(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059088
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット
(51)【国際特許分類】
G21C 19/32 20060101AFI20230419BHJP
G21F 5/012 20060101ALI20230419BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
G21C19/32 040
G21F5/012
G21F9/36 501H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168994
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 崇
(72)【発明者】
【氏名】下条 純
(72)【発明者】
【氏名】萬谷 健一
(57)【要約】
【課題】使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの垂直落下時に中性子吸収板材が座屈するのを回避することが可能な使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケットを提供する。
【解決手段】使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクに収納されるバスケット本体2を有する。バスケット本体2は、板状部材が複数組み合わされることで格子状に形成された格子部材が、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの軸方向Bに複数積層されることで形成される。少なくとも一部の板状部材は、強度部材である剛板材11と、中性子吸収性能を有して剛板材11よりも線膨張係数が大きい中性子吸収板材12とが重ね合わされて構成される。軸方向Bにおいて、中性子吸収板材12の寸法は、剛板材11の寸法よりも小さい。バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接し、且つ、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが形成される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクに収納されるバスケット本体を有し、
前記バスケット本体は、板状部材が複数組み合わされることで格子状に形成された格子部材が、前記使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの軸方向に複数積層されることで形成され、
少なくとも一部の前記板状部材は、強度部材である剛板材と、中性子吸収性能を有して前記剛板材よりも線膨張係数が大きい中性子吸収板材とが重ね合わされて構成され、
前記軸方向において、前記中性子吸収板材の寸法は、前記剛板材の寸法よりも小さく、
前記バスケット本体の使用温度範囲の全域において、前記軸方向に隣り合う前記剛板材同士が当接し、且つ、前記軸方向に隣り合う前記中性子吸収板材同士の一部又は全ての間に隙間が形成されることを特徴とする使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット。
【請求項2】
前記バスケット本体の外縁側に配置されて、各板状部材がボルトで固定され、前記バスケット本体とともに前記使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクに収納されるサポート部材を有することを特徴とする請求項1に記載の使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット。
【請求項3】
前記板状部材の前記軸方向の両端面の各々には、前記板状部材同士を組み合わせた際に互いに嵌合し合う凹部が複数形成されており、
複数の前記板状部材が組み合わされた際に、互いに嵌合し合う前記凹部同士の間に形成される隙間は、複数の前記格子部材が積層された際に、前記軸方向に隣り合う前記中性子吸収板材同士の間に形成される隙間よりも広いことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット。
【請求項4】
前記軸方向における前記使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの両端部の側面には、トラニオンがそれぞれ取り付けられており、
前記バスケット本体の前記トラニオンに対向する部分における前記剛板材の板厚が、前記バスケット本体の他の部分における前記剛板材の板厚よりも厚いことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクに収納されるバスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、強度部材となる剛板材と、中性子吸収体となる中性子吸収板材とを横方向に重ね合わせることで、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスク(キャスク)に収納されるバスケットを構成する板材が構成されている。そして、上下方向(キャスクの軸方向)で中性子吸収板材の中性子吸収性能を異ならせることで、放射性物質における上下方向の中性子束の特性に合わせて合理的な中性子吸収性能を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、剛板材と中性子吸収板材とが、キャスクの軸方向に隙間なく積層されている。使用済燃料をキャスクに収納すると、バスケットの温度が上昇することで、剛板材と中性子吸収板材とはともに熱膨張する。一般的なバスケットの構成では、剛板材はステンレス鋼等の鉄鋼材料であり、中性子吸収板材はボロン添加アルミニウム合金等のアルミ材料である。ステンレス鋼よりもボロン添加アルミニウム合金の方が、線膨張係数が大きいため、剛板材と中性子吸収板材とがともに熱膨張すると、キャスクの軸方向に隣り合う剛板材同士の間に隙間が生じる。
【0005】
キャスクの代表的な輸送要件であるIAEA輸送規則では、9m落下事象(垂直落下等)における設計要件が定められている。また、貯蔵キャスクであってもキャスクのハンドリング中に垂直吊りする場合があり、垂直落下が生じる可能性がある。剛板材と中性子吸収板材とがともに熱膨張し、キャスクの軸方向に隣り合う剛板材同士の間に隙間が生じた状態で、キャスクが垂直落下した場合、バスケットに生じる衝撃力を、強度部材である剛板材ではなく、中性子吸収板材が受けることとなる。この場合、中性子吸収板材に座屈が生じる可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの垂直落下時に中性子吸収板材が座屈するのを回避することが可能な使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクに収納されるバスケット本体を有し、前記バスケット本体は、板状部材が複数組み合わされることで格子状に形成された格子部材が、前記使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの軸方向に複数積層されることで形成され、少なくとも一部の前記板状部材は、強度部材である剛板材と、中性子吸収性能を有して前記剛板材よりも線膨張係数が大きい中性子吸収板材とが重ね合わされて構成され、前記軸方向において、前記中性子吸収板材の寸法は、前記剛板材の寸法よりも小さく、前記バスケット本体の使用温度範囲の全域において、前記軸方向に隣り合う前記剛板材同士が当接し、且つ、前記軸方向に隣り合う前記中性子吸収板材同士の一部又は全ての間に隙間が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、バスケット本体の使用温度範囲の全域において、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの軸方向に隣り合う剛板材同士が当接し、且つ、軸方向に隣り合う中性子吸収板材同士の一部又は全ての間に隙間が形成される。使用済燃料をバスケット本体に収納すると、バスケット本体の温度が上昇することで、剛板材と中性子吸収板材とはともに熱膨張する。中性子吸収板材の線膨張係数は、剛板材の線膨張係数よりも大きいが、バスケット本体の使用温度範囲の全域において、軸方向に隣り合う中性子吸収板材同士の一部又は全ての間に隙間が生じているため、バスケット本体の使用温度範囲の全域において、軸方向に隣り合う剛板材同士が当接した状態が維持される。これにより、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクが垂直落下した際に、バスケット本体に生じる衝撃力を、強度部材である剛板材が受ける。よって、使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの垂直落下時に中性子吸収板材が座屈するのを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】バスケット本体を組み立てている状態を示す斜視図である。
【
図5】
図4をC方向から見た図であり、常温でのバスケット本体を示す図である。
【
図6】
図4をC方向から見た図であり、高温状態でのバスケット本体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
(使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクの構成)
本実施形態による使用済燃料輸送又は貯蔵キャスク(キャスク)は、使用済燃料の輸送および貯蔵に用いられるものである。キャスク100は、一部切欠斜視図である
図1に示すように、有底無蓋筒状の容器本体41と、蓋部42と、トラニオン55と、を有している。また、キャスク100は、その内部にバスケット1を収納している。バスケット1は、複数の格子で形成されて上部が開口しており、放射性物質である使用済燃料30を収納している。
【0012】
容器本体41は、本体胴47と、外筒45と、中性子遮蔽体46と、を有している。本体胴47は、有底筒形であって、バスケット1を収納する。本体胴47は、ガンマ線遮蔽機能と構造強度を確保するための炭素鋼、合金鋼あるいはステンレス鋼からなる。
【0013】
外筒45は、有底筒形であって、本体胴47の外側に空間を開けて設けられている。外筒45は、炭素鋼あるいはステンレス鋼からなる。
【0014】
中性子遮蔽体46は、本体胴47と外筒45との間の空間内に配置されている。中性子遮蔽体46は、樹脂やゴム等の材料を主としてなる。中性子遮蔽体46の間には、使用済燃料30の崩壊熱を除熱するべく、本体胴47から外筒45に伝熱するための銅からなる伝熱フィン51が設けられている。また、中性子遮蔽体46は、本体胴47の周方向に複数設けられており、隣り合う中性子遮蔽体46同士の間には、伝熱フィン51が設けられている。
【0015】
蓋部42は、容器本体41の上部開口を閉塞するように構成されている。蓋部42は、一次蓋43と、二次蓋44と、を有している。一次蓋43は、円盤状であり、本体胴47の上方に設けられた開口部に取り付けられている。一次蓋43は、炭素鋼、合金鋼あるいはステンレス鋼からなる。一次蓋43の外周部は、ガスケットを介してキャスク100の端面に圧着され、ボルト留めにて固定されている。
【0016】
二次蓋44は、円盤状であり、一次蓋43の外側に取り付けられている。キャスク100の縦断面図である
図2に示すように、二次蓋44は、炭素鋼、合金鋼あるいはステンレス鋼からなり、外部構造材44bと、中性子遮蔽材44cと、を有している。外部構造材44bは、炭素鋼あるいはステンレス鋼からなる。中性子遮蔽材44cは、外部構造材44bの内部に配置されている。中性子遮蔽材44cは、水素密度が高い樹脂やゴムなどの材料からなる。
【0017】
図1に戻って、二次蓋44の鏡板の外周には、フランジが取り付けられている。二次蓋44は、このフランジを介してキャスク100の端面に圧着される。そして、二次蓋44は、ボルト留めにて固定されて、シール構造として、キャスク100に取り付けられている。
【0018】
一次蓋43および二次蓋44の間には、密閉監視装置52が設けられている。密閉監視装置52は、1気圧よりも高い圧力がかかった状態で密閉されている一次蓋43と二次蓋44との間の圧力を長期間に渡る貯蔵期間中モニタリングする。そして、密閉監視装置52は、圧力低下を検出することにより、一次蓋43あるいは二次蓋44に何らかのリークが発生したことを警報で知らせる。
【0019】
図2に示すように、キャスク100の本体胴47の下方には、本体胴47と同一材質の円盤状の底板53が、本体胴47と一体となるように溶接固定して取り付けられる。底板53の外側には、中性子遮蔽材53aが底部レジンカバー54に覆われて取り付けられて、遮蔽層が形成されている。
【0020】
図1および
図2に示すように、トラニオン55は、外筒45の外周面に複数取り付けられている。トラニオン55は、キャスク100を把持するためのものである。トラニオン55は、移送用クレーンなどによりキャスク100を縦起こし、横倒し、吊り上げて移動し、あるいは、輸送時あるいは貯蔵時に固縛するために取り付けられている。トラニオン55は、本体胴47の上端部および下端部の側面にそれぞれ嵌め込まれている。本実施形態では、トラニオン55は、本体胴47の周方向に90°間隔でそれぞれ嵌め込まれている。なお、トラニオン55の設置箇所はこれに限らない。また、トラニオン55は、複数のボルトで締結されていてもよい。
【0021】
(バスケットの構成)
図2のA-A断面図である
図3に示すように、バスケット1は、容器本体41の本体胴47内に収納されている。バスケット1は、BWR燃料用のバスケットであり、バスケット本体2と、サポート部材3と、を有している。
【0022】
バスケット本体2を組み立てている状態を示す斜視図である
図4に示すように、バスケット本体2は、板状部材10が複数組み合わされることで格子状に形成された格子部材20が、キャスク100の軸方向Bに複数積層されることで形成されている。板状部材10が格子状に組まれることで、使用済燃料30を収納可能な収納部5が複数形成される。
【0023】
板状部材10の軸方向Bの両端面の各々には、板状部材10同士を組み合わせた際に互いに嵌合し合う凹部10aが複数形成されている。
【0024】
少なくとも一部の板状部材10は、剛板材11と中性子吸収板材12とが重ね合わされて構成されている。剛板材11は、強度部材であり、ステンレス鋼等の鉄鋼材料からなる。中性子吸収板材12は、中性子吸収性能を有するボロン添加アルミニウム合金等のアルミ材料からなる。中性子吸収板材12の線膨張係数は、剛板材11の線膨張係数よりも大きい。なお、剛板材11は、ステンレス鋼に限定されず、中性子吸収板材12は、ボロン添加アルミニウム合金に限定されない。
【0025】
本実施形態では、一部の板状部材10が、剛板材11と中性子吸収板材12とを重ね合わせることで構成されている。即ち、
図3に示すようにバスケット断面の最外周及び最外周から2列目の板状部材10は、剛板材11のみから構成されているが、それよりも中央部の板状部材10は、剛板材11と中性子吸収板材12とを重ね合わせることで構成されている。これは、キャスク体系の臨界防止のために必要な中性子吸収板材12が、バスケット断面の中央部で隣り合う燃料集合体が多い領域で設置されることで有効に機能するためである。また、トラニオン55に対向するバスケット本体2の両端部において、剛板材11は、トラニオン55に対向しないバスケット本体2の中央部よりも厚い部材で構成されていてもよい。その理由は、後述するように、トラニオン55に対向するバスケット本体2の両端部において、使用済燃料集合体の軸方向上下端部の構造材の放射化による比較的エネルギーの高いガンマ線が放出されるため、中性子遮蔽性能よりも、ガンマ線遮蔽性能の方が重要になるからである。
【0026】
図3に示すように、サポート部材3は、バスケット本体2の外周に配置されて、バスケット本体2とともに容器本体41の本体胴47内に収納される。サポート部材3は、バスケット本体2の一端から他端にわたる長さを有している。サポート部材3には、各板状部材10がボルトで固定される。
【0027】
図4をC方向から見た図である
図5に示すように、キャスク100の軸方向Bにおいて、中性子吸収板材12の寸法は、剛板材11の寸法よりも小さい。そのため、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士は当接する一方、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間には隙間aが形成されている。ここで、
図5は、常温でのバスケット本体2を図示しており、常温では、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間には、約1mmの隙間aが形成されている。なお、この隙間aの寸法は、バスケット本体2の温度、剛板材11と中性子吸収板材12の線膨張係数の差から生じる熱膨張量の差により適宜設定され、この寸法に限定されるものではない。
【0028】
なお、本実施形態では、
図5に示すように、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の全ての間に隙間aが形成されているが、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の一部の間に隙間aが形成されていてもよい。具体的には、軸方向Bに隣り合う2つの中性子吸収板材12同士の間に隙間aが形成されず、これら2つの中性子吸収板材12に軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12と、これら2つの中性子吸収板材12との間に隙間aが形成されるといったように、隙間aありと隙間aなしとが軸方向Bに交互に並んでいてもよい。
【0029】
使用済燃料30をバスケット本体2に収納すると、バスケット本体2の温度は200℃程度まで上昇する。高温状態(200℃程度)において、
図4をC方向から見た図を
図6に示す。高温状態において、剛板材11と中性子吸収板材12とはともに熱膨張する。中性子吸収板材12の線膨張係数は、剛板材11の線膨張係数よりも大きいので、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間の隙間aは1mmよりも小さくなるが、0mmよりは大きい。そのため、高温状態においても、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士は当接する一方、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間には隙間aが形成されている(図示略)。言い換えれば、高温状態においても、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが形成されるように、軸方向Bにおける中性子吸収板材12の寸法が設定されている。このように、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接し、且つ、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが形成される。
【0030】
キャスク100の代表的な輸送要件であるIAEA輸送規則では、9m落下事象(垂直落下等)における設計要件が定められている。キャスク100の垂直落下とは、キャスク100の中心軸が垂直になった姿勢でキャスク100が落下することを指す。特許文献1のように、剛板材11と中性子吸収板材12とが、キャスク100の軸方向Bに隙間なく積層されている場合、剛板材11と中性子吸収板材12とがともに熱膨張した際に、キャスク100の軸方向Bに隣り合う剛板材11同士の間に隙間が生じる。この状態で、キャスク100が垂直落下した場合、バスケット本体2に生じる衝撃力を、強度部材である剛板材11ではなく、中性子吸収板材12が受けることとなる。この場合、中性子吸収板材12に座屈が生じる可能性がある。
【0031】
これに対して、本実施形態では、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが生じているため、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接した状態が維持される。これにより、キャスク100が垂直落下した際に、バスケット本体2に生じる衝撃力を、強度部材である剛板材11が受ける。よって、キャスク100の垂直落下時に中性子吸収板材12が座屈するのを回避することができる。
【0032】
また、特許文献1のように、剛板材11と中性子吸収板材12とが、キャスク100の軸方向Bに隙間なく積層されている場合、熱膨張により中性子吸収板材12のボルト孔が軸方向にずれる。すると、ボルト孔の端部がボルトに干渉し、ボルトを変形または破損させる可能性がある。または、ボルト孔が変形し、中性子吸収板材12が損傷する可能性がある。これらの場合、バスケット本体2の剛性を維持できなくなる。
【0033】
これに対して、本実施形態では、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが生じているので、ボルトが変形したりボルト孔が変形したりすることを回避することができる。これにより、バスケット本体2の剛性を好適に維持することができる。
【0034】
また、
図4に示すように、複数の板状部材10が組み合わされた際に、互いに嵌合し合う凹部10a同士の間に形成される隙間は、複数の格子部材20が積層された際に、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に形成される隙間aよりも広くされている。言い換えれば、互いに嵌合し合う凹部10a同士の間に形成される隙間が、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に形成される隙間aよりも広くなるように、凹部10aの深さが設定されている。具体的には、凹部10aの深さは、軸方向Bにおける板状部材10の寸法の1/4よりも深くされている。よって、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接することがない。なお、
図4の実施例では、互いに嵌合し合う凹部10aは、軸方向Bにおける板状部材10の両側から略1/4の深さであるが、板状部材10の片側に略1/2の深さであってもよい。
【0035】
互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接すると、この部分に応力が集中し、板状部材10が損傷する可能性がある。そこで、互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接しないようにすることで、この部分に応力が集中しないようにすることができる。
【0036】
図2に示すように、キャスク100の軸方向Bにおいて、BWR燃料の場合、使用済燃料30の下部には、下部タイプレート部等の構造材が設けられ、使用済燃料30の上部には、ハンドル部、上部グリッド部等の構造材が設けられている。また、燃料棒の上部プレナム部には、ステンレス等のスプリングが内蔵されている。なお、使用済燃料30のタイプ(例えば、BWR燃料とPWR燃料)により、使用済燃料30の下部および上部に設けられる構造材が異なる。
【0037】
キャスク100の軸方向Bにおいて、使用済燃料30の中央部(燃料有効部)には、使用済みの燃料ペレットが収納されており、中性子を放出する。使用済燃料30の燃料有効部から放出された中性子によって、使用済燃料30の下部および上部の構造材が放射化する。これにより、使用済燃料30の下部および上部は、比較的エネルギーの高いガンマ線(例えば、60Coによるガンマ線)を放出する。そして、使用済燃料30の下部および上部は、本体胴47の上端部および下端部に位置し、トラニオン55に対向している。
【0038】
そこで、バスケット本体2のトラニオン55に対向する部分における剛板材11の板厚が、バスケット本体2の他の部分における剛板材11の板厚よりも厚くされている。これにより、ガンマ線を遮蔽する遮蔽厚さを十分に確保することができる。そして、バスケット本体2の使用温度範囲の全域にわたって、キャスク100の軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接し、これらの間に隙間が生じないので、ガンマ線を好適に遮蔽することができる。
【0039】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る使用済燃料輸送又は貯蔵キャスクのバスケット1によると、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、キャスク100の軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接し、且つ、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが形成される。使用済燃料30をバスケット本体2に収納すると、バスケット本体2の温度が上昇することで、剛板材11と中性子吸収板材12とはともに熱膨張する。中性子吸収板材12の線膨張係数は、剛板材11の線膨張係数よりも大きいが、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが生じているため、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接した状態が維持される。これにより、キャスク100が垂直落下した際に、バスケット本体2に生じる衝撃力を、強度部材である剛板材11が受ける。よって、キャスク100の垂直落下時に中性子吸収板材12が座屈するのを回避することができる。
【0040】
また、各板状部材10がボルトで固定されたサポート部材3が、バスケット本体2とともにキャスク100に収納される。特許文献1のように、剛板材11と中性子吸収板材12とが、キャスク100の軸方向Bに隙間なく積層されている場合、熱膨張により中性子吸収板材12のボルト孔が軸方向Bにずれる。すると、ボルト孔の端部がボルトに干渉し、ボルトを変形または破損させる可能性がある。または、ボルト孔が変形し、中性子吸収板材12が損傷する可能性がある。これらの場合、バスケット本体2の剛性を維持できなくなる。これに対して、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に隙間aが生じているので、ボルトが変形したりボルト孔が変形したりすることを回避することができる。これにより、バスケット本体2の剛性を好適に維持することができる。
【0041】
また、複数の板状部材10が組み合わされた際に、互いに嵌合し合う凹部10a同士の間に形成される隙間は、複数の格子部材20が積層された際に、キャスク100の軸方向Bに隣り合う中性子吸収板材12同士の間に形成される隙間aよりも広くされている。よって、バスケット本体2の使用温度範囲の全域において、互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接することがない。互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接すると、この部分に応力が集中し、板状部材10が損傷する可能性がある。そこで、互いに嵌合し合う凹部10aの底面同士が当接しないようにすることで、この部分に応力が集中しないようにすることができる。
【0042】
また、バスケット本体2のトラニオン55に対向する部分における剛板材11の板厚が、バスケット本体2の他の部分における剛板材11の板厚よりも厚くされている。トラニオン55が取り付けられたキャスク100の両端部は、使用済燃料30の下部および上部に位置し、比較的エネルギーの高いガンマ線が放出される。そこで、バスケット本体2のトラニオン55に対向する部分における剛板材11の板厚を、バスケット本体2の他の部分における剛板材11の板厚よりも厚くすることで、ガンマ線を遮蔽する遮蔽厚さを十分に確保することができる。そして、バスケット本体2の使用温度範囲の全域にわたって、キャスク100の軸方向Bに隣り合う剛板材11同士が当接し、これらの間に隙間が生じないので、ガンマ線を好適に遮蔽することができる。
【0043】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1 バスケット
2 バスケット本体
3 サポート部材
5 収納部
10 板状部材
10a 凹部
11 剛板材
12 中性子吸収板材
20 格子部材
30 使用済燃料
41 容器本体
42 蓋部
43 一次蓋
44 二次蓋
45 外筒
46 中性子遮蔽体
47 本体胴
51 伝熱フィン
52 密閉監視装置
53 底板
54 底部レジンカバー
55 トラニオン
100 キャスク(使用済燃料輸送又は貯蔵キャスク)