(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059144
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】電流供給装置及び磁気センサ
(51)【国際特許分類】
G01R 33/04 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
G01R33/04
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169091
(22)【出願日】2021-10-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-02-25
(71)【出願人】
【識別番号】517205767
【氏名又は名称】笹田磁気計測研究所株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】笹田 一郎
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AC09
2G017AD42
2G017BA04
2G017BA05
(57)【要約】
【課題】交流成分に直流成分を重畳させた直流重畳周期波形電流を供給すると共に、この直流重畳周期波形電流の歪みを格段に小さくすることができる電流供給装置等を提供する。
【解決手段】矩形波発生回路6で生成された矩形波が入力されるトランジスタ3と、トランジスタ3の後段側に接続される第1のコイルL1と、第1のコイルL1の後段側で当該第1のコイルL1とグランドとの間に配設され、コンデンサC1と第2のコイルL2とが並列接続されるLC共振回路5と、LC共振回路5における第2のコイルL2の後段側に接続するための第1端子9と、グランドに接続するための第2端子10とを備え、第1端子9及び第2端子10間に接続する負荷抵抗R2に、交流成分と直流成分とが重畳された電流である直流重畳周期波形電流を供給するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形波生成手段で生成された矩形波が入力されるスイッチング素子と、
前記スイッチング素子の後段側に接続される第1のコイルと、
前記第1のコイルの後段側で当該第1のコイルとグランドとの間に配設され、コンデンサと第2のコイルとが並列接続されるLC共振回路と、
前記LC共振回路における前記第2のコイルの後段側に接続するための第1端子と、
前記グランドに接続するための第2端子とを備え、
前記第1端子及び前記第2端子間に接続する負荷に、交流成分と直流成分とが重畳された電流である直流重畳周期波形電流を供給することを特徴とする電流供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流供給装置において、
前記矩形波生成手段で生成される矩形波の周波数を制御する矩形波周波数制御手段を備
える電流供給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電流供給装置において、
前記矩形波周波数制御手段が、前記矩形波の周波数(fd)と前記LC共振回路の共振周波数(fr)との比率(fd/fr)を0.7≦(fd/fr)≦1.4に調整される電流供給装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電流供給装置において、
前記第1のコイルのインダクタンスが前記第2のコイルのインダクタンスよりも大きい
電流供給装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の電流供給装置において、
前記スイッチング素子と前記第1のコイルとの間の結節点にカソード端子が接続し、アノード端子がグランドに接続するダイオードを備える電流供給装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の電流供給装置と、
前記第1端子及び前記第2端子間にセンサヘッドを構成する磁気コアが接続される基本
波型直交フラックスゲートとを備える磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を供給する電流供給装置に関し、特に交流成分に直流成分が重畳された電流(以下、直流重畳周期波形電流という)を供給する電流供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に基本波型直交フラックスゲートに関する技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、磁気コアに検出コイルを巻回して形成されるセンサヘッドと、磁気コアに励磁用の交流電流及びバイアス用の直流電流を重畳させて供給する電流供給部と、少なくともバイアス用の直流電流の極性を切り替える第1スイッチと、検出コイルに接続され、センサヘッドで測定された磁界をフィードバック電流で検出する検出回路とを備えるものである。
【0003】
図16は、特許文献1で用いられる電流供給部の回路構成を示す図である。
図16に示す電流供給部は、矩形波生成手段で生成された矩形波が入力されるトランジスタと、当該トランジスタの後段側で当該トランジスタとグランドとの間に配設され、コンデンサとコイルとが並列接続されるLC共振回路と、当該LC共振回路におけるコイルの後段側に接続するための第1端子と、グランドに接続するための第2端子とを備え、第1端子及び前記第2端子間に接続する磁気コア15に、直流電流が重畳された交流電流を供給するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、
図17は、特許文献1に記載の
図16の回路を有する電流供給部が供給するコレクタ電流と負荷抵抗(
図16における抵抗14に相当)に通電される電流の波形を示す図である。
図17に示す通り、コレクタ電流の波形には垂直に近いような急峻な変化が含まれている。これはエミッタとグランドとの間にコンデンサが接続されているためであり、特許文献1に掛かる電流供給部は、このような急峻な変化により回路基板上の他の部品や回路に電磁干渉を引き起こす可能性があるという課題を有する。
【0006】
また、
図18は、特許文献1に記載の電流供給部が供給する電流のひずみ率及び直流成分の大きさ(Idc)と交流振幅の大きさ(Iac_amp)との比率(Iac_amp/Idc)を示す図である。
図18(A)は矩形波生成手段から出力される矩形波の繰り返し周波数(トランジスタの駆動周波数)(fd)とLC共振回路の共振周波数(fr)との比率(fr/fd)に対するひずみ率を示しており、
図18(B)は(fr/fd)に対する(Iac_amp/Idc)を示している。
図18(A)のひずみ率は波形に含まれる基本波以外の全ての高調波成分の実効値の二乗和の平方根と基本波の実効値との比で求められ、(fr/fd)が1以下の範囲で4%~7.5%と比較的大きい値になっている。また、
図18(B)の(Iac_amp/Idc)の値は(fr/fd)が0.8程度以上だと1を超えており、すなわち特許文献1に示すような基本波型直交フラックスゲートに適した交流成分の振幅よりも直流成分を大きくして単極性の直流重畳周期波形電流とする条件を満たすためには、(fr/fd)を0.8未満、好ましくは0.5未満に設定する必要がある。つまり、矩形波駆動周波数(fd)を共振周波数(fr)の2倍程度に調整する必要がある。しかしながら、依然として交流成分の波形のひずみ率が4%程度と大きいため、このひずみ率を小さくするためにfdを大きくしすぎると基本波成分が小さくなってしまい、磁気センサの駆動を考えた場合に(Iac_amp/Idc)が小さくなってしまい、センサに不適になってしまうという課題を有する。
【0007】
本発明は、交流成分に直流成分を重畳させた直流重畳周期波形電流を供給すると共に、この直流重畳周期波形電流の交流成分の歪みを格段に小さくすることができる電流供給装置、及び当該電流供給装置を用いた磁気センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電流供給装置は、矩形波生成手段で生成された矩形波が入力されるスイッチング素子と、前記スイッチング素子の後段側に接続される第1のコイルと、前記第1のコイルの後段側で当該第1のコイルとグランドとの間に配設され、コンデンサと第2のコイルとが並列接続されるLC共振回路と、前記LC共振回路における前記第2のコイルの後段側に接続するための第1端子と、前記グランドに接続するための第2端子とを備え、前記第1端子及び前記第2端子間に接続する負荷に、交流成分と直流成分とが重畳された電流である直流重畳周期波形電流を供給するものである。
【0009】
このように、本発明に係る交流信号生成装置においては、矩形波生成手段で生成された矩形波が入力されるスイッチング素子と、前記スイッチング素子の後段側に接続される第1のコイルと、前記第1のコイルの後段側で当該第1のコイルとグランドとの間に配設され、コンデンサと第2のコイルとが並列接続されるLC共振回路と、前記LC共振回路における前記第2のコイルの後段側に接続するための第1端子と、前記グランドに接続するための第2端子とを備えるため、非常にシンプルな回路構成で第1端子及び第2端子間に接続する負荷に、交流成分と直流成分とが重畳された直流重畳周期波形電流を供給することが可能となり、且つスイッチングの雑音を最小限に抑えて歪みの少ない直流重畳周期波形電流を供給することができるという効果を奏する。
【0010】
本発明に係る電流供給装置は、必要に応じて、前記矩形波生成手段で生成される矩形波の周波数を制御する矩形波周波数制御手段を備えるものである。
【0011】
このように、本発明に係る電流供給装置においては、矩形波の周波数を制御する矩形波周波数制御手段を備えるため、矩形波の周波数に応じて交流成分の振幅と直流成分との大きさの比率を自在に制御することが可能となり、使用環境に応じた適正なパラメータを設定することができるという効果を奏する。
【0012】
本発明に係る電流供給装置は、必要に応じて、前記矩形波周波数制御手段が、前記矩形波の周波数(fd)と前記LC共振回路の共振周波数(fr)との比率(fd/fr)を0.7≦(fd/fr)≦1.4に調整されるものである。
【0013】
このように、本発明に係る電流供給装置においては、矩形波の周波数(fd)と前記LC共振回路の共振周波数(fr)との比率(fd/fr)が0.7≦(fd/fr)≦1.4に調整されるため、後述するシミュレーション結果から交流成分のひずみ率を1%以下程度に低減して歪みが少ない直流重畳周期波形電流を生成することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係る電流供給装置は、必要に応じて、前記第1のコイルのインダクタンスが前記第2のコイルのインダクタンスよりも大きいものである。
【0015】
このように、本発明に係る電流供給装置においては、第1のコイルのインダクタンスを第2のコイルのインダクタンスよりも大きくすることで、コレクタに流れる電流波形の変化を小さくし、他の回路への電磁雑音等を抑えることができるという効果を奏する。
【0016】
本発明に係る電流供給装置は、必要に応じて、前記スイッチング素子と前記第1のコイルとの間の結節点にカソード端子が接続し、アノード端子がグランドに接続するダイオードを備えるものである。
【0017】
このように、本発明に係る電流供給装置においては、スイッチング素子と第1のコイルとの間の結節点にカソード端子が接続し、アノード端子がグランドに接続するダイオードを備えるため、スイッチング素子の損失を大幅に低減することができるという効果を奏する。
【0018】
本発明に係る磁気センサは、必要に応じて、前記電流供給装置と、第1端子及び第2端子間にセンサヘッドを構成する磁気コアが接続される基本波型直交フラックスゲートとを備えるものである。
【0019】
このように、本発明に係る磁気センサにおいては、前記電流供給装置と、第1端子及び第2端子間にセンサヘッドを構成する磁気コアが接続される基本波型直交フラックスゲートとを備えるため、基本波型直交フラックスゲートの駆動源として極めて優れた特長を有する励磁電流を用いたセンシングを実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1の実施形態に係る電流供給装置の回路構成を示す図である。
【
図2】
図1の回路についてfdがfrに近い場合におけるトランジスタのエミッタ端子からベース側回路を見た交流等価回路を示す図である。
【
図3】
図2の回路における電流・電圧についてのフェーザ図である。
【
図4】IL2の交流成分Iacとfd/frの関係について所定のL2に対しL1を種々変化させた時の計算した結果を示す図(β=120)である。
【
図5】IL2の交流成分Iacとfd/frの関係について所定のL2に対しL1を種々変化させた時の計算した結果を示す図(β=240)である。
【
図6】第1の実施形態に係る電流供給装置において交流成分のひずみ率を計算した結果を示す図である。
【
図7】
図1の回路においてコレクタに流れる電流の振幅がどれくらいになるかについて計算した結果の一例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る電流供給装置における負荷抵抗に通電される電流の波形を示した結果の図である。
【
図9】第1の実施形態に係る電流供給装置におけるコレクタ電流の波形を示した結果の図である。
【
図10】第2の実施形態に係る電流供給装置の回路構成を示す図である。
【
図11】第2の実施形態に係る電流供給装置における各部の電流波形をシミュレーションした結果を示す図である。
【
図12】
図11のシミュレーションにおいて、負荷抵抗に流れる電流波形を示す図である。
【
図13】
図1の回路構成でシミュレーションを行った場合の結果を示す図である。
【
図14】
図1の回路構成及び
図10の回路構成のそれぞれにおけるスイッチング損失波形を示す図である。
【
図15】
図1の回路構成及び
図10の回路構成のそれぞれにおける直流電源からの供給電力の時間変化を示す図である。
【
図16】特許文献1で用いられる電流供給部の回路構成を示す図である。
【
図17】特許文献1に記載の
図10の回路を有する電流供給部が供給するコレクタ電流と負荷抵抗に通電される電流の波形を示す図である。
【
図18】特許文献1に記載の電流供給部が供給する電流のひずみ率及び直流成分の大きさと交流振幅の大きさとの比率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0022】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る電流供給装置について、
図1ないし
図9を用いて説明する。本実施形態に係る電流供給装置は、直流成分と交流成分とが重畳された電流である直流重畳周期波形電流を供給するものであり、この直流重畳周期波形電流は、例えば基本波型直交フラックスゲートの励磁電流として利用することを可能とし、この場合に特に優れた特性を示す。
【0023】
まず、
図1ないし
図3を用いて本実施形態に係る電流供給装置の回路構成及び動作について説明する。
図1は、本実施形態に係る電流供給装置の回路構成を示す図である。電流供給装置1は、直流電源2と、当該直流電源2の後段で当該直流電源2とコレクタ端子とが接続されるスイッチング素子としてのトランジスタ3と、当該トランジスタ3のエミッタ端子に接続されるインダクタとしての第1のコイルL1(寄生抵抗R1を含む)と、当該第1のコイルL1の後段でグランドとの間に直列に接続されるLC共振回路5と、トランジスタ3のベースに矩形波を供給して駆動する矩形波発生回路6とを備え、LC共振回路5はキャパシタとしてのコンデンサC1とインダクタとしての第2のコイルL2とが並列接続され、第2のコイルL2の後段側には当該第2のコイルL2に直列に接続するための第1の端子9と、グランドに接続するための第2の端子10とを有している。この第1の端子9と第2の端子10には負荷として例えば負荷抵抗R2(第2のコイルL2の損失抵抗を含む)が接続され、具体的には上述したような基本波型直交フラックスゲートの磁気コアなどが接続され、負荷抵抗R2に直流成分と交流成分とが重畳された直流重畳周期波形電流が供給される。なお、負荷としては、抵抗素子以外にも2端子回路であって全体として抵抗性であればインダクタンスやコンデンサが付属していても良い。
【0024】
トランジスタ3のベースは振幅電圧Vpの矩形波で駆動され、ハイレベルがVp[V]でローレベルが0[V]である。ベース抵抗はRbである。寄生抵抗R1は第1のコイルL1の巻線抵抗損失及び磁心損失から来る寄生抵抗であり、矩形波発生回路6の駆動周波数fの一周期間において(インダクタの蓄積エネルギー)/(損失エネルギー)を表すQ値を用いて表せば、R1=ωL1/Q1で表せる。ここにω=2πfで、Q1は第1のコイル4のQ値である。
【0025】
コンデンサC1と2つの第1のコイルL1、第2のコイルL2は共振回路を形成し、この場合第1のコイルL1と第2のコイルL2とは、コンデンサC1に対して並列回路となる。LC共振回路5の共振周波数frは、第1のコイルL1と第2のコイルL2との並列インダクタンスをLp(1/Lp=1/L1+1/L2)とすると、
【0026】
【0027】
で与えられる。矩形波発生回路6の駆動周波数fdを共振周波数frの近傍に設定すると、
図1の回路は共振状態又はそれに近い状態で動作する。この共振動作を説明するために、
図1の回路についてトランジスタ3のエミッタ端子からベース側回路を見た等価回路を
図2に示す。βはトランジスタ3の電流増幅率である。矩形波発生回路6が発生する矩形波の波高値Vpのデューティ比0.5の矩形に含まれる基本波成分の振幅は、2Vp/πとなるが、V1の振幅はベースエミッタ間の電圧降下VBE(おおよそ0.7[V])のために√2V1=2(Vp-VBE)/πとなる。R2をωL2/R2=Q2とおいて、L2とQ2を用いて表せば、IL2の交流振幅成分は次式で与えられる。jは虚数単位である。
【0028】
【0029】
図3は、
図2の回路における電流、電圧についてのフェーザ図である。
図3のフェーザ図から、共振時はIC1とIL2が逆位相に近くなり(IC1の上向き矢印とIL2の下向き矢印のなす角がπに近くなり)、IL1とIC1が平行に近くなる。これによって、VC1とVL1+VR1のなす角がπに近づき、与えられたV1に対して、VC1とVL1+VR1の長さが大きくなる。つまり共振条件では電圧や電流の振幅が増大する。また、fdを共振条件の近傍で動作させながら、L2は固定し、L1をL2の数倍大きくすれば(すなわち、C1を適宜小さくした場合は)コンデンサC1から流れ出る共振電流はL1とL2に分流するが、IL1とIL2の比は1/L1:1/L2となりIL1に含まれる共振電流成分は小さくなる。その結果、
図1の電流iL1は大部分が直流成分からなり、相対的に小さい交流成分の電流が流れる。このことは
図1の回路の利用上重要な作用をする。つまり、負荷抵抗R2に歪みの小さい交流成分と直流成分を供給しながら、トランジスタ3のコレクタ電流はその大部分が直流成分からなり、直流電源2からトランジスタ3に供給される電流が周囲に誘導性磁気雑音を出さなくなる実用上優れた作用を創出する。
【0030】
直流電流成分については、
図2の等価回路においてV1をVp-VBEとし、C1を開放、L1、L2を短絡し、ωL1/Q1をL1の直流抵抗(直流に対する巻線の抵抗)R1dcで置き換え、R2をL2の直流抵抗と負荷抵抗の和R2dcで表せば次式で与えられる。ここにDは矩形波のデューティ比で、トランジスタ3のon期間(Ton)を一周期間(T)で割ったものである。直流電流は矩形波の繰り返し周波数fには原理的に無関係である。
【0031】
【0032】
次に、矩形波発生回路の駆動周波数fdの制御、並びに第1のコイルL1のインダクタンスL1及び第2のコイルL2のインダクタンスL2の関係について
図4ないし
図6を用いて説明する。IL2の交流成分Iacとfd/frの関係について所定のL2に対しL1(E6系列を仮定)を種々変化させた時の計算した結果を
図4及び
図5に示す。
図4においてトランジスタ3のエミッタ接地電流増幅率β=120、
図5ではβ=240としている。ただし、この一連の計算ではQ1=30、Q2=9、デューティ比=0.5とし、k=L1/L2とする。また、
図4及び
図5において電流の大きさは各kに対する直流成分の大きさ(破線)との比で表している。
【0033】
ここで、基本波型直交フラックスゲートセンサにおいて磁気コアに供給される励磁電流は、交流成分の振幅よりも直流成分が大きい方が好ましい。交流成分の振幅が直流成分よりも大きくなると電流の向きがマイナス(逆向き)になる時間が生じてしまい、その間の磁界の向きが逆極性となり磁壁が移動することでバルクハウゼン雑音が生じてしまうからである。
図4及び
図5のシミュレーション結果からfd/fr=1の極めて近傍ではL1とL2とのインダクタンスが接近したところで(kの値が1に近いところで)交流成分の振幅が直流成分に対して大きくなっている。
【0034】
また、
図6は、本実施形態に係る電流供給装置において直流重畳周期波形電流の交流成分のひずみ率を計算した結果を示す図である。Rb=1kΩ、β=120、k=2.13として計算したものである。
図6のシミュレーション結果から、駆動周波数fdと共振周波数frが等しいときに最も歪みが小さくなっており、0.7<fd/fr<1.4の範囲ではひずみ率が1%程度以下と極めてきれいな正弦波が生成されていることがわかる。
【0035】
この点について、
図12に示す従来の回路の場合と比較する。従来の回路においては、
図12に示す結果からfd/fr>2が好適であり、このときのひずみ率は5%程度と大きい。これに対して、本実施形態に係る電流供給装置は
図6の結果から0.7<fd/fr<1.4の範囲ではひずみ率が1%程度以下となっており、従来の回路と比べて極めて優位な直流重畳周期波形電流を得ることが可能となる。また、fd/fr=1で最も歪みが小さくなるが、
図4及び
図5の結果が示すように交流成分の振幅が直流成分よりも大きくなってしまう場合がある。このような場合であっても、第1のコイルL1及び第2のコイルL2のそれぞれのインダクタンスを調整することで歪みを最小限に抑えつつ、直流成分を交流成分の振幅よりも大きくした直流重畳周期波形電流を生成することが可能である。
【0036】
次に、第1のコイルL1及び第2のコイルL2のそれぞれのインダクタンスの調整について
図7ないし
図9を用いて説明する。交流成分を生成する場合に、トランジスタ3の駆動に伴ってコレクタ電流が急峻に変動すると回路の他の部分に電磁雑音を与える問題が発生する。
図11に示すように従来の回路を用いた場合はコレクタ電流が非常に急峻な立ち上がり及び立ち下がりの変化を示しており、電磁雑音の影響が大きくなってしまう。本実施形態においては、第1のコイルL1及び第2のコイルL2のインダクタンスを調整することで、コレクタに流れる電流による雑音の影響を最小限にすることが可能である。
【0037】
図1の回路において、コレクタに流れる電流の振幅がどれくらいになるかについて計算した結果の一例を
図7に示す。
図7において電流の大きさは各kに対する直流成分の大きさ(破線)との比で表している。kが小さくなると、すなわち
図1の回路でL1が小さくなると、コレクタに流れる直流が不連続になり、k=0.47の場合では共振条件下(fd=fr)でコレクタに流れる電流の波高値は直流成分の2倍程度になる。エミッタ接地電流増幅率β=240の場合も全体の関係は類似であるが、k=0.47でfd=frのときはコレクタに流れる電流の波高値が直流成分の2.5倍ほどに達する。これらの結果から言えるのは、fd=fr又はfdがfrに極めて近い場合ではL1をL2より大きくすることで、コレクタ電流に含まれる交流成分を抑制できることである。コレクタ電流に含まれる交流成分の振幅がIdcより小さくなると連続的に流れる電流成分が現れる。なお、
図7からわかるように、k>1、k<1、k=1のいずれに対しても、fd/frを許容内で1から遠ざける(例えば、fd/fr=0.8~0.7又はfd/fr=1.2~1.4)ことによっても同様のことが可能である。
【0038】
K=2.13、fd/fr=0.9としてIL2とコレクタ電流についてシミュレーションした結果を
図8及び
図9に示す。
図8はIL2、すなわち負荷抵抗に通電される電流の波形を示した結果であり、
図9はIL1、すなわちコレクタ電流の波形を示した結果である。
図8については、
図11の負荷電流の波形と比較しても明らかなように、直流重畳周期波形電流が非常に歪みの少ない波形となっている。また、
図7のk=2.13の曲線から、fd/frが0.9に近いところではコレクタ電流に含まれる交流成分の振幅が小さいことが読み取れるが、これを実際に示しているのが
図9の波形となる。直流成分は交流成分の振幅の中心あたりの値であり、
図8及び
図9のいずれにおいても0.08[A]程度でほぼ同じであるが、
図9のコレクタ電流では変動成分が非常に小さくなっている。これは、
図11の場合と比較して電磁雑音の原因となるコレクタに流れる電流の変動成分が抑えられることを示している。
【0039】
以上のことから、本実施形態に係る電流供給装置においては、
図6に示したように0.7<fd/fr<1.4の範囲で矩形波発生回路6の駆動周波数fdを制御することで交流成分に歪みの少ないきれいな直流重畳周期波形電流を得ることができる。また、
図4及び
図5から、駆動周波数fdを適宜調整することで、交流成分の振幅よりも直流成分を大きくしつつ、交流成分/直流成分の比を調整して基本波型直交フラックスゲートの励磁電流に最適な電流を生成することが可能となる。
【0040】
また、上記駆動周波数fdの制御に加えて、又はfdの制御に依らなくても、
図4及び
図5に示したように第1のコイルL1と第2のコイルL2のインダクタンスを調整することでも交流成分の振幅よりも直流成分を大きくして基本波型直交フラックスゲートの励磁電流に最適な電流を生成することが可能となる。
【0041】
さらに、
図7~
図9に示したように、L1をL2より大きくすれば、コレクタ電流に含まれる交流成分を抑制できることから、L1及びL2を調整する際にL1>L2とすることでコレクタに流れる電流による雑音の影響を抑えることが可能となる。
【0042】
なお、上述したように、本実施形態に係る電流供給装置が生成した電流は磁気センサの励磁電流として利用することができる。磁気センサの構成については、例えば特許文献1などに示されているため詳細な説明は省略するが、磁気センサのセンサヘッドを構成する磁気コアに励磁電流(直流成分が重畳された交流成分からなる直流重畳周期波形電流)を通電する場合に、
図1の回路の負荷抵抗R2を磁気コアとすることで、基本波型直交フラックスゲートセンサに極めて優位な励磁電流を供給することが可能となる。
【0043】
また、
図1に示す回路のコレクタ側(直流電源2とトランジスタ3との間)に10Ω程度の抵抗を挿入することでトランジスタ3の電流増幅率のバラツキの影響を抑制すると共に、過大電流を抑制するようにしてもよい。このような構成により副次的にトランジスタ3のコレクタ損失の一部を挿入した抵抗に分配することが可能である。K=L1/L2が1より小さい場合にコレクタ電流の周期的変動が大きいため、この副次的効果が顕著に現れる。例えば、k=0.7の時10Ωを挿入すると電流値は88%になるが、コレクタ損失の40%を抵抗に移すことができる。スイッチング素子における発熱が過大となる恐れがある時は、適切な抵抗値の抵抗を挿入することで発熱箇所を分散してこの問題を軽減することが可能である。
【0044】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る電流供給装置について、
図10ないし
図15を用いて説明する。本実施形態に係る電流供給装置は、前記第1の実施形態に係る電流供給装置において、トランジスタのベース駆動電圧がローレベルのときに当該トランジスタを遮断領域とすることで損失を大幅に低減するものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と同様の説明は省略する。
【0045】
図10は、本実施形態に係る電流供給装置の回路構成を示す図である。前記第1の実施形態における
図1の場合と異なるのは、トランジスタ3のエミッタ端子とグランドとの間にダイオード20を有することである。ダイオード20のカソード端子は、トランジスタ3のエミッタ端子と第1のコイルL1との結節点に接続され、アノード端子はグランドへ接続されている。ダイオード20は、トランジスタ3のエミッタ端子と第1のコイルL1の結節点との電位が負になるとき、ダイオード20を通して第1のコイルL1に電流を供給できるようにする。
【0046】
トランジスタ3のベース電圧がハイレベル(≒Vp[V])でトランジスタ3がオン状態にある時は第1のコイルL1に電流が供給されるが、ベース電圧がローレベル(≒0[V])になってトランジスタ3がオフ状態に移行しようとするタイミングにおいて第1のコイルL1に電流が流れていると、その電流が不連続にならないように第1のコイルL1の上端の電位はその下端の電位に比べ急激に負へ遷移し電流を保とうとする。本実施形態においては、この急激な電位変化によってダイオード20がオンとなり電流の連続性が保たれる。一方、第1の実施形態に係る電流供給装置の場合、この期間はトランジスタ3が能動領域で導通するため、必要とする励磁電力の大きさによっては電力損失や発熱などの問題が生じてしまう場合がある。そのため、本実施形態においては、上述したダイオード20を有する構成とすることで、ドランジスタ3のエミッタ端子と第1のコイルL1との結節点の電位が負になる場合であっても、ダイオード20を通して第1のコイルL1に電流を供給でき、損失を大幅に低減することが可能となる。
【0047】
以下、ダイオード20として順方向電位降下が小さいショットキーダイオードを用いて各部の電流波形をシミュレーションした。シミュレーションの条件は、
図10の回路において、fd/fr=0.92、k=L1/L2=2.13、R1=2.8kΩ、β=240、インダクタL1のQ値がQ1=30、インダクタL2のQ値がQ2=9、ベースドライブの矩形波はデューティ比=0.5とした。ここに、Q1=ωL1/rで、rは角周波数ωでのインダクタL1の損失を表す等価直列抵抗である。またQ2=ωL2/R2である。L2の損失はR2に含ませている。このシミュレーションの結果を
図11に示す。
図11(A)はトランジスタ3のコレクタ電流波形、
図11(B)はダイオード20を流れる電流波形、
図11(C)は第1のコイルL1を流れる電流波形である。なお、時間軸の0はデータの抽出を開始したタイミングであり、シミュレーションを開始した時点を表すものでは無い。
【0048】
トランジスタ3のコレクタ電流の導通期間は、ベース電流がハイレベルの期間であり、ダイオード20の導通期間は、ベース電流がローレベルの期間である。それぞれの導通期間における電流を足し合わせたものが第1のコイルL1に流れる電流であり、これは
図11(A)の電流波形と
図11(B)の電流波形を足し合わせて
図11(C)の電流波形となることを目視で確認することができる。
【0049】
図11のシミュレーションにおいて、負荷抵抗R2に流れる電流波形を
図12に示す。平均値(直流レベル)が交流成分の振幅より大きく波形はユニポーラーになっている。すなわち、負荷抵抗R2の代わりにこれと同程度の抵抗値を持つ基本波型直交フラックスゲートのセンサヘッドを接続することで、当該基本波型直交フラックスゲートに最適な励磁電流とすることができる。
【0050】
次に、前記第1の実施形態における
図1の回路構成の場合と、本実施形態における
図10の回路構成の場合とで電力損失の比較を行った。ほぼ同様の直流重畳周期波形電流を得るために、
図1の回路においてR1=1000Ω、fd/fr=0.95とし、その他のパラメータについては本実施形態における上記定数と同じにしてシミュレーションを行った。その結果を
図13に示す。
図13に示すように、
図1の回路構成において、本実施形態に係る
図12の電流波形とほぼ同様の電流波形が生成されていることがわかる。
【0051】
このような条件下において、
図1の回路構成及び
図10の回路構成のそれぞれにおけるトランジスタ3のスイッチング損失波形を
図14に示す。
図14(A)が
図1の回路構成におけるトランジスタ3のスイッチング損失波形で、
図14(B)が
図10の回路構成におけるトランジスタ3のスイッチング損失波形である。
図14(A)の場合はスイッチング損失の平均が0.347(W)であり、トランジスタ3のベース駆動電圧がローレベルのときに大きな損失が発生している。これは、上述したように、能動領域での電流の導通によるものである。トランジスタ3のベース駆動電圧がハイレベルの時はトランジスタ3が飽和時の導通損失であり、その主要部はトランジスタ3のオン抵抗にコレクタ電流を乗じたものからなる。
【0052】
一方、
図14(B)においてはスイッチング損失の平均が0.132(W)であり、トランジスタ3のベース駆動電圧がローレベルの時は、トランジスタ3が遮断領域にあり損失が発生しない。トランジスタ3のベース駆動電圧がハイレベルの時は、トランジスタ3が飽和時の導通損失のみからなる。その結果、
図14から明らかなように、本実施形態における回路構成においては大幅な損失低減ができる。
【0053】
次に、直流電源2から供給される電力について比較する。
図15は直流電源2からの供給電力の時間変化を示すグラフであり、
図15(A)が
図1の回路構成の場合、
図15(B)が
図10の回路構成の場合を示している。
図15(A)では直流電源2からの供給電力の平均が0.478(W)で、
図15(B)では直流電源2からの供給電力の平均が0.276(W)となっている。これらの比較から明らかなように、本実施形態に係る
図10の回路構成においては、供給電力の大幅な低減が見込まれる。
【0054】
このように、本実施形態に係る電流供給装置においては、トランジスタ3によるスイッチング損失を大幅に低減することができ、前記第1の実施形態における回路構成の58%程度の電力供給で同等の直流重畳周期波形電流を生成することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 電流供給装置
2 直流電源
3 トランジスタ
5 LC共振回路
6 矩形波発生回路
9 第1の端子
10 第2の端子
20 ダイオード
C1 コンデンサ
L1 第1のコイル
L2 第2のコイル
R1,R2 抵抗