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  • 特開-酸性溶液の精製方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059066
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】酸性溶液の精製方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/42 20230101AFI20230419BHJP
   B01J 49/60 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 41/07 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 49/50 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 49/16 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 49/18 20170101ALI20230419BHJP
   B01J 45/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C02F1/42 B
B01J49/60
B01J39/05
B01J39/07
B01J41/05
B01J41/07
B01J49/50
B01J49/16
B01J49/18
B01J45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168956
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
【テーマコード(参考)】
4D025
【Fターム(参考)】
4D025AA10
4D025AB18
4D025AB19
4D025AB20
4D025AB22
4D025BA09
4D025BA10
4D025BA14
4D025BA15
4D025BA22
4D025BB03
4D025BB04
(57)【要約】
【課題】不純物濃度が一層低減された酸性溶液を提供し得る精製方法を提供すること。
【解決手段】精製対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより得られる精製イオン交換樹脂であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下である精製イオン交換樹脂を使用する、酸性溶液の精製方法。好ましくは前記鉱酸溶液におけるナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であり、前記イオン交換樹脂は、粒径が100μm以上400μm以下であるスチレン型強酸性イオン交換樹脂を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を使用する酸性溶液の精製方法であって、
前記イオン交換樹脂は、精製対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより得られる精製イオン交換樹脂であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下であることを特徴とする酸性溶液の精製方法。
【請求項2】
前記鉱酸溶液におけるナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸性溶液の精製方法。
【請求項3】
前記イオン交換樹脂は、スチレン型強酸性イオン交換樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の酸性溶液の精製方法。
【請求項4】
前記スチレン型強酸性イオン交換樹脂の調和平均径が、100μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の酸性溶液の精製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の精製方法を用いて酸溶液を精製した後のイオン交換樹脂を、鉱酸溶液に接触させた後、洗浄水のTOCが30ppb以下に達するまで水洗浄を実施することを特徴とする酸性溶液精製用イオン交換樹脂の再生方法。
【請求項6】
前記イオン交換樹脂として、請求項5に記載の再生方法により再生した再生イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸性溶液の精製方法。
【請求項7】
対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより精製カチオン交換樹脂を得るイオン交換樹脂精製手段であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下である、イオン交換樹脂精製手段と、
前記精製イオン交換樹脂を用いて酸性溶液を精製する、酸性溶液精製手段と、
を備えることを特徴とする酸性溶液精製装置。
【請求項8】
酸性溶液の精製後のイオン交換樹脂の再生手段を有する、請求項7に記載の酸溶液精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性溶液の精製方法に関し、詳細には、イオン交換樹脂を用いた酸性溶液中の金属不純物を低減する精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程において、様々な工程でそれぞれ適した薬液が使用されるが、一様に低い不純物濃度が要求されている。
無機酸、有機酸のような酸性溶液も、半導体製造工程で使用される薬液であり、低い不純物濃度が要求される。
酸性溶液の精製方法としては、近年、設備費用負担が小さく、省エネルギーで、不純物を高度に精製除去し得るイオン交換樹脂やイオン交換フィルタ等を用いたイオン交換法による精製方法が報告されている。
【0003】
例えば、アニオン交換樹脂、カチオン交換樹脂を用いた酸溶液の精製に関して様々な先行技術が存在する。キレート樹脂も酸性溶液の精製、特に有価物回収に使用されるのは一般的であり、多くの文献が存在する。
酸性溶液の精製では、無機酸、有機酸、あるいは有機溶媒と有機酸の混合溶液からの金属除去についての文献が存在する。
無機酸の精製では、特に塩酸中では様々な金属が塩化物錯体として存在し、アニオン樹脂で除去できることが知られている(例えば特許文献1、2及び非特許文献1参照)。例えば、特許文献1では金属錯体を含む粗塩酸の精製に微粒子フィルタ、陰イオン交換樹脂及び陽イオン交換樹脂を用いている。またリン酸中の金属除去方法についての報告も存在する(例えば特許文献3参照)。
有機酸の精製についても、アニオン樹脂を使って金属不純物が除去できることが過去の文献で報告されており、精製対象となる有機酸形で使用する場合や(例えば、特許文献4参照)、Cl形で使用する場合(例えば、特許文献5)などが報告されている。
特許文献6では、有機酸と有機溶媒の混合物から、金属不純物を、非金属形の樹脂(H形、OH形)を用いて低減している。
また有機酸の製造時において、イオン交換樹脂による処理を行う場合がある。例えば特許文献7は、微生物による発酵法で得られる粗有機酸塩溶液を、イオン交換膜による電気透析、キレート樹脂処理、イオン交換膜による水分解電気透析で処理することにより、有機酸を製造する方法について報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-1955号公報
【特許文献2】特許4523321号公報
【特許文献3】特開2016-22477号公報
【特許文献4】特許4534591号公報
【特許文献5】特開昭61-274789号公報
【特許文献6】特許6772132号公報
【特許文献7】特許3965220号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ダイヤイオン:DIAION イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル[II],(株)三菱化成工業,P95-97,第87-89図
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子機器の小型化による高集積化に伴い、半導体製造工程で使用される酸性溶液の不純物もさらに低減することが望まれている。
したがって、本発明の目的は、不純物濃度が一層低減された酸性溶液を提供し得る精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
イオン交換樹脂による精製対象である酸性溶液は、イオン交換樹脂から金属不純物を溶出させやすいという、中性溶液中では起こらない酸溶液中特有の課題が存在する。
そこで、本発明者は、酸性溶液精製時におけるイオン交換樹脂からの金属不純物の溶出を低減する方法を見出し、金属不純物の溶出が低減されたイオン交換樹脂を用いることにより、上記目的を達成した。
具体的には、上記目的は、下記[1]ないし[8]により達成される。
[1] イオン交換樹脂を使用する酸性溶液の精製方法であって、
前記イオン交換樹脂は、精製対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより得られる精製イオン交換樹脂であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下であることを特徴とする酸性溶液の精製方法。
[2] 前記鉱酸溶液におけるナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることを特徴とする前記[1]に記載の酸溶液の精製方法。
[3] 前記イオン交換樹脂は、スチレン型強酸性イオン交換樹脂を含むことを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の酸溶液の精製方法。
[4] 前記スチレン型強酸性イオン交換樹脂の粒径が、100μm以上400μm以下であることを特徴とする前記[1]~[3]のいずれか1つに記載の酸溶液の精製方法。
[5] 前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の精製方法を用いて酸溶液を精製した後のイオン交換樹脂を、鉱酸溶液に接触させた後、洗浄水のTOCが30ppb以下に達するまで水洗浄を実施することを特徴とする酸溶液精製用イオン交換樹脂の再生方法。
[6] 前記イオン交換樹脂として、前記[5]に記載の再生方法により再生した再生イオン交換樹脂を用いることを特徴とする、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の酸性溶液の精製方法。
[7] 対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより精製カチオン交換樹脂を得るイオン交換樹脂精製手段であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下である、イオン交換樹脂精製手段と、
前記精製イオン交換樹脂を用いて酸性溶液を精製する、酸性溶液精製手段と、
を備えることを特徴とする酸性溶液精製装置。
[8] 酸性溶液の精製後のイオン交換樹脂の再生機能を有する、前記[7]に記載の酸溶液精製装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不純物濃度が一層低減された酸性溶液を提供し得る精製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、再生前と再生後のクエン酸精製試験におけるクエン酸溶液中の金属不純物の除去率の差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について以下詳細に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されない。
【0011】
<酸性溶液の精製方法>
本発明の酸性溶液の精製方法では、予め、特定の鉱酸溶液を接触させて精製したイオン交換樹脂を使用して酸性溶液を精製する。
精製の対象となる酸性溶液は、有機酸、あるいは無機酸(鉱酸)のいずれも対象とすることができる。
有機酸としては、例えば、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、ギ酸などが挙げられる。
鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。
【0012】
本発明者は、酸性溶液精製時におけるイオン交換樹脂からの金属不純物の溶出を低減するために、酸性溶液の精製に使用する前のイオン交換樹脂(以下、「精製対象のイオン交換樹脂」ともいう)を鉱酸溶液に接触させて精製することを検討したが、接触させる鉱酸溶液自体に金属不純物が含まれていると、イオン交換樹脂内の金属不純物を低減させることができないばかりか、逆にイオン交換樹脂に鉱酸水溶液中の金属不純物を吸着させ増大させてしまう場合がある。それにより、鉱酸溶液接触後のイオン交換樹脂を酸性溶液の精製に使用することによって、かえって被酸性溶液中に多量の金属物質等を溶出させてしまうことが予想される。特に、金属の中でもナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)は、他の金属と比較してイオン交換樹脂内での含有量が多く、鉱酸溶液の接触によっても含有量の低減が困難であることがわかっている。
そこで、精製対象のイオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させることによって、得られる精製イオン交換樹脂に濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量を、5g/mL-R以下とし、かかるイオン交換樹脂を酸性溶液の精製に用いることにより、酸性溶液精製時におけるイオン交換樹脂からの金属不純物の溶出が低減され、不純物濃度が一層低減された酸性溶液の提供が可能となる。
【0013】
精製対象のイオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂のいずれを用いてもよく、またカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を組み合わせて用いてもよい。
カチオン樹脂としては、強酸性カチオン交換樹脂(SAC)、弱酸性カチオン交換樹脂(WAC)、およびキレート樹脂等が挙げられる。
【0014】
強酸性カチオン交換樹脂としては、スルホン酸基等の官能基を有するもの、例えば、アンバーライト(登録商標)IR124(官能基:スルホン酸基)(デュポン社製)、アンバーライト(登録商標)200CT(官能基:スルホン酸基)(デュポン社製)、アンバーライトIRN97H(官能基:スルホン酸基)(デュポン社製)、オルライト(登録商標)DS-1(商品名、オルガノ(株)製)(官能基:スルホン酸基)、オルライト(登録商標)DS-4(商品名、オルガノ(株)製)(官能基:スルホン酸基)等を用いることができる。
【0015】
弱酸性カチオン交換樹脂としては、カルボキシル基等の官能基を有するもの、例えば、アンバーライト(登録商標)IRC76(官能基.カルボン酸基)(デュポン社製)、アンバーライト(登録商標)FPC3500(官能基.カルボン酸基)(デュポン社製)等を用いることができる。
【0016】
キレート樹脂は、金属イオンとキレート(錯体)を形成することができる官能基を有する樹脂である。この官能基としては、金属イオンとキレート(錯体)を形成することができる官能基であればよく、特に制限はないが、例えば、アミノメチルリン酸基、イミノ二酢酸基、チオール基、ポリアミン基等が挙げられる。キレート樹脂としては、複数の金属種に対する選択性等の観点から、アミノメチルリン酸基またはイミノ二酢酸基をキレート基として有していてもよい。
【0017】
キレート樹脂としては、例えば、アンバーセップ(登録商標)IRC747UPS(キレート基:アミノメチルリン酸基)、アンバーセップ(登録商標)1RC748(キレート基:イミノ二酢酸基)(いずれもデュポン社製)等を用いることができる。その他、H形キレート樹脂として、オルライト(登録商標)DS-21(商品名、オルガノ(株)製)(キレート基:アミノメチルリン酸基)、オルライト(登録商標) DS-22(商品名、オルガノ(株)製)(キレート基:イミノ二酢酸基)を用いてもよい。
【0018】
アンバーセップ(登録商標)IRC747UPS、アンバーセップ(登録商標)IRC748のイオン形はNa形が基準であるが、上記の方法で鉱酸溶液を接触させることにより、イオン形はNa形からH形に変換される。
【0019】
アニオン交換樹脂としては、強塩基性アニオン交換樹脂(SBA)であっても、弱塩基性アニオン交換樹脂(WBA)であってもよく、弱塩基性アニオン交換樹脂は、ホウ素選択性アニオン交換樹脂であってもよい。
強塩基性アニオン交換樹脂としては、オルライト(登録商標)DS-2(商品名、オルガノ(株)製)、オルライト(登録商標)DS-5(商品名、オルガノ(株)製)等が挙げられる。
また、弱塩基性アニオン交換樹脂としては、オルライト(登録商標)DS-62(商品名、オルガノ(株)製)のほか、グルカミン基を官能基に持つホウ素選択性アニオン交換樹脂である、アンバーライト(登録商標)IRA743(デュポン社製)が挙げられる。
なお、アニオン交換樹脂は、OH形のアニオン交換樹脂でも、酸形のアニオン交換樹脂でもよいが、精製対象と同じ酸形が好ましく用いられる。
【0020】
酸性溶液の精製において、イオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂を組み合わせて使用してもよく、そのような組み合わせとしては、アニオン交換樹脂-カチオン交換樹脂の順の組み合わせ、カチオン交換樹脂-アニオン交換樹脂の順の組み合わせ、カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂-カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混床の順の組み合わせ、カチオン交換樹脂及びアニオン交換樹脂の混床-カチオン交換樹脂又はアニオン交換樹脂の順の組み合わせが挙げられる。
アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混床で用いてもよいし、アニオン交換樹脂→ カチオン交換樹脂の順に処理してもよい。酸性溶液中でイオン交換しやすいアニオン交換樹脂を用いて先にアニオン成分を除去した後、カチオン交換樹脂を用いてカチオン成分を除去することが効果的である。両性イオンが存在すれば、先にアニオン交換樹脂で低減した方が、後段のカチオン交換樹脂への負荷が減る。また、カチオン交換樹脂は、カチオン交換基が金属不純物を捕捉するため、ポリッシャーとして後段に配置してもよい。カチオン交換樹脂の代わりにキレート樹脂を用いてもよいし、アニオン交換樹脂の後段にカチオン交換樹脂とキレート樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
またアニオン樹脂を用いず、強酸性カチオン交換樹脂、弱酸性カチオン交換樹脂、およびキレート樹脂のうち、2種以上を組み合わせ使用してもよい。
なおイオン交換樹脂には、酸性溶液の精製に使用後、後述する再生処理を実施された再生イオン交換樹脂も含まれる。
カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂の母体は、例えば、スチレン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0021】
これらのイオン交換樹脂の中では、多くの金属不純物がカチオン性であることから、強酸性イオン交換樹脂を用いることが好ましく、特に母体の強度が高さや清浄度の点から、スチレン型強酸性イオン交換樹脂を用いることより好ましい。
強酸性イオン交換樹脂は、事前にH形に調製したものを用いると、カチオン性不純物とイオン交換基のH+が交換されることで不純物を低減することができるが、H+の増加は酸溶液の組成に与える影響が小さいため好ましい。
なお、酸性溶液が有機酸であり、イオン交換樹脂として、アニオン交換樹脂を用いる場合は、アクリル系アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。
有機酸中ではアニオン交換樹脂のイオン形が酸形および金属イオン形に変換されるため、イオン形の変換による膨潤収縮が起こり、通液と再生を繰り返すと樹脂が破砕する場合がある。膨潤収縮に強く、柔軟性がある母体であり、例えばOH形から有機酸形へ膨潤しても破砕が少ない等の点から、アニオン交換樹脂は膨潤収縮に強いアクリル樹脂を含んで構成されていてもよい。また、膨潤収縮が大きいアクリル系アニオン交換樹脂を用いることによって、圧力変動を検知しやすい。
【0022】
イオン交換樹脂は、調和平均径が100μm以上400μm以下であるものを使用することが好ましい。粒径がこの範囲にあると、表面積が大きく不純物イオンが官能基へ近づきやすくなり、金属除去性が良くなるため好ましい。また後述するイオン交換樹脂の再生においても、表面積が大きく再生薬液が官能基へ近づきやすいため、再生されやすくなることから好ましい。
なお、本発明において、イオン交換樹脂の平均粒径は、レーザー回析式粒度分布計を用い測定される調和平均径を指す。
【0023】
またイオン交換樹脂は、平均粒径が前記の範囲にあることに加えて、架橋度(ジビニルベンゼン含有量)が2%以上13%以下であるものを使用することが好ましい。架橋度がこの範囲にあると、樹脂内部の拡散性が増し、さらに金属除去性やイオン交換樹脂の再生されやすさが増すことから好ましい。
【0024】
以上の点から、イオン交換樹脂としては、事前にH形に調製した強酸性カチオン樹脂であって、樹脂母体がスチレンであり、平均粒径100μm以上400μm以下であり、かつ架橋度(ジビニルベンゼン含有量)が2%以上13%以下である強酸性カチオン交換樹脂を用いることがより一層好ましい。
【0025】
イオン交換樹脂の精製に用いられる鉱酸溶液は、無機酸の溶液である。鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。溶液を構成する溶媒としては、例えは、純水(比抵抗:約10MQ・cm)、超純水(比抵抗:約18MQ・cm)等の水である。
【0026】
イオン交換樹脂の精製で使用される鉱酸溶液中の含有金属不純物量は、1mg/L以下であり、少なければ少ないほどよく、0.5mg/L以下であってもよく、0.2mg/L以下であってもよい。鉱酸溶液中の含有金属不純物量が1mg/Lを超える場合は、充分なイオン交換樹脂内の金属不純物量低減効果を得ることができない。
【0027】
鉱酸溶液の鉱酸濃度は、5重量%以上であり、10重量%以上であってもよい。鉱酸溶液の鉱酸の濃度が5重量%未満の場合は、充分なイオン交換樹脂内の金属不純物量低減効果を得ることができない。鉱酸溶液の鉱酸の濃度の上限は、例えば、37重量%である。
【0028】
ここで金属不純物とは金属の他に金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして例えばナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)等が挙げられる。
【0029】
イオン交換樹脂の精製で使用される鉱酸溶液におけるナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)の各含有量は、少なければ少ないほどよく、それぞれ200μg/L以下であってもよく、それぞれ100μg/L以下であってもよい。
これらの金属不純物含有量が少ない鉱酸溶液をカチオン交換樹脂に接触させることにより、確実かつ効果的にイオン交換樹脂内のナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、および鉄(Fe)等の金属不純物の含有量を低減させることができる。
【0030】
イオン交換樹脂の精製においてイオン交換樹脂と接触させる鉱酸溶液の温度は、例えば、0~40℃の範囲である。
【0031】
イオン交換樹脂の精製によって得られる精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量を、5μg/mL-R以下とすることができる。全金属不純物溶出量は、少なければ少ないほどよく、1μg/mL-R以下であってもよい。この全金属不純物溶出量を5μg/mL-R以下とすることによって、このイオン交換樹脂を酸性溶液の精製に用いた場合のイオン交換樹脂から酸性溶液中のこれら金属不純物の溶出量を低減することができ、その結果、半導体製造工程に好適な、より一層不純物濃度が低減された酸性溶液を得ることができる。
【0032】
溶出する金属不純物は、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、または鉄(Fe)のうち少なくともいずれか1つの金属を含んでもよい。
【0033】
イオン交換樹脂の精製の後に、鉱酸溶液を接触させた精製イオン交換樹脂を純水、超純水等の洗浄水で洗浄する洗浄工程を含んでもよい。精製イオン交換樹脂を、鉱酸溶液に接触させた後に純水、超純水等の洗浄水で洗浄することによって、精製イオン交換樹脂から鉱酸溶液を除去する際に、金属不純物の再汚染等を抑制することができる。
【0034】
洗浄工程においてカチオン交換樹脂と接触させる洗浄水としては、純水、超純水等が挙げられ、精製後の汚染抑制等の点から、超純水であってもよい。
【0035】
洗浄工程においてカチオン交換樹脂と接触させる洗浄水の温度は、例えば、1~80℃であり、15~30℃が好ましい。
【0036】
<イオン交換樹脂の再生>
本発明では、以上説明した工程により得られた精製イオン交換樹脂を使用して酸性溶液の精製を実施するものであるが、精製に使用したイオン交換樹脂、特にカチオン交換樹脂は、再生処理を実施した後、再び、精製対象のイオン交換樹脂として精製処理を行い、再び、酸性溶液の精製に利用することができる。
精製に使用したイオン交換樹脂の再生は、塩酸、硫酸等の鉱酸溶液を用いて再生処理し、鉱酸を水洗浄によって除去した後、再度対象酸溶液を精製することにより実施する。鉱酸濃度は1規定以上の濃度が好ましい。特に本発明のイオン交換樹脂は金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製しているため、再生する場合も同様の方法を用いて再生することが望ましい。酸濃度や酸通液量は再生された樹脂の金属含有量が濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量を元に適宜決めれば良い。
なお、イオン交換樹脂としてアニオン交換樹脂を使用した場合、酸性溶液の精製過程において、鉱酸形に変換されるので、必ずしも前記方法で再生する必要は無い。代わりに、1規定以上の濃度の塩化ナトリウム溶液や、水酸化ナトリウム溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液で再生しても良い。再生した後、処理対象となる酸または有機酸形に変換して使用しても良い。その場合に使用する前記酸または有機酸は、処理対象液よりも金属濃度が低いことが好ましい。
【0037】
有機酸精製に使用後のイオン交換樹脂を再生する場合は、再生後のイオン交換樹脂に有機酸が残留していないか確認するため、使用前に純水でイオン交換樹脂を洗浄し、洗浄水の全有機炭素(TOC)が予め設定した値を超過しないことを確認することで、再生の可否を判断できる。鉱酸と異なり、有機酸はTOCとして検出可能であるため、樹脂に残留した有機酸をTOCとして検出し樹脂の洗浄度の指標として品質管理に適用できる。
【0038】
本発明の精製方法では、微粒子除去膜を使用する工程を設けてもよい。例えば、精製過程の前段、即ち、イオン交換樹脂による精製を実施する前の工程で、微粒子除去膜を使用する工程を設けると、酸性溶液中に含まれる微粒子がイオン交換樹脂母体に吸着する等の汚染を抑制することができる。またイオン交換樹脂による精製後の工程で、微粒子除去膜を使用する工程を設けると、酸性溶液中の溶出金属不純物のみならず、不純物微粒子も低減することができる。また微粒子除去膜を使用する工程を、イオン交換樹脂による精製を実施する前及び後の工程に設けると、前記両方の効果を得ることができ、より一層高純度な酸性溶液を得ることができる。
【0039】
以上説明した本発明の精製方法は、対象のイオン交換樹脂に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することにより精製カチオン交換樹脂を得るイオン交換樹脂精製手段であって、前記精製イオン交換樹脂に、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量は、5μg/mL―R以下である、イオン交換樹脂精製手段と、
前記精製イオン交換樹脂を用いて酸性溶液を精製する、酸性溶液精製手段と、
を備えることを特徴とする酸性溶液精製装置、具体的には、
精製対象のイオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5重量%以上の鉱酸溶液を接触させて精製することによって精製イオン交換樹脂を得る精製手段として、イオン交換樹脂カラム(第1のカラム)を備え、この第1のカラムには、イオン交換樹脂を精製するための鉱酸を供給するための配管、精製処理後の廃液を排出するための配管が設けられている。
また酸性溶液精製装置は、さらにイオン交換樹脂精製手段により得られた精製イオン交換樹脂を精製対象の処理液を接触させて精製する酸性溶液精製手段として、イオン交換樹脂カラム(第2のカラム)を備え、この第2のカラムには、精製対象の酸性溶液を供給するための配管、精製処理後の酸性溶液を排出するための配管が設けられている。
酸性溶液精製装置は、精製処理後のイオン交換樹脂を再生するための再生手段が備えられてもよい。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが本発明は以下の実施例に限定されない。
【0041】
<イオン交換樹脂>
用いたイオン交換樹脂は以下のとおりである。
【表1】
試験番号1及び2:強酸性カチオン交換樹脂、粒径は、純水製造で使用される一般的な範囲
試験番号3:小粒径、かつ低架橋の強酸性カチオン樹脂
試験番号4:小粒径の強酸性カチオン樹脂
試験番号5:高架橋度の強カチオン樹脂、粒径は、純水製造で使用される一般的な範囲
試験番号6:キレート樹脂、粒径は、純水製造で使用される一般的な範囲
試験番号7:強塩基性アニオン交換樹脂、粒径は、純水製造で使用される一般的な範囲
試験番号8:試験番号4と同樹脂。ただし金属溶出量は5μg/mL―R以下を満たさない。
【0042】
<イオン交換樹脂の精製>
試験番号1~7のイオン交換樹脂は、塩酸を用いて精製し、濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量が、5μg/mL―R以下を満たすまで精製した。
試験番号8の樹脂は、塩酸を用いてH形に変換する処理を施しているが、前記の条件を満たさない(全金属不純物溶出量が、5μg/mL―R以上)。
【0043】
1.有機酸中の金属除去試験
以下の試験手順に従い、各種イオン交換樹脂の有機酸における金属除去性能を比較した。有機酸としては、クエン酸(99.9%、和光特級 500g,富士フイルム和光純薬社製)を用いた。
【0044】
<試験手順>
事前洗浄した高密度ポリエチレン(HDPE)製バッチ容器に各試験のイオン交換樹脂の水湿潤品を投入する。30%クエン酸を樹脂体積の5倍量バッチ容器へ移し、5分ごとに約10秒間容器を攪拌し、15分間浸漬する操作を2回繰り返し、イオン交換樹脂内の水分を有機酸と交換した。
その後、30%クエン酸を樹脂体積の10倍量バッチ容器へ移し、15分ごとに約10秒間容器を攪拌する操作を4回繰り返した。上澄み液を適宜希釈し、ICP-MSを用いて金属濃度を分析した。
【0045】
<結果>
イオン交換樹脂処理前のクエン酸溶液中の金属濃度に対する除去率を表2に示した。
強酸性カチオン交換樹脂にとして一般的な粒径(>400μm以上)と比べると、小粒径樹脂(<400μm)の方が、Mg、Caにおいて良好な除去率を示した。その他、Na、Al、Feに関しても50%以上の除去率を示した。ただしAsはいずれの強酸性カチオン樹脂でも除去できず、強塩基性アニオン樹脂で低減することができたため、アニオン形態で存在したと考えられる。
【0046】
2.再生後の金属除去性
塩酸による以下の再生方法による再生後の各種イオン交換樹脂について、前記1と同様の手順に従い、有機酸クエン酸(99.9%、和光特級 500g,富士フイルム和光純薬社製)における金属除去性能を比較した。なお、前記1の試験において、金属除去性能が好ましくなかったキレート樹脂と強アニオン樹脂は本試験から省いた。
【0047】
<再生方法>
バッチ試験を実施したイオン交換樹脂を超純水で十分洗浄した後、体積の5倍量の1mol/Lの塩酸に15分浸漬する操作を6回繰り返した。その後超純水で十分洗浄し、再生樹脂とした。
【0048】
<結果>
樹脂処理前のクエン酸溶液中の金属不純物の除去率を表3に示し、表2と表3の差を図1に棒グラフとしても示した。再生前後の除去率の差が大きいと、再生が不十分でバッチ試験2回目の金属除去性が低下していることを示す。
表2、3及び図1より、Na金属除去率の差を比較すると、小粒径樹脂である試験番号3、4のイオン交換樹脂は再生の影響をほとんど受けていないことが分かった。
またMg、Ca、Feの除去率も、小粒径樹脂である試験番号3、4のイオン交換樹脂は他のイオン交換樹脂よりも除去率の差が小さく、良好な結果を示した。小粒径樹脂同士を比較すると、Mg、Al、Caの除去率は低架橋である試験番号4のイオン交換樹脂の方が除去率の差が小さく、再生後もより安定した除去性能を示した。
よって小粒径樹脂は通常の粒径の樹脂よりも有機酸精製及び再生工程を伴う有機酸精製により適しており、特に低架橋の小粒径樹脂はより優れた性能を示すことが分かった。
【0049】
3.鉱酸からの金属除去試験
<試験手順>
事前洗浄したHDPE製バッチ容器に各試験のイオン交換樹脂の湿潤品を投入する。3.5%塩酸を樹脂体積の10倍量バッチ容器へ移し、15分ごとに約10秒間容器を攪拌する操作を4回繰り返した。上澄み液を適宜希釈し、ICP-MSを用いて金属濃度を分析した。
【0050】
<結果>
イオン交換樹脂処理前の塩酸溶液中の金属濃度に対する除去率を表5に示した。
濃度3重量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量を、5μg/mL―R以下に低減した試験番号1、4のイオン交換樹脂は、金属低減効果が確認できた。塩酸精製に関しては、あまり粒径や架橋度の差は見られなかったが、どちらのイオン交換樹脂も一定の低減効果が得られた。
しかし金属不純物溶出量が5μg/mL―R以下を満たさなかった試験番号8のイオン交換樹脂は、処理前よりも樹脂から溶出する金属で処理液中の金属濃度が上昇することが確認できた。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
図1