(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058919
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】硫酸コバルト結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20230419BHJP
C01G 51/10 20060101ALI20230419BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20230419BHJP
B04B 3/00 20060101ALI20230419BHJP
B04B 15/12 20060101ALI20230419BHJP
B01D 9/02 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C01G51/10
C22B3/44 101Z
B04B3/00 Z
B04B15/12
B01D9/02 601C
B01D9/02 602A
B01D9/02 604
B01D9/02 615A
B01D9/02 617
B01D9/02 622
B01D9/02 603F
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168713
(22)【出願日】2021-10-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000165273
【氏名又は名称】月島機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】奥山 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】春田 智明
(72)【発明者】
【氏名】小川 綾子
【テーマコード(参考)】
4D057
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4D057AA09
4D057AB01
4D057AC02
4D057AD01
4D057AE01
4D057BA17
4D057BA40
4D057BA41
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4G048AC06
4G048AE01
4K001AA07
4K001BA19
4K001CA01
4K001CA11
4K001DB01
4K001DB21
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB26
4K001HA00
4K001JA00
(57)【要約】
【課題】硫酸コバルト結晶の風解を抑制することが可能な硫酸コバルト結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】硫酸コバルト含有水溶液から硫酸コバルト七水和物の結晶を得る硫酸コバルト結晶の製造方法40であって、硫酸コバルト含有水溶液11を蒸発濃縮して硫酸コバルト結晶を含有するスラリー12を得る晶析工程10と、晶析工程10で得られたスラリー12の固液分離により硫酸コバルト結晶の脱水ケーキ21を得る分離工程20と、分離工程20で得られた脱水ケーキ21を気流乾燥により乾燥媒体31と直接接触させることで乾燥させて硫酸コバルト結晶41を得る乾燥工程30と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸コバルト含有水溶液から硫酸コバルト七水和物の結晶を得る硫酸コバルト結晶の製造方法であって、
硫酸コバルト含有水溶液を蒸発濃縮して硫酸コバルト結晶を含有するスラリーを得る晶析工程と、
前記晶析工程で得られた前記スラリーの固液分離により硫酸コバルト結晶の脱水ケーキを得る分離工程と、
前記分離工程で得られた前記脱水ケーキを気流乾燥により乾燥媒体と直接接触させることで乾燥させて硫酸コバルト結晶を得る乾燥工程と、
を有することを特徴とする硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、旋回流乾燥装置を用いることを特徴とする請求項1に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において、乾燥装置内における前記脱水ケーキの滞留時間を調節する機構を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥媒体の温度を、25~65℃とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥媒体の流速を、10~50m/secとすることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項6】
前記分離工程において、有孔バスケットあるいは金属スクリーンを有する遠心分離装置を用いることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項7】
結晶付着水を除いた硫酸コバルト七水和物の結晶の質量割合が99.9%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項8】
前記硫酸コバルト含有水溶液は、硫酸コバルトを15~25重量%含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項9】
前記硫酸コバルト含有水溶液は、少なくともコバルトを含有するリチウムイオン電池廃材を溶媒抽出法により処理して得られた硫酸コバルトを15~25重量%含むことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸コバルト結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の二次電池では、活物質としてコバルト等の希少金属が使用されている。例えば、特許文献1には、硫酸と金属コバルトを用いて電解的に硫酸コバルトを製造し、蒸発濃縮により硫酸コバルト結晶(CoSO4・7H2O)を得る方法が記載されている。
【0003】
近年、廃棄物から各種の金属を回収することが検討されている。例えば、特許文献2には、電気廃棄物から硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸リチウム、硫酸コバルトを製造するため、リン酸エステル等の抽出剤を用いて有機相にこれらの硫酸金属塩を抽出することが記載されている。
【0004】
化学工業における湿潤物質の乾燥において、熱風の熱量を水分の蒸発に用いる方法が広く利用されている。例えば、特許文献3には、旋回流を用いた乾燥機が記載されている。また、スラリーの固液分離には、特許文献4に例示されるように、有孔バスケットあるいは金属スクリーンを有する連続式遠心分離装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57-57876号公報
【特許文献2】特表2019-530795号公報
【特許文献3】特公平8-27132号公報
【特許文献4】特開2018-1116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硫酸コバルト(II)には、無水塩、一水和物、六水和物、七水和物が知られている。硫酸コバルト七水和物は、空気中の相対湿度の影響を受けやすく、相対湿度が低い環境下に放置されると風解して、硫酸コバルト六水和物に変化しやすい。硫酸コバルト結晶が七水和物と六水和物との混合状態になると、混合の割合に応じてコバルトの含有量が変化するため、硫酸コバルト結晶を原料とした製品の生産管理に不便が生じる。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することが可能な硫酸コバルト結晶の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、以下の態様を提案している。
【0009】
本発明の第1の態様は、硫酸コバルト含有水溶液から硫酸コバルト七水和物の結晶を得る硫酸コバルト結晶の製造方法であって、硫酸コバルト含有水溶液を蒸発濃縮して硫酸コバルト結晶を含有するスラリーを得る晶析工程と、前記晶析工程で得られた前記スラリーの固液分離により硫酸コバルト結晶の脱水ケーキを得る分離工程と、前記分離工程で得られた前記脱水ケーキを気流乾燥により乾燥媒体と直接接触させることで乾燥させて硫酸コバルト結晶を得る乾燥工程と、を有することを特徴とする硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0010】
第1の態様によれば、脱水ケーキが乾燥媒体と接触する時間が短い気流乾燥操作により硫酸コバルト結晶を乾燥させるので、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記乾燥工程において、旋回流乾燥装置を用いることを特徴とする第1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0012】
第2の態様によれば、乾燥媒体が急速に流れる旋回流乾燥装置中に脱水ケーキを投入し、瞬時に乾燥媒体との混合状態を形成することで乾燥効率が上がり、乾燥時間および乾燥媒体との接触時間を短くすることができ、結晶水の脱離を抑制するとともに乾燥効率を高めることができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記乾燥工程において、乾燥装置内における前記脱水ケーキの滞留時間を調節する機構を用いることを特徴とする第1または第2の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0014】
第3の態様によれば、乾燥装置内における脱水ケーキの質量と、装置内を通過する際の旋回流により脱水ケーキに作用する遠心力を利用して、滞留時間を調節することにより、乾燥度合いのバラつきを抑えることができ、乾燥効率を高めることができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記乾燥媒体の温度を、25~65℃とすることを特徴とする第1~3のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0016】
第4の態様によれば、脱水ケーキ中の付着水分量や乾燥媒体の流速に合わせて乾燥媒体の温度を調整することにより、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、前記乾燥媒体の流速を、10~50m/secとすることを特徴とする第1~4のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0018】
第5の態様によれば、脱水ケーキ中の付着水分量や乾燥媒体の温度に合わせて乾燥媒体の流速を調整することにより、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することができる。
【0019】
本発明の第6の態様は、前記分離工程において、有孔バスケットあるいは金属スクリーンを有する遠心分離装置を用いることを特徴とする第1~5のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0020】
第6の態様によれば、スラリーから硫酸コバルト結晶を連続的に回収することができ、有孔バスケットあるいは金属スクリーンの回転数を変更することで、スラリーから脱水ケーキとして回収した硫酸コバルト結晶の付着水分量を調整することができる。
【0021】
本発明の第7の態様は、結晶付着水を除いた硫酸コバルト七水和物の結晶の質量割合が99.9%以上であることを特徴とする第1~6のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0022】
第7の態様によれば、高品質の硫酸コバルト七水和物の結晶を提供することができる。
【0023】
本発明の第8の態様は、前記硫酸コバルト含有水溶液は、硫酸コバルトを15~25重量%含むことを特徴とする第1~7のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0024】
第8の態様によれば、蒸発濃縮による硫酸コバルト結晶の晶析工程を効率的に行うことができる。
【0025】
本発明の第9の態様は、前記硫酸コバルト含有水溶液は、少なくともコバルトを含有するリチウムイオン電池廃材を溶媒抽出法により処理して得られた硫酸コバルトを15~25重量%含むことを特徴とする第1~8のいずれか1の態様の硫酸コバルト結晶の製造方法である。
【0026】
第9の態様によれば、廃材から硫酸コバルトを抽出することにより、資源を有効に利用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することが可能な硫酸コバルト結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態の硫酸コバルト結晶の製造方法の概要を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
図1に、実施形態の概要を示す。実施形態の硫酸コバルト結晶の製造方法40は、硫酸コバルト含有水溶液11から硫酸コバルト結晶41として硫酸コバルト七水和物の結晶を得る方法であり、晶析工程10、分離工程20、乾燥工程30を、この順で有する。
【0030】
<硫酸コバルト含有水溶液>
硫酸コバルト含有水溶液11は、コバルト化合物、金属コバルト、コバルト合金等を硫酸に溶解させて得られる溶液でもよく、鉱石、廃材、廃試薬等のコバルト含有原材料を処理して得られる溶液でもよい。また、一般的には得られた溶液は中和操作等により弱酸性または中性にpH調整される。廃材としては、特に限定されないが、リチウムイオン電池等の二次電池、電子機器等から生じる廃材が挙げられる。廃材からコバルトを抽出することにより、資源を有効に利用することができる。
【0031】
コバルト含有原材料からコバルトを抽出するには、必要に応じて、所望の操作を利用することができる。例えば、焙焼工程、粉砕工程、浸出工程、中和工程、電解工程等が挙げられる。
【0032】
コバルト含有原材料がマンガン、ニッケル、リチウム、アルミニウム、鉄、銅、鉛、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等の他の金属を含有する場合は、他の金属を抽出する工程または他の金属を硫酸コバルト含有水溶液11から分離する工程を実施してもよい。抽出工程には、特に限定されないが、酸、アルカリ、酸化剤、還元剤等、必要に応じて適宜の薬剤を用いることができる。
【0033】
晶析工程10に先立って、硫酸コバルト含有水溶液11中の硫酸コバルト含有量が増加し、不純物の量が低減されるように、精製工程を行うことが好ましい。硫酸コバルト含有水溶液11の精製工程は、特に限定されないが、固液分離、溶媒抽出、pH調整、カラム処理等の少なくとも1種以上が挙げられる。
【0034】
溶媒抽出においては、リン酸系抽出剤、ホスホン酸系抽出剤、ホスフィン酸系抽出剤、アミン系抽出剤、カルボン酸系抽出剤、キレート系抽出剤、酸性抽出剤、中性抽出剤等を含有する有機溶媒を用いることができる。希釈剤として、芳香族炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等の液体を用いてもよい。抽出剤の選択、pH調整、共存物質の選択等により、金属種に対する分離係数の差などを利用して、コバルトを選択的に抽出することが可能である。同種または異種の抽出剤を用い、溶媒抽出を2回以上実施してもよい。2種以上の抽出剤または2種以上の希釈剤を混合して使用してもよい。
【0035】
コバルトイオンを含む有機相から水相に逆抽出して、硫酸コバルト含有水溶液11を得ることができる。必要に応じて、逆抽出液に対して上述の精製工程を実施していてもよい。溶媒抽出前にコバルトイオンが硫酸塩を形成している場合は、硫酸コバルトのまま、溶媒抽出および逆抽出を実施してもよい。有機相におけるコバルトイオンの対イオンが、塩化物イオン等であってもよい。硫酸イオン以外の陰イオンは、逆抽出時に硫酸を含む水溶液を用いて対イオンを交換することにより、硫酸コバルトに変換することができる。
【0036】
<晶析工程>
晶析工程10は、硫酸コバルト含有水溶液11を蒸発濃縮して硫酸コバルト結晶を含有するスラリー12を得る工程である。晶析工程10に用いる硫酸コバルト含有水溶液11は、硫酸コバルトを含有する水溶液である。
【0037】
硫酸コバルト含有水溶液11は、硫酸コバルトが安定に存在し得る水溶液であることが好ましく、弱酸性または中性であることが好ましい。硫酸コバルト含有水溶液11は、硫酸コバルト含有水溶液11が、硫酸コバルトおよび水以外の物質を含有してもよい。硫酸コバルト含有水溶液11が不溶物を含む場合は、晶析工程10に先立って、ろ過等により除去してもよい。硫酸コバルト含有水溶液11中で硫酸コバルトと共存する物質の種類、濃度等は、適宜調整されることが好ましく、必要に応じて除去または添加してもよい。
【0038】
晶析工程10における硫酸コバルト含有水溶液11の初期濃度は、特に限定されないが、硫酸コバルトを5~25重量%含む水溶液であることが好ましく、硫酸コバルトを15~25重量%含む水溶液であることがより好ましい。硫酸コバルト含有水溶液11から水分を蒸発させることにより、硫酸コバルト等の溶質の濃度を高めて硫酸コバルト結晶を析出させることができる。
【0039】
晶析槽に供給する硫酸コバルト含有水溶液11の濃度が飽和溶解度に近いほど、蒸発濃縮に要するコスト、運転時間等を低減することができる。ただし、硫酸コバルト含有水溶液11の濃度が飽和溶解度または過飽和状態の場合、抽出工程等の前工程または蒸発濃縮を行う晶析槽への移送中に結晶析出が生じてしまい、ハンドリングしづらくなる。
【0040】
硫酸コバルト含有水溶液11が、少なくともコバルトを含有するリチウムイオン電池廃材を溶媒抽出法により処理して得られた硫酸コバルトを15~25重量%含む水溶液であることが好ましい。廃材から抽出された硫酸コバルトを含有することにより、資源を有効に利用することができる。
【0041】
蒸発濃縮において、水分を蒸発させる方式は特に限定されないが、蒸発促進のため、減圧操作、加熱操作、またはその両方を用いることが好ましい。液温約40~45℃付近での蒸発濃縮による晶析操作では、析出する硫酸コバルト七水和物結晶が約40℃以上では硫酸コバルト六水和物に変化するおそれがあり、液温45℃以上では、硫酸コバルト六水和物または一水和物が析出することが知られている。よって、硫酸コバルト七水和物の結晶を析出させるには、約40℃以下で晶析を行うことが好ましい。晶析槽内で硫酸コバルト含有水溶液11の加熱や水溶液の水分の蒸発に必要な熱量を与える操作としては、温水や蒸気等の熱媒を用いて晶析槽の壁面等の温度を調整する操作や、晶析槽内の液を一部抜出して熱交換器等で昇温させて再び晶析槽に戻す外部循環方式での操作としてもよい。
【0042】
晶析槽に硫酸コバルト含有水溶液11を供給する工程と晶析槽での晶析工程は、連続式でもバッチ式でもよい。蒸発濃縮晶析は、硫酸コバルト七水和物の状態で結晶析出させるために、絶対圧で4.5~5.5kPa、かつ30~40℃の条件下で行うことが好ましく、4.9~5.1kPa、かつ34~36℃の条件下で行うことがより好ましい。
【0043】
減圧下で蒸発濃縮を行う場合、硫酸コバルト含有水溶液11に含まれる水分の一部が水蒸気13として除去される。飽和水蒸気圧に対して、適度な圧力まで減圧することにより、水分の蒸発が促進される。水分の蒸発に伴って硫酸コバルト含有水溶液11の濃度が初期濃度より上昇すると、硫酸コバルト結晶が析出し、硫酸コバルト結晶を含有するスラリー12が晶析槽内に生成する。
【0044】
晶析工程10の晶析装置の具体的な形式は特に限定されないが、晶析槽は撹拌機能を有するもの、例えば円筒状のドラフトチューブ構造を缶内に有していてもよく、さらにそのチューブの内外に逆羽根を切ったプロペラが取り付いた構造を有するダブルプロペラ型晶析機等を適用してもよい。スラリー12を排出する出口は、硫酸コバルト含有水溶液11の液面下において、例えば、晶析槽の下部に設けてもよい。
【0045】
晶析槽の入口から硫酸コバルト含有水溶液11を供給し、晶析槽の出口からスラリー12を排出する操作は、断続的に実施されてもよいが、後述のとおり連続的に実施されることが機器構成を簡略化できるため好ましい。詳しくは後述するが、スラリー12を分離工程20で固液分離して、硫酸コバルト結晶の脱水ケーキ21と、飽和水溶液であるろ液22とに分けられる。ろ液22の少なくとも一部は、晶析工程10と分離工程20との間を液循環利用させることで生じる不純物濃度の濃縮を抑制するために、パージろ液24として系外に排出される。残りのろ液22は、ろ液戻し23として晶析工程10の晶析槽に供給する。
【0046】
<分離工程>
分離工程20は、晶析工程10で得られたスラリー12の固液分離により硫酸コバルト結晶の脱水ケーキ21を得る工程である。
【0047】
分離工程20に用いる固液分離機は、特に限定されないが、遠心分離機、ろ過機等が挙げられ、特に連続式遠心分離機が好ましい。ろ液22から分離された硫酸コバルト結晶がろ材上に堆積することで、脱水ケーキ21が形成される。ろ材としては、ろ紙、ろ布等も使用可能であるが、有孔バスケットあるいは金属スクリーンを用いることが好ましく、特に連続式遠心分離機に金属スクリーンを用いることが好ましい。これにより、スラリー12から脱水ケーキ21を効率的に回収することができ、次工程の乾燥工程も安定して運転を行うことができる。
【0048】
スラリー12の分離方式として、遠心、吸引、加圧、真空等の物理作用を用いることが可能である。風解による硫酸コバルト七水和物の結晶水が失われることを抑制するために、脱水ケーキ21中の付着水分量を次工程の乾燥条件に合わせて適度に脱水ケーキ21中に残留させることが好ましい。固液分離機として、回転数を変更することで遠心力を調整できる遠心分離装置を用いると、脱水ケーキ21中の付着水分量の調整が容易であるため好ましい。大気圧条件下で遠心分離操作を実施してもよく、適宜の減圧条件下で実施してもよい。
【0049】
分離工程20におけるスラリー12の温度は、特に限定されないが、40℃を超えると硫酸コバルト七水和物から硫酸コバルト六水和物に変化するおそれがある。このため、固液分離中におけるスラリー12の温度は、40℃以下が好ましく、25~40℃がより好ましく、30~40℃がさらに好ましい。
【0050】
固液分離機として連続式遠心分離機を用いる場合、スラリー12が回転している金属スクリーン等のろ材上に供給されると、遠心力の作用により、脱水ケーキ21とろ液22に分離され、脱水ケーキ21は金属スクリーン上に堆積し、ろ液22は金属スクリーンのスリットの間を抜けて固液分離機から排出される。排出されたろ液22は、上述したように、ろ液22中の不純物濃度に応じて、ろ液戻し23として晶析工程10に供給してもよく、パージろ液24としてもよい。パージろ液24を精製工程、抽出工程等に戻して、パージろ液24に含まれる硫酸コバルトを回収することも可能である。
【0051】
固液分離機から脱水ケーキ21を排出する操作は特に限定されないが、バッチ式遠心分離機のように断続的に脱水ケーキ21を排出してもよい。断続的に脱水ケーキ21を排出する場合、サークルフィーダー等の定量供給機に脱水ケーキ21を排出し、次工程の乾燥工程に連続的に脱水ケーキ21を供給できるようにすることが好ましい。連続式遠心分離機を使用する場合、脱水ケーキ21の排出操作時に遠心力による接線速度が脱水ケーキ21に作用し、分離機排出部から脱水ケーキ21が速度を持った状態で分散して放出されるため、次工程の気流乾燥装置入口手前の空送ラインに直接排出部を接続することで、気流中に脱水ケーキ21を分散させた状態で連続供給が可能である。また、定量供給機等も必要ないため、設備簡略化の点で連続式遠心分離機を適用することが好ましい。
【0052】
固液分離後の脱水ケーキ21に含まれる硫酸コバルト結晶は、結晶水以外の付着水分量が1.0~3.0重量%であることが好ましい。付着水分量を調節することで、後述する乾燥工程30の乾燥温度操作と併せて硫酸コバルト結晶の風解を抑制することができる。
【0053】
<乾燥工程>
乾燥工程30は、分離工程20で得られた脱水ケーキ21を気流乾燥により乾燥媒体31と直接接触させることで乾燥させて硫酸コバルト結晶41を得る工程である。
【0054】
硫酸コバルト結晶41の風解は、周囲の雰囲気中の相対湿度との関係より結晶水の少なくとも一部が、周囲の雰囲気中に放出される現象である。このため、風解の進行は、周囲の雰囲気に含まれる水分量にも影響される。密閉容器などの空気量が限られた空間内に硫酸コバルト結晶41を充填すれば、風解を生じにくくすることができる。
【0055】
気流乾燥により硫酸コバルト結晶41を乾燥させることにより、硫酸コバルト結晶41の風解を抑制することができる。気流乾燥において乾燥媒体31となる空気が直接、被処理物である硫酸コバルト結晶41に接触するので、硫酸コバルト結晶41に付着した水分を効果的に除去することができる。これにより、結晶水の脱離による風解を抑制しつつ、硫酸コバルト結晶41を乾燥させることができる。
【0056】
風解を抑制するには乾燥媒体31との接触時間を短くすることが重要である。乾燥媒体31との直接接触による乾燥方式として流動層乾燥装置等もあるが、乾燥媒体31との接触時間が長くなるため風解が生じてしまう。このため、乾燥工程30において、乾燥媒体31との接触時間を短くすることが可能な、渦巻き形状、ループ形状の構造を有する旋回流乾燥装置や、フラッシュドライヤーを用いることが好ましい。これにより、乾燥媒体31が急速に流れる空送ライン中に脱水ケーキ21を投入することで瞬時に乾燥媒体31と脱水ケーキ21との混合状態を形成し、乾燥効率を高めて乾燥時間を短くすることで乾燥媒体31との接触時間を短くし、結晶水の脱離を抑制することができる。
【0057】
旋回流乾燥装置としては、例えば、渦巻き状、ループ状等の旋回形状に形成された流路を有し、その流路に沿って旋回流が形成される乾燥装置が好ましい。
【0058】
渦巻き状の流路とは、例えば平面上で装置の外周部から中心部に向けて旋回する形状である。ループ状の流路とは、例えば円形、楕円形等の、同一の空送ライン上で旋回する形状である。ループ状の流路において、ループ状の流路に供給される乾燥媒体31と脱水ケーキは、脱水ケーキ21の乾燥状態に応じて、その流路内をループせずにワンパスにて装置出口から排出される運転としてもよい。
【0059】
乾燥媒体31および脱水ケーキ21が流れる空送ラインはフラッシュドライヤーのような流路の形状は直線状でもよいが、旋回形状とした方が、乾燥装置内での脱水ケーキ21の同一の滞留時間を得ようとした場合に、乾燥装置の設置面積を低減することができる。
【0060】
乾燥工程30において、乾燥装置内における脱水ケーキ21の滞留時間を調節する機構を用いることが好ましい。乾燥装置内における脱水ケーキ21の滞留時間を調節することにより、乾燥装置内の湿度を一定に調整することで、乾燥効率を高めることができる。
【0061】
例えば被処理物の粒径にばらつきがある場合、粒径の小さい粒子ほど比表面積が大きくなるため、乾燥し易い傾向にある。そのため、粒径の大きい被処理物では滞留時間が長くなり、粒径の小さい被処理物では滞留時間が短くなるように、滞留時間を調節できる機構を有する乾燥装置を適用することで、乾燥度合いのバラつきを抑えることができる。
【0062】
滞留時間を調節する機構の一例として、例えば、旋回流乾燥装置のような旋回流により、被処理物を流路半径の大きい外周側から流路半径の小さい内周側に向けて移動させる機構が挙げられる。その際、旋回流により被処理物に作用する遠心力と被処理物の質量により、質量のより大きい被処理物が遠心力の作用により内周側から外周側へと移動させる機構を設けてもよい。具体的には、特許文献3の旋回流乾燥装置のような外周側から内周側に向けて渦巻き状の流路を形成し、外周側流路と内周側流路の仕切り壁の一部に、開閉可能なダンパー等の開口部がある構造を有する機構となる。この機構により滞留時間を調節し、脱水ケーキの付着水分量を調節することで、風解を生じにくくすることができる。内周側に設けられる渦巻き状流路の出口は、渦巻き状の中心部に配置することができる。
【0063】
気流乾燥における乾燥媒体31の温度は、特に限定されないが、25~65℃の範囲内が好ましい。乾燥媒体31の温度を調整することにより、脱水ケーキ21の風解を抑制することができる。
【0064】
気流乾燥における乾燥媒体31の流速は、特に限定されないが、10~50m/secが好ましく、15~30m/secがより好ましい。乾燥媒体31の流速は、脱水ケーキ21の付着水分量の調節や、乾燥媒体31の温度の調節と同様に、脱水ケーキ21の風解を抑制するために調節される。
【0065】
乾燥装置の出口側には、製品として得られた硫酸コバルト結晶41の充填設備を設けてもよい。例えば、乾燥工程30の出口に硫酸コバルト結晶41回収用のサイクロンやバグフィルター等の粉体回収装置を設けて硫酸コバルト結晶41と乾燥媒体31とを分離することができる。サイクロンやバグフィルターの下部にはロータリーバルブ等の定量排出機を設置して、フレコンバッグ等の容器に充填してもよい。また、乾燥媒体31の流速はニューマ設備と同等程度となるため、乾燥装置を硫酸コバルト結晶41の空気輸送機としても使用することができる。
【0066】
実施形態の製造方法によれば、硫酸コバルト結晶の風解を抑制することが可能な硫酸コバルト結晶の製造方法を提供することができる。結晶に付着した水分を除いて、硫酸コバルト七水和物結晶の純度を、99.9%以上の質量割合とすることも可能である。乾燥操作時に硫酸コバルト七水和物が風解して硫酸コバルト六水和物に変化する割合を抑える効果が期待されることから、硫酸コバルト七水和物としての純度を高めることができる。
【0067】
実施形態の製造方法により製造された硫酸コバルト七水和物結晶の用途は特に限定されないが、コバルト化合物等の化学製品の原料、リチウムイオン電池等の工業製品の原料、触媒、医薬品原料等が挙げられる。
【符号の説明】
【0068】
10 晶析工程
11 硫酸コバルト含有水溶液
12 スラリー
20 分離工程
21 脱水ケーキ
30 乾燥工程
31 乾燥媒体
40 硫酸コバルト結晶の製造方法
41 硫酸コバルト結晶
【手続補正書】
【提出日】2022-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸コバルト含有水溶液から硫酸コバルト七水和物の結晶を得る硫酸コバルト結晶の製造方法であって、
硫酸コバルト含有水溶液を蒸発濃縮して硫酸コバルト七水和物の結晶を含有するスラリーを得る晶析工程と、
前記晶析工程で得られた前記スラリーの固液分離により硫酸コバルト七水和物の結晶の脱水ケーキを得る分離工程と、
前記分離工程で得られた前記脱水ケーキを気流乾燥により乾燥媒体と直接接触させることで乾燥させて硫酸コバルト七水和物の結晶を得る乾燥工程と、
を有し、
前記気流乾燥は、気流中で前記乾燥媒体と前記脱水ケーキとの混合状態を形成して、前記硫酸コバルト結晶を乾燥させることを特徴とする硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程において、旋回流乾燥装置を用いることを特徴とする請求項1に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において、乾燥装置内における前記脱水ケーキの滞留時間を調節する機構を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥媒体の温度を、25~65℃とすることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥媒体の流速を、10~50m/secとすることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項6】
前記分離工程において、遠心分離装置を用い、前記遠心分離装置が有孔バスケットあるいは金属スクリーンを有することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥工程後に製品として得られた前記硫酸コバルト結晶において、結晶付着水を除いた硫酸コバルト七水和物の結晶の質量割合が99.9%以上であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項8】
前記晶析工程は、硫酸コバルトを15~25重量%含む硫酸コバルト含有水溶液を蒸発濃縮して前記スラリーを得ることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。
【請求項9】
前記晶析工程は、少なくともコバルトを含有するリチウムイオン電池廃材を溶媒抽出法により処理して得られた硫酸コバルトを15~25重量%含む硫酸コバルト含有水溶液を蒸発濃縮して前記スラリーを得ることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の硫酸コバルト結晶の製造方法。