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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058962
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】帯鋸刃及び帯鋸刃の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23D 61/12 20060101AFI20230419BHJP
   B23D 65/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
B23D61/12 B
B23D65/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168801
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(71)【出願人】
【識別番号】504279326
【氏名又は名称】株式会社アマダマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】川上 達也
(57)【要約】
【課題】1回のコーティング処理でコーティングできる帯鋸刃の長さがより長く、生産性が高い切断加工でバリが生じにくく安価な帯鋸刃を提供する。
【解決手段】帯鋸刃(1)は、帯状で無端状の胴部(11)と、胴部(11)の一縁側に、アサリ歯(Rw)を含む所定数の歯の組である歯列(TG)が繰り返し形成された歯部(12)と、歯部(12)の歯(12a)の表面に形成されたコート層(13)と、を備える。アサリ歯(Rw)は、振り出し方向の外面の前記コート層(13)に凹部(12b)としての第1圧痕部(T82)を有し、第1圧痕部(T82)の凹部(12b)におけるコート層(13)の厚さは、コート層(13)の凹部(12b)以外の部分の厚さよりも薄い。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状で無端状の胴部と、
前記胴部の一縁側に、アサリ歯を含む所定数の歯の組である歯列が繰り返し形成された歯部と、
前記歯部の前記歯の表面に形成されたコート層と、
を備え、
前記アサリ歯は、振り出し方向の外面の前記コート層に凹部としての第1圧痕部を有し、
前記第1圧痕部の前記凹部における前記コート層の厚さは、前記コート層の前記凹部以外の部分の厚さよりも薄い帯鋸刃。
【請求項2】
前記アサリ歯は、振り出し方向の内面の前記コート層に屈曲部としての第2圧痕部を有し、
前記コート層は、前記第2圧痕部を境界として歯先側よりも前記胴部側の形成密度が低い請求項1記載の帯鋸刃。
【請求項3】
帯状で無端状の胴部と、前記胴部の一縁側に、アサリ歯を含む所定数の歯の組である歯列が繰り返し形成された歯部と、前記歯部の前記歯の表面に形成されたコート層と、を備えた帯鋸刃の製造方法であって、
前記歯がすべて直歯である中間ブレードの前記歯に対して前記コート層を形成するコート層形成工程を実行した後に、所定の前記歯を振り出して前記アサリ歯にする振り出し加工を実行する帯鋸刃の製造方法。
【請求項4】
前記コート層形成工程は、前記中間ブレードと帯状のスペーサとを前記歯部が露出するよう重ね巻きして渦巻コイル状のコイル体を形成し、形成した前記コイル体をコーティング装置に投入してコート層を形成する請求項3記載の帯鋸刃の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯鋸刃及び帯鋸刃の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
帯鋸刃の歯列に硬質材料をコーティングするため、その帯鋸刃を渦巻コイル状に巻いてコーティング装置内に入れコーティング処理する方法が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5174467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された方法は、帯鋸刃のコーティング処理方法として一般的であり、帯鋸刃の製造工程の最終段階で行われる。この方法において帯鋸刃を渦巻コイル状に巻く際には、径方向に隣接する歯列間に隙間を形成するため、帯鋸刃と共に帯状のスペーサを重ねて巻く。この隙間を形成することで歯列へのコーティングを良好に行うことができる。
【0005】
ところで、従来、帯鋸刃の歯列が厚さ方向である左右方向に振り出したアサリ歯を有する場合は、直歯を振り出し加工によってアサリ歯に加工した後に、コーティングを行う。
この場合、コーティングによってアサリ歯の振り出し方向の内側となる面(内面)と外側となる面(外面)とで、形成されるコート層の厚さに違いが生じ得る。すなわち、内面は振り出しの傾きの影になるため、形成されるコート層の厚さが振り出しの傾きの表となる外面よりも薄くなる傾向にある。従って、帯鋸刃の特にアサリ歯においてコート層の厚さ斑が生じる。
そこで、帯鋸刃がアサリ歯を有していても、コート層の厚さ斑がない帯鋸刃及び帯鋸刃の製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、次の1),2)の構成を有する。
1) 帯状で無端状の胴部と、前記胴部の一縁側に、アサリ歯を含む所定数の歯の組である歯列が繰り返し形成された歯部と、前記歯部の前記歯の表面に形成されたコート層と、を備え、前記アサリ歯は、振り出し方向の外面の前記コート層に凹部としての第1圧痕部を有し、前記第1圧痕部の前記凹部における前記コート層の厚さは、前記コート層の前記凹部以外の部分の厚さよりも薄い帯鋸刃である。
本発明の一態様の1)によれば、アサリ歯の振り出し加工の前にコート層が形成されたことが明らかでアサリ歯にコート層の厚さ斑がない。
2) 帯状で無端状の胴部と、前記胴部の一縁側に、アサリ歯を含む所定数の歯の組である歯列が繰り返し形成された歯部と、前記歯部の前記歯の表面に形成されたコート層と、を備えた帯鋸刃の製造方法であって、
前記歯がすべて直歯である中間ブレードの前記歯に対して前記コート層を形成するコート層形成工程を実行した後に、所定の前記歯を振り出して前記アサリ歯にする振り出し加工を実行する帯鋸刃の製造方法である。
本発明の一態様の2)によれば、アサリ歯の振り出し加工の前にコート層が形成されるのでアサリ歯にコート層の厚さ斑がない。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、帯鋸刃の特にアサリ歯にコート層の厚さ斑がない、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例である帯鋸刃1の製造に用いる第1中間ブレード1A及びスペーサ2を示す図であり、図1(a)は第1中間ブレード1Aの部分側面図及び上面図の2面図、(b)はスペーサ2の部分側面図及び上面図の2面図である。
図2図2は、第1中間ブレード1Aとスペーサ2とを重ねて巻いたコイル体Cを示す平面図である。
図3図3は、図2におけるF3領域の拡大図である。
図4図4は、コーティング装置7によるコイル体Cのコーティング処理を説明するための模式図である。
図5図5は、歯部12にコート層13が形成された第2中間ブレード1Bを示す部分側面図である。
図6図6は、図5におけるS6-S6位置での断面図である。
図7図7は、第2中間ブレード1Bに対し振り出し加工を説明するための図であり、図7(a)は加工直前の状態を示す断面図であり、図7(b)は加工中の状態を示す断面図である。
図8図8は、第2中間ブレード1Bに対し振り出し加工を施した第3中間ブレード1Cを示す部分上面図である。
図9図9は、第3中間ブレード1Cをループ状に接合して帯鋸刃1とする接合工程を説明するための図である。
図10図10は、帯鋸刃1における歯12aの表面状態を示す部分側面図であり、図10(a)は右側面図、図10(b)は左側面図である。
図11図11は、帯鋸刃1における歯12aの断面を示す図であり、図11(a)は部分断面図、図11(b)は図11(a)における圧痕部T81の拡大図であり、図11(c)は図11(a)における圧痕部T82の拡大図である。
図12図12は、比較例の帯鋸刃101における歯112aの表面状態を示す部分側面図であり、図12(a)は右側面図、図12(b)は左側面図である。
図13図13は、比較例の帯鋸刃101における歯112aの断面を示す図であり、図13(a)は部分断面図、図13(b)は図13(a)における圧痕部T181の拡大図であり、図13(c)は図13(a)における圧痕部T182の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例)
図1は、本発明の実施の形態に係る帯鋸刃の実施例である帯鋸刃1の製造に用いる第1中間ブレード1A及びスペーサ2を示す図であり、図1(a)は第1中間ブレード1Aの部分側面図及び上面図の2面図、(b)はスペーサ2の部分側面図及び上面図の2面図である。
帯鋸刃1は、長尺帯状の第1中間ブレード1Aを素材とし、製造工程が進むにつれて得られる中間体の第2中間ブレード1B及び第3中間ブレード1Cを経て、第3中間ブレード1Cを所定長に切断したものを無端状に接合して形成される。
【0010】
まず、帯鋸刃1の製造方法について図1及び図2図9を参照して説明する。
図2は、第1中間ブレード1Aとスペーサ2とを重ねて巻いたコイル体Cを示す平面図である。図3は、図2におけるF3領域の拡大図である。図4は、コーティング装置7によるコイル体Cのコーティング処理を説明するための模式図である。図5は、歯部12にコート層13が形成された第2中間ブレード1Bを示す部分側面図である。図6は、図5におけるS6-S6位置での断面図である。図7は、第2中間ブレード1Bに対し振り出し加工を説明するための図であり、図7(a)は加工直前の状態を示す断面図であり、図7(b)は加工中の状態を示す断面図である。図8は、第2中間ブレード1Bに対し振り出し加工を施した第3中間ブレード1Cを示す部分上面図である。図9は、第3中間ブレード1Cを無端状に接合して帯鋸刃1とする接合工程を説明するための図である。
【0011】
初めに、素材として所定長の第1中間ブレード1Aと、製造治具として第1中間ブレード1Aと同等長さのスペーサ2を用意する。
第1中間ブレード1Aは、図1(a)の部分二面図として示されるように、長尺帯状の胴部11と胴部11の一縁側(上縁側)に形成された歯部12とを有する。歯部12は、胴部11の長手方向に連続して形成された複数の歯12aを有する。この歯12aは直歯である。
スペーサ2は、金属製の長尺の帯状部材である。スペーサ2の幅は第1中間ブレード1Aの胴部11の幅よりも少し小さく、厚さは厚さL2として示される。
【0012】
次に、図2に示されるように、第1中間ブレード1Aとスペーサ2とを、歯部12の反対側の縁部を揃えて重ね、渦巻コイル状に重ね巻きしてコイル体Cを形成する。図2では簡略化のため、第1中間ブレード1Aは実線で示され、スペーサ2は一点鎖線で示されている。
コイル体Cは、図3に示されるように、径方向に隣接する第1中間ブレード1Aの間にスペーサ2が介在した状態で渦巻コイル状に重ね巻きされたものである。
第1中間ブレード1Aの歯12aはすべて直歯であるから、径方向に隣接する第1中間ブレード1Aの間の最小となる隙間Laは、胴部11同士の隙間であってスペーサ2の厚さL2である。
【0013】
図4に示されるように、このコイル体Cをコーティング装置7に投入してコーティング処理を施す。
以下、コーティング処理をする前のコイル体Cを処理前コイル体Caと称し、コーティング処理をした後のコイル体Cを処理後コイル体Cbと称する。
【0014】
コーティング処理の方法はPVD(Physical Vaper Deposition)方法で行うが、それに限定されるものではなく、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法であっても構わない。
第1中間ブレード1Aにおいて少なくともコーティング処理する範囲は、歯部12の表面であって、処理前コイル体Caにおいてスペーサ2が接触していない部分である。また、コーティング処理する範囲において、影になる部分と影にならない部分とで蒸着層の厚さに違いが生じて斑が発生する。
【0015】
コーティング処理を所定の条件で実施した後、処理後コイル体Cbを取り出して巻きをほどく。処理後コイル体Cbからは、第1中間ブレード1Aの歯部12に対してコーティング処理がなされた第2中間ブレード1Bが得られる。
【0016】
図5及び図6に示されるように、第2中間ブレード1Bには、コーティング処理により、スペーサ2が接触していなかった歯部12と胴部11における歯部12側の縁部とに跨ってコート層13(網点付き部分)が形成される。コート層13(図5参照)は、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化チタンアルミ(TiAlN)の層であってもよいし、チタンカーボンナイトライド(TiCN)やクロミウムナイトライド(CrN)であってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。
【0017】
次に、第2中間ブレード1Bの複数の直歯である歯12aのうちの所定の歯を、アサリ出し機を用いて左方又は右方に振り出してアサリ歯とする振り出し加工を実行する。
図7(a)に示されるように、アサリ出し機8は、第2中間ブレード1Bを厚さ方向に挟んで支持する固定部81と、歯12aの側面に対し局所的に当たって矢印DR1で示される厚さ方向に押す加工部82とを有する。
【0018】
アサリ出し機8は、固定部81が、第2中間ブレード1Bの歯部12が固定部81から突出して露出するように胴部11を挟んで固定する。
次いで、図7(b)に示されるように、加工部82を歯12aの一方側から厚さ方向に押して歯12aを矢印DR2に示されるように他方側に曲げて振り出す。
【0019】
第2中間ブレード1Bの所定の歯に対し、アサリ出し機8によって左方向及び右方向のいずれかにこの振り出し加工を行い、図8に示される第3中間ブレード1Cを得る。
第3中間ブレード1Cは、歯部12として、例えば複数の歯12aのうちの連続して形成された5個を一つの歯列TGとし、この歯列TGが長手方向に繰り返し形成されたものとする。
図8に示された歯列TGは、アサリ歯を含む所定数の歯の組である。具体的には、歯列TGは、切削方向(矢印DR3)側から、右アサリ歯Rw,左アサリ歯Ln,右アサリ歯Rn,左アサリ歯Lw,及び直歯Sの5個の歯の組である。左アサリ歯Lw及び右アサリ歯Rwは、左アサリ歯Ln及び右アサリ歯Rnよりも振り出し量が大きい。歯列TGの構成は、この図8に示されたものに限定されない。
【0020】
次に、図9に示されるように、第3中間ブレード1Cにおける胴部11両端同士を突き当てた接合部Pmで溶着して無端状化し、帯状で無端状の帯鋸刃1を得る。
【0021】
上述の帯鋸刃1の製造方法は、コーティング処理をする時点で歯部12の歯12aはすべて直歯であり、コーティング処理後に所定の直歯をアサリ歯にする振り出し加工を実行する。そのため、コーティング装置7でコーティング処理するコイル体Cで重ね巻きするスペーサ2は、厚さL2のものでよい。
このように、帯鋸刃1の製造方法は、コーティング処理が、すべて直歯に対して行われる。そのため、アサリ歯に対してコーティング処理を行う場合のように、振り出し方向の影となる内面と表となる外面とでコート層の厚さに違いが生じて斑になる、ということはない。すなわち、帯鋸刃1の製造方法によれば、コート層13の厚さがコーティング範囲において均一となる。
【0022】
上述のように、帯鋸刃1は、歯12aの表面にコート層13を形成した後に振り出し加工が行われて製造される。そのため、振り出し加工において、アサリ出し機8の固定部81及び加工部82は、コート層13の上から押し付けられるので加工部82及び固定部81のエッジにおいて従来とは異なる特徴的な圧痕部が形成される。この圧痕部について、図10及び図11を参照し、右方向に振り出された右アサリ歯Rwを例として説明する。
【0023】
図10は、帯鋸刃1における歯12aの表面状態を示す部分側面図であり、図10(a)は右側面図、図10(b)は左側面図である。図11は、帯鋸刃1における歯12aの断面を示す図であり、図11(a)は部分断面図、図11(b)は図11(a)における圧痕部T81の拡大図であり、図11(c)は図11(a)における圧痕部T82の拡大図である。
【0024】
図10(a),図11(a),及び図11(b)に示されるように、右アサリ歯Rwの歯12aの振り出し方向の内面12a1となる右側面の根本部分には、固定部81による圧痕部T81(第2圧痕部T81)が形成される。圧痕部T81は、胴部11の長手方向に延びる直線状に、歯12aの長手方向の全体に亘り明確に視認される。
図10(b),図11(a),及び図11(c)に示されるように、右アサリ歯Rwの歯12aの振り出し方向の外面12a2となる左側面の歯高方向(上下方向)の中央部位には、加工部82による圧痕部T82(第1圧痕部T82)が形成される。圧痕部T82は、切削方向AR3側が下方となるように傾斜した直線状に、歯12aの長手方向の全体に亘り明確に視認される。
【0025】
すなわち、帯鋸刃1において、圧痕部T81,圧痕部T82,及びコート層13には、歯12aにコート層13をコート層形成工程として形成した後に振り出し加工を振り出し加工工程として実行することで次の(イ),(ロ),(ハ)の特徴が生じる。
(イ)コート層13を形成した後に、固定部81によって屈曲部12cが形成される。そのため、コート層13は、歯12aの表面における屈曲部12cから胴部11側の領域が、固定部81との擦れなどによって剥がれた部分が生じ、コート層13の形成密度が低い状態となっている(図10及び図11では、コート層13の網点を非表示としてある)。すなわち、コート層13は、圧痕部T81を境界として歯先側と胴部側とで形成密度が異なっている。これとコート層13に対する加工部82の押圧とによって、歯12aの表面に形成される圧痕部T81は、明確に視認される。
(ロ)コート層13を形成した後に、加工部82によって凹部12bが形成される。そのため、凹部12bのコート層13bは、コート層13の他の部分(凹部以外の部分)よりも圧縮されて厚さが小さく(薄く)なっている。
(ハ)コート層13を形成した後に、加工部82によって凹部12bが形成される。そのため、コート層13の表面に明確に視認される圧痕部T82が形成される。
【0026】
これに対し、従来の、アサリ歯を形成した後にコーティング処理をする製造方法で製造した比較例の帯鋸刃101に形成される圧痕部T181,T182は、図12及び図13に示されるものになる。
図12は、比較例の帯鋸刃101における歯112aの表面状態を示す部分側面図であり、図12(a)は右側面図、図12(b)は左側面図である。図13は、比較例の帯鋸刃101における歯112aの断面を示す図であり、図13(a)は部分断面図、図13(b)は図13(a)における圧痕部T181の拡大図であり、図13(c)は図13(a)における圧痕部T182の拡大図である。
【0027】
図12(a),図13(a),及び図13(b)に示されるように、右アサリ歯Rwの歯112aの右側面の根本部分には、固定部81による圧痕部T181が形成されている。圧痕部T181は、胴部11の長手方向に延びる直線状に、薄くわずかに、場合によって歯112aの一部に視認される。
図12(b),図13(a),及び図13(c)に示されるように、右アサリ歯Rwの歯112aの左側面の歯高方向(上下方向)の中央部位には、加工部82による圧痕部T182が形成されている。圧痕部T182は、切削方向AR3側が下方となるように傾斜した直線状に、薄くわずかに、場合によって歯112aの一部に視認される。
【0028】
比較例の帯鋸刃101において、圧痕部T181,圧痕部T182,及びコート層113には、歯112aにコート層113を形成した後に振り出し加工を実行することで次の(ニ),(ホ),(へ)の特徴が生じる。
(ニ)固定部81によって歯112aの表面に屈曲部112cを形成された後にコート層113を形成する。そのため、屈曲部112cを境界として刃先側と胴部側とでコート層113の形成密度はほぼ同じになる。
(ホ)加工部82によって凹部112bが形成された後にコート層113を形成する。そのため、凹部112bのコート層13bは、コート層113の他の部分と比較して厚さがほぼ同じとなっている。
(へ)屈曲部112c及び凹部112bが形成された後に、屈曲部112c及び凹部112bを覆うようにコート層113を形成する。そのため、屈曲部112c及び凹部112bはコート層113に隠れ、圧痕部T181,T182は部分的に視認し難い或いは視認できない場合がある。
【0029】
上述のように、実施例の帯鋸刃1は、コート層13を形成した後に振り出し加工を実施することで、製造した製品そのものにも従来の製品とは異なる特徴的な構成が生じている。
すなわち、帯鋸刃1の特徴である(イ),(ロ),(ハ)は、比較例の帯鋸刃101における(ニ),(ホ),(へ)のそれぞれに対応する相違点であり、帯鋸刃1ならではの特徴的構成として帯鋸刃1を他の帯鋸刃と区別可能とするものである。
【0030】
上述のように、本発明の一態様の帯鋸刃1は、帯状で無端状の胴部11と、胴部11の一縁側に、アサリ歯Rwを含む所定数の歯12aの組である歯列TGが繰り返し形成された歯部12と、その歯部12の歯12aの表面に形成されたコート層13と、を備え、アサリ歯Rwは、振り出し方向の外面12a2のコート層13に凹部12bとしての第1圧痕部T82を有し、第1圧痕部T82の凹部12bにおけるコート層13の厚さは、コート層13の凹部12b以外の部分の厚さよりも薄くなっている。
【0031】
また、この帯鋸刃1は、さらにアサリ歯Rwが、振り出し方向の内面12a1のコート層13の外面に屈曲部12cとしての第2圧痕部T81を有し、コート層13は、第2圧痕部T81を境界として歯先側よりも胴部11側の形成密度が低くなるものであってよい。
【0032】
これらの特徴点を有する帯鋸刃1は、切削に必要な部分に、製造工程のコーティング処理により、均一な厚さのコート層13が形成されている。
【0033】
また、上述のように、本発明の一態様の帯鋸刃の製造方法は、帯状でループ化された胴部11と、胴部11の一縁側に、アサリ歯Rwを含む所定数の歯12aの組である歯列TGが繰り返し形成された歯部12と、歯部12の歯12aの表面に形成されたコート層13と、を備えた帯鋸刃の製造方法であって、歯12aがすべて直歯Sである中間ブレード1Aの歯12aに対してコート層13を形成するコート層形成工程を実行した後に、所定の前記歯12aを振り出してアサリ歯Rwにする振り出し加工を実行する。
【0034】
この一態様の帯鋸刃の製造方法は、コート層形成工程であるコーティング処理を直歯のみに対して行う。これにより、均一な厚さのコート層を形成することができる。
【0035】
また、この一態様の帯鋸刃の製造方法は、さらにコート層形成工程が、中間ブレード1Aと帯状のスペーサ2とを歯部12が露出するよう重ね巻きして渦巻コイル状のコイル体Cを形成し、形成したコイル体Cをコーティング装置7に投入してコート層13を形成する方法としてよい。
【0036】
本発明の実施例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0037】
帯鋸刃1の歯列TGのアサリ歯及び直歯の構成は限定されない。コート層13の材質及び形成方法は限定されない。
スペーサ2の厚さは、帯鋸刃1の種類及びコーティング処理の条件に応じて良好なコート層13が得られる範囲で可能な限り薄く設定してよい。
これにより、1回のコーティング処理でコート層を形成できる鋸刃長をより長くすることができる。
【符号の説明】
【0038】
1 帯鋸刃
1A 第1中間ブレード
1B 第2中間ブレード
1C 第3中間ブレード
11 胴部
12 歯部
12a 歯
12a1 内面
12a2 外面
12b 凹部
12c 屈曲部
13,13b コート層
2 スペーサ
7 コーティング装置
8 アサリ出し機
81 固定部
82 加工部
C コイル体
Ca 処理前コイル体
Cb 処理後コイル体
La 隙間
L2 厚さ
Ln,Lw 左アサリ歯
Pm 接合部
Rn,Rw 右アサリ歯
T81,T82 圧痕部
TG 歯列
S 直歯
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13