(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059565
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、その製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08L 51/04 20060101AFI20230420BHJP
G02C 7/04 20060101ALI20230420BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20230420BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08L51/04
G02C7/04
C08F265/06
G02B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169653
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】澤田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】松村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】山口 克己
【テーマコード(参考)】
2H006
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
2H006BB02
2H006BB04
2H006BB05
2H006BB07
4J002BG04X
4J002BN12W
4J002GP01
4J026AA45
4J026AC09
4J026BA27
4J026GA02
4J026GA09
(57)【要約】
【課題】酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、[トリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル]アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記鎖状重合体における前記ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は30重量%以上である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記鎖状重合体と前記架橋重合体粒子との屈折率の差が0.150以内である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記架橋重合体粒子の体積平均粒子径が150nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記鎖状重合体は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記架橋重合体粒子は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を含むコンタクトレンズ。
【請求項9】
ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、
前記架橋重合体粒子の存在下で、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合する乳化重合工程を有する、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記乳化重合工程では、乳化重合媒体として、水および水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒の混合物を用いる、請求項9に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記有機溶媒は、炭素数が5以下のアルコールを含む、請求項10に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
40℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体であって、Dk値30以上の酸素透過性を有し、全光線透過率が80%以上である、成形体。
【請求項13】
前記成形体は、水分含有量が1.0重量%未満である、請求項12に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、その製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズには、目の角膜を保護するための高い酸素透過性が要求されるようになっている。コンタクトレンズに適用し得る十分な酸素透過性を有する成形体を提供し得る素材として、ケイ素含有樹脂等を含むシリコーンハイドロゲルおよび硬質ガス透過性(RGP:Rigid Gas Permeable)材料等の樹脂組成物が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、遅反応性親水性モノマー、シリコーン含有成分、光開始剤およびヒドロキシル含有成分を含む反応混合物から形成されるシリコーンハイドロゲルが記載されている。
【0004】
シリコーンハイドロゲルは、主にソフトタイプのコンタクトレンズ(以下「ソフトコンタクトレンズ」とも称する)に用いられ、量産性に優れるという利点がある。一方、シリコーンハイドロゲルは、形状保持性に劣るため、(a)角膜が大きく変形する円錐角膜、および(b)角膜表面が不規則に歪んでいる不正乱視、等の症状を矯正することができない。また正乱視に対しては乱視用ソフトコンタクトレンズも存在するが、乱視軸および乱視度数に合わせたレンズが必要であるうえ、レンズの回転によって矯正状態が狂うという課題がある。
【0005】
例えば、特許文献2には、(a)末端にアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するシロキサン部と末端に親水基を有するシロキサン部とが、双方のシロキサン部においてメチレン鎖を介してけつごうした構造を有する親水性シロキサニルアルキルエステルと(b)親水性モノマーと(c)疎水性モノマーとを主成分とする共重合体からなる酸素透過性軟質コンタクトレンズ用組成物、が開示されている。
【0006】
これに対し、RGP材料は、主にハードタイプのコンタクトレンズ(以下「ハードコンタクトレンズ」とも称する)に用いられる剛性材料であり、形状保持性に優れるため、上記症状の矯正が可能である。より具体的に、RGP材料を高度に架橋してなる塊状成形体がハードコンタクトレンズの材料として用いられる。塊状成形体は、高度に架橋されているため熱可塑性がない。そのため、ハードコンタクトレンズは、上述した塊状成形体からレンズを削り出すことにより製造され、ソフトコンタクトレンズよりも量産性に劣るという問題を有する。
【0007】
例えば、特許文献3には、剛直な主鎖と酸素透過性基とを有する単量体1種以上と、重合可能な二重結合とポリジメチルシロキサン骨格とを有するマクロマとを重合成分として含有するポリマからなることを特徴とするコンタクトレンズ、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2015-503631号
【特許文献2】特開昭59-185310号
【特許文献3】特開平7-056125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来技術は、円錐角膜および強度乱視等の症状を矯正可能であり、かつ量産性に優れるコンタクトレンズ用の樹脂組成物を提供する観点からは十分なものではなく、さらなる改善の余地がある。
【0010】
本発明の一実施形態は、前記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えた樹脂組成物を提供することである。なお、本明細書において、「樹脂組成物が熱成形性」を備えるとは、(a)樹脂組成物を加熱により可塑化して成形加工が可能であり、かつ(b)得られる成形体が形状を維持できる程度に割れにくい(すなわち、靭性を有する)こと、より具体的には、得られる成形体が脆すぎて割れることが無く、かつ柔らかすぎて形状を保持できないことが無いこと、を意図する。なお、樹脂組成物について、加熱により可塑化して成形加工できる性質を、「熱可塑性」と称する場合がある。また、成形体について、脆すぎて割れることが無く、かつ柔らかすぎて形状を保持できないことが無い性質を「形状保持性」と称する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物。
〔2〕前記ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、[トリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル]アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位である、〔1〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕前記鎖状重合体における前記ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は30重量%以上である、〔1〕または〔2〕に記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕前記鎖状重合体と前記架橋重合体粒子との屈折率の差が0.150以内である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕前記架橋重合体粒子の体積平均粒子径が150nm以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕前記鎖状重合体は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位をさらに含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕前記架橋重合体粒子は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を含むコンタクトレンズ。
〔9〕ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、前記架橋重合体粒子の存在下で、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合する乳化重合工程を有する、熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔10〕前記乳化重合工程では、乳化重合媒体として、水および水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒の混合物を用いる、〔9〕に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔11〕前記有機溶媒は、炭素数が5以下のアルコールを含む、〔10〕に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔12〕40℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体であって、Dk値30以上の酸素透過性を有し、全光線透過率が80%以上である、成形体。
〔13〕前記成形体は、水分含有量が1.0重量%未満である、〔12〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えた樹脂組成物を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0015】
〔1.本発明の技術的思想〕
シリコーンハイドロゲル等のハイドロゲルは、水分を含むゲル状物質であり、ソフトコンタクトレンズの材料として好適に用いられている。ソフトコンタクトレンズは、ハイドロゲルを用いて、注型重合法により高い量産性で製造することができる。しかしながら、ハイドロゲルからなる成形体は、水分を含む状態では剛性に劣り、また、水分を含まない状態では割れやすく靭性に劣るため、ハードコンタクトレンズには適用されていない。
【0016】
ハードコンタクトレンズは、ソフトコンタクトレンズよりも形状保持性が高いため、ソフトコンタクトレンズでは矯正できない円錐角膜および強度乱視等の症状も矯正することができるという利点を有する。しかしながら、ハードコンタクトレンズの製造に用いられるRGP材料を単に重合して得られる樹脂組成物および成形体は非常に脆い。それ故、一般的には、RGP材料とともに多量の架橋剤を使用して塊状重合法により得られた塊状成形体を、ハードコンタクトレンズの材料として用いる。塊状成形体は、高度に架橋されているため、熱可塑性がない。そのため、ハードコンタクトレンズは、上述した塊状成形体からレンズを削り出す削り出し加工により製造されるため、ソフトコンタクトレンズよりも量産性に劣るという問題を有する。特に、円錐角膜および強度の乱視等の症状を矯正するためのハードコンタクトレンズは、塊状成形体から削り出されたレンズの表面を、患者それぞれの眼球形状に適合するように研磨することにより製造される。そのため、当該ハードコンタクトレンズの製造は、高度な精密性が求められ、また高価な機械を必要とするため、量産性に劣り、コストが高い。
【0017】
本発明者らは、ハードコンタクトレンズを熱成形加工によって製造することにより、量産性を高めることを検討した。しかしながら、酸素透過性を有する成形体を提供し得る既存の樹脂組成物(例えば、上述のRGP材料)は熱成形性に劣り、熱成形加工による成形は困難であった。その理由は、以下のとおりであると考えられる。前述の既存の樹脂組成物からなる成形体は、シリル基等の嵩高いケイ素含有基を有する単量体に由来する構成単位を含むことにより、重合体同士の間に酸素分子が透過し得る隙間を有するため、酸素透過性を備える。しかしながら、ケイ素含有基を有する単量体の単独重合体からなる成形体は硬いが、脆い傾向がある。そこで、既存の樹脂組成物からなる成形体は、多量の(例えば10重量%程度の)架橋剤を用いて架橋度を高めることにより、脆さを改善している。このように多量の架橋剤を含む樹脂組成物は、熱可塑性を有しないため、所望の形状に成形するためには削り出し加工を行う必要がある。
【0018】
そこで、本発明者らは、酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えた樹脂組成物を提供することを目的として、さらなる検討を行った。その結果、本発明者らは、以下の新規知見を見出し、本発明の一実施形態を完成させるに至った:ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物は、(a)一部が架橋重合体粒子にグラフト結合した鎖状重合体を含むことに起因して熱成形性を有すること、および(b)鎖状重合体がケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことに起因して、当該組成物からなる成形体は酸素透過性を備えること。
【0019】
〔2.熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している。
【0020】
本明細書中では、「本発明の一実施形態に熱可塑性樹脂組成物」を、単に「本熱可塑性樹脂組成物」と称する場合もある。
【0021】
本熱可塑性樹脂組成物は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体が架橋重合体粒子にグラフト結合してなる粒子と、架橋重合体粒子にグラフト結合していない前記鎖状重合体と、を含む、ということもできる。
【0022】
本熱可塑性樹脂組成物は、上述した構成を有するため、酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えるという利点を有する。具体的に、本熱可塑性樹脂組成物はケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体を含むため、熱可塑性を有し、酸素透過性を有する成形体を提供できる。また、本熱可塑性樹脂組成物は前記鎖状重合体の一部がグラフト結合した架橋重合体粒子を含むため、当該熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、適度な柔軟性を持ち、かつ一定の形状を保ち、脆くないという利点を有する。すなわち、本熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性および熱成形性を有し、かつ成形体を高度に架橋することなく形状が保持され(形状保持性を有し)、酸素透過性を有する成形体を提供することが出来る。
【0023】
本明細書において、樹脂組成物の熱成形性は、樹脂組成物を熱成形法により加工した場合の成形性および得られる成形体の物性(透光性、表面の平滑性、および割れやすさ)によって評価することができる。また、本明細書において、成形体の酸素透過性は、JIS K 7126-1:2006に準拠して測定される透過係数(Dk)値によって評価することができる。熱成形性および酸素透過性の具体的な評価方法は、後述する実施例に記載する。
【0024】
<2-1.鎖状重合体>
本熱可塑性樹脂組成物は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体を含み、当該鎖状重合体の一部は、後述する架橋重合体粒子にグラフト結合している。当該構成は、本熱可塑性樹脂組成物は熱可塑性を有し、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は酸素透過性を有する。
【0025】
本熱可塑性樹脂組成物に含まれる鎖状重合体は、鎖状構造を有し、構成単位としてケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む。本明細書において、「ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位」とは、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位である。本明細書において、「単量体」の表記は省略する場合がある。故に、本明細書において、例えば、単に「ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル」と表記した場合は、「ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体」を意図する。
【0026】
本明細書において、「鎖状構造」とは、(a)主鎖からなり、側鎖(分岐鎖)を有しない分子構造だけでなく、(b)主鎖と側鎖とを含み、側鎖の分子量の合計が、主鎖の分子量よりも少ない分子構造も包含することを意図する。また、本明細書において、「主鎖」とは、重合体分子中で、最も長い結合鎖を意図する。
【0027】
ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、下記一般式(1)で表される単量体である。
【0028】
【0029】
(式中、R1は、水素またはメチル基であり、R2は、ケイ素含有基を表す。)
R2で示されるケイ素含有基は、重合反応を阻害しないケイ素含有基であれば特に限定されないが、得られる成形体に好適な酸素透過性を付与する嵩高さを有することが好ましい。R2で示されるケイ素含有基の具体例としては、下記一般式(2)で表されるケイ素含有基が挙げられる。
【0030】
【0031】
一般式(2)において、nは1~3の整数であり、好ましくは2~3の整数である。
【0032】
一般式(2)において、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して、-OSiR6R7R8、メチル基、フェニル基、またはペンタメチルジシロキサニルオキシ基である。R6、R7およびR8はそれぞれ独立して、アルキル基、またはフェニル基であり、好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。
【0033】
成形体の酸素透過性をより高める観点から、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の特に好ましい例としては、一般式(2)において、R3、R4およびR5がそれぞれ-OSiR6R7R8であり、R6、R7およびR8がそれぞれアルキル基である、[トリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル]アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
[トリス(トリアルキルシリルオキシ)シリル]アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、下記式で示される3-[トリス(トリメチルシリルオキシ)シリル]プロピルメタクリレート(CAS登録番号17096-07-0)が挙げられる。
【0035】
【0036】
上述したケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
鎖状重合体は、構成単位として、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を、鎖状重合体100重量%中に、30重量%以上含むことが好ましく、35重量%以上含むことがより好ましく、40重量%以上含むことが特に好ましい。鎖状重合体がケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を30重量%以上含むことにより、得られる成形体に、コンタクトレンズに好ましく適用し得る十分な酸素透過性を付与することができるという利点を有する。鎖状重合体におけるケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量の上限値は特に限定されない。
【0038】
鎖状重合体は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位(以下、単に「フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位」とも称する)をさらに含んでよい。フッ素原子は、疎水性および撥油性を示し凝集エネルギーが小さい。また、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、酸素透過性を有する。ただし、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の酸素透過性能は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の酸素透過性能よりも低い。したがって、鎖状重合体がフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことにより、得られる成形体の酸素透過性をさらに向上させるという利点を有する。また、鎖状重合体がフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含むことにより、当該成形体をコンタクトレンズなどの特定の用途に適用した場合に、成形体(すなわちコンタクトレンズ)の表面に、防汚性および洗浄性を付与し得るという利点を有する。
【0039】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、下記一般式(3)で表される単量体である。
【0040】
【0041】
(式中、R9は、水素またはメチル基であり、R10は、フッ素含有基を表す。)
R10で示されるフッ素含有基は、重合反応を阻害しないフッ素含有基であれば特に限定されない。R10で示されるフッ素含有基の具体例としては、フッ素置換アルキル基(例えば、-CF3、-CF2CF3、-CH2CF3、-CH2CH2CF3、-CH2C2F5、-C3F8、-C4F10等)等が挙げられる。これらの中でも、良好な(共)重合性を有すること、並びに、得られる成形体への防汚性および酸素透過性などの付与効果が高いことから、-CH2CF3、および-CH2C2F5などがより好ましい。
【0042】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、R9がメチル基であり、R10が-CH2CF3である、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレートが挙げられる。
【0043】
上述したフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
鎖状重合体がフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む場合、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、鎖状重合体100重量%に対し、10重量%~70重量%であることが好ましく、20重量%~60重量%であることがより好ましく、30重量%~50重量%であることがさらに好ましい。鎖状重合体がフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を上記の範囲で含むことにより、得られる成形体に好適な酸素透過性、表面防汚性および表面洗浄性を付与することができるという利点を有する。
【0045】
鎖状重合体は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルと共重合性を有するその他の単量体(以下、単量体Aとも称する。)に由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。単量体Aとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステル、(メタ)アクリル酸、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物等が挙げられる。これら単量体Aは、側鎖に官能基(例えば、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、アミノ基、スルホン酸基、リン酸基等)もしくはその塩を有していてもよい。例えば、鎖状重合体が(a)前記官能基もしくはその塩を含有しない単量体Aに由来する構成単位(例えば(メタ)アクリル酸単位)、並びに(b)前記官能基(例えば、極性を有する官能基、水酸基、酸基)もしくはそれらの塩を含有する単量体Aに由来する構成単位、などをさらに含む場合、得られる成形体の親水性が高まるため、当該成形体をコンタクトレンズなどの用途に適用した場合、人体への親和性を向上させ得るという利点を有する。また、鎖状重合体が、(メタ)アクリル酸エステル単位として、環状構造を有するアルキル基および/またはアリール基などの側鎖を有する単量体Aに由来する構成単位(例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート単位、ノルボルニル(メタ)アクリレート、フルオレン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート単位およびフェノキシエチル(メタ)アクリレート単位など)を含む場合、これらの単量体Aに由来する構成単位の側鎖部分の嵩高さが、得られる成形体の酸素透過性の向上に寄与するため、酸素透過性により優れる成形体が得られる。また上述した構成を有する場合、成形体の耐熱性が向上するという利点を有する。
【0046】
本発明の一実施形態において、鎖状重合体は、同一の組成の構成単位を有する1種の鎖状重合体のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、鎖状重合体は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種の鎖状重合体からなってもよい。
【0047】
樹脂組成物中の鎖状重合体の一部は、後述する架橋重合体粒子にグラフト結合している。当該構成は、得られる樹脂組成物および成形体において、架橋重合体粒子の分散性の向上に寄与する。その結果、当該構成は、当該樹脂組成物の熱可塑性および当該成形体の形状保持性のさらなる向上に寄与する。鎖状重合体の一部は、架橋重合体粒子の表面にグラフト結合していてもよく、架橋重合体粒子の内側に入り込んだ状態でグラフト結合していてもよい。架橋重合体粒子にグラフト結合していない鎖状重合体の中で架橋重合体粒子が一次粒子の状態で分散できることから、鎖状重合体の一部は、架橋重合体粒子の表面にグラフト結合していることが好ましい。換言すれば、鎖状重合体が架橋重合体粒子にグラフト結合してなる粒子の表面の少なくとも一部に、鎖状重合体が存在することが好ましい。また、樹脂組成物中の鎖状重合体の一部は、架橋重合体粒子にグラフト結合していない。架橋重合体粒子にグラフト結合していない鎖状重合体は、熱可塑性樹脂組成物の熱成形性の向上に寄与する。
【0048】
<2-2.架橋重合体粒子>
架橋重合体粒子は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。架橋重合体粒子は、上述したゴム以外に、天然ゴムを含んでいてもよい。すなわち本発明の一実施形態においては、架橋重合体粒子は、好ましくは弾性部またはゴム粒子を含む。
【0049】
好ましい実施形態において、架橋重合体粒子は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含んでいてもよい。すなわち、架橋重合体粒子を構成する上述したゴムは、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。当該構成により、本熱可塑性樹脂組成物のマトリクス相である鎖状重合体に加えて、分散相である架橋重合体粒子も酸素透過性を備える結果、得られる成形体の酸素透過性が一層高まるという利点を有する。
【0050】
上記ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、上記<2-1.鎖状重合体>の項に記載されるケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いることができる。
【0051】
架橋重合体粒子がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。場合Aにおいて、得られる熱可塑性樹脂組成物は、靱性に優れる成形体を提供することができる。靱性に優れる成形体は、形状保持性に優れる成形体ともいえる。
【0052】
前記ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位を含む架橋重合体粒子である。前記ジエン系単量体は、共役ジエン系単量体と言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100重量%中、ジエン系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、およびジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0053】
ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2-クロロ-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
ジエン系単量体と共重合可能なジエン系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体A、とも称する。)としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性単量体、などが挙げられる。上述した、ビニル系単量体Aは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ビニル系単量体Aの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Aにおけるジエン系ゴムにおいて、ビニル系単量体Aに由来する構成単位は任意成分である。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、ジエン系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0055】
場合Aにおいて、ジエン系ゴムとしては、1,3-ブタジエンに由来する構成単位からなるブタジエンゴム(ポリブタジエンゴムとも称する。)、または、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であるブタジエン-スチレンゴム(ポリスチレン-ブタジエンとも称する。)が好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。前記構成によると、本熱可塑性樹脂組成物がジエン系ゴムを含むことによる所望の効果がより発揮され得る。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる成形体の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。また、ブタジエン-ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル系ゴムは、得られる成形体の酸素透過性を高めることができる点においても、より好ましい。
【0056】
架橋重合体粒子が(メタ)アクリル酸エステル系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。場合Bでは、多種の単量体の組合せにより、架橋重合体粒子の幅広い重合体設計が可能となる。
【0057】
前記(メタ)アクリル酸エステル系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する構成単位を含む架橋重合体粒子である。場合Bにおいて、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムは、構成単位100重量%中、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する構成単位を50~100重量%、および(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外のビニル系単量体に由来する構成単位を0~50重量%、含むものであってもよい。場合Bにおいて、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0058】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、上記<2-1.鎖状重合体>の項に記載されるケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリル酸エステル系単量体の中でも、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、および2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル、およびブチル(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0059】
場合Bにおいて、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムとしては、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴムおよび2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ブチル(メタ)アクリレートゴムがより好ましい。エチル(メタ)アクリレートゴムはエチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、ブチル(メタ)アクリレートゴムはブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムであり、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴムは2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートに由来する構成単位からなるゴムである。当該構成によると、(i)得られる熱可塑性樹脂組成物は、良好な靱性を有する成形体を提供でき、かつ(ii)当該熱可塑性樹脂組成物の粘度をより低くすることができる。
【0060】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体と共重合可能な(メタ)アクリル酸エステル系単量体以外のビニル系単量体(以下、ビニル系単量体B、とも称する。)としては、前記ビニル系単量体Aにおいて列挙した単量体が挙げられる。ビニル系単量体Bは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ビニル系単量体Bの中でも、特に好ましくはスチレンである。なお、場合Bにおける(メタ)アクリル酸エステル系ゴムにおいて、ビニル系単量体Bに由来する構成単位は任意成分である。場合Bにおいて、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムは、(メタ)アクリル酸エステル系単量体に由来する構成単位のみから構成されてもよい。
【0061】
架橋重合体粒子がオルガノシロキサン系ゴムを含む場合(場合C)について説明する。場合Cにおいて、得られる熱可塑性樹脂組成物は、十分な耐熱性を有し、かつ低温での耐衝撃性に優れる成形体を提供することができる。
【0062】
オルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、(i)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、(ii)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるオルガノシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのオルガノシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本明細書において、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体をジメチルシリルオキシゴムと称し、メチルフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体をメチルフェニルシリルオキシゴムと称し、ジメチルシリルオキシ単位とジフェニルシリルオキシ単位とから構成される重合体をジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムと称する。場合Cにおいて、オルガノシロキサン系ゴムとしては、(i)得られる熱可塑性樹脂組成物が耐熱性に優れる成形体を提供することができることから、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴムおよびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、(ii)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシゴムであることがより好ましい。
【0064】
場合Cにおいて、本熱可塑性樹脂組成物は、本熱可塑性樹脂組成物に含まれる架橋重合体粒子100重量%中、オルガノシロキサン系ゴムを80重量%以上含有していることが好ましく、90重量%以上含有していることがより好ましい。前記構成によると、得られる熱可塑性樹脂組成物は、耐熱性に優れる成形体を提供することができる。
【0065】
架橋重合体粒子は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の架橋重合体粒子をさらに含んでいてもよい。ジエン系ゴム、(メタ)アクリル酸エステル系ゴムおよびオルガノシロキサン系ゴム以外の架橋重合体粒子としては、例えば天然ゴムが挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態において、架橋重合体粒子は、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブタジエン-(メタ)アクリレートゴム、エチル(メタ)アクリレートゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートゴム、ジメチルシリルオキシゴム、メチルフェニルシリルオキシゴム、およびジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ブタジエンゴム、ブタジエン-スチレンゴム、ブチル(メタ)アクリレートゴム、およびジメチルシリルオキシゴムからなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0067】
(架橋重合体粒子の架橋構造)
架橋重合体粒子には架橋構造が導入されている。当該構成は、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体の形状保持性の向上に寄与する。架橋重合体粒子に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、架橋重合体粒子の製造において、重合体粒子を構成し得る単量体に、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を混合し、次いで重合する方法が挙げられる。
【0068】
また、オルガノシロキサン系ゴムに架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(A)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物と他の材料とを併用する方法、(B)反応性基(例えば(i)メルカプト基および(ii)反応性を有するビニル基、など)をオルガノシロキサン系ゴムに導入し、その後、得られた反応生成物に、(i)有機過酸化物または(ii)重合性を有するビニル単量体などを添加してラジカル反応させる方法、または、(C)オルガノシロキサン系ゴムを重合するときに、多官能性単量体および/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性単量体を他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
【0069】
多官能性単量体は、同一分子内にラジカル重合性反応基を2つ以上有する単量体ともいえる。前記ラジカル重合性反応基は、好ましくは炭素-炭素二重結合である。多官能性単量体としては、ブタジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート類およびアリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類のような、エチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有する単量体としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有する単量体として、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。多官能性単量体としては、また、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなども挙げられる。
【0070】
それら多官能性単量体の中でも、架橋重合体粒子の架橋構造の導入に好ましく用いられ得る多官能性単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート(例えばジメタクリル酸1,3-ブチレングリコールなど)、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0071】
メルカプト基含有化合物としては、アルキル基置換メルカプタン、アリル基置換メルカプタン、アリール基置換メルカプタン、ヒドロキシ基置換メルカプタン、アルコキシ基置換メルカプタン、シアノ基置換メルカプタン、アミノ基置換メルカプタン、シリル基置換メルカプタン、酸基置換メルカプタン、ハロ基置換メルカプタンおよびアシル基置換メルカプタンなどが挙げられる。アルキル基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルキル基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタンがより好ましい。アリール基置換メルカプタンとしては、フェニル基置換メルカプタンが好ましい。アルコキシ基置換メルカプタンとしては、炭素数1~20のアルコキシ基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1~10のアルコキシ基置換メルカプタンがより好ましい。酸基置換メルカプタンとしては、好ましくは、カルボキシル基を有する炭素数1~10のアルキル基置換メルカプタン、または、カルボキシル基を有する炭素数1~12のアリール基置換メルカプタン、である。これら多官能性単量体およびメルカプト基含有化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
(鎖状重合体の屈折率と架橋重合体粒子の屈折率との差)
鎖状重合体の屈折率および架橋重合体粒子の屈折率は、それぞれ、特に限定されない。鎖状重合体の屈折率と架橋重合体粒子の屈折率との差は小さいほど好ましく、例えば0.150以内であることが好ましく、0.100以内であることがより好ましく、0.050以内であることがさらに好ましく、0.020以内であることが特に好ましい。換言すれば、架橋重合体粒子の屈折率は、鎖状重合体の屈折率と架橋重合体粒子の屈折率との差が、上述した範囲内となるように調整されることが好ましい。架橋重合体粒子は、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体中で光学的な散乱源となり、当該成形体の透明性を低下させ得るが、鎖状重合体と架橋重合体粒子との屈折率が0.150以内であることにより、光の散乱が減少する結果、成形体の透明性が高まるという利点を有する。鎖状重合体と架橋重合体粒子との屈折率の差は、両者の重合に使用する単量体の組成を調整することにより、所望の範囲に制御することができる。
【0073】
(架橋重合体粒子の体積平均粒子径)
架橋重合体粒子の体積平均粒子径は、150nm以下であることが好ましく、120nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましく、80nm以下であることが特に好ましい。架橋重合体粒子は、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体中で光学的な散乱源となり、当該成形体の透明性を低下させ得るが、架橋重合体粒子の体積平均粒子径を光の波長以下、例えば150nm以下とすることにより、光の散乱が減少する結果、成形体の透明性が一層高まるという利点を有する。
【0074】
架橋重合体粒子の体積平均粒子径は、架橋重合体粒子を含む水性分散体を試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。架橋重合体粒子の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
【0075】
(表面架橋重合体)
また、本熱可塑性樹脂組成物は、架橋重合体粒子および鎖状重合体以外に、表面架橋重合体をさらに有していてもよい。以下、本熱可塑性樹脂組成物が、表面架橋重合体をさらに有する場合を例に挙げて、本発明の一実施形態を説明する。この場合、(i)本熱可塑性樹脂組成物の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(ii)鎖状重合体(マトリクス相)における架橋重合体粒子(分散相)の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が架橋重合体粒子の少なくとも一部を被覆することにより、架橋重合体粒子部分の露出が減り、その結果、架橋重合体粒子同士が引っ付きにくくなるため、架橋重合体粒子の分散性が向上する。
【0076】
本熱可塑性樹脂組成物が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(i)本熱可塑性樹脂組成物の粘度を低下させる効果、(ii)架橋重合体粒子における架橋密度を上げる効果、および(iii)鎖状重合体のグラフト効率を高める効果。架橋重合体粒子における架橋密度とは、架橋重合体粒子全体における架橋構造の数の程度を意図する。
【0077】
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性単量体に由来する構成単位を30~100重量%、およびその他のビニル系単量体に由来する構成単位を0~70重量%、合計100重量%含む重合体からなる。
【0078】
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性単量体としては、上述の多官能性単量体と同じ単量体が挙げられる。
【0079】
表面架橋重合体は、架橋重合体粒子の一部とみなすこともでき、表面架橋重合部ともいえる。本熱可塑性樹脂組成物が表面架橋重合体を含む場合、鎖状重合体の一部は、(i)表面架橋重合体以外の架橋重合体粒子に対してグラフト結合されていてもよく、(ii)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(iii)表面架橋重合体以外の架橋重合体粒子および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。本熱可塑性樹脂組成物が表面架橋重合体を含む場合、上述した架橋重合体粒子の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む架橋重合体粒子の体積平均粒子径を意図する。
【0080】
<2-3.本熱可塑性樹脂組成物における各成分の含有比率>
本熱可塑性樹脂組成物において、鎖状重合体と架橋重合体粒子との合計を100重量%とした場合に、鎖状重合体が5~95重量%であることが好ましく、鎖状重合体が10~90重量%であることがより好ましく、鎖状重合体が20~80重量%であることがさらに好ましく、鎖状重合体が25~75重量%であることが特に好ましい。
【0081】
鎖状重合体と架橋重合体粒子との合計を100重量%とした場合に、鎖状重合体の割合が95重量%以下である場合、得られる熱可塑性樹脂組成物は、形状保持性(靱性)に優れる成形体を提供することができるという利点を有する。また、鎖状重合体の割合が95重量%以上である場合、得られる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性に優れ、また、透明性および酸素透過性に優れる成形体を提供することができるという利点を有する。
【0082】
<2-4.物性>
本熱可塑性樹脂組成物は、室温以上、例えば25℃以上のガラス転移温度を有していることが好ましく、30℃以上のガラス転移温度を有していることがより好ましく、35℃以上のガラス転移温度を有していることがさらに好ましく、40℃以上のガラス転移温度を有していることが特に好ましい。本熱可塑性樹脂組成物が25℃以上のガラス転移温度を有している場合、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体は、室温でその形状を良好に保持することができるという利点を有する。したがって、当該成形体をコンタクトレンズなどの用途に適用した場合に、その精密な形状を保持することができる。
【0083】
本熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度は、示差走査熱量分析装置(DSC)(日立ハイテクサイエンス社製、DSC-7020)を用いて、JIS-K-7121に準拠して、以下の(1)~(5)の方法によって測定することができる:(1)熱可塑性樹脂組成物5mgを量り取る;(2)窒素雰囲気下において、当該熱可塑性樹脂組成物の温度を、10℃/minで室温から200℃まで昇温した後10分間ホールドする;(3)10分間ホールドした熱可塑性樹脂組成物の温度を10℃/minで200℃から-10℃まで降温する;(4)再び、当該熱可塑性樹脂組成物の温度を、10℃/minで-10℃から200℃まで昇温する;(5)2回目の昇温時(すなわち(4)のとき)に得られる熱可塑性樹脂組成物のDSC曲線から微分値を求め(SSDC)、その極大点を当該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)とする。なお、DSC曲線において複数の極大点が存在する場合、最も高温の極大点を当該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)とする。
【0084】
〔3.熱可塑性樹脂組成物の製造方法〕
以下、本熱可塑性樹脂組成物の製造方法の一例を説明する。本熱可塑性樹脂組成物は、例えば、架橋重合体粒子を重合した後、当該架橋重合体粒子の存在下にて当該架橋重合体粒子に対して鎖状重合体を構成する重合体を重合する、公知のあらゆる方法を利用することができる。
【0085】
本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む鎖状重合体と、架橋重合体粒子とを含み、前記鎖状重合体の一部が、前記架橋重合体粒子にグラフト結合している熱可塑性樹脂組成物の製造方法であり、前記架橋重合体粒子の存在下で、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合する乳化重合工程を有してもよい。
【0086】
本明細書において、「本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法」を、単に「本製造方法」とも称する。また、「ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体」を単に「単量体混合物」とも称する。
【0087】
以下、上述した本製造方法について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔2.熱可塑性樹脂組成物〕の項の記載を援用する。
【0088】
本製造方法は、前記構成を有するため、酸素透過性および形状保持性を有する成形体を提供し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。また、本製造方法は、架橋重合体粒子の存在下で、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合することにより、鎖状重合体の少なくとも一部が架橋重合体粒子と結合した構造を効率的に生成することができる。さらに、本製造方法は、重合法として(多段)乳化重合法を用いる事により、架橋重合体粒子に鎖状重合体がグラフト結合した構造を効率的に形成することができる。
【0089】
本発明者らは、本熱可塑性樹脂組成物を効率的に製造するために、乳化重合法により、架橋重合体粒子の存在下でケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を重合することを検討した。検討の過程で、本発明者は、乳化重合の分散媒として一般的に使用されている水を用いた場合、乳化重合法により重合することは困難であることを見出した。この理由は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルが、きわめて疎水性であり、水への溶解度がきわめて小さいことに起因すると推測される。なお、本発明の一実施形態は、かかる推測に限定されない。
【0090】
本発明者らは、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を、乳化重合法により重合することを目的として、さらなる検討を行った。その結果、乳化重合の分散媒として、水と、水と相溶性を有する有機溶媒とを併用することにより、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル等の疎水性単量体の乳化分散媒への溶解度が高まる結果、前記疎水性単量体を含む単量体を乳化重合法により重合できることを独自に見出した。以下、本製造方法の一例を詳説する。
【0091】
(架橋重合体粒子の製造方法)
本製造方法は、架橋重合体粒子を調製する工程、換言すれば架橋重合体を重合する工程(架橋重合体粒子調製工程)を有していてもよい。架橋重合体粒子が、ジエン系ゴムおよび(メタ)アクリル酸エステル系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上を含む場合を考える。この場合、架橋重合体粒子(ゴム粒子)は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができる。
【0092】
架橋重合体粒子が、オルガノシロキサン系成分を含む場合を考える。この場合、架橋重合体粒子(ゴム粒子)は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2006/070664号公報に記載の方法を用いることができる。
【0093】
ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む架橋重合体粒子は、例えば、上記の懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により得られることが好ましい。あるいは、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル単位を含む架橋重合体粒子を乳化重合により得る場合には、例えば後述のように、乳化重合媒体として、水および水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒の混合物を用いることが好ましい。
【0094】
架橋重合体粒子が表面架橋重合部を含む場合、表面架橋重合部は、表面架橋重合部の形成に用いる単量体を、上述の方法により製造された架橋重合体粒子(ゴム粒子)の存在下、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。架橋重合体粒子(ゴム粒子)を水性分散体として得た場合には、表面架橋重合体の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0095】
架橋重合体粒子の製造においては、公知の連鎖移動剤を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる架橋重合体粒子の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
【0096】
(鎖状重合体の製造方法)
鎖状重合体は、架橋重合体粒子の存在下、鎖状重合体の形成に用いるケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合する乳化重合工程により形成することができる。当該乳化重合工程は、鎖状重合体重合工程ともいえる。当該乳化重合工程により、単量体混合物を重合して鎖状重合体を製造することができ、かつ、一部の鎖状重合体を、架橋重合体にグラフト結合した状態で得ることができる。すなわち、当該乳化重合工程により、架橋重合体粒子にグラフト結合しているグラフト鎖状重合体と、架橋重合体粒子にグラフト結合していない非グラフト鎖状重合体とを、同時に製造することができる。
【0097】
乳化重合工程では、乳化重合媒体として、水および水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒の混合物を用いることが好ましい。当該構成によると、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステル、およびその他の疎水性の単量体成分の、乳化重合媒体への溶解性が向上する。そのため、乳化重合法を用いて本熱可塑性樹脂組成物(特に、鎖状重合体)をより効率的に製造することができるという利点を有する。また、乳化重合媒体として、水および水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒の混合物を用いることにより、鎖状重合体の重合不良を減らすことができ、重合スケールを低減できるという利点を有する。
【0098】
「水と相溶性を有する有機溶媒」は、ケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルの乳化重合媒体への溶解度を高め得る有機溶媒であれば特に限定されず使用することができる。なお、本明細書において、「水と相溶性を有する」とは、水への溶解度が、25℃において、5g/100mL以上であることを意図する。以下、「水と相溶性を有する有機溶媒」を「相溶性有機溶媒」とも称する。
【0099】
相溶性有機溶媒は、水への溶解度が、25℃において、10g/100mL以上であることが好ましく、20g/100mL以上であることがより好ましく、水と自由に混合可能であることが特に好ましい。
【0100】
水と相溶性を有する有機溶媒の具体例としては、イソプロピルアルコール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、酢酸メチル等が挙げられる。水と相溶性を有する有機溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
水と相溶性を有する一種以上の有機溶媒は、炭素数が5以下のアルコールを含むことが好ましく、イソプロピルアルコールを含むことがより好ましく、水と相溶性を有する有機溶媒は、イソプロピルアルコールのみからなることが特に好ましい。当該構成によると、乳化重合法を用いて本熱可塑性樹脂組成物(特に、鎖状重合体)をさらに効率的に製造することができるという利点を有する。
【0102】
乳化重合工程において使用する水と相溶性有機溶媒との比率、および、水および相溶性有機溶媒の使用量(すなわち、乳化重合媒体の使用量)は、特に限定されず、前記単量体の乳化重合媒体への溶解度、並びに、架橋重合体粒子および前記単量体の使用量等に応じて適宜設定すればよい。
【0103】
乳化重合工程において使用する水と相溶性溶媒との比率は、例えば、水100重量部に対して、相溶性溶媒が5~100重量部であることが好ましく、10~90重量部であることがより好ましく、20~80重量部であることがさらに好ましく、30~70重量部であることが特に好ましい。
【0104】
乳化重合工程において使用する相溶性有機溶媒は、疎水性のケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体を乳化重合させる段階において、乳化重合媒体中に添加されていることが望ましい。相溶性有機溶媒の添加のタイミングとしては、特に限定されないが、例えば、(a)重合初期の架橋重合体粒子調製工程の開始時点に添加してもよく(換言すれば、架橋重合体の重合を水および相溶性溶媒の混合物中で行ってもよく)、(b)架橋重合体粒子調製工程の終了後、乳化重合工程(鎖状重合体重合工程)の開始前に添加してもよく、(c)乳化重合工程(鎖状重合体重合工程)においてケイ素含有(メタ)アクリル酸エステルおよびフッ素含有(メタ)アクリル酸エステルなどの疎水性の単量体を含む単量体混合物を系中に添加して重合させる段階で、単量体混合物と相溶性有機溶媒とを混合して系中に添加してもよく、または(d)前記(a)~(c)の添加方法を組み合わせて行ってもよい。
【0105】
乳化重合工程における架橋重合体粒子の使用量は、得られる熱可塑性樹脂組成物における架橋重合体粒子と鎖状重合体との含有比率が所望の値となるように、適宜に設定すればよい。
【0106】
乳化剤(分散剤)としては、公知の乳化剤(分散剤)を用いることができ、例えば、アニオン性乳化剤、非イオン性乳化剤、ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などが挙げられる。アニオン性乳化剤としては、硫酸系乳化剤、スルホン酸系乳化剤、リン系乳化剤、脂肪酸系乳化剤などが挙げられる。硫酸系乳化剤およびスルホン酸系乳化剤の具体例としては、アルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジエステル塩、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(略称;SDBS)等が挙げられる。リン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム、アルキルリン酸ナトリウム、などが挙げられる。脂肪酸系乳化剤としては、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、牛脂脂肪酸、ラウリルザルコシン酸、アルキルエーテル酢酸等の各種脂肪酸のナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。非イオン性乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル或いはジアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアセテート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリンステアリン酸エステルなどが挙げられる。これらの乳化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、乳化剤の使用量は、公知の範囲であってよい。
【0107】
重合開始剤としては、公知の熱分解型開始剤、およびレドックス型開始剤等を用いることができる。熱分解型開始剤としては、例えば、(i)2,2’-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、並びに(ii)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物、などの公知の開始剤を挙げることができる。前記有機過酸化物としては、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、およびt-ヘキシルパーオキサイドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0108】
レドックス型開始剤は、(i)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物と、(ii)硫酸鉄(II)などの遷移金属塩や、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤を併用した開始剤である。さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などを併用してもよい。
【0109】
レドックス型開始剤を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定することができるようになる。そのため、レドックス型開始剤を用いることが好ましい。レドックス型開始剤の中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、およびt-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物を過酸化物として使用したレドックス型開始剤が好ましい。
【0110】
重合開始剤の使用量、並びに、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩およびキレート剤などの使用量は、公知の範囲であってよい。
【0111】
連鎖移動剤としては、公知の連鎖移動剤を用いることができ、例えば、(a)アルキルメルカプタン類、チオグリコール酸エステル類等の単官能連鎖移動剤、および(b)エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコール水酸基をチオグリコール酸または3-メルカプトプロピオン酸でエステル化した多官能性連鎖移動剤、が挙げられる。アルキルメルカプタン類としては、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタンおよびt-ドデシルメルカプタンなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、連鎖移動剤の使用量は、公知の範囲であってよい。連鎖移動剤の使用量を調節することで、グラフト率が所望の範囲となるように調節することができる。
【0112】
重合工程において使用する装置は、特に限定されず、乳化重合において一般的に用いられる重合反応器を用いることができる。重合工程は、架橋重合体粒子を製造した重合反応器内でそのまま行ってもよく、架橋重合体粒子を製造した重合反応器とは異なる重合反応器内で行ってもよい。本熱可塑性樹脂組成物を効率的に製造する観点からは、重合工程は、架橋重合体粒子を製造した重合反応器内でそのまま行うこと(すなわち、架橋重合体粒子と鎖状重合体とを多段重合すること)が好ましい。
【0113】
重合工程の重合温度は、使用する単量体混合物、重合開始剤、乳化剤、およびその他の添加剤等の種類および量に応じて調節され得るが、例えば、30℃~90℃であり、好ましくは40℃~80℃である。
【0114】
所望の重合転化率に到達した時点で重合を完結させることができる。重合完了後の反応生成物(水性分散体)を必要に応じて冷却してもよい。次いで、水性分散体から重合体(具体的には、鎖状重合体がグラフト結合してなる架橋重合体粒子、および架橋重合体粒子にグラフト結合していない鎖状重合体)を回収することにより、本熱可塑性樹脂組成物が得られる。
【0115】
水性分散体から重合体を回収する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。このような方法としては、(a)水性分散体に電解質および/または水溶性溶剤等を添加して、乳化剤を失活させることにより、重合体の凝集体を分離する方法、(c)水性分散体を凍結して液相と重合体を分離する方法、(d)水性分散体を噴霧乾燥して重合体を取り出す方法、等が知られているが、これらに限定されない。
【0116】
〔4.成形体〕
本熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体もまた、本願発明の一実施形態である。当該成形体は、鎖状重合体(マトリクス相)中に架橋重合体粒子(分散相)が1次粒子の状態で均一に分散して存在し得る。
【0117】
本発明の一実施形態に係る成形体は、40℃以上のガラス転移温度を有する熱可塑性樹脂組成物からなる成形体であって、Dk値30以上の酸素透過性を有し、全光線透過率が80%以上である構成であってよい。本明細書において、「本発明の一実施形態に係る成形体」を単に「本成形体」とも称する。
【0118】
本成形体は、前記構成を有するため、(a)室温でその形状を良好に保持することができる、並びに、(b)コンタクトレンズなどの用途に適用し得る、良好な酸素透過性を備える、という利点を備える。
【0119】
本成形体は、本熱可塑性樹脂組成物を当該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度以上に加熱して溶融し、所望の形状に成形することにより製造することができる。成形方法は特に限定されないが、射出成形、圧縮成形法を用いることが好ましい。
【0120】
本成形体を構成する熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度の説明は、上記<2-5.物性>の項の記載を援用する。
【0121】
本成形体のDk値は、高いほど好ましく、例えば30以上であり、50以上であることがより好ましく、80以上であることがさらに好ましい。本成形体のDk値が30以上である場合、コンタクトレンズに一般的に求められる酸素透過性を備える。
【0122】
成形体のDk値は、圧縮成形法により熱成形された厚さ1mmの板状の成形体について、測定装置として差圧式ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-30AS型)等を用いて、JIS K 7126-1:2006に準拠して、以下の(1)~(2)の方法によって測定することができる:(1)透過ガスとして超高純度酸素を使用し、透過面積15.2[cm2]、測定温度30℃、およびガス圧0.5[kgf/cm2](差圧113[cmHg])の測定条件下で、成形体のガス透過率を測定する;(2)測定されたガス透過率の値から、透過係数Dk(x10-10[cm3・cm/(cm2・s・cmHg)])値を算出する。
【0123】
また、本成形体の全光線透過率は、高いほど好ましく、例えば80%以上であることが好ましく、例えば85%以上であることがより好ましく、例えば88%以上であることがさらに好ましく、例えば90%以上であることが特に好ましい。本成形体の1mm厚さあたりの全光線透過率が80%以上である場合、コンタクトレンズに一般的に求められる透明性を備える。
【0124】
成形体の全光線透過率は、圧縮成形法により熱成形された厚さ1mmの板状の成形体について、測定装置としてヘイズメータ(日本電色工業(株)製、Haze Meter NDH7000SP)等を用いて、JIS K 7361-1:1997に準拠して、測定することができる。
【0125】
本成形体は、水分含有量が1.0重量%未満であることが好ましく、0.5重量%未満であることがより好ましく、0.2重量%未満であることがさらに好ましい。シリコーンハイドロゲル等の既存のハイドロゲルは、水分含有量が1.0重量%以上であるゲル状物質である。そのため、既存のハイドロゲルは、熱成形加工による成形を行うことができない。これに対し、本成形体は、本熱可塑性樹脂組成物を熱成形加工により成形して得られるため、水を実質的に含まず、水分含有量を1重量%未満とすることができる。したがって、本成形体は、ハードコンタクトレンズに適用することも可能である。
【0126】
成形体の水分含有量は、乾燥減量法、カールフィッシャー(KF)滴定法(ASTM D6869、プラスチックの水分含有量の電量法および容量法による測定のための標準試験法)等の既知の方法により測定することができる。
【0127】
〔5.用途〕
本熱可塑性樹脂組成物は、様々な用途に使用することができ、それらの用途は特に限定されない。当該熱可塑性組成物からなる成形体は、酸素を含む気体透過性が求められる種々の用途に適用することができる。また本熱可塑性樹脂組成物は、酸素透過性のみならず、水蒸気、窒素、二酸化炭素その他の気体透過性にも優れており、気体透過性が求められる用途にも用いることができる。このような用途としては、例えば、当該成形体を含むコンタクトレンズ、医療用包材、食品用包材、農業用資材等が挙げられる。本熱可塑性樹脂組成物は、上述した用途の中でも、コンタクトレンズとして用いられることがより好ましい。
【0128】
〔6.コンタクトレンズ〕
本発明の一実施形態に係るコンタクトレンズは、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を含む。以下、「本発明の一実施形態に係るコンタクトレンズ」を「本コンタクトレンズ」とも称する。本熱可塑性樹脂組成物は、良好な熱成形性を備えるため、コンタクトレンズを熱成形加工により製造することを可能にする。したがって、本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を含む本コンタクトレンズは、優れた量産性で製造することができるという利点を有する。
【0129】
本コンタクトレンズは、ハードコンタクトレンズとして使用することができ、円錐角膜および強度乱視等の症状を矯正するために使用可能である。本コンタクトレンズは、安価に製造可能であるため、量産可能である。そのため、本コンタクトレンズは、従来のハードコンタクトレンズでは現実的でなかった、1dayタイプおよび2weekタイプのハードコンタクトレンズとしても実現可能である。さらに、本コンタクトレンズは、レンズの中心部と周辺部とが異なる素材からなるハイブリッドコンタクトレンズであってもよい。本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体を含むハイブリッドコンタクトレンズも、本発明の一実施形態である。本発明の一実施形態において、レンズの中心部が本熱可塑性樹脂組成物からなる成形体からなり、レンズの周辺部がハイドロゲル等の含水材料からなるハイブリッドコンタクトレンズは、量産性および装用感が良好であり、さらに、円錐角膜および強度乱視等の症状を矯正することができるという利点を有する。
【実施例0130】
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記または後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0131】
〔測定方法〕
実施例および比較例における測定を、以下の方法で行った。
【0132】
(屈折率の測定)
熱可塑性樹脂組成物の屈折率は、厚さ1mmの板状の成型体を使用し、株式会社アタゴ製アッベ型屈折率計を用いて、23℃におけるナトリウムD線における屈折率を測定した。
【0133】
(体積平均粒子径の測定)
製造例に記載された架橋重合体粒子について、以下の方法により、体積平均粒子径を測定した。水性ラテックスに分散している架橋重合体粒子の体積平均粒子径を、レーザー回折式の粒度分布測定装置(日機装株式会社製、Microtrac粒度分布測定装置MT3000)を使用して粒子径を測定し、体積基準で粒子径分布を作製した。得られた粒子径分布から、累積体積が50%になるところの粒子径(D50)を「体積平均粒子径」とした。
【0134】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
実施例および比較例で製造された熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量分析装置(DSC)(日立ハイテクサイエンス社製、DSC-7020)を用いて、JIS-K-7121に準拠して、以下の(1)~(5)の方法によって測定した:(1)熱可塑性樹脂組成物5mgを量り取った;(2)窒素雰囲気下において、当該熱可塑性樹脂組成物の温度を、10℃/minで室温から200℃まで昇温した後、200℃で10分間保持した;(3)その後、熱可塑性樹脂組成物の温度を、10℃/minで200℃から-10℃まで降温した;(4)次いで、再び、当該熱可塑性樹脂組成物の温度を、10℃/minで-10℃から200℃まで昇温した;(5)2回目の昇温時(すなわち(4)のとき)に得られる熱可塑性樹脂組成物のDSC曲線から微分値を求め(SSDC)、その極大点を当該熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)とした。
【0135】
(グラフト率の測定)
以下(1)~を順に行い、グラフト率を算出した。
(1)先ず、熱可塑性樹脂組成物を含有する水性分散体を得、次に、当該水性分散体から、熱可塑性樹脂組成物の粉粒体を得た。ここで、水性分散体から熱可塑性樹脂組成物の粉粒体は、以下の(i)~(iii)の方法で得た:(i)前記水性分散体中の熱可塑性樹脂組成物を凝析し、(ii)得られる凝析物を脱水し、(iii)さらに凝析物を乾燥することにより、熱可塑性樹脂組成物の粉粒体を得た。
(2)次いで、熱可塑性樹脂組成物の粉粒体をメチルエチルケトン(以下、MEKとも称する。)に溶解した。
(3)その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離した。具体的には、遠心分離機(日立工機(株)社製、CP60E)を用い、回転数30000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離した。
(4)次に、上記(3)の操作で得られた、濃縮したMEK可溶分にメタノールを添加した。
(5)その後、得られた混合物を、遠心分離機を用いてメタノール可溶分とメタノール不溶分とに分離した。
(6)上記(3)の操作で得られたMEK不溶分と、上記(5)の操作で得られたメタノール不溶分との合計重量を測定し、以下の式からグラフト率を算出した。
GP% = 100×(MEK不溶分の重量)/(MEK不溶分の重量+メタノール不溶分の重量)
架橋重合体粒子重量比率 = 100×(架橋重合体粒子の重合に使用した単量体混合物の重量)/(熱可塑性樹脂組成物の重合に使用した単量体の総重量)
グラフト率(%) = 100×(GP%-架橋重合体粒子重量比率)/(架橋重合体粒子重合比率)
(Dk値の測定)
実施例および比較例で製造された成形体のDk値は、測定装置として差圧式ガス透過率測定装置(GTRテック株式会社製、GTR-30AS型)等を用いて、JIS K 7126-1:2006に準拠して測定した。具体的には、以下の(1)~(2)の方法によって測定した:(1)透過ガスとして超高純度酸素を使用し、透過面積15.2[cm2]、測定温度30℃、およびガス圧0.5[kgf/cm2](差圧113[cmHg])の測定条件下で、成形体のガス透過率を測定した;(2)測定されたガス透過率の値から、透過係数Dk(×10-10[cm3・cm/(cm2・s・cmHg)])値を算出した。
【0136】
(全光線透過率の測定)
実施例および比較例で製造された成形体の全光線透過率は、測定装置としてヘイズメータ(日本電色工業(株)製、Haze Meter NDH7000SP)等を用いて、JIS K 7361-1:1997に準拠して、測定した。
【0137】
[実施例1]
撹拌機付き8L重合器中に、脱イオン水170重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.006重量部、硫酸第一鉄・7水和塩0.0015重量部、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.28重量部、および還元剤としてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15重量部を投入した。
【0138】
次に、投入した原料を撹拌しつつ、重合器内部の気体を窒素置換することにより、重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、重合器内の温度を60℃に昇温し、単量体混合物1(ブチルアクリレート(BA)30.0重量部、およびアリルメタクリレート(AlMA)0.3重量部)、および重合開始剤としてクメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.06重量部を、90分間かけて連続的に重合器内に添加した。添加終了後、さらに30分間、重合器内の混合物の撹拌を続け、単量体混合物1の重合を行った。当該重合により、架橋重合体粒子を含む水性分散体(R-1)を得た。得られた水性分散体(R-1)に含まれる架橋重合体粒子の体積平均粒子径は、506Å(50.6nm)であった。また、BAおよびAlMAの屈折率並びにこれらの使用割合から算出される架橋重合体粒子の屈折率は、1.463であった。
【0139】
次いで、水性分散体(R-1)を含む重合器内に、イソプロピルアルコール(IPA)30重量部を投入した(1回目のIPA投入)。次いで、重合器内の温度を60℃に昇温した。次に、単量体混合物2(3-[トリス(トリメチルシリルオキシ)シリル]プロピルメタクリレート(SiMA)28.0重量部、2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(3-FMA)35.0重量部、メタクリル酸メチル(MMA)3.5重量部、およびメタクリル酸(MAA)3.5重量部、および連鎖移動剤としてt-ドデシルメルカプタン(tDM)0.3重量部)、並びに、重合開始剤としてCHP0.3重量部、乳化剤としてジオクチルスルホコハク酸ナトリウム0.33重量部、脱イオン水70重量部、およびIPA30重量部(2回目のIPA投入)を、210分間かけて連続的に重合器内に添加した。添加終了後、さらに60分間、重合器内の混合物の撹拌を続け、単量体混合物2の重合を行った。当該重合により、鎖状重合体がグラフト結合している架橋重合体粒子と、架橋重合体粒子にグラフト重合していない鎖状重合体とを含む水性分散体(L-1)を得た。SiMA、3-FMA、MMAおよびMAAの屈折率並びにこれらの使用割合から算出される鎖状重合体の屈折率は、1.448であった。グラフト率は64%であった。架橋重合体粒子の屈折率と鎖状重合体の屈折率との差を算出し、結果を表1に示す。
【0140】
得られた水性分散体(L-1)中に含まれる固形分を、ガーゼ(ハクゾウメディカル製タイプ1)を用いて濾過することにより取り除いた。次いで、水性分散体(L-1)に10(重量/重量%)の塩化カルシウム水溶液20重量部(すなわち、塩化カルシウムとして2重量部)を添加することにより、水性分散体(L-1)中の鎖状重合体がグラフト結合している架橋重合体粒子および架橋重合体粒子にグラフト重合していない鎖状重合体を凝固させた。凝固した固形分を含むスラリーを加熱して固形分を液相と分離した後、凝固した固形分(鎖状重合体がグラフト結合している架橋重合体粒子および架橋重合体粒子にグラフト重合していない鎖状重合体の凝集体)を濾別することにより回収し、水で洗浄し、乾燥することにより、熱可塑性樹脂組成物を粒子状の粉末として得た。
【0141】
得られた熱可塑性樹脂組成物について、ガラス転移温度を測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を圧縮成形法により熱成形して、厚さ1mmの成形体を作製し、得られた成形体について、Dk値および全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0142】
また、得られた成形体について、水分含有量を測定したところ、0.3%であった。
【0143】
[実施例2]
単量体混合物1の重合(すなわち架橋重合体粒子の形成)に先立って投入するジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを0.25重量部に変更した以外は、実施例1と同じ操作をし、架橋重合体粒子を含む水性分散体(R-2)を得た。得られた水性分散体(R-2)に含まれる架橋重合体粒子の体積平均粒子径は、570Å(57.0nm)であった。また、架橋重合体粒子の屈折率は、1.463であった。
次に、水性分散体(R-1)の代わりに水性分散体(R-2)を使用した以外は、実施例1と同じ操作をし、鎖状重合体がグラフト結合している架橋重合体粒子と、架橋重合体粒子にグラフト重合していない鎖状重合体とを含む水性分散体(L-2)を得た。鎖状重合体の屈折率は、1.448であった。グラフト率は64%であった。架橋重合体粒子の屈折率と鎖状重合体の屈折率との差を算出し、結果を表1に示す。次いで、得られた水性分散体(L-2)を使用して、実施例1と同じ操作をし、熱可塑性樹脂組成物を粒子状の粉末として得た。
【0144】
得られた熱可塑性樹脂組成物について、ガラス転移温度を測定した。また、得られた熱可塑性樹脂組成物を圧縮成形法により熱成形して、厚さ1mmの成形体を作製し、得られた成形体について、Dk値および全光線透過率を測定した。結果を以下の表1に示す。
【0145】
また、得られた成形体について、水分含有量を測定したところ、0.8%であった。
【0146】
[実施例3~5]
(i)架橋重合体粒子または鎖状重合体の重合前および重合中に乳化重合媒体として添加(使用)するIPAの量、並びに(ii)架橋重合体粒子および鎖状重合体の重合時に添加する単量体の種類および量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同じ操作をし、水性分散体を得た。架橋重合体粒子の屈折率と鎖状重合体の屈折率との差を算出し、結果を表1に示す。さらに得られた水性分散体から、実施例1と同じ操作をし、熱可塑性樹脂組成物の粉体を得た。得られた架橋重合体粒子および熱可塑性樹脂組成物の物性は表1に示す。
【0147】
[比較例1]
実施例1と同じ操作をし、架橋重合体粒子を含む水性分散体(R-6)を得た。次に、水性分散体(R-1)の代わりに水性分散体(R-6)を使用し、IPAを2回とも投入しなかった以外は、実施例1と同じ操作を行い、鎖状重合体の調製を試みた。得られた水性分散体を水性分散体(L-6)とした。続いて、得られた水性分散体(L-6)を使用して、実施例1と同じ操作をし、粒子状の粉末を得た。
【0148】
得られた熱可塑性樹脂組成物を圧縮成形法により熱成形して、厚さ1mmの成形体を作製した。得られた成形体は白濁しており、透明性および透光性を有しなかった。この原因としては、以下のように考えらえる。使用する3-[トリス(トリメチルシリルオキシ)シリル]プロピルメタクリレート(SiMA)はきわめて疎水性が高く、実質的に水溶性を有さない。このため、乳化重合の機構、すなわち、乳化分散媒に単量体が溶解して、乳化分散している架橋重合体粒子に供給され、架橋重合体粒子の表面で重合が進行する、という機構での重合ができず、少なくともSiMAの一部が水系の媒体中に油滴として浮遊した状態で重合が進行しており、正常な乳化重合が進行していないものと考えられる。
【0149】
[熱成形性の評価]
実施例および比較例で製造された樹脂組成物の熱成形性を、以下の(1)~(6)の方法により評価した:(1)樹脂組成物5.5mgを量り取った;(2)量り取った樹脂組成物を、厚さ1mmのスペーサーと共に165℃に加熱した2枚の天板間に置き、天板を4分間加熱した;(3)小型熱プレス機(アズワン(株)製、AH-2003)を用いて、天板間に置かれた樹脂組成物を、2400kgで1分間圧縮することにより、樹脂組成物を円盤状(直径7cm×厚さ1mm)に成形した;(4)成形体を天板間に挟んだままで、常温まで放冷した;(5)天板を開いて円盤状成形体を取り出した;(6)得られた円盤状成形体について、以下の観点より目視にて評価し、AおよびBを合格とし、C~Gを不合格とした。結果を以下の表1に示す。
A:円盤状成形体は、白濁しておらず、透明性を有し、表面が平滑であり、カッターによる切削時に割れを生じない。
B:円盤状成形体は、白濁しておらず、透明性を有し、表面が平滑であり、カッターによる切削時に切削部にクラックが生じる。
C:円盤状成形体は、白濁しており、透明性に劣る。
D:成形体は脆く、成形時に割れを生じるため、円盤状成形体を得ることができない。
E:成形体は柔らかく、成形時に天板に粘着するため、平滑な表面の成形体を得ることができない。
F:成形体の表面に細かい収縮ムラが生じ、平滑な表面が得られない。
G:熱可塑性樹脂が粉末状のままで一体化されず、成形体が得られない。
【0150】
【0151】
〔コンタクトレンズの作製〕
実施例で製造された熱可塑性樹脂組成物を用いて、以下の(1)~(6)の方法によりコンタクトレンズを作製した:(1)凹レンズ状の金型(フロントカーブ(FC)の曲率半径8.4mm、ベースカーブ(BC)の曲率半径8.0mm、中心部の厚み100μm)に、粉末状の熱可塑性樹脂組成物0.08gを投入した;(2)金型を130℃で4分間加熱した;(3)金型内に置かれた樹脂組成物を、200kgで1分間圧縮することにより、熱可塑性樹脂組成物を凹レンズ状に成形した;(4)成形体を金型内で、常温まで放冷した;(5)金型を開いて凹レンズ状成形体を取り出した;(6)得られた凹レンズ状成形体を、Φ9mmにトリミングすることにより、コンタクトレンズ(コンタクトレンズ状成形体ともいえる)を得た。また、参考例として、軟質の熱可塑性アクリル樹脂(株式会社カネカ製サンデュレン(登録商標)SD-016)を用いて、同様にコンタクトレンズ(コンタクトレンズ状成形体)を作製した。
【0152】
〔乱視矯正能力の評価〕
得られたコンタクトレンズを、半球状の乱視眼モデル(X軸方向曲率半径8.6mm、Y軸方向曲率半径8.3mm)上に置き、乱視眼モデルとコンタクトレンズとの間の空隙を生理食塩水で満たした。次いで、コンタクトゲージCD-G(株式会社NEITZ製)を用いて、コンタクトレンズの表面の縦方向および横方向の曲率半径を測定した。得られた測定値から、以下の評価基準に基づき、コンタクトレンズの乱視矯正能力を評価した。また、参考例として、軟質の熱可塑性アクリル樹脂を用いて得られたコンタクトレンズについても、同様に乱視矯正能力を評価した。
乱視矯正能力あり:縦方向の曲率半径と横方向の曲率半径との差が0.2mm未満である。
乱視矯正能力なし:縦方向の曲率半径と横方向の曲率半径との差が0.2mm以上である。
【0153】
実施例1~5の熱可塑性樹脂組成物からなるコンタクトレンズはいずれも、縦方向の曲率半径と横方向の曲率半径との差が0.2mm未満であり、ハードコンタクトレンズ(またはハイブリッドコンタクトレンズの中心部)としての乱視矯正能力を有していた。これに対し、参考例の熱可塑性アクリル樹脂からなるコンタクトレンズは、縦方向の曲率半径と横方向の曲率半径との差が0.2mm以上であり、ハードコンタクトレンズ(またはハイブリッドコンタクトレンズの中心部)としての乱視矯正能力を有しないものであった。
本発明の一実施形態は、酸素透過性を有する成形体を提供し得、かつ、熱成形性を備えた樹脂組成物を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂組成物は、コンタクトレンズ(例えば、ハードコンタクトレンズ、およびハイブリッドコンタクトレンズの中心部)などの材料として特に好適に利用できる。