(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059011
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】金属張積層板
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230419BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230419BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230419BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
B32B15/08 Q
B32B27/34
B32B27/30 D
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168877
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】大里 敦志
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA02A
4F100AA02H
4F100AB01D
4F100AB10D
4F100AB17D
4F100AC03A
4F100AC03H
4F100AD03A
4F100AD03H
4F100AH06C
4F100AH06J
4F100AK18A
4F100AK49B
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100AL05H
4F100AL08C
4F100AT00
4F100BA06
4F100EC012
4F100EH012
4F100EJ172
4F100EJ422
4F100GB43
4F100JG05
4F100JJ03
4F100JK06
4F100JK17
4F100JL04
(57)【要約】
【課題】誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足すると共に、高い剛軟度を有する金属張積層板を提供すること。
【解決手段】実施形態によると、金属張積層板が提供される。金属張積層板は、第1ふっ素樹脂層と、ポリイミド層と、第2ふっ素樹脂層と、金属箔とを備える。第1ふっ素樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレン及び粉末状充填剤を含有する。ポリイミド層は、第1ふっ素樹脂層の両面上にそれぞれ設けられており且つポリイミドを含む。第2ふっ素樹脂層は、ポリイミド層上に設けられており且つペルフルオロアルコキシアルカンを含む。金属箔は第2ふっ素樹脂層上に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレン及び粉末状充填剤を含有する第1ふっ素樹脂層と、
前記第1ふっ素樹脂層の両面上にそれぞれ設けられており且つポリイミドを含むポリイミド層と、
前記ポリイミド層上に設けられており且つペルフルオロアルコキシアルカンを含む第2ふっ素樹脂層と、
前記第2ふっ素樹脂層上に設けられた金属箔とを備える金属張積層板。
【請求項2】
総厚が50μm~200μmの範囲内にある請求項1に記載の金属張積層板。
【請求項3】
前記ポリイミド層の総厚が10μm~50μmの範囲内にある請求項1又は2に記載の金属張積層板。
【請求項4】
前記第1ふっ素樹脂層に占める粉末状充填剤の体積割合は、40%~60%の範囲内にある請求項1~3の何れか1項に記載の金属張積層板。
【請求項5】
前記金属箔は銅箔である請求項1~4の何れか1項に記載の金属張積層板。
【請求項6】
JIS C 6481に準拠したハンダ耐熱性試験により測定される連続使用温度は260℃以上であり、
前記金属箔の常温でのピール強度は1.0kN/mである請求項1~5の何れか1項に記載の金属張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属張積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信環境において多様化及び高度化が進む中、高周波帯域を使用した通信システムが注目を集めている。高周波帯域の中でも、いわゆるミリ波と呼ばれる30GHz以上の高周波は、伝送情報容量が非常に多いが、伝送損失が大きくなりやすいという特徴がある。そのため、ミリ波を伝送させた場合であっても伝送損失を低減することが可能なミリ波用低損失基板の需要が高まっている。
【0003】
ふっ素樹脂は誘電特性に優れた材料であるため、ふっ素樹脂を含む誘電体と、導体としての金属箔とを備えた積層板は、高周波帯域を利用した種々のアプリケーションに使用されている。こうした積層板においては、誘電体と導体との界面を電気信号が通過するため、当該界面が平滑であるほど伝送損失は小さくなる。
【0004】
一方で、ふっ素樹脂は熱膨張係数が大きいため、寸法安定性に優れていない。そこで、熱膨張係数の小さいポリイミド層を備えるFCCL(Flexible Cupper Clad Laminate)が高周波帯域用の積層板として使用されている。しかしながら、ポリイミドは、必ずしも誘電特性に優れている訳ではないため、誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足する金属張積層板は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-011456号公報
【特許文献2】特開2017-024265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FCCLには、これら特性の他に、例えば高い剛軟度が要求される。フレキシブルプリント配線板(FPC:Flexible printed circuits)の薄板化が進むと、自重のたわみ量が増大し、加工時のハンドリング性が悪化する。FCCLが高い剛軟度を有する場合、これを抑制することができる。ポリイミドは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と比較して剛軟度が高いという特性を有する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされ、誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足すると共に、高い剛軟度を有する金属張積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、金属張積層板が提供される。金属張積層板は、第1ふっ素樹脂層と、ポリイミド層と、第2ふっ素樹脂層と、金属箔とを備える。第1ふっ素樹脂層は、ポリテトラフルオロエチレン及び粉末状充填剤を含有する。ポリイミド層は、第1ふっ素樹脂層の両面上にそれぞれ設けられており且つポリイミドを含む。第2ふっ素樹脂層は、ポリイミド層上に設けられており且つペルフルオロアルコキシアルカンを含む。金属箔は第2ふっ素樹脂層上に設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足すると共に、高い剛軟度を有する金属張積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る金属張積層板の一例を概略的に示す断面図。
【
図2】実施形態に係る金属張積層板の他の例を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について適宜図面を参照して説明する。なお、実施の形態を通して共通の構成には同一の符号を付すものとし、重複する説明は省略する。また、各図は実施の形態の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術とを参酌して、適宜設計変更することができる。
【0012】
実施形態に係る金属張積層板について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、金属張積層板の一例を概略的に示す断面図である。金属張積層板10は、金属箔をエッチングして形成されたパターン回路を備えるプリント基板であってもよい。金属張積層板は、イメージセンサー、衝突防止用車載レーダー、並びに、IoT(Internet of Things)及び5Gなどのアプリケーションを主体とした大容量無線通信等の種々の装置に搭載され得る。
【0014】
金属張積層板10は、第1ふっ素樹脂層1と、ポリイミド層2と、第2ふっ素樹脂層3と、金属箔4とを備える。金属箔4を除く、第1ふっ素樹脂層1、ポリイミド層2及び第2ふっ素樹脂層3からなる積層体は、誘電体5を構成し得る。第1ふっ素樹脂層1の両面上には、それぞれポリイミド層2が設けられている。2つのポリイミド層2が、第1ふっ素樹脂層1の両面上に設けられていることにより、ポリイミド層2の変形(フレア及び皺)を抑制することができる。仮に、第1ふっ素樹脂層の片面上にのみポリイミド層を設けると、第1ふっ素樹脂層とポリイミド層との線膨張係数及び収縮力の差に起因して、ポリイミド層が変形する傾向がある。実施形態に係る金属張積層板においては、第1ふっ素樹脂層1の両面上にポリイミド層2が設けられているため、第1ふっ素樹脂層1又は金属張積層板10全体の機械強度及び寸法安定性が高まる。
【0015】
ポリイミド層の変形が抑制された金属張積層板はカール及び反りがなく、平滑性は高い。プリント配線基板の高密度化、及び、環境負荷を低減する観点から、鉛フリー実装が増加している。これに伴い、実装時の基板反り抑制が重要視されてきている。反りにくいFCCLを提供できれば、実装時の基板反りによる部品と基板との接続不良を抑制し、高い接続信頼性を確保できる。
【0016】
第1ふっ素樹脂層はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及び粉末状充填剤を含む。第1ふっ素樹脂層は、シート又はフィルム形状を有する。PTFEの誘電特性は優れているため、第1ふっ素樹脂層を含む金属張積層板は高周波帯域に対応可能である。第1ふっ素樹脂層は、PTFE及び粉末状充填剤からなっていてもよい。PTFEは融点および連続使用最高温度が高いため、第1ふっ素樹脂層によれば、金属張積層板の耐熱性を高めることができる。
【0017】
例えば、第1ふっ素樹脂層がPTFEを含む基板の加工には、鉛含有はんだと比較して融点が高い鉛フリーはんだを採用することができる。PTFEを含有する第1ふっ素樹脂層を含む金属張積層板は、連続して260℃以上の耐熱性を備え得る。金属張積層板の耐熱性は、JIS C 6481に準拠したハンダ耐熱性試験により評価することができる。
【0018】
粉末状充填剤は、無機フィラー及び/又は有機フィラーでありうる。第1ふっ素樹脂層が粉末状充填剤を含んでいると、粉末状充填剤を含まない場合と比較して、第1ふっ素樹脂層の熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)を低減させることができる。第1ふっ素樹脂層に占める粉末状充填剤の体積割合は、例えば10%~70%の範囲内にあり、好ましくは40%~60%の範囲内にある。当該割合が小さすぎると、第1ふっ素樹脂層を含む誘電体の熱膨張係数が大きすぎる可能性がある。当該割合が大きすぎると、誘電体の機械強度(耐折り曲げ性)が不足する傾向がある。
【0019】
無機フィラーとしては、例えば、シリカ(二酸化ケイ素)、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルーン、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルーン、木粉、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。第1ふっ素樹脂層は、1種類の無機フィラーを含んでいてもよく、2種類以上の無機フィラーを含んでいてもよい。無機フィラーの粒子表面は疎水性処理が施されていてもよい。
【0020】
有機フィラーとしては、例えば、ポリイミドパウダー、LCP(液晶ポリマー)パウダー等が挙げられる。
【0021】
熱膨張係数の低減効果を高めるためには、粉末状充填剤は無機フィラーであることが好ましい。無機フィラーの中でも、二酸化ケイ素からなり、表面を疎水性に処理した球状微粒子が好ましい。この場合、二酸化ケイ素に起因した低いCTEの達成、表面疎水化処理に起因した吸湿性の抑制、球状微粒子によるフレキ性保持、及び、総合的な誘電正接Dfの増加抑制などの効果がある。
【0022】
粉末状充填剤の平均粒子径は、例えば、0.5μm~30μmの範囲内にある。粉末状充填剤の平均粒子径は、金属張積層板から金属箔及びポリイミド層を除去し、ふっ素樹脂を熱分解により除去して得られる残渣に対して走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)観察を実施することで測定可能である。
【0023】
第1ふっ素樹脂層の厚さは、例えば、10μm~75μmの範囲内にあり、好ましくは25μm~75μmの範囲内にある。第1ふっ素樹脂層の厚さが25μm~75μmの範囲内にあると、誘電特性の観点で好適である。更にこの場合、製造時において、第1ふっ素樹脂層に相当するフィルムのハンドリング性を良好とする効果がある。
【0024】
ポリイミド層はポリイミドを含む。ポリイミド層はシート又はフィルム形状を有する。ポリイミド層は、ポリイミドのみからなっていてもよい。ポリイミド層が含むポリイミドは、高耐熱性ポリイミドであってもよく、熱可塑性ポリイミドであってもよい。ポリイミド層が含むポリイミドは、高耐熱性ポリイミドのみからなっていてもよい。この場合、金属張積層板の剛軟度をより高めることができる。ポリイミドとしては、変性ポリイミド(MPI;Modified Polyimide)を使用してもよい。ポリイミド層は、PTFE及びPFAなどのふっ素樹脂、並びに、粉末状充填剤などの異種材を更に含んでいてもよい。
【0025】
第1ふっ素樹脂層の両面上に設けられる2つのポリイミド層の組成は、互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0026】
熱可塑性ポリイミドは、300℃未満の軟化点を有するポリイミドを指す。軟化点は、対象物が急激に軟化する温度である。非結晶性ポリイミドではガラス転移点Tgが軟化点となる。結晶性ポリイミドでは、融点が軟化点となる。熱可塑性ポリイミドの軟化点は、200℃~300℃の範囲内にあることが好ましい。
【0027】
熱可塑性ポリイミドの例として、三井化学製の商品名:AURUM(登録商標)を挙げることができる。AURUM(登録商標)のガラス転移点Tgは250℃であり、融点Tmは388℃である。
【0028】
高耐熱性ポリイミドは、ガラス転移点Tgが320℃以上であるか、又は、Tgが熱分解温度と比較して高いポリイミドを指す。高耐熱性ポリイミドは、非熱可塑性ポリイミドを90質量%以上含んでいれば、その分子構造は特に制限されない。
【0029】
高耐熱性ポリイミドは、例えば、ポリアミド酸を前駆体として製造され得る。ポリイミド層に高耐熱性ポリイミドが含まれる場合、高耐熱性ポリイミドのガラス転移点Tgは、当該ポリイミド層と接触している第2ふっ素樹脂層に含まれるふっ素樹脂の融点Tmと比較して高いことが好ましい。高耐熱性ポリイミドのガラス転移点Tgは、第2ふっ素樹脂層に含まれるふっ素樹脂の融点Tmと比較して10℃以上大きいことがより好ましい。
【0030】
ポリイミド層と第2ふっ素樹脂層との接着加工の際、第2ふっ素樹脂層に含まれるふっ素樹脂の融点Tm+10℃程度以上の温度での加工が望ましい。高耐熱性ポリイミドのガラス転移点Tgがこの加工温度以上である場合、ポリイミド層と第2ふっ素樹脂層との接着性を高めることができる。
【0031】
例えば、第2ふっ素樹脂層に含まれるふっ素樹脂の融点Tmが290℃~310℃の範囲内にある場合、高耐熱性ポリイミドのガラス転移点Tgは、320℃以上であることが好ましい。320℃以上のガラス転移点Tgを有する高耐熱性ポリイミドの例として、Dupont株式会社製の商品名:Kapton(登録商標)、宇部興産株式会社製の商品名:UPILEX-S(登録商標)、及び、ゼノマックスジャパン株式会社製の商品名:XENOMAX(登録商標)が挙げられる。
【0032】
変性ポリイミドとしては、例えば、ポリアミド酸などのモノマーを重合させる際に、少量のポリイミド以外のモノマーを混合させて純度を下げたもの、ポリイミド以外の低分子量オリゴマーを結合させたもの、及び、他の置換基を導入したモノマーを、当該モノマーと共に重合させたものなどが挙げられる。
【0033】
ポリイミド層の各々は、第1ふっ素樹脂層と比較して薄いことが好ましい。また、金属張積層板に含まれるポリイミド層の総厚が第1ふっ素樹脂層と比較して薄いことがより好ましい。ポリイミドはふっ素樹脂と比較して吸湿性が高い。それ故、ポリイミド層の厚さの割合を小さくして第1ふっ素樹脂層の厚さの割合を高めることにより、誘電特性が向上する。
【0034】
金属張積層板のうち、金属箔4を除いた誘電体の総厚に対する、ポリイミド層の合計厚さ(二層の合計厚さ)を「PI厚さ比率」と定義する。即ち、PI厚さ比率は下記式(1)で表される。金属張積層板におけるPI厚さ比率は、例えば10~25の範囲内にある。この範囲内にある場合、ふっ素樹脂が有する利点、即ち低誘電特性及び低吸湿性と、ポリイミドが有する利点、即ち高い機械的強度とを両立することができる。そのため、この場合、FCCL用誘電体として適度な特性バランスを確保しやすいため好ましい。
[PI厚さ比率]=[ポリイミド層の合計厚さ]/[誘電体の総厚]×100…(1)
【0035】
ポリイミド層の各々の厚さは、例えば、5μm~15.0μmの範囲内にある。金属張積層板に含まれるポリイミド層の合計厚さは、誘電体の総厚に応じて適宜調整可能であるが、例えば10μm~50μmの範囲内にあり、好ましくは10μm~30μmの範囲内にある。
【0036】
誘電体5において、2つのポリイミド層2は、それぞれが、第1ふっ素樹脂層1が有する表面及び裏面と対向するように設けられている。例えば
図1に示すように、面対称に構成された誘電体5において、第1ふっ素樹脂層1は仮想的な対称面(図示しない)に近い位置に配置されているのに対して、2つのポリイミド層2は、対称面から離れた位置に配置されている。このように、第1ふっ素樹脂層1と比較して相対的に高い硬度を有するポリイミド層2が誘電体5の外側に配置されているため、金属張積層板10は高い剛軟度を示す。これは、誘電体5が完全な面対称構造を有していない
図2の場合においても同様である。実施形態に係る誘電体は、面対称な積層構成を有していなくてもよい。
【0037】
ポリイミド層2上には、第2ふっ素樹脂層3が設けられている。
図1に示すように、第1ふっ素樹脂層1の両面上に設けられた2つのポリイミド層2のそれぞれの表面上に第2ふっ素樹脂層3が設けられていてもよく、
図2に示すように、2つのポリイミド層2のうちの片方のポリイミド層2上にのみ第2ふっ素樹脂層3が設けられていてもよい。金属箔4は、第2ふっ素樹脂層3上に設けられている。図示していないが、第2ふっ素樹脂層3は、第1ふっ素樹脂層1とポリイミド層2との間に、更に存在していてもよい。
【0038】
第2ふっ素樹脂層3はペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)を含む。PFAは溶融流動性を有するふっ素樹脂であるため、第2ふっ素樹脂層3は、ポリイミド層2と金属箔4とを接着させる層として機能し得る。ポリイミド層2と金属箔4との間に第2ふっ素樹脂層3が存在することにより、金属箔4のピール強度を向上させることができる。第2ふっ素樹脂層3は、PFAのみからなることが好ましい。第2ふっ素樹脂層3が無機フィラーなどの他の成分を含んでいると、第2ふっ素樹脂層3の脆性が高まり、ピール強度が低下する可能性があるためである。
【0039】
第2ふっ素樹脂層3の厚さは、例えば、1μm~20μmの範囲内にあり、好ましくは2μm~12μmの範囲内にある。第2ふっ素樹脂層3の厚さが1μmを下回ると、当該第2ふっ素樹脂層3に起因したピール強度の向上効果が得られにくくなる可能性がある。例えば、第2ふっ素樹脂層と、金属箔又はポリイミド層との界面のピール強度が極端に低下する恐れがある。第2ふっ素樹脂層3の厚さが大きすぎると、金属張積層加工前の素材が大きくカールし、ハンドリング性に劣る傾向がある。
【0040】
誘電体の厚さは、例えば25μm~100μmの範囲内にあり、好ましくは50μm~100μmの範囲内にある。誘電体の厚さがこの範囲内にあると、FCCLの連続的な成形が容易となり、十分なフレキシビリティを発現することができる。
【0041】
金属箔4の常温でのピール強度は、好ましくは1.0kN/m以上であり、より好ましくは1.2kN/m以上である。金属箔4のピール強度を高めるには、第2ふっ素樹脂層が含むPFAとして、接着性の変性PFAを使用することが有効である。第2ふっ素樹脂層が接着性の変性PFAを含む場合、金属箔4のピール強度を1.0kN/m以上とするのが容易となる。第2ふっ素樹脂層は、接着性の変性PFAのみからなっていてもよい。金属箔のピール強度は、常温環境下、JIS C 6481に準拠した90°剥離試験により測定可能である。
【0042】
接着性の変性PFAは、例えば、金属箔との接着性向上をもたらす変性モノマー単位を更に含んでいる。
【0043】
接着性の変性PFAは溶融成形可能である上、通常のPFAが備えるような、耐熱性、耐薬品性、耐候性、低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性及び誘電特性を備えている。接着性の変性PFAの周波数1GHzの条件における比誘電率は、2.06以下であることが好ましく、誘電正接は0.002以下であることが好ましい。接着性の変性PFA樹脂の比誘電率及び誘電正接を測定する際には、JIS 2138:2007に準拠して測定することができる。接着性の変性PFA樹脂の比誘電率及び誘電正接が上記の数値範囲を満たす場合、金属張積層板は優れた低損失特性を有し得る。
【0044】
接着性の変性PFAのメルトフローレートは、好ましくは10g/10min-25g/10minの範囲内にある。接着性の変性PFAの引張強度は、例えば35MPa以上である。接着性の変性PFAの曲げ弾性率は、例えば600-680MPaの範囲内にある。接着性の変性PFAの融点は、例えば290℃-300℃である。
【0045】
接着性の変性PFAの例は、AGC株式会社製のFluon+ EA-2000である。
【0046】
金属箔の種類は特に限定されず、金属張積層板の用途に応じて適宜選択すればよい。例えば、電子機器に積層板を用いる場合、金属箔の材質としては、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。電子機器に用いられる通常の積層板においては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が多用されており、実施形態に係る積層板においても銅箔が好適である。金属箔の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜)又は耐熱層が形成されていてもよい。
【0047】
金属箔4において、当該金属箔4と第2ふっ素樹脂層3とが接触する面の表面粗さRzは、例えば3.0μm以下であり、好ましくは1.0μm以下である。金属箔のピール強度が3N/cm以上である限り、表面粗さRzはできるだけ小さい方が望ましい。表面粗さRzは、一例によると0.5μm以上であり得る。本願明細書おける表面粗さRzとは、JIS C 6515-1998に準拠して測定される「最大高さRz」を意味する。
【0048】
金属箔の厚さは、特に限定されず、金属張積層板の用途に応じて、充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、例えば2μm~18μmの範囲内にあり、好ましくは9μm~18μmの範囲内にある。
【0049】
金属張積層板の総厚は、例えば50μm~200μmの範囲内にあり、好ましくは70μm~136μmの範囲内にある。
【0050】
金属箔を除いた誘電体部分の比誘電率(Dk)は、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。誘電体部分の誘電正接(Df)は、0.0030以下であることが好ましく、0.0020以下であることがより好ましい。
【0051】
実施形態に係る金属張積層板によると、ポリイミドに起因した寸法安定性及び機械強度の高さを達成しつつ、金属張積層板に占める第1ふっ素樹脂層及び第2ふっ素樹脂層の厚さの割合を大きくすることができる。また、2つのポリイミド層によって、PTFEを含む第1ふっ素樹脂層を挟み込んでいる。それ故、実施形態に係る金属張積層板は、誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足すると共に、高い剛軟度を有する。
【0052】
実施形態に係る金属張積層板を得るには、例えば、
図1又は
図2に示す積層順となるように各層を積層させた後、所定の圧力及び温度条件の下で熱圧プレスを施してこれらを冷却する。こうして、各層が一体化した一体品が得られる。第2ふっ素樹脂層は、PFA樹脂粒子が分散された水性又は有機溶媒系の分散液を、所望のフィルムに対して塗布及び乾燥させることにより作製してもよい。
【0053】
熱圧プレスの方式は特に限定されず、上下平板式、2本ローラー式、ベルトプレス式など公知の方式を採用できる。金属箔の熱変色を回避する目的で、真空及び窒素ガスその他の不活性雰囲気下で熱圧プレスを行うのが望ましい。また、熱圧プレスの際、養生フィルムとして厚手のポリイミドフィルムを使用すると、熱変色の更なる予防ができることに加えて、各層についての皺を低減する効果(緩衝材としての機能)も期待できる。
【0054】
熱圧プレスは、例えば、60分~150分に亘って行うことができる。プレス時の温度は、例えば、常温~400℃の範囲内で設定することができ、好ましくは、330℃~360℃の範囲内で設定することができる。
【0055】
プレス圧力は、例えば、5kg/cm2~50kg/cm2の範囲内で設定することができる。プレス圧力を印加しない設定も可能である。プレス圧力が不足すると、金属箔のピール強度が劣る傾向にある。プレス圧力が過度に高いと、積層板の寸法が変化してしまう可能性があるため好ましくない。
【0056】
真空度は、例えば、0.1Torr~800.0Torrの範囲内で設定することができる。真空度が過度に低いと、各材料の層間にエアーを巻き込み、層間剥離及び/又は金属箔酸化を引き起こす可能性がある。真空度が過度に高いと、各材料の滑り崩れを引き起こす可能性がある。
【0057】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
以下に示すように、各層を構成する材料(シート)を準備した。
【0059】
第1ふっ素樹脂層を構成する第1フィルムを用意した。第1フィルムは、PTFEと二酸化ケイ素とを含むフィルムである。第1フィルムに含まれる二酸化ケイ素の含有量は48重量%であり、その平均粒子径は2μmであった。第1フィルムの厚さは、各43μmであった。この第1フィルムを2枚用意した。
【0060】
第2ふっ素樹脂層を構成する第2フィルムとして、AGC株式会社製のEA-2000を用意した。EA-2000は、実質的に接着性の変性PFA樹脂からなるフッ素樹脂フィルムである。第2フィルムとして、3μmの厚さを有するものを4枚、及び、2μmの厚さを有するものを2枚用意した。
【0061】
ポリイミド層を構成するポリイミドフィルムとして、宇部興産株式会社製のUPILEX-12.5SNを2枚用意した。このポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドからなるフィルムである。ポリイミドフィルムの厚さは、各12.5μmであった。
【0062】
金属箔層を構成する金属箔として、福田金属箔粉工業社製の電解銅箔を2枚用意した。電解銅箔の片面(マット面)における表面粗さRzは、0.8μmであった。また、電解銅箔の厚さは、各15μmであった。
【0063】
上述の通り用意した各フィルム及び金属箔を、下記表1の積層順(並び順)に従って積層した。各フィルムを積層する際は、それぞれのMD方向が互いに揃うように積層した。こうして、プレス前の積層体を作製した。なお、下記表1では、各フィルム及び金属箔の積層順に加えて、プレス前の積層体の厚さ、並びに、プレス後の金属張積層板の厚さも示している。
【0064】
【0065】
得られた積層体をクリーンルームに搬入した後、60分間に亘り熱圧プレスを実施して金属張積層板を作製した。表1に示しているように、得られた金属張積層板の合計厚さは154μmであった。金属張積層板に含まれる誘電体厚さは124μmであった。実施例1に係る金属張積層板におけるPI厚さ比率は、20%であった。
【0066】
(比較例1)
積層体を作製する際に、各フィルム及び金属箔の積層順を下記表2に示す通りに変更したことを除いて、実施例1と同様の条件で比較例1に係る金属張積層板を作製した。下記表2では、各フィルム及び金属箔の積層順に加えて、プレス前の積層体の厚さ、並びに、プレス後の金属張積層板の厚さも示している。
【0067】
【0068】
表2に示しているように、得られた金属張積層板の合計厚さは153μmであった。金属張積層板に含まれる誘電体厚さは123μmであった。比較例1に係る金属張積層板におけるPI厚さ比率は、20%であった。
【0069】
実施例1及び比較例1にて作製した金属張積層板について、以下に説明する各種測定を実施した。
【0070】
<線熱膨張係数測定>
線熱膨張係数CTEについて、誘電体フィルムのタテX(MD方向)およびヨコY方向(TD方向)はIPC-TM 650 2.4.41に準拠して、またフィルムの厚さ方向ZはIPC-TM 650 2.4.24に準拠して測定した。解析温度は、-65℃~260℃とした。
【0071】
<誘電特性評価>
比誘電率Dk、誘電正接Dfについて、平衡型円板共振器法によりJPCA-FCL01-2006に準拠して測定した。
【0072】
<金属箔(銅箔)の剥離強度測定>
金属張積層板が備える2枚の銅箔のうちの一方について、日本工業規格JIS C 6481に準拠して剥離強度を測定した。剥離試験は室温環境下で行い、剥離する角度は90°とした。
【0073】
<吸水率測定>
日本工業規格JIS C 6481に準じて吸水率を測定した。
【0074】
<ガーレー剛軟度測定>
日本工業規格JIS L 1096に準じて金属張積層板の剛軟度を測定した。
【0075】
<ハンダ耐熱性試験>
JIS C 6481に準拠して、ハンダ耐熱性試験を実施した。試験において、前処理は常態で行い、ハンダ浴温度は260℃とした。なお、常態とは、前処理にて熱水煮沸をしない場合を意味している。言い換えると、試験対象の金属張積層板が水分を含まない状態で、ハンダ浴に浸漬されることを意味している。
【0076】
各種測定結果を下記表3にまとめる。表3中、「線熱膨張係数 CTE X/Y/Z」の行では、タテX軸方向のCTE、ヨコY軸方向のCTE及び厚さZ軸方向のCTEを順番に示している。
【0077】
【0078】
表3に示しているように、2つのポリイミド層の間に第1ふっ素樹脂層が存在している実施例1では、誘電特性、耐熱性及び寸法安定性の全てを高い水準で満足すると共に、高い剛軟度を有していた。また、実施例1では、面対称の積層構成を有する誘電体において、仮想的な対称面から離れた位置に2つのポリイミド層が存在していたため、MD方向及びTD方向の両方について優れた剛軟度を示した。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0080】
1…第1ふっ素樹脂層、2…ポリイミド層、3…第2ふっ素樹脂層、4…金属箔、5…誘電体、10…金属張積層板。