(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005931
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/726 20060101AFI20230111BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230111BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20230111BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
A61K31/726
A61Q19/00
A61K8/73
A61P17/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108227
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000113908
【氏名又は名称】マルホ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 孝彰
(72)【発明者】
【氏名】石丸 浩靖
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真弥
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD34
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZC52
(57)【要約】
【課題】低下した汗腺機能の改善剤を提供する。
【解決手段】多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、低下した汗腺機能の改善剤。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、低下した汗腺機能の改善剤。
【請求項2】
薬剤により低下した汗腺機能を改善する、請求項1に記載の汗腺機能改善剤。
【請求項3】
加齢により低下した汗腺機能を改善する、請求項1に記載の汗腺機能改善剤。
【請求項4】
汗腺内腔の拡張により低下した汗腺機能を改善する、請求項1に記載の汗腺機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低下した汗腺機能の改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
汗は、汗腺を通り汗孔から分泌される液体で、体温調節や皮膚の保湿に関与している。汗腺は分泌部と導管(汗管)からなり、分泌部は、分泌細胞と筋上皮細胞から構成されている。筋上皮細胞は平滑筋であり、収縮することで、分泌細胞から分泌されて管腔に貯留している汗を導管へ押し出すことにより、汗を皮表へ送り出す。加齢により、筋上皮細胞の機能が低下すると、分泌部は膨張(すなわち、汗腺内腔が拡張)し、発汗が低下することが報告されている。
【0003】
汗腺機能の低下は、体温調節機能の低下、あるいは皮膚の水分保持機能の低下につながる。体温調節機能が低下すると、熱中症にかかりやすくなり、また、皮膚の水分保持機能が低下すると、乾燥肌になり痒みを誘発することにより皮膚バリア機能が低下し、炎症性皮膚疾患に罹患しやすくなる。このように、汗腺機能の低下は、様々な疾患につながる可能性があるため、低下した汗腺機能を改善することは、ヒトの健康にとって重要である。
【0004】
特許文献1には、皮膚の保湿に重要である不感発汗を促進するための皮膚外用剤が開示されている。また、非特許文献1及び2はそれぞれ、アミロイド苔癬及び痒疹に発汗障害が関与していること、及び、このような疾患が、発汗障害を改善することで軽減され得ることを示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】British Journal of Dermatology (2017) 176, 1308-1315
【非特許文献2】Archives of Dermatological Research (2019) 311, 555-562
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように発汗を促進することにより、皮膚疾患を予防/治療するための研究が報告されているが、汗腺機能に関しては未だ不明な点も多い。このような状況の下、本発明は、低下した汗腺機能の改善剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために研究を重ねた結果、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩が、加齢等により拡張した汗腺内腔を縮小すること、これにより低下した汗腺機能が改善し、発汗の回復につながることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を有効成分として含有する、低下した汗腺機能の改善剤に関する。
【0010】
上記汗腺機能改善剤は、薬剤により低下した汗腺機能を改善するのに適している。
【0011】
また、上記汗腺機能改善剤は、加齢により低下した汗腺機能を改善するのに適している。
【0012】
また、上記汗腺機能改善剤は、汗腺内腔の拡張により低下した汗腺機能を改善するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】若年マウスと老齢マウスの足蹠皮膚の病理組織を示す画像である。
【
図2】副腎皮質ステロイドであるクロベタゾールプロピオン酸エステル(CP)を反復投与したマウスと、CP非投与マウス(閉塞処置のみ)の足蹠皮膚の病理組織を示す画像である。
【
図3】CP反復投与後にヘパリン類似物質(MPS)を塗布したマウス(CP+MPS)と、CP反復投与後に閉塞処置のみを行ったマウス(CP+閉塞処置)の足蹠皮膚の病理組織を示す画像である。
【
図4】汗腺の全面積に対する内腔面積の比率を示すグラフであり、Aは若年マウスと老齢マウスの比較を示し、BはCP投与による変化と、その後の処置による変化を示す。
【
図5】発汗滴数を示すグラフであり、Aは若年マウスと老齢マウスの比較を示し、Bは閉塞処置のみの老齢マウスに対するMPS投与の効果を示す。
【
図6】発汗滴数を示すグラフであり、AはCP反復投与による影響を示し、BはCP反復投与後に行った処置により増加した発汗数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の汗腺機能改善剤は、有効成分として多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含む。
多硫酸化コンドロイチン硫酸とは、N-アセチル-D-ガラクトサミンとD-グルクロン酸からなる二糖を反復単位とし、一単位(二糖)あたり、硫酸エステル残基を2~4個程度、好ましくは2~3個程度含むポリマーである。
【0015】
多硫酸化コンドロイチン硫酸は、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸(A、C、D、E)等のコンドロイチン成分とクロロ硫酸、濃硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体等の硫酸化剤を反応させる公知の方法により容易に製造できる。なお、コンドロイチン硫酸Aは、アセチルガラクトサミンの4位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Cは、アセチルガラクトサミンの6位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Dは、アセチルガラクトサミンの6位及びグルクロン酸の2位又は3位に硫酸エステル残基を有するものであり、コンドロイチン硫酸Eは、アセチルガラクトサミンの4位と6位の両方に硫酸エステル残基を有するものである。
【0016】
好ましい多硫酸化コンドロイチン硫酸の例として、日本薬局方外医薬品成分規格に収載されているヘパリン類似物質が挙げられる。
具体的には、物理化学的性質として次の値を示す多硫酸化コンドロイチン硫酸である。
a)硫酸基含量:25.8~37.3重量%
b)極限粘度:0.09~0.18
【0017】
多硫酸化コンドロイチン硫酸は、硫酸残基に由来する遊離の酸の形態で用いてもよいが、通常は、塩基塩を用いる。
【0018】
該塩基塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、マグネシウム塩等が挙げられる。
【0019】
本発明で用いられる多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、8,000~10,000,000程度であり、好ましくは8,000~1,000,000程度であり、より好ましくは、10,000~100,000程度であり、特に好ましくは、10,000~50,000程度である。
【0020】
有効成分である多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩の含有率は、汗腺機能改善剤の全重量を基準として(ただし、汗腺機能改善剤が、原液と噴射剤とからなる場合は、原液の全重量を基準とする)、0.01~10重量%であることが好ましく、0.05~5重量%であることがより好ましく、0.1~1.0重量%であることが特に好ましい。多硫酸化コンドロイチン硫酸は安全性が高いため、皮膚に塗布して用いる場合、上記濃度では副作用を殆ど生じない。
【0021】
汗腺内腔は、加齢により拡張し、発汗量が減少することが報告されている。また、本発明者らは、副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)の反復投与によっても、同様に汗腺内腔が拡張し、発汗量が低下することを見出した。さらに本発明者らは、このような汗腺内腔の拡張している皮膚に、多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩を塗布すると、汗腺内腔が縮小して、正常な状態又は正常に近い状態まで回復すること、及びその結果として発汗量が回復することを見出した。筋上皮細胞の機能が低下すると、分泌部が膨張(汗腺内腔が拡張)しやすくなり、且つ、筋上皮細胞の収縮機能が低下することにより、管腔に貯留している汗を導管から皮表に押し出す力が弱くなるため、発汗が低下すると考えられる。如何なる理論に拘束されることも意図しないが、本発明は、低下した筋上皮細胞の機能を改善し、膨張した汗腺内腔を縮小させ、筋上皮細胞の収縮力を高めることによって、低下した汗腺機能を回復させると考えられる。
【0022】
本発明は、汗腺機能の低下に起因する状態及び/又は疾患を、予防及び/又は治療するために用いることができる。このような状態及び疾患として、体温調節機能の低下に起因する熱中症、及び、保湿機能の低下に起因する皮膚の炎症性疾患が挙げられる。特に、高齢者は暑さ及び寒さに対する感覚が鈍くなるため、加齢による汗腺機能の低下は、熱中症につながりやすい。そのため、本発明によれば、汗腺機能の改善による体温調節機能の回復を通じて、熱中症予防の効果が期待できる。多硫酸化コンドロイチン硫酸又はその塩は、皮膚外用剤として医療現場で長く使用されており、長期投与による安全性も確立されているため、継続的な使用に適している。
【0023】
本発明の汗腺機能改善剤は、特に皮膚塗布用であることが好ましく、医薬組成物又は化粧品組成物として使用することができる。
医薬組成物としては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定される医療用医薬品、要指導医薬品、一般用医薬品、又は医薬部外品に該当する組成物が挙げられる。
化粧品組成物としては、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に規定される化粧品、及び薬用化粧品である医薬部外品に該当する組成物が挙げられる。
【0024】
剤型は、皮膚に適用可能な形態であれば特に限定されるものではなく、例えば、日本薬局方に記載の軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、スプレー剤(フォーム剤を含む)、貼付剤等の形態が挙げられ、薬学的に許容される添加剤と共に医薬組成物又は化粧品組成物として使用することができる。
【0025】
前記添加剤の例としては、特に限定されないが、基剤、界面活性剤、保存剤、pH調節剤、増粘剤等が挙げられる。
【0026】
基剤の例としては、特に限定されないが、白色ワセリン、スクワラン及び軽質流動パラフィン等の高級炭化水素、サラシミツロウ、ラノリン及びセレシンロウ等のロウ類、オリーブ油、ホホバ油、トリアセチン、硬化ヒマシ油等の油脂類、ラノリンアルコール、セタノール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、及びセトステアリルアルコール等の高級アルコール、ステアリン酸等の脂肪酸、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ステアリル、中鎖脂肪酸トリグリセリド等のエステル類、グリセリン及び1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール、エタノール、及びイソプロパノール等の低級一価アルコール、水(精製水)、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、シリコン油等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0027】
界面活性剤(乳化剤の他、起泡剤として使用されるものを含む)の例としては、特に限定されないが、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。陽イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ヤシアルコールエトキシ硫酸ナトリウム、α-オレフィンスルホン酸ナトリウム、乳化セトステアリルアルコール(セトステアリルアルコール・セトステアリル硫酸ナトリウム混合物)等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、モノステアリン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、及びポリオキシエチレンベヘニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、及びトリステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。両イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン、イミダゾリン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
保存剤の例としては、特に限定されないが、ジブチルヒドロキシトルエン、エデト酸ナトリウム水和物、及びパラオキシ安息香酸エステル等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0029】
pH調節剤の例としては、特に限定されないが、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウム等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0030】
増粘剤の例としては、特に限定されないが、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、カルボキシビニルポリマー、及びカルボキシメチルセルロース等が挙げられ、1種のみを用いても、複数種を用いてもよい。
【0031】
また、剤型がフォーム剤の場合は、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩を含有する原液とともに、液化石油ガス(LPG)等の液化ガスや、圧縮ガス等の噴射剤を用いることができる。
【0032】
本発明の汗腺機能改善剤は、上記以外にも、医薬組成物又は化粧品組成物の添加剤として一般に用いられる添加剤(例えば、緩衝剤、香料、着色料、紫外線吸収剤等)を含んでもよい。
【0033】
本発明に係る汗腺機能改善剤の投与量・頻度は、対象疾患及びその症状の程度、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩の濃度、年齢・体重等に応じて適宜調節すればよい。例えば、多硫酸化コンドロイチン硫酸として、皮膚1cm2あたり0.03μg~30mg、好ましくは0.3μg~3mgを、1日1回または数回塗布すればよい。
【0034】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。図中の符号は、それぞれ次のことを意味する。n.s.「有意差なし」、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001
【0035】
[実施例1]病理組織観察
1-1:加齢による汗腺の変化
若年マウスと老齢マウスの足蹠皮膚の病理組織を観察した。若年マウスとして、6~8週齢のC57BL/6JJclマウス(B6マウス)を使用した(日本クレア株式会社より購入:以下、若年マウス)。老齢マウスとして、76~79週齢のB6マウスを使用した(日本チャールス・リバー株式会社より購入;以下老齢マウス)。マウスの足蹠の皮膚を採取し、10%ホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋した。切片を脱パラフィンした後、ヘマトキシリン・エオシン染色を行い、顕微鏡により汗腺の状態を確認した。撮影した画像を
図1に示す。
図1から分かるように、若年マウスと比べて、老齢マウスでは、汗腺の内腔が拡張していることが確認された。
【0036】
1-2:ステロイド継続投与による汗腺の変化
若年マウスの足蹠にクロベタゾールプロピオン酸エステルを含む製剤(デルモベートクリーム[登録商標]0.05%、グラクソ・スミスクライン株式会社:以下、CP)を1日1回(約40μL)、4週間塗布した。CPの消失を防ぐため、CP塗布後、マウスの足蹠を含む足全体を伸縮性保護具で覆った(20時間/日;以下、閉塞投与)。対照として、CPを塗布せず前記閉塞処置(20時間/日)のみを4週間行った若年マウスを使用した。
【0037】
その後、1-1に記載した方法を用いて、CP投与マウスと、対照マウスの足蹠の汗腺の状態を観察した。撮影画像を
図2に示す。
図2から分かるように、閉塞処置のみのマウスの汗腺は、
図1の若年マウスの汗腺と同様の状態であったが、CP投与マウスの汗腺は、
図1の老齢マウスの汗腺と同じく、汗腺内腔が拡張していることが観察された。
【0038】
1-3:ヘパリン類似物質投与による汗腺の変化
CPを4週間投与した後の若年マウスの足蹠に、ヘパリン類似物質を含む製剤(ヒルドイド[登録商標]クリーム0.3%、マルホ株式会社;以下、MPS)を1日2回(約40μL/回)、7日間、閉塞投与した。対照マウスとして、4週間のCP投与後、閉塞処置のみを7日間行ったマウスを使用した。
【0039】
その後、1-1に記載した方法を用いて、MPS投与マウスと、対照マウスの足蹠の汗腺の状態を観察した。撮影画像を
図3に示す。
図3から分かるように、CP反復投与で拡張した汗腺内腔は、閉塞処置では縮小が観察されなかった。これに対して、MPS投与マウスでは、汗腺内腔が収縮し、CP塗布前の正常な状態に近づいていることが観察された。
【0040】
[実施例2]汗腺内腔面積の測定
2-1:加齢による汗腺内腔面積の変化
汗腺内腔の拡張/縮小を定量化するために、汗腺内腔面積を測定した。老齢マウスと、閉塞処置のみを4週間行った若年マウス(それぞれ、n=5)の足蹠皮膚に対して、1-1に記載した方法にて染色処理を行った。その後、Olympus cell Sens Dimensions (version 1.7) software (オリンパス株式会社)を用いて、評価領域に存在する全汗腺(導管は含まず)の面積に対する、内腔面積の比率を算出した。結果(算出した平均値と標準誤差)を
図4Aに示す。
図4Aから明らかなように、老齢マウスでは、若年マウスと比べて、汗腺内腔面積の比率が有意に増加していた。
【0041】
2-2:ステロイド継続投与による、及び、その後のヘパリン類似物質投与による汗腺内腔面積の変化
閉塞処置のみを4週間行った若年マウス(n=5)、CP閉塞投与を4週間行った若年マウス(CP)(n=5)、CP閉塞投与を4週間行った後で閉塞処置のみを7日間行った若年マウス(CP+閉塞処置)(n=8)、CP閉塞投与を4週間行った後でMPSを7日間閉塞投与した若年マウス(CP+MPS)(n=8)、及び、CP閉塞投与を4週間行った後で白色ワセリン(プロペト[登録商標]、丸石製薬株式会社;以下、WP)を7日間閉塞投与した若年マウス(CP+WP)(n=8)について、前述した方法により、汗腺内腔面積を測定した。CPは1日1回、約40μL、MPSは1日2回、約40μL/回、WPは1日2回、約40μg/回を塗布した。結果を
図4Bに示す。
図4Bから明らかなように、汗腺内腔面積の比率はCPの反復投与で増加し、その後閉塞処置を行っても減少しなかった。これに対して、MPSを投与した場合、CP投与で増加した汗腺内腔面積の比率が有意に減少し、正常マウス(閉塞処置のみのマウス)と同程度(有意差なし)まで回復することが観察された。WP投与では減少の程度が不十分であった。
【0042】
[実施例3]:発汗量の測定
3-1:加齢による発汗量の低下
若年マウスと老齢マウスについて、Clin Auto Res(2002)12:20-23記載の試験法(impression mold technique:以下、IMT)と同様の方法により、足蹠からの発汗滴数を測定した。本実施例のIMTでは、汗管から生じ、モールドに押し付けられた発汗滴の印象を、解剖顕微鏡を使用してカウントし、発汗量を定量化した。結果を
図5Aに示す(若年マウスはn=15,老齢マウスはn=12)。
図5Aから明らかなように、老齢マウスでは、若年マウスと比べて発汗量が低下していた。
【0043】
3-2:ヘパリン類似物質投与による老齢マウスの発汗量の回復
10日間閉塞処置のみを行った老齢マウス、及び10日間MPSを閉塞投与(1日2回、約40μL/回)した老齢マウスについて、3-1と同様、IMTにより、足蹠からの発汗滴数を測定した。結果を
図5Bに示す(n=6/群)。
図5Bから明らかなように、閉塞処置のみでは老齢マウスの発汗量は回復しなかったが、MPSの塗布により、発汗量が回復することが確認された。
【0044】
3-3:ステロイド反復投与による発汗量の低下
処置前(CP塗布前)のマウス、4週間のCP閉塞投与(1日1回、約40μL)後のマウス、及び4週間のCP閉塞投与終了後、7日間の閉塞処置を行ったマウスについて、3-1と同様、IMTにより、足蹠からの発汗滴数を測定した。結果を
図6Aに示す(n=15)。
図6Aから明らかなように、CP反復投与によって、発汗量はCP塗布前より低下した。また、CP投与中止後、7日間の閉塞処置では、低下した発汗量は十分に回復しなかった。
【0045】
3-4:ヘパリン類似物質投与による発汗量の改善
4週間のCP閉塞投与(1日1回、約40μL)を行ったマウスに、7日間の閉塞処置、7日間のMPS閉塞投与(1日2回、約40μL/回)、又は7日間のWP閉塞投与(1日2回、約40μg/回)を行った後、発汗滴数を測定し、CP投与終了時点の発汗滴数からの増加数を求めた。結果を
図6Bに示す(n=15)。
図6Bから明らかなように、CP反復投与により低下した発汗量は、閉塞処置のみ(CP+閉塞処置)では改善しないが、MPS投与(CP+MPS)により有意に改善した。これに対して、WP投与(CP+WP)では有意な改善は確認できなかった。
【0046】
実施例1~3の結果から、老齢マウスや、ステロイド反復投与マウスでは、汗腺内腔が拡張しており、発汗量が低下していることが確認された。そして、本発明によれば、このように拡張した汗腺内腔を、多硫酸化コンドロイチン硫酸及び/又はその塩の投与により縮小させることができ、その結果、低下していた汗腺機能が回復することが確認された。