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特開2023-60002治療用タンパク質組成物ならびにその作製および使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060002
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】治療用タンパク質組成物ならびにその作製および使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20230420BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230420BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230420BHJP
   A61K 47/55 20170101ALI20230420BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20230420BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230420BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20230420BHJP
   A61P 37/02 20060101ALN20230420BHJP
   A61P 31/00 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
A61K38/20
A61K38/21
A61K38/19
A61K38/17
A61K35/17
A61K47/55
A61K47/42
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P31/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023029584
(22)【出願日】2023-02-28
(62)【分割の表示】P 2020513560の分割
【原出願日】2018-09-05
(31)【優先権主張番号】62/554,058
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/657,218
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518443373
【氏名又は名称】トルク セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】トマス アンドレセン
(57)【要約】
【課題】タンパク質治療薬、より詳細には、生分解性リンカーによって可逆的に架橋された複数の治療用タンパク質単量体を有するタンパク質クラスターまたはバックパックを調製および使用するための組成物および方法を提供すること。
【解決手段】一部の実施形態では、組成物は、タンパク質クラスターの形成を最適化する薬剤をさらに含む。例えば、薬剤は、未反応タンパク質を減らすことにより、薬剤なしの組成物に比べてタンパク質クラスター形成の収量を増大させることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年9月5日に出願された米国仮出願第62/554,058号、および2018年4月13日に出願された同第62/657,218号に基づく優先権およびその利益を主張し、これら出願両方の開示は、その全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、一般に、タンパク質治療薬、より詳細には、生分解性リンカーによって可逆的に架橋された複数の治療用タンパク質単量体を有するタンパク質クラスターまたはバックパックを調製および送達するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
抗体、サイトカイン、増殖因子、およびワクチンなどのタンパク質治療薬は、例えば、がん、糖尿病、および心血管疾患を始めとする様々な疾患の処置に重要な治療薬である。この部類のタンパク質治療薬は、ここ数年、世界の製薬業界において、日進月歩で開発されている。タンパク質治療薬は、小分子薬物に比べて特異性および効力が高いという利点を有する。それにもかかわらず、タンパク質治療薬の使用は、その固有の不安定性、免疫原性、および短い半減期のために限られている。
【0004】
こうした限界に対処するには、一般に、2つの手法があり、一方は、治療用タンパク質の遺伝子融合であり、他方は、タンパク質治療薬を送達するように操作された担体の使用である。操作された担体を用いれば、タンパク質は、カプセル化/吸着またはコンジュゲーションのいずれかによって負荷される。タンパク質のリポソームまたはナノ粒子へのカプセル化または吸着は、通常は効率が悪い。タンパク質のコンジュゲーションは、通常、その生物活性を低下させる。したがって、どちらの手法にも問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、治療薬を高い効率で送達系に組み込む新たな組成物および方法が大いに求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
本明細書では、タンパク質治療薬のための改良された方法および組成物が開示される。より詳細には、本明細書では、生分解性リンカーによって可逆的に架橋された複数の治療用タンパク質単量体を有するタンパク質クラスターまたはバックパック、ならびにその調製および使用の方法が開示される。
【0007】
1つの態様では、互いに可逆的に架橋された複数の治療用タンパク質単量体を含み、動的光散乱によって測定されるサイズが直径30nm~1000nmの間であるタンパク質クラスターと、
前記治療用タンパク質単量体上の求核性基と反応し、それによって前記治療用タンパク質単量体を架橋させて前記タンパク質クラスターにすることのできる、2つ、3つ、または4つの官能基をそれぞれが有し、それを必要とする対象に投与された後、生理的条件下で分解されて、前記タンパク質クラスターから前記治療用タンパク質単量体を放出する、複数の生分解性架橋剤と、
薬学的に許容される担体または賦形剤と、
必要に応じて、ポリカチオンであることが好ましい、前記タンパク質クラスター上の表面修飾と
を含む治療用組成物が本明細書中に開示される。
【0008】
一部の実施形態では、前記架橋剤は、A-B-Cの式を有し、Bは、任意であり、Aは、構造テンプレートを表し、Bは、ポリマースペーサーを表し、Cは、加水分解可能な連結と、求核性基と反応しうる官能基とを表す。
【0009】
一部の例では、Aは、ジオール、トリオール、テトラオール、ポリオール、ジチオール、トリチオール、テトラチオール、ポリチオール、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、またはポリアミンから選択される。一部の実施形態では、Bは、ポリエチレングリコール、糖、ポリオール、ポリエーテル、ポリチオエーテル、ポリアミン、ポリエステル、アルカン、フェニル、またはアミノ酸から選択され得る。一部の実施形態では、Cは、式(Ia):
【化1】

[式中、
LGは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから選択される脱離基であり、
は、OおよびSから選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、任意であり、
【化2】

が生分解性であるようなリンカーであり、
mは、1~6から選択される整数、好ましくは、2である]
を有し得る。
【0010】
ある特定の実施形態では、架橋剤は、式(I):
【化3】

[式中、
LGおよびLGは、それぞれ、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから独立に選択される脱離基であり、
およびYは、OおよびSからそれぞれ独立に選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、
【化4】

が生分解性であるようなリンカーであり、
mは、出現する毎に、1~6から選択される整数である]
を有する。
【0011】
一部の実施形態では、式(I)の架橋剤は、対称である。
【0012】
一部の実施形態では、LGおよびLGは、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応可能である。一例では、LGおよびLGは、両方ともイミダゾリドである。別の例では、LGおよびLGは、両方ともN-ヒドロキシスクシンイミドである。
【0013】
一部の実施形態では、
【化5】

は、加水分解可能である。
【0014】
一部の実施形態では、例えば、1つまたは複数のXがNであるとき、Lは、
(a)-(CH-[式中、nは、0~5から選択される整数である]、
(b)
【化6】

[式中、nは、0~5から選択される整数である]、または
(c)
【化7】

[式中、Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択される]
から選択される。
【0015】
一部の実施形態では、mは、2である。
【0016】
ある特定の実施形態では、架橋剤は、式(II):
【化8】

[式中、
およびXは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドからそれぞれ独立に選択され、
およびAは、それぞれ独立に、-(CR-であり、
は、-(CR-であり、
およびYは、NR、O、およびSからそれぞれ独立に選択され、
およびRは、出現する毎に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;ならびに1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから独立に選択され、
は、水素、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;ならびに1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから選択され、
nは、出現する毎に、1~12から独立に選択される整数であり、
mは、0~12から選択される整数である]
を有する。
【0017】
一部の実施形態では、式(II)の架橋剤は、対称である。一部の実施形態では、XおよびXは、それぞれ、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応可能な脱離基になる場合がある。一例では、XおよびXは、両方ともイミダゾリドである。別の例では、XおよびXは、両方ともN-ヒドロキシスクシンイミドである。一部の実施形態では、RおよびRは、両方とも水素である。一例では、AおよびAは、両方とも-(CH-である。一実施形態では、Aは、-(CH-である。一部の実施形態では、YおよびYは、両方ともOである。
【0018】
一実施形態では、架橋剤は、
【化9】

である。
【0019】
一部の実施形態では、式(II)の架橋剤において、Aは、(例えば、mが0であるとき)結合である。一実施形態では、YおよびYは、両方ともNHである。
【0020】
架橋剤は、一部の実施形態では、
【化10】

である。
【0021】
一部の実施形態では、架橋剤は、分解可能または加水分解可能リンカーとして使用することができる。一部の実施形態では、分解可能リンカーは、酸化還元応答性リンカーである。(例えば、ナノゲルまたはバックパックを作製するための)様々なリンカーの作製および使用方法は、米国公開第2017/0080104号、米国特許第9,603,944号、および米国公開第2014/0081012号において開示されており、これらはそれぞれ、参照により全体として本明細書に組み込まれる。
【0022】
一部の実施形態では、組成物は、タンパク質クラスターの形成を最適化する薬剤をさらに含む。例えば、薬剤は、未反応タンパク質を減らすことにより、薬剤なしの組成物に比べてタンパク質クラスター形成の収量を増大させることができる。一部の実施形態では、薬剤は、サイズが1000nmより大きいクラスターの形成を減らすことにより、薬剤なしの組成物に比べてタンパク質クラスター形成の収量を増大させることができる。
【0023】
一部の実施形態では、本明細書で開示する組成物において、治療用タンパク質単量体は、1種または複数のサイトカイン分子および/または1種または複数の共刺激性分子を含み、
(i)1種または複数のサイトカイン分子は、IL15、IL2、IL7、IL10、IL12、IL18、IL21、IL-23、IL-4、IL1アルファ、IL1ベータ、IL-5、IFNガンマ、TNFa、IFNアルファ、IFNベータ、GM-CSF、またはGCSFから選択され、
(ii)1種または複数の共刺激性分子は、CD137、OX40、CD28、GITR、VISTA、抗CD40、またはCD3から選択される。
【0024】
別の態様は、本明細書で開示する組成物のいずれか1種を調製する方法であって、複数の治療用タンパク質単量体を複数の架橋剤と反応させて、タンパク質クラスターを形成することを含む方法に関する。一部の実施形態では、反応させるステップは、約5℃~約40℃の間の温度で実施される。一部の実施形態では、反応させるステップは、約1分間~約8時間実施される。方法は、タンパク質クラスターに表面修飾を提供すること、および/またはタンパク質クラスターを精製することをさらに含む場合がある。
【0025】
本明細書では、細胞療法組成物を調製する方法であって、本明細書で開示する組成物のいずれか1種を提供することと、タンパク質クラスターを、T細胞やNK細胞などの有核細胞と共に、好ましくは、約30~60分間インキュベートすることとを含む方法も提供される。
【0026】
さらなる態様は、T細胞やNK細胞などの有核細胞と会合された、本明細書で開示する組成物のいずれか1種を含む細胞療法組成物に関する。
【0027】
なおさらなる態様は、細胞療法を提供する方法であって、本明細書で開示する細胞療法組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
特定の実施形態では、例えば、以下が提供される:
(項目1)
互いに可逆的に架橋された複数の治療用タンパク質単量体を含み、動的光散乱によって測定されるサイズが直径30nm~1000nmの間であるタンパク質クラスターと、
前記治療用タンパク質単量体上の求核性基と反応し、それによって前記治療用タンパク質単量体を架橋させて前記タンパク質クラスターにすることのできる、2つ、3つ、または4つの官能基をそれぞれが有し、それを必要とする対象に投与された後、生理的条件下で分解されて、前記タンパク質クラスターから前記治療用タンパク質単量体を放出する、複数の生分解性架橋剤と、
薬学的に許容される担体または賦形剤と、
必要に応じて、ポリカチオンであることが好ましい、前記タンパク質クラスター上の表面修飾と
を含む治療用組成物。
(項目2)
前記架橋剤が、A-B-Cの式を有し、Bは、任意であり、Aは、構造テンプレートを表し、Bは、ポリマースペーサーを表し、Cは、加水分解可能な連結と、求核性基と反応しうる官能基とを表す、項目1に記載の組成物。
(項目3)
Aが、ジオール、トリオール、テトラオール、ポリオール、ジチオール、トリチオール、テトラチオール、ポリチオール、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、またはポリアミンから選択され、
Bが、ポリエチレングリコール、糖、ポリオール、ポリエーテル、ポリチオエーテル、ポリアミン、ポリエステル、アルカン、フェニル、またはアミノ酸から選択され、
Cが、式(Ia):
【化24】


[式中、
LGは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから選択される脱離基であり、
は、OおよびSから選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、任意であり、
【化25】


が生分解性であるようなリンカーであり、
mは、1~6から選択される整数、好ましくは、2である]
を有する、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記架橋剤が、式(I):
【化26】


[式中、
LGおよびLGは、それぞれ、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから独立に選択される脱離基であり、
およびYは、OおよびSからそれぞれ独立に選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、
【化27】


が生分解性であるようなリンカーであり、
mは、出現する毎に、1~6から選択される整数、好ましくは、2である]
を有する、項目1から3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目5)
前記架橋剤が対称である、項目4に記載の組成物。
(項目6)
LGおよびLGが、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応しうる、項目4に記載の組成物。
(項目7)
LGおよびLGが、両方ともイミダゾリドまたはN-ヒドロキシスクシンイミドである、項目4から6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
【化28】


が加水分解可能である、項目4から7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
Lが、
(a) -(CH-[式中、nは、0~5から選択される整数である]、
(b)
【化29】


[式中、nは、0~5から選択される整数である]、または
(c)
【化30】


[式中、Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択される]
から選択される、項目4から8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
前記架橋剤が、式(II):
【化31】


[式中、
およびXは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドからそれぞれ独立に選択され、
およびAは、それぞれ独立に、-(CR-であり、
は、-(CR-であり、
およびYは、NR、O、およびSからそれぞれ独立に選択され、
およびRは、出現する毎に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;および1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから独立に選択され、
は、水素、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;および1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから選択され、
nは、出現する毎に、1~12から独立に選択される整数であり、
mは、0~12から選択される整数である]
を有する、項目1から3のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記架橋剤が対称である、項目10に記載の組成物。
(項目12)
およびXが、それぞれ、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応しうる脱離基である、項目10または11に記載の組成物。
(項目13)
およびXが、両方ともイミダゾリドまたはN-ヒドロキシスクシンイミドである、項目12に記載の組成物。
(項目14)
およびRが、両方とも水素である、項目10または11に記載の組成物。
(項目15)
およびAが、両方とも-(CH-である、項目14に記載の組成物。
(項目16)
が-(CH-である、項目10、11、13、および15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
およびYが、両方ともOである、項目10から16のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
前記架橋剤が
【化32】


である、項目17に記載の組成物。
(項目19)
が結合である、項目10、11、13、および15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
およびYが、両方ともNHである、項目19に記載の組成物。
(項目21)
前記架橋剤が
【化33】


である、項目20に記載の組成物。
(項目22)
前記タンパク質クラスターの形成を最適化する薬剤をさらに含む、前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目23)
前記薬剤が、未反応タンパク質を減らすことにより、前記薬剤なしの組成物に比べて前記タンパク質クラスター形成の収量を増大させる、項目22に記載の組成物。
(項目24)
前記薬剤が、サイズが1000nmより大きいクラスターの形成を減らすことにより、前記薬剤なしの組成物に比べて前記タンパク質クラスター形成の収量を増大させる、項目22に記載の組成物。
(項目25)
前記治療用タンパク質単量体が、1種または複数のサイトカイン分子および/または1種または複数の共刺激性分子を含み、
(iii)前記1種または複数のサイトカイン分子は、IL15、IL2、IL7、IL10、IL12、IL18、IL21、IL-23、IL-4、IL1アルファ、IL1ベータ、IL-5、IFNガンマ、TNFa、IFNアルファ、IFNベータ、GM-CSF、またはGCSFから選択され、
(iv)前記1種または複数の共刺激性分子は、CD137、OX40、CD28、GITR、VISTA、抗CD40、またはCD3から選択される、
前記項目のいずれかに記載の組成物。
(項目26)
項目1から25のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、前記タンパク質クラスターを形成するために、前記複数の治療用タンパク質単量体を前記複数の架橋剤と反応させることを含む方法。
(項目27)
前記の反応させるステップが、約5℃~約40℃の間の温度で実施される、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記反応させるステップが、約1分間~約8時間実施される、項目26または27に記載の方法。
(項目29)
前記タンパク質クラスターに前記表面修飾を提供することをさらに含む、項目26から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記タンパク質クラスターを精製することをさらに含む、項目26から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
細胞療法組成物を調製する方法であって、
項目1から25のいずれか一項に記載の組成物を提供することと、
前記タンパク質クラスターを、T細胞やNK細胞などの有核細胞と共に、好ましくは約30~60分間インキュベートすることとを含む方法。
(項目32)
T細胞やNK細胞などの有核細胞と会合された、項目1から25のいずれか一項に記載の組成物を含む細胞療法組成物。
(項目33)
細胞療法を提供する方法であって、項目32に記載の細胞療法組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1A図1A~1Cは、例示的なバックパックならびにその作製および使用を図示する。
図1B図1A~1Cは、例示的なバックパックならびにその作製および使用を図示する。
図1C図1A~1Cは、例示的なバックパックならびにその作製および使用を図示する。
【0029】
図2図2は、ヒトT細胞へのIL-15バックパックの漸増可能な負荷を示す。
【0030】
図3図3は、IL-15バックパックの負荷が何人ものドナーで一貫し、正確であることを示す。
【0031】
図4図4は、標識された細胞からのIL-15バックパック放出が増大を推進することを示す。
【0032】
図5図5は、細胞と会合されたIL-15バックパックが、断続的な洗浄後、14日目の時点で、細胞増大を推進することを示す。
【0033】
図6AB図6A~6Cは、IL-15バックパックが、抗EGFR CARを発現するヒトCD3 T細胞の増大を推進することを示す。
図6C図6A~6Cは、IL-15バックパックが、抗EGFR CARを発現するヒトCD3 T細胞の増大を推進することを示す。
【0034】
図7A図7A~7Cは、インタクトな免疫系を有するC57B6マウスモデルにおける全身性IL15-FcとIL-15バックパックの対照的な効果を示す。
図7B図7A~7Cは、インタクトな免疫系を有するC57B6マウスモデルにおける全身性IL15-FcとIL-15バックパックの対照的な効果を示す。
図7C図7A~7Cは、インタクトな免疫系を有するC57B6マウスモデルにおける全身性IL15-FcとIL-15バックパックの対照的な効果を示す。
【0035】
図8A図8A~8Eは、プロセスが完了してからのCTLが収穫され、特徴付けられたことを示す。
図8B図8A~8Eは、プロセスが完了してからのCTLが収穫され、特徴付けられたことを示す。
図8C図8A~8Eは、プロセスが完了してからのCTLが収穫され、特徴付けられたことを示す。
図8DE図8A~8Eは、プロセスが完了してからのCTLが収穫され、特徴付けられたことを示す。
【0036】
図9図9は、投与後D1およびD4の時点のナイーブマウスにおける臨床化学パラメーターを示す。HBSS=ビヒクル対照、DP-15 PMEL=Deep IL-15プライミングPMEL細胞、D=日数。統計比較は、ANOVAに続き、テューキーの多重比較検定を使用して行った。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。
【0037】
図10図10は、投与後D1およびD4の時点の腫瘍保持マウスにおける臨床化学パラメーターを示す。HBSS=ビヒクル対照、DP-15 PMEL=Deep IL-15プライミングPMEL細胞、D=日数。統計比較は、ANOVAに続き、テューキーの多重比較検定を使用して行った。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001。
【0038】
図11図11は、ACTから24時間後の、腫瘍保持マウスにおける、ナイーブマウスと比較したIFN-γの血清レベルを示す。PMEL+IL15-Fc群におけるIFN-γの血清レベルは、ナイーブおよび腫瘍保持両方のマウスにおいて、PMELおよびDP-15 PMELの両群に比べて有意に増大した(2方向ANOVAとテューキーの多重比較、p<0.001)。ACT=養子細胞移入、DP-15 PMEL=Deep IL-15プライミングPMEL細胞。
【0039】
図12図12は、ナイーブおよび腫瘍保持マウスでの、PMEL+IL15-FcおよびDeep IL-15プライミングPMEL細胞で処置したマウスにおけるIL15-Fc全身曝露を示す。
【0040】
図13図13は、経時的および16日目の平均腫瘍体積を示す。腫瘍体積は、D -5、D -3、D0、D1、D2、D4、D6、D9、D10、D11、D14、およびD16に測定した。データは、平均±SEM(左のパネル)である。D16における個々の動物についての腫瘍体積を右のパネルに示す。統計比較は、ANOVAに続き、テューキーの多重比較検定を使用して行った。=p<0.05、**=p<0.01、***=p<0.001、****=p<0.0001。アステリスクの色によって、どの群に統計的な差があるかを示している。例えば、灰色の線(HBSS)の上の緑色のアステリスクは、HBSSとPMEL細胞とに有意差があることを示す。HBSS=ビヒクル対照、ACT=養子細胞移入。DP-15 PMEL=Deep IL-15プライミングPMEL細胞。
【0041】
図14図14は、屠殺時の平均腫瘍重量を示す(n=2~5/群/時点)。腫瘍重量は、1、4、10、および16日目における屠殺時のものとした(各時点n=2~5/群)。統計比較は、ANOVAに続き、テューキーの多重比較検定を使用して行った。=p<0.05、**=p<0.01、****=p<0.0001。HBSS=ビヒクル対照、DP-15 PMEL=Deep IL-15プライミングPMEL細胞。
【発明を実施するための形態】
【0042】
詳細な説明
養子T細胞療法を始めとするがん免疫療法は、対象自身の免疫系を活用してがん細胞を攻撃するため、有望ながん処置戦略である。それにもかかわらず、この手法の主要な限界は、移植されたTリンパ球の生存度および機能の低下が急速であることである。腫瘍において多数の生存可能な腫瘍特異的細胞傷害性Tリンパ球を維持するために、移入細胞とともに免疫刺激薬を共投与することが必要である。こうした薬剤は、高用量で全身投与されると、移入(すなわち、ドナー)細胞のin vivo生存度を高め、移入細胞の治療機能を向上させ、したがって、がんに対する有効性の全体としての向上につながり得るが、しかし、高用量のこのような薬剤は、生命を脅かす副作用ももたらしかねない。例えば、インターロイキン2(IL-2)のアジュバントとしての使用によって、黒色腫の養子T細胞療法は大いに支持され、IL-2は、移入T細胞に対する重要なアジュバントシグナルとなるが、重度の炎症性の用量制限毒性も惹起し、調節性T細胞(Treg)も増大させる。移入細胞に対するアジュバント活性に注目した一手法は、移入細胞を、自らの支持因子を分泌するように遺伝子操作することである。技術的な問題および課題に加えて、遺伝子操作されたTリンパ球を大量生産するには高い費用がかかるために、これまで、臨床応用におけるこの方法の可能性には大きな限界があった。
【0043】
本明細書では、一部の態様では、薬物、タンパク質(例えば、IL-2などのアジュバント)、または粒子などの生物活性薬剤の、細胞への簡便、安全、かつ効率的な送達を、タンパク質、薬物、または粒子が負荷された無担体リンカーを、細胞の形質膜に対して直接、化学的にコンジュゲートすることによって可能にする、技術プラットフォームが開示される。ある特定の実施形態では、そのような組成物を、「ナノゲル」、「ナノ粒子」、または「バックパック」と呼び、これらの用語を、本明細書では区別なく使用する。組成物は、細胞、例えば、有核細胞に負荷またはバックパック負荷することができる。負荷またはバックパック負荷する過程は、「プライミングする」ともいう。バックパック負荷またはプライミングされた細胞は、多くの治療用途をもちうる。例えば、バックパック負荷T細胞は、ACT(養子細胞療法)を始めとするT細胞療法において使用することができる。例えば、B細胞、腫瘍浸潤性リンパ球、NK細胞、抗原特異的CD8+T細胞、キメラ抗原受容体(CAR)を発現するように遺伝子操作されたT細胞もしくはCAR-T細胞、腫瘍抗原に特異的なT細胞受容体を発現するように遺伝子操作されたT細胞、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)、および/または抗原訓練T細胞(例えば、目的の抗原、例えば、腫瘍関連抗原(TAA)を示す抗原提示細胞(APC)によって「訓練」されているT細胞)を含めて、他の重要な免疫細胞型にも、バックパック負荷することができる。
【0044】
前述のものに加えて、本開示は、養子移入細胞に対するアジュバント効果以外の目的で他のタンパク質治療薬を含む他のナノ構造をさらに企図する。当業者なら、本開示が、本明細書で提供するより広い用途を有することを難なく認められよう。
【0045】
本開示の様々な態様は、単独で、組み合わせて、または前述した実施形態において詳細に論述していない様々な取合せで使用される場合があり、したがって、その用途を、前述の説明において明記し、または図面において示した構成要素の細目および取合せに限定しない。例えば、一実施形態に記載された態様を、他の実施形態に記載された態様といずれかの形で組み合わせてもよい。
【0046】
定義
便宜上、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において用いる一定の用語をここにまとめる。別段定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する分野の業者に一般に理解されているのと同じ意味を有する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は、1つまたは1つを上回る、例えば、少なくとも1つの、その冠詞の文法上の目的物を指す。本明細書において「含むこと(comprising)」という用語とともに使用される場合、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語の使用は、「1つ」を意味し得るが、これはまた、「1つまたは複数」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは1つを上回る」という意味とも一致する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「約」および「およそ」とは、概して、測定の性質または正確さを考慮した、測定された量の許容可能な誤差の程度を意味する。例示的な誤差の程度は、所与の値の範囲の20パーセント(%)以内であり、典型的には10%以内であり、より典型的には5%以内である。「実質的に」という用語は、50%を上回ることを意味し、好ましくは80%を上回ることを意味し、最も好ましくは90%または95%を上回ることを意味する。
【0049】
本明細書で使用される場合、「含むこと」または「含む」という用語は、所与の実施形態に存在する組成物、方法、およびそのそれぞれの構成要素(複数可)に関して使用されるが、指定されていないエレメントを含むことも周知である。
【0050】
本明細書で使用される場合、「から本質的になる」という用語は、所与の実施形態にそれらのエレメントが必要とされることを指す。この用語は、本開示のその実施形態の基本的かつ新規なまたは機能的な特徴(複数可)に実質的に影響を及ぼさない追加のエレメントの存在を許容する。
【0051】
「からなる」という用語は、実施形態のその説明において列挙されていないあらゆるエレメントを除外した、本明細書に記載される組成物、方法、およびそのそれぞれの構成要素を指す。
【0052】
本明細書で使用する場合、「複数の」とは、1より多数、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、もしくはより多数、例えば、25、30、40、50、60、70、80、90、100、200、300、400、500、もしくはより多数、またはこれらの間にあるいずれかの整数を意味する。
【0053】
本明細書で使用する用語「治療薬」、「治療剤」、「活性薬」、「活性薬剤」、「医薬活性剤」、「活性薬物」、または「薬物」とは、その薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、およびサッカリン酸塩)を含む、いずれかの活性医薬成分(「API」)に加えて、APIの無水、水和、および溶媒和形態、プロドラッグの形態、ならびに個々に光学活性を有する鏡像異性体であるもの、ならびにAPIの多形体を意味する。治療剤には、医薬学的、化学的、または生物学的薬剤が含まれる。加えて、医薬学的、化学的、または生物学的薬剤は、治療剤であるかどうかはいずれにせよ、所望の特性または効果を有するいずれかの薬剤を含み得る。例えば、薬剤には、診断用薬剤、殺生剤なども含まれる。
【0054】
「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書において、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指して互換可能に使用される。ポリマーは、直鎖であっても分枝鎖であってもよく、これは、修飾されたアミノ酸を含んでもよく、非アミノ酸によって中断されてもよい。これらの用語はまた、修飾されているアミノ酸ポリマー、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質付加、アセチル化、リン酸化、または任意の他の操作、例えば、標識化成分とのコンジュゲーションも包含する。ポリペプチドは、天然の源から単離することができるか、組換え技法によって、真核生物もしくは原核生物宿主から産生することができるか、または合成手順の産物であり得る。用語「タンパク質」は、融合またはキメラタンパク質、ならびにサイトカイン、抗体およびその抗原結合性断片を包含すると理解されるべきである。
【0055】
「抗体」または「抗体分子」とは、本明細書で使用される場合、少なくとも1つの免疫グロブリン可変ドメイン配列を含む、タンパク質、例えば、免疫グロブリン鎖またはその断片を指す。抗体分子は、抗体(例えば、全長抗体)および抗体断片を包含する。ある実施形態では、抗体分子は、全長抗体または全長免疫グロブリン鎖の抗原結合性断片または機能性断片を含む。例えば、全長抗体は、天然に存在するか、または通常の免疫グロブリン遺伝子断片組換えプロセスによって形成された、免疫グロブリン(Ig)分子(例えば、IgG)である)。いくつかの実施形態では、抗体分子は、免疫グロブリン分子、例えば、抗体断片の免疫学的に活性な抗原結合性部分を指す。抗体断片、例えば、機能性断片は、抗体の一部分、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、F(ab)、可変断片(Fv)、ドメイン抗体(dAb)、または一本鎖可変断片(scFv)である。機能性抗体断片は、インタクトな(例えば、全長)抗体によって認識されるものと同じ抗原に結合する。「抗体断片」または「機能性断片」という用語はまた、可変領域からなる単離された断片、例えば、重鎖および軽鎖の可変領域からなる「Fv」断片、または軽鎖および重鎖可変領域がペプチドリンカーによって接続された組換え一本鎖ポリペプチド分子(「scFvタンパク質」)も含む。一部の実施形態では、抗体断片は、抗原結合活性を有さない抗体の部分、例えば、Fc断片または単一アミノ酸残基を含まない。例示的な抗体分子としては、全長抗体および抗体断片、例えば、dAb(ドメイン抗体)、一本鎖、Fab、Fab’、およびF(ab’)断片、ならびに一本鎖可変断片(scFv)が挙げられる。「Fab」および「Fab断片」という用語は、互換可能に使用され、抗体のそれぞれの重鎖および軽鎖に由来する1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメイン、すなわち、V、C、V、およびC1を含む、領域を指す。
【0056】
いくつかの実施形態では、抗体分子は、単一特異性であり、例えば、これは、単一のエピトープに対する結合特異性を含む。一部の実施形態では、抗体分子は、多特異性であり、例えば、これは、複数の免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第1のエピトープに対する結合特異性を有し、第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第2のエピトープに対する結合特異性を有する。一部の実施形態では、抗体分子は、二特異性抗体分子である。「二特異性抗体分子」は、本明細書で使用される場合、1つを上回る(例えば、2つ、3つ、4つ、またはそれを上回る)エピトープおよび/または抗原に対する特異性を有する抗体分子を指す。
【0057】
「抗原」(Ag)は、本明細書で使用される場合、すべてのタンパク質またはペプチドを含む、巨大分子を指す。一部の実施形態では、抗原は、免疫応答を誘起することができる、例えば、ある特定の免疫細胞の活性化および/または抗体の生成に関与する、分子である。抗原は、抗体生成に関与するだけではない。T細胞受容体はまた、抗原を認識した(ペプチドまたはペプチド断片が、MHC分子と複合体形成した抗原ではあるとしても)。ほぼすべてのタンパク質またはペプチドを含む、任意の巨大分子が、抗原となり得る。抗原はまた、ゲノム組換え体またはDNAに由来し得る。例えば、免疫応答を誘起することができるタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分的ヌクレオチド配列を含む任意のDNAは、「抗原」をコードする。いくつかの実施形態では、抗原は、遺伝子の全長ヌクレオチド配列だけによってコードされる必要はなく、また、抗原は、遺伝子によってコードされる必要もまったくない。いくつかの実施形態では、抗原は、合成することができるか、または生体試料、例えば、組織試料、腫瘍試料、細胞、または他の生物学的成分を有する流体に由来し得る。本明細書で使用される場合、「腫瘍抗原」または互換可能に「がん抗原」には、免疫応答を誘起することができる、がん、例えば、がん細胞または腫瘍微小環境に存在するか、またはそれと関連する、任意の分子が含まれる。本明細書で使用される場合、「免疫細胞抗原」には、免疫応答を誘起することができる、免疫細胞に存在するか、または免疫細胞と関連する、任意の分子が含まれる。
【0058】
抗体分子の「抗原結合性部位」または「抗原結合性断片」または「抗原結合性部分」(本明細書において互換可能に使用される)は、抗原結合に関与する、抗体分子、例えば、免疫グロブリン(Ig)分子、例えば、IgGの一部を指す。一部の実施形態では、抗原結合性部位は、重鎖(H)および軽鎖(L)の可変(V)領域のアミノ酸残基によって形成される。重鎖および軽鎖の可変領域内の3つの高度に多様なストレッチは、超可変領域と称されており、より保存されている「フレームワーク領域」(FR)と呼ばれる隣接するストレッチの間に配置される。FRは、天然には、免疫グロブリンにおける超可変領域の間に、それに隣接して見出される、アミノ酸配列である。いくつかの実施形態では、抗体分子において、軽鎖の3つの超可変領域および重鎖の3つの超可変領域は、三次元空間において、互いに対して、結合される抗原の三次元表面に対して相補性となる抗原結合性表面を形成するように配置されている。重鎖および軽鎖のそれぞれの3つの超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」と称される。フレームワーク領域およびCDRは、例えば、Kabat, E.A., ら (1991) Sequences of Proteins of Immunological
Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242およびChothia, C. ら(1987) J. Mol. Biol. 196:901-917において定義および説明されている。それぞれの可変鎖(例えば、可変重鎖
および可変軽鎖)は、典型的に、3つのCDRおよび4つのFRから構成されており、アミノ末端からカルボキシ末端へのアミノ酸の順で、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4と配置されている。可変軽鎖(VL)CDRは、一般に、27~32位(CDR1)、50~56位(CDR2)、および91~97位(CDR3)の残基を含むと定義される。可変重鎖(VH)CDRは、一般に、27~33位(CDR1)、52~56位(CDR2)、および95~102位(CDR3)の残基を含むと定義される。当業者であれば、ループが、抗体にわたって異なる長さのものであってもよく、KabatまたはChotiaなどの番号付けシステムは、フレームワークが抗体にわたって一貫した番号付けを有するように制御することを理解するであろう。
【0059】
一部の実施形態では、抗体の抗原結合性断片(例えば、融合分子の一部として含まれる場合)は、全長Fcドメインが欠如していてもよく、またはそれを含まなくてもよい。ある特定の実施形態では、抗体結合性断片は、全長IgGまたは全長Fcを含まないが、軽鎖および/または重鎖に由来する1つまたは複数の定常領域(またはその断片)を含んでもよい。一部の実施形態では、抗原結合性断片は、あらゆるFcドメインを完全に含まなくてもよい。一部の実施形態では、抗原結合性断片は、全長Fcドメインを実質的に含まなくてもよい。一部の実施形態では、抗原結合性断片は、全長Fcドメインの一部分(例えば、CH2ドメインもしくはCH3ドメイン、またはその一部分)を含んでもよい。一部の実施形態では、抗原結合性断片は、全長Fcドメインを含んでもよい。一部の実施形態では、Fcドメインは、IgGドメイン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4 Fcドメインである。一部の実施形態では、Fcドメインは、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「サイトカイン」または「サイトカイン分子」は、天然に存在する野生型サイトカインの全長、断片、またはバリアント(天然に存在するサイトカイン分子の活性の少なくとも10%を有する、その断片および機能性バリアントを含む)を指す。いくつかの実施形態では、サイトカイン分子は、天然に存在する分子の活性、例えば、免疫調節活性の少なくとも30、50、または80%を有する。いくつかの実施形態では、サイトカイン分子は、必要に応じて免疫グロブリンFc領域にカップリングされた、受容体ドメイン、例えば、サイトカイン受容体ドメインをさらに含む。他の実施形態では、サイトカイン分子は、免疫グロブリンFc領域にカップリングされている。他の実施形態では、サイトカイン分子は、抗体分子(例えば、免疫グロブリンFabもしくはscFv断片、Fab断片、FAB断片、またはアフィボディ断片もしくは誘導体、例えば、sdAb(ナノボディ)断片、重鎖抗体断片、単一ドメイン抗体、二特異性もしくは多特異性抗体)、または非抗体スキャフォールドおよび抗体模倣体(例えば、リポカリン(例えば、アンチカリン)、アフィボディ、フィブロネクチン(例えば、モノボディもしくはアドネクチン)、ノッチン、アンキリンリピート(例えば、DARPin)、およびAドメイン(例えば、アビマー))にカップリングされている。
【0061】
本明細書で使用する場合、「投与する」および同様の用語は、処置を受ける個体に組成物を送達することを意味する。本開示の組成物は、例えば、皮下、筋肉内、または、好ましくは静脈内を含む非経口経路によって投与されることが好ましい。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「がん」および「がん性」とは、通常は、無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳動物における生理的状態を指す、または説明する。がんの例としては、限定はしないが、黒色腫、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、および白血病またはリンパ系腫瘍が挙げられる。がんのより詳細な例としては、有棘細胞がん(squamous cell cancer)(例えば、扁平上皮がん(epithelial squamous cell cancer))、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺の腺癌および肺の扁平上皮癌を含む肺がん、腹膜のがん、肝細胞がん、胃腸がんを含む胃がん(gastric or stomach cancer)、膵臓がん、神経膠芽腫、子宮頚がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がんまたは子宮癌、唾液腺癌、腎臓がんまたは腎がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝癌、肛門癌、陰茎癌、ならびに頭頸部がんが挙げられる。
【0063】
「有核細胞」とは、核を含んでいる細胞である。一部の実施形態では、有核細胞は、免疫細胞でありうる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「免疫細胞」は、免疫系において、例えば、感染因子および外来物に対して保護するように機能する、様々な細胞のうちのいずれかを指す。いくつかの実施形態では、この用語は、白血球、例えば、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、および単球を含む。「免疫細胞」という用語には、本明細書に記載される免疫エフェクター細胞が含まれる。「免疫細胞」はまた、免疫応答に関与する細胞の修飾されたバージョン、例えば、例としてKlingemannら(上記)に記載されるような、NK細胞系NK-92(ATCCカタログ番号CRL-2407)、haNK(高親和性Fc受容体FcγRIIIa(158V)を発現するNK-92バリアント)、およびtaNK(所与の腫瘍抗原に対するCARを発現する遺伝子をトランスフェクトした、標的化NK-92細胞)を含む、修飾されたNK細胞も指す。
【0065】
「免疫エフェクター細胞」は、この用語が本明細書で使用されるとき、免疫応答に関与する、例えば、免疫エフェクター応答の促進に関与する、細胞を指す。免疫エフェクター細胞の例としては、T細胞、例えば、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、アルファT細胞、ベータT細胞、ガンマT細胞、およびデルタT細胞;B細胞;ナチュラルキラー(NK)細胞;ナチュラルキラーT(NKT)細胞;樹状細胞;ならびにマスト細胞が挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、免疫細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)、例えば、がん抗原に結合するCARを含む、例えば、それを発現する、免疫細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)である。他の実施形態では、免疫細胞は、外因性高親和性Fc受容体を発現する。一部の実施形態では、免疫細胞は、操作されたT細胞受容体を含む、例えば、それを発現する。一部の実施形態では、免疫細胞は、腫瘍浸潤リンパ球である。一部の実施形態では、免疫細胞は、免疫細胞の集団を含み、腫瘍関連抗原(TAA)に対する特異性が富化された、例えば、目的のTAA、例えば、MART-1を表面に表すMHCに対する特異性を有するT細胞に関して選別することによって富化された、T細胞を含む。一部の実施形態では、免疫細胞は、免疫細胞の集団を含み、目的のTAAペプチドを表面に表す抗原提示細胞(APC)、例えば、樹状細胞によって、TAAに対する特異性を有するように「訓練」されている、T細胞を含む。一部の実施形態では、T細胞は、MART-1、MAGE-A4、NY-ESO-1、SSX2、サバイビンなどのうちの1つまたは複数から選択されるTAAに対して、訓練されている。一部の実施形態では、免疫細胞は、目的の複数のTAAペプチドを表面に表すAPC、例えば、樹状細胞によって、複数のTAAに対する特異性を有するように「訓練」されている、T細胞の集団を含む。一部の実施形態では、免疫細胞は、細胞傷害性T細胞(例えば、CD8+ T細胞)である。一部の実施形態では、免疫細胞は、ヘルパーT細胞、例えば、CD4+ T細胞である。
【0066】
「細胞傷害性Tリンパ球」(CTL)は、本明細書で使用される場合、標的細胞を殺滅する能力を有するT細胞を指す。CTL活性化は、次の2つのステップが生じたときに発生し得る:1)標的細胞における抗原結合MHC分子と、CTL上のT細胞受容体との間の相互作用がなされること、および2)T細胞における共刺激性分子と標的細胞との会合(engagement)により、共刺激性シグナルが生じること。CTLは、次いで、標的細胞における特定の抗原を認識し、例えば、細胞溶解によって、これらの標的細胞の破壊を誘導する。一部の実施形態では、CTLは、CARを発現する。一部の実施形態では、CTLは、操作されたT細胞受容体を発現する。
【0067】
本明細書で使用する場合、「有効量」とは、いずれかの医学的処置または診断試験を伴うことになるとき、妥当なリスク/利益比で所望の局所または全身作用をもたらすのに十分である、生理活性薬剤または診断用薬剤の量を意味する。これは、患者、疾患、なされる処置、および薬剤の性質に応じて様々となる。
【0068】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」は、全般に安全であり、非毒性であり、生物学的にも他の意味でも望ましい医薬組成物の調製において有用であるものを指すものとし、獣医学的な使用ならびにヒトへの医薬としての使用に許容されるものを包含する。「薬学的に許容される液体担体」の例としては、水および有機溶媒が挙げられる。薬学的に許容される好ましい水性の液体には、PBS、食塩水、およびデキストロース溶液などが含まれる。
【0069】
用語「処置」または「処置する」とは、(i)疾患または状態を予防する、すなわち、疾患または状態の臨床症状を現れなくすること、(ii)疾患または状態を抑制する、すなわち、臨床症状の進展を抑えること、および/または(iii)疾患または状態を軽減する、すなわち、臨床症状を退行させることを含む目的のために薬物を投与することを意味する。
【0070】
ある特定の化学基については、別段記載しない限り、以下の定義を使用する。遊離基、置換基、および範囲について以下で挙げる特定値および一般値は、例示するためのものにすぎず、遊離基および置換基についての他の規定値または規定範囲内にある他の値を除外しない。別段指摘しない限り、アルキル、アルコキシ、アルケニルなどは、直鎖状および分岐状の両方の基を示す。
【0071】
用語「アルキル」とは、示された数の炭素原子を含有している、直鎖でも分岐鎖でもよい飽和炭化水素鎖を指す。例えば、C1~6アルキルは、基が、その中に1~6(両端の数を含む)個の炭素原子を有する場合があることを示す。いずれかの原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。アルキル基の例としては、限定はせず、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、およびtert-ブチルが挙げられる。
【0072】
本明細書で言及する場合、用語「アルコキシ」とは、式-O(アルキル)の基を指す。アルコキシは、例えば、メトキシ(-OCH)、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、ペントキシ、2-ペントキシ、3-ペントキシ、またはヘキシルオキシである場合がある。本明細書で使用する場合、単独で、または他の用語と組み合わせて用いられる用語「ヒドロキシル」とは、式-OHの基を指す。
【0073】
用語「アルケニル」とは、示された数の炭素原子を含有しており、1つまたは複数の炭素-炭素二重結合を有する、直鎖状または分岐状の炭化水素鎖を指す。いずれかの原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。アルケニル基には、例えば、ビニル、アリル、1-ブテニル、および2-ヘキセニルが含まれ得る。二重結合炭素の1つが、必要に応じて、アルケニル置換基の付着点になってもよい。
【0074】
用語「アルキニル」とは、示された数の炭素原子を含有しており、1つまたは複数の炭素-炭素三重結合を有する、直鎖状または分岐状の炭化水素鎖を指す。アルキニル基は、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。アルキニル基には、例えば、エチニル、プロパルギル、および3-ヘキシニルが含まれ得る。三重結合炭素の1つが、必要に応じて、アルキニル置換基の付着点になってもよい。
【0075】
用語「ヘテロシクリル」とは、O、N(窒素原子価を満たす、かつ/または塩を形成するために、1個または2個の追加の基が存在する場合もあると理解される)、またはSから独立に選択される1個または複数の構成ヘテロ原子環原子を有する、完全に飽和した単環式、二環式、三環式、または他の多環式環系を指す。ヘテロ原子または環炭素は、ヘテロシクリル置換基の別の部分への付着点になる場合がある。いずれかの原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。ヘテロシクリル基には、例えば、テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、ピペリジル(ピペリジノ)、ピペラジニル、モルホリニル(モルホリノ)、ピロリニル、およびピロリジニルが含まれ得る。例として、「5~6個の環原子を含有しているヘテロ環であって、環原子の1~2個が、N、NH、N(C~Cアルキル)、NC(O)(C~Cアルキル)、O、およびSから独立に選択されており、前記ヘテロ環が、1~3個の独立に選択されるRで必要に応じて置換されている、ヘテロ環」という表現が、(限定はしないが)テトラヒドロフリル、テトラヒドロピラニル、ピペリジル(ピペリジノ)、ピペラジニル、モルホリニル(モルホリノ)、ピロリニル、およびピロリジニルを包含することになる。
【0076】
用語「シクロアルキル」とは、完全に飽和した単環式、二環式、三環式、または他の多環式炭化水素基を指す。いずれかの原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。環炭素が、シクロアルキル基の別の部分への付着点となる。シクロアルキル部分には、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、およびノルボルニル(ビシクロ[2.2.1]ヘプチル(bicycle[2.2.1]heptyl))が含まれ得る。
【0077】
用語「アリール」とは、芳香族の単環式、二環式(縮合した2つの環)、または三環式(縮合した3つの環)、または多環式(縮合した3つを超える環)の炭化水素環系を指す。1個または複数の環原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。アリール部分には、例えば、フェニルおよびナフチルが含まれる。
【0078】
用語「ヘテロアリール」とは、O、N(窒素原子価を満たす、かつ/または塩を形成するために、1個または2個の追加の基が存在する場合もあると理解される)、またはSから独立に選択される1個または複数のヘテロ原子環原子を有する、芳香族の単環式、二環式(縮合した2つの環)、三環式(縮合した3つの環)、または多環式(縮合した3つを超える環)の炭化水素基を指す。1個または複数の環原子が、例えば、1つまたは複数の置換基で、必要に応じて置換されていてもよい。ヘテロアリール基の例としては、限定はしないが、2H-ピロリル、3H-インドリル、4H-キノリジニル、アクリジニル、ベンゾ[b]チエニル、ベンゾチアゾリル、P-カルボリニル、カルバゾリル、クマリニル、クロメニル、シンノリニル、ジベンゾ[b,d]フラニル、フラザニル、フリル、イミダゾリル、イミジゾリル、インダゾリル、インドリル、イソベンゾフラニル、イソインドリル、イソキノリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、ナフチリジニル、オキサゾリル、ペリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナルサジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フタラジニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリル、キナゾリニル、キノリル、キノキサリニル、チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、トリアゾリル、およびキサンテニルが挙げられる。
【0079】
用語「置換基」とは、例えば、アルキル、ハロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、ヘテロシクロアルケニル、シクロアルケニル、アリール、またはヘテロアリール基において、その基のいずれかの原子の箇所で「置換」された基を指す。一態様では、基における置換基は、独立に、その置換基について示された、いずれか1つの単一の許容し得る原子もしくは原子群、または2つもしくはそれよりも多くの許容し得る原子もしくは原子群のいずれかの組合せである。別の態様では、置換基は、それ自体が、上記置換基のいずれか1つで置換されている場合がある。さらに、本明細書で使用する場合、「必要に応じて置換されている」という表現は、非置換(例えば、Hで置換されている)または置換を意味する。本明細書で使用する場合、用語「置換されている」とは、水素原子が取り除かれ、置換基で置き換えられていることを意味する。所与の原子の箇所における置換は、原子価によって限定されると理解される。
【0080】
本開示の様々な態様を、以下にさらに詳細に記載する。追加の定義は、本明細書全体にわたって記載されている。
【0081】
リンカー
一部の実施形態では、本開示の少なくとも1種の薬物、タンパク質、ポリマー、および/または粒子(ひとまとめにして「薬剤」)は、分解可能リンカーによって互いに可逆的に連結されて、生理的条件下で、リンカーが分解し、無傷の生物活性薬剤を放出するようになっている。ある実施形態では、タンパク質単量体をまとめて架橋して、複数のタンパク質単量体を含有したクラスターを形成することができる。他の実施形態では、様々な薬剤が、分解可能リンカーを介して官能基に連結されている。様々な実施形態では、薬剤は、以下に記載するとおり、可逆的に修飾または連結されている。
【0082】
「別の薬剤に可逆的に連結されている」薬剤とは、本明細書で使用する場合、分解可能リンカーを介して、別の薬物、タンパク質、ポリマー、または粒子に付着している(例えば、共有結合によって付着している)薬物、タンパク質、ポリマー、または粒子を指す。
【0083】
「官能基に可逆的に連結されている」薬剤、または「可逆的に修飾されている」薬剤とは、本明細書では、分解可能リンカーを介して官能基に付着している(例えば、共有結合によって付着している)薬剤を指す。このような薬剤を、本明細書では、「薬剤コンジュゲート」または「可逆的に修飾された薬剤コンジュゲート」と呼ぶ場合があり、これらの用語を、本明細書では区別なく使用する場合がある。タンパク質およびポリマー(例えば、ポリエチレングリコール)それぞれが、可逆性リンカーを介して薬剤を連結することのできる官能基、例えば、アミン、シラン、ヒドロキシル、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ乳酸、ポリ(乳-co-グリコール酸)などを含有しているものと理解されるべきである。本明細書で提供する薬剤コンジュゲートおよび可逆的に修飾されたタンパク質の例としては、限定はせず、別の薬剤に(例えば、分解可能リンカーを介して)可逆的に連結された薬剤、ポリマーに可逆的に連結された薬剤、および別の官能基に可逆的に連結されたタンパク質が挙げられる。用語「タンパク質」は、融合タンパク質を包含すると理解されるべきである。
【0084】
一部の実施形態では、架橋剤は、A-B-Cの式を有し、Bは、任意であり、Aは、構造テンプレートを表し、Bは、ポリマースペーサーを表し、Cは、加水分解可能な連結と、求核性基と反応しうる官能基とを表す。
一部の例では、Aは、ジオール、トリオール、テトラオール、ポリオール、ジチオール、トリチオール、テトラチオール、ポリチオール、ジアミン、トリアミン、テトラアミン、またはポリアミンから選択される。一部の実施形態では、Bは、ポリエチレングリコール、糖、ポリオール、ポリエーテル、ポリチオエーテル、ポリアミン、ポリエステル、アルカン、フェニル、またはアミノ酸から選択される場合がある。一部の実施形態では、Cは、式(Ia)を有しうる。
【化11】

式中、
LGは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから選択される脱離基であり、
は、OおよびSから選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、任意であり、
【化12】

が生分解性であるようなリンカーであり、
mは、1~6から選択される整数、好ましくは、2である。
【0085】
本開示に従って使用される分解可能リンカーの一例は、式(I)で表される。
【化13】

式中、
LGおよびLGは、それぞれ、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドから独立に選択されることが好ましい脱離基であり、
およびYは、OおよびSからそれぞれ独立に選択され、
Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択され、
Lは、
【化14】

が生分解性であるような連結であり、
mは、出現する毎に、1~6から選択される整数である。
【0086】
一部の実施形態では、式(I)で表される架橋剤は、Lにおいて対称である。例えば、LGとLGは、同じでよい。YとYは、同じでよい。
【0087】
様々な実施形態では、LGおよびLGは、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応可能な場合がある。LGおよびLGは、両方をイミダゾリドにすることができる。別の例では、LGおよびLGは、両方ともN-ヒドロキシスクシンイミドである。
【0088】
ある特定の実施形態では、
【化15】

は、加水分解可能である。Lは、
(a)-(CH-[式中、nは、0~5から選択される整数である]、
(b)
【化16】

[式中、nは、0~5から選択される整数である]、または
(c)
【化17】

[式中、Xは、出現する毎に、O、S、およびNから独立に選択される]
から選択することができる。
【0089】
本開示に従って使用される分解可能リンカーの別の例は、式(II)で表される。
【化18】

式中、
およびXは、トリフレート、トシル、Cl、N-ヒドロキシスクシンイミド、およびイミダゾリドからそれぞれ独立に選択され、
およびAは、それぞれ独立に、-(CR-であり、
は、-(CR-であり、
およびYは、NR、O、およびSからそれぞれ独立に選択され、
およびRは、出現する毎に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;ならびに1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから独立に選択され、
は、水素、C1~12アルキル、C2~12アルケニル、C3~12シクロアルキル、C2~12ヘテロシクリル;1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC6~12アリール;ならびに1つまたは複数のハロ、ヒドロキシル、C1~6アルキル、および/またはC1~6アルコキシルで必要に応じて置換されているC4~12ヘテロアリールから選択され、
nは、出現する毎に、1~12から独立に選択される整数であり、
mは、0~12から選択される整数である。
【0090】
一部の実施形態では、式(II)で表される架橋剤は、対称である。
【0091】
一部の実施形態では、XおよびXは、それぞれ、タンパク質、薬物、および/または粒子と反応可能な脱離基である。ある特定の実施形態では、XおよびXは、両方ともイミダゾリドまたはN-ヒドロキシスクシンイミドである。
【0092】
一部の実施形態では、RおよびRは、両方とも水素である。
【0093】
一部の実施形態では、AおよびAは、両方とも-(CH-である。
【0094】
ある特定の実施形態では、Aは、-(CH-である。
【0095】
一部の実施形態では、YおよびYは、両方ともOである。
【0096】
一部の実施形態では、架橋剤は、
【化19】

である。
【0097】
一部の実施形態では、Aは、結合である。ある特定の実施形態では、YおよびYは、両方ともNHである。
【0098】
一部の実施形態では、架橋剤は、
【化20】

である。
【0099】
モノマー
本開示に従って使用されるタンパク質単量体の例としては、限定はせず、抗体(例えば、IgG、Fab、混合FcおよびFab)、単鎖抗体、抗体断片、Fc融合体などの操作されたタンパク質、酵素、補因子、受容体、リガンド、転写因子および他の調節因子、サイトカイン、ケモカイン、ヒト血清アルブミンなどが挙げられる。これらのタンパク質は、自然に存在するものでも、自然に存在しないものでもよい。他のタンパク質も企図され、本開示に従って使用される場合がある。いずれのタンパク質も、例えば、すべて参照により本明細書に組み込まれる、米国公開第2017/0080104号、米国特許第9,603,944号、米国公開第2014/0081012号、および2017年6月13日に出願されたPCT出願第PCT/US17/37249号において開示されているようなクラスターまたはナノゲル構造が形成されるように、架橋によって可逆的に修飾することができる。
【0100】
種々の実施形態において、治療用タンパク質単量体は、本明細書で開示する1種または複数の架橋剤を使用して架橋することができる。治療用タンパク質単量体は、1種または複数のサイトカイン分子および/または1種または複数の共刺激性分子を含む場合がある。サイトカイン分子は、IL-15、IL-2、IL-7、IL-10、IL-12、IL-18、IL-21、IL-23、IL-4、IL1アルファ、IL1ベータ、IL-5、IFNガンマ、TNFa、IFNアルファ、IFNベータ、GM-CSF、またはGCSFから選択することができる。共刺激性分子は、CD137、OX40、CD28、GITR、VISTA、抗CD40、またはCD3から選択される。
【0101】
一部の実施形態では、本開示のタンパク質単量体は、免疫刺激性タンパク質である。本明細書で使用する場合、免疫刺激性タンパク質とは、単独であろうと、別のタンパク質または薬剤と組み合わせられていようと、それが投与されている対象において、免疫応答を刺激する(既存の免疫応答を増強することを含む)タンパク質である。本開示に従って使用することのできる免疫刺激性タンパク質の例としては、限定はせず、抗原、アジュバント(例えば、フラジェリン、ムラミルジペプチド)、インターロイキンを始めとするサイトカイン(例えば、IL-2、IL-7、IL-15、IL-10、IL-18、IL-21、IL-23(またはこれらサイトカインのスーパーアゴニスト/変異体形態、例えば、IL-15SA)、IL-12、IFN-ガンマ、IFN-アルファ、GM-CSF、FLT3-リガンド)、および免疫刺激性抗体(例えば、抗CTLA-4、抗CD28、抗CD3、またはこれら分子の単鎖/抗体断片)が挙げられる。他の免疫刺激性タンパク質も企図され、本開示に従って使用される場合がある。一部の実施形態では、免疫刺激性タンパク質は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるUS2016/0184399に記載されているような、免疫抑制因子の阻害剤、例えば、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3、CTLA-4、阻害性KIR、CD276、VTCN1、BTLA/HVEM、HAVCR2、およびADORA2Aなどのチェックポイント阻害剤の阻害剤と結合する、抗体またはその抗原結合性断片でよい。
【0102】
一部の実施形態では、本開示のタンパク質単量体は、抗原である。本開示に従って使用することのできる抗原の例としては、限定はせず、がん抗原、自己抗原、微生物抗原、アレルゲン、および環境抗原が挙げられる。他のタンパク質抗原も企図され、本開示に従って使用される場合がある。
【0103】
一部の実施形態では、本開示のタンパク質は、がん抗原である。がん抗原は、がん細胞によって優先して発現される(すなわち、がん細胞において非がん細胞より高いレベルで発現される)抗原であり、一部の場合では、がん抗原は、専らがん細胞によって発現される。がん抗原は、がん細胞内で発現される場合もあり、またはがん細胞の表面上に発現される場合もある。本開示に従って使用することのできるがん抗原には、限定はせず、MART-1/Melan-A、gp100、アデノシンデアミナーゼ結合性タンパク質(ADAbp)、FAP、シクロフィリンb、結腸直腸関連抗原(CRC)-0017-1A/GA733、癌胎児性抗原(CEA)、CAP-1、CAP-2、etv6、AML1、前立腺特異的抗原(PSA)、PSA-1、PSA-2、PSA-3、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、T細胞受容体/CD3-ゼータ鎖、およびCD20が含まれる。がん抗原は、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、MAGE-A12、MAGE-Xp2(MAGE-B2)、MAGE-Xp3(MAGE-B3)、MAGE-Xp4(MAGE-B4)、MAGE-C1、MAGE-C2、MAGE-C3、MAGE-C4、およびMAGE-C5からなる群から選択される場合がある。がん抗原は、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7、GAGE-8、およびGAGE-9からなる群から選択される場合がある。がん抗原は、BAGE、RAGE、LAGE-1、NAG、GnT-V、MUM-1、CDK4、チロシナーゼ、p53、MUCファミリー、HER2/neu、p21ras、RCAS1、α-フェトプロテイン、E-カドヘリン、α-カテニン、β-カテニン、γ-カテニン、p120ctn、gp100Pmel117、PRAME、NY-ESO-1、cdc27、大腸腺腫症タンパク質(APC)、フォドリン、コネキシン37、Ig-イディオタイプ、p15、gp75、GM2ガングリオシド、GD2ガングリオシド、ヒトパピローマウイルスタンパク質、Smadファミリーの腫瘍抗原、Imp-1、P1A、EBVによってコードされる核内抗原(EBNA)-1、脳グリコーゲンホスホリラーゼ、SSX-1、SSX-2(HOM-MEL-40)、SSX-1、SSX-4、SSX-5、SCP-1およびCT-7、CD20、およびc-erbB-2からなる群から選択される場合がある。他のがん抗原も企図され、本開示に従って使用される場合がある。
【0104】
一部の実施形態では、本開示のタンパク質は、限定はせず、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、アレムツズマブ(CAMPATH(登録商標)、B細胞慢性リンパ球性白血病を適応症とする)、ゲムツズマブ(MYLOTARG(登録商標)、hP67.6、抗CD33、急性骨髄性白血病などの白血病を適応症とする)、リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))、トシツモマブ(BEXXAR(登録商標)、抗CD20、B細胞悪性腫瘍を適応症とする)、MDX-210(HER-2/neu癌遺伝子タンパク質産物と免疫グロブリンG(IgG)のI型Fc受容体(FcガンマRI)に同時に結合する二特異性抗体)、オレゴボマブ(OVAREX(登録商標)、卵巣がんを適応症とする)、エドレコロマブ(PANOREX(登録商標))、ダクリズマブ(ZENAPAX(登録商標))、パリビズマブ(SYNAGIS(登録商標)、RSV感染症などの呼吸状態を適応症とする)、イブリツモマブチウキセタン(ZEVALIN(登録商標)、非ホジキンリンパ腫を適応症とする)、セツキシマブ(ERBITUX(登録商標))、MDX-447、MDX-22、MDX-220(抗TAG-72)、IOR-05、IOR-T6(抗CD1)、IOR
EGF/R3、セロゴバブ(celogovab)(ONCOSCINT(登録商標)OV103)、エプラツズマブ(LYMPHOCIDE(登録商標))、ペムツモマブ(pemtumomab)(THERAGYN(登録商標))、およびグリオマブ-H(Gliomab-H)(脳がん、黒色腫を適応症とする)を始めとする抗体または抗体断片である。他の抗体および抗体断片も企図され、本開示に従って使用される場合がある。
【0105】
タンパク質は、いずれかの末端または内部求核性基、例えば、-NH官能基(例えば、リシンの側鎖)を介して、分解可能リンカーに連結(例えば、共有結合連結)することができる。例えば、分解可能リンカーによるタンパク質の互いとの可逆的な共有結合架橋を可能にする条件下で、タンパク質を分解可能リンカーと接触させることができる。一部の実施形態では、タンパク質は、架橋されて、複数のタンパク質ナノゲルを形成する場合がある。一部の実施形態では、条件は、水性緩衝液中にて、4℃~25℃の温度で、タンパク質を分解可能リンカーと接触させることを含む。一部の実施形態では、接触させるステップは、水性緩衝液中で30分~1時間実施することができる。一部の実施形態では、水性緩衝液は、リン酸緩衝食塩水(PBS)を含む。一部の実施形態では、水性緩衝液中のタンパク質の濃度は、10mg/mL~50mg/mL(例えば、10、15、20、25、30、35、40、45、または50mg/mL)である。
【0106】
サイトカイン
本明細書に記載の方法および組成物、例えば、リンカー化合物は、1種または複数のサイトカイン分子の架橋に使用することができる。いくつかの実施形態では、サイトカイン分子は、サイトカインの全長、断片、またはバリアント、例えば、1つまたは複数の突然変異を含むサイトカインである。一部の実施形態では、サイトカイン分子は、インターロイキン1アルファ(IL-1アルファ)、インターロイキン1ベータ(IL-1ベータ)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン15(IL-15)、インターロイキン17(IL-17)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン21(IL-21)、インターロイキン23(IL-23)、インターフェロン(IFN)アルファ、IFNベータ、IFNガンマ、腫瘍壊死アルファ、GM-CSF、GCSF、またはこれらの断片もしくはバリアント、または前述のサイトカインのいずれかの組合せから選択されるサイトカインを含む。他の実施形態では、サイトカイン分子は、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン12(IL-12)、インターロイキン15(IL-15)、インターロイキン18(IL-18)、インターロイキン21(IL-21)、インターロイキン23(IL-23)、もしくはインターフェロンガンマ、またはこれらの断片もしくはバリアント、または前述のサイトカインのいずれかの組合せから選択される。サイトカイン分子は、単量体または二量体である場合がある。
【0107】
実施形態では、サイトカイン分子は、受容体ドメイン、例えば、サイトカイン受容体ドメインをさらに含む。一実施形態では、サイトカイン分子は、IL-15受容体、または本明細書に記載されるようなその断片(例えば、IL-15受容体アルファの細胞外IL-15結合ドメイン)を含む。一部の実施形態では、サイトカイン分子は、IL-15分子、例えば、IL-15または本明細書に記載されるようなIL-15スーパーアゴニストである。本明細書で使用される場合、サイトカイン分子の「スーパーアゴニスト」形態は、天然に存在するサイトカインと比較して、例えば少なくとも10%、20%、30%、増加された活性を示す。例示的スーパーアゴニストは、IL-15 SAである。一部の実施形態では、IL-15 SAは、IL-15と、IL-15受容体、例えばIL-15受容体アルファのIL-15結合断片との、または例えば本明細書に記載されているような、そのIL-15結合断片との複合体を含む。
【0108】
他の実施形態では、サイトカイン分子は、抗体分子、例えば、免疫グロブリンFabもしくscFv断片、Fab断片、FAB断片、またはアフィボディ断片もしくは誘導体、例えば、sdAb(ナノボディ)断片、重鎖抗体断片、例えば、Fc領域、単ドメイン抗体、二特異性もしくは多特異性抗体)をさらに含む。一実施形態では、サイトカイン分子は、免疫グロブリンFcまたはFabをさらに含む。
【0109】
一部の実施形態では、サイトカイン分子は、IL-2分子、例えば、IL-2またはIL-2-Fcである。他の実施形態では、本明細書で開示する方法および組成物においてサイトカインアゴニストを使用する場合がある。いくつかの実施形態では、サイトカインアゴニストは、自然に存在するサイトカインの少なくとも1つの活性を惹起する、サイトカイン受容体のアゴニスト、例えば、サイトカイン受容体に対する抗体分子(例えば、アゴニスト性抗体)である。いくつかの実施形態では、サイトカインアゴニストは、サイトカイン受容体のアゴニスト、例えば、IL-15RaまたはIL-21Rから選択されるサイトカイン受容体に対する抗体分子(例えば、アゴニスト性抗体)である。
【0110】
一部の実施形態では、サイトカイン分子は、IL-15分子、例えば、IL-15、例えばヒトIL-15の全長、断片、またはバリアントである。いくつかの実施形態では、IL-15分子は、野生型ヒトIL-15である。他の実施形態では、IL-15分子は、例えば、1つまたは複数のアミノ酸修飾を有する、ヒトIL-5のバリアントである。一部の実施形態では、IL-15分子は、突然変異、例えば、N72D点突然変異を含む。
【0111】
他の実施形態では、サイトカイン分子は、免疫グロブリンFcまたは抗体分子と必要に応じてカップリングされている、受容体ドメイン、例えば、IL-15Rアルファの細胞外ドメインを、さらに含む。実施形態では、サイトカイン分子は、WO2010/059253に記載されているような、IL-15スーパーアゴニスト(IL-15SA)である。一部の実施形態では、サイトカイン分子は、IL-15と、例えば、Rubinsteinら PNAS 103:24 p. 9166-9171 (2006)に記載されているような、Fcに融合された可溶
性IL-15受容体アルファドメイン(例えば、sIL-15Ra-Fc融合タンパク質)とを含む。
【0112】
IL-15分子は、ポリペプチド、例えば、サイトカイン受容体、例えばサイトカイン受容体ドメイン、および第2の異種ドメインをさらに含むことができる。一実施形態では、異種ドメインは、免疫グロブリンFc領域である。他の実施形態では、異種ドメインは、抗体分子、例えば、Fab断片、Fab断片、scFv断片、またはアフィボディ断片もしくは誘導体、例えばsdAb(ナノボディ)断片、重鎖抗体断片である。一部の実施形態では、ポリペプチドは、第3の異種ドメインも含む。一部の実施形態では、サイトカイン受容体ドメインは、第2のドメインのN末端にあり、他の実施形態では、サイトカイン受容体ドメインは、第2のドメインのC末端にある。
【0113】
ある特定のサイトカインおよび抗体は、例えば、米国公開第2017/0080104号、米国特許第9,603,944号、米国公開第2014/0081012号、およびPCT出願第PCT/US2017/037249号(それぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において開示されている。
【0114】
一部の実施形態では、サイトカインまたは他の免疫調節物質(immunemodulators)は、PCT出願第PCT/US2018/040777号、同第PCT/US18/40783号、および同第PCT/US18/40786号(それぞれ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)において開示されているものなどの融合タンパク質として、(例えば、免疫細胞上の)受容体を標的とすることができる。
【0115】
バックパックおよび細胞療法
図1Aに示すとおり、本明細書で開示する1種または複数の架橋剤を使用して様々な治療用タンパク質単量体を架橋することにより、バックパックまたはナノ粒子を調製することができる。この図は、ジスルフィドを含有したリンカーを示しているが、本明細書で開示する他の生分解可能リンカーを使用してもよい。
【0116】
ある特定の実施形態では、バックパックは、複数の治療用タンパク質単量体を複数の架橋剤と反応させて、例えば直径約30nm~1000nmのサイズを有するタンパク質クラスターを形成することにより調製できる。一部の実施形態では、反応は、約5℃~約40℃の間の温度で実施することができる。反応は、約1分間~約8時間実施することができる。
【0117】
タンパク質クラスターには、ポリカチオンなどの表面修飾を施すことができる。ある特定の表面修飾が、どちらも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国公開第2017/0080104号および米国特許第9,603,944号において開示されている。例として、ポリリシン(ポリK)、PEG-ポリK、およびポリアルギニンが挙げられる。
【0118】
一部の実施形態では、架橋反応は、ポリエチレングリコール(PEG)やトリグリセリドなどの1種または複数のクラウディング剤の存在下で進めることができる。例示的なPEGとしては、PEG400、PEG1000、PEG1500、PEG2000、PEG3000、およびPEG4000が挙げられる。
【0119】
ある特定のタンパク質溶解助剤、例えば、グリセロール、エチレングリコール、およびプロピレングリコール、ソルビトール、ならびにマンニトールによっても、バックパック製剤の収率は向上し得る。
【0120】
ある特定の実施形態では、ある特定の本発明の架橋剤によって、バックパックにおけるカチオン性リシン残基の反応のせいで、細胞付着を阻害する正味の負電荷を有するバックパックが生じる。そのため、バックパックを、静電相互作用によって、まずポリカチオンと複合化して、細胞付着の推進力とすることが有用となり得る。例えば、バックパックは、ポリリシン(ポリ-L-リシン)、ポリエチレンイミン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリブレン、および/またはDEAE-デキストランなどのポリカチオンでコーティングまたは表面修飾することができる。ポリカチオンは、バックパックが、負に帯電している細胞膜に非特異的に結合または吸着する助けとなり得る。一部の実施形態では、混合溶液中に含有させるポリカチオンを、カチオン性の基またはカチオン性の基になり得る基を有する高分子化合物にすることができ、遊離ポリカチオンの水溶液は、塩基性を示す。カチオン性の基になり得る基の例としては、アミノ基、イミノ基などが挙げられる。ポリカチオンの例としては、ポリアミノ酸、例えば、ポリリシン、ポリオルニチン、ポリヒスチジン、ポリアルギニン、ポリトリプトファン、ポリ-2,4-ジアミノ酪酸、ポリ-2,3-ジアミノプロピオン酸、プロタミン、ならびにリシン、ヒスチジン、アルギニン、トリプトファン、オルニチン、2,4-ジアミノ酪酸、および2,3-ジアミノプロピオン酸からなる群から選択される少なくとも1つまたは複数の種類のアミノ酸残基をポリペプチド鎖中に有するポリペプチド;ポリアミン、たとえば、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、アリルアミンとジアリルアミンのコポリマー、およびポリジアリルアミン;ならびにポリエチレンイミンなどのポリイミンが挙げられる。
【0121】
一部の実施形態では、細胞へのバックパック接着を促進するのに使用するポリカチオンコーティングまたは表面修飾剤は、PEG-ポリリシンのカチオン性ブロックコポリマー、例えば、[メトキシ-ポリ(エチレングリコール)n-ブロック-ポリ(L-リシン塩酸塩),PEG-ポリリシン](PK30)である。このブロックコポリマーは、およそ114のPEG単位(MWおよそ5000Da)と30のリシン単位(MWおよそ4900Da)とを含有したものでよい。線状PEGポリマーは、メトキシ末端基を有し、ポリリシンは、塩酸塩形態である。PK30は、ポリ(L-リシン塩酸塩)ブロックと、非反応性のPEGブロックとを有する線状の両親媒性ブロックコポリマーである。ポリ-L-リシンブロックは、生理的pHで正味のカチオン電荷を提供し、会合後、バックパックに正味の正電荷を付与する。PK30構造[メトキシ-ポリ(エチレングリコール)n-ブロック-ポリ(L-リシン塩酸塩)]は、次のとおりである。
【化21】
【0122】
一部の実施形態では、バックパックが免疫細胞に特異的に導かれるよう、バックパックを、免疫細胞の表面上にある受容体に結合する抗体またはその抗原結合性断片でコーティングすることができる。例示的な抗体としては、本明細書で開示するもの、またはそれを含有した融合タンパク質が挙げられる。
【0123】
一例では、図1Bに示すとおり、「IL15-Fc」(会合した2つのIL-15タンパク質を有するIL15Ra-スシドメイン-Fc融合ホモ二量体タンパク質)単量体に架橋およびポリカチオンによる表面修飾を施して、IL-15バックパックを形成することができる。次いで、IL-15バックパックをT細胞などの免疫細胞に負荷して、プライミングされたT細胞を形成することができる。
【0124】
一部の実施形態では、図1Cに示すように、バックパックは、一度調製され、精製されたなら、細胞療法において使用するまで、必要に応じて凍結させてもよい。細胞療法は、例えば、養子細胞療法、CAR-T細胞療法、改変TCR T細胞療法、腫瘍浸潤性リンパ球療法、抗原訓練T細胞療法、または富化抗原(enriched antigen)特異的T細胞療法から選択することができる。
【0125】
種々の実施形態において、細胞療法組成物は、本明細書で開示するタンパク質クラスターまたはバックパック組成物を提供し、タンパク質クラスターまたはバックパック組成物を、免疫細胞などの有核細胞と共に、好ましくは約30~60分間インキュベートすることにより調製できる。細胞は、例えば注入によって患者に投与されるまで、バックパックと共に凍結保存することができる。
【0126】
本明細書では、T細胞やNK細胞などの有核細胞と会合された、本明細書で開示するタンパク質クラスターまたはバックパック組成物を含む細胞療法組成物も開示される。このような細胞療法組成物を、それを必要とする対象に投与することができる。投与されると、架橋剤は、生理的条件下で分解されて、タンパク質クラスターから治療用タンパク質単量体を放出しうる。
【0127】
バックパックを含む、医薬組成物を含む、組成物が、本明細書において提供される。薬学的に許容される量で、薬学的に許容される組成で、組成物を製剤化することができる。用語「薬学的に許容される」は、活性成分(例えば、ナノ粒子の生物活性タンパク質)の生物活性の有効性に干渉しない非毒性の材料を意味する。そのような組成物は、一部の実施形態では、塩、緩衝剤、保存剤、および必要に応じて他の治療剤を含有することがある。医薬組成物は、一部の実施形態では、好適な保存剤を含有することもある。医薬組成物を、一部の実施形態では、単位剤形で提供することができ、薬学技術分野において周知の方法のいずれかにより調製することができる。非経口投与に好適な医薬組成物は、一部の実施形態では、ナノ粒子の滅菌水性または非水性調製物であって、一部の実施形態ではレシピエント対象の血液と等張性である、調製物を含む。この調製物は、公知の方法に従って製剤化することができる。滅菌注射用調製物は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の滅菌注射用溶液または懸濁液であることもある。
【0128】
バックパックおよびそれを含有する組成物は、例えば、がん、自己免疫疾患、および感染性疾患の処置を始めとする、数多くの治療実用性を有する。本明細書に記載の方法は、本明細書に記載するとおりのバックパックまたはバックパック負荷細胞を使用することにより、対象においてがんを処置することを含む。対象におけるがんの症状を軽減または改善する方法、ならびにがんの成長を阻害するおよび/または1つもしくは複数のがん細胞を死滅させる方法も、提供される。実施形態では、本明細書に記載される方法は、本明細書に記載されるものまたは本明細書に記載される医薬組成物が投与された対象において、腫瘍のサイズを低下させ、および/またはがん細胞の数を減少させる。
【0129】
実施形態では、がんは、血液がんである。実施形態では、血液がんは、白血病またはリンパ腫である。本明細書で使用される場合、「血液がん」は、造血組織またはリンパ系組織の腫瘍、例えば、血液、骨髄またはリンパ節に影響を及ぼす腫瘍を指す。例示的な血液悪性疾患としては、白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、ヘアリー細胞白血病、急性単球性白血病(AMoL)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、もしくは大顆粒リンパ球性白血病)、リンパ腫(例えば、AIDS関連リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫(例えば、古典的ホジキンリンパ腫もしくは結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫)、菌状息肉症、非ホジキンリンパ腫(例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫(例えば、バーキットリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫(CLL/SLL)、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫、濾胞性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、もしくはマントル細胞リンパ腫)もしくはT細胞非ホジキンリンパ腫(菌状息肉症、未分化大細胞型リンパ腫、もしくは前駆Tリンパ芽球性リンパ腫))、中枢神経系原発リンパ腫、セザリー症候群、ワルデンストレームマクログロブリン血症)、慢性骨髄増殖性新生物、ランゲルハンス細胞組織球症、多発性骨髄腫/形質細胞新生物、骨髄異形成症候群、または骨髄異形成/骨髄増殖性新生物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0130】
実施形態では、がんは、固形がんである。例示的な固形がんとしては、卵巣がん、直腸がん、胃がん、精巣がん、肛門部のがん、子宮がん、結腸がん、直腸がん、腎細胞癌、肝臓がん、肺の非小細胞癌、小腸のがん、食道のがん、黒色腫、カポジ肉腫、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部のがん、皮膚もしくは眼内悪性黒色腫、子宮がん、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、類表皮がん、子宮頚部の癌、扁平上皮がん、卵管の癌、子宮内膜の癌、膣の癌、軟部組織の肉腫、尿道のがん、外陰部の癌、陰茎のがん、膀胱のがん、腎臓もしくは尿管のがん、腎盂の癌、脊髄軸腫瘍、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、前記がんの転移性病変、またはこれらの組合せが挙げれるが、それらに限定されない。
【0131】
実施形態では、バックパックまたはバックパックされた細胞は、処置または予防すべき疾患に適切な方法で投与される。投与の量および頻度は、患者の状態ならびに患者の疾患のタイプおよび重症度といった因子によって決定される。適切な投薬量は、臨床試験によって決定されうる。例えば、「有効量」または「治療量」が示されている場合、投与される医薬組成物(またはバックパック)の正確な量は、腫瘍サイズ、感染または転移の程度、対象の年齢、体重および状態の個体差を考慮して医師により決定されうる。実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物を、体重1kg当たり細胞10~10個、例えば体重1kg当たり細胞10~10個(これらの範囲内のすべての整数値を含む)の投薬量で、投与することができる。実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物を、これらの投薬量で複数回、投与することができる。実施形態では、本明細書に記載される医薬組成物を、免疫療法に関して記載された注入技法(例えば、Rosenbergら, New Eng. J. of Med.319:1676, 1988を参照されたい)を使用して投与することができる。
【0132】
実施形態では、バックパックまたはバックパックされた細胞は、対象に非経口投与される。実施形態では、細胞は、対象に静脈内、皮下、腫瘍内、結節内、筋肉内、皮内または腹腔内投与される。実施形態では、細胞は、直接、腫瘍またはリンパ節に投与、例えば、注射される。実施形態では、細胞は、輸液(例えば、Rosenbergら, New Eng. J. of
Med.319:1676, 1988に記載されているとおり)または静注内プッシュとして投与され
る。実施形態では、細胞は、注射用デポー製剤として投与される。
実施形態では、対象は、哺乳動物である。実施形態では、対象は、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、ラットまたはマウスである。実施形態では、対象は、ヒトである。実施形態では、対象は、小児対象であり、例えば、18歳未満、例えば、17歳未満、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1歳またはそれ未満である。実施形態では、対象は、成体、例えば、少なくとも18歳、例えば、少なくとも19、20、21、22、23、24、25、25~30、30~35、35~40、40~50、50~60、60~70、70~80、または80~90歳である。
【実施例0133】
(実施例1)
リンカー1の合成
【化22】

炭酸エステル形成
A:2,2’-ジスルファンジイルジ(エタン-1-オール)(2.0g、1当量)
B:DSC(N,N’-ジスクシンイミジルカルボネート)(33.2g、10.0当量)
ピリジン(11.3mL、10.0当量)
CHCl、室温、24時間
(1)2,2’-ジスルファンジイルジ(エタン-1-オール)(2.0g、12.98mmol、1当量)のクロロホルム(333mL、165V)溶液を撹拌する。
(2)DSC(33.2g、12.98mmol、10.0当量)を加える。
(3)ピリジン(11.3mL、12.98mmol、10.0当量)を加える。
(4)反応混合物を室温で24時間撹拌する(TLC制御)。
(5)反応混合物を減圧下で濃縮して、半固体を生成する。
(6)半固体を酢酸エチル(200mL)で希釈し、水(2×200mL)で洗浄する。(7)減圧下で有機層を濃縮して、白色の固体(2.4g、不純)を生成する。
(8)白色の固体をDCMによって精製して、生成物を得る(収率60%)。
HPLC純度-96.75%。HNMRは、1.63%のDCMを含有している。
(実施例2)
リンカー2の合成
【化23】

ステップ:1(エステル形成)
A:コハク酸(5.0g、1当量)
B:モノエチレングリコール(10V)
SO(35滴)
80℃、18時間
(1)コハク酸(A)(5.0g、42.34mmol、1当量)に、室温で、
(2)モノエチレングリコール(B)(50mL)を加える。
(3)HSO(35滴)を加える。
(4)得られた反応混合物を、18時間80℃に加熱する(TLC制御)。
(5)室温に冷却する。
(6)炭酸水素ナトリウムで中和する(pH約7~8)。
(7)粗材料をカラムクロマトグラフィーで精製し、所望の化合物を酢酸エチルで溶離させる。
(8)結果は、無色の液体C:(ビス(2-ヒドロキシエチル)ブタンジオエート)(3.96g、収率45.36%)となる。
ステップ:2(炭酸エステル形成)
C:ビス(2-ヒドロキシエチル)ブタンジオエート(1.5g、1当量)
D:DSC(18.66g、10当量)
ピリジン(5.76g、10当量)
CHCl、室温、20時間
(1)ビス(2-ヒドロキシエチル)ブタンジオエート(C)(1.5g、1当量、7.2mmol)のCHCl(150mL、100V)溶液を撹拌する。
(2)DSC(D)(18.66g、72.74mmol、10当量)を加える。
(3)ピリジン(5.76g、72.74mmol、10当量)を加える。
(4)反応混合物を室温で20時間撹拌する(TLC制御)。
(5)反応混合物を減圧下で濃縮する。
(6)DCMで希釈し、水(2×300mL)で洗浄する。
(7)有機層を分離し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させる。
(8)減圧下で濃縮して、1.9gのオフホワイト色の半固体を得る。
(9)凍結乾燥する。
(10)1.9g(不純)の化合物をDCM:メタノールで摩砕して、1.06gのオフホワイト色の固体を得た。
【0134】
(実施例3)
免疫細胞のバックパック負荷
目的:ヒト細胞(例えば、T細胞、CAR-T、NK細胞、他の免疫細胞)は、細胞濃度を50M/mLとして、5つの濃度のHBSS中IL15バックパックで標識することができる。標識した後、次の項目について細胞を試験することができる。
a. FACSによって測定される7-AAD染色による、生存度
b. FACSによって測定されるビーズを計数することによる、培養物の増大
c. IL15およびヒト抗IgGに対する抗体による、バックパック表面標識
IL15バックパックの解凍:
【0135】
バックパックは、使用前には-80Cで貯蔵すべきである。解凍されたバックパックは、3回まで、またはそれより多くの凍結/解凍サイクルで、再凍結および再使用することができる。
【0136】
冷凍庫からバックパック分割量を取り出し、それを氷上で解凍する。
1. BP溶液が解凍された後、細胞標識実験の15分前に、それを室温まで温める。
2. BP保存溶液をHBSSで調整して、3mg/mLの最終希釈標準溶液(working solution)とする。
【表1-1】

バックパック希釈および細胞標識:
【0137】
三通りに実施される合計7種の反応:1種のPBSのみ対照、平板培養後に細胞に加えられる1種の可溶性IL15一定対照、および5種のバックパック試料(合計21の試料)。バックパック試料は、次のとおりである。
a. BP-用量1:3mg/mL
b. BP-用量2:1.5mg/mL
c. BP-用量3:0.75mg/mL
d. BP-用量4:0.375mg/mL
e. BP-用量5:0.1875mg/mL
1.丸底96ウェルプレートにおいてバックパックの段階希釈を行う。
【表2】

2.上記各ウェルからの希釈されたバックパック10ulを、丸底96ウェルプレートにおいて3つのウェルに分配する(三通りにバックパック負荷する)-合計21ウェル。
注:バックパック毒性が限定されるため、V底より丸底プレートが好ましい。
細胞洗浄およびバックパック負荷:
【0138】
以下のステップにおいて使用する緩衝液、PBS、および培地は、37℃に予熱すべきである。
1.培養物から30×10個の細胞を集め、500gで5分間ペレット化する。
2.細胞上清を吸引によって除去する。
3.ペレットを10mLの予熱した(37℃)HBSS緩衝液に再懸濁することにより細胞を洗浄し、Cellometer(AOPI色素を用いる)またはトリパンブルーによって計数する。
4.500gで5分間遠心分離する。
5.上清を吸引し、細胞ペレットを、予熱した(37℃)HBSSに懸濁させて、細胞の濃度を100×10/mLとする(およそ300ulの緩衝液)。
6.10ulの細胞をバックパックまたはHBSSと共にピペットで各ウェルに移し、それをピペット操作によって穏やかに混合する。
【表3】

7.蒸発を防ぐためにプレートを超薄膜で覆い、細胞培養インキュベーターにおいてインキュベートする(通常は、37℃、5%CO、または培養に最良の条件)。
8.細胞を37℃で1時間インキュベートする。
9.180uLの予熱した完全細胞培地(血清を含有する)を各ウェルに加える。
10.細胞を500gで5分間ペレット化し、マルチウェルマニホールドを用いて培地を吸引する。
11.ステップ9および10のように、細胞を200uLの完全培地(full media)でもう2回洗浄し、細胞をペレット化し、上清を吸引する。
12.3回目の洗浄後、各試料からの細胞を200uLの完全培地に再懸濁する。細胞は、約5×10細胞/mLの密度にすべきであり、プレーティングの際にさらに1:10希釈する必要がある。
13.20ulの細胞懸濁液を96ウェルU底から96ウェル平底組織培養プレートに移し、次いで、(サイトカインが加えられていない)180ulの細胞培地を加えることにより細胞を1:10希釈して、5×10細胞/mLの最終プレーティング密度を実現する。
14.ステップ13を別の3枚の96ウェル平底プレートにおいてさらに3回繰り返す(合計4プレート:0日目、1日目、3日目、さらなる時点のために分割されるX日目)。注:
a.細胞のいくつかの「分割物」をマルチプル96ウェルプレートに播くことは典型的であり、これにより、他のプレート、すなわち、0日目、1日目、3日目、X日目の4プレートにおける継続した増殖が可能になると同時に、個々の分割物を異なる時点で分析することが可能になる。
b.細胞は、あまりに集密に増殖する場合、X日目に継代する必要がある。本発明者らは、直接の培地希釈によって細胞を継代することを推奨する。例えば、X日目に、96ウェルプレートをインキュベーターから取り出す。上下のピペット操作によって細胞を培地に再懸濁させる。40uLの細胞溶液を新たな96ウェル平底プレートに移し、160uLの温かい新鮮な培地を各ウェルに加えて、1:5の分割を行う。
15.各プレートの可溶性IL15一定対照ウェルに、可溶性IL15単量体を加える。
【0139】
細胞計数および生存度試験:
フローサイトメーターにおいて7-AADおよびCountBright計数用ビーズを使用して、細胞を計数する。
1.各時点において、96ウェル平底プレートをインキュベーターから取り出し、上下のピペット操作によって細胞を培地に再懸濁させる。
2.20uLの細胞溶液を96ウェルV底プレートに移す。
3.各ウェルに、20uLの「CountBrightビード溶液」を加える。
CountBrightビード溶液は、次のものを含有する(1つのウェルを標識するための体積を以下に示す)。
a. 19.6ulのCountBrightビード保存液
b. 0.4ulの100倍7AAD(7-AAD、LifeTech、A1310、10ug/mLが100倍である)
4.これらのステップを、培養後1、3、およびX日目に繰り返して、生存度および増大を評価する。
【0140】
表面染色によるBP負荷効率試験:
0日目および1日目に、IL-15バックパックの表面レベルを、抗IL15および抗ヒトIgG抗体を使用しながら、フローサイトメトリーによって分析する。
1.96ウェル平底プレートをインキュベーターから取り出し、上下のピペット操作によって細胞を培地に再懸濁させる。
2.100uLの細胞溶液を新たなV底96ウェルプレートに移す(これが、約50,000個の細胞を含有すべきである)。
3.細胞をペレット化し(500gで5分間)、上清を吸引する。
4.細胞を40uLの「抗体細胞表面染色溶液」に再懸濁させる。
抗体染色溶液(1つのウェルを標識するための体積を以下に示す):
a. 0.4uLのマウス抗ヒトIgG BV421-Biolegendカタログ番号409318、1:100希釈
b. 0.4uLの抗IL15 PE:R&DSystemsカタログ番号IC2471IP、1:100希釈
c. 0.4uLの100倍7AAD(7-AAD、LifeTech、A1310、10ug/mLが100倍である)
d. 38.8uLのMACS緩衝液
5.細胞を室温で10分間インキュベートする。
6.160uLの冷MACS緩衝液を各ウェルに加え、細胞を500gで5分間ペレット化し、吸引する。
7.細胞を200uLの冷MACS緩衝液でさらに1回洗浄する。
8.ウェルあたり30uLのMACS緩衝液に再懸濁し、フローサイトメーター(HTSモード)で分析する。
使用する試薬:
ハンクス平衡塩類溶液(HBSS、Gibco、カルシウムおよびマグネシウム含有、カタログ番号14025-092)
リン酸緩衝食塩水(PBS、Gibco、無カルシウム、無マグネシウム、カタログ番号10010-023)
丸底96ウェルプレート(Granier-Bio、透明、滅菌、ポリプロピレンプレート、カタログ番号650261)
v底96ウェルプレート(任意であるが推奨される):Costar3894
平底96ウェルプレート(FisherSci、カタログ番号353072)
計数用ビーズ(LifeTech、CountBright Absolute計数用ビーズ、カタログ番号C36950)
7-アミノアクチノマイシン-D(7-AAD、LifeTech、カタログ番号A1310)
ヒトIL-15 PE結合抗体(R&DSystems、カタログ番号IC2471P)マウス抗ヒトIgG、BV421(Biolegend、カタログ番号409318)
代替Ab:マウス抗ヒトIgG、APC(Biolegend、カタログ番号409306)
代替Ab:ロバ抗ヒトIgG(H+L)、DyLight650(ThermoFisher、カタログ番号SA5-10129)
MACS緩衝液(任意):
EDTA:LifeTechnologies、15575-038
リン酸緩衝食塩水、pH7.4(同上)
ウシ血清アルブミン(BSA):AmericanBio,Inc.カタログ番号AB01243-00050
【0141】
(実施例4)
IL-15バックパックは、制御され、集中したIL-15放出によって推進される養子移入後に、T細胞の自己分泌刺激および増大をもたらす
CD8およびNK細胞増大の強力な刺激因子であるインターロイキン15は、養子移入されたT細胞の抗腫瘍活性を推進しうる。しかし、全身送達では、T細胞の増大、生着、および抗腫瘍活性を推進するのに十分な用量が安全に提供されない。
【0142】
本発明者らのインターロイキン15バックパック(IL-15バックパック)プログラムは、移入T細胞にサイトカインの自己分泌供給源を負荷することにより、安全かつ有効な用量のインターロイキン15(IL-15)を提供することを目指して発足した(Stephan et al., Therapeutic cell engineering with surface-conjugated synthetic nanoparticles. Nat. Med. (2010) 16(9):1035-1041)。がん患者の血液中の高
レベルのIL-15は、奏功臨床応答と関連付けられる(Kochenderfer et al., Lymphoma remissions caused by anti-CD19 chimeric antigen receptor T cells are associated with high serum interleukin-15 levels. J. Clinical Oncology (2017) 35(16):1803-1813)。
【0143】
本明細書で開示するIL-15バックパックプライミングT細胞は、厳密に制御された用量のIL-15を保持する自家T細胞であり、IL-15は、7~14日の期間にかけてゆっくりと放出されて、内因性T細胞に影響を及ぼすことなく、注入されたT細胞に向けられた自己分泌活性化をもたらす。
【0144】
一例が、新規の樹状細胞プライミング用配列を使用して腫瘍抗原プライミングがなされている、IL-15バックパックによってプライミングされた細胞傷害性T細胞(CTL)である。本発明者らは、こうした細胞に対するIL-15バックパックの負荷が厳密に制御され、反応性細胞収量が高く、細胞数がアフェレーシスあたり10億個を超える、自家T細胞生産のための、十分に閉鎖された製造プロセスを開発した。
【0145】
図2に示すとおり、健康なヒトCD8 T細胞を使用する細胞標識反応において、フルオロフォア含有IL-15バックパックの量が漸増された。蛍光ヒストグラム(LHS)およびMFIの定量化(RHS)によって、IL-15バックパック負荷の程度が、IL-15バックパック負荷濃度の増加と共に増大することが示されている。
【0146】
図3は、4人の健康なドナーからのdynabead活性化ヒトCD3 T細胞が、3段階の異なる濃度のIL-15バックパックで標識されたことを示す。標識反応から取り残されたIL-15バックパックを定量化し、反応において加えられたIL-15バックパックの合計量からその数を差し引くことにより、細胞と会合されたIL-15バックパック負荷を評価した。
【0147】
図4は、dynabead活性化ヒトCD3細胞が、7日間の培養前に、IL-15バックパックで処理され、またはそれなしで処理されたことを示す。培養上清中のIL-15レベルをELISAによって評価した。増大をフローサイトメトリーによって評価した。
【0148】
図5は、IL-15バックパックが負荷されたヒトCD3 T細胞が14日間培養されたことを示す。培地交換を1日目、2日目、3日目、または4日目に行って、分泌されたIL-15を除去した。
【0149】
図6Aは、±IL-15バックパック負荷CAR-T細胞についてフローサイトメトリーによって測定されたin vitro細胞増大を示す。図6Bは、NSCLC腫瘍を有するNSGマウスへの注射後の、フローサイトメトリー測定によるCAR-T細胞の血清レベルを示す。図6Cは、腫瘍サイズのPETイメージングを示す。
【0150】
図7A~7Bは、抗CD3/抗CD28でコートされたプレートを用いてex vivoで活性化され、B16-F10腫瘍保持C57B6マウスへの、注射、IL-15バックパック(「IL-15 BP」)によるプライミング、またはIL15-Fc単量体との同時投与のいずれかがなされたPMEL T細胞を示す。マウスを1、4、10、および16日目に屠殺して、血液および組織を集めた。2、24、48、および96時間の時点で血液を採取して、IL15-Fc(ELISA)およびIFN-γ(Luminex)を定量化し(図7A)、CD8、NK、およびPMEL細胞を数えた(図7B、フローサイトメトリー)。図7Cは、IL15-FcまたはIL-15バックパックが、PMEL T細胞注射なしで、非腫瘍保持C56BL6マウスに注射したされたことを示す。血液を採取して、IFN-γを定量化し、活性化した(CD25+)CD4、CD8、およびNK細胞を数えた。
【0151】
カスタマイズ可能な一式の腫瘍関連抗原(TAA)を標的とする数十億個もの細胞障害性Tリンパ球(CTL)をもたらす、新規の閉鎖された半自動細胞製造プロセス。最終ステップにおいて、抗原指向性CTLに、IL-15バックパックを負荷して、TRQ15-01細胞製品が生成される。
【0152】
図8A~8Eは、プロセスが完了してからのCTLが収穫され、(A)製品であるTAA特異的細胞の計数および反応性(ペプチド刺激後の細胞内サイトカイン染色)、(B)TRQ15-01 CTL製品をその受入れアフェレーシスと対照するTCR配列決定、および(C)フローに基づく免疫細胞組成について特徴付けられ、(D)TAA訓練CTLに、抗原ペプチドを1種保持するMHC四量体で標識され、(E)CTL±IL-15バックパックがNSGマウスに注射され、1、4、8、10日目に血液が採取されたことを示す。細胞増大は、フローサイトメトリーによって測定した。
【0153】
結論として、IL-15バックパック細胞負荷は、堅固かつ調整可能であり、細胞あたりのIL-15用量の制御が実現される。本発明者らのIL-15バックパック技術の設計によって、養子T細胞療法において自己分泌刺激および細胞増大の持続をもたらす、IL-15の緩徐かつ制御可能な放出が実現される。全身送達されたIL-15とは対照的に、IL-15バックパックプライミングでは、全身暴露がないために、全身IFNgレベル、内因性CD8およびNK細胞増大は、桁違いに低くなる。十分に閉鎖された半自動の細胞プロセスによって、健康なドナーから、数十億個の抗原指向性ヒトCTLが、極めて低い前駆体出現率(<1%)にもかかわらず、約20%の反応性および95%のT細胞純度で、再現可能に生成される。ヒトCTLは、in vivoでの細胞生存および増大について、IL-15バックパックプライミング技術への依存度が高い。
【0154】
(実施例5)
Deep IL-15プライミングPMEL T細胞の薬理活性
Deep IL-15とは、切断可能な架橋剤(リンカー2)によって接続され、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリリシン30ブロックコポリマー(PK30)で非共有結合性にコーティングされた、会合した2つのIL-15分子を有するヒトIL-15受容体α-スシドメイン-Fc融合ホモ二量体(IL15-Fc)の多量体を指す。詳細には、Deep IL-15は、加水分解可能架橋剤(CL17)によって接続され、ポリエチレングリコール(PEG)-ポリリシン30ブロックコポリマー(PK30)で非共有結合性にコーティングされた、ヒトIL15-Fc単量体の多量体である。IL15-Fc単量体は、それぞれが、IL-15の分子に非共有結合性に結合したIL-15受容体α-スシドメインと融合させた、エフェクターによって減弱されたIgG2 Fcバリアントからなる、2つのサブユニットからなる。Deep IL-15プライミングT細胞は、標的細胞を高濃度のDeep IL-15とともにインキュベートする負荷過程を経て生成される。この過程で、Deep IL-15は、静電的相互作用によって細胞と会合するようになり、内部移行して、Deep IL-15の細胞内レザバーを作出する。Deep IL-15は、こうしたレザバーから、架橋剤の加水分解によって、生理活性IL15-Fcをゆっくりと放出する。IL15-Fcのこの長期間にわたる放出によって、Deep IL-15プライミングT細胞の増殖および生存が促進されて、標的化され、制御可能であり、時間依存的な免疫刺激が実現される。
【0155】
この研究の目的は、正所性に配置されたB16-F10黒色腫腫瘍を保持するおよび保持しないC57BL/6Jマウスにおいて、Deep IL-15プライミングPMEL
T細胞の薬理活性を試験することであった。対照群には、ビヒクル対照、PMEL細胞のみ、および別途の注射で投与されるPMEL細胞+IL15-Fc(10μg、最大耐用量、MTD)が含まれた。
【0156】
材料および方法
B16-F10腫瘍樹立および腫瘍測定
研究-12日目に、雌C57BL/6マウス(Jackson Labs)の剪毛した右脇腹に、B16-F10黒色腫腫瘍細胞(0.2×10)を皮内注射した。1週間に2~3回、体重を記録し、腫瘍寸法(長さ[L]および幅[W]、略語一覧において定義したもの)をカリパスで測定した。腫瘍体積を、式:W×L×π/6を使用して算出した。
【0157】
PMEL細胞の単離および増大
14匹の雌トランスジェニックPMELマウス(Jackson Laboratories、Bar Harbor、ME)の脾臓およびリンパ節(鼠径、腋窩、および頚部)から、PMEL細胞を単離した。脾臓およびリンパ節は、GentleMACS Octo Dissociator(Miltenyi Biotech、Auburn、CA)で加工処理し、40μmのストレーナに通した。細胞を遠心分離によって洗浄し、IMACSナイーブCD8a単離キット(Miltenyi Biotech)ならびにMultiMACS cell24ブロック(Miltenyi Biotech)およびセパレータ(Miltenyi Biotech)を、製造者のプロトコールに従い、18本のカラムで使用して、CD8a+細胞を精製した。非CD8a細胞をアフィニティーカラムによって除去し、CD8aT細胞をカラム溶出液に集めた。CD8a+細胞の純度をフローサイトメトリーによって確認した。
【0158】
単離した後(D0)、PMELマウスからの精製CD8a細胞を、抗CD3および抗CD28でコーティングされた10枚の6ウェル組織培養プレートに、5×10細胞/ウェルの密度で蒔き、37℃、および5%CO2で、24時間インキュベートした。蒔いてから24時間後(D1)に、ネズミIL-2(20ng/mL)およびネズミIL-7(0.5ng/mL)を加えた。D2およびD3に、細胞を計数し、ネズミIL-21(10ng/mL)を含有する新鮮な培地で、0.2×10細胞/mLの濃度に希釈した。D4に細胞を集め、28mLのビヒクル対照中に合計で100×10PMEL細胞/mLを得た。
【0159】
Deep IL-15プライミングPMEL T細胞の調製
5mLのPMEL細胞(100×10細胞/mL)を5.5mLのDeep IL-15(1.36mg/ml)と混合し、回旋させながら37℃で1時間インキュベートして、Deep IL-15プライミングPMEL細胞を作出した。Deep IL-15プライミングPMEL細胞を遠心分離(500g)によって洗浄し(3回、最初に培地で、次いでHBSSで2回)、計数した。Deep IL-15プライミングPMEL細胞を、50×10細胞/mLの濃度で再懸濁した。群5Aおよび5Bのマウスに、この調製物200μLを注射して、マウス1匹当たり合計で10×10個のDeep IL-15プライミングPMEL細胞とした。PMEL細胞(100×10細胞/mLを15mL)を15mLのHBSSと混合し、回旋させながら37℃で1時間インキュベートし、遠心分離(500g)によって洗浄し(3回、最初に培地で、次いでHBSSで2回)、計数した。PMEL細胞を、50×10細胞/mLの濃度で再懸濁した。群2Aおよび2Bのマウスに、この調製物200μLを静脈内注射して、マウス1匹当たり合計で10×10個のPMEL細胞とした。群3Aおよび3Bのマウスには、この調製物200μLを静脈内注射して、マウス1匹当たり合計で10×10個のPMEL細胞とし、IL15-Fc(50μlのHBSS中10μg/マウス、ロット#TS0)の眼窩後方注射を施した。39%という平均負荷効率に基づき、10×10個のPMEL細胞と会合するIL15-Fcの合計量は、58.5μgになるが、これは、群3Aおよび3BにおいてIL15-Fc(10μg)の注射によって全身に送達される量の5.85倍の高さである。
【0160】
Fc-IL-15 ELISA
Fc-IL15酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して、投与後2時間、D1、2、4、および10の時点で集められた試料中のIL15 Fc濃度を求めた。ELISAプレートを、4℃で終夜、ヤギ抗ヒトIgG Fc捕捉抗体でコーティングした。プレートを洗浄し、30℃で少なくとも2時間、試薬希釈剤でブロックした。プレートを洗浄し、(試薬希釈剤中に希釈された)試料およびIL15-Fc標準物質(二通り、試薬希釈剤中に31~2000pg/mL)をウェルに加え、プレートを37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄した後、ビオチン-抗IL15検出抗体を加え、37℃で1時間インキュベートした。プレートを洗浄し、ストレプトアビジン-HRPとともに37℃で20分間インキュベートした。プレートを洗浄した後、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を加え、反応を停止するまで、暗所にて室温で20分間インキュベートした。プレートをマイクロプレートリーダー(450nm)に読み取らせた。
【0161】
アッセイは、2回実施した。1回目の実施については、試料を、次の希釈度、すなわち、2時間の時点では1:20000、D1の時点では1:5000、D2、D4、およびD10の時点では1:250で評価した。2回目の実施については、群3Aおよび3Bからの試料を、D1の時点では1:5000、D2の時点では1:250、D4およびD10の時点では1:25希釈した。群1Aおよび1B、2Aおよび2B、ならびに5Aおよび5Bからの試料は、分析した全時点について1:25希釈した。データは、2回目の実施について報告する。しかし、2時間の時点の試料が、2回目の実施については底をついたため、また、24時間の時点のIL15-Fc濃度が、群3Aおよび3Bでは2回の実施にかけて似通っていたことを踏まえて、薬物動態(PK)パラメーターを算出する目的のために、1回目の実施からの2時間値を、2回目の実施からの他のデータ点とともに含めた。
【0162】
血液中での定量下限(LLOQ)は、1:20000希釈では310ng/ml、1:5000希釈では77.5ng/ml、1:250希釈では3.875ng/ml、1:25希釈では0.3875ng/mlであった。
【0163】
マウス血清中の血清サイトカインレベル
ThermoFisher ProcartaPlexマウス高感度パネル5plex
カタログ#EPXS0S0-22199-901キットを製造者のプロトコールに従って使用し、試料をBio-Plex200システムで分析した。血清を氷上で解凍し、20μLの血清を、IFN-γ、TNF-α、IL-2、IL-4、およびIL-6レベルについて試験した。少数の試料において、20μLの血清が利用可能でなかったため、より少ない体積を利用した。希釈倍率を調整して、検量線に従って濃度を算出した。GraphPad Prismにおいて統計分析を行った。
【0164】
結果
臨床化学
血清試料において臨床化学パラメーターを測定した。図9は、投与後D1およびD4の時点で、ナイーブマウスについて統計的に有意な変化が認められた、臨床化学パラメーターを示す。投与後D1の時点で、PMEL+IL15-Fc群における、Deep IL-15プライミングPMEL群を基準としたアルブミンレベルの有意な低下(p<0.05)、ならびに、ビヒクル対照およびDeep IL-15プライミングPMELの両方との比較による、血中尿素窒素(BUN)レベルの有意な低下(両方についてp<0.05)が認められた。投与後D4の時点で、PMEL+IL15-Fc群は、アルブミン(他のすべての処置群に比べてp<0.05)、総タンパク質(ビヒクル対照に比べてp<0.05)、グルコース(Deep IL-15プライミングPMELに比べてp<0.05)、アルブミン/グロブリン(ALB/GLOB)比(ビヒクル対照に比べてp<0.05、PMELおよびDeep IL-15プライミングPMELに比べてp<0.01)の有意な低下を示した。加えて、PMEL+IL15-Fc群は、コレステロールレベルの有意な増大(ビヒクル対照およびDeep IL-15プライミングPMELに比べてp<0.05)を示した。すべての処置群が、ビヒクル対照に比べて、カルシウムレベルの低下に向かう傾向を示し、この傾向は、PMEL群で統計的に有意であった(p<0.05)。Deep IL-15プライミングPMEL群は、総ビリルビン(ビヒクル対照およびPMELに比べてp<0.05)およびリン(PMELに比べてp<0.05)の統計的に有意な変化を示した。
【0165】
図10は、投与後D1およびD4の時点で、腫瘍保持マウスについて統計的に有意な変化が認められた、臨床化学パラメーターを示す。投与後D1の時点で、臨床化学における唯一の統計的に有意な変化は、PMEL+IL15-FcおよびDeep IL-15プライミングPMEL群の両方で認められた、ビリルビンコンジュゲートの低下であった(両方について、ビヒクル対照に比べてp<0.05)。投与後D4の時点では、アルブミン(ビヒクル対照に比べてp<0.05)、総タンパク質(ビヒクル対照に比べてp<0.01)、および重炭酸塩TCO2(ビヒクル対照に比べてp<0.05)の統計的に有意な増大が、PMEL群で見られた。加えて、グロブリンの統計的に有意な増大が、PMEL群(ビヒクル対照に比べてp<0.001、DP-15 PMELに比べてp<0.05)およびPMEL+IL15-Fc群(ビヒクル対照に比べてp<0.05)で認められた。
【0166】
全身性のサイトカイン放出
Luminex 5-plexキットを使用して、投与後2時間、24時間、および96時間の時点で、血清サイトカイン(IFN-γ、IL-2、IL-4、IL-6、およびTNFα)を測定した。ナイーブ非腫瘍保持マウスでは、PMEL+IL15-Fc群におけるIFN-γのレベルが12.8±3.7pg/mLであったが、Deep IL-15プライミングPMEL群においては、IFN-γが定量下限(LLOQ=0.06pg/mL)を下回った(図11)。腫瘍保持マウスでは、平均で、PMEL+IL15-Fc群におけるIFN-γ濃度(20.5±0.5pg/mL)が、Deep IL-15プライミングPMEL群(0.5±0.1pg/mL)に比べて、41倍の高さであった。他の群に比べて高いレベルのIL-2、IL-6、およびTNFαも、PMEL+IL15-Fc群で見られた。
【0167】
血中IL15-Fcの薬物動態
サンドイッチELISA(抗Fc捕捉抗体に続いて抗IL15検出抗体)を使用して、PMEL+IL15-Fc(10μg)およびDeep IL-15プライミングPMEL(58.5ugのIL15-Fcを収容する)を注射したマウスの血中IL15-Fcを測定した。
【0168】
Deep IL-15プライミングPMELおよびPMEL+IL15-Fcの単回用量投与の薬物動態(PK)を、ナイーブおよび腫瘍保持マウスにおいて、混成動物について明らかにした。PMEL+IL15-Fc群については、ナイーブおよび腫瘍保持両方のマウスにおいて、用量投与後2時間の時点で最大濃度(Cmax)に到達した。Deep IL-15プライミングPMEL群では、測定した最初の濃度が24時間の時点であった(当初、最適でない希釈度で2時間の試料が測定され、IL15-Fcは検出されず、理想的な希釈度で測定を繰り返すのに十分な利用可能な試料が存在しなかった)。腫瘍保持マウスでは、ナイーブマウスよりわずかに低い濃度に到達した。PMEL+IL15-Fc群において算出された、IL15-Fcについての平均t1/2は、腫瘍保持マウスおよび非腫瘍保持マウスにおいて、それぞれ、28.9時間および7.12時間であった。
【0169】
24時間の時点におけるIL15-Fc濃度を、PMEL+IL15-Fc群とDeep IL-15プライミングPMEL群とで比較した。合計IL15-Fc濃度は、PMEL+IL15-Fc(10μg)群において、Deep IL-15プライミングPMEL群(58.5ugのIL15-Fc)より高く、ナイーブマウスではおよそ3488倍の高さであり、腫瘍保持マウスでは3299倍の高さであった。混成IL15-Fc PKパラメーターを表1に要約し、平均(SD)IL15-Fc PKプロファイルを図12に示す。
【表1-2】
【0170】
腫瘍成長の阻害
D0(投薬当日)に、腫瘍は、およそ140mmの平均体積に達していた。投与後D4の時点で、すべての処置群において、ビヒクル対照に比べて、腫瘍成長の統計的に有意な阻害が認められ(p<0.0001)、この差は、時間とともにより顕著になった(図13、左のパネル)。研究D16には、ビヒクル対照群では2/5匹の動物しか残っていなかったが(他の動物は、甚大な腫瘍負荷のために犠牲になった)、処置群のそれぞれでは、4/5匹の動物が残っていた。ビヒクル対照群における腫瘍体積は、他のすべての群と有意差があった(p<0.0001)。PMEL群における腫瘍体積は、Deep IL-15プライミングPMELおよびPMEL+IL15-Fc群における腫瘍体積より有意に(p<0.05)大きかった。D16において、PMEL+IL15-Fc群とDeep IL-15プライミングPMEL群における腫瘍成長の阻害には、互いに差がなかった(図13、左および右のパネル)。投与後D1、4、10、および16において、屠殺後に腫瘍を秤量した(n=2~5、各群、各時点)。腫瘍重量を図14に示す。
【0171】
一部の動物は、研究が指定した終点より前に、瀕死状態または死亡が判明した。こうした動物には、ビヒクル対照(合計4匹:D9に1匹、D10に1匹、およびD14に2匹)、PMEL群(合計2匹:D2に1匹、およびD6に1匹)、PMEL+IL15-Fc群(合計2匹:D9に1匹、およびD11に1匹)、およびDeep IL-15プライミングPMEL群(合計2匹:D9に1匹、およびD16に1匹)におけるマウスが含まれた。これらは、すべての群にわたって分布しており、ビヒクル対照において最も数字が高かった(n=4)ため、処置に関連するとはみなさなかった。最後に、Deep IL-15プライミングPMEL群と関連した、瀕死状態または死亡が判明した動物は、PMELと比較して差がなかった。
【0172】
結論
研究の主要な所見を以下に要約する。
1.Deep IL-15プライミングPMEL細胞は、10×10細胞という投与用量で十分に許容された。
2.PMEL、PMEL+IL15-Fc、およびDeep IL-15プライミングPMEL細胞のいずれも、ビヒクル対照に比べて腫瘍成長が阻害される結果となった。阻害は、PMELに比べて、PMEL+IL15-FcおよびDeep IL-15プライミングPMEL細胞で高かった。
3.毒物学的関連のある臨床化学パラメーター変化は、PMELまたはDeep IL-15プライミングPMEL細胞のいずれでも認められなかった。多少の変化が、PMEL+IL-15 Fcで認められた。
4.血清IFN-γ、TNF-α、またはIL-6の変化は、PMELまたはDeep IL-15プライミングPMEL細胞では、いずれの時点でも検出されなかった。PMEL+IL15-Fcでは、24時間の時点で、血清IFN-γおよびTNF-αの有意な変化が認められた。PMEL+IL15-Fcでは、IL-6が、2時間(非腫瘍保持(ナイーブ)マウスのみ)および24時間の時点で増大した。
5.Deep IL-15プライミングPMEL群におけるIL15-Fcの血清レベルは、PMEL+IL15-Fc群において検出されたレベルに比べて3000分の1を下回る低さであり、PMEL+IL15-Fc群に比べて、体重減少がなく、CBCおよび内因性免疫細胞(CD8、NK1.1、およびCD4細胞)の有意な変化がなく、IFN-γ血清レベルおよび関連する薬理学的変化が低減していることと一致した。
【0173】
本開示の範囲および趣旨から逸脱しない、本開示の記載した方法および組成物の修飾形態および変形形態は、当業者には明らかである。特定の実施形態に関連して本開示を説明したが、特許請求された本開示をそのような特定の実施形態に不当に限定すべきでないことは理解すべきである。実際、本開示を実施するための記載した方法の様々な修飾形態が意図されており、そのような修飾形態が、後続の特許請求の範囲によって示される本開示の範囲内であることは、本開示が属する関連分野の当業者には理解される。
【0174】
参照による組込み
本明細書中で言及するすべての特許および刊行物は、各々の独立した特許および刊行物が参照により組み込まれていると具体的かつ個々に示されている場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6AB
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8DE
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【外国語明細書】