(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059254
(43)【公開日】2023-04-26
(54)【発明の名称】電気音響デバイス、MEMSマイクロホン及び等化方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/00 20060101AFI20230419BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20230419BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20230419BHJP
H04R 17/02 20060101ALI20230419BHJP
【FI】
H04R3/00 320
H04R1/28 320Z
B81B3/00
H04R17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022163823
(22)【出願日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】63/255732
(32)【優先日】2021-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503031330
【氏名又は名称】スカイワークス ソリューションズ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SKYWORKS SOLUTIONS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】カンパネラ―ピネダ、 フンベルト
(72)【発明者】
【氏名】ウルツ、 マイケル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クマル、 ラケシュ
(72)【発明者】
【氏名】キアン、 ユー
(72)【発明者】
【氏名】チェン、 グオフェン
【テーマコード(参考)】
3C081
5D004
5D220
【Fターム(参考)】
3C081AA13
3C081BA22
3C081BA33
3C081BA45
3C081BA48
3C081CA45
3C081DA03
3C081EA21
5D004DD03
5D004EE01
5D220BA01
5D220BC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】マイクロホンの音響帯域から共振周波数を除去する。
【解決手段】電子音響デバイス12は、共振周波数を含む周波数応答を有する一次MEMSマイクロホン14と、共振周波数を含む周波数応答を有する基準MEMSマイクロホン18と、等化モジュール22と、を含む。一次MEMSマイクロホンと基準基準MEMSマイクロホンとは、共通音響信号を実質同時に受信して、一次MEMSマイクロホンの変換済み信号と、基準MEMSマイクロホンの変換済み信号と、を生成する。基準MEMSマイクロホンの共振周波数は、一次MEMSマイクロホンの共振周波数とは異なる。等化モジュールは、一次MEMSマイクロホンの変換済み信号と基準MEMSマイクロホンの変換済み信号とに基づいて、マイクロホンの周波数応答を等化する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子音響デバイスであって、
共振周波数を含む周波数応答を有するマイクロホンと、
共振周波数を含む周波数応答を有する基準マイクロホンと、
等化モジュールと
を含み、
前記マイクロホンと前記基準マイクロホンとは、共通音響信号を実質同時に受信して前記マイクロホンの変換済み信号と前記基準マイクロホンの変換済み信号を生成するように構成され、
前記基準マイクロホンの共振周波数は前記マイクロホンの共振周波数とは異なり、
前記等化モジュールは、前記マイクロホンの変換済み信号と前記基準マイクロホンの変換済み信号とに基づいて前記マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される、電子音響デバイス。
【請求項2】
前記マイクロホンの感度が、前記基準マイクロホンの感度よりも高い、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項3】
前記マイクロホン及び前記基準マイクロホンはそれぞれが微小電気機械システム(MEMS)マイクロホンである、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項4】
前記等化モジュールはさらに、等化関数によって前記マイクロホンの周波数応答をフィルタリングすることによって、前記マイクロホンの周波数応答を等化するように構成され、
前記等化関数は、前記基準マイクロホンが前記共通音響信号を受信したことに応答して生成される前記基準マイクロホンの変換済み信号に基づく、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項5】
前記等化モジュールはさらに、
前記基準マイクロホンの変換済み信号のパワースペクトルを推定することと、
前記マイクロホンの変換済み信号及び前記基準マイクロホンの変換済み信号の時間領域サンプルの相互相関を計算することと、
前記相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を計算することと、
前記相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を、前記基準マイクロホンのパワースペクトル推定によって除算して前記マイクロホンの伝達関数を生成することと
によって前記マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項6】
前記等化モジュールはさらに、
前記伝達関数の次数N(N≧2)のフィッティング多項式を決定することと、
前記フィッティング多項式の逆数を計算することによって前記マイクロホンの等化関数を決定することと
によって前記マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される、請求項5の電子音響デバイス。
【請求項7】
前記マイクロホン、前記基準マイクロホン及び前記等化モジュールを封止するパッケージングシステムをさらに含む、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項8】
前記パッケージングシステムと前記マイクロホンと前記基準マイクロホンとの間の容積によって画定される少なくとも一つの裏側キャビティをさらに含む、請求項7の電子音響デバイス。
【請求項9】
前記少なくとも一つの裏側キャビティは、第1裏側キャビティ及び第2裏側キャビティを含み、
前記第1裏側キャビティは前記第2裏側キャビティから音響的に分離される、請求項8の電子音響デバイス。
【請求項10】
前記共通音響信号を受信するように構成される少なくとも一つのポートと、
前記共通音響信号が前記少なくとも一つのポートを通して前記マイクロホン及び前記基準マイクロホンに実質同時に到達するのを許容するように構成される少なくとも一つの表側キャビティと
をさらに含む、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項11】
前記少なくとも一つのポートは第1ポート及び第2ポートを含み、
前記少なくとも一つの表側キャビティは第1表側キャビティ及び第2表側キャビティを含み、
前記第1ポートと前記第2ポートとは実質同時に前記共通音響信号を受信するように構成され、
前記第1表側キャビティは、前記共通音響信号が前記第1ポートを通して前記マイクロホンに到達するのを許容するように構成され、
前記第2表側キャビティは、前記共通音響信号が前記第2ポートを通して前記基準マイクロホンに到達するのを許容するように構成される、請求項10の電子音響デバイス。
【請求項12】
前記マイクロホンと前記基準マイクロホンとは同一箇所かつ同一平面に存在する、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項13】
前記基準マイクロホンの共振周波数は、前記マイクロホンの共振周波数よりも高い、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項14】
前記基準マイクロホンの共振周波数は、前記マイクロホンの共振周波数よりも低い、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項15】
前記等化モジュールは、ASICコントローラ及びDSPコントローラの一方である、請求項1の電子音響デバイス。
【請求項16】
音響等化方法であって、
マイクロホンと基準マイクロホンとを共通音響信号によって実質同時に励起して前記マイクロホンの変換済み信号と前記基準マイクロホンの変換済み信号とを生成することであって、前記マイクロホンは共振周波数を含む周波数応答を有し、前記基準マイクロホンは共振周波数を含む周波数応答を有し、前記基準マイクロホンの共振周波数は前記マイクロホンの共振周波数とは異なることと、
前記基準マイクロホンが前記共通音響信号を受信したことに応答して前記基準マイクロホンの変換済み信号を生成することと、
前記マイクロホンの変換済み信号と前記基準マイクロホンの変換済み信号とに基づいて前記マイクロホンの周波数応答を等化することと
を含む、音響等化方法。
【請求項17】
前記マイクロホンの変換済み信号と前記基準マイクロホンの変換済み信号とに基づいて前記マイクロホンの伝達関数を推定することをさらに含む、請求項16の音響等化方法。
【請求項18】
前記マイクロホンの伝達関数を推定することは、
前記基準マイクロホンの変換済み信号のパワースペクトルを推定することと、
前記マイクロホンの変換済み信号及び前記基準マイクロホンの変換済み信号の時間領域サンプルの相互相関を計算することと、
前記相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を計算することと、
前記相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を、前記基準マイクロホンのパワースペクトル推定によって除算して前記マイクロホンの伝達関数を生成することと
を含む、請求項17の音響等化方法。
【請求項19】
前記推定された伝達関数に基づいて前記マイクロホンの等化関数を決定することと、
前記マイクロホンの周波数応答を前記等化関数によってフィルタリングして前記マイクロホンの周波数応答を等化することと
をさらに含む、請求項17の音響等化方法。
【請求項20】
前記マイクロホンの変換済み信号を適応的にフィルタリングするべく、前記等化関数の係数によって適応フィルタを再構成することをさらに含む、請求項16の音響等化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の複数実施形態が、微小電気機械システム(MEMS)に関する。詳しくは、少なくともいくつかの実施形態が、マイクロホンのようなMEMS変換器の周波数応答等化に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロホンのような変換器の周波数応答は、当該変換器の周波数固有の出力感度である。共振が生じるのは、物理的物体又は電子回路が、初期の変位又は発生源からのエネルギーを吸収し、その結果生じる機械的又は電気的な振動を、追加の力又はエネルギーの作用なしに維持するときである。この振動が生じる周波数が共振周波数として知られている。マイクロホンの共振周波数は、音響帯域に現れると潜在的に厄介となる。聴く人の耳へのダメージ及び/又は感知された音の不正確な再生を引き起こしかねないからである。この共振を排除することが、マイクロホン性能を成功させるのに不可欠となる。
【0003】
MEMSマイクロホンは、音圧(例えば音声)を電気信号(例えば電圧)に変換するべく使用される微小電気機械デバイスである。MEMSマイクロホンは、無線デバイス、携帯デバイス、ヘッドセット、イヤーピース、スピーカ、及び他の音声インタフェイスのデバイス又はシステムにおいて広く使用されている。従来型の容量性MEMSマイクロホンは、高い電力消費(例えば大きなバイアス電圧)と、例えば厳しい環境(例えば、ほこり及び/又は水にさらされる場合)において使用されるときの信頼性とに悩まされる。
【0004】
容量性MEMSマイクロホンの欠点に対処するべく圧電性MEMSが使用されている。圧電性MEMSマイクロホンは、電力をほとんど消費しない(例えばバイアス電圧を必要としない)まま不変の聞き取り性能を与え、ロバストであり、水及びほこりの汚染に耐性がある。従来型の容量性及び圧電性MEMSマイクロホンは双方とも、音響帯域における共振の問題に悩まされる。
【0005】
MEMSマイクロホンにおける共振を除去し又は少なくとも低減する従前の試みには、いくつかの異なるアプローチが含まれていた。いくつかの解決策は、マイクロホンの構造に特定の機能を追加して、音響帯域から共振ピークを除去する。他の解決策は、共振付近の帯域に対処して周波数応答における余剰ピークを補償するためのマルチバンド処理を含む。もう一つの解決策は、共振周波数を修正するべくマイクロホンのパッケージングを調整することにより、人間に知覚可能な音響帯域から共振周波数を押し出すことである。また、マイクロホンは工場において、共振周波数に固定周波数ノッチを追加して当該ピークを補償するべく、例えばピンクノイズを使用して較正することができる。しかしながら、これら従前の解決策はいずれも、ひとたび特定のマイクロホンが工場から出荷されて予測不能な現実世界のノイズが存在するときに、そのマイクロホンの音響帯域から共振周波数を満足に除去する方法を与えていない。
【発明の概要】
【0006】
少なくとも一つの実施形態によれば、電子音響デバイスが与えられ、この電子音響デバイスは、共振周波数を含む周波数応答を有するマイクロホンと、共振周波数を含む周波数応答を有する基準マイクロホンと、当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号に基づいて当該マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される等化モジュールとを含み、当該マイクロホンと当該基準マイクロホンとは、共通音響信号を実質同時に受信して当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号を生成するように構成され、当該基準マイクロホンの共振周波数は、当該マイクロホンの共振周波数とは異なる。
【0007】
一例において、マイクロホンの感度は、基準マイクロホンの感度よりも高い。
【0008】
他例において、マイクロホン及び基準マイクロホンはそれぞれが、微小電気機械システム(MEMS)マイクロホンである。
【0009】
一例において、等化モジュールはさらに、等化関数によってマイクロホンの周波数応答をフィルタリングすることにより、当該マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される。等化関数は、基準マイクロホンが共通音響信号を受信したことに応答して生成される当該基準マイクロホンの変換済み信号に基づく。
【0010】
他例において、等化モジュールはさらに、基準マイクロホンの変換済み信号のパワースペクトルを推定することと、当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号の時間領域サンプルの相互相関を計算することと、当該相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を計算することと、当該相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を、当該基準マイクロホンのパワースペクトル推定によって除算して当該マイクロホンの伝達関数を生成することとにより、当該マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される。
【0011】
一例において、等化モジュールはさらに、伝達関数の次数N(N≧2)のフィッティング多項式を決定することと、当該フィッティング多項式の逆数を計算してマイクロホンの等化関数を決定することとによって、当該マイクロホンの周波数応答を等化するように構成される。
【0012】
他例において、電子音響デバイスはさらに、マイクロホン、基準マイクロホン及び等化モジュールを封止するパッケージングシステムを含む。
【0013】
一例において、電子音響デバイスはさらに、パッケージングシステムとマイクロホンと基準マイクロホンとの間の容積によって画定される少なくとも一つの裏側キャビティを含む。
【0014】
他例において、少なくとも一つの裏側キャビティは、第1裏側キャビティ及び第2裏側キャビティを含み、第1裏側キャビティは、第2裏側キャビティから音響的に分離される。
【0015】
一例において、電子音響デバイスはさらに、共通音響信号を受信するように構成される少なくとも一つのポートと、共通音響信号が当該少なくとも一つのポートを通してマイクロホン及び基準マイクロホンに実質同時に到達するのを許容するように構成される少なくとも一つの表側キャビティとを含む。
【0016】
他例において、少なくとも一つのポートは第1ポート及び第2ポートを含み、少なくとも一つの表側キャビティは第1表側キャビティ及び第2表側キャビティを含み、第1ポートと第2ポートとは実質同時に共通音響信号を受信するように構成され、第1表側キャビティは、当該共通音響信号が第1ポートを通してマイクロホンに到達するのを許容するように構成され、第2表側キャビティは、当該共通音響信号が第2ポートを通して基準マイクロホンに到達するのを許容するように構成される。
【0017】
一例において、マイクロホンと基準マイクロホンとは同一箇所かつ同一平面に存在する。
【0018】
他例において、基準マイクロホンの共振周波数は、マイクロホンの共振周波数よりも高い。
【0019】
一例において、基準マイクロホンの共振周波数は、マイクロホンの共振周波数よりも低い。
【0020】
他例において、等化モジュールは、ASICコントローラ及びDSPコントローラの一方である。
【0021】
少なくとも一つの実施形態によれば、音響等化方法が、マイクロホン及び基準マイクロホンを共通音響信号によって実質同時に励起して当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号を生成することであって、当該マイクロホンは共振周波数を含む周波数応答を有し、当該基準マイクロホンは共振周波数を含む周波数応答を有し、当該基準マイクロホンの共振周波数は当該マイクロホンの共振周波数とは異なることと、当該基準マイクロホンが当該共通音響信号を受信したことに応答して当該基準マイクロホンの変換済み信号を生成することと、当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号に基づいて当該マイクロホンの周波数応答を等化することとを含む。
【0022】
一例において、音響等化方法はさらに、マイクロホンの伝達関数を、当該マイクロホンの変換済み信号及び基準マイクロホンの変換済み信号に基づいて推定することを含む。
【0023】
他例において、マイクロホンの伝達関数を推定することは、基準マイクロホンの変換済み信号のパワースペクトルを推定することと、当該マイクロホンの変換済み信号及び当該基準マイクロホンの変換済み信号の時間領域サンプルの相互相関を計算することと、当該相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を計算することと、当該相互相関の周波数領域パワースペクトル推定を、当該基準マイクロホンのパワースペクトル推定によって除算して当該マイクロホンの当該伝達関数を生成することとを含む。
【0024】
一例において、音響等化方法はさらに、推定された伝達関数に基づいてマイクロホンの等化関数を決定することと、当該マイクロホンの周波数応答を当該等化関数によってフィルタリングして当該マイクロホンの周波数応答を等化することとを含む。
【0025】
他例において、当該マイクロホンの等化関数を決定することは、伝達関数の次数N(N≧2)のフィッティング多項式を決定することと、当該フィッティング多項式の逆数を計算して当該マイクロホンの等化関数を決定することとを含む。
【0026】
一例において、音響等化方法はさらに、マイクロホンの変換済み信号を適応的にフィルタリングするべく、等化関数の係数によって適応フィルタを再構成することを含む。
【0027】
これらの典型的な側面及び実施形態の、さらなる他の側面、実施形態及び利点が以下に詳述される。ここに開示される実施形態は、ここに開示される原理の少なくとも一つに整合する任意の態様で他の実施形態と組み合わせてよく、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「一代替実施形態」、「さまざまな実施形態」、「一つの実施形態」等への参照は、必ずしも相互に排他的ではなく、記載される特定の特徴、構造又は特性が少なくとも一つの実施形態に含まれ得ることを示す意図である。ここでのかかる用語が現れても、必ずしもすべてが同じ実施形態を参照するわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
少なくとも一つの実施形態の様々な側面が、縮尺どおりに描かれることを意図いない添付図面を参照して以下に説明される。図面は、様々な側面及び実施形態の例示及びさらなる理解を与えるべく含まれており、本明細書に組み入れられて本明細書の一部を構成するが、本発明の限界を画定するように意図されるわけではない。図面において、様々な図面に示される同一又はほぼ同一のコンポーネントはそれぞれが同じ番号によって表される。明確性を目的として、すべての図面にすべてのコンポーネントが標識されるわけではない。
【0029】
【
図1】一実施形態に係るマイクロホンのブロック図である。
【
図2A】他実施形態に係るマイクロホンの断面である。
【
図2B】他実施形態に係るマイクロホンの断面である。
【
図3A】他実施形態に係るマイクロホンの断面である。
【
図3B】他実施形態に係るマイクロホンの断面である。
【
図4】他実施形態に係るマイクロホンの断面である。
【
図5】他実施形態に係る等化方法の機能ブロック図である。
【
図6】他実施形態に係る一セットの周波数応答グラフ、及び機能ブロック図である。
【
図7A】他実施形態に係る平坦カンチレバービームを有する微小電気機械システムマイクロホンの断面図である。
【
図7B】他実施形態に係る微小電気機械システムマイクロホン配列体の断面図である。
【
図8】他実施形態に係るカンチレバービーム圧電マイクロホンのセクションのレイアウトである。
【
図9】他実施形態に係る圧電微小電気機械システムマイクロホンを含む無線デバイスの模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここに記載される側面及び実施形態は、マイクロホンのようなMEMS変換器における周波数応答等化に関する。音響帯域にマイクロホン共振を有することの技術的な問題の中には、耳及び/又は電子機器にダメージを引き起こす高いエネルギーピーク/消費、音響帯域から共振ピークを除去するための性能(例えば感度)対共振周波数の解決不可能な設計上のトレードオフ、共振点での群遅延の増加(例えば音声及び/又は音響信号の遅延歪み)、並びに部品ごとに異なる共振周波数を引き起こす製造、パッケージング、及び他のばらつきがある。
【0031】
これらの技術的な問題を解決するべく、ここに与えられる実施形態は、MEMSマイクロホンの周波数応答を等化する等化方法及び電子音響デバイスを含み、一次MEMSマイクロホン及び基準MEMSマイクロホン、当該一次マイクロホン及び二次マイクロホンを封止するパッケージング、並びに信号処理ハードウェア(例えばASIC)を含む。ここに開示される実施形態の利益を得るべく、一次マイクロホン及び基準マイクロホンはそれぞれが同じタイプであり、それぞれが異なる共振周波数を有し、双方のマイクロホンが実質同時に変換される信号を受信する。一例において、「同じタイプ」によって、一次マイクロホン及び基準マイクロホンの双方が、同じ/共通の音響励起に対して同じ理論周波数応答を有することが理解される。基準マイクロホンの変換済み信号は、一次マイクロホンの変換済み信号を等化するべく使用され、詳しくは、一次マイクロホンの共振周波数を等化するべく使用される。複数の例が、双方のマイクロホンがMEMSマイクロホンであることを含む。しかしながら、本発明の実施形態は、音響変換器(例えばマイク)に限定されるわけではなく、MEMS加速度計又は圧力変換器のような他のタイプの変換器に適応させることができることを認識すべきである。同じ/共通の信号により一次マイクロホン及び二次マイクロホンの双方を励起することと、変換済み信号のスペクトル推定を実行することと、一次マイクロホンの共振ピークを除去するための等化関数を生成するために一次マイクロホンの伝達関数の最良の多項式フィッティングを発見することとを含む等化方法が与えられる。
【0032】
わかることだが、ここに記載される方法及び装置の実施形態は、その適用において、以下の説明に記載され又は添付図面に示される構成及び配列の詳細に限定されない。これらの方法及び装置は、他の実施形態で実装することができ、様々な態様で実施し又は実行することができる。特定の実装例が単なる例示目的でここに与えられ、限定を意図しない。また、ここで使用される表現及び用語は、説明を目的とし、限定とみなしてはならない。ここでの「含む」、「備える」、「有する」、「包含する」、及びこれらのバリエーションの使用は、これらよりも後に列記される項目及び均等物並びに付加的な項目を包括することを意味する。「又は」及び「若しくは」への言及は包括的に解釈され、「又は」及び「若しくは」を使用して記載される任意の項目が、記載される項目のうち一つ、一を超えるもの、及びすべてのもののいずれかを示し得る。
【0033】
すべてのマイクロホンは、非常に高いQ値(すなわち振動駆動力を受けたときの共振器の帯域幅に対する中心周波数の比)を有するほとんどのマイクロホンと共振し、これは中間帯域感度の10倍のピークになることがある。多くのマイクロホンはコンデンサ型マイクロホンであり、共振ピーク/スパイクに対処する従前の解決策は、当該スパイクを、人間の聴覚にほとんど又は完全に知覚できない20kHzを超えるように押し出すことである。しかしながら、共振ピークが音響帯域の外側に押し出されると、マイクロホンの感度は、20dB以上もの多大な負の影響を受ける。
【0034】
マイクロホンの周波数応答を改善する従前の解決策は、共振ピークを可聴範囲から出るように動かすべくマイクロホン又はそのパッケージングに構造物を追加することと、工場において当該マイクロホンを較正することとを含む。しかしながら、かかる解決策は、マイクロホンの周波数応答を改善するのに十分に適切とはいえない。周波数応答は、コンポーネントの経年変化及び環境からの影響を含む様々な因子ゆえに経時的に変化するからである。例えば、マイクロホンの共振周波数は、温度、湿度等の変動ゆえにマイクロホンの物理的構造が経時的に変化するにつれて変化し得る。共振周波数が変化すると、それまでの較正がいずれも、もはや最適ではなくなり、マイクロホン又はそのパッケージングに付加された構造物は、初期に行っていたピーク共振の排除ができなくなる。
【0035】
マイクロホンからの理想的な測定は、歪み又はノイズなし入来する音響信号のみを含む。マイクロホンがピックアップする音響信号ではないノイズ又は信号は、当該マイクロホンによる音響信号の推定を崩壊させる。ここでの実施形態は、任意の入来エネルギー(ノイズを含む)が存在していてもマイクロホン(又は他の適切な変換器若しくはセンサ)による音響信号の推定を改善するという利益を有する。
【0036】
開示される実施形態は、周波数応答におけるトレードオフなし(すなわちピークなし)の高い感度及び信号対ノイズ(SNR)指数を有するMEMSマイクロホンを与えることによって、先行技術における電流制限を克服する。等化方法が、統計的信号処理を使用する。この処理は、一次マイクロホン及び基準マイクロホンが不可知であり、高速であり、ノイズ環境における動作に適切である。MEMSマイクロホンのシステムオンチップ(SoC)実施形態は、共有ポートと、固有のMEMS製造プロセスのばらつきに対する感度が低い表側キャビティ及び裏側キャビティとに起因して、正確な音響励起条件と、簡潔かつ安価なパッケージングとを確保する。実施形態はまた、各マイクロホンが別個のプロセスで作られるシステムインパッケージ(SiP)実装例を含む。
【0037】
図1は、電子音響デバイス2のブロック図である。電子音響デバイス2は、一次マイクロホン4、一次前置増幅器6、基準マイクロホン8、基準前置増幅器10、及び等化モジュール11を含む。所定の実施形態において、等化モジュール11は、デジタル信号プロセッサ(DSP)又はDSPコントローラである。他実施形態において、等化モジュール11は、マイクロコントローラ、ASICコントローラ、又は汎用の中央演算処理装置(CPU)のうちの一つである。電子音響デバイス2は、一次マイクロホン4、一次前置増幅器6、基準マイクロホン8、基準前置増幅器10及び等化モジュール11のそれぞれを包含するパッケージング(
図1には示さず)を含む。例は、SoC又はSiPとして実装されている電子音響デバイス2を含む。
【0038】
一次前置増幅器6は、一次マイクロホン4に電子的に結合され、一次マイクロホン4により出力される変換済み信号を増幅するように構成される。同様に、基準前置増幅器10は、基準マイクロホン8に電子的に結合され、基準マイクロホン8により出力される変換済み信号を増幅するように構成される。等化モジュール11は一次前置増幅器6及び基準前置増幅器10に電子的に結合され、一次マイクロホン4及び基準マイクロホン8からの変換済み信号を受信するように構成される。
【0039】
ここに開示される等化の方法及び技法を実行するべく、一次マイクロホン4及び基準マイクロホン8はそれぞれが、異なる共振周波数を有して同じ弾性信号を受信するように構成される。一実施形態において、基準マイクロホン8の共振周波数は、一次マイクロホン4の共振周波数よりも高い。他実施形態において、基準マイクロホン8の共振周波数は、一次マイクロホン4の共振周波数よりも低くてよい。理解されることだが、ここに開示される等化の方法及び技法は、基準マイクロホン8が一次マイクロホン4よりも高い共振周波数を有する実施形態、及び基準マイクロホン8が一次マイクロホン4よりも低い共振周波数を有する実施形態の双方に適用可能である。
【0040】
所定例において、一次マイクロホン4は、基準マイクロホン8よりも低い共振周波数を有し、さらには基準マイクロホン8よりも高い感度も有する。この場合、一次マイクロホンにおける共振は、一次マイクロホンの帯域幅の有用性に負の影響を与え得る。一次マイクロホン4及び基準マイクロホン8の、それぞれの第1共振ピークの後の周波数応答は、それぞれの第1共振ピークの前の、感度及び高次共振ピークの急峻な下降及び上昇を有する周波数応答よりも複雑となり得る。このシナリオにおいて、下側周波数基準マイクロホンにより試みられる音響条件及び環境条件の測定はいずれも、多くの特徴及び非平坦な感度応答を有する周波数応答の領域において行われるので、当該基準マイクロホンは、下側共振周波数応答を有する基準マイクロホンと比べると「クリーンな」基準としての役割を果たすには適切でなくなる。したがって、所定例において、周波数応答に一次マイクロホンよりも高い第1ピークを有する基準マイクロホンが望ましい。
【0041】
図2Aは、電子音響デバイス12の断面である。電子音響デバイス12は、一次MEMSマイクロホン14、一次マイクロホン前置増幅器16、基準MEMSマイクロホン18、基準前置増幅器20、等化モジュール22、基板24、パッケージング26、裏側キャビティ28、表側キャビティ30及びポート32を含む。所定の実施形態において、基板24はシリコンから作られる。他実施形態において、基板24はプリント回路基板(PCB)である。一次マイクロホン14はサポート19によって支持される。サポート19は、いくつかの例において、シリコンから作られて基板24に結合される。基板24もまたシリコンから作られる。同様に、基準マイクロホン18はサポート21によって支持される。サポート21は、いくつかの例において、シリコンから作られて基板24に結合される。基板24もまたシリコンから作られる。一例において、一次マイクロホン14及び基準マイクロホン18は、シリコンウェハから個片化されたシリコンダイに構築される。他例において、一次MEMSマイクロホン14、一次マイクロホン前置増幅器16、基準MEMSマイクロホン18、基準前置増幅器20及び等化モジュール22はすべて、基板24上に取り付けられるチップとして製造される。
【0042】
裏側キャビティ28は、パッケージング26内に包含され、かつ、基板24と内部コンポーネントとの間に包含される容積によって画定される。簡潔にする目的のため、類似するコンポーネント(例えば前置増幅器16と前置増幅器6)の
図1からの関連する説明は、
図2A及びその後に説明される実施形態に適用可能であるから、繰り返さない。
【0043】
電子音響デバイス12は、音響信号13をポート32において受信するように構成される。その後、この音響信号13は表側キャビティ30の中へと導かれ、さらに裏側キャビティ28へと導かれ、音響信号が反射されて基準マイクロホン18及び一次マイクロホン14の双方に実質同時に到達する。ここで使用されることだが、「実質同時に」という語句は、理想的には同時にという意味で理解される。実際的な言い方をすれば、音響波が、同一箇所かつ同一平面の2つのセンサに正確に同じ時に(すなわち同時に)到達することはほぼ不可能である。よって、電子音響デバイス12は、入来する音響信号を双方のマイクロホンにできる限り正確に同時に又は実質同時に導くように設計される。双方のマイクロホンが入来信号に実質同時に遭遇して同信号を変換することを保証することにより、基準マイクロホン18からの変換済み信号を、一次マイクロホン14の共振ピークを除去するように使用することができる。
【0044】
裏側キャビティ28は、一次マイクロホン14及び基準マイクロホン18の動作及び性能を、いくつかの態様でサポートする。第1に、裏側キャビティ28は、周波数応答をファイナライズする。すなわち、裏側キャビティ28のサイズが一次マイクロホン14及び基準マイクロホン18の共振周波数を究極的に画定する。第2に、その結果、裏側キャビティ28が、各マイクロホンの感度及びノイズ/SNRのような他の主要な性能パラメータも決定する。
【0045】
図2Aに描かれるコンポーネントはそれぞれが、双方のマイクロホン14、18が同じプロセス層を使用する一方で異なる感度及び周波数を有する同じSoC製造プロセス内で構築される。電子音響デバイス12は、増幅、信号コンディショニング及び等化モジュール22のための一以上のASICを包含してよい。
【0046】
図2Aに示されるように、電子音響デバイス12は2つのSoCデバイス、すなわち基準マイクロホン18及び一次マイクロホン14を含む。しかしながら、電子音響デバイスは、2を超えるSoCデバイス(図示せず)を含んでよい。例えば、基準マイクロホン18及び一次マイクロホン14のほかに、付加的なマイクロホンを設けてよい。
【0047】
図2Bは、第1表側キャビティ36及び第2表側キャビティ38を有する電子音響デバイス34の断面である。音響エネルギーを第1表側キャビティ36の中に導くべく、第1表側キャビティ36の近くに第1ポート36aが設けられる。音響エネルギーを第2表側キャビティ38の中に導くべく、第2表側キャビティ38の近くに第2ポート38bが設けられる。
図2Aと共通する同一番号の要素の説明は、簡潔性を目的として省略する。いくつかの例において、一次マイクロホン14及び基準マイクロホン18はそれぞれが、シリコン基板の頂部に形成される圧電材料から構築される。
図2Bに示されるように、電子音響デバイス34は、マイクロホン14、18をベース基板24に結合する層を形成するシリコン材料を含む。ベース基板24は、シリコン基板又はプリントサーキットボード(PCB)基板としてよい。一例において、「結合」とは、接続、接触及び/又は支持を意味する。また、シリコン分割器40が第1キャビティ36を第2キャビティ38から分離するべく利用される。各マイクロホンに対して別個の表側キャビティを設けることが、一次マイクロホン14を、基準マイクロホン18と相互作用をしないように音響的に分離することに役立つ。
【0048】
図3Aは、分割器48によって分離される第1裏側キャビティ44及び第2裏側キャビティ46を有する電子音響デバイス42の断面である。いくつかの例において、分割器48はシリコン製である。他例において、分割器は、パッケージングと同じ材料から作られてパッケージング26の一部となる。
図2A及び
図2Bと共通する同一番号の要素の説明は、簡潔性を目的として省略する。各マイクロホンに対して別個の裏側キャビティを設けることが、一次マイクロホン14を、基準マイクロホン18と相互作用をしないように音響的に分離することに役立つ。
【0049】
図3Bは、分割器48によって分離される第1裏側キャビティ44及び第2裏側キャビティ46と、分割器40によって分離される第1表側キャビティ36及び第2表側キャビティ38とを有する電子音響デバイス50の断面である。
図2A及び
図2Bと共通する同一番号の要素の説明は、簡潔性を目的として省略する。各マイクロホンに対する分離された双方の裏側キャビティに加えて分離された表側キャビティを設けることが、一次マイクロホン14を、基準マイクロホン18と相互作用をしないように音響的に分離することに役立つ。
【0050】
図4は、パッケージング56によって囲まれる単数の裏側キャビティ54を有する電子音響デバイス52の断面である。電子音響デバイス52は、一次MEMSマイクロホン58及び一次前置増幅器60、基準マイクロホン62及び基準前置増幅器64、並びに等化モジュール66を含む。
図4が、一次MEMSマイクロホン58及び基準マイクロホン62をダイアフラム型圧電マイクロホンとして描く一方、他実施形態において、電子音響デバイスは、代替的にカンチレバー圧電マイクロホンを含んでよい。さらに、電子音響デバイス52において利用されるマイクロホンのタイプは、ダイアフラム型圧電マイクロホン及びカンチレバー型圧電マイクロホンに限られない。電子音響デバイス52における各マイクロホンには、別個の表側キャビティ及びポートが設けられる。一次マイクロホン58には、表側キャビティ68及びポート70が設けられる。上述した実施形態と同様に、ポート70は、入来音響波を表側キャビティ68の中に導いて一次マイクロホン58と相互作用させるように構成される。同様に、基準マイクロホン62には、表側キャビティ72及びポート74が設けられ、ポート74は、同じ入来音響波を表側キャビティ72の中に向けて基準マイクロホン62と相互作用させるように構成される。
【0051】
所定の実施形態において、一次マイクロホン58及び基準マイクロホン62はそれぞれが、異なる製造プロセスの中で構築され、それぞれがパッケージングレベルに集積される2つの異なるチップに設けられる。一実施形態において、この集積は、電子音響デバイス52をSiPとして構築することの一部となる。電子音響デバイス52の一例には、2つ以上のASICが増幅を目的として含まれる。すなわち、少なくとも一方が一次マイクロホン58のために含まれ、第2のASICが、基準マイクロホン62、信号コンディショニング及び等化モジュール66のために含まれる。パッケージング構造物は、双方のマイクロホンにとって同様としてよいが、所定の実施形態において、それぞれのASICチップ及び設計詳細に合わせるべく修正が必要となり得る。
【0052】
電子音響デバイス2、12、34、42、50及び52を含むここに開示の電子音響デバイスはいずれも、MEMSマイクロホンの周波数応答における共振ピークを除去する等化方法を利用する。
図5は、かかる音響等化方法76を示す。
【0053】
等化方法76は、音響の波又は励起78から開始する。音響励起が、共通弾性励起として少なくとも2つのMEMSマイクロホンに渡される。一例として、
図5に示されるように、少なくとも2つのマイクロホンは、一次MEMSマイクロホン80及び基準MEMSマイクロホン82を含む(ただし、記載される等化方法は、ここに記載される電子音響デバイスのいずれに対しても適用可能である)。
【0054】
方法76の動作84において、この例において一次マイクロホン80よりも高い共振周波数を有する基準マイクロホン82からの変換済み信号が、変換済み信号のパワースペクトルを推定するように処理される。少なくとも一つの実施形態において、パワースペクトルは、スペクトル推定S22を生成するべく、変換済み信号の高速フーリエ変換(FFT)を計算することによって取得される。理解されることだが、他の技法を適用して変換済み信号のパワースペクトルを推定してよい。例えば、ウェルチ(Welch)推定、又はFFTを使用しない他の技法(例えばゲーツェル(Goertzel)フィルタアルゴリズム)を適用して変換済み信号のパワースペクトルを推定してよい。他例において、FFTの代わりにカルマン(Kalman)フィルタを利用してマイクロホンの伝達関数推定を抽出してよい。
【0055】
方法76の動作86において、一次マイクロホン80及び基準マイクロホン82の変換済み信号から生成される時間領域サンプルの相互相関R12が取得される。引き続き、相互相関R12の周波数領域パワースペクトル推定S12が計算される。
【0056】
動作88において、相互相関R12のパワースペクトル推定S12が、基準センサのパワースペクトル推定S22によって除算され、一次マイクロホン80の伝達関数推定T12が生成される。
【0057】
動作90において、次数Nの多項式が、伝達関数推定T12の商(quotient)にフィッティングされる。ここで、N≧2である。
【0058】
ひとたび多項式が取得されると、方法76は動作92に進む。ここで、多項式の逆数T12
-1が、一次マイクロホン80の等化関数として計算される。所定の実施形態は、動作92における伝達関数推定T12の周波数ポイントへの係数の最小二乗フィッティングを利用する。一例において、次数Nは3であり、当該曲線に対して解くのに十分なランクが存在するように少なくとも4つの周波数ポイントが使用される。
【0059】
動作93において、一次マイクロホン80の周波数応答が、逆多項式T12
-1によってフィルタリングされ、96において一次マイクロホン80の、等化された周波数応答が生成される。動作93において、動作92によって取得された係数が動作93へと渡される。動作93は、係数を取り出してかかる係数によってフィルタ関数Nを再プログラム/更新するフェッチ手順を含む。したがって、動作93は、等化関数Nの係数を使用して再構成可能な適応フィルタを与える。適応フィルタはその後、連続的に、一次マイクロホンによって生成された変換済み信号の処理及びフィルタリングを行う。
【0060】
等化方法76を行った結果、一次マイクロホン80の伝達関数の推定へのノイズの影響が低減され得る。所定例において、等化方法76において使用されるパワースペクトル推定アルゴリズムは、信号サンプルのFFTの蓄積及び平均化を使用しており、これは、ノイズへの耐性を向上させることに相当する。ノイズ分散が平均化によって低減されるため、「クリーンな」伝達関数の抽出が可能になるからである。
【0061】
図6は、一セットの周波数応答グラフ94、100、102、106、及び機能ブロック
図104を示す。等化(例えば方法76を適用すること)の前に、一次マイクロホンの周波数応答97、及び基準マイクロホンの周波数応答98が、第1の周波数応答グラフ94に提示される。最低共振周波数すなわち基本周波数f
0が、グラフ94の各周波数応答におけるピークによって表される。注目すべきは、グラフ100に示されるように、基準マイクロホンが、一次マイクロホンの基本周波数において実質的に平坦な周波数応答を有することである。グラフ94及びグラフ100が、等化なしの周波数応答を表す。グラフ100は、第1の周波数応答グラフ94を拡大したものである。したがって、基準マイクロホンの周波数応答の条件は、当該周波数応答が基準マイクロホンの共振まわりで単調であることとなり得る(すなわち、一次マイクロホンの共振付近においてアップダウンがなく、感度が傾斜(増加又は減少)する可能性がある)。
【0062】
グラフ102は、第1の周波数応答グラフ94、及びグラフ100に相当する。グラフ102は、同じパッケージおける2つのマイクロホン(例えば一次マイクロホン80及び基準マイクロホン82)の周波数応答を表す。これらの周波数応答は等化モジュール104(例えば
図1における等化モジュール11と同じ又は類似の機能を有する)によって処理され、グラフ106に示される等化済み周波数応答が生成される。ここで、双方の周波数応答は、一次マイクロホンの基本周波数において概ね平坦である。
【0063】
図7Aは、圧電微小電気機械システム(MEMS)マイクロホン108の一実装例の断面図を示す。マイクロホン108は、ここに記載される電子音響デバイス2、12、34、42、50、52のいずれにおいても使用可能な圧電MEMSカンチレバーマイクロホンである。マイクロホン108は基板110を含む。基板103は、随意的にシリコンから作られる。基板1110は、カンチレバーの長さに直交して延びるように配列される2つの側壁105を有する。2つのさらなる端壁(図示せず)が側面と直角に接するようにして対向側でキャビティを完成させ、以下の
図7Bに関連して記載されるさらなる構造体が、当該キャビティの下側に存在してよい。これらの壁は好ましくは、ほぼ108~500マイクロメートル厚である。圧電膜層111が、キャビティの上にカンチレバービーム116を形成する。側壁105の少なくとも一方がアンカー領域113を画定する。アンカー領域は好ましくは、ほぼ108~500マイクロメートル厚である。アンカー領域113は、圧電膜層111が当該側壁の一方に結合及び支持されるエリアである。マイクロホン108は、随意的に、基板110の表面に配置される絶縁層109を含む。絶縁層は随意的に二酸化シリコンである。圧電膜層111が、アンカー領域113において基板110により支持される結果、圧電膜層111がカンチレバー付きとされて固定端114と自由端112との間に延びる。少なくとも一つの電極(図示せず)が、圧電膜層の上に配列される。この配列体は好ましくは、圧電膜層の上及び下に配列される多数の電極、いくつかの配列例においては当該層間に配列される多数の電極、を含む。圧電膜層及び電極が一緒になってカンチレバービーム116を形成する。わかることだが、ビームが矩形形状を有するように示されるにもかかわらず、他の形状も使用してよい。マイクロホン108は、圧電膜層111の上に配置され得る少なくとも一つの電極を含む。この電極は、圧電層のキャビティ側に配置され、又は圧電層の、キャビティから離れる他側に配置される。電極は、随意的に、アンカー領域113に隣接して配置される。絶縁層109が、圧電膜層のキャビティ側に配置される電極と、シリコン基板110との間の絶縁を与える。
【0064】
図7Bは、他のマイクロホン配列体130の断面図を示す。わかることだが、これは図示目的の一つの例示的実施形態であり、マイクロホンは、様々な異なる配列体に含まれてよい。図示のように、
図7Aのマイクロホン108がキャップ133の中に配置される。キャップは可撓性又は剛性としてよく、金属材料のような任意の適切な材料としてよい。このキャップは、基板135(例えばプリントサーキットボード)とともに、音声入口131を介して配列体の中に及び外に空気のみが流れるようなシールをもたらす。基板135は、任意の適切な材料としてよい。キャップ133はまた、電磁干渉を緩和する。ここに記載されるように、音波がこの配列体に入り、カンチレバービーム116に曲げを生じさせ、圧電効果ゆえに電圧をもたらす。配列体130は、少なくとも一つのはんだパッド137を含み、このマイクロホン配列体が、ここに図示されない外部デバイスにはんだ付けされ得る。このマイクロホン配列体はさらに、特定用途向け集積回路チップ/ダイ(「ASIC」)139を含む。MEMSマイクロホンは、ワイヤボンディング141によって電気的に接続される。図示されないにもかかわらず、ワイヤボンディングが、ここに記載されるマイクロホンの一以上の電極に接続され得ることがわかる。
【0065】
なお、
図7Bは配列体130の断面図であり、ここに開示される他実施形態に関連して記載されるように、一以上のはんだパッド137、基板135、MEMSマイクロホン108、ASIC139、及びキャップ133は、3次元となるように紙面の中へと延びる。
【0066】
図8は、第1セットのカンチレバービーム120及び第2セットのカンチレバービーム122を含むカンチレバービーム圧電マイクロホンのセクション108のレイアウトを示す。第1セットのビーム120が一次マイクロホン(例えば一次マイクロホン58)に対応し、第2セットのビーム122が基準マイクロホン(例えば基準マイクロホン62)に対応する。ビーム120、122とこれらの間の材料とによって形成される三角形のタブはそれぞれが圧電材料である。圧電材料が、音波が当該材料に遭遇することによって動き又は撓むと、当該動き又は撓みの料に対応して電圧が修正される。詳しくは、三角形部分が、変化をもたらす金属層を含み、その変化が電極によってピックアップされる。いくつかの例において、第1セットのビーム120の4つの三角形部分はすべてが、一緒になるように結合され(すなわち電気的に接続され)て一つのマイクロホンとして動作し、第2セットのビーム122の4つの三角形部分すべてが一緒になるように結合されて一つのマイクロホンとして動作する。他例において、一以上の個々の三角形部分が、別個のマイクロホンとして動作するべく等化モジュールに別個に結合され、これにより、所定の実施形態に係る2つ以上のマイクロホンが含まれる。例えば、電子音響デバイスは、3つのマイクロホンを含んでよく、これら3つのマイクロホンのうち2つが、第1セットのビーム120のうちの少なくとも2つから作られてよい。各カンチレバービームの長さ及び/又はサイズは、異なる所望の共振周波数を生成するように修正され得る。一例において、ビームの長さは、その共振周波数を下げるように増加される。
【0067】
図9は、一実施形態の無線デバイス150の模式的な図である。無線デバイス150は、例えば、移動セルラー型電話機のような携帯遠隔通信デバイスであるがこれに限られない。無線デバイス150は、
図1~
図6に関連してここに記載される電子音響デバイス170を含み、ベース帯域システム152、送受信器154、フロントエンドシステム156、一以上のアンテナ158、電力管理システム160、メモリ162、ユーザインタフェイス164、及び電池166のうち一以上を含んでよい。電子音響デバイス170は、音響コーデック168に信号を供給し得る。音響コーデック168は、アナログ音響をデジタル信号にエンコードし、又はデジタル信号をアナログにデコードすることができる。音響コーデック168は、ユーザインタフェイス164に信号を送信し得る。ユーザインタフェイス164は、ベース帯域システム152に信号を送信する。送受信器154は、送信のためのRF信号を生成し、アンテナから受信した入来RF信号を処理する。
【0068】
送受信器154は、アンテナ158に送信され及び/又はアンテナ158から受信される信号のコンディショニングを支援する。
【0069】
アンテナ158は、多種多様なタイプの通信のために使用されるアンテナを含み得る。例えば、アンテナ158は、多種多様な周波数及び通信規格に関連付けられる信号の送信及び/又は受信のためのアンテナ158を含み得る。
【0070】
ベース帯域システム152は、音声及びデータのような様々なユーザ入出力の処理を容易にするべくユーザインタフェイスに結合される。ベース帯域システム152は、送受信器154に送信信号のデジタル表現を与え、これを送受信器154が処理して送信用のRF信号が生成される。ベース帯域システム152はまた、送受信器154により与えられる受信信号のデジタル表現も処理する。
図9に示されるように、ベース帯域システム152は、無線デバイス150の動作を容易にするべくメモリ162に結合される。
【0071】
メモリ162は、無線通信デバイスの動作を容易にするべく及び/又はユーザ情報の格納を与えるべく、データ及び/又は命令の格納のような多種多様な目的のために使用することができる。
【0072】
電力管理システム160は、無線デバイスの、一定数の電力管理機能を与える。
【0073】
電力管理システム160は、電池166から電池電圧を受ける。電池166は、無線デバイスにおける使用のための、例えばリチウムイオン電池を含む任意の適切な電池としてよい。
【0074】
ここに与えられる実施形態は、ダイアフラム系マイクロホン及びカンチレバー系マイクロホンの双方に適用可能であるが、他の幾何学的形状が特定の用途に対して適切なこともある(例えばブリッジ/クランプ・クランプビーム)。当業者であれば、ここに開示される原理及び技法を、どのようにしてダイアフラムマイクロホン及びカンチレバーマイクロホン以外の他のタイプのマイクロホンに適用すべきか理解するであろう。
【0075】
ここでの実施形態がMEMSマイクロホンを参照して記載される一方、ここに記載される原理及び技法が他のタイプの変換器にも適用可能であることが理解される。例えば、ここでの実施形態は、圧力センサ、力センサ、及びイメージングセンサの周波数応答の等化に適応及び使用されてよい(ここで、共通励起信号が上述の共通音響波の代わりになる)。ここに記載されるデバイス、システム及び方法の利点は、特に、入来する刺激が何であるかをほとんど又は全く制御できない場合であっても、与えられた解決策が広範囲のセンサ及び変換器に適用可能なことにある。例えば、MEMSマイクロホンを較正するべくラボで生成されるピンクノイズとは異なり、現実世界のMEMSマイクロホンは較正から外れることが多く、及び/又は、ラボでシミュレートされる正確なタイプのノイズに遭遇することは決してない。一次変換器よりも高い又は低い周波数応答を有する基準変換器を意図的に使用することにより、ここに与えられる技法は、共振周波数を一次変換器の帯域に維持しながら、一次変換器の周波数応答の等化を可能にする。
【0076】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面が上述されてきたが、当業者であれば、様々な変更例、修正例、及び改善例を容易に想起するであろうことを理解すべきである。そのような変更例、修正例及び改善例が、本開示の一部であることが意図されるとともに、本発明の範囲内に存在することが意図される。したがって、上述した説明及び図面は単なる例示であり、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の適切な構成から決定されるべきである。
【外国語明細書】