(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059476
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】洗浄ノズル及びそれを具備する衛生洗浄装置
(51)【国際特許分類】
E03D 9/08 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
E03D9/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169520
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 佑紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 優子
(72)【発明者】
【氏名】笹部 茂
【テーマコード(参考)】
2D038
【Fターム(参考)】
2D038JA05
2D038JF00
2D038ZA00
(57)【要約】
【課題】本開示は、耐薬品性を確保し、酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜の損傷を防止することができ、清潔感のある美観を保つことができる洗浄ノズルを踏査した衛生洗浄装置を提供する。
【解決手段】本開示に係る洗浄ノズル700は、洗浄水を噴出する噴出開口を有し、待機位置と使用位置との間で移動可能であり、ノズル本体710とその外周を覆う筒状のノズルカバー720とを有し、ノズルカバー720の表面には含フッ素アクリル樹脂を含有している塗膜730が形成されており、ノズルカバー720および塗膜730の間にプライマー層731が挟まれており、プライマー層731は、無色透明または有色透明であり、かつ顔料を含有しない高分子から形成され、かつ塗膜730は有色透明である。
【選択図】
図8A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水を噴出する噴出開口を有し、待機位置と使用位置との間で移動可能な洗浄ノズルであって、
前記洗浄ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の外周を覆う筒状のノズルカバーとを有し、
前記ノズルカバーの表面には、含フッ素アクリル樹脂を含有している塗膜が形成されており、
前記ノズルカバーおよび前記塗膜の間に、プライマー層が挟まれており、
前記プライマー層は、無色透明または有色透明であり、かつ顔料を含有しない高分子から形成され、かつ
前記塗膜は、有色透明である、
洗浄ノズル。
【請求項2】
前記塗膜は、第1膜および第2膜から形成される積層体を具備し、
前記第1膜は、無色透明であり、含フッ素アクリル樹脂を含有しており、かつ顔料を含有せず、
前記第2膜は、有色透明であり、かつ含フッ素アクリル樹脂を含有しており、かつ
前記第1膜および前記プライマー層の間に、前記第2膜が挟まれている、
請求項1に記載の洗浄ノズル。
【請求項3】
前記塗膜は、1層の塗膜から形成される、
請求項1に記載の洗浄ノズル。
【請求項4】
前記第1膜は、含フッ素アクリル樹脂からなり、かつ
前記第2膜は、顔料を含有している含フッ素アクリル樹脂からなる、
請求項2に記載の洗浄ノズル。
【請求項5】
前記1層の塗膜は、顔料を含有している含フッ素アクリル樹脂からなる、
請求項3に記載の洗浄ノズル。
【請求項6】
前記塗膜の膜厚は10μm以上50μm以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項7】
前記塗膜は抗菌剤を含有している、
請求項1~6のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項8】
前記抗菌剤は銀系抗菌剤である、
請求項7に記載の洗浄ノズル。
【請求項9】
前記含フッ素アクリル樹脂に対する前記抗菌剤の重量比が、1.0%以上5.0%以下である、
請求項7または8に記載の洗浄ノズル。
【請求項10】
前記プライマー層は含フッ素アクリル樹脂から形成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項11】
前記プライマー層はポリオレフィン系樹脂から形成されている、
請求項1~9のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項12】
前記含フッ素アクリル樹脂は、化学式-(CR1R2-CR3COOR4)n-により表される重合体からなる、
請求項1~11のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
ここで、
R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基であり、
R4は-Cm1Fm2Hm3により表される有機基であり、
nは2以上の自然数であり、かつ
m1~m3は、それぞれ独立して1以上の自然数である。
【請求項13】
前記含フッ素アクリル樹脂は、化学式-(CR1R2-CR3COOR4)n-により表される重合体を含む共重合体からなる、
請求項1~11のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
ここで、
R1~R3は、それぞれ独立して、水素原子または炭化水素基であり、
R4は-Cm1Fm2Hm3により表される有機基であり、
nは2以上の自然数であり、かつ
m1~m3は、それぞれ独立して1以上の自然数である。
【請求項14】
R1およびR2は水素原子であり、かつ
R3は水素原子またはメチル基である、
請求項13に記載の洗浄ノズル。
【請求項15】
数式:m2+m3=2m1+1が充足される
請求項14に記載の洗浄ノズル。
【請求項16】
前記ノズルカバーの表面が金属光沢を有する、
請求項1~15のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項17】
前記ノズルカバーの表面がステンレスから形成されている、
請求項1~15のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項18】
前記プライマー層は無色透明である、
請求項1~17のいずれか1項に記載の洗浄ノズル。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の洗浄ノズルを具備している衛生洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、洗浄ノズル及びそれを具備する衛生洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、衛生洗浄装置のノズル装置のクリーニングにおいて、ノズルカバーの汚れが除去しやすいノズル装置を開示する。
【0003】
この衛生洗浄装置のノズル装置は、洗浄水を噴出する吐出穴を有する洗浄ノズルを備えている。洗浄ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の外周を覆う筒状のノズルカバーを有している。ノズルカバーの表面は、表面自由エネルギーが40dyne/cm以下の低表面自由エネルギー層から構成される塗膜を有している。この低表面自由エネルギー層はフッ素樹脂で形成されている。具体的には、低表面自由エネルギー層は、PTFE、PFEP、PFA、PCTFE等のフッ素樹脂で形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PTFE系樹脂の塗膜は溶剤に不溶で融点が高い為、焼き付け塗装が必要である。そのため、ステンレス基材にPTFE系樹脂の塗膜を形成する場合、焼成による変色をマスキングする為に着色が必要である。この為、清潔感のあるステンレスの美観を損ねるという課題がある。
【0006】
フッ素樹脂への顔料の添加は耐薬品性を低下させ、トイレ用洗浄薬剤が触れた場合には塗膜が損傷するという課題もある。
【0007】
本開示は、耐薬品性を確保し、酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜の損傷を防止することができる洗浄ノズル及びそれを具備する衛生洗浄装置を提供する。また、本開示は、ノズルカバーの清潔感のある美観を保つことができる洗浄ノズル及びそれを具備する衛生洗浄装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における洗浄ノズルは、洗浄水を噴出する噴出開口を有し、待機位置と使用位置との間で移動可能な洗浄ノズルであって、
前記洗浄ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の外周を覆う筒状のノズルカバーとを有し、
前記ノズルカバーの表面には、含フッ素アクリル樹脂を含有する塗膜が形成されている。
【0009】
ステンレスの美観を保ちつつ密着性のよい着色防汚膜を設けるには、フッ素とアクリル結合を有するフッ素樹脂の塗膜を積層構造にする。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一側面では、フッ素を含有するアクリル重合高分子(すなわち、分子内にフッ素原子を含有するアクリル樹脂、以下、「含フッ素アクリル樹脂」という)の塗膜をノズ
ルカバーの表面に常温で形成する。すなわち、フッ素を含有するアクリレートを重合して、含フッ素アクリル樹脂の塗膜を常温でノズルカバーの表面に形成する。PTFE系樹脂とは異なり、含フッ素アクリル樹脂の塗膜を形成する際には高温で焼き付けする必要が無い。このため、焼成による変色をマスキングする為の顔料を添加することは不要である。従って、ノズルカバーの表面に透明な塗膜を形成することができる。塗膜が透明であるので、ノズルカバーの表面がステンレスから形成されている場合のように、ノズルカバーの表面が金属光沢を有する場合には、ノズルカバーの清潔感のある美観を保つことができる。
【0011】
また、フッ素により耐薬品性(例えば、耐酸性、耐アルカリ性)が向上する。顔料の添加は、フッ素による耐薬品性を低下させるが、本開示では、このような耐薬品性の低下を抑制することができる。したがって、耐薬品性を確保し、酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜の損傷を防止することができる。
【0012】
デザイン性の観点からステンレスの美観を保ちつつ透明着色膜を設けるためには、フッ素とアクリル結合を有するフッ素樹脂の塗膜と、フッ素とアクリル結合を有するフッ素樹脂塗料に着色を施した塗膜を積層構造にすることで耐薬品性の確保が可能である。また、それぞれの層は主成分を同じくするため密着性が良く、使用する塗料は一種のみであるため、コストUPを最小限に抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の第1参考形態における衛生洗浄装置を便器上に設置した状態の外観を示す斜視図
【
図2】第1参考形態における衛生洗浄装置の本体の内部を示す斜視図
【
図3】第1参考形態におけるノズル装置の収納状態を示す斜視図
【
図4】第1参考形態におけるノズル装置のお尻洗浄状態を示す斜視図
【
図5】第1参考形態におけるノズル装置のお尻洗浄状態を示す縦断面図
【
図6】第1参考形態におけるノズル装置の洗浄ノズルのノズルカバーの断面拡大図
【
図7】本開示の第2参考形態におけるノズル装置の洗浄ノズルのノズルカバーの断面拡大図
【
図8A】本開示の実施の形態1におけるノズル装置の洗浄ノズルのノズルカバーの断面拡大図
【
図8B】本開示の実施の形態2におけるノズル装置の洗浄ノズルのノズルカバーの断面拡大図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、背景技術にも記述されているように、ノズルカバーの防汚についてはPTFE系樹脂の摘要が考えられた。但し、PTFE系樹脂は溶剤に不溶で融点が高い為、焼き付け塗装が必要である。焼き付け温度は通常200℃以上で行われる。この為、焼き付け塗装によりノズルカバーにPTFE系樹脂を塗装するとノズルカバーの基材が焼成により変色する。その為、変色をマスキングする為にPTFE系の塗料に顔料を添加してノズルカバーの基材の変色をマスキングしている。近年、ノズルカバーの材料としてはステンレスが用いられている。ステンレスは外観上清潔感があることから、その意匠性を損ねないようにステンレスを被覆する塗膜は透明であることが望まれるという技術課題がある。
【0015】
また、使用者がトワレの掃除を行う時、便器用の酸性あるいはアルカリ性の洗剤が使われる。便器の掃除中にノズル装置の洗浄ノズルが外側に出ていると、誤ってこのような洗剤が洗浄ノズルに付着する可能性がある。PTFE系樹脂の焼き付け塗装では顔料が添加
されていることから、塗膜構造にフッ素が無い部位(すなわち、顔料の部位)が存在する。このため、酸あるいはアルカリがその部位に浸透し、塗膜自体が分解する課題、およびノズルカバーから塗膜が剥離するという課題もある。
【0016】
このような課題に対して、本発明者らは、塗料の材料について評価検討を行った結果、フッ素を含有するアクリル重合高分子(すなわち、含フッ素アクリル樹脂)の塗膜を形成することで、透明性を有すると共に耐薬品性を確保できることを見出した。
【0017】
本開示は、ノズルカバーの清潔感のある美観を保ち、耐薬品性を確保し酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜の損傷を防止することができるノズル装置を提供する。
【0018】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0019】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0020】
(第1参考形態)
以下、
図1~
図6、表1を用いて、第1参考形態を説明する。
【0021】
[1-1.構成]
[1-1-1.衛生洗浄装置100の構成]
図1において、
図1に示すように、本実施の形態の衛生洗浄装置100は、少なくとも本体200と、袖部210と、便座300と、便蓋400などにより構成されている。本実施の形態の衛生洗浄装置100は、便器110の上面110aに設置される。袖部210は、本体200の右側部の後方から前方に突出するように設けられている。袖部210の上面には、操作部211、複数の操作スイッチ212、表示灯213などが設置されている。操作スイッチ212は、衛生洗浄装置100の各機能を操作する。
【0022】
また、
図2に示すように、本体200の内部には、ノズル装置500と、脱臭装置220と、制御部230などが設置されている。ノズル装置500は、本体200の中央部に設置されている。脱臭装置220は、ノズル装置500の左側に配置され、便器110内の臭気を吸引して脱臭する。制御部230は、操作スイッチ212の操作信号に基づいて、衛生洗浄装置100の各機能を制御する。
【0023】
図3は、本実施の形態におけるノズル装置500の収納状態を示す斜視図である。
図3に示すように、ノズル装置500は、少なくとも支持部600と、洗浄ノズル700と、駆動部800と、流調弁900などを具備している。洗浄ノズル700は、支持部600に沿って進退移動する。駆動部800は、洗浄ノズル700を進退方向(すなわち、
図3における前方および後方を指し示す2つの矢印の方向)に移動するように駆動する。流調弁900は、洗浄ノズル700の各流路への洗浄水の供給を切り替える。洗浄水を噴出する噴出開口を有し、待機位置と使用位置との間で移動可能な洗浄ノズル700は、便座300に着座した人の局部を洗浄する人体局部洗浄装置(すなわち、衛生洗浄装置)に具備される。
【0024】
以下、お尻洗浄が行われる場合を説明する、操作部211の操作スイッチ212からお
尻洗浄の操作が行われると、
図4、
図5に示すように、ノズル本体710およびノズルカバー720は、予め設定された制御シーケンスにしたがい、原点状態(すなわち、収納位置)から駆動モータ830の回転数が設定値に達するまで、前方に移動して停止する。つまり、
図5に示すように、お尻洗浄水噴出口711が、ノズルカバー720の噴出開口724と対向した(すなわち、お尻洗浄水噴出口711が噴出開口724と重なりあった)状態となる。この位置が、「お尻洗浄位置」となる。
【0025】
つぎに、ノズル本体710およびノズルカバー720が「お尻洗浄位置」に配置された状態で、制御部230は、止水電磁弁243と流調弁900を制御して、お尻洗浄流路714に洗浄水を通水して、お尻洗浄を開始する。そして、お尻洗浄水噴出口711から噴出した洗浄水は、ノズルカバー720の噴出開口724に接触せずに通過して、上方に噴射される。
【0026】
お尻洗浄の停止を操作すると、制御部230は、止水電磁弁243と流調弁900を制御して洗浄水の供給を停止する。そして、制御部230は、駆動部800のモータを逆回転させて、ノズル本体710およびノズルカバー720を後方へ移動させ、
図3に示す元の「収納位置」に戻す。
【0027】
[1-1-2.ノズル装置のノズルカバーの構成]
図6において、洗浄ノズル700のノズルカバー720には、ノズルカバー720の防汚を目的とした塗膜730が形成されている。言い換えれば、ノズルカバー720の外面には、塗膜730が形成されている。望ましくは、ノズルカバー720の外周面に塗膜730が形成されている。望ましくは、ノズルカバー720の先端に塗膜730が形成されている。後に詳細に説明されるように、塗膜730は、含フッ素アクリル樹脂を含有する。望ましくは、塗膜730は、含フッ素アクリル樹脂から形成されている。より望ましくは、塗膜730は、含フッ素アクリル樹脂からなる。
【0028】
また、ノズルカバー720はステンレスの材料である。本実施の形態ではSUS304を用いている。望ましくは、ノズルカバー720の外周面はステンレスから形成されている。言い換えれば、望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の外周面に、含フッ素アクリル樹脂を含有する塗膜730が形成されている。より望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の外周面に、含フッ素アクリル樹脂から形成されている塗膜730が形成されている。さらにより望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の外周面に、含フッ素アクリル樹脂からなる塗膜730が形成されている。
【0029】
同様に、望ましくは、ノズルカバー720の先端はステンレスから形成されている。言い換えれば、望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の先端に、含フッ素アクリル樹脂を含有する塗膜730が形成されている。より望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の先端に、含フッ素アクリル樹脂から形成されている塗膜730が形成されている。さらにより望ましくは、ステンレスから形成されているノズルカバー720の先端に、含フッ素アクリル樹脂からなる塗膜730が形成されている。
【0030】
含フッ素アクリル樹脂は、化学式-(CR1R2-CR3COOR4)n-(ここで、R1~R3は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基であり、R4は-Cm1Fm2Hm3により表される有機基であり、nは2以上の自然数であり、かつm1~m3は、それぞれ独立して1以上の自然数である)により表される高分子(すなわち、重合体)を含むことが望ましい。後述されるように、当該高分子からなる重合体だけでなく、当該高分子を含む共重合体もまた、用語「含フッ素アクリル樹脂」の概念に包含される。より望
ましくは、R1およびR2は水素原子であり、かつR3は水素原子またはメチル基である。より望ましくは、数式:m2+m3=2m1+1が充足される。
【0031】
以上の説明のように、本実施の形態では、ノズルカバー720の表面は、ステンレスから形成されている層(以下、ステンレス層という)および含フッ素アクリル樹脂を含有する塗膜730(望ましくは、含フッ素アクリル樹脂から形成されている塗膜730、より望ましくは含フッ素アクリル樹脂からなる塗膜730)の積層構造から構成されている。塗膜730は、ノズルカバー720の最外面に位置する。
【0032】
ノズルカバー720の表面を、塗膜730との密着性を向上させる為に研磨あるいはブラスト処理して、当該表面を粗してもよい。
【0033】
[1-2.ノズルカバーへの塗膜の形成方法]
次に、ノズルカバー720への塗膜730の形成方法について説明する。塗膜730の塗料には、含フッ素アクリレートが、アクリル重合高分子の樹脂の主原料として含まれている。そして、塗料は、この主原料(すなわち、含フッ素アクリレート)以外にフッ素系の溶媒を含有する。望ましくは、含フッ素アクリレートは、化学式(CR1R2=CR3COOR4)により表されるモノマーである。当該モノマーが重合して含フッ素アクリル樹脂に変化する。
【0034】
以下、ノズルカバー720への塗膜730の形成方法について、より詳細に説明する。
【0035】
まず、ノズルカバー720の表面を、イソプロピルアルコール、アセトン、ヘキサン等の有機溶剤で洗浄し脱脂する。そして脱脂後に加熱乾燥する。
【0036】
ノズルカバー720の加熱乾燥後に塗膜730の塗料を塗布する。ここで、塗布の方法の一例として、塗料の浴槽にノズルカバー720を浸漬して引き上げるディッピング法がある。あるいは、塗布の方法の他の一例として、スプレー噴霧して塗布するスプレー吹き付け法がある。
【0037】
ディッピング法では、浸漬してから引き上げる引上げ速度で塗膜730の膜厚を調整することができる。スプレー吹き付け法については、噴霧量、対象物までの距離で塗膜730の膜厚を調整することができる。ここで、ディッピング法に比べてスプレー吹き付け法では、消費する塗料量が多くなるが、ノズルカバー720に対する塗膜730の密着性が高い。スプレー吹き付け法では、噴霧した塗料がノズルカバー720に付着する間に塗料中の溶媒が揮発する為、付着した時点で溶剤分がディッピングよりも少なくなる。これにより、塗膜形成時の収縮が少なく内部応力が小さくなることにより密着性は高くなる。塗膜730の塗料中の溶媒の塗料に対する重量比は50%以上95%以下である。
【0038】
ノズルカバー720に塗料を塗布した後乾燥させる。乾燥は常温で1~2日間放置することで、塗料中の溶剤成分(すなわち、溶媒)は揮発し、含フッ素アクリレートが重合する。このようにして、フッ素を含有するアクリル重合高分子の樹脂(すなわち、含フッ素アクリル樹脂)として塗膜730を形成する。乾燥は50~120℃の加熱で10分以上1時間以下の短時間で行ってもよい。ただし、塗膜730の膜厚が厚くなると加熱乾燥では塗膜730中の溶剤が揮発し気泡が発生する場合がある。したがって、形成する塗膜730の膜厚によって乾燥条件を決めることが望ましい。
【0039】
乾燥後の塗膜730はアクリル樹脂から形成される為、無色透明である。また、乾燥温度も120℃以下の低温であることから基材(すなわち、ノズルカバー720の基材)のステンレスの変色も無く美観を損ねることはない。
【0040】
[1-3.効果]
次に、塗膜730を形成したノズルカバー720について各種特性を評価した結果について説明する。表1にノズルカバーの特性評価結果を示す。
【0041】
【0042】
表1で接触角、転落角は水についての特性を示している。
【0043】
(模擬汚れ付着率について)
模擬汚れの付着評価について以下説明する。
【0044】
トワレ(すなわち、衛生洗浄装置100)のノズル装置500のノズルカバー720の汚れを調べた結果、汚れ中にカビが確認された。このカビの栄養源としては便が考えられた。そこで、模擬汚れとしてタンパク質、脂質、炭水化物、食塩の混合物を水で希釈して模擬汚れを作製した。この模擬汚れに塗膜730を形成したノズルカバー720をディッピング装置により浸漬して一定速度で引き上げた後の汚れ付着量を測定した。塗膜730を形成していないノズルカバー720についても同様に付着量を測定した。そして、塗膜730の形成無しの場合の付着量(すなわち、付着物の重量)に対する塗膜730の形成有りの場合の付着量を模擬汚れ付着率として算出した。
【0045】
(耐酸性及び耐アルカリ性について)
次に、耐酸性及び耐アルカリ性の評価について説明する。トワレの便器用の洗剤として塩酸を主成分とする酸性洗剤または水酸化ナトリウム、次亜塩素酸塩を主成分とするアルカリ性洗剤が用いられる。
【0046】
使用者がトワレを掃除する時、この洗剤を用いて便器を掃除すると共にノズルカバー720も
図4に示した状態で引き出された状態で洗浄すると、誤ってノズルカバー720にこのような洗剤が付着する可能性がある。
【0047】
このような事を想定し、塗膜730の耐酸性、耐アルカリ性の試験を実施した。
【0048】
塗膜730の耐酸性、耐アルカリ性の試験方法について説明する。市販の酸性洗剤(商品名「サンポール」(登録商標))、アルカリ性洗剤(商品名「ドメスト」(登録商標))を数十倍に希釈した水溶液を布に含侵させた。布は木綿から構成されていた。この含侵
させた布をノズルカバー720に巻き付け、この試験サンプルを乾燥しないように密閉容器に入れ常温で10日間放置した。10日後の試験サンプルの表面を水で洗い流して洗浄し外観状態を観察した。
【0049】
外観状態が特に変化なしであった場合には「〇」と評価した。
【0050】
一方、外観状態が塗膜の剥離や部分的な変色があった場合には「×」と評価した。
【0051】
表1には、本参考例以外に比較例として他の材料から構成された塗膜を形成したノズルカバーについての試験結果も示す。
【0052】
表1から、比較例1-6、比較例1-7のシリコン系、シリカガラス系の塗膜は無色透明で、模擬汚れの付着率も小さく良好であるが、耐酸性試験で塗膜の損傷および剥離が認められた。また、耐アルカリ性試験においても同様の劣化が認められた。特にアルカリに対してシリカはケイ酸ナトリウムとなって溶出し易いという問題がある。
【0053】
一方、フッ素系の塗膜として比較例1-5に示す単分子膜がある。比較例1-5では、塗膜(すなわち、単分子膜)は無色透明で模擬汚れの付着率も小さく良好であるが、耐酸性試験で塗膜(すなわち、単分子膜)の損傷および剥離が認められた。単分子膜は基材に対して垂直方向に炭素が結合して形成された炭素鎖を有し、当該炭素鎖の末端に耐酸、耐アルカリの高いフッ素原子が結合している。比較例1-5では、単分子膜はフッ素原子を含有するが、夫々の分子同士が結合しておらず(すなわち、高分子を形成しておらず)、塗膜(すなわち、単分子膜)の膜厚もナノメーターオーダーであるので、酸、アルカリに対する耐性が低いという問題がある。
【0054】
比較例1-2のPTFE(すなわち、ポリテトラフルオロエチレン)、比較例1-3のFEP(すなわち、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、比較例1-4のPFA(すなわち、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)はパーフルオロ系のフッ素高分子の塗膜である。これらにおいては、高分子の骨格を形成する炭化水素の水素原子全てがフッ素原子に置き換わっている為、比較例1-2のPTFE以外は耐酸、耐アルカリ性の試験結果は良好であった。但し、これらのポリマーは無極性である為、溶剤には溶けにくい為、ノズルカバー720に塗膜を形成する為に250℃の高温で焼き付けする必要がある。このような高温で焼き付けする為、ノズルカバー720のステンレスは変色する。この為、塗料には顔料を添加して着色し基材の変色をマスキングする必要がある。添加する顔料の種類、添加量によっては、フッ素が無い部位(すなわち、顔料の部位)に酸、アルカリが浸透して塗膜を損傷する。比較例1-2のPTFEにおいて耐アルカリ性試験での塗膜の劣化はこのようなことが原因と考えられる。
【0055】
比較例1-1のフルオロエチレン-ビニルエーテル重合体が用いられた場合では、常温硬化で塗膜を形成することができ、塗膜は無色透明である。しかし、接触角が100°以下と小さく転落角も80°以上であった。その為、模擬汚れ付着率が99%と大きく防汚性に問題があった。
【0056】
比較例1-1~比較例1-5のフッ素系樹脂に対して、参考例1-1の含フッ素アクリレートを主原料としたアクリル重合高分子の樹脂(すなわち、含フッ素アクリル樹脂)は、150℃以下の低温で含フッ素アクリレートが重合し硬化することにより形成されたので、ノズルカバー720の基材のステンレスの変色が無く、無色透明であった。また、接触角は100°以上の撥水性があるが、転落角が64°と大きかった。模擬汚れ付着率は小さく良好であった。耐酸、耐アルカリ試験についても試験後の塗膜の外観変化は無く良
好であった。参考例1-1において用いられた塗料は含フッ素アクリレート以外に不飽和結合を含有している他のモノマーを含有していたことから、溶媒が70%(重量比)でモノマー成分(すなわち、含フッ素アクリレートおよび他のモノマー)を30%(重量比)含有しており粘度が高い為、塗膜730を比較的厚く形成できた。塗膜730の厚みは塗料の塗布方法および条件にも依存するが、一例として、参考例1-1では、塗膜730は、40マイクロメートル以上60マイクロメートル以下の厚みを有する。この為、フッ素を含有し、比較的厚みのある塗膜730により、耐薬品性を確保することができた。
【0057】
参考例1-1のように、塗料が含フッ素アクリレート以外に不飽和結合を含有している他のモノマーを含有する場合、塗膜730は、含フッ素アクリレートおよび当該他のモノマーの共重合体であり得る。本明細書では、このような共重合体もまた、用語「含フッ素アクリル樹脂」に包含される。
【0058】
参考例1-2では、アクリル重合高分子の樹脂の原料が含フッ素アクリレートのみで構成されていた。これについても150℃以下の低温で重合し硬化するので、ノズルカバー720の基材のステンレスの変色が無く無色透明であった。また、接触角は100°以上の撥水性があり転落角も46°と小さく良好であった。模擬汚れ付着率も11%と小さく防汚特性は良好であった。耐酸、耐アルカリ試験についても試験後の塗膜の外観変化は無く良好であった。さらに、別途実施した塩水噴霧試験においても試験後の塗膜の外観変化は無かった。このことから、参考例1-2ではさらに便に含まれる塩分に対しても耐性を向上する効果があった。参考例1-2の塗料は含フッ素アクリレートのみで構成されていることから、溶媒が90%(重量比)でモノマー成分(すなわち、含フッ素アクリレート)が10%(重量比)であり粘度が参考例1-1よりも小さい。この為、塗膜730は参考例1-1よりも薄く形成される。塗膜730の厚みは塗料の塗布方法および条件にも依存するが、一例として、参考例1-2では、塗膜730は、10マイクロメートル以上30マイクロメートル以下の厚みを有する。但し、参考例1-2はアクリル重合高分子の樹脂の原料が含フッ素アクリレートのみで構成されているので、重合した高分子には参考例1-1に比べてフッ素原子が緻密に存在する。これにより、薄膜でも耐薬品性を確保し、さらに耐塩水性を向上することができる。
【0059】
参考例1-1では、塗料の粘度が高い為、塗布方法としてはディッピング法が適切である。参考例1-2については塗料の粘度が低いことから、ディッピング法あるいはスプレー吹き付けが可能である。スプレー吹き付けでは、前述したようにノズルカバー720の基材のステンレスとの密着性を向上することができる。
【0060】
尚、塗膜730の膜厚については、ディッピング法の場合は引き上げ速度で、スプレー吹き付けの場合は吹き付けスプレーの噴霧量および距離で調整する。耐薬品性を確保する為には、試験結果から膜厚は10μm以上が必要であり15μm以上が望ましい。但し厚すぎると塗膜の割れが生じる為50μm以下にすることが必要であり30μm以下が望ましい。
【0061】
また、塗膜730には抗菌剤を含有させて抗菌作用を付与させてもよい。本参考例の塗料に銀系抗菌剤を含フッ素アクリレートに対して1.0%(重量比)添加した後、ステンレス基材に塗膜を形成し、この試験サンプルについてJISZ2801に基づいた抗菌試験を実施した結果、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対して抗菌活性値2.0の抗菌効果が認められた。ここで、抗菌剤の添加量としては抗菌効果を得るためには、樹脂(すなわち、塗膜730に含まれる含フッ素アクリル樹脂)に対する抗菌剤の重量比は、1.0%以上必要であるが、防汚特性及び耐薬品性を維持する為には、当該重量比は、1.0%以上5.0%以下が望ましい。上記の通り、重量比は、抗菌剤の重さを塗膜730に含まれる含フッ素アクリル樹脂により除して得られる値である。本参考例では抗菌剤は銀系抗菌剤を
用いたが、他の抗菌作用のある亜鉛、銅系等の抗菌剤を用いてもよい。但し、これらの抗菌剤に比べ銀系は少量で抗菌作用があるので、防汚特性及び耐薬性の効果を両立する為には銀系抗菌剤を用いるのが望ましい。
【0062】
[1-4.まとめ]
以上のように、本実施の形態において、洗浄ノズル700は、お尻洗浄水噴出口711と、ノズル本体710と、ノズル本体710の外周を覆う筒状のノズルカバー720を備える。ノズルカバー720の表面には含フッ素アクリレートを主原料として重合した含フッ素アクリル樹脂を含有している塗膜730を形成する。
【0063】
これにより、常温で塗膜730を形成できるので、透明性を有し、ノズルカバー720の美観を保つことができる。また、塗膜730は、フッ素を含有した高分子を3次元方向に重合した樹脂の塗膜であり、塗料中に含フッ素アクリレートを多く含有させることができる。その結果、厚い塗膜730を形成することができるので、耐薬品性が確保される。その結果、酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜730の損傷を防止することができる。
【0064】
参考例1-2のように、ノズルカバー720の表面に含フッ素アクリレートのみを原料として重合したアクリル樹脂からなる塗膜730を形成してもよい。この場合、塗料中に含有できる含フッ素アクリレートは少ないために塗膜730は薄膜であるが、塗膜730は含フッ素アクリル樹脂のみで構成されているので、フッ素原子が緻密に存在する。これにより、薄膜でも耐薬品性を確保し、さらに耐塩水性を向上することができる。また、塗料の粘度が小さいので、塗布方法もディッピング法あるいはスプレー吹き付け等多様な塗布方法が可能である。
【0065】
塗膜730の膜厚は10μm以上50μm以下としてもよい。10μm以上の膜厚に形成することで、酸あるいはアルカリの薬剤が浸透してノズルカバー720と塗膜730の界面に到達することを抑制することにより、塗膜730が剥離したり、ノズルカバー720の基材の腐食を防止する。50μm以下の膜厚とすることで塗膜730の割れを防止する。
【0066】
塗膜730には抗菌剤を含有してもよい。抗菌剤の抗菌性により、ノズルカバー720の表面にカビが繁殖することを抑制しさらに防汚性を向上することができる。
【0067】
抗菌剤は銀系抗菌剤としてもよい。これにより、少量の抗菌剤で抗菌作用があるので、抗菌剤添加による塗膜の透明性の低下を軽減し、防汚特性及び耐薬性の効果を両立することができる。
【0068】
抗菌剤は含フッ素アクリル樹脂に対して1.0%以上5.0%以下の重量比で含有してもよい。すなわち、樹脂(すなわち、塗膜730に含まれる含フッ素アクリル樹脂)に対する抗菌剤の重量比が1.0%以上5.0%以下であることが望ましい。これにより、抗菌剤添加による塗膜の透明性の低下をさらに軽減し、防汚特性及び耐薬性の効果を両立することができる。
【0069】
(第2参考形態)
以下、
図7を用いて、第2参考形態を説明する。
【0070】
衛生洗浄装置100、ノズル装置500、洗浄ノズル700の構成については第1参考形態と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0071】
[2-1.ノズル装置のノズルカバー720の構成]
図7において、洗浄ノズル700のノズルカバー720の表面にプライマー層731が形成されている。そして、プライマー層731上に塗膜730が形成されている。表2に、このプライマー層731の材料について、各種材料のステンレス基材との密着性を確認した結果を示す。
【0072】
プライマー層731は、フッ素原子を含まない高分子から形成される。プライマー層731は、フッ素原子を含まない高分子から形成されるので、含フッ素アクリル樹脂を含有している塗膜730とノズルカバー720との密着性を向上させることができる。
【0073】
表2は、プライマー層731を形成した後に塗膜730を形成したサンプルと、プライマー層731を形成せずにステンレス基材に事前処理(すなわち、イソプロピルアルコールによる溶剤脱脂処理)した後に塗膜730を形成したサンプルについての密着性試験結果を示している。
【0074】
【0075】
(密着性試験)
各処理仕様について、常温乾燥したサンプル(表2において「熱処理:なし」)と100℃で加熱したサンプル(表2において「熱処理:あり」)について密着性試験を実施した。一次テープ剥離試験では、乾燥後に塗膜730にセロテープ(登録商標)を粘着させ、次いで当該セロテープ(登録商標)を剥離することにより、塗膜730の剥離を確認した。次いで、98℃の沸騰水中に浸漬した後の塗膜730の状態を観察した。さらに、再度、テープ剥離試験を実施し(以下、当該テープ剥離試験を「二次テープ剥離試験」という)、塗膜730の剥離を確認した。
【0076】
表2から、各種プライマー材料の中でもオレフィン系の材料が、プライマー層731を形成しなかった仕様(すなわち、上記の事前処理した仕様)または他の材料から形成されるプライマー層731に比べ、剥離および熱影響が無く、ステンレス材と塗膜730との間の密着性に優れることを見出した。
【0077】
このプライマー層731は、ディッピングまたはスプレー吹き付けにより塗布し乾燥させることでノズルカバー720の表面に形成される。そして、このプライマー層731の上に塗膜730を形成する。塗膜730の形成法については第1参考形態と同様の方法が適用可能である。
【0078】
[2-2.効果]
プライマー層731上に塗膜730を形成したノズルカバー720について、第1参考形態と同様に防汚特性を評価した結果、模擬汚れの付着率は低く良好であった。また、耐酸、耐アルカリ試験を実施した結果、塗膜730の外観変化は認められず良好であった。
【0079】
また、使用者がノズルカバー720を掃除することを想定し、弱アルカリ性洗剤に漬した布をノズルカバー720に一定荷重で当てながら塗膜730上を往復摩擦する摩耗試験を実施した。この摩耗試験の結果、プライマー層731を形成した塗膜730がノズルカバー720から剥離することは認められなかった。このように、プライマー層731により密着性が向上した。プライマー層731のポリオレフィン構造がフッ素原子を含有しないので、プライマー層731は、ノズルカバー720と塗膜730との間の密着性を向上することができる。
【0080】
[2-3.まとめ]
以上のように、第2参考形態においては、洗浄ノズル700のノズルカバー720の表面にプライマー層731を形成し、プライマー層731の上に塗膜730を形成する。プライマー層731がフッ素を含有しない樹脂である為、ノズルカバー720との密着性を向上することができる。
【0081】
望ましくは、プライマー層731はポリオレフィン系樹脂である。ポリオレフィン系樹脂により、ノズルカバー720のステンレス基材と塗膜730との密着性をさらに向上することができる。
(ポリオレフィンの中でも、好ましい材料があれば記述願います。例:ポリエチレン)
【0082】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【0083】
(実施の形態1)
以下、
図8Aを用いて、実施の形態1を説明する。
【0084】
衛生洗浄装置100、ノズル装置500、洗浄ノズル700の構成については第1参考形態と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0085】
[3-1.ノズル装置のノズルカバー720の構成]
図8において、洗浄ノズル700のノズルカバー720の表面に塗膜730が形成されている。ノズルカバー720および塗膜730の間に、プライマー層731が形成されいる。
【0086】
プライマー層731は無色透明または有色透明である。ノズルカバー720の表面の美観の観点から、プライマー層731は無色透明であることが望ましい。
【0087】
プライマー層731は顔料を含有しない。第2参考形態において説明されたように、プライマー層731はノズルカバー720および塗膜730の間の密着性を向上させるが、顔料は当該密着性を低下させる原因となる。
【0088】
塗膜730は有色透明である。そのため、ノズルカバー720の表面に透明着色膜を形成することができる。
【0089】
実施の形態1では、
図8Aに示されるように、塗膜730は第1膜739および第2膜732を具備する。言い換えれば、実施の形態1では、塗膜730は積層体を具備し、当該積層体は第1膜739および第2膜732から形成される。
【0090】
第1膜739は無色透明である一方、第2膜732は有色透明である。第1膜739および第2膜732は、両方とも、含フッ素アクリル樹脂を含有しているため、第1膜739および第2膜732の密着性は高い。密着性の向上の観点から、第1膜739および第2膜732は、両方とも、含フッ素アクリル樹脂からなることが望ましい。
【0091】
第1膜739は無色透明であるため、第1膜739は顔料を含有しない。一方、第2膜732は有色透明であるため、第2膜732は顔料を含有することが望ましい。
【0092】
プライマー層731および第2膜732は、両方とも、高分子から形成されるため、プライマー層731および第2膜732は互いへの密着性を有する。プライマー層731が、含フッ素アクリル樹脂を含有している、あるいは含フッ素アクリル樹脂からなる場合には、プライマー層731および第2膜732との間に密着性が向上する。
【0093】
表3に、この積層膜とステンレス基材との密着性を確認した結果を示す。
【0094】
【0095】
[3-2.効果]
次に、各種特性を評価した結果について説明する。
【0096】
表3は、プライマー層731を形成した後に第2膜732および第1膜739を形成したサンプルと、プライマー層731を形成せずにステンレス基材に第2膜732のみを形成したサンプルについての密着性試験および耐薬品試験の結果を示している。
【0097】
(密着性試験)
プライマー層731を形成せずにステンレス基材に第2膜732のみを形成したサンプルと、プライマー層731を形成した後に第2膜732および第1膜739を形成したサンプルについて、密着性試験を実施した。テープ剥離試験では、乾燥後に第1膜739の表面にセロテープ(登録商標)を粘着させ、次いで当該セロテープ(登録商標)を剥離することにより、第1膜739の表面の剥離を観察した。
【0098】
表3から、プライマー層731を形成した後に第2膜732および第1膜739を形成することで、剥離を防ぎ、ステンレス材との密着性を損なわずに第2膜732を設けることが可能であることを見出した。
【0099】
(耐薬品試験)
プライマー層731を形成せずにステンレス基材に第2膜732のみを形成したサンプルと、プライマー層731を形成した後に第2膜732および第1膜739を形成したサンプルについて、第1参考形態と同様に耐酸、耐アルカリ試験を実施した。
【0100】
表3から、プライマー層731を形成した後に第2膜732および第1膜739を形成することで、プライマー層731を形成せずにステンレス基材に第2膜732のみを形成した場合よりも、薬品の影響が無く、耐薬品性を損なわずに第2膜732を設けることが可能であることを見出した。
【0101】
プライマー層731、第2膜732、および第1膜739の形成方法は、第1参考形態と同様の方法であってもよい。
【0102】
[3-3.まとめ]
以上のように、実施の形態1においては、洗浄ノズル700のノズルカバー720の表面にプライマー層731を形成し、プライマー層731上に第2膜732を形成し、さらに第2膜732上に第1膜739を形成する。ノズルカバー720の表面に形成したプライマー層731が第2膜732およびノズルカバー720の表面の間の密着性を確保するため、第2膜732が剥離せず、かつノズルカバー720の表面に有色透明の第2膜732を設けることができる。
【0103】
(実施の形態2)
以下、
図8Bを用いて、実施の形態2を説明する。
【0104】
実施の形態2が第1実施形態と相違する点は、塗膜730が積層体を具備せず、1層の塗膜730から形成されることである。1層の塗膜730は、層方向に均一な成分からなることが望ましい。1層の塗膜730は、含フッ素アクリル樹脂からなることが望ましい。すなわち、1層の塗膜730は、層方向に均一な含フッ素アクリル樹脂からなることが望ましい。
【0105】
実施の形態1の場合と同様に、実施の形態2においても、塗膜730は有色透明である。したがって、実施の形態2においては、1層の塗膜730は、顔料を含有する。すなわち、1層の塗膜730は、層方向に均一に顔料を含有する含フッ素アクリル樹脂からなることが望ましい。
【0106】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本開示は、耐薬品性を確保し、酸性またはアルカリ性の洗剤が触れた場合でも塗膜の損傷を防止することができる。また、無色透明で洗浄ノズルの清潔感のある美観を保つことができるので、トワレ用の衛生洗浄装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
100 衛生洗浄装置
110 便器
200 本体
210 袖部
211 操作部
212 操作スイッチ
213 表示灯
220 脱臭装置
230 制御部
243 止水電磁弁
300 便座
500 ノズル装置
600 支持部
700 洗浄ノズル
710 ノズル本体
711 お尻洗浄水噴出口
714 お尻洗浄流路
724 噴出開口
720 ノズルカバー
730 塗膜
731 プライマー層
732 第2膜
739 第1膜
800 駆動部
900 流調弁