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  • 特開-水性インキ  又は  スタンプ台  及び  朱肉 図1
  • 特開-水性インキ  又は  スタンプ台  及び  朱肉 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023005978
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】水性インキ 又は スタンプ台 及び 朱肉
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/02 20140101AFI20230111BHJP
   B41K 1/54 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C09D11/02
B41K1/54 B
B41K1/54 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021108313
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神谷 康貴
(72)【発明者】
【氏名】足立 昌也
(72)【発明者】
【氏名】岡 沙弥佳
(72)【発明者】
【氏名】小田木 俊
(72)【発明者】
【氏名】上田 嵩大
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BC07
4J039BC19
4J039EA48
4J039FA07
4J039GA34
(57)【要約】      (修正有)
【課題】皮膚用水性インキを介して、前記水性インキにウィルスが付着した場合でも、前記水性インキ中に付着したウィルスを不活性化させることが出来る水性インキを提供する。
【解決手段】少なくとも染料と、水と、多価アルコールからなる水性インキであって、オレイン酸カリウムを含むことを特徴とする水性インキであり、好ましくは、前記水性インキが、皮膚用インキであり、さらに好ましくは、前記水性インキが含浸された印褥体3と、上方が開放された容器を備え、前記印褥体が前記容器内に収容されることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉であって、前記印褥体の表面を形成する素材を繊維とすることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、
水と、
多価アルコールからなる水性インキであって、
オレイン酸カリウムを含むことを特徴とする水性インキ。
【請求項2】
前記水性インキが、皮膚用インキであることを特徴とする請求項1に記載の水性インキ。
【請求項3】
前記水性インキが含侵された印褥体と
上方が開放された容器を備え、
前記印褥体が前記容器内に収容されることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉であって、
前記印褥体の表面を形成する素材を繊維とすることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インキに関し、特に前記水性インキを手指に塗布して使用する皮膚用水性インキ又は、前記水性インキ及び皮膚用水性インキが含侵された印褥体を備えるスタンプ台又は朱肉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス、ノロウイルスやインフルエンザなどの感染症や食中毒を予防するために、石けんを使った丁寧な手洗いが厚生労働省から推奨されている。また、正しい手洗い試験結果(感染症予防対策情報研究サイト)によれば、手洗い前に付着していた723個の菌は、30秒間手洗いした後には98個にまで減少し、また、大手石鹸メーカーによれば、子どもの手洗いを促進させるため、オリジナルの「手洗いのうた」を用意するなど、30 秒程度石鹸で手洗いすることを推奨している。
近年、例えば特開2018-159041には、水性インキを手のひらに、印判などを用いて、指標としてマーキングし、市販の石鹸を用いて30秒程度で洗い落とすという、主に子供の手洗い練習に利用できる皮膚用水性インキが開示されている。
【0003】
しかし、前記の皮膚用水性インキを不特定多数の者が使用した場合、使用者の少なくとも一人の手指にウィルスが付着していると、前記皮膚用水性インキを介して、他の使用者の手指にウィルスが伝染する可能性がある為、衛生上、前記皮膚用水性インキを含む製品を不特定多数の者を対象とすることが出来無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-159041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであって、ヒトの皮膚に付着した場合に、石鹸によって30秒程度で容易に洗い落とすことができる水性インキであって、不特定多数の者が利用することにより、万が一、前記皮膚用水性インキを介して、前記水性インキにウィルスが付着した場合でも、前記水性インキ中に付着したウィルスを不活性化させることが出来る水性インキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1の発明は、少なくとも染料と、水と、
多価アルコールからなる水性インキであってオレイン酸カリウムを含むことを特徴とする水性インキである。
【0007】
請求項2の発明は、前記水性インキが、皮膚用インキであることを特徴とする請求項1に記載の水性インキである。
【0008】
請求項3の発明は、前記水性インキが含侵された印褥体と上方が開放された容器を備え、前記印褥体が前記容器内に収容されることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉であって、前記印褥体の表面を形成する素材を繊維とすることを特徴とする水性インキ用スタンプ台又は朱肉である。
【発明の効果】
【0009】
本願発明者は鋭意研究の結果、前記課題を解決したマーキングペン、サインペン、ボールペン、スタンプ台、浸透印など文房具に用いられる水性染料インキを見出した。
すなわち、染料と、水と、多価アルコールと、オレイン酸カリウムとから少なくともなる水性インキを用いれば、筆記や捺印等の従来用途に使用できるだけでなく、手のひらに印影等を指標としてマーキングした際、市販の石鹸を用いて30秒程度で洗い落とすことができるため、手洗い練習、手洗い奨励等に利用できる。
さらには、手洗い練習、手洗い奨励用として、スタンプ台、浸透印を用いて使用した際に、万が一、使用者の手指を介し、前記スタンプ台の盤面、又は浸透印の印面にウィルスが付着した場合には、オレイン酸カリウムの効果によって、前記ウィルスを不活性化させることが出来る為、他の使用者の手指に、活性化されたウィルスが付着することがない。
また、本願発明者は、前記水性染料インキを用いると、スタンプ台又は、朱肉の印褥体盤面への浸透が促進され、また、前記水性染料インキが含浸された印褥体盤面側の色目を鮮明に出来ることを見出した。これにより、本願水性染料インキをスタンプ台又は朱肉に含浸させる際の作業時間の短縮や、仕上がり品の外観を良好なものとすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の水性インキを朱肉に使用した場合における実施例
図2】本発明の水性インキを朱肉に使用した場合における比較例
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
[着色剤]
本発明に用いられる着色剤としては、染料として、食用色素及び/又は天然色素が用いられ、食用赤色2号(C.I.Number : C.I.16185、Color Index Name : Acid Red 27)、食用赤色3号(C.I.Number : C.I.45430、Color Index Name : Acid Red 51)、食用赤色40号(C.I.Number : C.I.16035、Color Index Name : Food Red 17)、食用赤色102号(C.I.Number : C.I.16255、Color Index Name : Acid Red 18)、食用赤色104号(C.I.Number : C.I.45410、Color Index Name : Acid Red 92)、食用赤色105号(C.I.Number : C.I.45440、Color Index Name : Acid Red 94)、食用赤色106号(C.I.Number : C.I.45100、Color Index Name : Acid Red 52)、食用黄色4号(C.I.Number : C.I.19140、Color Index Name : Acid Yellow 23)、食用黄色5号(C.I.Number : C.I.15985、Color Index Name : Food Yellow 3)、食用緑色3号(C.I.Number : C.I.42053、Color Index Name : Food Green 3)、食用青色1号(C.I.Number : C.I.42090、Color Index Name : Food Blue 2)、食用青色2号(C.I.Number : C.I.73015、Color Index Name : Acid Blue 74)などの食用染料色素や、ベニコウジ色素(Monascus Color)、β-カロテン(beta-Carotene )、ラック色素(Laccaic Acid)、コチニール色素(Cochineal Extract)、パプリカ色素(Paprika Oleoresin)、ビートレッド(Beet Red)、アントシアニン色素(Anthocyanins)、クチナシ色素(Gardenia Extract)、ベニバナ色素(Carthamus Extract)、ウコン色素(Turmeric Oleoresin)、アナトー色素(Annatto Extracts)、クロロフィル(Chlorophylls)、カキ色素(Japanese Persimmon Color)、タマリンド色素(Tamarind Color)、カラメル色素(Caramel)などの天然色素を用いることができる。他にも以下染料を用いることができる。
直接染料としては、C.I.ダイレクイトブラック 17、同19、同22、同31、同32、同38、同51、同62、同71、同74、同112、同113、同154、同168、C.I.ダイレクイトイエロー 4、同8、同11、同12、同26、同27、同28、同33、同39、同44、同50、同58、同85、同86、同87、同88、同89、同98、同100、同110、C.I.ダイレクイトレッド 1、同2、同4、同9、同11、同20、同23、同24、同31、同37、同39、同46、同62、同75、同79、同80、同81、同83、同89、同95、同197、同201、同218、同220、同224、同225、同226、同227、同228、同230、C.I.ダイレクイトブルー 1、同15、同22、同25、同41、同71、同76、同77、同80、同86、同90、同98、同106、同108、同199、同120、同158、同163、同168、同199、同226等が挙げられる。
酸性染料としては、C.I.アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、48、51、同52、同107、同109、同110、同115、同119、同154、同156、C.I.アシッドイエロー 1、同3、同7、同11、同17、同23、同25、同29、同36、同38、同40、同42、同44、同49、同61、同72、同78、同110、同135、同127、同141、同142、C.I.アシッドレッド 6、同8、同9、同13、同14、同18、同26、同27、同32、同35、同37、同42、同51、同52、同57、同80、同82、同83、同87、同89、同92、同94、同106、同111、同114、同115、同129、同131、同133、同134、同138、同145、同158、同186、同198、同249、同254、同265、同276、同289、C.I.アシッドバイオレット 15、同17、C.I.アシッドブルー 1、同7、同9、同15、同22、同23、同25、同29、同40、同41、同43、同59、同62、同74、同78、同80、同83、同90、同93、同100、同102、同103、同104、同112、同113、同117、同127、同138、同158、同161、C.I.アシッドグリーン 3、同9、同16、同25、同27等が挙げられる。
塩基性染料としては、C.I.ベーシックレッド 1、同2、同9、同12、同13、同38、同39、同92、C.I.ベーシックブルー 1、同3、同7、同5、同9、同19、同24、同25、同26、同28、同45、同54、同65、C.I.ベーシックブラック 2、同8等が挙げられる。
【0012】
また、本発明における着色剤には、顔料を用いることも出来る。顔料は縮合アゾ、イソインドリノン、キナクリドン、ジケトピロロピロール、アントラキノン、ジオキサジン、フタロシアニン、チオインジコ等の有機顔料、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄等の無機顔料、マイカやガラスを酸化チタンや酸化鉄で被覆した光輝性顔料、アルミ粉や真鍮粉等の金属顔料などを使用でき、他には蛍光顔料、蛍光増白剤、蓄光剤、夜光剤、示温染料、ラメなどいずれも使用できる。これらの顔料は通常、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-アクリル酸共重合体等のアクリル樹脂などや、当該アクリル樹脂の金属塩・アンモニウム塩・アミン塩などや、ポリビニルブチラール樹脂、ガムロジン、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、ケトン樹脂、アルキッド樹脂、セラック、キシレン樹脂、クマロン樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロースなどの他の公知の樹脂分散剤などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。また、既に樹脂に顔料を練り込んである市販の加工顔料を用いてもよく、例えば、Microlith White 0022 WA、Microlis Black 0066 WA、Microlith Yelow 1550WA、Microlith Yelow 2040 WA、Microlith Brown 3001 WA、Microlith Scarlet 3430 WA、Microlith Red 3630 WA、Microlith Red 4035 WA、Microlith blue 7080 WA、Microlith Yellow 3G-WA、Microlith Yellow BAW-WA、Microlith Yellow 2R-WA、Microlith Yellow 3R-WA、Microlith Brown 5R-WA、Microlith Scarlet R-WA、Microlith DPP Red B-WA、Microlith Red B-WA、Microlith Red B-WA、Microlith red RL-WA、Microlith Blue 4G-WA、Microlith R-WA、Microlith Black C-WA、Microlith White 0022 A、Microlis Black 0066 A、Microlith Yelow 1040A、Microlith Yelow 1550 A、Microlith Brown 3001 A、Microlith Scarlet 3430 A、Microlith Red 3785 A、Microlith Blue 7080 A、Microlith White 0022 K、Microlis Black 0066 K、Microlith Yelow 1040K、Microlith Yelow 1061K、Microlith Yellow 2040 K、Microlith Brown 3001K、Microlith Scarlet 3430K、Microlith Red 3630 K、Microlith Scarlet 3430K、Microlith Red 3890K、Microlith Magenta 4535K、Microlith Violet 5700K、Microlith 6480K、Microlith blue 7080K、Microlith Green 8750K、Microlis Black 0066 T、Microlith Yelow 2040T、Microlith Brown 3001 T、Microlith Red 3890 T、Microlith Blue 7080 T、Microlith 8750T (以上、BASFジャパン株式会社製加工顔料)なども用いることができる。
前記着色剤は、1又は2以上を用いることができ、その配合量は、インキ全量に対して0.1~20重量%が好ましく、0.5~10重量%がより好ましい。
【0013】
[水及び多価アルコール]
本発明に用いられる溶剤は、水及び多価アルコールとからなる混合溶剤である。
水は純水、蒸留水、精製水、水道水などが用いられる。腐敗やかびの発生の観点から精製蒸留水が好ましく用いられる。水はインキ全量に対し、9~90重量%を用いることができる。多価アルコールは、蒸発性、染料溶解性、にじみ防止性等を考慮して、エチレングリコール、プロプレングリコール、ブチレングリコール、ペンチルグリコール、ヘキシルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセリン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の多価アルコールを使用することができ、これらのうちのいずれかを混合して用いることもできる。多価アルコールはインキ全量に対し、9~90重量%を用いることができる。
【0014】
[オレイン酸カリウム]
また、本発明には、オレイン酸カリウムの添加が必須となる。オレイン酸カリウムは、下記一般式(1)で表され、化学構造的に炭素数18の高級脂肪酸であるオレイン酸のカリウム塩(高級脂肪酸アルカリ金属塩)であり、セッケンに分類される陰イオン界面活性剤(アニオン界面活性剤)である。オレイン酸カリウムはインキ全量に対し、0.1~10重量%を用いることができる。用いるオレイン酸カリウムが、0.1重量%より少ないと、ウィルスを不活性化させる効果が生まれない。また、10重量%より多いと、インキがゲル化し、製品化出来ない。
オレイン酸カリウムの添加された水性インキは、インフルエンザウィルス及び新型コロナウィルスを不活性化する効果が確認されている。また、オレイン酸カリウムの添加されたインキは、表面張力が低下することにより、綿布、フェルト、ゴムスポンジ、ウレタンスポンジなどの炭素由来の多孔質素材に対する水性インキの滴下浸透時間が早まり、前記多孔質素材を印褥体として備える製品群(スタンプ台、朱肉、筆記具、捺印具)の組み立てにかかる時間が短縮される。さらに、オレイン酸カリウムの添加されたインキを、前記多孔質素材に対して滴下浸透させた場合においては、インキ含侵後の前記多孔質素材表面は、色ムラが無く、インキ色が均一となる。これは、水性インキの表面張力の低下によって、インキ滴下後のインキの拡散が促進されることによるものと考えられ、特に繊維素材に対してより顕著な効果がある。
一般式(1)
【0015】
[容器]
本発明における水性インキは、浸透印の印材、筆記具のフェルト、スタンプ台又は朱肉の印褥体、または、容器素材へ練り込むなどして使用することが出来るが、不特定多数の使用者に向けて商品化する場合においては、スタンプ台又は朱肉の印褥体に含浸させて使用することが想定される。
図1は、本発明の水性インキを朱肉に使用した場合における使用例である。図1に示すように本発明においては、正面視下方向を下側、上方向を上側(盤面側)、右方向を右側、左方向を左側と定義する。図1の朱肉容器1は、略円形板状の底面部4と、前記円形板状の底部外縁を囲うように上方向垂直に延接する壁面部2からなるが、朱肉容器1底面部4の形状は、丸形板状に限らず、正方形、長方形、多角形状など幾多の形態が考えられる。また、底面部4は、板状である必要もなく、底面部4にリブを設けても良いし、波型形状などであっても良い。また、容器に嵌合部を備え、蓋(図示しない)と嵌合させる構成をとることとしてもよい。
【0016】
[印褥体]
前記底面部4と壁面部2とで形成される朱肉容器1の内側空間部分に、印褥体3が収容されている。本発明でいう印褥体とは、例えば朱肉用のパッドやスタンプ用のパッド等の朱肉液や各種のインキを貯留するパッドを意味するものである。ケース2に収容される印褥体3は、連続気孔を有するインキ含侵体と表布の2層構造からなる。本発明の実施形態における印褥体3は、インキ含侵体にフェルト、表布に綿布を用いているが、必ずしも、2層構造とする必要はなく、単層、多層のいずれの構成をとることが出来る。印褥体の表面を形成する素材は、綿布、絹布などからなる天然繊維及び、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、およびポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂や、これらを共重合した熱可塑性樹脂等からなる合成繊維であることが望ましい。また、繊維は、織布、不織布いずれでも良い。
【0017】
更に、本発明には、防腐防かび剤、安定剤、粘度調整剤、界面活性剤、ph調整剤、香料などを適宜配合してもよい。また、上記各材料は一般工業品グレードでもよいが、ヒトの皮膚に使用することを考慮すると、安全性の面から、食品添加物グレードを用いることが好ましい。
【0018】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。本発明の皮膚用水性インキは、水と多価アルコールからなる溶剤中に、染料とオレイン酸カリウム、必要に応じて各種添加剤を投入、撹拌して調整する。
【実施例0019】
実施例1~3及び比較例1の浸透印用インキ配合を、表1に示す。
シヤチハタ社製ネーム9(インキ含浸体:NBRポーラス)に、前記浸透印用インキを使用した。
【0020】
実施例4~7及び比較例2~3の朱肉用インキ配合を、表2に示す。
シヤチハタ社製朱肉(エコス)30号(インキ含浸体表布:綿布素材の双子織)に、前記朱肉用インキを使用した。
【0021】
実施例8~11及び比較例4~5のスタンプ台用インキ配合を、表3に示す。
シヤチハタ社製スタンプ台(中型)(インキ含浸体表布:ポリエステル系合成繊維)に、前記スタンプ台用インキを使用した。
【0022】
また、実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行なった際の結果を各表に示す。
ウィルス残存確認試験
(試験方法)
新型コロナウィルス(ウィルス株:JPN/TY/WK-521)と水性オレイン酸カリウムインキを1:9で3分間反応させ、TCID50法で感染価を求めた。TCID50法とは、ウィルス感染価を確認する際に用いられる測定方法の1つである。あらかじめ細胞を培養して付着させた試験管やウェルプレート上にウィルス希釈液を接種し、50%の細胞に対して感染する濃度を指す。
〇:残存感染価が高い(1.0E+04より大きい) ×:残存感染価が低い(1.0E+04以下)

手洗い消去性試験
(試験方法)
実施例及び比較例のインキを含浸した、浸透印、朱肉、スタンプ台を用いて、手指に付着後1分間放置し、市販の石鹸(ビオレU泡ハンドソープ:花王株式会社製)にて30秒間手洗いした後の付着インキの状態を確認する。
(結果確認方法)
○:付着インキが消える。 ×:付着インキが残る。

インキ浸透試験
(試験方法)
実施例及び比較例の浸透印、朱肉、スタンプ台に備えられるインキ含浸体に対して、インキを1滴(約30mg)滴下し、その浸透時間を確認する。
(結果確認方法)
〇:浸透時間が早い(30秒以内) ×:浸透時間が遅い(30秒より多い)

インキ含浸体盤面評価試験
(試験方法)
実施例及び比較例の朱肉、スタンプ台に備えられるインキ含浸体盤面の色ムラを確認する。なお、朱肉に用いられるインキ含浸体盤面側は綿布素材の双子織(120×120番)、スタンプ台に用いられるインキ含浸体盤面側は、ポリエステル系の合成繊維からなる。
(結果確認方法)
〇:色目が均一 ×:色ムラが大きい
【0023】
表1~表3から明らかなように、本実施例におけるインキは、各種試験において良好な結果が得られた。また、比較例における水性インキは、ウィルス残存確認試験、インキ浸透試験において、良好でない結果が確認された。さらに、インキ含浸体盤面評価試験においては、印褥体の表布として、布帛である綿布素材の双子織を採用している朱肉、ポリエステル系合成繊維を用いているスタンプ台において、最も良好な結果が得られた。図1は、朱肉で試験を行った場合における実施例のインキ含浸体盤面評価試験の結果を表している。一方、図2は、朱肉で試験を行った場合における実施例のインキ含浸体盤面評価試験の結果を表している。実施例は、図1に表すように色ムラが無く鮮明な色彩を示した一方で、図2は、色ムラが発生し、良好でない結果が得られた。
【0024】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う皮膚用水性インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【0025】
1 朱肉容器
2 壁面部
3 印褥体
4 底面部
図1
図2