置される。これ以外の点では、切断装置1Bは前述の切断装置1と同等の構成を有しているので、重複する説明は省略する。
【0035】
まず、図7(a)に示されるように、ガイドレール9が熱遮蔽壁105の外周面に予め固定される。ガイドレール9は、熱遮蔽壁105の切断予定の位置よりもやや低い位置に固定される。ここでは例えば、事前に、ガイドレール9が吊りフレーム3で吊られ、天井クレーン111(図1)によってガイドレール9が熱遮蔽壁105の周囲に設置される。ここでは例えば、ガイドレール9を支持するためのアンカーが熱遮蔽壁105に設けられガイドレール9は熱遮蔽壁105に支持される。
【0036】
その後、図7(a)に示されるように、ワイヤーソー切断機11が吊りフレーム3で吊られ、図7(b)に示されるように、吊り降ろされてガイドレール9に取付けられる。ここでは、前述のとおり、ワイヤーソー切断機11の各ガイドプーリ27がガイドレール9よりも高い位置に配置され、このため、ワイヤーソー工具21の走行軌道はガイドレール9よりもやや高い位置にある。その後、図7(c)に示されるように、ワイヤーソー工具21とワイヤー5aとが切り離され、吊りフレーム3及び巻取り装置5は上方に退去する。
【0037】
続いて、ワイヤーソー駆動部23とウインチ43(図2)とが駆動されることで、前述の切断処理が実行され、ワイヤーソー工具21によって熱遮蔽壁105が切断されていく。そして、ワイヤーソー切断機11が熱遮蔽壁105の周囲を一周したところで、熱遮蔽壁105がワイヤーソー工具21の高さ位置の水平面を境界として上下に分断される。ここでは、熱遮蔽壁105の分断位置はガイドレール9よりもやや高い位置にある。その後、図7(d)に示されるように、ガイドレール9とワイヤー5aとが再び接続され、ガイドレール9が熱遮蔽壁105から取り外される。そして、巻取り装置5がワイヤー5aを巻出してガイドレール9及びワイヤーソー切断機11を一緒に降下させ、次の切断予定位置よりもやや低い位置でガイドレール9が熱遮蔽壁105に固定される。その後、ガイドレール9とワイヤー5aとが切り離され、吊りフレーム3及び巻取り装置5は上方に退去する。
【0038】
その後、図7(e)に示されるように、熱遮蔽壁105の切片105bの上端部に対して、吊りフレーム3及び巻取り装置5によってピンブラケット7が取付けられ、図7(f)に示されるように、当該ピンブラケット7を介して切片105bが吊りフレーム3で吊り上げられる。このとき、ガイドレール9及びワイヤーソー切断機11は熱遮蔽壁105上に残される。吊り上げられた切片105bはオペレーションフロア115(図1)に降ろされ、オペレーションフロア115において切片の更なる処理が行われる。
【0039】
その一方で、ガイドレール9及びワイヤーソー切断機11は熱遮蔽壁105上に残されているので、図7(c)の切断処理と同様に、ワイヤーソー駆動部23とウインチ43との駆動により熱遮蔽壁105が切断される。そして上記のような図7(c)~図7(e)の処理が繰り返されることで、熱遮蔽壁105は上部から下部まで例えば10分割程度の切片105bに分断され、切片105bがオペレーションフロア115で順次処理され、熱遮蔽壁105の解体が完了する。以上のような図7の熱遮蔽壁105の解体作業が、図6の解体作業に代えて行われてもよい。
【0040】
また、実施形態の切断装置1では、熱遮蔽壁105の一部位を挟んで配置される切削用プーリ27t,27tが1対のみ存在していたが、切削用プーリ27t,27tは2対以上存在してもよい。例えば、図8(a)の例では、3対の切削用プーリ27t,27tが存在している。このような構成によれば、ワイヤーソー工具21の切削部分21aが3箇所に形成され、熱遮蔽壁105の3箇所が同時に切断されるので、熱遮蔽壁105の切断処理の速度が向上する。また、実施形態の切断装置1では、ワイヤーソー工具21が熱遮蔽壁105の周囲を一周するように配置され、ワイヤーソー工具21の周回軌道の内側に熱遮蔽壁105が存在しているが、この構成も必須ではない。例えば、図8(b)の例では、ワイヤーソー工具21の周回軌道の外側に熱遮蔽壁105が存在するとともに、1対の切削用プーリ27t,27t同士が熱遮蔽壁105の一部位を挟んで配置されている。この構成によれば、ガイドプーリ27の個数が削減され、ワイヤーソーガイド部25を短くすることで、ワイヤーソー切断機11を小型化することができる。
【0041】
また、本発明の切断装置及び切断方法は、原子炉建屋101の熱遮蔽壁105の切断には限られず、鉛直な筒状の構造物の切断に適用可能である。その中でも特に、筒状構造物の内側に他の内部構造物が存在する状態でこの筒状構造物を切断する場合には、本発明の切断装置及び切断方法を好適に適用可能である。この場合、切削用プーリ27t同士の間を走行するワイヤーソー工具21の軌道が、切断対象である筒状構造物の中空部に達し且つ内部構造物まで達しないように、当該切削用プーリ27tの位置関係が設定されればよい。
【符号の説明】
【0042】
1,1B…切断装置、103…圧力容器、105…熱遮蔽壁(構造物)、105c…中空部、3…吊りフレーム(支持フレーム)、9…ガイドレール、21…ワイヤーソー工具、23…ワイヤーソー駆動部、25…ワイヤーソーガイド部、27…ガイドプーリ、27t…切削用プーリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8