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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059641
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】腸内環境改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/31 20060101AFI20230420BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 36/23 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 36/42 20060101ALI20230420BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230420BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230420BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230420BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20230420BHJP
   A23L 2/02 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
A61K36/31
A61P1/14
A61K36/23
A61K36/73
A61K36/185
A61K36/42
A61P43/00 121
A61P31/04
A61P43/00 111
A23L33/105
A23L2/52 101
A23L2/00 F
A23L2/02 E
A23L2/02 C
A23L2/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169755
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小林 惠津子
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼田 美香子
(72)【発明者】
【氏名】岡村 寿美恵
(72)【発明者】
【氏名】高井 許子
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LE05
4B018MD52
4B018MD53
4B018ME11
4B117LC04
4B117LE10
4B117LG03
4B117LG05
4B117LG08
4B117LP17
4B117LP20
4C088AB12
4C088AB15
4C088AB19
4C088AB40
4C088AB51
4C088AC03
4C088AC04
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA07
4C088MA07
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA73
4C088ZB35
4C088ZC02
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】腸内細菌叢のバランスを調整できる腸内環境改善用組成物を提供する。
【解決手段】腸内環境改善用組成物は、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有しており、腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有しており、
腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮することを特徴とする腸内環境改善用組成物。
【請求項2】
前記ブロッコリー及び前記人参と、リンゴ、ほうれん草、かぼちゃ及びキャベツを含有している請求項1に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項3】
飲料組成物として用いられる請求項1又は2に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項4】
前記腸内細菌叢のバランスの調整は、善玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を促進することによって前記腸内細菌叢における前記善玉菌の存在比率を増加させることを含む請求項1~3のいずれか一項に記載の腸内環境改善用組成物。
【請求項5】
前記腸内細菌叢のバランスの調整は、悪玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を抑制することによって前記腸内細菌叢における前記悪玉菌の存在比率を減少させることを含む請求項1~4のいずれか一項に記載の腸内環境改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内環境改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸内細菌叢(「腸内フローラ」とも呼ばれる。)を構成する細菌種の存在比率が、健康維持に重要な役割を持つことが明らかとなってきている。以下では、腸内細菌叢を構成する細菌種の存在比率のことを腸内細菌叢のバランスということもある。腸内細菌叢は、比較的安定した生態系ではあるが、様々な因子の影響を受けて、その構成や活性が変化することが知られている。例えば、ストレス、老化等により腸内細菌叢のバランスが崩れると、健康状態に影響を及ぼすおそれがある。
【0003】
従来、腸内のフィーカリバクテリウム属(以下「Faecalibacterium属」ともいう。)細菌を増殖させる取り組みが行われている。例えば特許文献1は、1-ケストースを有効成分とするFaecalibacterium属細菌増殖剤について開示する。
【0004】
腸内細菌の一例であるFaecalibacterium属細菌は、主として大腸上皮粘膜上に分泌される粘液層に常在し、短鎖脂肪酸を産生する偏性嫌気性桿菌であることが知られている。例えばフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイ(Faecalibacterium prausnitzii)は、腸内細菌叢の約5~15%を占めるといわれている。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィイは、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源である酪酸等の短鎖脂肪酸を供給したり、抗炎症作用等の生体に有用な作用を有していたりすることから次世代プロバイオティクスとして注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/159647号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、腸内細菌叢を構成する特定の細菌を増加させるだけではなく、腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮する腸内環境改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための腸内環境改善用組成物は、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有しており、腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮することを要旨とする。
【0008】
上記腸内環境改善用組成物は、前記ブロッコリー及び前記人参と、リンゴ、ほうれん草、かぼちゃ及びキャベツを含有していることが好ましい。
上記腸内環境改善用組成物は、飲料組成物として用いられることが好ましい。
【0009】
上記腸内環境改善用組成物の一例では、前記腸内細菌叢のバランスの調整は、善玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を促進することによって前記腸内細菌叢における前記善玉菌の存在比率を増加させることを含む。
【0010】
上記腸内環境改善用組成物の一例では、前記腸内細菌叢のバランスの調整は、悪玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を抑制することによって前記腸内細菌叢における前記悪玉菌の存在比率を減少させることを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腸内環境改善用組成物によれば、腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、腸内環境改善用組成物の実施例を添加した便懸濁液を培養する試験の結果として、Bifidobacterium属の相対存在比を示すグラフである。
図2図2は、同試験の結果として、Faecalibacterium属の相対存在比を示すグラフである。
図3図3は、同試験の結果として、Bilophila属の相対存在比を示すグラフである。
図4図4は、同試験の結果として、Eggerthella属の相対存在比を示すグラフである。
図5図5は、同試験の結果として、酢酸の濃度を示すグラフである。
図6図6は、同試験の結果として、プロピオン酸の濃度を示すグラフである。
図7図7は、同試験の結果として、酪酸の濃度を示すグラフである。
図8図8は、同試験の結果として、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸及び酪酸の合計)の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、腸内環境改善用組成物の一実施形態について説明する。
本実施形態の腸内環境改善用組成物は、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有している。腸内環境改善用組成物は、腸内細菌叢のバランスを調整することによって腸内環境改善作用を発揮する。
【0014】
〈野菜又は果物〉
ブロッコリーは、アブラナ属野菜の一種である。腸内環境改善用組成物に含まれるブロッコリーの部位は、特に限定されず、花、花蕾、茎、葉、根のいずれであってもよい。
【0015】
人参は、セリ科根菜の一種である。腸内環境改善用組成物に含まれる人参の部位は、特に限定されないが、根を用いることが好ましい。
腸内環境改善用組成物は、ブロッコリーと人参の両方を含有していてもよい。ブロッコリーに対する人参の質量比(人参/ブロッコリー)は、特に制限されない。
【0016】
腸内環境改善用組成物は、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種に加えて、他の野菜や果物を含有していてもよい。野菜や果物としては、例えば、アブラナ属野菜、カボチャ属果菜、リンゴ属果実、ヒユ科野菜、シソ科野菜、ナス科果菜、ヒガンバナ科野菜等が挙げられる。
【0017】
アブラナ属野菜の具体例としては、例えばキャベツ、カリフラワー、アブラナ、カブ、ケール、ハクサイ、チンゲンサイ、コマツナ等が挙げられる。
カボチャ属としては、食用の果菜であれば種類は特に限定されない。
【0018】
リンゴ属としては、食用の果実であれば種類は特に限定されない。
ヒユ科野菜の具体例としては、例えばほうれん草、オカヒジキ等が挙げられる。
シソ科野菜の具体例としては、シソ、ミント、ハーブ等が挙げられる。
【0019】
ナス科果菜の具体例としては、例えばトマト、ナス、トウガラシ、ピーマン、パプリカ、ハバネロ、ししとう等が挙げられる。
ヒガンバナ科野菜の具体例としては、例えばタマネギ、ニラ、ニンニク、ネギ、ラッキョウ等が挙げられる。
【0020】
上記野菜や果物は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。腸内環境改善用組成物としては、ブロッコリー及び人参に加えて、リンゴ、ほうれん草、かぼちゃ及びキャベツをさらに含有していることが特に好ましい。
【0021】
複数の野菜や果物を組み合わせて用いる場合には、それらの配合比率は、特に制限されず適宜設定することができる。
上述した野菜や果実の形態は、特に限定されず、摂取形態により適宜選択される。例えば液状、固体状、角切り、粉砕物、磨砕物等が挙げられる。液状としては、例えば抽出液、搾出液等が挙げられ、必要により希釈、濃縮、不溶成分の分離等の処理を行ってもよい。抽出液の溶媒としては、好ましくは水又はエタノール等の親水性有機溶媒が用いられる。固体状としては、例えば粉末状、顆粒状等が挙げられる。粉砕物又は磨砕物としては、例えばペースト、ピューレ等が挙げられる。これらの中で摂取の容易性、消化性等を考慮し、上記素材の抽出液、搾出液、粉砕物、又は磨砕物として調製されることが好ましい。上記素材は、生であってもよく、加熱等の調理が行われてもよい。上記素材、又は上記素材の加工処理物は、真空乾燥、噴霧乾燥、又は凍結乾燥等によって乾燥されたものでもよい。
【0022】
野菜や果実としては、一種の野菜や果実について上記形態のうち二つ以上を組み合わせて使用することもできる。例えば、一種の野菜や果実のピューレと、同野菜や果実の濃縮汁と、を混合して使用してもよい。二つ以上の形態を組み合わせる場合の混合比は、特に限定されず、適宜設定することができる。
【0023】
〈適用形態及び用途〉
腸内環境改善用組成物の適用形態としては、特に限定されず、例えば食品組成物、医薬組成物、医薬部外品組成物として適用される。腸内環境改善用組成物は、上述した処理された素材をそのまま食品組成物、医薬組成物等の素材として用いてもよいし、薬学上又は食品衛生学上許容される基剤、担体、添加物等を適宜配合したうえで、製品としてもよい。
【0024】
腸内環境改善用組成物を、食品、飲料等の食品組成物に適用する場合、例えば各種飲料、食品添加用組成物、各種菓子類(ウェハース、ビスケット等の焼き菓子、飴、タブレット、グミ、シリアル等)、錠剤、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、パン類、各種加工食品、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、スープ類、水に溶かしてから飲用するためのタブレット等に適用できる。飲料は、清涼飲料水の他、アルコール飲料、ノンアルコール飲料のいずれにも適用できる。飲料の具体例としては、例えば野菜飲料、野菜・果実飲料、スポーツドリンク、食酢入り飲料、栄養ドリンク、ワイン、梅酒、各種炭酸飲料、粉末飲料(粉末野菜飲料等)等が挙げられる。組み合わせる果汁の種類についても特に限定されるものではなく、例えばレモン、グレープフルーツ、ミカン、ライム等の柑橘類、リンゴ、パイナップル、プルーン、ブドウ、ブルーベリー、モモ、アサイ、キウイ、イチゴ、マンゴー、ウメ等の果実由来の果汁が挙げられる。これらの中で上述した素材を効率よく摂取できる観点から、野菜飲料、野菜・果実飲料への適用が好ましい。飲料を充填する容器は、常用される容器であれば何れでもよく、例えば缶、ビン、PET(ポリエチレンテレフタレート)ボトル等のプラスチック容器、紙容器等が挙げられる。そのように保存することで、長期的に変性・変質が抑えられた飲料を得ることができる。
【0025】
腸内環境改善用組成物の用途としては、特に限定されないが、例えば以下のものがある。
腸内環境改善用組成物を食品組成物に適用する場合の用途としては、いわゆる[1]一般食品、[2]栄養補助食品、健康補助食品、栄養調整食品、サプリメント等の健康食品、[3]特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、機能性食品等の保健機能食品、[4]病者用食品、乳児用食品等の特別用途食品等が挙げられる。飲食品において用途の表示を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。飲食品において用途の表示には、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。
【0026】
腸内環境改善用組成物を、医薬組成物や医薬部外品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、経腸投与等を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば錠剤、丸剤、散剤、液剤、坐剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤等として構成してもよい。医薬組成物や医薬部外品として用いる場合、薬学的に許容される基剤、担体、添加剤として、例えば溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等が例示できる。
【0027】
腸内環境改善用組成物は、経口摂取により優れた腸内環境の改善作用を発揮する。また、腸内環境の改善の他、腸内環境の維持又は悪化の防止のために用いられてもよい。このため、腸内環境改善用組成物は、食品組成物、医薬組成物、医薬部外品の用途として適用されることが好ましい。腸内環境改善用組成物は、飲料組成物として構成されることが特に好ましい。
【0028】
腸内環境改善用組成物による腸内環境改善作用は、腸内細菌叢のバランスの調整によって発揮される。具体的には、腸内環境改善用組成物は、善玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を促進することによって腸内細菌叢における善玉菌の存在比率を増加させることで、腸内細菌叢のバランスを調整することができる。善玉菌としては、ビフィドバクテリウム属(以下「Bifidobacterium属」ともいう。)、Faecalibacterium属等が挙げられる。また、腸内環境改善用組成物は、悪玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を抑制することによって腸内細菌叢における悪玉菌の存在比率を減少させることで、腸内細菌叢のバランスを調整することもできる。悪玉菌としては、ビロフィラ属(以下「Bilophila属」ともいう。)、エガセラ属(以下「Eggerthella属」ともいう。)等が挙げられる。
【0029】
腸内環境改善作用は、腸内細菌叢によって産生される代謝産物によっても発揮される。代謝産物の一例は、短鎖脂肪酸である。短鎖脂肪酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。腸内環境改善用組成物は、腸内細菌叢による短鎖脂肪酸の産生を促進することもできる。
【0030】
腸内環境改善用組成物の用途の表示内容としては、腸内細菌叢のバランス調整、腸内細菌叢全体のバランス調整、善玉菌の増殖促進、善玉菌の増加、善玉菌の減少抑制、悪玉菌の増殖抑制、悪玉菌の増加抑制、悪玉菌の減少、それらの示唆等の表示が挙げられる。また、それらの示唆としては、腸内細菌叢における善玉菌によって産生される短鎖脂肪酸の産生又は増加、短鎖脂肪酸の産生又は増加による腸内環境の改善等の表示が例示される。
【0031】
用途の表示内容としては、腸内環境の改善の表示の他、上述した腸内環境の維持又は悪化の防止等の表示が挙げられる。また、これらの改善、維持、又は悪化の防止を示唆する表示も含まれる。例えば腸内フローラの改善、便通の改善、便秘の改善、便のかたさの改善等の表示が挙げられる。より具体的には、腸内環境を改善し、便通を改善する、腸内フローラを改善し、便通を改善する、便秘気味な方に適した食品、おなかの調子を整える、硬めの便の状態を柔らかく又はなめらかにする、腸内の酪酸産生菌等の善玉菌を増加させ、腸内環境を改善又は便通を改善する、排便回数又は排便量を増加する、腸管バリア機能を高める、おなかの不快感を軽減する、有用菌を増やす等の表記が例示される。
【0032】
腸内環境を整えることは、腸内環境に直接的に関係する作用に留まらず、腸内環境から波及する作用を期待できる。例えば、腸内環境を整えることは、生活習慣病予防、免疫を整える、代謝改善、認知機能改善、睡眠改善、体質改善等に繋がる。すなわち、用途の表示内容としては、生活習慣病予防、免疫を整える、太りにくくする、体脂肪を低減する、認知機能を改善する、睡眠の質を改善する、体質を改善する等を表示することもできる。これらの表示は、例えば、大人向け製品に表示することが考えられる。
【0033】
腸内環境を改善して腸内環境をよりよく育てることは、例えば、アトピー性皮膚炎予防、アレルギー性疾患予防、感染症予防、認知機能発達、睡眠改善に繋がる。すなわち、用途の表示内容としては、腸内環境をよりよく育てる、アトピー性皮膚炎予防、アレルギー性疾患予防、感染症予防、免疫力を高める、免疫力を育てる、免疫を整える、強いからだを育てる、体質を改善する、免疫力を維持する、認知機能の発達を助ける、睡眠の質を改善する等を表示することもできる。これらの表示は、例えば、幼児向け製品に表示することが考えられる。
【0034】
〈作用及び効果〉
本実施形態の作用について説明する。
腸内環境改善用組成物は、善玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を促進することによって腸内細菌叢における善玉菌の存在比率を増加させる。例えば、腸内細菌叢における善玉菌が腸内環境改善用組成物を代謝することによって、善玉菌の増殖が促進される。また、例えば、次のような作用機序も考えられる。まず、腸内環境改善用組成物によって、腸内細菌叢におけるある細菌による代謝産物の産生が促進される。続いて、上記代謝産物によって、腸内細菌叢における別の細菌の増殖が促進される。
【0035】
腸内環境改善用組成物は、悪玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を抑制することによって腸内細菌叢における悪玉菌の存在比率を減少させる。
また、腸内環境改善用組成物は、腸内細菌叢による短鎖脂肪酸の産生を促進する。これによって、短鎖脂肪酸の濃度が増加する。
【0036】
腸内環境改善用組成物は、善玉菌の存在比率を増加させること、及び悪玉菌の存在比率を減少させることの少なくとも一方の作用によって、腸内細菌叢のバランスを調整することができる。
【0037】
腸内環境改善用組成物による腸内環境改善作用は、腸内細菌叢のバランスを調整すること、及び短鎖脂肪酸の濃度を増加させることの少なくとも一方の作用によって発揮される。
【0038】
本実施形態の効果について説明する。
(1)腸内環境改善用組成物によれば、腸内細菌叢における善玉菌の存在比率が増加されることで、腸内環境の改善による効果が得られる。例えば、Bifidobacterium属の存在比率が増加されると、Bifidobacterium属が産生する酢酸によって、腸管出血性大腸菌O157:H7の感染を予防する効果が期待できる。例えば、Faecalibacterium属の存在比率が増加されると、Faecalibacterium属が産生する酪酸によって、潰瘍性大腸炎を予防する効果が期待できる。
【0039】
(2)腸内環境改善用組成物によれば、腸内細菌叢における悪玉菌の存在比率が減少されることで、腸内環境の改善による効果が得られる。例えば、Bilophila属の存在比率が減少されると、大腸がんを抑制する効果が期待できる。また、例えば、Bilophila属の存在比率が減少されると、耐糖能異常を改善する効果が期待できる。例えば、Eggerthella属の存在比率が減少されると、2型糖尿病を予防する効果が期待できる。
【0040】
(3)腸内環境改善用組成物によれば、腸内細菌叢を構成する特定の細菌の増殖を促進するだけではなく、善玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を促進することができる。これによって、腸内細菌叢の全体のバランスを調整することができる。
【0041】
(4)腸内環境改善用組成物によれば、腸内細菌叢を構成する特定の細菌の増殖を抑制するだけではなく、悪玉菌に分類される複数の細菌属の増殖を抑制することができる。これによって、腸内細菌叢の全体のバランスを調整することができる。
【0042】
(5)腸内環境改善用組成物によれば、短鎖脂肪酸の濃度が増加されることで、腸内環境の改善による効果が得られる。例えば、酢酸の濃度が増加されることによって期待される効果として、肥満抑制、炎症抑制、腸管出血性大腸菌O157:H7の感染予防が挙げられる。例えば、プロピオン酸の濃度が増加されることによって期待される効果として、耐糖能改善、肥満抑制、炎症抑制、がん抑制が挙げられる。例えば、酪酸の濃度が増加されることによって期待される効果として、耐糖能改善、肥満抑制、炎症抑制、がん抑制が挙げられる。また、酪酸は、大腸粘膜固有層においてエピジェネティックにナイーブT細胞のFoxp3遺伝子の発現を誘導して、制御性T細胞(Treg)への分化を誘導する。Tregは、過剰な炎症反応に対して抑制的に作用して、アレルギー、アトピー等の発症を抑える。このため、酪酸の濃度が増加されることによって、腸管免疫を整えることが期待される。さらに、酪酸は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源にもなるため、酪酸の濃度増加は、大腸の機能維持に働くことが期待される。
【0043】
(6)腸内環境改善用組成物がブロッコリー及び人参に加えて、リンゴ、ほうれん草、かぼちゃ及びキャベツをさらに含有している場合には、より優れた腸内環境改善作用が発揮される。
【0044】
(7)腸内環境改善用組成物が飲料組成物として構成される場合には、摂取が容易になる。また、消化性に優れるため、より優れた腸内環境改善作用を期待できる。
(8)腸内環境改善用組成物を摂取することによって、腸内環境改善作用が発揮される。具体的には、腸内細菌叢の改善(腸内フローラの改善)、便通の改善、便秘の改善、便のかたさの改善等の効果が得られる。
【0045】
(9)腸内環境改善用組成物を摂取することによって腸内環境改善作用が発揮されると、整った腸内環境から波及する作用を期待できる。具体的には、生活習慣病予防、免疫を整える、アトピー性皮膚炎予防、アレルギー性疾患予防、感染症予防、免疫育成、代謝改善、認知機能改善、睡眠改善、体質改善等の効果が得られる。
【0046】
〈変更例〉
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0047】
・上記実施形態の腸内環境改善用組成物は、一日の摂取量、摂取期間も目的・状態等に応じて適宜設定できる。
・上記実施形態の腸内環境改善用組成物は、一日当たり一回又は複数回に分けて摂取してもよい。また、腸内環境を整える観点から、例えば一週間以上継続して摂取することが好ましい。
【0048】
・ヒト以外のペット、家畜等の飼養動物の腸内環境改善のために適用してもよい。
【実施例0049】
腸内環境改善用組成物について、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお、腸内環境改善用組成物は、実施例欄に記載の構成に限定されるものではない。
各種飲料素材を調製して、in vitroのヒト便培養試験を行った。本試験によれば、ヒトの腸内に近い環境で各実施例の効果を確認することができる。
【0050】
〈素材の調製〉
各実施例の素材を下記表1及び表2に示した。実施例1、実施例2の素材は、ピューレを凍結乾燥したものを用いた。実施例3の処方品は、それぞれ原料(濃縮汁、ストレート汁又はピューレ)を混合して殺菌し、紙容器(カートカン:トッパンパッケージングサービス社製)に充填したものを使用した。なお、実施例3の各素材の形態は、実施例1及び実施例2で使用のものと同様とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
〈便培養試験〉
健康な男女から採取した便を使用して便懸濁液を調製した。ここでは、過去の調査により腸内細菌叢プロファイルが予め判明している被験者の中から腸内細菌叢プロファイルが異なる6名を抽出して、抽出した6名の便を使用した。
【0053】
実施例1~3の各素材を濃度が0.3%(w/v)となるように便懸濁液に添加した。コントロールとして、酸素除去済み超純水を便懸濁液に添加した。その後、37℃、嫌気条件下で16時間、各便懸濁液の培養を行った。培養後の便培養液を遠心分離した。
【0054】
〈マイクロバイオーム解析〉
便培養液を遠心分離したペレットを使用して、16S rRNA遺伝子配列を用いたメタゲノム解析を行った。16S rRNA遺伝子配列を用いたメタゲノム解析は、公知の方法に従った。
【0055】
得られた各細菌属の相対存在比に基づいて、各素材の添加によって相対存在比が有意に変動した細菌属を統計解析により探索した。本試験では、コントロール、各実施例間で比較検定を実施した。比較検定にはノンパラメトリックな対応有り2群比較検定であるWilcoxonの符号順位検定を採用した。結果を図1図4に示す。各図中の「*」は、p<0.05であることを示す。
【0056】
図1に示すように、実施例1~3におけるBifidobacterium属の相対存在比は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、Bifidobacterium属の相対存在比が高い傾向が見られた。
【0057】
図2に示すように、実施例1及び2におけるFaecalibacterium属の相対存在比は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。
図3に示すように、実施例1~3におけるBilophila属の相対存在比は、コントロールに対して有意に減少することが確認できた。
【0058】
図4に示すように、実施例1~3におけるEggerthella属の相対存在比は、コントロールに対して有意に減少することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、Eggerthella属の相対存在比が低い傾向が見られた。
【0059】
〈メタボローム解析〉
便培養液を遠心分離した上清を使用して、腸内細菌叢によって産生される代謝産物の定量評価を行った。
【0060】
得られた各代謝産物の濃度に基づいて、各素材の添加によって濃度が有意に変動した代謝産物を統計解析により探索した。上記マイクロバイオーム解析の場合と同様に、Wilcoxonの符号順位検定を実施した。結果を図5図8に示す。各図中の「*」は、p<0.05であることを示す。
【0061】
図5に示すように、実施例1~3における酢酸の濃度は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、酢酸の濃度が高い傾向が見られた。
【0062】
図6に示すように、実施例1~3におけるプロピオン酸の濃度は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、プロピオン酸の濃度が有意に高いことが確認できた。
【0063】
図7に示すように、実施例1~3における酪酸の濃度は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、酪酸の濃度が有意に高いことが確認できた。
【0064】
図8は、酢酸、プロピオン酸及び酪酸を合計した濃度を短鎖脂肪酸(合計)として示す。図8に示すように、実施例1~3における短鎖脂肪酸(合計)の濃度は、コントロールに対して有意に増加することが確認できた。実施例3の場合には、実施例1と比較して、短鎖脂肪酸(合計)の濃度が有意に高いことが確認できた。
【0065】
〈評価〉
便培養液の解析結果から、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有している実施例1~3によって、ヒトの腸内に近い環境で腸内細菌叢のバランスを調整する効果が得られることが分かった。
【0066】
具体的には、図1及び図2に示すように、善玉菌であるBifidobacterium属及びFaecalibacterium属の存在比が増加していた。このことから、Bifidobacterium属及びFaecalibacterium属の増殖が促進されていることが分かった。さらに、図3及び図4に示すように、悪玉菌であるBilophila属及びEggerthella属の存在比が減少していた。このことから、Bilophila属及びEggerthella属の増殖が抑制されていることが分かった。すなわち、複数の善玉菌の増殖促進、且つ、複数の悪玉菌の増殖抑制によって、腸内細菌叢のバランスを調整する効果が得られることが分かった。
【0067】
便培養液の解析結果から、ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有している実施例1~3によって、ヒトの腸内に近い環境で腸内細菌叢の代謝産物である短鎖脂肪酸の産生が促進される効果が得られることが分かった。
【0068】
具体的には、図5図8に示すように、酢酸、プロピオン酸、酪酸の濃度が増加していた。このことから、これらの短鎖脂肪酸を産生する細菌属の存在比率が増加していることが示唆される。また、同細菌属による短鎖脂肪酸の産生が促進されていることが示唆される。
【0069】
便培養液の解析結果から、ブロッコリー、人参、リンゴ、ほうれん草、かぼちゃ及びキャベツを組み合わせた実施例3によって、腸内細菌叢のバランスを調整する効果及び短鎖脂肪酸の産生を促進する効果が向上することが分かった。
【0070】
ブロッコリー及び人参から選ばれる少なくとも一種を含有している飲料組成物を摂取すると、腸内細菌叢のバランスを調整する効果及び短鎖脂肪酸の産生を促進する効果を奏することを期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8