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特開2023-59019クラッター検出装置、気象観測システム、クラッター検出方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059019
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】クラッター検出装置、気象観測システム、クラッター検出方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/95 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
G01S13/95
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168886
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】末澤 卓
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文彦
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC12
5J070AC13
5J070AD10
5J070AD14
5J070AE12
5J070AE13
5J070AF01
5J070AG01
5J070AH19
5J070AH25
5J070AK16
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】 風車クラッターの位置を自動的に検出することが可能なクラッター検出装置を提供する。
【解決手段】 実施形態のクラッター検出装置は、気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する第1判別部32と、レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出し、前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する第2判別部33とを含む。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する第1判別部と、
レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出し、前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する第2判別部と、
を具備するクラッター検出装置。
【請求項2】
気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する第1判別部と、
レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、受信強度に関するクラッターの統計値を算出し、前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する第2判別部と、
を具備するクラッター検出装置。
【請求項3】
気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する第1判別部と、
レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、レーダ反射因子に関するクラッターの統計値を算出し、前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する第2判別部と、
を具備するクラッター検出装置。
【請求項4】
前記第1判別部は、気象レーダの1周期ごとに、受信電力が第1閾値以上であるエコー数を計測し、
前記計測したエコー数が第2閾値以上かつ第3閾値以下である観測データを前記快晴データと判定する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のクラッター検出装置。
【請求項5】
前記第2判別部は、前記分散が第4閾値以上である場合に、対応するレンジビンを風車クラッター位置と判定する
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のクラッター検出装置。
【請求項6】
前記第2判別部は、風車クラッター位置情報を含む風車クラッター判別結果を生成する
請求項5に記載のクラッター検出装置。
【請求項7】
請求項6に記載のクラッター検出装置と、
風車クラッター位置が登録された風車クラッターマップを用いて、風車クラッターを除去するようにして気象状況を解析する解析部と、
を具備し、
前記解析部は、前記風車クラッター判別結果を用いて、前記風車クラッターマップを更新する
気象観測システム。
【請求項8】
気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別し、
レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出し、
前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する
クラッター検出方法。
【請求項9】
コンピュータに、
気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する処理と、
レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出する処理と、
前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、クラッター検出装置、気象観測システム、クラッター検出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーへの需要増に伴い、風力発電機(風車ともいう)が各地に設置されている。気象レーダは観測範囲を広げるため、風車は発電量を増やすため、それぞれが見通し及び風通しのよい場所に設置されることが多い。すなわち、気象レーダと風車とは隣接した場所に設置されることがある。
【0003】
従来の気象レーダでは、地上建造物等の非降水エコーを除去するために、ドップラー速度がゼロとなるエコーを除去する処理、いわゆるMTI(Moving Target Indicator)処理が利用されている。
【0004】
風車は回転による速度成分を持つため、従来のMTI処理では風車からのエコー(風車クラッターという)を除去できない。風車クラッターを除去する技術として、非特許文献1が提案されている。当該手法の適用には、風車クラッターの位置情報が必要である。
【0005】
従来、風車クラッターの位置情報を検出するためには、地図等を用いて手動で登録する必要がある。この作業は、労力が大きく、時間を要する。また、新たに風車が建設された場合、当該風車が地図に反映されておらず、風車クラッターの位置情報を登録できない。この場合、風車クラッターを判別することが難しくなり、気象状況をより正確に観測できない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kong, F., Y. Zhang, R. Palmer, "Wind Turbine Clutter Mitigation for Weather Radar by Adaptive Spectrum Processing," 2012 IEEE Radar Conference, Atlanta, GA, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、風車クラッターの位置を自動的に検出することが可能なクラッター検出装置、気象観測システム、クラッター検出方法、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係るクラッター検出装置は、気象状況を観測した観測データを受け、前記観測データに基づいて快晴時の観測データである複数の快晴データを判別する第1判別部と、レーダ覆域のレンジビンごとに、前記複数の快晴データに基づいて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出し、前記統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別する第2判別部とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係る気象観測システムのブロック図である。
図2図2は、図1に示したクラッター検出装置のブロック図である。
図3図3は、図1に示した気象解析装置及びクラッター検出装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図4図4は、クラッター検出装置による風車クラッター検出動作の全体的な流れを説明するフローチャートである。
図5図5は、快晴データ判別部による快晴データ判別動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、快晴データ判別動作におけるエコー数と発生頻度との関係の一例を示すグラフである。
図7図7は、快晴時観測データを説明する模式図である。
図8図8は、降水時観測データを説明する模式図である。
図9図9は、風車クラッター判別部による風車クラッター判別動作を説明するフローチャートである。
図10図10は、レーダ覆域におけるセクタ及びレンジビンを説明する図である。
図11図11は、速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。
図12図12は、速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。
図13図13は、風車クラッターマップの一例を説明する図である。
図14図14は、第2実施形態に係る速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。
図15図15は、第2実施形態に係る速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。
図16図16は、第3実施形態に係る速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。
図17図17は、第3実施形態に係る速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。以下に示す幾つかの実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための装置および方法を例示したものであって、構成部品の形状、構造、配置等によって、本発明の技術思想が特定されるものではない。各機能ブロックは、ハードウェア及びソフトウェアのいずれかまたは両者を組み合わせたものとして実現することができる。各機能ブロックが以下の例のように区別されていることは必須ではない。例えば、一部の機能が例示の機能ブロックとは別の機能ブロックによって実行されてもよい。さらに、例示の機能ブロックがさらに細かい機能サブブロックに分割されていてもよい。なお、以下の説明において、同一の機能及び構成を有する要素については同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[1] 第1実施形態
[1-1] 気象観測システム1の構成
図1は、第1実施形態に係る気象観測システム1のブロック図である。気象観測システム1は、気象レーダ10、気象解析装置20、及びクラッター検出装置30を備える。
【0012】
気象レーダ10は、地上に設置されたレーダ装置である。気象レーダ10は、設置箇所を中心にした所定範囲(レーダ覆域)の気象状況(雨、雪、雨雲、雨域、風向、及び風速等)を観測し、この気象状況に関する気象観測データを生成する。気象レーダ10は、電波を送信及び受信することで、雨粒を観測する。また、気象レーダ10は、所定時間毎に、雨粒をスキャンする。
【0013】
気象レーダ10は、アンテナ部11と、レーダ信号処理部12とを備える。アンテナ部11は、電波を送信し、その反射波(エコー)を受信する。レーダ信号処理部12は、アンテナ部11により受信されたエコーに対して、変調、信号強度の増幅、及び周波数変換等の一般的な信号処理を行う。
【0014】
気象レーダ10は、例えば、フェーズドアレイ気象レーダ(PAWR:phased array weather radar)で構成される。フェーズドアレイ気象レーダは、フェーズドアレイアンテナを構成するアレイ状のアンテナ素子に入力する信号の位相を制御することによって、指向角を電子的に変動させる。気象レーダ10は、アンテナの指向角を変動させながら電波を送受信する。例えば、気象レーダ10は、電気的な位相制御によって、エレベーション方向(垂直方向)における指向角を、一定の角度範囲(例えば90度)内で変動させる。また、気象レーダ10は、アジマス方向(水平方向)における指向角を、駆動機構によって機械的に変動させる。
【0015】
また、気象レーダ10は、マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP(multi parameter)-PAWR)であってもよい。MP-PAWRは、二重偏波フェーズドアレイ気象レーダ(dual-polarization PAWR)とも呼ばれる。MP-PAWRは、水平偏波のパルス信号と垂直偏波のパルス信号とを、ファンビームにより同時に送信する方式である。MP-PAWRを用いることで、雨雲の3次元構造をより精度よく観測することができ、また、降水強度をより精度よく推定することができる。なお、気象レーダ10は、パラボラ型気象レーダでもよい。
【0016】
気象解析装置20は、気象レーダ10よって得られた気象観測データの解析を行う。気象解析装置20は、通信インターフェース(通信I/F)21、RAWデータ処理部22、RAWデータ格納部23、データ解析部24、及び解析データ格納部26を備える。
【0017】
通信インターフェース21は、気象レーダ10等と通信するためのインターフェースである。通信インターフェース21は、気象レーダ10から気象観測データを繰り返し受信する。通信インターフェース21により受信された気象観測データは、RAWデータ処理部22に送られる。
【0018】
RAWデータ処理部22は、通信インターフェース21から送られる気象観測データを用いて、3次元データを含むRAWデータを生成する。3次元データは、複数の2次元極座標データを含む。極座標データは、仰角方向のデータを含む。RAWデータ処理部22により生成されたRAWデータは、RAWデータ格納部23に格納される。
【0019】
データ解析部24は、RAWデータ格納部23から1周期分のRAWデータを順次取得する。データ解析部24は、RAWデータを用いて、メッシュ単位で気象状況を解析し、数値化する。データ解析部24は、例えば、降水強度、降水粒子の種類(雨、雪、ひょう)、雨雲の動き、風向、及び風速などを解析する。データ解析部24により生成された解析データは、解析データ格納部26に格納される。また、データ解析部24により生成された解析データは、適宜外部に送信される。
【0020】
また、データ解析部24は、風車クラッターマップを格納する風車クラッターマップ格納部25を備える。クラッターとは、目標以外の物体によるエコーである。風車クラッターマップは、地上に設置された風車によるクラッター(風車クラッターという)の位置情報を含む。データ解析部24は、風車によって反射されるクラッターを除去して、気象状況を解析する。これにより、より精度よく気象状況を解析することができる。
【0021】
[1-1-1] クラッター検出装置30
図2は、図1に示したクラッター検出装置30のブロック図である。クラッター検出装置30は、解析データ取得部31、快晴データ判別部32、及び風車クラッター判別部33を備える。
【0022】
解析データ取得部31は、気象解析装置20から観測データを取得する。具体的には、解析データ取得部31は、解析データ格納部26に格納された所定期間分の観測データを順次取得する。
【0023】
快晴データ判別部32は、解析データ取得部31が取得した観測データに基づいて、快晴時の観測データを判別する。すなわち、快晴データ判別部32は、解析データ取得部31が取得した観測データから、快晴時の観測データを抽出する。
【0024】
風車クラッター判別部33は、快晴データ判別部32により判別された快晴時の観測データに基づいて、風車クラッターの位置を検出及び判別する。そして、風車クラッター判別部33は、風車クラッターの位置を含む判別結果を生成する。
【0025】
[1-1-2] ハードウェア構成
図3は、図1に示した気象解析装置20及びクラッター検出装置30のハードウェア構成例を示すブロック図である。気象解析装置20及びクラッター検出装置30は、プロセッサ40、ROM(Read Only Memory)41、RAM(Random Access Memory)42、入出力インターフェース(入出力I/F)43、入力装置44、表示装置45、補助記憶装置46、及び通信インターフェース21等を備える。プロセッサ40、ROM41、RAM42、入出力インターフェース43、及び通信インターフェース21は、バス47を介して接続される。
【0026】
プロセッサ40は、気象解析装置20及びクラッター検出装置30の動作を統括的に制御するCPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ40は、ROM41、RAM42、及び補助記憶装置46に格納されたプログラム及びデータを用いて、各種の演算処理を実行する。
【0027】
本実施形態の機能を実現する特定のプログラムは、ROM41及び/又は補助記憶装置46に格納される。本実施形態の機能は、プロセッサ40が、ROM41及び/又は補助記憶装置46に格納された上記特定のプログラムを実行することより実現される。
【0028】
ROM41は、コンピュータを機能させるための基本プログラムや環境ファイルなどを格納する読み取り専用の記憶装置である。RAM42は、プロセッサ40が実行するプログラム及びプログラムの実行に必要なデータを格納する記憶装置であり、高速な読み出しと書き込みが可能である。
【0029】
入出力インターフェース43は、各種のハードウェアとバス47との接続を仲介する装置である。入出力インターフェース43には、入力装置44、表示装置45、及び補助記憶装置46などのハードウェアが接続される。入力装置44は、ユーザからの入力を処理する装置であり、例えばキーボード及びマウスなどである。表示装置45は、ユーザに対して演算結果及び画像などを表示する装置であり、例えば液晶表示装置、又は有機EL表示装置などである。補助記憶装置46は、プログラムやデータを格納する大容量の記憶装置であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)、又はSSD(Solid State Drive)などである。
【0030】
通信インターフェース21は、有線及び無線により外部装置との間でデータの送受信を行う。
【0031】
[1-2] 動作
次に、上記のように構成された気象観測システム1の動作について説明する。
【0032】
データ解析部24は、周期毎に連続して気象状況を解析する。1周期とは、気象レーダ10を中心としたレーダ覆域を1周(方位角360度)観測する期間である。1周期の観測データは、3次元データである。解析データ格納部26は、データ解析部24による解析結果としての解析データを、月単位、又は年単位などの長期間にわたって格納する。
【0033】
クラッター検出装置30は、解析データ格納部26に格納された解析データを用いて、風車クラッター検出動作を行う。
【0034】
図4は、クラッター検出装置30による風車クラッター検出動作の全体的な流れを説明するフローチャートである。
【0035】
解析データ取得部31は、解析データ格納部26に格納された所定期間分の解析データ(観測データともいう)を順次取得する(ステップS100)。ステップS100の所定期間は、週単位、月単位、又は年単位であり、例えば、1週間、1ヶ月、6ヶ月、又は1年などである。当該所定期間は、適宜設定可能である。
【0036】
続いて、快晴データ判別部32は、解析データ取得部31が取得した観測データに基づいて、快晴時の観測データ(快晴データともいう)を判別する(ステップS101)。快晴データ判別部32により判別された快晴データは、風車クラッター判別部33に順次送られる。
【0037】
続いて、風車クラッター判別部33は、複数の快晴データに基づいて、風車クラッターの位置を判別する(ステップS102)。風車クラッターの位置は、風車の位置と同意である。
【0038】
続いて、風車クラッター判別部33は、風車クラッターの位置情報を含む風車クラッター判別結果を、データ解析部24に送信する(ステップS103)。データ解析部24は、受信した風車クラッター判別結果を用いて、風車クラッター位置を風車クラッターマップに登録する。
【0039】
[1-2-1] 快晴データ判別動作
降雨時に観測される降水エコーは、ドップラー速度が時変動する。この特徴は、風車クラッターの特徴に類似している。降雨時の観測データを用いて、風車クラッター検出を行うと、降水エコーのある地点を風車クラッターと誤判定する可能性がある。本実施形態では、風車クラッター検出に用いる観測データは、快晴時(降水エコー無し)の観測データとする。快晴データ判別部32は、解析データ格納部26から取得された観測データのうち快晴時と判別された観測データを、後段の風車クラッター判別部33に渡す役割を担う。
【0040】
図5は、快晴データ判別部32による快晴データ判別動作を説明するフローチャートである。図5の処理は、図4のステップS101の処理に対応する。
【0041】
解析データ取得部31により取得された観測データは、複数のエコーごとの受信電力データを含む。
【0042】
快晴データ判別部32は、例えばレーダ覆域に対応する1周期分の複数のエコー情報を、解析データ取得部31から受ける(ステップS200)。エコー情報は、エコーの受信電力データを含む。
【0043】
続いて、快晴データ判別部32は、1周期分のエコー情報に基づいて、閾値T1以上の受信電力を有するエコー数を計測する(ステップS201)。閾値T1は、風車クラッターの受信電力の統計値に基づいて設定され、風車クラッターの受信電力より低く設定される。また、閾値T1は、雨雲によるエコーの受信電力より低く設定される。すなわち、閾値T1以上の受信電力を有するエコーは、風車クラッター、及び雨雲によるエコーを含む。
【0044】
続いて、快晴データ判別部32は、エコー数が閾値E1以上かつ閾値E2以下である観測データを快晴時観測データ(快晴データという)と判別する(ステップS202)。
【0045】
図6は、快晴データ判別動作におけるエコー数と発生頻度との関係の一例を示すグラフである。図6の曲線は、複数のヒストグラムの頂点を結んで得られる。簡略化のため、複数のヒストグラムについては図示を省略する。度数分布に関する他の図についても同様である。
【0046】
快晴データ判別部32は、エコー数が閾値E1未満の観測データを、異常データと判定する。閾値E1は、エコーが極端に少なく、気象解析に用いられないデータを判別可能な値に設定される。
【0047】
図7は、快晴時観測データを説明する模式図である。図7の外周は、気象レーダ10のレーダ覆域を示している。快晴時は、雨雲等によるエコーがないため、エコーが相対的に少ない。快晴時は、閾値T1以上の受信電力を有するクラッターが観測される。図7の場合、快晴、すなわち雨が降っていないと判定される。快晴データ判別部32は、エコー数が閾値E1以上かつ閾値E2以下である観測データを、快晴データと判定する。
【0048】
図8は、降水時観測データを説明する模式図である。図8に示したドットハッチングの領域は、雨雲を表している。降水時は、雨雲等によるエコーが相対的に多い。図8の場合、雨が降っていると判定される。
【0049】
快晴データ判別部32は、エコー数が閾値E2より多い観測データを、降水時観測データ(降雨データともいう)と判定する。閾値E2は、雨雲があることを判別可能な値に設定される。
【0050】
続いて、快晴データ判別部32は、ステップS201で判定された快晴データを出力する(ステップS203)。その後、快晴データ判別部32は、複数周期に亘って上記動作を繰り返す。
【0051】
なお、快晴データ判別部32の処理単位は、レーダ覆域に対応する1周期に限らず、1周期を分割した一部の期間であってもよい。
【0052】
[1-2-2] 風車クラッター判別動作
図9は、風車クラッター判別部33による風車クラッター判別動作を説明するフローチャートである。図9の処理は、図4のステップS102の処理に対応する。
【0053】
風車クラッター判別部33は、快晴データ判別部32から複数の快晴データを受ける(ステップS300)。風車クラッター判別部33は、観測対象のレンジビンごとに、所定期間にわたって複数の時刻の快晴データを収集する。
【0054】
図10は、レーダ覆域におけるセクタ及びレンジビンを説明する図である。図10は、レーダ覆域を示しており、Nが北、Eが東である。気象解析装置20は、気象レーダ10を中心にした360度のレーダ覆域における受信信号を処理する。セクタとは、方位角方向の処理単位であり、レーダ覆域を方位角方向に複数に分割した処理単位である。レンジビンとは、受信信号をレンジ方向(距離方向)に所定の時間(すなわち、所定の距離)ごとにサンプリングしたデータの単位であり、レーダ覆域を距離方向に受信信号のサンプリング周期に相当する間隔で区切ったときの単位セルである。セクタ及びレンジビンのサイズは、任意に設定可能である。
【0055】
続いて、風車クラッター判別部33は、レンジビンごとに、複数の周期に対応する複数の快晴データ(クラッターの情報を含む)を用いて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出する(ステップS301)。ドップラー速度は、観測対象物の移動方向および移動速度を表すパラメータであり、気象レーダ10が電波を送信した際の送信周波数と、電波を受信した際の受信周波数との差に基づいて算出される。風車クラッター判別部33が受ける観測データには、エコーのドップラー速度情報が含まれる。風車クラッター判別部33が受ける観測データにドップラー速度情報が含まれていない場合は、風車クラッター判別部33は、エコーのドップラー速度を算出する。
【0056】
続いて、風車クラッター判別部33は、ステップS301で算出した統計値の分散を算出する(ステップS302)。分散とは、標準偏差の平方であり、ある1つの群の数値データにおいて、平均値と個々のデータとの差の2乗の平均である。処理を簡略化するために、分散は、対象データのうち一部をサンプリングして算出してもよい。
【0057】
続いて、風車クラッター判別部33は、ステップS302で算出した分散が閾値T2以上であるか否かを判定する(ステップS303)。
【0058】
続いて、風車クラッター判別部33は、分散が閾値T2以上であるレンジビンを、風車クラッターの位置(風車クラッター位置という)と判定する(ステップS304)。また、風車クラッター判別部33は、分散が閾値T2より小さいレンジビンを、風車以外のクラッターの位置と判定する。ここでいう位置とは、エコーの発生位置である。
【0059】
図11は、速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。図11の横軸がクラッターのドップラー速度、縦軸が発生頻度である。速度成分とは、目標の移動速度である。
【0060】
図11は、風車クラッターの統計値に対応する。風車クラッターは、風車の回転に起因するドップラー速度を有する。風車クラッターは、ドップラー速度の分散が相対的に大きい。
【0061】
図12は、速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。図12は、建造物などで反射されたクラッターの統計値に対応する。速度成分を持たないクラッターは、ドップラー速度が0(m/s)付近に発生頻度のピークを有し、ドップラー速度の分散が相対的に小さい。
【0062】
本実施形態では、図11図12との分散を判別できる閾値T2を設定する。これにより、分散と閾値T2とを比較することで、風車クラッターを判別できる。
【0063】
続いて、風車クラッター判別部33は、風車クラッター判別結果を生成する(ステップS305)。風車クラッター判別結果は、風車クラッター位置情報と、風車以外のクラッターの位置情報とを含む。
【0064】
その後、風車クラッター判別部33は、風車クラッター判別結果を気象解析装置20に送信する。
【0065】
気象解析装置20のデータ解析部24は、風車クラッター判別部33から送信された風車クラッター判別結果に基づいて、風車クラッターマップ格納部25に格納された風車クラッターマップを更新する。
【0066】
図13は、風車クラッターマップの一例を説明する図である。図13の外周は、気象レーダ10のレーダ覆域を示している。風車クラッターマップには、風車クラッター位置(図の風車クラッター)と、風車以外の建造物などの位置(図の風車以外のクラッター)とが登録される。
【0067】
データ解析部24は、風車クラッターマップを用いて、風車クラッターを除去する。そして、データ解析部24は、風車クラッターが除去された観測データを用いて、気象状況を解析する。これにより、より精度よく気象状況を解析することができる。
【0068】
[1-3] 第1実施形態の効果
第1実施形態では、快晴データ判別部32は、気象状況に関する複数の観測データから、快晴時の観測データを判別する。風車クラッター判別部33は、快晴時の観測データを用いて、ドップラー速度に関するクラッターの統計値を算出する。風車クラッター判別部33は、統計値の分散に基づいて、風車によるエコーである風車クラッターを判別するようにしている。
【0069】
従って第1実施形態によれば、レーダ覆域内の風車クラッター位置を自動的に検出できる。これにより、風車クラッター位置を特定するための作業及び労力を削減できる。
【0070】
また、常時観測している気象レーダ10の観測データを用いて、風車クラッター位置を検出できる。これにより、地図が更新されるのを待たずに、新設の風車の位置を特定することができる。また、地図を用いずに、新設の風車の位置を風車クラッターマップに登録することができる。
【0071】
また、気象状況を解析する際に、より正確な風車クラッター位置情報を用いて風車クラッターを除去することができる。これにより、気象状況をより正確に解析することができる。
【0072】
[2] 第2実施形態
第2実施形態は、風車クラッター判別動作の変形例である。第2実施形態は、クラッターの受信電力を用いて、分散を算出するようにしている。
【0073】
風車クラッター判別部33は、レンジビンごとに、複数の周期に対応する複数の快晴データを用いて、受信電力に関するクラッターの統計値を算出する。風車クラッター判別部33が受ける観測データには、エコーの受信電力情報が含まれる。
【0074】
続いて、風車クラッター判別部33は、分散が閾値T2以上であるレンジビンを、風車クラッター位置と判定する。
【0075】
図14は、速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。図14の横軸がクラッターの受信電力、縦軸が発生頻度である。
【0076】
図14は、風車クラッターの統計値に対応する。風車クラッターは、風車の回転に起因して受信電力が変動する。すなわち、風車クラッターは、受信電力の分散が相対的に大きい。
【0077】
図15は、速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。図15は、建造物などで反射されたクラッターの統計値に対応する。速度成分を持たないクラッターは、受信電力の分散が相対的に小さい。
【0078】
本実施形態では、図14図15との分散を判別できる閾値T2を設定する。これにより、分散と閾値T2とを比較することで、風車クラッターを判別できる。
【0079】
その他の動作は、第1実施形態と同じである。第2実施形態においても、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0080】
なお、第2実施形態は、第1実施形態と併用してもよい。
【0081】
[3] 第3実施形態
第3実施形態は、風車クラッター判別動作の他の変形例である。第3実施形態は、クラッターのレーダ反射因子を用いて、分散を算出するようにしている。
【0082】
風車クラッター判別部33は、レンジビンごとに、複数の周期に対応する複数の快晴データを用いて、レーダ反射因子に関するクラッターの統計値を算出する。風車クラッター判別部33が受ける観測データには、エコーのレーダ反射因子情報が含まれる。観測データにレーダ反射因子情報が含まれていない場合、風車クラッター判別部33は、エコーのレーダ反射因子を算出する。
【0083】
レーダ反射因子は、電波を反射する粒子の粒径に応じて変動するパラメータである。降雨強度R(mm/h)とすると、レーダ反射因子Z(mm/m)は、以下に式で表される。
Z=a×R
a、bは定数である。
【0084】
続いて、風車クラッター判別部33は、分散が閾値T2以上であるレンジビンを、風車クラッター位置と判定する。
【0085】
図16は、速度成分を持つクラッターの統計値を説明するグラフである。図16の横軸がクラッターのレーダ反射因子、縦軸が発生頻度である。
【0086】
図16は、風車クラッターの統計値に対応する。風車クラッターは、風車の回転に起因してレーダ反射因子が変動する。すなわち、風車クラッターは、レーダ反射因子の分散が相対的に大きい。
【0087】
図17は、速度成分を持たないクラッターの統計値を説明するグラフである。図17は、建造物などで反射されたクラッターの統計値に対応する。速度成分を持たないクラッターは、レーダ反射因子の分散が相対的に小さい。
【0088】
本実施形態では、図16図17との分散を判別できる閾値T2を設定する。これにより、分散と閾値T2とを比較することで、風車クラッターを判別できる。
【0089】
その他の動作は、第1実施形態と同じである。第3実施形態においても、第1実施形態と同じ効果を得ることができる。
【0090】
なお、第3実施形態は、第1実施形態と併用してもよい。
【0091】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
1…気象観測システム、10…気象レーダ、11…アンテナ部、12…レーダ信号処理部、20…気象解析装置、21…通信インターフェース、22…RAWデータ処理部、23…RAWデータ格納部、24…データ解析部、25…風車クラッターマップ格納部、26…解析データ格納部、30…クラッター検出装置、31…解析データ取得部、32…快晴データ判別部、33…風車クラッター判別部、40…プロセッサ、41…ROM、42…RAM、43…入出力インターフェース、44…入力装置、45…表示装置、46…補助記憶装置、47…バス。
図1
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