(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059319
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】墜落制止用ハーネス
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
A62B35/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169240
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000223687
【氏名又は名称】藤井電工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 政彦
(72)【発明者】
【氏名】山北 和広
【テーマコード(参考)】
2E184
【Fターム(参考)】
2E184JA03
2E184KA06
2E184KA11
2E184KA15
2E184LA16
(57)【要約】
【課題】胸部H型ハーネスと胸部X型ハーネスのそれぞれの長所を併せ持った墜落制止用ハーネスを提供することにある。
【解決手段】一対の肩ベルト12と一対の脇ベルト14又は腿ベルトと胸ベルト18と一対の連結金具20を備え、一対の連結金具20は、連結環44が通される連結環取付け孔36がそれぞれ設けられ、肩ベルト12と脇ベルト14又は腿ベルトと胸ベルト18が連結金具20にそれぞれ連結されてなり、一対の連結金具20の連結環取付け孔36のそれぞれに連結環44を挿通することで連結環44が一対の連結金具20に連結される連結環取付構造を有することを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の肩ベルトと一対の脇ベルト又は腿ベルトと胸ベルトと一対の連結金具を備え、
前記一対の連結金具は、連結環が通される連結環取付け孔がそれぞれ設けられ、
前記肩ベルトと前記脇ベルト又は前記腿ベルトと前記胸ベルトが前記連結金具にそれぞれ連結されてなり、
前記一対の連結金具の前記連結環取付け孔のそれぞれに前記連結環を挿通することで前記連結環が前記一対の連結金具に連結される連結環取付構造を有する
ことを特徴とする墜落制止用ハーネス。
【請求項2】
前記連結環は、開閉部を備えた環であり、前記環が前記一対の連結金具より着脱可能に構成された
請求項1に記載の墜落制止用ハーネス。
【請求項3】
前記連結金具は、上方位置に前記肩ベルトが通される肩ベルト挿通孔、下方位置に前記脇ベルトが通される脇ベルト挿通孔、中央位置に前記胸ベルトが通される胸ベルト挿通孔がそれぞれ設けられ、
前記肩ベルト挿通孔に前記肩ベルトを挿通し、前記脇ベルト挿通孔に前記脇ベルトを挿通し、前記胸ベルト挿通孔に前記胸ベルトを挿通することにより、前記肩ベルトと前記脇ベルトと前記胸ベルトが前記連結金具にそれぞれ連結された
請求項1に記載の墜落制止用ハーネス。
【請求項4】
前記連結金具は、前記肩ベルト挿通孔、前記脇ベルト挿通孔及び前記胸ベルト挿通孔がそれぞれ設けられるベルト孔形成領域と、前記ベルト孔形成領域の前記中央位置の端辺から延出して形成され、前記連結環取付け孔が設けられる連結孔形成領域とで構成されており、
前記胸ベルト挿通孔は複数の縦長孔から構成され、それぞれの縦長孔が間隔をあけて水平方向に略平行に配置されており、
前記肩ベルト挿通孔は長孔に形成され、前記連結環取付け孔から遠い端部が下方に位置し、前記連結環取付け孔に近い端部が上方に位置するように、前記肩ベルト挿通孔が水平方向に対して傾斜して配置されており、
前記脇ベルト挿通孔は長孔に形成され、前記連結環取付け孔から遠い端部が上方に位置し、前記連結環取付け孔に近い端部が下方に位置するように、前記脇ベルト挿通孔が水平方向に対して傾斜して配置されている
請求項3に記載の墜落制止用ハーネス。
【請求項5】
前記連結孔形成領域が、前記連結金具の板厚方向表面側に立ち上がるように形成された
請求項4に記載の墜落制止用ハーネス。
【請求項6】
前記胸ベルトが、連結及び連結解除可能な第一端部と第二端部を有する連結具と、一方の連結金具に連結された第一連結ベルト部と、他方の連結金具に連結された第二連結ベルト部とを備えており、
前記第一端部が前記第一連結ベルト部に連結されており、前記第二端部が前記第二連結ベルト部に連結されている
請求項1に記載の墜落制止用ハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高所作業時に作業者が身体に装着し、墜落の防止を図る墜落制止用ハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
高所での作業現場では、作業者が万一落下したときにその墜落を阻止するため、作業者には墜落制止用器具を装着して作業を行うことが義務付けられている。このうちハーネス型墜落制止用器具は主としてハーネスとランヤードとから構成されている。作業者はランヤードの一端に具備されたフック等を親綱や堅固な構造物等に掛止し、他端を自分の身体に装着したハーネスと接続することにより万一足を踏み外した場合等の墜落を防止している。
【0003】
ハーネスのランヤードとの接続部位にはランヤードを接続するためのD環が取付けられている。このD環は肩掛けベルトを背中で交差させた交差位置に設けられているのが一般的である。また、使用用途などに応じて背中側だけでなく胸側にもD環が設けられているものもある。以下、この胸側に設けられるD環を「胸D環」という。
【0004】
ハーネスは様々なベルト形状のものが開発されている。装着した作業者の前面側からみた肩から胸にかけてのベルト形状では、
図8に示すようなハーネス胸部のベルト形状がH型の構造(以下、「胸部H型」という。)や、
図9に示すようなハーネス胸部のベルト形状がX型の構造(以下、「胸部X型」という。)が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。また、胸部Y型のハーネスもある。
【0005】
図8に示す胸部H型ハーネス100はほぼ縦方向に下方に延ばした一対の肩ベルト102を胸ベルト104により胸部位置で接続した構造である。この胸部H型ハーネス100の場合、胸部位置で横に渡された胸ベルト104の中央部分に胸D環106が設けられている。胸ベルト104の連結を外すことで胸部中央部分が開放するためハーネスの着脱が容易である。この構造では胸D環取付箇所に強度を与えるために左右に位置する肩ベルト102と胸ベルト104の交差部108を強固に固定する必要があった。
【0006】
また、
図9に示す胸部X型ハーネス110は一対の肩ベルト112を胸の中央部分に向かってそれぞれ斜め下方に延ばし、胸の中央部分で交差させた構造である。この胸部X型ハーネス110の場合、X字の中心部分に胸D環114が設けられている。胸部交差構造であり、胸D環114がベルトからスライドして動かないような対策が講じられているため、落下時にベルトが上方に引っ張られてベルトで首が締まるなどの問題を生じない。
図示しないが、胸部Y型ハーネスは一対の肩ベルトを胸の中央部分に向かってそれぞれ斜め下方に延ばし、胸の中央部分で重ね合わせた構造である。この胸部Y型ハーネスも上記胸部X型ハーネスとほぼ同様の対策をする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-28386号公報
【特許文献2】特開2020-28404号公報
【特許文献3】特開2013-27523号公報
【特許文献4】特開2020-110275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
胸部H型ハーネス100の胸D環106にランヤードのフックを接続した場合、落下時には胸ベルト104が上方に引っ張られる。腿ベルトなどの長さ調節が適切ではなく緩んだ状態でハーネスを装着している場合には、この動作によってベルトのずれが大きくなり、ずり上がりによる身体の圧迫や、胸ベルトによる喉の圧迫、ベルトや胸D環106などで顔部分を殴打するなどのおそれがあった。また、左右のベルト交差部108への強度付与のため、縫製箇所や部品点数が多くなる場合があった。
また、胸部X型ハーネス110はその構造上、着用時にハーネスの胸部中央部分を開いて着ることができず、左右に設けたバックルを外すか、被るように着る必要があった。また胸D環114のスライド防止対策のため、縫製箇所や部品点数が多くなり、また、ハーネス組立時の作業工程が増えることからコストアップにつながっていた。
本発明の目的は、胸部H型ハーネスと胸部X型ハーネスのそれぞれの長所を併せ持った墜落制止用ハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の墜落制止用ハーネスは、一対の肩ベルトと一対の脇ベルト又は腿ベルトと胸ベルトと一対の連結金具を備え、前記一対の連結金具は、連結環が通される連結環取付け孔がそれぞれ設けられ、前記肩ベルトと前記脇ベルト又は前記腿ベルトと前記胸ベルトが前記連結金具にそれぞれ連結されてなり、前記一対の連結金具の前記連結環取付け孔のそれぞれに前記連結環を挿通することで前記連結環が前記一対の連結金具に連結される連結環取付構造を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の墜落制止用ハーネスでは、前記連結環は、開閉部を備えた環であり、前記環が前記一対の連結金具より着脱可能に構成されたことが好ましい。
本発明の墜落制止用ハーネスでは、前記連結金具は、上方位置に前記肩ベルトが通される肩ベルト挿通孔、下方位置に前記脇ベルトが通される脇ベルト挿通孔、中央位置に前記胸ベルトが通される胸ベルト挿通孔がそれぞれ設けられ、前記肩ベルト挿通孔に前記肩ベルトを挿通し、前記脇ベルト挿通孔に前記脇ベルトを挿通し、前記胸ベルト挿通孔に前記胸ベルトを挿通することにより、前記肩ベルトと前記脇ベルトと前記胸ベルトが前記連結金具にそれぞれ連結されたことが好ましい。
【0011】
本発明の墜落制止用ハーネスでは、前記連結金具は、前記肩ベルト挿通孔、前記脇ベルト挿通孔及び前記胸ベルト挿通孔がそれぞれ設けられるベルト孔形成領域と、前記ベルト孔形成領域の前記中央位置の端辺から延出して形成され、前記連結環取付け孔が設けられる連結孔形成領域とで構成されており、前記胸ベルト挿通孔は複数の縦長孔から構成され、それぞれの縦長孔が間隔をあけて水平方向に略平行に配置されており、前記肩ベルト挿通孔は長孔に形成され、前記連結環取付け孔から遠い端部が下方に位置し、前記連結環取付け孔に近い端部が上方に位置するように、前記肩ベルト挿通孔が水平方向に対して傾斜して配置されており、前記脇ベルト挿通孔は長孔に形成され、前記連結環取付け孔から遠い端部が上方に位置し、前記連結環取付け孔に近い端部が下方に位置するように、前記脇ベルト挿通孔が水平方向に対して傾斜して配置されていることが好ましい。
【0012】
本発明の墜落制止用ハーネスでは、前記連結孔形成領域が、前記連結金具の板厚方向表面側に立ち上がるように形成されたことが好ましい。
本発明の墜落制止用ハーネスでは、前記胸ベルトが、連結及び連結解除可能な第一端部と第二端部を有する連結具と、一方の連結金具に連結された第一連結ベルト部と、他方の連結金具に連結された第二連結ベルト部とを備えており、前記第一端部が前記第一連結ベルト部に連結されており、前記第二端部が前記第二連結ベルト部に連結されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る墜落制止用ハーネスでは、一対の肩ベルトと一対の脇ベルト又は腿ベルトと胸ベルトと一対の連結金具を備え、肩ベルトと脇ベルト又は腿ベルトと胸ベルトが連結金具にそれぞれ連結されている。また、一対の連結金具は連結環が通される連結環取付け孔がそれぞれ設けられており、この一対の連結金具の連結環取付け孔のそれぞれに連結環を挿通することで連結環が一対の連結金具に連結される連結環取付構造を有している。胸部H型ハーネスのようにベルト交差部を強固に固定する必要はなく、また胸部X型ハーネスのような胸D環のスライド防止対策も不要となるため、構造がシンプルで縫製箇所や部品点数を削減できる。上記構造により、胸部H型と胸部X型のそれぞれの長所を併せ持ったハーネスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の墜落制止用ハーネスにおいて、胸部中央部分で連結解除した状態を示す図である。
【
図4】連結金具を介して各ベルトを連結した状態を示す図である。
【
図6】連結環が一対の連結金具に連結された連結環取付構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る実施の形態について説明する。
図1は、本実施形態の墜落制止用ハーネスにおいて、胸部中央部分で連結解除した状態を示す図である。
図1に示すように、本実施形態の墜落制止用ハーネス10は、一対の肩ベルト12と、一対の脇ベルト14と、一対の腿ベルト16と、胸ベルト18と、連結金具20と、腰部金具22と、尻当てベルト24と、固定板26と、背部D環28とを備えている。
図1に示すハーネスでは胸ベルト18の連結を解除しており、胸D環は連結していない状態である。
なお、本実施形態において、ハーネス装着状態の胸部側を前面側、背部側を後面側という場合がある。
【0016】
それぞれの肩ベルト12は上方で折り返されている。この折り返しにより、肩ベルト12には前肩ベルト部12a及び後肩ベルト部12bが形成されている。前肩ベルト部12aは前面側において下方に向かって延び、胸部周辺で連結金具20に連結されている。後肩ベルト部12bは背面において、一方の後肩ベルト部12bと他方の後肩ベルト部12bとが交差して交差部30が形成されている。交差部30が形成された後肩ベルト部12bは腰部周辺で腰部金具22に連結されている。
脇ベルト14は一端が連結金具20に連結されて下方に延びており、他端が腰部周辺で腰部金具22に連結されている。
【0017】
胸ベルト18は、第一連結ベルト部としての第一胸ベルト部18aと、第二連結ベルト部としての第二胸ベルト部18bと、連結具としてのバックル18cとを備えている。第一胸ベルト部18aは一方の連結金具20に連結されている。第二胸ベルト部18bは他方の連結金具20に連結されている。このバックル18cは、第一端部としてのバックル本体18dと、第二端部としてのタングプレート18eと、を備えている。この胸ベルト18では、バックル本体18dは第一胸ベルト部18aの端部に連結されている。タングプレート18eは第二胸ベルト部18bの端部に連結されている。このバックル本体18dにタングプレート18eが挿入されて連結され、バックル本体18dからタングプレート18eが引き抜かれて連結解除可能にされている。このバックル18cによって、第一胸ベルト部18aと第二胸ベルト部18bとは、連結及び連結解除可能にされている。
【0018】
図2は、連結金具の平面図であり、
図3は
図2のA-A線断面図である。
図2及び
図3に示すように、連結金具20は板状部材により形成されている。連結金具20の材質はS50Cのような高炭素鋼や、クロムモリブデン鋼といった合金鋼などの金属材料を用いることが好ましい。この連結金具20はベルト孔形成領域32と連結孔形成領域34とで構成されている。
連結孔形成領域34はベルト孔形成領域32の中央位置の端辺から延出して設けられている。この連結孔形成領域34には連結環が挿通可能な径を有する連結環取付け孔36が設けられている。また連結孔形成領域34は連結金具20の板厚方向表面側に立ち上がるように形成されている。
【0019】
ベルト孔形成領域32は、肩ベルト12が通される肩ベルト挿通孔38、脇ベルト14が通される脇ベルト挿通孔40、及び胸ベルト18が通される胸ベルト挿通孔42がそれぞれ設けられている。
胸ベルト挿通孔42はベルト孔形成領域32の中央位置に設けられている。胸ベルト挿通孔42は胸ベルト18が挿通可能な幅を有する複数の縦長孔から構成され、それぞれの縦長孔が間隔をあけて水平方向に略平行に配置されている。本実施形態では3つの縦長孔により胸ベルト挿通孔42を構成している。
【0020】
肩ベルト挿通孔38は肩ベルト12が挿通可能な幅を有する長孔に形成されている。肩ベルト挿通孔38は胸ベルト挿通孔42の上方位置に設けられている。肩ベルト挿通孔38は連結環取付け孔36から遠い端部38aが下方に位置し、連結環取付け孔36に近い端部38bが上方に位置するように水平方向の配置に対して傾斜して配置されている。具体的には肩ベルト挿通孔38は、水平方向に対して30°~45°の範囲内の傾斜角度で配置されることが好ましい。
脇ベルト挿通孔40は脇ベルト14が挿通可能な幅を有する長孔に形成されている。脇ベルト挿通孔40は胸ベルト挿通孔42の下方位置に設けられている。脇ベルト挿通孔40は連結環取付け孔36から遠い端部40aが上方に位置し、連結環取付け孔36に近い端部40bが下方に位置するように水平方向の配置に対して傾斜して配置されている。具体的には脇ベルト挿通孔40は、水平方向に対して-30°~-45°の範囲内の傾斜角度で配置されることが好ましい。
【0021】
図4は連結金具を介して各ベルトを連結した状態を示す図であり、
図5は
図4のB矢視図である。
図4及び
図5に示すように、肩ベルト挿通孔38に前肩ベルト部12aを挿通し、折り返して重ね合わせ部分を縫製することで肩ベルト12が連結金具20に連結される。また、脇ベルト挿通孔40に脇ベルト14の一端を挿通し、折り返して重ね合わせ部分を縫製することで脇ベルト14が連結金具20に連結される。更に、複数の胸ベルト挿通孔42に胸ベルト18を挿通することで胸ベルト18が連結金具20に連結される。具体的には、一方の連結金具20には第一胸ベルト部18aが連結され、他方の連結金具20には第二胸ベルト部18bが連結されている。これにより、連結金具20を介して肩ベルト12と脇ベルト14と胸ベルト18とがそれぞれ連結されている。
胸ベルト18はその長さを調節でき、胸D環の取り付けをしていない状態では、胸ベルト18の長さを装着者の体格や好みにより調節できる。
【0022】
図6は連結環が一対の連結金具に連結された連結環取付構造を示す図であり、
図7は
図6のC矢視図である。
図6及び
図7に示すように、本実施形態のハーネス10は、連結環としての胸D環44が一対の連結金具20に連結される連結環取付構造を有している。
この胸D環44は基部44aと湾曲部44bを備えている。基部44aは略直線状に延び、この基部44aの中央部分には開閉部44cが設けられている。湾曲部44bは基部44aの一端部から他端部まで基部44aから離れる向きに凸状に湾曲して延びている。この湾曲部44bは滑らかな曲線で湾曲している。即ち、この胸D環44は開閉部44cを備えた環である。この開閉部44cを備えた環としては、カラビナ構造を有する環が好ましい。
胸D環44の開閉部44cを開状態とし、一対の連結金具20の連結環取付け孔36のそれぞれに開状態の開閉部44cから基部44a、湾曲部44bを挿通していき、開閉部44cを閉状態とすることで胸D環44が一対の連結金具20に連結される。連結する胸D環44は、一対の連結金具20の連結環取付け孔36の間に基部44aが配置され、かつ基部44aが身体側に位置するように、その連結の向きが決められる。
【0023】
本実施形態では、胸D環44として基部44aが底辺、湾曲部44bで2つの等辺を形成する略二等辺三角形の形状を備えた環を使用することが好ましい。略二等辺三角形の形状を備えた環は一対の連結金具20と連結したときに底辺と等辺で形成される角の近傍に連結環取付け孔36がそれぞれ配置され、また、連結環取付構造が左右対称の配置となるため、荷重がかかっても胸D環44のずれが生じ難い。
なお、市販されているO型や変D型のカラビナを使用することもできる。
【0024】
図1に戻って、腿ベルト16は、第一腿ベルト部16aと、第二腿ベルト部16bと、バックル16cとを備えている。第一腿ベルト部16aの一端及び第二腿ベルト部16bの一端はそれぞれ腰部金具22に連結されており、第一腿ベルト部16aは前面側へ、第二腿ベルト部16bは後面側へと延びている。
バックル16cはバックル本体16d及びタングプレート16eから構成されている。バックル本体16dは第一腿ベルト部16aの他端、タングプレート16eは第二腿ベルト部16bの他端にそれぞれ連結されている。このバックル本体16dにタングプレート16eが挿入されて連結され、バックル本体16dからタングプレート16eが引き抜かれて連結解除可能にされている。このバックル16cによって、第一腿ベルト部16aと第二腿ベルト部16bとは連結及び連結解除可能にされている。
【0025】
尻当てベルト24はその両端がそれぞれの腿ベルト16の第二腿ベルト部16bに接続され、一対の腿ベルト16を連結するように構成されている。
固定板26は交差部30に配置されている。この固定板26に一対の後肩ベルト12bが互いに交差して通されている。この固定板26は一対の後肩ベルト部12bに取り付けられている。
背部D環28は交差部30で固定板26と一対の後肩ベルト部12bとに取り付けられている。この背部D環28は基部28a及び湾曲部28bを備えている。基部28aは略直線状に延びている。湾曲部28bは基部28aの一端部から他端部まで基部28aから離れる向きに凸状に湾曲して延びている。この湾曲部28bは滑らかな曲線で湾曲している。この基部28aは交差する一対の後肩ベルト部12bと固定板26とに挟まれて取り付けられている。
【0026】
<本実施形態の作用効果>
このような本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態の墜落制止用ハーネスは、一対の肩ベルト12と一対の脇ベルト14と胸ベルト18と一対の連結金具20を備え、肩ベルト12と脇ベルト14と胸ベルト18が連結金具20にそれぞれ連結されている。また、一対の連結金具20は胸D環44が通される連結環取付け孔36がそれぞれ設けられており、この一対の連結金具20の連結環取付け孔36のそれぞれに胸D環44を挿通することで胸D環44が一対の連結金具20に連結される連結環取付構造を有している。胸部H型ハーネスのようにベルト交差部を強固に固定する必要はなく、また胸部X型ハーネスのような胸D環のスライド防止対策も不要となるため、構造がシンプルで縫製箇所や部品点数を削減でき、またハーネス組立時の作業工程も減らせることから組立の負担が軽減するのでコストダウンにもつながる。上記構造により、胸部H型と胸部X型のそれぞれの長所を併せ持ったハーネスを提供できる。
【0027】
また、胸D環44は、開閉部44cを備えたカラビナ構造を有しており、この胸D環44が一対の連結金具20より着脱可能に構成されている。このように胸D環44は取り付け取り外し可能に構成されており、胸D環が必要な場合は取付けた状態でハーネスを使用でき、胸D環が不要の場合は取付けない状態でハーネスを使用できるため、作業内容によって胸D環の有無を柔軟に選択できる。
また、肩ベルト挿通孔38は水平方向に対して所定角度傾斜して配置されており、脇ベルト挿通孔40は水平方向に対して肩ベルト挿通孔38とは反対側に所定角度傾斜して配置されている。そして、この肩ベルト挿通孔38に肩ベルト12を、脇ベルト挿通孔40に脇ベルト14を、胸ベルト挿通孔42に胸ベルト18をそれぞれ連結することで、ハーネス10の胸部構造が胸部X型ハーネスの構造に近くなる。このような構造により、腿ベルトなどの長さ調節が適切ではなく緩んだ状態でハーネスを装着している場合であっても胸部H型ハーネスのような、落下時にベルトによって喉が圧迫したり顔を殴打したりするなどの不具合の発生が抑制される。
【0028】
連結孔形成領域34は連結金具20の板厚方向表面側に立ち上がるように形成されている。この立ち上がりが形成されることで、一対の連結金具20に連結した胸D環44は装着者の前方側に配置されるため、連結した胸D環44による装着者の胸部側への圧迫が抑制される。
胸ベルト18は、連結及び連結解除可能なバックル本体18dとタングプレート18eを有するバックル18cを備え、このバックル本体18dが第一胸ベルト部18aに連結され、タングプレート18eが第二胸ベルト部18bに連結されている。この構造により、胸ベルト18のバックル18cの連結を解除することでハーネス10の胸ベルト中央部分が開くため、胸部H型ハーネスと同様に簡単に着用できる。
【0029】
<変形例>
なお、本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれるものとする。
上記実施形態では、脇ベルト14を備え、この脇ベルト14を連結金具20に接続した構成としたが、これに限定されない。例えば、腿ベルトを脇ベルトの長さにまで長尺化し、脇ベルトに代えて、この長尺化した腿ベルトを連結金具に接続した構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明された墜落制止用ハーネスは、高所作業に用いられるハーネスに広く適用されうる。
【符号の説明】
【0031】
10 墜落制止用ハーネス
12 肩ベルト
14 脇ベルト
18 胸ベルト
18a 第一胸ベルト部(第一連結ベルト部)
18b 第二胸ベルト部(第二連結ベルト部)
18c バックル(連結具)
18d バックル本体(第一端部)
18e タングプレート(第二端部)
20 連結金具
32 ベルト孔形成領域
34 連結孔形成領域
36 連結環取付け孔
38 肩ベルト挿通孔
40 脇ベルト挿通孔
42 胸ベルト挿通孔
44 胸D環(連結環)
44c 開閉部