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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059841
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】油脂含有造粒顆粒
(51)【国際特許分類】
   C11B 15/00 20060101AFI20230420BHJP
   A23D 9/06 20060101ALI20230420BHJP
   A23D 9/007 20060101ALI20230420BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20230420BHJP
   C11B 5/00 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C11B15/00
A23D9/06
A23D9/007
A23L5/00 D
C11B5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022162792
(22)【出願日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021183748
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
4H059
【Fターム(参考)】
4B026DC03
4B026DG20
4B026DH10
4B026DK05
4B026DL03
4B026DL04
4B026DP01
4B026DX08
4B035LC05
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG13
4B035LG15
4B035LG17
4B035LK13
4B035LP21
4B035LP26
4B035LP36
4H059BB05
4H059BB06
4H059BB07
4H059BC06
4H059DA16
4H059EA03
(57)【要約】
【課題】 本発明は、劣化臭の発生を抑え、保存安定性を高めた油脂含有顆粒及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、シクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒して得られる油脂含有造粒顆粒が、劣化臭の発生が抑えられ、高い保存安定性を有することを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末油脂に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、シクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒してなる造粒顆粒であって、その全体の70重量%以上が16メッシュ(目開き1mm)をパスするものである油脂含有造粒顆粒。
【請求項2】
タンパク質加水分解物の、アミノ態窒素濃度と全窒素濃度との比(アミノ態窒素濃度/全窒素濃度)が0.01~0.5である、請求項1記載の油脂含有造粒顆粒。
【請求項3】
油脂100重量%に対して、バインダー液由来のレシチン含有量が1~80重量%である、請求項1又は2記載の油脂含有造粒顆粒。
【請求項4】
粉末油脂に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、シクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒する造粒顆粒の製造方法であって、全体の70重量%以上が16メッシュ(目開き1mm)をパスする造粒顆粒を得ることを特徴とする油脂含有造粒顆粒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂を含む造粒顆粒等に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は酸化により劣化することが知られており、粉粒化にあたり、酸化を防ぐことが課題とされてきた。特に、多価不飽和脂肪酸(PUFA)は、種々の機能性が知られており、幅広い利用が求められているが、酸化し易いため、保存安定性の向上が各種検討されてきた。
【0003】
特許文献1には、モノグリセリドを含む高度不飽和脂肪酸含有油脂中に存在するモノグリセリド含有量が重量比で0.1%以上であることを特徴とする高度不飽和脂肪酸含有油脂粉末が開示されており、特許文献2には、高度不飽和脂肪酸含有油脂と乾燥原料とを混合することによって得られる油脂粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06-172782号公報
【特許文献2】特許第6337599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、劣化臭の発生を抑え、保存安定性を高めた油脂含有顆粒及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒して得られる油脂含有造粒顆粒が、劣化臭の発生が抑えられ、高い保存安定性を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[4]の態様に関する。
[1]油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒してなる造粒顆粒であって、その全体の70重量%以上が16メッシュ(目開き1mm)をパスするものである、油脂含有造粒顆粒。
[2]タンパク質加水分解物の、アミノ態窒素濃度と全窒素濃度との比(アミノ態窒素濃度/全窒素濃度)が0.01~0.5である、[1]記載の油脂含有造粒顆粒。
[3]油脂100重量%に対して、バインダー液由来のレシチン含有量が1~80重量%であり、バインダー液由来のタンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の含有量が1~80重量%である、[1]又は[2]記載の油脂含有造粒顆粒。
[4]粉末油脂に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒する造粒顆粒の製造方法であって、全体の70重量%以上が16メッシュ(目開き1mm)をパスする造粒顆粒を得ることを特徴とする油脂含有造粒顆粒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、劣化臭の発生が抑えられ、高い保存安定性を有する油脂含有造粒顆粒を提供することができ、保存安定性が高まったことで、幅広い商品への利用が可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の油脂含有造粒顆粒は、油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒してなる油脂含有造粒顆粒であって、その全体の70量%以上が16メッシュ(目開き1mm)をパスするものである。
【0010】
本発明に記載のバインダー液中のレシチンは、本発明の油脂含有造粒顆粒が得られれば特に限定されないが、大豆レシチン、ヒマワリレシチン、卵黄レシチン等が例示でき、レシチン分解酵素の一種であるホスホリパーゼA1又はA2で分解した酵素処理レシチンが好ましく、市販品を使用してもよい。レシチン中のリン脂質含有量は、40重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、80重量%以上が特に好ましい。油脂含有造粒顆粒中のバインダー液由来のレシチン含有量は、1~30重量%が好ましく、1.5~20重量%がより好ましく、2~10重量%がさらに好ましい。また、油脂含有造粒顆粒中の油脂100重量%に対して、バインダー液由来のレシチン含有量は1~80重量%が好ましく、2~50重量%がより好ましく、3~20重量%が特に好ましく、15重量%以下が最も好ましい。
【0011】
本発明に記載のバインダー液は、レシチンと共に、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいればよく、油脂含有造粒顆粒中の、バインダー液由来の、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸の総含有量は、0.5~40重量%が好ましく、0.8~30重量%がより好ましく、1~20重量%がさらに好ましく、2~15重量%が特に好ましい。また、油脂含有造粒顆粒中の油脂100重量%に対して、バインダー液由来の、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸の総含有量は1.0~80重量%が好ましく、1.5~60重量%がより好ましく、2.0~40重量%が特に好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0012】
本発明に記載のバインダー液中のタンパク質加水分解物は、タンパク質を酵素、熱、酸、アルカリ等により加水分解処理することで得られ、市販品を使用してもよい。タンパク質加水分解物のタンパク質は、豆類、穀類、乳類、畜肉類、魚介類、藻類、酵母等の微生物、酒粕等が例示でき、酵母エキス、豆類タンパク質、穀類タンパク質、種実類タンパク質等の植物性タンパク質が好ましく、二種類以上のタンパク質加水分解物を組み合わせて用いてもよい。油脂含有造粒顆粒中の、バインダー液由来のタンパク質加水分解物の含有量は、0.5~30重量%が好ましく、0.8~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。また、油脂含有造粒顆粒中の油脂100重量%に対して、バインダー液由来のタンパク質加水分解物の含有量は1.0~80重量%が好ましく、1.5~60重量%がより好ましく、2.0~40重量%が特に好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0013】
バインダー液中のタンパク質加水分解物のアミノ態窒素濃度(AN)と全窒素濃度(TN)との比(AN/TN)は、0.01~0.5が好ましく、0.02~0.4がより好ましく、0.05~0.3が特に好ましい。ANは公知の分析法であるニンヒドリン比色法により測定することができ、TNは公知の分析法であるケルダール法により測定することができる。
【0014】
本発明に記載のバインダー液中のサイクロデキストリンは、澱粉の酵素転換によって生成された環状構造を有するデキストリンであればよく、市販品を使用できる。αタイプのサイクロデキストリン又はγタイプのサイクロデキストリンを主に含む、溶解性のよいサイクロデキストリンが好ましい。油脂含有造粒顆粒中の、バインダー液由来のサイクロデキストリンの含有量は、0.5~30重量%が好ましく、0.8~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。また、油脂含有造粒顆粒中の油脂100重量%に対して、バインダー液由来のサイクロデキストリンの含有量は1.0~80重量%が好ましく、1.5~60重量%がより好ましく、2.0~40重量%が特に好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0015】
本発明に記載のバインダー液中のアミノ酸は特に限定されないが、アルギニン、リジン又はヒスチジンの塩基性アミノ酸が好ましく、アルギニンがより好ましく、市販品を使用できる。油脂含有造粒顆粒中の、バインダー液由来のアミノ酸の含有量は、0.5~30重量%が好ましく、0.8~20重量%がより好ましく、1~10重量%がさらに好ましい。また、油脂含有造粒顆粒中の油脂100重量%に対して、バインダー液由来のアミノ酸の含有量は1.0~80重量%が好ましく、1.5~60重量%がより好ましく、2.0~40重量%が特に好ましく、30重量%以下が最も好ましい。
【0016】
本発明で使用するバインダー液は、湿式造粒に使用する溶液であって、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含んでいればよい。バインダー液中のレシチンの含有量は、バインダー液中の固形分全体の10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましく、バインダー液全体を100重量%とした場合は、0.5~40重量%が好ましく、1~30重量%がより好ましく、2~20重量%がさらに好ましい。バインダー液にタンパク質加水分解物を含む場合のバインダー液中のタンパク質加水分解物の含有量は、固形分全体の10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましく、バインダー液全体を100重量%とした場合は、0.5~40重量%が好ましく、0.8~30重量%がより好ましく、1~20重量%がさらに好ましい。バインダー液にサイクロデキストリンを含む場合のバインダー液中のサイクロデキストリンの含有量は、固形分全体の10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましく、バインダー液全体を100重量%とした場合は、0.5~40重量%が好ましく、0.8~30重量%がより好ましく、1~20重量%がさらに好ましい。バインダー液にアミノ酸を含む場合のバインダー液中のアミノ酸の含有量は、固形分全体の10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましく、バインダー液全体を100重量%とした場合は、0.5~40重量%が好ましく、0.8~30重量%がより好ましく、1~20重量%がさらに好ましい。また、油脂粉末100重量%に対するバインダー液の使用量は、10~250重量%が好ましく、20~200重量%がより好ましく、30~150重量%がさらに好ましく、油脂含有造粒顆粒100重量%に対するバインダー液由来の固形分は、1~40重量%が好ましく、2~30重量%がより好ましく、3~20重量%がさらに好ましく、4~15重量%が特に好ましい。
【0017】
本発明の油脂含有造粒顆粒に含まれる油脂は特に限定されず、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ゴマ油、米ぬか油、サフラワー油、綿実油、落花生油、アマニ油、エゴマ油、ブドウ種子油、シソ油、藻類油等の植物性油脂、オキアミ油、魚油、豚脂、鶏油、牛脂、乳脂等の動物性油脂及びこれらの加工油脂(硬化、分別、エステル交換等)が例示でき、多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるα-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、ミード酸等を含有する油脂でもよく、二種類以上の油脂混合物でもよい。該油脂を含む油脂粉末を原料として使用することで、本発明の油脂含有造粒顆粒が得られる。
【0018】
本発明に記載の油脂粉末は、油脂含有造粒顆粒の原料として湿式造粒に使用するものであって、油脂を含む粉末であれば特に限定されないが、油脂を常法により乳化した水中油型乳化物を乾燥した油脂乳化粉末が好ましく、乾燥は、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー等による乾燥が例示でき、スプレードライヤーによる噴霧乾燥が好ましく、市販の油脂粉末を使用できる。油脂粉末は、油脂、タンパク質及び炭水化物を含むのが好ましく、油脂粉末中の油脂含有量は、10~80重量%が好ましく、15~75重量%がより好ましく、20~70重量%がさらに好ましく、30重量%以上が特に好ましい。
【0019】
本発明に記載の油脂粉末に含まれるタンパク質は特に限定されず、豆類、穀類、乳類、畜肉類、魚介類、藻類、酵母等の微生物、酒粕等が例示でき、酵母エキス、豆類タンパク質、穀類タンパク質、種実類タンパク質等の植物性タンパク質が好ましく、二種類以上のタンパク質を組み合わせて用いてもよく、加水分解処理したタンパク質加水分解物でもよい。油脂粉末中のタンパク質含有量は、1~40重量%が好ましく、2~30重量%がより好ましく、3~20重量%がさらに好ましい。
【0020】
本発明に記載の油脂粉末に含まれる炭水化物は特に限定されず、乳糖、トレハロース等の二糖類、還元水あめ、マルチトール等の糖アルコール、アラビアガム、キサンタンガム等の増粘多糖類、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等の澱粉、加工澱粉、水あめ、デキストリン、セルロース等が例示でき、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。油脂粉末中の炭水化物の含有量は、5~80重量%が好ましく、10~70重量%がより好ましく、15~60重量%がさらに好ましい。
【0021】
本発明では、油脂粉末に、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むバインダー液を噴霧して乾燥させる、湿式造粒により、油脂粉末の表面に、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が付着した油脂含有造粒顆粒が得られればよく、該湿式造粒により粉末油脂の表面が、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む層で被覆されることで油脂の酸化による劣化が抑えられ、劣化臭を抑えた本発明の油脂含有造粒顆粒が得られ、酸化を防ぐ効果が優れているため、酸化され易いPUFAを含む油脂についても同様に酸化を抑え、劣化臭を抑えて保存安定性を高めることができる。レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含まない溶液をバインダー液とし、油脂粉末にレシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを加えて粉体混合したものを湿式造粒しても、本発明の油脂含有造粒顆粒は得られない。造粒装置としては、転動流動層装置、遠心流動装置、流動層装置、ワースター型流動層装置、複合型流動層装置等を挙げることができる。
【0022】
本発明においては、湿式造粒で得られた油脂含有造粒顆粒について、その全体の70重量%以上が、JIS規格による標準篩を用いて16メッシュ(目開き1mm)をパスすればよく、好ましくは75重量%以上であり、より好ましくは80重量%以上であり、さらに好ましくは85重量%以上であり、特に好ましくは90重量%以上であり、該%は、篩別前後の重量差から回収率を算出した。前記回収率を有することで、粒度が揃った造粒顆粒となっており、該造粒顆粒を高い収率で得られる。また、流動性のよい顆粒とする場合は、油脂含有造粒顆粒の安息角は、45度以下が好ましく、42度以下がより好ましく、40度以下がさらに好ましく、安息角については、第十八改正日本薬局方の参考情報「粉体の流動性」に記載の方法に基づき測定する。
【0023】
本発明の油脂含有造粒顆粒は、油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒してなる油脂含有造粒顆粒であれば特に限定されないが、油脂含有造粒顆粒中の油脂含有量は、5~70重量%が好ましく、10~65重量%がより好ましく、15~60重量%がさらに好ましい。油脂含有造粒顆粒中のタンパク質含有量は、2~80重量%が好ましく、3~70重量%がより好ましく、5~60重量%がさらに好ましい。なお、このタンパク質含有量には、タンパク質加水分解物も含まれる。油脂含有造粒顆粒中の炭水化物含有量は、2~60重量%が好ましく、5~55重量%がより好ましく、10~50重量%がさらに好ましい。
【0024】
本発明の油脂含有造粒顆粒は、上記のとおり、油脂粉末に対して、レシチンと、タンパク質加水分解物、サイクロデキストリン及びアミノ酸からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含む液をバインダー液として、湿式造粒することで、油脂の酸化を抑制し、酸化による劣化臭を抑えることができるため、油脂の保存安定性に優れた油脂含有造粒顆粒である。そのため、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料等に幅広く利用できる。添加量は特に限定されないが、好ましくは0.01~50%、より好ましくは0.1~30%、さらに好ましくは0.5~10%である。
【実施例0025】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0026】
[調製1]
水道水450gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上、辻製油株式会社製)25g、タンパク質加水分解物として酵素分解植物タンパクであるバーサホイップ500IPS(AN:0.76%、TN:13.70、AN/TN:0.055、ケリー社製)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA1(三菱ケミカル株式会社製)0.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0027】
[調製2]
水道水450gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上)25g、タンパク質加水分解物として酵素分解植物タンパクであるバーサホイップ500IPS(AN:0.76%、TN:13.70、AN/TN:0.055)25gを加えて分散させた後、90℃で10分間加熱処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0028】
[調製3]
水道水475gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA10.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0029】
[調製4]
水道水450gに、タンパク質加水分解物として酵素分解植物タンパクであるバーサホイップ500IPS(AN:0.76%、TN:13.70、AN/TN:0.055)50gを加えて分散させた後、90℃で10分間加熱処理することで、バインダー液500gを調整した。
【実施例0030】
ドコサヘキサエン酸(DHA)含有油脂を含む油脂粉末(植物性DHAパウダー10E、DHA含有量:10%以上、池田糖化工業株式会社製)500gを、転動流動層装置MP-01(株式会社パウレック製)に入れ、インペラ回転数:400rpm、給気風量:1立法メートル/分、給気温度:70℃の条件下で、調製1(実施例1-1)又は調製2(実施例1-2)のバインダー液500gを10g/分の速度で噴霧して、50分間、湿式造粒を行ない、実施品1-1の油脂含有造粒顆粒511g(収率:92.9%)又は実施品1-2の油脂含有造粒顆粒515g(収率:93.6%)を得た。尚、実施品1-1及び1-2の油脂含有造粒顆粒は、油脂含有量が36.0%、バインダー液由来のレシチン含有量が4.5%、バインダー液由来のタンパク質加水分解物の含有量が4.5%で、油脂100%に対するレシチン含有量が12.6%だった。
【0031】
[比較例1]
バインダー液として調製1の代わりに、調製3(比較例1-1)又は調製4(比較例1-2)を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、比較品1-1の油脂含有造粒顆粒油脂含有造粒顆粒472g(収率:89.9%)又は比較品1-2の油脂含有造粒顆粒518g(収率:94.2%)を得た。
【0032】
[評価試験1]
実施品1-1及び1-2、並びに比較品1-1及び1-2の油脂含有造粒顆粒、並びに原料である油脂粉末(植物性DHAパウダー10E)について、水分、嵩密度及び安息角を測定するとともに、粉末の粒度、流動性、水分散性及び保存安定性を評価した。なお、水分については常圧加熱乾燥法(105℃、5時間)により測定し、嵩密度についてはメスシリンダーを用いてゆるみ嵩密度を測定し、安息角については、第十八改正日本薬局方の参考情報「粉体の流動性」に記載の方法に基づき測定した。粉末の粒度は、各粉末全量を16メッシュのふるいで篩別し、篩別前後の重量差から回収率を算出し、該回収率を指標として評価した。流動性は、安息角の値を指標として、下記、表1(前記「粉体の流動性」の表1を抜粋)に記載の“流動特性と対応する安息角”に基づき、評価した。水分散性は、篩別した各粉末5gに25℃の水道水100gを加えて薬匙で10回混ぜた際の分散性について、原料の油脂粉末を“普通:3”として、評価した。保存安定性は、篩別した各粉末20gを、NY/PEラミネート袋LZ-9(株式会社生産日本社製)に封入して50℃で32日間保存した後の劣化臭(無し、弱い、有り、強い)を指標に、原料の油脂粉末を“普通:3”として評価した。前記評価は何れも、良好:5、やや良好:4、普通:3、やや不良:2、不良:1で評価した。測定値及び評価結果を表2にまとめ、また、バインダー液に使用したレシチン及びタンパク質加水分解物のアミノ態窒素濃度(AN)と全窒素濃度(TN)との比(AN/TN)も記載した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示したとおり、実施品1-1及び1-2は、原料の油脂乳化粉末と比べて、何れも保存後の劣化臭が抑えられ、保存安定性が改善されていたが、比較品1-1及び1-2は、原料の油脂乳化粉末と比べて、保存後の劣化臭が同程度又は悪くなっており、保存安定性の改善がみられなかった。
【0036】
よって、油脂粉末に対して、レシチン及びタンパク質加水分解物を含むバインダーを使用して、造粒することで、酸化劣化し易い多価不飽和脂肪酸を含む油脂の劣化を抑えることができ、保存安定性の良い油脂含有造粒顆粒が得られることが分かった。
【0037】
[調製5]
水道水450gに、ヒマワリレシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイトSF(リン脂質含有量:95%以上、辻製油株式会社製)25g、タンパク質加水分解物としてえんどう豆タンパク質加水分解物パウダーHY-1361(AN:0.76%、TN:14.19、AN/TN:0.054、ヤマノ株式会社製)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA1 0.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0038】
[調製6]
水道水450gに、ヒマワリレシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイトSF(リン脂質含有量:95%以上)25g、タンパク質加水分解物として大豆タンパク質加水分解物であるハイニュート(登録商標)AM(AN:2.65%、TN:15.62、AN/TN:0.170、不二製油株式会社製)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA1 0.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0039】
[調製7]
水道水450gに、ヒマワリレシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイトSF(リン脂質含有量:95%以上)25g、タンパク質として粉末状大豆タンパクであるフジプロ(登録商標)RK(AN:0.04%、TN:15.11、AN/TN:0.003、不二製油株式会社製)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA1 0.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【実施例0040】
バインダー液として調製1の代わりに、調製5(実施例2-1)又は調製6(実施例2-2)を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、実施品2-1の油脂含有造粒顆粒520g(収率:94.5%)又は実施品2-2の油脂含有造粒顆粒510g(収率:92.7%)を得た。尚、実施品2-1及び2-2の油脂含有造粒顆粒は、油脂含有量が36.0%、バインダー液由来のレシチン含有量が4.5%、バインダー液由来のタンパク質加水分解物の含有量が4.5%で、油脂100%に対するレシチン含有量が12.6%だった。
【0041】
[比較例2]
バインダー液として調製1の代わりに、調製7を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、比較品2の油脂含有造粒顆粒525g(収率:95.5%)を得た。
【0042】
[評価試験2]
実施品2-1、2-2及び比較品2の油脂含有造粒顆粒について、評価試験1と同様に評価して、結果を表3に記載した。
【0043】
【表3】
【0044】
表3に示したとおり、実施品2-1及び2-2は、何れも保存後の劣化臭が抑えられ、保存安定性が改善されていたが、タンパク質加水分解物の代わりに加水分解処理されていないタンパク質を使用した比較品2は、保存後の劣化臭が抑えられてはおらず、保存安定性の改善がみられなかった。
【0045】
よって、油脂粉末に対して、レシチン及びタンパク質加水分解物を含むバインダーを使用して、造粒することで、酸化劣化し易い多価不飽和脂肪酸を含む油脂の劣化を抑えることができ、保存安定性の良い油脂含有造粒顆粒が得られることが分かった。
【0046】
[調製8]
水道水450gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA10.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、サイクロデキストリンとしてデキシーパール(登録商標)α-100(α-サイクロデキストリン含有量:98%以上、塩水港精糖株式会社製)25gを加えて分散させ、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【0047】
[調製9]
水道水425gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上)25g、タンパク質加水分解物として酵素分解植物タンパクであるバーサホイップ500IPS(AN:0.76%、TN:13.70、AN/TN:0.055)25gを加えて分散させ、レシチン分解酵素としてホスホリパーゼA1 0.5gを添加して50℃で2時間酵素処理を行なった後、サイクロデキストリンとしてデキシーパール(登録商標)α-100(α-サイクロデキストリン含有量:98%以上)25gを加えて分散させ、90℃で10分間酵素失活処理することで、バインダー液500gを調製した。
【実施例0048】
DHAを含有する油脂粉末の代わりに、α-リノレン酸を含有する油脂粉末(油脂亜麻仁油パウダー20E、α-リノレン酸含有量:20%以上、池田糖化工業株式会社製)を使用する以外は、実施例1-1と同様に実施し、実施品3-1のα-リノレン酸含有油脂含有造粒顆粒500g(収率:90.9%)を得た。また、DHAを含有する油脂粉末の代わりに、α-リノレン酸を含有する油脂粉末を使用し、バインダー液として調製1の代わりに、調製8(実施例3-2)又は調製9(実施例3-3)を使用する以外は、実施例1と同様に実施し、実施品3-2の油脂含有造粒顆粒520g(収率:94.5%)又は実施品3-3の油脂含有造粒顆粒520g(収率:90.4%)を得た。尚、実施品3-1及び3-2の油脂含有造粒顆粒は、油脂含有量が42.4%、バインダー液由来のレシチン含有量が4.5%、バインダー液由来のタンパク質加水分解物又はサイクロデキストリンの含有量が4.5%で、油脂100%に対するレシチン含有量が10.7%だった。また、実施品3-3の油脂含有造粒顆粒は、油脂含有量が40.5%、バインダー液由来のレシチン含有量が4.3%、バインダー液由来のタンパク質加水分解物が4.3%、バインダー液由来のサイクロデキストリンの含有量が4.3%で、油脂100%に対するレシチン含有量が10.7%だった。
【0049】
[評価試験3]
実施品3-1~3-3の油脂含有造粒顆粒及び原料である油脂粉末(油脂亜麻仁油パウダー20E)について、評価試験1と同様に評価して、結果を表4に記載した。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示したとおり、実施品3-1~3-3は、原料の油脂粉末と比べて、保存後の劣化臭が抑えられ、保存安定性が改善されていた。
【0052】
よって、油脂粉末に対して、レシチン及びタンパク質加水分解物を含むバインダー、レシチン及びサイクロデキストリンを含むバインダー、レシチン、サイクロデキストリン及びタンパク質加水分解物を含むバインダーを使用して、造粒することで、酸化劣化し易いα-リノレン酸を含む油脂の劣化も抑えることができ、保存安定性の良い油脂含有造粒顆粒が得られることが分かった。
【0053】
[比較例3]
原料を攪拌式混合機であるブレンダーに投入し均一に分散するまで混合する製造方法で、特許文献2の実施例1に記載の油脂粉末を調製し、粉末全量を16メッシュのふるいで篩別したが、もたっとした流動性の悪い微粉のため目詰まりが生じ、回収率は10%未満だった。
【0054】
[比較例4]
DHA含有油脂を含む油脂粉末(植物性DHAパウダー10E、DHA含有量:10%以上)100g、水道水200g、調製1のバインダー液100gを混合した後、スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥することにより、油脂含有噴霧乾燥粉末70gを調製し、評価試験1と同様に評価した結果、50℃で7日間保存した時点で劣化臭が有り、保存安定性の低いものであった(水分:1.1%、嵩比重:0.50g/cm3、安息角:50°、流動性:2、16メッシュパス後の回収率:98%、粒度:5、水分散性:3、劣化臭:有り、保存安定性:3)。
噴霧乾燥では、保存安定性の良い油脂粉末は得られなかった。
【実施例0055】
水道水450gに、大豆レシチンとしてSLP(登録商標)-ホワイト(リン脂質含有量:95%以上)25g、アミノ酸としてアルギニン25gを加えて分散させ、50%クエン酸水溶液13gを用いてpH7に調整することで、バインダー液513gを調製した(実施例4-1)。また、実施例4-2、4-3、4-4又は4-5について、水道水405g、360g、315g又は270g、大豆レシチンは何れも25g、アミノ酸20g、15g、10g又は5g、50%クエン酸水溶液10g、8g、5g又は3gを使用し、実施例4-1と同様に実施し、バインダー液460g、408g、355g又は303gを調製した。
【0056】
ドコサヘキサエン酸(DHA)含有油脂を含む油脂粉末(植物性DHAパウダー10E、DHA含有量:10%以上)500gを、転動流動層装置MP-01に入れ、インペラ回転数:400rpm、給気風量:1立法メートル/分、給気温度:70℃の条件下で、実施例4-1~4-5で調製したバインダー液を5g/分の速度で噴霧して、湿式造粒を行ない、造粒物を16メッシュパスすることで、油脂含有造粒顆粒525g(実施品4-1、収率:94.3%)、522g(実施品4-2、収率:94.9%)、515g(実施品4-3、収率:94.6%)、518g(実施品4-4、収率:96.3%)又は435g(実施品4-5、収率:81.8%)を得た。尚、実施品4-1~4-5の油脂含有造粒顆粒は、油脂含有量がそれぞれ35.2%、35.7%、36.2%、36.7%又は37.2%、バインダー液由来のレシチン含有量が4.4%、4.5%、4.6%、4.6%又は4.7%、バインダー液由来のアミノ酸の含有量が4.4%、3.6%、2.7%、1.9%又は0.94%で、油脂100%に対するレシチン含有量が何れも12.6%、油脂100%に対するアミノ酸が12.6%、10.1%、7.6%、5.0%又は2.5%だった。
【0057】
実施品4-1~4-5について、評価試験1と同様に保存安定性を評価した結果、何れも劣化臭は無く、保存安定性は良好(5)だった。