(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059746
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】研削砥石の形状崩れ判定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/10 20060101AFI20230420BHJP
B24B 45/00 20060101ALI20230420BHJP
B24B 7/17 20060101ALI20230420BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
B24B49/10
B24B45/00 B
B24B7/17 Z
B23Q17/09 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169932
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】五十君 智
(72)【発明者】
【氏名】籾井 孝平
【テーマコード(参考)】
3C029
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C029DD16
3C034AA08
3C034BB76
3C034BB92
3C034CA24
3C034CB13
3C034DD05
3C043BC07
3C043CC04
3C043CC11
3C043DD05
3C043DD14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】研削砥石の研削面内のうちの特定の箇所における局所的な研削抵抗の増加すなわち局所的な形状崩れの増加を行なうことができる、研削砥石の形状崩れ判定装置を、提供する。
【解決手段】評価値算出部72において、積算強度値算出部70により算出されたAE信号の積算強度値Xiを示す波形に基づいて、波形の振幅を表す差分の平均値Ravが、評価値として算出され、形状崩れ判定部76において、評価値算出部70により算出された差分Rの平均値Ravが差分用形状崩れ判定閾値SPtを超えたことに基づいて、平面研削砥石12の端面12aにおける局所的な形状崩れの発生が判定される。これにより、平面研削砥石12の端面12a内の局所的な形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで平面研削砥石12のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削砥石の端面を研削面として複数個の被削材に順次摺接させることで前記複数個の被削材に平坦な研削面を連続的に形成する研削加工において、前記研削砥石と前記被削材との接触に起因して発生するAE信号に基づいて前記研削面内の局所的な形状崩れを判定する研削砥石の形状崩れ判定方法であって、
前記研削加工中に発生するAE信号の積算強度値を算出する積算強度値算出工程と、
前記積算強度値算出工程により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値を算出する評価値算出工程と、
前記評価値算出工程により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、前記研削砥石の端面における形状崩れの発生を判定する形状崩れ判定工程とを、含む
ことを特徴とする研削砥石の形状崩れ判定方法。
【請求項2】
研削砥石の端面を研削面として複数個の被削材に順次摺接させることで前記複数個の被削材に平坦な研削面を連続的に形成する研削加工において、前記研削砥石と前記被削材との接触に起因して発生するAE信号に基づいて前記研削面内の局所的な形状崩れを判定する研削砥石の形状崩れ判定装置であって、
前記研削加工中に発生するAE信号の積算強度値を算出する積算強度値算出部と、
前記積算強度値算出部により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値を算出する評価値算出部と、
前記評価値算出部により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、前記研削砥石の端面における形状崩れの発生を判定する形状崩れ判定部とを、含む
ことを特徴とする研削砥石の形状崩れ判定装置。
【請求項3】
前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の極大値と極小値との差分又は比の平均値を、前記評価値として算出する
ことを特徴とする請求項2の研削砥石の形状崩れ判定装置。
【請求項4】
前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の移動標準偏差を、前記評価値として算出する
ことを特徴とする請求項2の研削砥石の形状崩れ判定装置。
【請求項5】
前記研削砥石は、回転主軸とともに回転するフランジに固定されるものであり、
前記フランジには、前記フランジの径方向に異なる位置に固定され、前記AE信号を出力する一対の外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとが、装着され、
前記送信モジュールから送信されたAE信号を受信する受信回路と、前記積算強度値算出部、前記評価値算出部、および前記形状崩れ判定部を有し、前記受信回路から出力されたAE信号を処理する電子制御装置とを、含む
ことを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1の研削砥石の形状崩れ判定装置。
【請求項6】
前記フランジは、前記研削砥が固定された面とは反対側の面に開口して、前記外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとを収容する電子部品収容室を、備え、
前記フランジには、前記電子部品収容室の開口を閉じる蓋板が締結され、
前記蓋板の前記フランジ側とは反対側の面には、ネジ穴が設けられ、
前記フランジの回転バランスを整合するためのバランシングウエイトが前記ネジ穴に締結されている
ことを特徴とする請求項5の研削砥石の形状崩れ判定装置。
【請求項7】
前記蓋板には、前記送信モジュールから送信される電波を通過させる窓口が形成されている
ことを特徴とする請求項6の形状崩れ判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面研削に際して披加工物に摺接させる平坦な研削面を端面に有する平削砥石の形状崩れを判定する、研削砥石の形状崩れ判定方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平面研削加工においては、研削砥石の形状崩れによりスクラッチの発生、平面度・平坦度の低下、極端な偏磨耗、取り代の不足といた問題が発生する。研削砥石の形状崩れは、研削加工後に研削砥石の半径方向の断面形状を、触針式変位計やレーザー変位計を用いて測定することができるが、研削加工中に形状崩れを検知してドレッシングの開始を判定することは難しい。よって、充分な余力を持たせたドレッシングインターバルが設定されることが多く、研削砥石の寿命を減少させる原因となっていた。
【0003】
これに対して、特許文献1に記載されているように、研削砥石を回転駆動するモータの消費電力値或いは研削砥石の軸たわみ量に基づいて、研削砥石の研削抵抗の増加を検知することが行なわれている。これによれば、研削盤による研削加工を停止させなくても、研削砥石の研削抵抗の増加が所定以上となることに基づいて研削砥石のドレッシング要否を判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の形状崩れ判定装置は、回転する研削砥石の研削面全体の研削負荷の増加に基づいて研削砥石の研削面全体の形状崩れを検知するものであるので、研削砥石の研削面内のうちの特定の箇所における局所的な形状崩れを検知することができなかった。このため、研削砥石の端面を研削面として複数個の被削材を平面研削する研削加工、たとえば両頭平面研削盤に用いる研削加工において、研削面内の局所的な形状崩れを形状修正するドレッシング(ツルーイング)の開始を、適切なタイミングで判定することができなかった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、研削砥石の研削面内のうちの特定の箇所における局所的な形状崩れの増加を判定することができる、研削砥石の形状崩れ判定装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、研削砥石の平坦な端面を研削面として複数個の被削材を順次平面研削する研削加工において、研削加工中に被削材との接触により発生するAE信号(高周波振動或いは超音波振動)の積算強度値波形の振幅が時間経過とともに増加することに着目し、そのAE信号の積算強度値波形の振幅増加を示す評価値が研削面内の所定の判定閾値を超えたことに基づいて、前記研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を行なうことができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて為されたものである。
【0008】
すなわち、第1発明の要旨とするところは、(a)研削砥石の端面を研削面として複数個の被削材に順次摺接させることで前記複数個の被削材に平坦な研削面を連続的に形成する研削加工において、前記研削砥石と前記被削材との接触に起因して発生するAE信号に基づいて前記研削面内の局所的な形状崩れを判定する研削砥石の形状崩れ判定方法であって、(b)前記研削加工中に発生するAE信号の積算強度値を算出する積算強度値算出工程と、(c)前記積算強度値算出工程により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値を算出する評価値算出工程と、(d)前記評価値算出工程により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、前記研削砥石の端面における形状崩れの発生を判定する形状崩れ判定工程とを、含むことにある。
【0009】
第2発明の要旨とするところは、(a)研削砥石の端面を研削面として複数個の被削材に順次摺接させることで前記複数個の被削材に平坦な研削面を連続的に形成する研削加工において、前記研削砥石と前記被削材との接触に起因して発生するAE信号に基づいて前記研削面内の局所的な形状崩れを判定する研削砥石の形状崩れ判定装置であって、(b)前記研削加工中に発生するAE信号の積算強度値を算出する積算強度値算出部と、(c)前記積算強度値算出部により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値を算出する評価値算出部と、(d)前記評価値算出部により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、前記研削砥石の端面における形状崩れの発生を判定する形状崩れ判定部とを、含むことにある。
【0010】
第3発明の要旨とするところは、第2発明において、(d)前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の極大値と極小値との差分又は比の平均値を、前記評価値として算出することにある。
【0011】
第4発明の要旨とするところは、第2発明において、(d)前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の移動標準偏差を、前記評価値として算出することにある。
【0012】
第5発明の要旨とするところは、第2発明から第4発明のいずれか1の発明において、前記研削砥石は、回転主軸とともに回転するフランジに固定されるものであり、前記フランジには、前記フランジの径方向に異なる位置に固定され、前記AE信号を出力する一対の外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとが、装着され、前記送信モジュールから送信されたAE信号を受信する受信回路と、前記積算強度値算出部、前記評価値算出部、および前記形状崩れ判定部を有し、前記受信回路から出力されたAE信号を処理する電子制御装置とを、含むことにある。
【0013】
第6発明の要旨とするところは、第5発明において、前記フランジは、前記研削砥石が固定された面とは反対側の面に開口して、前記外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとを収容する電子部品収容室を、備え、前記フランジには、前記電子部品収容室の開口を閉じる蓋板が締結され、前記蓋板の前記フランジ側とは反対側の面には、ネジ穴が設けられ、前記フランジの回転バランスを整合するためのバランシングウエイトが前記ネジ穴に締結されていることにある。
【0014】
第7発明の要旨とするところは、第6発明において、前記蓋板には、前記送信モジュールから送信される電波を通過させる窓口が形成されていることにある。
【発明の効果】
【0015】
第1発明の研削砥石の形状崩れ判定方法によれば、評価値算出工程において、積算強度値算出工程により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値が算出され、形状崩れ判定工程において、評価値算出工程により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、研削砥石の端面における局所的な形状崩れの発生が判定される。これにより、研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0016】
第2発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、評価値算出部において、積算強度値算出部により算出された前記AE信号の積算強度値を示す波形に基づいて、前記波形の振幅を表す評価値が算出され、形状崩れ判定部において、評価値算出部により算出された前記評価値の増加が予め設定された判定閾値を超えたことに基づいて、研削砥石の端面における局所的な形状崩れの発生が判定される。これにより、研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0017】
第3発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の極大値と極小値との差分又は比の平均値が、前記評価値として算出される。これにより、前記AE信号の積算強度値を示す波形の極大値と極小値との差分又は比に基づいて、研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0018】
第4発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、前記評価値算出部は、前記AE信号の積算強度値を示す波形の移動標準偏差が、前記評価値として算出される。これにより、前記AE信号の積算強度値を示す波形の移動標準偏差に基づいて、研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0019】
第5発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、前記研削砥石は、回転主軸とともに回転するフランジに固定されるものであり、前記フランジには、前記フランジの径方向に異なる位置に固定され、前記AE信号を出力する一対の外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとが、装着され、前記送信モジュールから送信されたAE信号を受信する受信回路と、前記積算強度値算出部、前記評価値算出部、および前記形状崩れ判定部を有し、前記受信回路から出力されたAE信号を処理する電子制御装置とを、含む。これにより、回転する研削砥石に発生するAE信号が位置固定の受信回路に受信され、電子制御装置が受信回路により受信されたAE信号を処理することにより、研削面内の特定の箇所における形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで研削砥石のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0020】
第6発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、前記フランジは、前記研削砥石が固定された面とは反対側の面に開口して、前記外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと、前記AE信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとを収容する電子部品収容室を、備え、前記フランジには、前記電子部品収容室の開口を閉じる蓋板が締結され、前記蓋板の前記フランジ側とは反対側の面には、ネジ穴が設けられ、前記フランジの回転バランスを整合するためのバランシングウエイトが前記ネジ穴に締結されている。これにより、外周側AEセンサおよび内周側AEセンサと前記AE信号をA/D変換するA/D変換器とA/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュールとが装着されることでフランジの重心が回転中心から偏在しても、バランシングウエイトによってフランジの重心が回転中心へ近づけられるので、重心の偏在による回転振動が好適に抑制される。
【0021】
第7発明の研削砥石の形状崩れ判定装置によれば、前記蓋板には、前記送信モジュールから送信される電波を通過させる窓口が形成されている。これにより、蓋板が剛性の高い金属製であっても、送信モジュールから送信される電波が、蓋板を通して送信される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施例の両頭平面研削盤の構成を説明する図である。
【
図2】
図1の両頭平面研削盤の要部を簡単に説明する斜視図である。
【
図3】
図1の平面研削砥石が固定されるフランジの平面研削砥石側とは反対側の一面に形成された電子部品収容室、および、その電子部品収容室内に設けられた一対の外周側および内周側AEセンサ、電子回路基板、一対の電源バッテリを示す図である。
【
図4】
図3の平面研削砥石が取り付けられるフランジを詳しく説明する断面図である。
【
図5】
図3のフランジの一面に形成された電子部品収容室の開口を閉じる蓋板を示す図である。
【
図6】バランシングウエイトWを
図5の蓋板に着脱可能に固定する固定装置を説明する図である。
【
図7】フランジ26に装着された電子回路基板の構成を説明する図である。
【
図8】
図1の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図9】
図1の電子制御装置の他の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【
図10】
図1および
図2の両頭平面研削盤において、上側の平面研削砥石および下側の平面研削砥石と被削材を送るキャリアとの重なり構造を説明する平面概略図である。
【
図11】
図1および
図2の両頭平面研削盤の研削面における、上側の平面研削砥石および下側の平面研削砥石の被削材の移動軌跡に沿った表面形状を示す図である。
【
図12】
図1および
図2の両頭平面研削盤による研削体積200cm
3分の研削加工後における、上側の平面研削砥石および下側の平面研削砥石の被削材の移動軌跡に沿った表面形状を示す図である。
【
図13】研削初期において、
図2の両頭平面研削盤の被削材の移動軌跡に沿った、一対の平面研削砥石の間隔を説明する模式図である。
【
図14】研削後期において、
図2の両頭平面研削盤の被削材の移動軌跡に沿った、一方の平面研削砥石と他方の平面研削砥石との間隔の変化を説明する模式図である。
【
図15】外周側AEセンサから得られたAE信号強度の時間軸波形を示す図である。
【
図16】
図15の時間軸波形の、極大値の包絡線と極小値の包絡線とを示す図である。
【
図17】内周側AEセンサから得られたAE信号強度の時間軸波形の、極大値の包絡線と極小値の包絡線とを示す図である。
【
図18】
図16の時間軸波形の極大値の包絡線と極小値との差分(評価値)の時間変化を、一対の平面研削砥石の間隔の累積補正量と共に示す図である。
【
図19】
図17の時間軸波形の極大値の包絡線と極小値との差分(評価値)の時間変化を、一対の平面研削砥石の間隔の累積補正量と共に示す図である。
【
図20】
図15の時間軸波形の移動標準偏差(評価値)の時間変化を、一対の平面研削砥石の間隔の累積補正量と共に示す図である。
【
図21】内周側AEセンサから得られたAE信号強度の時間軸波形の移動標準偏差(評価値)の時間変化を、一対の平面研削砥石の間隔の累積補正量と共に示す図である。
【
図22】外周側AEセンサから得られたAE信号から、4種の積分周波数範囲のAE信号強度値を示す波形についてそれぞれ求めた研削中の移動標準偏差Rmの時間変化を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は発明に関連する要部を説明するものであり、寸法及び形状等は必ずしも正確に描かれていない
【実施例0024】
図1において、両頭平面研削盤10は、相対向する一対の平面研削砥石12および14を相対回転可能に備え、それら平面研削砥石12および14の平坦な端面12aおよび14a間で挟圧した状態で、たとえば焼入れ鋼製の円形の被削材16の両面を平面に研削する。端面12aおよび14aは、平面研削砥石12および14の環状の研削面として機能している。平面研削砥石12および14は、後述の砥石回転駆動モータ56および58によって、相互に逆方向に回転駆動される。
【0025】
図2は、平面研削砥石12および14と、平面研削砥石12および14の平坦な端面間を通して円形の被削材16を搬送する過させるキャリア18とを示す斜視図である。キャリア18は、円形の被削材16を嵌め入れる円形の搬送穴20を周方向に等間隔で備える円板であり、平面研削砥石12および14の垂直な第1回転中心線CL1に平行な第2回転中心線CL2まわりに、後述のワーク送りモータ54によって回転駆動される。
【0026】
平面研削砥石12および14は、その裏面が、両頭平面研研削盤10において同心且つ独立に設けられた一対の主軸22および24とともに一体的に回転する厚肉円板状の
図3に示すフランジ26および28にそれぞれ密着させられた状態で、
図4に示すように、平面研削砥石12および14に埋設された図示しないナットに貫通穴27(
図3参照)を通して螺合する図示しない締結ボルトを用いてフランジ26および28にそれぞれ固定されている。
【0027】
平面研削砥石12および14のうちの上側の平面研削砥石12を固定するフランジ26には、平面研削砥石12側とは反対側の面に開口する電子部品収容室30とが形成されている。電子部品収容室30の開口は、たとえば
図5に示す円形鋼板製の蓋板32に押えられたシールゴム板34により閉じられている。蓋板32およびシールゴム板34は、それらを貫通し且つフランジ26の螺子穴35に螺合する締結ボルト37により固定されている。蓋板32には、送信モジュール52を含む電子回路基板44の位置と一致するように、複数個の矩形の窓口33のうちのいずれか1つが形成されており、送信モジュール52から電波が外部へ送信されるようになっている。また、蓋板32の平面研削砥石12側とは反対側の面には、ねじ穴38が、蓋板32の周縁に沿って周方向に一定の間隔で複数個形成されている。
図6に示す、フランジ26の回転バランスを調節するバランシングウエイトWを固定する固定ボルト39が、ねじ穴38に締結されている。
【0028】
フランジ26に形成された電子部品収容室30内には、一対の外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42と、電子回路基板44と、一対の電源バッテリ46とが、配置されている。電子回路基板44は、
図7に示すように、外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42の出力信号を増幅する前置増幅器48、前置増幅器48の出力信号をデジタル信号に変換するA/D変換器50、A/D変換器50によりデジタル信号に変換された外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42の出力信号を無線で送信する送信モジュール52を、備えている。A/D変換器50は、高分解能を有し、10μ秒(マイクロ秒)以下のサンプリング周期、好適には5μ秒以下のサンプリング周期、さらに好適には1μ秒以下のサンプリング周期で、AE信号SAEをデジタル信号に変換する。
【0029】
外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42は、フランジ26の一半径方向に沿って半径方向に異なる位置に配置されている。外周側AEセンサ40は、フランジ26の回転軸線CLから外周側へ向かってフランジ26の半径の80%以上好適には90%の位置にあり、内周側AEセンサ42は、フランジ26の回転軸線CLから外周側へ向かってフランジ26の半径の35%以上且つ50%以下好適には40%程度の位置に配置されている。
【0030】
図1に戻って、両頭平面研削盤10は、ワーク送りモータ54、上側の平面研削砥石12を回転駆動する砥石回転駆動モータ56、および下側の平面研削砥石14を回転駆動する砥石回転駆動モータ58を回転駆動するモータ駆動制御装置60と、研削起動操作に応答してモータ駆動制御装置60に駆動指令信号を出力するとともに、研削中に外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42からの平面研削砥石12と被削材16との接触(摺接)に由来するAE信号に基づいて、平面研削砥石12の端面(研削面)12aの形状崩れを判定する電子制御装置62とを備えている。また、両頭平面研削盤10は、電子回路基板44内の送信モジュール52から送信されたAE信号SAEを受信するためのアンテナ64を有する受信回路66を、備えている。
【0031】
電子制御装置62は、CPU、ROM、RAM、インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って、平面研削砥石12および平面研削砥石14を回転駆動するとともに、それら平面研削砥石12および平面研削砥石14の端面(研削面)12aおよび14aの間に、被削材16を順次連続的に送るようにキャリア18を回転駆動するようにモータ駆動制御装置60を作動させる。この被削材16の連続的な研削中には、被削材16の厚み寸法が予め設定された交差内に入るように、自動又は手動で、平面研削砥石12の端面(研削面)12aと平面研削砥石14の端面(研削面)14aとの間が、時間経過と共に累積(切込)補正量AAが付与されることで、端面(研削面)12aおよび端面(研削面)14aの摩耗を補償するように調節される。また、電子制御装置62は、形状崩れ判定装置としても機能し、研削中に受信回路66により受信されたAE信号SAEを処理し、主として平面研削砥石12の端面(研削面)12aの局所的な形状崩れの判定を行なうとともに、その形状崩れおよびドレッシング開始の必要性を、面状態表示装置78に表示させる。
【0032】
電子制御装置62は、周波数解析部68、積算強度値算出部70、評価値算出部72、形状崩れ判定閾値設定部74、形状崩れ判定部76を、機能的に備えている。
【0033】
周波数解析部68は、周波数解析工程に対応しており、研削砥石12、14の研削中において、A/D変換されたAE信号SAEの周波数解析(FFT)を行なって、信号パワーを示す縦軸と周波数を示す横軸との二次元座標において、周波数成分の大きさを示す種々の信号パワーを周波数毎に周波数軸(横軸)上に示すパワースペクトラムを生成する。積算強度値算出部70は、積算強度値算出工程に対応しており、AE信号SAEのうち研削加工中の平面研削砥石12と被削材16との接触振動を敏感に反映する周波数帯たとえば25kHz以上200kHz以下の波長帯、好適には45から75kHzの波長帯の信号成分を弁別し、その信号成分の積分値(面積値)をAE信号強度値Xiとして出力する。上記周波数解析周期および積分強度値算出周期(周期)は、
図10の円弧状の移動軌跡TRに沿った被削材16の、上側の平面研削砥石12と下側の平面研削砥石14との間の通過時間Δtの半分以下の時間に設定される。被削材16が上側の平面研削砥石12と下側の平面研削砥石14との間に入る際の振動を高感度に検知するためである。
【0034】
評価値算出部72は、評価値算出工程に対応しており、AE信号強度値Xiの時間波形から、数ms乃至十ms程度に予め設定された小区間内の極大値SPmaxと極小値SPminとの小区間内差分R(=SPmax-SPmin)を順次求められるとともに、たとえば20s(秒)程度に予め設定された評価値算出区間毎に、小区間毎の差分R1~Rnの平均値Rav(R1+R2+・・+Rn/n)を、形状崩れを評価するための評価値として、繰り返し算出する。ここで、nは小区間数を示している。
【0035】
また、評価値算出部72は、AE信号強度Xiの時間波形のうちのたとえば数秒~十数秒程度に予め設定された移動する評価値算出区間毎に、評価値算出区間内の時間波形の移動標準偏差σm〔=√(1/n)Σ(SP1-SPav)2〕(但し、SPavは区間平均、SP1は標準偏差)を、形状崩れを評価するための評価値として、繰り返し算出する。
【0036】
形状崩れ判定閾値設定部74は、形状崩れ判定閾値設定工程に対応しており、両頭平面研削盤10により予め行なわれた平面研削試験から、平面研削砥石12の端面(研削面)12aの局所的な形状崩れが、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの予め定められた大きさに到達したときの評価値(差分の平均値Ravおよび移動標準偏差σm)に基づいて、形状崩れを判定するための差分用形状崩れ判定閾値SPtおよび標準偏差用形状崩れ判定閾値σtを、自動的に或いは手動入力により設定する。
【0037】
形状崩れ判定部76は、形状崩れ判定工程に対応しており、評価値算出部72により算出された小区間差分ΔRの平均値ΔRavが、たとえば
図18或いは
図19に示される差分用形状崩れ判定閾値SPtを超えたことに基づいて、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの予め定められた大きさに到達したことに基づいて、平面研削砥石12の端面(研削面)12aの局所的な形状崩れを判定する。形状崩れ判定部76は、評価値算出部72により算出された評価値算出区間毎の移動標準偏差σmが、たとえば
図20或いは
図21に示される標準偏差用形状崩れ判定閾値σtを超えたことに基づいて、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの予め定められた大きさに到達した、平面研削砥石12の端面(研削面)12aの局所的な形状崩れを判定する。或いは、形状崩れ判定部76は、評価値算出部72により算出された区間差分Rの平均値Ravが差分用形状崩れ判定閾値SPtを超えたこと、および評価値算出部72により算出された区間毎の移動標準偏差σmが標準偏差用形状崩れ判定閾値σtを超えたことに基づいて、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの予め定められた大きさに到達した、平面研削砥石12の端面(研削面)12aの局所的な形状崩れを判定する。形状崩れ判定部76によって、端面(研削面)12aの形状崩れが目立てのためのドレッシングが必要となるほどの予め定められた大きさに到達したことが判定されると、その旨が、面状態表示装置78に表示される。
【0038】
図8は、電子制御装置62の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図8において、形状崩れ判定閾値設定工程或いは形状崩れ判定閾値設定部74に対応するステップS1( 以下、ステップを省略する)では、予め入力されている差分用形状崩れ判定閾値SPtが読み込まれる。続くS2では、研削加工中のAE信号SAEが読み込まれる。次いで、周波数解析工程或いは周波数解析部68に対応するS3において、AE信号SAEの周波数解析が行なわれ、号パワーを示す縦軸と周波数を示す横軸との二次元座標において、周波数成分の大きさを示す種々の信号パワーを周波数毎に周波数軸(横軸)上に示すパワースペクトルが生成される。
【0039】
続いて、積算強度値算出工程或いは積算強度値算出部70に対応するS4では、パワースペクトルにおいて予め設定された周波数帯、例えば2.5kHz以上200kHz以下の周波数帯、好適には45~75kHzの周波数帯における周波数成分が弁別され、その弁別された信号成分の積分値(面積値)がAE信号強度値Xiとして算出される。
【0040】
次に、評価値算出工程或いは評価値算出部72に対応するS6およびS7が実行される。S6では、AE信号強度値Xiの時間波形から、数ms乃至十ms程度に予め設定された小区間内の極大値SPmaxと極小値SPminとの小区間内差分ΔR(=SPmax-SPmin)が順次求められる。S7では、たとえば20s(秒)程度に予め設定された評価値算出区間毎に、小区間毎の差分R1~Rnの平均値ΔRav((R1+R2+・・+Rn)/n)が、形状崩れを評価するための評価値として算出される。
【0041】
そして、形状崩れ判定工程或いは形状崩れ判定部76に対応するS8およびS9が実行される。S8では、小区間差分Rの平均値Ravが差分用形状崩れ判定閾値SPtを超えたか否かが判断される。このS8の判断が否定された場合は、S2以下が繰り返し実行される。しかし、S8の判断が肯定された場合は、S9において、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの大きさの形状崩れが発生したことが判定されるとともに、形状崩れの発生を示すアラートが、面状態表示装置78において出力される。このアラートは、ドレッシングの開始が必要であることを示唆するものである。
【0042】
図9は、電子制御装置62の他の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
図9において、S11からS14は、
図8のS1からS4と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
評価値算出工程或いは評価値算出部72に対応するS15では、AE信号強度Xiの時間波形のうちのたとえば数秒~十数秒程度に予め設定された移動する評価値算出区間毎に、評価値算出区間内の時間波形の移動標準偏差σm〔=√(1/n)Σ(SP1-SPav)2〕(但し、SPavは区間平均)が、形状崩れを評価するための評価値として、繰り返し算出される。
【0044】
形状崩れ判定工程或いは形状崩れ判定部76に対応するS16では、評価値算出区間毎の移動標準偏差σnが標準偏差用形状崩れ判定閾値σtを超えたか否かが判断される。このS16の判断が否定された場合には、S12以下が繰り返し実行される。しかし、S16の判断が肯定された場合は、S17において、端面(研削面)12aの形状修正のためのドレッシングが必要となるほどの大きさの形状崩れが発生したことが判定されるとともに、形状崩れの発生を示すアラートが、面状態表示装置78において出力される。このアラートは、ドレッシングの開始が必要であることを示唆するものである。
【0045】
以下において、両頭平面研削盤10における平面研削に発生する形状崩れを説明する。
図10は、キャリア18および上側の平面研削砥石12および下側の平面研削砥石14との重なりを示す平面視図である。
図10において、キャリア18の搬送穴20内に嵌め入れた被削材16が、上側の平面研削砥石12と下側の平面研削砥石14と間を、摺接状態で周方向に搬送される過程で研磨される。
図11および
図12は、そのときの被削材16の円弧状の移動軌跡TRに沿った、上側の平面研削砥石12の端面12aと下側の平面研削砥石14の端面14aの、研削加工前の表面形状および研削体積200cm
3分の研削加工後における表面形状を、触針型表面形状測定装置により測定した波形で示している。
図11および
図12において、横軸は被削材16の移動軌跡TRの距離X(mm)を示し、0mmは被削材16の最も内周側の位置を示し、負の値は入口から最も内周側の位置までの移動距離を示し、正の値は最も内周側位置から出口までの移動距離を示している。また、縦軸は、出口を0mmとした縦方向の距離Z(mm)を示している。
【0046】
図13は、被削材16の移動軌跡に沿った、上側の平面研削砥石12の端面12aと下側の平面研削砥石14の端面14aの表面形状を、模式的に示している。両頭平面研削盤10において、下側の平面研削砥石14の端面14aの表面形状は平坦であるが、上側の平面研削砥石12の端面12a入口から被削材16の移動軌跡の中央部までは平坦であるが、被削材16の移動軌跡の中央部から出口までは、研削加工後の被削材16の目標厚み寸法Tmが得られるように、端面14aとの間に目標厚み寸法Tmを形成する点に向かって直線的に傾斜している。
【0047】
図14は、
図13と同様に、被削材16の移動軌跡に沿った、上側の平面研削砥石12の端面12aと下側の平面研削砥石14の端面14aの表面形状を、模式的に示しているが、研削加工が進むに伴って、目標厚み寸法Tmが得られるように切込み補正値Thが加えられた結果、上側の平面研削砥石12の端面12aの形状が変化している状態を示している。この状態では、上側の平面研削砥石12の端面12aのうち、被削材16の移動軌跡の入口および出口に対応する部分が摩耗する一方で、上記切込み補正値Thが加えられた結果、被削材16の移動軌跡の入口間口Ti1からTi2へ小さくなっている。このような上側の平面研削砥石12の端面12aの形状崩れが進行すると、被削材16が入口に浸入したときの衝撃が大きくなるので、形状修正のためのドレッシングが行なわれて、
図11、
図13に示す研削加工前の形状へ形状修正される。後述の
図18~
図21の累積切れ込み補正量AAは、上記切込み補正値Thの累積値である。
【0048】
本発明者等が行なった、以下に示す実験条件で行なった平面研削試験により得られた結果を、説明する。
(平面研削試験条件)
加工機:縦軸両頭平面研削盤 キャリアスルー方式
平面研削砥石:WA/HA 80 H 12
砥石外径:585mmφ
砥石軸回転数:900rpm
キャリア回転数:2rpm
取り代:0.2mm
砥石軸アライメント:0.16mm
研削油:NK-81P(希釈倍率50倍)
ドレッサ:1.0mm□ダイヤモンドが埋設されたLLニードドレッサ
ドレッシング切込量:0.01mm
(信号処理条件)
FFT解析のデータ長:65ms
積分解析ピッチΔt :65ms
積分周波数範囲:45~75kHz
(演算条件)
移動最大・最小値のデータ長(標準偏差のデータ長も同じ):2sec
移動平均化のデータ長:20sec
移動最大・最小値および移動平均値のデータピッチ(小区間):65ms
【0049】
図15は、上記の平面研削試験中に外周側AEセンサ40から得られたAE信号積分強度Xiの連続波形を示している。
図16は、
図15の極大値の包絡線および極小値の包絡線を示している。
図17は、内周側AEセンサ42から得られたAE信号積分強度Xiの連続波形の極大値の包絡線および極小値の包絡線を示している。
図18は、
図16の外周側AEセンサ40から得られたAE信号積分強度波形の極大値および極小値から算出した評価値である差分の移動平均ΔRavを示す波形である。
図19は、
図17の内周側AEセンサ42から得られたAE信号積分強度波形の極大値および極小値から算出した評価値である差分の移動平均ΔRavを示す波形である。
図18および
図19に示すように、差分の移動平均ΔRavは、時間経過と共に増加し、平面研削砥石12の端面12aの形状崩れを反映している。なお、
図18および
図19では、平面研削加工後に被削材の厚み寸法を公差内に入れるために自動又は手動により加えられる累積切込補正量が示されている。
【0050】
図20は、平面研削中に外周側AEセンサ40から得られた
図15のAE信号積分強度Xiの連続波形から、評価値として求められた移動標準偏差σを示している。
図21は、内周側AEセンサ42から得られたAE信号積分強度Xiの連続波形から、評価値として求められた移動標準偏差σmを示している。これらの移動標準偏差σmは、時間経過と共に増加し、平面研削砥石12の端面12aの形状崩れを反映している。なお、
図20および
図21では、平面研削加工後に被削材の厚み寸法を公差内に入れるために自動又は手動により加えられる累積切込補正量が示されている。
【0051】
上記の研削試験において、AE信号の周波数解析により得られたパワースペクトラムからAE信号強度値Xiを求めるときの積分周波数範囲として、45~75kHzが用いられていたが、本発明者等は、25~45kHz、80~100kHz、100~200kHzの4種の積分周波数範囲についても、それぞれAE信号強度値Xiを求めるとともに、そのAE信号強度値Xiの波形から、差分の移動平均値ΔRavおよび移動標準偏差Rmをそれぞれ求めた。
図22は、4種の積分周波数範囲のAE信号強度値を示す波形についてそれぞれ求めた研削中の移動標準偏差Rmの時間変化を示している。
【0052】
図22において、移動標準偏差Rmに関しては、25~45kHz、80~100kHz、100~200kHzのいずれの積分周波数範囲においても、研削時間経過に応じて上昇し、形状崩れの判断に用いられ得るが、80~100kHzの積分周波数範囲、25~45kHzの積分周波数範囲、100~200kHzの積分周波数範囲、45~75kHzの積分周波数範囲の順に、信号が大きくなり、明確に形状崩れを示している。
【0053】
上述のように、本実施例の形状崩れ判定装置(電子制御装置62)によれば、評価値算出工程に対応する評価値算出部72において、積算強度値算出工程に対応する積算強度値算出部70により算出されたAE信号の積算強度値Xiを示す波形に基づいて、波形の振幅を表す差分の平均値Rav、および/またはAE信号強度Xiの時間波形の移動標準偏差σmが、評価値としてが算出され、形状崩れ判定工程に対応する形状崩れ判定部76において、評価値算出部72により算出された差分Rの平均値Ravが差分用形状崩れ判定閾値SPtを超えたこと、および/または移動標準偏差σnが標準偏差用形状崩れ判定閾値σtを超えたことに基づいて、平面研削砥石12の端面(研削面)12aにおける局所的な形状崩れの発生が判定される。これにより、平面研削砥石12の端面(研削面)12a内の局所的な形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで平面研削砥石12のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0054】
また、本実施例の形状崩れ判定装置(電子制御装置62)によれば、研削砥石12は、回転主軸22とともに回転するフランジ26に固定されるものであり、フランジ26には、フランジ26の径方向に異なる位置に固定され、AE信号を出力する一対の外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42と、AE信号をA/D変換するA/D変換器50と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュール(送信モジュール)52とが、装着され、送信モジュール52から送信されたAE信号を受信する受信回路66と、積算強度値算出部70、評価値算出部72、形状崩れ判定部76を有し、受信回路66から出力されたAE信号を処理する電子制御装置62を含む。これにより、回転する平面研削砥石12に発生するAE信号が位置固定の受信回路66に受信され、電子制御装置62が受信回路66により受信されたAE信号を処理することにより、平面研削砥石12の端面(研削面)12a内の形状崩れを判定することができ、その判定から適切なタイミングで平面研削砥石12のドレッシング開始判定を、熟練を要せず行なうことができる。
【0055】
本実施例の形状崩れ判定装置(電子制御装置62)によれば、フランジ26は、平面研削砥石12が固定された面とは反対側の面に開口して、外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42と、AE信号をA/D変換するA/D変換器50と、A/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュール52とを収容する電子部品収容室30を、備え、フランジ26には、電子部品収容室30の開口を閉じる蓋板32が締結され、蓋板32のフランジ26側とは反対側の面には、ネジ穴38が設けられ、フランジ26の回転バランスを整合するためのバランシングウエイトWが固定ボルト37によりネジ穴38に締結されている。これにより、外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42とAE信号をA/D変換するA/D変換器50とA/D変換されたAE信号を無線で送信する送信モジュール52とが装着されることでフランジ26の重心が回転中心から偏在しても、バランシングウエイトWによってフランジ26の重心が回転中心へ近づけられるので、重心の偏在による回転振動が好適に抑制される。
【0056】
本実施例の形状崩れ判定装置(電子制御装置62)によれば、蓋板32には、送信モジュール52から送信される電波を通過させる矩形の窓口33が形成されている。これにより、蓋板32が剛性の高い金属製であっても、送信モジュール52から送信される電波が、蓋板32を通して送信される。
【0057】
以上、本発明の一実施例を図面を用いて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0058】
たとえば、前述の実施例では、垂直な第1回転中心線CL1まわりに一対の平面研削砥石12および14を相対回転可能に備えられた縦形の両頭平面研削盤10であったが、両頭平面研削盤10は、水平な第1回転中心線CL1まわりに一対の平面研削砥石12および14が相対回転可能に備えられた横型であってもよい。
【0059】
また、前述の実施例の電子制御装置62は、一対の外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42から出力されたAE信号を処理するものであったが、一対の外周側AEセンサ40および内周側AEセンサ42のうちの一方から出力されたAE信号を処理するものであってもよい。
【0060】
また、前述の実施例の電子制御装置62は、AE信号の積算強度値Xiを示す波形に基づいて、波形の振幅を表す差分の平均値Rav、およびAE信号強度Xiの時間波形の移動標準偏差σmを、評価値としてが算出するものであったが、差分の平均値Ravおよび移動標準偏差σmの一方を評価値として算出し、その一方の評価値が形状崩れ判定閾値SPtまたは形状崩れ判定閾値σtを超えたことに基づいて、平面研削砥石12の端面(研削面)12aにおける局所的な形状崩れの発生を判定するものであってもよい。
【0061】
また、前述の実施例では、AE信号の周波数解析により得られたパワースペクトラムからAE信号強度値Xiを求めるときの積分周波数範囲として、45~75kHzが用いられていたが、25~45kHz、80~100kHz、100~200kHzの4種の積分周波数範囲が用いられていてもよい。要するに、25~200kHzの範囲内のいずれかの特定周波数帯の積分周波数範囲であればよい。
【0062】
また、前述の実施例では、AE信号の周波数解析により得られたパワースペクトラム中の所定の周波数範囲を積分したAE信号強度値Xiが用いられていたが、AE信号のうちの特定周波数帯の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタを通過した信号の平均値や実効値が、上記AE信号強度値Xiに替えて用いられてもよい。この場合には、バンドパスフィルタが積算強度値算出部70に対応している。
【0063】
また、前述の実施例では、被削材16を円弧状の移動軌跡TRに沿って上側の平面研削砥石12の端面12aと下側の平面研削砥石14の端面14aとの間を移動させる円板状のキャリア18が用いられていたが、被削材16を直線状の移動軌跡に沿って上側の平面研削砥石12の端面12aと下側の平面研削砥石14の端面14aとの間を移動させる直線状のキャリアが用いられてもよい。
【0064】
また、前述の実施例の平面研削砥石12、144は、超砥粒および一般砥粒が、レジノイド砥石、ビトリファイド砥石等の種々のボンドで砥粒が結合されたものでもよい。
【0065】
なお、上述したのはあくまでも本発明の一実施例であり、本発明はその主旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられ得るものである。