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特開2023-59975半固体電極中の電極材料のプレリチオ化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059975
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】半固体電極中の電極材料のプレリチオ化
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20230420BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230420BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230420BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230420BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230420BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230420BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20230420BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M10/058
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023027630
(22)【出願日】2023-02-24
(62)【分割の表示】P 2021071662の分割
【原出願日】2015-11-03
(31)【優先権主張番号】62/074,372
(32)【優先日】2014-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511242269
【氏名又は名称】24エム・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】24M Technologies, Inc.
(71)【出願人】
【識別番号】517156746
【氏名又は名称】福島 孝明
(71)【出願人】
【識別番号】517156757
【氏名又は名称】三島 洋光
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】福島 孝明
(72)【発明者】
【氏名】三島 洋光
(72)【発明者】
【氏名】オオタ,ナオキ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥドゥタ,ミハイ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,ヒウリング ゾイ
(72)【発明者】
【氏名】タン,タイソン
(57)【要約】
【課題】本明細書に記載されている実施形態は、概して、プレリチオ化された半固体電極を有する電気化学セルに関し、特に半固体電極スラリの混合中にプレリチオ化され、それにより、電気化学セルの形成前に固体電解質界面(SEI)層が半固体電極内に形成される、半固体電極に関する。
【解決手段】いくつかの実施形態において、半固体電極は、約20体積%~約90体積%の活物質と、約0体積%~約25体積%の導電材料と、約10体積%~約70体積%の液体電解質と、活物質を実質的にプレリチオ化するのに十分な量のリチウム(リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物として)とを含む。リチウム金属は、半固体電極を含む電気化学セルの初回充電サイクルの前に活物質の表面上に固体電解質界面(SEI)層を形成するように構成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約20体積%~約90体積%の活物質と、
0体積%~25体積%の導電材料と、
約10体積%~約70体積%の液体電解質と、
前記活物質を実質的にプレリチオ化するのに十分な量のリチウムと
を含む半固体電極であって、
前記リチウムは、リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物のうちの少なくとも1つを含む、半固体電極。
【請求項2】
前記リチウムの量は、前記半固体電極を含む電気化学セルの初回充電サイクルの前に前記活物質の表面上に固体電解質界面(SEI)を形成するのに十分である、請求項1に記載の半固体電極。
【請求項3】
前記リチウムは、リチウム金属粉末、リチウム塩、リチウム箔、および集電体上に堆積されたリチウム金属のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の半固体電極。
【請求項4】
前記半固体電極は負極である、請求項1に記載の半固体電極。
【請求項5】
約250ミクロンより大きい厚さを有する、請求項1に記載の半固体電極。
【請求項6】
前記活物質が黒鉛である、請求項4に記載の半固体電極。
【請求項7】
前記リチウムが前記半固体電極の約1体積%~約12体積%を構成する、請求項6に記載の半固体電極。
【請求項8】
前記半固体負極は、約1体積%~約50体積%の高容量材料をさらに含む、請求項4に記載の半固体電極。
【請求項9】
前記高容量材料は、錫、シリコン、アンチモン、アルミニウム、酸化チタン、および/または、錫、シリコン、アンチモンまたはアルミニウムの酸化物もしくは合金のうちの少なくとも1つを含む、請求項8に記載の半固体電極。
【請求項10】
前記リチウムは前記高容量材料に挿入され、前記挿入は、電気化学セルの初回充電サイクルの前に前記半固体負極を膨張させる、請求項8に記載の半固体電極。
【請求項11】
プレリチオ化された半固体負極を調製する方法であって、
活物質とリチウム金属またはリチウム含有材料とを化合させて、プレリチオ化された負極材料を形成する工程と、
電解質を前記プレリチオ化された負極材料と化合させて、半固体負極材料を形成する工程と、
前記半固体負極材料から半固体負極を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項12】
導電材料を前記プレリチオ化された負極材料と化合させる工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
高容量材料を前記プレリチオ化された負極材料と化合させる工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
負極を製造する方法であって、
活物質と、導電材料と、電解質と、リチウム金属および/またはリチウム含有材料とを含む負極混合物を調製する工程と、
前記負極混合物を乾燥環境において、前記負極混合物をそれが電気化学セル中に組み込まれる前に実質的にプレリチオ化するのに十分な期間にわたり保管する工程と、
を含む、方法。
【請求項15】
前記保管期間は、前記活物質の表面積の実質的にすべての上に固体電解質界面(SEI)を形成するのに十分である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活物質は前記負極混合物の20%~90%を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記液体電解質は前記負極混合物の10%~70%を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記負極混合物は高容量材料をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
電気化学セルを製造する方法であって、
セルスタックを組み立てる工程であって、
活物質と、導電材料と、電解質とを含む負極混合物を調製することと、
前記負極混合物をリチウム担持基板上に塗布することと、
前記負極混合物の上にセパレータ膜を設置することと、
前記セパレータ膜の上に正極を設置することと、
を含む工程と、
前記セルスタックを乾燥環境において、サイクリング前に前記負極混合物を実質的にプレリチオ化するのに十分な期間にわたり保管する工程と、
を含む、方法。
【請求項20】
前記保管期間は、前記活物質の表面積の実質的にすべての上に固体電解質界面(SEI)を形成するのに十分である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記活物質は前記負極混合物の20%~90%を構成する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記負極混合物は高容量材料をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記組み立てる工程は、
さらなる活物質と、
さらなる導電材料と、
さらなる電解質と、
前記正極の安定性を向上させるのに十分な量のリチウムと、
を含む正極混合物を調製することと、
前記正極混合物から前記正極を形成することと、
をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
請求項5に記載の半固体電極を含む、バッテリセル。
【請求項25】
前記半固体電極が負極であり、前記バッテリセルが、約250ミクロンより大きい厚さを有する半固体正極をさらに含む、請求項23に記載のバッテリセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2014年11月3日に出願された「Pre-Lithiation of Electrode Materials in a Semi-Solid Electrode」という名称の米国仮特許出願第62/074,372号の優先権および利益を主張するものであり、この仮特許出願の開示の全体が参照により本願に援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
より高い電子性能、例えば、より高い電荷容量、エネルギー密度、導電性、およびレート容量を有するバッテリに対する需要の高まりに伴い、これらの基準を満たす新しい電極設計が必要とされている。リチウムイオン電極および特に負極には、バッテリ形成段階(すなわち、電気化学セルの充電と放電とを含む初回サイクル工程)において不可逆的容量損失が生じる。不可逆的容量損失は、リチウムイオンが正極活物質から負極に移動することによって発生する可能性があり、これらは固体電極界面(SEI)層の形成に使用される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
概要
本明細書に記載されている実施形態は、概して、プレリチオ化された半固体電極(例えば、負極)を有する電気化学セルに関し、特に半固体電極スラリの混合中にプレリチオ化され、それにより、電気化学電極形成および/または初回サイクリングの前に半固体電極内に固体電解質界面(SEI)層が形成される、半固体電極に関する。いくつかの実施形態において、半固体電極は、約20体積%~約90体積%の活物質と、約0体積%~約25体積%の導電材料と、約10体積%~約70体積%の液体電解質と、活物質を実質的にプレリチオ化するのに十分な量のリチウム(リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物として)とを含む。リチウム金属は、半固体電極を含む電気化学セルの初回充電サイクルの前に活物質の表面上に固体電解質界面(SEI)層を形成し、場合により、電極材料をリチオ化および充電するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】ある実施形態による電気化学セルの概略図である。
図2】ある実施形態による、プレリチオ化された負極を調製する方法の概略的フロー図である。
図3】半固体負極のプレリチオ化に使用されるリチウム被膜銅箔の光学画像を示す。半固体負極は、プレリチオ化後に銅箔から剥離された状態で示されている。
図4A】標準的な半固体負極を含む標準的な電気化学セルと、プレリチオ化された半固体負極を含むプレリチオ化された電気化学セルとの電圧対容量のプロファイルである。
図4B】標準的な電気化学セルとプレリチオ化された電気化学セルとの容量差(dQ/dV)対電荷容量のグラフである。
図5A図3に示されるプレリチオ化された半固体負極を含む第二の電気化学セルの、8回の充放電サイクル後のクーロン効率のグラフである。
図5B図3に示されるプレリチオ化された半固体負極を含む第二の電気化学セルにより、8回の充放電サイクル後に保持される容量のグラフである。
図6A】混合前にその上にリチウム金属粉末が堆積される半固体負極懸濁液の光学画像を示す。
図6B】混合後、1日保管した半固体負極懸濁液を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
詳細な説明
本明細書に記載されている実施形態は、概して、プレリチオ化された半固体電極を有する電気化学セルに関し、特に半固体電極スラリの混合中にプレリチオ化され、それにより、電気化学セルの形成前に固体電解質界面(SEI)層が半固体電極内に形成される、半固体電極に関する。民生用電子バッテリは、リチウムイオンバッテリ技術の進歩と共に、そのエネルギー密度が徐々に増大している。製造されたバッテリの保存エネルギー、すなわち電荷容量は、(1)活物質の固有の電荷容量(mAh/g)、(2)電極の体積(cm3)(すなわち、電極の厚さ、電極の面積、および層(スタック)の数の積)、および(3)電極媒質中への活物質の充填(例えば、電極媒質1cm3あたりの活物質のグラム数)の関数である。したがって、商業的な魅力を高めるために(例えば、エネルギー密度の増大および低コスト化)、一般に、面積電荷容量(mAh/cm2)を大きくすること、およびまた特にリチウムイオンバッテリにおいて発生しうる不可逆的容量損失を減少させることが望ましい。
【0006】
本明細書に記載されている半固体電極は、(i)半固体電極の屈曲性の緩和および電子伝導性の増大により、より厚くされ(例えば、厚さ約250μmを超え、最大約2,000μmまたはそれを超える)、(ii)その活物質の充填量を増やし、かつ(iii)利用機器がより少ない簡易化された製造プロセスを有することができる。このような半固体電極は、固定された構成でも流動的構成でも形成でき、活物質に関する不活性成分の体積、質量およびコスト面での影響が削減され、その結果、半固体電極を用いて製作されるバッテリの商業的魅力を高めることができる。本明細書に記載されている半固体電極の屈曲性の緩和および電子伝導性の増大により、半固体電極から形成される電気化学セルのレート容量と電荷容量とが優れたものとなる。
【0007】
本明細書に記載されている半固体電極は従来の電極より実質的に厚くすることができるため、活物質(すなわち、半固体正極および/または負極)と不活物質(すなわち、集電体とセパレータ)との比は、半固体電極を有する電気化学セルスタックから形成されたバッテリにおいて、従来の電極を含む電気化学セルスタックから形成された同様のバッテリよりはるかに高くすることができる。これにより、本明細書に記載されている半固体電極を含むバッテリの全体的な電荷容量およびエネルギー密度が実質的に高くなる。厚い半固体電極を利用する電気化学セルとその様々な調合との例は、2013年4月29日に出願された「Semi-Solid Electrodes Having High Rate Capability」という名称の米国特許出願第13/872,613号(「‘613号出願」とも呼ぶ)および2014年3月10日に出願された「Asymmetric Battery Having a Semi-Solid Cathode and High Energy Density Anode」という名称の米国特許出願第14/202,606号(「‘606号出願」とも呼ぶ)に記載されており、これらの開示の全体が用により本願に援用される。
【0008】
リチウムイオン電極および特にその負極には、バッテリ形成段階(すなわち、電極を含む電気化学セルの充電と放電とを含む初回サイクリングステップ)で不可逆的容量損失が発生しうる。不可逆的容量損失は、正極活物質からのリチウムイオンが負極によって消費されることから発生する可能性があり、それは、これらのリチウムイオンをSEI層の形成に使用する。消費されるリチウムの量は、その後の電荷保存の用途には使用できず、したがって、望ましくない不可逆的容量損失を表す。さらに、この不可逆的容量損失には、リチウムイオンが負極材料内に不可逆的に取り込まれることにより、負極の体積膨張が伴う可能性がある。この体積膨張の問題は、半固体負極の調合中に高容量負極材料(例えばシリコンまたは錫)が含まれる半固体負極の場合、より著しいが、これは、高容量負極材料が黒鉛等の従来の材料と比較して、より大量のリチウムを取り込む可能性がある(より高エネルギーのセル設計が可能になる)からである。例えば、黒鉛は炭素原子6個ごとに約1つのリチウム原子を取り込むことができるが、シリコンは、理論的にシリコン原子1個につき約4.4個のリチウム原子を取り込める。このようにより高い容量により、従来の電気化学セルに関して単位面積あたりの電荷容量がはるかに高い電気化学セルの形成が可能となりうるが、取り込まれるリチウムイオンの数がより多いことはまた、高容量の材料を含む半固体負極が、SEI層を形成するために正極からのリチウムをより多く消費して、不可逆容量の度合いがはるかに高くなることも意味する。さらに、シリコンには、リチウムイオンがシリコン原子中に取り込まれることによる実質的な体積膨張が起こる。繰り返される体積の変化(すなわち、膨張および/または収縮)は電荷容量に不利な影響を与えかねず、不可逆的な機械的損害の原因となり、これは、電気化学セルの寿命を短縮させかねない。リチオ化がシリコン電極の応力および形態に与える影響については、V. Sethuramanらによる“In situ Measurements of Stress Evolution in Silicon Thin Films During Electrochemical Lithiation and Delithiation", Journal of Power Sources 195 (2010) 5061-5066にさらに詳細に記載されており、その内容の全体が参照により本願に援用される。
【0009】
本明細書に記載されている半固体電極の実施形態は、半固体電極懸濁液の調製中、電気化学セルの形成前にリチウムでプレリチオ化され、少なくとも部分的に上述の不可逆的容量損失および体積膨張の問題を克服する。本明細書に記載されている半固体電極により、従来の電極と異なり、電極スラリの混合プロセス中にリチウム金属を混合できる。これは、本明細書に記載されている半固体電極中に、半固体電極組成物に混合される電解質が含まれるために可能である。電解質は、リチウム金属により提供されるリチウムイオンが半固体電極、特に半固体負極に含まれる活物質(例えば、黒鉛)または高容量材料(例えば、シリコンまたは錫)と相互作用するための媒質となる。これにより、混合ステップ中にSEI層を形成でき、このようなプレリチオ化された半固体負極が電気化学セル内で正極と対にされたときに、正極からのリチウムイオンはSEI層の形成に使用されない。換言すれば、プレリチオ化により、正極からのリチウムイオンは負極における不可逆的容量損失に寄与せず、正極は電気化学セル形成後もその当初の容量を保持できる。さらに、半固体電極組成物中に含まれる電解質はまた、周囲環境(例えば、周囲環境の水分または湿気)からリチウム金属を保護し、混合プロセス中にリチウム金属を安定状態に保つことができる。
【0010】
本明細書に記載されている半固体電極のプレリチオ化により提供される別の利点は、負極をプレリチオ化でき、その結果、それが正極と対にされる前に完全に充電されることである。これにより、負極内のSEI層の形成に使用できるリチウムをまったく含まない正極の使用が可能となる。そのため、リチウム金属の代わりに炭素系の負極材料を使用でき、これは、より良いサイクル安定性および安全性につながる。さらに、混合ステップ中、負極に含まれる高容量材料中へのリチウムイオンの挿入も起こる可能性があり、それにより、混合ステップ中の高容量材料のなんらかの膨張が可能となる。換言すれば、プレリチオ化により、半固体負極は事前に膨張可能であるため、電気化学セルの形成およびその後の充電/放電サイクル中に半固体負極はそれほど膨張しない。このようにして、半固体負極の膨張による電気化学セルへの物理的損害は実質的に低減されるか、場合によっては排除できる。そのため、このようなプレリチオ化された半固体負極を含む電気化学セルは、プレリチオ化されていない負極(例えば、半固体負極)と比較して、実質的に高い機械的安定性と長い寿命とを有することができる。
【0011】
本明細書に記載されているプレリチオ化された半固体電極の実施形態は、従来の電極に対するいくつかの利点を提供し、これには、(1)電気化学セルが形成される前に、半固体電極(例えば、負極)の活物質上にSEI層が形成されること、(2)もう一方の電極(例えば、正極)から抽出されるリチウムイオンを用いたSEI層の形成が制限されるか、または他に実質的に排除されること、(3)電気化学セルの形成後、もう一方の電極(例えば、正極)の初期容量の実質的に全部が保持されること、(4)電気化学セルの形成前にプレリチオ化によって高容量材料を含む半固体負極を事前に膨張させることにより、電気化学セルの形成時および通常の使用中、半固体負極のあらゆる体積膨張が制限および/または縮小されること、(5)電気化学セルの電荷容量が高くなり、動作寿命が延びることが含まれる。
【0012】
いくつかの実施形態において、半固体電極は、約20体積%~約90体積%の活物質と、約0体積%~約25体積%の導電材料と、約10体積%~約70体積%の液体電解質と、活物質を実質的にプレリチオ化するのに十分な量のリチウム(リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物として)とを含む。リチウムは、半固体電極を含む電気化学セルの初回充電サイクルの前に活物質の表面上に固体電解質界面(SEI)を形成するように構成される。いくつかの実施形態において、リチウム金属は、リチウム金属粉末、リチウム塩、リチウム箔、および半固体電極集電体上に堆積されたリチウム金属のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0013】
いくつかの実施形態において、半固体電極は、電解質成分を除外し、約75重量%~約100重量%の活物質と、約0重量%~50重量%の導電材料と、約1%~50%のリチウム金属またはリチウムイオン等価物とを含む。電極の固体成分全体は、活物質、導電性材料、およびリチウムイオン等価物からなる。固体成分は、35体積%~約90体積%の半固体電極からなり、電解質は10体積%~約90体積%の半固体電極からなる。リチウム金属がこの電極に添加されて、負極材料の不可逆容量を消費し、これは負極材料の理論上の第一の電荷容量の1%~50%の範囲とすることができる。他の用途において、リチウム金属をリチオ化されていない正極材料と混合して正極材料を製作してもよく、これは、例えばFeS2等、第二のバッテリで使用するためにリチオ化される。この場合、使用されるリチウム金属またはリチウムイオン等価物の量は、正極の利用可能な容量全体と等しくなるであろう。プレリチオ化の他の用途は、負極をリチオ化して、不可逆的容量をすべて消費するだけでなく、負極をさらにリチオ化して、活性リチウムイオンのためのバッファを提供することであり、これは後のサイクリング用の備蓄として保存されるであろう。このような実施形態において、使用されるリチウム金属の量は負極の理論容量の10%~50%の範囲であろう。他の例において、プレリチオ化プロセスは、正極材料をリチオ化して、それに余分な量のリチウムイオンを提供する(すなわち、正極を「過剰リチオ化」する)ために使用でき、したがって、材料を電気化学サイクリング中により安定化させることができる。
【0014】
いくつかの実施形態において、プレリチオ化された負極を調製する方法は、活物質とリチウム金属とを化合させて、プレリチオ化された負極を形成するステップを含む。電解質がプレリチオ化された材料と化合されて、半固体負極材料が形成される。その後、半固体負極材料が半固体負極へと形成される。いくつかの実施形態において、任意選択により、導電材料をプレリチオ化された負極材料と化合させることができる。いくつかの実施形態において、任意選択により、高容量材料をプレリチオ化された負極材料と化合させることができる。
【0015】
本明細書で使用されるかぎり、「約」および「およそ」という用語は一般に、表記された数値のプラスまたはマイナス10%を意味し、例えば、約250μmは225μm~275μmを含み、約1,000μmは900μm~1,100μmを含む。
【0016】
本明細書で使用されるかぎり、「半固体」という用語は、液相と固相との混合物である材料、例えば粒子懸濁液、コロイド懸濁液、エマルジョン、ゲル、またはミセルを指す。
【0017】
本明細書で使用されるかぎり、「導電性炭素ネットワーク」および「ネットワーク状炭素」という用語は、電極の一般的な質的状態に関する。例えば、炭素ネットワーク(またはネットワーク状炭素)を有する電極は、電極内の炭素粒子が、粒子間と電極の厚さおよび長さを通じた電気接触および電気伝導を容易にする、個々の粒子形態および相互に関する配置をとるようなものである。反対に、「非ネットワーク状炭素」という用語は、炭素粒子が個々の粒子の島、または電極を通じて十分な導電性を提供できるほど接続されていなくてもよい複数の粒子の塊状の島として存在する電極に関する。
【0018】
本明細書で使用されるかぎり、「電気化学セルの形成」という用語は、電気化学セルの構成要素(例えば、正極、負極、スペーサ、集電体、その他)が初めて組み立てられた電気化学セルが形成された後に、電気化学セルに対して実行される初回充電および/または放電サイクルを指す。
【0019】
本明細書で使用されるかぎり、「容量」という用語は、「バッテリ容量」、「容積エネルギー密度」、および/または「比エネルギー」と同義であってもよい。
【0020】
図1は、電気化学セル100の概略図を示す。電気化学セル100は、正極集電体110と、負極集電体120と、正極集電体110と負極集電体120との間に配置されたセパレータ130とを含む。正極集電体110はセパレータ130から第一の距離t1だけ離間され、少なくとも部分的に正の電気活性領域を画定する。負極集電体120はセパレータ130から第二の距離t2だけ離間され、少なくとも部分的に負の電気活性領域を画定する。半固体正極140が正の電気活性領域内に配置され、半固体負極150が負の電気活性領域内に配置される。いくつかの実施形態において、距離t1により画定される正の電気活性領域の厚さおよび/または距離t2により画定される負の電気活性領域の厚さは、約250μm~約2,000μmの範囲内とすることができる。
【0021】
半固体正極140および/または半固体負極150は、集電体上に配置でき、例えば、コーティング、鋳造、ドロップコーティング、プレス加工、圧延プレス加工、またはその他の何れかの適当な方法を用いて堆積させることができる。半固体正極140は正極集電体110上に配置でき、半固体負極150は負極集電体120上に配置できる。例えば、半固体正極140および/または半固体負極150は、それぞれ正極集電体110と負極集電体120との上にコーティング、鋳造、カレンダ加工および/またはプレス加工することができる。正極集電体110と負極集電体120とは、電子伝導性を有し、セルの動作条件下で電気化学的に不活性の何れの集電体とすることもできる。リチウムセル用の典型的な集電体には、負極集電体120に関して銅、アルミニウム、もしくはチタンの、および正極集電体110に関してアルミニウムのシートもしくはメッシュ、またはそれらの組合せが含まれる。
【0022】
集電体の材料は、電気化学セル100の半固体正極140および半固体負極150の動作電位で安定するように選択できる。例えば、非水系リチウムシステムでは、正極集電体110はアルミニウムを含むか、Li/Li+に関して2.5~5.0Vの動作電位で電気化学的に溶解しない導電材料でコーティングされたアルミニウムを含むことができる。アルミニウムの集電体をコーティングする材料には、プラチナ、金、ニッケル、導電性金属酸化物、例えば酸化バナジウム、および炭素が含まれていてもよい。負極集電体120は、銅、またはリチウム、炭素および/もしくは他の導体上に堆積されているそのような材料を含むコーティングと合金または金属間化合物を形成しないその他の金属を含むことができる。
【0023】
電気化学セル内に含まれる半固体正極140と半固体負極150とは、セパレータ130により分離できる。例えば、セパレータ130は、イオン移動が可能な何れの従来の膜とすることもできる。いくつかの実施形態において、セパレータ130は、それを通じたイオンの移動を可能にする液体浸透膜、すなわち固体またはゲル状イオン伝導体である。いくつかの実施形態において、セパレータ130は多孔質ポリマー膜であり、そこに、半固体正極140および半固体負極150の電気活物質間のイオンの往来を可能にする一方で、電子の移動を阻止する液体電解質が含浸される。いくつかの実施形態において、セパレータ130は、正および負電極組成物を形成する粒子が膜を通過するのを防止する微孔膜である。いくつかの実施形態において、セパレータ130は、リチウムイオンバッテリ業界で使用され、当業者によく知られているタイプの単層または多層微孔セパレータであり、任意選択により、特定の温度を上回ると溶融または「閉鎖」して、動作中のイオンを透過させなくなる能力を備える。いくつかの実施形態において、セパレータ130は、リチウム塩が錯体とされてリチウム伝導性を提供するポリエチレンオキサイド(PEO)ポリマー、またはプロトン伝導体であるNafion(商標)膜を含むことができる。例えば、PEO系の電解質をセパレータ130として使用でき、これはピンホール欠陥を有さない中実のイオン伝導体であり、任意選択により、支持層としてグラスファイバセパレータ等の他の膜で安定化される。PEOはまた、正または負のレドックス組成物中のスラリ安定化剤、分散剤、その他としても使用できる。PEOは、典型的なアルキルカーボネート系電解質と接触しても安定している。これは、正電極におけるセル電位がLi金属に関して約3.6V未満である、リン酸系セル化学において特に有益でありうる。レドックスセルの動作温度は必要に応じて上昇させ、膜のイオン伝導性を改善できる。
【0024】
半固体正極140は半固体静止型正極(semi-solid stationary cathode)とすることができる。半固体正極140は、イオン貯蔵固相材料を含むことができ、これは例えば、活物質および/または導電材料を含むことができる。イオン保存固相の量は、約0体積%~約90体積%の範囲内とすることができる。半固体正極140は活物質を含むことができ、これは例えば、リチウム担体組成物(例えば、リン酸鉄リチウム(LFP)、LiCoO2、Mgを添加したLiCoO2、LiNiO2、Li(Ni,Co,Al)O2(NCAと呼ばれる)、Li(Ni,Mn,Co)O2(NMCと呼ばれる)、LiMn24およびその誘導体、その他)を含むことができる。半固体正極140はまた、導電材料、例えば黒鉛、炭素粉末、熱分解炭素、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンマイクロファイバ、カーボンナノチューブ(CNT)、単層CNT、多層CNT、「バッキーボール(buckyball)」を含むフラーレンカーボン、黒鉛シート、黒鉛シートの集合体、および/または他のあらゆる導電材料、その合金または組合せを含むこともできる。半固体正極140はまた、非水系液体電解質、例えばエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、または本明細書に記載されている他のあらゆる電解質またはそれらの組合せ等を含むことができる。いくつかの実施形態において、電解質は以下の塩のうちの1つまたは複数を含む:ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、LiPF5(CF3)、LiPF5(C25)、LiPF5(C37)、LiPF4(CF32、LiPF4(CF3)(C25)、LiPF3(CF33、LiPF3(CF2CF33、LiPF4(C242、LiBF4、LiBF3(C25)、LiBOB、リチウムビス(オキサレート)ボラート(LiBOP)、リチウムオキサリルジフルオロボラート(LIODFB)、リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート(LiDFOB)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiFSI)、LiN(SO232、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、LiN(SO2F)2、LiN(SO2252、LiCF3SO3、LiAsF6、LiSbF6、LiClO4、LiTFSI、LiFSI、および/または、例えば本明細書に挙げた族に属する他の有機または無機アニオンおよび/または化合物。
【0025】
いくつかの実施形態において、半固体負極150はイオン貯蔵固相材料を含み、これは、例えば活物質および/または導電材料を含むことができる。イオン貯蔵固相材料の量は、約0体積%~約90体積%の範囲とすることができる。負極150は、負極活物質、例えばリチウム金属、炭素、リチウム挿入炭素、黒鉛、窒化リチウム、リチウム合金および、シリコン、ビスマス、ボロン、ガリウム、インジウム、亜鉛、錫、酸化錫、アンチモン、アルミニウム、酸化チタン、モリブデン、ゲルマニウム、マンガン、ニオビウム、バナジウム、タンタル、金、プラチナ、鉄、銅、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化シリコン、シリコンカーバイド、他のあらゆる材料またはその合金の化合物を形成するリチウム合金、およびそれらのあらゆる他の組合せを含むことができる。
【0026】
半固体負極150(例えば、半固体負極)はまた、導電材料も含むことができ、これは炭素質材料、例えば、黒鉛、炭素粉末、熱分解炭素、カーボンブラック、カーボンファイバ、カーボンマイクロファイバ、カーボンナノチューブ(CNT)、単層CNT、多層CNT、「バッキーボール」を含むフラーレンカーボン、黒鉛シート、黒鉛シートの集合体、および/または他のあらゆる導電材料、その合金または組合せとすることができる。いくつか実施形態において、半固体負極150はまた、非水系液体電解質、例えばエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、または本明細書に記載されている他のあらゆる電解質またはそれらの組合せ等も含むことができる。
【0027】
いくつかの実施形態において、半固体正極140および/または半固体負極150は、活物質と、任意選択により導電材料とを、非水性液体電解質中に懸濁された微粒子の形態で含むことができる。いくつかの実施形態において、半固体正極140および/または半固体負極150の粒子(例えば、いくつかの実施形態では、一次粒子の塊により形成される二次粒子である正極または負極粒子)は、有効粒径を少なくとも約1μmとすることができる。いくつかの実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は、約1μm~約10μmである。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は少なくとも約10μm以上である。いくつかの実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約1μm未満である。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約0.5μm未満である。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約0.25μm未満である。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約0.1μm未満である。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約0.05μm未満である。他の実施形態において、正極または負極粒子の有効粒径は約0.01μm未満である。
【0028】
いくつかの実施形態において、半固体正極140は約20体積%~約90体積%の活物質を含む。いくつかの実施形態において、半固体正極140は、約40体積%~約75体積%、約50体積%~約75体積%、約60体積%~約75体積%、または約60体積%~約90体積%の活物質を含むことができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、半固体正極140は、約0体積%~約25体積%の導電材料を含むことができる。いくつかの実施形態において、半固体正極140は、約0.5体積%~約25体積%、約1体積%~約6体積%、約6体積%~約12体積%、または約2体積%~約15体積%の導電材料を含むことができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、半固体正極140は、約10体積%~約70体積%の電解質を含むことができる。いくつかの実施形態において、半固体正極140は、約30体積%~約60体積%、約40体積%~約50体積%、または約10体積%~約40体積%の電解質を含むことができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、半固体負極150は約20体積%~約90体積%の活物質を含む。いくつかの実施形態において、半固体負極150は、約40体積%~約75体積%、約50体積%~約75体積%、約60体積%~約75体積%、または約60体積%~約90体積%の活物質を含むことができる。
【0032】
いくつかの実施形態において、半固体負極150は、約0体積%~約20体積%の導電材料を含むことができ。いくつかの実施形態において、半固体負極150は、約1体積%~約10体積%、1体積%~約6体積%、約0.5体積%~約2体積%、約2体積%~約6体積%、または約2体積%~約4体積%の導電材料を含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態において、半固体負極150は約10体積%~約70体積%の電解質を含むことができる。いくつかの実施形態において、半固体負極150は、約30体積%~約60体積%、約40体積%~約50体積%、または約10体積%~約40体積%の電解質を含むことができる。
【0034】
半固体正極140および/または半固体負極150組成物、その各種の調合、およびそれから形成される電気化学セルにおいて使用可能な活物質、導電材料、および/または電解質の例は、‘613号出願および‘606号出願に記載されている。
【0035】
いくつかの実施形態において、半固体負極150はまた、約1体積%~約30体積%の高容量材料を含むことができる。このような高容量材料は、例えばシリコン、ビスマス、ボロン、ガリウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモン、アルミニウム、酸化チタン、モリブデン、ゲルマニウム、マンガン、ニオビウム、バナジウム、タンタル、鉄、銅、金、プラチナ、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム、酸化モリブデン、酸化ゲルマニウム、酸化シリコン、シリコンカーバイド、または他のあらゆる高容量材料もしくはその合金、およびそれらのあらゆる組合せを含むことができる。いくつかの実施形態において、半固体負極は、約1体積%~約5体積%、約1体積%~約10体積%、または約1体積%~約20体積%の高容量材料を含むことができる。いくつかの実施形態において、高容量材料は、半固体負極の体積の最大50%を構成できる。他の実施形態において、高容量材料は、半固体負極の体積の最大100%、または実質的にすべてを構成できる。半固体負極150、その各種の調合物、およびそれから形成される電気化学セルに含めることができる高容量材料の例は、‘606号出願に記載されている。
【0036】
半固体負極150および/または半固体正極140はまた、リチウム金属、リチウム含有材料(例えば、LiFePO4、Li(Mn1/3Ni1/3Co1/3)O2、およびLiMn24、および/またはLiCoO2)、および/またはリチウム金属等価物(例えば、電極材料への挿入および/またはそれとの関連付けの有無を問わず、リチウムイオン)も半固体電極組成物中に含めることができる。いくつかの実施形態において、リチウム金属は、半固体電極懸濁液の混合中に半固体負極150および/または半固体正極140に含める/導入することができる。リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物は、半固体負極および/または半固体正極中に、半固体負極および/または半固体正極を少なくとも部分的に(またはいくつかの実施形態では、実質的に完全に)「プレリチオ化する」のに十分な量で存在できる。例えば、リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物は、電気化学セル100が組み立てられ、形成される前に、半固体負極150および/または半固体正極140中に含めることができる。リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物は、電気化学セル100の初回充電サイクルの前(すなわち、電気化学セル形成の前)に半固体電極(例えば、半固体半固体負極(150)中に含まれる活物質の表面上にSEI層を形成するように構成できる。そのため、電気化学セル100の形成段階中、半固体負極の表面上にSEI層を形成するのに、半固体正極140からのリチウムはほとんどまたはまったく消費されない。したがって、負極SEI層形成中の正極リチウムイオンの消費による半固体正極140の容量損失の可能性は低減化されるか、または排除される。
【0037】
いくつかの実施形態において、リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物の量は、初回セルサイクリング中にSEI層を形成する際に発生する従来のリチウム消費(例えば、正極から「奪われる」リチウムイオン)を完全に補償(すなわち、防止)できるのに十分であってもよい。他の実施形態において、リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物の量は、従来のSEI層形成を完全に補償するために必要な量を超えていてもよい。このような実施形態において、負極内に含まれる余剰のリチウムは、負極中で発生する副反応による容量低下を相殺するのに役立つことができ、および/または負極自体の「事前充電」が行われるようにしてもよい。負極の事前充電の量は、余剰の挿入リチウム(例えば、金属Liまたはその化合物もしくはイオン)により、添加されたリチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物の量に依存する。その結果、プレリチオ化のみを通じた負極の「満充電」負極状態を達成するか、またはそれを超えることが理論的に可能である。表1~6に示されるように(後述する)、リチウムの必要量(例えば、リチウム金属、リチウム含有材料、およびまたはリチウム金属等価物の形態で提供される)は、いくつかの要因を考慮することによって算出されてもよい。これらの要因には、実施形態に応じて、1つまたは複数の活物質の容量(例えば、電荷容量)、1つまたは複数の活物質の重量、1つまたは複数の活物質の容量のうちの不可逆容量のパーセンテージ、1つまたは複数の添加物の重量および種類、1つまたは複数の添加物の不可逆容量、リチウム(例えば、リチウム金属、リチウム含有材料、および/またはリチウム金属等価物)の容量、電極の全体的容量、および望ましい追加の(すなわち「バッファの」)容量の大きさが含まれていてもよい。
【0038】
半固体負極150に含まれるリチウム金属の量は、半固体負極150に含まれる活物質に依存する可能性がある。例えば、活物質として黒鉛を含む半固体負極150において、SEI層形成による損失は、基本的に、電気化学セル100の初回サイクル(すなわち、電気化学セル形成)中の不可逆的容量損失として表われる。添加されるリチウム金属自体はSEIと電解質との接触部を形成し、これはさらなる不可逆的損失となる。したがって、半固体負極150に添加されるリチウム金属の量は、電気化学セル100の初回サイクルの不可逆的容量損失に直接関係させることができる。一般に、黒鉛負極において、不可逆的容量損失はその負極の初期容量の約5%~約30%とすることができる。活物質として黒鉛を含む負極(例えば、黒鉛半固体負極または黒鉛を含む他のあらゆる黒鉛)中に含めることができるリチウム金属の量は、後述のように算出できる。ファラデー定数が96,500C/モルであるとき、黒鉛の調合重量は1モルあたり12グラム(すなわち、「6-C」環のモル重量が約72g/モル)、その密度は1cm3あたり2.2グラム、プレリチオ化に関する(LiC6に関する)黒鉛の理論容量は372mAh/g、および理論体積容量が818mAh/cm3である。黒鉛の理論容量(LiC6に関する)計算は以下のとおりである。
【数1】
リチウム金属は式量が1モルあたり6.94グラム、密度は1cm3あたり0.5グラムである。リチウム金属の理論容量は約3,839mAh/g、その理論体積容量は1cm3あたり1,915グラムである。例えばグラッシカーボン等、負極内で一般手に使用される他の活物質についても同様の計算を行うことができる。いくつかの実施形態において、活物質として黒鉛を含む半固体負極150に含まれるリチウム金属の量は、約1体積%~約20体積%の範囲とすることができる。半固体負極150および/または半固体正極140に添加されるリチウム金属はまた、半固体負極150および/または半固体正極を部分的にリチオ化することもできる。このような実施形態において、電気化学セル100の使用中、半固体負極150および/または半固体正極140の充電または放電状態におけるリチウムの濃度が限定されていることは、電気化学セルの電圧、容量、寿命、またはその他の電子的特性に有利な影響を与えうる。
【0039】
半固体負極150が高容量材料(例えば、シリコン、錫、または本明細書に記載されている他のあらゆる高容量材料)を含むいくつかの実施形態において、リチオ化の程度は、材料を体積変化量が最小限となるような動作範囲内に保持するべきである。シリコンの場合、これは10%~80%のリチオ化の範囲内の何れかであろう。これは、半固体負極150の膨張または収縮を制限することにより、充電/放電サイクリング中の半固体負極150の寿命を延長できる。これは、半固体負極150のプレリチオ化により、電気化学セル形成前にリチウムを高容量材料(例えば、シリコン)に挿入できるからである。前述のV. Sethuramanらによる“In situ Measurements of Stress Evolution in Silicon Thin Films During Electrochemical Lithiation and Delithiation", Journal of Power Source 195 (2010) 5062-5066を参照されたい。プレリチオ化された半固体負極150内のリチウムにより、負極にサイクリングが行われるリチウム濃度範囲は永久的にシフトし、放電終了時における半固体負極150内の最小リチウム濃度を増大させる(すなわち、半固体負極は電気化学セル100の形成前、形成中、および形成後のセルの充電および放電中に実質的にリチオ化された状態に保たれる)。したがって、高容量材料を含む半固体負極の場合、有効なプレリチオ化のために添加されるリチウム金属の量は、半固体負極150のための最適なサイクリング範囲により決定でき、黒鉛に関して本明細書で説明したものと同様の方法で算出できる。例えば、シリコンは、式量が1モルあたり29グラム、密度が1cm3あたり2.33グラムであり、プレリチオ化によってLi4.4Siと高い組成となりうる。この組成において、プレリチオ化シリコンの理論容量は4,212mAh/gであり、これに対応する理論体積容量は9,814mAh/cm3であり、これは出発材料のシリコンの質量と体積に基づく。したがって、高容量材料(例えばシリコン)を含む本開示の半固体負極は、サイクリング中の体積変化を最小限にするのに十分なリチウムを(すなわち、「プレリチオ化段階において」)含めるように調合されてもよい。
【0040】
高容量材料を含む半固体負極150に添加されるリチウム金属は、SEI層の形成だけでなく、負極の部分的リチオ化にも使用できるため、プレリチオ化の量は、半固体負極150内に存在する活物質の量に基づいて決定できる。例えば、高容量材料と不活物質とを含むが、活物質を含まない半固体負極150において、プレリチオ化中に添加されるリチウムの量は高容量材料プレリチオ化のみに使用される(例えば、高容量材料内に挿入される)。これに対して、活物質と、高容量材料としてのシリコンと、不活物質とを含む半固体負極150では、プレリチオ化中に添加されるリチウムの量は、活物質によって(例えばSEI層の形成において)だけでなく、高容量材料によっても(例えば、高容量材料の挿入)使用される。加えて、サイクリング中に大きい体積変化が生じる半固体負極に関して、サイクリング中に粒子の破壊および/または粒子の集合によって新しい表面領域が電解質に曝されると、動作リチウムの損失がさらに発生することがありえ、新たなSEI層がこのような表面に形成される可能性がある。
【0041】
あらゆる適当な形態のリチウム金属をプレリチオ化のために半固体負極150および/または半固体正極140に含めることができる。例えば、リチウム金属は、リチウム金属粉末、リチウム塩、および/またはリチウム箔を含むことができる。さらに、リチウム金属は、例えば粉末、マイクロ粒子、ナノ粒子、小片、箔その他、何れの形状または大きさを有することもできる。いくつかの実施形態において、リチウム金属はまず、箔(例えば、銅箔またはアルミニウム箔)または電極上に堆積させることができる。半固体負極150および/または半固体正極140は、金属箔またはその他の電極材料上に堆積させることができ、電気化学セル100の組立前に、拡散または電気めっきによって金属箔またはその他の電極からプレリチオ化できる。
【0042】
プレリチオ化に使用されるリチウム金属は、半固体負極150および/または半固体正極140懸濁液と、その懸濁液の調製中に混合できる。リチウム金属は、それを周囲環境から保護するために1つまたは複数のコーティングまたは処理を有することができ、それによってリチウム金属は混合プロセス中に周囲の水分と反応しない。例えば、リチウム金属はCO2で処理またはAl-Liで被覆し、リチウム金属を環境との反応から保護できる。混合されると、半固体負極150および半固体正極140の調合に含まれる電解質は、リチウム金属を環境との反応から保護できる。いくつかの実施形態において、リチウム金属上のコーティングは電解質中に溶解し、リチウム金属が半固体負極150および/または半固体正極の成分と相互作用できる(例えば、半固体負極150の活物質上にSEI層を形成する)ように調合できる。
【0043】
いくつかの実施形態において、前述の半固体負極150と半固体正極140との懸濁液は、バッチプロセス中、例えばバッチミキサを用いて混合でき、これは例えば高せん断混合、遊星型混合、遠心力遊星型混合、シグマ混合、CAM混合、および/またはローラ混合を含むことができ、特定の空間および/または時間的順序で成分が添加される。いくつかの実施形態において、半固体負極150および/または半固体正極140懸濁液は、連続的プロセスで(例えば、押出成型機内で)、特定の空間的および/または時間的順序で成分を添加して混合できる。スラリの成分が適正に混合されると、固体粒子、例えばイオン伝導性ポリマーを半固体電極スラリにさらに混合することができる。いくつかの実施形態において、スラリの混合は低温、例えば摂氏約25度未満(例えば、摂氏約5度)で実行できる。半固体負極150および/または半固体正極140懸濁液が半固体電極に鋳造されると、例えば摂氏約37度を超えて温度を上昇させることができる。いくつかの実施形態において、混合は真空下、無湿環境下、および/または不活性ガス雰囲気中(例えば、N2またはアルゴン)で実行できる。
【0044】
半固体正極140および半固体負極150懸濁液の成分の混合および形成は、一般に、(i)原材料の搬送および/または供給、(ii)混合、(iii)混合スラリの搬送、(iv)拡散および/または押出成形、ならびに(v)形成を含む。いくつかの実施形態において、プロセス中の複数の工程は同時におよび/または同じ機器で実行できる。例えば、スラリの混合および搬送は、押出成形器と同時に行うことができる。プロセス中の各工程は、その工程の1つまたは複数の実施形態を含むことができる。例えば、プロセス中の各工程は、手作業でも、またはさまざまなプロセス機器の何れによっても実行できる。各工程はまた、1つまたは複数のサブプロセスと、任意選択により、プロセス品質をモニタするための検査工程とを含むこともできる。
【0045】
いくつかの実施形態において、本開示による負極は標準的方法を通じて混合され、分配される。安定化されたリチウム金属粉末は、リチウムの総質量(不活性安定化コーティングを除く)が標的のプレリチオ化容量と均等な容量を有するような重量である。リチウム粉末は、粒子の平均粒径が負極の標的高さより少なくとも1桁小さくなるように選択される。粉末は、それが負極の上面を均等に覆うように拡散される。その後、セパレータが電極の上面に軽く圧迫して取り付けられ、正極がセパレータの上に載せられて、ユニットセルが作られる。
【0046】
いくつかの実施形態において、プロセス条件は、そのミキシングインデックスが少なくとも約0.80、少なくとも約0.90、少なくとも約0.95、または少なくとも約0.975である調製済み半固体正極140および/または半固体負極150を生成するように選択できる。いくつかの実施形態において、プロセス条件は、その電子伝導性が少なくとも約10-6S/cm、少なくとも約10-5S/cm、少なくとも約10-4S/cm、少なくとも約10-3S/cm、少なくとも約10-2S/cm、少なくとも約10-1S/cm、少なくとも約1S/cm、または少なくとも約10S/cmの半固体正極140および/または半固体負極150懸濁液を生成するように選択できる。いくつかの実施形態において、プロセス条件は、室温でのその見掛け粘性が、何れも見掛け剪断速度が1,000s-1のときに、約100,000Pa-s未満、約10,000Pa-s未満、または約1,000Pa-s未満の半固体正極140および/または半固体負極150を生成するように選択できる。いくつかの実施形態において、プロセス条件は、本明細書に記載されている2つ以上の特性を有する半固体正極140および/または半固体負極150懸濁液を生成するように選択できる。本明細書に記載されている半固体電極を調製するために使用可能なシステムと方法の例は、2013年3月15日に出願された「Electrochemical Slurry Compositions and Methods for Preparing the Same」という名称の米国特許出願第13/832,861号(「‘861号出願」とも呼ぶ)に記載されており、その開示の全体が参照により本願に援用される。
【0047】
図2は、プレリチオ化された半固体負極、例えば半固体負極150または本明細書に記載されている他のあらゆる半固体負極を調製するための方法200の概略図である。方法200は、202で、活物質とリチウム金属とを化合させて、プレリチオ化された負極材料を形成する工程を含む。活物質は、半固体負極150に関して記載された何れの活物質を含むこともでき、例えば黒鉛である。リチウム金属は、何れの形態とすることもでき、例えばリチウム金属粉末、リチウム塩、またはリチウム箔である。さらに、リチウム金属は何れの形状または大きさとすることもでき、例えば粉末、マイクロ粒子、ナノ粒子、小片、箔、その他である。いくつかの実施形態において、リチウム金属は活物質の表面上に堆積させることができる。例えば、リチウム金属のマイクロ粒子またはナノ粒子は、活物質(例えば黒鉛)の表面上に堆積させることができる。いくつかの実施形態において、リチウム金属に活物質を混合させたものは液体の形態とすることができる。例えば、リチウム金属は溶融状態でも、適当な溶媒中に溶解されて、活物質と混合可能な溶液を形成することもできる。いくつかの実施形態において、リチウム金属はそれを周囲環境から保護するための1つまたは複数のコーティングまたは処理を有することができ、それによってリチウム金属は混合プロセス中に周囲の水分と反応しない。例えば、リチウム金属は、CO2で処理し、またはAl-Liで被覆して、リチウム金属を環境との反応から保護できる。コーティングの厚さは、リチウム金属の反応性を低下させるように制御できる。さらに、いくつかの実施形態において、リチウム金属上のコーティングは、本明細書に記載されているように、半固体負極の調合に含まれる電解質中に溶解されるように調合でき、それにより、リチウム金属は半固体負極の成分、すなわち活物質と相互作用できる。リチウム金属を活物質と化合させることにより、本明細書に記載されているように、リチウム金属は活物質の表面上にSEI層を形成できる。
【0048】
いくつかの実施形態において、204で、導電材料をプレリチオ化された正極材料と化合させることができる。導電材料は、炭素粉末、CNT、または半固体負極150に関して説明した他の何れの導電材料を含むこともできる。
【0049】
いくつかの実施形態において、206で、高容量材料もまた、プレリチオ化された負極材料と化合させることができる。高容量材料は、シリコン、錫、または半固体負極150に関して説明した他の何れの高容量材料とすることもできる。プレリチオ化された負極内に含まれるリチウム金属はまた、高容量材料(例えばシリコン)上にSEI層を形成できる。さらに、リチウム金属のイオンが高容量材料内に挿入でき、その結果、高容量材料が膨張する。いくつかの実施形態において、リチウム金属を半固体負極内に含まれる活物質および/または高容量材料の全量のうちのわずかな部分と化合させ、活物質および高容量材料の一部の上にSEI層が形成されるようにすることもできる。SEI層が形成されると、残りの活物質および/または高容量材料は、活物質および/または高容量材料のプレリチオ化された部分と化合させることができる。
【0050】
208で、電解質をプレリチオ化された負極材料と化合させて、半固体負極材料を形成する。電解質は何れの適当な電解質を含むこともでき、例えば、半固体負極150に関して説明した何れの電解質でもよい。電解質は例えば、半固体負極懸濁液を形成するだけでなく、半固体負極に含まれる活物質、導電材料、および/または高容量材料を短絡させて、半固体負極の屈曲部およびインピーダンスを減らすことも可能となる。さらに、電解質は、リチウム金属上のすべての保護コーティングを溶解させ、活材料および/または高容量材料とのリチウム金属を短絡させることにより、SEI層の形成を促進することができる。
【0051】
その後、210で、半固体負極材料が半固体負極形成される。例えば、半固体負極材料は、半固体負極150に関して述べた何れかの適当な方法を使用して、半固体負極へと鋳造、ドロップコーティング、または形成できる。形成された半固体負極は、正極、例えば半固体正極(例えば、半固体正極140)と対にして、電気化学セル、例えば電気化学セル100内に含めることができる。方法200を使用して形成されたプレリチオ化された半固体負極は、活物質上に形成されたSEI層をすでに有するため、電気セル形成中、SEI層を形成するために正極から消費されるリチウムの量はほとんどないか、またはまったくない。そのため、正極は電気化学セル形成プロセスの後でも、その初期容量(すなわち、電気化学セル形成前の容量)の実質的に全部を保持できる。さらに、方法200を使用して形成されるプレリチオ化された半固体負極が高容量材料を含んでいる場合、リチウム金属はすでに高容量材料中に挿入されており、高容量材料と、したがってプレリチオ化された半固体負極とは事前膨張する。そのため、プレリチオ化された負極は、電気化学セル形成プロセス中に無視できる程度にのみ膨張する。これは、膨張による半固体負極への機械的損傷を実質的に減少させ、セルの電圧および/または容量の低減(例えば、電極の破損および/または「容量低下」)を防止し、プレリチオ化半固体負極および、したがって電気化学セルの性能を向上させ、動作寿命を延長することができる。
【0052】
以下の例は、本明細書に記載されている方法を使用して調製されたプレリチオ化された負極と、プレリチオ化された負極との電子的性能を示す。これらの例は例示的目的にすぎず、本開示の範囲を限定するものではない。
【実施例0053】
実施例1:リチウム被覆銅箔を用いた半固体負極のプレリチオ化
この例において、半固体負極をリチウム被覆銅箔によりプレリチオ化させた。半固体負極は、活物質として約50体積%のメソフェーズ系黒鉛粉末(China Steel Chemical Corporationから販売されるMGP-A)を導電材料として約2体積%のカーボンブラック(Timcalから入手されるC45)および約48体積%の電解質と混合することによって調製した。電極は、30:70の比のエチレンカーボネート(EC)とガンマブチルラクトン(GBL)、約1.1モルのLiBF4、約2重量%のビニレンカーボネート(VC)、約1.5重量%のLiBOB、および約0.5重量%のリン酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOP)を含んでいた。半固体負極の成分は、RESODYN(登録商標)ミキサ内で約12分間混合した。半固体負極を、負極集電体としても機能するリチウム被覆銅箔の両面に堆積させた。半固体負極を半固体正極と対にした。半固体正極は、活物質として約50体積%のLFP、導電材料として約0.8体積%のケッチェンブラック、および約49.2体積%の電解質であって、半固体負極懸濁液の調製に使用されたものと同じ電解質を含んでいた。半固体正極の成分は、約1,250rpmのスピードミキサ内で約90秒間混合した。半固体正極を集電体の片面に配置し、半固体負極と対にし、スペーサをそれらの間に配置して、プレリチオ化された電気化学セルを調製した。負極をリチウム被覆銅箔の両面に配置したため、2つの正極を調製して、リチウム被覆銅箔の各々の面に配置された半固体負極と対にした。プレリチオ化された電気化学セルを真空密閉パウチに入れ、乾燥条件下で3日間保管し、リチウム被覆銅箔上に配置されたリチウム金属で負極をプレリチオ化させた。
【0054】
図3は、本明細書に記載されている半固体負極と同じプロセスを使用して調製した試験用半固体負極を、真空密閉パウチ中に3日間保管した後にリチウム金属被覆銅箔から剥離した状態で示している。リチウム金属被覆銅箔のうち、その上に試験用半固体負極が配置された部分は、負極の剥離後にリチウムがまったくなく、それによって下の銅が見えている。これは、銅箔のうち、試験用半固体負極と接触する部分に配置されたリチウム金属が試験用半固体負極中に拡散し、および/またはその中に含まれる黒鉛と反応して、おそらくは黒鉛上にSEI層を形成し、したがって、半固体負極をプレリチオ化することを示している。
【0055】
負極集電体がリチウム金属で被覆されていない裸銅箔を含むことを除いて、標準的電気化学セルをプレリチオ化された電気化学セルとまったく同じ方法で製作した。そのため、標準的電気化学セルの半固体負極はプレリチオ化されなかった。
【0056】
プレリチオ化された半固体負極を含むプレリチオ化された電気化学セルに対し、電気化学試験を実施して、電気化学セルの電子的性能を判定した。電気化学セルに、C/10のCレートで2サイクル、C/4のCレートで10サイクル行った。試験はMACCOR(登録商標)バッテリテスタを使用して行った。
【0057】
図4Aは、充電/放電を1サイクル行った後の、プレリチオ化された電気化学セルと標準的電気化学セルとの電圧対容量のグラフを示し、図4Bは、図4Aから得られたプレリチオ化された、および標準的電気化学セルの異なる容量(dQ/dV)対容量のグラフを示す。プレリチオ化された電気化学セルのクーロン効率は約96.6%であり、標準的電気化学セルのクーロン効率は約88.2%であった。図4Aおよび4Bからわかるように、プレリチオ化された電気化学セルは標準電気化学セルと比較して、実質的により早く充電する。プレリチオ化された電気化学セルにより保持される最終容量は標準的電気化学セルよりわずかに低いが、これはセルの品質の低さとデータ変化とに起因する。1つの説明は、半固体負極がリチウム被覆銅箔の集電体上に配置され、リチウムのうち、半固体負極と接触する部分が半固体負極材料に挿入され、半固体負極をプレリチオ化するため、リチウム金属の下に配置された銅箔はプレリチオ化半固体負極と接触するというものである。しかしながら、この接触は質が低い可能性があり、それがリチウム被覆銅箔方式を使用して製作されたプレリチオ化された電気化学セルの全体的な電荷容量を減少させうる。
【0058】
図5Aは、プレリチオ化された電気化学セルの8サイクル後のクーロン効率のグラフを示し、図5Bは、プレリチオ化された電気化学セルにより8サイクルに保持される容量のグラフを示す。プレリチオ化された電気化学セルが8サイクル後に保持していたのは、その初期のクーロン効率の約96%と、その初期の容量の約72%とであった。これは再び、プレリチオ化電気化学セルの質の低さに起因しており、それは、リチウム金属コーティングが半固体負極の活物質と反応し、半固体負極内に取り込まれた後に、プレリチオ化された半固体負極と銅箔負極集電体との間の電気接触の質が低いことによる。
【0059】
実施例2:半固体負極懸濁液中のリチウム粉末の混合によるプレリチオ化
この例では、半固体負極懸濁液の調製中にリチウム粉末を半固体負極内に導入して、負極をプレリチオ化した。半固体負極懸濁液は、実施例1に記載された半固体負極と同様に調製した。半固体負極をリチウム粉末と混合し、1日保管した。半固体負極懸濁液と混合したリチウム粉末の量は、リチウム粉末の容量が半固体負極中に含まれる全体的電荷容量(黒鉛のものも含む)の約15%となるようにした。図6Aは、リチウム粉末を添加したが、半固体負極懸濁液には混合しなかった半固体負極の光学画像を示す。半固体負極懸濁液は濡れているように見えるが、それはリチウム金属が半固体負極の活物質、すなわち黒鉛と反応していないこと示す。図6Bは、混合して1日保管した後の半固体負極懸濁液示す。半固体負極懸濁液は1日後には乾燥しているように見えるが、これはリチウムが黒鉛と反応して、おそらく黒鉛にSEI層が形成されることを示す。
【0060】
以下の表1~6は、本開示のいくつかの実施形態による例示的な電極成分のパラメータと、さまざまな状況下で電流を印加する前のプレリチオ化された半固体負極中に存在するリチウムの理論的パーセンテージの計算を示す。表1は、1つの活物質(メソファーゼ系黒鉛粉末(MGP-A))が使用され、リチウム含有量が、余剰挿入リチウムによる追加の「バッファ」または余剰容量を用いずに、完全に「プレリチオ化」する(すなわち、従来のSEI形成を補償する)のに十分である、負極調合のための例示的パラメータと計算を示す。表2は、1つの活物質(MGP-A)が使用され、リチウムのパーセンテージが5%のバッファを含めるように計算される(すなわち、黒鉛は、セル組立および/またはサイクリングの前に約5%充電される)例示的パラメータおよび計算を示す。表3および4は、表2のそれらと同様のパラメータおよび計算を含むが、それぞれ50%および100%のバッファのパーセンテージに関する。表5は、2つの活物質(MGP-Aおよびソフトカーボン)が使用され、リチウムパーセンテージが5%のバッファを含めるように計算された、負極調合のための例示的パラメータと計算を示す。表6は、2つの活物質(MGP-Aおよびシリコン、高容量材料)が使用され、リチウムパーセンテージが5%のバッファを含めるように計算された、負極調合のための例示的パラメータおよび計算を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
以上、システム、方法、および装置の様々な実施形態を説明したが、これらは限定ではなく、例として提示されたにすぎないと理解するべきである。上述の方法およびステップは、特定の順序で発生する特定のイベントを示しているが、当業者であれば、本開示の利益により、特定のステップの順序を変更してもよく、このような変更も本発明の変形形態によるものであることを認識するであろう。加えて、ステップのいくつかは、前述のように、可能であれば並列処理プロセスで同時に実行されるだけでなく、逐次的にも実行されてよい。実施形態が具体的に図示され、説明されているが、当然のことながら、形態および詳細の各種の変更形態がなされうる。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
【手続補正書】
【提出日】2023-03-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレリチオ化された半固体負極を調製する方法であって、
活物質と、リチウム金属またはリチウム含有材料と、電解質塩を含む液体電解質とを混合して、当該混合中に固体電解質界面(SEI)層が少なくとも部分的に形成するように、プレリチオ化された半固体負極材料を形成する工程であって、前記リチウム金属または前記リチウム含有材料は、サイクル中に活性リチウムイオンのためのバッファを提供するのに十分な量である工程と、
前記プレリチオ化された半固体負極材料からプレリチオ化された半固体負極を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
導電材料を前記プレリチオ化された半固体負極材料と化合させる工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高容量材料を前記プレリチオ化された半固体負極材料と化合させる工程であって、前記高容量材料が、錫、シリコン、アンチモン、アルミニウム、酸化チタン、および/または、錫、シリコンまたはアンチモンの酸化物もしくは合金のうちの少なくとも1つを含む工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記活物質は、黒鉛である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プレリチオ化された半固体負極は、1体積%~50体積%の高容量材料を含み、
前記高容量材料は、錫、シリコン、アンチモン、アルミニウム、酸化チタン、および/または、錫、シリコン、アンチモンまたはアルミニウムの酸化物もしくは合金のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記液体電解質は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
負極を製造する方法であって、
活物質と、導電材料と、電解質と、リチウム金属および/またはリチウム含有材料とを混合して、当該混合中に固体電解質界面(SEI)層が少なくとも形成するように、負極混合物を調製する工程と、
前記負極混合物を乾燥環境において、前記負極混合物をそれが電気化学セル中に組み込まれる前に実質的にプレリチオ化するのに十分な期間にわたり保管する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
前記保管期間は、前記活物質の表面積の実質的にすべての上に固体電解質界面(SEI)を形成するのに十分である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記活物質は前記負極混合物の20体積%~90体積%を構成する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記液体電解質は前記負極混合物の10体積%~70%を構成する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記導電材料は導電材料の0体積%~25体積%を構成する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記液体電解質は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記負極混合物は高容量材料をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
電気化学セルを製造する方法であって、
セルスタックを組み立てる工程であって、
活物質と、導電材料と、液体電解質と、リチウム担体材料とを含む負極混合物を、当該混合中に固体電解質界面(SEI)層が少なくとも部分的に形成するように混合することと、
前記負極混合物の上にセパレータ膜を設置することと、
前記セパレータ膜の上に正極を設置することと、
を含む工程と、
前記セルスタックを乾燥環境において、前記負極混合物をサイクリング前に実質的にプレリチオ化するのに十分な期間にわたり保管する工程と、
を含む、方法。
【請求項15】
前記保管期間は、前記活物質の表面積の実質的にすべての上に固体電解質界面(SEI)を形成するのに十分である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活物質は前記負極混合物の20%~90%を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記負極混合物は高容量材料をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記組み立てる工程は、
さらなる活物質と、
さらなる導電材料と、
さらなる電解質と、
前記正極の安定性を向上させるのに十分な量のリチウムと、
を含む正極混合物を調製することと、
前記正極混合物から正極を形成することと、
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記液体電解質は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、またはこれらの組み合わせの少なくとも1つを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記液体電解質は前記負極混合物の10%~70%を構成する、請求項14に記載の方法。

【外国語明細書】