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  • 特開-エポキシ樹脂組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059131
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/66 20060101AFI20230419BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
C08G59/66
C08L63/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169070
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD02X
4J002CD05W
4J002CD05X
4J002DJ016
4J002FD016
4J002GQ00
4J036AA02
4J036AA05
4J036AD08
4J036AE07
4J036DA05
4J036DC01
4J036DD02
4J036FA05
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】エポキシ樹脂用硬化剤として、メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物を、ルイス塩基であるイミダゾールアダクト型硬化促進剤と共に使用した一液型のエポキシ樹脂組成物に対し、その硬化物をプレシャークッカー試験に供した場合にメルト現象が生じないようにする。
【解決手段】エポキシ樹脂組成物は、(a)エポキシ樹脂、(b)メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物、(c)イミダゾールアダクト型硬化促進剤、(d)ポリアミン型潜在性硬化剤を含有する。成分(a)~(d)の全量中における成分(b)の含有量は、17質量%以上31質量%以下であり、成分(d)の含有量が12質量%以上25質量%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)~(d):
(a)エポキシ樹脂、
(b)メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物、
(c)イミダゾールアダクト型硬化促進剤、及び
(d)ポリアミン型潜在性硬化剤
を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
成分(a)~(d)の全量中における成分(b)の含有量が17質量%以上31質量%以下であり、成分(d)の含有量が12質量%以上25質量%以下であるエポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
成分(b)のポリチオール化合物が、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、又はトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)である請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤が、ポリアミン化合物とエポキシ樹脂との反応生成物である請求項1又は2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
成分(c)のイミダゾールアダクト型硬化促進剤の含有量が、成分(b)のポリチオール化合物100質量部に対し13質量部以上20質量部以下である請求項1~3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
成分(c)のイミダゾールアダクト型硬化促進剤の含有量が、成分(a)~(d)の全量中に3質量%以上3.5質量%以下である請求項1~4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
更に、成分(e)として無機フィラーを、成分(a)~(e)の全量中に5質量%以上15質量%以下で含有する請求項1~5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
成分(e)の無機フィラーが、炭酸カルシウム微粒子、シリカ微粒子、タルク微粒子、クレー微粒子、アルミナ微粒子等を例示することができるが、チキソ性を付与する点でシリカ微粒子が好ましく、微粒子の程度は、平均粒子径が好ましくは300nm以上1500nm以下となる程度である請求項6記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
更に、成分(f)としてエポキシ安定剤を、成分(a)~(f)の全量中に2.7質量%以上3質量%以下で含有する請求項1~6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
成分(f)のエポキシ安定剤が、ホウ酸エステル化合物である請求項8記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
印刷回路基板にイメージセンサーが請求項1~9のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化層で接合されているイメージセンサーモジュール。
【請求項11】
フレキシブル回路基板に実装された請求項10のイメージセンサーモジュールと、イメージセンサーモジュールに外部情報を結像させる光学系とを有するカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラモジュール等の電子部品の製造の際に有用な一液型のエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子部品の製造の際、エポキシ樹脂とエポキシ樹脂用硬化剤とを含有する一液型の接着剤としてエポキシ樹脂組成物が広く使用されている。電子部品がイメージセンサーモジュール等の光学部品である場合、エポキシ樹脂組成物の硬化のための加熱により生じる部材変形が光学部品の光学精度に影響を及ぼすため、エポキシ樹脂組成物に対しては低温且つ短時間で硬化することが求められる。更に良好な密着性を示すことが要請されている。この要請に対し、エポキシ樹脂用硬化剤として、メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物を、ルイス塩基であるアミンアダクト系潜在性硬化促進剤と共に使用した一液型のエポキシ樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。
【0003】
ところで、イメージセンサーモジュール等の光学部品が高温・高湿度環境下に晒されると、光学部品内に水分が侵入する場合がある。いったん水分が侵入すると、金属材料に錆が発生したりエポキシ樹脂層に浮きや剥がれが生じたりし、光学部品の性能が大きく低下することが懸念される。このため、特許文献1の一液型のエポキシ樹脂組成物に対しても、耐湿熱性が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-211969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の一液型のエポキシ樹脂組成物の硬化物を、耐湿熱性の程度を評価するためのプレッシャークッカー試験に供すると、硬化物が溶融する現象(以下、この現象を“メルト現象”と称する)が生じる場合があった。イメージセンサーモジュール等の光学部品の製造の際に使用した一液型のエポキシ樹脂組成物にメルト現象が生ずると、光学部品を構成する金属材料に錆が発生したりエポキシ樹脂層に浮きや剥がれが生じたりし、光学部品の性能が大きく低下するという問題が生じかねない。
【0006】
本発明の目的は、従来の問題を解決することであり、エポキシ樹脂用硬化剤として、メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物を、ルイス塩基であるイミダゾールアダクト型硬化促進剤と共に使用した一液型のエポキシ樹脂組成物に対し、その硬化物をプレシャークッカー試験に供した場合にメルト現象が生じないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、メルト現象の原因が、エポキシ樹脂組成物の硬化物を構成するポリチオール化合物残基に含まれるエステル結合の加水分解に起因しているとの仮定のもと、エポキシ樹脂用硬化剤として、ポリチオール化合物に加えて、硬化物の架橋密度を高めることのできるポリアミン型潜在性硬化剤を、所定割合で併用することにより、プレッシャークッカー試験時のメルト現象の発生を大きく抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は、以下の成分(a)~(d):
(a)エポキシ樹脂、
(b)メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物、
(c)イミダゾールアダクト型硬化促進剤、及び
(d)ポリアミン型潜在性硬化剤
を含有するエポキシ樹脂組成物であって、
成分(a)~(d)の全量中における成分(b)の含有量が17質量%以上31質量%以下であり、成分(d)の含有量が12質量%以上25質量%以下であるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0009】
また、本発明は、印刷回路基板にイメージセンサーが上述のエポキシ樹脂組成物の硬化物層で接合されているイメージセンサーモジュールも提供する。
【0010】
更に、本発明は、フレキシブル回路基板に実装された前述のイメージセンサーモジュールと、イメージセンサーモジュールに外部情報を結像させる光学系とを有するカメラモジュールを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一液型の接着剤であるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂用硬化剤としてポリチオール化合物に加えて、硬化物の架橋密度を高めることのできるポリアミン型潜在性硬化剤を、所定割合で併用する。このため、プレッシャークッカー試験時のメルト現象の発生を大きく抑制できる。よって、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いてイメージセンサーモジュール等の光学部品を製造しても、金属材料に錆が生じたり、エポキシ樹脂層に浮きや剥がれが生じたりすることを抑制することができ、光学部品の所期の性能が低下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】カメラモジュールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本明のエポキシ樹脂組成物について、構成要素毎に詳細に説明する。
【0014】
<(a)エポキシ樹脂>
本発明の一液型のエポキシ樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂は、成膜成分として使用されているものである。そのようなエポキシ樹脂としては、エポキシ樹脂組成物に従来より適用されている公知のエポキシ樹脂を使用することができ、固体状でもよいが組成物の塗布性を考慮すると液状であることが好ましく、また、エポキシ当量が通常100~4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル芳香族エーテル;グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル脂肪族エーテル;p-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル;フタル酸、テレフタル酸等のポリカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル;4,4′-ジアミノジフェニルメタン、m-アミノフェノール等とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルアミン化合物;エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン等の多官能性エポキシ化合物;ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等の単官能性エポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、樹脂特性の点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0015】
成分(a)エポキシ樹脂の市販されている具体例としては、jER828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱ケミカル(株))、YDF-8170(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル(株))、HP-7200L(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、DIC(株))等を例示することができる。
【0016】
成分(a)エポキシ樹脂の成分(a)~(d)の全量中における含有量は、組成物の粘度、チキソ比や他の成分とのバランスを考慮して、好ましくは40質量%以上70質量%以下である。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、樹脂成分として上述したようなエポキシ樹脂の他に、発熱ピークをシャープにするために、オキセタン化合物を併用することもできる。好ましいオキセタン化合物としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、1,4-ビス{[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4´-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4-ベンゼンジカルボン酸ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)]メチルエステル、3-エチル-3-(フェノキシメチル)オキセタン、3-エチル-3-(2-エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル、3-エチル-3-{[3-(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等を挙げることができる。オキセタン化合物を使用する場合、その使用量は、エポキシ樹脂100質量部に対し、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。
【0018】
<(b)メルカプト有機酸とポリオールとのエステル化反応生成物であるポリチオール化合物>
ポリチオール化合物は、エポキシ樹脂組成物に低温硬化性を付与し、しかも速硬化性を付与するエポキシ樹脂用硬化剤である。
【0019】
メルカプト有機酸は、分子内にそれぞれ1以上のメルカプト基とカルボキシル基とを含有する化合物である。メルカプト有機酸としては、例えばβ-メルカプト脂肪酸が挙げられる。具体的には、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトブタン酸を好ましく挙げることができる。
【0020】
一方、ポリオールは、メルカプト脂肪酸のカルボキシル基とエステル化し得るヒドロキシ基を分子内に2以上有する化合物である。ポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングルコール、プロピレングリコ-ル、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。中でも、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールを好ましく挙げることができる。
【0021】
従って、好ましい成分(b)としては、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)を挙げることができる。
【0022】
成分(b)のポリチオール化合物の市販されている具体例としては、PEMP(ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート、SC有機化学(株))、TMMP(トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート、SC有機化学(株))、カレンズMT(登録商標)PE1(ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート、昭和電工(株))等を例示することできる。
【0023】
成分(b)の成分(a)~(d)の全量中における含有量は、組成物の粘度、チキソ比や他の成分とのバランスを考慮して、好ましくは17質量%以上33質量%以下、好ましくは31質量%以下である。
【0024】
<(c)イミダゾールアダクト型硬化促進剤>
成分(c)イミダゾールアダクト型硬化促進剤は、イミダゾール化合物とエポキシ樹脂との反応生成物であり、これらの反応生成物の表面をイソシアネート化合物や酸性化合物で処理したもの等も含まれる。この成分(c)は、ルイス塩基として作用する化合物であり、ポリチオール化合物のメルカプト基から水素を引き抜き、アニオン重合を開始させる働きを担っていると考えられる化合物である。従って、アダクト反応の程度は、エポキシ樹脂の硬化剤として作用させるのではなく、硬化促進作用を強化するために、窒素原子に結合した活性水素がほぼ存在しなくなる程度が好ましい。このイミダゾールアダクト型硬化促進剤は、一液型のエポキシ樹脂組成物のポットライフという点で潜在性であることが好ましいために、室温では液状、エポキシ樹脂に不溶性の固体で、加熱することにより可溶化し促進剤として機能することが好ましい。
【0025】
成分(c)のイミダゾールアダクト型硬化促進剤を形成するための原料となるイミダゾール化合物としては、例えば、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-メチルイミダゾール、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。本発明において、イミダゾール化合物には、イミダゾール環の2重結合が水素化されたイミダゾリン化合物も包含される。そのようなイミダゾリン化合物として、2-エチル-4-メチルイミダゾリン、2,4-ジメチルイミダゾリン、1-(2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル)-2-フェニルイミダゾリン、1-(2-ヒドロキシ-3-ブトキシプロピル)-2-メチルイミダゾリン等を例示することができる。
【0026】
一方、成分(c)のイミダゾールアダクト型硬化促進剤を形成するための他の原料となるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル芳香族エーテル;グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル脂肪族エーテル;p-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル;フタル酸、テレフタル酸等のポリカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル;4,4′-ジアミノジフェニルメタン、m-アミノフェノール等とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルアミン化合物;エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン等の多官能性エポキシ化合物;ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等の単官能性エポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0027】
成分(c)のイミダゾールアダクト型硬化促進剤の市販されている具体例としては、アミキュアPN-23、アミキュアPN-23J、アミキュアPN-31、アミキュアPN-31J、アミキュアPN-40、アミキュアPN-40J、アミキュアPN-H(いずれも味の素ファインテクノ(株));アデカハードナーEH-3293S、アデカハードナーEH-5011S、アデカハードナーEH-5046S(いずれも(株)ADEKA);フジキュアーFXR-1121((株)T&K TOKA)を例示することができる。
【0028】
成分(c)の含有量は、成分(c)がルイス塩基としてポリチオール化合物のメルカプト基から水素を引き抜く作用を担うものであるから成分(b)のポリチオール化合物に対する量で評価することができ、成分(b)100質量部に対し、好ましくは13質量部以上20質量部以下である。また、成分(a)~(d)の全量中における含有量で評価した場合には、好ましくは3質量%以上3.5質量%以下である。
【0029】
<(d)ポリアミン型潜在性硬化剤>
成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤は、ポリアミン化合物とエポキシ樹脂との反応生成物であり、これらの反応生成物の表面をイソシアネート化合物や酸性化合物で処理したもの等も含まれる。この成分(d)を所定割合で併用することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物のメルト現象の発生を抑制することができる。その機構は不明ではあるが、成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤が含有している第2級アミンにより硬化物の架橋密度を増大させ、硬化物中に取り込まれた成分(b)のポリチオール化合物残基中のエステル結合の加水分解物がブルーミングすることを抑制するためであると考えられる。
【0030】
成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤を形成するための原料となるポリアミン化合物としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知のポリアミン化合物の中から適宜選択して使用することができる。例えば、ジエチレントリアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソフォロンジアミンなどの環状脂肪族ポリアミン、m-キシリレンジアミンなどの脂肪芳香族ポリアミン、メタフェニレンジアミンなどの芳香族ポリアミン等が挙げられる。
【0031】
一方、成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤を形成するための他の原料となるエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、レゾルシノール等の多価フェノールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル芳香族エーテル;グリセリン、ポリエチレングリコール等の多価アルコールとエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジル脂肪族エーテル;p-ヒドロキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルエーテルエステル;フタル酸、テレフタル酸等のポリカルボン酸とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるポリグリシジルエステル;4,4′-ジアミノジフェニルメタン、m-アミノフェノール等とエピクロルヒドリンとを反応させて得られるグリシジルアミン化合物;エポキシ化フェノールノボラック樹脂、エポキシ化クレゾールノボラック樹脂、エポキシ化ポリオレフィン等の多官能性エポキシ化合物;ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等の単官能性エポキシ化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0032】
成分(d)のポリアミン型潜在性硬化剤の市販されている具体例としては、アデカハードナーEH-4357S、EH-5030S、EH-5057P、EH-5057PK(いずれも(株)ADEKA)等を例示することができる。
【0033】
成分(d)の成分(a)~(d)の全量中における含有量は、12質量%以上25質量%以下である。12質量%未満であると、PCT試験においてメルトが発生する傾向が増大し、25質量%を超えると相対的に成分(a)のエポキシ樹脂の含有割合が低下し、エポキシ樹脂組成物の硬化物に所期の特性を発現させ難くなる。
【0034】
<成分(e)無機フィラー>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、塗布形状維持の為に成分(e)として公知の無機フィラーを含有することができる。無機フィラーとしては、炭酸カルシウム微粒子、シリカ微粒子、タルク微粒子、クレー微粒子、アルミナ微粒子等を例示することができるが、本発明のエポキシ樹脂組成物にチキソ性を付与する点でシリカ微粒子が好ましい。微粒子の程度は、平均粒子径が好ましくは300nm以上1500nm以下となる程度である。平均粒子径(累積体積50%)は、市販のレーザー光散乱式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0035】
成分(e)の無機フィラーの市販されている具体例としては、SO-Cシリーズ、SC-Eシリーズ(いずれもシリカ微粒子、(株)アドマテックス)等を例示することができる。
【0036】
成分(e)の無機フィラーの含有量は、エポキシ樹脂組成物中での良好な分散性を確保し、エポキシ樹脂組成物に良好なチキソ性を付与するという観点から、成分(a)~(e)の全量中に好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0037】
<成分(f)エポキシ安定剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ポットライフを担保するために成分(f)として公知のエポキシ安定剤を含有することができる。エポキシ安定剤の好ましい例としては、ホウ酸エステル化合物を挙げることができる。このようなホウ酸エステル化合物タイプのエポキシ安定剤は、例えば四国化成工業(株)から商品名“L-07N”として入手することができる。
【0038】
成分(f)のエポキシ安定剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物の安定性とポットライフの観点から、成分(a)~(f)の全量中に好ましくは2.7質量%以上3質量%以下である。
【0039】
<その他の添加剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、組成物の用途や適用対象等に応じて、公知の添加剤を適宜含有することができる。例えば、シランカップリング剤、ワックス、潤滑剤、紫外線吸収剤、顔料、難燃剤、防錆剤等を含有することができる。
【0040】
<エポキシ樹脂組成物の調製>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、成分(a)~(d)と、更に必要に応じて配合されるべき他の成分とを、常法により均一に混合することにより調製することができる。
【0041】
<エポキシ樹脂組成物の特性>
このようにして調製される本発明のエポキシ樹脂組成物の粘度は、25℃で好ましくは7000mPa・s以上、より好ましくは8000mPa・s以上、更に好ましくは30000mP・s以上、好ましくは80000mP・s以下、より好ましくは60000mP・s以下、更に好ましくは40000mPa・s以下である。この範囲を下回ると形状保持が出来なくなる傾向があり、また、上回ると吐出性が悪くなる傾向があるからである。粘度の調整は無機フィラー等により行うことができる。なお、粘度は、コーンプレート型回転粘度計により測定することができる。
【0042】
また、発明のエポキシ樹脂組成物のチキソ比は、好ましくは2.0以上、より好ましくは4.0以上、好ましくは6.5以下、より好ましくは5.0以下である。この数値を下回ると塗布形状の維持が出来なくなる傾向があるからである。ここで、チキソ比は、回転数が1rpmの条件で測定される粘度η1を回転数が10rpmの条件で測定される粘度η2で除して算出される値と定義される数値であり、これにより測定した数値に基づいて算出することができる。チキソ比の調整は無機フィラーにより行うことができる。
【0043】
<エポキシ樹脂組成物の用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、低温速硬化性を示す一液型の接着剤として有用であり、各種電子部品、電子装置の製造の際に用いる接着剤として有用である。特に、公知の印刷回路基板に公知のイメージセンサーが樹脂層で接合されてなるイメージセンサーモジュールの当該樹脂層に、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物層を適用することが好ましい。更に、このイメージセンサーモジュールを、外部情報を結像させる公知の光学系と共にフレキシブル回路基板に実装することによりカメラモジュールとして構成することができる(図1)。
【0044】
図1にカメラモジュール10の概略図を示す。このカメラモジュール10は、フレキシブル印刷回路基板(FPC)1に印刷回路板2が接着層Aで実装されている。この印刷回路板2には、イメージセンサー3が接着層Bで接合され、イメージセンサーモジュール4を形成している。イメージセンサーモジュール4の外縁にはセンサーフレーム5が接着層Cで接合されており、イメージセンサー3の上方のセンサーフレーム5には開口が形成され、IR(赤外)カットフィルター6が接着層Dで接合されている。センサーフレーム5の周縁には、ハウジング7が接着層Eで接合されており、ハウジング7の内側には、レンズバレル8が接着層Fで接合されている。レンズバレル8には、光学系を構成するレンズ群9が接着層Gで接合されている。このようなカメラモジュール10において、接着層A~Gの少なくともいずれかを、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物層で好ましく構成することができる。
【実施例0045】
以下、本発明のエポキシ樹脂組成物について、実施例及び比較例により具体的に説明する。
【0046】
実施例1~6、比較例1~5
表1に示した割合で配合成分を均一に混合することによりエポキシ樹脂組成物を調製した。得られたエポキシ樹脂組成物について、以下に説明するように、25℃における粘度を測定し、チキソ比を求めた。更に、プレッシャークッカー試験(PCT試験)を行った。試験結果・評価結果を表1に示す。
【0047】
(25℃粘度測定)
コーンプレート型回転粘度計(コーン及びプレートC20/2、10rpm、25℃)を用いて粘度測定を行った。
【0048】
(チキソ比の算出)
エポキシ樹脂組成物について、コーンプレート型回転粘度計(コーン及びプレートC20/2、25℃)を用い、回転数が1rpmの条件で測定される粘度η1を、回転数が10rpmの条件で測定される粘度η2で除してチキソ比を算出した。
【0049】
(プレッシャークッカー試験)
エポキシ樹脂組成物を、直径14.5mm、深さ2.8mmのオープン型に入れ、95℃で90分熱処理することで熱硬化させた。得られた熱硬化物を、130℃、湿度85%、0.13MPa、24時間又は96時間という条件でプレッシャークッカー試験(IEC 60068-2-66(JIS C 60068-2-66)準拠)を行い、24時間後又は96時間後の熱硬化物の表面にメルト現象(硬化物の表面に液状の分解生成物が出現するという現象)が生じているか否かを目視観察した。メルト現象が観察されなかった場合を良好(A)と評価し、メルト現象がわずかに観察された場合を不良(B)と評価し、メルト現象が硬化物全面に観察された場合を非常に不良(C)と評価した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1から分かるように、ポリチオール化合物を所定の主要成分中に17~31質量%の割合で重合開始剤として含有する実施例1~6のエポキシ樹脂組成物は、いずれもポリアミン型潜在性硬化剤を、所定の主要成分中に12~25質量%の割合で含有していたので、プレッシャークッカー試験の96時間後でも、メルト現象は観察されなかった。
【0052】
一方、比較例1,3-5のエポキシ樹脂組成物は、ポリアミン型潜在性硬化剤をポリチオール化合物と併用していなかったので、96時間後のプレッシャークッカー試験の結果が「B」又は「C」評価であった。比較例2のエポキシ樹脂組成物の場合、ポリアミン型潜在性硬化剤をポリチオール化合物と併用したため、プレッシャークッカー試験の24時間後の結果が「A」評価であったが、ポリアミン型潜在性硬化剤の含有量が主要成分中に8.9質量%と少なかったため、プレッシャークッカー試験の96時間後の結果が「B」評価であった。
【0053】
なお、実施例1~6のエポキシ樹脂組成物の塗布時の形状維持性については、いずれも実用上の問題を生じないレベルの形状維持性であった。粘度測定し、チキソ比を算出した実施例3~6の結果からは、少なくとも粘度が約7000~約80000mPa・s、チキソ比が約2.0~約6.5であることが好ましいことが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂硬化剤としてポリチオール化合物に加えて、硬化物の架橋密度を高めることのできるポリアミン型潜在性硬化剤を、所定割合で併用しているため、プレッシャークッカー試験時のメルト現象の発生を大きく抑制できる。よって、本発明のエポキシ樹脂組成物は、イメージセンサーモジュール等の光学部品を製造する際に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 フレキシブル印刷回路基板
2 印刷回路板
3 イメージセンサー
4 イメージセンサーモジュール
5 センサーフレーム
6 IRカットフィルター
7 ハウジング
8 レンズバレル
9 レンズ群
10 カメラモジュール
A~G 接着層
図1