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2023-59159常温硬化型2液コーティング組成物、防水剤及び防水工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059159
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】常温硬化型2液コーティング組成物、防水剤及び防水工法
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/08 20060101AFI20230419BHJP
【FI】
C09D175/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169122
(22)【出願日】2021-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】392035064
【氏名又は名称】保土谷建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
(72)【発明者】
【氏名】前畑 国光
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DG131
4J038DG271
4J038NA07
4J038NA25
4J038NA26
4J038PB05
(57)【要約】
【課題】十分な長さの可使時間を有する常温硬化型2液コーティング組成物を提供すること。
【解決手段】ウレタンプレポリマーを含む主剤と、硬化剤とから構成され、ウレタンプレポリマーはポリオールとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物であり、ポリオールは1分子当たりの水酸基数が2以上のポリオキシアルキレンポリオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールは除く)を少なくとも含有しており、ポリオキシアルキレンポリオールのうち1分子当たりの水酸基数が2のもの(2官能PPG)と1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比が当量比で0.16未満であり、2官能PPGの数平均分子量は1500未満であり、ポリオールの水酸基の全量に対するイソホロンジイソシアネートのイソシアネート基の全量の当量比は1.85未満である、常温硬化型2液コーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンプレポリマーを含む主剤と、硬化剤とから構成され、
前記ウレタンプレポリマーは、ポリオールと、イソホロンジイソシアネートとの反応生成物であり、
前記ポリオールは、1分子当たりの水酸基数が2以上のポリオキシアルキレンポリオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールは除く)を少なくとも含有しており、該ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比が当量比で0.16未満であり、
前記ポリオキシアルキレンポリオールのうち1分子当たりの水酸基数が2のものの数平均分子量は、1500未満であり、
前記ポリオールの水酸基の全量に対する、前記イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基の全量の当量比は、1.85未満である、常温硬化型2液コーティング組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の常温硬化型2液コーティング組成物からなる、防水剤。
【請求項3】
基材上に、請求項2に記載の防水剤の硬化物を形成する工程を備える、防水工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温硬化型2液コーティング組成物、防水剤及び防水工法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン製の防水材(塗膜防水材)は、建物の屋上、ベランダ、廊下等の防水材として使用され、更には、塗床材、スポーツ施設の弾性舗装等の用途にも広く使用されている。ポリウレタン製の防水材としては、例えば、イソシアネート基末端プレポリマーを含む主剤を硬化剤と混合して塗工し、硬化させることによって得られる防水材が知られている。特許文献1には、ポリイソシアネートを主成分とする主剤と、芳香族ポリアミンおよび可塑剤を含有する硬化剤とを、常温で混合、塗工して硬化せしめるポリウレタン塗膜材の製造方法において、ポリイソシアネートとしてイソシアネート末端プレポリマーを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-17819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述したイソシアネート基末端プレポリマーを用いた場合、主剤と硬化剤との反応が早すぎて、手塗り用ウレタンゴム系塗膜防水材としては、可使時間を確保する事が難しい場合がある。
【0005】
そこで本発明は、十分な長さの可使時間を有する常温硬化型2液コーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ウレタンプレポリマーを含む主剤と、硬化剤とから構成され、上記ウレタンプレポリマーは、ポリオールと、イソホロンジイソシアネートとの反応生成物であり、上記ポリオールは、1分子当たりの水酸基数が2以上のポリオキシアルキレンポリオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールは除く)を少なくとも含有しており、上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比が当量比で0.16未満であり、上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち1分子当たりの水酸基数が2のものの数平均分子量は、1500未満であり、上記ポリオールの水酸基の全量に対する、上記イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基の全量の当量比は、1.85未満である、常温硬化型2液コーティング組成物を提供する。ここで、「常温硬化型」とは、外部より熱を加えず、外気温(例えば0℃~45℃)で硬化することを意味する。このような常温硬化型2液コーティング組成物は、十分な長さの可使時間を有する。
【0007】
本発明はまた、上記常温硬化型2液コーティング組成物からなる、防水剤を提供する。このような防水剤は、十分な長さの可使時間を有する。
【0008】
本発明はまた、基材上に、上記防水剤の硬化物を形成する工程を備える、防水工法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、十分な長さの可使時間を有する常温硬化型2液コーティング組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本発明において、数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される値を意味し、以下の条件で測定することができる。
装置:TOSOH HCL-8320(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000H+G2500H(7.5mmI.D×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:RI
溶離液:THF
注入量:100μL
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3wt/vol%
【0012】
ウレタンプレポリマーは、ポリオールと、イソホロンジイソシアネートとの反応生成物であり、上記ポリオールは、1分子当たりの水酸基数が2以上のポリオキシアルキレンポリオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールは除く)を少なくとも含有しており、上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比が当量比で0.16未満であり、上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち1分子当たりの水酸基数が2のものの数平均分子量は、1500未満であり、上記ポリオールの水酸基の全量に対する、上記イソホロンジイソシアネートのイソシアネート基の全量の当量比は、1.85未満である。
【0013】
1分子当たりの水酸基数が2以上のポリオキシアルキレンポリオール(ポリテトラメチレンエーテルグリコールは除く)は、(以下、単に「ポリオキシアルキレンポリオール」ともいう。)の数平均分子量は、300以上とすることができ、400以上が好ましく、500以上がより好ましい。ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量がこの範囲にあると、主剤及び硬化剤の混合物が硬化して得られる硬化物の破断時の伸び率が向上する。ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量は、6000以下とすることができ、5000以下が好ましく、4000以下がより好ましい。ポリオキシアルキレンポリオールの数平均分子量がこの範囲にあると、主剤及び硬化剤の混合物が硬化して得られる硬化物の引張強さ、抗張積及び引裂強さがより向上する。ポリオキシアルキレンポリオールのうち1分子当たりの水酸基数が2のものの数平均分子量は、1500未満である。
【0014】
ポリオキシアルキレンポリオールのうち、上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比は当量比で0.16未満であり、0.15以下又は0.14以下とすることができる。上記ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比は、当量比で0以上、0.025以上又は0.05以上とすることができる。ポリオキシアルキレンポリオールのうち、1分子当たりの水酸基数が2のものと、1分子当たりの水酸基数が3以上のものとの合計に対する1分子当たりの水酸基数が3以上のものの比が上記の範囲にあると、可使時間がより長くなる。
【0015】
ポリオキシアルキレンポリオールは、2~6官能とすることができる。ここで、2~6官能とは、1分子中に2~6の水酸基を有することをいう。これらのポリオキシアルキレンポリオールは、好ましくは2~3官能であり、2官能のもの(例えばポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシプロピレンジオールのエチレンオキシド付加物等)だけを用いることもできる。また、2官能のポリオキシアルキレンポリオール(例えばポリオキシエチレンジオール、ポリオキシプロピレンジオール、ポリオキシプロピレンジオールのエチレンオキシド付加物等)と3官能のポリオキシアルキレンポリオール(例えばポリオキシプロピレントリオール、ポリオキシプロピレントリオールのエチレンオキシド付加物等)との混合物とすることもできる。なお、分子形状は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0016】
ポリオールは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを含まず、ポリオキシアルキレンポリオール以外に、他のポリオール成分を含有してもよい。他のポリオール成分は、例えば、炭素数2~20の多価アルコール、炭素数2~20の多価アルコール若しくは炭素数6~26の多価フェノールに炭素数2~4のアルキレンオキサイドが付加されたポリオキシアルキレンポリオール(上述のPTMG及びポリオキシアルキレンポリオールを除く)、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリジエンポリオール(ポリブタジエンポリオール等)、ポリジエンポリオールの水添物、アクリル系ポリオール、天然油系ポリオール(ヒマシ油等)又は天然油系ポリオールの変性物とすることができる。
【0017】
ポリオールの水酸基(OH基)の全量に対する、IPDIのイソシアネート基(NCO基)の全量の当量比(NCO基/OH基)は、1.66以上であり、1.68以上とすることができる。NCO基/OH基がこの範囲にあると、主剤の取り扱いが容易になる粘度を得ることができる。NCO基/OH基は、1.85未満であり、1.75以下又は1.70以下とすることができる。NCO基/OH基がこの範囲にあると、より長い可使時間が得られる。
【0018】
ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基の含有量は、0.7質量%以上、0.9質量%以上又は1.0質量%以上とすることができる。イソシアネート基の含有量がこの範囲にあると、主剤及び硬化剤の混合物が硬化して得られる硬化物の引張強さ、抗張積及び引裂き強さがより向上する。ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基の含有量は、7.0質量%以下、6.0質量%以下又は5.0質量%以下とすることができる。イソシアネート基の含有量がこの範囲にあると、可使時間を長く保つことができ、コストも抑えられる傾向にある。
【0019】
ウレタンプレポリマーは、例えば、ポリオールに所定の当量比でIPDIを加え、加熱混合することにより反応させて得ることができる。
【0020】
ポリオール及びIPDIの反応温度(加熱温度)は、100℃以下、90℃以下又は80℃以下とすることができる。反応温度(加熱温度)の下限は特に限定されないが、例えば30℃以上とすることができる。
【0021】
ポリオール及びIPDIの反応時間は、0.5~7時間とすることができる。
【0022】
ポリオール及びIPDIの混合と同時又はその前後のタイミングで、触媒を混合してもよい。触媒としては、例えば、有機酸、有機酸金属塩、酸無水物、イミダゾール化合物等のウレタン化触媒(ウレタン化反応促進剤)を使用することができる。有機酸としては、例えば、プロピオン酸、2-メチルペンタン酸、イソノナン酸、2-エチルヘキサン酸、ネオデカン酸、ナフテン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、有機酸金属塩としては、亜鉛塩、ビスマス塩、マグネシウム塩、ジルコニウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、銅塩等が挙げられる。触媒としては、ジブチルスズジラウレートや、ジオクチルスズラウレートといったスズ塩を用いることが好ましい。
【0023】
主剤は、主剤及び後述する硬化剤を混合した際の粘度調整等のために、ウレタンプレポリマーの他に、粘度調整剤として可塑剤、溶剤等を更に含むことができる。主剤は、IPDIのイソシアネート基とポリオールの水酸基とを効率的に反応させるための触媒及び/又は遅延剤を更に含むことができる。主剤は、主剤及び硬化剤の混合物が硬化して得られる硬化物の仕上りや、耐久性、他材との密着性等を向上させるための添加剤を含むことができる。
【0024】
主剤に含まれ得る可塑剤としては、シクロヘキサン誘導体(1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニルエステル(DHIN)、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ビス(2-エチルへキシル)(DHEH)等)、脂肪族二塩素酸エステル類(アジピン酸ジイソノニル(DINA))、テレフタル酸ジエステル(DOTP)、リン酸エステル類、トリメリット酸エステル類、セバシン酸エステル類、エポキシ脂肪酸エステル類、グリコールエステル類、動物油系脂肪酸エステル類、石油・鉱物油系可塑剤、アルキレンオキシド重合系可塑剤、フタル酸ジエステル類(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジノルマルオクチル(DNOP))等を使用することができる。可塑剤としてフタル酸ジエステル類を使用しない場合、人体及び環境により配慮した、より安全な常温硬化型2液コーティング組成物を得ることができる。
【0025】
上述した可塑剤、溶剤、触媒、遅延剤、添加剤等の合計含有量は、主剤の総質量を基準として、0~25質量%とすることができ、0~20質量%とすることができる。
【0026】
主剤の23℃における粘度は、1000mPa・s以上とすることができ、3000mPa・s以上が好ましく、5000mPa・s以上がより好ましく、6000mPa・s以上が更に好ましい。主剤の粘度がこの範囲にあると、硬化物(塗膜)の一定の膜厚を確保しやすくなる。主剤の23℃における粘度は、20000mPa・s以下とすることができ、18000mPa・s以下が好ましく、15000mPa・s以下がより好ましい。主剤の粘度がこの範囲にあると、主剤の取り扱いが容易になり、結果として主剤及び硬化剤の混合物を塗布しやすくなる。主剤の粘度は、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、回転粘度計を用いて測定することができる。
【0027】
硬化剤は、多価アルコール等のヒドロキシル化合物、ポリアミン等の架橋剤を含有することができる。ポリアミンとしては、例えば、ジエチルトルエンジアミン(2,4-ジエチルトルエンジアミン、2,6-ジエチルトルエンジアミン)、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、2,4-トリレンジアミン、2,6-トリレンジアミン、MOCA系ポリアミン(MOCA及び変性MOCA)、ポリアルキレンエーテルポリオール-p-アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンエーテルグリコールアミノベンゾエート、1,3,5-トリイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-メチル-3,5-ジイソプロピル-2,6-ジアミノベンゼン、1-エチル-3,5-ジイソプロピル-2,4-ジアミノベンゼン、1-エチル-3,5-ジイソプロピル-2,6-ジアミノベンゼン、メチレンビス(メチルチオ)ベンゼンジアミン、N,N’-ジセカンダリーブチル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ビス(sec-ブチルアミン)ジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトライソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジイソブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジイソプロピル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-5,5’-ジイソブチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン、N,N’ジ-sec-ブチル4,4‘-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、ノルボルネンジアミン、N,N‘-(ジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイル)-ビスアスパラギン酸テトラエチルエステル等の脂環式ポリアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、トリアミノプロパン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N‘-(2-メチルペンタン-1,5-ジイル)-ビスアスパラギン酸テトラエチルエステル、ポリオキシアルキレンアミン、ポリエーテルアミン等の脂肪族ポリアミンを用いることができる。これらの架橋剤は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。硬化剤は、架橋剤として、好ましくは芳香族ポリアミンを含有し、より好ましくはジエチルトルエンジアミン(以下、「DETDA」ともいう。)を含有する。架橋剤としてDETDAを含有する場合、安全性が高いため製造や使用に際しての制約を受けない。
【0028】
硬化剤中に含まれる架橋剤の、硬化剤の全質量基準での含有量は、1~10質量%とすることができ、2~8質量%とすることができる。
【0029】
硬化剤は、架橋剤の他に、可塑剤;溶剤;触媒;炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、タルク、カオリン、シリカ、ベントナイト、ゼオライト、ケイソウ土等の無機充填材;酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;湿潤剤、分散剤、沈降防止剤、光安定剤、消泡剤、表面調整剤、密着付与剤、耐候性付与剤等の添加剤などを更に含有することができる。無機充填剤としては、炭酸カルシウムが好ましい。炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、表面処理コロイダル炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0030】
上述した主剤及び硬化剤を混合することにより、混合物が硬化し、塗膜(「防水材」とも称す。以下同様。)を得ることができる。本実施形態に係る防水剤は、引張強さ、引裂強さ、抗張積及び破断時の伸び率に優れ、高強度且つ高伸長な塗膜を形成可能である。また、本実施形態に係る防水剤で得られる塗膜は、人体及び環境に配慮した安全なものである。
【0031】
本実施形態に係る防水工法は、基材上に上述した防水剤の硬化物を形成する工程を備えている。この防水工法は、防水剤の主剤と硬化剤とを混合する混合工程と、硬化物(「塗膜」又は「防水材」に相当する。)を形成させるために、混合物を基材上に塗布する塗布工程を備えていてもよい。
【0032】
混合工程において、主剤及び硬化剤を混合する際の温度(環境温度)は、例えば-5~45℃とすることができる。
【0033】
主剤及び硬化剤の混合比は、質量比で1:1~4とすることができ、1:1~3が好ましく、1:1がより好ましい。
【0034】
硬化剤が架橋剤を含有する場合、硬化剤は、主剤中のNCO基含有量に対する架橋剤の活性水素基の当量比が、0.8以上、0.9以上、又は1.0以上となるように主剤と混合されてよい。硬化剤は、主剤中のNCO基含有量に対する架橋剤の活性水素基の当量比が、1.5以下、1.3以下、又は1.2以下となるように主剤と混合されてよい。
【0035】
硬化剤がポリアミンを含む場合、混合工程において主剤及び硬化剤を混合する際には、硬化剤に含まれるアミノ基(NH基)に対する、主剤中のNCO基の当量比(NCO基/NH基)を、0.8以上とすることができ、0.9以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。NCO基/NH基がこの範囲にあると、未反応のポリアミンが硬化物表面にブリードすることによる変色が起きにくくなる。NCO基/NH基は、1.5以下とすることができ、1.3以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。NCO基/NH基がこの範囲にあると、引張強さ、引裂強さ及び抗張積により優れた硬化物を得ることができる。
【0036】
塗布工程では、主剤及び硬化剤の混合物が硬化する前に、この混合物を基材に塗布する。基材は特に限定されず、家屋又はビルディング等の建築物における壁面、床面等とすることができる。本実施形態に係る主剤及び硬化剤の混合物は、十分な可使時間を得ることも可能であり、この場合、特に手塗りによる塗布(手塗り塗工)に適している。手塗りとは、コテ、ヘラ、ローラー、刷毛等を用いて人の手で基材に塗布することを意味する。すなわち、混合工程においては、手塗り塗工を実施することができる。手塗りによる塗布には、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等の自動混合装置などの機械による塗布、ローラー、リシンガン、エアレスガン、刷毛等の道具を使用した塗布も含まれる。なお、本実施形態に係る混合物を、手塗り塗工以外の方法、例えばスプレーによって基材に塗布(スプレー塗工)することが妨げられるわけではない。
【0037】
主剤及び硬化剤の混合物を、基材に、この混合物が硬化して得られる硬化物の厚さが0.1~10.0mmとなるように塗布することができる。
【0038】
本実施形態に係る常温硬化型2液コーティング組成物によれば、例えば、主剤及び硬化剤の混合物の23℃における粘度が60,000mPa・sに達するまでに50分以上を要するため、十分に長い可使時間を得られるといえる。本実施形態に係る常温硬化型2液コーティング組成物においては、主剤及び硬化剤の混合物の23℃における粘度が60,000mPa・sに達するまで55分以上かかると、可使時間の点でより好ましい。
【0039】
従来、可使時間を長くすると、主剤及び硬化剤の混合物を塗布してから、引張強さ等の強度が十分に発現するまでに時間がかかることがあった。具体的には、JIS A 6021:2011「建築用塗膜防水材」において定められる、引張性能についての高強度形及び高伸長形の両方の基準(引張強さ(Tb)が10N/mm以上、破断時の伸び率(Eb)が450%以上、引裂強さ(Tt)が30N/mm以上、抗張積(Tp)が700N/mm以上)を満たすまでに、7日超かかることがあった。一方で、本実施形態に係る常温硬化型2液コーティング組成物の硬化物は、上記の高強度形及び高伸長形の両方の基準を、主剤及び硬化剤の混合物を塗布してから7日以内で満たすことができる。
【0040】
上述した方法によって得られる防水材は、防水材の用途以外にも、高強度性能、高負荷性能が要求されるスポーツ施設等の床材、建築物等の被覆材、更には防錆材などの用途にも使用することができる。なお、用途によっては、作業性に応じてキシレン等の有機溶剤を混合物に加えてから施工することも可能である。
【0041】
基材の種類に関わらず、基材と塗膜との両方に接着性を示すプライマー層を、基材と塗膜との間に設けることが好ましい。例えば、基材がモルタル、コンクリート、ALC及び合板であれば、ウレタン樹脂系プライマーもしくはエポキシ樹脂製プライマーが好ましく、代表例としてHCプライマーCB30又はCB30III、HCプライマーEPO(保土谷建材株式会社製)が挙げられる。例えば、基材が石材、ガラス、磁器タイル、鉄、アルミニウム、ステンレス、亜鉛鉄板、銅板、FRP、エポキシ樹脂であれば、ウレタン樹脂製プライマーもしくはエポキシ樹脂製プライマーが好ましく、代表例としてMS-60及びエポキシ樹脂製プライマーであるHCプライマーEPO(保土谷建材株式会社製)が挙げられる。例えば、基材が塩化ビニルであれば、ウレタン樹脂製プライマーを用いることが好ましく、代表例としてミリオネートMS-60(保土谷建材株式会社製)が挙げられる。例えば、基材が鉛であれば、エポキシ樹脂製プライマーを用いることが好ましく、代表例としてHCプライマーEPO(保土谷建材株式会社製)が挙げられる。例えば、基材がEPDMゴムシートであれば、クロロプレン系樹脂プライマーが好ましく、代表例としてミリオネートMS-70(保土谷建材株式会社製)が挙げられる。人体及び環境に配慮したプライマーとしては、有機溶剤無配合、特定化学物質無配合であるエポキシ樹脂製プライマーが好ましく、代表例としてHCプライマーEPOが挙げられる。
【0042】
本実施形態に係る防水工法によって、基材と、基材上に形成された硬化物(「塗膜」又は「防水材」に相当する。)とを備える防水構造を得ることができる。このような防水構造は、硬化物の基材とは反対側の表面上に、トップコート層を更に備えることができる。この場合、直射日光を避けることができ、意匠性を上げることも可能である。トップコート層には、例えば、アクリルウレタン樹脂製トップコートを用いることが好ましく、代表例としてHCエコトップが挙げられる。また人体や環境への影響を配慮した特定化学物質を含まず、有機溶剤中毒予防則に適合しない、アクリルウレタン樹脂製トップコートを用いることがさらに好ましい。代表例としてHCエコトップゼロ、HCエコトップゼロクール(保土谷建材株式会社製)等が挙げられる。
【実施例0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
以下の表において、表中の略称は以下の成分を示す。
(1)PPG-D700:ポリプロピレングリコール(数平均分子量700、商品名「アクトコール D-700」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(2)PPG-D1000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量1000、商品名「アクトコール D-1000」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(3)PPG-D2000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量2000、商品名「アクトコール D-2000」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(4)PPG-T400:ポリプロピレングリコール(数平均分子量400、商品名「アクトコール T-400」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(5)PPG-T1500:ポリプロピレングリコール(数平均分子量1500、商品名「アクトコール T-1500」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(6)PPG-T3000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量3000、商品名「アクトコール T-3000」、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
(7)PPG-T5000:ポリプロピレングリコール(数平均分子量5000、商品名「ハイフレックス G-5000」、第一工業製薬(株)製)
(8)BPX-33:ビスフェノールA・プロピレンオキシド付加物(数平均分子量、商品名「アデカポリエーテルBPX-33」、株式会社ADEKA製)
(9)IPDI:イソホロンジイソシアネート(商品名「VESTANAT IPDI」、EVONIC社製)
(10)MPO:2-メチル-1,3-プロパンジオール(大連化学工業社製)
(11)IPソルベント1620:イソパラフィン系溶剤(出光興産株式会社製)
(12)DINP:フタル酸ジイソノニル(商品名「DINP」、シージーエスター株式会社製)
(13)DINA:アジピン酸ジイソノニル(商品名「DINA」、田岡化学工業株式会社製)
(14)DBTDL:ジブチル錫ジラウレート(商品名「ネオスタンU-100」、日東化成株式会社製)
(15)DETDA:ジエチルトルエンジアミン(「エタキュアPLUS」、アルベマール・コーポレーション社製)
(16)炭カル特級:炭酸カルシウム(三共精粉株式会社製)
【0045】
(実施例1)
<主剤の調製>
撹拌機、温度計、冷却器及び窒素シール管を備えた、1リットルのガラスコルベンに、PPG-D700を20.0質量部、PPG-D1000を42.3質量部、DINAを3.8質量部仕込み、95~105℃で1時間、減圧脱水を実施した。窒素シールした後、液温が40℃以下になるまで冷却し、窒素気流下で触媒であるDBTDLを0.0025質量部加えて均一化した。その後、IPDI 26.3質量部を徐々に加え、反応が完結するまで、撹拌しながら70℃で3.5時間加熱した。反応後の液体を室温まで冷却し、粘度調整剤としてIPソルベント1620を7.5質量部加え撹拌しながら均一化して、主剤を得た。
【0046】
<主剤のNCO濃度の測定>
300ml三角フラスコに得られた主剤約0.3gを秤量し、0.2mol/L ジ-n-ブチルアミントルエン溶液15mlに加えて溶解混合する。ブロモフェノールブルー数滴とメタノール約100mlとを加え、得られた混合液を、0.1N 塩酸溶液で滴定した。NCO濃度(質量%)は下記の式により算出することができる。
NCO濃度(質量%)=(42×(ブランク滴定値-0.1mol/L 塩酸溶液滴定値)×0.1mol/L 塩酸溶液ファクター×0.1×100)÷(サンプル質量×1000)
【0047】
<主剤中の当量比>
主剤の原料の当量(eq)は、各原料が有する反応基一個あたりの分子量であり、使用量を一当量あたりの分子量で割ると、当量が算出される。
【0048】
<低温貯蔵安定性(低温貯蔵性)の評価>
容量30mLのサンプル瓶に主剤を20g封入し、温湿度試験槽(商品名「HIFLEX NEO FX―411N」、楠本化成(株))に入れて、-20℃で1日以上貯蔵した。貯蔵した主剤の外観を観察し、透明で液状である場合を「A」、一部曇りがあるが液状である場合を「B」、液状であるが白濁している場合を「C」、流動性はあるが一部凝固している場合を「D」、固化している場合を「E」と判断した。
【0049】
<硬化剤の調整>
DETDA 7.73質量部、DINP28.94質量部、添加剤 2.11質量部、及び、炭カル特級 61.22質量部を、2Lの円筒型の上部開放金属容器に仕込み、室温でディゾルバーにて60分間攪拌混合して硬化剤を得た。
【0050】
<塗膜(硬化物)の作製>
得られた主剤及び硬化剤を、質量比が主剤:硬化剤=1:1となるように、室温23℃且つ湿度50%の恒温恒湿室において攪拌混合した。得られた攪拌混合物を、剥離処理された基板に厚さ2mmとなるように塗布した後、上述の恒温恒湿室において7日間養生して塗膜(硬化物)を得た。
【0051】
<塗膜(硬化物)の硬化性評価>
主剤と硬化剤とを混合してから16時間後の混合物については、塗膜(硬化物)上の歩行や次工程の作業を想定して、指触によって硬化性の評価を行った。塗膜(硬化物)上の歩行に支障がないと判断した場合を「A」、重量物等を持たず塗膜(硬化物)の上をゴム底製の靴やスリッパなどを履いた状態で歩行可能だと判断した場合を「B」、歩行には不向きであるが荷重を分散させる敷板などを用いる事で歩行が可能と判断した場合を「C」、塗膜(硬化物)の硬化が実用に耐えがたいと判断した場合を「D」とした。
【0052】
<可使時間、混合初期粘度の評価>
上述した室温23℃且つ湿度50%の恒温恒湿室において、JIS K 7301:1995の「熱硬化性ウレタンエラストマー用トリレンジイソシアネート型プレポリマー試験方法 6.2粘度」に準じて、主剤及び硬化剤を混合した時点の粘度を、回転粘度計(東機産業株式会社BH II形)を用いて測定した(混合初期粘度)。また、主剤及び硬化剤を混合した時点から、粘度が20,000mPa・s、60,000mPa・s又は100,000mPa・sに到達するまでの時間を可使時間として測定した。
【0053】
<塗膜(硬化物)のブリードの有無の評価>
上述の主剤と硬化剤とを混合及び塗布して得られた塗膜(硬化物)に、可塑剤等による滲みが発生した場合、ブリード「有」と判断し、変色や可塑剤等の滲みが無い場合、ブリード「無」と判断した。
【0054】
<塗膜(硬化物)の引張及び引裂性能評価>
塗膜(硬化物)の、引張強さ(Tb)、破断時の伸び率(Eb)、引裂強さ(Tt)、抗張積(Tp)は、JIS A 6021:2011「建築用塗膜防水材」(試験時温度:23℃)に基づいて測定した。ここで、引張応力は、塗膜(硬化物)に規定の伸びを与えたときの応力である。
【0055】
製造した塗膜(硬化物)を更に7日間養生した後、引張強さ(Tb)、破断時の伸び率(Eb)、抗張積(Tp)を、JIS A 6021:2011「建築用塗膜防水材」(試験時温度:23℃)に基づいて測定した。
【0056】
<塗膜(硬化物)の硬度評価>
主剤と硬化剤とを混合してから7日間養生して得られた塗膜(硬化物)の硬度、塗膜(硬化物)を更に7日間養生した後の硬度を測定した。硬度は、デュロメータ タイプA(高分子計器株式会社製)又はデュロメータ タイプD(上島製作所)を用いJIS K 6253に基づいて測定した。なお、表では、デュロメータ タイプAで測定した硬度を(JIS A)と表し、デュロメータ タイプDで測定した硬度を(JIS D)と表した。
【0057】
(実施例2~11及び比較例1~7)
実施例2~11及び比較例1~7についても、表1~3に示す組成(質量部)で、実施例1と同じ手順で塗膜(硬化物)を作製し、各種測定を行った。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】