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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005918
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/028 20060101AFI20230111BHJP
【FI】
H01S5/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108187
(22)【出願日】2021-06-29
(71)【出願人】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 真治
(72)【発明者】
【氏名】北川 英夫
(72)【発明者】
【氏名】岡口 貴大
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AB43
5F173AB46
5F173AH22
5F173AL03
5F173AL05
5F173AL13
5F173AL14
5F173AL19
5F173AP60
5F173AR68
5F173AR96
(57)【要約】
【課題】信頼性が向上された窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子10は、互いに対向する2つの共振器面160、161を有する窒化物半導体100と、2つの共振器面160、161のうちの少なくとも一方の共振器面に積層された誘電体多層膜を有する。例えば、共振器面160に積層された誘電体多層膜200は、共振器面160に積層された誘電体膜201と、誘電体膜201に積層された誘電体膜202とを有する。誘電体膜201は、アルミニウム酸窒化物からなる。誘電体膜202は、アルミニウム酸化物からなる。誘電体膜201は、結晶膜である。誘電体膜201には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。誘電体膜202には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの共振器面を有する窒化物半導体と、
前記2つの共振器面のうちの少なくとも一方の共振器面に積層された第一の誘電体膜と、前記第一の誘電体膜に積層された第二の誘電体膜とを有する誘電体多層膜と、を備え、
前記第一の誘電体膜は、アルミニウム酸窒化物からなり、
前記第二の誘電体膜は、アルミニウム酸化物からなり、
前記第一の誘電体膜は、結晶膜であり、
前記第一の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されており、
前記第二の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記誘電体多層膜は、前記少なくとも一方の共振器面と前記第一の誘電体膜との間に配置されるSiN又はSiONからなる第一の光学膜を有する
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記第一の誘電体膜は、酸素濃度が2atom%以上であり、且つ、13.4atom%以下である
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記誘電体多層膜は、
前記第二の誘電体膜に積層された第三の誘電体膜と、前記第三の誘電体膜に積層された第四の誘電体膜と、を有し、
前記第三の誘電体膜は、アルミニウム酸窒化物からなり、
前記第四の誘電体膜は、アルミニウム酸化物からなり、
前記第三の誘電体膜は、少なくとも一部が結晶化されており、
前記第三の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されており、
前記第四の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている
請求項1~3のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記誘電体多層膜は、前記第一の誘電体膜、前記第二の誘電体膜、前記第三の誘電体膜、又は、前記第四の誘電体膜の少なくともいずれかに積層されたシリコン酸化物からなる第二の光学膜を備える
請求項4に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記第二の光学膜は、前記誘電体多層膜に含まれる複数の膜の中で前記少なくとも一方の共振器面から最も離れた位置に位置する
請求項5に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項7】
前記第三の誘電体膜に含まれる結晶は、前記第一の誘電体膜に含まれる結晶とは、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なる
請求項4~6のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項8】
前記誘電体多層膜は、
シリコン酸化物からなる第一のコート膜と、前記第一のコート膜に積層されたアルミニウム酸窒化物からなる第二のコート膜とを組とする多層コート膜が少なくとも2回以上連続して繰り返し成膜されており、
前記第二のコート膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている
請求項1~7のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項9】
前記2つの共振器面のうちの一方の反射率は、90%以上であり、
前記2つの共振器面のうちの他方の反射率は、1%以下である
請求項1~8のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項10】
前記窒化物半導体は、六方晶の結晶構造を有し、
前記少なくとも一方の共振器面は、六方晶の結晶面のうちのm面であり、
前記第一の誘電体膜は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含み、
前記第一の誘電体膜に含まれる結晶のc軸は、前記少なくとも一方の共振器面に対して垂直な方向である
請求項1~9のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項11】
前記窒化物半導体は、六方晶の結晶構造を有し、
前記少なくとも一方の共振器面は、六方晶の結晶面のうちのm面であり、
前記第一の誘電体膜は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む結晶膜であり、
前記第一の誘電体膜は、
c軸が前記少なくとも一方の共振器面に対して平行である第一の結晶層と、
c軸が前記少なくとも一方の共振器面に対して垂直である第二の結晶層と、を含み、
前記第一の結晶層は、前記第二の結晶層よりも前記少なくとも一方の共振器面に近い位置に配置されている
請求項1~9のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項12】
前記窒化物半導体から出射される光の波長は、430nm以下である
請求項1~11のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項13】
前記第一の誘電体膜及び前記第二の誘電体膜における、イットリウムの濃度及びランタンの濃度の和は、各々、0.4atom%以下である
請求項1~12のいずれか1項に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光等の光を出射する窒化物半導体における端面(共振器面)には、窒化物半導体の内部又は外部で光を共振させて窒化物半導体発光素子から光を適切に出射させるために、膜が形成されている(例えば、特許文献1~特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4799339号公報
【特許文献2】特許第5042609号公報
【特許文献3】特開2011-119540号公報
【特許文献4】国際公開第2009/147853号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
窒化物半導体と、当該窒化物半導体の端面に形成される膜とを備える窒化物半導体発光素子においては、信頼性が向上されることが望まれている。
【0005】
本開示は、信頼性が向上された窒化物半導体発光素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る窒化物半導体発光素子は、互いに対向する2つの共振器面を有する窒化物半導体と、前記2つの共振器面のうちの少なくとも一方の共振器面に積層された第一の誘電体膜と、前記第一の誘電体膜に積層された第二の誘電体膜とを有する誘電体多層膜と、を備え、前記第一の誘電体膜は、アルミニウム酸窒化物からなり、前記第二の誘電体膜は、アルミニウム酸化物からなり、前記第一の誘電体膜は、結晶膜であり、前記第一の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されており、前記第二の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、信頼性が向上された窒化物半導体発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。
図2図2は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る窒化物半導体の構成を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態に係る窒化物半導体の構成を示す表である。
図5図5は、実施の形態に係る誘電体多層膜の構成を示す表である。
図6図6は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の光出射側の共振器面における反射率の波長依存性を示すグラフである。
図7図7は、実施の形態に係る誘電体多層膜の構成を示す表である。
図8図8は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子の光反射側の共振器面における反射率の波長依存性を示すグラフである。
図9図9は、AlONの光学特性を示すグラフである。
図10図10は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図11図11は、YAlONの405nmにおける光学特性を示すグラフである。
図12図12は、YAlの405nmにおける光学特性を示すグラフである。
図13図13は、実施の形態に係る発光装置の構成を示す図である。
図14図14は、実施の形態に係る誘電体多層膜の反射スペクトルの第1例を示すグラフである。
図15図15は、実施の形態に係る誘電体多層膜の反射スペクトルの第2例を示すグラフである。
図16図16は、実施の形態に係る誘電体多層膜の反射スペクトルの第3例を示すグラフである。
図17図17は、実施の形態に係る発光装置の構成の別の一例を示す図である。
図18図18は、実施の形態の変形例1に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図19図19は、比較例1に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図20図20は、実施の形態の変形例2に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図21図21は、実施の形態の変形例3に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図22図22は、比較例2に係る窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。
図23図23は、比較例2に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図24図24は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図25図25は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。
図26図26は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図27図27は、比較例4に係る窒化物半導体発光素子の構成を示す模式的な断面図である。
図28図28は、比較例4に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
図29図29は、誘電体膜の状態に対する誘電体多層膜の反射率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(本開示の基礎となった知見)
近年、レーザ加工分野及びLDI(Laser Direct Imaging)分野等において、高出力の窒化物半導体発光素子のニーズが拡大している。また、近年、レーザ加工における材料の多様化、並びに、LDIにおける微細化及び汎用化等の観点から、窒化物半導体発光素子が出射する光(例えば、レーザ光)の短波長化が要求されている。また、高出力の光を得るために波長の異なる複数のレーザ光を合波させる波長合波技術が用いられており、特定の波長のレーザ光を出力させるための外部共振技術及び波長合波技術が用いられても高品質な光(例えば、光出力及びスポット形状等の光学特性が安定した光)が要求されることになる。そのため、波長制御及び波長合波のしやすさの観点から、窒化物半導体発光素子が出力(出射)する光の波長が安定していることが要求される。
【0010】
上記のような要求から、窒化物半導体の端面に設けられる膜(誘電体膜)には、高出力な光に耐え得ること、紫外領域の光に耐え得ること、及び、光出射側の端面においては低反射率を維持できること等、光に対して透過率、反射率及び屈折率等の光学特性が変化しにくいことが要求される。
【0011】
図25は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子10Aの構成を示す模式的な断面図である。
【0012】
窒化物半導体発光素子10Aは、例えば、窒化物半導体100と、窒化物半導体100の光出射の端面に設けられた誘電体多層膜200Aと、を備える。
【0013】
誘電体多層膜200Aは、窒化物半導体100の光出射側の端面である共振器面160側から順に、SiN又はSiONからなる誘電体膜206と、AlONからなる誘電体膜201Aと、Alからなる誘電体膜202Aと、AlONからなる誘電体膜203Aと、Alからなる誘電体膜204Aと、SiOからなる誘電体膜205と、を有する。誘電体膜206、201A~204A、及び、205の膜厚はそれぞれ、誘電体膜206が3nmであり、誘電体膜201Aが20nmであり、誘電体膜202Aが13nmであり、誘電体膜203Aが11nmであり、誘電体膜204Aが160nmであり、誘電体膜205が57nmである。また、誘電体膜202A、204A、205は、それぞれ、アモルファス(成膜時)であり、誘電体膜201A、203Aは、それぞれ、少なくとも結晶領域を含む誘電体膜である。
【0014】
図26は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子10AのTEM画像の一例を示す図である。図26は、例えば、ピーク波長が405nmの光を出射する窒化物半導体発光素子10Aを、CW(Continuous Wave)、1.4W(@25℃)で、300時間駆動させた後のTEM画像である。また、本例では、窒化物半導体100のリッジ幅は、7μmである。
【0015】
図26に示すように、アモルファスであった誘電体膜204Aが一部結晶化している。
【0016】
図27は、比較例4に係る窒化物半導体発光素子1000の構成を示す模式的な断面図である。
【0017】
窒化物半導体発光素子1000は、例えば、光を出射する発光層120を有する窒化物半導体100と、窒化物半導体100の共振器面160に設けられた誘電体多層膜2000と、を備える。
【0018】
誘電体多層膜2000は、窒化物半導体100の共振器面160側から順に、AlONからなる誘電体膜2001と、AlNからなる誘電体膜2002と、Alからなる誘電体膜2003と、AlNからなる誘電体膜2004と、SiOからなる誘電体膜2005と、Alからなる誘電体膜2006と、SiOからなる誘電体膜2007と、を有する。誘電体膜2001~2004の膜厚はそれぞれ、誘電体膜2001が3nmであり、誘電体膜2002が18nmであり、誘電体膜2003が13nmであり、誘電体膜2004が11nmである。また、誘電体膜2003、及び、2005~2007は、それぞれ、アモルファス(成膜時)であり、誘電体膜2001、2002、及び、2004は、それぞれ、少なくとも結晶領域を含む誘電体膜である。
【0019】
図28は、比較例4に係る窒化物半導体発光素子1000のTEM画像を示す図である。図28は、例えば、ピーク波長が405nmの光を出射する窒化物半導体発光素子1000を、パルス幅200ns(デューティ比50%)、1.2W(@50℃)で、8500時間駆動させた後のTEM画像である。
【0020】
図28に示すように、アモルファスであった誘電体膜2006が一部結晶化しており、誘電体膜2005と誘電体膜2006との間に元々見られなった剥がれ(隙間)が発生している。
【0021】
このように、窒化物半導体100の共振器面160に設けられる誘電体多層膜2000がアモルファスである場合、誘電体膜同士が反応したり、結晶化することで、誘電体膜の体積が変化したりするため、誘電体膜間又は窒化物半導体と誘電体膜との剥がれ(膜剥がれ)が発生することがある。
【0022】
図29は、誘電体膜2003、2006の状態に対する誘電体多層膜2000の反射率を示す図である。なお、図29に示す「3層目」とは、窒化物半導体100の共振器面160側から誘電体多層膜2000が有する誘電体膜を数えて3層目、つまり、誘電体膜2003(Al膜)を示す。また、図29に示す「6層目」とは、窒化物半導体100の共振器面160側から誘電体多層膜2000が有する誘電体膜を数えて6層目、つまり、誘電体膜2006(Al膜)を示す。また、図29に示すnは、誘電体膜2003、2006の屈折率を示す。具体的には、アモルファスである誘電体膜2003、2006の屈折率は、1.65であり、結晶化された誘電体膜2003、2006の屈折率は、1.76である。50%結晶化とは、誘電体膜2006の一方の半分(例えば、共振器面160側に位置する部分)がアモルファスであり、他方の半分(例えば、共振器面160側とは反対側に位置する部分)が結晶化されていることを示す。
【0023】
図29に示すように、誘電体膜2003、2006がアモルファスであるか結晶化されているかによって、誘電体多層膜2000の反射率が異なる。450nmにおける反射率の変化率は、最大1/5(反射率約15%に対して反射率差3%)であるが、波長が短くなると大きくなる。405nmにおける反射率の変化率は、最大1/3(反射率約6%に対して反射率差2%)である。
【0024】
以上のように、例えば、窒化物半導体から出射される光によってアモルファスである誘電体多層膜が結晶化すると、膜剥がれが発生したり、膜剥がれが発生しなくても反射率等の光学特性が変化したりするために、窒化物半導体発光素子が出射する光の出力等の特性が変化する可能性がある。例えば、窒化物半導体発光素子が外部共振によってレーザ光を出射する素子である場合、駆動中に誘電体多層膜が結晶化することで、外部共振による利得が徐々に低下する。そのため、誘電体多層膜には、光学特性が変化しにくいこと(つまり、安定化)が求められている。言い換えると、窒化物半導体発光素子においては、従来よりも信頼性が向上されることが望まれている。
【0025】
特許文献1に開示されている構造では、アモルファスである誘電体膜が単層であることから反射率制御が困難となる問題がある。
【0026】
特許文献2に開示されている構造では、駆動時間経過とともに結晶である誘電体膜が酸化することにより誘電体膜の屈折率が変化する問題がある。また、結晶性の誘電体膜は、界面に形成されたダングリングボンドに起因して窒化物半導体の共振器面と誘電体膜との密着性が低下する(例えば、膜剥がれが生じやすくなる)問題がある。
【0027】
特許文献3に開示されている構造では、誘電体多層膜における共振器面側から数えて2層目に位置し、Al化合物からなるアモルファスである誘電体膜が光を吸収すること等により変質(結晶化等)してしまう問題がある。
【0028】
特許文献4に開示されている構造では、YAlN結晶からなる誘電体膜を用いており、酸素との結合エネルギーが大きいYを添加することでAlNに比べて酸素バリア性(酸素をトラップする特性)が向上する。そのため、YAlNからなる誘電体膜は、時間経過とともに酸化することにより当該誘電体膜の屈折率が変化する問題がある。
【0029】
本願は、上記問題を鑑み、信頼性が向上された窒化物半導体発光素子を提供する。
【0030】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、及び、構成要素の配置位置や接続形態などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。
【0031】
また、各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺等は必ずしも一致していない。なお、各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0032】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、窒化物半導体の積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔をあけて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに接する状態で配置される場合にも適用される。
【0033】
また、本明細書及び図面において、X軸、Y軸及びZ軸は、三次元直交座標系の三軸を示している。各実施の形態では、Z軸方向を鉛直方向とし、Z軸に垂直な方向(XY平面に平行な方向)を水平方向としている。なお、Z軸の正方向を鉛直上方としている。
【0034】
また、本明細書において、積層とは、2つの層が層状に配置されていることを意味し、2つの層(又は膜)が接触している場合にも接触していない場合にも用いられる。
【0035】
また、本明細書において、窒化物半導体の積層構造における積層方向は、Z軸方向であり、誘電体多層膜の多層膜構造における積層方向は、X軸方向であるとして説明する。
【0036】
(実施の形態)
[構造]
<窒化物半導体発光素子>
図1は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の構成を示す模式的な断面図である。
【0037】
窒化物半導体発光素子10は、光(より具体的には、レーザ光)を出射する窒化物半導体発光素子である。
【0038】
窒化物半導体発光素子10は、光(より具体的には、レーザ光)を出射する窒化物半導体100と、窒化物半導体の共振器面160、161に接触して設けられた誘電体多層膜200、300と、を備える。
【0039】
共振器面160は、光を出射するいわゆるフロント側端面であり、誘電体多層膜(第一の誘電体多層膜)200が配置される。
【0040】
共振器面161は、光を反射するいわゆるリア側端面であり、誘電体多層膜(第一の誘電体多層膜)300が配置される。
【0041】
例えば、共振器面160と共振器面161との間で共振された光が共振器面160から出射される。或いは、窒化物半導体発光素子10が外部共振によってレーザ光を出射する場合には、共振器面161とハーフミラー等の光学系(例えば、後述する図13に示すカプラ450)との間で共振された光が共振器面160から出射される。
【0042】
<窒化物半導体>
窒化物半導体100は、互いに対向する2つの共振器面160、161を有する窒化物系の半導体である。窒化物半導体100は、例えば、複数の半導体層からなる積層体である。本実施の形態では、窒化物半導体100は、窒化物材料の一例である窒化ガリウム系材料で形成される。これにより、例えば、窒化物半導体100への投入電流及び投入電圧を適切に設定することで、370nm以上430nm以下程度の帯域の波長を有し、且つ、光出力がWクラス(例えば、1W以上)であるレーザ光を出射する光学特性を有する窒化物半導体100が実現される。窒化物半導体100から出射される光の波長(つまり、窒化物半導体100の発振波長)は、任意に設定されてよいが、例えば、430nm以下である。より具体的には、窒化物半導体100は、ピーク波長が430nm以下のレーザ光を出射する。
【0043】
例えば、窒化物半導体100は、六方晶の結晶構造を有する。共振器面160、161の少なくとも一方は、六方晶の結晶面のうちのm面である。本実施の形態では、共振器面160、161は、いずれもm面である。
【0044】
なお、窒化物半導体発光素子10の光学特性は、上記に限定されない。例えば、窒化物半導体発光素子10は、窒化物半導体100への投入電流、投入電力、ストライプ幅(リッジ幅)、及び、共振器長等が任意に設定されることで、帯域の波長の光を出力できるように形成されてよい。
【0045】
また、窒化物半導体100は、1個のリッジ部(エミッタ)を有する、いわゆるシングルエミッタでもよいし、複数の(例えば、60個程度の)リッジ部を有する、いわゆるマルチエミッタでもよい。
【0046】
図2は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10のTEM画像を示す図である。図3は、実施の形態に係る窒化物半導体100の構成を示す断面図である。図4は、実施の形態に係る窒化物半導体100の構成を示す表である。
【0047】
図3に示すように、窒化物半導体100は、N側電極101と、基板102と、N型窒化物半導体層110と、発光層120と、P型窒化物半導体層130と、電流ブロック層141と、P側電極(オーミック電極)142と、パッド電極143と、を有する。
【0048】
N側電極101は、基板102の下面に配置される電極である。N側電極101は、例えば、基板102側から順にTi、Pt及びAuが積層された積層膜である。
【0049】
基板102は、窒化物半導体100の基材となる板状部材である。本実施の形態では、基板102は、厚さ85μmのn型のGaN単結晶基板である。
【0050】
N型窒化物半導体層110は、基板102の上面に配置(つまり、積層)されるN型の半導体層である。
【0051】
N型窒化物半導体層110は、Nクラッド層111と、Nガイド層112と、を有する。
【0052】
Nクラッド層111は、基板102に積層され、AlGaNからなる層である。例えば、Nクラッド層111は、膜厚が3μmでn型のドーパント(不純物)であるSiの濃度が1×1018cm-3のN型のAlGaN層からなる。
【0053】
Nガイド層112は、Nクラッド層111に積層され、GaNからなる層である。例えば、Nガイド層112は、膜厚が127nmでSiの濃度が1×1018cm-3のN型のGaNからなる。
【0054】
発光層120は、N型窒化物半導体層110に積層され、光を出射する発光層である。
【0055】
発光層120は、N側ガイド層121と、活性層122と、P側ガイド層123と、中間層124と、を有する。
【0056】
N側ガイド層121は、Nガイド層112に積層され、InGaNからなる層である。例えば、N側ガイド層121は、アンドープのIn0.008Ga0.992Nからなる。
【0057】
活性層122は、N側ガイド層121に積層され、InGaNからなる層である。例えば、活性層122は、アンドープのIn0.066Ga0.934NとアンドープのIn0.008Ga0.992Nとからなる。本実施の形態では、活性層122は、井戸層と障壁層(バリア層)とが交互に積層された量子井戸活性層であり、二層の井戸層を有する。このような活性層122であれば、窒化物半導体発光素子10は、中心波長が405nm程度の青紫色のレーザ光を出射できる。
【0058】
P側ガイド層123は、活性層122に積層され、InGaNからなる層である。例えば、P側ガイド層123は、アンドープのIn0.003Ga0.997Nからなる。
【0059】
中間層124は、P側ガイド層123に積層され、InGaN/GaNからなる層である。中間層124は、例えば、P側ガイド層123側から上方に向かうにつれてInの組成比が徐々に減るように構成されている。
【0060】
P型窒化物半導体層130は、発光層120に積層されるP型の半導体層である。
【0061】
N型窒化物半導体層110と、発光層120と、P型窒化物半導体層130とによって、光の導波部である導波路が形成される。導波路は、窒化物半導体100の内部で光が導波する部分である。導波路は、例えば、N型窒化物半導体層110の一部と、発光層120の一部と、P型窒化物半導体層130の一部とからなる。
【0062】
P型窒化物半導体層130は、電子障壁層131と、Pクラッド層132と、コンタクト層133と、を有する。
【0063】
電子障壁層131は、発光層120に積層され、AlGaNからなる層である。電子障壁層131は、例えば、発光層120側から上方に向かうにつれてAlの組成比が徐々に増えるように構成されている。例えば、電子障壁層131は、Al組成が4%から36%まで変化する組成傾斜を有する。
【0064】
Pクラッド層132は、電子障壁層131に積層され、AlGaNからなる層である。Pクラッド層132は、例えば、電子障壁層131に積層される第1層と、当該第1層に積層され、当該第1層よりも不純物濃度が低い第2層とからなる。例えば、Pクラッド層132は、P型のドーパントであるMgの濃度が2×1018cm-3のAl0.026Ga0.974Nからなる第1層と、Mgの濃度が1×1019cm-3のAl0.026Ga0.974Nからなる第2層と、を有する。
【0065】
また、本実施の形態では、Pクラッド層132に電流及び光を閉じ込めるためのストライプ状のリッジ部が形成されている。リッジ部に対応する発光層120の領域(つまり、リッジ部の下方に位置する発光層120の領域)が発光点となり、光が出射される。
【0066】
コンタクト層133は、P側電極142とオーミック接触するP型の半導体層である。コンタクト層133は、Pクラッド層132に積層され、GaNからなる層である。コンタクト層133は、例えば、Pクラッド層132に積層される第1層と、当該第1層に積層され、当該第1層よりも不純物濃度が高い第2層とからなる。例えば、コンタクト層133は、Mgの濃度が2×1019cm-3以上添加されたGaNからなる。
【0067】
電流ブロック層141は、リッジ部の側壁、P型窒化物半導体層130の側面及び発光層120の側面等を覆い、SiO膜等の電気的な絶縁性を有する膜である。
【0068】
P側電極142は、コンタクト層133に積層されるオーミック性の電極である。P側電極142は、例えば、コンタクト層133側から順にPd(パラジウム)及びPt(白金)が積層された積層膜である。
【0069】
パッド電極143は、P側電極142に積層された外部から供給される電力を受け付けるためのパッド状の電極である。パッド電極143は、例えば、P側電極142側から順にCr(クロム)又はTi(チタン)、とPtとAu(金)とが積層された積層膜であり、リッジ部及びその周辺に配置される。Cr又はTiは、パッド電極143とP側電極142との密着性を向上させるために設けられている。
【0070】
なお、図4に示す各層に用いられる材料、In組成又はAl組成、膜厚、及び不純物濃度は、あくまで一例であって、これらに限定されるものではない。例えば、基板102の厚さは、85μmに限定されず、例えば、50μm以上120μm以下であってもよい。例えば、基板102を形成する材料は、GaN単結晶に限定されず、サファイア、SiC等であってもよい。また、例えば、活性層122の構成は上記に限定されず、井戸層とバリア層とが交互に積層された量子井戸活性層であればよく、一つの井戸層とその上下にバリア層とを設けた単一量子井戸活性層でもよい。また、例えば、Pクラッド層132は、AlGaNからなる層とGaNからなる層とが交互に積層された超格子層であってもよい。
【0071】
<誘電体多層膜>
誘電体多層膜200、300は、それぞれ、窒化物半導体100の共振器面160、161に配置される保護膜である。具体的には、誘電体多層膜200、300は、それぞれ、窒化物半導体100の共振器面160、161を保護し、且つ、共振器面160、161における光の反射率を制御するために設けられる。
【0072】
なお、共振器面160、161の少なくとも一方に誘電体多層膜が配置されていればよい。
【0073】
誘電体多層膜200は、窒化物半導体100が光を出射する側の端面(フロント側端面)である共振器面160に接触して配置され、反射率を低減するために設けられる多層膜である。
【0074】
図5は、実施の形態に係る誘電体多層膜200の構成を示す表である。
【0075】
誘電体多層膜200は、共振器面160側から、誘電体膜(第一の誘電体膜)201と、誘電体膜(第二の誘電体膜)202と、誘電体膜(第三の誘電体膜)203と、誘電体膜(第四の誘電体膜)204と、誘電体膜(第二の光学膜)205とをこの順に有する。
【0076】
誘電体膜201は、共振器面160に積層され、Y(イットリウム)又はLa(ランタン)の少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸窒化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜201は、YAlONからなる膜である。また、誘電体膜201は、結晶膜である。結晶膜とは、膜全体が結晶化された膜である。つまり、誘電体膜201は、成膜時において(言い換えると、窒化物半導体発光素子10が製造された時点において)結晶化されている。
【0077】
誘電体膜202は、誘電体膜201に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸化物からなる膜である。アルミニウム酸化物は、AlO(x>0)で表される組成であり、例えば、AlO、Al、AlO等が例示される。本実施の形態では、誘電体膜202は、YAlからなる膜である。また、誘電体膜202は、アモルファス(アモルファス膜)である。
【0078】
誘電体膜203は、誘電体膜202に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸窒化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜203は、YAlONからなる膜である。なお、誘電体膜203は、結晶膜であってもよいし、アモルファスであってもよい。本実施の形態では、誘電体膜203は、少なくとも一部が結晶化された膜である。つまり、誘電体膜203は、成膜時において(言い換えると、窒化物半導体発光素子10が製造された時点において)少なくとも一部が結晶化されている。
【0079】
なお、誘電体膜203に含まれる結晶は、誘電体膜201に含まれる結晶とは、結晶構造及び結晶の配向性が同じでもよいし、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なっていてもよい。結晶構造が異なるとは、いわゆる結晶性が異なることを意味し、例えば、原子の結合状態、原子配列等が異なることを意味する。例えば、結晶構造が異なるとは、結晶化されている度合い(例えば、アモルファス相と結晶相との比率)が異なること、密度が異なること、結晶の平均粒径が異なること等を意味する。また、配向性が異なるとは、誘電体膜全体を見た場合に主たる配向が異なることを意味する。誘電体膜203に含まれる結晶と、誘電体膜201に含まれる結晶とが、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なる場合の詳細については、後述する。
【0080】
誘電体膜204は、誘電体膜203に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜204は、YAlからなる膜である。また、誘電体膜204は、アモルファスである。
【0081】
誘電体膜205は、誘電体膜204に積層され、シリコン酸化物からなる膜である。シリコン酸化物は、SiO(x>0)で表される組成であり、例えば、SiO、SiO等が例示される。本実施の形態では、誘電体膜205は、SiOからなる膜である。
【0082】
なお、誘電体膜205(つまり、シリコン酸化物からなる膜)は、誘電体膜201、誘電体膜202、誘電体膜203、又は、誘電体膜204の少なくともいずれかに積層されていてもよい。本実施の形態では、誘電体膜205は、誘電体多層膜200に含まれる複数の膜(誘電体膜201~205)の中で共振器面160から最も離れた位置(つまり、最外膜)に位置する。
【0083】
また、誘電体膜205(つまり、シリコン酸化物からなる膜)は、誘電体膜301、誘電体膜302、又は、誘電体膜303の少なくともいずれかに積層されていてもよい。
【0084】
図6は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の光出射側の共振器面(共振器面160)における反射率の波長依存性を示すグラフである。具体的には、図6は、誘電体多層膜200と共振器面160との界面における光の波長に対する反射率を示すグラフである。
【0085】
図6に示すように、例えば、誘電体多層膜200は、窒化物半導体100が出射する光の中心波長として考えられる400nm近傍において、反射率が10%以下となっている。
【0086】
誘電体多層膜300は、窒化物半導体100が光を反射する側の端面(リア側端面)である共振器面161に接触して配置され、反射率を増加するために設けられる多層膜である。
【0087】
図7は、実施の形態に係る誘電体多層膜300の構成を示す表である。
【0088】
誘電体多層膜300は、共振器面161側から、誘電体膜(第一の誘電体膜)301と、誘電体膜(第二の誘電体膜)302と、誘電体膜(第三の誘電体膜)303と、光学干渉膜310とをこの順に有する。
【0089】
誘電体膜301は、共振器面161に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸窒化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜301は、YAlONからなる膜である。また、誘電体膜301は、結晶膜である。
【0090】
誘電体膜302は、誘電体膜301に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜302は、YAlからなる膜である。また、誘電体膜302は、アモルファスである。
【0091】
誘電体膜303は、誘電体膜302に積層され、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸窒化物からなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜303は、YAlONからなる膜である。なお、誘電体膜303は、結晶膜であってもよいし、アモルファスであってもよい。本実施の形態では、誘電体膜303は、少なくとも一部が結晶化された膜である。
【0092】
なお、誘電体膜303に含まれる結晶は、誘電体膜301に含まれる結晶とは、結晶構造及び結晶の配向性が同じでもよいし、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なっていてもよい。
【0093】
光学干渉膜310は、誘電体膜303に積層される多層膜である。光学干渉膜310は、2以上の多層コート膜320を有する。具体的には、誘電体多層膜200は、第一のコート膜321と、第一のコート膜321に積層された第二のコート膜322とを組とする多層コート膜320が少なくとも2回以上連続して繰り返し成膜されている。
【0094】
多層コート膜320は、第一のコート膜321と、第一のコート膜321に積層された第二のコート膜322と、を有する。
【0095】
第一のコート膜321は、シリコン酸化物からなる誘電体膜である。本実施の形態では、第一のコート膜321は、SiOからなる膜である。
【0096】
第二のコート膜322は、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されたアルミニウム酸窒化物からなる誘電体膜である。本実施の形態では、第二のコート膜322は、YAlONからなる膜である。なお、第二のコート膜322は、結晶膜であってもよいし、アモルファスであってもよい。
【0097】
このように、光学干渉膜310は、第一のコート膜321と第二のコート膜322とが交互に積層された多層膜である。
【0098】
なお、本実施の形態では、光学干渉膜310は、多層コート膜320を8つ有する。しかしながら、光学干渉膜310が有する多層コート膜320の数は、複数であればよく、特に限定されない。
【0099】
また、光学干渉膜310は、最外層に位置する膜(共振器面161から最も離れた場所に位置する膜)がSiO(つまり、第一のコート膜321)であってもよい。例えば、本実施の形態では、光学干渉膜310において19層目が最外層(最外膜)であり且つ第二のコート膜322であるが、光学干渉膜310は、20層目として第一のコート膜321をさらに備えてもよい。
【0100】
高反射率を得るためには、最外層に位置する膜は、高屈折率の膜である方が望ましい。一方で、低反射率を得るためには、最外層に位置する膜は、低屈折率の膜である方が望ましい。そのため、誘電体多層膜200においては最外層の膜として屈折率の低いSiOからなる誘電体膜205が採用されており、誘電体多層膜300においては最外層の膜として屈折率の高いYAlONからなる膜が採用されている。
【0101】
図8は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10の光反射側の共振器面(共振器面161)における反射率の波長依存性を示すグラフである。具体的には、図8は、誘電体多層膜300と共振器面161との界面における光の波長に対する反射率を示すグラフである。
【0102】
図8に示すように、例えば、誘電体多層膜300は、窒化物半導体100が出射する光の中心波長として考えられる380nm以上420nm以下において、反射率が90%以上となっている。つまり、誘電体多層膜300が積層された共振器面161においては、反射率が例えば90%以上となる。
【0103】
また、例えば、誘電体膜201は、酸素濃度が2atom%以上であり、且つ、13.4atom%以下である。
【0104】
図9は、AlONの光学特性を示すグラフである。より具体的には、図9は、AlONを製膜する際に、Ar(アルゴン)の流量30ccとし、Nの流量4.9ccとして固定し、酸素流量(O実流量(sccm))に対するAlONの屈折率をプロットしたものである。なお、O実流量(sccm)が0の場合には、製膜される膜は、AlNとなる。
【0105】
図9に示すように、酸素流量が0.1ccから0.5ccの範囲において、屈折率が安定する、つまり、酸素流量の変化に対して屈折率が変化しにくい。その中心条件である酸素流量が0.3ccのときの製膜される膜の酸素濃度は、13.4atom%であり、酸素流量が0.1ccのときの製膜される膜の酸素濃度は、2atom%である。よって、製膜される膜の酸素濃度は、13.4atom%になるように酸素流量を調整することにより、酸素流量の変化に対する屈折率の変化を抑制できる。また、窒化物半導体発光素子10が駆動されると、駆動中に誘電体多層膜200、300中の酸素濃度は、増大する。そのため、誘電体膜201の酸素濃度を13.4atom%以下とすることで、駆動による酸素濃度の増加による屈折率の変化を抑制できる。
【0106】
なお、誘電体膜203、301、303もまた、酸素濃度が2atom%以上13.4atom%以下であってもよい。
【0107】
また、上記の通り、例えば、誘電体膜201、301は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む。また、上記の通り、例えば、共振器面160、161は、いずれもm面である。ここで、例えば、誘電体膜201、301に含まれる結晶のc軸は、共振器面160、161の少なくとも一方の共振器面に対して垂直な方向である。
【0108】
図10は、実施の形態に係る窒化物半導体発光素子10のTEM画像を示す図である。具体的には、図10の(a)は、窒化物半導体発光素子10のTEM画像である。図10の(b)は、位置Aにおける電子線回折パターンを示す図である。図10の(c)は、位置Bにおける電子線回折パターンを示す図である。図10の(d)は、位置Cにおける電子線回折パターンを示す図である。なお、図10には、Yを0.1重量%Al(アルミニウム)に固溶させたAlターゲットを用いてECRスパッタ法により成膜した例を示している。
【0109】
図10の(b)に示すように、窒化物半導体100は、c軸が紙面上下方向に配向している。より具体的には、窒化物半導体100は、共振器面160近傍においては紙面上方向にc軸配向している。一方、図10の(c)及び(d)に示すように、誘電体膜201は、電子線回折パターンが窒化物半導体100の電子線回折パターンから90°回転したパターンとなっている。具体的には、誘電体膜201は、位置によらず紙面左右方向にc軸配向している。つまり、誘電体膜201に含まれる結晶のc軸は、共振器面160に対して垂直な方向である。
【0110】
なお、上記した「垂直」とは、完全に垂直であることを意味するだけでなく、製造誤差の範囲内を含む。例えば、上記した「垂直」とは、2つのc軸のなす角度が90°であることを意味するだけでなく、±5%~±10%程度の誤差を含むことを意味する。
【0111】
また、誘電体膜201の配向方向は、位置により異なっていてもよい。
【0112】
誘電体多層膜200、300は、例えば、上記のような構成であるが、上記に限定されない。
【0113】
例えば、誘電体多層膜200、300が有する各誘電体膜において、イットリウムが添加されている誘電体膜においては、イットリウムではなくランタンが添加されていてもよいし、イットリウムとともにランタンが添加されていてもよい。
【0114】
なお、誘電体膜201及び誘電体膜202における、イットリウムの濃度及びランタンの濃度の和は、特に限定されないが、例えば、各々、0.4atom%以下である。
【0115】
図11は、YAlONの光学特性を示すグラフである。具体的には、図11は、AlON膜のYの含有量に対する405nmにおける光吸収係数を示すグラフである。図12は、YAlの光学特性を示すグラフである。具体的には、図12は、Al膜のYの含有量に対する405nmにおける光吸収係数を示すグラフである。
【0116】
誘電体膜にYが添加されることで、誘電体膜におけるグレイン境界や酸素欠陥の終端がなされるため、AlもAlONも光吸収係数は、低減される。一方、Yの添加量を増やしすぎると、Y原子が複数集まったクラスタ領域が形成されて光吸収源として働いてしまい、光吸収係数が増大する。これらの光吸収特性は、405nmを例にしたものであって、370nmから430nmの範囲においては同一の傾向を有する。特に、405nmよりも短波長側では、Yが添加されていない状態でも光吸収係数が大きく、Y添加による光吸収特性の変化は、より顕著となる。
【0117】
また、Y(及びLa)は、原子半径がAlに対して比較的大きい。そのため、Alに対して略1atom%以上にした誘電体膜を形成しようとすると、安定した固体ターゲットを形成することが難しい。したがって、光吸収の観点、及び、製造上の観点から、Yの濃度は、0.4atom%以下が望ましい。
【0118】
<窒化物半導体発光装置>
図13は、実施の形態に係る発光装置400の構成を示す図である。なお、図13では、パッケージ410は、内部構成を示すために断面を示している。
【0119】
窒化物半導体発光素子10は、例えば、外部共振が利用された発光装置400に用いられる。
【0120】
発光装置400は、窒化物半導体発光素子10と、パッケージ410と、サブマウント420と、コリメータレンズユニット430と、回折格子440と、カプラ450と、を備える。
【0121】
パッケージ410は、窒化物半導体発光素子10を収容する筐体である。パッケージ410は、いわゆるCANパッケージである。パッケージ410は、リードピン411と、ステム412と、窓413と、キャップ414と、を備える。
【0122】
リードピン411は、パッケージ410の外部から窒化物半導体発光素子10に供給される電力を受け付けるためのピンである。リードピン411は、ステム412に固定されている。リードピン411は、例えば、導電性を有する金属材料等によって形成される。
【0123】
ステム412は、窒化物半導体発光素子10が載置される台である。本実施の形態では、窒化物半導体発光素子10は、サブマウント420を介してステム412に載置されている。ステム412は、例えば、金属材料等によって形成される。
【0124】
窓413は、窒化物半導体発光素子10が出射する光に対して透光性を有する透光部材である。窓413は、例えば、透光性を有する樹脂材料や誘電体多層膜を施した低反射率部材等によって形成される。例えば、窒化物半導体発光素子10が短波長のレーザ光を出射する場合、劣化を抑制するために、ガラス又は石英等の透明な材料に、誘電体多層膜が形成された部材が窓413として採用される。
【0125】
キャップ414は、窒化物半導体発光素子10を覆うようにステム412に接触して設けられる部材である。キャップ414には、貫通孔が設けられており、当該貫通孔を通過して窒化物半導体発光素子10が出射した光は、パッケージ410の外部に発せられる。例えば、窓413は、当該貫通孔を覆うように設けられている。ステム412、窓413及びキャップ414によって、例えば、窒化物半導体発光素子10は気密封止されている。
【0126】
サブマウント420は、窒化物半導体発光素子10が載置される基板である。サブマウント420は、例えば、セラミック材料によって形成される。
【0127】
コリメータレンズユニット430は、窒化物半導体発光素子10が出射した光をコリメートするための光学部材である。例えば、コリメータレンズユニット430は、窒化物半導体発光素子10が出射した光(より具体的には、レーザ光)の速軸方向及び遅軸方向の一方をコリメートするコリメータレンズ431と、他方をコリメートするコリメータレンズ432とを備える。
【0128】
回折格子440は、コリメータレンズユニット430によってコリメートされた光を分散する光学素子である。回折格子440は、例えば、複数の溝が形成されており、コリメータレンズユニット430によってコリメートされた光を波長毎に異なる向きに透過又は反射して出射する。本例では、回折格子440は、コリメータレンズユニット430によってコリメートされた光を波長毎に異なる向きに透過して出射する。回折格子440は、例えば、表面に上記した複数の溝が形成された、ガラス又は樹脂等の透光性を有する部材である。
【0129】
カプラ450は、回折格子440が透過することで出射した光の一部を透過し、他部を反射するハーフミラー等のアウトプットカプラである。カプラ450が反射した光は、回折格子440、コリメータレンズユニット430を通過して窒化物半導体発光素子10に戻る。これにより、窒化物半導体発光素子10とカプラ450との間で光が共振され、共振された光がカプラ450から出射される。具体的には、窒化物半導体発光素子10、コリメータレンズユニット430、回折格子440、及び、カプラ450が適切に配置されることで、特定の波長の光が共振されて発光装置400から出力される。
【0130】
近年、窒化物半導体から出射される光(例えば、レーザ光)の波長を固定させた外部共振を用いたアプリケーションが多数提案されている。例えば、当該アプリケーションの一例であるラマン分光装置又はフォトルミネッセンス装置の光源では、波長変化が分析結果に影響を及ぼすため、光の波長が固定された光源が用いられている。
【0131】
また、高出力の発光装置では、複数のレーザ光を合波する必要がある。そこで、特に、互いに異なる波長で固定されたレーザ光を合波する波長合波技術は、高いビーム品質を維持した状態で高出力化が可能になることから、注目を集めている。
【0132】
一般に、窒化物半導体は、その動作温度によって出射する光の波長が変化することが知られている。そのため、例えば、窒化物半導体の光出力又は動作環境によって、窒化物半導体が出射する光の波長に変化が生じてしまう。このことから、波長が変化しないことが求められる上記のアプリケーションでは、窒化物半導体は、用いられにくくなっている。
【0133】
そこで、窒化物半導体の共振器面(フロント側端面)の反射率を極限まで小さくした窒化物半導体と、波長選択光学素子(例えば、回折格子440)と、アウトプットカプラと呼ばれる光出射光学素子(例えば、カプラ450)とが用いられた、特定の波長のみが増幅されるファブリペロー型の共振器を構成した外部共振型半導体レーザ装置が開発されている。
【0134】
図13に示すように、窒化物半導体発光素子10から出射される光(例えば、レーザ光)をコリメータレンズユニット430でコリメートすることで平行光とし、回折格子440に入射する。入射された光は、回折格子440の分散効果によって波長選択され、所望の波長の透過方向に配置されたファブリペロー共振器の光出射面となるカプラ450に入射される。このような構成であれば、カプラ450と窒化物半導体100の共振器面160と間で共振器が構成され、光が増幅される。
【0135】
図14図16は、それぞれ、誘電体多層膜の反射率スペクトルを示すグラフである。具体的には、図14は、450nmの光に対して反射率が低くなるように形成された誘電体多層膜200における反射率の波長依存性を示すグラフである。図15は、405nmの光に対して反射率が低くなるように形成された誘電体多層膜200における反射率の波長依存性を示すグラフである。図16は、375nmの光に対して反射率が低くなるように形成された誘電体多層膜200における反射率の波長依存性を示すグラフである。なお、図14図16の示す反射率スペクトルは、誘電体多層膜200における誘電体膜202、204のそれぞれの材料に、Al膜を用いた場合のグラフである。
【0136】
なお、図14図16において、Al膜(誘電体膜202、204)が結晶化している場合における反射率の波長依存性を破線で示し、Al膜がアモルファスである場合における反射率の波長依存性を実線で示している。
【0137】
図14図16に示すように、Al膜が結晶化している場合における反射率の波長依存性と、Al膜がアモルファスである場合における反射率の波長依存性とは、いずれの場合でも異なる。このように、結晶とアモルファスとで反射率の波長依存性が異なるため、アモルファスが結晶化すると、窒化物半導体発光素子10の光学特性の変動の要因となる。さらに、アモルファスが結晶化することで反射率が増大するため、外部共振器(例えば、発光装置400)で考えた場合には、このような光学特性の変動は、光損失となるため、発光装置400の光出力の低下をもたらす。
【0138】
発光装置400のような外部共振を利用した半導体レーザ装置においては、共振器面(共振を発生させる面)が窒化物半導体発光素子10のリア側端面(共振器面161)とカプラ450の反射面とになる。
【0139】
そのため、共振が行われる光路において共振器面以外で生じる光の反射は、全て光の損失(内部損失)になる。したがって、窒化物半導体発光素子10のフロント側端面(共振器面160)での反射も内部損失となる。このことから、当該フロント側端面では、極めて小さい反射率が必要となる。
【0140】
また、窒化物半導体発光素子10の共振器面161に、カプラ450以外で反射された光も戻ってくる場合には、当該光も共振によって増幅され得る。窒化物半導体発光素子10の共振器面160の反射率が高くなると、カプラ450だけでなく、共振器面160を共振面(ファブリペロー共振器の共振器面)にして光が増幅されてしまい、回折格子440による波長固定が消失する、つまり、特定の波長の光のみを増幅することができなくなる。さらには、発光装置400からの光出力の変動にもつながる。これらのことから、窒化物半導体発光素子10の共振器面160での反射率は、1%を下回る極めて低い反射率が求められ、さらに変動が小さいことが必要となる。このように、例えば、誘電体多層膜200は、窒化物半導体100が出射する光の波長に応じて膜厚等が設定されることにより、反射率が1%以下とされるとよい。つまり、例えば、誘電体多層膜200が積層された共振器面160においては、反射率が例えば1%以下となるとよい。
【0141】
従来のYを含まない端面保護膜(例えば、誘電体多層膜200A、2000等)が用いされる場合では、各誘電体膜の光結晶化又は各膜間の膜剥がれによって、窒化物半導体発光素子10が動作中(例えば、光を出力中)に端面保護膜の反射率が変動してしまう。
【0142】
図14図16に示すように、Alが結晶化することで、多くの場合所望の波長の反射率が増大することがわかる。わずかな反射率の変化であっても、反射率が増大することによって共振による光の損失が増大することになるため、発光装置400の光学特性の悪化につながる。さらに、結晶化による応力変化で膜剥がれが生じる場合には、発光装置400の光学特性の悪化がさらに顕著になる。
【0143】
そこで、誘電体多層膜200、300におけるAlからなる誘電体膜(例えば、誘電体膜202、302等)には、Y又はLaの少なくとも一方(本実施の形態では、Y)が添加される。これにより、Alからなる誘電体膜の光結晶化が抑制される。さらに、Y又はLaの少なくとも一方(本実施の形態では、Y)が添加されることで、各誘電体膜間の密着性も向上することから、各膜間で膜剥がれが発生することが抑制される。これにより、誘電体多層膜200、300におけるわずかな反射率の変動を抑制できることから、窒化物半導体発光素子10によれば、安定した外部共振が可能となる。もちろん、共振器面160、161において共振させる場合においても、誘電体多層膜200、300におけるわずかな反射率の変動を抑制できることから、安定した共振が可能となる。
【0144】
なお、図13に示す例では、レーザ光は、回折格子440を直線的に透過してカプラ450に到達するが、これに限らない。回折格子440の透過回折角に合わせて光は曲がるため、カプラ440の配置位置は、回折格子440の回折角に適した位置に置けばよい。
【0145】
また、回折格子440は、コリメータレンズユニット430によってコリメートされた光を波長毎に異なる向きに反射して出射してもよい。
【0146】
図17は、実施の形態に係る発光装置401の構成の別の一例を示す図である。
【0147】
発光装置401は、発光装置400とは、回折格子440及びカプラ450ではなく、回折格子441及びカプラ460を備えている点が異なる。
【0148】
回折格子441は、コリメータレンズユニット430によってコリメートされた光を波長毎に異なる向きに反射して出射する。回折格子441は、例えば、表面に複数の溝が形成された、金属部材等の反射性を有する部材である。
【0149】
カプラ460は、回折格子441が反射することで出射した光の一部を透過し、他部を反射するハーフミラー等のアウトプットカプラである。
【0150】
発光装置401によってもまた、窒化物半導体発光素子10とカプラ460との間で光が共振され、共振された光がカプラ460(つまり、発光装置401)から出射される。
【0151】
<変形例>
続いて、窒化物半導体発光素子の変形例について説明する。
【0152】
例えば、誘電体多層膜200、300は、それぞれ、共振器面160、161と誘電体膜201、301との間に位置する誘電体膜(第一の光学膜)206をさらに備えてもよい。
【0153】
図18は、実施の形態の変形例1に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。図19は、比較例1に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
【0154】
実施の形態の変形例1に係る窒化物半導体発光素子が備える誘電体多層膜200Cは、共振器面160に積層された誘電体膜206と、誘電体膜206に積層された誘電体膜201と、誘電体膜201に積層された誘電体膜202と、誘電体膜202に積層された誘電体膜203と、誘電体膜203に積層された誘電体膜205と、を有する。
【0155】
共振器面160には、図2に示すように誘電体膜201が接触して配置されてもよいし、図18に示すように誘電体膜206が接触して配置されてもよい。
【0156】
誘電体膜206は、共振器面160と誘電体膜201との間に配置され(つまり、共振器面160に積層され)、SiN又はSiONからなる膜である。本実施の形態では、誘電体膜206は、SiNからなる膜である。
【0157】
図19に示すように、比較例1に係る窒化物半導体発光素子が備える誘電体多層膜200Dは、共振器面160に積層された誘電体膜206と、誘電体膜206に積層された誘電体膜201Aと、誘電体膜201Aに積層された誘電体膜202Aと、誘電体膜202Aに積層された誘電体膜203Aと、誘電体膜203Aに積層された誘電体膜205と、を有する。
【0158】
上記した通り、誘電体膜201Aは、AlONからなる膜であり、誘電体膜202Aは、Alからなる膜であり、誘電体膜203Aは、AlONからなる膜である。つまり、誘電体膜201、202、203は、誘電体膜201A、202A、203Aとは異なり、Yが添加されている。
【0159】
図19に示すように、誘電体多層膜200Dにおいては、誘電体膜206が視認可能である。つまり、Yを添加しない構造では、SiN膜がAlON膜と分離しているために、視認可能となっている。一方、図18に示すように、誘電体多層膜200Cにおいては、誘電体膜206が視認できない。これは、誘電体多層膜においては、誘電体膜206に含まれるSiと、誘電体膜201に含まれるYとで、シリサイドと呼ばれる合金が形成されたためと考えらえる。つまり、Yが添加された構造では、SiN膜がYAlON膜と融合(より具体的には、シリサイドが形成)しているため、視認できなくなっている。このようなシリサイド形成が窒化物半導体100の端面(例えば、共振器面160)と誘電体膜(例えば、誘電体膜206)との密着性を大きく向上させる。
【0160】
なお、誘電体多層膜300は、共振器面161と誘電体膜301との間に配置されるSiN又はSiONからなる膜(つまり、誘電体膜206と同じ構成の膜)を有してもよい。
【0161】
図20は、実施の形態の変形例2に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。具体的には、図20の(a)は、変形例2に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像である。図20の(b)は、位置Dにおける電子線回折パターンを示す図である。図20の(c)は、位置Eにおける電子線回折パターンを示す図である。なお、図20には、Yを1重量%Alに固溶させたAlターゲットを用いてECRスパッタ法により成膜した例を示している。第一の結晶層211は、厚みが約10nmである。
【0162】
図20に示すように、誘電体膜210は、窒化物半導体100側に位置する第一の結晶層211においては図19と同様に紙面上下方向にc軸配向している。つまり、誘電体膜210が有する第一の結晶層211に含まれる結晶のc軸は、共振器面160に対して平行な方向である。一方、誘電体膜210は、誘電体膜202側に位置する第二の結晶層212においては紙面左右方向にc軸配向している。つまり、誘電体膜210が有する第一の結晶層212に含まれる結晶のc軸は、共振器面160に対して垂直な方向である。このように、例えば、誘電体膜201は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む結晶膜である。誘電体膜201は、c軸が共振器面160に対して平行である第一の結晶層211と、c軸が共振器面160に対して垂直である第二の結晶層212と、を含む。この場合、例えば、第一の結晶層212は、第二の結晶層212よりも共振器面160に近い位置に配置されている。
【0163】
以上のように、第一の結晶層211は、窒化物半導体100と同一配向となりエピタキシャル性を有する膜となっている。一方、第二の結晶層212は、第一の結晶層211と異なる配向となっている。図20の(a)に示すように、第一の結晶層211と第二の結晶層212とは、連続的に結合しており、界面が不明瞭化していることがわかる。これは、配向性の異なる同一材料の層間であるため、Yの密着性向上効果がより大きくなっているためと考えられる。
【0164】
なお、このような構成は、誘電体膜301に採用されてもよい。つまり、例えば、誘電体膜301は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む結晶膜である。誘電体膜301は、c軸が共振器面161に対して平行である第一の結晶層と、c軸が共振器面161に対して垂直である第二の結晶層と、を含む。この場合、例えば、第一の結晶層は、第二の結晶層よりも共振器面161に近い位置に配置されている。
【0165】
また、例えば、誘電体膜203に含まれる結晶は、誘電体膜201に含まれる結晶とは、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なる。
【0166】
図21は、実施の形態の変形例3に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像を示す図である。
【0167】
具体的には、図21の(a)は、変形例3に係る窒化物半導体発光素子のTEM画像である。図21の(b)は、位置Fにおける電子線回折パターンを示す図である。図21の(c)は、位置Gにおける電子線回折パターンを示す図である。図21の(d)は、位置Hにおける電子線回折パターンを示す図である。図21の(e)は、GaN基板における電子線回折パターンを示す図である。
【0168】
窒化物半導体100の共振器面160に近い側に配置した誘電体膜206は、端面の分解や酸化を抑制する働きがあり、端面の保護を主なる目的とする。
【0169】
一方、誘電体膜206の上に形成する誘電体膜(例えば、誘電体膜201~204)は、反射率の制御を主な目的とする。そのため、反射率を制御するために設けられた誘電体膜の結晶構造は、結晶の配向性が適切に制御された緻密な膜であることが求められる。
【0170】
このような緻密な結晶膜は、膜の応力が強い特徴を有する。反射率の制御を目的とする誘電体膜が多層膜である場合、それぞれの誘電体膜の膜厚、及び、多層膜の膜数が所望の反射率に応じて設定されるため、強い応力が発生する緻密な結晶膜では、熱衝撃等で膜剥がれを引き起こす。
【0171】
そこで、Yを添加するとともに誘電体膜に含まれる結晶の密度を低下させることで、応力を緩和させ膜剥がれを抑制することができる。具体的には、誘電体膜を、アモルファスを含む多結晶膜とすることとで、膜密度を低下させ応力を緩和することが可能となる。
【0172】
YAlONからなる誘電体膜210は、結晶配向性を制御した緻密な結晶性膜であることが、電子線回折パターンの明瞭性及び電子線回折スポットの多さからも示唆される。
【0173】
一方、YAlONからなる誘電体膜203は、電子線回折パターンが得られることから結晶領域を含んでいることは示されているが、回折スポットの数が少なく周期性が誘電体膜201と比較して低いことが示されている。誘電体膜203は、複数の配向を示唆する電子線回折パターンが得られていることからも、配向が異なる結晶領域が混在する多結晶体であると考えられる。
【0174】
なお、誘電体膜301、303についても、誘電体膜203と同様の構成でもよい。つまり、例えば、誘電体膜303に含まれる結晶は、誘電体膜301に含まれる結晶とは、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なる。
【0175】
また、誘電体膜303に含まれる結晶は、誘電体膜301に含まれる結晶とは、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なっていてもよい。
【0176】
また、光学干渉膜310は、材料及び膜厚を適切に選択することで、低反射率とすることができる。このように低反射率にされた多層コート膜を誘電体多層膜200はさらに有してもよい。
【0177】
[製造方法]
<窒化物半導体>
窒化物半導体100は、例えば、有機金属気相成長(MOCVD)法により、N型のGaNからなる基板102の主面(上面)上に、Nクラッド層111、Nガイド層112、N側ガイド層121、活性層122、P側ガイド層123、中間層124、電子障壁層131、Pクラッド層132、及び、コンタクト層133を順次エピタキシャル成長する。
【0178】
例えば、III族元素のGa源には、TMG(トリメチルガリウム)又はTEG(トリエチルガリウム)等が用いられる。また、Al源には、TMA(トリメチルアルミニウム)等が用いられる。また、In源には、TMI(トリメチルインジウム)等が用いられる。また、V族元素のN源には、アンモニア(NH)等が用いられる。また、N型のドーパントを含むSi源にはシラン(SiH)等が用いられる。また、P型のドーパントを含むMg源には、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)等が用いられる。
【0179】
次に、リソグラフィ法及びエッチング法により、コンタクト層133の上に、リッジ部の形成領域を覆うSiOからなるマスク膜(電流ブロック層141)を形成する。
【0180】
次に、形成したマスク膜を用いて、塩素(Cl)を主成分とするドライエッチングを行って、コンタクト層133及びPクラッド層132の上部に、基板102の主面に対して結晶軸の方向が<1-100>方向となるストライプ状のリッジ部を形成する。
【0181】
ここで、結晶軸の指数に付した負符号は、当該符号に続く一の指数の反転を便宜的に表している。また、Pクラッド層132におけるリッジ部の幅は、例えば、30μmである。
【0182】
次に、例えば、真空蒸着とリフトオフ法とを組み合わせた工法等により、コンタクト層133の上に、Pd及びPtからなるP側電極142を堆積し、その後、P側電極142の形成と同じリフトオフ法によってパッド電極143を堆積する。
【0183】
次に、基板102の劈開を容易とするために基板102を薄膜化(裏面研磨)した後に、真空蒸着法、スパッタ法、又は、CVD法により、基板102の裏面(下面)に、TiからなるN側電極101を形成する。
【0184】
次に、リッジ部における共振器の長さが800μm又は1200μmとなるように、エピタキシャル層(上記でエピタキシャル成長させた各層)及び基板102を劈開することにより、窒化物半導体100の面方位が(1-100)面からなる端面ミラー(つまり、共振器面160、161)を形成する。
【0185】
これにより、窒化物半導体100が製造される。
【0186】
<誘電体多層膜>
誘電体多層膜200、300は、RFスパッタ法、マグネトロンスパッタ法、又は、ECR(電子サイクロトロン共鳴)スパッタ法等により形成することができる。本実施の形態においては、ECRスパッタ法を用いて誘電体多層膜200、300を形成している。
【0187】
ECRスパッタ法は、窒化物半導体100の共振器面160、161に照射されるスパッタイオンの運動エネルギーが小さいため、イオン照射により半導体の露出面に生じる結晶欠陥の密度を低くすることができるので、半導体への成膜に適している。
【0188】
Y又はLaを添加したAlON及びAlからなる誘電体膜(例えば、誘電体膜201~204、301~303、第二のコート膜322)は、(i)Y若しくはLaを含有したAlNターゲット材と窒素(N)ガス及び酸素(O)ガスとの組み合わせ、又は、(ii)Y若しくはLaがAlに固溶した金属ターゲット材と窒素ガスとの組み合わせによる反応性スパッタにより成膜が可能である。
【0189】
特に、ターゲットに電圧を印加するとスパッタリング速度が向上するため、本実施の形態では、固溶金属ターゲットを用いている。酸窒化物における酸素及び窒素の組成の制御は、チャンバに導入する酸素ガスと窒素ガスとの流量によって制御する。
【0190】
本実施の形態では、金属精錬により純度を容易に高めることができるYが1重量%固溶したAl金属ターゲット材を用い、AlONを成膜する場合には、酸素と窒素との混合ガスを反応性ガスとして用いている。
【0191】
なお、成膜速度を制御するために、Arガスを酸素ガス及び窒素ガスとともにECRチャンバに導入している。
【0192】
また、本実施の形態では、AlONの成膜には、アルゴンガスの流量を30ml/min、窒素ガスの流量を5.5ml/min、酸素ガスの流量を0.3ml/minとしている。ただし、各ガスの流量は一例であって、これに限らない。
【0193】
なお、シリコン窒化膜(SiN)からなる誘電体膜206及びシリコン酸化膜(SiO)からなる誘電体膜(例えば、誘電体膜205、第一のコート膜321)においても、本実施の形態においては、Siターゲットを用いたECRスパッタ法によって成膜している。
【0194】
[効果等]
以上説明したように、窒化物半導体発光素子10は、互いに対向する2つの共振器面160、161を有する窒化物半導体100と、2つの共振器面160、161のうちの少なくとも一方の共振器面に積層された第一の誘電体膜と、当該第一の誘電体膜に積層された第二の誘電体膜とを有する誘電体多層膜と、を備える。例えば、窒化物半導体発光素子10は、共振器面160に積層された誘電体多層膜200と、共振器面161に積層された誘電体多層膜300とのうち少なくとも一方を備える。第一の誘電体膜(誘電体膜201、301)は、アルミニウム酸窒化物からなり、第二の誘電体膜(誘電体膜202、302)は、アルミニウム酸化物からなり、第一の誘電体膜は、結晶膜であり、第一の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されており、第二の誘電体膜には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。
【0195】
これによれば、Alよりも酸素との結合エネルギーが大きいY又はLaを添加することで、AlONとAlとの界面における酸素の拡散を介した固相反応(界面固相反応)を抑制することが可能となる。そのため、誘電体多層膜200、300のように複数の誘電体膜であっても膜剥がれを生じにくくできることから、窒化物半導体発光素子10の信頼性を向上できる。また、誘電体多層膜200、300のように複数の誘電体膜にできるため、反射率の制御をしやすくできる。従来の構造では、結晶のAlON膜上にアモルファスのAlを成膜すると、結晶膜とアモルファス膜との応力の違い、及び、界面に形成されたダングリングボンドによる光吸収により、AlONとAlとで酸素拡散を介した固相反応が発生する。これにより、膜剥がれが生じやすい。そこで、誘電体膜201、202、301、302には、Y又はLaの少なくとも一方(本実施の形態では、Y)が添加されている。例えば、YがAlON膜及びAl膜の両方に添加されていることで、これらの膜間においてYが介在して両方の膜を繋ぎとめる役割を担う。そのため、膜剥がれが生じにくくなる。また、例えば、Yは、ダングリングボンドを終端するために、ダングリングボンドの光吸収による固相反応も抑制できる。また、ECRスパッタ装置を用いることで、Al-Y(又は、Al-La)の固体ターゲットで成膜すればYAlON及びYAlが同一成膜チャンバ内で連続成膜が可能である。つまり、YAlON膜及びYAlであれば、簡便に製膜することもできる。Laにおいても、Yと同様の効果が得られる。
【0196】
また、例えば、誘電体多層膜は、共振器面160、161の少なくとも一方の共振器面と第一の誘電体膜との間に配置されるSiN又はSiONからなる第一の光学膜を有する。例えば、図18に示すように、誘電体多層膜200Cは、共振器面160と誘電体膜201との間に配置される誘電体膜206を有する。
【0197】
例えば、GaNからなる窒化物半導体100の共振器面160に結晶化されたYAlONを直接積層すると、窒化物半導体100とYAlONとの界面では、多数のダングリングボンドが発生し、発生したダングリングボンドが光吸収源となる可能性がある。さらには、窒化物半導体100とYAlONとに応力差があることから、膜剥がれの原因となりえる。従来の構成のように、SiNからなる膜と、Yが含まれていないAlON又はAlからなる膜とでは、SiとAlとが共晶化合物であり分離されることから、密着性に問題がある。
【0198】
ここで、窒化物半導体発光素子10備える誘電体多層膜が有する第一の誘電体膜には、Y(又はLa)が含まれるために、SiとAlとが共晶化合物であっても、SiとY(又はLa)とでシリサイドと呼ばれる合金を形成する。具体的には、誘電体膜201に含まれるY(又はLa)は、結晶グレイン又は誘電体膜206との界面で濃化する。この濃化によって、誘電体膜206に含まれるSiと誘電体膜201に含まれるY(又はLa)とは、当該界面でシリサイドを形成する。そのため、誘電体膜206と誘電体膜201との密着性を向上させることができる。
【0199】
なお、GaNからなる窒化物半導体100の共振器面160に酸素を含むYAlONを直接積層すると、YAlONを成膜する際に酸素が共振器面160を酸化する場合がある。そのため、第一の光学膜(誘電体膜206)は、SiNであるとよい。
【0200】
また、例えば、第一の誘電体膜(誘電体膜201、301)は、酸素濃度が2atom%以上であり、且つ、13.4atom%以下である。
【0201】
例えば、Yは、Alよりも酸素との結合エネルギーが大きいことから、酸素を捕捉する化学的能力が高いため、共振器面160、161の酸化を抑制する効果がある。一方、Yが酸素を捕捉することで酸化することにより、YAlONからなる誘電体膜は、屈折率の変化が生じやすい。そのため、例えば、上記特許文献4で開示されている構成では、YAlNからなる膜においてYが酸素を捕捉することによる反射率の変化が大きい。
【0202】
ここで、図9に示すように、誘電体膜201、301の母材となるAlONでは、酸素組成において屈折率の変動が小さい安定な領域が存在する。一方、例えば、AlNでは、微量な酸素によって屈折率が低下する。また、AlONの酸素組成が高くなると、AlONが相変化によりアモルファスとなるため、屈折率が急激に低下する。
【0203】
そこで、第一の誘電体膜(誘電体膜201、301)は、酸素濃度が2atom%以上であり、且つ、13.4atom%以下とすることで、第一の誘電体膜に酸素が吸収(捕捉)されることによる屈折率の変化を小さくすることができる。したがって、窒化物半導体発光素子10の利用に伴い反射率が変化しにくい、つまり、さらに信頼性が向上された窒化物半導体発光素子10が実現され得る。
【0204】
また、例えば、誘電体多層膜200は、誘電体膜202に積層された誘電体膜203と、誘電体膜203に積層された誘電体膜204と、を有する。誘電体膜203は、アルミニウム酸窒化物からなり、誘電体膜204は、アルミニウム酸化物からなる。誘電体膜203は、少なくとも一部が結晶化されている。また、誘電体膜203には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。また、誘電体膜204には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。
【0205】
YAlONは、YAlと比較して、屈折率が高い。これによれば、誘電体膜201と誘電体膜202に、屈折率の高いYAlONからなる誘電体膜203と、屈折率の低いYAlからなる誘電体膜204とが設けられることになる。このように、屈折率の異なる膜を適切な膜厚で複数積層することで、所望の反射率に誘電体多層膜200を制御できる。したがって、上記したように、誘電体膜201~204のような構成の誘電体多層膜であれば、誘電体膜の変質、及び、当該変質にともなう膜剥がれを生じにくくさせつつ、反射率を所望の値となるように制御しやすくできる。
【0206】
また、例えば、誘電体多層膜200は、誘電体膜201、誘電体膜202、誘電体膜203、又は、誘電体膜204の少なくともいずれかに積層されたシリコン酸化物からなる第二の光学膜(誘電体膜205)を備える。
【0207】
これによれば、上記した通り、Y(又はLa)が結晶グレイン又は界面に濃化してSiとY(又はLa)とがシリサイドを形成するため、誘電体膜同士の密着性を向上させることができる。
【0208】
また、例えば、誘電体膜206は、誘電体多層膜200に含まれる複数の膜(例えば、誘電体膜201~205)の中で少なくとも一方の共振器面(例えば、共振器面160)から最も離れた位置(つまり、最外層)に位置する。
【0209】
共振器面160で低反射率を実現するためには、誘電体多層膜200における最外層に屈折率が空気の屈折率に近い誘電体材料を設けることが望ましい。ここで、汎用性の高い誘電体材料であって屈折率が小さい材料として、SiO等のシリコン酸化物が例示される。一方、SiOは、熱膨張係数が極めて小さい材料であり、他の誘電体膜上に配置する構造では、応力差により膜剥がれが発生するリスクが高まる。特に、レーザデバイスのように光出射端面が高温になる状態では、膜剥がれが発生しやすく、信頼性の悪化の原因の一つとなり得る。そこで、誘電体多層膜200のように、最外層にSiOを設ける。これによれば、誘電体膜206によって空気と誘電体多層膜200との屈折率差を小さくすることで反射率を低減させ、共振器面160からできるだけ距離を離すことで熱による膜剥がれが生じることを抑制し、且つ、SiとY(又はLa)とによるシリサイドの形成の効果により密着性を向上させて誘電体膜205を積層できる。したがって、所望の低反射率で且つさらに高い信頼性を有する窒化物半導体発光素子10が実現される。
【0210】
また、例えば、第三の誘電体膜(例えば、誘電体膜203、303)に含まれる結晶は、第一の誘電体膜(例えば、誘電体膜201、301)に含まれる結晶とは、結晶構造又は結晶の配向性の少なくとも一方が異なる。
【0211】
アモルファス膜と結晶膜とを接触させて積層すると、これらの膜の応力が違うことにより膜剥がれが生じやすい。そこで、例えば、第三の誘電体膜の結晶性を低下させる(つまり、アモルファスの部分を増やす、又は、結晶構造が最も安定な構造に対しては少し乱れた構造とする)ことで応力を緩和(小さく)して、膜剥がれを生じにくくできる。
【0212】
また、例えば、誘電体多層膜300は、シリコン酸化物からなる第一のコート膜321と、第一のコート膜321に積層されたアルミニウム酸窒化物からなる第二のコート膜322とを組とする多層コート膜320が少なくとも2回以上連続して繰り返し成膜されており、第二のコート膜322には、イットリウム又はランタンの少なくとも一方の元素が添加されている。
【0213】
窒化物半導体100からの光出力を増大させるためには、共振器面161における反射率を高める必要がある。例えば、窒化物半導体100からの光出力を増大させるために、共振器面161における反射率を90%以上にするとよい。このような共振器面161における高反射率は、1/4λ膜と呼ばれる高屈折率の膜と低屈折率の膜との組を複数積層した光学干渉膜(光学干渉膜310)を共振器面161に積層することで実現できる。このとき重要となるのが高屈折率の膜と低屈折率の膜との屈折率差である。この屈折率差が小さいと、高反射率を得るには組数(つまり、誘電体膜の数)を多くする必要がある。一方、この屈折率差が大きいと、屈折率差が小さい場合と比較して少ない組数で同様の効果を得ることができる。そこで、一般的には、SiO膜が低屈折率の膜として用いられる。一方、SiOは、熱膨張係数が極めて小さい材料であり、他の誘電体膜上に配置する構造では、他の誘電体膜との応力差により膜剥がれが発生するリスクが生じる。特に、レーザデバイスでは、チップ(例えば、窒化物半導体100)が高温になるために、応力起因の膜剥がれが発生し、信頼性の悪化の原因の一つとなり得る。そこで、更なる密着性強化と信頼性向上とを実現するため、窒化物半導体発光素子10が有する多層コート膜320には、高屈折率の膜(第二のコート膜322)としてYを含むYAlON膜を用いられ、低屈折率の膜(第一のコート膜321)としてSiOを用いられる。これによれば、シリコン酸化物(例えば、SiO)とYAlON膜との界面では、SiとYとによりシリサイドが形成されるために密着性が向上する。また、例えば、SiOは、YAlONよりも屈折率が小さい。そのため、低屈折率のSiO膜と高屈折率のYAlON膜からなる多層コート膜320を複数有する光学干渉膜310であれば、各膜の膜厚を適切に設定することで、所望の反射率に設定できる。例えば、誘電体多層膜300においては、誘電体膜(コート膜)同士の密着性が向上され且つ高い反射率が実現される。
【0214】
なお、例えば、このような多層コート膜は、誘電体多層膜200に用いられてもよい。その場合、誘電体多層膜300と同様に各膜厚を適切に設定することで、誘電体膜(コート膜)同士の密着性が向上され且つ低い反射率が実現され得る。
【0215】
また、例えば、2つの共振器面160、161のうちの一方(本実施の形態では、共振器面160)の反射率は、90%以上であり、2つの共振器面のうちの他方(本実施の形態では、共振器面161)の反射率は、1%以下である。
【0216】
これによれば、共振器面160、161の反射率の影響による光の損失を抑制できる。
【0217】
また、例えば、窒化物半導体100は、六方晶の結晶構造を有し、共振器面160、161の少なくとも一方の共振器面は、六方晶の結晶面のうちのm面であり、第一の誘電体膜は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含み、第一の誘電体膜に含まれる結晶のc軸は、当該少なくとも一方の共振器面に対して垂直な方向である。本実施の形態では、共振器面160は、m面であり、誘電体膜201は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む。また、誘電体膜201に含まれる結晶のc軸は、共振器面160に対して垂直な方向、つまり、共振器面160の法線に平行である。
【0218】
これによれば、例えば、共振器面160がm面であって、誘電体膜201のc軸が共振器面160に対して垂直であることから、窒化物半導体100と誘電体膜201とがエピタキシャルな関係ではない。そのため、窒化物半導体100と誘電体膜201に含まれる結晶との格子定数差に起因する応力が共振器面160に印加されないため、共振器面160の劣化を抑制できる。
【0219】
また、例えば、窒化物半導体100は、六方晶の結晶構造を有し、共振器面160、161の少なくとも一方の共振器面は、六方晶の結晶面のうちのm面であり、第一の誘電体膜は、六方晶の結晶構造を有する結晶を含む結晶膜であり、第一の誘電体膜は、c軸が当該少なくとも一方に対して平行である第一の結晶層と、c軸が当該少なくとも一方の共振器面に対して垂直である第二の結晶層と、を含み、第一の結晶層は、第二の結晶層よりも当該少なくとも一方の共振器面に近い位置に配置されている。本実施の形態では、誘電体膜210は、共振器面160に積層され、c軸が共振器面160に対して平行である第一の結晶層211と、第一の結晶層211に積層され、c軸が共振器面160に対して垂直である第二の結晶層212と、を含む。
【0220】
共振器面160とエピタキシャルな関係にない誘電体膜を共振器面160に直接積層すると、共振器面160にはダングリングボンドが形成されやすい。ダングリングボンドは、光吸収源となり共振器面160の温度上昇を引き起こして共振器面160を破壊させる可能性がある。ここで、誘電体膜210のように、第一の結晶層211と第二の結晶層212とが設けられることで、結晶面の切れ目に相当する界面(つまり、共振器面160から見てエピタキシャルな関係ではなくなる面)を誘電体膜210の内部に移動させることができる。これによれば、Yが界面に濃化する効果によってダングリングボンドを終端できる。また、第一の結晶層211を薄膜にすることで、窒化物半導体100の共振器面160に及ぼす格子定数差に起因する応力を小さくできる。なお、格子定数差をさらに小さくするために、原子半径の大きいYの添加量を増やすとさらに効果的である。
【0221】
したがって、共振器面160に近い側の第一の結晶層211の結晶の配向を窒化物半導体100(より具体的には、共振器面160)と同一配向とし、第二の結晶層212の結晶の配向を第一の結晶層211の結晶の配向とは異なる配向にすることで、共振器面160のダングリングボンドを終端するとともに、誘電体膜210の内部で応力を緩和することができることから、さらに高い信頼性の窒化物半導体発光素子10を実現できる。
【0222】
なお、格子定数差をさらに小さくするために、原子半径の大きいYの添加量を増やすとさらに効果的である。
【0223】
また、例えば、窒化物半導体100から出射される光の波長は、430nm以下である。
【0224】
図22は、比較例2に係る窒化物半導体発光素子10Bの構成を示す模式的な断面図である。図23は、比較例2に係る窒化物半導体発光素子10BのTEM画像を示す図である。なお、図23は、窒化物半導体100のストライプ幅が30μmであり、CW、Po=5.0W(@25℃)、2000時間、450nmで出力された窒化物半導体発光素子10Bを示す。
【0225】
図22に示すように、窒化物半導体発光素子10Bは、窒化物半導体100と、誘電体膜201A~204A、205を有する誘電体多層膜200Bと、を備える。
【0226】
図23に示すように、誘電体膜202Aでは、結晶化があまり進行していないことがわかる。
【0227】
図24は、比較例3に係る窒化物半導体発光素子10AのTEM画像の別の一例を示す図である。なお、図24は、図26とは異なるエージング条件で光を出力した後の窒化物半導体発光素子10AのTEM画像を示す図である。具体的には、図24は、窒化物半導体100のストライプ幅が30μmであり、CW、Po=5.0W(@25℃)、1000時間、405nmで出力された窒化物半導体発光素子10Aを示す。
【0228】
図24に示すように、誘電体膜204Aの光結晶化が進行しており、光結晶化により誘電体膜204Aの変形が見られる。また、誘電体膜201Aと誘電体膜202Aとの界面近傍では、固相反応が進行していることが確認できる。
【0229】
図23及び図24から、450nmでの光結晶化の速度が405nmに比べて小さいことが示唆される。一方、誘電体膜202Aと誘電体膜203Aとの界面近傍では、白く変質していることが確認される。これは、固相反応及び膜剥がれの前兆と考えらえる。
【0230】
Yを含まないアモルファスのアルミナ(Al)は、光を受けて結晶化(光結晶化ともいう)することが知られている。また、光結晶化は、光の波長によって速度(結晶化の進行速度)が異なることが知られている。特に、プロジェクタ、照明器具等で用いられる青色領域の波長である445nm~455nmでは、結晶化の進行速度は、小さい。一方、このような波長帯域よりも短波長である370nm~405nmでは、例えば、445nmと同じ光学密度として比較すると、結晶化の進行速度が極めて速い。特に、430nmよりも短波長側では、結晶化の進行速度が急激に大きくなる。
【0231】
Al膜は、これらの波長帯域では透明であるが、膜中に酸素欠陥に起因する欠陥が存在することで、当該欠陥が光吸収源として振舞うことで光吸収が生じると考えられる。
【0232】
さらに、誘電体膜間の界面又は共振器面と誘電体膜との界面においてもダングリングボンドが存在し、短波長化に伴ってダングリングボンドに起因する光吸収もまた大きくなる。
【0233】
ここで、YをAl膜に添加すると、酸素欠陥及びダングリングボンドがYによって終端される。また、原子半径の大きいYによって、アモルファス内での原子変位に対する障害効果で結晶化が抑制される。
【0234】
これらのことから、430nm以下の中心波長(例えば、レーザ光の発振波長)の光を出射する窒化物半導体100を備える窒化物半導体発光素子10において、特に効果的に膜剥がれを生じさせにくくし且つ反射率を安定して維持できる高い信頼性を実現できる。
【0235】
また、例えば、第一の誘電体膜及び第二の誘電体膜における、イットリウムの濃度及びランタンの濃度の和は、各々、0.4atom%以下である。
【0236】
これによれば、Y又はLaの少なくとも一方が添加されることによって、第一の誘電体膜及び第二の誘電体膜が両方ともグレイン境界のダングリングボンド、酸素欠陥等をY又はLaの少なくとも一方で終端する。そのため、誘電体多層膜及び共振器面における消衰係数が低減する(つまり、光吸収係数も低減する)ことから、光吸収による共振器面での発熱が抑制され、さらに高い信頼性の窒化物半導体発光素子10が実現される。
【0237】
(その他の実施の形態)
以上、本開示に係る窒化物半導体発光素子について、上記実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記実施の形態に限定されるものではない。
【0238】
例えば、上記実施の形態では、窒化物半導体100の構造について、図3等を用いて詳細に説明したが、窒化物半導体は、光を出射する構造であればよく、上記実施の形態に限らない。例えば、窒化物半導体100は、発光層120の下側にP型窒化物半導体層が位置し、発光層120の下側にN型窒化物半導体層が位置してもよい。
【0239】
その他、上記実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0240】
本開示の窒化物半導体発光素子は、例えば、産業用照明、施設照明、車載用ヘッドランプ、レーザ加工機などの産業用のレーザ機器、及び、レーザディスプレイ、プロジェクタ等の画像表示装置等の光源に利用することができる。
【符号の説明】
【0241】
10、10A、10B、1000 窒化物半導体発光素子
100 窒化物半導体
101 N側電極
102 基板
110 N型窒化物半導体層
111 Nクラッド層
112 Nガイド層
120 発光層
121 N側ガイド層
122 活性層
123 P側ガイド層
124 中間層
130 P型窒化物半導体層
131 電子障壁層
132 Pクラッド層
133 コンタクト層
141 電流ブロック層
142 P側電極(オーミック電極)
143 パッド電極
160、161 共振器面
200、200A、200B、200C、200D、2000 誘電体多層膜(第一の誘電体多層膜)
201、201A、301、210 誘電体膜(第一の誘電体膜)
202、202A、302 誘電体膜(第二の誘電体膜)
203、203A、303 誘電体膜(第三の誘電体膜)
204、204A 誘電体膜(第四の誘電体膜)
205 誘電体膜(第二の光学膜)
206 誘電体膜(第一の光学膜)
211 結晶層(第一の結晶層)
212 結晶層(第二の結晶層)
300 誘電体多層膜(第二の誘電体多層膜)
310 光学干渉膜
320 多層コート膜
321 第一のコート膜
322 第二のコート膜
400、401 発光装置
410 パッケージ
411 リードピン
412 ステム
413 窓
414 キャップ
420 サブマウント
430 コリメータレンズユニット
431、432 コリメータレンズ
440、441 回折格子
450、460 カプラ
2001、2002、2003、2004、2005、2006、2007 誘電体膜
A、B、C、D、E、F、G、H 位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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