(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059836
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】長手方向掃気式大型ディーゼル・エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/04 20060101AFI20230420BHJP
F02D 15/02 20060101ALI20230420BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20230420BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
F02B75/04
F02D15/02 A
F02D19/06 B
F02D19/06 G
F02D19/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022157774
(22)【出願日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】21202858
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローランド アルター
(72)【発明者】
【氏名】シリル フーバー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シュトゥルム
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AA02
3G092AA12
3G092AB04
3G092AB07
3G092AB08
3G092AC10
3G092DD05
3G092DG05
3G092FA15
3G092FA24
3G092HA14Z
(57)【要約】
【課題】圧縮比を簡単に調節することができる大型ディーゼル・エンジンを提供すること。
【解決手段】提案される大型ディーゼル・エンジンは、シリンダ軸Aに沿って往復移動可能なピストン3によって限定される燃焼室4を有する少なくとも1つのシリンダ2と、回転可能なクランクシャフト9とを有し、ピストンが、クロスヘッド・ピン71を有するクロスヘッド7にピストン・ロッド6を介して接続され、クロスヘッドが、プッシュ・ロッド8を介してクランクシャフトに接続され、ピストン・ロッド6が、クロスヘッド・ピン内に位置し、圧縮比を調節するための制御デバイス10が設けられ、それによりピストン・ロッドがクロスヘッド・ピンに対してシリンダ軸Aの方向に移動可能になされる。ピストン・ロッドは、クロスヘッド・ピン内の下側部分61と、ピストンを下側部分に接続する上側部分62とを有し、下側部分及び上側部分は着脱可能に互いに接続される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ディーゼル・エンジンであって、少なくとも1つのシリンダ(2)と、回転可能なクランクシャフト(9)とを有し、前記少なくとも1つのシリンダ(2)は、シリンダ軸(A)に沿って往復移動可能であるように配置されたピストン(3)によって限定される燃焼室(4)を有し、前記ピストン(3)は、ピストン・ロッド(6)を介して、クロスヘッド・ピン(71)を有するクロスヘッド(7)に接続され、前記クロスヘッド(7)は、プッシュ・ロッド(8)を介して前記クランクシャフト(9)に接続され、前記ピストン・ロッド(6)は、前記クロスヘッド・ピン(71)内に配置され、圧縮比を調節するための制御デバイス(10)が設けられ、前記制御デバイス(10)によって、前記ピストン・ロッド(6)は前記クロスヘッド・ピン(71)に対して前記シリンダ軸(A)の方向に移動可能である、大型ディーゼル・エンジンにおいて、
前記ピストン・ロッド(6)は下側部分(61)と上側部分(62)とを有し、前記下側部分(61)は前記クロスヘッド・ピン(71)内に配置され、前記上側部分(62)は、前記ピストン(3)を前記下側部分(61)に接続し、また前記下側部分(61)及び前記上側部分(62)は着脱可能に互いに接続されていることを特徴とする、大型ディーゼル・エンジン。
【請求項2】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)は、前記クロスヘッド・ピン(71)内に位置する油圧室(11)を限定する油圧ピストンとして設計されている、請求項1に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項3】
前記下側部分(61)は第1の材料から作成され、前記上側部分(62)は第2の材料から作成され、前記第1の材料は前記第2の材料と異なる、請求項1又は2に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項4】
前記下側部分(61)は前記シリンダ軸(A)の方向に第1の長さ(L1)を有し、前記上側部分(62)は前記シリンダ軸(A)の方向に第2の長さ(L2)を有し、前記第2の長さ(L2)は、前記第1の長さ(L1)の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍である、請求項1から3までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項5】
前記大型ディーゼル・エンジンの運転中、前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)は、前記シリンダ(2)内への前記ピストン(6)の経路を封止するシール構成(22)の下方に常にあることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項6】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)は、前記ピストン・ロッドの前記上側部分(62)の下端(621)に接続される上端(611)を有する、請求項1から5までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項7】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)の前記上端(611)は、前記ピストン・ロッド(6)の前記上側部分(62)の前記下端(621)よりも大きい外径(D1)を有する、請求項6に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項8】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)の前記上端(611)は、前記ピストン・ロッド(6)の前記上側部分(62)の前記下端(621)と同じ外径(D1)を有する、請求項6に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項9】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)の前記上端(611)は、前記ピストン・ロッド(6)の前記上側部分(62)の前記下端(621)を受ける凹部(612)を有する、請求項6又は7に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項10】
前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)の前記上端(611)は、前記上側部分(62)の前記下端(621)を完全に包囲する、請求項9に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項11】
前記ピストン・ロッド(6)の前記上側部分(62)の前記下端(621)は、前記ピストン・ロッド(6)の前記下側部分(61)の前記上端(611)を受けるソケット(623)を有する、請求項6又は7に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項12】
前記ピストン・ロッド(6)の前記上側部分(62)の前記下端(621)は、前記下側部分(61)の前記上端(611)を完全に包囲する、請求項11に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項13】
前記下側部分(61)の製造加工に表面硬化が含まれる、請求項1から12までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項14】
長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計された、請求項1から13までのいずれか一項に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【請求項15】
燃焼のために前記燃焼室に液体燃料が導入される液体モードで運転可能であり、且つ燃焼のために前記燃焼室にガスが導入される気体モードでさらに運転可能である、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された、請求項14に記載の大型ディーゼル・エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項の前提部分に記載の大型ディーゼル・エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
大型ディーゼル・エンジンは、従来的には重油を使用して運転される。大型ディーゼル・エンジンは、2ストローク・エンジン又は4ストローク・エンジン、例えば長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計することができ、船舶の駆動ユニットとして、又は、例えば電気エネルギー生成のための大型発電機の電源供給のための定常運転でも、頻繁に使用されている。このプロセスにおいて、通常、エンジンは長時間連続運転で動作し、これにより運転上の安全性と可用性がかなり要求される。したがって、メンテナンス間隔が特に長く、摩耗が少なく、運転材料を経済的に扱うことが操作者にとっての主要な基準となる。大型ディーゼル・エンジンは、通常、内径(ボア)が少なくとも200mmであるシリンダを有する。今日では、最大960mm又はそれよりも大きいボアを有する大型ディーゼル・エンジンが使用されている。
【0003】
経済的で効率的な運転、排ガス基準の遵守、並びに資源確保の観点から、大型ディーゼル・エンジンにおいても燃料重油の代替物が現在求められている。そこで、液体状態で燃焼室に導入される燃料を意味する液体燃料と、気体状態で燃焼室に導入される燃料を意味する気体燃料との両方が使用される。
【0004】
重油の代替物として知られている液体燃料の実例としては、重油の精製中に残渣としてとりわけ残る他の重質炭化水素、アルコール類、特にメタノール若しくはエタノール、ガソリン、ディーゼル、又はエマルジョン若しくは懸濁液もある。例えば、MSAR(Multiphase Superfine Atomized Residue、多相超微細噴霧残渣)と呼ばれるエマルジョンを燃料として使用することが知られている。知られている懸濁液は、炭塵及び水の懸濁液から作られるものであり、大型エンジンの燃料としても使用される。気体燃料としては、液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)などの天然ガス、液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)などの液体ガス、又はエタンが知られている。
【0005】
また、特に、少なくとも2つの異なる燃料を使用して運転することができ、エンジンは運転状況又は運転環境に応じて一方の燃料又は他方の燃料を使用して運転される、大型ディーゼル・エンジンが知られている。
【0006】
2つの異なる燃料を使用して運転することができる大型ディーゼル・エンジンの1つの実例は、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンである。これは、液体燃料をシリンダ内に導入して燃焼させる液体モード、及び、ガスをシリンダ内に燃料として導入する気体モードで、運転可能である。
【0007】
大型ディーゼル・エンジンは、少なくとも2つ以上の異なる液体燃料又は気体燃料を使用して運転することができ、実際に使用している燃料に応じて異なる運転モードで運転することが多い。ディーゼル運転としばしば呼ばれる運転モードでは、一般に、燃料の燃焼は圧縮着火又は自己着火の原理に従う。オットー運転としばしば呼ばれる運転モードでは、燃焼は、発火性の予混合された空気-燃料混合気の火花点火をトリガとして行われる。この火花点火は、例えば点火プラグからの、電気的火花によって、又は噴射された少量の燃料が自己着火し、それにより別の燃料の火花点火をトリガすることによってもトリガすることができる。ここで、自己着火を意図した少量の燃料は、燃焼室に接続された予燃焼室に噴射されることが多い。
【0008】
さらに、オットー運転及びディーゼル運転の混合形態も知られている。
【0009】
本出願の範囲内では、「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、少なくともディーゼル運転で運転することができるエンジンを指す。特に、「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、ディーゼル運転に加えて別の運転モード、例えばオットー運転で運転することができる、二元燃料大型エンジンも含む。
【0010】
本出願の範囲内では、「気体モード」、又は換言すると「気体モードでの運転」という用語は、トルクを発生させる燃焼のための燃料としてガス又は気体燃料のみを使用することを意味する。上述したように、予混合された空気-燃料混合気を気体モードで火花点火するために、少量の自己着火液体燃料、例えば重油を噴射して火花点火をトリガすることは可能であり、またごく一般的でもあるが、そうであっても、トルクを発生させる燃焼プロセスはガス又は気体燃料のみによって燃料供給される。
【0011】
この少量の液体燃料の自己着火を介した火花点火のプロセスは、パイロット噴射と呼ばれることもある。このパイロット噴射は、大型エンジンを液体モードで運転するときに液体燃料を燃焼室内に噴射することとは一切関係がない。通常、パイロット噴射には、液体モードでの液体燃料の噴射用とは異なる噴射機構が使用される。また、パイロット噴射中、少量の液体燃料は燃焼室に直接噴射されず、ダクトを介して燃焼室に接続された少なくとも1つの予燃焼室に噴射されることが多い。
【0012】
また、そのような二元燃料大型ディーゼル・エンジンを低圧方法を用いて気体モードで運転することも知られており、すなわち、ガスは最大50bar、好ましくは最大20barのガスの噴射圧で気体状態でシリンダ内に導入される。この目的のため、シリンダ壁には少なくとも1つのガス導入口が設けられ、気体モードではこの導入口を通じてガスがシリンダ内に導入される。実際には、シリンダ軸に対して径方向反対側に位置する2つのガス導入口が設けられることが多い。ここで、ガス導入口は、ピストン運動の下側反転点と上側反転点との間の高さであって、シリンダ内で圧縮がまだ生じていないか、又は少なくとも実質的な圧縮がまだ生じていない限り、シリンダの上方への移動中にシリンダ内にガスが導入され得る高さに位置する。
【0013】
通常、大型ディーゼル・エンジンは、100%負荷時、すなわち全負荷において、高密度化比、又は換言すると圧縮比が最適化され、したがって大型ディーゼル・エンジンが100%負荷時の消費挙動と効率係数との間の最良の可能な妥協点を実現するように設計されており、これは、大型ディーゼル・エンジンが、100%負荷時、すなわち全負荷且つ最高回転速度において、可能な限り高い熱力学的効率係数を有するように設計されていることを意味する。
【0014】
圧縮比は、空気-燃料混合気の圧縮前の燃焼室の第1の容積と空気-燃料混合気の圧縮後の燃焼室の残りの第2の容積との比である、幾何学的な値である。
【0015】
100%負荷時に燃焼挙動を最適化させることにより、結果として大型ディーゼル・エンジンの効率係数が、低負荷領域、例えば低中圧において最適ではなくなる。
【0016】
さらに、少なくとも2つの異なる燃料で運転される大型ディーゼル・エンジン、例えば、二元燃料大型ディーゼル・エンジンでは、異なる燃料のそれぞれについて可能な限り高い効率係数を実現することが好ましい。
【0017】
これらの理由から、圧縮比を変更して、それぞれの負荷及び/又はそれぞれの燃料について効率係数を最適化することができる、大型ディーゼル・エンジンが知られている。そのような設計は、VCRシステム(VCR:Variable Compression Rate、可変圧縮率)とも呼ばれる。
【0018】
EP-A-2687707により、例えば、クロスヘッド駆動の大型ディーゼル・エンジンにおける圧縮比の変更において、クロスヘッドのクロスヘッド・ピン内で支持されるピストン・ロッドが、クロスヘッド・ピンに対してシリンダ軸の方向に移動可能であることが知られている。このように、圧縮比は変更することができる。例えば、ピストン・ロッドをクロスヘッド・ピンに対して燃焼室の方向に移動させると、最大圧縮時の燃焼室の容積がより小さくなり、したがって圧縮比がより大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2687707号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
この現況技術に基づき、本発明の目的は、圧縮比を簡単に調節することができるクロスヘッド駆動の大型ディーゼル・エンジンであって、圧縮比の変更に特に有利で経済的な実施例が提供される大型ディーゼル・エンジンを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成する発明の主題は、独立特許請求の特徴部分によって特徴付けられる。
【0022】
本発明によると、シリンダ軸に沿って往復移動可能であるように位置するピストンによって限定された燃焼室を有する少なくとも1つのシリンダと、回転可能なクランクシャフトとを備え、ピストンが、クロスヘッド・ピンを有するクロスヘッドにピストン・ロッドを介して接続され、クロスヘッドが、プッシュ・ロッドを介してクランクシャフトに接続され、ピストン・ロッドが、クロスヘッド・ピン内に位置しており、圧縮比を調節するための制御デバイスが設けられ、この制御デバイスを用いて、ピストン・ロッドがクロスヘッド・ピンに対してシリンダ軸の方向に移動可能である、大型ディーゼル・エンジンが提案されている。ピストン・ロッドは、下側部分と上側部分とを有し、下側部分はクロスヘッド・ピン内に位置しており、上側部分はピストンを下側部分に接続し、下側部分及び上側部分は着脱可能であるように互いに接続されている。
【0023】
下側部分と上側部分とを備えたピストン・ロッドの本実施例は、シリンダ内の圧縮比を変更することができる、特に有利で経済的な実施例を代表している。
【0024】
したがって、例えば、クロスヘッド・ピン内に位置する、動作中に多くの歪みがかかるピストン・ロッドの下側部分は、ピストン・ロッドの上側部分よりも高品質の材料及び/又は高精度で作成することができ、ピストン・ロッドの上側部分は、より安価な材料及び/又は精度に関してより低い要件で作成することができる。
【0025】
本実施例は、メンテナンス作業又はサービス作業に関しても有利である。例えば、メンテナンス作業の状況でピストン及びピストン・ロッドをシリンダから取り外すことになっている場合、本発明による実施例により、ピストン・ロッドの下側部分がクロスヘッド・ピン内に留まる一方、ピストンがピストン・ロッドの上側部分と共にシリンダから抜かれることが可能になる。したがって、クロスヘッド内に留まる下側部分が、著しく良好に保護される。
【0026】
下側部分と上側部分とを備えたピストン・ロッドの実施例は、製造に関しても非常に有利である。下側部分の加工は著しく容易になる。したがって、例えば、運転モード中にピストン・ロッドを通ってピストンに誘導される冷却油の供給と排出のために必要となる下側部分のボアを、はるかに容易に、すなわち下側部分の上側面から直接製造加工することができる。ピストン・ロッドの上端、すなわちピストンに接続される端部からそのような製造加工を行う必要がなくなる。
【0027】
また、下側部分をピストン・ロッドの残りの部分(他の部分)とは別々に製造できるので、下側部分の全体加工も著しく容易になる。下側部分は、クロスヘッドのクロスヘッド・ピンを嵌合させる必要があり、通常はるかに高い精度が必要となるが、これは下側部分を個別に製造することで、はるかに容易に達成される。下側部分をピストン・ロッドの残りの部分とは別々に製造及び加工できるので、下側部分の他の加工工程、例えば研削加工、表面処理、例えば、表面硬化、例えばクロムを用いた表面コーティング、PVD(PVD:Physical Vapor Deposition、物理気相成長法)を介した表面コーティング、溶接クラッディングを介した表面コーティング、又は熱処理も、実施が著しく容易になる。
【0028】
好ましくは、ピストン・ロッドの下側部分は、クロスヘッド・ピン内に位置する油圧室を限定する油圧ピストンとして設計されている。そのため、圧縮比を調節するための制御デバイスは、油圧式デバイスとして設計される。クロスヘッド・ピン内部の油圧室に油などの油圧媒体を導入することによって、油圧ピストンとして設計された下側部分を介して、ピストン・ロッドをクロスヘッド・ピンに対してシリンダ軸方向に移動させることができ、その結果、燃焼室の最小容積が減少する。油圧室から油圧媒体を排出することで、ピストン・ロッドをクロスヘッド・ピンに対して降下させることができ、その結果、燃焼室の最小容積が増加する。
【0029】
特にピストン・ロッドの下側部分が油圧ピストンとして設計されている場合、下側部分は上側部分から分離することができ、したがって別々に製造できることが大きな利点である。これにより、油圧ピストンの精密設計の高い要件を満たすことがはるかに容易になる。ここでも、油圧ピストンとして設計された下側部分は、ピストン・ロッドの残りの部分をピストンと共にシリンダから抜き取るメンテナンス作業中に、クロスヘッド・ピン内に保護されたままであることが有利である。
【0030】
特に好ましくは、下側部分は第1の材料から作成され、上側部分は第2の材料から作成され、第1の材料は第2の材料と異なる。第1の材料は、特に下側部分が、例えば冷却油、潤滑油又は他の流体のためのボアを備える場合にも、大きい機械的歪みに耐えることができる、高い頑丈さを有する材料であることが好ましい。第2の材料は、より安価な材料、例えば鋼であることが好ましく、これにより製造コストを削減することができる。当然ながら、第1の材料が第2の材料と同じ、すなわち、ピストン・ロッドの下側部分及び上側部分が同じ材料で構成されている実施例も可能である。
【0031】
好ましい実施例によると、下側部分はシリンダ軸方向に第1の長さを有し、上側部分はシリンダ軸方向に第2の長さを有し、第2の長さは、第1の長さの少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍である。これにより、通常、より高価な材料で構成されたり、又は追加的な処理が施されたりする下側部分を可能な限り小さくして、ピストン・ロッドの主要部分をより安価に製造することができる。
【0032】
好ましくは、ピストン・ロッドの下側部分と上側部分との間の境界は、大型ディーゼル・エンジンの運転中、ピストン・ロッドの下側部分がシール構成の下方に常に留まるように配置され、このシール構成はピストン・ロッドのシリンダ内への経路を封止する。通常、大型ディーゼル・エンジンのシリンダ内へのピストン・ロッドの経路は、スタッフィング・ボックスで封止されている。次いで、ピストン・ロッドの下側部分と上側部分との間の境界は、この境界がスタフィング・ボックスを通過せず、ピストンの作動運動中に常にスタフィング・ボックスの下方に留まるように配置されている。
【0033】
以下では、ピストン・ロッドの下側部分及び上側部分の設計について、いくつかのより好ましい方策を挙げる。
【0034】
好ましくは、ピストン・ロッドの下側部分は、ピストン・ロッドの上側部分の下端と接続される上端を有する。
【0035】
好ましい実施例によると、ピストン・ロッドの下側部分の上端は、ピストン・ロッドの上側部分の下端よりも大きい外径を有する。
【0036】
別の好ましい実施例では、ピストン・ロッドの下側部分の上端は、ピストン・ロッドの上側部分の下端と同じ外径を有する。
【0037】
ピストン・ロッドの下側部分の上端がピストン・ロッドの上側部分の下端よりも小さい外径を有する実施例も可能である。
【0038】
さらに、好ましい実施例では、ピストン・ロッドの下側部分の上端が、ピストン・ロッドの上側部分の下端を受ける凹部を有する。
【0039】
本実施例では、ピストン・ロッドの下側部分の上端が上側部分の下端を完全に包囲していることが特に好ましい。
【0040】
別の好ましい実施例によると、ピストン・ロッドの上側部分の下端は、ピストン・ロッドの下側部分の上端を受けるソケットを有する。
【0041】
本実施例では、ピストン・ロッドの上側部分の下端が、下側部分の上端を完全に包囲していることが特に好ましい。
【0042】
ピストン・ロッドの下側部分は、大型ディーゼル・エンジンの運転状態にあるとき最も強い機械的歪みに晒されるので、下側部分の製造には、好ましくは表面硬化が含まれる。
【0043】
好ましくは、大型ディーゼル・エンジンは、長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンとして設計される。
【0044】
大型ディーゼル・エンジンは、液体燃料を燃焼室に導入して燃焼させる液体モードで運転可能であり、ガスを燃焼室に導入して燃焼させる気体モードでさらに運転可能である、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計されることが特に好ましい。
【0045】
本発明の追加の有利な方策及び実施例は、従属請求項から導かれる。
【0046】
以下、本発明を実施例及び図面に基づいて、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明による大型ディーゼル・エンジンの一実施例の概略断面図である。
【
図2】ピストン・ロッドの一実施例の概略断面図である。
【
図3】
図2と同様であるが、下側部分が上側部分と分離して描かれている図である。
【
図4】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【
図5】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【
図6】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【
図7】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【
図8】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【
図9】
図2と同様であるが、ピストン・ロッドの設計の異なる変形例についての図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
「大型ディーゼル・エンジン」という用語は、通常、船舶の主駆動ユニットとして使用されるか、又は、例えば電気エネルギー生成のための大型発電機の電源供給のために定常運転でも使用されるエンジンを指す。典型的には、大型ディーゼル・エンジンのシリンダは、それぞれ少なくとも約200mmの内径(ボア)を有する。「長手方向掃気式」という用語は、掃気空気又は給気空気がシリンダ内に下端の領域で導入されることを指す。燃焼残渣、特に排気ガスはシリンダの上端から排出される。
【0049】
本発明の以下の説明では、二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして、すなわち2つの異なる燃料を使用して運転することができるエンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンを参照している。具体的には、二元燃料大型ディーゼル・エンジンは、液体燃料のみをシリンダの燃焼室に噴射する液体モードで運転することができる。通常、液体燃料、例えば重油又はディーゼル油は、適切な瞬間に燃焼室に直接噴射され、自己着火のディーゼル原理に従って自己着火する。大型ディーゼル・エンジンは、燃料として働くガス、例えば液化天然ガス(LNG:Liquefied Natural Gas)などの天然ガス若しくは液化石油ガス(LPG:Liquefied Petroleum Gas)又はエタンを、予混合された空気-燃料混合気の形態で、燃焼室内で火花点火を介して燃焼させる気体モードで運転することもできる。
【0050】
既に先述したように、本出願の範囲内では、「気体モード」、又は換言すると「気体モードでの運転」という用語は、この気体モードでは、大型ディーゼル・エンジンがガス又は気体燃料のみを使用して運転され、任意選択で少量の自己着火燃料、例えば重油又はディーゼル油が、空気-ガス混合気の火花点火のためだけに燃焼室又は予燃焼室若しくは複数の予燃焼室の中に導入される(パイロット噴射)ように理解されるべきである。
【0051】
具体的には、気体モードでは大型ディーゼル・エンジンは低圧方法に従って動作し、すなわち、ガスが気体状態でシリンダ内に導入され、この際ガスがシリンダ内に導入される噴射圧は最大50bar、好ましくは最大20barである。空気-ガス混合気は、オットーの原理に従い燃焼室で火花点火される。この火花点火は、好ましくは、適切な瞬間に少量の自己着火液体燃料(例えばディーゼル油又は重油)を燃焼室又は予燃焼室若しくは複数の予燃焼室の中に導入し、これが自己着火し、燃焼室内の空気-燃料混合気の火花点火を引き起こすやり方でトリガされる。
【0052】
ここで説明される実施例では、クロスヘッド駆動の長手方向掃気式2ストローク二元燃料大型ディーゼル・エンジンとして設計された大型ディーゼル・エンジンが参照される。当然ながら、本発明は二元燃料大型ディーゼル・エンジンに限定されず、全てのタイプの大型ディーゼル・エンジン、すなわち少なくともディーゼル運転で運転することができる大型エンジンに関する。
【0053】
図1は、本発明による大型ディーゼル・エンジンの一実施例を簡素に図式化した図であり、その全体が参照番号1で指定されている。
図1では、大型ディーゼル・エンジン1の通常複数あるシリンダ2のうち、1つのシリンダ2のみが描写されている。
【0054】
シリンダ2の内部には、ピストン3がそれ自体知られているやり方で設置されており、シリンダ軸線Aに沿って下側反転点と上側反転点との間で往復移動可能であるように位置している。
図1は、ピストン3がその周期運動の上側反転点にある状態を示している。
【0055】
ピストン3は、内部で燃焼プロセスが行われる燃焼室4を、シリンダ・カバー21と協働して限定する上側面31を有する。
【0056】
クロスヘッド駆動で知られているように、ピストン3はピストン・ロッド6を介してクロスヘッド7に接続されており、このクロスヘッド7はプッシュ・ロッド8を介してクランクシャフト9に接続されており、その結果、ピストン3の運動は、ピストン・ロッド6、クロスヘッド7、プッシュ・ロッド8を介してクランクシャフト9に伝達されてこれを回転させる。クロスヘッド7は、ピストン3及びピストン・ロッド6の直線的な上下運動をプッシュ・ロッド8の回転運動に変換するように、それ自体知られているやり方で設計されており、プッシュ・ロッド8はクロスヘッド7のクロスヘッド・ピン71を中心として枢動可能に装着されている。
【0057】
図におけるシリンダ2の下端には、シリンダ2内へのピストン・ロッド6の経路を封止するシール構成22が設けられている。シール構成22は、好ましくは、スタフィング・ボックスを有する。
【0058】
大型ディーゼル・エンジン1のセットアップ及び個々の構成要素、例えば液体モード用の噴射システム(図示せず)、気体モード用のガス供給システム(図示せず)、ガス交換システム、排気システム(図示せず)、又は掃気空気又は吸気空気の供給のためのターボチャージ・システム(図示せず)など、並びにそのような大型ディーゼル・エンジン1の制御システム及び開ループ制御システム(図示せず)は、2ストローク・エンジンとしての実施例についても4ストローク・エンジンとしての実施例についても専門家に十分に知られているので、ここではさらなる説明を必要としない。
【0059】
本発明を理解するのに十分であるので、
図1ではこれらの構成要素のうち1つの出口弁5のみが描写されている。気体モード用のガス供給システムは、通常、2つのガス導入口(図示せず)を有し、このガス導入口を通じて気体モードで燃料として働くガスがシリンダ2の中に導入される。2つのガス導入口は、好ましくはシリンダ2の壁部に位置しており、特に好ましくは、互いに径方向に反対側に配置され、シリンダ軸Aによって画定される軸方向に対して上側反転点と下側反転点とのほぼ中間点に位置するようにする。
【0060】
現代の大型ディーゼル・エンジンにおいて、制御システム及び開ループ制御システムは電子システムであって、この電子システムを介して、通常全てのエンジン機能又はシリンダ機能、特に気体モード
と液体モードとの両方における噴射(噴射の開始及び終了)、並びに出口弁5の作動を調節又は制御又は調整することができる。
【0061】
ここで説明する長手方向掃気式2ストローク大型ディーゼル・エンジンの実施例では、通常、各シリンダ2又はシリンダ・ライナの下側領域には掃気スリット(図示せず)が設けられており、シリンダ2内のピストン3の運動によって周期的に開閉し、これにより、給気レシーバ(図示せず)内に給気圧力下でターボチャージャから供給される掃気空気が、掃気スリットが開いている限り、掃気スリットを通じてシリンダ2内に流入することができる。シリンダ・ヘッド又はシリンダ・カバー21には、通常中央に位置する出口弁5が設けられており、出口弁5を通じて燃焼プロセスの後に燃焼ガスをシリンダ2から排気システム(図示せず)内に排出することができる。排気システムは、燃焼ガスの少なくとも一部をターボチャージャのタービン(図示せず)に誘導し、ターボチャージャの圧縮機が給気空気を給気レシーバ内に給気空気圧力下で供給する。
【0062】
液体モードでシリンダ2の燃焼室4内に液体燃料を導入するために、1つ又は複数の燃料噴射ノズル(図示せず)が設けられ、これらは例えば出口弁5の近傍のシリンダ・カバー21に位置する。液体モードの液体燃料として、例えば重油又はディーゼル油を燃焼させることができる。
【0063】
気体モードにおけるガス供給、又は換言するとガスの導入のために、それ自体のやり方で知られているガス供給システムが提供され、ガス供給システムはガス導入口(図示せず)を有する。ガス導入口は、ガス導入ノズルを備えたガス導入弁としてそれぞれ設計されることが好ましい。
【0064】
ピストン・ロッド6は、図におけるその下端がクロスヘッド・ピン71の内側にあるように位置する。さらに、圧縮比を調節するための制御デバイス10が設けられている。圧縮比は、掃気空気又は空気-燃料混合気を圧縮した後の燃焼室4の残りの第2の容積に対する、掃気空気又は空気-燃料混合気を圧縮する前の燃焼室4の第1の容積の比である幾何学的な値である。第1の容積は、出口弁5を閉じた直後、すなわちピストン3の上昇移動に伴って圧縮が開始する時点の燃焼室4の容積である。第2の容積は、掃気空気又は空気-燃料混合気の最大圧縮時における燃焼室4の容積である。これは、本質的に燃焼プロセス開始時の燃焼室4の容積である。
【0065】
圧縮比を変更するための制御デバイス10は、例えば先述したEP-A-2687707の現況技術で知られているので、ここではさらなる説明を必要としない。
【0066】
本発明による大型ディーゼル・エンジン1では、圧縮比の調節用の制御デバイス10は、クロスヘッド・ピン71の内部に位置するピストン・ロッド6の全体を、クロスヘッド・ピン71に対してシリンダ軸Aの方向に動かすことができるように設計されている。したがって、
図1によると、ピストン・ロッド6、したがってピストン3もクロスヘッド・ピン71に対して上方又は下方に動かすことができる。ピストン・ロッド6が図における上方に移動されると、第2の容積、すなわち最大圧縮時の容積が減少し、これによって圧縮比が増大する。ピストン・ロッド6が図における下方に移動されると、第2の容積、すなわち最大圧縮時の容積が増加し、これによって圧縮比が減少する。
【0067】
これにより、大型ディーゼル・エンジン1が運転される負荷ごとに圧縮比を最適に調節することができ、その結果、負荷ごとに最も効率的な可能な燃焼プロセスが行われる。さらに、二元燃料大型ディーゼル・エンジンは、各ケースにおいてそれぞれの燃料についての圧縮比を最適に調節することも可能である。例えば、大型ディーゼル・エンジン1は、気体モードでは液体モードよりも低い圧縮率で運転することができる。
【0068】
さらに、他の運転条件若しくは運転パラメータに応じて、例えば掃気空気(給気空気)の温度、気体モードで燃料として働くガスのメタン価に応じて、又は他の運転パラメータに応じて、圧縮比を最適に調節することも可能である。
【0069】
本発明によると、ピストン・ロッドは下側部分61と上側部分62とを有し、下側部分61はクロスヘッド・ピン71内に位置しており、上側部分62はピストン3を下側部分61に接続している。ピストン・ロッド6の下側部分61及び上側部分62は、好ましくは上側部分61と下側部分62との間のねじ接続を実現する複数のボルト(図示せず)によって、着脱可能であるように互いに接続され、これにより、上側部分61及び下側部分62が堅固であるが着脱可能であるように接続される。この目的のため、各ボルトは、下側部分61又は上側部分62に設けられたネジ穴にそれぞれ係合することができる。
【0070】
特に好ましい実施例によると、ピストン・ロッド6の下側部分61は、制御デバイス10の油圧室11を限定する油圧ピストンとして設計されている。油圧室11は、クロスヘッド・ピン71内に設けられている。さらに、弁又はロック機構を備えた図示していない供給フィード及び排出フィードが設けられ、これを介して油圧媒体、例えば油を油圧室11に導入する、又は油圧室11から排出することができる。
【0071】
例えば、圧縮比を増大させようとする場合、油圧媒体を油圧室11内に導入して、油圧室11内の圧力を上昇させる。油圧室11内のこの圧力上昇により、ピストン・ロッド6の油圧ピストンとして設計された下側部分61に、図における上方に向かう力が加わり、これによってピストン・ロッド6及びそれに堅固に取り付けられたピストン3が上方に動かされる。
【0072】
圧縮比を減少させようとする場合、油圧室11から油圧媒体を排出して、油圧室11内の圧力を低下させる。この油圧室11内の圧力の低下により、ピストン・ロッド6は、重量による力のために図における下方に移動し、これによって圧縮比が減少する。
【0073】
このように、圧縮比を油圧式で連続的に変更又は調節することができる。
【0074】
着脱自在に互いに接続される下側部分61と上側部分62とを備えたピストン・ロッド6の実施例は、下側部分61及び上側部分62がそれぞれ互いと別々に製造可能であるという利点を特に有する。これにより、下側部分61を第1の材料で作成し、上側部分62を第1の材料とは異なる第2の材料で作成することが容易に可能になる。
【0075】
したがって、運転中に上側部分62よりもはるかに過酷な機械的歪みがかかる下側部分61のために、大きい引張強さ、高い靭性、弾性などの非常に優れた機械的性質を有する高品質の材料を選択することができ、より歪みの少ない上側部分62のためには、より安価な材料、例えば鋼を選択することができる。
【0076】
当然ながら、下側部分61及び上側部分62が同じ材料で作られている、すなわち第1の材料が第2の材料と同じである実施例も可能である。そのような実施例であっても、下側部分61をより高精度に加工することは可能である。
【0077】
また、下側部分61に、例えばレーザを介した表面硬化、又は、機械的性質を改善するための熱処理などの追加の処理加工を簡単なやり方で施すことも可能である。さらに、特に下側部分61に、例えばクロムによる、又はPVD法を介した、若しくは溶接クラッディングを介した表面コーティングをもたらすことが可能である。
【0078】
また、下側部分61を分離した構成要素として高精度に加工すること、例えば研削することがはるかに容易に可能になる。これは特に、下側部分1が、油圧室11への非常に正確な着座が必要な油圧ピストンとして設計されているときにも、重要な要素となる。
【0079】
さらに、分離した構成要素として下側部分61上でボア加工工程又は他の加工工程を実行することが著しく容易となる。例えば、下側部分61にボアを非常に簡単なやり方で作成することができ、ボアは冷却油のピストン・ロッド6内部への供給及び排出に役立つ。
【0080】
下側部分61と上側部分62とを備えたピストン・ロッドの実施例は、メンテナンス作業においても特に有利である。例えば、シリンダ2からピストン3を抜き取るために、上側部分62と下側部分61との間の接続を解除することが可能である。その後、ピストン3はピストン・ロッド6の上側部分62と共にシリンダ2から取り外すことができる一方、下側部分61はクロスヘッド・ピン71の内部に留まり、そこで保護される。これは特に、下側部分61を油圧ピストンとした実施例において、非常に大きな利点となる。
【0081】
好ましくは、下側部分61はクロスヘッド・ピン71と協働し、そのため、通常、ピストン・ロッド6の上側部分62よりも、製造中にはるかに高い精度を必要とし、及び/又はより高品質の材料で構成されるので、ピストン・ロッド6の下側部分61はピストン・ロッド6の上側部分62よりも著しく短く設計されている。下側部分61は、シリンダ軸方向に第1の長さL1(
図2)を有し、上側部分62は、シリンダ軸方向に第2の長さL2を有している。好ましくは、第2の長さL2は、第1の長さL1の少なくとも3倍、好ましくは少なくとも5倍である。特に好ましくは、下側部分61はその第1の長さL1に関して、大型ディーゼル・エンジンの運転中にピストン・ロッド6の下側部分61が、ピストン・ロッド6のシリンダ2内への経路を封止するシール構成22の下方に常に留まるように、設計されている。このようにして、下側部分61及び上側部分62が当接する分離面又は分離領域が、シール構成22を通過すること、又はシール構成22の中内に入ることを回避可能である。
【0082】
以下、上側部分62と下側部分61とを備えたピストン・ロッド6の実施例の異なる変形例について
図2~
図9を参照して説明する。
【0083】
図2は、ピストン・ロッド6の一実施例を概略断面図で示しており、
図1にも描写されたものと同じ実施例である。より良好な理解のために、
図3は
図2の実施例を再度示しているが、下側部分61は上側部分62と分離して描かれている。
【0084】
下側部分61は、本質的には円筒形状に設計されており、上端611を有し、下側部分61は上端611で上側部分62に接する。上側部分62は、円筒状ロッド622と、下側部分61に面したロッド622の端面においてロッド622と接合する下端621とを有する。上側部分62は、下端621で下側部分61に接している。
【0085】
上側部分62の下端621も円筒形状に設計されており、上側部分62のロッド622の外径D3よりも大きい外径D2を有し、その結果、下端621は上側部分62の一種の足として設計されている。
【0086】
ピストン・ロッド6の下側部分61の上端611は、上側部分62の下端621の外径D2よりも大きい外径D1を有している。
【0087】
下側部分61の上端611は、中央に位置する凹部612を有し、凹部612は、上側部分62の下端621を受けることができるように設計されている。好ましくは、凹部612の内径は、隙間嵌め又は中間嵌めなどの必要なクリアランスを除いて、上側部分62の下端621の外径D2に対応している。これは、本実施例では下側部分61の上端611が上側部分62の下端621を包囲していることを意味する。
【0088】
図4に描写されたピストン・ロッド6の実施例の変形例は、
図2及び
図3に描写された実施例に大部分が対応するが、
図4に描写された変形例では、上側部分62の下端621の外径D2が上側部分62のロッド622の外径D3と等しい。
【0089】
図5に描写された変形例では、上側部分62の下端621は、中央に位置するソケット623を有し、ソケット623は、下側部分61の上端611を受けることができるように設計されている。下側部分61の上端611は、上端611が突出部を形成するように、下側部分61の残りの部分の外径よりも小さい外径D1を有している。好ましくは、ソケット623の内径は、隙間嵌め又は中間嵌めなどの必要なクリアランスを除いて、下側部分61の上端611の外径D1に対応している。したがって、本実施例では上側部分62の下端621が下側部分61の上端611を包囲している。
【0090】
図6~
図9では、ピストン・ロッド6の実施例の変形例が描写されており、下側部分61及び上側部分62が当接している分離表面は、いずれのケースでも平坦な表面である。
【0091】
図6に描写された変形例では、上側部分62の下端621の外径D2は、上側部分62のロッド622の外径D3よりも大きく、ピストン・ロッド6の下側部分61の上端611の外径D1と等しい。
【0092】
図7に描写された変形例では、上側部分62の下端621の外径D2は、上側部分62のロッド622の外径D3と等しく、ピストン・ロッド6の下側部分61の上端611の外径D1よりも小さい。
【0093】
図8に描写された変形例では、上側部分62の下端621の外径D2は、上側部分62のロッド622の外径D3と等しく、ピストン・ロッド6の下側部分61の上端611の外径D1と等しい。
【0094】
図9に描写された変形例では、上側部分62の下端621の外径D2は、上側部分62のロッド622の外径D3と等しく、ピストン・ロッド6の下側部分61の上端611の外径D1よりも大きい。
【0095】
上側部分62と下側部分61とを備えたピストン・ロッド6の追加の実施例も可能であることが理解される。
【外国語明細書】