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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059417
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】中間シャフト
(51)【国際特許分類】
   B62D 1/20 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
B62D1/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169409
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DC40
(57)【要約】
【課題】円滑な伸縮動作を行わせることができ、かつ、雌軸の内部空間に外部空間から水が入り込みにくい中間シャフトを提供する。
【解決手段】中間シャフト6は、雌軸10と、雄軸11と、雌軸10の筒部13の内周面と雄軸11の外周面との間に存在する隙間の軸方向後側の端部開口を塞ぐシールリング12とを備える。雄軸11は、軸方向孔26および横孔27を有する。軸方向孔26は、雄軸11の径方向中心部において軸方向に伸長し、かつ、雄軸11の軸方向両側の端面のうち、軸方向前側の端面にのみ開口している。横孔27は、雄軸11の外周面のうち、使用時において常にシールリング12よりも軸方向後側に位置する部分に開口する外側開口部と、軸方向孔26の内周面に開口する内側開口部とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両への組み付け状態で、車室内と車室外とを仕切るパネルを挿通し、かつ、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に傾斜するように配置される円筒状の筒部と、該筒部の軸方向前側の端部開口を塞ぐ底部とを有する、雌軸と、
軸方向前側部分が前記筒部の内側に挿入され、かつ、該軸方向前側部分の外周面が前記筒部の内周面に、直接または他の部材を介してトルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合している、雄軸と、
前記筒部の軸方向後側の端部に支持され、前記筒部の内周面と前記雄軸の外周面との間に存在する隙間の軸方向後側の端部開口を塞ぐシールリングと、を備え、
前記雄軸は、軸方向孔および横孔を有し、
前記軸方向孔は、前記雄軸の径方向中心部において軸方向に伸長し、かつ、前記雄軸の軸方向両側の端面のうち、軸方向前側の端面にのみ開口しており、
前記横孔は、前記雄軸の外周面のうち、使用時において常に前記シールリングよりも軸方向後側に位置する部分に開口する外側開口部と、前記軸方向孔の内周面に開口する内側開口部とを有する、
中間シャフト。
【請求項2】
前記横孔の内径が、前記軸方向孔の内径よりも小さい、請求項1に記載の中間シャフト。
【請求項3】
前記横孔の前記外側開口部が、前記雄軸の外周面のうち、車両への組み付け作業時においても常に前記シールリングよりも軸方向後側に位置する部分に開口している、請求項1または2に記載の中間シャフト。
【請求項4】
車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、前記雄軸のうち、下側となる円周方向部分に、前記横孔が配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の中間シャフト。
【請求項5】
車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、前記雄軸のうち、上側となる円周方向部分に、前記横孔が配置されており、かつ、前記横孔の中心軸が、水平方向、または、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の中間シャフト。
【請求項6】
前記雄軸は、前記横孔を複数備える、請求項1~5のいずれかに記載の中間シャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置を構成する中間シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のステアリング装置は、後端部にステアリングホイールが固定されたステアリングシャフトの前端部と、ステアリングギヤユニットを構成するピニオン軸とを連結する、中間シャフトを備える。中間シャフトとして、全長が伸縮可能な伸縮式の中間シャフトを使用する場合がある。伸縮式の中間シャフトは、全長を伸縮させることで、衝突事故の際の衝撃を吸収したり、ステアリングギヤユニットをサブフレームに搭載する車両において、車体とサブフレームとの相対変位を吸収したり、車両への組み付け作業を容易化したりすることができる。
【0003】
伸縮式の中間シャフトは、たとえば、車両への組み付け状態で、車室内と車室外とを仕切るパネルを挿通し、かつ、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に傾斜するように配置される筒部、および、該筒部の軸方向前側の端部開口を塞ぐ底部を有する雌軸と、軸方向前側部分が前記筒部の内側に挿入され、かつ、該軸方向前側部分の外周面が前記筒部の内周面に、直接または他の部材を介してトルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合している雄軸と、前記筒部の軸方向後側の端部に支持され、前記筒部の内周面と前記雄軸の外周面との間に存在する隙間の軸方向後側の端部開口を塞ぐシールリングとを備える。
【0004】
このような構造の中間シャフトでは、雌軸の内部空間が完全な密閉空間になっていると、中間シャフトが伸縮、すなわち雄軸と雌軸とが軸方向に相対変位する際に、雌軸の内部空間に存在する空気の圧力変化が大きくなり、中間シャフトの伸縮動作が阻害されてしまう。したがって、このような不都合を回避するために、たとえば、雌軸の内部空間と外部空間とを連通する空気の流通経路を設けておき、中間シャフトが伸縮する際に、該流通経路を通じて、雌軸の内部空間と外部空間との間で空気を往来させることによって、雌軸の内部空間に存在する空気の圧力変化を小さく抑えることが考えらえれる。
【0005】
具体例として、特開2003-226244号公報(特許文献1)には、雄軸の径方向中心部に、軸方向に貫通する軸方向孔を有し、かつ、雄軸の軸方向上側の端部に固定された自在継手を構成するヨークのうち、前記軸方向孔と整合する箇所に、該箇所を軸方向に貫通する貫通孔を有する中間シャフトが記載されている。このような中間シャフトでは、前記軸方向孔と前記貫通孔とが、雌軸の内部空間と外部空間である車室内の空間とを連通する空気の流通経路となり、中間シャフトの伸縮動作を円滑に行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-226244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たとえば、ピックアップトラックなどの大型の自動車では、車室内を水洗することが考えられる。車室内を水洗する際に、前記空気の流通経路を通じて、雌軸の内部空間に水が入り込むと、入り込んだ水によって、中間シャフトの円滑な伸縮動作が阻害される可能性がある。
【0008】
この点に関して、特開2003-226244号公報(特許文献1)に記載された構造では、ヨークに備えられた貫通孔の上端部が、U字形の断面形状を有するヨークの内側空間に開口している。このため、車室内を水洗する際に、ヨークの内側空間に水が溜まった場合には、溜まった水が、前記貫通孔の内側に入り込み、さらには雄軸の軸方向孔を通過して、雌軸の内部空間に入り込む可能性がある。
【0009】
本発明は、円滑な伸縮動作を行わせることができ、かつ、雌軸の内部空間に外部空間から水が入り込みにくい中間シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様の中間シャフトは、雌軸と、雄軸と、シールリングとを備える。
【0011】
前記雌軸は、車両への組み付け状態で、車室内と車室外とを仕切るパネルを挿通し、かつ、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に傾斜するように配置される円筒状の筒部と、該筒部の軸方向前側の端部開口を塞ぐ底部とを有する。
【0012】
前記雄軸は、軸方向前側部分が前記筒部の内側に挿入され、かつ、該軸方向前側部分の外周面が前記筒部の内周面に、直接または他の部材を介してトルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合している。
【0013】
前記シールリングは、前記筒部の軸方向後側の端部に支持され、前記筒部の内周面と前記雄軸の外周面との間に存在する隙間の軸方向後側の端部開口を塞ぐ。
【0014】
前記雄軸は、軸方向孔および横孔を有する。
【0015】
前記軸方向孔は、前記雄軸の径方向中心部において軸方向に伸長し、かつ、前記雄軸の軸方向両側の端面のうち、軸方向前側の端面にのみ開口している。
【0016】
前記横孔は、前記雄軸の外周面のうち、使用時において常に前記シールリングよりも軸方向後側に位置する部分に開口する外側開口部と、前記軸方向孔の内周面に開口する内側開口部とを有する。
【0017】
本発明の一態様の中間シャフトでは、前記横孔の内径が、前記軸方向孔の内径よりも小さい。
【0018】
本発明の一態様の中間シャフトでは、前記横孔の前記外側開口部が、前記雄軸の外周面のうち、車両への組み付け作業時においても常に前記シールリングよりも軸方向後側に位置する部分に開口している。
【0019】
本発明の一態様の中間シャフトでは、車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、前記雄軸のうち、下側となる円周方向部分に、前記横孔が配置されている。
【0020】
本発明の一態様の中間シャフトでは、車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、前記雄軸のうち、上側となる円周方向部分に、前記横孔が配置されており、かつ、前記横孔の中心軸が、水平方向、または、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に配置されている。
【0021】
本発明の一態様の中間シャフトでは、前記雄軸は、前記横孔を複数備える。この場合、該横孔は、雄軸の軸方向および/または円周方向に関する配置の位相が異なる複数箇所に配置することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様の中間シャフトによれば、円滑な伸縮動作を行わせることができ、かつ、雌軸の内部空間に外部空間から水が入り込みにくい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例の中間シャフトを備えたステアリング装置の部分切断側面図である。
図2図2は、図1のA部を拡大し、かつ、パネルおよびホールカバーを切断して示す図である。
図3図3は、図1のA部を拡大し、かつ、中間シャフトの一部を切断し、さらにパネルおよびホールカバーを省略して示す図である。
図4図4は、図3の軸方向中間部の拡大図である。
図5図5は、本発明の実施の形態の第2例を示す、図3に相当する図である。
図6図6は、図5の軸方向中間部の拡大図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の第3例を示す、図3に相当する図である。
図8図8は、図7の軸方向中間部の拡大図である。
図9図9は、本発明の実施の形態の第4例を示す、図8に相当する図である。
図10図10は、本発明の実施の形態の第5例を示す、図8に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1図4を用いて説明する。
【0025】
本例の中間シャフト6は、ピックアップトラックなどの大型の自動車に搭載されるステアリング装置1の一部を構成する。ただし、本発明の中間シャフトは、中型や小型の自動車に搭載されるステアリング装置の一部を構成することもできる。
【0026】
本例のステアリング装置1は、ステアリングホイール2と、ステアリングシャフト3と、ステアリングコラム4と、2つの自在継手5a、5bと、中間シャフト6と、エクステンションシャフト7と、ステアリングギヤユニット8とを備える。
【0027】
以下の説明中、ステアリング装置1に関して、前後方向および上下方向は、ステアリング装置1が搭載される車両の前後方向および上下方向である。ステアリング装置1に関して、前側は、図1の左側であり、後側は、図1の右側である。
【0028】
運転者が回転操作するステアリングホイール2は、ステアリングシャフト3の後側の端部に取り付けられている。ステアリングシャフト3は、車体に支持されたステアリングコラム4の内側に回転自在に支持されている。ステアリングシャフト3の前側の端部は、自在継手5a、中間シャフト6、エクステンションシャフト7、および別の自在継手5bを介して、ステアリングギヤユニット8のピニオン軸9に接続されている。このため、運転者がステアリングホイール2を回転操作すると、ステアリングホイール2の回転が、ステアリングギヤユニット8のピニオン軸9に伝達される。ピニオン軸9の回転は、該ピニオン軸9と噛合したラック軸の直線運動に変換される。この結果、左右の操舵輪にステアリングホイール2の回転操作量に応じた舵角が付与される。
【0029】
中間シャフト6は、全長を伸縮可能に構成されており、図2図4に示すように、雌軸10と、雄軸11と、シールリング12を備える。
【0030】
雌軸10は、筒部13と、底部14とを有する。
【0031】
筒部13は、円筒状に構成されており、車両への組み付け状態で、車室内15と車室外16とを仕切るパネル17を挿通し、かつ、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に傾斜するように配置される。すなわち、本例では、パネル17は、貫通孔18を有する。本例では、筒部13は、貫通孔18を、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に挿通するように配置されている。本例では、筒部13の軸方向後側部分の外周面と貫通孔18の内周面との間に組み付けられたホールカバー19により、筒部13の軸方向後側部分の外周面と貫通孔18の内周面との間の隙間が塞がれている。
【0032】
底部14は、筒部13の軸方向前側の端部開口を塞いでいる。すなわち、雌軸10は、軸方向前側の端部が塞がれ、軸方向後側の端部が開口した、有底円筒状に構成されている。
【0033】
本例では、雌軸10は、底部14の軸方向前側の端面の径方向中央部から軸方向前側に向けて伸長する接続軸部20をさらに有する。接続軸部20は、エクステンションシャフト7の軸方向後側の端部に、トルク伝達を可能に接続する部分である。接続軸部20の軸方向長さは、筒部13の軸方向長さよりも十分に短い。
【0034】
雄軸11は、軸方向前側部分が筒部13の内側に挿入され、かつ、該軸方向前側部分の外周面が筒部13の内周面に、直接、トルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合している。すなわち、雄軸11は、雌軸10に対し、トルク伝達および軸方向の相対変位を可能に組み合わされている。
【0035】
本例では、筒部13の内周面に備えられた雌スプライン部21と、雄軸11の軸方向前側の端部の外周面に備えられた雄スプライン部22とを、スプライン係合させている。これにより、雌軸10に対する雄軸11のトルク伝達および軸方向の相対変位を可能としている。本例では、雌スプライン部21と雄スプライン部22とのスプライン係合部に、潤滑用のグリースが塗布されている。
【0036】
本発明を実施する場合には、雄軸の軸方向前側部分の外周面を雌軸の筒部の内周面に、他の部材を介してトルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合させることもできる。このような構成として、たとえば、雌軸の筒部の内周面の円周方向複数箇所に軸方向に伸長するように備えられた雌側軸方向溝と、雄軸の軸方向前側部分の外周面の円周方向複数箇所に軸方向に伸長するように備えられた雄側軸方向溝との間に、複数個の玉、ころなどの転動体や、必要に応じて該転動体に予圧を付与する板ばねなどを配置した構成を採用することができる。
【0037】
本例では、雄軸11の軸方向の中間部および後側の端部の外周面は、軸方向に関して外径が変化しない円筒面により構成されている。本例では、雄軸11の軸方向後側の端部には、自在継手5aを構成する前側のヨーク23が、溶接により固定されている。
【0038】
シールリング12は、筒部13の軸方向後側の端部に支持され、筒部13の内周面と雄軸11の外周面との間に存在する隙間の軸方向後側の端部開口を塞いでいる。
【0039】
本例では、シールリング12は、筒部13の軸方向後側の端部に外嵌固定された、L字形の断面形状を有する円環状の芯金24と、芯金24に固定され、かつ、先端部を雄軸11の軸方向中間部の外周面に全周にわたり摺接させたシール材25とを備える。シール材25の先端部と雄軸11の軸方向中間部の外周面との間には、潤滑用のグリースが塗布されている。
【0040】
本例では、雌軸10のうち、パネル17よりも後側、より具体的にはパネル17およびホールカバー19よりも後側に位置する部分、雄軸11、およびシールリング12が、車室内15に配置される。雌軸10のうち、パネル17よりも前側、より具体的には、パネル17およびホールカバー19よりも前側に位置する部分が、車室外16に配置される。
【0041】
本例では、雄軸11は、軸方向孔26および横孔27をさらに有する。
【0042】
軸方向孔26は、雄軸11の径方向中心部において軸方向に伸長し、かつ、雄軸11の軸方向両側の端面のうち、軸方向前側の端面にのみ開口している。
【0043】
本例では、軸方向孔26は、雄軸11の軸方向前側の半部にのみ備えられた、軸方向に伸長する段付円孔により構成されている。すなわち、本例では、軸方向孔26は、軸方向に関する奥側である後側から、軸方向に関する開口側である前側に向けて順番に、内径が最も小さい円孔部である小径孔部30と、小径孔部30よりも内径が大きい円孔部である中径孔部31と、中径孔部31よりも内径が大きい円孔部である大径孔部32とを有する。本発明を実施する場合、雄軸の軸方向孔は、軸方向に関して内径が変化しない円孔により構成することもできる。本例では、雄軸11のうち、軸方向孔26よりも軸方向後側に位置する部分、すなわち軸方向後側の半部は、中実軸により構成されている。
【0044】
横孔27は、雄軸11の外周面のうち、中間シャフト6の使用時において常にシールリング12よりも軸方向後側に位置する部分に開口する外側開口部28と、軸方向孔26の内周面に開口する内側開口部29とを有する。すなわち、本例では、軸方向孔26および横孔27が、雌軸10の内部空間と外部空間である車室内15の空間とを連通する空気の流通経路となることで、中間シャフト6の円滑な伸縮動作を可能としている。
【0045】
本例では、横孔27は、雄軸11のうち、雄軸11の軸方向中間部の外周面と軸方向孔26の軸方向後側の端部である小径孔部30の軸方向後側の端部の内周面との間部分を、径方向に貫通する円孔により構成されている。つまり、横孔27の径方向外側の開口部である外側開口部28は、雄軸11の軸方向中間部の外周面に開口している。横孔27の径方向内側の開口部である内側開口部29は、軸方向孔26の軸方向後側の端部の内周面に開口している。
【0046】
本例では、横孔27の外側開口部28は、中間シャフト6の使用時において常に、シールリング12よりも軸方向後側に位置する。すなわち、本例では、使用時において中間シャフト6が伸縮、すなわち、雌軸10と雄軸11とが軸方向に相対変位した場合でも、横孔27の外側開口部28とシールリング12との間の軸方向の間隔Lが0未満にならないように、換言すれば、横孔27の外側開口部28がシールリング12の径方向内側に進入しないように、雄軸11における横孔27の外側開口部28の軸方向位置を規制している。
【0047】
さらに、本例では、横孔27の外側開口部28は、雄軸11の外周面のうち、中間シャフト6の車両への組み付け作業時においても常にシールリング12よりも軸方向後側に位置する部分に開口している。つまり、本例の中間シャフト6は、車両に組み付ける際に、自身の全長を伸縮、すなわち、雌軸10と雄軸11とを軸方向に相対変位させることで、車両への組み付け作業を容易化することができる。本例では、中間シャフト6の車両への組み付け作業時に、雌軸10と雄軸11とを軸方向に相対変位させる場合でも、横孔27の外側開口部28とシールリング12との間の軸方向の間隔Lが0未満にならないように、雄軸11における横孔27の外側開口部28の軸方向位置を規制している。
【0048】
本例では、横孔27の内径dは、軸方向孔26の内径よりも小さく、より具体的には、軸方向孔26の小径孔部30の内径Dよりも小さい(d<D)。
【0049】
本例の構造を実施する場合、横孔27の内径dを小さくすれば、車室内15を水洗する際に、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込むことを、該水の表面張力によって有効に防止することができる。一方、横孔27の内径dを小さくしすぎると、横孔27の通気性および加工容易性を十分に確保することが難しくなる。したがって、本例の構造を実施する場合には、これらの事情を総合的に勘案して、すなわち、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込むことを、該水の表面張力によって有効に防止でき、かつ、横孔27の通気性および加工容易性を十分に確保できるように、横孔27の内径dを決めるのが好ましい。このような観点から、横孔27の内径dは、たとえば1mm~3mmとすることが好ましく、1.5mm~2.5mmとすることがより好ましい。
【0050】
本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔27は、図3および図4に示すように、雄軸11のうち、上側となる円周方向部分に配置されている。ただし、本発明を実施する場合には、中間シャフトが車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔を、雄軸のうち本例と異なる円周方向部分に配置することもできる。
【0051】
本例の構造によれば、以下の作用効果を奏することができる。
【0052】
雄軸11の軸方向孔26および横孔27が、雌軸10の内部空間と外部空間である車室内15の空間とを連通する空気の流通経路となることで、中間シャフト6の伸縮動作を円滑に行わせることができる。
【0053】
横孔27の外側開口部が、雄軸11の外周面に開口している。すなわち、横孔27の外側開口部28の周囲に、従来構造のような水溜まりとなる部位、具体的には、U字形の断面形状を有するヨークの内側空間のような部位が存在しない。このため、車室内15を水洗する際に、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込みにくい。なお、車室内15の水洗作業は、通常、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で行われる。
【0054】
横孔27の内径dが、軸方向孔26の内径よりも小さく、より具体的には、軸方向孔26の小径孔部30の内径Dよりも小さい(d<D)。このため、横孔27の内径dを十分に小さくすることができ、その結果、車室内15を水洗する際に、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込むことを、該水の表面張力によって有効に防止することができる。なお、仮に、横孔27および軸方向孔26を通じて、外部空間から雌軸10の内部空間に水が入り込んだとしても、横孔27の内径dが小さいために、その量を極めて少なく抑えることができる。また、この際に入り込む水は、雌スプライン部21と雄スプライン部22とのスプライン係合部を通らずに軸方向孔26の前側の開口部から雌軸10の内部空間に移動するため、該スプライン係合部の摺動機能が低下することを防止できる。
【0055】
軸方向孔26は、雄軸11の軸方向両側の端面のうち、軸方向前側の端面にのみ開口している。すなわち、軸方向孔26は、雄軸11の軸方向一部分にしか備えられていない。このため、軸方向孔が雄軸の全長にわたり備えられた従来構造に比べて、軸方向孔の軸方向長さを短くすることができ、その分、軸方向孔の加工を容易化することができる。横孔27は、軸方向長さが短いため、容易に加工することができる。
【0056】
横孔27の外側開口部28が、雄軸11の外周面のうち、中間シャフト6の使用時および車両への組み付け作業時において、常にシールリング12よりも軸方向後側に位置する部分に開口している。このため、中間シャフト6の使用時や車両への組み付け作業時に、横孔27の外側開口部28がシールリング12の径方向内側に進入することを回避できる。これにより、シールリング12のシール材25に塗布されているグリースが横孔27に入り込んで横孔27を塞ぐことを回避できる。
【0057】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図5および図6を用いて説明する。
【0058】
本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態における、雄軸11に備えられた横孔27の円周方向に関する配置の位相が、第1例と異なる。すなわち、本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔27は、図5および図6に示すように、雄軸11のうち、下側となる円周方向部分に配置されている。
【0059】
すなわち、本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔27の外側開口部28が、下側を向いている。したがって、この状態で車室内15(図2参照)を水洗する際に、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込みにくい。さらに、本例では、横孔27の外側開口部28を通じて横孔27の内側に水が入り込んだ場合でも、横孔27の内側に入り込んだ水を、重力の作用により、外側開口部28を通じて外部空間に排出することができる。その他の構成及び作用効果は、第1例と同様である。
【0060】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図7および図8を用いて説明する。
【0061】
本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、雄軸11aの横孔27aは、第1例と同様、図7および図8に示すように、雄軸11aのうち、上側となる円周方向部分に配置されている。ただし、本例では、この状態で、第1例と異なり、横孔27aの中心軸が、水平方向に配置されている。
【0062】
すなわち、本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔27aの外側開口部28が、水平方向前側を向いている。したがって、この状態で車室内15(図2参照)を水洗する際に、横孔27aの外側開口部28を通じて横孔27aの内側に水が入り込みにくい。さらに、本例では、横孔27aの中心軸が水平方向に配置されているため、横孔27aの外側開口部28を通じて横孔27aの内側に水が入り込んだ場合でも、横孔27aの内側に入り込んだ水が、重力の作用により内側開口部29に向けて流れる、すなわち、軸方向孔26に流れ込むといった現象が生じにくい。その他の構成及び作用効果は、第1例と同様である。
【0063】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、図9を用いて説明する。
【0064】
本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、雄軸11bの横孔27bは、第1例と同様、図9に示すように、雄軸11bのうち、上側となる円周方向部分に配置されている。ただし、本例では、この状態で、第1例と異なり、横孔27bの中心軸が、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に配置されている。
【0065】
すなわち、本例では、中間シャフト6が車両へ組み付けられ、かつ、操舵輪に車両の直進時の舵角が付与された状態で、横孔27bの外側開口部28が、上下方向に関して下側を向いている。したがって、この状態で車室内15(図2参照)を水洗する際に、横孔27bの外側開口部28を通じて横孔27bの内側に水が入り込みにくい。さらに、本例では、横孔27bの外側開口部28を通じて横孔27bの内側に水が入り込んだ場合でも、横孔27bの内側に入り込んだ水を、重力の作用により、外側開口部28を通じて外部空間に排出することができる。その他の構成及び作用効果は、第1例と同様である。
【0066】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、図10を用いて説明する。
【0067】
本例では、雄軸11cは、横孔27aを複数備える。より具体的には、雄軸11cは、軸方向に関する配置の位相が異なる複数箇所(図示の例では2箇所)に、横孔27aを備える。
【0068】
本例では、雄軸11cが横孔27aを複数備えている。このため、本例では、雄軸11aが横孔27aを1つしか備えていない第3例(図8参照)の場合に比べて横孔27aの内径を小さくした場合でも、雌軸10の内部空間と外部空間との間の通気性を第3例の場合と同等以上に確保することができる。このように本例では、複数の横孔27aの内径を小さくすることができるため、これらの横孔27aに水が入り込むことをより十分に抑制することができ、かつ、雄軸11cの強度を確保しやすい。
【0069】
本発明を実施する場合には、雄軸が、円周方向に関する配置の位相が異なる複数箇所に横孔を備える構成、あるいは、雄軸が、軸方向に関する配置の位相が異なる複数箇所、および、円周方向に関する配置の位相が異なる複数箇所のそれぞれに、横孔を備える構成を採用することもできる。その他の構成及び作用効果は、第3例と同様である。
【0070】
本発明を実施する場合には、上述した各実施の形態の構造を、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
【0071】
なお、本発明とは異なるが、車両への組み付け状態で、車室内と車室外とを仕切るパネルを挿通し、かつ、前側に向かうにしたがって下側に向かう方向に傾斜するように配置される円筒状の筒部と、該筒部の軸方向後側の端部開口を塞ぐ底部とを有する雌軸と、軸方向後側部分が前記筒部の内側に挿入され、かつ、該軸方向後側部分の外周面が前記筒部の内周面に、直接または他の部材を介してトルク伝達および軸方向の相対変位を可能に係合している雄軸と、前記筒部の軸方向前側の端部に支持され、前記筒部の内周面と前記雄軸の外周面との間に存在する隙間の軸方向前側の端部開口を塞ぐシールリングとを備えた中間シャフトでは、前記雌軸のうち、前記車室内に配置される部分に、該雌軸の内部空間と外部空間である車室内の空間とを連通する孔、すなわち空気の流通経路を設けておけば、当該中間シャフトに円滑な伸縮動作を行わせることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 ステアリング装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
4 ステアリングコラム
5a、5b 自在継手
6 中間シャフト
7 エクステンションシャフト
8 ステアリングギヤユニット
9 ピニオン軸
10 雌軸
11、11a、11b、11c 雄軸
12 シールリング
13 筒部
14 底部
15 車室内
16 車室外
17 パネル
18 貫通孔
19 ホールカバー
20 接続軸部
21 雌スプライン部
22 雄スプライン部
23 ヨーク
24 芯金
25 シール材
26 軸方向孔
27、27a、27b 横孔
28 外側開口部
29 内側開口部
30 小径孔部
31 中径孔部
32 大径孔部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10