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特開2023-59838メタン発酵の処理方法、ならびにメタン発酵の処理装置、発電プラントおよび発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059838
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】メタン発酵の処理方法、ならびにメタン発酵の処理装置、発電プラントおよび発電システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/65 20220101AFI20230420BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20230420BHJP
   B09B 101/70 20220101ALN20230420BHJP
【FI】
B09B3/65 ZAB
C02F11/04 A
B09B101:70
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022159583
(22)【出願日】2022-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2021169788
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
【テーマコード(参考)】
4D004
4D059
【Fターム(参考)】
4D004AA02
4D004AA03
4D004AA04
4D004BA03
4D004CA18
4D004CB04
4D004CB28
4D004CC12
4D004DA03
4D004DA10
4D004DA20
4D059AA07
4D059AA08
4D059BA12
4D059BA46
4D059BA48
4D059BA56
4D059BK01
4D059DA01
4D059DA38
4D059EB05
(57)【要約】
【課題】有機性廃棄物の向上されたメタン発酵処理。
【解決手段】処理体を含む発酵処理槽に有機性廃棄物を供給し、処理体に含まれる微生物の作用によりメタンを含むバイオガスを生成するとともに有機性廃棄物を分解及び濃縮する有機性廃棄物のメタン発酵処理方法であって、微生物は、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌であることを特徴とするメタン発酵の処理方法、ならびに該処理方法のための処理装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理体を含む発酵処理槽に有機性廃棄物を供給し、前記処理体に含まれる微生物の作用によりメタンを含むバイオガスを生成するとともに前記有機性廃棄物を分解及び濃縮する有機性廃棄物のメタン発酵処理方法であって、
前記微生物は、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌であることを特徴とするメタン発酵の処理方法。
【請求項2】
前記処理方法において、塩基を投入することにより前記発酵処理槽のpHを6.0~9.0に維持することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記塩基は、炭酸塩、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムのいずれか1以上であることを特徴とする請求項2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記処理方法は、乾式で行うことを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項5】
前記発酵処理槽の高さ方向で上から50%の空間である上部空間の酸素濃度が0.5~7%であることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項6】
前記処理方法は、前記処理体を間欠的に1~25回/日攪拌することを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項7】
前記発酵処理槽での発酵を経て生じた発酵残渣の一定量を前記発酵処理槽から取り出すことをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の処理方法。
【請求項8】
有機性廃棄物の処理において、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌を含む処理体を発酵処理槽に存在させることにより、メタン発酵処理を行うことを特徴とする有機性廃棄物の処理装置。
【請求項9】
前記処理装置は、塩基を投入することにより前記発酵処理槽のpHを6.0~9.0に維持するpH調整装置を有することを特徴とする請求項8に記載の処理装置。
【請求項10】
前記塩基は、炭酸塩、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムのいずれか1以上であることを特徴とする請求項9に記載の処理装置。
【請求項11】
前記処理装置は、乾式メタン発酵処理を施すことを特徴とする請求項8に記載の処理装置。
【請求項12】
前記発酵処理槽の高さ方向で上から50%の空間である上部空間では、外部と連通しないよう閉鎖されていることを特徴とする請求項8に記載の処理装置。
【請求項13】
前記処理装置は、前記処理体を攪拌する攪拌装置を有することを特徴とする請求項8に記載の処理装置。
【請求項14】
前記処理装置は、有機性廃棄物を前記発酵処理槽の底付近に供給する供給部を備える請求項8に記載の処理装置。
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の処理装置と、燃料電池とを備える発電プラント。
【請求項16】
請求項8~14のいずれか1項に記載の処理装置と、前記処理装置の後段に配置され、前記発酵処理槽でメタン発酵して生成されたメタンガスを燃料として発電する発電装置とを有する発電システム。
【請求項17】
メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体。
【請求項18】
メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌、嫌気性のアンモニア酸化菌及び光合成細菌を含む4種の微生物の集合体。
【請求項19】
加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体を使用するバイオガス生成方法。
【請求項20】
加水分解菌、メタン生成菌、光合成細菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の4種の微生物の集合体を使用するバイオガス生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物を処理するメタン発酵の処理方法、ならびにメタン発酵の処理装置、発電プラントおよび発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品廃棄物の多くが焼却や埋め立て処理をされており、再利用化が求められている。その中で、食品廃棄物をメタン化してエネルギーとして利用する手法が広く検討されている。エネルギーとして利用するために、メタン発酵反応を利用することが知られている。
【0003】
特許文献1には、有機性廃棄物をメタン発酵処理や熱分解処理して得られるメタン含有ガスを効率よく電気エネルギーに転換できる燃料電池発電プロセスとして、有機性廃棄物を嫌気的条件で発酵および/または熱分解して得られる、メタンを主成分とし、アンモニアおよび/または硫化水素を含有するガスを回収するメタン含有ガス生成工程と、前記アンモニアおよび/または硫化水素を分解し、水素を生成させる分解工程と、前記水素を燃料として燃料電池により発電を行う発電工程と、を含む燃料電池発電プロセスが記載されている。
【0004】
非特許文献1には、メタン生成菌により発酵対象物が嫌気性反応されてメタンガスを含むバイオガスおよび発酵残渣が生成するメタン発酵槽を備えたメタンガス化施設の処理フローが記載されている。生成したバイオガスには、主成分のメタンガスと二酸化炭素の他に、500ppm以上の硫化水素、50ppm以上のアンモニアがその他の不純物と共に含有されていることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-303482号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“メタンガス化施設整備マニュアル(改訂版)”、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課、平成29年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明は、メタンガスに含まれる硫化水素やアンモニアを別のプロセスで除去するものであって、発酵させる分解プロセスのほかに生成したメタンガスから燃料電池にとって有害な硫化水素やアンモニアを除去する装置を別途設ける必要があり、設備全体をコンパクト化することが困難であった。
【0008】
本発明では、上記課題を鑑み、メタン生成およびアンモニア酸化を同時に行うことができ、小型の装置で有機性廃棄物をメタン発酵処理する有機性廃棄物のメタン発酵処理方法、メタン発酵の処理装置、発電プラントおよび発電システムを提供することを目的とする。本発明のさらなる目的は、メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の少なくとも3種の微生物の集合体を提供すること、および少なくとも3種の微生物の集合体を用いたバイオガス生成の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決するための本発明のメタン発酵の処理方法は、処理体を含む発酵処理槽に有機性廃棄物を供給し、前記処理体に含まれる微生物の作用によりメタンを含むバイオガスを生成するとともに前記有機性廃棄物を分解及び濃縮する有機性廃棄物のメタン発酵処理方法であって、前記微生物は、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌であるものである。前記微生物はさらに、光合成細菌を含んでいてもよい。
【0010】
本発明によれば、加水分解菌と、メタン生成菌と、嫌気性のアンモニア酸化菌とが同一のメタン発酵処理槽内に存在することから、有機性廃棄物をメタン発酵する過程で必要な、加水分解、メタン発酵時に発生するアンモニアの分解を単一の槽で同時に行うことができる。さらに、メタン発酵処理槽内には、上記3種の微生物に加えて光合成細菌が含まれていてもよく、この場合、メタン発酵時に発生する硫化水素の分解も単一のメタン発酵処理槽内で行われ得る。
【0011】
光合成細菌は、光合成を行う際に電子供与体として硫化水素を使うため、メタン発酵処理のあいだにメタン発酵処理槽内で発生する硫化水素を単体の硫黄粒、硫酸塩などとして固定化する作用を有し得る。このため、微生物として光合成細菌が含まれる場合、メタン発酵処理で生成されたメタンガスを含むバイオガス中における、燃料電池の燃料として使用する際に有害な硫化物の含有量を低下させることができる場合がある。
【0012】
また、本発明のメタン発酵の処理方法は、以下の態様であることが好ましい。
【0013】
(2)前記処理方法において、塩基を投入することにより前記発酵処理槽のpHを約6.0~9.0程度に維持する。
【0014】
メタン発酵の処理方法では、発酵の過程で生成する有機酸によりpHが徐々に酸性に変化する。低pH領域における有機酸は、発酵における生物反応の阻害物質であり、消化分解反応の進行を停滞させる結果をもたらすが、これに加え、本発明では処理体に含まれる各微生物(加水分解菌、メタン生成菌、及びアンモニア酸化菌の少なくとも3種であって、光合成細菌をさらに含んでいてもよい)の働きのバランスが低pH領域および/または高pH領域では崩れてしまう虞がある。したがって、処理体中に共存させた少なくとも3種の菌の活性を失うことがなく、ならびに、メタン発酵過程で生成するメタンガスの発生量および純度の変化を防止するために、発酵処理槽に塩基が投入される。これにより、発酵処理槽におけるメタンの発生量および純度を安定化させることができる。
【0015】
(3)前記塩基は、例えば炭酸塩および水酸化物などから選択され得る。炭酸塩としては例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムおよび炭酸カルシウムなど、水酸化物としては例えば、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられ、これらのいずれか1以上が好適に使用され得る。とりわけ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウムは、微生物に対して毒性がなく、共存する菌の活性を失わせることがなく、かつ、入手しやすい塩基であるため、メタン発酵の機能を長期にわたって安価に維持することが可能となる。しかしながら、使用され得る塩基としては上記の塩基に限定される訳ではない。
【0016】
(4)前記処理方法は、乾式で行われることが好ましい。
【0017】
メタン発酵処理が乾式であるとは、固体の有機性廃棄物を発酵させてメタンガスを生成する方法であって、メタン発酵処理槽に入れられた固体の表面で発酵が起こっていることをいう。
【0018】
乾式メタン発酵処理方法を用いることにより、メタン発酵後の廃水の処理が不要となり、処理装置全体を小型化できるとともに、発酵残渣を、肥料として利用することが可能となる。
【0019】
本発明のメタン発酵処理方法は、乾式であるため、発酵処理槽に充填された処理体および有機性廃棄物において、隙間に空隙ができやすい上部領域とその下方で上部領域により圧縮されている下部領域との2つの領域が発酵処理槽内で形成されている。上部領域は、好気性領域であり、および、下部領域は、嫌気性領域である。なお、本発明の発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物における上部領域とは、発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物の表層側から約10cm程度の部分を意味している。
【0020】
下部の嫌気性領域では、処理体および有機性廃棄物は自重で圧縮され気孔がつぶれており、アンモニア、硫化水素、メタンなどを産生する嫌気性の発酵が進みやすい。一方、上部領域の好気性領域は、発酵処理槽内の上部空間の気相部に滞留している空気が内部に流入しやすいことから、CO2、水、硝酸塩、硫酸塩などを産生する好気性菌が作用する好気性の発酵や、加水分解が進みやすい。なお、本発明の発酵処理槽における上部空間とは、発酵処理槽の高さ方向で上から約50%程度の空間を意味している。
【0021】
処理体が光合成細菌を含む場合、処理体および有機性廃棄物の上部領域のうちの、さらに発酵処理槽内の気相部に近い表層付近に、例えば後述するような発酵処理槽の壁面に設けられた光供給部などからの光が到達することによって、光合成細菌が作用し得る光合成細菌作用領域が形成され得る。すなわち本発明のメタン発酵処理方法において、微生物として光合成細菌が含まれる場合、発酵処理槽内に光を供給することによって、メタン発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物における下部領域において嫌気性菌による作用で生成した硫化水素が、メタン発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物における上部領域における光合成細菌の作用により分解されて、硫黄粒、硫酸塩などとして固定化され得る。
【0022】
好気性領域では、生成されたメタンがCO2などに分解されてしまう反応も同時に起こり得る。微生物が光合成細菌を含む場合、好気性菌によるメタンの分解を抑制しつつ硫化水素を効率よく固定化することが可能となると考えられる。
【0023】
したがって、一実施形態において、本発明の発酵処理槽は、光合成細菌を作用させるための光を供給することができる光供給部を備えていてもよい。
【0024】
本実施形態によれば、光合成細菌を作用させるための光が発酵処理槽を透過するなどして発酵処理槽内に充填された処理体および有機性廃棄物へと到達することができるので、充填された処理体および有機性廃棄物の表層付近において光合成細菌が活性化され、この働きにより発酵処理槽内での硫化水素の蓄積を防止することができる。
【0025】
本実施形態における光供給部としては、特に限定されない。例えば発酵処理槽に設けられる採光窓や照明などが挙げられるが、このような構造に限定される訳ではなく、例えば、光線を透過させることの可能な発酵処理槽や配管などであってもよい。例えば、発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物の表層付近が、光によって、100~1000ルクス程度の明るさとされることが、光合成細菌の作用を促進するために好適であり得る。したがって、光供給部は、この程度の明るさをもたらすために十分な光が供給できる程度のサイズおよび位置で設けられる。光供給部は、発酵処理槽の上方に設けられることが好ましい。ここで、上方とは、投入された処理体および有機性廃棄物の発酵処理槽内での上面より上方を意味している。換言すると、光供給部は、充填されている処理体および有機性廃棄物の固体層と気相の境界部より上方の発酵処理槽の壁面の任意の位置に設けられてよい。しかしながら、発酵処理槽そのものを半透明または透明とする場合、発酵処理槽全体が半透明または透明であってもよい。
【0026】
(5)前記発酵処理槽の高さ方向で上から50%の空間である上部空間では、酸素濃度が約0.5~7%程度である。
【0027】
上部空間における酸素濃度が約0.5~7%程度であるので、好気性菌の過度な作用が抑制され、発酵処理槽内で生産されたメタンの分解反応を抑制することができる。この程度の発酵処理槽内の気相の酸素濃度であれば、処理体に含まれる嫌気性菌への影響はなくバイオガス化効率は低下しない。さらに、処理体が光合成細菌を含む場合、上部空間における光合成細菌の作用が相対的に強まり、硫化水素の分解を促進させ、硫化水素の含有量が低下されたより純度の高いメタンが得られ得ると考えられる。
【0028】
(6)前記処理方法は、前記処理体を間欠的に1~25回/日攪拌する。
【0029】
上記程度の攪拌回数であると、処理体を十分に発酵させつつ、発酵処理槽内の嫌気性環境と好気性環境とを安定して形成および維持することができ、メタンガスの発生量および純度を安定化させることができる。
【0030】
なお、本実施形態の前処理方法で得られるメタンを含むバイオガスに含まれる硫化物の含有量は約300ppm以下程度である。
【0031】
上記程度の硫化物の含有量の範囲であると、メタンを燃料電池の燃料とした場合に触媒を被毒させることなく安定して使用することができる。
【0032】
(7)前記発酵処理槽での発酵を経て生じた発酵残渣の一定量は前記発酵処理槽から取り出される。
【0033】
本発明のメタン発酵処理方法は乾式であるため、湿式メタン発酵処理と異なり、消化液があまり生じないため、消化液のさらなる処理が不要であり得る。乾式メタン発酵処理によって生じた本発明の発酵残渣は、燃料や肥料などとして利用できる。
【0034】
(8)また、前記課題を解決するための本発明の処理装置は、有機性廃棄物の処理において、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌を含む処理体を発酵処理槽に存在させることにより、メタン発酵処理を行うことを特徴とする有機性廃棄物の処理装置である。ここで、処理体は、光合成細菌を含んでいてもよい。
【0035】
また、本発明のメタン発酵の処理装置は、以下の態様であることが好ましい。
【0036】
(9)前記処理装置は、塩基を投入することにより前記発酵処理槽のpHを約6.0~9.0程度に維持するpH調整装置を有する。
【0037】
(10)前記塩基は、例えば炭酸塩および水酸化物などから選択され得る。例えば、pH調整装置において好適に使用され得る塩基は、炭酸塩、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウムのいずれか1以上である。例えば、炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどが挙げられるがこれらに限定される訳ではない。微生物に対して毒性がなく、かつ、入手しやすい塩基であればよい。
【0038】
(11)前記処理装置は、乾式メタン発酵処理を施す。
【0039】
また、上述したように、前記発酵処理槽が、光合成細菌を作用させるための光を供給する光供給部を備えていてもよい。
【0040】
(12)前記発酵処理槽の高さ方向で上から50%の空間である上部空間では、外部と連通しないよう閉鎖されている。
【0041】
ここで、上部空間が閉鎖されているとは、発酵処理槽の完全な気密性を要求するものではなく、発酵処理槽の上部空間の酸素濃度を0.5~7%以下に維持することができる構造であればよい。
【0042】
(13)前記処理装置は、発酵処理槽内に充填された前記処理体および有機性廃棄物を攪拌する攪拌装置を有する。
【0043】
(14)前記処理装置は、有機性廃棄物を前記発酵処理槽の底付近に供給する供給部を備える。
【0044】
(15)また本発明の発電プラントは、上記記載の処理装置と、燃料電池とを備える発電プラントである。
【0045】
本発明の発電プラントによれば、有機性廃棄物のメタン発酵処理から発生する分解ガスのうち、アンモニアがアンモニア酸化菌の作用によって分解されており、分解ガス中にアンモニアが存在しないか、その濃度を下げることができる。したがって、分解ガス中にアンモニアが存在しない場合には、アンモニアを除去する装置を別途設ける必要がないか、その当該装置を小型化できる。また、処理体が光合成細菌を含む場合、燃料電池にとって有害な硫化水素が光合成細菌の作用によって分解され固定化され得るため、処理装置と燃料電池との間に設けられ得る脱硫装置を小型化することができると考えられる。
【0046】
(16)また本発明の発電システムは、上記記載の処理装置と、前記処理装置の後段に配置され、前記発酵処理槽でメタン発酵して生成されたメタンガスを燃料として発電する発電装置とを有する発電システムである。
【0047】
(17)本発明の微生物の集合体は、メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体である。本発明の3種の成分を含む集合体により、メタン生成およびアンモニア酸化が同時に行われ得る。なお、本発明の微生物の集合体は、上記3種の微生物に加え、さらに、光合成細菌を含んでいてもよい。
【0048】
(18)したがって、本発明の微生物の集合体は、メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌、嫌気性のアンモニア酸化菌及び光合成細菌を含む4種の微生物の集合体である。
【0049】
(19)本発明のバイオガス生成方法は、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体を使用することを含んでいる。これら3種の微生物の集合体を使用することにより、有機性廃棄物等の加水分解およびメタン発酵時に発生するアンモニアの分解が略同時に行われ得る。発酵によって生じるメタンガスが効率よく取り出され得る。
【0050】
(20)本発明のバイオガス生成方法は、加水分解菌、メタン生成菌、光合成細菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の4種の微生物の集合体を使用することを含んでいる。加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物に加えて微生物の集合体に光合成細菌が含まれることにより、光合成菌が働く条件下で集合体を使用することによって、メタン発酵において発生される硫化水素が分解され得る。
【発明の効果】
【0051】
本発明のメタン発酵の処理方法およびメタン発酵装置によれば、加水分解、メタン発酵、アンモニアの分解を同時に行うことができる。メタンガス生成の効率も優れている。アンモニアの処理のための槽を特別に設ける必要がなく、反応槽一つで発酵処理とアンモニア除去ができるので、装置全体をより小型にすることが可能である。
【0052】
これにより、装置のコストの低下、設置場所の自由度が高くなり、従来の集積型の処理施設と異なり、食品残渣の発生場所で、メタン発酵処理が可能となる。さらに、燃料電池を有すれば、発生したメタンを、電気に変換することができるので、食品残渣から生成した、エネルギーの利用も、その場で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の一実施形態のメタン発酵処理槽の一例を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態のメタン発酵処理槽の一例の縦断面を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態の処理体に含まれる菌叢の分析結果を示す図である。
図4】本発明の他の実施形態の処理体に含まれる菌叢の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施形態について、説明する。なお、本発明は、以下の実施形態の記載に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0055】
本実施形態に係るメタン発酵の処理方法は、処理体に有機性廃棄物を供給し、処理体に含まれる微生物の作用によりメタンを含むバイオガスを生成するとともに有機性廃棄物を分解及び濃縮する有機性廃棄物のメタン発酵処理方法であって、微生物は、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌であるものである。したがって、本発明はさらに、メタン発酵処理のために使用される、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体に関する。本発明はさらに、加水分解菌、メタン生成菌及び嫌気性のアンモニア酸化菌の3種の微生物の集合体を使用するバイオガス生成方法に関する。
【0056】
ここで、「処理体」とは、バイオガスを発生させる発酵体を意味している。例えば一実施形態において、発酵処理槽内に、最初に有機性廃棄物と、活性汚泥とが投入される。本実施形態の活性汚泥は、メタンを生成するメタン生成菌、有機物を低分子に分解する加水分解菌、アンモニアを分解するアンモニア酸化細菌を含んでいるため、これらの微生物群との接触により発酵処理槽内で有機性廃棄物の分解が開始される。発酵処理槽内に保持される汚泥を含むこの発酵体が処理体である。本実施形態のメタン発酵の処理方法では、この処理体に有機性廃棄物が追加供給され、発酵処理槽内でメタン発酵処理され、分解される。
【0057】
活性汚泥としては、加水分解菌、メタン生成菌およびアンモニア酸化菌の活性が維持された活性汚泥や種汚泥であればよく、その由来は問わない。例えば活性汚泥法を用いて廃棄物を処理している既存の施設からの活性汚泥を用いることもでき、また市販の活性汚泥を用いてもよい。例えば、加水分解菌、メタン生成菌およびアンモニア酸化菌を含む汚泥がそのまま使用されてもよいし、活性汚泥に、加水分解菌、メタン生成菌および/またはアンモニア酸化菌が添加されて、加水分解菌、メタン生成菌およびアンモニア酸化菌を含む汚泥とされてもよい。この場合、処理菌の添加方法は特に制限されず、処理菌をそのまま添加してもよく、例えば処理菌を含むグラニュール汚泥層を添加してもよい。さらに、処理体は活性汚泥を含んでいなくてもよく、メタン発酵処理の残渣や加水分解菌、メタン生成菌またはアンモニア酸化菌を担持した生物担体などを含んでいてもよい。
【0058】
本実施形態のメタン生成菌としては、発酵処理槽内での嫌気性処理に適した嫌気性菌であればよく、特に限定されないが、例えば、メタノバクテリア科(Methanobacteriaceae)のメタノバクテリウム属(Methanobacterium)およびメタノブレウィバクテル(Methanobrevibacter)属、メタノサルシナ属(Methanosarcina)、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノスピリルム(Methanospirillum)属、メタノトリクス(Methanothrix)属、vadin CA11属、メタノレグラ(Methanoregula)属の種などが挙げられる。
【0059】
嫌気性のアンモニア酸化菌としては、例えば、アナモックス菌が挙げられるがこれらに限定される訳ではない。アナモックス菌としては、カンジダタス(Candidatus属)などが挙げられる。
【0060】
アンモニア酸化菌として、好気性の菌が含まれていても良い。好気性のアンモニア酸化菌としては、ニトロソモナス(Nitrosomonas)属、ニトロソコッカス(Nitrosococcus)属、ニトロソスピラ(Nitrosospira)属、ニトロソロブス(Nitrosolobus)属等に分類されるアンモニア酸化細菌やチオアルカリビブリオ(Thioalkalivibrio)属、ノストコイダ(Nostocoida)属などが挙げられる。
【0061】
また、加水分解菌は、メタン発酵処理に投入される有機性廃棄物の種類によって、適宜選択され得る。一般に有機性廃棄物を加水分解できるものであれば特に限定はされず、当業者が任意のものを使用することができるが、例えば、アセチビブリオ属(Acetivibrio)、バチルス属(Bacillus)、バクテロイデス属(Bacteroides)、セルロモナス属(Cellulomonas)、クロストリジウム属(Clostridium)、パルディバクター(Paludibacter)属、クロアシドバクテリウム(Cloacibacterium)属、クリセオバクテリウム(Chryseobacterium)属、フラボバクテリウム(Flavobacterium)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、シフォノバクター(Siphonobacter)属、ブデロビブリオ(Bdellovibrio)属、チオアルカリビブリオ(Thioalkalivibrio)属、リソバクター(Lysobacter)属、ステノトロホモナス(Stenotrophomonas)属、シュードフルビモナス(Pseudofulvimonas)属、カンジジモナス(Candidimonas)属、ケルステルシア(Kerstersia)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ブレイディア(Bulleidia)属、ルミニクロストリジウム(Ruminiclostridium)属の種などが挙げられる。
【0062】
それぞれの処理菌は、一種単独で使用してもよいが、複数種の混合形態で使用されてもよい。例えば混合生菌などが用いられてもよい。また、これらの菌のほかに他の菌が含まれていてもよい。
【0063】
例えば本実施形態において、活性汚泥に、上述するメタン生成菌、加水分解菌、アンモニア酸化細菌に加えて、光合成細菌が含まれていてもよい。光合成細菌は、光合成を行う際に硫化水素を分解し得るため、生成されるバイオガス中の硫化水素含有量が低下され得る。
【0064】
このような光合成細菌としては、例えば、これらに限定される訳ではないが、藍藻類、シアノバクテリアなどの藍色細菌、紅色硫黄細菌(クロマチウム科(Chromatiaceae)およびエクトチオロドスピラ科(Ectothiorhodospiraceae)に属する紅色光合成細菌)、紅色非硫黄細菌(インクイリヌス(Inquilinus)属、ロドバスタム(Rhodovastum)属、ブレブンジモナス(Brevundimonas)属、コンストリクチバクター(Constrictibacter)属、パラコッカス(Paracoccus)属)、緑色硫黄細菌(クロロビウム門(Chlorobi)に属する細菌)、緑色滑走性細菌(クロロフレクサス(Chloroflexi)門に属する細菌)、ヘリオバクテリウム(Heliobacteriaceae)科に属する細菌、ノボスフィンゴビウム(Novosphingobium)属に属する細菌、デクロロモナス(Dechloromonas)属に属する細菌などが挙げられる。シアノバクテリアとしては、ML635J-21、MLE1-12、クロロビウム門に属する細菌としては、Chlorobi OPD56、Chlorobi SJA-28などが挙げられる。
【0065】
本実施形態で処理される有機性廃棄物は、メタン発酵できるものであれば特に限定されないが、例えば、家庭やスーパー、コンビニ、レストラン、食品工場、魚加工場、畜産物加工場などから排出される動植物性残渣や生ごみ、食品残渣、その他の有機性廃棄物などである。これらは、メタン発酵処理槽にそのまま投入できるものはそのまま投入してもよく、必要により予め分別や破砕処理してもよい。水を加える必要はないが、水を加えて流動化してもよい。発酵処理槽への投入前に、プラスチックや皮革などの発酵不適物や、薬品や溶剤、骨類、甲殻類の殻等の発酵阻害物質を取り除く前処理が行われてもよい。有機性廃棄物の発酵処理槽への供給は、間欠式で行われてもよく、連続式で行われてもよい。
【0066】
図1に本発明を実施するための処理装置であるメタン発酵処理槽の一例の概略図を、また、図2に実施形態に係るメタン発酵処理槽の縦断面を示す模式図を示す。ただし図1および図2は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を模式的に示したものであり、各細部の形状や寸法、寸法の比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。有機性廃棄物のメタン発酵としては、基本的には、公知の方法に従って行えばよい。本実施形態のメタン発酵の処理方法では、発酵処理槽に充填された処理体および有機性廃棄物において、好気性領域である上部領域とその下方で上部領域により圧縮されている嫌気性領域である下部領域との2つの領域が発酵処理槽内で形成されている。なお、前述したように、本発明の発酵処理槽では、上部領域とは、発酵処理槽内の処理体および有機性廃棄物の表層側から約10cm程度の部分を意味している。本実施形態のメタン発酵処理槽では、メタン発酵は、下部領域の嫌気性領域に生育しているメタン生成菌によって行われる。なお、図2は採光窓(図1の覗き窓(採光窓)20参照)を省略して記載している。採光窓は光合成菌を積極的に作用させる場合には、メタン発酵処理槽に設け、光合成菌を作用させないのであれば、採光窓を設けなくてもよいし、採光窓を遮光することもできる。
【0067】
メタン発酵処理槽は、メタン発酵が嫌気発酵であり、また、発酵で生成したメタンを主成分とするバイオガスを有効利用するために密閉構造とするのがよい。形状は箱形や円筒形などでよい。箱形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での箱形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
【0068】
発酵処理槽の内部構造は特に限定されないが、間欠式または連続式の原料投入の場合、例えば図2に示されるように、内部に仕切り板10を設けることにより、十分な滞留時間を確保することができるようになり好ましい場合がある。ただし、図2に記載の仕切り板10は、一例であり、その位置や大きさ、数などは図2に示されているものに限らない。滞留時間を確保するために原料である有機性廃棄物を一時的に保持できる手段であればよい。また、発酵処理槽は、発酵残渣(活性汚泥)を有機系廃棄物の供給側に返送する返送装置や返送装置のための返送用動力源を備えていてもよい。例えば、返送装置は返送管などであってよいがこれに限らず、また、返送装置は設けられていなくてもよい。
【0069】
発酵処理槽の材質は、特に限定はされないが、耐候性等の観点から、FRP(繊維強化プラスチック)が好適に利用できる。また、例えば図1に示されているように、発酵処理槽の壁面に、例えば外側から内部の様子を観察することができるような透明性の材質で作られている覗き窓20(図1参照)が設けられていてもよい。また、例えば、活性汚泥が、メタン生成菌、加水分解菌、アンモニア酸化細菌の少なくとも3種に加えて光合成細菌を含む場合、光合成細菌を作用させるために、発酵処理槽は、光透過性樹脂を用いたFRPなどで構成されていてもよいし、光透過性樹脂やその他の任意の光透過性の材料を用いて形成された光を透過させることのできる光供給部を備えていてもよい。例えば上述の覗き窓20を光供給部(採光窓)として利用することも可能である。また、光合成菌を作用させない場合には、覗き窓(採光窓)20を塞いで使用することもでき、発酵処理槽にこのような覗き窓(採光窓)20を設けない構造とすることもできる。
【0070】
発酵処理槽は、有機性廃棄物を発酵処理槽に供給する供給部として、有機性廃棄物投入口11から発酵処理槽の底部まで繋がる有機性廃棄物投入管12(図2参照)を設けることが望ましい。有機性廃棄物投入管12は、配管またはコンベヤなどで構成された供給経路である。投入される有機性廃棄物は、有機性廃棄物投入管12を通り、例えば自然流下されて、発酵処理槽の底部まで到達する。例えば、発酵処理槽内において、発酵処理槽の底部から約70~80%程度が処理体および有機性廃棄物によって充填されるように、有機性廃棄物が供給され得る。供給のための有機性廃棄物投入管12が発酵処理槽の底部まで伸びていることにより、連続的にメタン発酵を行った際に、生成したメタンが、有機性廃棄物投入時に、有機性廃棄物投入口11から漏洩することを防ぐことが可能となる。また、発酵処理槽上部が解放されていない閉鎖された空間となることができるので、発酵処理槽の上部空間の酸素濃度を約0.5~7%に維持することができる。より好ましくは、発酵処理槽の上部空間の酸素濃度は、約3~6%である。なお、前述したように、本発明の発酵処理槽における上部空間とは、発酵処理槽の高さ方向で上から約50%程度の空間を意味している。
【0071】
発酵処理槽温度は、微生物群の生育環境として適切かつ発酵菌として活発に代謝を行うことができる温度範囲内とすることができ、具体的には例えば、30~60℃程度、より好ましくは例えば、45~55℃程度に調整されていることが望ましい。適切な温度範囲から逸脱している場合、例えば発酵による発熱で発酵処理槽の温度を維持できない場合には、発酵処理槽の周囲または内部に、ヒーターを配置しても良く、発電に用いる燃料電池で発生する熱を、温水として回収して、発酵処理槽の温度維持のための熱源として使用しても良い。発酵処理槽がこのような温度範囲に維持されている場合、発酵処理槽における有機性廃棄物の滞留時間は、例えば、3日以上、好ましくは、5日以上、例えば、30日以下、好ましくは、14日以下である。
【0072】
メタン発酵処理槽は、例えば回動により攪拌可能な攪拌翼(パドル)13(図2参照)などで構成される攪拌装置14を備えることが望ましい。発酵処理槽内部を回転する攪拌翼13によって攪拌することにより、発酵処理層内のpHが調整され、食品残渣などの有機性廃棄物の発酵を均一に行うことができる。攪拌頻度としては1~25回/日程度とすることができるが、発酵を促進させるために攪拌頻度は高められてもよい。また、1回当たりの攪拌時間は0.5~2分程度とすることができる。ただし過度な攪拌は、発酵処理槽の処理体および有機性廃棄物において形成されている上部領域の好気性領域、下部領域の嫌気性領域という本発明の略層構造を損なわせる結果にもなり得るため、好ましくない場合がある。攪拌は有機性廃棄物の発酵が安定して進む程度に行われればよい。また、攪拌直後のメタンガスには硫化水素が混入しやすいので、通常のメタンガスの取出しとは分けて採取する切り替え装置を有していてもよい。
【0073】
有機性廃棄物のメタン発酵処理によって発生するバイオガス中には、通常、500ppm程度の硫化水素が含有されていることが知られており、有機性廃棄物に食品廃棄物を多く含む場合にはさらに多くの硫化水素が含まれている可能性がある。実施形態の活性汚泥が光合成細菌を含む場合、光合成細菌により硫化水素が分解され得るため、メタン発酵処理から発生する分解ガスのうちの硫化水素の含有量が顕著に減少され得る。通常、有機性廃棄物のメタン発酵処理によって生成したバイオガスは、硫化水素吸着用活性炭やゼオライト等の硫化水素吸着および酸化鉄等の硫化水素処理剤を収容した脱硫塔に通気されて、硫化水素を除去する必要がある。しかしながら、活性汚泥が光合成細菌を含む本実施形態では、脱硫のための装置や脱硫剤は不要にできる。また、設ける場合であっても、小型化することができる。これにより、装置全体の小型化を図ることができ、また、脱硫剤の量を削減できるため、コスト的に有利である。
【0074】
本実施形態のメタン発酵処理によって発生するバイオガス中に含まれる硫化物の含有量は、300ppm以下、好ましくは50ppm以下である。したがって、生成したメタンガスは燃料電池の燃料として、触媒を被毒させることなく安定して使用され得る。
【0075】
メタン発酵処理槽内で発生したメタンは、その少なくとも一部が、発酵処理槽の上方端に設置されたメタン排出口15から排出される。
【0076】
メタン排出口15には、脱臭装置を備えることができ、脱臭装置内の充填物は特に限定されないが、活性炭であることが望ましい。また、メタン排出口15には、メタンガスの漏洩や、硫化水素の濃度を検知するためのセンサーや臭いを検知するためのセンサーが設置されていでもよい。また、メタン排出口15には、生成されたメタンガスを収容するためのガス貯留槽などが連結されていてもよい。
【0077】
本実施形態の発酵処理槽は、メタン発酵処理に伴って生じた発酵残渣の少なくとも一部を発酵処理槽から取り出す発酵残渣排出口16を備え得る。取り出されたメタン発酵後の発酵発酵残渣は、肥料などとして用いることが可能である。
【0078】
本実施形態のメタン発酵により得られるメタンガスは、燃料電池の燃料として発電に用いることが望ましい。一実施形態において、有機性廃棄物を処理してメタン発酵させる有機性廃棄物の処理装置と発電装置とを組み合わせた発電プラントおよび発電システムが提供される。
【0079】
例えば、本実施形態の発酵処理槽のメタン排出口15から取り出されたメタンガスは、例えば配管や制御バルブ、一時的にメタンガスを貯留しておくガス貯留槽などを介して適量ずつ発電装置に供給され得る。例えば、発電装置は、酸素極に酸素を供給し燃料極にメタンガスを供給することで発電する燃料電池とすることができる。燃料電池としては、リン酸形(PAFC)や固体高分子形(PEFC)等の低温型や、溶融炭酸塩形(MCFC)や固体酸化物形(SOFC)等の高温型等を用いることができる。例えば、燃料電池は、内部改質型の燃料電池であってもよい。しかしながら、発電装置は、燃料電池に限らず、メタンガスを燃料としてエンジンを駆動して発電するガスエンジン発電機などであってもよい。
【0080】
本発明の有機性廃棄物の処理装置は小型であることから、その設置場所が限定されず、したがって、食品残渣の発生する場所毎にメタン発酵装置を設置することができる。例えば、レストラン、コンビニエンスストア、企業や公共施設の食堂、さらには一般家庭などへの設置が可能となる。
【実施例0081】
以下に実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
(実施例1)
本発明に用いた活性汚泥は、日本国岐阜県にある電子機器の製造工場に設置された、該工場に由来する廃液を活性汚泥法を利用して処理する施設から得た。その活性汚泥を24時間以上静止状態として、その後、10000Gで10分間の遠心分離をかけ、活性汚泥中の菌の濃縮を行った。
【0083】
濃縮後の活性汚泥中の菌叢を16s rRNA Sequencingにて分析を行った。
【0084】
活性汚泥中、Methanobacteriaceae科のMethanobrevibacter属およびMethanobacterium属、Methanothrix属、Methanoregulaceae科、ならびに、Methanomassiliicoccaceae科のvadin CA11属に属する微生物が検出され、例えば、Methanobrevibacter ruminantium、Methanobrevibacter smithii、Methanobrevibacter filiformis、Methanobrevibacter cuticularis、Methanobrevibacter oralis、Methanobrevibacter arboriphilicus、Methanobrevibacter curvatus、Methanobrevibacter thaueri、Methanobrevibacter woesei、Methanobrevibacter acididurans、Methanobrevibacter boviskoreani、Methanobrevibacter gottschalkii、Methanobrevibacter millerae、Methanobrevibacter olleyae、Methanobrevibacter thaueri、Methanobrevibacter wolinii、Methanobacterium aarhusense、Methanobacterium aggregans、Methanobacterium alcaliphilum、Methanobacterium arcticum、Methanobacterium beijingense、Methanobacterium bryantii、Methanobacterium congolense、Methanobacterium curvum、Methanobacterium espanolae、Methanobacterium ferruginis、Methanobacterium flexile、Methanobacterium formicicum、Methanobacterium ivanovii、Methanobacterium kanagiense、Methanobacterium lacus、Methanobacterium movens、Methanobacterium movilense、Methanobacterium oryzae、Methanobacterium paludis、Methanobacterium palustre、Methanobacterium petrolearium、Methanobacterium subterraneum、Methanobacterium thermaggregans、Methanobacterium uliginosum、Methanobacterium veterum、Methanothrix harundinacea、Methanothrix soehngenii、Methanothrix thermoacetophila、Methanosaeta pelagica、Methanoregula boonei、Methanoregula formicica、Methanolinea mesophila、Methanolinea tarda、Methanosphaerula palustris、等のメタン菌が検出された。
【0085】
活性汚泥中にはさらに、光合成細菌の紅色非硫黄細菌Rhodovastum atsumiense、Brevundimonas diminutaおよびConstrictibacter antarcticus、ならびに、光合成細菌Novosphingobium capsulatum、Novosphingobium nitrogenifigensおよびDechloromonas fungiphilus等が検出され、また、加水分解菌であるSiphonobacter aquaeclarae、Bdellovibrio bacteriovorus、Thioalkalivibrio denitrificans、Lysobacter ximonensis、Stenotrophomonas acidaminiphila、Pseudofulvimonas gallinarii、Candidimonas humi、Kerstersia gyiorum、Burkholderia gladioli、Arsenicicoccus piscis、Rhodococcus ruber、Rhodococcus fascians、Enterococcus casseliflavus、Bulleidia sp. p-1630-c5、Streptococcus lutetiensis、Lactobacillus delbrueckii、Bacillus coagulans、Acetoanaerobium sticklandii、Ruminiclostridium hungatei、Clostridium thermopalmarium、Clostridium tyrobutyricum、Clostridium pasteurianum、Clostridium cellulovorans等も検出された。さらに、アンモニア酸化菌であるNostocoida limicola I、Nostocoida limicola III等も検出された。
【0086】
検出された、活性汚泥に含まれる微生物の種類や分布の解析結果が図3に示されている。
【0087】
図3に示された結果から、本発明に用いた活性汚泥には、メタンを生成するメタン生成菌の他、有機物を低分子に分解する加水分解菌およびアンモニアを分解するアンモニア酸化細菌が存在することが分かる。アンモニア酸化細菌は、嫌気性のアナモックスである。活性汚泥には、光合成細菌も含まれていた。
【0088】
メタン発酵を行うための食品残渣は、肉と魚の揚げ物、米、野菜を用いた。各100gずつ合計300gを発酵処理槽に投入する前に、残渣に含まれるプラスチック等を取り除いた。そののち、破砕機にて、10mm以下の細切れに、粉砕をし、その後、メタン発酵処理槽の食品残渣投入口より、槽内に投入した。なお、この際に、食品残渣に新たに水を添加する必要はない。
【0089】
食品残渣の発酵処理槽への投入後、1回/日の頻度で攪拌翼を回転させた。1回/日の頻度で、内部の活性汚泥のpHを測定し、6を下回るときには、炭酸カルシウムまたは炭酸カリウムを加え、pHを6.0~9.0にコントロールした。
【0090】
なお、発酵処理は光合成菌が働くように明所で実施した。発酵処理槽は、図1に示すような覗き窓(採光窓)を設けている。
【0091】
1日1回以上の攪拌を繰り返したのち、食品残渣投入の3日後にバイオガスの排出口から発酵処理槽内部で発生したガスを取り出した。300gの食品残渣からは30Lのバイオガスを得られ、メタンガスとしては18Lを得ることができた。
【0092】
また、取り出したガスをアンモニアの検知管((株)ガステック ガス検知管 3L アンモニア(0.5ppm~78ppm))及び、硫化水素の検知管((株)ガステック ガス検知管 4L 硫化水素(1ppm~240ppm))に導入し、濃度を測定したが、アンモニア、硫化水素ともに検出されなかった。
【0093】
(実施例2)
本発明に用いた活性汚泥は、日本国岐阜県にある食品工場に設置された、該工場に由来する廃液を活性汚泥法を利用して処理する施設から得た。その活性汚泥を24時間以上静止状態として、その後、10000Gで10分間の遠心分離をかけ、活性汚泥中の菌の濃縮を行った。
【0094】
濃縮後の活性汚泥中の菌叢を16s rRNA Sequencingにて分析を行った。検出された、活性汚泥に含まれる微生物の種類や分布の解析結果が図4に示されている。
【0095】
16s rRNAの分析により、Methanobrevibacter属、Methanobacterium beijingenseなどのMethanobacterium属、Methanosphaera属、Methanoculleus属、Methanolinea属、Methanospirillum属、Methanosaeta属、Methanomassiliicoccus属、およびvadin CA11属に属するメタン菌、ならびに、光合成細菌の緑色硫黄細菌Chlorobium luteolum (Pelodictyon luteolum) DSM 273、Chlorobium phaeovibrioides (Chlorobium vibrioforme f. thiosulfatophilum) DSM 265、Chlorobium limicola DSM 245、Chlorobium phaeobacteroides DSM 266、Chlorobium phaeobacteroides BS1、Chlorobium clathratiforme (Pelodictyon clathratiforme) DSM 5477、Chlorobaculum tepidum (Chlorobium tepidum) TLS、Prosthecochloris aestuarii DSM 271等、ならびに、加水分解菌のFlavobacterium succinicans、Ligilactobacillus ruminis、Limosilactobacillus mucosae、Streptococcus minor、Streptococcus luteciae、Acidaminobacteraceae Fusibacter、Mogibacteriaceae Mogibacterium、Tissierellaceae Anaerococcus、Tissierellaceae Gallicola、Tissierellaceae Sedimentibacter、Clostridium perfringens、Clostridium celatum、Clostridium celatum、Clostridium butyricum、Clostridium gasigenes、Clostridium bowmanii、Pseudoramibacter Eubacterium、Ruminococcus gnavus、Clostridium sordellii、Clostridium sticklandii、Clostridium ruminantium、Faecalibacterium prausnitzi、Ruminococcus bromii、Ruminococcus flavefaciens、Anaerosinus glycerini、Eubacterium dolichum等、ならびに、アンモニア酸化菌のNitrosomonas europaea、Nitrosospira sp. AV等が同定された。
【0096】
図4に示された結果から、本発明に用いた活性汚泥には、メタンを生成するメタン生成菌の他、有機物を低分子に分解する加水分解菌およびアンモニアを分解するアンモニア酸化細菌が存在することが分かる。アンモニア酸化細菌は、嫌気性のアナモックス(Planctomyces属等)である。活性汚泥には、光合成細菌も含まれていた。
【0097】
メタン発酵を行うための食品残渣は、肉と魚の揚げ物、米、野菜を用いた。各100gずつ合計300gを発酵処理槽に投入する前に、残渣に含まれるプラスチック等を取り除いた。そののち、破砕機にて、10mm以下の細切れに、粉砕をし、その後、メタン発酵処理槽の食品残渣投入口より、槽内に投入した。
【0098】
食品残渣の発酵処理槽への投入後、メタン発酵処理槽を暗所に置くことで、光合成菌が光合成できないようにして、発酵処理を行った。発酵処理にあたり、10回/日の頻度で攪拌翼を回転させた。1回/日の頻度で、内部の活性汚泥のpHを測定し、6を下回るときには、炭酸カルシウムまたは炭酸カリウムを加え、pHを6.0~9.0にコントロールした。
【0099】
食品残渣投入の3日後にバイオガスの排出口から発酵処理槽内部で発生したガスを取り出した。300gの食品残渣からは30Lのバイオガスを得られ、メタンガスとしては18Lを得ることができた。
【0100】
取り出したガスをアンモニアの検知管((株)ガステック ガス検知管 3L アンモニア(0.5ppm~78ppm))及び、硫化水素の検知管((株)ガステック ガス検知管 4L 硫化水素(1ppm~240ppm))に導入し、濃度を測定したが、アンモニアは検出されなかった。硫化水素は、300ppm検出されたが、非特許文献1に記載された濃度(500ppm以上)よりも低かった。
【0101】
比較例として従来技術例のメタン発酵槽の場合には、前述のように、メタン生成菌の作用によって、メタンガスと共に500ppm以上の含有量の硫化水素、および50ppm以上の含有量のアンモニアなどを含むバイオガスが生成されている。これに対し、本発明の処理方法および/または処理装置によるバイオガスの生成では、アンモニアの発生は認められなかった。また、硫化水素の発生量も低かった。さらに、光合成菌が働く条件下では、硫化水素は検出されなかった。本発明の処理方法および/または処理装置によれば、顕著な量のメタンを含む、燃料電池などの触媒を被毒させることのないバイオガスを得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
10 仕切り板
11 有機性廃棄物投入口
12 有機性廃棄物投入管
13 攪拌翼
14 攪拌装置
15 メタン排出口
16 発酵残渣排出口
20 覗き窓
図1
図2
図3
図4