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特開2023-59354灰モルタルおよび灰モルタルによる水中構造物の構築方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059354
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】灰モルタルおよび灰モルタルによる水中構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20230420BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20230420BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20230420BHJP
   E02B 3/18 20060101ALI20230420BHJP
   C04B 111/74 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C04B28/08
C04B18/10 A
C04B18/08 Z
E02B3/18 E
C04B111:74
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169305
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】片山 遥平
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】上野 一彦
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA26
4G112PA27
4G112PA29
(57)【要約】
【課題】水中構造物の法勾配部の法勾配を添加剤の使用なしで確保可能であり、施工時のポンプ打設に必要な流動性を確保可能な灰モルタルおよび灰モルタルによる水中構造物の構築方法を提供する。
【解決手段】この灰モルタルは、法勾配部3aを有する水中構造物10Aを形成するための、固化材と石炭灰と水とを混合した灰モルタルであって、石炭灰は、主成分であるフライアッシュと副成分であるクリンカアッシュとからなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法勾配部を有する水中構造物を形成するための、固化材と石炭灰と水とを混合した灰モルタルであって、
前記石炭灰は、主成分であるフライアッシュと副成分であるクリンカアッシュとからなる灰モルタル。
【請求項2】
前記フライアッシュと前記クリンカアッシュとを配合比が9:1~8:2の範囲内で配合した請求項1に記載の灰モルタル。
【請求項3】
前記固化材は、高炉スラグセメント、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュセメントのいずれか1つ、2つ、または、すべてである請求項1または2に記載の灰モルタル。
【請求項4】
前記固化材の配合量は、50kg/m~200kg/mの範囲内である請求項1~3のいずれかに記載の灰モルタル。
【請求項5】
前記灰モルタルの混練後のフロー値が少なくとも88mmである請求項1~4のいずれかに記載の灰モルタル。
【請求項6】
前記水の重量を前記固化材と前記石炭灰との合計重量で除した水粉体比が0.350~0.439の範囲内である請求項1~5のいずれかに記載の灰モルタル。
【請求項7】
前記灰モルタルを前記水中構造物の裏込め材、または、前記裏込め材の被覆材として用いる請求項1~6のいずれかに記載の灰モルタル。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の灰モルタルを用いて法勾配部を有する水中構造物を構築する方法であって、
前記水の重量を前記固化材と前記石炭灰との合計重量で除した水粉体比が所定範囲内になるように前記固化材と前記石炭灰と前記水とを配合した前記灰モルタルにより少なくとも前記法勾配部を構築する水中構造物の構築方法。
【請求項9】
前記法勾配部の構築のために前記灰モルタルを水中へポンプ打設する際の前記灰モルタルのフロー値は、前記ポンプ打設に必要な流動性を確保可能な下限値以上である請求項8に記載の水中構造物の構築方法。
【請求項10】
前記固化材と前記石炭灰と前記水とを複数の所定割合で配合した灰モルタルについて、予め配合試験および水中打設実験を行うことで、前記灰モルタルのフロー値と前記法勾配部の法勾配との第1の関係、および、前記フロー値と前記水粉体比との第2の関係をそれぞれ求め、
前記第1および第2の関係に基づいて前記法勾配の設計値から前記水粉体比を求め、前記求めた水粉体比に基づいて配合した灰モルタルを用いる請求項8または9に記載の水中構造物の構築方法。
【請求項11】
前記法勾配が1:1.2~1:4.4の範囲内になるように前記水粉体比を調整する請求項8~10のいずれかに記載の水中構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭灰であるフライアッシュとクリンカアッシュとを用いた灰モルタルおよび灰モルタルにより水中構造物を構築する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭火力発電に伴う副産物として発生する石炭灰はフライアッシュとクリンカアッシュとに大別される。石炭火力発電所において微粉砕した石炭をボイラ内で燃焼させると、溶融状態の灰の粒子は、高温の燃焼ガス中を浮遊し、ボイラ出口で温度が低下することにともない、球形の微細粒子となって電気集じん器に捕集されるが、これがフライアッシュである。また、クリンカアッシュは、ボイラ内で燃焼によって生じた石炭灰の粒子が相互に凝集し、多孔質な塊となってボイラ底部のクリンカホッパ(水槽)に落下堆積したものを破砕機で砂状に砕いた物で、これを脱水槽等で脱水したあと、用途に応じてふるい機等で粒度調整を行っている(非特許文献1参照)。フライアッシュは球形の微細粒子である(非特許文献2参照)。クリンカアッシュは砂礫状、多孔質であり、保水性・排水性・通気性に優れ、その粒子は、ほとんどが細礫と粗砂であり、砂に近い粒度分布である(非特許文献3参照)。化学組成はフライアッシュもクリンカアッシュも主成分はシリカとアルミナで、両者で大きな差はない。
【0003】
これらの石炭灰は、廃棄物として埋立処分されるものもあるが、多くはセメントやコンクリートの混和材や、土木工事において各種骨材として有効活用されている。その有効活用技術のひとつにフライアッシュモルタルがある。港湾土木工事においてフライアッシュモルタルは護岸の中詰め材、裏込め材、裏込め材の被覆材として利用されている。
【0004】
特許文献1は、管理型廃棄物海面処分場の埋立に使用される石炭灰利用資材が、フライアッシュとセメントとを混合してなる粉体状の混合物を、通水防塵性の袋体に充填して構成され、水中に投入したのちに固化するので、施工上の簡便さと製造ヤードの省スペース化とを実現することができることを開示する(要約)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-190086号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「石炭灰の発生量と生産工程」日本フライアッシュ協会http://www.japan-flyash.com/process.html
【非特許文献2】「フライアッシュの化学・物理的性質」日本フライアッシュ協会 http://www.japan-flyash.com/fchemiphysi.html
【非特許文献3】「クリンカアッシュの化学・物理的性質」日本フライアッシュ協会 http://www.japan-flyash.com/cchemiphysi.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フライアッシュモルタルを裏込め材や裏込め材の被覆材として利用する場合、フライアッシュモルタルは流動性が高いため、所定の法勾配が確保できないという課題があった。この課題を解決するために、増粘剤、分離防止剤、硬化促進剤などの添加剤を用いて法勾配を確保する技術が提案されているが、コストアップの懸念がある。また、海域で利用する時は、関係各所から添加剤の使用許可を得る必要が生じる場合があり、手続き面で煩雑となることがある。また、実際の工事ではポンプ打設に必要な流動性を確保する必要性がある。なお、現在、フライアッシュモルタルを裏込め材や被覆材として利用する場合、クリンカアッシュを混合せず、フライアッシュが単独で用いられている。
【0008】
特許文献1の石炭灰利用資材は、フライアッシュとセメントとを混合してなる粉体状の混合物を、通水防塵性の袋体に充填するもので、混合物を袋体に充填する必要があり、充填工程と材料(袋体)が必要となって、工程が複雑化し、材料費がかかり、コスト的に不利である。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、水中構造物の法勾配部の法勾配を添加剤の使用なしで確保可能であるとともに、施工時のポンプ打設に必要な流動性を確保可能な灰モルタルおよび灰モルタルによる水中構造物の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための灰モルタルは、法勾配部を有する水中構造物を形成するための、固化材と石炭灰と水とを混合した灰モルタルであって、前記石炭灰は、主成分であるフライアッシュと副成分であるクリンカアッシュとからなる。
【0011】
この灰モルタルによれば、石炭灰が主成分のフライアッシュと副成分のクリンカアッシュとからなることで、水中構造物の法勾配部において所定の法勾配を添加剤の使用なしで確保することができる。すなわち、フライアッシュと比較して相対的に粒径の大きいクリンカアッシュを骨材としてフライアッシュに追加することで灰モルタルにおいて粒子骨格を形成し易くなるため、法勾配が形成し易くなり、法勾配形成特性が向上し、法勾配部において所定の法勾配を添加剤の使用なしで実現できる。なお、主成分のフライアッシュのクリンカアッシュに対する配合比は、5割を越える。
【0012】
前記フライアッシュと前記クリンカアッシュとを配合比が9:1~8:2の範囲内で配合することが好ましい。なお、上記配合比は、フライアッシュとクリンカアッシュとの総重量に対するフライアッシュとクリンカアッシュとの比であり、以下の説明でも同様である。
【0013】
前記固化材は、高炉スラグセメント、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュセメントのいずれか1つ、2つ、または、すべてであることが好ましい。
【0014】
前記固化材の配合量は、50kg/m~200kg/mの範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記灰モルタルの混練後のフロー値が少なくとも88mmであることで、灰モルタルのポンプ打設に必要な流動性を確保することができる。
【0016】
前記水の重量を前記固化材と前記石炭灰との合計重量で除した水粉体比が0.350~0.439の範囲内であることが好ましい。
【0017】
前記灰モルタルを前記水中構造物の裏込め材、または、前記裏込め材の被覆材として用いることができる。
【0018】
上記目的を達成するための水中構造物の構築方法は、上述の灰モルタルを用いて法勾配部を有する水中構造物を構築する方法であって、前記水の重量を前記固化材と前記石炭灰との合計重量で除した水粉体比が所定範囲内になるように前記固化材と前記石炭灰と前記水とを配合した前記灰モルタルにより少なくとも前記法勾配部を構築するものである。
【0019】
この水中構造物の構築方法によれば、水粉体比が所定範囲内になるように固化材と石炭灰(フライアッシュとクリンカアッシュ)と水とを配合した灰モルタルにより法勾配部を構築することで、法勾配部において所定の法勾配を添加剤の使用なしで確保することができる。
【0020】
上記水中構造物の構築方法において、前記法勾配部の構築のために前記灰モルタルを水中へポンプ打設する際の前記灰モルタルのフロー値は、前記ポンプ打設に必要な流動性を確保可能な下限値以上であることが好ましい。
【0021】
また、前記固化材と前記石炭灰と前記水とを複数の所定割合で配合した灰モルタルについて、予め配合試験および水中打設実験を行うことで、前記灰モルタルのフロー値と前記法勾配部の法勾配との第1の関係、および、前記フロー値と前記水粉体比との第2の関係をそれぞれ求め、前記第1および第2の関係に基づいて前記法勾配の設計値から前記水粉体比を求め、前記求めた水粉体比に基づいて配合した灰モルタルを用いることが好ましい。
【0022】
前記法勾配が1:1.2~1:4.4の範囲内になるように前記水粉体比を調整することが好ましい。
【0023】
なお、前記法勾配部が前記水中構造物の裏込め部、または、前記裏込め部の被覆部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の灰モルタルおよび灰モルタルによる水中構造物の構築方法によれば、水中構造物の法勾配部の法勾配を添加剤の使用なしで確保可能であるとともに、施工時のポンプ打設に必要な流動性を確保可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態による灰モルタルを裏込め材として適用可能な水中構造物の例を示す側断面図である。
図2】本実施形態による灰モルタルを裏込め材の被覆材として適用可能な水中構造物の例を示す側断面図である。
図3】本実験例において用いた水中打設実験状況を示す概略図である。
図4】本比較例のフライアッシュ(FA)のみを用いた灰モルタルについてフロー値と打設勾配との関係を示すグラフである。
図5】本実験例のフライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比9:1で配合した灰モルタルについてフロー値と打設勾配との関係を示すグラフである。
図6図5と同様の配合比9:1で配合した灰モルタルについてフロー値と水粉体比との関係を示すグラフである。
図7】本実験例のフライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比8:2で配合した灰モルタルについてフロー値と打設勾配との関係を示すグラフである。
図8図7と同様の配合比8:2で配合した灰モルタルについてフロー値と水粉体比との関係を示すグラフである。
図9】本実験例の水中打設実験で形成した略円錐状の山部の外観を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。本実施形態による灰モルタルは、固化材と石炭灰と水とを混合し混練することで製造でき、石炭灰は、フライアッシュを主成分とし、クリンカアッシュを副成分とし、フライアッシュとクリンカアッシュとからなり、法勾配部を有する水中構造物の形成に適している。
【0027】
フライアッシュのクリンカアッシュに対する配合比は、5割を越えるが、好ましくは、フライアッシュとクリンカアッシュとの配合比が9:1~8:2の範囲内である。なお、かかる範囲は、石炭火力発電で副産物として発生し排出される石炭灰であるフライアッシュとクリンカアッシュとの排出量の比にほぼ対応するので、フライアッシュとクリンカアッシュとの効率的な有効利用に寄与することができる。
【0028】
固化材は、高炉スラグセメント、普通ポルトランドセメントおよびフライアッシュセメントのいずれか1つ、2つ、または、すべてとすることができ、かかる固化材の配合量は、50kg/m~200kg/mの範囲内である。
【0029】
上記灰モルタルにおいて水の重量を固化材と石炭灰との合計重量で除した水粉体比が0.350~0.439の範囲内であることが好ましい。
【0030】
本実施形態による灰モルタルによれば、クリンカアッシュの粒子はほとんどが細礫と粗砂であり、砂に近い粒度分布であり、フライアッシュと比較して相対的に粒径が大きく、クリンカアッシュを骨材としてフライアッシュに追加することで粒子骨格を形成し易くなり、このため、灰モルタルにより法勾配が形成し易くなって、法勾配形成特性が向上し、法勾配部において所定の法勾配を実現できる。このように、石炭灰が主成分のフライアッシュと副成分のクリンカアッシュとからなることで、水中構造物の法勾配部において所定の法勾配を添加剤の使用なしで確保することができる。
【0031】
本実施形態による灰モルタルは、水中構造物の裏込め材、または、裏込め材の被覆材として用いて好ましい。図1図2を参照して本実施形態による灰モルタルを適用する水中構造物の裏込め部、裏込め部の被覆部を説明する。図1は、本実施形態による灰モルタルを裏込め材として適用可能な水中構造物の例を示す側断面図である。図2は、本実施形態による灰モルタルを裏込め材の被覆材として適用可能な水中構造物の例を示す側断面図である。
【0032】
図1のように、本実施形態による水中構造物10Aは、重力式のケーソン1と、捨石により水底Gに構築されケーソン1が設置されるマウンド2と、所定の法勾配を有するようにケーソン1の背面側(岸側)に構築される裏込め部3と、裏込め部3のさらに岸側に土砂から構築される裏埋め土4と、を備え、たとえば、護岸構造や岸壁構造を構成することができる。裏込め部3を構築する裏込め材として、本実施形態の灰モルタルを用いることで、所定の法勾配の法勾配部3aを有する裏込め部3を構築することができる。
【0033】
図2の水中構造物10Bは、図1と同様に、ケーソン1と、マウンド2と、裏込め部3と、裏埋め土4と、を備え、たとえば、護岸構造や岸壁構造を構成できる。裏込め部3は、砕石等からなる裏込石から構築され、裏込め部3を被覆材により覆うようにして被覆部5が構築される。被覆部5を構築する被覆材として、本実施形態の灰モルタルを用いることで、所定の法勾配の法勾配部5aを有する被覆部5を構築することができる。なお、裏込め部3の岸側上端の肩部に防砂シート6が部分的に配置される。
【0034】
図1の裏込め部3、図2の裏込め部3の被覆部5を本実施形態の灰モルタルにより構築する場合、灰モルタルの水粉体比を0.350~0.439の範囲内で調整することで、図1の裏込め部3と図2の被覆部5を法勾配部3a、5aが法勾配1:1.2~1:4.4の範囲内になるように構築できる。換言すると、図1の裏込め部3と図2の被覆部5において法勾配部3a、5aが1:1.2~1:4.4の範囲内の目標の法勾配になるように灰モルタルの水粉体比を0.350~0.439の範囲内で調整する。
【0035】
図1の裏込め部3、図2の被覆部5は本実施形態の灰モルタルをポンプにより水中打設することで構築できるが、かかるポンプ打設において、灰モルタルのフロー値がポンプ打設に必要な流動性を確保可能な値であることが必要である。この場合、石炭灰をフライアッシュ単独とすると、フライアッシュだけでも粒子骨格は形成されるが、そのためには間隙比を小さくする(含水比を下げる)必要があり、含水比が小さくなると、フライアッシュのコンシステンシー特性により流動性が下がり、ポンプ圧送が難しくなるのに対し、本実施形態のように石炭灰としてフライアッシュとクリンカアッシュとを配合することで、粒子骨格が形成し易くなる結果、間隙比を小さくする(含水比を下げる)必要がなく、フロー値が下がらず流動性が確保でき、ポンプ圧送が容易となる。また、フライアッシュにクリンカアッシュを追加することによって、フライアッシュの見かけの液性限界wlが小さくなるため、流動性確保の面でも有利になる。
【0036】
ポンプ圧送性とフロー値(ベーンせん断強度)との関係はポンプ能力によって変わるが、土木工事における汎用機材を用いることを前提とすると、フライアッシュとクリンカアッシュとを配合比9:1で配合した灰モルタルの場合、フロー値の下限値は88mm程度であり、また、同じく配合比8:2で配合した灰モルタルの場合、フロー値の下限値は92mm程度である。また、水中でのワーカビリティ(水中不分離性、流動性)の確保に着目すると、固すぎず、柔らかすぎない状態として、上記数値がフロー値の下限値になる。
【0037】
本実施形態によれば、灰モルタルには法勾配形成特性の向上とポンプ圧送のための流動性の確保とが要求されるため、前者に関しては打設勾配1:1.2を確保できる程度の固さ、後者に関してはポンプ打設可能な流動性(柔らかさ)という相反する二つの条件を満たすことが必要であるが、フライアッシュにクリンカアッシュを追加することで灰モルタルにおいて粒子骨格の形成のし易さを図ることによって、単に灰モルタルを固くする(流動性を低くする)ことによらずに法勾配形成特性の向上を実現している。
【0038】
また、特許文献1のように、フライアッシュとセメントとを混合してなる粉体状の混合物を充填した通水防塵性の袋体を用いる工法では裏込め部等において多数の袋体を積み重ねることが必要であり施工コストが嵩むのに対し、本実施形態によれば、灰モルタルをポンプにより圧送し水中打設するので、コスト減を達成できる。
【0039】
(実験例)
次に、本発明を実験例により説明する。本実験例では、配合比9:1、および、8:2として配合したフライアッシュとクリンカアッシュと、配合比率を変えてセメントと海水とを混練して灰モルタルを複数種類作製し、配合試験を実施し、練混ぜ直後のフロー値を測定した。セメントは高炉スラグセメントB種、普通ポルトランドセメント、またはフライアッシュセメントを用い、その配合量は50kg/m~200kg/mである。フロー試験は、シリンダーフロー試験:試験法 313(NEXCO試験方法 第3編 コンクリート関係試験方法)に基づいて行った。また、上記配合試験から決定した複数の配合による灰モルタルを用いて実規模を想定した図3のような水中打設実験を実施した。図3に示すように、灰モルタルをホースから水槽内の水中に打設し、水槽底部に図9のような略円錐状の山部を形成し、その打設勾配を計測した。
【0040】
比較例としてフライアッシュ(FA)のみを用いた灰モルタルについて配合試験から得られたフロー値と、水中打設実験から得られた打設勾配との関係を図4に示す。本比較例では流動性が低すぎたため85mm程度のフロー値の試料では実験ができなかったが、流動性が高い配合で実験した図4の近似曲線から打設勾配1:1.2となるフロー値を推測すると80mmである。しかし、フロー値80mmではポンプ打設に必要な流動性を確保できず、ポンプ圧送性の観点からもフライアッシュのみを用いた灰モルタルでは打設勾配1:1.2を確保できない。
【0041】
次に、フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比9:1で配合した灰モルタルについて、配合試験から得られたフロー値と、水中打設実験から得られた打設勾配との関係を図5に示す。図5から、打設勾配を1:1.2にしたい場合は灰モルタルのフロー値を88mm、打設勾配を1:4.4にしたい場合は同じくフロー値を180mmに設定すればよいことがわかる。
【0042】
図5のように灰モルタルのフロー値が88mmであると、ポンプ打設に必要な流動性を確保できるとともに、1:1.2の打設勾配を実現できることがわかる。
【0043】
また、フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比9:1で配合した灰モルタルについて、配合試験から得られたフロー値と、その水粉体比との関係を図6に示す。図6から、灰モルタルのフロー値を88mmにしたい場合は水粉体比を0.364に、同じくフロー値を180mmにしたい場合は水粉体比を0.439に調整すればよいことがわかる。
【0044】
フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比9:1で配合した灰モルタルについて、水粉体比が0.364および0.439になる配合例を次の表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比8:2で配合した灰モルタルについて、配合試験から得られたフロー値と、水中打設実験から得られた打設勾配との関係を図7に示す。図7から、打設勾配を1:1.2にしたい場合は灰モルタルのフロー値を92mm、打設勾配を1:3.8にしたい場合は同じくフロー値を163mmに設定すればいいことがわかる。上記配合による灰モルタルのフロー値が92mmであると、ポンプ打設に必要な流動性を確保できるとともに、1:1.2の打設勾配を実現できることがわかる。
【0047】
また、フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比8:2で配合した灰モルタルについて、配合試験から得られたフロー値と、その水粉体比との関係を図8に示す。図8から、灰モルタルのフロー値を92mmにしたい場合は水粉体比を0.350に、同じくフロー値を163mmにしたい場合は水粉体比を0.419に調整すればよいことがわかる。
【0048】
フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)とを配合比8:2で配合した灰モルタルについて、水粉体比が0.350および0.419になる配合例を次の表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
以上の実験例の結果から、配合試験および水中打設実験に用いた灰モルタルの水粉体比は0.350~0.439の範囲である。フライアッシュ(FA)とクリンカアッシュ(CA)との配合比9:1のとき、水粉体比が0.364~0.439の範囲となるときのフロー値は88mm~180mmの範囲である。この配合比9:1のとき、フロー値が88mm~180mmの範囲となるときの水中打設勾配が1:1.2~4.4となる。また、同じく配合比8:2のとき、水粉体比が0.350~0.419の範囲となるときのフロー値は92mm~163mmの範囲である。この配合比8:2のとき、フロー値が92mm~163mmの範囲となるときの水中打設勾配が1:1.2~3.8となる。
【0051】
以上から、クリンカアッシュをフライアッシュに対して配合比1~2割の範囲で配合した灰モルタルについて、水粉体比を調節することで打設勾配を目標値(設計値)に設定できるとともに、ポンプ打設に必要な流動性を確保できる。フライアッシュとクリンカアッシュとの配合比が9:1の場合は、灰モルタルの水粉体比を0.364~0.439にすることで、1:1.2~4.4の法勾配に打設できる。また、同じく配合比が8:2の場合は、灰モルタルの水粉体比を0.350~0.419にすることで、1:1.2~3.8の法勾配に打設できる。
【0052】
なお、上記実験例は固化材の配合量を50kgとしたものであるが、配合量200kgとした試験体においてもフロー試験において同様の結果を得ている。
【0053】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、図1図2の水中構造物は護岸構造や岸壁構造を構成できるが、これに限定されず、たとえば、堤体構造を構成することもできる。また、図1図2のケーソンに代えて鋼板セルを用いた構造であってもよい。
【0054】
また、フライアッシュはクリンカアッシュに対し配合比で5割を越えて配合されるが、この場合、フライアッシュとクリンカアッシュとの配合比を変えて配合試験を実施することで、クリンカアッシュとクリンカアッシュとの配合比がフロー値に及ぼす影響の度合いを把握することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、水中構造物の法勾配部の所定の法勾配を添加剤の使用なしで確保でき、低コスト化を図ることができ、添加剤の使用許可等の煩雑な手続きが不要となり、また、施工時のポンプ打設に必要な流動性を確保できるので、良好な施工性を実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 ケーソン
2 マウンド
3 裏込め部
3a 法勾配部
5 被覆部
5a 法勾配部
10A,10B 水中構造物
G 水底
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9