(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060013
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】二本鎖DNA合成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/34 20060101AFI20230420BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
C12P19/34 A ZNA
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029982
(22)【出願日】2023-02-28
(62)【分割の表示】P 2018093024の分割
【原出願日】2018-05-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 平成29年11月15日 https://confit.atlas.jp/guide/organizer/bmb/conbio2017/subject/2P-1327/search?searchType=only&initFlg=false&query=&title=&author=%E9%AB%98%E6%A9%8B+%E4%BF%8A%E4%BB%8B&affiliation= を通して発表 (2) 平成29年12月7日 2017年度生命科学系学会合同年次大会においてポスターをもって発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発/高生産性微生物創製に資する情報解析システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊介
(72)【発明者】
【氏名】柘植 謙爾
(72)【発明者】
【氏名】近藤 昭彦
(57)【要約】
【課題】本発明は、PCR法を用いた二本鎖DNA断片の合成方法において、目的とする二本鎖DNA断片を、その配列によらず、正確に、容易に、効率よく、且つ迅速に合成できる方法を開発することを目的とする。
【解決手段】本発明は、短い二本鎖DNAを、オーバーラップエクステンションPCRにより連結して目的の二本鎖DNA断片を取得する、二本鎖DNA合成方法であって、上記オーバーラップエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする、二本鎖DNA合成方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の二本鎖DNA合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学の分野において新規の配列を有する長鎖のDNAを構築するためのDNA合成は種々の目的のために行われている。この長鎖のDNAを合成するための方法は、大きく分けて2つの工程からなる。第一の工程は、多数の一本鎖オリゴDNAから二本鎖DNA断片を合成する工程である。第二の工程は、第一の工程にて得られた二本鎖DNA断片を多数集積して長鎖のDNAを構築する工程である。この長鎖のDNAの構築方法としては、酵母集積法(非特許文献1参照)、Gibson assenbly法(非特許文献2参照)、Golden gate法(非特許文献3参照)、LCR法(非特許文献4参照)、OGAB法(非特許文献5参照)等が知られている。
【0003】
上記二本鎖DNA断片の合成方法としては、例えばPCR反応溶液中で多数の相同領域を含む一本鎖オリゴDNA同士を同時に貼り合わせ、アセンブルすることで、二本鎖DNA断片を合成する方法がいくつか知られている(特許文献1、非特許文献6~8参照)。これらの方法では、多数の一本鎖オリゴDNAがひとつのPCR反応溶液に混在しているため、PCR反応によってこれらの一本鎖オリゴDNAを貼り合わせるとき、一本鎖オリゴDNA同士のミスマッチ、プライマーダイマーの形成等が起こるという不都合な事態を招く。上記理由のため、これらの合成方法では、合成しようとするいかなるDNA配列に対しても二本鎖DNA断片を合成できるとは必ずしも限らない。特に、合成しようとする目的のDNA配列が、長い反復配列、連続した同一塩基配列等を含む複雑なDNA配列であると、合成が困難或いは不可能な場合もある。
【0004】
また、これらの合成方法では、目的のDNA配列を有する二本鎖DNAを合成するために、その出発材料となる一本鎖オリゴDNAを設計しなければならない。これら一本鎖オリゴDNAの設計の際には、PCR反応のアニーリング温度の設定のため、多数の一本鎖オリゴDNAを貼り合わせるための相同領域の長さを調節しなければならない。加えて、合成工程での一本鎖オリゴDNAのヘアピン形成等を防ぐため、各一本鎖オリゴDNAの長さ、数及びGC含有量の構成等を調節する必要がある。即ち、これまでの合成方法においては、合成しようとする目的のDNA配列の一本鎖オリゴDNAの設計が複雑であること、数個~数100個単位の多数の二本鎖DNA断片を合成しようとしても、それらのDNA配列ごとに一本鎖オリゴDNAを設計しなければならないことから、一本鎖オリゴDNAの設計に時間と手間がかかるという不都合が生じる。
【0005】
上記第二の工程である長鎖のDNAの合成においては、上記第一の工程で得られた多数の二本鎖DNA断片を集積材料として用いる。上記第二の工程で長鎖のDNAの合成において二本鎖DNA断片を集積する際には、その二本鎖DNA断片がひとつでも欠けてしまうと、目的とする長鎖のDNAを合成することが不可能となる。しかし、これまでの二本鎖DNA断片の合成方法では、数個~数100個単位の多数の二本鎖DNA断片を合成するまでに時間と手間がかかるという不都合が生じること、合成しようとする目的のDNA配列の複雑性によっては、合成が困難或いは不可能であることから、集積材料となる全ての二本鎖DNA断片を速やかに取得することが困難な状況である。即ち、これまでの二本鎖DNA断片の合成方法では、長鎖のDNAの合成のための集積材料となる二本鎖DNA断片を速やかに供給することができず、ボトルネックとなっているのが実情である。故に、これまでの合成方法に代わる、二本鎖DNA断片の合成を効率よく迅速に合成できる新たな方法が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許公開20080182296号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gibson, D. G., et al. Science, 5867, 1215-1220.,2008
【非特許文献2】Gibson, D. G., et al. Nat. Methods, 6, 343-345.,2009
【非特許文献3】Engler, C., et al. PLoS ONE, 4, e5553.,2009
【非特許文献4】Stefan de Kok, S., et al. ACS Synth. Biol., 3, 97-106.,2014
【非特許文献5】Tsuge, K., et al. Nucleic Acids Res., 31, e133., 2003、Tsuge, K., et al. Sci. Rep., 5, 10655., 2015
【非特許文献6】Stemmer, W. P., et al. Gene, 164, 49-53.,1995
【非特許文献7】Xiong, A., et al. Nat. protoc., 1, 791.,2006
【非特許文献8】Xiong, A. S., et al. Nucleic Acids Res., 32, e98-e98.,2004
【非特許文献9】Prodromou, C., and Pearl, L. H. Protein Eng. Des. Sel., 5, 827-829.,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中、本発明者らは、上述の不都合を解決し、長鎖DNA合成のための集積材料として使用できる二本鎖DNA断片を正確に、容易に、効率よく、且つ迅速に合成できる方法を開発することを目的として本研究を進めた。即ち、本発明は、PCR法を用いた二本鎖DNA断片の合成方法において、目的とする二本鎖DNA断片を、その配列によらず、正確に、容易に、効率よく、且つ迅速に合成できる方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、短い二本鎖DNAを、オーバーラップエクステンションPCRにより連結して目的の二本鎖DNA断片を取得する二本鎖DNA合成方法において、PCRサイクルのアニーリング温度設定を多段階とすることで、目的とする二本鎖DNA断片を正確に、容易に、効率よく、且つ迅速に合成できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明の要旨は、以下のとおりである。
【0010】
[1]短い二本鎖DNAを、オーバーラップエクステンションPCRにより連結して目的の二本鎖DNA断片を取得する、二本鎖DNA合成方法であって、
上記オーバーラップエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする、二本鎖DNA合成方法。
[2]上記アニーリング温度設定が、2段階~20段階である、[1]に記載の二本鎖DNA合成方法。
[3]上記アニーリング温度設定が、65℃~85℃である、[1]又は[2]に記載の二本鎖DNA合成方法。
[4]上記アニーリング温度設定の各段階における温度保持時間が、10秒~2分である、[1]から[3]のいずれかに記載の二本鎖DNA合成方法。
[5]上記オーバーラップエクステンションPCRにおけるDNAのオーバーラップ領域が10塩基~40塩基である、[1]から[4]のいずれかに記載の二本鎖DNA合成方法。
[6]上記オーバーラップエクステンションPCRにおいて、3種~20種の短い二本鎖DNAが連結される、[1]から[5]のいずれかに記載の二本鎖DNA合成方法。
[7]上記オーバーラップエクステンションPCRにおいて用いられる短い二本鎖DNAが、プライマーエクステンションPCRにより合成される、[1]から[6]のいずかに記載の二本鎖DNA合成方法。
[8]上記プライマーエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有する、[7]に記載の二本鎖DNA合成方法。
[9]上記プライマーエクステンションPCRにより合成される短い二本鎖DNAのサイズが、100塩基~300塩基である、[7]又は[8]に記載の二本鎖DNA合成方法。
[10]二本鎖DNA合成方法であって、
プライマーエクステンションPCRにより短い二本鎖DNAを合成するプライマーエクステンションPCR工程、及び
オーバーラップエクステンションPCRにより、上記プライマーエクステンションPCR工程において合成された二本鎖DNAを連結して目的の二本鎖DNA断片を合成するオーバーラップエクステンションPCR工程
を含み、上記オーバーラップエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする、二本鎖DNA合成方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、PCRサイクルにおいて複数段階のアニーリング温度設定を有することで、様々なTm値を有する複数のDNAの貼り合せに適用可能となるため、多数の相同領域を含む一本鎖オリゴDNA同士のアセンブルを容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に行うことができる。また、本発明の二本鎖DNA合成方法は、様々なTm値のDNAの貼り合せに適用可能であることから、材料とする一本鎖オリゴDNA配列を最適化する手間が不要であり、目的とする二本鎖DNA断片毎に細かく温度設定をしなおす必要がない。さらに、本発明によると、目的とする二本鎖DNA断片の配列によらず、容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に合成することが可能なので、従来複雑な配列(例えば長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich、GC-richな配列等)であるために合成が困難、或いは不可能であった二本鎖DNA断片も合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の二本鎖DNA合成方法を模式的に示した図である。
【
図2】本発明の二本鎖DNA合成方法のPCR条件の検討結果を示す図である。
【
図3】本発明の二本鎖DNA合成方法のPCR条件の検討結果を示す図である。
【
図4】従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片を比較した結果を示す図である。
【
図5】本発明の二本鎖DNA合成方法によって同時合成された複数の異なる配列の二本鎖DNAを電気泳動した結果を示す図である。
【
図6】化学合成された一本鎖DNAの品質を比較した結果を示す図である。
【
図7】従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片を比較した結果を示す図である。
【
図8】従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片を比較した結果を示す図である。
【
図9】従来の合成方法本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の二本鎖DNA合成方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、分子生物学的手法は特に明記しない限り当業者に公知の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じた方法により行うことができる。また、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0014】
<二本鎖DNA合成方法>
本発明の二本鎖DNA合成方法は、短い二本鎖DNAを、オーバーラップエクステンションPCRにより連結して目的の二本鎖DNA断片を取得する方法であって、上記オーバーラップエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする。このように本発明の二本鎖DNA合成方法が、PCRサイクルにおいて複数段階のアニーリング温度設定を有することで、様々なTm値を有する複数のDNAの貼り合せに適用可能となるため、多数の相同領域を含む一本鎖オリゴDNA同士のアッセンブルを容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に行うことができる。また、本発明の二本鎖DNA合成方法は、様々なTm値のDNAの貼り合せに適用可能であることから、材料とする一本鎖オリゴDNA配列を最適化する手間が不要であり、目的とする二本鎖DNA断片毎に細かく温度設定をしなおす必要がない。さらに、本発明によると、目的とする二本鎖DNA断片の配列によらず、容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に合成することが可能なので、従来複雑な配列(例えば長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich、GC-richな配列等)であるために合成が困難、或いは不可能であった二本鎖DNA断片も合成することができる。
【0015】
また、上記オーバーラップエクステンションPCRにおいて用いられる短い二本鎖DNAは、プライマーエクステンションPCRにより合成されることが好ましい。そこで、本発明は、プライマーエクステンションPCRにより短い二本鎖DNAを合成するプライマーエクステンションPCR工程、及びオーバーラップエクステンションPCRにより、上記プライマーエクステンションPCR工程において合成された二本鎖DNAを連結して目的の二本鎖DNA断片を合成するオーバーラップエクステンションPCR工程を含み、上記オーバーラップエクステンションPCRのPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする二本鎖DNA合成方法であると説明することもできる。以下に本発明の二本鎖DNA合成方法を工程毎に、詳細に説明する。
図1には本発明の二本鎖DNA合成方法の工程を模式的に示した。
【0016】
[プライマーエクステンションPCR工程]
本工程は、プライマーエクステンションPCRにより短い二本鎖DNAを合成する工程である。本工程で得られる短い二本鎖DNAは、後述するオーバーラップエクステンションPCR工程において連結され、長鎖DNA合成のための集積材料として使用できる二本鎖DNA断片となる。したがって、最終的に合成したい長鎖二本鎖DNAの配列から、集積材料としてどのような二本鎖DNA断片が必要か決定され、その二本鎖DNA断片をいくつかに分断して配列デザインされたものが本工程で合成される短い二本鎖DNAとなる。
【0017】
ここで、本発明においてプライマーエクステンションPCRとは、互いの末端部分に相補的に結合する領域を持つ一対の一本鎖オリゴDNAを貼り合わせ、それぞれの鎖をポリメラーゼにより伸長させることで二本鎖DNAを合成する反応のことをいう。
【0018】
(i)一本鎖オリゴDNAの配列設計
本発明の二本鎖DNA合成方法によって得られる二本鎖DNA断片の全長配列を任意の数の短い二本鎖DNAに分割する。この短い二本鎖DNAのサイズとしては、通常100塩基~300塩基であり、120塩基~250塩基であることが好ましく、140塩基~180塩基であることがより好ましく、150塩基前後であることが更に好ましい。分割する短い二本鎖DNAの数は、全長配列の長さにより適宜決めることができるが、通常3~20であり、2~10であることが好ましく、2~5であることがより好ましく、3程度であることがさらに好ましい。
【0019】
上記分割された短い二本鎖DNAは5´-又は3´-末端に任意の長さの、互いにオーバーラップする領域を含むように設計される。このオーバーラップ領域の長さは、通常5塩基~50塩基であり、10塩基~40塩基が好ましく、15塩基~40塩基がより好ましく、30塩基程度がさらに好ましい。上記のように設計された短い二本鎖DNAの合成に用いる一対の一本鎖オリゴDNAは、上記オーバーラップ領域を含む60塩基~300塩基であり、100塩基~200塩基であることが好ましく、150塩基~200塩基であることがより好ましい。本工程においては、比較的長鎖の一本鎖オリゴDNAを用いることによって、二本鎖DNA合成に使用する一本鎖オリゴDNAの本数を減らすと共に、一本鎖オリゴDNA配列中のGC含有比の偏りをなくすことができるため、ヘアピン構造などのDNA二次構造の形成を防ぐこともできる。なお、これらの一本鎖オリゴDNAは化学合成により調製することができる。
【0020】
これらの一本鎖オリゴDNAには、完全長の一本鎖オリゴDNAとは異なる、化学合成の過程にて生じる不完全長の一本鎖オリゴDNAが含まれていてもよい。本工程では、使用する一本鎖オリゴDNA中、完全長の一本鎖オリゴDNAが15%以上あれば、目的の合成二本鎖DNAのDNA増幅産物が得られ、クローン化することにより正確な配列の二本鎖DNAを取得することが可能である。即ち、使用する一本鎖オリゴDNA中、未反応物を含む不完全長の一本鎖オリゴDNAが85%程度含まれているような状態においても、目的の合成二本鎖DNAのDNA増幅産物を得ることができる。
【0021】
(ii)PCRサイクル
上記分割数に応じた組数の対の一本鎖オリゴDNAを、それぞれ別々に滅菌水又はTE緩衝液等にて任意の濃度に調整する。上記濃度は通常0.1~10μMであり、0.25~5μMであることが好ましく、1μM前後であることがより好ましい。PCR反応溶液(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase;NEB社等)を調整し、上記一対の一本鎖オリゴDNAをそれぞれ加え全量が等量になるように調製する。このとき、それぞれの短い二本鎖DNAの合成毎にPCR反応溶液を準備し、そのひとつのPCR反応溶液に一対となる2本の一本鎖オリゴDNAのみを混合している状態である。このため、一本鎖オリゴDNAの貼り合せの間に引き起こる一本鎖オリゴDNA同士のミスマッチングやプライマーダイマーの形成を防ぐことができる。
【0022】
次に、サーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、短い二本鎖DNAを合成する。このときのPCR反応の温度条件としては、98℃、2分の後、熱変性段階/アニーリング段階/伸長段階(エクステンション)を1サイクルとして任意のサイクル数行う。サイクル数としては通常5サイクル以上であり、10サイクル以上が好ましい。10サイクルを超えても問題はないが、10サイクル程度で本工程においては十分といえる合成量が得られる。
【0023】
上記熱変性段階及び伸長段階においては、従来のPCR法と同様の条件を選択することができる。例えば、熱変性段階においては98℃、30秒で、伸長段階においては、使用するポリメラーゼにより条件が変わってくるが、例えば72℃、50秒である。
【0024】
本発明においては、上記アニーリング段階において、複数段階のアニーリング温度設定を有する点が従来の方法と大きく異なる。アニーリング温度設定としては、50℃~90℃範囲で、好ましくは60℃~85℃の範囲で、2段階~20段階、好ましくは2段階~15段階、より好ましくは2段階~10段階、さらに好ましくは2段階から8段階の温度設定を有する。各段階のアニーリング温度の保持時間としては、通常10秒以上であり、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、40秒以上がさらに好ましく、50秒以上が特に好ましい。50秒を超える長い時間反応させても問題はなく2分程度まで反応させてもよいが、50秒程度で十分ともいえる。なお、プライマーエクステンションPCR工程が終了した後は終夜インキュベートしても問題はない。その時の温度は4℃~72℃の範囲とすることが好ましい。
【0025】
本工程のPCRにおいて複数段階のアニーリング温度設定を有することで、各対の一本鎖オリゴDNAの組み合わせ毎のTm値の違いを補完することができるため、本工程での全ての二本鎖DNA合成のためのPCRを一度に行うことができる。
【0026】
[オーバーラップエクステンションPCR工程]
本工程は、上記プライマーエクステンションPCR工程で合成した短い二本鎖DNAを、オーバーラップエクステンションPCRにより連結して目的の二本鎖DNA断片を取得する工程である。このPCRサイクルにおいて、複数段階のアニーリング温度設定を有することを特徴とする。
【0027】
ここで、オーバーラップエクステンションPCRとは、PCR反応における標的DNAの増幅に際し、標的DNA特異的なプライマーの5´末端側に別の配列を付加しておくことによって、新たな配列をPCR産物に付加し、この新たな配列が複数の標的DNA間で相補的になるよう設計しておくことによって、アニーリング時に複数の標的DNAの末端同士を融合させ、その後のDNAポリメラーゼによる伸長反応で1本のPCR産物を合成する反応をいう。本発明においては、上記プライマーエクステンションPCR工程で合成された複数種類の短い二本鎖DNAを連結させて1本の二本鎖DNA断片を作成するために行われる反応である。上記短い二本鎖DNAは連結部分に相同領域を有しており、熱変性により一本鎖になると、アニーリング段階で、その相同領域部分が相補的に結合し、互いの5´末端側の新たな配列をPCR産物に付加することができる。この新たな配列は別の二本鎖DNAとの間で相補的になるように設計されているので、アニーリング時にDNAの末端同士が融合し、その後のDNAポリメラーゼによる伸長反応で1本のPCR産物を合成できる。
【0028】
具体的には、以下のように行う。上記プライマーエクステンションPCR工程で合成された短い二本鎖DNAを、全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液(1 x Phusion HF Buffer、0.2 mM dNTP、0.016 U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase;NEB社製等)に等量ずつ添加する。このPCR反応溶液は、全長二本鎖DNAを増幅させるためのプライマーを含んでいる。
【0029】
次に、サーマルサイクラーを用いて、PCR反応により、全長二本鎖DNA断片を合成する。このときのPCR反応の温度条件としては、98℃、2分の後、熱変性段階/アニーリング段階/伸長段階(エクステンション)を1サイクルとして任意のサイクル数行う。サイクル数としては通常10サイクル以上であり、20サイクル以上が好ましい。20サイクルを超えても問題はないが、20サイクル程度で本工程においては十分といえる合成量が得られる。
【0030】
上記熱変性段階及び伸長段階においては、従来のPCR法と同様の条件を選択することができる。例えば、熱変性段階においては98℃、30秒で、伸長段階においては、使用するポリメラーゼにより条件が変わってくるが、例えば72℃、50秒である。
【0031】
本発明においては、上記アニーリング段階において、複数段階のアニーリング温度設定を有する点が従来の方法と大きく異なる。アニーリング温度設定としては、50℃~90℃範囲で、好ましくは60℃~85℃の範囲で、2段階~20段階、好ましくは2段階~15段階、より好ましくは2段階~10段階、さらに好ましくは2段階から8段階の温度設定を有する。各段階のアニーリング温度の保持時間としては、通常10秒以上であり、20秒以上が好ましく、30秒以上がより好ましく、40秒以上がさらに好ましく、50秒以上が特に好ましい。50秒を超える長い時間反応させても問題はなく2分程度まで反応させてもよいが、50秒程度で十分ともいえる。
【0032】
本工程のPCRにおいて複数段階のアニーリング温度設定を有することで、短い二本鎖DNAのアセンブリや、各々の一本鎖DNA同士を貼り合わせるときに生じるTm値の違いを補完することができるため、貼り合わせに必要な一本鎖オリゴDNAの相同領域に対するTm値を合わせるように最適化する必要がない。このため、一本鎖オリゴDNAの相同領域の長さは30塩基に固定した状態にて設計でき、数多くの配列の異なる二本鎖DNAを合成するときの一本鎖オリゴDNAの設計を簡便にできる。また、プライマーエクステンションPCR反応とオーバーラップエクステンションPCR反応のそれぞれの温度条件を統一化することもできる。
【0033】
さらに、本発明の方法によると、異なる配列の二本鎖DNA断片を複数同時に並行して合成することができる。これらの同時に合成可能な二本鎖DNA断片数は特に限定されないが、数10から数100個単位での同時合成も可能であるため、スループット性が著しく高い。また、本発明の合成方法を液体分注ロボットのプログラムに適用することによって、複数同時に二本鎖DNA断片の合成を自動化することもできる。
【0034】
本発明の合成方法によって合成されうる二本鎖DNA断片は、配列や長さにおいて特に限定されないが、PCRで使用する耐熱性DNAポリメラーゼの正確性を踏まえると5,000塩基対までの長さが好ましい。このため、オーバーラップエクステンションPCR反応によって連結する短い二本鎖DNA断片の数は通常3から20断片程度であり、2から10断片であることが好ましく、2から5断片であることがより好ましく、3断片程度であることがさらに好ましい。
【0035】
また本発明の合成方法によると、長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich、GC-richなどの一般的に複雑な配列といわれているDNA配列を含む二本鎖DNA断片の合成も可能となる。
【0036】
本発明の合成方法にて得られた二本鎖DNA断片は、酵母集積法(非特許文献1参照)、Gibson assenbly法(非特許文献2参照)、Golden gate法(非特許文献3参照)、LCR法(非特許文献4参照)、OGAB法(非特許文献5参照)等の長鎖のDNAの合成方法を用いることにより、多数集積して長鎖のDNAを構築することができる。
【0037】
長鎖のDNAの合成においては、二本鎖DNA断片を集積材料として用いるが、その二本鎖DNA断片がひとつでも欠けてしまうと、目的の長鎖のDNAを合成することが不可能となる。本発明の合成方法は、合成しようとする目的のDNA配列の複雑性に関わらず、二本鎖DNA断片を複数同時に合成することができることから、長鎖のDNAの合成のための集積材料となる二本鎖DNA断片を速やかに合成できる。そのため、本発明の合成方法は、長鎖のDNAの合成のために必要な二本鎖DNA断片を速やかに供給することできるため、長鎖のDNAの合成方法へのスループット性を大幅に向上することができる。
【0038】
本発明の合成方法によって得られた二本鎖DNA断片のPCR産物はベクターと混合し、DNAライゲーション反応することでDNAクローニングされた後、大腸菌コンピテントセルを用いてプラスミドを導入する形質転換を行う。合成二本鎖DNA断片のDNA増幅産物のDNAクローニングは、制限酵素的クローニング法、TAクローニング法、In-Fusionクローニング法、平滑末端クローニング法などいずれでもよく特に限定されない。使用するベクターDNAは、制限酵素的クローニング用ベクター、In-Fusionクローニング用ベクター、TAクローニング用ベクター、平滑末端用クローニング用ベクターなどいずれでもよく特に限定されない。
【0039】
本発明の合成方法によって得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、PCR反応によって生じる目的配列の長さよりも短い非特異的DNA増幅産物の出現を抑えることができる。このため、本発明の合成方法によって得られた合成二本鎖DNA断片は、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0040】
<プログラム>
本発明は、上述した本発明の二本鎖DNA合成方法におけるPCRのプログラムも含む。本発明のPCR条件についてのプログラムは、サーマルサイクラー等のPCRに繋用される装置において用いることができる。本発明のプログラムは、本発明の二本鎖DNA合成方法におけるPCRの温度条件等を規定するものであり、内容の詳細は「二本鎖DNA合成方法」の項の説明を適用できる。
【0041】
<装置>
本発明は、上述した本発明の二本鎖DNA合成方法を実現することができる装置も含む。また、本発明の装置は、上記本発明のプログラムが組み込まれた装置である。具体的には、上記本発明のプログラムが組み込まれたサーマルサイクラー等のPCRに繋用される装置である。上記プログラムは、本発明のDNA合成方法におけるPCRの温度条件等を規定するものであり、内容の詳細は「二本鎖DNA合成方法」の項の説明を適用できる。
【0042】
<二本鎖DNA自動合成システム>
本発明は、上述した本発明の二本鎖DNA合成方法を用いることを特徴とした二本鎖DNA自動合成システムも含む。上述した本発明の二本鎖DNA合成方法においては、目的とするDNAの配列に関わらず同一条件でPCRを行い、二本鎖DNAを合成できることから、液体分注ロボット等を用いたハイスループット合成システムや、それらの一連の工程を自動で行うことができる自動合成システムが可能となる。このような本発明の二本鎖DNA自動合成システムは、上述した本発明のプログラム、本発明の装置を使用するものであってもよい。
【実施例0043】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
実施例において用いた試薬等、共通する試験方法等は以下のとおりである。
二本鎖DNA合成の材料となる一本鎖オリゴDNAは、日本テクノサービス社製及びファスマック社製のものを用いた。二本鎖DNA合成に用いたPCR反応によるDNA増幅は、NEB社のPhusion High-Fidelity DNA polymeraseを用い、添付の説明書に従い行った。DNA増幅産物のDNAクローニングには、東洋紡社製の10x A-attachment Mix、TaKaRa社製のT-Vector pMD19(Simple)及びDNA Ligation kitを用いた。大腸菌コンピテントはTaKaRa社製の大腸菌JM109コンピテントセルを用い、プラスミドベクターを用いた形質転換法は添付の説明書に従い行った。LB培地の培地成分及び寒天は、ベクトンディッキントン社製のものを用いた(BactoTM Tryptone、BactoTM Yeast Extract、BactoTM Agar)。アンピシリンとカルベニシリンの抗生物質は、ナカライテスク社から購入した。大腸菌コロニーからのPCR反応用テンプレートの調製は、関東化学社製のシカジーニアスDNA抽出試薬を用い、添付の説明書に従い行った。大腸菌コロニーからのコロニーダイレクトPCR反応によるDNA増幅は、TaKaRa社製のTaKaRa Ex-Taq Hot Startを用い、添付の説明書に従い行った。コロニーダイレクトPCR反応の温度条件は次のとおりである。95℃、2分の後、以下の温度サイクル;95℃、20秒;58℃、30秒;72℃、増幅長さ1kbあたり1分;を30サイクル行った。DNAの精製は、キアゲン社製のMinElute PCR Purification kitを用い、添付の説明書に従い行った。DNAシーケンス反応は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kitを用い、添付の説明書に従い行った。DNAシーケンス反応の温度条件は次のとおりである。95℃、2分後、以下の温度サイクル;95℃、5秒;50℃、10秒;60℃、2分30秒;を30サイクル行った。DNAシーケンス反応産物の精製は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のBigDye Terminator Purification kitを用いて、添付の説明書に従い行った。DNAシーケンスは、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のApplied Biosystems 3500xL Genetic analyzerを用いて、添付の説明書に従い行った。PCR反応産物のアガロースゲル電気泳動は、コスモバイオ社製のアガロースゲル電気泳動装置(i-MyRun.NC)を用いて、添付の説明書に従い行った。電気泳動後のDNA染色はBiotium社製のGelRed核酸蛍光染色試薬を用いて、添付の説明書に従い行った。一本鎖オリゴDNAの電気泳動は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のXCell SureLockミニセル電気泳動装置と10%Novex TBE-Ureaゲルを用いて、添付の説明書に従い行った。電気泳動後の一本鎖オリゴDNAの染色は、TaKaRa社製のSYBR Green II核酸蛍光染色試薬を用いて、添付の説明書に従い行った。一本鎖オリゴDNAの解析は、バイオ・ラッド社製のゲル撮影解析装置 Gel Doc EZ システムを用いて、添付の説明書に従い行った。その他のすべての生化学試薬としては、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製及びナカライテスク社製のものを使用した。
【0045】
(実施例1)本発明の合成方法におけるPCR反応条件の検討(多段階の温度勾配ごとの温度保持時間の検討)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。すなわち、3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは、30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号1から6)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号7)及びリバースプライマー(配列番号8)も設計した。
【0046】
(2)二段階型の二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な上記6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水又はTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。プライマーエクステンションPCRにより短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号1)と一本鎖オリゴDNA(配列番号2)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号3)と一本鎖オリゴDNA(配列番号4)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号5)と一本鎖オリゴDNA(配列番号6)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。オーバーラップエクステンションPCRにより全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号7、0.1μMリバースプライマー:配列番号8)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0047】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、以下のとおりである。
【0048】
98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0049】
(熱変性段階)
98℃、30秒;
(アニーリング段階)
77.5℃、10秒;75℃、10秒;72.5℃、10秒;70℃、10秒;67.5℃、10秒;65℃、10秒;62.5℃、10秒
(伸長段階)
72℃、50秒
【0050】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0051】
次に、TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCR反応により、上記調製した3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長の二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、以下のとおりである。
【0052】
98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
(熱変性段階)
98℃、30秒;
(アニーリング段階)
77.5℃、10秒;75℃、10秒;72.5℃、10秒;70℃、10秒;67.5℃、10秒;65℃、10秒;62.5℃、10秒
(伸長段階)
72℃、50秒。
【0053】
その後、72℃で3分処理をした。
【0054】
アニーリング段階における全ての温度保持時間を20秒、30秒、40秒、50秒又は2分とした以外は上記と同じPCR条件でそれぞれ全長の二本鎖DNAを合成した。その後、本発明の合成方法の6条件(アニーリング段階の温度保持時間が10秒、20秒、30秒、40秒、50秒、2分)から得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物の一部をアガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図2に示す。
【0055】
その結果、本発明の合成方法のPCR反応条件の温度保持時間が50秒以上のときに得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、PCR反応条件の温度保持時間が50秒未満のときに得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物よりも、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を抑えることができた。即ち、本発明の合成方法のPCR反応条件の温度保持時間は、50秒以上が特に好ましい。一方、PCR反応条件の温度保持時間が10秒、20秒、30秒、40秒のときに得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的なDNA増幅産物を含むものの、目的の二本鎖DNA断片を取得することは可能である。なお、本発明の合成方法のPCR反応条件の温度保持時間を50秒以上とした場合には上述のとおり非特異的DNA増幅産物の出現を抑えることが可能であるため、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等などのDNAクローニングを適用し、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することが可能である。
【0056】
(実施例2)本発明の合成方法のPCR反応条件の検討(温度勾配の段階数の検討)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。すなわち、3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは、30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号9~14)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号15)及びリバースプライマー(配列番号16)も設計した。
【0057】
(2)二段階型の二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水又はTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製された。短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号9)と一本鎖オリゴDNA(配列番号10)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号11)と一本鎖オリゴDNA(配列番号12)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号13)と一本鎖オリゴDNA(配列番号14)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号15、0.1μMリバースプライマー:配列番号16)を調製した。このとき全量が25μLとなるように調製した。
【0058】
下記の(i)~(vii)の条件(アニーリング温度設定の段階数が異なる)にて全長の二本鎖DNA断片を合成した。
【0059】
(i)0段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0060】
98℃、30秒;72℃、50秒
【0061】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0062】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0063】
98℃、30秒;72℃、50秒
【0064】
その後、72℃で3分処理した。
【0065】
(ii)1段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0066】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;72℃、50秒
【0067】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0068】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0069】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;72℃、50秒
【0070】
その後、72℃で3分処理した。
【0071】
(iii)2段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0072】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0073】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0074】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0075】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0076】
その後、72℃で3分処理した。
【0077】
(iv)3段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0078】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;70℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0079】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0080】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。98℃、30秒;77.5℃、50秒;70℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒。
その後、72℃で3分処理した。
【0081】
(v)7段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0082】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0083】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0084】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0085】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0086】
その後、72℃で3分処理した。
【0087】
(vi)8段階
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0088】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75.4℃、50秒;73.2℃、50秒;71.1℃、50秒;68.9℃、50秒;66.8℃、50秒;64.6℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0089】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0090】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0091】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75.4℃、50秒;73.2℃、50秒;71.1℃、50秒;68.9℃、50秒;66.8℃、50秒;64.6℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0092】
その後、72℃で3分処理した。
【0093】
(vii)連続的な温度勾配
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0094】
98℃、30秒;77.5℃から62.5℃、0.04℃/秒;72℃、50秒
【0095】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0096】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCRの反応条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0097】
98℃、30秒;77.5℃から62.5℃、0.04℃/秒;72℃、50秒
【0098】
その後、72℃で3分処理した。
【0099】
その後、本発明の合成方法の7条件から得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物の一部をアガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図3に示す。
【0100】
図3に示すとおり、本発明の合成方法のPCR反応条件である温度勾配の段階数は、2から8段階が好ましい。温度勾配の段階数は8段階以上の段階数であっても問題はなく、8段階以上の温度勾配の段階数のPCR反応条件にて反応させてもよいが、2から8段階程度で十分ともいえる。一方、本発明の合成方法のPCR反応条件の温度勾配ごとの温度保持時間がない(連続的な温度勾配)、又は、温度保持時間が非常に短い場合、温度勾配の段階数を増加させても目的の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を取得することは困難であることは確認済みである(データは未掲載)。
【0101】
(実施例3)従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片の比較-1
(合成受託会社の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片の比較)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。すなわち、3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは、30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号17~22)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号23)及びリバースプライマー(配列番号24)も設計した。
【0102】
(2)二段階型の二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水又はTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号17)と一本鎖オリゴDNA(配列番号18)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号19)と一本鎖オリゴDNA(配列番号20)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号21)と一本鎖オリゴDNA(配列番号22)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号23、0.1μMリバースプライマー:配列番号24)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0103】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0104】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0105】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0106】
さらに、TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0107】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0108】
その後、72℃で3分処理した。
【0109】
本発明の手法にて得られた上記合成二本鎖DNAのDNA増幅産物の一部と合成受託会社に依頼して合成した合成二本鎖DNA(従来の合成方法による)の溶液の一部をアガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図4に示す。
【0110】
図4に示すとおり、本発明の合成方法によって得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、合成受託会社の合成方法によって得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物よりも、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を大幅に抑えることができた。非特異的DNA増幅産物が大幅に出現した合成受託会社の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経る必要があるため、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等などのDNAクローニングを適用することは好ましくなく、速やかにクローン化DNAを取得することは難しい。
【0111】
一方、本発明の合成方法によって得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を非常に抑えることができた。従って、本発明の合成方法のPCR反応条件にて得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。以上の結果、従来のDNA合成方法と比較し、本発明の合成方法は、DNAクローニングの効率を上げ、速やかに目的のクローン化DNAを取得することができる点でも優れているといえる。
【0112】
(実施例4)異なる二本鎖DNA配列の複数同時合成と化学合成一本鎖オリゴDNAの解析
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする4つの全長二本鎖DNAの配列を、それぞれ3つの短い二本鎖DNA断片にそれぞれ分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。第1の全長二本鎖DNAに対応する3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号25~30)。第2の全長二本鎖DNAに対応する3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号31~36)。第3の全長二本鎖DNAに対応する3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号37~42)。第4の全長二本鎖DNAに対応する3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは、30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号43~48)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号49)とリバースプライマー(配列番号50)は設計した。
【0113】
(2)二段階型の二本鎖DNA合成
目的とする4つの異なる配列の二本鎖DNA合成に必要な24本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水又はTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。
【0114】
第1の二本鎖DNAの合成に必要な短い二本鎖DNA断片を合成するために、3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した。一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号25)と一本鎖オリゴDNA(配列番号26)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号27)と一本鎖オリゴDNA(配列番号28)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号29)と一本鎖オリゴDNA(配列番号30)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。一つ目の全長の二本鎖DNAを合成するために、PCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号49、0.1μMリバースプライマー:配列番号50)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0115】
第2の二本鎖DNAの合成に必要な短い二本鎖DNA断片を合成するために、3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した。その後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号31)と一本鎖オリゴDNA(配列番号32)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号33)と一本鎖オリゴDNA(配列番号34)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号35)と一本鎖オリゴDNA(配列番号36)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。第2の全長の二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号49、0.1μMリバースプライマー:配列番号50)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0116】
第3の二本鎖DNAの合成に必要な短い二本鎖DNA断片を合成するために、3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した。その後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号37)と一本鎖オリゴDNA(配列番号38)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号39)と一本鎖オリゴDNA(配列番号40)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号41)と一本鎖オリゴDNA(配列番号42)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。三つ目の全長の二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号49、0.1μMリバースプライマー:配列番号50)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0117】
第4の二本鎖DNAの合成に必要な短い二本鎖DNA断片を合成するために、3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した。その後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号43)と一本鎖オリゴDNA(配列番号44)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号45)と一本鎖オリゴDNA(配列番号46)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号47)と一本鎖オリゴDNA(配列番号48)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。第4の全長の二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号49、0.1μMリバースプライマー:配列番号50)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0118】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応によりそれぞれの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0119】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0120】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0121】
さらに、TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCR反応により、3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0122】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0123】
その後、72℃で3分処理した。
【0124】
その後、二本鎖DNA合成のDNA増幅産物の一部をアガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図5に示す。
【0125】
図5に示すとおり、本発明の合成方法は、目的とする4つのDNA配列の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を同時に取得することができた。この結果は、PCR反応条件の多段階の温度勾配ごとに温度保持時間を与えることで、Tm値を補うことができるからである。即ち、従来の合成方法と比較して、本発明の合成方法は配列設計をすることなく、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を複数同時に取得することができる。
【0126】
本発明の合成方法は、長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich、GC-rich等の複雑な配列であるDNA配列の二本鎖DNA断片においても取得することができるため、同時に合成しようとする目的のDNA配列の複雑さは特に限定されない。本発明の合成方法によると、数10から数100個単位の多数の二本鎖DNA断片を同時に合成することができるため、スループット性が極めて高い。また、液体分注ロボットのプログラムに本発明の合成方法を適用することによって、複数同時に二本鎖DNA断片の合成を自動化することもできる。
【0127】
本発明の合成方法によって得られた複数の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を非常に抑えることができた。従って、このとき得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0128】
長鎖のDNAの合成方法は、二本鎖DNA断片の合成方法にて得られた多数の二本鎖DNA断片を集積材料として用いることで、二本鎖DNA断片を集積するため、その二本鎖DNA断片がひとつでも欠けてしまうと、長鎖のDNAを合成することが不可能である。しかし、従来の合成方法は、多数の二本鎖DNA断片を合成までに時間と手間がかかるという不都合が生じること、合成しようとする目的のDNA配列の複雑性によっては、合成が困難或いは不可能であることから、集積材料となる全ての二本鎖DNA断片を速やかに取得することが困難な状況である。即ち、これまでの二本鎖DNA断片の合成方法では、長鎖のDNAの合成のための集積材料となる二本鎖DNA断片を速やかに供給することができず、ボトルネックとなっているのが実情である。一方、本発明の合成方法は、合成しようとする目的のDNA配列の複雑性に限らず、二本鎖DNA断片を複数同時に合成することができることから、長鎖のDNAの合成のための集積材料となる多数の二本鎖DNA断片を速やかに合成できる。即ち、本発明の合成方法は、長鎖のDNAの合成のために必要な二本鎖DNA断片を速やかに供給することできるため、長鎖のDNAの合成方法へのスループット性を大幅に向上することができる。
【0129】
(3)二本鎖DNA合成にて使用する化学合成一本鎖オリゴDNAの解析
本発明の二本鎖DNA合成にて使用する化学的に合成された一本鎖オリゴDNAを解析するため、一本鎖オリゴDNAをゲル電気泳動した。一本鎖オリゴDNAの電気泳動は、XCell SureLockミニセル電気泳動装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)と10% Novex TBE-Ureaゲル(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付の説明書に従い行った。電気泳動後の一本鎖オリゴDNAのゲル染色はSYBR Green II 核酸蛍光染色試薬(TaKaRa社製の)を用いて、添付の説明書に従い行った。一本鎖オリゴDNAのゲル解析には、ゲル撮影解析装置 Gel Doc EZ システム(バイオ・ラッド社製)を用いて、添付の説明書に従い行った。結果を
図6に示す。
【0130】
図6に示すとおり、本発明の合成方法にて使用する一本鎖オリゴDNAの含有率は、完全長の一本鎖オリゴDNAの比が60%から15%含まれているのに対して、不完全長の一本鎖オリゴDNAの比は40%から85%含まれていた。不完全長の一本鎖オリゴDNAは、一本鎖オリゴDNAの化学合成の過程にて生じる未反応物等の反応中間体産物である。
【0131】
本発明の合成方法による二本鎖DNA断片の合成では、不完全長の一本鎖オリゴDNAが85%(完全長の一本鎖オリゴDNAが15%以上)含まれている一本鎖オリゴDNAを使用した。故に、本発明の合成方法は、二本鎖DNA断片の合成に一本鎖オリゴDNA内に不完全長の一本鎖オリゴDNAの比が85%程度含まれている非常に低品質の一本鎖オリゴDNAを使用した場合においても、目的とする二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を取得することができた。このとき得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を抑えることができるため、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0132】
(実施例5)本発明の合成方法にて得られた二本鎖DNA断片のクローニングと配列解析
(1)本発明の合成方法にて得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物のDNAライゲーションと形質転換
上記の実施例4にて合成した二本鎖DNAのDNA増幅産物をクローニングするため、10xA-attachment Mix(TOYOBO社製)を用いてDNA増幅産物の3´-末端部位にdA突出を付加させた。その後、MinElute PCR Purification kit (QIAgen社製) を用いて、DNA増幅産物を精製した。その後、精製した合成DNAとT-Vector pMD19 (Simple) (TaKaRa社製)を混合し、その混合DNA溶液と1:1になるようにDNA Ligation kit(TaKaRa社製)を加えた。DNAライゲーション反応溶液は恒温槽(TAITEC社製)により16℃、1時間から終夜静置した。DNAライゲーション反応後、E.coli JM109コンピテントセル(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い形質転換を行い、100μg/mLのカナマイシン(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養した。
【0133】
(2)DNAシーケンシング解析
シカジーニアスDNA抽出試薬(関東化学社製)を用いて、添付の説明書に従い、大腸菌コロニーからDNA抽出物を調製した。DNA抽出物をPCR反応用テンプレートとしてTaKaRa Ex-Taq Hot Start(TaKaRa社製)を用い、添付の説明書に従い、M13 forward primer(配列番号51)、M13 reverse primer(配列番号52)を用いることで、目的DNA配列を増幅した。このときのPCR反応の温度条件は、95℃、2分の後、以下の温度サイクルを30サイクル行った。95℃、20秒;58℃、30秒;72℃、60秒。得られたPCR反応産物溶液の一部は1%アガロースゲル(サーモフィッシャー社製)により電気泳動した。その後、残りのPCR反応産物溶液はMinElute PCR Purification kit(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い精製した。
【0134】
上記に得られた精製DNA産物はBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付の説明書に従い、M13 forward primer(配列番号51)、M13 reverse primer(配列番号52)を用いることで、シーケンス反応を行った。このときのDNAシーケンスの反応条件は、95℃、2分後、以下の温度サイクルを30サイクル行った。95℃、5秒;50℃、10秒;60℃、2分30秒。得られたDNAシーケンス反応産物はBigDye Terminator Purification kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付の説明書に従い精製した。その後、Applied Biosystems 3500xL Genetic analyzer(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、添付の説明書に従って、目的DNA配列を解析した。
【0135】
DNAシーケンス解析の結果、本発明の合成方法にて得られた合成二本鎖DNAの正確な配列のクローン化DNAを取得することができた。
【0136】
(実施例6)従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片との比較-2
(米国特許出願公開US20080182296A1に記載の二本鎖DNA合成方法のPCR反応条件と本発明の二本鎖DNA合成方法との比較)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。これらの3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号53~58)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号59)とリバースプライマー(配列番号60)は設計した。
【0137】
(2)二段階型の二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水ないしTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号53)と一本鎖オリゴDNA(配列番号54)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号55)と一本鎖オリゴDNA(配列番号56)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号57)と一本鎖オリゴDNA(配列番号58)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号59、0.1μMリバースプライマー:配列番号60)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0138】
(i)従来の合成方法(米国特許出願公開US20080182296A1;Pcr-directed gene synthesis from large number of overlapping oligodeoxyribonucleotides;に記載の方法)
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、95℃、4分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0139】
98℃、30秒;50℃、30秒;72℃、30秒
【0140】
その後、72℃で5分処理し、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0141】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、95℃、4分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0142】
98℃、30秒;50℃、30秒;72℃、30秒
【0143】
その後、72℃で5分処理した。
【0144】
(ii)本発明の合成方法
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0145】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0146】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0147】
次にTaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCRにより3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0148】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0149】
その後、72℃で3分処理した。
【0150】
従来の合成方法のPCR反応条件(i)及び本発明の合成方法(ii)にて得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物の一部を、アガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図7に示す。
【0151】
図7に示すように、従来の合成方法のPCR反応条件では、目的のDNA配列の長さの二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は得られなかった。一方で、本発明の合成方法は目的のDNA配列の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を取得することができた。このとき得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を抑えることができるため、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0152】
従来の合成方法のPCR反応条件(米国特許出願公開US20080182296A1に記載の方法)では、目的とするDNA配列が合成困難な場合であったとしても、本発明の合成方法を適用することによって、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を取得することができる。従って、本発明の合成方法は、目的のDNA配列の複雑さに限らず、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を合成することができるため、従来の合成方法よりも優れている。
【0153】
(実施例7)従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片の比較-3
(非特許文献6に記載の一段階目のPCR反応にて全ての一本鎖オリゴDNAをアセンブルした二段階型二本鎖DNA合成方法と本発明の二本鎖DNA合成方法との比較)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。これらの3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号61~66)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号67)とリバースプライマー(配列番号68)は設計した。
【0154】
(2)二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水又はTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。
【0155】
(i)従来の合成方法(第一段階目のPCR反応にて全ての一本鎖オリゴDNAをアセンブルした二段階型二本鎖DNA合成方法;非特許文献6)
第一段階目に全ての一本鎖オリゴDNAをアセンブルするために、1つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一本鎖オリゴDNA(配列番号61から66)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。その後、全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号67、0.1μMリバースプライマー:配列番号68)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0156】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、第一段階目のPCR反応により全ての一本鎖オリゴDNAをアセンブルした。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0157】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0158】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bにアセンブルした一本鎖オリゴDNAのPCR反応溶液Aを1μL加えた。
【0159】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、第二段階目のPCR反応によりアセンブルした一本鎖オリゴDNAから全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0160】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0161】
その後、72℃で3分処理した。
【0162】
(ii)本発明の合成方法
短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号61)と一本鎖オリゴDNA(配列番号62)を1μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号63)と一本鎖オリゴDNA(配列番号64)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号65)と一本鎖オリゴDNA(配列番号66)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号67、0.1μMリバースプライマー:配列番号68)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0163】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0164】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0165】
その後、72℃に保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0166】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98℃、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0167】
98℃、30秒;77.5℃、50秒;75℃、50秒;72.5℃、50秒;70℃、50秒;67.5℃、50秒;65℃、50秒;62.5℃、50秒;72℃、50秒
【0168】
その後、72℃で3分処理した。
【0169】
従来の合成方法(i)及び本発明の合成方法(ii)にて得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物の一部を、アガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。結果を
図8に示す。
【0170】
図8に示すように、従来の合成方法では、目的のDNA配列の長さの二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は得られなかった。一方で、本発明の合成方法は、目的のDNA配列の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を取得することができた。この結果、本発明の合成方法は、合成方法の第一段階目にプライマーエクステンションPCR反応を適用するによって短い二本鎖DNAを正確に合成することができたため、目的のDNA配列の二本鎖DNA断片を合成することができたといえよう。
【0171】
このとき得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を抑えることができるため、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0172】
従来の合成方法では、目的とするDNA配列が合成困難な場合であったとしても、本発明の合成方法を適用することによって、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を取得することができる。従って、本発明の合成方法は、目的のDNA配列の複雑さに限らず、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を合成することができるため、従来の合成方法よりも優れている。
【0173】
(実施例8)従来の合成方法と本発明の合成方法により得られた二本鎖DNA断片の比較-4
(非特許文献9に記載の一段階型二本鎖DNA合成方法と本発明の二本鎖DNA合成方法との比較)
(1)一本鎖オリゴDNAの配列設計
目的とする全長二本鎖DNAの配列を3つの短い二本鎖DNA断片に分割した。それらの短い二本鎖DNA断片は、5´-又は3´-末端に30塩基対のオーバーラップ領域が含まれるように設計した。これらの3つの短い二本鎖DNA断片の合成に用いる6本の一本鎖オリゴDNAは30塩基のオーバーラップ領域を含む150塩基程度の長さに設計した(配列番号69~74)。また、オーバーラップエクステンションPCR反応に用いるフォワードプライマー(配列番号75)とリバースプライマー(配列番号76)は設計した。
【0174】
(2)二本鎖DNA合成
二本鎖DNA合成に必要な6本の一本鎖オリゴDNAは、滅菌水ないしTE緩衝液(ナカライテスク社製)にて1μMの濃度に調製した。
(i)従来の合成方法(一段階型二本鎖DNA合成方法;非特許文献9)
全ての一本鎖オリゴDNAから二本鎖DNA合成するために、1つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号75、0.1μMリバースプライマー:配列番号76)を調製した後、一本鎖オリゴDNA(配列番号69~74)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。
【0175】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、PCR反応により一本鎖オリゴDNAをアセンブルし、全長の二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98°C、2分の後、以下の温度サイクルを30サイクル行った。
【0176】
98°C、30秒;77.5°C、50秒;75°C、50秒;72.5°C、50秒;70°C、50秒;67.5°C、50秒;65°C、50秒;62.5°C、50秒;72°C、50秒
【0177】
その後、72°Cで3分処理した。
【0178】
(ii)本発明の合成方法
短い二本鎖DNA断片を合成するための3つのPCR反応溶液A(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase)を調製した後、一つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号69)と一本鎖オリゴDNA(配列番号70)を1 μLずつ加え、二つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号71)と一本鎖オリゴDNA(配列番号72)を1μLずつ加え、三つ目のPCR反応溶液Aに一本鎖オリゴDNA(配列番号73)と一本鎖オリゴDNA(配列番号74)を1μLずつ加えた。このとき、全量が25μLになるように調製した。全長二本鎖DNAを合成するためのPCR反応溶液B(1xPhusion HF Buffer、0.2mM dNTP、0.016U/μL Phusion High-Fidelity DNA polymerase、0.1μMフォワードプライマー:配列番号75、0.1μMリバースプライマー:配列番号76)を調製した。このとき、全量が25μLとなるように調製した。
【0179】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、プライマーエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98°C、2分の後、以下の温度サイクルを10サイクル行った。
【0180】
98°C、30秒;77.5°C、50秒;75°C、50秒;72.5°C、50秒;70°C、50秒;67.5°C、50秒;65°C、50秒;62.5°C、50秒;72°C、50秒
【0181】
その後、72°Cに保ったままPCR反応溶液Bに3つの短い二本鎖DNAのPCR反応溶液Aをそれぞれ1μLずつ加えた。
【0182】
TaKaRa社製のサーマルサイクラーを用いて、オーバーラップエクステンションPCR反応により3つの短い二本鎖DNA断片を多段連結することにより全長二本鎖DNAを合成した。このときのPCR反応の温度条件は、98°C、2分の後、以下の温度サイクルを20サイクル行った。
【0183】
98°C、30秒;77.5°C、50秒;75°C、50秒;72.5°C、50秒;70°C、50秒;67.5°C、50秒;65°C、50秒;62.5°C、50秒;72°C、50秒
【0184】
その後、72°Cで3分処理した。
【0185】
従来の合成方法(i)及び本発明の合成方法(ii)にて得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物の一部を、アガロースゲル電気泳動装置(コスモバイオ)を用いて、1%アガロースゲルにて電気泳動した。その結果を
図9に示す。
【0186】
図9に示すように、従来の合成方法では、目的のDNA配列の長さの二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は得られなかった。一方で、本発明の合成方法は目的のDNA配列の二本鎖DNA断片のDNA増幅産物を取得することができた。この結果、本発明の合成方法は、プライマーエクステンションPCR反応とオーバーラップエクステンションPCR反応との第二段階に分割することによって、目的のDNA配列の二本鎖DNA断片を合成することができたといえよう。
【0187】
このとき得られた二本鎖DNA断片のDNA増幅産物は、非特異的DNA増幅産物(目的DNA配列の長さよりも短いDNA増幅産物)の出現を抑えることができるため、目的の二本鎖DNA断片のみを取り出すゲルの切り出し精製等の工程を経ることなく、TAクローニング法、平滑末端クローニング法等のDNAクローニング法を適用することができ、速やかに目的の二本鎖DNA断片を含むクローン化DNAを取得することができる。
【0188】
本実施例にて合成したDNA配列は、長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich領域を含む一般的に複雑な配列といわれているDNA配列であることから、本発明の二段階型の二本鎖DNA合成法は、上記複雑なDNA配列に対しても目的のDNA配列の二本鎖DNAを正確に合成することができることがわかった。
【0189】
従来の合成方法では、目的とするDNA配列が合成困難或いは不可能な場合であったとしても、本発明の合成方法を適用することによって、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を取得することができる。従って、本発明の合成方法は、目的のDNA配列の複雑さに限らず、目的とするDNA配列の二本鎖DNA断片を合成することができるため、従来の合成方法よりも優れている。
本発明によると、PCRサイクルにおいて複数段階のアニーリング温度設定を有することで、様々なTm値を有する複数のDNAの貼り合せに適用可能となるため、多数の相同領域を含む一本鎖オリゴDNA同士のアセンブルを容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に行うことができる。また、本発明の二本鎖DNA合成方法は、様々なTm値のDNAの貼り合せに適用可能であることから、材料とする一本鎖オリゴDNA配列を最適化する手間が不要であり、目的とする二本鎖DNA断片毎に細かく温度設定をしなおす必要がない。さらに、本発明によると、目的とする二本鎖DNA断片の配列によらず、容易に、正確に、効率よく、且つ迅速に合成することが可能なので、従来複雑な配列(例えば長い反復配列、連続した同一塩基配列、AT-rich、GC-richな配列等)であるために合成が困難、或いは不可能であった二本鎖DNA断片も合成することができる。