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  • 特開-ドリル 図1
  • 特開-ドリル 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059518
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20230420BHJP
【FI】
B23B51/00 S
B23B51/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169578
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100192614
【弁理士】
【氏名又は名称】梅本 幸作
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】重田 将
(72)【発明者】
【氏名】北森 一範
(72)【発明者】
【氏名】野城 淳一
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA09
3C037BB01
3C037DD01
(57)【要約】
【課題】小径ドリルの切れ刃の耐欠損性を向上させると同時に、工具剛性と切りくず排出性を両立させたドリルを提供する。
【解決手段】二以上の切れ刃1,2を有して、直径φD0が0.5mm以上1.1mm未満の範囲であり、溝長L0が直径φD0の5倍以上12倍以下の範囲であるドリル10において、ドリル10の先端角α0は118°以上122°以下の範囲であり、ドリル10の心厚φD1は前記直径φD0の0.29倍以上0.38倍以下の範囲とする。また、切れ刃1,2には、6μm以上10μm以下の範囲でR面取り加工を施す。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二以上の切れ刃を有して、直径が0.5mm以上1.1mm未満の範囲であり、溝長が前記直径の5倍以上12倍以下の範囲であるドリルにおいて、前記ドリルの先端角は118°以上122°以下の範囲であり、前記ドリルのウエブの厚さである心厚は前記直径の0.29倍以上0.38倍以下の範囲であって、前記心厚が前記ドリルの先端部から後端部にかけて一定であることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記切れ刃には、6μm以上10μm以下の範囲でR面取り加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載のドリル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直径が1.1mm未満であって、かつ溝長が直径の5倍以上であるドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品への深孔加工時において、ドリルの溝長がドリルの直径(ドリル径)の5倍以上であるドリル(またはロングドリル)が使用されている。特に、ドリルの直径が1mm以下であるドリル(または小径ドリル)はIC基板の深孔加工に多用されている。
【0003】
これらのドリルは、ドリル先端部の心厚(ウエブの厚さ)をテーパ状に細くしたドリルやマージン幅を所定の寸法値にしたドリルなどによって、切削加工時における曲げによるドリル折損防止を図っている(特許文献1ないし4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭62-178011号公報
【特許文献2】特開平6―344212号公報
【特許文献3】特開2006-55915号公報
【特許文献4】特開2008-296300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ドリルの直径が1.1mm未満の小径ドリルでは、切れ刃が薄肉であるため、送りを上げて加工すると、切れ刃が欠損して突発折損する問題点があった。同時に、小径ドリルの剛性を上げるために心厚を大きくすると、SUS304などの切りくずが伸びやすい被削材を加工したときに、ステップ加工をしているにも関わらず、切りくずポケットが小さいために切りくずが詰まって折損するという問題点もあった。
【0006】
そこで、本発明は小径ドリルの切れ刃の耐欠損性を向上させると同時に、小径ドリルの課題であった剛性と切りくず排出性を両立させたドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のドリルは、二以上の切れ刃を有しており、直径が0.5mm以上1.1mm未満の範囲であり、溝長が直径の5倍以上12倍以下の範囲であるドリルにおいて、先端角を118°以上122°以下として、心厚を直径の0.29倍以上0.38倍以下の範囲とする。また、切れ刃には6μm以上10μm以下の範囲でR面取り加工を施すドリルとした。
【0008】
すなわち、小径ドリルの問題点であった剛性と切りくず排出性の両立を心厚量の最適化で問題解決し、切れ刃の欠損しやすさを切れ刃のR面取り加工量で解決することができた。
【発明の効果】
【0009】
本発明のドリルは、ドリル径が1mm以下の範囲であって、かつ溝長さがドリル直径の5倍以上であるにも関わらず、切れ刃の耐欠損性、工具の剛性および切りくず排出性を両立するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のドリル10の正面図である
図2】本発明のドリル10の左側面図である
図3】本発明のドリル10の斜視図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のドリルの一実施形態について図面を用いて説明する。本発明の一実施形態であるドリル10の正面図を図1、左側面図(先端側からの正面図に相当)を図2、斜視図を図3にそれぞれ示す。本発明のドリル10は、図1ないし図3に示す様に2枚の切れ刃1,2と、それらの切れ刃1,2の回転方向に隣接する溝(ねじれ溝)5,6と、切れ刃1,2の反回転方向に隣接する逃げ面3,4と、を有している。2条の溝(ねじれ溝)5,6は、切れ刃1,2側からシャンク20側に向けて軸方向に形成されており、ねじれ溝5,6の長さである溝長L0は、ドリル10の直径φD0の5倍以上12倍以下の範囲とする。
【0012】
また、ドリル10の先端角α0は118°以上122°以下の範囲であり、ドリル10の心厚φD1は直径φD0の0.29倍以上0.38倍以下の範囲とする。なお、ドリル10の直径φD0は0.5mm以上1.1mm未満の範囲とする。
【実施例0013】
(実施例1)
ドリルの心厚を変えた複数水準の試験用ドリルを準備して、それらの試験用ドリルを使用して切削加工(穴あけ加工)試験(以下、本試験という)を行うことで、ドリルの心厚に関する使用寿命に至るまでの総加工穴数への影響を確認した。本試験で使用した試験用ドリルは、直径(ドリル径)0.5mm、溝長さ6mm、全長47mm、シャンク径3mm、先端角120°を共通の仕様とした。
【0014】
試験用ドリルの心厚については、0.12mm(ドリル径0.5mmの24%相当)、0.16mm(ドリル径0.5mmの32%相当)および0.20mm(ドリル径0.5mmの40%相当)の3水準のドリルを使用した。また、これら3水準の各ドリルにおいて、ドリルの先端中心部にシンニング加工を施したシンニング面があるドリルと、シンニング加工を施さないシンニング面の無いドリルの2種類のドリルも準備した。
【0015】
本試験は、以下の切削加工条件で行った。
・被削材:S50C(炭素鋼:180HB)
・切削速度:20m/min
・回転数:12750min-1
・送り速度:380mm/min
・送り量:0.03mm/rev
・ステップ量:0.1mm
・穴深さ:5mm(止り穴)
・切削油剤:水溶性切削油剤
・使用機械:立形MC(工作機械)
本試験の結果を3水準の心厚およびシンニング面の有無(2水準)の計6種類の結果に分けて表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
本試験の結果は、表1に示すように心厚が0.16mm(ドリル径0.5mmの32%相当)のドリルは、心厚が0.12mm(ドリル径0.5mmの24%相当)のドリルに対して総加工穴数は増加した。一方、心厚が0.12mmのドリルおよび心厚が0.16mmのドリルは、共にシンニング面の有無による総加工数に大差は見られなかった。
【0018】
また、心厚が0.20mm(ドリル径0.5mmの40%相当)のドリルでは、シンニング面が有るドリルよりもシンニング面の無いドリルの方が総加工穴数は増加した。一方、シンニング面の有る心厚が0.20mmのドリルは、心厚が0.16mmのドリルよりも加工穴数は大きく減少した。
【0019】
以上の試験結果より、本実施例では心厚が0.16mmのドリルはシンニング面の有無にかかわらず、心厚が0.12mmおよび0.20mmの2水準のドリルよりも安定的な切削加工性能が確認できた。
【0020】
(実施例2)
次に、実施例1の場合と同様に複数水準の試験用ドリルを使用して、被削材をオーステナイト系ステンレス鋼に変えて同様の切削加工試験を行った。本試験の切削加工条件は以下の通りとした。
・被削材:SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)
・切削速度:9m/min
・回転数:5600min-1
・送り速度:100mm/min
・送り量:0.02mm/rev
・ステップ量:0.1mm
・穴深さ:5mm(止り穴)
・切削油剤:水溶性切削油剤
・使用機械:立形MC
本試験の結果を実施例1の場合と同様に3水準の心厚およびシンニング面の有無(2水準)の計6種類の結果に分けて表2に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
表2に示す様に実施例1の切削加工試験の結果と同様に、心厚が0.12mm(ドリル径0.5mmの24%相当)のドリルよりも心厚が0.16mm(ドリル径0.5mmの32%相当)のドリルの方が加工穴数は多くなった。一方、心厚が0.12mmのドリルと心厚が0.16mmのドリルは、ともにシンニング面が無いドリルはシンニング面の有るドリルに比べて加工穴数が大幅に増加した。
【0023】
また、心厚が0.20mm(ドリル径0.5mmの40%相当)のドリルでは、シンニング面が有るドリルおよびシンニング面の無いドリル共に加工穴数が激減し、心厚が0.16mmのドリルの加工穴数の10%以下であった。
【0024】
以上の試験結果より、本実施例では心厚が0.16mmのドリルは、シンニング面の有無にかかわらず、心厚が0.12mmおよび心厚が0.20mmの2水準のドリルよりも安定的な切削加工性能が確認できた。また、心厚が0.16mmのドリルについて、シンニング面の無いドリルはシンニング面が有るドリルよりも加工穴数が約25%近く増加した。
【0025】
(実施例3)
次に、ドリル先端の切れ刃におけるR面取り加工とシンニング面の有無による切削性能へ及ぼす影響を穴加工試験により確認した。本加工試験で使用した試験用ドリルは、直径(ドリル径)0.5mm、溝長さ6mm、全長47mm、シャンク径3mm、先端角120°、心厚0.16mm(ドリル径0.5mmの32%相当)を共通仕様とした。
【0026】
実施例1の切削加工試験の場合と同様に以下の切削条件で試験を行った。
・被削材:S50C(炭素鋼:180HB)
・切削速度:20m/min
・回転数:12750min-1
・送り速度:380mm/min
・送り量:0.03mm/rev
・ステップ量:0.1mm
・穴深さ:5mm(止り穴)
・切削油剤:水溶性切削油剤
・使用機械:立形MC
本試験の結果を実施例1の場合と同様に3水準のR面取り加工量(丸みの大きさ)およびシンニング面の有無(2水準)の計6種類の結果に分けて表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
本試験の結果は、表3に示すようにまずシンニング面の有るドリルについては、丸み加工の有無や大きさにかかわらず、加工穴数は180~190穴の範囲内であった。一方、シンニング面の無いドリルについては、丸み加工の無いドリルがシンニング面の有るドリルの加工穴数と同等であったが、丸み加工量が5μmおよび10μmのドリルは、いずれの加工穴数も400以上であった。以上の試験結果より、シンニング面が無く、かつ切れ刃のR面取り加工量が3~10μmのドリルが最も優れた切削性能を示した。
【0029】
(実施例4)
次に、被削材をステンレス鋼に変更して実施例3と同様にドリル先端の切れ刃における丸み加工とシンニング面の有無による切削性能への影響を穴加工試験により確認した。本加工試験で使用した試験用ドリルは、直径(ドリル径)0.5mm、溝長さ6mm、全長47mm、シャンク径3mm、先端角120°、心厚0.16mm(ドリル径0.5mmの32%相当)を共通仕様とした。
【0030】
実施例2の切削加工試験の場合と同様に以下の切削条件で行った。
・被削材:SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)
・切削速度:9m/min
・回転数:5600min-1
・送り速度:100mm/min
・送り量:0.02mm/rev
・ステップ量:0.1mm
・穴深さ:5mm(止り穴)
・切削油剤:水溶性切削油剤
・使用機械:立形MC
本試験の結果を実施例3の場合と同様に3水準のR面取り加工量(丸みの大きさ)およびシンニング面の有無(2水準)の計6種類の結果に分けて表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
本試験の結果は、表4に示すようにシンニング面の有るドリルについては、R面取り加工量が3~5μmのドリルの加工穴数が1100穴を超えており、他の2種類のドリルよりも優れた結果であった。一方、シンニング面の無いドリルについては、R面取り加工量が6~10μmのドリルは加工穴数が2000穴以上であり、他の2種類のドリルよりも非常に優位な結果を示した。以上の試験結果より、シンニング面が無く、かつ切れ刃のR面取り加工量が6~10μmのドリルが最も優れた切削加工性能を示した。
【符号の説明】
【0033】
1,2 切れ刃
3,4 逃げ面
5,6 溝
10 ドリル
20 シャンク
α0 先端角
L0 溝長
φD0 ドリルの直径
φD1 心厚

図1
図2
図3