(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005958
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】流路チップおよび誘電泳動装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20230111BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20230111BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230111BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N27/447 331Z
G01N27/00 Z
C12M1/00 A
C12M1/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108280
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】515279762
【氏名又は名称】株式会社AFIテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】浦川 哲
(72)【発明者】
【氏名】真田 雅和
(72)【発明者】
【氏名】大代 京一
【テーマコード(参考)】
2G060
4B029
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AA15
2G060AA19
2G060AD06
2G060AE40
2G060AF07
2G060AF10
2G060AG03
2G060AG10
2G060EA06
2G060EB07
2G060HC14
2G060HC15
2G060JA10
4B029AA07
4B029FA15
4B029GB01
(57)【要約】
【課題】誘電泳動用の流路を使用せずに、流路に対する電極の性能を評価することができる技術を提供する。
【解決手段】流路チップは、基板21と、主流路31と、液貯留部40と、一対の主電極33a,33bと、一対の検査用電極43a,43bとを備える。主流路31は、基板21の上面211に配置され、液体を注入することが可能である。液貯留部40は、基板21の上面211に配置され、主流路31から離れて配置されている。液貯留部40は、液体を注入することが可能である。一対の主電極33a,33bは、基板21の上面211と主流路31との間に配置されている。一対の検査用電極43a,43bは、基板21の上面211と液貯留部40との間に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路チップであって、
基板と、
前記基板の一方の主面上に配置され、液体を注入することが可能な主流路と、
前記基板の前記主面上に、前記主流路から離れて配置され、液体を注入することが可能な液貯留部と、
前記基板の前記主面と前記主流路との間に配置される一対の主電極と、
前記基板の前記主面と前記液貯留部との間に配置される一対の検査用電極と、
を備える、流路チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の流路チップであって、
前記液貯留部が、液体が流通可能な検査用流路を含み、
前記一対の検査用電極が、前記基板の前記主面と前記検査用流路との間に配置される、流路チップ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の流路チップであって、
前記一対の主電極のうち前記主流路と重なる第1重複部の面積が、前記一対の検査用電極のうち前記液貯留部と重なる第2重複部の面積と等しい、流路チップ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の流路チップであって、
前記一対の検査用電極を2組以上備える、流路チップ。
【請求項5】
請求項4に記載の流路チップであって、
前記一対の検査用電極を3組備える、流路チップ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の流路チップであって、
前記一対の主電極と、前記一対の検査用電極とが、隣接して配置されている、流路チップ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の流路チップであって、
前記一対の主電極および前記一対の検査用電極の表面が、絶縁保護膜で覆われており、
前記主流路および前記液貯留部が、前記絶縁保護膜上に配置されている、流路チップ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の流路チップであって、
前記一対の主電極および前記一対の検査用電極が、櫛歯状を有する、流路チップ。
【請求項9】
誘電泳動装置であって、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の流路チップと、
前記一対の主電極および前記一対の検査用電極に電圧を印加する電源部と、
を備える、誘電泳動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路チップおよび誘電泳動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、誘電泳動力を利用して、回収対象を分離して捕集する流路チップが知られている。この種の流路チップは、回収対象を含む液体を注入する流路(マイクロ流路)と、液体内の回収対象を電気的に捕捉するための電極(マイクロ電極)とを備えている。このような流路チップは、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流路チップの製造工程上、面内の電極を保護する絶縁保護膜の膜厚および比誘電率や、電極金属の抵抗率にはバラツキが生じ得る。また、製造過程で表面有機汚染が生じた場合にも、その有機残渣が誘電泳動力に影響を与え得る。これらは、回収対象物を捕捉できないほどの誘電泳動力の低下や、回収対象物に損傷を与えるほどの過剰な力を引き起こす可能性がある。
【0005】
電極の性能を事前に評価するため、流路に液体を注入した状態で電極の性能を検査することも考えられる。しかながら、流路に液体を注入することによって、新たに表面汚染が発生したり、パーティクル混入による流路詰り等が引き起されたりするおそれがあった。
【0006】
本発明の目的は、誘電泳動用の流路を使用せずに、流路に対する電極の性能を評価することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、第1態様は、流路チップであって、基板と、前記基板の一方の主面上に配置され、液体を注入することが可能な主流路と、前記基板の前記主面上に、前記主流路から離れて配置され、液体を注入することが可能な液貯留部と、前記基板の前記主面と前記主流路との間に配置される一対の主電極と、前記基板の前記主面と前記液貯留部との間に配置される一対の検査用電極とを備える。
【0008】
第2態様は、第1態様の流路チップであって、前記液貯留部が、液体が流通可能な検査用流路を含み、前記一対の検査用電極が、前記基板の前記主面と前記検査用流路との間に配置される。
【0009】
第3態様は、第1態様または第2態様の流路チップであって、前記一対の主電極のうち前記主流路と重なる第1重複部の面積が、前記一対の検査用電極のうち前記液貯留部と重なる第2重複部の面積と等しい。
【0010】
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか1つの流路チップであって、前記一対の検査用電極を2組以上備える。
【0011】
第5態様は、第4態様の流路チップであって、前記一対の検査用電極を3組備える。
【0012】
第6態様は、第1態様から第5態様のいずれか1つの流路チップであって、前記一対の主電極と、前記一対の検査用電極とが、隣接して配置されている。
【0013】
第7態様は、第1態様から第6態様のいずれか1つの流路チップであって、前記一対の主電極および前記一対の検査用電極の表面が、絶縁保護膜で覆われており、前記主流路および前記液貯留部が、前記絶縁保護膜上に配置されている。
【0014】
第8態様は、第1態様から第7態様のいずれか1つの流路チップであって、前記一対の主電極および前記一対の検査用電極が、櫛歯状を有する。
【0015】
第9態様は、誘電泳動装置であって、第1態様から第8態様のいずれか1つの流路チップと、前記一対の主電極および前記一対の検査用電極に電圧を印加する電源部とを備える。
【発明の効果】
【0016】
第1態様の流路チップによると、主流路に対応する一対の主電極と、液貯留部に対応する一対の検査用電極とが同じ基板上に配置されている。このため、液貯留部に液体を注入した状態で、一対の検査用電極の性能を検査することによって、主流路および一対の主電極を使用せずに、一対の主電極の性能を適切に評価できる。
【0017】
第2態様の流路チップによると、一対の検査用電極が液貯留部の検査用流路に重ねられていることによって、一対の検査用電極が配置されている環境の条件を一対の主電極が配置されている環境の条件に近づけることができる。これにより、一対の検査用電極の検査結果に基づいて、一対の主電極の性能を適切に評価できる。
【0018】
第3態様の流路チップによると、一対の検査用電極の第2重複部の面積が一対の主電極の第1重複部の面積と同じであるため、一対の検査用電極の性能を、一対の主電極の性能と同等とすることができる。これにより、一対の検査用電極の性能の検査結果に基づいて、一対の主電極の性能を適切に評価できる。
【0019】
第4態様の流路チップによると、同一流路チップ内で製造工程上の面内バラツキが生じたとしても、複数組の検査用電極の測定結果を平均することによって、一対の主電極の性能を適切に評価できる。
【0020】
第5態様の流路チップによると、一対の検査用電極を3組にすることによって、平均誤差の把握に要する最小限のサンプル数を確保できるとともに、流路チップの大型化を抑制できる。
【0021】
第6態様の流路チップによると、一対の主電極と一対の検査用電極とが隣接して配置されているため、一対の検査用電極の配置されている環境の条件を一対の主電極が配置されている環境の条件に近づけることができる。このため、一対の検査用電極の検査結果に基づいて一対の主電極の性能を適切に評価できる。
【0022】
第7態様の流路チップによると、一対の主電極および一対の検査用電極を絶縁保護膜によって保護できる。
【0023】
第8態様の流路チップによると、一対の主電極および検査用電極が、短縮し並列化された櫛歯状であることにより、低抵抗化し均一な誘電泳動力を液中に印加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る誘電泳動装置を示す平面図である。
【
図2】
図1に示すA-A線に沿う位置における流路チップの概略断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る流路チップの一部を示す平面図である。
【
図4】
図3に示すB-B線に沿う位置における流路チップの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態に記載されている構成要素はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。図面においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数が誇張又は簡略化して図示されている場合がある。
【0026】
<1. 第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る誘電泳動装置1を示す平面図である。
図2は、
図1に示すA-A線に沿う位置における流路チップ11の概略断面図である。
図1に示すように、誘電泳動装置1は、流路チップ11と、複数の電源部13と、制御部15とを有する。
【0027】
流路チップ11は、試料の液体中に含まれる回収対象を、電気的に分離し、捕集する装置である。試料の液体としては、例えば、血液などの体液や、生理食塩水が想定される。また、回収対象としては、液体中に存在する物質であって、具体的には、微生物、細胞、タンパク質、核酸等などが想定される。複数の電源部13は、流路チップ11に配置されている各電極に電圧を印加する。制御部15は、各電源部13が印加する電圧を制御する。制御部15は、CPU等の汎用プロセッサやRAMなどを有するコンピュータで構成される。なお、制御部15は、専用回路(特定用途向け専用回路(ASIC)等)を備えていてもよい。
【0028】
<流路チップ>
図1に示すように、流路チップ11は、基板21と、主流路31と、一対の主電極33a,33bと、液貯留部40と、複数組(本例では、3組)の一対の検査用電極43a,43bとを有する。
【0029】
基板21は、例えば、石英ガラス製である。ただし、基板21の材料は、石英ガラスに限定されるものではなく、適宜選択し得る。基板21は、略矩形の平板状を有する。ただし、基板21の形状は、略矩形の平板状に限定されない。
【0030】
主流路31は、回収対象を含む液体を注入することが可能である。
図1に示すように、主流路31は、分離流路311と、一対の回収流路313a,313bとを有する。分離流路311は、直線状に延びる細長状の流路である。分離流路311の一端は、第1供給部315に接続されている。第1供給部315は、分離流路311に流す液体を注入するための第1供給用開口部316を有する。主流路31は、分離流路311の他端において、回収流路313aと、回収流路313bとに分岐している。
【0031】
回収流路313aは、分離流路311を流れた回収対象を回収するための流路である。回収流路313bは、分離流路311を流れた非回収対象を回収するための流路である。回収流路313a,313bの各一端は、分離流路311の他端に接続されている。回収流路313aの他端は、第1回収部317aに接続されている。回収流路313bの他端は、第1回収部317bに接続されている。第1回収部317aは、回収流路313aを流れた液体を回収するための第1回収用開口部318を有する。第1回収部317bは、回収流路313bを流れた液体を回収するための第1回収用開口部318を有する。
【0032】
図2に示すように、主電極33a,33bは、基板21の上面211に配置されている。そして、主電極33a,33bの上面は、絶縁保護膜23で覆われている。絶縁保護膜23は、例えば酸化膜(シリコン酸化膜(SiOx)など)である。なお、絶縁保護膜23は、窒化膜(シリコン窒化膜など)であってもよい。主電極33a,33bが絶縁保護膜23で覆われていることによって、電極金属と液体との界面で生じる電気化学的反応を抑制し、経時的な電極金属の劣化や摩耗を抑制できる。
【0033】
絶縁保護膜23の上面には、流路カバー25が配置されている。流路カバー25は、例えばPDMS(ジメチルポリシロキサン)により形成される。流路カバー25は、その下面に、細長に延びる凹状の流路溝251を有する。流路溝251の幅は、例えばマイクロスケールである。流路カバー25の流路溝251と、絶縁保護膜23の上面とによって、主流路31および後述する検査用流路41が構成される。このように、流路カバー25が基板2の上面211に取り付けられることにより、主流路31が基板21の上面211に配置される。
図1に示すように、基板21は、流路カバー25よりも幅が大きい。
【0034】
図1に示すように、主電極33a,33bは、主流路31から離れて配置された第1パッド部331と、櫛歯状に配列された複数の第1細線部333とを有する。主電極33a,33bの各第1パッド部331の少なくとも一部は、流路カバー25の外側に配置されている。また、主電極33a,33bの各第1パッド部331は、絶縁保護膜23で覆われていない。このため、流路カバー25の外側において、第1パッド部331に対して電源部13を接続したり、第1パッド部331を接地したりすることが可能となっている。
【0035】
主電極33a,33bの複数の第1細線部333は、主流路31と上下に重なるように配置されている。主電極33a,33bの複数の第1細線部333は、主流路31の分離流路311に注入された液中の回収対象に電気的作用を及ぼす部分である。
【0036】
第1細線部333は、主流路31の分離流路311と交差する方向に延びる細線状である。主電極33a,33bの複数の第1細線部333は、分離流路311の延びる方向において、等間隔に配置されている。また、分離流路311の延びる方向において、主電極33aの第1細線部333と、主電極33bの第1細線部333とは、1本ずつ間隔をあけて交互に配置されている。具体的には、分離流路311の延びる方向において、50μmピッチで20組の主電極33aの第1細線部333と、主電極33bの第1細線部333とが交互に配置されている。なお、第1細線部333の配列ピッチおよび組数は、任意に設定され得る。
【0037】
主電極33a,33bの各第1細線部333は、分離流路311の延びる方向に対して例えば10°以上60°以下の鋭角な角度をなすように、分離流路311と斜めに交差する方向に延びている。
【0038】
誘電泳動装置1を使用する場合、第1供給部315から、主流路31に対して回収対象を含む液体が供給される。そして、
図1に示すように、主電極33aの第1パッド部331が接地され、主電極33bの第1パッド部331に電源部13が接続される。電源部13は、例えばファンクションジェネレータで構成される。電源部13は、制御部15の制御に基づいて、主電極33a,33bの間に、回収対象に応じた交流電圧を印加する。回収対象に応じた交流電圧は、具体的には、回収対象に対して特異的に誘電泳動力(引力)を作用する電場を発生させる周波数であって、回収対象を破壊しない程度の大きさの電圧である。
【0039】
主電極33a,33b間に電圧が印加されると、主流路31に注入された液体中の回収対象が、主電極33a,33bの第1細線部333に引きつけられながら、主流路31を流れることにより、回収流路313aへ回収される。これに対して、誘電泳動力が作用しないか、もしくは微弱な誘導泳動力しか作用しない非回収対象は、回収流路313bへ回収される。
【0040】
液貯留部40は、液体を貯留可能である。
図1に示すように、液貯留部40は、検査用流路41を有する。液貯留部40および検査用流路41は、
図2に示す主流路31と同様に、絶縁保護膜23上に配置されている。
図1に示すように、検査用流路41は、細長に延びる線状を有している。検査用流路41の一端は、第2供給部411に接続されている。第2供給部411は、検査用流路41に流す液体を供給するための第2供給用開口部412を有する。検査用流路41の他端は、第2回収部413に接続されている。第2回収部413は、検査用流路41を流れた液体を回収するための第2回収用開口部414を有する。
【0041】
図1に示すように、3組の検査用電極43a,43bは、主電極33a,33bと同じ基板21上に配置されている。検査用電極43a,43bが主電極33a,33bと隣接して配置されている。検査用電極43a,43bは、
図2に示す主電極33a,33bと同様に、基板21の上面211に配置されている。検査用電極43a,43bは、基板21の上面211と液貯留部40との間に配置されている。検査用電極43a,43bは、絶縁保護膜23で覆われている。このため、検査用電極43a,43bにおいて、電極金属と液体との界面で生じる電気化学的反応が抑制され、経時的な電極金属の劣化や摩耗を抑制できる。
【0042】
図1に示すように、検査用電極43a,43bは、主流路31から離れて配置された第2パッド部431と、櫛歯状に配置された複数の第2細線部433とを有する。
図1に示すように、第2パッド部431は、流路カバー25の外側に配置されている。検査用電極43a,43bの各第2パッド部431は、絶縁保護膜23で覆われていない。このため、流路カバー25の外側において、第2パッド部431に対して電源部13を接続したり、第2パッド部431を接地したりすることが可能となっている。
【0043】
検査用電極43a,43bの複数の第2細線部433は、検査用流路41と上下に重なるように配置されている。検査用電極43a,43bの複数の第2細線部433は、検査用流路41の液体に電気的作用を及ぼす部分である。
【0044】
第2細線部433は、検査用流路41と交差する方向(ここでは、直交する方向)に延びる細線状である。検査用電極43a,43bの複数の第2細線部433は、検査用流路41の延びる方向において等間隔に配置されている。また、検査用流路41の延びる方向において、検査用電極43aの第2細線部433と、検査用電極43bの第2細線部433とが、1つずつ交互に配置されている。
【0045】
主電極33a,33bのうち主流路31と重なる部分(第1重複部335)の面積は、好ましくは、検査用電極43a,43bのうち検査用流路41と重なる部分(第2重複部435)の面積と等しい。検査用電極43a,43bの配列ピッチおよび組数は、好ましくは、第1重複部335の面積と第2重複部435の面積とが同じとなるように、設定される。
【0046】
なお、主電極33a,33bの第1細線部333と同様に、検査用電極43a,43bの各第2細線部433は、検査用流路41と斜めに交差する方向に延びていてもよい。
【0047】
<流路チップ11の製造方法について>
続いて、流路チップ11の製造方法について説明する。まず、基板21の上面211に、真空蒸着によって所定の厚さ(例えば、100nm)を有する電極金属の膜が成膜される。そして、フォトリソグラフィとウェットエッチングにより、電極金属の膜に所定のパターンが形成される。このパターン形成により、主電極33a,33bおよび3組の検査用電極43a,43bが基板21の上面211に形成される。そして、電極のパターンニングの後、絶縁保護膜23の形成が行われる。具体的には、スパッタリングにより、基板21の上面211および電極(主電極33a,33bおよび3組の検査用電極43a,43bを含む。)の上面に、所定の厚さ(例えば、200nm)の絶縁保護膜23であるシリコン酸化膜(SiOx)が成膜される。
【0048】
絶縁保護膜23が形成されると、フォトリソグラフィとドライエッチングとにより、主電極33a,33bの各第1パッド部331および検査用電極43a,43bの各第2パッド部431が、それぞれ形成される。その後、流路カバー25が、基板21に取り付けられる。具体的には、流路カバー25と、各電極が形成された基板21とがプラズマ処理され、両者が貼り合わされる。流路カバー25には、主流路31に対応する流路溝251および液貯留部40(検査用流路41)に対応する流路溝がそれぞれ形成されている。したがって、流路カバー25の取り付けによって、基板21上に主流路31および液貯留部40が形成される。
【0049】
流路チップ11の場合、主流路31に対応する主電極33a,33bと、液貯留部40に対応する検査用電極43a,43bとが、同じ基板21上に配置されている。このため、液貯留部40に液体を入れた状態で検査用電極43a,43bの性能を検査することによって、主流路31を使用せずに、主流路31に対する主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。したがって、主電極33a,33bの性能を評価するために、主流路31が汚染されたり、主電極33が詰まったりすることを抑制できる。
【0050】
流路チップ11において、検査用電極43a,43bを検査することによって、流路チップ11の製造工程上のバラツキ(絶縁保護膜の膜厚または比誘電率のバラツキ、電極金属の抵抗率などのバラツキ)、および表面有機汚染や電極欠損等の欠陥の存在を検知できる。例えば、流路チップ11の製造過程において、検査用電極43a,43bを検査することによって、ユーザに提供する流路チップ11の良品率を向上することができる。
【0051】
また、検査用電極43a,43bが、液貯留部40の検査用流路41に重ねられていることによって、検査用電極43a,43bが配置されている環境の条件を主電極33a,33bが配置されている環境の条件に近づけることができる。このため、検査用電極43a,43bの検査結果に基づいて、主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。
【0052】
図1に示すように、検査用電極43a,43bが主電極33a,33bと隣接して配置されているため、検査用電極43a,43bの配置されている環境の条件を主電極33a,33bが配置されている環境の条件に近づけることができる。このため、検査用電極43a,43bの検査結果に基づいて主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。
【0053】
また、検査用流路41の断面形状および断面寸法を、主流路31における分離流路311と同じとした場合、検査用電極43a,43bの液体を含む電極間の断面寸法が、分離流路311に覆われる主電極33a,33bと同一となる。これにより、検査用電極43a,43bと、主電極33a,33bとの間で、電極直上における流路の断面形状および断面寸法に依存する液体の抵抗や容量成分を揃えることができる。このため、検査用電極43a、43bの検査結果に基づいて、主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。
【0054】
主電極33a,33bおよび検査用電極43a,43bが、短縮し並列化された櫛歯状であることによって、低抵抗化し均一な誘電泳動力を液中に印加することができる。
【0055】
検査用電極43a,43bの第2重複部435の面積が主電極33a,33bの第1重複部335の面積と同じであるため、検査用電極43a,43bの性能を、主電極33a,33bの性能と同等とすることができる。したがって、検査用電極43a,43bの検査結果に基づいて、主流路31に対する主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。
【0056】
なお、第1重複部335の面積と第2重複部435との面積が、同じであることは必須ではない。第1重複部335の面積と第2重複部435の面積が異なる場合であっても、その面積の違いに応じて、検査用電極43a,43bの検査結果から主電極33a,33bを相対的に評価することは可能である。
【0057】
流路チップ11が、複数組の検査用電極43a,43bを備えている。このため、同一流路チップ11内で製造工程上の面内バラツキが生じたとしても、複数組の検査用電極43a,43bの測定結果を平均化することによって、主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。また、検査用電極43a,43bを3組にすることによって、均誤差の把握に要する最小限のサンプル数を確保できるとともに、流路チップ11の大型化を抑制できる。
【0058】
なお、
図1に示す例では、流路チップ11は、検査用電極43a,43bを3組備えているが、検査用電極43a,43bを2組だけ、あるいは、4組以上備えていてもよい。また、流路チップ11が、一対の検査用電極43a,43bを複数組備えていることは必須ではなく、一組だけ備えていてもよい。一組だけとした場合、流路チップ11を小型化できる。
【0059】
3組の検査用電極43a,43bも、主電極33a,33bとできるだけ近接させておくことが望ましい。こうすることによって、これらの検査用電極43a,43bの検査結果に基づいて、主電極33a,33bの性能を適切に評価できるようになる。
【0060】
検査用電極43a,43bの検査結果に基づいて、製造上のバラツキを補正するための補正値を得ることができる。そこで、電源部13が得られた補正値に応じた電圧を主電極33a,33b間に印加するように、制御部15が電源部13を制御してもよい。これにより、主流路31に注入された液体中の回収対象に、安定した誘導泳動力を付与することができる。
【0061】
<2. 第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。なお、以降の説明において、既に説明した要素と同様の機能を有する要素については、同じ符号又はアルファベット文字を追加した符号を付して、詳細な説明を省略する場合がある。
【0062】
図3は、第2実施形態に係る流路チップ11の一部を示す平面図である。
図4は、
図3に示すB-B線に沿う位置における流路チップ11の概略断面図である。
図3および
図4は、流路チップ11のうち、液貯留部40aおよび液貯留部40aの周辺の部分のみを示している。
【0063】
図3および
図4に示すように、流路チップ11は、
図1に示す液貯留部40の代わりに、あるいは、液貯留部40に加えて、液貯留部40aを備えていてもよい。液貯留部40aは、液体を貯留することが可能である。
図4に示すように、液貯留部40aは、流路カバー25に設けられた貫通孔によって構成されている。そして、流路カバー25は、液貯留部40aに液体を注入するための開口部412aを有している。なお、液貯留部40aは、
図1または
図2に示す検査用流路41のように、四方が壁で囲まれた細長に延びる管状の流路ではなく、上方が開口した凹状の穴として構成されている。
【0064】
図3および
図4に示すように、流路チップ11は、一対の検査用電極43c,43dを有する。検査用電極43c,43dは、櫛歯状に配置された複数の第2細線部433をそれぞれ有する。検査用電極43c,43dの複数の第2細線部433は、検査用電極43a,43bの複数の第2細線部433と同様に、等間隔に配置されている。複数の第2細線部433は、液貯留部40aと基板21との間に配置されている。複数の第2細線部433は、液貯留部40aと上下に重なるように配置されている。
【0065】
第2実施形態に係る流路チップ11の場合、液貯留部40aに液体を注入した状態で検査用電極43c,43dの性能を検査することによって、主電極33a,33bの性能を評価することが可能である。したがって、主流路31を使用せずに、主電極33a,33bの性能を事前に評価することができる。
【0066】
なお、検査用電極43c,43dのうち液貯留部40aと上下方向に重なる第2重複部435の面積を、主電極33a,33bの第1重複部335の面積と同じとしてもよい。これにより、検査用電極43c,43dの検査結果から、主電極33a,33bの性能を適切に評価できる。なお、この場合、検査用電極43c,43dおよびの検査結果を、検査用電極43c,43d直上の流路の断面積に依存した液体抵抗または容量成分に応じて補正してもよい。
【0067】
<3. 変形例>
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0068】
例えば、流路チップ11は、1つの基板21上に、複数の主流路31を備えてもよい。また、流路チップ11は、1つの基板21上に、複数組の主電極33a,33bを備えていてもよい。
【0069】
流路チップ11は、1つの基板21上に、複数の液貯留部40(または液貯留部40a)を備えていてもよい。また、各液貯留部40(または液貯留部40a)に対応する検査用電極43a,43b(または検査用電極43c,43d)を備えていてもよい。
【0070】
主電極33a,33bにおける、主流路31に電気的作用を及ぼす電極部分の形状は、
図1に示すような櫛歯状のものに限定されるものではなく、任意に変更し得る。これと同様に、検査用電極43a,43bおよび検査用電極43c,43dの形状も、櫛歯状のものに限定されるものではなく、任意に変更し得る。
【0071】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり、省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 誘電泳動装置
11 流路チップ
21 基板
23 絶縁保護膜
31 主流路
33a,33b 主電極
40,40a 液貯留部
41 検査用流路
43a,43b 検査用電極
43c,43d 検査用電極
211 上面(主面)
335 第1重複部
412a 開口部
435 第2重複部