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特開2023-5941ビールテイスト飲料用香味改善剤及びビールテイスト飲料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005941
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料用香味改善剤及びビールテイスト飲料
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20230111BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20230111BHJP
   C12G 3/021 20190101ALI20230111BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20230111BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/06
C12G3/021
A23L2/00 B
A23L2/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108243
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】野場 重都
(72)【発明者】
【氏名】寺野 真維
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115AG03
4B115MA03
4B117LC02
4B117LC03
4B117LG16
4B117LK06
4B117LL01
4B117LP10
4B128CP16
(57)【要約】
【課題】ビールテイスト飲料の穀物様香気、アルコール感、余韻、ボディ感及び発酵感を増強しながら、ビールらしい香味を十分に増強することができる添加物を提供すること。
【解決手段】メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドを含むビールテイスト飲料用香味改善剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドを含むビールテイスト飲料用香味改善剤。
【請求項2】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、新ジャンル及びノンアルコールビールテイスト飲料から成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のビールテイスト飲料用香味改善剤。
【請求項3】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、麦芽を使用しないか、又は25%未満の麦芽使用比率を有するものである、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料用香味改善剤。
【請求項4】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、非発酵ビールテイスト飲料である、請求項1~3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料用香味改善剤。
【請求項5】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して請求項1に記載のビールテイスト飲料用香味改善剤を添加する工程を包含する、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項6】
前記ビールテイスト飲料用香味改善剤は、メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドの添加量が香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して、0.01~100ng/gになる量にて添加される、請求項5に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項7】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して請求項1に記載のビールテイスト飲料用香味改善剤を添加する工程を包含する、ビールテイスト飲料のビールらしい香味を増強する方法。
【請求項8】
メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドのビールテイスト飲料用香味改善剤を製造するための使用。
【請求項9】
0.01~100ng/gのメチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドを含有するビールテイスト飲料。
【請求項10】
前記メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドの含有量が0.1~10ng/gである、請求項9に記載のビールテイスト飲料。
【請求項11】
前記ビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、新ジャンル及びノンアルコールビールテイスト飲料から成る群から選択される少なくとも一種である、請求項9に記載のビールテイスト飲料。
【請求項12】
麦芽を使用しないか、又は25%未満の麦芽使用比率を有する、請求項9又は10に記載のビールテイスト飲料。
【請求項13】
非発酵ビールテイスト飲料である、請求項9~11のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料の香味を改善するために使用するビールテイスト飲料用香味改善剤、及びその使用対象であるビールテイスト飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料は、穀物様香気、アルコール感、余韻、ボディ感、発酵感及びキレ感を含む、ビールらしい香味を提供する飲料である。ビールテイスト飲料としては、ビール、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールテイスト飲料などが知られている。
【0003】
ビールテイスト飲料のうち、特に、麦芽比率(ホップ及び水以外の原料の重量の合計に対する原料中麦芽の重量比)が50%未満の発泡酒又は新ジャンル、原料を発酵させずに製造されたビールテイスト飲料などは、ビールらしい香味が乏しい傾向にある。
【0004】
特許文献1には、従来、ビールやビールテイスト飲料において、3-メチル-2-ブテン-1-チオール等の含硫化合物は、日光を照射された際に生じる不快臭(「スカンクの味」、「光で壊された味」、「日射病にかかった味」)を生じさせる原因となっていたこと、及び、予想外にも、3-メチル-2-ブテン-1-チオール(以下、「MBT」ということがある。)及び3-メチル-2-ブタンチオール等の含流化合物を、所定の濃度となるように非発酵ビールテイスト飲料に添加することにより、発酵を経ていないビールテイスト飲料においても、不快臭の発生を抑えつつ、良好な発酵感を付与できることが、記載されている。
【0005】
また、特許文献1の非発酵ビールテイスト飲料においては、含硫化合物の濃度は1×10ppt以上1×10ppt以下であること、及び、上記範囲の濃度にすることで、優れたビールらしさと良好な発酵感を有する、おいしさに優れた非発酵ビールテイスト飲料が提供されることが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/080357号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ビールらしさと発酵感を増強する目的で3-メチル-2-ブテン-1-チオール及び3-メチル-2-ブタンチオールをビールテイスト飲料に添加した場合、ビールテイスト飲料のビールらしい香味は、添加濃度に応じて十分に向上し難いことが明らかになった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的とするところは、ビールテイスト飲料の穀物様香気、アルコール感、余韻、ボディ感及び発酵感(以下、これら5種類の官能をまとめて「発酵感等」ということがある。)を増強しながら、ビールらしい香味を十分に増強することができる添加物を提供することにある。
【0009】
尚、「穀物様香気」は穀物を想起させる香り、具体的な香気成分では3-メチル-1-ブタノール、イソバレリン酸、γ-ノナラクトン、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン、2-アセチルチアゾール、4-ビニルグアイアコール、2-アセチル-1-ピロリン、2-プロピル-1-ピロリン等のイメージである。「アルコール感」はアルコール飲料を飲んだときに感じる後味の苦さ、アルコール自身が持つ甘味を感じることをいう。「余韻」は飲み込んだ後に感じられる香り及び味の持続性である。「ボディ感」はビールの香気と呈味からくる、味の厚みである。「発酵感」は発酵工程で酵母により生成する複合的な風味、具体的な香気成分ではエステル類、低級アルコール、2-フェニルエチルアルコール等のイメージである。「ビールらしい香味」はビールらしさの全体評価である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドを含むビールテイスト飲料用香味改善剤を提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記ビールテイスト飲料用香味改善剤は、香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、新ジャンル及びノンアルコールビールテイスト飲料から成る群から選択される少なくとも一種である。
【0012】
ある一形態においては、前記香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、麦芽を使用しないか、又は25%未満の麦芽使用比率を有するものである。
【0013】
ある一形態においては、前記香味を改善しようとするビールテイスト飲料が、非発酵ビールテイスト飲料である。
【0014】
また、本発明は、香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して前記ビールテイスト飲料用香味改善剤を添加する工程を包含する、ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
【0015】
ある一形態においては、前記ビールテイスト飲料用香味改善剤は、メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドの添加量が香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して、0.01~100ng/gになる量にて添加される。
【0016】
また、本発明は、香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して前記ビールテイスト飲料用香味改善剤を添加する工程を包含する、ビールテイスト飲料のビールらしい香味を増強する方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドのビールテイスト飲料用香味改善剤を製造するための使用を提供する。
【0018】
また、本発明は、0.01~100ng/gのメチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドを含有するビールテイスト飲料を提供する。
【0019】
ある一形態においては、前記メチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィドの含有量が0.1~10ng/gである。
【0020】
ある一形態においては、前記ビールテイスト飲料が、ビール、発泡酒、新ジャンル及びノンアルコールビールテイスト飲料から成る群から選択される少なくとも一種である。
【0021】
ある一形態においては、前記ビールテイスト飲料は、麦芽を使用しないか、又は25%未満の麦芽使用比率を有するものである。
【0022】
ある一形態においては、前記ビールテイスト飲料は、非発酵ビールテイスト飲料である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ビールテイスト飲料の発酵感等を増強しながら、ビールらしい香味を十分に増強することができる添加物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<ビールテイスト飲料用香味改善剤>
本発明のビールテイスト飲料用香味改善剤はメチル3-メチル-2-ブテン-1-イルジスルフィド(methyl 3-methyl-2-buten-1-yl disulfide)(以下、「MMBD」ということがある。)を含有する。MMBDは、MBTとメタンチオールがジスルフィド結合した構造をもち、化学的に合成することができる。
【0025】
ビールテイスト飲料用香味改善剤は香料組成物であり、MMBD以外の香料化合物を含有していてもよい。また、その形態は問わないが、含水アルコール、プロピレングリコールなどの水溶性溶剤に抽出・溶解することができる、水溶性香料組成物であることが好ましい。
【0026】
MMBDはビールテイスト飲料用香味改善剤の有効成分である。MMBDのビールテイスト飲料用香味改善剤における含有量は、例えば、50~100重量%、好ましくは80~100重量%、より好ましくは実質的に100重量%である。
【0027】
ビールテイスト飲料は、MMBDを含有させることで、その発酵感等が向上する。MMBDの香りは後に引かず、含有させた場合でも、ビールテイスト飲料のキレ感が低下し難い。ビールテイスト飲料用香味改善剤は、MMBDの添加量が香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して、0.01ng/g以上、好ましくは0.1ng/g以上、より好ましくは1.0ng/g以上の濃度になる量にて、添加される。MMBDの添加量が0.01ng/g未満であると、ビールテイスト飲料の発酵感等の増強が不十分になる。
【0028】
また、ビールテイスト飲料用香味改善剤は、MMBDの添加量が香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対して、100ng/g以下、好ましくは50ng/g以下、より好ましくは10ng/g以下の濃度になる量にて、添加される。MMBDの添加量が100ng/gを超えると、ビールらしい香味が損なわれることがある。
【0029】
上記MMBDの香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対する添加量の下限値及び上限値は任意に組み合わせて数値範囲を構成してよい。
【0030】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料に対するMMBDの添加量は、例えば、ビールテイスト飲料中のMMBDの濃度が0.01~100ng/g、好ましくは、0.1~10ng/g、より好ましくは1.0~10ng/gの濃度になる量である。
【0031】
<香味を改善しようとするビールテイスト飲料>
本発明の香味改善剤はビールテイスト飲料の香味を改善するために使用される。香味とは香り及び味わいをいう。改善とは消費者の嗜好に合うように改変することをいう。香味を改善する対象であるビールテイスト飲料には、ビール、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールテイスト飲料などが含まれる。
【0032】
「ビール」は、次の(1)~(3)の酒類のうち、アルコール分が二十度未満のものをいう。
(1)麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
(2)麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
(3)(1)又は(2)に掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の百分の五十以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の百分の五を超えないものに限る。)
【0033】
また、「発泡酒」は、麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(清酒、合成清酒、連続式蒸留焼酎、単式蒸留焼酎、みりん、ビール、果実酒、甘味果実酒、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール及び麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が二十度未満のものに限る。)をいう。
【0034】
いわゆる「新ジャンル」には、麦芽又は麦を原料の一部とせずに、ビールテイストの香味を実現した「その他の醸造酒」に区別されるものと、麦芽又は麦を原料の一部とした酒類であって、さらに麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部とした「リキュール」に区別されるものがある。
【0035】
「ノンアルコールビールテイスト飲料」は、ビールテイストの香味を実現した清涼飲料水(酒精分1容量パーセント未満)であり、アルコールを含有するビールテイスト飲料からアルコール分を除去することによって製造された発酵ノンアルコールビールテイスト飲料、及び発酵工程中のアルコール生成を抑制するか、原料を発酵させずに香料等を調合することによってビールテイストの香味を実現した、非発酵ノンアルコールビールテイスト飲料などがある。
【0036】
ビールテイスト飲料を醸造する際のデンプン原料における麦芽使用比率は、例えば、10重量%以下、10~25重量%、25~50重量%であってよい。強い穀物感を必要とする場合は、麦芽使用比率は50重量%以上にしてもよい。但し、アミノ酸やアミノ酸代謝物を抑制する観点から、麦芽使用比率は80重量%以下にすることが好ましい。
【0037】
ある一形態において、ビールテイスト飲料を醸造する際のデンプン原料における麦芽使用比率は、50重量%未満、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは25重量%以下である。デンプン原料に麦芽を使用しなくてもよい。
【0038】
また、ビールテイストアルコール飲料には、飲用水に、麦汁、麦芽エキス、糖類、香料及びエタノールなどを加えることによりビールらしい香味及び味質に仕上げたものもある。発酵工程を行わないか、発酵工程を行う場合でも、実質的な量のアルコールを生成させない程度に制限したビールテイストアルコール飲料は、以下、「非発酵ビールテイストアルコール飲料」という。
【0039】
本発明において、香味を改善する対象としては、好ましくは、麦芽使用比率の低いビールテイスト飲料、麦芽を使用しないビールテイスト飲料、原料を発酵させずに製造された非発酵ビールテイスト飲料である。このようなビールテイスト飲料は、穀物様香気又はアルコール感が乏しい傾向にあり、とりわけMMBDを含有/配合させることによる香味改善効果を得ることができる。
【0040】
ある一形態において、香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料は低糖質ビールテイスト飲料である。低糖質ビールテイスト飲料とは、糖質含有量が1.0g/100ml以下のビールテイスト飲料をいう。低糖質ビールテイスト飲料は、糖質又は香気成分の含有量が低いため、穀物様香気又はアルコール感に乏しいからである。低糖質ビールテイスト飲料は、低糖質ビールテイストアルコール飲料であってよい。
【0041】
ある一形態において、香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料は低プリン体ビールテイスト飲料である。低プリン体ビールテイスト飲料とは、プリン体含有量が0.5mg/100ml以下のビールテイスト飲料をいう。低プリン体ビールテイスト飲料は、プリン体又は香気成分の含有量が低いため、穀物様香気に乏しいからである。低プリン体ビールテイスト飲料は、低プリン体ビールテイストアルコール飲料であってよい。
【0042】
ある一形態において、香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料はノンアルコールビールテイスト飲料である。ノンアルコールビールテイスト飲料は、アルコール含有量が低いため、アルコール感に乏しいからである。ノンアルコールビールテイスト飲料は、非発酵ノンアルコールビールテイスト飲料であっても発酵ノンアルコールビールテイスト飲料であってもよい。発酵ノンアルコールビールテイスト飲料は、例えば、発酵ビールテイストアルコール飲料から膜蒸留法によりアルコールを除去させて製造することができる。
【0043】
香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料のイソα酸の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる製品の苦味品質に応じて適宜調整することができる。香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料のイソα酸の含有量は、例えば、飲料の苦味価が5以上、好ましくは10以上、より好ましくは15以上となるように調整することができる。また、香味を改善する対象として好ましいビールテイスト飲料のイソα酸の含有量の上限値は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の苦味価が50以下、好ましくは30以下、より好ましくは25以下となるように調整することができる。ビールテイスト飲料の苦味価は、例えば、「改訂BCOJビール分析法 第3版」、ビール酒造組合国際技術委員会編、平成16年11月発行、に記載の方法に従って測定される。
【0044】
<ビールテイスト飲料の製造方法>
本発明のビールテイスト飲料は、MMBDを含有させること以外は、一般的な発酵ビールテイスト飲料又は非発酵ビールテイスト飲料と同様にして製造することができる。そこで、一般的な発酵ビールテイスト飲料と非発酵ビールテイスト飲料の製造方法を説明する。
【0045】
発酵工程を経て製造される発酵ビールテイスト飲料は、一般的には、仕込、発酵、貯酒、濾過の工程により製造することができる。
【0046】
仕込工程では、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上の原料から、麦汁等の発酵原料液を調製する。具体的には、穀物原料等と原料水とを含む混合物を加温し、澱粉質を糖化して糖液を調製した後、得られた糖液を煮沸し、その後固体分の少なくとも一部を除去して発酵原料液とする。
【0047】
まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させて糖液を調製する。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。
【0048】
穀物原料としては、大麦、小麦、ライ麦、燕麦、及びこれらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。本発明においては、用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしい香味がよりはっきりとした発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。
【0049】
糖質原料とは、糖類、すなわち、比較的低分子で水に溶け、一般に甘味を有する炭水化物である。糖質原料としては、平成11年6月25日付けの酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達第3条において規定される糖類、すなわち、「三糖類以下で水に溶け一般に甘味を有する炭水化物又はこれらのものの混合物」であることが好ましい。糖質原料とする糖類は、単糖類、二糖類及び三糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種であってよく、更に四糖以上の糖類を含んでいてもよい。単糖類としては、例えば、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、キシロース、アラビノース、タガトース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、ショ糖、ラクトース、麦芽糖、イソマルトース、トレハロース、セロビオース等が挙げられる。三糖類としては、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、ラフィノース等が挙げられる。四糖以上の糖類としては、例えば、スタキオース、マルトテトラオース等が挙げられる。糖類の形態は、例えば、粉末状、顆粒状、ペースト状、液状等であってもよい。液状の糖類としては、例えば、ブドウ糖果糖液糖、果糖ブドウ糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合異性化液糖等の液糖であってもよい。糖類はグラニュー糖又は上白糖であってもよい。
【0050】
当該混合物には、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で、飲料として通常配合される穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料、甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、酸味料、塩類等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。これらの各原料は、一般に市販されているものを使用することができる。
【0051】
甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、グリコーゲンやデンプンなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、アジピン酸、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、酢酸、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などを用いることができる。
【0052】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度及び時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビールテイスト飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0053】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0054】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビールテイスト飲料を製造することができる。例えば、ホップを煮沸処理前又は煮沸処理中に添加し、ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分、特に苦味成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0055】
煮沸処理後に得られた煮汁には、沈殿により生じたタンパク質等の粕が含まれている。そこで、煮汁から粕等の固体分の少なくとも一部を除去する。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0056】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0057】
さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビールテイスト飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0058】
発酵工程において、発酵度が低くなるように発酵条件を適宜調整したり、得られた発酵液からアルコール分を除去したり、得られた発酵液を希釈する等により、ノンアルコールビールテイスト飲料又は低アルコールビールテイスト飲料を得ることができる。
【0059】
ビールテイスト飲料は、麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料として使用して、いわゆる新ジャンルとしてもよい。麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものは、発酵ビールテイスト飲料の製造工程のうち、任意の工程で原料として添加することができる。
【0060】
製造された発酵ビールテイスト飲料は、容器に充填される。当該ビールテイスト発泡性飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス瓶、缶、可撓性容器等が挙げられる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂を成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【0061】
容器に充填された容器詰発酵ビールテイスト飲料は、必要に応じて、加熱殺菌処理されてもよい。加熱殺菌処理は、保管中の微生物増殖を防ぐために十分な殺菌強度であればよく、ビールテイスト飲料のアルコール濃度等を考慮して適宜決定される。例えば、60~85℃で0.5~60分間程度、好ましくは60~80℃で1~30分間程度、より好ましくは60~70℃で5~15分間程度の加熱殺菌処理を行うことができる。
【0062】
発酵工程を経ずに製造される非発酵ビールテイスト飲料は、一般的には、各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。例えば、具体的には、各原料を混合することにより、調合液を調製する調合工程と、得られた調合液に炭酸ガスを加えるガス導入工程と、により製造することができる。
【0063】
まず、調合工程において、原料を混合することにより、調合液を調製する。調合工程においては、炭酸ガス以外の全ての原料を混合した調合液を調製することが好ましい。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及び必要に応じてアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液に、原料水、及び必要に応じてアルコールを混合してもよい。
【0064】
原料としては、苦味料、酸味料、甘味料、着色料、香味料、エタノール(原料アルコール)、乳化剤、多糖類、水溶性食物繊維、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。
【0065】
酸味料としては、安全性と香味の点から無機酸よりも有機酸を用いることがより好ましい。有機酸としては、一般的に飲食品の製造に使用されているものであれば特に限定されるものではなく、例えば、乳酸、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、アジピン酸、フマル酸、及びそれらの塩等が挙げられる。これらの有機酸は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0066】
苦味料としては、前記で挙げられたものを用いることができる。また、ホップ、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物等のイソフムロンを苦味料として用いてもよい。苦味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0067】
甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、及び高甘味度甘味料等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア、及び酵素処理ステビア等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0068】
着色料としては、カラメル色素等が挙げられる。着色料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
香味料としては、ビール抽出物、ビール香料、ホップ香料等が挙げられる。これらの香味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0070】
乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スクロース脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等が挙げられる。
【0071】
多糖類としては、でんぷん、デキストリン等が挙げられる。デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖(3~10個程度の単糖が重合した糖質)よりも大きなものを指す。これらの多糖類は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0072】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維(可溶性大豆多糖類)、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0073】
調合工程において調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、ガス導入工程の前に、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0074】
次いで、ガス導入工程として、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを加える。これにより、非発酵ビールテイスト飲料を得る。炭酸を加えることによって、ビールと同様の爽快感が付与される。なお、炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、調合工程により得られた調合液、及び炭酸水を混合してよく、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0075】
炭酸ガスを添加した後、得られた非発酵ビールテイスト飲料に対して、さらに濾過等の不溶物を除去する処理を行ってもよい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。
【0076】
製造された非発酵ビールテイスト飲料は、容器に充填された後、加熱殺菌処理がなされることが好ましい。充填される容器や加熱殺菌処理の方法は、発酵ビールテイスト発泡性飲料と同様にして行うことができる。
【0077】
香味を改善しようとするビールテイスト飲料に本発明の香味改善剤を添加する場合、そのタイミングに制限はなく、ビールテイスト飲料の製造工程における適当な工程で添加することができる。例えば、発酵ビールテイスト飲料に添加する場合には、麦汁煮沸後の冷却工程、発酵工程又は熟成工程等任意の工程でよいが、添加する工程が前工程であればあるほど、香味改善剤中の各成分の濃度の消長が考えられるため、後発酵工程の終了後が望ましい。また、リキュール類に添加する場合には、税法上、主発酵終了前に添加する必要があるため、主発酵開始前及び主発酵終了直前に添加することが望ましい。
【0078】
ビールテイスト飲料中のMMBDの含有濃度は、GC/MS分析等の手法によって測定することができる。例えば、以下の方法を採用できる。
【0079】
ビールテイスト飲料500gに対し、ジエチルエーテルを150mL用いて溶剤抽出を行う。得られた抽出液を飽和食塩水50gで1回洗浄する。次いで、抽出液から常圧条件下で有機溶剤を留去することで調製した濃縮物を直接GC/MS分析に供する。以下、GC/MS条件を記す。
【0080】
(1)GC
昇温条件:40℃~230℃、5.0℃/min昇温、230℃で30分保持
キャリアガス:ヘリウム
線速度:25cm/sec
【0081】
(2)MS
電気イオン化(EI)法、70eV
MS温度:230℃(イオン源)、150℃(四重極)
スキャンレンジ:35-350amu
【0082】
(使用装置)
GC装置:Agilent Technology社製GC7890B
MS装置:MS5977A(イオン化方式:EI 70eV)
カラム:ジーエルサイエンス社製TC-WAX(長さ30m、内径0.25mm、液層膜厚0.25μm)
【0083】
以下の実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例0084】
<実施例1>
香味改善剤の製造
以下に記載の方法に従って、MMBDを合成した。
【0085】
1-クロロ-3-メチル-2-ブテン(47.1g)、チオ硫酸ナトリウム五水和物(134g)、触媒量の臭化テトラn-ブチルアンモニウム、水(201g)、トルエン(141g)を反応容器に加えて撹拌溶解し、22℃で60分撹拌した。反応液の下層を別の反応容器に移し、下層に対してヘキサン(75.0g)を加えた。得られた下層の反応液を氷冷し撹拌しながら4℃にて20%ナトリウムメタンチオラート水溶液(158g)を一度に加えた。15分間よく撹拌した後、得られた反応液から上層を分離し、得られた上層を10%食塩水で2回洗浄し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去して粗精製物を得た。得られた粗精製物(27.9g)を減圧蒸留(bp87℃/1.5kPa)にて精製して、MMBD(純度96.7%)を8.35g得た。物性値を以下に示す。以下の実施例において、MMBDは香味改善剤として使用する。
【0086】
得られたMMBDの物性値は以下の通りであった。
【0087】
(1)MS
電気イオン化(EI)法、70eV
m/z:39(6)、41(61)、53(5)、67(7)、69(100)、70(8)、79(5)、80(5)、148(M、23)
【0088】
(使用装置)
GC装置:Agilent Technology社製MSD5977A
MS装置:MS5977A(イオン化方式:EI 70eV)
カラム:ジーエルサイエンス社製TC-1701(長さ30m、内径0.25mm、液層膜厚0.25μm)
【0089】
(2)NMR
H NMR(C,400MHz,ppm) δ 1.47(s,3H),1.52(s,3H),2.07(s,3H),3.22(d,J=8.0Hz,2H),5.22(tm,J=8.0Hz,1H)。
13C NMR(C,100MHz,ppm) δ 17.8,23.2,25.7,36.7,120.1,136.8.
【0090】
(使用装置)
NMR測定装置:JEOL RESONANCE社製 JNM-ECX400、400MHz
【0091】
<実施例2>
市販品1:非発酵ノンアルコールビールテイスト炭酸飲料(麦芽比率:0%、苦味価:23.5)を準備した。
【0092】
実施例1で製造した香味改善剤(MMBD)を市販品1に所定量添加した。得られたビールテイスト炭酸飲料を4℃に調温した後、専門評価者によって、その香味の官能評価を行った。その際、香味改善剤を添加していない市販品1を対照として使用し、評価値は、6名の専門評価者の平均値を採用した。評価項目、評価点数及びその意味内容基準は次の通りである。官能評価の結果を表1に示す。
【0093】
評価項目
1:穀物様香気の増強
2:アルコール感の増強
3:余韻の増強
4:ボディ感の増強
5:発酵感の増強
6:ビールらしい香味の増強
【0094】
評価点数及びその意味内容
1:無添加と同等レベル、変化なし
2:やや効果を感じる
3:効果を感じる
4:やや強く効果を感じる
5:強く効果を感じる
6:とても強く効果を感じる
7:非常に強く効果を感じる
【0095】
【表1】
【0096】
余韻、ボディ感の増強効果は、添加濃度が高くなるほど強くなる傾向があった。一方で、穀物様香気、アルコール感、発酵感、ビールらしい香味の増強効果は、添加濃度が1.0~10ng/gのときに高く、100ng/g以上になると低下する傾向があった。
【0097】
<実施例3>
市販品2:発酵ビールテイスト飲料(麦芽比率:25%未満、苦味価:15.0)を準備した。市販品1の代わりに市販品2を使用すること以外は実施例2と同様にして、MMBDの香味改善機能を試験した。結果を表2に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
余韻、ボディ感の増強効果は、添加濃度が高くなるほど強くなる傾向があった。一方で、穀物様香気、アルコール感、発酵感、ビールらしい香味の増強効果は、添加濃度が1.0~10ng/gのときに高く、100ng/g以上になると低下する傾向があった。
【0100】
<比較例>
市販品2:発酵ビールテイスト飲料(麦芽比率:25%未満、苦味価:15.0)を準備した。市販品1の代わりに市販品2を使用し、MMBDの代わりにMBTを使用すること以外は実施例2と同様にして、MBTの香味改善機能を試験した。結果を表3に示す。
【0101】
【表3】
【0102】
MBTの余韻、ボディ感の増強効果は、MMBDとほぼ同程度であった。一方で、穀物様香気、アルコール感、発酵感、ビールらしい香味の増強効果は、MMBDの方が顕著に高かった。また、MBTは、ビールのオフレーバー(日光臭)を構成する成分として知られており、上記評価項目が改善される一方でキレ感が損なわれた。MMBDは、MBTよりも香りが後に引かず、キレ感が損なわれなかった。